特許第6260024号(P6260024)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6260024
(24)【登録日】2017年12月22日
(45)【発行日】2018年1月17日
(54)【発明の名称】エレベータの巻上機
(51)【国際特許分類】
   B66B 11/08 20060101AFI20180104BHJP
   H02K 7/102 20060101ALI20180104BHJP
   H02K 5/10 20060101ALI20180104BHJP
   F16C 33/80 20060101ALI20180104BHJP
   F16N 31/00 20060101ALI20180104BHJP
【FI】
   B66B11/08 A
   B66B11/08 F
   H02K7/102
   H02K5/10 Z
   F16C33/80
   F16N31/00 A
   F16N31/00 B
【請求項の数】5
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2013-230801(P2013-230801)
(22)【出願日】2013年11月7日
(65)【公開番号】特開2015-89847(P2015-89847A)
(43)【公開日】2015年5月11日
【審査請求日】2016年10月28日
(73)【特許権者】
【識別番号】000006105
【氏名又は名称】株式会社明電舎
(74)【代理人】
【識別番号】100078499
【弁理士】
【氏名又は名称】光石 俊郎
(74)【代理人】
【識別番号】230112449
【弁護士】
【氏名又は名称】光石 春平
(74)【代理人】
【識別番号】100102945
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 康幸
(74)【代理人】
【識別番号】100120673
【弁理士】
【氏名又は名称】松元 洋
(74)【代理人】
【識別番号】100182224
【弁理士】
【氏名又は名称】山田 哲三
(72)【発明者】
【氏名】興梠 恵一
(72)【発明者】
【氏名】諏訪園 祥子
(72)【発明者】
【氏名】小笠原 仁
【審査官】 三宅 達
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2013/080269(WO,A1)
【文献】 特開2012−121699(JP,A)
【文献】 特開平03−223573(JP,A)
【文献】 実開昭59−194629(JP,U)
【文献】 実開昭62−050378(JP,U)
【文献】 実開平04−068260(JP,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B66B 11/08
F16C 33/80
F16N 31/00
H02K 5/10
H02K 7/102
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
モータと、前記モータにより回転されるシーブを有しており、
前記モータでは、第1軸受部と第2軸受部により回転自在に支持されたシャフトの一端側が、前記第1軸受部よりも外側に突出しており、
前記シーブは、前記シャフトのうち外部に突出した部分に嵌入するボス部と、前記ボス部に対して外周側に同心に配置されたロープ巻取部と、前記ボス部と前記ロープ巻取部とを連結する連結部と、前記ロープ巻取部の内周側であって前記モータ側から前記シーブ側に向かって軸方向に伸びる空洞空間である軸受部挿入部と、前記ロープ巻取部のうち前記モータ側の部分に一体的に形成されたブレーキディスクを有し、
前記第1軸受部が前記軸受部挿入部に挿入された状態で配置されている、エレベータの巻上機において、
前記シャフトに対して同心状態になるように配置されており、外周側部分は前記第1軸受部を備える第1ブラケットのうち前記シーブ側の面に固定されると共に、内周側部分は第1軸受部との間に第1油溜め空間となる隙間を形成する、円環板状の第1ガイドシールと、
前記第1油溜め空間に溜まる油を前記モータの内部空間側に抜き出す第1油抜き穴と、
からなる第1油ガイド構造を具備するとともに、
前記シャフトに対して同心状態になるように配置されており、外周側部分は前記連結部のうち前記モータ側の面に固定されると共に、内周側部分は前記ボス部との間に第2油溜め空間となる隙間を形成する、円環板状の第2ガイドシールと、
前記第2油溜め空間に溜まる油を前記連結部のうち反モータ側の面に抜き出す第2油抜き穴と、
からなる第2油ガイド構造を更に具備することを特徴とするエレベータの巻上機。
【請求項2】
モータと、前記モータにより回転されるシーブを有しており、
前記モータでは、第1軸受部と第2軸受部により回転自在に支持されたシャフトの一端側が、前記第1軸受部よりも外側に突出しており、
前記シーブは、前記シャフトのうち外部に突出した部分に嵌入するボス部と、前記ボス部に対して外周側に同心に配置されたロープ巻取部と、前記ボス部と前記ロープ巻取部とを連結する連結部と、前記ロープ巻取部の内周側であって前記モータ側から前記シーブ側に向かって軸方向に伸びる空洞空間である軸受部挿入部と、前記ロープ巻取部のうち前記モータ側の部分に一体的に形成されたブレーキディスクを有し、
前記第1軸受部が前記軸受部挿入部に挿入された状態で配置されている、エレベータの巻上機において、
前記シャフトに対して同心状態になるように配置されており、外周側部分は前記第1軸受部を備える第1ブラケットのうち前記シーブ側の面に固定されると共に、内周側部分は第1軸受部との間に第1油溜め空間となる隙間を形成する、円環板状の第1ガイドシールと、
前記第1油溜め空間に溜まる油を前記モータの内部空間側に抜き出す第1油抜き穴と、
からなる第1油ガイド構造を具備するとともに、
前記モータのケーシングの外周面のうち前記第1軸受部が備えられている部分からケーシング下端面に至る面がなだらかな下り斜面になっている油ガイド面を備えている第3油ガイド構造を更に具備することを特徴とするエレベータの巻上機。
【請求項3】
モータと、前記モータにより回転されるシーブを有しており、
前記モータでは、第1軸受部と第2軸受部により回転自在に支持されたシャフトの一端側が、前記第1軸受部よりも外側に突出しており、
前記シーブは、前記シャフトのうち外部に突出した部分に嵌入するボス部と、前記ボス部に対して外周側に同心に配置されたロープ巻取部と、前記ボス部と前記ロープ巻取部とを連結する連結部と、前記ロープ巻取部の内周側であって前記モータ側から前記シーブ側に向かって軸方向に伸びる空洞空間である軸受部挿入部と、前記ロープ巻取部のうち前記モータ側の部分に一体的に形成されたブレーキディスクを有し、
前記第1軸受部が前記軸受部挿入部に挿入された状態で配置されている、エレベータの巻上機において、
前記シャフトに対して同心状態になるように配置されており、外周側部分は前記第1軸受部を備える第1ブラケットのうち前記シーブ側の面に固定されると共に、内周側部分は第1軸受部との間に第1油溜め空間となる隙間を形成する、円環板状の第1ガイドシールと、
前記第1油溜め空間に溜まる油を前記モータの内部空間側に抜き出す第1油抜き穴と、
からなる第1油ガイド構造を具備するとともに、
前記モータのケーシングの外周面のうち前記第1軸受部が備えられている部分からケーシング下端面に至る面が、鉛直面と、鉛直方向に対して傾斜した傾斜面と、湾曲面とがつながって形成された油ガイド面となっている第3油ガイド構造、
または、前記モータのケーシングの外周面のうち前記第1軸受部が備えられている部分からケーシング下端面に至る面が、鉛直面と、鉛直方向に対して傾斜した傾斜面とがつながって形成された油ガイド面となっている第3油ガイド構造、
または、前記モータのケーシングの外周面のうち前記第1軸受部が備えられている部分からケーシング下端面に至る面が、鉛直面と、湾曲面とがつながって形成された油ガイド面となっている第3油ガイド構造、
を更に具備することを特徴とするエレベータの巻上機。
【請求項4】
請求項2または請求項3において、
前記シャフトに対して同心状態になるように配置されており、外周側部分は前記連結部のうち前記モータ側の面に固定されると共に、内周側部分は前記ボス部との間に第2油溜め空間となる隙間を形成する、円環板状の第2ガイドシールと、
前記第2油溜め空間に溜まる油を前記連結部のうち反モータ側の面に抜き出す第2油抜き穴と、
からなる第2油ガイド構造を更に具備することを特徴とするエレベータの巻上機。
【請求項5】
請求項1から請求項4のいずれか一項において、
前記第1油ガイド構造は、
前記第1ガイドシールの内周側の位置で且つ前記第1油溜め空間に対向する状態で、前記シャフトに取り付けられたフリンガーを更に有することを特徴とするエレベータの巻上機。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エレベータの巻上機に関し、軸受部から漏れ出た油が、ブレーキディスクに付着することを防止するように工夫したものである。
【背景技術】
【0002】
エレベータの巻上機は、モータとシーブ(ロープ車)を主要部材として構成されている。巻上機の種類としては、モータのシャフトにシーブを片持ち支持させたものがある。
上記のような、片持ち支持タイプの巻上機において、軸方向の寸法を小さくして小型軽量化を図る工夫がされてきた(例えば特許文献1参照)
【0003】
特許文献1に示されているような、片持ち支持タイプの巻上機の概要を、図3を参照して説明する。この巻上機1は、モータ10とシーブ20を主要部材として構成されている。
【0004】
モータ10のシャフトSは、第1ブラケットB1に備えた第1軸受部b1と、第2ブラケットB2に備えた第2軸受部b2により、回転自在に支持されている。モータ10のシャフトSの一端側(第1軸受部側)は、第1軸受部b1よりも外側に突出している。
軸受部b1,b2には潤滑油が封入されており、オイルシール(図示省略)により、軸受部b1,b2からの油漏れを防止している。
【0005】
シーブ20は、シャフトSのうちモータ10の外側に突出している部分に取り付けられている。シーブ20は、モータ10のシャフトSが嵌入する内周側のボス部21と、ボス部21に対して外周側に同心に配置された円筒状のロープ巻取部22と、ボス部21の外周面とロープ巻取部21の内周面とを連結してボス部21にロープ巻取部22を取り付けるスポーク部23とが、一体になって形成されている。
【0006】
モータ10によりシーブ20を回転すると、ロープ巻取部22の外周面であるロープ巻取面22aに対して、ロープが巻き取り、または、巻き戻しされる。
【0007】
更に、シーブ20には、ロープ巻取部22の内周側に、軸受部挿入部24が形成されている。軸受部挿入部24は、モータ側からシーブ側に向かって軸方向に伸びた空洞空間になっており、この軸受部挿入部24に第1軸受部b1が挿入された状態で配置されている。
このため、ロープ巻取部22の内周側の位置に、第1軸受部b1が配置されることになる。これにより、巻上機1の軸方法の寸法を小さくしている。
【0008】
なお、図3では図示を省略しているが、巻上機1には、シーブ20の回転を拘束するブレーキ装置も備えられている。
【0009】
巻上機の更なる小型化を目指して最近では、シーブ20と、ブレーキ装置のブレーキディスクとを一体化することも検討されている。
即ち、図3において点線で示すように、シーブ20のロープ巻取部22のうちモータ側の部分に、ブレーキディスクDを一体的に取り付けるのである。
なお、電磁クランパやブレーキパッドなどを備えたブレーキ本体部は、モータ10に固定設置される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開2010−37094号公報
【特許文献2】特開2009−280380号公報
【特許文献3】特開2005−162464号公報
【特許文献4】特開2008−162787号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
ところで図3に点線で示したように、片持ち支持タイプの巻上機1において、ロープ巻取部22のうちモータ側の部分に、ブレーキディスクDを取り付けた場合には、次のような問題が発生することが懸念される。
即ち、オイルシールの経年劣化や損傷等を原因として、第1軸受部b1から潤滑油が漏れ出た場合、漏れた油がボス部21の表面(モータ側の表面),スポーク部23の表面(モータ側の表面)及びロープ巻取部22の内周面を伝ってブレーキディスクDに到達する可能性がある。このようにして漏れた油がブレーキディスクDに到達してディスク面に付着するとブレーキが効き難くなるという問題がある。
【0012】
本発明は、上記従来技術に鑑み、シーブのロープ巻取部にブレーキディスクを一体的に取り付けている巻上機において、仮に軸受部から潤滑油が漏れても、この油がブレーキディスクに付着することのない、エレベータの巻上機を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0015】
上記課題を解決する第1の発明の構成は、
モータと、前記モータにより回転されるシーブを有しており、
前記モータでは、第1軸受部と第2軸受部により回転自在に支持されたシャフトの一端側が、前記第1軸受部よりも外側に突出しており、
前記シーブは、前記シャフトのうち外部に突出した部分に嵌入するボス部と、前記ボス部に対して外周側に同心に配置されたロープ巻取部と、前記ボス部と前記ロープ巻取部とを連結する連結部と、前記ロープ巻取部の内周側であって前記モータ側から前記シーブ側に向かって軸方向に伸びる空洞空間である軸受部挿入部と、前記ロープ巻取部のうち前記モータ側の部分に一体的に形成されたブレーキディスクを有し、
前記第1軸受部が前記軸受部挿入部に挿入された状態で配置されている、エレベータの巻上機において、
前記シャフトに対して同心状態になるように配置されており、外周側部分は前記第1軸受部を備える第1ブラケットのうち前記シーブ側の面に固定されると共に、内周側部分は第1軸受部との間に第1油溜め空間となる隙間を形成する、円環板状の第1ガイドシールと、
前記第1油溜め空間に溜まる油を前記モータの内部空間側に抜き出す第1油抜き穴と、
からなる第1油ガイド構造を具備するとともに、
前記シャフトに対して同心状態になるように配置されており、外周側部分は前記連結部のうち前記モータ側の面に固定されると共に、内周側部分は前記ボス部との間に第2油溜め空間となる隙間を形成する、円環板状の第2ガイドシールと、
前記第2油溜め空間に溜まる油を前記連結部のうち反モータ側の面に抜き出す第2油抜き穴と、
からなる第2油ガイド構造を更に具備することを特徴とする。
【0016】
また第2の発明の構成は、
モータと、前記モータにより回転されるシーブを有しており、
前記モータでは、第1軸受部と第2軸受部により回転自在に支持されたシャフトの一端側が、前記第1軸受部よりも外側に突出しており、
前記シーブは、前記シャフトのうち外部に突出した部分に嵌入するボス部と、前記ボス部に対して外周側に同心に配置されたロープ巻取部と、前記ボス部と前記ロープ巻取部とを連結する連結部と、前記ロープ巻取部の内周側であって前記モータ側から前記シーブ側に向かって軸方向に伸びる空洞空間である軸受部挿入部と、前記ロープ巻取部のうち前記モータ側の部分に一体的に形成されたブレーキディスクを有し、
前記第1軸受部が前記軸受部挿入部に挿入された状態で配置されている、エレベータの巻上機において、
前記シャフトに対して同心状態になるように配置されており、外周側部分は前記第1軸受部を備える第1ブラケットのうち前記シーブ側の面に固定されると共に、内周側部分は第1軸受部との間に第1油溜め空間となる隙間を形成する、円環板状の第1ガイドシールと、
前記第1油溜め空間に溜まる油を前記モータの内部空間側に抜き出す第1油抜き穴と、
からなる第1油ガイド構造を具備するとともに、
前記モータのケーシングの外周面のうち前記第1軸受部が備えられている部分からケーシング下端面に至る面がなだらかな下り斜面になっている油ガイド面を備えている第3油ガイド構造を更に具備することを特徴とする。
【0017】
また第3の発明の構成は、
モータと、前記モータにより回転されるシーブを有しており、
前記モータでは、第1軸受部と第2軸受部により回転自在に支持されたシャフトの一端側が、前記第1軸受部よりも外側に突出しており、
前記シーブは、前記シャフトのうち外部に突出した部分に嵌入するボス部と、前記ボス部に対して外周側に同心に配置されたロープ巻取部と、前記ボス部と前記ロープ巻取部とを連結する連結部と、前記ロープ巻取部の内周側であって前記モータ側から前記シーブ側に向かって軸方向に伸びる空洞空間である軸受部挿入部と、前記ロープ巻取部のうち前記モータ側の部分に一体的に形成されたブレーキディスクを有し、
前記第1軸受部が前記軸受部挿入部に挿入された状態で配置されている、エレベータの巻上機において、
前記シャフトに対して同心状態になるように配置されており、外周側部分は前記第1軸受部を備える第1ブラケットのうち前記シーブ側の面に固定されると共に、内周側部分は第1軸受部との間に第1油溜め空間となる隙間を形成する、円環板状の第1ガイドシールと、
前記第1油溜め空間に溜まる油を前記モータの内部空間側に抜き出す第1油抜き穴と、
からなる第1油ガイド構造を具備するとともに、
前記モータのケーシングの外周面のうち前記第1軸受部が備えられている部分からケーシング下端面に至る面が、鉛直面と、鉛直方向に対して傾斜した傾斜面と、湾曲面とがつながって形成された油ガイド面となっている第3油ガイド構造、
または、前記モータのケーシングの外周面のうち前記第1軸受部が備えられている部分からケーシング下端面に至る面が、鉛直面と、鉛直方向に対して傾斜した傾斜面とがつながって形成された油ガイド面となっている第3油ガイド構造、
または、前記モータのケーシングの外周面のうち前記第1軸受部が備えられている部分からケーシング下端面に至る面が、鉛直面と、湾曲面とがつながって形成された油ガイド面となっている第3油ガイド構造、
を更に具備することを特徴とする。
また第4の発明の構成は、第2又は第3の構成に加え、
前記シャフトに対して同心状態になるように配置されており、外周側部分は前記連結部のうち前記モータ側の面に固定されると共に、内周側部分は前記ボス部との間に第2油溜め空間となる隙間を形成する、円環板状の第2ガイドシールと、
前記第2油溜め空間に溜まる油を前記連結部のうち反モータ側の面に抜き出す第2油抜き穴と、
からなる第2油ガイド構造を更に具備することを特徴とする。
また第5の発明の構成は、第1から第4のいずれか一つの発明の構成に加え、
前記第1油ガイド構造は、
前記第1ガイドシールの内周側の位置で且つ前記第1油溜め空間に対向する状態で、前記シャフトに取り付けられたフリンガーを更に有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、シーブ側の軸受部から油が漏れ出たとしても、この油は油ガイド構造によりガイドされて流れ、ロープ巻取部に一体的に形成されたブレーキディスクに到達することはなく、ブレーキディスクに油が付着することはない。これにより、ブレーキの制動を確保することができ、エレベータの巻上機としての信頼性が向上する。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1】本発明の実施例に係るエレベータの巻上機を示す構成図。
図2】本発明の実施例に係るエレベータの巻上機に備えた油ガイド構造を示す構成図。
図3】従来技術に係るエレベータの巻上機を示す構成図。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明に係るエレベータの巻上機を、実施例に基づき詳細に説明する。
【0021】
図1は本発明の実施例に係るエレベータの巻上機101を示す構成図である。この巻上機101は、モータ110と、シーブ120と、基台130を主要部材として構成されている。
詳細は後述するが、この巻上機101には、シーブ側の軸受部から油が漏れ出したとしても、この油がディスクブレーキに付着することを防止する、第1〜第3の油ガイド構造を備えている。
【0022】
<巻上機の全体構成>
基台130には、モータ110が搭載・固定されている。
モータ110のケーシング111は、第1ブラケットB1と、第2ブラケットB2と、フレームFとで形成されている。第1ブラケットB1には第1軸受部b1が備えられ、第2ブラケットB2には第2軸受部b2が備えられている。
【0023】
回転子112が備えられたシャフトSは、第1軸受部b1及び第2軸受部b2により回転自在に支持されている。シャフトSの一端側(第1軸受部側)は、第1軸受部b1よりも外側に突出している。軸受部b1,b2には潤滑油が封入されており、オイルシール(図示省略)により、軸受部b1,b2からの油漏れを防止している。
フレームFの内周面には固定子113が備えられている。
【0024】
シーブ120は、シャフトSのうちモータ110の外側に突出している部分に取り付けられている。シーブ120は、モータ110のシャフトSが嵌入する内周側のボス部121と、ボス部121に対して外周側に同心に配置された円筒状のロープ巻取部122と、ボス部121の外周面とロープ巻取部121の内周面とを連結してボス部121にロープ巻取部122を取り付けるスポーク部(連結部)123と、ロープ巻取部122のうちモータ側の部分に一体的に形成されたブレーキディスクDを有している。つまり、シーブ120は、ブレーキディスクDが一体的に形成されたブレーキディスク付のシーブになっている
ロープ巻取部122の外周面は、ロープが巻き取り、または、巻き戻しされるロープ巻取面122aになっている。
【0025】
シーブ120には、ロープ巻取部122の内周側に、軸受部挿入部124が形成されている。軸受部挿入部124は、モータ側からシーブ側に向かって軸方向に伸びた円筒状の空洞空間になっており、この軸受部挿入部124に第1軸受部b1が挿入された状態で配置されている。
このため、ロープ巻取部122の内周側の位置に、第1軸受部b1が配置されることになる。これにより、巻上機101の軸方法の寸法を小さくしている。
【0026】
モータ110によりシーブ120を回転すると、ロープ巻取部122の外周面であるロープ巻取面122aに対して、ロープが巻き取り、または、巻き戻しされる。
なお、電磁クランパやブレーキパッドなどを備えたブレーキ本体部は、モータ110に固定・設置している。
【0027】
前述したように、軸受部b1,b2には、油漏れを防止するためのオイルシールが取り付けられているが、オイルシールの経年劣化や損傷等を原因として、第1軸受部b1から潤滑油が漏れ出た場合であっても、漏れた油がブレーキディスクDに到達することがないように、本実施例では、第1〜第3の油ガイド構造を備えている。
以下に、図1及び要部拡大図である図2を参照して、各油ガイド構造を説明する。
【0028】
<第1油ガイド構造>
第1油ガイド構造210は、第1ガイドシール211と、フリンガー212と、第1油抜き穴213と、ドレン穴214と、第1油溜め空間215により構成されている。
【0029】
第1ガイドシール211は、シャフトSに対して同心状態になるように配置された円環板状の部材である。第1ガイドシール211の外周側部分は、第1ブラケットB1のうちシーブ側の面に固定されている。第1ガイドシール211の内周側部分は、外周側部分に対して薄くなっており、第1軸受部b1との間で第1油溜め空間215となる隙間を形成している。
【0030】
フリンガー212は、シャフトSに取り付けられており、シャフトSと共に回転する。フリンガー212の配置位置は、径方向に関しては第1ガイドシール211の内周側であり、軸方向に関しては第1油溜め空間215が形成された位置に対応(対向)する位置である。
【0031】
第1油抜き穴213は、第1ブラケットB1に形成されており、第1油溜め空間215とモータ110(ケーシング111)の内部空間とを連通しており、第1油溜め空間215に溜まる油をモータ110(ケーシング111)の内部空間に抜き出すものである。
【0032】
ドレン穴214は、フレームFのうち下端面の位置に形成されており、モータ110(ケーシング111)の内部空間と外部空間とを連通している。
【0033】
なお、第1油ガイド構造210において、フリンガー212を省いた構造のものを採用することもできる。
更に、第1油ガイド構造210において、フリンガー212を省くとともに、フリンガー212の位置に、フェルトを配置する構成を採用することもできる。フェルトは、漏れ出た油を吸収するものであり、周方向に沿い一周する状態でガイドシール211に固定されて、シャフトSの外周面に接する状態で配置される。
【0034】
<第2油ガイド構造>
第2油ガイド構造220は、第2ガイドシール221と、第2油抜き穴222と、第2油溜め空間223により構成されている。
【0035】
第2ガイドシール221は、シャフトSに対して同心状態になるように配置された円環板状の部材である。第2ガイドシール221の外周側部分は、スポーク部(連結部)123のうちモータ側の面に固定されている。第2ガイドシール221の内周側部分は、外周側部分に対して薄くなっており、ボス部121との間で第2油溜め空間223となる隙間を形成している。
【0036】
第2油抜き穴222は、スポーク部(連結部)123を軸方向に貫通する状態で形成されており、第2油溜め空間215に溜まる油を、スポーク部(連結部)123のうち反モータ側の面に抜き出すものである。
【0037】
<第3油ガイド構造>
第3油ガイド構造230は、油ガイド面231を備えている。この油ガイド面231は、ケーシングFの外周面うち、第1軸受部b1が備えられている部分からフレーム下端面に至る面である。この油ガイド面231は、第1軸受部b1から漏れ出た油が滴となることなく流下することができるなだらかな下り斜面になっている。
つまり第3油ガイド構造230の油ガイド面231は、鉛直面と、鉛直方向に対して傾斜した傾斜面と、湾曲面とがつながって形成されており、水平面は有しておらず、また、角部分の角度が90度になっていることもない。
【0038】
なお、第3油ガイド構造230の油ガイド面231を、鉛直面と、鉛直方向に対して傾斜した傾斜面とをつなげて形成した面としてもよい。
また、第3油ガイド構造230の油ガイド面231を、鉛直面と、湾曲面とをつなげて形成した面としてもよい。
【0039】
<漏れ出た油の流れ経路>
オイルシールの経年劣化や損傷等を原因として、第1軸受部b1のうちシーブ側から潤滑油が漏れ出た場合には、漏れ出た油は、以下に説明するように、上述した3つの油ガイド構造210,220,230にガイドされて流れ、ブレーキディスクDの表面に到達することはない。
【0040】
先ず、第1油ガイド構造210での油の流れ経路を説明する。
第1軸受部b1のうちシーブ側から潤滑油が漏れ出た場合に、油の一部は第1軸受部b1の端面及びブラケットB1の表面を下方に向かって流れ、第1油溜め空間215に溜まる。また、残りの油は軸方向に向かって流れるが、フリンガー212が回転していないときにはフリンガー212の左側面(第1軸受部b1側の面)を伝い摘下し、フリンガー212が回転しているときには、遠心力により外周側に振り飛ばされて、第1油溜め空間215に溜まる。なお巻上機101のモータ110ひいてはフリンガー212は、常時回転しているわけではなく、ロープの巻き取り巻取・巻き戻しをする際のみ回転するので、フリンガー212が回転していない状態のときもある。
【0041】
第1油溜め空間215に溜まった油は、第1油抜き穴213を通りケーシング111内に流れて抜ける。ケーシング111に入った油は、ケーシング111の内表面をたどり下方に流れ、フレームFのうち下端面の位置に形成されたドレン穴214を介して外部に排出される。
【0042】
このようにして、第1油ガイド構造210によりガイドされて流れた油は、ブレーキディスクDから離れた位置に流れ、ブレーキディスクDに到達することはない。
【0043】
次に、第2油ガイド構造220での油の流れ経路を説明する。
第1油ガイド構造210の第1ガイドシール211とフリンガー212との間に微小な隙間がある。このため、この隙間を通ってシーブ側に向かって軸方向に、僅かながら油が流れ出てくることがある。
このようにして漏れ出てきた油は、ボス部121のモータ側の表面に沿い流れ、第2油溜り空間223に溜まる。
【0044】
第2油溜め空間223に溜まった油は、第2油抜き穴222を通り、スポーク部(連結部)123のうち反モータ側(反ブレーキディスク側)に流れて抜ける。
【0045】
このようにして、第2油ガイド構造220によりガイドされて流れた油は、ブレーキディスクDから離れた反ブレーキディスク側の位置に流れ、ブレーキディスクDに到達することはない。
【0046】
次に、第3油ガイド構造230での油の流れ経路を説明する。
第1油ガイド構造210の第1ガイドシール211とフリンガー212との間に微小な隙間がある。このため、この隙間を通り、第1ガイドシール211のシーブ側の面に沿い下方に向かって、僅かながら油が流れ出てくることがある。
このようにして漏れ出てきた油は、第1ガイドシール211のシーブ側の面、第3油ガイド構造230の油ガイド面231に沿って流下していく。油ガイド面231は、なだらかな下り斜面になっているため、油が滴となることなく流下するため、この油が滴下してブレーキディスクDに付着することはない。
【0047】
巻上機101では、ロープ巻取部122のうちモータ側の部分に一体的にブレーキディスクDが形成されているが、上述したように、第1軸受部b1から漏れ出た油を、第1〜第3の油ガイド構造210,220,230により、ブレーキディスクDから離れた位置にガイドして流すことができる。
この結果、漏れ出た油がブレーキディスクDに到達して付着することがなくなり、ブレーキの制動を確保することができる。
【符号の説明】
【0048】
101 巻上機
110 モータ
111 ケーシング
112 回転子
113 固定子
120 シーブ
121 ボス部
122 ロープ巻取部
123 スポーク部
124 軸受部挿入部
130 基台
210 油ガイド構造
211 第1ガイドシール
212 フリンガー
213 第1油抜き穴
214 ドレン穴
215 第1油溜め空間
220 油ガイド構造
221 第2ガイドシール
222 第2油抜き穴
223 第2油溜め空間
230 油ガイド構造
231 油ガイド面
B1,B2 ブラケット
b1,b2 軸受部
F フレーム
S シャフト
D ブレーキディスク
図1
図2
図3