特許第6259623号(P6259623)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6259623低酸価アクリル樹脂含有はんだ付け用フラックスおよびはんだペースト組成物
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6259623
(24)【登録日】2017年12月15日
(45)【発行日】2018年1月10日
(54)【発明の名称】低酸価アクリル樹脂含有はんだ付け用フラックスおよびはんだペースト組成物
(51)【国際特許分類】
   B23K 35/363 20060101AFI20171227BHJP
   B23K 35/26 20060101ALN20171227BHJP
   C22C 13/00 20060101ALN20171227BHJP
【FI】
   B23K35/363 D
   B23K35/363 E
   !B23K35/26 310A
   !C22C13/00
【請求項の数】3
【全頁数】14
(21)【出願番号】特願2013-203068(P2013-203068)
(22)【出願日】2013年9月30日
(65)【公開番号】特開2015-66577(P2015-66577A)
(43)【公開日】2015年4月13日
【審査請求日】2016年8月4日
(73)【特許権者】
【識別番号】390005223
【氏名又は名称】株式会社タムラ製作所
(74)【代理人】
【識別番号】100139996
【弁理士】
【氏名又は名称】太田 洋子
(72)【発明者】
【氏名】土屋 雅裕
(72)【発明者】
【氏名】喜多村 明
(72)【発明者】
【氏名】清野 桃子
(72)【発明者】
【氏名】新井 正也
【審査官】 川口 由紀子
(56)【参考文献】
【文献】 特開2012−004347(JP,A)
【文献】 特許第5181136(JP,B2)
【文献】 特開2011−121059(JP,A)
【文献】 特開2008−302407(JP,A)
【文献】 特開2008−62252(JP,A)
【文献】 特開2002−239785(JP,A)
【文献】 特許第6215633(JP,B2)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B23K 35/363
B23K 35/26
C22C 13/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ベース樹脂と、活性剤と、溶剤とを含み、
前記ベース樹脂として酸価が50mgKOH/g以下の下記一般式(1)で表わされるアクリル樹脂を含み、
前記酸価が50mgKOH/g以下の下記一般式(1)で表されるアクリル樹脂の重量平均分子量は50,000以下であり、
前記活性剤としてシクロヘキサンカルボン酸、1,4−シクロヘキサンジカルボン酸、1,3−シクロヘキサンジカルボン酸、4−アミノシクロヘキサンカルボン酸、水添トリメリット酸および水添ピロメリット酸の少なくとも1種を含むことを特徴とするはんだ付け用フラックス。
【化1】
(上記a、bおよびcのモノマー重量比はb/(a+b+c)≧0.6であり、
aおよびcの少なくとも一方は0であってもよく、上記Rは炭素数8〜24のアルキル基であり、上記Rは上記R以外の置換基であって水素原子、メチル基、アルキル基、アリール基、および水酸基等のいずれか単一の置換基および複数の置換基の組合せのいずれであってもよく、R、RおよびRは水素原子またはメチル基である
【請求項2】
前記酸価が50mgKOH/g以下の上記一般式(1)で表されるアクリル樹脂の配合量ははんだ付け用フラックス全量に対して5重量%から50重量%であり、
前記活性剤の配合量ははんだ付け用フラックス全量に対して5重量%から50重量%であることを特徴とする請求項1に記載のはんだ付け用フラックス。
【請求項3】
請求項1または請求項に記載のはんだ付け用フラックスとはんだ合金粉末とを含むはんだペースト組成物であって、
前記はんだ合金粉末の配合量は、はんだペースト組成物全量に対して65重量%以上95重量%以下であることを特徴とするはんだペースト組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、プリント基板に電子部品等をはんだ付けする際に使用されるはんだペースト組成物とこれに用いるはんだ付け用フラックスであって、長期に渡る激しい冷熱サイクル環境下におけるフラックス残渣への亀裂発生・進展を抑制でき、且つ良好な印刷性およびはんだ付け性を両立させることのできるはんだ付け用フラックスと、これを用いたはんだペースト組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
電子部品を基板に実装する際に使用されるはんだペースト組成物は、はんだ付け用フラックスとはんだ合金粉末とを混合して得られるのが一般的である。このようなはんだペースト組成物を用いてはんだ付けを行う場合、はんだ付け用フラックスの一部はフラックス残渣として基板上のはんだ接合部付近に残留することが多い。
このはんだ付け用フラックスにはベース樹脂、活性剤および溶剤が含まれており、従来はこのベース樹脂としてロジン系樹脂が広く用いられている。
【0003】
近年の電子製品の高性能化、高密度化等に伴い、寒暖の差が激しい環境下に基板が曝される場面が増えてきている。ここでベース樹脂としてロジン系樹脂を用いたはんだ付け用フラックスにより形成されるフラックス残渣の場合、その性質上、このような環境下に置かれると硬く脆くなり易く、経時と共にフラックス残渣に亀裂が入り易くなる、そしてこの亀裂を通して水分が基板の回路部分に浸透して回路をショートさせたり、その回路の金属を腐食させたりするという問題が生じる。
このような問題を解決するために、ベース樹脂としてロジン系樹脂の代わりにアクリル樹脂等を使用する、若しくはロジン系樹脂とアクリル樹脂とを併用する方法が近年多く用いられている。例えば長鎖のアルキル基を有する(メタ)アクリル酸エステルを含むモノマーを共重合してなるアクリル樹脂とロジン類とを一定の配合比でベース樹脂に用いる方法(特許文献1参照)が挙げられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2011−121059号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
一方近年、部品端子の微細化の進行に伴い、はんだペーストの供給方法として一般的であるメタルマスクを用いたスクリーン印刷法での印刷時に、メタルマスクの開口部が小径化される傾向にある。スキージによりメタルマスク開口部にペーストを充填しメタルマスクが基板から離れる際に基板側にはんだペーストが転写されるが、その際に、スキージへの付着やメタルマスク壁面への付着等により、基板側へ転写される体積、形状がメタルマスクの設計通りに行われなくなる現象がある。部品の微細化の進行に伴い、メタルマスクの開口部も小径化される部分が多くなるが、一方で従来の大型部品も混在して搭載されるため、大型部品の電極へのはんだの供給量を一定量以上に保つために、メタルマスクの厚みは一定の厚み以上に設定されるケースが多く、その際には、微細化された部品端子のためのメタルマスクの開口部のアスペクト比が大きくなり、
メタルマスクの壁面へのはんだペーストの付着によるはんだペーストの転写形状異常が起こりやすくなる傾向にある。
また、メタルマスクの開口径が小さくなるのに伴い、はんだペーストに含有されるはんだ粉末の粒子径を小さくする必要があり、その際には、はんだ粒子の表面積が体積に対して大きくなるため、はんだ粒子の表面の酸化被膜を還元し、はんだ粒子を溶融させるための、フラックスの活性力をより向上させる必要がある。
【0006】
本発明は上記課題を解決するものであり、長期に渡る激しい冷熱サイクル環境下におけるフラックス残渣への亀裂発生・進展を抑制でき、且つ良好な印刷性および良好なはんだ付け性を両立させることのできるはんだ付け用フラックスと、これを用いたはんだペースト組成物を提供することをその目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明のはんだ付け用フラックス、およびはんだペースト組成物は以下の構成からなることをその特徴とする。
【0008】
(1)本発明のはんだ付け用フラックスは、ベース樹脂と、活性剤と、溶剤とを含み、前記ベース樹脂として酸価が50mgKOH/g以下の下記一般式(1)で表されるアクリル樹脂を含み、前記活性剤として下記一般式(2)で表されるシクロヘキシル骨格にカルボキシル基を有する化合物を含むことをその特徴とする。
【0009】
【化1】
(上記a、bおよびcのモノマー重量比はb/(a+b+c)≧0.6であり、
aおよびcの少なくとも一方は0であってもよく、上記Rは炭素数8〜24のアルキル基であり、上記Rは上記R以外の置換基であって水素原子、メチル基、アルキル基、アリール基、および水酸基等のいずれか単一の置換基および複数の置換基の組合せのいずれであってもよく、R、RおよびRは水素原子またはメチル基である)
【0010】
【化2】
(上記Rは、水素原子もしくはメチル基であり、Xはカルボキシル基、アルキル基、およびアルキレン基で連結された環状構造(単一もしくは複数の環を形成していても良く、また一部不飽和結合やカルボキシル基、カルボン酸無水物基、ハロゲン基、芳香族環、アミノ基を含んでいても良い)のいずれかであり、また単一の置換基および複数の置換基の組合せのいずれであってもよく、更に置換基としてハロゲン基あるいはアミノ基、アルキル化アミノ基を含有していても良い)
【0011】
(2)上記(1)の構成にあって、前記酸価が50mgKOH/g以下の上記一般式(1)で表されるアクリル樹脂の重量平均分子量は50,000以下であることをその特徴とする。
【0012】
(3)上記(1)または(2)の構成にあって、前記酸価が50mgKOH/g以下の上記一般式(1)で表されるアクリル樹脂の配合量ははんだ付け用フラックス全量に対して5重量%から50重量%であり、前記活性剤の配合量ははんだ付け用フラックス全量に対して5重量%から50重量%であることをその特徴とする。
【0013】
(4)上記(1)から(3)の構成にあって、前記一般式(2)で表されるシクロヘキシル骨格にカルボキシル基を有する化合物はロジン系化合物(アビエチン酸、アビエチン酸異性体、アビエチン酸あるいはアビエチン酸異性体の誘導体)およびシクロヘキサンジカルボン酸の少なくとも一方であることをその特徴とする。
【0014】
(5)本発明のはんだペースト組成物は、上記(1)から(4)のはんだ付け用フラックスとはんだ合金粉末とを含むことをその特徴とする。
【発明の効果】
【0015】
本発明のはんだ付け用フラックスを用いたはんだペースト組成物は、長期に渡る激しい冷熱サイクル環境下におけるフラックス残渣への亀裂発生・進展を抑制でき、且つ良好な印刷性およびはんだ付け性を両立させることができる。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明のはんだ付け用フラックスおよびはんだペースト組成物の一実施形態について詳細に説明する。なお、本発明が当該実施形態に限定されないのはもとよりである。
【0017】
1.はんだ付け用フラックス組成物
(1)ベース樹脂
<酸価が50mgKOH/g以下のアクリル樹脂>
本発明のはんだ付け用フラックスに用いられるベース樹脂に配合される酸価が50mgKOH/g以下のアクリル樹脂としては、下記一般式(1)で表され、例えば(a)(メタ)アクリル酸と、(b)炭素数が8から24のアルキル基を有する(メタ)アクリルモノマーと、(c)当該(メタ)アクリルモノマー以外の(メタ)アクリルモノマーとを、それぞれの配合比が(b)/((a)+(b)+(c))≧0.6(但し、(a)および(c)の少なくとも一方は0であってもよい)となるように重合・共重合することにより得られるアクリル樹脂が好ましく用いられる。
【0018】
【化3】
(上記a、bおよびcのモノマー重量比はb/(a+b+c)≧0.6であり、
aおよびcの少なくとも一方は0であってもよく、上記Rは炭素数8〜24のアルキル基であり、上記Rは上記R以外の置換基であって、水素原子、メチル基、アルキル基、アリール基、および水酸基等のいずれか単一の置換基および複数の置換基の組合せのいずれであってもよく、R、RおよびRは水素原子またはメチル基である)
【0019】
上記(a)、(b)および(c)としては、例えば(メタ)アクリル酸、イタコン酸、マレイン酸、クロトン酸等のカルボキシル基を有するモノマー;(メタ)アクリル酸オクチル、(メタ)アクリル酸ノニル、(メタ)アクリル酸デシル、(メタ)アクリル酸ウンデシル、(メタ)アクリル酸ドデシル、(メタ)アクリル酸トリデシル、(メタ)アクリル酸テトラデシル、(メタ)アクリル酸ラウリル、(メタ)アクリル酸ステアリル、およびこれらのイソ体等、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸ブチル、(メタ)アクリル酸ヘキシル、(メタ)アクリル酸プロピル等のモノマー等が挙げられ、これらは単独または複数種で重合・共重合することができる。
このようなアクリル樹脂の酸価はモノマーの配合比、配合量および共重合時の条件により調整でき、その酸価は50mgKOH/g以下、好ましくは30mgKOH、より好ましくは5mgKOH/gである。
なお、本明細書においては、(メタ)アクリル酸とはアクリル酸またはメタクリル酸の総称を指す。
【0020】
前記酸価が50mgKOH/g以下の上記一般式(1)で表されるアクリル樹脂の重量平均分子量は50,000以下、好ましくは30,000以下であり、そのガラス転移温度(Tg)は−40℃以下であることが好ましい。
【0021】
このようなアクリル樹脂の配合量は、はんだ付け用フラックス全量に対して5重量%から50重量%であることが好ましい。
【0022】
<酸価が50mgKOH/g以下のアクリル樹脂以外の樹脂(合成樹脂)>
本発明のベース樹脂には、前記酸価が50mgKOH/g以下の上記一般式(1)で表されるアクリル樹脂以外の樹脂を配合することができる。このような樹脂としては、例えばロジン系樹脂、アクリル樹脂、スチレン−マレイン酸樹脂、エポキシ樹脂、ウレタン樹脂、ポリエステル樹脂、フェノキシ樹脂、テルペン樹脂等が挙げられる。
これらのうち、ロジン系樹脂としては、例えばトール油ロジン、ガムロジン、ウッドロジン等のロジン;水添ロジン、重合ロジン、不均一化ロジン、アクリル酸変性ロジン、マレイン酸変性ロジン等のロジン誘導体等を配合することができる。
これらの樹脂は単独でまたは複数を組合せて使用することができる。なお、本発明のはんだ付け用フラックスに使用できる樹脂はこれらに限定されるものではない。
【0023】
前記酸価が50mgKOH/g以下の上記一般式(1)で表されるアクリル樹脂は、ベース樹脂として単独で、若しくはこれ以外樹脂と併用して用いることができる。ベース樹脂として前記酸価が50mgKOH/g以下の上記一般式(1)で表されるアクリル樹脂とこれ以外の樹脂とを併用する場合、その配合比は前記酸価が50mgKOH/g以下の上記一般式(1)で表されるアクリル樹脂を1とした場合に、これ以外の樹脂の配合比が0.5以下であることが好ましく、更に好ましい当該配合比は0.3以下である。
【0024】
(2)活性剤
<シクロヘキシル骨格にカルボキシル基を有する化合物>
本発明のはんだ付け用フラックスに用いられる活性剤には、下記一般式(2)で表されるシクロヘキシル骨格にカルボキシル基を有する化合物が含まれる。
【0025】
【化4】
(上記Rは、水素原子もしくはメチル基であり、Xはカルボキシル基、アルキル基、およびアルキレン基で連結された環状構造(単一もしくは複数の環を形成していても良く、また一部不飽和結合やカルボキシル基、カルボン酸無水物基、ハロゲン基、芳香族環、アミノ基を含んでいても良い)のいずれかであり、また単一の置換基および複数の置換基の組合せのいずれであってもよく、更に置換基としてハロゲン基あるいはアミノ基、アルキル化アミノ基を含有していても良い)
【0026】
前記酸価が50mgKOH/g以下の上記一般式(1)で表されるアクリル樹脂をはんだ付け用フラックスに用いる場合、はんだペースト組成物の印刷性は向上するものの、そのままでははんだ粒子を溶融し、電極に対して良好なはんだ付けを可能とする活性力が不十分である。この活性力を向上させる一般的な方法としては、カルボキシル基を有する活性剤を配合することが挙げられる。しかし活性剤として従来用いられるアジピン酸、セバシン酸やコハク酸といった非環状の短鎖脂肪酸ののみを添加しても、プリヒートからはんだ溶融時の高温時に熱によって上記活性剤が揮発または分解、あるいは低粘度化により流れ出しが起こり、はんだや電極表面がむき出しにされてしまうことで雰囲気に含まれる酸素によりはんだ粒子表面や電極表面の酸化が進行してしまい、はんだの溶融や電極へのはんだの十分な濡れが阻害されてしまい、はんだ付け性向上の効果は得られ難い一方、より長鎖の脂肪酸を配合した場合には、高温での揮発等は抑えられるが、充分な活性力を得られる量を配合した場合には、フラックス残渣のべたつきが非常に大きくなり、実装工程後にほこり等の付着による信頼性の低下を招く懸念がある。
【0027】
即ち、前記酸価が50mgKOH/g以下の上記一般式(1)で表されるアクリル樹脂と上記一般式(2)で表されるシクロヘキシル骨格にカルボキシル基を有する化合物を含む本発明のはんだ付け用フラックスは、はんだペーストの印刷性とフラックス残渣の耐亀裂性、ならびにリフローでの良好なはんだ付け性(リフロー特性)および信頼性の両立を可能とした。
【0028】
このようなシクロヘキシル骨格にカルボキシル基を有する化合物は上記一般式(2)で表されるものであれば何でもよく、例えばアビエチン酸やその異性体を変性して得られる化合物があり、それらは一般的なロジン系化合物が含まれ、特に好ましくは、高酸化であるアクリル酸変性ロジン(その水添物も含む)である。また、シクロヘキサンカルボン酸、1,4−シクロヘキサンジカルボン酸、1,3−シクロヘキサンジカルボン酸、4−アミノシクロヘキサンカルボン酸、水添トリメリット酸、および水添ピロメリット酸等も好適に挙げられる。これらは単独でまたは複数を組合せて使用することができる。
なお、これらの中でも特に1,4−シクロヘキサンジカルボン酸が好ましく用いられる。
また上記一般式(2)で表されるシクロヘキシル骨格にカルボキシル基を有する化合物の配合量は、はんだ付け用フラックス全量に対して0.5重量%から10重量%であることが好ましい。
【0029】
<他の活性剤>
本発明のはんだ付け用フラックスには、活性剤として前記一般式(2)で表されるシクロヘキシル骨格にカルボキシル基を有する化合物を単独で、若しくは当該化合物とこれ以外の活性剤とを併用することができる。
前記一般式(2)で表されるシクロヘキシル骨格にカルボキシル基を有する化合物以外の活性剤としては、例えば有機アミンのハロゲン化水素塩等のアミン塩(無機酸塩や有機酸塩)、有機酸、有機酸塩、有機アミン塩等が挙げられる。具体的には、ジフェニルグアニジン臭化水素酸塩、シクロヘキシルアミン臭化水素酸塩、ジエチルアミン塩、酸塩、コハク酸、アジピン酸、セバシン酸等が挙げられる。これらは単独でまたは複数を組合せて使用することができる。なお、本発明のはんだ付け用フラックスに使用できる活性剤はこれらに限定されるものではない。
これらの活性剤の配合量は、前記一般式(2)で表されるシクロヘキシル骨格にカルボキシル基を有する化合物との合計量がはんだ付け用フラックス組成物全量に対して5重量%から50重量%となることが好ましい。
【0030】
(3)溶剤
本発明のはんだ付け用フラックスに用いられる溶剤としては、例えばイソプロピルアルコール、エタノール、アセトン、トルエン、キシレン、酢酸エチル、エチルセロソルブ、ブチルセロソルブ、グリコールエーテル等を使用することができる。これらは単独でまたは複数を組合せて使用することができる。
このような溶剤の配合量は、はんだ付け用フラックス全量に対して20重量%から50重量%であることが好ましい。なお、本発明のはんだ付け用フラックスに使用できる活性剤はこれらに限定されるものではない。
【0031】
(4)酸化防止剤
本発明のはんだ付け用フラックスには、はんだ合金粉末の酸化を抑える目的で酸化防止剤を配合することができる。このような酸化防止剤としては、例えばヒンダードフェノール系酸化防止剤、フェノール系酸化防止剤、ビスフェノール系酸化防止剤、ポリマー型酸化防止剤等が挙げられる。その中でも特にヒンダードフェノール系酸化剤が好ましく用いられる。またこれらは単独でまたは複数を組合せて使用することができる。なお、本発明のはんだ付け用フラックスに使用できる酸化防止剤はこれらに限定されるものではない。
このような酸化防止剤の配合量は特に限定されないが、一般的にははんだ付け用フラックス全量に対して0.5重量%から5重量%程度である。
【0032】
(5)チキソ剤
本発明のはんだ付け用フラックスには、はんだペースト組成物を印刷に適した粘度に調整する目的でチキソ剤を配合することができる。このようなチキソ剤としては、例えば水素添加ヒマシ油、脂肪酸アマイド類、オキシ脂肪酸類が挙げられる。なお、本発明のはんだ付け用フラックスに使用できるチキソ剤はこれらに限定されるものではない。
このようなチキソ剤の配合量は、はんだ付け用フラックス全量に対して3重量%から15重量%であることが好ましい。
【0033】
(6)添加剤
本発明のはんだ付け用フラックスには、更にハロゲン、つや消し剤、消泡剤等の添加剤を加えてもよい。このような添加剤の配合量は、はんだ付け用フラックス全量に対して10重量%以下であることが好ましく、更に好ましい配合量は5重量%以下である。
【0034】
2.はんだ合金粉末
本発明のはんだペースト組成物に用いられるはんだ合金粉末としては、例えばSn、Ag、Cu、Bi、Zn、In、Ga、Sb、Au、Pd、Ge、Ni、Cr、Al、P、In、Pb等を複数組合せたものが挙げられる。代表的なはんだ合金粉末としてはSn−Ag−CuやSn−Ag−Cu−Inといった鉛フリーはんだ合金粉末が用いられるが、鉛含有のはんだ合金粉末を用いてもよい。
【0035】
このようなはんだ合金粉末の配合量は、はんだペースト組成物全量に対して65重量%以上95重量%以下であることが好ましい。より好ましい配合量は85重量%以上93重量%以下であり、特に好ましい配合量は89重量%以上92重量%以下である。
はんだ合金粉末の配合量が65重量%未満の場合には、得られるはんだペースト組成物を用いた場合に充分なはんだ接合が形成されにくくなる傾向にある。他方はんだ合金粉末の含有量が95重量%を超える場合にはバインダとしてのはんだ付け用フラックスが足りないため、はんだ付け用フラックスとはんだ合金粉末とを混合しにくくなる傾向にある。
【0036】
本発明のはんだペースト組成物は、上記はんだ付け用フラックスとはんだ合金粉末とを公知の方法にて混合することで作成される。
【実施例】
【0037】
以下、実施例および比較例を挙げて本発明を詳述する。なお、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0038】
アクリル樹脂AからFの生成
下記一般式(3)から(6)で表される化合物を用意した。
【0039】
【化5】
【0040】
【化6】
【0041】
【化7】
【0042】
【化8】
【0043】
<アクリル樹脂A>
上記一般式(4)で表される化合物40重量%と、上記一般式(6)で表される化合物60重量%とを混合した溶液1を作製した。
撹拌機、還流管と窒素導入管を備えた500mlの4つ口フラスコにジエチルヘキシルグリコールを200g仕込み、これを110℃に加熱した。その後、溶液1(合計300g)に、アゾ系ラジカル開始剤(ジメチル2,2’−アゾビス(2−メチルプロピオネート)、商品名:V−601、和光純薬(株)製)を0.2重量〜5重量%加えて溶解させた。この溶液を1.5時間かけて滴下し、滴下後110℃で1時間撹拌後、反応を終了しアクリル樹脂Aを得た。アクリル樹脂Aの重量平均分子量は15,000、酸価は0mgKOH/gであった。
【0044】
<アクリル樹脂B>
メタクリル酸4.6重量%、上記一般式(4)で表される化合物35.4重量%、および上記一般式(5)で表される化合物60重量%を混合した溶液2(合計300g)を用いた以外は上記アクリル樹脂Aと同様の条件にてアクリル樹脂Bを得た。アクリル樹脂Bの重量平均分子量は12,000、酸価は30mgKOH/gであった。
【0045】
<アクリル樹脂C>
上記一般式(3)で表される化合物からなる溶液3(合計300g)を用いた以外は上記アクリル樹脂Aと同様の条件にてアクリル樹脂Cを得た。アクリル樹脂Cの重量平均分子量は25,000、酸価は0mgKOH/gであった。
【0046】
<アクリル樹脂D>
メタクリル酸10.7重量%と上記一般式(4)で表される化合物89.3重量%とを混合した溶液4(合計300g)を用いた以外は上記アクリル樹脂Aと同様の条件にてアクリル樹脂Dを得た。アクリル樹脂Dの重量平均分子量は,12,000、酸価は70mgKOH/gであった。
【0047】
<アクリル樹脂E>
上記一般式(4)で表される化合物40重量%と上記一般式(5)で表される化合物60重量%を混合した溶液5(合計300g)を用いた以外は上記アクリル樹脂Aと同様の条件にてアクリル樹脂Eを得た。アクリル樹脂Eの重量平均分子量は40,000、酸価は0mgKOH/gであった。
【0048】
<アクリル樹脂F>
メタクリル酸0.75重量%、上記一般式(4)で表される化合物39.25重量%および上記一般式(5)で表される化合物60重量%を混合した溶液6(合計300g)を用いた以外は上記アクリル樹脂Aと同様の条件にてアクリル樹脂Fを得た。アクリル樹脂Fの重量平均分子量は12,000、酸価は5mgKOH/gであった。
【0049】
はんだペースト組成物の作製
表1に示す組成および配合にて各成分を混練し、参考例1、実施例から6および比較例1から4に係る各はんだ付け用フラックスを作製した。なお、表1のうち、組成を表すものに係る数値の単位は、特に断り書きがない限り重量%である。
【0050】
次いで上記各はんだ付け用フラックス12重量%とSn−3Ag−0.5Cuはんだ合金粉末88重量%とをそれぞれ混合し、参考例1、実施例から6および比較例1から4に係るはんだペースト組成物を得た。
【0051】
【表1】
【0052】
*1 荒川化学工業(株)製 アクリル酸変性ロジン
*2 岡村製油(株)製 エイコサン二酸
*3 日本化成(株)製 脂肪酸アマイド
*4 BASFジャパン(株)製 ヒンダードフェノール系酸化防止剤
【0053】
参考例1、実施例から6および比較例1から4の各はんだペースト組成物について以下通り測定および評価を行った。その結果を表2に示す。
【0054】
<耐残渣亀裂性>
0.8mmピッチのQFP(Quad Flat Package)パターンが存在する基板に、同じパターンを有する厚み150μmのメタルマスクを用いて各はんだペースト組成物を印刷した。リフロー炉(製品名:TNP40−577PH、タムラ製作所(株)製)を使用し、印刷後10分以内に、各基板について酸素濃度4,000ppm下において最高温度240℃でリフローを行った。これを150℃下で200時間放置した後、各基板に−40℃×30分→125℃×30分を1サイクルとして50サイクルの条件で冷熱サイクル負荷をかけた後、各基板のQFPパターンのはんだ付け部における亀裂発生状態を目視観察し、以下の基準で評価した。
○:QFP接続部の端子間(全96カ所)を連結するクラックの数が10未満
×:QFP接続部の端子間(全96カ所)を連結するクラックの数が10以上
【0055】
<印刷性試験>
208ピン0.5mmピッチのQFP(PKGサイズ:28mm×28mm×3.2mm)を実装できる電極(1.3mm×0.25mm)を有するガラスエポキシ基板を用意した。当該ガラスエポキシ基板上に上記電極と同じパターンを有する厚さ150μmのメタルマスクを用いて各はんだペースト組成物をそれぞれ6枚連続で印刷した。印刷された上記各基板について画像検査機(製品名:aspire2、(株)コーヨンテクノロジー製)を用いて以下の通り評価した。
○:差分高さが170μm以下
△:差分高さが170μm超え250μm以下
×:差分高さが250μm超え
【0056】
<はんだ付け性試験(チップサイドボール)>
2.0mm×1.2mmのサイズのチップ部品を実装できる電極(1.2mm×0.8mm)を有するガラスエポキシ基板を用意した。当該基板上に上記電極と同じパターンを有する厚さ150μmのメタルマスクを用いて各はんだペースト組成物を印刷し、チップ部品を搭載した。チップ部品を搭載した各基板を酸素濃度1,500±500ppmの窒素雰囲気下におき、その後ピーク温度を260℃に設定したリフロー炉(製品名:TNP-538EM、(株)タムラ製作所製)を用いて加熱してはんだ付けをした。はんだ付けした各基板について、X線透過装置(製品名:SMX−160E、(株)島津製作所製)を用いて部品周辺および部品下に発生したはんだボール数をカウントし、以下の通り評価した。
○:10個のチップあたりに発生したはんだボールが5個以下
×:10個のチップあたりに発生したはんだボールが5個超え
【0057】
【表2】
【0058】
以上、実施例に示す通り、本発明のはんだ付け用フラックスを用いたはんだペースト組成物は酸価が50mgKOH/g以下のアクリル樹脂を用いているものの良好な印刷性およびリフローでの良好なはんだ付け性(リフロー特性)を両立しており、且つ、そのフラックス残渣の耐亀裂性にも優れていることがわかる。このようなはんだペースト組成物は、特に高信頼性が要求される環境下で使用される基板にも好適に用いることができる。