【実施例】
【0033】
1.試料の調製
試料は、表1に示した濃度となるように、塩酸ポリヘキサニド(PHMB)、ε−ポリリジン(PL)、ラクトフェリシン(LFcin)及び/又はラクトフェリン(LF)を用い、2.5%グリセロール(Glycerol)溶液又はナトリウム塩を含有するリン酸緩衝生理食塩水(PBS溶液)に溶解させて調製した。
【0034】
【表1】
【0035】
2.細胞懸濁液の調製
(1)栄養細胞
アカントアメーバ(Acanthamoeba castellanii ATCC50370)栄養細胞懸濁液は、常法に従ってアカントアメーバ(Acanthamoeba castellanii ATCC50370)を培養し、得られたアカントアメーバの栄養細胞を1/4リンゲル(Ringer)溶液に約1×10
5cells/mL濃度となるように懸濁することで調製した。
【0036】
(2)シスト細胞
アカントアメーバ栄養細胞をシスト化培地で2週間培養して調製し、得られたアカントアメーバのシスト細胞を1/4リンゲル(Ringer)溶液に約1×10
5cells/mL濃度となるように懸濁することでシスト細胞懸濁液を調製した。
【0037】
3.細胞の処理方法
(1)栄養細胞
上記2.(1)で調製した栄養細胞懸濁液1mLを遠心分離し、回収した栄養細胞(1×10
5cells)に上記1.(1)で調製した各種試料1mLを添加し、30℃で1〜4時間保持することで該栄養細胞を各種試料で処理した。また、この処理液を遠心分離し、回収した処理アメーバに0.004%コンゴレッド(PBS溶液)1mLを添加し、30℃で15分間保持することでアメーバの染色を行った。この染色したアメーバを遠心分離によって回収し、該アメーバをPBS1mLに懸濁した後、フローサイトメーターを用いて蛍光強度を測定した。なお、蛍光強度の測定は、アルゴンレーザーを使用し、励起波長488nm、蛍光波長610nmで行った。この時、蛍光強度Logヒストグラムの左側ピーク(蛍光強度10
1未満)を生細胞、右側ピーク(蛍光強度10
1以上)を死細胞と判断し、アメーバの死細胞率(%)を算出した。
【0038】
(2)シスト細胞
各種試料5mLに上記2.(2)で調製したシスト細胞懸濁液50μLを添加し、23℃で1〜4時間保持することで該シスト細胞を処理した。また、この処理液に生残するアメーバ数をSpearmann−Karber法によって測定した。また、試料の代わりに1/4リンゲル(Ringer)溶液を用いて同様に試験を行うことで初発アメーバ数を求め、初発アメーバ数と生残するアメーバ数からアメーバ数の減少数を対数(Log reduction値)で示した。
【0039】
4.結果
(1)栄養細胞に対する塩酸ポリヘキサニド及びラクトフェリシンの殺菌効果
上記1.で調製した試料1〜5を用いて、これら試料の作用によるアカントアメーバ(Acanthamoeba castellanii ATCC50370)栄養細胞に対する死細胞率(%)を検討した。また、その結果を表2に示した。
【0040】
【表2】
【0041】
塩酸ポリヘキサニド(PHMB)とラクトフェリシン(LFcin)との組み合わせた場合について、塩酸ポリヘキサニド(PHMB)1ppm及びラクトフェリシン(LFcin)3ppmの場合(試料4)では、アカントアメーバ(Acanthamoeba castellanii ATCC50370)栄養細胞の死細胞率(%)が1時間処理では35.3±17.1%、4時間処理では45.3±9.0%と、塩酸ポリヘキサニド(PHMB)1ppm単独の場合(試料1)の19.2±6.8%(1時間処理)及び29.9±8.3%(4時間処理)やラクトフェリシン(LFcin)3ppm単独の場合(試料2)の11.9±2.4%(1時間処理)及び11.3±1.3%(4時間処理)の場合と比べてそれぞれ高い値を示した。
【0042】
また、塩酸ポリヘキサニド(PHMB)1ppm及びラクトフェリシン(LFcin)30ppmの場合(試料5)においても、該栄養細胞の死細胞率(%)が1時間処理では73.7±22.9%、4時間処理では85.5±19.3%と、塩酸ポリヘキサニド(PHMB)1ppm単独の場合(試料1)の19.2±6.8%(1時間処理)及び29.9±8.3%(4時間処理)やラクトフェリシン(LFcin)30ppm単独の場合(試料3)の72.3±23.3%(1時間処理)及び74.4±28.0%(4時間処理)の場合と比べてそれぞれ高い値を示した。
【0043】
以上のように、ラクトフェリシン(LFcin)は、濃度依存的にアカントアメーバの栄養細胞に対する殺菌効果が増強するとともに、塩酸ポリヘキサニド(PHMB)と組み合わせることでそれら単独の場合と比べて高い殺菌効果が得られ、塩酸ポリヘキサニド(PHMB)とラクトフェリシン(LFcin)との組み合わせによる相乗効果が認められた。また、ラクトフェリシン(LFcin)をアカントアメーバ(Acanthamoeba castellanii ATCC50370)栄養細胞に作用させた場合、処理時間が1時間の場合と4時間の場合との死細胞率(%)がほぼ同様の値を示したことから、ラクトフェリシン(LFcin)はアカントアメーバの栄養細胞を短時間で死滅させる効力があることが分かった。
【0044】
(2)栄養細胞の殺菌効果に及ぼす塩類の影響
上記1.で調製した試料14〜18を用いて、これら試料の作用によるアカントアメーバ(Acanthamoeba castellanii ATCC50370)栄養細胞に対する死細胞率(%)を検討した。また、その結果を表3に示した。
【0045】
【表3】
【0046】
ナトリウム塩濃度が0.9%であるリン酸緩衝生理食塩水(PBS溶液)を用いて試料を調製した場合(試料14〜試料18)、いずれの場合においてもアカントアメーバ(Acanthamoeba castellanii ATCC50370)栄養細胞の死細胞率(%)が1時間処理では1.5±0.8〜3.9±0.8%、4時間処理では3.7±1.8〜8.8±3.9%と、表2で示したナトリウム塩を含んでいない2.5%グリセロール溶液で試料を調製した場合(試料1〜5)と比べて低い値を示した。このように、ナトリウム塩濃度0.9%存在下では、アカントアメーバの栄養細胞に対する殺菌効果が低下することが分かった。
【0047】
(3)シスト細胞に対する塩酸ポリヘキサニド及びラクトフェリシンの殺菌効果
上記1.で調製した試料1〜7を用いて、これら試料の作用によるアカントアメーバ(Acanthamoeba castellanii ATCC50370)シスト細胞に対するLog reduction値を検討した。なお、Log reduction値とは、初発のアメーバ数がどのくらい減少したかを対数で示した値をいう。例えば、Log reduction値が1の場合では初発のアメーバ数が1/10になったことを意味し、Log reduction値が2では初発のアメーバ数が1/100になったことを意味する。また、その結果を表4に示した。
【0048】
【表4】
【0049】
塩酸ポリヘキサニド(PHMB)とラクトフェリシン(LFcin)とを組み合わせた場合について、塩酸ポリヘキサニド(PHMB)1ppm及びラクトフェリシン(LFcin)3ppmの場合(試料4)では、アカントアメーバ(Acanthamoeba castellanii ATCC50370)シスト細胞のLog reduction値が1時間処理では0.92、4時間処理では1.25と、塩酸ポリヘキサニド(PHMB)1ppm単独の場合(試料1)の0.58(1時間処理)及び1.16(4時間処理)やラクトフェリシン(LFcin)3ppm単独の場合(試料2)の0.17(1時間処理)及び−0.08(4時間処理)の場合と比べてそれぞれ高い値を示した。
【0050】
また、塩酸ポリヘキサニド(PHMB)1ppm及びラクトフェリシン(LFcin)30ppmの場合(試料5)においても、該シスト細胞のLog reduction値が1時間処理では0.67、4時間処理では1.49と、塩酸ポリヘキサニド(PHMB)1ppm単独の場合(試料1)の0.58(1時間処理)及び1.16(4時間処理)やラクトフェリシン(LFcin)30ppm単独の場合(試料3)の0.17(1時間処理)及び0.08(4時間処理)の場合と比べてそれぞれ高い値を示した。
【0051】
一方、塩酸ポリヘキサニド(PHMB)とラクトフェリン(LF)とを組み合わせた場合、すなわち、塩酸ポリヘキサニド(PHMB)1ppm及びラクトフェリン(LF)8000ppmの場合(試料7)では、アカントアメーバ(Acanthamoeba castellanii ATCC50370)シスト細胞のLog reduction値が1時間処理では0.08、4時間処理では0.08と、該シスト細胞に対して殺菌効果は認められなかった。
【0052】
以上のように、シスト細胞においても栄養細胞の場合と同様に、塩酸ポリヘキサニド(PHMB)とラクトフェリシン(LFcin)とを組み合わせることにより、それら単独の場合と比べて高い殺菌効果が得られ、塩酸ポリヘキサニド(PHMB)とラクトフェリシン(LFcin)との組み合わせによる相乗効果が認められた。また、時間の経過とともにLog reduction値が大きくなり、シスト細胞の殺菌効果は時間依存性が認められた。
【0053】
一方、ラクトフェリン(LF)は、該シスト細胞に対して殺菌効果を示さず、また、塩酸ポリヘキサニド(PHMB)と組み合わせた場合においても殺菌効果は認められなかった。この要因としては、ラクトフェリンの分子量がラクトフェリシンの分子量よりも大きいことによると推察された。
【0054】
(4)シスト細胞の殺菌効果に及ぼす塩類の影響
上記1.で調製した試料14〜20を用いて、これら試料の作用によるアカントアメーバ(Acanthamoeba castellanii ATCC50370)シスト細胞に対するLog reduction値を検討した。また、その結果を表5に示した。
【0055】
【表5】
【0056】
ナトリウム塩濃度が0.9%であるリン酸緩衝生理食塩水(PBS溶液)を用いて試料を調製した場合(試料14〜試料20)、いずれの場合においてもアカントアメーバ(Acanthamoeba castellanii ATCC50370)シスト細胞のLog reduction値が1時間処理では−0.33〜0.17、4時間処理では−0.33〜0.25と、表4で示したナトリウム塩を含んでいない2.5%グリセロール溶液で試料を調製した場合(試料1〜7)と比べて低い値を示した。このように、ナトリウム塩濃度0.9%存在下では、アカントアメーバの栄養細胞に対する殺菌効果が低下することが分かった。
【0057】
(5)栄養細胞に対するε−ポリリジン及びラクトフェリシン作用
上記1.で調製した試料8〜13を用いて、これら試料の作用によるアカントアメーバ(Acanthamoeba castellanii ATCC50370)栄養細胞に対する死細胞率(%)を検討した。また、その結果を表6に示した。
【0058】
【表6】
【0059】
ε−ポリリジン(PL)とラクトフェリシン(LFcin)とを組み合わせた場合について、ε−ポリリジン(PL)5ppm及びラクトフェリシン(LFcin)3ppmの場合(試料9)では、アカントアメーバ(Acanthamoeba castellanii ATCC50370)栄養細胞の死細胞率(%)が1時間処理では34.1%、4時間処理では78.8%と、ε−ポリリジン(PL)5ppm単独の場合(試料8)の21.0%(1時間処理)及び39.3%(4時間処理)や表2で示したラクトフェリシン(LFcin)3ppm単独の場合(試料2)の11.9±2.4%(1時間処理)及び11.3±1.3%(4時間処理)の場合と比べてそれぞれ高い値を示した。
【0060】
また、ε−ポリリジン(PL)5ppm及びラクトフェリシン(LFcin)30ppmの場合(試料10)においても、該栄養細胞の死細胞率(%)が1時間処理では91.8%、4時間処理では92.2%と、ε−ポリリジン(PL)5ppm単独の場合(試料8)の21.0%(1時間処理)及び39.3%(4時間処理)や表2で示したラクトフェリシン(LFcin)30ppm単独の場合(試料3)の72.3±23.3%(1時間処理)及び74.4±28.0%(4時間処理)の場合と比べてそれぞれ高い値を示した。
【0061】
さらに、ε−ポリリジン(PL)10ppm及びラクトフェリシン(LFcin)3ppmの場合(試料12)では、該栄養細胞の死細胞率(%)が1時間処理では89.1%、4時間処理では83.2%と、ε−ポリリジン(PL)10ppm単独の場合(試料11)の44.6%(1時間処理)及び72.4%(4時間処理)や表2で示したラクトフェリシン(LFcin)3ppm単独の場合(試料2)の11.9±2.4%(1時間処理)及び11.3±1.3%(4時間処理)の場合と比べてそれぞれ高い値を示した。
【0062】
さらにまた、ε−ポリリジン(PL)10ppm及びラクトフェリシン(LFcin)30ppmの場合(試料13)においても、該栄養細胞の死細胞率(%)が1時間処理では84.9%、4時間処理では87.9%と、ε−ポリリジン(PL)10ppm単独の場合(試料11)の44.6%(1時間処理)及び72.4%(4時間処理)や表2で示したラクトフェリシン(LFcin)30ppm単独の場合(試料3)の72.3±23.3%(1時間処理)及び74.4±28.0%(4時間処理)の場合と比べてそれぞれ高い値を示した。
【0063】
以上のように、ε−ポリリジン(PL)とラクトフェリシン(LFcin)と組み合わせることでそれら単独の場合と比べて高い殺菌効果が得られ、塩酸ポリヘキサニド(PHMB)とラクトフェリシン(LFcin)との組み合わせによる相乗効果が認められた。また、ε−ポリリジン(PL)は、濃度依存的にアカントアメーバの栄養細胞に対する殺菌効果が増強することも分かった。
【0064】
(6)毒性試験
上記1.で調製した試料1〜5について、常法に従い、それらの細胞毒性試験(コロニー形成阻害試験)を行った。すなわち、1ウェルあたり約50cellsのV79細胞(JCRB0630)を播種した24ウェルプレートを24時間保持した後、各試料を10容量%の割合でMO5培地と混合したものを各ウェルに置換し、炭酸ガス培養装置内で5%CO
2条件下で37℃で6日間培養を行い、これらのコロニー数を測定した。この時、対照として2.5%グリセロール(Glycerol)溶液を用い、比較例として過酸化水素を含有するコンタクトレンズ用ケア剤であるAO sept Clear Care(CIBA VISION製;Lot No.10175)を使用した。なお、コロニー形成率(%)は、対照の場合のコロニー数を100%として算出した。また、その結果を表7に示した。
【0065】
【表7】
【0066】
表7に示したように、過酸化水素を含有するAO sept Clear Care(CIBA VISION製;Lot No.10175)では、コロニー形成率(%)が0%と強い細胞毒性が認められたが、試料1〜5の全てにおいては、コロニー形成率(%)が87〜110%と高いコロニー形成率(%)を示しており、塩酸ポリヘキサニド(PHMB)、ラクトフェリシン(LFcin)及びそれらの組み合わせたものについては細胞毒性が認められなかった。