特許第6259763号(P6259763)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6259763
(24)【登録日】2017年12月15日
(45)【発行日】2018年1月10日
(54)【発明の名称】PD−L1に基づく免疫療法
(51)【国際特許分類】
   A61K 39/00 20060101AFI20171227BHJP
   A61K 39/39 20060101ALI20171227BHJP
   A61K 48/00 20060101ALI20171227BHJP
   A61P 35/00 20060101ALI20171227BHJP
   A61P 37/02 20060101ALI20171227BHJP
   A61P 31/04 20060101ALI20171227BHJP
   C12N 15/09 20060101ALN20171227BHJP
   C12N 5/0784 20100101ALN20171227BHJP
   C07K 14/705 20060101ALN20171227BHJP
【FI】
   A61K39/00 HZNA
   A61K39/39
   A61K48/00
   A61P35/00
   A61P37/02
   A61P31/04
   !C12N15/00 A
   !C12N5/0784
   !C07K14/705
【請求項の数】10
【全頁数】56
(21)【出願番号】特願2014-536116(P2014-536116)
(86)(22)【出願日】2012年10月17日
(65)【公表番号】特表2014-534202(P2014-534202A)
(43)【公表日】2014年12月18日
(86)【国際出願番号】DK2012050386
(87)【国際公開番号】WO2013056716
(87)【国際公開日】20130425
【審査請求日】2015年10月15日
(31)【優先権主張番号】PA201170574
(32)【優先日】2011年10月17日
(33)【優先権主張国】DK
(73)【特許権者】
【識別番号】510201724
【氏名又は名称】ヘルレフ ホスピタル
【氏名又は名称原語表記】HERLEV HOSPITAL
(74)【代理人】
【識別番号】110000774
【氏名又は名称】特許業務法人 もえぎ特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】アナスン,マス ハル
【審査官】 横田 倫子
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2010/027828(WO,A1)
【文献】 特表2010−504356(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 39/00
A61K 48/00
A61P 31/04
A61P 35/00
A61P 37/02
C07K 14/705
C12N 5/0784
C12N 15/09
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
以下を含むワクチン組成物:
a)最大50個のアミノ酸の配列番号1のPD-L1の連続した配列からなるPD-L1の免疫原性活性ペプチドフラグメント又は多くとも3個のアミノ酸が置換され得るその機能的ホモログ、及び、
b)随意により、アジュバント
ここで、前記免疫原性活性ペプチドフラグメント又は前記機能的ホモログは、配列番号2、12、及び15からなる群から選択される配列を含む
【請求項2】
前記免疫原性活性ペプチドフラグメント又は前記機能的ホモログは、配列番号2の配列を含む、請求項1記載のワクチン組成物。
【請求項3】
前記配列番号1のPD-L1の連続した配列は、15乃至40個のアミノ酸の範囲である配列番号1のPD-L1の連続した配列である、請求項1又は2記載のワクチン組成物。
【請求項4】
前記免疫原性活性ペプチドフラグメント又は前記機能的ホモログは、配列FMTYWHLLNAFTVTVPKDL又はVILGAILLCLGVALTFIFRLRKGを含む、請求項1乃至3の何れかに記載のワクチン組成物。
【請求項5】
前記アジュバントは、細菌DNAに基づくアジュバント、油/界面活性剤に基づくアジュバント、ウイルスdsRNAに基づくアジュバント、及びイミダゾキニリンからなる群から選択される、請求項1乃至4の何れかに記載のワクチン組成物。
【請求項6】
前記ワクチン組成物は、前記免疫原性活性ペプチドフラグメントを含む抗原提示細胞又は前記免疫原性活性ペプチドフラグメントをコードする核酸を含む抗原提示細胞を含む、請求項1乃至5の何れかに記載のワクチン組成物。
【請求項7】
前記抗原提示細胞が樹状細胞である、請求項6記載のワクチン組成物。
【請求項8】
癌、感染症、又は自己免疫疾患の予防又は治療に使用するための、請求項1乃至7の何れかに記載のワクチン組成物。
【請求項9】
前記予防又は治療が、第2の有効成分との連続的若しくは複合的投与、又は、他の医学的処置との組み合わせを含む、請求項8記載のワクチン組成物。
【請求項10】
前記第2の有効成分又は他の医学的処置は、化学療法、放射線治療、免疫刺激物質による治療、遺伝子治療、抗体及び/又は抗生物質による治療、及び樹状細胞を用いる治療である、請求項9記載のワクチン組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本願、即ち本出願において引用した全ての特許及び非特許文献は、出典を明記することによりその開示内容全体を本願明細書に援用する。
【0002】
本発明は、癌、自己免疫疾患、及び感染症を含む臨床状態の予防及び治療の分野に関する。特に、癌、自己免疫疾患、及び感染症の治療に有用な免疫応答を誘発可能なPD-L1又はそのペプチドフラグメントを含むワクチン組成物が提供される。
【背景技術】
【0003】
免疫系は、新生物細胞を認識し破壊する能力を有するが、しかしながら、腫瘍性形質転換には免疫原性抗原の発現が伴うという事実にもかかわらず、免疫系は、こうした抗原に対して効果的な応答ができない場合が多い。免疫系は、こうした抗原に対して寛容化する。これが生じた場合、新生物細胞は抑制無く増殖し、罹患個体の予後が不良となる悪性癌の形成につながる。癌の免疫療法を成功させるためには、獲得された寛容状態を克服する必要がある。
【0004】
幾つかの証拠により、T細胞が癌細胞に対する免疫学的応答における主要なエフェクターであることが示唆されている。インドールアミン2,3-ジオキシゲナーゼ(IDO)、細胞傷害性Tリンパ球抗原4(CTLA-4)、及びプログラム細胞死1リガンド1(PD-L1)のような免疫制御タンパク質は、抗癌免疫応答の免疫抑制及び寛容誘導において有用な役割を果たす。CTLA-4は、抗腫瘍免疫応答を制限可能な、T細胞応答の主要な負調節因子となる。最近では、抗CTLA-4抗体イピリムマブは、第III相臨床研究において効果を示した後に、FDA及びEMEAにより黒色腫の治療用に承認された。腫瘍特異的な免疫を相殺し、有効な抗癌免疫療法を妨げる他の中心的なメカニズム必要とする特定の環境においては、寛容原性樹状細胞(DC)が重要な役割を果たして、免疫応答を有効な免疫性から逸脱させる。
【0005】
プログラム細胞死1(Programmed death-1, PD1)は、同族の抗原に対するT細胞機能の沈黙を維持する上で重要となる阻害シグナルを伝達する制御表面分子である。そのリガンドは、PD-L1及びPD-L2、又はB7-H1及びB7-H2として知られており、炎症性の微小環境において見られるAPC、腫瘍細胞、胎盤、及び非造血細胞上に発現する。PD-1又はそのリガンドであるPD-L1を干渉すると、抗腫瘍免疫を増加させる。PD-L1の上方制御は、宿主の免疫系を回避するために癌が利用可能なメカニズムであると思われる。PD-L1の腫瘍上での発現は、膵臓、腎細胞、卵巣、頭頸部、及び黒色腫を含む多数の癌での臨床転帰不良に関連する(Hamanishi et al., 2007, Proc. Natl. Acad. Sci. U. S. A. 104:3360-3365; Nomi et al., 2007, Clin. Cancer Res. 13:2151-2157; Hino et al., 2010, Cancer. 116:1757-1766)。そのため、腎細胞癌を有する患者からの196件の腫瘍試料の解析から、PD-L1の腫瘍での高い発現は、腫瘍の攻撃性の増加、及び死亡リスクの4.5倍の増加に関連することが判明した(Thompson et al., 2004, Proc. Natl. Acad. Sci. U. S. A. 101:17174-17179)。PD-L1の発現が高い卵巣癌患者は、PD-L1の発現が低い患者に比べ、予後が有意に不良となった。PD-L1の発現と、上皮内のCD8+ Tリンパ球数との間には逆相関が見られ、腫瘍細胞上のPD-L1が抗腫瘍CD8+ T細胞を抑制し得ることが示唆された(Hamanishi et al., 2007, 上記参照)。
になる。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】Hamanishi et al., 2007, Proc. Natl. Acad. Sci. U. S. A. 104:3360-3365
【非特許文献2】Nomi et al., 2007, Clin. Cancer Res. 13:2151-2157
【非特許文献3】Hino et al., 2010, Cancer. 116:1757-1766
【非特許文献4】Thompson et al., 2004, Proc. Natl. Acad. Sci. U. S. A. 101:17174-17179
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
癌免疫抑制の問題は、癌患者におけるPD-L1発現細胞に対する自発的な細胞傷害性免疫応答という、本発明者による驚くべき発見に基づいた本発明により解決される。こうした発見は、癌疾患の制御において全般的に応用し得る新規の治療及び診断手法への道を開くものである。
【0008】
興味深いことに、当該発見は、癌に限定されず、PD-L1を発現する望ましくない細胞の存在を特徴とする他の臨床状態にも有用となる。
【0009】
本発明は、PD-L1発現癌細胞を直接的に死滅させること、及びPD-L1発現制御細胞を死滅させることで、癌疾患を標的とする。これは、T細胞がPD-L1発現細胞を認識できるようにすることで行われる。同様に、臨床状態が感染である場合、T細胞がPD-L1発現APC/DCを死滅させることが可能となる。
【0010】
したがって、癌細胞及びAPCにおける免疫抑制酵素PD-L1の発現は、こうしたPD-L1発現細胞を標的とする本発明の方法の応用に関して有望となる。この手法は、特にAPC/DCの死滅を伴うので、本分野での一般的な意見に反するものである。即ち、本分野においては、一般に、PD-L1は、APC/DCの周囲の寛容化環境を除去するために、阻害を試みられ、一方、これらの細胞は有効な免疫応答を開始するために必要であると考えられるため保存される。
【0011】
更に、PD-L1発現細胞に対する自発的な細胞傷害性免疫応答の発見が特に驚くべきものであるのは、PD-L1発現細胞が他の免疫治療的手法の所望の効果に拮抗するためである。したがって、PD-L1標的及び腫瘍標的免疫療法の組み合わせは、相乗作用が高くなる。
【0012】
PD-L1に対して特異的なin vivoのT細胞応答の存在は、癌患者が、PD-L1ペプチドの存在に応答して、in vivoでPD-L1に対するT細胞応答を生成可能であることを実証している。したがって、T細胞応答を生成するための2つの条件が満たされる:即ち、T細胞が癌患者内に存在すると共にT細胞は増殖能力を有している。これらは当該出願に示している。免疫学の分野の一般知識から判断すると、付加的なPD-L1タンパク質又はPD-L1ペプチドを提供することは、PD-L1特異的T細胞応答の生成につながることになる。
【0013】
抗原を単独で認識可能な、B細胞上の膜結合型抗体とは対照的に、T細胞は、主要組織適合複合体(MHC)と呼ばれるタンパク質に結合した抗原ペプチドを含む錯体配位子を認識する。人間において、この分子は、ヒト白血球抗原(HLA)として知られる。クラスI HLA分子は、細胞内部のタンパク質分解によるペプチドをサンプリングし、これらをT細胞の細胞表面に提示する。したがって、これにより、T細胞は細胞変化をスキャンすることが可能となる。T細胞がHLA分子の文脈において抗原に遭遇すると、T細胞はクローン増殖を起こし、記憶及び様々なエフェクターT細胞に分化する。したがって、自発的免疫応答の確認は、抗原がT細胞標的であることの証拠となる。これは、特異的T細胞が既に活性化され、in vivoで拡大していることを示している。
【0014】
本願の実施例1及び3において用いたELISPOT法は、in vivo免疫応答の存在と、ナイーブT細胞の不在とを示す非常に感度の高いアッセイである。同様に、ペプチド-MHC四量体は、内因的に或いは患者のワクチン接種後に発生する腫瘍関連抗原(TAA)に対して特異的なT細胞を同定及び研究するための使用に成功している。四量体は、養子細胞免疫療法のためのTAA特異的T細胞の単離及び増殖にも使用されている。本願は、PD-L1四量体特異的T細胞(実施例3参照)の存在を示し、これにより更にin vivoで進行中のPD-L1応答を示す。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明は、配列番号1のPD-L1又は少なくとも70%の同一性を有するその機能的ホモログ、又はPD-L1又はその機能的ホモログの少なくとも8個のアミノ酸の連続した配列を含む免疫原性活性ペプチドフラグメント、又は前記PD-L1、前記機能的ホモログ、又は前記ペプチドフラグメントをコードする核酸と、アジュバントとを含む、医薬として使用するワクチン組成物に関する。本発明は以下を含む。
[実施態様1]
ワクチン組成物であって、
a)配列番号1のPD-L1又はそれに対して少なくとも70%の同一性を有するその機能的ホモログ、又はPD-L1又はその機能的ホモログの少なくとも8個のアミノ酸の連続した配列を含む免疫原性活性ペプチドフラグメント、又は前記PD-L1、前記機能的ホモログ、又は前記ペプチドフラグメントをコードする核酸と、
b)アジュバントとを含む、
医薬として使用するためのワクチン組成物。
[実施態様2]
前記ワクチン組成物は、5乃至50個のアミノ酸の範囲である配列番号1のPD-L1の連続した配列からなる免疫原性活性ペプチドフラグメントを含み、多くとも3個のアミノ酸が置換され得る、実施態様1記載のワクチン組成物。
[実施態様3]
前記ワクチン組成物は、7乃至40個のアミノ酸の範囲である配列番号1のPD-L1の連続した配列からなる免疫原性活性ペプチドフラグメントを含み、多くとも3個のアミノ酸が置換され得る、実施態様1記載のワクチン組成物。
[実施態様4]
前記ワクチン組成物は、8乃至20個のアミノ酸の範囲である配列番号1のPD-L1の連続した配列からなる免疫原性活性ペプチドフラグメントを含み、多くとも2個のアミノ酸が置換され得る、実施態様1記載のワクチン組成物。
[実施態様5]
前記ワクチン組成物は、8乃至15個のアミノ酸の範囲である配列番号1のPD-L1の連続した配列からなる免疫原性活性ペプチドフラグメントを含み、多くとも1個のアミノ酸が置換され得る、実施態様1記載のワクチン組成物。
[実施態様6]
ペプチドフラグメントを含み、前記ペプチドフラグメントは、配列番号1のPD-L1の8乃至12個の連続したアミノ酸からなる、先行実施態様の何れかに記載のワクチン組成物。
[実施態様7]
前記ワクチン組成物は、多くとも50個のアミノ酸残基、例えば多くとも45個のアミノ酸残基、例として多くとも40個のアミノ酸残基、例えば多くとも35個のアミノ酸残基、例として多くとも30個のアミノ酸残基、例えば多くとも25個のアミノ酸残基、例として20乃至25個のアミノ酸残基からなる免疫原性活性ペプチドフラグメントを含む、実施態様1記載のワクチン組成物。
[実施態様8]
前記ワクチン組成物は、多くとも20個のアミノ酸残基、例えば多くとも19個のアミノ酸残基、例として多くとも18個のアミノ酸残基、例えば多くとも17個のアミノ酸残基、例として多くとも16個のアミノ酸残基、例えば多くとも15個のアミノ酸残基、例として多くとも14個のアミノ酸残基、例えば多くとも13個のアミノ酸残基、例として多くとも12個のアミノ酸残基、例えば多くとも11個のアミノ酸残基、例として8乃至10個のアミノ酸残基からなる免疫原性活性ペプチドフラグメントを含む、実施態様1記載のワクチン組成物。
[実施態様9]
前記ワクチン組成物は、前記免疫原性活性ペプチドフラグメントを含み、前記ペプチドフラグメントは、配列番号2、12、及び15からなる群から選択されるものを含む、先行実施態様の何れかに記載のワクチン組成物。
[実施態様10]
前記ワクチン組成物は、配列番号2、3、及び4からなる群から選択される免疫原性活性ペプチドフラグメントを含む、実施態様1記載のワクチン組成物。
[実施態様11]
前記ワクチン組成物は、PD-L1の発現増加を特徴とする臨床状態を有する個体への投与時に、配列番号1のPD-L1又はその機能的ホモログを発現する癌及び/又は抗原提示細胞に対する免疫応答を誘発可能である、先行実施態様の何れかに記載のワクチン組成物。
[実施態様12]
前記免疫原性活性ペプチドフラグメントを含み、前記ペプチドフラグメントは、PD-L1特異的T細胞の増殖をin vitroで誘導可能である、先行実施態様の何れかに記載のワクチン組成物。
[実施態様13]
前記免疫原性活性ペプチドフラグメントを含み、前記ペプチドフラグメントは、ELI-SPOTにより判定されるPD-L1特異的IFN-γ放出T細胞を誘導可能である、先行実施態様の何れかに記載のワクチン組成物。
[実施態様14]
前記免疫原性活性ペプチドフラグメントを含み、前記ペプチドフラグメントは、MHCクラスI分子により制限される、先行実施態様の何れかに記載のワクチン組成物。
[実施態様15]
前記免疫原性活性ペプチドフラグメントを含み、前記ペプチドフラグメントは、MHCクラスII分子により制限される、実施態様1乃至13の何れかに記載のワクチン組成物。
[実施態様16]
前記ワクチン組成物は、前記ワクチン組成物によるワクチン接種を受けた個体においてT細胞応答を誘発可能である、先行実施態様の何れかに記載のワクチン組成物。
[実施態様17]
前記ワクチンは、PD-L1発現癌細胞及び/又はPD-L1発現抗原提示細胞に対する細胞傷害効果を有する調節性T細胞のワクチン接種個体における生成を誘発する、先行実施態様の何れかに記載のワクチン組成物。
[実施態様18]
配列番号1のPD-L1又は配列番号1に対して少なくとも70%の同一性を有するその機能的ホモログが発現される臨床状態を有する個体のPBMC集団において、PD-L1特異的INF-γ産生細胞を誘発可能なペプチドフラグメントを含む、先行実施態様の何れかに記載のワクチン組成物。
[実施態様19]
前記ワクチン組成物は、臨床状態の治療用である、先行実施態様の何れかに記載のワクチン組成物。
[実施態様20]
前記臨床状態は、癌である、実施態様18及び19の何れかに記載のワクチン組成物。
[実施態様21]
前記癌は、腫瘍形成癌疾患である、実施態様20記載のワクチン組成物。
[実施態様22]
前記臨床状態は、感染症等の感染である、実施態様18及び19の何れかに記載のワクチン組成物。
[実施態様23]
前記感染症は、細胞内感染であり、例えば、L. monocytogenes及びplasmodiumからなる群から選択される病原体による細胞内感染である、実施態様22記載のワクチン組成物。
[実施態様24]
前記感染症は、ウイルス感染であり、例えば、HIV及び肝炎からなる群から選択されるウイルスによる感染である、実施態様22記載のワクチン組成物。
[実施態様25]
前記臨床状態は、自己免疫疾患である、実施態様18及び19の何れかに記載のワクチン組成物。
[実施態様26]
前記自己免疫疾患は、糖尿病、SLE、及び硬化症からなる群から選択される、実施態様25記載のワクチン組成物。
[実施態様27]
前記ワクチン組成物は、癌に罹患した個体において、臨床応答を誘発可能であり、前記臨床応答は、安定疾患、部分応答、又は完全寛解を特徴とする、実施態様20乃至21の何れかに記載のワクチン組成物。
[実施態様28]
前記ワクチン組成物は、更に、PD-L1又はその免疫原性活性ペプチドフラグメントではない、免疫原性タンパク質を含む、先行実施態様の何れかに記載のワクチン組成物。
[実施態様29]
前記アジュバントは、細菌DNAに基づくアジュバント、油/界面活性剤に基づくアジュバント、ウイルスdsRNAに基づくアジュバント、及びイミダゾキニリンからなる群から選択される、先行実施態様の何れかに記載のワクチン組成物。
[実施態様30]
前記アジュバントは、Montanide ISAアジュバントである、先行実施態様の何れかに記載のワクチン組成物。
[実施態様31]
前記ワクチン組成物は、免疫原性活性ペプチドフラグメント又は前記免疫原性活性ペプチドフラグメントをコードする核酸を含む抗原提示細胞を含む、先行実施態様の何れかに記載のワクチン組成物。
[実施態様32]
前記抗原提示細胞は、樹状細胞である、実施態様31記載のワクチン組成物。
[実施態様33]
前記核酸は、実施態様2乃至10の何れかに定めた免疫原性活性ペプチドをコードする、実施態様1記載のワクチン組成物。
[実施態様34]
前記核酸は、ベクター内に含まれる、実施態様1又は33の何れかに記載のワクチン組成物。
[実施態様35]
パーツキットであって、
a)実施態様1乃至34の何れかに記載のワクチン組成物と
b)少なくとも1つの第2の有効成分を含む組成物と、を含むパーツキット。
[実施態様36]
前記少なくとも1つの第2の有効成分は、免疫刺激化合物である、実施態様35記載のパーツキット。
[実施態様37]
前記少なくとも1つの免疫刺激化合物は、1つ又は複数のインターロイキンである、実施態様35又は36の何れかに記載のパーツキット。
[実施態様38]
前記インターロイキンは、IL-2及び/又はIL-21から選択される、実施態様35乃至37の何れかに記載のパーツキット。
[実施態様39]
前記第2の有効成分は、抗癌剤である、実施態様35記載のパーツキット。
[実施態様40]
前記抗癌剤は、化学療法剤である、実施態様39記載のパーツキット。
[実施態様41]
前記化学療法剤は、アクチミド、アザシチジン、アザチオプリン、ブレオマイシン、カルボプラチン、カペシタビン、シスプラチン、クロラムブシル、シクロホスファミド、シタラビン、ダウノルビシン、ドセタキセル、ドキシフルリジン、ドキソルビシン、エピルビシン、エトポシド、フルダラビン、フルオロウラシル、ゲムシタビン、ヒドロキシ尿素、イダルビシン、イリノテカン、レナリドマイド、ロイコボリン、メクロレタミン、メルファラン、メルカプトプリン、メトトレキサート、ミトキサントロン、オキサリプラチン、パクリタキセル、ペメトレキセド、レブリミド、テモゾロミド、テニポシド、チオグアニン、バルルビシン、ビンブラスチン、ビンクリスチン、ビンデシン、及びビノレルビンから選択される、実施態様39又は40の何れかに記載のパーツキット。
[実施態様42]
前記提供される組成物は、同時に又は連続して投与される、実施態様35乃至41の何れかに記載のパーツキット。
[実施態様43]
PD-L1の発現を特徴とする臨床状態を治療する方法であって、前記臨床状態を有する個体に対して、実施態様1乃至34の何れかによる組成物の有効量又は実施態様35乃至42の何れかによるパーツキットを投与することを含む方法。
[実施態様44]
前記治療対象の臨床状態は、PD-L1が発現される癌疾患である、実施態様43記載の方法。
[実施態様45]
前記方法は、他の癌治療と組み合わせる、実施態様43及び44の何れかに記載の方法。
[実施態様46]
前記他の治療は、化学療法、放射線療法、免疫刺激物質による治療、遺伝子療法、抗体による治療、及び樹状細胞を用いた治療からなる群から選択される、実施態様45記載の方法。
[実施態様47]
前記臨床状態は、感染症及び自己免疫疾患からなる群から選択される、実施態様43記載の方法。
[実施態様48]
臨床状態の治療又は予防用の医薬の製造における、実施態様1乃至34の何れかに記載のワクチン組成物又は実施態様35乃至42の何れかに記載のパーツキットの使用。
[実施態様49]
前記臨床状態は、PD-L1が発現される癌疾患である、実施態様48記載の使用。
[実施態様50]
他の癌治療と組み合わせる、実施態様48又は49の何れかに記載の使用。
[実施態様51]
前記他の治療は、化学療法、放射線療法、免疫刺激物質による治療、遺伝子療法、抗体による治療、及び樹状細胞を用いた治療からなる群から選択される、実施態様50記載の使用。
[実施態様52]
前記治療対象の臨床状態は、感染症及び自己免疫疾患からなる群から選択される、実施態様48記載の方法。
【0016】
ワクチン組成物と他の免疫刺激組成物とを含むパーツキットに関する本発明の態様において、上述したワクチンに基づく免疫療法の組み合わせの相乗効果が提供される。
【0017】
本発明のワクチンを、化学療法剤等の他の癌治療と組み合わせる態様も本明細書において提供される。
【0018】
本発明のワクチンを、免疫療法及び/又は抗生物質等の感染症に対する他の治療と組み合わせる態様も本明細書において提供される。
【0019】
癌又は感染等の臨床状態を上述した手段の何れかにより治療する方法は、本発明の範囲に含まれることになり、当該手段には、臨床状態を有する個体に上述したワクチン組成物の有効量又は上述のワクチンを他の免疫刺激組成物及び/又は化学療法剤と共に含むパーツキットを投与することが含まれる。
【0020】
したがって、本発明の目的は、更に、PD-L1又は前記PD-L1の連続した配列を含むその免疫原性活性ペプチドフラグメント、又はその機能的ホモログ、又は上述したワクチン組成物を、癌疾患の治療又は予防用の医薬の製造に使用することである。
【図面の簡単な説明】
【0021】
図1】IFN-γ ELISPOTにより測定したPDL101、PDL111、及びPDL114に対するT細胞応答の存在を示す。PDL特異的スポットの平均数(添加ペプチドの無いスポットの減算後)は、各患者について5×105個のPBMC個の毎に計算した(白三角)。乳癌患者(BC)、腎細胞癌患者(RCC)、悪性黒色腫患者(MM)、及び健康な個体(HD)からのPBMCを分析した。T細胞は、ペプチドにより1回刺激した後、1ウェル当たり5×105個の細胞とし、PDL1ペプチドを使用せず又は使用し、2重にしてプレートに配置した。
図2】ELISPOTにより測定したPDL101に対するT細胞応答の存在を示す。(a)PDL-101特異的スポットの平均数(添加ペプチドの無いスポットの減算後)は、各患者について5×105個のPBMC毎に計算した(白三角)。乳癌患者(BC)、腎細胞癌患者(RCC)、悪性黒色腫患者(MM)、及び健康な個体(HD)からのPBMCを分析した。PBMCは、単離後、1ウェル当たり5×105個の細胞とし、PDL101ペプチドを使用せず又は使用し、2重にしてex vivoで直接プレートに配置した。(b)TNF-α ELISPOTにより測定したPDL101に対するT細胞応答。PDL特異的スポットの平均数(添加ペプチドの無いスポットの減算後)は、各患者について5×105個のPBMC毎に計算した(白三角)。乳癌患者(BC)、腎細胞癌患者(RCC)、悪性黒色腫患者(MM)、及び健康な個体(HD)からのPBMCを分析した。T細胞は、ペプチドにより1回刺激した後、1ウェル当たり5×105個の細胞とし、PDL101ペプチドを使用せず又は使用し、2重にしてプレートに配置した。
図3】PDL101特異的T細胞の機能的能力を示す:(a)51Cr放出アッセイにより測定した、様々なエフェクター対標的比における、PDL101ペプチド(赤)又は無関係のペプチド(青)(HIV-1 pol476-484)によりパルスしたT2細胞のT細胞バルク培養による溶解。(b)51Cr放出アッセイにより測定した、様々なエフェクター対標的比における、T細胞バルク培養による乳癌細胞株MDA-MB-231の溶解。
図4】PD-L1に対する天然T細胞応答。(A)IFN-γ ELISPOTにより測定したPD-L101ペプチド(PDL115-23、LLNAFTVTV)に対するT細胞応答。腎細胞癌(RCC)患者1人及び悪性黒色腫(MM)患者2人のPD-L101に対するELISPOT応答の例。(B)合計で癌患者23人及び健康なドナー24人からのPBMCをペプチドにより1回刺激し、PD-L101に対する応答についてIFN-γ ELIPOTを用いて選別した。PDL-101特異的スポットの平均数(添加ペプチドの無いスポットの減算後)は、各患者について5×105個のPBMC毎に計算した。マンホイットニ検定により、健康なドナーと比較して、癌患者におけるPD-L101特異的T細胞応答の頻度が高くなるp値=0.06が明らかとなった。(C)黒色腫患者6人(MM.03、MM.04、MM.05、MM.13、及びMM.135)、乳癌患者(CM.21)、及び腎細胞癌患者(RCC.46)からのPBMCにおける、PD-L101に対する(黒の棒)、又はペプチドの無い状態での(灰色の棒)、IFN-γ ELISPOTの例。(D)黒色腫患者6人(MM.03、MM.04、MM.05、MM.13、及びMM.19)、乳癌患者(CM.21)、及び腎細胞癌患者(RCC.46)からのPBMCにおける、PD-L101に対する(黒の棒)、又はペプチドの無い状態での(灰色の棒)、TNF-α ELISPOT。全ての実験は3重にして行い、分布によらない再サンプリング(DFR)試験により、PD-L101に対する有意な応答を確認した。
図5】ex vivoでのPD-L1に対するT細胞応答を示す。(A)黒色腫患者(MM.03)における、ex vivoのIFN-γ ELISPOTにより測定したPD-L101ペプチド(PDL115-23、LLNAFTVTV)に対するT細胞応答の例。(B)悪性黒色腫患者2人(MM.03及びMM.04)及び腎細胞癌患者1人(RCC.46)からのPBMCにおける、PD-L101に対する(黒の棒)、又はペプチドの無い状態での(灰色の棒)、ex vivoのIFN-γ ELISPOTの例。全ての実験は3重にして行い、分布によらない再サンプリング(DFR)試験により、PD-L101に対する有意な応答を確認した。(C)様々なペプチドと交換したUV感受性リガンド(KILGFVFJV)のELISA解析:CMV/HLA-A2(pp65 pos495-503、NLVPMVATV)、HIV/HLA-A2(pol476-484、ILKEPVHGV)、PD-L101(PDL115-23、LLNAFTVTV)、UV無し(UV光への曝露無し)、及びペプチド無し(レスキューペプチド無し)。(D)PD-L101特異的T細胞の四量体分析であり、四量体HLA-A2/PD-L101-PE、HLA-A2/HIV-PE、及び抗体CD8パシフィックブルー/APCアロフィコシアニンを用いたフローサイトメトリー染色により視覚化した、乳癌患者(CM.21)(上)及び悪性黒色腫患者(MM.05)(下)からのPBMC中のPD-L101特異的CD8 T細胞の2つの例。染色は、ex vivoで直接(左)、in vitroでの1回のペプチド刺激後(中)、及び3回のペプチド刺激後(右)に行った。
図6】PD-L1特異的T細胞の細胞傷害性機能を示す。(A)3回目のペプチド刺激後のCM.21 T細胞培養による、PD-L101ペプチド(PDL115-23)又は無関係のHIVペプチド(HIV-1 pol476-484)でパルスしたT2細胞の溶解パーセンテージを表す51Cr放出アッセイ。(B)3回のペプチド刺激後のMM.05 T細胞培養による、PD-L101ペプチド(PDL115-23)又は無関係のHIVペプチド(HIV-1 pol476-484)でパルスしたT2細胞の溶解。(C)GrB ELISPOTにより測定したPD-L101に対する細胞溶解応答。GrB ELISPOT応答は、黒色腫患者3人(MM.03、MM.53、MM.135)からのPBMCにおける、PD-L101に対するもの(黒の棒)又はペプチドが無い状態のもの(灰色の棒)を示している。全ての実験は3重にして行い、分布によらない再サンプリング(DFR)試験により、患者のうち2人においてPD-L101に対する有意な応答が明らかとなった。
図7】PD-L1+癌細胞に対する細胞溶解活性を示す。(A)51Cr放出により測定した、様々なエフェクター対標的比における、PD-L101特異的T細胞培養物(CM.21)によるIFN-γ処置有り又は無しの場合のHLA-A2+黒色腫細胞株MM.06(左)又はMM.07(右)の溶解。(B)IFN-γ処置有り又は無しの場合のMM.07及びMM.06でのPD-L1表面発現を示すヒストグラム。(C)PD-L101濃縮T細胞培養によるHLA-A2+黒色腫細胞株MM.06(四角)又はMM.07(丸)の溶解。
図8】樹状細胞のPD-L1依存性溶解を示す。(A-B)PD-L1特異的T細胞培養物(上)による、siRNを用いない自家mDC(黒丸)と、PD-L1に対するsiRNA(0.05nmol(黒四角)、0.10nmol(黒星)、及び0.25nmol(黒三角))及び対照siRNA(白丸)によりトランスフェクトしたmDCとの溶解のパーセンテージ。C)トランスフェクトしていないmDCと、PD-L1に対するsiRNAにより3種類の濃度でトランスフェクトしたmDC(0.05nmol、0.10nmol、及び0.25nmol)と、対照siRNAによりトランスフェクトしたDCとにおけるPD-L1表面発現のプロフィールを示すフローサイトメトリー解析。
図9】ノンプロフェッショナル抗原提示細胞によるTAP独立交差提示を示す。(A)標準的な51Cr放出により測定した、PD-L101特異的T細胞培養物による、PD-L101ペプチド(PDL115-23)(黒四角)、PDLong1(PD-L19-28、FMTYWHLLNAFTVTVPKDL)(黒星)、PDLong2(PDL1242-264、VILGAILLCLGVALTFIFRLRKG)(黒三角)、PD-L1タンパク質(白四角)、又は無関係なHIVペプチド(HIV-1 pol476-484)(灰色丸)でパルスしたHLA-A2+ EBVトランスフェクションB細胞株(KIG-BCL)の溶解、(B)標準的な51Cr放出により測定した、PD-L101特異的T細胞培養物による、PD-L101ペプチド(PDL115-23)(黒四角)、PDLong1(PD-L19-28、FMTYWHLLNAFTVTVPKDL)(黒星)、PDLong2(PDL1242-264、VILGAILLCLGVALTFIFRLRKG)(黒三角)、PD-L1タンパク質(白星)、又は無関係なHIVペプチド(HIV-1 pol476-484)(灰色丸)でパルスしたT2細胞の溶解、(C)PD-L1特異的T細胞によるHLA-A2制限的な死滅を、PDLong1又はPDLong1+HLA-A2ブロック抗体でパルスしたT2細胞の溶解により評価した。(D)KIG-BCL及びT2細胞株におけるPD-L1表面発現を示すヒストグラム。
【発明を実施するための形態】
【0022】
本発明の主要な目的は、好ましくは癌、感染症、及び自己免疫疾患からなる群から選択される臨床状態の予防、リスクの低減、又は治療において、医薬として使用する、PD-L1又はその免疫学的活性ポリペプチドフラグメントを含むワクチン組成物を提供することである。
【0023】
定義
【0024】
アジュバント:PD-L1又はその免疫学的活性ペプチドフラグメントとの混合により、個体への投与時に、PD-L1又はその前記ペプチドフラグメントに対する免疫応答を増加させる任意の物質。好ましくは、前記個体は、ヒトであり、好ましくは、前記免疫応答は、T細胞応答である。
【0025】
抗体:免疫グロブリン分子及び免疫グロブリン分子の活性部分。抗体は、例えば、完全な免疫グロブリン分子又は免疫学的活性を維持するその断片である。
【0026】
抗原:クローン的に分布する免疫受容体(T細胞又はB細胞受容体)に結合可能な任意の物質。通常は、ペプチド、ポリペプチド、又は多量体ポリペプチドである。抗原は、好ましくは、免疫応答を誘発することができる。
【0027】
APC:抗原提示細胞。APCは、その表面上にMHCと複合体化した外来抗原を提示する細胞である。T細胞は、そのT細胞受容体(TCR)を用いて、この複合体を認識し得る。APCは次の2種類のカテゴリに含まれる:プロフェッショナル(次の3つの型が存在する:樹状細胞、マクロファージ、及びB細胞)又はノンプロフェッショナル(ナイーブT細胞との相互作用に必要な主要組織適合複合体タンパク質を構成的に発現せず、IFN-γ等の特定のサイトカインによるノンプロフェッショナルAPCの刺激時のみに発現する)。
【0028】
ブースト:ブースター注射又は投与量によりブーストするとは、ワクチン等の免疫剤の追加用量を、初回用量後のある時点で与えて、同じ免疫剤の前回の用量により誘発された免疫応答を維持することである。
【0029】
癌:本明細書では、良性又は悪性の任意の前新生物又は新生物疾患を示し、「新生物(の)」とは、細胞の異常増殖を示す。
【0030】
キャリア:免疫応答の誘導を補助するために抗原が結合される実体又は化合物。
【0031】
キメラタンパク質:2つ以上の完全又は部分的な遺伝子又は一連の(非)ランダム核酸を共にスプライシングすることで作成されたヌクレオチド配列によりコードされる遺伝子操作されたタンパク質。
【0032】
臨床状態:医学的配慮を必要とする状態であり、本明細書では特に、PD-L1の発現に関連する状態。こうした状態の例には、癌、感染症、又は自己免疫疾患が含まれる。
【0033】
CTL:細胞傷害性Tリンパ球。T細胞受容体と共にCD8を発現するため、クラスI分子により提示される抗原に応答することが可能なT細胞の亜群。
【0034】
サイトカイン:増殖又は分化モジュレーターであり、本明細書では非限定的に使用され、本発明及び特許請求の範囲の解釈を限定するべきではない。サイトカインに加えて、接着又はアクセサリー分子、或いはその任意の組み合わせを、単独で、或いはサイトカインと組み合わせて使用することができる。
【0035】
送達ビヒクル:ヌクレオチド配列又はポリペプチド或いはその両方を、少なくともある媒体から別の媒体に輸送することが可能な実体。
【0036】
DC:樹状細胞。(DC)は免疫細胞であり、哺乳動物の免疫系の一部を形成する。その主な機能は、抗原物質を加工し、その表面上において、免疫系の他の細胞に対して提示することであり、したがって、抗原提示細胞(antigen-presenting cells, APC)として機能する。
【0037】
フラグメント:核酸又はポリペプチドの非完全長部分を示すために使用される。したがって、フラグメント自体が、それぞれ核酸又はポリペプチドにもなる。
【0038】
機能的ホモログ:機能的ホモログは、野生型ポリペプチドと少なくとも何らかの配列同一性を示し且つ野生型ポリペプチドの機能性の少なくとも1つの側面を保持している任意のポリペプチドとなり得る。本明細書において、PD-L1の機能的ホモログは、PD-L1を発現する細胞に対するT細胞免疫応答を誘導する能力を有する。
【0039】
個体:一般に、鳥類、哺乳類、魚類、両生類、又は爬虫類の任意の種又は亜種であり、好ましくは、哺乳動物、最も好ましくはヒトである。
【0040】
感染:本明細書において、「感染」という用語は、免疫応答を発生させる任意の種類の臨床状態に関し、したがって、感染、慢性感染、自己免疫状態、及びアレルギー性炎症を含む。
【0041】
単離:本明細書に開示した核酸、ポリペプチド、及び抗体に関連して使用される「単離」は、その天然の環境、通常は細胞環境の成分から同定及び分離及び/又は回収することを示す。本発明の核酸、ポリペプチド、及び抗体は、好ましくは単離され、本発明のワクチン及び他の組成物は、好ましくは、単離した核酸、ポリペプチド、又は単離した抗体を含む。
【0042】
MHC:主要組織適合複合体であり、2つの主なMHCサブクラスとして、クラスI及びクラスIIが存在する。
【0043】
核酸構築物:遺伝子操作された核酸。一般的には、遺伝子又は遺伝子のフラグメント、プロモーター、エンハンサー、ターミネーター、ポリAテール、リンカー、ポリリンカー、操作リンカー、多重クローニング部位(MCS)、マーカー、終止コドン、他の調節エレメント、又は内部リボゾーム侵入部位(internal ribosomal entry sites, IRES)等の幾つかの要素を含む。
【0044】
病原体:疾患の特異的原因因子、特に、ウイルス、細菌、プリオン、又は寄生虫等、その宿主に疾患を引き起こすことが可能な生物学的因子であり、感染因子とも呼ばれる。
【0045】
PBMC:末梢血単核球(PBMC)は、リンパ球又は単球等、円形の核を有する血球である。これらの血球は、感染と戦い、侵入者に適応するための免疫系における重要成分である。リンパ球集団は、T細胞(CD4及びCD8陽性、約75%)と、B細胞及びNK細胞(合わせて約25%)とからなる。
【0046】
薬学的キャリア:賦形剤又は安定剤とも呼ばれ、利用される投与量及び濃度において、曝露された細胞又は個体に対して毒性を示さない。多くの場合、生理学的に許容可能なキャリアは、水性pH緩衝液である。生理学的に許容可能なキャリアの例には、リン酸、クエン酸、及び他の有機酸等の緩衝液と、アスコルビン酸を含む抗酸化剤と、低分子量(約10残基未満)のポリペプチドと、血清アルブミン、ゼラチン、又は免疫グロブリン等のタンパク質と、ポリビニルピロリドン等の親水性ポリマーと、グリシン、グルタミン、アスパラギン、アルギニン、又はリジン等のアミノ酸と、グルコース、マンノース、又はデキストリンを含む単糖類、二糖類、及び他の炭水化物と、EDTA等のキレート剤と、マンニトール又はソルビトール等の糖アルコールと、ナトリウム等の塩形成対イオンと、及び/又はTWEEN(商標) 等の非イオン性界面活性剤、ポリエチレングリコール(PEG)、及びPLURONICS(商標)とが含まれる。
【0047】
複数:少なくとも2つ。
【0048】
プロモーター:RNAポリメラーゼが結合して1つ又は複数の近隣の構造遺伝子により伝令RNAの転写が開始されるDNA鎖中の結合部位。
【0049】
Treg:調節性T細胞/Tリンパ球
【0050】
ワクチン:動物において免疫応答を誘導することが可能な物質又は組成物。ワクチンは、本明細書において「ワクチン組成物」又は「免疫原性組成物」とも呼ばれる。前記免疫応答は、本発明によれば、好ましくは、T細胞応答である。本発明のワクチンは、予防及び/又は治療用医薬として投与し得る。
【0051】
変異体:所与の参照核酸又はポリペプチドの「変異体」とは、前記参照核酸又はポリペプチドに対して、ある程度の配列同一性を示すものの、前記参照核酸又はポリペプチドと同一ではない核酸又はポリペプチドを示す。
【0052】
PD-L1
【0053】
本発明によるPD-L1は、「プログラム細胞死1」のリガンドである。ヒトPD-L1は
【0054】
PD-L1は、癌細胞及び調節性T細胞において、高レベルで発現する。したがって、本発明によるワクチン組成物は、高レベルのPD-L1を発現する望ましくない細胞の存在を特徴とする臨床状態の予防及び/又は治療に有用である。
【0055】
そのため、癌だけでなく、一般的な感染及び特に慢性感染等の感染、更に自己免疫疾患も、全て本発明に関連する臨床状態となる。
【0056】
PD-L1を発現するT細胞は、ワクチン接種によるもの等、他の免疫治療的手法の所望の効果に拮抗し、結果として、PD-L1発現細胞を標的とすることは付加的な抗癌免疫療法との相乗作用が高くなる。本発明の開示では、CTLにより定められるPD-L1エピトープは、治療用ワクチン接種に広く応用可能であり、したがって、実質的に免疫療法的価値を有するものであることが実証される。
【0057】
したがって、本発明の一態様は、PD-L1又はその免疫学的活性ポリペプチドフラグメントを含むワクチン組成物を、臨床状態の治療用の医薬として使用するために提供することである。前記臨床状態は、癌となる場合があり、本発明の他の態様は、癌を予防すること、癌によるリスクを低減すること、或いは癌を治療することである。他の態様は、免疫治療薬及び/又は化学療法剤等の他の医薬と組み合わせた本発明のワクチン組成物の使用に関する。他の態様は、ウイルス及び/又は微生物起源の疾患の治療のための本明細書に開示したワクチン組成物の使用に関し、更に、免疫治療薬及び/又は抗生物質及び/又は抗ウイルス剤等の他の医薬と組み合わせた前記ワクチンの使用に関する。
【0058】
本発明によるワクチン組成物は、PD-L1又はその免疫原性活性ペプチドフラグメントを、それを必要とする個体における臨床状態の治療用として含む。好ましくは、前記PD-L1は、前記個体の種のPD-L1である。したがって、必要とする個体が特定の種類の哺乳動物である場合、前記PD-L1は、好ましくは、前記特定の種類の哺乳動物のPD-L1となる。本発明の好適な実施形態において、ワクチン組成物は、配列番号1のヒトPD-L1又はその免疫原性活性ペプチドフラグメントを含む。
【0059】
野生型PD-L1、即ち、自然発生非変異バージョンのポリペプチドは、配列番号1において同定される。
【0060】
しかしながら、本発明の特定の実施形態において、本発明のワクチン組成物は、以下に定めるPD-L1の機能的ホモログ又はその免疫学的活性ペプチドフラグメントを含む。
【0061】
したがって、本発明は、アジュバントと、
i)配列番号1のPD-L1、又は
ii)配列番号1のPD-L1の免疫学的活性ペプチドフラグメント、又は
iii)少なくとも70%の同一性を有する配列番号1のPD-L1の機能的ホモログ、又は
iv)配列番号1のPD-L1の免疫原性活性ペプチドフラグメントであり、且つ多くとも3個のアミノ酸が置換されている、少なくとも70%の同一性を有する配列番号1のPD-L1の機能的ホモログの免疫原性活性ペプチドフラグメント、又は
v)i)乃至iv)の何れかをコードする核酸と、を含むワクチン組成物に関する。
【0062】
ペプチドフラグメントという用語は、本明細書において、配列番号1の連続アミノ酸配列に直接的に由来する、或いは、これと同一となるように合成された、任意の(配列番号1と比較して)非完全長であるアミノ酸残基配列を定義するために用いられる。
【0063】
機能的ホモログは、配列番号1の野生型ヒトPD-L1等の野生型PD-L1と配列が異なるが、癌細胞及びDC等のPD-L1発現細胞に対する免疫応答を依然として誘導可能である完全長のPD-L1又はそのフラグメントとして定義することができる。こうした細胞で発現したPD-L1は、野生型であっても、内因性の変異(先天性変異体又は細胞分裂中に誘導された変異等)を有してもよい。機能的ホモログは、野生型配列番号1の変異バージョン又は選択的スプライス変異体となり得る。他の態様において、PD-L1の機能的ホモログは、本明細書の以下の記載のように定める。機能的ホモログは、限定では無いが、ex vivoで導入された1つ又は複数の変異、及び/又は1つ又は複数の配列の欠失及び/又は付加を有する完全長又はフラグメント化PD-L1の組換えバージョンとなり得る。
【0064】
PD-L1の機能的ホモログは、配列番号1との少なくとも何らかの配列同一性を示し、且つPD-L1を発現する細胞に対する免疫応答を誘導する能力を有する任意のタンパク質/ポリペプチドとなり得る。
【0065】
したがって、本発明によるPD-L1の機能的ホモログは、好ましくは、配列番号1のPD-L1に対して少なくとも70%の配列同一性を有し、そのため、機能的ホモログは、配列番号1のヒトPD-L1の配列との少なくとも75%の配列同一性、例えば少なくとも80%の配列同一性、例として少なくとも85%の配列同一性、例えば少なくとも90%の配列同一性、例として少なくとも91%の配列同一性、例えば少なくとも91%の配列同一性、例として少なくとも92%の配列同一性、例えば少なくとも93%の配列同一性、例として少なくとも94%の配列同一性、例えば少なくとも95%の配列同一性、例として少なくとも96%の配列同一性、例えば少なくとも97%の配列同一性、例として少なくとも98%の配列同一性、例えば99%の配列同一性を有し、且つPD-L1を発現する細胞に対する免疫応答を誘導する能力を有する。
【0066】
本発明による配列同一性は、参照配列全体に対して判定され、したがって、配列番号1との配列同一性は、配列番号1の全長に対して判定される。配列同一性は、多数の周知のアルゴリズムを用いて、多数の異なるギャップペナルティを適用して計算することができる。配列同一性は、完全長の配列番号1と比較して計算する。限定では無いが、FASTA、BLAST、又はLALIGN等の任意の配列アラインメントツールを、相同体の検索及び配列同一性の計算のために使用し得る。更に、配列アラインメントを、ギャップオープニング及びギャップ伸長に対するペナルティの範囲を用いて実行し得る。例えば、BLASTアルゴリズムを、5乃至12の範囲、好ましくは8、のギャップオープニングペナルティ及び1乃至2の範囲、好ましくは1、のギャップ伸長ペナルティと共に使用し得る。
【0067】
機能的等価物は、ヒトタンパク質中には天然に存在しないオルニチン等のアミノ酸(アミノ酸)のユビキチン化、標識化(例えば、放射性核種、様々な酵素等を使用)、ペグ化(ポリエチレングリコールによる誘導体化)、又は挿入(又は化学合成による置換)等の化学修飾を更に含み得るが、しかしながら、機能的等価物は化学修飾を含まないことが好ましい。
【0068】
配列番号1のPD-L1のアミノ酸残基配列と比較した、アミノ酸残基配列に対する任意の変化は、保存的置換であることが好ましい。あるアミノ酸を1つ又は複数の化学的及び/又は物理的特徴を共有する他のアミノ酸と置換する「保存的」アミノ酸置換の実施及び評価方法は、当業者に公知であろう。保存的アミノ酸置換は、タンパク質の機能性に影響を及ぼす可能性が低い。アミノ酸は、共有の特徴により分類し得る。保存的アミノ酸置換は、所定のアミノ酸群内の1つのアミノ酸を、同一群内の他のアミノ酸と置換することであり、所定の群内のアミノ酸は、類似する或いは実質的に類似する特徴を示す。
【0069】
本発明での使用対象となるPD-L1の免疫原性活性ペプチドフラグメント又はその機能的ホモログは、任意の所望の長さを有し得る。特定の実施形態において、本発明の免疫原性活性ペプチドフラグメントは、配列番号1において特定されるPD-L1又はその機能的ホモログの50個以下のアミノ酸残基、例えば多くとも45個のアミノ酸残基、例として多くとも40個のアミノ酸残基、例えば多くとも35個のアミノ酸残基、例として多くとも30個のアミノ酸残基、例えば多くとも25個のアミノ酸残基、例として18乃至25個の連続するアミノ酸からなり、機能的ホモログは、多くとも3個のアミノ酸、例として2個のアミノ酸、例として1個のアミノ酸が、好ましくは保存的置換により、他のアミノ酸と置換されたものである。
【0070】
したがって、他の特定の実施形態において、本発明の免疫原性活性ペプチドフラグメントは、配列番号1のPD-L1又はその機能的ホモログからの多くとも25個のアミノ酸残基、例として多くとも24個のアミノ酸残基、例とし多くとも23個のアミノ酸残基、例として多くとも22個のアミノ酸残基、例として多くとも21個のアミノ酸残基、例として多くとも20個のアミノ酸残基、例えば多くとも19個のアミノ酸残基、例として多くとも18個のアミノ酸残基、例えば多くとも17個のアミノ酸残基、例として多くとも16個のアミノ酸残基、例えば多くとも15個のアミノ酸残基、例として多くとも14個のアミノ酸残基、例えば多くとも13個のアミノ酸残基、例として多くとも12個のアミノ酸残基、例えば多くとも11個のアミノ酸残基、例として8乃至10個の連続するアミノ酸からなり、機能的ホモログは、多くとも2個のアミノ酸、例として1個のアミノ酸が、好ましくは保存的置換により、他のアミノ酸と置換されたものである。好ましくは、ペプチドは、配列番号1のPD-L1由来の多くとも10個の連続するアミノ酸残基、例として9個の連続するアミノ酸残基、例として8個の連続するアミノ酸残基、例として7個の連続するアミノ酸残基、例として配列番号1において特定されるPD-L1又はその機能的ホモログからの7個の連続するアミノ酸を含み、機能的ホモログは、多くとも2個のアミノ酸、例として1個のアミノ酸が、好ましくは保存的置換により、他のアミノ酸と置換されたものである。
【0071】
したがって、一部の実施形態において、本発明の免疫原性活性ペプチドフラグメントは、ノナペプチド(9個のアミノ酸残基を含むペプチド)及び一部のデカペプチド(10残基を含む)である。
【0072】
本発明の好適な一実施形態において、免疫原性活性ペプチドフラグメントは、表1に記載のペプチドからなる群から選択されるペプチド、更に好ましくは配列番号2、12、及び15からなる群から選択されるペプチドを含む。好ましくは、前記免疫原性活性ペプチドフラグメントは、多くとも25個のアミノ酸残基、例として多くとも24個のアミノ酸残基、例として多くとも23個のアミノ酸残基、例として多くとも22個のアミノ酸残基、例として多くとも21個のアミノ酸残基、例として多くとも20個のアミノ酸残基、例えば多くとも19個のアミノ酸残基、例として多くとも18個のアミノ酸残基、例えば多くとも17個のアミノ酸残基、例として多くとも16個のアミノ酸残基、例えば多くとも15個のアミノ酸残基、例として多くとも14個のアミノ酸残基、例えば多くとも13個のアミノ酸残基、例として多くとも12個のアミノ酸残基、例えば多くとも11個のアミノ酸残基、例として10個のアミノ酸、例えば9個のアミノ酸からなり、表1に記載のペプチド群から選択されるペプチド配列、更に好ましくは配列番号2、12、及び15の群からなる群から選択されるペプチドを含む。
【0073】
本発明の非常に好適な一実施形態において、前記免疫原性活性ペプチドフラグメントは、表1に記載のペプチドからなる群から選択され、更に好ましくは、配列番号2、12、及び15からなる群から選択される。
【0074】
【表1】
【0075】
本発明の他の免疫原性活性ペプチドフラグメントは、配列番号1のPD-L1の4乃至120個、好ましくは8乃至100個、更に好ましくは10乃至75個、更に好ましくは12乃至60個、更に好ましくは15乃至40個、例として18乃至25個の隣接アミノ酸を含み(好ましくは、これらのアミノ酸からなり)、配列番号1のPD-L1配列と比較して、多くとも3個のアミノ酸が置換、欠失、又は付加されており、例として2個のアミノ酸が置換、欠失、又は付加されており、或いは1個のアミノ酸が置換、欠失、又は付加されている。
【0076】
したがって、本発明の一実施形態において、ワクチン組成物は、8乃至50個のアミノ酸の範囲内、好ましくは8乃至10個又は20乃至25個のアミノ酸の範囲内である配列番号1のPD-L1の連続する配列からなる免疫原性活性ペプチドフラグメントを含み、多くとも3個のアミノ酸が置換されており、置換は、好ましくは保存的である。
【0077】
MHC
【0078】
MHCクラスI分子及びMHCクラスII分子という2種類のMHC分子が存在する。MHCクラスI分子は、適応免疫応答の主要なエフェクター細胞であるCD8 T細胞によって認識される。MHCクラスII分子は、主に、抗原提示細胞(APC)の表面上に発現され、その中で最も重要なものは樹状細胞であると思われる。APCは、ナイーブT細胞と、免疫系内の他の細胞とを刺激する。これらは、CD8 T細胞及びCD4 T細胞の両方を刺激する。
【0079】
一実施形態において、配列番号1のPD-L1又はその機能的ホモログからの8乃至10個のアミノ酸からなる新規のMHCクラスI制限ペプチドフラグメントであって、多くとも2個の配列番号1のアミノ酸が置換されたものが提供され、幾つかの特徴の少なくとも1つを有することを特徴としており、その1つは、本明細書に記載のアセンブリ結合アッセイにより決定された、多くとも50μMであるクラスI HLA分子の半最大の回収が可能なペプチド量により測定される親和性(C50値)において制限されるクラスI HLA分子に結合する能力である。このアセンブリアッセイは、ペプチド輸送体欠損細胞株T2へのペプチドの負荷後のHLA分子の安定化に基づく。その後、正確に折り畳まれた安定したHLA重鎖を、配座依存性の抗体を用いて免疫沈降させ、ペプチド結合を定量する。本実施形態のペプチドは、多くとも200個、好ましくは多くとも100個、更に好ましくは多くとも50個、更に好ましくは多くとも25個、更に好ましくは多くとも20個、更に好ましくは多くとも15個、例として多くとも10個、例えば8乃至10個の範囲の配列番号1のPD-L1又はその機能的ホモログの隣接アミノ酸を含み(或いは更に好ましくは、これらのアミノ酸からなり)、多くとも2個の配列番号1のアミノ酸が置換されている。
【0080】
本アッセイは、上述した親和性で所与のHLA対立遺伝子分子に結合する能力について候補ペプチドをスクリーニングする簡潔な手段を提供する。好適な実施形態において、本発明のペプチドフラグメントは、多くとも30μMであるC50値、例として多くとも20μMであるC50値、更には多くとも10μM、5μM、及び多くとも2μMのC50値を有するものである。
【0081】
他の好適な実施形態では、配列番号1のPD-L1又はその機能的ホモログの新規のMHCクラスII制限ペプチドフラグメントであって、多くとも2個の配列番号1のアミノ酸が置換されたものが提供され(本明細書において「ペプチド」とも呼ばれる)、本明細書において以下に記載の幾つかの特徴の少なくとも1つを有することを特徴とする。本実施形態のペプチドは、4乃至120個、好ましくは8乃至100個、更に好ましくは10乃至75個、更に好ましくは12乃至60個、更に好ましくは15乃至40個、例として18乃至25個の配列番号1のPD-L1の隣接アミノ酸を含み(或いは更に好ましくは、これらのアミノ酸からなり)、多くとも2個の配列番号1のアミノ酸が置換されている。
【0082】
したがって、配列番号1のPD-L1又はその機能的ホモログの8乃至10個のアミノ酸の新規のMHCクラスI制限ペプチドフラグメント又は18乃至25個のアミノ酸の新規のMHCクラスII制限ペプチドフラグメントであって、多くとも2個の配列番号1のアミノ酸が置換されたものが提供され、本明細書において以下に記載の幾つかの特徴の少なくとも1つを有することを特徴とし、その1つは、当該ペプチドフラグメントが制限対象となるクラスI又はクラスIIのHLA分子と結合する能力である、
【0083】
特定の実施形態では、次の特徴の少なくとも1つを有するMHCクラスI制限ペプチド又はMHCクラスII制限ペプチドであるペプチドフラグメントが提供される:
(i)癌患者のPBMC集団において、ELISPOTアッセイにより判定される105個のPBMC当たり少なくとも20個の頻度で、INF-γ産生細胞を誘発可能であること、及び/又は
(ii)当該エピトープペプチドに反応するCTLの腫瘍組織中でのin situ検出が可能であること、
(iii)PD-L1特異的T細胞の増殖をin vitroで誘導可能であること。
【0084】
本発明による更に好適なペプチドは、ELISPOTアッセイ、例えば以下の実施例1に記載のELISPOTアッセイにより判定される特異的T細胞応答を引き起こすことが可能なペプチドである。一部のペプチドは、MHCクラスI又はクラスIIと高い親和性で結合しないものの、ELISPOTにより判定されるT細胞応答を依然として引き起こし得る。MHCクラスI又はクラスIIと高い親和性で結合可能な他のペプチドも、ELISPOTにより判定されるT細胞応答を引き起こす。両方の種類のペプチドが、本発明による好適なペプチドとなる。
【0085】
したがって、本発明による好適なペプチドは、ELISPOTアッセイにより測定される特異的T細胞応答を引き起こすことが可能なペプチドであって、細胞108個当たり、更に好ましくは107個当たり、更に好ましくは106個当たり、更に好ましくは105個当たり、20個より多くのペプチド特異的スポットが測定されるものである。特に、本発明による好適なペプチドは、in vitroでのペプチドによる1回の刺激を含む実施例1に記載のELISPOTアッセイによる測定時に、108個のPBMC当たり、更に好ましくは107個当たり、更に好ましくは106個当たり、更に好ましくは105個のPBMC当たり、20個より多くのペプチドの特異的T細胞応答を引き起こすことが可能なペプチドである。
【0086】
本発明による最も好ましいペプチドは、PD-L1の発現を特徴とする臨床状態を有する個体において細胞性免疫応答、好ましくはT細胞応答を誘発可能なペプチドであり、臨床状態は、好ましくは癌、自己免疫疾患、又は感染症であり、最も好ましくは癌である。
【0087】
上述したように、HLA系は、ヒト主要組織適合(MHC)系を表す。一般に、MHC系は、広範囲の特徴を制御する:移植抗原、胸腺依存性免疫応答、特定の補体因子、及び特定の疾患の素因。更に具体的には、MHCは、MHCの更に一般的な特徴を決定する3種類の分子型、即ち、クラスI、II、及びIII分子をコードする。3種類の分子のうち、クラスI分子は、殆どの有核細胞及び血小板の表面上に存在する所謂HLA-A、HLA-B、及びHLA-C分子である。
【0088】
本発明のペプチドは、MHCクラスI HLA分子と結合する(これにより制限される)能力を特徴とする。したがって、一実施形態において、ペプチドは、HLA-A1、HLA-A2、HLA-A3、HLA-A9、HLA-A10、HLA-A11、HLA-Aw19、HLA-A23(9)、HLA-A24(9)、HLA-A25(10)、HLA-A26(10)、HLA-A28、HLA-A29(w19)、HLA-A30(w19)、HLA-A31(w19)、HLA-A32(w19)、HLA-Aw33(w19)、HLA-Aw34(10)、HLA-Aw36、HLA-Aw43、HLA-Aw66(10)、HLA-Aw68(28)、HLA-A69(28)を含む、MHCクラスI HLA-A分子により制限されるものである。更に簡潔な名称も文献全体で用いられ、この場合、主要な数字による名称のみを使用し、例えば、HLA-A19又はHLA-A24がそれぞれHLA-Aw19及びHLA-A24(49)の代わりとなる。特定の実施形態において、本発明のペプチドは、HLA-A1、HLA-A2、HLA-A3、HLA-A11、及びHLA-A24からなる群から選択されるMHCクラスI HLA種により制限される。特定の実施形態において、本発明のペプチドは、MHCクラスI HLA種HLA-A2又はHLA-A3により制限される。
【0089】
更に有用な実施形態において、本発明のペプチドは、次の何れかを含むMHCクラスI HLA-B分子により制限されるペプチドである:HLA-B5、HLA-B7、HLA-B8、HLA-B12、HLA-B13、HLA-B14、HLA-B15、HLA-B16、HLA-B17、HLA-B18、HLA-B21、HLA-Bw22、HLA-B27、HLA-B35、HLA-B37、HLA-B38、HLA-B39、HLA-B40、HLA-Bw41、HLA-Bw42、HLA-B44、HLA-B45、HLA-Bw46、及びHLA-Bw47。本発明の特定の実施形態において、本発明のペプチドが結合可能なMHCクラスI HLA-B種は、HLA-B7、HLA-B35、HLA-B44、HLA-B8、HLA-B15、HLA-B27、及びHLA-B51から選択される。
【0090】
更に有用な実施形態において、本発明のペプチドは、限定では無いが、次の何れかを含むMHCクラスI HLA-C分子により制限されるペプチドである:HLA-Cw1、HLA-Cw2、HLA-Cw3、HLA-Cw4、HLA-Cw5、HLA-Cw6、HLA-Cw7、及びHLA-Cw1。
【0091】
更に有用な実施形態において、本発明のペプチドは、限定では無いが、次の何れかを含むMHCクラスII HLA-C分子により制限されるペプチドである:HLA-DPA-1、HLA-DPB-1、HLA-DQA1、HLA-DQB1、HLA-DRA、HLA-DRB、及びこれらの群内の全ての対立遺伝子、及びHLA-DM、HLA-DO。
【0092】
所与のHLA分子に結合する能力を潜在的に有するペプチドの選択は、ある特定のHLA分子に結合する公知の配列のアラインメントにより行うことが可能であり、これにより、ペプチド内の特定の位置での幾つかの関連アミノ酸の優性が明らかとなる。このような優性のアミノ酸残基は、本明細書において「アンカー残基」又は「アンカー残基モチーフ」とも呼ばれる。アクセス可能なデータベース内で見つけることが可能な既知の配列データに基づく、こうした比較的簡潔な手順に従うことにより、特異的HLA分子に結合する可能性が高いペプチドを、PD-L1から導出することができる。こうしたHLA分子の範囲に関する分析の代表的な例を、以下の表に示す。
【0093】
【表2-1】
【表2-2】
【0094】
したがって、一例として、HLA-A3と結合する能力を潜在的に有するノナペプチドは、以下の配列の1つを有する:Xaa-L-Y-Xaa-Xaa-Xaa-Xaa-Xaa-K、Xaa-L-Y-Xaa-Xaa-Xaa-Xaa-Xaa-Y、Xaa-L-Y-Xaa-Xaa-Xaa-Xaa-Xaa-F、又はXaa-V-Y-Xaa-Xaa-Xaa-Xaa-Xaa-K(Xaaは、任意のアミノ酸残基を示す)。同様の形で、他の任意のHLA分子に結合する能力を潜在的に有する配列を設計することができる。当業者が所与のHLA分子に対する他の「アンカー残基モチーフ」を同定可能となることは理解されよう。
【0095】
本発明のペプチドは、配列番号1のPD-L1の天然配列の連続した配列となる配列を有し得る。しかしながら、任意の所与のHLA分子に対する高い親和性を有するペプチドは、少なくとも1個のアミノ酸残基の置換、欠失、又は付加による配列の修飾により、こうした天然配列から派生し得るものであり、これにより所与のHLA分子に関するアンカー残基モチーフが同定される。
【0096】
したがって、有用な実施形態において、本発明のポリペプチドには、その配列が、表に列記した特異的HLA対立遺伝子毎に、表に示したアミノ酸残基の何れかを含むペプチドが含まれる。
【0097】
したがって、本発明のペプチドは、PD-L1由来の連続配列を含む上述したペプチドの何れかにしてよく、1乃至10個の範囲、好ましくは1乃至5個の範囲、更に好ましくは1乃至3個の範囲、更に好ましくは1乃至2個の範囲、更に好ましくは1個のアミノ酸が、好ましくは表2に示した所与のHLA-A特異的ペプチドの1つ又は複数、好ましくは、全てのアンカー残基をペプチドが含む形で、他のアミノ酸と交換されている。
【0098】
本発明の好適なペプチドが制限対象となる好ましいHLA種の例には、HLA-A1、HLA-A2、HLA-A3、HLA-A11、及びHLA-A24からなる群から選択されるMHCクラスI HLA種が含まれ、更に好ましくは、ペプチドは、HLA-A3又はHLA-A2により制限される。或いは、好適なHLA種には、HLA-B7、HLA -B35、HLA -B44、HLA-B8、HLA-B15、HLA-B27、及びHLA-B51からなる群から選択されるMHCクラスII HLA-B種が含まれる。
【0099】
本発明のポリペプチドを同定するためのアプローチは、次のステップを含む:特定のHLA分子、例えば、所与の集団内に高い割合で発生するものを選択するステップ、上述したアライメント解析を実施してPD-L1タンパク質中の「アンカー残基モチーフ」を同定するステップ、1つ又は複数の同定アンカー残基を含む適切なサイズのペプチドを単離又は構築するステップ、及び結果的に生じたペプチドを当該ペプチドによるin vitroでの1回の刺激を含む実施例1に記載のELISPOTアッセイにより判定される105個のPBMC当たり少なくとも20個の頻度で、癌患者のPBMC集団においてINF-γ産生細胞を誘発するペプチドの能力について、試験するステップ。
【0100】
本発明の一態様において、8乃至10個のアミノ酸残基より長いPD-L1由来ペプチドが提供される。8乃至10個のアミノ酸より長いポリペプチドは、プロテアソームにより更に短い長さに処理され、HLA分子と結合する。したがって、8乃至10個のアミノ酸残基長より長いポリペプチドを投与する場合、PD-L1の「長い」ポリペプチド/タンパク質/タンパク質フラグメント/変異体は、プロテアソームによりサイトゾル中で一連の更に小さなペプチドに処理される。プロテアソームにより様々な種類の更に短いペプチドに処理し得る長いポリペプチドを用いることの利点は、特定のHLAクラスに制限された8乃至10個のアミノ酸からなる1つのペプチドよりも多くのHLAクラスを、1つのペプチドにより標的とし得ることである。
【0101】
驚くべきことに、本発明の一部のペプチドは、置換を不要にする十分に高い親和性でMHC分子と結合し、MHC分子に提示された状態で、抗原として使用する準備ができている。好ましくは、本発明のワクチン組成物は、以下の1つ又は複数を含む:PD-L1全長ポリペプチド(配列番号1)、これに由来するポリペプチドフラグメント、配列番号1の全長PD-L1の機能的ホモログ、及びPD-L1の免疫原性活性ペプチドフラグメントであって、1個又は2個のアミノ酸の置換、付加、又は欠失を有するもの。より好ましくは、ワクチン組成物は、本開示の配列表に列記した任意の配列を含む。非常に好ましくは、ワクチン組成物は、ペプチドPDL101(配列番号2)、PDL111(配列番号12)、及び/又はPDL114(配列番号15)を含む。
【0102】
本発明のペプチドの重要な特徴は、PBMC集団内で、癌及び/又は感染症に罹患した個体のAPC又は腫瘍/新生物細胞(標的細胞)上で、特定のペプチドを特異的に認識するINF-γ産生応答T細胞、即ち、細胞傷害性T細胞(cytotoxic T cells, CTL)を認識又は誘発する能力である。この活性は、個体からのPBMC、APC、又は腫瘍細胞にELISPOTアッセイを施すことにより容易に判定される。アッセイ前に、細胞を試験対象のペプチドに接触させることにより、アッセイ対象の細胞を刺激することが有利となり得る。好ましくは、ペプチドは、本明細書で用いたELISPOTアッセイにより判定される105個のPBMC当たり少なくとも20個の頻度でINF-γ産生T細胞を誘発又は認識することができる。更に好ましくは、頻度は、105個のPBMC当たり少なくとも30個である。
【0103】
ELISPOTアッセイは、PD-L1特異的T細胞応答をモニターする強力なツールとなる。本明細書の発見は、本発明のペプチドが発現され、癌細胞及び/又はPD-L1発現APC上のHLA分子と複合体化することを主に意味する。これにより、こうした癌細胞はCTLにより破壊しやすくなり、癌及び感染症と戦うためのPD-L1免疫化の潜在的有用性が強調される。腎細胞癌患者、黒色腫患者、及び乳癌患者からのPBMCにおけるHLA制限PD-L1由来ペプチドエピトープに対する自発的CTL応答の存在は、PD-L1免疫原性ペプチドの免疫療法の能力を示す。
【0104】
本発明の一実施形態において、本発明の免疫原性活性ペプチドフラグメントは、PD-L1を発現する癌細胞等の細胞を死滅させることが可能なPD-L1特異的T細胞を誘導することができる。特に、前記ペプチドフラグメントは、実施例1及び2において以下に説明したin vitroのコインキュベーション後、MDA-MB231細胞等の癌細胞を少なくとも10%溶解することが可能なPD-L1特異的T細胞を誘導可能であることが好ましい。
【0105】
起源
【0106】
ペプチドを得ることが可能なタンパク質は、タンパク質が発現される任意の動物種由来の任意のPD-L1にすることができる。好適な実施形態において、出発タンパク質は、ウサギ等の齧歯類及びヒト等の霊長類を含む哺乳動物種に由来する。選択されたタンパク質の配列に基づいて、本発明のペプチドは、上述した適切なサイズのペプチドが生じるタンパク質出発物質の任意の適切な化学的又は酵素的処理により誘導されるか、或いは当業者が精通する任意の従来のペプチド合成手順により合成することができる。最も好ましくは、PD-L1タンパク質、ヒトPD-L1であり、更に好ましくは配列番号1のヒトPD-L1である。
【0107】
個体
【0108】
本発明のワクチン組成物により治療すべき個体は、臨床状態を有する個体である。個体は、好ましくは哺乳動物種であり、最も好ましくはヒトである。個体は任意の年齢、即ち若年又は老年であってよく、男性又は女性であってよい。個体が有する臨床状態は、癌等の新生物疾患、或いは細胞内感染又はウイルス感染等の感染症、或いは自己免疫疾患となり得る。
【0109】
本発明の実施形態は、癌の治療、リスクの低減、安定化、又は予防のためのワクチンを提供する。他の実施形態において、本発明は、細胞内感染又はウイルス感染等の感染症に起因する疾患の治療、リスクの低減、安定化、又は予防のためのワクチンを提供する。更に他の実施形態において、本発明は、自己免疫疾患の治療、リスクの低減、安定化、又は予防のためのワクチン組成物を提供する。
【0110】
【0111】
本発明のワクチン組成物を使用して、臨床状態の予防、リスクの低減、又は治療を実施し得る。好ましくは、臨床状態は、PD-L1の発現に関連するか、或いはこれを特徴とする。PD-L1は、配列番号1において特定されるPD-L1、或いは、配列番号1と少なくとも70%の同一性を有するホモログとなり得る。本明細書では、PD-L1の発現レベル(発現はhnRNA、mRNA、前駆体タンパク質、及び完全に処理されたタンパク質等の発現)は、前記臨床状態を有していない個体と同一レベル以上になると理解される。
【0112】
本発明の好適な実施形態において、臨床状態は癌である。癌(悪性新生物)は、細胞群が制御されない増殖(正常な限度を超える増殖及び分裂)、浸潤(隣接組織への侵入及び破壊)、及び場合によって転移(リンパ又は血液を介した体内の他の位置への拡大)の性質を示す疾患クラスである。こうした癌の3つの悪性の性質は、自己限定的で浸潤や転移の無い良性腫瘍と癌を区別するものとなる。殆どの癌は腫瘍を形成するが、白血病等、形成しないものもある。本明細書で使用する「癌」という用語は、任意の癌、新生物疾患、及び前新生物疾患を含むものである。
【0113】
本発明のワクチンの投与により治療、管理、及び/又は予防し得る癌の例として挙げられる非限定的な癌の群には、以下が含まれる:結腸癌、乳癌、膵臓癌、卵巣癌、前立腺癌、繊維肉腫、粘液肉腫、脂肪肉腫、軟骨肉腫、骨原性肉腫、脊索腫、血管肉腫、内皮肉腫、リンパ管肉腫、リンパ管内皮肉腫、滑膜腫、中皮腫、ユーイング肉腫、平滑筋肉腫、横紋筋肉腫、扁平上皮癌、基底細胞癌、腺癌、汗腺癌、脂腺癌、乳頭状癌、乳頭状腺癌、嚢胞腺癌、髄様癌、気管支原性癌、腎細胞癌、肝細胞癌、胆管癌、絨毛癌、精上皮腫、胎生期癌、ウィルムス腫瘍、子宮頸癌、精巣腫瘍、肺癌、小細胞肺癌、膀胱癌、上皮癌、神経膠芽腫、神経鞘腫、頭蓋咽頭腫、シュワン腫、神経膠腫、星状細胞腫、髄芽腫、頭蓋咽頭腫、上衣腫、松果体腫、血管芽腫、聴神経腫、乏突起膠腫、髄膜腫、黒色腫、神経芽細胞腫、網膜芽細胞腫、白血病及びリンパ腫、急性リンパ性白血病及び急性骨髄性真性多血症、多発性骨髄腫、ワルデンシュトレームマクログロブリン血症、及び重鎖病、急性非リンパ性白血病、慢性リンパ球性白血病、慢性骨髄性白血病、ホジキン病、非ホジキンリンパ腫、直腸癌、泌尿器癌、子宮癌、口腔癌、皮膚癌、胃癌、脳腫瘍、肝臓癌、喉頭癌、食道癌、乳房腫瘍、小児期ヌル急性リンパ性白血病(ALL)、胸腺ALL、B細胞ALL、急性骨髄性白血病、骨髄単球性白血病、急性巨核球様白血病、バーキットリンパ腫、急性骨髄性白血病、慢性骨髄性白血病、及びT細胞白血病、小及び大非小細胞肺癌、急性顆粒球性白血病、胚細胞性腫瘍、子宮内膜癌、胃癌、頭頸部癌、慢性リンパ性白血病、有毛細胞白血病、及び甲状腺癌。
【0114】
好適な実施形態において、本発明によるワクチン組成物は、対象者における臨床応答を誘発することが可能であり、ここで、臨床応答は、安定疾患により特徴付けてよく、好適な実施形態において、臨床応答は、部分応答により特徴付けてよく、或いは好ましくは、臨床応答は、癌の完全寛解により特徴付けてもよい。好ましくは、癌は、黒色腫、乳癌、卵巣癌、肺癌、膵臓癌、血液癌(白血病等)、結腸及び腎細胞癌からなる群から選択され、更に好ましくは、黒色腫、腎細胞癌、及び乳癌からなる群から選択される。
【0115】
本発明の一態様において、ワクチン組成物は、個体における臨床応答を誘発することができる。一実施形態において、臨床応答は、安定疾患(更なる悪化又は進行が無いこと)により特徴付けてよく、好適な実施形態において、臨床応答は、部分応答により特徴付けてよく、或いは好ましくは、臨床応答は、癌又は感染症の完全寛解により特徴付けてもよい。臨床応答は、下記のように判定し得る。
【0116】
本発明の他の態様において、ワクチン組成物は、対象者における臨床応答を誘発することが可能であり、臨床応答は、最大の標的病変の最長直径の合計の減少により特徴付けされる。減少は、下記のように判定し得る。
【0117】
器官当たり最大5個まで、合計10個までの測定可能な全ての病変を、関連する全ての器官を代表して、標的病変として特定し、ベースラインにおいて記録及び測定すべきである。
・標的病変は、サイズ(最長直径を有する病変)と、正確な(画像化手法による又は臨床的な)反復測定についての適合性に基づいて選択すべきである。
・全標的病変の最長直径(LD)の合計を、ベースライン合計LDとして計算及び報告する。ベースライン合計LDは、対象の腫瘍を特徴づける基準として使用されることになる。
・他の全ての病変(又は疾患部位)は、非標的病変として特定し、ベースラインにおいて記録すべきである。これらの病変の測定は必要ではないが、それぞれの有無には、追跡検査終了まで注意すべきである。
【0118】
標的病変の評価
・完全応答(CR):全ての標的病変の消滅。
・部分応答(PR):ベースライン合計LDを基準として、標的病変のLDの合計の少なくとも30%の減少。
・進行性疾患(PD):治療開始以降に記録された最小の合計LDを基準として、標的病変のLDの合計の少なくとも20%の増加、又は1つ又は複数の新規の病変の出現。
・安定疾患(SD):治療開始以降、最小の合計LDを基準として、PRに該当する十分な縮小もPDに該当する十分な増加も存在しないこと。
【0119】
非標的病変の評価
・完全応答(CR):全ての非標的病変の消滅及び腫瘍マーカーレベルの正常化。
・部分応答/安定疾患(SD):1つ又は複数の非標的病変の持続及び/又は正常限度を上回る腫瘍マーカーレベルの維持。
・進行性疾患(PD):1つ又は複数の新規の病変の出現及び/又は既存の非標的病変の明白な進行。
【0120】
本発明の一実施形態において、任意の本明細書記載のタンパク質及び/又はポリペプチドを含むワクチン組成物は、最大の標的病変の最長直径の合計の減少を特徴とする臨床応答を対象者において誘発することができる。
【0121】
本発明のワクチン組成物は、配列番号1のPD-L1又は配列PD-L1に対して少なくとも70%の同一性を有するその機能的ホモログを発現する癌に対する免疫応答を誘発することができる。本発明のワクチン組成物は、ワクチン接種個体において、癌細胞、PD-L1発現APCに対して細胞傷害効果を有するエフェクターT細胞の産生を誘発すること、及び/又は、対象者における腫瘍間質中の抗原特異的T細胞の浸潤を誘導することができる。
【0122】
PBMC集団において免疫応答を誘発する能力に加えて、本発明のペプチドは、in situで、即ち、固形腫瘍組織内で、細胞溶解性免疫応答を誘発することができると考えられる。これは、例えば、HLA-ペプチド複合体を、例えば、多量体化して検出可能なレベルとしたものを提供し、こうした複合体を免疫組織化学染色に用いて、本発明の免疫原性活性ペプチドフラグメントと反応するCTLを腫瘍組織中で検出することにより実証し得る。したがって、本発明のペプチドの更に重要な特徴は、当該エピトープペプチドに反応するCTLの腫瘍組織中でのin situ検出が可能となることである。
【0123】
本発明のペプチドは、HLA分子に結合してHLA及びペプチドの複合体の細胞表面上での提示をもたらし、これにより複合体を細胞溶解性T細胞のエピトープ又は標的として機能させる能力に加えて、複合体に対する抗体の生産をもたらすB細胞応答及び/又は遅延型過敏症(DTH)反応等の他の種類の免疫応答を誘発し得ると考えられる。後者の種類の免疫応答は、本発明のペプチドの注射部位での発赤及び明白な硬化として定義される。
【0124】
本発明の目的は、配列番号1のPD-L1又は配列番号1に対して少なくとも70%の同一性を有するその機能的ホモログ、又は前記PD-L1又は前記機能的ホモログの連続配列を含む免疫原性活性ペプチドフラグメント、又は前記PD-L1又は前記ペプチドフラグメントをコードする核酸と、アジュバントとを含む、癌の予防、リスクの低減、又は治療のためのワクチン組成物を提供することである。
【0125】
癌併用療法
【0126】
本発明が癌の治療用のPD-L1又はその免疫原性活性ペプチドフラグメントを含むワクチン組成物に関する場合、本発明の実施形態において、場合によっては、本発明によるワクチン組成物による治療を、化学療法、放射線療法、免疫刺激物質による治療、遺伝子療法、抗体による治療、及び樹状細胞を用いた治療等、他の従来の癌治療と組み合わせることが適切となり得る。
【0127】
腫瘍細胞におけるPD-L1の発現の上昇は、免疫系の阻害につながるため、本発明により開示されたPD-L1に基づく免疫療法と細胞傷害性化学療法及び/又は他の抗癌免疫療法との組み合わせは、癌を治療する有効なアプローチとなる。これらの治療法は、本明細書において「第2の有効成分」とも呼ばれる。
【0128】
本発明のワクチン組成物と共に(連続的又は同時に)投与することに関連する化学療法剤の例には、限定では無いが、以下が含まれる:オールトランスレチノイン酸、アクチミド、アザシチジン、アザチオプリン、ブレオマイシン、カルボプラチン、カペシタビン、シスプラチン、クロラムブシル、シクロホスファミド、シタラビン、ダウノルビシン、ドセタキセル、ドキシフルリジン、ドキソルビシン、エピルビシン、エトポシド、フルダラビン、フルオロウラシル、ゲムシタビン、ヒドロキシ尿素、イダルビシン、イリノテカン、レナリドマイド、ロイコボリン、メクロレタミン、メルファラン、メルカプトプリン、メトトレキサート、ミトキサントロン、オキサリプラチン、パクリタキセル、ペメトレキセド、レブリミド、テモゾロミド、テニポシド、チオグアニン、バルルビシン、ビンブラスチン、ビンクリスチン、ビンデシン、及びビノレルビン。一実施形態において、本発明の組み合わせに用いる化学療法剤は、それ自体、異なる化学療法剤の組み合わせであってよい。適切な組み合わせには、FOLFOX及びIFLが含まれる。FOLFOXは、5-フルオロウラシル(5-FU)、ロイコボリン、及びオキサリプラチンを含む組み合わせである。IFL治療には、イリノテカン、5-FU、及びロイコボリンが含まれる。
【0129】
他の第2の有効成分は、腫瘍の治療において単独で、同時に、又は組み合わせて使用するキナーゼ阻害剤になり得る。適切なキナーゼ阻害剤には、抗腫瘍活性を有することが証明されているもの(ゲフィチニブ(イレッサ)及びエルロチニブ(タルセバ)等)が含まれ、これらをペプチドと組み合わせて使用することができる。腎細胞癌の治療に有効であることが証明されているリンゴ酸スニチニブ及びソラフェニブ等の受容体チロシンキナーゼ阻害剤も、第2の有効成分としての使用に適している。
【0130】
第2の有効成分の他の例は、免疫刺激物質、例えば、サイトカイン及び抗体である。サイトカイン等は、限定では無いが、以下からなる群から選択し得る:GM-CSF、I型IFN、インターロイキン21、インターロイキン2、インターロイキン12、及びインターロイキン15。抗体は、好ましくは、抗CD40又は抗CTLA-4抗体等の免疫刺激抗体である。免疫刺激物質は、免疫阻害細胞(例えば、調節性T細胞)又は因子を枯渇させることが可能な物質であってもよく、前記物質は、例えば、E3ユビキチンリガーゼとなり得る。E3ユビキチンリガーゼ(HECT、RING、及びUボックスタンパク質)は、免疫細胞機能の重要な分子制御因子として現れ、それぞれがタンパク質分解性の破壊のための特異的阻害分子を標的とすることで、感染中の免疫応答の調節に関与し得る。幾つかのHECT及びRING E3タンパク質も、現在では、免疫自己寛容の誘導及び維持に結び付けられている。c-Cbl、Cbl-b、GRAIL、Itch、及びNedd4は、それぞれT細胞成長因子の生産及び増殖を負に制御する。
【0131】
一実施形態において、PD-L1、上述したその機能的ホモログの何れか、又は上述した免疫原性活性ペプチドフラグメントの何れかを含む本発明のワクチン組成物は、免疫刺激物質等の第2の有効成分と組み合わせて投与する。免疫刺激物質は、好ましくは、IL-21又はIL-2等のインターロイキン又は化学療法剤である。
【0132】
感染症及び自己免疫疾患
【0133】
本発明は、更に、PD-L1又は上述した免疫原性活性ペプチドフラグメントの何れかを含む、臨床状態を治療するためのワクチン組成物に関し、臨床状態は、感染又は自己免疫疾患となり得る。
【0134】
本明細書で使用する感染という用語は、炎症等の免疫応答を生じる任意の種類の臨床状態に関するため、感染症、慢性感染、自己免疫状態、及びアレルギー性炎症が含まれる。したがって、感染症、慢性感染、自己免疫状態、及びアレルギー性炎症等の感染は、全て本発明に関連する臨床状態であり、以下、順に論ずる。
【0135】
特に、感染又は自己免疫疾患は、炎症を伴う疾患となり得る。炎症は、病原体、損傷細胞、又は刺激物等の有害な刺激に対する血管組織の複雑な生物応答である。炎症は、傷害性の刺激を除去すると共に組織の治癒過程を開始するための、生物による防御的試みである。炎症は、急性又は慢性に分類することができる。急性炎症は、有害な刺激に対する身体の最初の応答であり、血液から損傷組織への血漿及び白血球の移動の増加により達成される。生化学的事象のカスケードは、炎症反応を伝播及び進行させ、これには損傷組織内の局所血管系、免疫系、及び種々の細胞が関与する。慢性炎症として知られる長期的な炎症は、炎症部位に存在する細胞型の漸進的な交替につながり、炎症過程により組織の破壊と治癒とが同時に起こることを特徴とする。何れの場合も、PD-L1がAPC等の免疫系の細胞により発現されるため、感染及び炎症は、本発明のワクチン組成物の投与により治療、予防、或いはリスクを低減し得る臨床状態となる。ワクチン組成物は、好ましくは、PD-L1又は上述したその免疫原性活性ペプチドフラグメントの何れかを含む。
【0136】
本発明に関連する炎症に伴う障害の例には、限定では無いが以下が含まれる:アレルギー性炎症、喘息、自己免疫疾患、慢性炎症、慢性前立腺炎、糸球体腎炎、過敏症、感染症、炎症性腸疾患、骨盤内炎症性疾患、再灌流障害、関節リウマチ、移植片拒絶、及び脈管炎。
【0137】
慢性感染及び炎症
【0138】
一実施形態において、臨床状態は、慢性炎症である。特に、本発明のワクチン組成物による治療対象の自己免疫疾患は、慢性炎症となり得る。慢性炎症は、同時に発生する活動性の炎症、組織破壊、及び修復の試みを特徴とする病態である。慢性炎症組織は、単核免疫細胞(単球、マクロファージ、リンパ球、及び形質細胞)の浸潤と、組織破壊と、血管形成及び線維形成を含む治癒の試みとを特徴とする。
【0139】
急性炎症では、刺激の除去により、単球(適切な活性化の下でマクロファージになる)の炎症組織へのリクルートメントが停止され、既存のマクロファージがリンパ管を介して炎症組織から退出する。しかしながら、慢性炎症組織では、刺激が持続性であるため、単球のリクルートメントが維持され、既存のマクロファージが所定の位置に繋ぎ止められ、マクロファージの増殖が刺激される(特に、アテローム斑内)。
【0140】
本発明の目的は、配列番号1のPD-L1又は配列番号1に対して少なくとも70%の同一性を有するその機能的ホモログ、又は前記PD-L1又は前記機能的ホモログの連続配列を含む免疫原性活性ペプチドフラグメント、例えば、上述した免疫原性活性ペプチドフラグメントの何れか、又は前記PD-L1又は前記ペプチドフラグメントをコードする核酸と、アジュバントとを含む、自己免疫疾患の予防、リスクの低減、又は治療、例えば、慢性炎症の治療のためのワクチン組成物を提供することである。
【0141】
感染症
【0142】
本発明のワクチン組成物を使用して、臨床状態の予防、リスクの低減、又は治療を実施し得る。本発明の好適な実施形態において、臨床状態は、感染症である。感染症は、感染症に罹患した個体においてPD-L1の発現増加を誘導可能な、細菌、ウイルス、寄生虫、及び/又は真菌等の任意の感染因子により促進される場合があり、好ましくは、感染症は、慢性疾患であるか、慢性疾患となるリスクを有する。したがって、本発明の一態様は、PD-L1又は上述した免疫原性活性ペプチドフラグメントの何れかを含む、感染性因子に起因する疾患の治療、軽減(重症度の低下)、安定化、及び/又は予防のためのワクチン組成物を提供することである。
【0143】
感染症は、ウイルスに起因する場合があり、治療において本発明のワクチン組成物を投与し得るウイルス性疾患には、限定では無いが以下のウイルス性疾患が含まれる:HIV、AIDS、AIDS関連症候群、水疱瘡(水痘)、感冒、サイトメガロウイルス感染、コロラドダニ熱、デング熱、エボラ出血熱、手足口病、肝炎、単純ヘルペス、帯状疱疹、HPV(ヒトパピローマウイルス)、インフルエンザ(Flu)、ラッサ熱、麻疹、マールブルグ出血熱、伝染性単核球症、流行性耳下腺炎、ノロウイルス、灰白髄炎、進行性多巣性白質脳症、狂犬病、風疹、SARS、天然痘(痘瘡)、ウイルス性脳炎、ウイルス性胃腸炎、ウイルス性髄膜炎、ウイルス性肺炎、西ナイル病、及び黄熱病。好ましくは、ワクチン組成物は、HIV/AIDS及び癌を生じ得るウイルス感染に罹患した個体に投与する。ヒト癌に関連する主なウイルスは、ヒトパピローマウイルス、B型肝炎及びC型肝炎ウイルス、エプスタイン-バーウイルス、及びヒトTリンパ球向性ウイルスであり、したがって、本発明の目的は、これらのウイルス感染の治療又は治療の一部として投与されることである。更に好ましくは、感染症は、HIV及び肝炎ウイルスからなる群から選択されるウイルスによる感染となり得る。
【0144】
本発明に関連する細菌感染の例には、限定では無いが以下が含まれる:炭疽病、細菌性髄膜炎、ボツリヌス中毒、ブルセラ症、カンピロバクター症、ネコ引っ掻き病、コレラ、ジフテリア、発疹チフス、淋病、膿痂疹、レジオネラ症、癩病(ハンセン病)、レプトスピラ症、リステリア症、ライム病、類鼻疽、リウマチ熱、MRSA感染、ノカルジア症、百日咳(pertussis/whooping cough)、ペスト、肺炎球菌性肺炎、オウム病、Q熱、ロッキー山紅斑熱(RMSF)、サルモネラ症、猩紅熱、細菌性赤痢、梅毒、破傷風、トラコーマ、結核、野兎病、チフス熱、チフス、及び尿路感染。本発明の目的は、細菌感染の治療及び/又は予防及び/又はリスクの低減のためのワクチンを提供することである。
【0145】
本発明の他の態様は、以下の治療及び/又は予防及び/又はリスクの低減のためのワクチン組成物を提供することである:寄生虫感染症、例として、限定では無いが、アフリカトリパソーマ症、アメーバ症、回虫症、バベシア症、シャガス病、肝吸虫症、クリプトスポリジウム症、嚢虫症、裂頭条虫症、メジナ虫症、エキノコックス症、蟯虫症、肝蛭症、肥大吸虫症、フィラリア症、自由生活性アメーバ感染、ジアルジア症、顎口虫症、模様条虫症、イソスポーラ症、カラアザール、リーシュマニア症、マラリア、メタゴニムス症、ハエ幼虫症、オンコセルカ症、シラミ寄生症、蟯虫感染、疥癬、住血吸虫症、条虫症、トキソカラ症、トキソプラズマ症、トリコネローシス、旋毛虫症、鞭虫症、トリコモナス症、及びトリパソノーマ症と、真菌感染症、例として、限定では無いが、アスペルギルス症、ブラストミセス症、カンジダ症、コクシジオイデス症、クリプトコックス症、ヒストプラスマ症、足白癬と、プリオン感染症、例として、限定では無いが、伝染性海綿状脳症、ウシ海綿状脳症、クロイツフェルト-ヤコブ病、クールー致死性家族性不眠症、及びアルパース症候群。したがって、本発明の目的は、これらの寄生虫、真菌、又はプリオンによる感染の治療又は治療の一部として投与されることである。
【0146】
1.好適な実施形態において、本発明のワクチン組成物は、細胞内感染、好ましくは、L. monocytogenes及びplasmodiumからなる群から選択される病原体による細胞内感染である感染症の治療用である。
【0147】
感染症併用療法
【0148】
更に、本発明によるワクチン組成物の投与による任意の感染症の治療を、他の(第2の)有効成分と併せて、任意の順序で連続して又は同時に行うこと、或いは、抗生物質治療、化学療法、免疫刺激物質による治療、樹状細胞を用いた治療、抗ウイルス剤、抗寄生虫剤等の他の治療と組み合わせて実施し得ることが定められる。
【0149】
本発明のワクチンと組み合わせて感染症の治療に使用し得る第2の有効成分の例には、限定では無いが、抗生物質が含まれる。本明細書において抗生物質という用語は、抗細菌、抗真菌、抗ウイルス、及び/又は抗寄生虫活性を有する物質を示し、本発明に関連する例には、限定では無いが、以下が含まれる:アミカシン、ゲンタマイシン、カナマイシン、ネオマイシン、ネチルマイシン、パロモマイシン、ストレプトマイシン、トブラマイシン、エルタペネム、イミペネム、メロペネム、クロラムフェニコール、フルオロキノロン、シプロフロキサシン、ガチフロキサシン、ゲミフロキサシン、グレパフロキサシン、レボフロキサシン、ロメフロキサシン、モキシフロキサシン、ノルフロキサシン、オフロキサシン、スパルフロキサシン、トロバフロキサシン、グリコペプチド、バンコマイシン、リンコサミド、クリンダマイシン、マクロライド/ケトライド、アジスロマイシン、クラリスロマイシン、ジリスロマイシン、エリスロマイシン、セファドロキシル、セファゾリン、セファレキシン、セファロチン、セファピリン、セフラジン、セファクロル、セファマンドル、セフォニシド、セフォテタン、セフォキシチン、セフプロジル、セフロキシム、ロラカルベフ、セフジニル、セフジトレン、セフィキシム、セフォペラゾン、セフォタキシム、セフポドキシム、セフタジジム、セフチブテン、セフチゾキシム、セフトリアキソン、セフェピム、モノバクタム、アズトレオナム、ニトロイミダゾール、メトロニダゾール、オキサゾリジノン、リネゾリド、ペニシリン、アモキシシリン、アモキシシリン/クラブランネート、アンピシリン、スルバクタム、バカンピシリン、カルベニシリン、クロキサシリン、ジクロキサシリン、メチシリン、メズロシリン、ナフシリン、オキサシリン、ペニシリンG、ペニシリンV、ピペラシリン、ピペラシリン/タゾバクタム、チカルシリン、チカルシリン/クラブラネート、ストレプトグラミン、キヌプリスチン、ダルホプリスチン、スルホンアミド/スルファメトキサゾール、トリメトプリム、テトラサイクリン、デメクロサイクリン、ドキシサイクリン、ミノサイクリン、テトラサイクリン、アゾール抗真菌剤クロトリマゾール、フルコナゾール、イトラコナゾール、ケトコナゾール、ミコナゾール、ボリコナゾール、アンホテリシンB、ナイスタチン、エキノカンジン、カスポファンギン、ミカファンギン、シクロピロックス、フルシトシン、グリセオフルビン、及びテルビナフィン。更に関連するものは、ビダラビン、アシクロビル、ガンシクロビル、及びバルサイト(バルガンシクロビル)等の抗ウイルス薬、ヌクレオシド類似体逆転写酵素阻害剤(NRTI):AZT(ジドブジン)、ddI(ジダノシン)、ddC(ザルシタビン)、d4T(スタブジン)、3TC(ラミブジン)、非ヌクレオシド逆転写酵素阻害剤(NNRTI):ネビラピン、デラビルジン、プロテアーゼ阻害剤:サキナビル、リトナビル、インジナビル、ネルフィナビル、リバビリン、アマンタジン/リマンタジン、リレンザ及びタミフル、プレコナリル、インターフェロンである。
【0150】
一実施形態において、本発明は、少なくとも1つの抗生物質と組み合わせた、配列番号1のPD-L1、上述したその機能的ホモログの何れか、又は上述したその免疫原性活性ペプチドフラグメントの何れかを含む、感染症治療のためのワクチン組成物に関する。好ましくは、本発明のワクチン組成物は、慢性感染、例えば、HIVの治療に使用し、したがって、抗ウイルス薬等、上述した抗生物質の何れかと組み合わせて使用する。
【0151】
自己免疫疾患
【0152】
自己免疫疾患は、生物がその構成要素(サブ分子レベルに至る)を自己として認識できず、その結果、生物自体の細胞及び組織に対する免疫応答が生じる場合に発生する。こうした異常な免疫応答により生じる任意の疾患は、自己免疫疾患と呼ばれ、本発明に関連する。
【0153】
本発明の目的は、配列番号1のPD-L1又は配列番号1に対して少なくとも70%の同一性を有するその機能的ホモログ、又は上述したPD-L1の任意の免疫原性活性ペプチドフラグメント、又は前記PD-L1又は前記ペプチドフラグメントをコードする核酸と、アジュバントとを含む、自己免疫疾患の予防、リスクの低減、又は治療のためのワクチン組成物を提供することである。前記自己免疫疾患は、好ましくは、セリアック病、真性糖尿病1型(IDDM)、全身性エリテマトーデス(SLE)、シェーグレン症候群、多発性硬化症(MS)、橋本甲状腺炎、グレーブス病、特発性血小板減少性紫斑病、及び関節リウマチ(RA)からなる群から選択され得る。好ましくは、自己免疫疾患は、糖尿病、SLE、及び硬化症からなる群から選択される。
【0154】
自己免疫疾患併用療法
【0155】
自己免疫疾患に対する現在の治療は、通常、免疫抑制治療、抗炎症治療、又は対症療法となる。橋本甲状腺炎又は真性糖尿病1型におけるホルモン置換等の非免疫療法による自己攻撃的応答の治療結果がある。食餌操作により、セリアック病の重症度が制限される。ステロイド又はNSAID治療により、多数の疾患の炎症症状が制限される。免疫グロブリンの静脈内調製物(IVIG)は、慢性炎症性脱髄性多発性ニューロパシ(CIDP)及びギラン・バレー症候群(GBS)に使用される。TNFαアンタゴニストエタネルセプト等、更に特異的な免疫調節療法は、RA治療に有用であることが証明されている。これらの免疫療法は、感染感受性等の悪影響のリスク増加を伴う場合がある。
【0156】
蠕虫療法は、こうした結果に基づいて開発され、個体への特定の腸管寄生線虫(蠕虫)の接種を伴う。現在、2つの密接に関連する治療として、一般に鉤虫として知られるNecator americanus又は一般にブタ鞭虫卵として知られるTrichuris Suis Ovaの何れかの接種が利用可能である。このアプローチが、クローン病、潰瘍性大腸炎、喘息、アレルギー、多発性硬化症、及び慢性炎症性障害を含む様々な自己免疫障害を治療する上で非常に有効であることを実証する研究が公表されている。
【0157】
一実施形態において、本明細書に開示したワクチンは、自己免疫疾患に対する上述した薬物及び治療の何れか等の第2の有効成分と組み合わせて使用される。
【0158】
アレルギー性炎症
【0159】
アレルギーは、アトピーと呼ばれる場合も多い免疫系の障害である。アレルギー反応は、アレルゲンとして知られる環境物質に対して生じ、こうした反応は、後天的で、予測可能であり、急速である。厳密には、アレルギーは、4種類の過敏症の形態の1つであり、I型(又は即時型)過敏症と呼ばれる。IgEとして知られる抗体型による、肥満細胞及び好塩基球と呼ばれる一定の白血球の過剰な活性化を特徴とし、極度の炎症反応を引き起こす。一般的なアレルギー反応には、湿疹と、蕁麻疹と、枯草熱と、喘息と、食物アレルギーと、ススメバチ及びミツバチ等の刺咬昆虫の毒に対する反応とが含まれる。
【0160】
アレルギー性炎症は、アレルギー性喘息、アトピー性皮膚炎、アレルギー性鼻炎、及び幾つかの眼アレルギー性疾患を含む幾つかの障害又は病状の重要な病態生理学的特徴である。
【0161】
本発明の目的は、配列番号1のPD-L1又は配列番号1に対して少なくとも70%の同一性を有するその機能的ホモログ、又は上述したPD-L1の免疫原性活性ペプチドフラグメントの何れか、又はPD-L1又は前記ペプチドフラグメントをコードする核酸と、アジュバントとを含む、アレルギー性炎症の予防、リスクの低減、又は治療のためのワクチン組成物を提供することである。
【0162】
アレルギー性炎症併用療法
【0163】
アレルギー性炎症の処置、薬物療法、及び免疫療法には以下の2種類の治療が利用できる:薬物療法及び免疫療法。
【0164】
薬物療法は、アレルギーメディエータの作用を遮断するか、或いは細胞の活性化及び脱顆粒プロセスを防止する拮抗薬の使用である。拮抗薬には、抗ヒスタミン薬、コルチゾン、デキサメタゾン、ヒドロコルチゾン、エピネフリン(アドレナリン)、テオフィリン、クロモリンナトリウム、及びモンテルカスト(シングレア)又はザフィルルカスト(アコレート)等の抗ロイコトリエンが含まれ、抗コリン薬、鬱血除去薬、肥満細胞安定剤、及び好酸球走化性を低下させると考えられる他の化合物も一般に使用される。
【0165】
免疫療法は、対象のアレルゲンの用量を漸進的に大きくして、段階的に個体のワクチン接種を行う、脱感作又は減感作治療である。免疫療法の第2の形態には、モノクローナル抗IgE抗体の静脈内注射が含まれる。第3の形態である舌下免疫療法は、食物及び常在細菌等の非病原性抗原に対する経口免疫寛容を利用した経口投与療法である。
【0166】
一実施形態において、本明細書に開示したワクチンは、アレルギー性炎症に対する上述した薬物及び治療の何れか等の第2の有効成分と組み合わせて使用される。
【0167】
医薬組成物
【0168】
本発明は、個体におけるPD-L1の発現に関連する臨床的障害の治療、リスクの低減、及び/又は予防が可能な医薬組成物に関し、換言すれば、ワクチン及び医薬組成物という用語は、本明細書において相互に交換可能に用いられる。本発明のワクチン/医薬組成物は、タンパク質、ポリペプチド、及び/又は核酸分子等の抗原を含む「伝統的な」ワクチン組成物となり得る。また、個体に由来し、その後に処理された修飾細胞等の細胞を含む組成物、又は抗体又はTCR等の複合体分子を含む組成物の形態となり得る。
【0169】
一般に、ワクチンは、個体において免疫応答を誘導可能な物質又は組成物である。組成物は、以下の1つ又は複数を含むことができる:抗原等の「有効成分」(例えば、タンパク質、ポリペプチド、ペプチド、及び核酸等)、要素として特に1つ又は複数の抗原を含む核酸構築物、細胞(例えば、養子移入のための負荷APC、T細胞)、複合体分子(抗体、TCR、及びMHC複合体等)、キャリア、アジュバント、及び医薬キャリア。以下に本発明によるワクチン組成物の様々な成分を更に詳細に開示する。
【0170】
本発明のワクチン組成物は、(PD-L1の発現につながる)癌及び/又は感染に罹患した個体に投与した際に、配列番号1のPD-L1又は配列番号1に対して少なくとも70%の同一性を有するその機能的ホモログを発現する癌、DC、又はAPCに対する免疫応答を誘発することができる。好適な実施形態において、臨床状態は癌である。本発明のワクチン組成物は、ワクチン接種した個体において、PD-L1を発現する癌細胞、APC、及びDCに対する細胞傷害効果を有するエフェクターT細胞の産生を誘発すること、及び/又は対象者における腫瘍間質中の抗原特異的T細胞の浸潤を誘導することができる。
【0171】
抗原及び他の有効成分
【0172】
タンパク質/ポリペプチドに基づくワクチン組成物
【0173】
本発明のペプチドは、高い親和性でMHCと結合し、MHCに提示された状態で、抗原として使用する準備ができている。好ましくは、本発明のワクチン組成物は、以下の1つ又は複数を含む:PD-L1(配列番号1)、これに由来する免疫原性活性ペプチドフラグメント、完全長及び不完全長PD-L1の機能的ホモログ、特に上述したフラグメントの何れか。更に好ましくは、ワクチン組成物は、本開示の配列表に列記した配列の何れかを含む。非常に好ましくは、ワクチン組成物は、ペプチドPDL101(配列番号2)、PDL111(配列番号12)、及び/又はPDL114(配列番号15)を含む。
【0174】
本発明のワクチン組成物中の抗原の選択は、当業者により決定可能なパラメータに依存することになる。上述したように、本発明の様々なペプチドのそれぞれは、特定のHLA分子により細胞表面上に提示される。このようにして、治療対象者をHLA表現型に関して分類する場合には、その特定のHLA分子に結合することが知られているペプチドを選択する。或いは、目的の抗原を、所与の集団中の様々なHLA表現型の保有率に基づいて選択する。一例として、HLA-A2は、コーカサス人種の集団において最も保有率の高い表現型であるため、HLA-A2に結合するペプチドを含む組成物は、その集団の大部分において活性を有することになる。更に、本発明の抗原/ペプチドは、表2に記載のアンカー残基モチーフにより修飾し、特定のHLA分子との結合を強化し得る。
【0175】
本発明の組成物は、標的集団の更に大きな部分を対象とするために、それぞれ異なるHLA分子と特異的に相互作用する2つ以上のPD-L1由来ペプチドの組み合わせを含んでもよい。したがって、例として、医薬組成物は、HLA-A分子によって制限されるペプチドと、HLA-B分子によって制限されるペプチドとの組み合わせを含んでもよく、例えば、HLA-A2及びHLA-B35等のように、標的集団中のHLA表現型の保有率に対応するHLA-A及びHLA-B分子を含んでもよい。加えて、組成物は、HLA-C分子により制限されるペプチドを含んでもよい。
【0176】
ペプチドに基づくワクチンの場合、エピトープは、宿主抗原提示細胞による抗原の取り込み及び処理から独立して、外因性負荷による提示を可能にする「MHC準備完了」形態で投与することができる。本発明のペプチドは、短い「MHC準備完了」形態と、プロテアソームによる処理を必要とするため、複数の腫瘍抗原を標的とすることが可能な更に複雑なワクチン組成物を提供する、より長い形態の両方のペプチドを含む。より多くの異なるHLA群がワクチンの標的とされるほど、ワクチンが多様な集団で機能する可能性が高くなる。
【0177】
本発明は、好適な実施形態において、配列番号1のPD-L1又は配列番号1に対して少なくとも70%の同一性を有するその機能的ホモログ、又は前記PD-L1又は前記機能的ホモログの連続配列を含む免疫原性活性ペプチドフラグメント、又は前記PD-L1又は前記ペプチドフラグメントをコードする核酸を、アジュバントと組み合わせて含む、医薬として使用するワクチン組成物に関する。ワクチン組成物は、個体における臨床状態を治療、予防、又は関連するリスクを低減するために投与し得る。
【0178】
多重エピトープワクチン組成物
【0179】
本発明は、更に、高免疫原性多重エピトープワクチンに関する。好ましくは、こうしたワクチンは、下記の他の適切なペプチド及び/又はアジュバントと任意に組み合わせた最適なPD-L1由来ペプチドの同時送達を促進するように設計するべきである。本発明は、下記のPD-L1及び/又はアジュバントに属さない、或いはこれらに由来する他のタンパク質又はペプチドフラグメントと任意に組み合わせたPD-L1由来ペプチドを含む、こうした多重エピトープワクチンを含む。より複雑な組成物を有するワクチンの開発を推し進める重要な要因は、例えば、慎重に選択したCTL及びTh細胞エピトープの集合を含む或いはコードするワクチンを設計することで、複数の腫瘍抗原を標的にしたいという要望である。したがって、本発明は、一態様において、クラスI及びクラスII制限PD-L1エピトープを共に含むワクチン組成物に関する。
【0180】
したがって、本発明のペプチドは、短い「MHC準備完了」形態(クラスI制限)と、プロテアソームによる処理を必要とするより長い形態(クラスII制限)との両方のペプチドを含む。したがって、本発明による組成物は、以下に定めるクラスI制限エピトープ及び/又はクラスII制限エピトープを含む多重エピトープワクチンとして提供し得る。
【0181】
核酸に基づくワクチン組成物
【0182】
本発明によるワクチン組成物は、PD-L1又はその免疫原性活性ペプチドフラグメント、特に上述したフラグメントの何れかをコードする核酸を含み得る。したがって、前記核酸は、上述したタンパク質及びペプチドフラグメントの何れかをコードし得る。核酸は、例えば、DNA、RNA、LNA、HNA、PNAとしてよく、好ましくは、核酸は、DNA又はRNAである。
【0183】
本発明の核酸は、発現ベクター等、任意の適切なベクター内に含めることができる。多数のベクターが利用可能であり、当業者は特定の目的に有用なベクターを選択可能となろう。ベクターは、例えば、プラスミド、コスミド、ウイルス粒子、又は人工染色体の形態にし得る。適切な核酸配列は、様々な手順によりベクターに挿入してよく、例えば、DNAは、当該技術分野において周知の手法を用いて適切な制限エンドヌクレアーゼ部位に挿入し得る。本発明による核酸配列とは別に、ベクターは、1つ又は複数のシグナル配列、複製起点、1つ又は複数のマーカー遺伝子、エンハンサー要素、プロモーター、及び転写終止配列を更に含み得る。ベクターは、更に、エンハンサー、ポリAテール、リンカー、ポリリンカー、操作リンカー、多重クローニング部位(MCS)、終止コドン、内部リボゾーム侵入部位(IRES)、及び組み込みのための宿主相同配列、又は他の規定要素等の付加的な配列を含み得る。核酸構築物の操作方法は、当該技術分野において周知である(例えば、Molecular Cloning: A Laboratory Manual, Sambrook et al., eds., Cold Spring Harbor Laboratory, 2nd Edition, Cold Spring Harbor, N.Y., 1989参照)。ベクターは、好ましくは、適切な細胞において、その発現を指揮する調節核酸配列に対して適切に動作可能に連結された核酸を含む発現ベクターである。本発明の範囲において、前記調節核酸配列は、一般に、哺乳動物細胞、好ましくはヒト細胞、更に好ましくは抗原提示細胞内での発現を指揮できるべきである。
【0184】
好適な一実施形態において、ベクターは、ウイルスベクターである。ベクターは、弱毒化細菌ベクター等の細菌ベクターであってもよい。弱毒化細菌ベクターは、感染及び持続部位での持続的な粘膜免疫応答を誘導するために使用し得る。異なる組換え細菌をベクターとして使用し得る。例えば、細菌ベクターは、Salmonella、Lactococcus、及びListeriaからなる群から選択し得る。一般に、異種抗原HPV16 L1又はE7に対する免疫の誘導は、マウスにおける強いCTL誘導及び腫瘍退縮により示すことができる。ベクターは、T細胞刺激性ポリペプチドをコードする核酸を更に含み得る。
【0185】
負荷APC
【0186】
有用な実施形態において、癌疾患に対して指向される免疫原性応答は、個体からの抗原提示細胞(APC)上にMHCクラスI又はクラスII分子を負荷すること、個体からPBMCを単離し、当該細胞をペプチドと共にインキュベートした後で注射により個体に細胞を戻すこと、又は個体から前駆体APCを単離し、サイトカイン及び抗原を用いて当該細胞をプロフェッショナルAPCに分化させた後で注射により個体に細胞を戻すことの何れかにより本発明のペプチドを投与することで誘発する。
【0187】
したがって、本発明の一態様は、PD-L1又は上述したその免疫原性活性ペプチドフラグメントの何れか、又は前記PD-L1又は前記免疫原性活性ペプチドフラグメントをコードする核酸を含む抗原提示細胞を含むワクチン組成物を提供することである。抗原提示細胞は、T細胞に対して抗原を提示可能な任意の細胞にし得る。好適な抗原提示細胞は、樹状細胞である。樹状細胞(DC)は、任意の適切なプロトコル、例えば、本明細書において以下に記載したプロトコルによる治療手順において調製及び使用し得る。異なるHLA型及び異なる疾患を有する個体で使用するために当該プロトコルを採用し得ることは当業者に認識されよう。
【0188】
樹状細胞(DC)は、50μg/mlのHLA制限ペプチド(GMP品質で合成)により1時間に亘り37℃でパルスしてよく、ペプチド及び5×106細胞を1日目及び14日目、その後に4週間毎に皮下投与し、5回のワクチン接種後、付加的な白血球除去を行う。臨床での使用のためのDCの生成及び品質管理は、基本的にNicolette et al., (2007)の記載のように実施することができる。
【0189】
したがって、本発明の一実施形態において、PD-L1の発現を特徴とする、好ましくは癌又は感染である臨床状態を有する個体を治療する方法は、ex vivoで個体の抗原提示細胞(APC)に前記ペプチドを提示し、その後、このように処置したAPCを再び個体に注射することによりペプチドを投与するものとなる。これを行う方法は、少なくとも他に2つ存在する。一方の代替方法は、個体からAPCを単離し、MHCクラスI分子をペプチドによりインキュベート(負荷)することである。MHCクラスI分子を負荷するとは、ペプチドに特異的なMHCクラスI分子を有するAPCがペプチドと結合し、これによりペプチドをT細胞に提示できるように、APCをペプチドと共にインキュベートすることを意味する。その後、当該APCを個体に再注射する。他の方法は、樹状細胞生物学の分野での最近の発見に依存する。この場合、(樹状細胞前駆体である)単球を個体から単離し、サイトカイン及び抗原の使用によりin vitroでプロフェッショナルAPC(又は樹状細胞)に分化させる。その後、in vitroで生成されたDCをペプチドによりパルスし、個体に注射する。
【0190】
養子免疫療法/養子移入
【0191】
本発明の重要な態様は、in vitroでのPD-L1特異的T細胞の培養と、これらの個体への養子移入とに関する。養子移入は、既に特異的免疫応答を生成可能な実際の免疫系の成分を、医師が個体に直接移入することを意味する。
【0192】
本発明の目的の1つは、例えば、養子移入に有用となり得るPD-L1特異的T細胞を提供することである。PD-L1ペプチド/MHCクラスI又はPD-L1ペプチド/MHCクラスII複合体に特異的に結合可能なT細胞受容体を含む単離T細胞を個体に養子移入することが可能であり、前記T細胞は、好ましくは、in vitroで拡大したT細胞であり、PD-L1ペプチドは、上述したPD-L1ペプチドの何れかになり得る。in vitroでT細胞を拡大する方法は当業者に周知である。本発明は、更に、MHC制限PD-L1ペプチド複合体に特異的に結合可能なT細胞受容体を含むT細胞を、癌疾患に罹患したヒト等の個体に投与することを含む方法に関し、PD-L1由来ペプチドは、上述したPD-L1ペプチドの何れかになり得る。本発明は、更に、癌又は感染を治療する医薬の調製のための、PD-L1又はそのペプチドフラグメントに特異的に結合可能なT細胞受容体を含むT細胞の使用に関する。自家T細胞の移入は、基本的にWalter et al., (1995)の記載のように実施することができる。
【0193】
TCR移入
【0194】
更に他の実施形態において、こうしたT細胞を養子移入前に照射して、個体中の増殖を制御することができる。TCR遺伝子移入によりT細胞の特異性を遺伝子操作することができる(Engels et al., 2007)。これにより、PD-L1ペプチド特異性を有するT細胞を個体に移入することが可能となる。一般に、養子免疫療法のためのT細胞の使用が魅力的であるのは、腫瘍又はウイルスの存在しない環境でのT細胞の拡大、及び注入前のT細胞機能の解析が可能となるためである。養子移入におけるTCR遺伝子改変T細胞(異種TCRの発現を指揮する発現構築物により形質転換されたT細胞等)の適用は、T細胞株の移入と比較して幾つかの利点を有する:(i)再指向されたT細胞の生成を一般に利用可能である。(ii)高親和性又は非常に高親和性のTCRを選択又は作成し、T細胞の操作に使用できる。(iii)安定化されたTCRの良好な表面発現を可能にするコドン最適化又はマウス化TCRを使用して、高結合活性T細胞を生成することができる。T細胞受容体(TCR)遺伝子移入によるT細胞特異性の遺伝子操作は、基本的にMorgan et al., (2006)の記載のように実施することができる。
【0195】
TCRトランスフェクション
【0196】
既知の抗腫瘍反応性を有するTCRを、初代ヒトTリンパ球に遺伝的に導入することができる。腫瘍特異的CTLクローンからのTCRのα及びβ鎖をコードする遺伝子は、初代T細胞にトランスフェクトし、これにより腫瘍抗原に対する特異性を有するT細胞を再プログラミングすることができる。TCR RNAは、エレクトロポレーションによりPBMCにトランスフェクトする(Schaft et al., 2006)。或いは、レトロウイルスベクターを用いたTCR遺伝子移入により、T細胞に新たな特異性を提供することができる(Morgan et al., 2006)。しかしながら、レトロウイルスベクターからのプロウイルスは、トランスフェクトした細胞のゲノム内に無作為に組み込まれ、その後、細胞増殖を妨げる場合がある。RNAはトランスフェクトされた細胞中に一時的にのみ存在し、ゲノム内で組込みできないため、TCRコードRNAによるT細胞のエレクトロポレーションによりこの欠点が克服される(Schaft et al., 2006)。更に、細胞のトランスフェクションは、研究室で日常的に使用されている。
【0197】
アジュバント及びキャリア
【0198】
本発明によるワクチン組成物は、好ましくは、アジュバント及び/又はキャリアを含む。有用なアジュバント及びキャリアの例を以下に示す。したがって、配列番号1のPD-L1、その機能的ホモログ、又はその免疫原性活性ペプチドフラグメントは、本発明の組成物において、アジュバント及び/又はキャリアに関連させ得る。
【0199】
アジュバントは、ワクチン組成物との混合によりPD-L1又はそのペプチドフラグメントに対する免疫応答を増加させる、或いは他の形で修飾する任意の物質であり、以下を更に参照されたい。キャリアは、PD-L1又はそのペプチドフラグメントに結合することが可能であり、特に本発明のペプチドの提示を支援する足場構造であり、例えば、ポリペプチド又は多糖である。
【0200】
本発明のペプチドの多くは、比較的小さな分子であるため、本明細書に記載の組成物において、ペプチドをアジュバント及び/又はキャリア等の様々な物質と組み合わせて、ワクチン、免疫原性組成物等を生成する必要が生じ得る。広義のアジュバントは、免疫応答を促進する物質である。アジュバントについての一般的な考察は、Goding, Monoclonal Antibodies: Principles & Practice (2nd edition, 1986)の61乃至63頁に記載されている。Godingは、目的の抗原が低分子量であるか免疫原性が低い場合、免疫原性キャリアとの結合が推奨されると記述している。こうしたキャリア分子の例には、キーホールリンペットヘモシアニン、ウシ血清アルブミン、オボアルブミン、及びニワトリ免疫グロブリンが含まれる。様々なサポニン抽出物も、免疫原性組成物中のアジュバントとして有用であることが示唆されている。周知のサイトカインである顆粒球-マクロファージコロニー刺激因子(GM-CSF)をアジュバントとして使用することが提案されている(WO97/28816)。
【0201】
キャリアは、アジュバントと独立して存在し得る。キャリアの機能は、例えば、活性又は免疫原性を増加させるため、安定性を与えるため、生物活性を増加させるため、或いは血清半減期を増加させるために、特にペプチドフラグメントの分子量を増加させることとなり得る。更に、キャリアは、PD-L1ポリペプチド又はその前記フラグメントのT細胞への提示を支援し得る。キャリアは、当業者に公知の任意の適切なキャリア、例えば、タンパク質又は抗原提示細胞にしてよい。キャリアタンパク質は、限定では無いが、キーホールリンペットヘモシアニン、トランスフェリン、ウシ血清アルブミン、ヒト血清アルブミン、サイログロブリン、又はオボアルブミン等の血清タンパク質、免疫グロブリン、或いはインスリン又はパルミチン酸等のホルモンにしてよい。ヒトの免疫化のために、キャリアは、ヒトが許容でき且つ安全な生理学的に許容可能なキャリアである必要がある。しかしながら、破傷風トキソイド及び/又はジフテリアトキソイドは、本発明の一実施形態において適切なキャリアとなる。或いは、キャリアは、デキストラン、例えば、セファロースとしてよい。
【0202】
したがって、ワクチン組成物が配列番号1のPD-L1、少なくとも70%の同一性を有するその機能的ホモログ、又は上述した免疫原性活性ペプチドフラグメントの何れかを含む本発明の一態様は、例えば、上述したタンパク質等のキャリア、又は例えば、樹状細胞(DC)等の抗原提示細胞に関連する。
【0203】
本発明のワクチン組成物は、一般にアジュバントを含む。アジュバントは、例えば、以下からなる群から選択することができる:AlK(SO4)2、AlNa(SO4)2、AlNH4(SO4)、シリカ、ミョウバン、Al(OH)3、Ca3(PO4)2、カオリン、炭素、水酸化アルミニウム、ムラミルジペプチド、N-アセチル-ムラミル-L-トレオニル-D-イソグルタミン(thr-DMP)、N-アセチル-ノルヌラミル-L-アラニル-D-イソグルタミン(CGP 11687、nor-MDPとも呼ばれる)、N-アセチルムラミウル-L-アラニル-D-イソグルタミニル-L-アラニン-2-(1’2’-ジパルミトイル-sn-グリセロ-3-ヒドロキシホスホリルオキシ)-エチルアミン(CGP 19835A、MTP-PEとも呼ばれる)、2%スクアレン/Tween-80(登録商標)乳液中のRIBI(MPL+TDM+CWS)、リポ多糖及びその誘導体(リピドAを含む)、フロイント完全アジュバント(FCA)、フロイント不完全アジュバント、Merckアジュバント65、ポリヌクレオチド(例えば、ポリIC及びポリAU酸)、Mycobacterium tuberclosis由来のワックスD、Corynebacterium parvum、Bordetella pertussis、及びブルセラ属の構成要素において発見された物質、Titermax、ISCOMS、Quil A、ALUN(US58767及び5,554,372参照)、リピドA誘導体、コレラ毒素誘導体、HSP誘導体、LPS誘導体、合成ペプチドマトリクス又はGMDP、インターロイキン1、インターロイキン2、Montanide ISA-51、及びQS-21。本発明で使用すべき好適なアジュバントには、油/界面活性剤に基づくアジュバント、例としてMontanideアジュバント(ベルギーのSeppicから入手可能)、好ましくはMontanide ISA-51が含まれる。他好適なアジュバントは、CpGオリゴヌクレオチド配列を含むアジュバント等、細菌DNAに基づくアジュバントである。他の好適なアジュバントは、ポリI:C等のウイルスdsRNAに基づくアジュバントである。イミダゾキニリンは、好ましいアジュバントの更に別の例である。最も好ましいアジュバントは、ヒトへの使用に適したアジュバントである。
【0204】
Montanideアジュバント(全てベルギーのSeppicから入手可能)は、Montanide ISA-51、Montanide ISA-50、Montanide ISA-70、Montanide ISA-206、Montanide ISA-25、Montanide ISA-720、Montanide ISA-708、Montanide ISA-763A、Montanide ISA-207、Montanide ISA-264、Montanide ISA-27、Montanide ISA-35、Montanide ISA 51F、Montanide ISA 016D、及びMontanide IMSからなる群から、好ましくは、Montanide ISA-51、Montanide IMS、及びMontanide ISA-720からなる群から、更に好ましくはMontanide ISA-51からなる群から選択し得る。Montanide ISA-51(Seppic,Inc.)は、異なる界面活性剤を非代謝性鉱物油、代謝性油、又はこれら2つの混合物と組み合わせた油/界面活性剤に基づくアジュバントである。これらを、配列番号1のPD-L1、上述したその機能的ホモログの何れか、又は上述したその免疫原性活性ペプチドフラグメントの何れかを含む水溶液と共に、乳液として使用するために調製する。界面活性剤はオレイン酸マンニドである。QS-21(Antigenics、Aquila Biopharmaceuticals、マサチューセッツ州フラミンガム)は、水溶液として扱われる高度に精製された水溶性サポニンである。QS-21及びMontanide ISA-51アジュバントは、無菌の使い捨てバイアルで提供することができる。
【0205】
周知のサイトカインGM-CSFは、本発明の他の好適なアジュバントである。GM-CSFは、過去10年に亘りアジュバントとして使用されており、好ましくはWO97/28816に記載のGM-CSFにし得る。
【0206】
本発明においては、ワクチン組成物が1種類以上のアジュバントを含み得ると考えられるため、本発明のワクチン組成物は、上述したアジュバントの混合物を含み得る。更に、本発明においては、ワクチン組成物と、少なくとも1つの他のアジュバントとが、同時に、又は任意の順序で連続して、必要とする個体に投与され得ると考えられる。
【0207】
本発明で使用可能なアジュバントの望ましい機能を、以下の表に記載する。
【0208】
【表3】
【0209】
本発明によるワクチン組成物は、1つ以上のアジュバントを含み得る。更に、本発明は、上述したものの何れか又はその組み合わせを含め、任意のアジュバント物質及び/又はキャリアを更に含む治療組成物を包含する。更に、PD-L1タンパク質、その機能的ホモログ、又はその免疫原性活性ペプチドフラグメント、及びアジュバントは、任意の適切な順序で個別に投与することができると考えられる。好ましくは、本発明のワクチン組成物は、Montanide ISA 51又はMontanide ISA 720等のMontanideアジュバント、又はGM-CSFアジュバント、又はその混合物を含む。
【0210】
したがって、本発明は、上述したものの何れか又はその組み合わせを含むアジュバント物質を更に含む治療組成物を包含する。抗原、即ち、本発明のペプチド及びアジュバントは、同時に又は任意の適切な順序で個別に投与可能であると考えられる。
【0211】
用量及び投与
【0212】
ワクチン組成物中のPD-L1又はその免疫原性活性ペプチドフラグメントの量は、特定の応用に応じて変化し得る。しかしながら、PD-L1又はそのペプチドフラグメントの単一用量は、好ましくは、約10μg乃至約5000μg、更に好ましくは約50μg乃至約2500μg、例として約100μg乃至約1000μgの範囲である。投与様式には、皮内、皮下、及び静脈内投与、時限放出処方物の形態での移植等が含まれる。当業者に公知の任意のあらゆる投与形態が本明細書に包含される。注射用免疫原性ペプチド組成物の処方に適切であることが当該分野で公知である任意のあらゆる従来の投薬形態も包含され、例として、必要に応じて従来の医薬的に許容可能なキャリア、希釈剤、防腐剤、アジュバント、緩衝液の成分等を含む凍結乾燥形態及び溶液、懸濁液、又は乳液の形態が包含される。
【0213】
医薬組成物は、当業者に公知の任意の従来のプロトコルを用いて調製及び投与することができる。実施例2では、本発明によるワクチン組成物の調整の非限定的な例と、こうしたワクチンの投与の非限定的な例を示す。プロトコルを本明細書に記載の任意のワクチン組成物に容易に適合し得ることは当業者に認識されよう。本発明の他の実施形態において、本発明の医薬組成物は、PD-L1の発現を特徴とする癌及び感染等の臨床状態を有する個体の治療に有用である。
【0214】
本発明の組成物の免疫防御効果は、当業者に公知の幾つかのアプローチを用いて決定することができる。免疫応答の成功は、更に、免疫化後のDTH反応の発生及び/又はワクチン組成物のペプチドを特異的に認識する抗体の検出により決定し得る。
【0215】
本発明によるワクチン組成物は、治療的に有効量で個体に投与し得る。
【0216】
医薬組成物は、皮下、局所、経口、及び筋肉内等、様々な経路で個体に提供し得る。医薬組成物の投与は、経口的又は非経口的に達成される。非経口送達方法には、局所、動脈内(組織に直接)、筋肉内、皮下、髄内、髄腔内、脳室内、静脈内、腹腔内、又は鼻腔内投与が含まれる。本発明は、更に、ワクチン組成物による予防及び治療方法に用いるのに適した局所、経口、全身、及び非経口医薬処方物を提供することを目的とする。
【0217】
例えば、ワクチン組成物は、錠剤、カプセル(それぞれ時限放出処方物及び徐放性処方物を含む)、丸薬、粉末、顆粒、エリキシル、チンキ、溶液、懸濁液、シロップ、及び乳液、の経口投薬形態、又は注射等で投与することができる。同様に、ワクチン組成物は、静脈内(ボーラス及び注入の両方)、腹腔内、皮下、閉鎖状態又非閉鎖状態での局所、又は筋肉内の形態で投与してもよく、全ての使用形態は、製薬分野の当業者に周知である。本明細書に記載の化合物の何れかを含む、ワクチンの有効だが無毒性の量は、予防薬又は治療薬として利用することができる。注射用免疫原性ペプチド組成物の処方に適していることが当該技術分野で公知である任意のあらゆる従来の投薬形態が更に包含され、例として、必要に応じて従来の医薬に許容可能なキャリア、希釈剤、防腐剤、アジュバント、緩衝液の成分等を含む凍結乾燥形態及び溶液、懸濁液、又は乳液の形態が包含される。
【0218】
本発明によるワクチン組成物の好適な投与様式には、限定では無いが、静脈内又は皮下投与、皮内投与、筋肉内投与、鼻腔内投与、経口投与、直腸投与、膣内投与、肺内投与、及び一般的に任意の粘膜投与形態等の全身投与が含まれる。更に、本明細書に記載の任意の投与形態のための手段が本発明に含まれることは、本発明の範囲内である。
【0219】
本発明によるワクチンを、1回、或いは2回、3回、4回、又は5回等の任意の回数で投与することができる。一実施形態において、本発明のワクチン組成物の投与は、最初の2年は毎月1回、その後、3ヶ月に1回を少なくとも2年間、例として3年間、4年間、又は5年間等、任意の回数で投与することができる。1回を超えるワクチン投与は、結果的に生じた免疫応答をブーストする効果を有する。ワクチンは、以前の投与と異なる形態又は身体部分にワクチンを投与することにより、更にブーストすることができる。ブースター注射は、同種又は異種ブースター注射となる。同種ブースター注射は、初回及び後続のワクチン接種が同一構築物、より具体的には、同一の送達ビヒクル、特に同一のウイルスベクターを含む場合である。異種ブースター注射は、同一の構築物が異なるウイルスベクター内に含まれる場合である。
【0220】
第2の有効成分
【0221】
本発明の一態様は、提供された本明細書のワクチン組成物を第2の有効成分と組み合わせて使用することである。ワクチン組成物及び第2の有効成分の投与は、連続的又は複合的なものにしてよい。第2の有効成分の例は、癌及び感染の両方について上述している。他の態様は、ワクチン組成物を治療対象の所与の臨床状態のための関連する他の療法と組み合わせて使用し得ることである。こうした療法には、手術、化学療法、又は遺伝子治療、免疫刺激物質、又は抗体が含まれ得る。当業者は所与のシナリオに対して適切な併用療法を決定することができる。
【0222】
場合によっては、本発明の治療方法を、化学療法、放射線治療、免疫刺激物質による治療、遺伝子治療、抗体及び/又は抗生物質による治療、及び樹状細胞を用いる治療等の他の医学的処置と組み合わせることが適切となる。
【0223】
診断及び予後診断ツール
【0224】
本発明のペプチドにより、癌疾患及び感染に関して広く適用可能な診断及び予後手順を開発する基盤が提供される。したがって、他の有用な実施形態において、本発明の組成物は、個体におけるPD-L1発現細胞の存在のex vivo又はin situ診断のための組成物である。診断手順は、PBMC又は腫瘍組織内のPD-L1反応性T細胞の検出に基づく。
【0225】
したがって、本発明の1つ又は複数のペプチドを含むPBMC又は腫瘍組織内のPD-L1反応性T細胞の個体内での存在をex vivo又はin situ診断するための診断キットと、こうした反応性T細胞の個体内での存在を検出する方法と、腫瘍組織又は血液試料を本発明のペプチドとクラスI又はクラスII HLA分子又はこうした分子のフラグメントとの複合体に接触させること及び組織又は血球に対する複合体の結合を検出することを含む方法とが提供される。一態様において、本発明は、本明細書に記載のもの等の診断試薬として有用な、本発明のペプチドとクラスI又はクラスII HLA分子又はこうした分子のフラグメントとの複合体を提供する。こうした複合体は、単量体又は多量体となり得る。
【0226】
他の有用な診断又は予後アプローチは、異種動物種内で抗体を生成すること、例えば、ヒトPD-L1に対するマウス抗体であって、例えば、ペプチドを提示する癌細胞の存在を診断するために使用可能な抗体を生成することに基づく。こうした免疫化の目的のために、ペプチド量は、上述した量等、in vivo療法の過程で使用するものより少量となり得る。一般に、好適な用量は、ペプチド約1μg乃至約750μgの範囲にすることができる。本発明のペプチドによる免疫化に基づいてモノクローナル抗体を生成することも可能となる。したがって、本発明は、更に、本発明のペプチドに特異的に結合可能な分子、特に、フラグメントを含むモノクローナル又はポリクローナル抗体と、こうした結合を遮断可能な分子、例えば、本発明のペプチドに対するモノクローナル又はポリクローナル抗体に対抗して発生させた抗体とに関する。本発明は、更に、本発明のペプチド又はタンパク質及びこれをコードする単離核酸に特異的に結合可能な単離T細胞受容体に関する。こうしたT細胞受容体は、例えば、当業者に周知の標準的手法を用いてタンパク質又はペプチド特異的T細胞からクローン化し得る。
【0227】
一態様において、本発明は、更に、PD-L1及び/又は本明細書に記載のその免疫原性活性ペプチドフラグメントの何れかに特異的に結合可能なT細胞受容体を含む単離T細胞に関する。単離T細胞は、CD8 T細胞又はCD4 T細胞となり得る。単離T細胞は、好ましくは、in vitroで拡大されたT細胞である。in vitroでT細胞を拡大する方法は、当業者に周知である。こうしたT細胞は、特に、養子移入又は自家細胞移入による癌の治療において有用となり得る。したがって、本発明は、更に、T細胞を含む医薬組成物と、PD-L1又はそのペプチドフラグメントに特異的に結合可能なT細胞受容体を含むT細胞を、癌及び/又は感染を有する個体等の必要とする個体に投与することを含む治療方法に関する。自家細胞移入は、基本的にWalter et al., (1995)の記載のように実施することができる。
【0228】
本発明は、本明細書に定めた組成物、例えば、本明細書に記載の抗体又はT細胞受容体又はパーツキットにし得る、ペプチドフラグメントに特異的に結合可能な分子の有効量を、疾患に罹患した個体に投与することを含む、癌及び感染等の、好ましくは癌であるPD-L1の発現を特徴とする臨床状態の治療、予防、軽減、又は治癒のための手段を提供する。したがって、本発明の他の態様は、配列番号1のPD-L1の発現に関連する臨床状態を治療する方法を提供することである。
【0229】
免疫化のモニタリング
【0230】
好適な実施形態において、本発明の医薬組成物は、ワクチン組成物である。したがって、本発明の興味の対象及び態様は、本発明のワクチン組成物を投与する個体における免疫化をモニターすることである。したがって、ワクチン組成物は、癌及び/又は感染に対して免疫応答を誘発し得る。本明細書での使用において、「ワクチン組成物」という表現は、癌細胞、APC、又はDC等のPD-L1発現細胞に対する少なくとも1種類の免疫応答を誘発する組成物を示す。したがって、こうした免疫応答は、以下の何れかになり得る:細胞表面上に提示されるHLA/ペプチド複合体を認識して細胞を溶解することが可能なCTLが生成される、即ち、ワクチンがワクチン接種対象者において癌細胞に対する細胞傷害効果を有するエフェクターT細胞の産生を誘発するCTL応答、抗癌抗体の生成を発生させるB細胞応答、及び/又はDTH型の免疫応答。本発明の目的は、個体への本発明の組成物の投与後の上記反応の何れかをモニターすることにより、個体の免疫化をモニターすることである。
【0231】
一態様において、本発明は、
i)個体からの血液試料を提供すること、
ii)配列番号1のPD-L1、上述したその機能的ホモログの何れか、又は上述した免疫原性活性ペプチドフラグメントの何れかを提供すること、
iii)前記血液試料が、前記タンパク質又はペプチドと特異的に結合する抗体又はT細胞受容体を含むT細胞を含むかを判定すること、
iv)これにより、前記タンパク質又はペプチドに対する免疫応答が個体において発生したかを判定することを含む、免疫化をモニターする方法に関する。
【0232】
前記個体は、好ましくは、ヒトであり、例えば、PD-L1又はそのペプチドフラグメント又は前記タンパク質又はペプチドをコードする核酸により免疫化されたヒトである。
【0233】
パーツキット
【0234】
本発明は、更に、以下を含むパーツキットに関する:
・本明細書に記載のワクチン組成物の何れか、及び/又は
・配列番号1のPD-L1又は本明細書に記載の機能的ホモログの何れか、及び/又は
・本明細書に記載のPD-L1の免疫原性活性ポリペプチドフラグメントの何れか、及び/又は
・上記2項目のタンパク質をコードする核酸の何れか、及びパーツキットの使用法に関する説明書。
【0235】
本発明は、更に、以下を含むパーツキットに関する:
・本明細書に記載のワクチン組成物の何れか、及び/又は
・配列番号1のPD-L1又は本明細書に記載の機能的ホモログの何れか、及び/又は
・本明細書に記載のPD-L1の免疫原性活性ポリペプチドフラグメントの何れか、及び/又は
・上記2項目のタンパク質をコードする核酸の何れか、及び第2の有効成分。
【0236】
好ましくは、第2の有効成分は、癌が治療対象である場合に、例えば上述した化学療法剤の中から第2の有効成分が選択されるように、治療対象の臨床状態に対応して選択される。同様に、微生物/ウイルス感染を治療する場合、第2の有効成分は、好ましくは、抗生物質及び/又は抗ウイルス剤である。
【0237】
パーツキットの成分は、好ましくは、個別の組成物内に含まれる。しかしながら、パーツキットの成分が全て同じ組成物内に含まれることも本発明の範囲内である。したがって、パーツキットの成分は、同時又は任意の順序で連続的に投与し得る。
【実施例】
【0238】
実施例1
【0239】
患者
【0240】
末梢血単核球(PBMC)を、癌患者(腎細胞癌、黒色腫、及び乳癌)及び健康な対照から採取した。血液試料は、任意の種類の抗癌療法の終了から最短4週間後に採取した。PBMCは、Lymphoprep分離を用いて単離し、HLA型を判定し(大学病院臨床免疫学部、デンマーク、コペンハーゲン)、10%DMSOを含むFCS中で冷凍した。プロトコルは、デンマーク首都圏科学倫理委員会による承認を受け、ヘルシンキ宣言の条項に従って実施した。研究への参加前に、説明に基づく書面での同意を得た。
【0241】
ELISPOTアッセイ
【0242】
ELISPOTアッセイを用いて、上述したペプチド特異的IFN-γ放出エフェクター細胞を定量した(Andersen et al., 2001, Cancer Res. 61:869-872)。一部の実験では、上述したように分析前にペプチドによりPBMCをin vitroで1回刺激し(McCutcheon et al., 1997, J Immunol Methods 210:149-166)、アッセイの感度を拡張した。簡単に言うと、ニトロセルロース底の96ウェルプレート(MultiScreen MAIP N45、Millipore)を、抗IFN-γ捕捉mAb(Mabtech)により一晩コーティングした。ウェルを洗浄し、X-vivo培地によりブロックし、エフェクター細胞(上述したように採取し、表示された場合に刺激したPBMC)を、異なる細胞濃度で2重にして、10μMペプチドを使用して又は使用せずに添加した。プレートを一晩インキュベートした。翌日、培地を廃棄し、ウェルを洗浄後、関連するビオチン化二次Ab(Mabtech)を添加した。プレートを室温(RT)で2時間インキュベートし、洗浄し、アビジン-酵素抱合体(AP-Avidin、Calbiochem/Invitrogen Life Technologies)を各ウェルに添加した。プレートをRTで1時間インキュベートし、酵素基質NBT/BCIP(Invitrogen Life Technologies)を各ウェルに添加し、RTで5乃至10分間インキュベートした。暗紫色のスポット出現後、水道水での洗浄により反応を停止させた。スポットは、ImmunoSpot Series 2.0アナライザ(CTL Analyzers)を用いて計数した。
【0243】
抗原特異的T細胞培養物及びクローンの確立
【0244】
黒色腫患者からのPBMCを、照射した(20Gy)自家PD-L101ペプチド負荷DC(PBMC:DC比=3×106:3×105)により刺激した。翌日、IL-7(5ng/ml)及びIL-12(10ng/ml)(PeproTech、イギリス、ロンドン)を添加した。培養物の刺激を、10日毎に、PDL101負荷照射自家DC(2回)、その後、IκB10負荷照射自家PBMC(3回)により刺激した。120U/mlのIL-12(PeproTech、イギリス、ロンドン)を各刺激後に添加した。1ヶ月の増殖後、培養物を、標準的な51Cr放出アッセイにおいて特異性について試験した。
【0245】
細胞傷害性アッセイ
【0246】
CTL媒介細胞傷害性についての従来の51Cr放出アッセイを、他の記載(Andersen et al., 1999)のように実施した。標的細胞は、PDL101を有するT2細胞(図3a)及びHLA-A2+乳癌細胞株、乳癌細胞株MDA-MB-231(図3b)とした(American Type Culture Collection(ATCC)から入手可能)。
【0247】
結果
【0248】
PD-L1に対するHLA-A2-制限免疫応答
【0249】
PD-L1タンパク質のアミノ酸配列を、主要なHLA-A2特異的アンカー残基から、最も可能性の高いHLA-A2九量体及び十量体ペプチドエピトープについてスクリーニングした(表2参照)。17のPD-L1由来ペプチドを選択後、合成した。ELISPOT IFN-分泌アッセイを用いて、癌患者及び健康な個体からのPBMCを、これらのPDL1由来ペプチドに対する特異的なT細胞応答の存在について調べた。HLA-A2+の末期癌患者(乳癌、黒色腫、及び腎細胞癌)からのPBMCを、ELISPOTによる検査前に、in vitroで異なるペプチドにより1回刺激した。ELISPOT応答を、PDL101、(LLNAFTVTV、PD-L115-23、配列番号2)、PDL111(CLGVALTFI、PDL1250-258、配列番号12)、及びPDL114(VILGAILLCL、PDL1242-251、配列番号 15)に対して検出した。加えて、健康な個体からのPBMCを、これら3種類のPDL1由来ペプチドに対する反応性について調べた。結果は図1に示しており、上述したように、ペプチドによりin vitroで1回刺激した後で判定した5×105個のPBMC当たりのPDL1特異的スポットを示している。
【0250】
IFNγをマーカーとして用いて特異的T細胞の存在を判定することに加え、更にTNFαをマーカーとして用いた。したがって、ELISPOTアッセイを、基本的には上述したように、PDL101ペプチドにより、前記ペプチドによるin vitroでの1回の刺激を含めて実行し、但し、TNFα抗体をIFNγ抗体の代わりに用いた。図2Bに結果を示す。
【0251】
癌患者におけるPD-L1反応性HLA-A2制限T細胞の検出
【0252】
PD-L1反応性T細胞の頻度はin vitroでの刺激により顕著に増加するが、PDL1反応性T細胞は、選択した患者においてex vivoでも容易に検出可能となった。in vitroでの刺激後に強い反応を有した6人の患者において、それぞれの反応性がex vivoでも検出された。結果は、図2Aに示しており、採取後直接、即ち、in vitro刺激無しで、PBMCについて判定した5×105個のPBMC当たりのPDL1特異的スポットを示している。
【0253】
PD-L1特異的T細胞の機能的能力
【0254】
PDL101ペプチドに対する応答を有する患者を特定した後、こうした患者からのPBMCを用いて、in vitroで、このペプチドに対して特異的なT細胞培養物を生成した。PBMCを、上述したように自家PD-L1パルス樹状細胞(DC)により刺激した。4回の刺激後、ペプチドの特異性を標準的な51Cr放出アッセイにおいて試験した。このため、負荷していないT2細胞と、IκB10ペプチドを負荷したT2細胞の何れかを標的とした。このアッセイにより、PD-L101によりパルスしたT2細胞のみが死滅することが明らかとなった(図3)。次に、PD-L1特異的T細胞培養物を更に使用して、HLA-A2陽性癌細胞株を死滅させる能力を試験した。
【0255】
次に、CTLクローンを、特異的T細胞から限界希釈により確立した。短い拡大ステップ後、増殖したクローンの特異性を標準的な51Cr放出アッセイにおいて分析した。クローン9は、PD-L1によりパルスしたT2細胞を効果的に溶解した。同様に、バルク培養により生成したクローン9は、MDA-MB-231乳癌細胞を死滅させることができた。
【0256】
実施例2
【0257】
ワクチン組成物
【0258】
500μLリン酸緩衝液中の500μgのPD-L1ペプチド(PDL101、PDL111、又はPDL115)を500μL Montanideアジュバント(Seppic、フランス)と混合し、患者に投与する。加えて、75μg Leukine(Sargramostim、GM-CSF、米国のGenzymeから入手可能)を免疫系の刺激用に投与する。ワクチン組成物及びGM-CSFは、共に皮下注射により投与する。ワクチン接種の領域は、更にAldara(Imiquimod、スウェーデンのMEDA ABから入手可能)により局所的に処置し、局部免疫応答を増加させる。
【0259】
実施例3
【0260】
患者
【0261】
末梢血単核球(PBMC)を、健康な個体及び癌患者(黒色腫、腎細胞癌、及び乳癌)から採取した。血液試料は、任意の種類の抗癌療法の終了から最短4週間後に採取した。PBMCは、Lymphoprep分離を用いて単離し、HLA型を判定し、10%DMSOを含むFCS中で冷凍した。プロトコルは、デンマーク首都圏科学倫理委員会による承認を受け、ヘルシンキ宣言の条項に従って実施した。研究への参加前に、説明に基づく書面での同意を得た。
【0262】
PD-L1からのHLA-A2結合ペプチドの予測
【0263】
PD-L1に対するHLA-A2制限CTLエピトープを同定するために、PD-L1のアミノ酸配列を、インターネットで利用可能な「Database SYFPEITHIP」(15)を用いて解析した。9mer(ここでは「PD-L101」と名付ける)PDL115-23、(LLNAFTVTV)は、SYFPEITHIアルゴリズムによるスコアが30となり、最上位の候補エピトープとなった。PD-L101ペプチドと、PD-L1からの次の2本の長いペプチドとが生成された:PDLong1:PDL19-28、FMTYWHLLNAFTVTVPKDL及びPDLong2:PDL1242-264、VILGAILLCLGVALTFIFRLRKG。前者(PDLong1)のみがPD-L101の配列を含んでいた。HLA-A2高親和性結合エピトープHIV-1 pol476-484(ILKEPVHGV)及びCMV pp65 pos495-503(NLVPMVATV)を無関係の対照として使用した。
【0264】
ELISPOTアッセイ
【0265】
本研究において、ELISPOTは、CIP(http://cimt.eu/cimt/files/dl/cip_guidelines.pdf)が提供する指針に従って実施した。一部の実験において、PBMCは、上述したように分析の前にペプチドによりin vitroで1回刺激した。簡単に言うと、ニトロセルロース底の96ウェルプレート(MultiScreen MAIP N45、Millipore)を、関連する抗体により一晩コーティングした。ウェルを洗浄し、X-vivo培地によりブロックし、エフェクター細胞を、異なる細胞濃度で可能な場合は3重に、他の場合は2重にして、10μMペプチドを使用して又は使用せずに、添加した。プレートを一晩インキュベートした。翌日、培地を廃棄し、ウェルを洗浄後、関連するビオチン化二次Ab(Mabtech)、続いてアビジン-酵素抱合体(AP-Avidin、Calbiochem/Invitrogen Life Technologies)、最後に酵素基質NBT/BCIP(Invitrogen Life Technologies)を添加した。スポットは、ImmunoSpot Series 2.0アナライザ(CTL Analyzers)を用いて計数した。ELISPOT応答の定義は、CIPが経験的又は統計的アプローチにより提供した指針及び推奨に基づくものとし、前者は、生物学的応答を表すように閾値を設定することを意味する。これは、閾値を100,000PBMC当たり6個より多くの特異的スポットとするべきであることを示唆するCIP指針に裏付けられている。ノンパラメトリックな分布によらない再サンプリング(DFR)試験は、抗原刺激ウェルを陰性の対照ウェルと形式的に比較する方法を提供する。最小限として、ELISPOTアッセイは、少なくとも3重にして行う必要がある。更に、ノンパラメトリックの対応の無いマンホイットニ検定を用いて、PD-L101特異的レスポンダーを癌患者と健康なドナーとの間で比較した。
【0266】
抗原特異的T細胞培養物の確立
【0267】
2種類のPD-L101特異的T細胞培養物を確立した。乳癌患者(CM.21)及び黒色腫(MM.05)患者からのPBMCを、照射したPD-L101負荷自家DCにより刺激した。翌日、IL-7及びIL-12(PeproTech、イギリス、ロンドン)を添加した。培養物の刺激は、8日毎に、PD-L101負荷照射自家DC(2回)、その後、PD-101負荷照射自家PBMCにより行った。ペプチド刺激の翌日、IL-2(PeproTech、イギリス、ロンドン)を添加した。
【0268】
DCの生成
【0269】
DCは、RPMI-1640中において、37℃で1乃至2時間に亘り培養皿に付着させてPBMCから生成した。付着した単球は、RPMI-1640に10%ウシ胎児血清を補ったものにおいて、IL-4(250U/ml)及びGM-CSF(1000U/ml)が存在する状態で6日間培養した。DCは、IL-β(1000U/ml)、IL-6(1000U/ml)、TNF-α(1000U/ml)、及びPGE2 (1ug/ml)を添加することで成熟させた。
【0270】
細胞傷害性アッセイ
【0271】
CTL媒介細胞傷害性についての従来の51Cr放出アッセイを、Andersen et al., J Immunol 1999の記載に従って実施した。標的細胞は、T2細胞、HLA-A2+ EBV形質転換B細胞株(KIG-BCL)、自家成熟DC(mDC)、IFN-γ(100U/ml)を2日間使用した又は使用しないHLA-A2+黒色腫細胞株(MM1312.07及びMM.909.06)とした。T2細胞及びKIG-BCLは、PD-L1組換えタンパク質(Sino Biological Inc.)により3時間、37℃でパルスした後、クロムを添加した。T2細胞の溶解は、抗HLA-A2 FITC結合抗体(2ug/100ul、BD Biosciences)を用いてブロックした。
【0272】
HLAペプチド交換手法及びELISA
【0273】
HLAペプチド複合体の親和性を評価するため、UV交換法を、既述のようにサンドイッチELISAと組み合わせて用いた(19)。2つの強力なバインダーペプチド(HLA-A2/CMV pp65 pos495-503(NLVPMVATV)及びHLA-A2/HIV-1 pol476-484(ILKEPVHGV))と、UV光に曝露していない試料とを陽性対照として用いる一方、レスキューペプチドの無い試料を陰性対照として用いた。陽性対照は、4重とし、PD-L101ペプチドは、3重とした。
【0274】
siRNA媒介PD-L1サイレンシング
【0275】
PD-L1の標的化サイレンシングのためのStealth siRNA(商標)2本鎖と、中程度GC含量用の推奨されるStealth siRNA陰性対照2本鎖を、Invitrogen(Invitrogen、イギリス、ペイズリ)から取得した。Stealth PD-L1 siRNA2本鎖は、センス配列5’-CCUACUGGCAUUUGCUGAACGCAUU3’及びアンチセンス配列5’-AAUGCGUUCAGCAAAUGCCAGUAGG-3’からなる。PD-L1サイレンシング実験のために、mDCをPD-L1 siRNAにより、エレクトロポレーションパラメータを用いてトランスフェクトした。
【0276】
フローサイトメトリー解析
【0277】
フローサイトメトリー解析を、FACSCANTO II(BD Biosciences、米国カリフォルニア州サンノゼ)上で実行し、siRNA標的サイレンシング前後のmDC、T2細胞、IFN-γ処置を使用した又は使用しないKIG-BCL及びHLA-A2+黒色腫細胞株(MM1312.07及びMM.909.06)上でのPD-L1表面発現を判定した。細胞は、PBS/1%BSA中で洗浄した後、FITC-又はPE-Cy5結合抗PD-L1モノクローナル抗体により、PBS/1%BSA中の氷上で30分間染色した。非反応性のイソタイプ合致抗体(BD Biosciences)を対照として使用した。蛍光分析は、FACSDivaソフトウェア(BD Biosciences)及びFlowJoソフトウェア(Tree Star、米国オレゴン州アシュランド)を用いて実施した。
【0278】
HLA多量体染色
【0279】
多量体/四量体の染色のために、PE及びAPCに結合された四量体の調製を、MHCペプチド交換手法を用いて行った。染色は、CD3-AmCyan、CD8パシフィックブルー、及びCD4-FITC(BD Bioscience)により行い、HLA四量体複合体HLA-A2/PD-L101(PDL115-23、LLNAFTVTV)又はHIV-1(pol476-484、ILKEPVHGV)をAPC/PEと結合させた。死細胞マーカー、7-AAD-PerCP(BD Bioscience)をFACS解析前に添加した。濃縮のため、T細胞培養物を、PEと結合したHLA-A2/PD-L101四量体により染色し、抗PEマイクロビーズ(MACS Miltenyi Biotec)により単離した。
【0280】
一部の実験では、細胞を、PD-L101ペプチド(0.2mM)又は無関係のHIVペプチドにより刺激し、CD107a-PE抗体(BD Biosciences)により4時間37℃で染色した。その後、細胞を、四量体及び表面マーカーにより染色し、FACSCANTO II(BD Biosciences、米国カリフォルニア州サンノゼ)により分析した。
【0281】
結果
【0282】
PD-L1に対する天然T細胞応答
【0283】
PD-L1タンパク質のアミノ酸配列を、最も可能性の高いHLA-A2九量体及び十量体ペプチドエピトープについて、インターネットで利用可能な「Database SYFPEITHIP」を用いてスクリーニングした。「PD-L101」と名付けたペプチドPD-L115-23(LLNAFTVTV)が、ペプチドスコア30の最上位の候補となり、その後、このペプチドを合成した。健康な個体と癌患者からの末梢血単核球(PBMC)を、このPD-L1由来ペプチドに対する特異的T細胞応答の存在について、IFN-γ ELISPOT分泌アッセイを用いて精査した。ELISPOTアッセイは、以前に、癌患者における自発的免疫に基づく新規の腫瘍抗原の同定のために利用されている。したがって、乳癌、腎細胞癌、又は黒色腫を有する患者からのHLA-A2+ PBMCを、PD-L101によりin vitroで1回刺激した後、ELISPOTにより検査した。数人の患者において、PD-L101に対する頻繁且つ強い応答が検出された。図4Aは、1人の腎細胞癌患者(RCC.46)と2人の黒色腫患者(MM.04及びMM.13)におけるPD-L101特異的T細胞応答を例示している。全体として、HLA-A2+癌患者の血中におけるPD-L1反応性T細胞の存在は、IFN-γ ELISPOTにより明らかとなった(図4B)。加えて、PD-L1に対する反応性を、健康な個体からのPBMCにおいて調べた(図4B)。PD-L1特異的T細胞は、PBMCの健康な個体内でも見ることができたが、癌患者より頻度が低いと思われ、但し、マンホイットニ検定では、この差異は完全に有意に達していないとされた(P=0.06)。このデータの詳細な説明のため、応答を患者毎に背景と比較した図4Cにおいて、8人の応答した患者をバープロットに示す。IFN-γ ELISPOTは、材料の節約のため2重でのみ実施し、応答は、CIMT Immuno Guiding Program(CIP)の指針により示唆された経験的アプローチのみにより考慮されている。PD-L101特異的細胞が更にサイトカインTNF-αを放出する場合に、PD-L1 IFN-γ応答患者からのPBMCを更に検査した。これらの実験は3重にして行った。図4Dから、天然PD-L101特異的細胞がPD-L1由来エピトープによる刺激時に更にTNF-αを放出することが確認できる。8人全ての患者で、TNF-α応答は、ノンパラメトリックな分布によらない再サンプリング(DFR)試験を用いて有意に達した。
【0284】
次に、3人の反応した患者を、PD-L101特異的細胞の存在を直接ex vivoで、in vitroでのペプチド刺激無しで検査した。直接ELISPOTを図5Aに例示する。PD-L1反応性T細胞の頻度はin vitro刺激により顕著に増加するが、PD-L1反応性T細胞は、選択した患者においてex vivoで容易に検出可能となった(図5B)。
【0285】
PD-L101を、HLA-A2と結合する能力について、2つのHLA-A2制限高親和性エピトープ、即ち、HIV-1 pol476-484(ILKEPVHGV)及びCMV pp65 pos495-503(NLVPMVATV)との比較により、ELISAの前にペプチド交換手法を用いて検査した。PD-L101は、高親和性対照エピトープと同等にHLA-A2に結合した(図5C)。PD-L101のHLA-A2に対する高い結合親和性により、安定したHLA-A2/PD-L101四量体を作成することが可能となり、これを用いて、PDL1反応性CTLをフローサイトメトリーにより検出した。まず、PD-L101応答患者からのPBMCをHLA-A2/PD-L101特異的四量体により直接ex vivoで染色した。これにより、PD-L1反応性T細胞が両方の患者においてex vivoで検出可能であることが明らかとなった(図5D)。両方の患者において、1回のin vitroペプチド刺激により、PD-L1特異的T細胞の頻度が顕著に増加した。次に、これらの癌患者(CM.21及びMM.05)からのPBMCを用いて、このペプチドに対するT細胞バルク培養物をin vitroで生成した。その後、患者からのPBMCを、PD-L101パルス自家DCによりin vitroで刺激した。3回のin vitro再刺激後、明瞭なHLA-A2/PD-L101陽性T細胞が検出可能となった。13.52%のPD-L1四量体陽性細胞が、乳癌患者からのT細胞を用いて得られ、0.17%のPD-L1四量体陽性細胞が、悪性黒色腫患者からのT細胞を用いて得られた(図5D)。
【0286】
PD-L1特異的T細胞はCTLである
【0287】
PD-L1特異的培養物の細胞溶解機能の試験を、標準的な51Cr放出アッセイにおいて、TAP欠損T2細胞を、PD-L101又はHIVからの無関係な対照ペプチドを負荷した標的細胞として用いて行った。図6Aは、2種類の患者からのT細胞培養物が、PD-L101によりパルスしたT2細胞を効率的に溶解した一方、無関係のペプチドによりパルスしたT2細胞に対して細胞毒性が観察されなかったことを示している。更に、PD-L101又は無関係のHIVペプチドを、直接T細胞バルク培養物に添加し、培養物をFACSにより分析した。これにより、HLA-A2/PD-L101四量体+、CD107a+細胞の別個の集団が、PD-L101を添加した培養物において明らかとなった(図6B)。
【0288】
次に、PBMC中に存在するPD-L101特異的T細胞が細胞溶解機能を直接的に示すかを検査した。そのため、全員がPD-L101特異的IFN-γ放出T細胞を有する3人の黒色腫患者(MM.03、MM.53、及びMM.135)からのPBMCを、PD-L101に対する更なる反応性について、グランザイムB(GrB)ELISPOTを用いて分析した。PD-L101に対する応答は、3人の患者での検出において(但し、有意に達したのは2人のみ)、5×105個のPBMC当たり約100乃至300個のPD-L101特異的GrB放出細胞の頻度で検出することができた(図6C)。
【0289】
PD-L1+黒色腫細胞に対する細胞溶解活性
【0290】
次に、PD-L1+黒色腫細胞MM1312.07及びMM.909.06を死滅させる、PD-L101特異的CTLによる能力を検査した。PD-L101特異的CTL培養物は、両方の細胞株を死滅させたが、MM1312.07は、エフェクター対標的比30:1においてのみ効率的に死滅された(図7A)。CTL培養物は、PDL101特異性が高かった。2つの黒色腫細胞株MM1312.07及びMM.909.06によるPD-L1の発現を、FACSにより検査した。両方の細胞株がPD-L1を発現したが、MM1312.07は、非常に低い発現のみを示した(図7B)。これに一致して、IFN-γ処置は、両方の黒色腫細胞株の死滅を増加させた(図7A)。黒色腫細胞の認識の死滅を増加させるために、HLA-A2/PD-L101四量体結合磁気ビーズを用いて、PD-L101特異的CTLを濃縮した。結果的に生じたCTL培養物は、約78%の四量体陽性細胞からなり、黒色腫細胞種MM1312.07及びMM.909.06を非常に高い効率で死滅させた(図7C)。
【0291】
樹状細胞のPD-L1依存性溶解
【0292】
PD-L1は、免疫細胞において誘発することができる。したがって、次の非常に重要なステップとして、PD-L1発現成熟DCがPD-L1反応性CTLによる死滅に対する感受性も有するかという問題に取り組んだ。この概念を試験するために、CTL培養物を生成した同じドナーから自家DCを生成し、当該DCを、IL-1b、IL-6、TNF-a、及びPGE2からなる標準的な成熟カクテルの添加により成熟させた。2人の癌患者から生成した2種類のPD-L101特異的CTL培養物を検査した(図8A及び8B)。両方のCTLは、PD-L1発現成熟DC(mDC)を効果的に死滅させた(図8A及び8B)。加えて、異なるPD-L1 siRNA濃度を用いて、自家DCにおけるPD-L1タンパク質発現を下方制御し、これにより、PD-L1特異的CTL培養物による死滅から救助した(図8A及び8B)。対照として、mDCを、中程度GC陰性対照siRNAによりトランスフェクトした。これらのDCは、両方のPD-L101特異的T細胞培養物により死滅した(図8A及び8B)。mDCを死滅させるT細胞培養物中のPD-L101四量体陽性細胞のパーセンテージを、四量体染色により評価した。四量体複合体HLA-A2/PD-L101-PE/APC及びHLA-A2/HIVPE/APCを使用した。mDCを死滅させるT細胞培養物において46.92%及び71.69%のPD-L101四量体陽性細胞が同定された(それぞれ図8A及び8B)。タンパク質レベルでのPD-L1のノックダウンを検証するために、mDC上でのPD-L1表面発現を、siRNAトランスフェクションの24時間後に分析した(図8C)。これらの染色により、PD-L1 siRNAの使用が、濃度に依存する形で細胞内のPD-L1タンパク質発現のレベルを低減することが確認された(図8C)。死滅効率は、DCにより発現されたPD-L1の量と顕著に相関した。
【0293】
ノンプロフェッショナル抗原提示細胞によるPD-L1のTAP依存性交差提示
【0294】
PD-L1からの2本の長いポリペプチドについて、PDL19-28(FMTYWHLLNAFTVTVPKDL)を「PDLong1」とし、PDL1242-264(VILGAILLCLGVALTFIFRLRKG)を「PDLong2」として分析した。前者(PDLong1)のみが、PD-L101(PDL115-23、LLNAFTVTV)の配列を含む。PD-L101特異的CTLを、PD-L101、PDLong1、PDLong2、又は無関係のHIVペプチドによりパルスしたHLA-A2+ EBV形質転換B細胞株KIG-BCLに対して試験した。最小限のPD-L101ペプチドに加えて、PDLong1ペプチドにパルスされたB細胞も、PD-L101特異的CTLに認識された一方、PDLong2又はHIV対照ペプチドの何れかにパルスされたB細胞は、死滅されなかった(図9A)。KIG-BCL細胞は、PD-L1を発現しなかった(図9D)。同様に、T2細胞が長いPD-L1ペプチドを交差提示する能力を検査した。そのため、PD-L101特異的CTLを、PD-L101、PDLong1、PDLong2、又はHIVペプチドによりパルスしたT2細胞に対して試験した。T2細胞内でのTAP輸送体の不在にもかかわらず、PD-L101特異的CTLにより死滅したことから、PDL01ペプチドは、T2細胞により効率的に提示された(図9B)。死滅は、抗HLA-A2抗体の添加によりブロック可能であったことから、HLA-A2により制限された(図9C)。T2細胞は、PD-L1を発現しなかった(図9D)。最後に、PD-L101特異的CTLが、全長タンパク質により少なくとも3時間パルスしたKIG-BCL又はT2細胞を認識するかを評価した。KIG-BCLは、認識されなかったことから、明らかに全長タンパク質を交差提示することができなかった(図9)。しかしながら、驚くべきことに、全長タンパク質によりパルスしたT2細胞は、PD-L101特異的CTL(図9B)により認識され死滅した。従って、T2細胞は、PDLong1に加えて、全長組換えPD-L1タンパク質を取り込み、処理し、提示することができる。
【0295】
実施例4
【0296】
PD-L1ペプチドとの同時刺激がウイルス及び腫瘍関連抗原に対するT細胞の反応性を強化するかを調べるため、以下の実験の何れかを行った。
【0297】
自家PD-L1特異的T細胞との共培養
【0298】
PBMCを、50μg/mlウイルスペプチド(CMV pp65495-503(NLVPMVATV)、CMV IE1316-324(VLEETSVML)、又はFlu matrix p58-66(GILGFVFTL))によりin vitroで刺激した。40U/mlのIL-2を、2日目及び6日目に添加した。PBMCは、単独で培養するか、或いは、自家PD-L1特異的T細胞(PBMC対PD-L1特異的T細胞比2000:1)を6日目に添加した。9日目に、培養物を120U/mlのIL-2により刺激した。12日間の培養後、単独培養又はPD-L1特異的T細胞を添加した培養物中のウイルス特異的T細胞の数を、MHC四量体染色により比較した。培養物中のTregの数、IL-17A産生T細胞、及びCD4/CD8細胞比を更に比較した。対照として、PBMCを、無関係の特異性の自家CD8+T細胞と共培養した。
【0299】
PD-L1ペプチドによる同時刺激
【0300】
PBMCを、25μg/mlウイルス又は腫瘍関連抗原(CMV pp65495-503(NLVPMVATV)、CMV IE1316-324(VLEETSVML)、又はMART-126-35(EAAGIGILTV))によりin vitroで、25μg/mlのPD-L1ペプチド又は無関係のペプチド(HIV-1 pol476-484(ILKEPVHGV))との共培養において刺激した。40U/mlのIL-2を3日毎に添加した。7日毎に、培養物を、CMV又はMART-1ペプチドにPD-L1ペプチドを加えたもの、又はCMV又はMART-1ペプチドにHIV-1 pol476-484ペプチドを加えたものにより、それぞれ刺激した。細胞は、10倍、100倍、及び1000倍希釈のペプチドにより、2回目、3回目、及び4回目の刺激をそれぞれ行った。3回目乃至4回目の刺激後に、PD-L1ペプチド又はHIV-1 pol476-484ペプチドと共培養した培養物中のCMV又はMART-1-特異的T細胞の数をMHC四量体染色により比較した。培養物中のTregの数、IL-17A産生T細胞、及びCD4/CD8細胞比を更に比較した。
【符号の説明】
【0301】
[図1]
indirect IFNγ elispot: 間接IFNγ ELISPOT
PDL-101 specific spots per 5x10e5 PBMC: 5×10e5個のPBMC当たりのPDL-101特異的スポット
[図2]
PDL-101 specific spots per 5x10e5 PBMC: 5×10e5個のPBMC当たりのPDL-101特異的スポット
A
Direct IFNγ elispot: 直接IFNγ ELISPOT
B
indirect IFNγ elispot: 間接IFNγ ELISPOT
[図3]
Lysis(%): 溶解(%)
PDL101 specific T-cells: PDL101特異的T細胞
[図4]
A)
without peptide: ペプチド無し
PD-L101 peptide: PD-L101ペプチド
B)
p-value = 0.06: P値=0.06
PD-L101 specific IFN-γ releasing cells /5x105 PBMC: PD-L101特異的IFN-γ放出細胞/5×105個のPBMC
Cancer patients (n=23): 癌患者(n=23)
Healthy donnors (n=24): 健康なドナー(n=24)
C)及びD)
without peptide: ペプチド無し
PD-L101 peptide: PD-L101ペプチド
PD-L101 specific IFN-γ releasing cells /5x105 PBMC: PD-L101特異的IFN-γ放出細胞/5×105個のPBMC
[図5]
A)及びB)
without peptide: ペプチド無し
PD-L101 peptide: PD-L101ペプチド
PD-L101 specific IFN-γ releasing cells /9x105 PBMC: PD-L101特異的IFN-γ放出細胞/9×105個のPBMC
C)
Absorbance: 吸光度
Blank: ブランク
CMV peptide: CMVペプチド
HIV peptide: HIVペプチド
No UV: UV無し
No peptide: ペプチド無し
D)
Pre stimulation/ ex vivo: 刺激前/ex vivo
1st stimulation/ in vitro: 1回目の刺激/in vitro
3rd stimulation: 3回目の刺激
Multimer/tetramer-PE: 多量体/四量体-PE
PD-L1 T-cell culture: PD-L1 T細胞培養物
CD8-Pacific Blue/APC: CD8-パシフィックブルー/APC
[図6]
A)及びB)
% lysis: %溶解
C)
without peptide: ペプチド無し
PD-L101 peptide: PD-L101ペプチド
PDL-101 specific, Granzyme B releasing cells/5x105 PBMC: PDL-101特異的グランザイムB放出細胞/5×105個のPBMC
[図7]
A)
MM.07 with IFN-γ: IFN-γ有りのMM.07
MM.06 with IFN-γ: IFN-γ有りのMM.06
% lysis: %溶解
B)
Isotype: イソタイプ
C)
% lysis: %溶解
[図8]
A)及びB)
mDC-without siRNA: siRNA無しのmDC
mDC+control siRNA: mDC+対照siRNA
% lysis: %溶解
C)
control siRNA: 対照siRNA
[図9]
A)
PD-L1-protein: PD-L1タンパク質
% lysis of KIG BCL: KIG-BCLの%溶解
B)
PD-L1-protein: PD-L1タンパク質
% lysis of T2 cells: T2細胞の%溶解
C)
T2+PDLong1+anti HLA-A2 AB: T2+PDLong1+抗HLA-A2 AB
% lysis: %溶解
D)
Isotype: イソタイプ
T2-cells: T2-細胞
図1
図2
図3
図4-1】
図4-2】
図4-3】
図4-4】
図5-1】
図5-2】
図5-3】
図6-1】
図6-2】
図7-1】
図7-2】
図8-1】
図8-2】
図8-3】
図9-1】
図9-2】
【配列表】
[この文献には参照ファイルがあります.J-PlatPatにて入手可能です(IP Forceでは現在のところ参照ファイルは掲載していません)]