(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
有底筒状の正極缶内に装填される正極合剤と、前記正極合剤の内周側に設けられるセパレータと、前記セパレータの内周側に充填される、亜鉛を主成分とする粉末を含む負極合剤と、前記負極合剤に挿入される負極集電体と、前記正極缶の開口部を封口する負極端子板と、アルカリ性の電解液と、を備えて構成されるアルカリ電池であって、
前記正極合剤は、二酸化マンガン及び導電材を含み、
前記粉末は、粒度が75μm以下の粒子を25〜40質量%の範囲で含み、
前記正極合剤は、前記正極缶内に前記正極缶と同軸に積層されて装填される複数の中空円筒状のペレットからなり、
前記ペレットの間に隙間が設けられ、前記隙間の前記正極缶の軸方向に沿った長さの合計sが、前記ペレットの夫々の前記軸方向に沿った長さの合計dに対して1〜14%であり、
前記ペレットの密度が3.0〜3.7g/cm3の範囲であり、
前記ペレットは、前記導電材となる黒鉛を前記二酸化マンガンに対して5〜20質量%の範囲で含む
ことを特徴とするアルカリ電池。
【背景技術】
【0002】
昨今、デジタルカメラ、ビデオカメラ、携帯電話機、スマートフォン等の電子機器の高性能化及び小型化が進んでおり、こうした電子機器の電源として用いられるアルカリ電池に対する性能向上、とくに重負荷放電性能(高負荷放電特性)の改善に対する要求が高まっている。
【0003】
アルカリ電池の高負荷放電特性を改善に関する技術として、例えば、特許文献1には、粒径75μm以下の微粉末を20〜50重量%含む亜鉛合金粉末を含む負極と、正極と、負極と正極との間に配されるセパレータと、電解液とを具備し、定抵抗放電において、負極の電位が立ち上がる時間が正極の電位が立ち下がる時間よりも短くなるようにアルカリ電池を構成することが記載されている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ここで上記の特許文献1では、負極材料として粒径75μm以下の微粉末を20〜50重量%含む亜鉛合金粉末を用いることで重負荷放電特性の向上を図っているが、このように負極材料として微粉末を用いた場合でも、重負荷放電特性が改善されないことがある。これは小粒径の微粉末は比表面積が大きいために負極側に電解液が保持されやすくなり、それにより正極側の電解液が減少して正極側の電気抵抗が上昇するためであると考えられる。
【0006】
本発明はアルカリ電池の放電性能の向上、とくに重負荷放電性能に優れたアルカリ電池を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するための本発明のうちの一つは、有底筒状の正極缶内に装填される正極合剤と、前記正極合剤の内周側に設けられるセパレータと、前記セパレータの内周側に充填される、亜鉛を主成分とする粉末を含む負極合剤と、前記負極合剤に挿入される負極集電体と、前記正極缶の開口部を封口する負極端子板と、アルカリ性の電解液と、を備えて構成されるアルカリ電池であって、前記正極合剤は、二酸化マンガン及び導電材を含み、前記粉末は、粒度が75μm以下の粒子を25〜40質量%の範囲で含み、前記正極合剤は、前記正極缶内に前記正極缶と同軸に積層されて装填される複数の中空円筒状のペレットからなり、前記ペレットの間に隙間が設けられ、前記隙間の前記正極缶の軸方向に沿った長さの合計sが、前記ペレットの夫々の前記軸方向に沿った長さの合計dに対して1〜14%であ
り、前記ペレットの密度が3.0〜3.7g/cm3の範囲であり、前記ペレットは、前記導電材となる黒鉛を前記二酸化マンガンに対して5〜20質量%の範囲で含むことを特徴としている。
【0010】
その他、本願が開示する課題、及びその解決方法は、発明を実施するための形態の欄、及び図面により明らかにされる。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、放電性能、とくに重負荷放電性能に優れたアルカリ電池を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0013】
図1に本発明の適用対象となる一般的な円筒形アルカリ電池(LR6型(単三形)アルカリ電池)の構成(以下、アルカリ電池1と称する。)を示している。尚、同図ではアルカリ電池1を縦断面図(アルカリ電池1の円筒軸の延長方向を上下(縦)方向としたときの断面図)として示している。
【0014】
同図に示すように、アルカリ電池1は、有底筒状の金属製の電池缶(以下、正極缶11と称する。)、正極缶11に挿入される正極合剤21、正極合剤21の内周側に設けられる有底円筒状のセパレータ22、セパレータ22の内周側に充填される負極合剤23、正極缶11の開口部に樹脂製の封口ガスケット35を介して嵌着される負極端子板32、及び負極端子板32の内側にスポット溶接等によって固設される、真鍮等の素材からなる棒状の負極集電子31を備えている。正極合剤21、セパレータ22、及び負極合剤23は、アルカリ電池1の発電要素20を構成している。
【0015】
正極缶11は導電性であり、例えば、ニッケルメッキ鋼板等の金属材をプレス加工することにより形成したものである。正極缶11は、正極集電体並びに正極端子としての機能を兼ねており、その底部に凸状の正極端子部12が一体形成されている。
【0016】
正極合剤21は、正極活物質としての電解二酸化マンガン(EMD)、導電材としての黒鉛、及び水酸化カリウム(KOH)を主成分とする電解液を、ポリアクリル酸などのバインダーとともに混合し、その混合物を圧延、解砕、造粒、分級等の工程にて処理した後、圧縮し環状に成形したものである。同図に示すように、正極缶11内には、正極合剤21を構成する複数の中空円筒状の3つのペレット21a,21b,21cが、その円筒軸が正極缶11の円筒軸と同軸となるように上下方向に積層されて圧入されている。各ペレット21a,21b,21cの夫々の正極缶11の軸方向に沿った長さは、順にd1,d2,d3である。本実施形態では各ペレット21a,21b,21cの長さを一致(d1=d2=d2)させているが、これらは一致していなくてもよい。
【0017】
同図に示すように、ペレット21aとペレット21bとの間、及びペレット21bとペレット21cとの間には隙間51,52が設けられている。ペレット21aとペレット21bとの間の隙間51の正極缶11の軸方向に沿った長さはs1であり、ペレット21bとペレット21cとの間の隙間52の正極缶11の軸方向に沿った長さはs2である。ペレット21cの正極端子部12側の面は正極缶11に密着している。
【0018】
負極合剤23は、負極活物質としての亜鉛合金粉末をゲル化したものである。亜鉛合金粉末は、ガスアトマイズ法や遠心噴霧法によって造粉されたものであり、亜鉛、ガスの発生の抑制(漏液防止)等を目的として添加される合金成分(ビスマス、アルミニウム、インジウム等)、及び電解液としての水酸化カリウムを含む。負極集電子31は、負極合剤23の中心部に貫入されている。
【0019】
以上の構成からなるアルカリ電池1について、放電性能、とくに重負荷放電性能の改善効果を検証すべく、以下の試験1〜3を行った。
【0020】
<試験1>
試験1では、負極合剤23の亜鉛合金粉末の粒度、並びに正極合剤21を構成するペレット間の隙間51,52として適切な範囲を検証すべく、負極合剤23の亜鉛合金粉末の粒度を変える(粒度が75μm以下の粒子の含有率(以下、「75μm以下の粒子の割合」とも称する。)を20.0〜45.0質量%の範囲で変える)とともに、隙間51,52の大きさを変えた(隙間51,52の正極缶11の軸方向に沿った長さの合計s=s1+s2と上記ペレットの夫々の正極缶11の軸方向に沿った長さの合計d=d1+d2+d3との比(以下、「隙間/合剤高さ」とも称する。)を変えた)、複数のアルカリ電池1を作製し、夫々の放電性能を比較した。尚、いずれのアルカリ電池1についても、正極合剤21として、密度(以下、「正極合剤密度」とも称する。)が3.2g/cm
3であり、正極合剤21に含まれる二酸化マンガンと黒鉛との比(以下、「黒鉛/二酸化マンガン」とも称する。)が10.0質量%であるものを用いた。
【0021】
放電性能の比較は、デジタルカメラの使用時等における重負荷放電を想定したサイクル放電試験(1500mWで2秒放電、650mWで28秒放電のサイクルを1時間当たり10回(一時間当たりの休止期間は約55分))を行い、終止電圧(1.05V)に至るまでのサイクル数を計数し、これを比較することにより行った。
【0022】
表1に各アルカリ電池1の放電性能を比較した結果を示す。尚、放電性能を表す表中の数値は、表中の比較例3のアルカリ電池1の放電性能を100としたときの相対値である。
【0023】
表1
表1に示すように、負極合剤23の亜鉛合金粉末として粒度が75μm以下の粒子を25〜40質量%の範囲で含み、かつ、隙間51,52の合計sとペレットの軸方向長さの合計dとの比(隙間/合剤高さ)を1〜14%としたアルカリ電池1について、放電性能が高くなることが確認された(実施例1〜7)。また、負極合剤23の亜鉛合金粉末として粒度が75μm以下の粒子を30質量%の範囲で含むものを用い、かつ、隙間51,52の合計sとペレットの軸方向長さの合計dとの比(隙間/合剤高さ)を8.0%とした場合に、放電性能がとくに高くなることが確認された(実施例5)。
【0024】
また、比較例2から、負極合剤23の微粉末の量が多すぎると放電性能が改善されないことがわかった。これは比表面積が大きい小粒径の微粉末によって負極側に電解液が保持されやすくなり、それにより正極側の電解液が減少して正極側の電気抵抗が上昇したためであると考えられる。
【0025】
また、比較例3,4から、隙間51,52が小さすぎると放電性能が改善されないことがわかった。これは隙間51,52が小さすぎると正極側に十分な量の電解液が保持されなくなるからであると考えられる。
【0026】
また、比較例5から、隙間51,52が大きすぎると放電性能が改善されないことがわかった。これは隙間51,52が大きすぎると正極活物質に対向する負極活物質の量が減少し電流密度が高まるからであると考えられる。
【0027】
<試験2>
続いて、正極合剤21の密度(正極合剤密度)として適切な範囲を検証すべく、正極合剤21の密度を変えた(正極合剤21の密度を2.8〜3.7g/cm
3の範囲で変えた)複数のアルカリ電池1を作製し、夫々の放電性能を比較した。尚、いずれのアルカリ電池1についても、隙間51,52の合計sとペレットの軸方向長さの合計dとの比(隙間/合剤高さ)は5.0%とした。また、いずれのアルカリ電池1についても、正極合剤21として、これに含まれる二酸化マンガンと黒鉛との比(黒鉛/二酸化マンガン)が10.0質量%のものを用いた。放電性能については試験1と同様の方法で求めた。
【0028】
表2に各アルカリ電池1の放電性能を比較した結果を示す。尚、放電性能を表す表中の数値は、表1に示した比較例3のアルカリ電池1の放電性能を100としたときの相対値である。
【0029】
表2
表2に示すように、正極合剤21の密度(正極合剤密度)が3.0〜3.7g/cm
3の範囲においてアルカリ電池1の放電性能が高くなることが確認された(実施例8,9)。また正極合剤21の密度が3.0g/cm
3の場合に、とくに放電性能が高くなることが確認された(実施例8)。
【0030】
また、正極合剤21の密度が高すぎると割れが生じやすくなって圧縮成型が困難となり、ペレットを作製することができなかった(比較例6)。
【0031】
また、正極合剤21の密度が低すぎると十分な放電性能が得られなかった(比較例7)。これは正極合剤21の密度が低すぎると正極合剤21内部で導電性が不十分になるためであると考えられる。
【0032】
<試験3>
続いて、正極合剤21に含まれる二酸化マンガンと黒鉛との比(黒鉛/二酸化マンガン)として適切な範囲を検証すべく、上記比を変えた(上記比を2.0〜25.0質量%の範囲で変えた)複数のアルカリ電池1を作製し、夫々の放電性能を比較した。放電性能については前述と同様の方法で求めた。尚、いずれのアルカリ電池1についても、隙間51,52の合計sとペレットの軸方向長さの合計dとの比(隙間/合剤高さ)は5.0%とした。また、いずれのアルカリ電池1についても、正極合剤21の密度(正極合剤密度)が3.2g/cm
3であるものを用いた。
【0033】
表3に各アルカリ電池1の放電性能を比較した結果を示す。尚、放電性能を表す表中の数値は、表1に示した比較例3のアルカリ電池1の放電性能を100としたときの相対値である。
【0034】
表3
表3に示すように、正極合剤21に含まれる二酸化マンガンと黒鉛との比(黒鉛/二酸化マンガン)が5〜20質量%の範囲において放電性能が高くなることが確認された(実施例10〜12)。また正極合剤21に含まれる二酸化マンガンと黒鉛との比(黒鉛/二酸化マンガン)が15.0質量%の場合に、とくに放電性能が高くなることが確認された(実施例11)。
【0035】
また、黒鉛の割合が少なすぎると十分な放電性能が得られなかった(比較例8)。これは正極合剤21内部で導電性が不十分になるためであると考えられる。
【0036】
また、黒鉛の割合が多すぎても十分な放電性能が得られなかった(比較例9)。これは撥水性の黒鉛の影響により正極合剤21内の電解液の量が減少したためであると考えられる。
【0037】
<効果>
以上の通り、負極合剤23の亜鉛合金粉末として粒度が75μm以下の粒子を25〜40質量%の範囲で含み、かつ、隙間51,52の合計sとペレットの軸方向長さの合計dとの比を1〜14%とした場合にアルカリ電池1の放電性能が高くなり、とくに負極合剤23の亜鉛合金粉末として粒度が75μm以下の粒子を30質量%の範囲で含むものを用い、かつ、隙間51,52の合計sとペレットの軸方向長さの合計dとの比を8.0%とした場合に良好な結果が得られることがわかった。
【0038】
また、正極合剤21の密度が3.0〜3.7g/cm
3の範囲において放電性能が高くなることが確認され、とくに正極合剤21の密度が3.0g/cm
3の場合に良好な結果が得られることがわかった。
【0039】
また、正極合剤21に含まれる二酸化マンガンと黒鉛との比(黒鉛/二酸化マンガン)が5〜20質量%の範囲において放電性能が高くなることが確認され、とくに正極合剤21に含まれる二酸化マンガンと黒鉛との比(黒鉛/二酸化マンガン)が15.0質量%の場合に良好な結果が得られることがわかった。
【0040】
尚、以上の説明は本発明の理解を容易にするためのものであり、本発明を限定するものではない。本発明はその趣旨を逸脱することなく、変更、改良され得ると共に本発明にはその等価物が含まれることは勿論である。
【0041】
例えば、以上の実施形態では、正極合剤21を構成するペレットの数を3つとしたが、ペレットの数は2つもしくは4つ以上であってもよい。要は他の必要条件とともに、ペレット間の隙間の正極缶11の軸方向に沿った長さの合計sとペレットの軸方向に沿った長さの合計dとの比が上記の条件を満たすようにすることで、上記の効果を得ることができる。