特許第6260042号(P6260042)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6260042抗アカントアメーバ用組成物及び該抗アカントアメーバ用組成物を含有する眼科用剤
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6260042
(24)【登録日】2017年12月22日
(45)【発行日】2018年1月17日
(54)【発明の名称】抗アカントアメーバ用組成物及び該抗アカントアメーバ用組成物を含有する眼科用剤
(51)【国際特許分類】
   A61K 38/40 20060101AFI20180104BHJP
   A61K 31/785 20060101ALI20180104BHJP
   A61P 33/04 20060101ALI20180104BHJP
   A61P 27/02 20060101ALI20180104BHJP
   A61L 12/00 20060101ALI20180104BHJP
   A01N 61/00 20060101ALN20180104BHJP
   A01N 63/00 20060101ALN20180104BHJP
   A01P 1/00 20060101ALN20180104BHJP
   A01N 47/44 20060101ALN20180104BHJP
【FI】
   A61K38/40
   A61K31/785
   A61P33/04
   A61P27/02
   A61L12/00
   !A01N61/00 D
   !A01N63/00 A
   !A01P1/00
   !A01N47/44
【請求項の数】7
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2015-519518(P2015-519518)
(86)(22)【出願日】2013年5月27日
(86)【国際出願番号】JP2013064665
(87)【国際公開番号】WO2014192068
(87)【国際公開日】20141204
【審査請求日】2016年5月25日
(73)【特許権者】
【識別番号】593171592
【氏名又は名称】学校法人玉川学園
(74)【代理人】
【識別番号】100122574
【弁理士】
【氏名又は名称】吉永 貴大
(72)【発明者】
【氏名】今安 正樹
(72)【発明者】
【氏名】野町 美弥
(72)【発明者】
【氏名】冨田 信一
【審査官】 山村 祥子
(56)【参考文献】
【文献】 特開2011−246458(JP,A)
【文献】 国際公開第2012/098653(WO,A1)
【文献】 特開2011−219445(JP,A)
【文献】 特開2002−244089(JP,A)
【文献】 特開2002−143277(JP,A)
【文献】 国際公開第2011/112478(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 38/40
A61K 31/785
A61L 12/00
A61P 27/02
A61P 33/04
A01N 47/44
A01N 61/00
A01N 63/00
A01P 1/00
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
アカントアメーバの栄養細胞及びシスト細胞に対して殺菌作用を有する抗アカントアメーバ用組成物であって、
塩酸ポリヘキサニドと、ラクトフェリシンとを有効成分として含有することを特徴とする、抗アカントアメーバ用組成物。
【請求項2】
前記塩酸ポリヘキサニドの濃度が少なくとも0.1ppmである、請求項1に記載の抗アカントアメーバ用組成物。
【請求項3】
前記ラクトフェリシンの濃度が少なくとも1.5ppmである、請求項1又は2に記載の抗アカントアメーバ用組成物。
【請求項4】
請求項1〜のいずれか1項に記載の抗アカントアメーバ用組成物を含有する、眼科用剤。
【請求項5】
コンタクトレンズ用多目的剤である請求項に記載の眼科用剤。
【請求項6】
アカントアメーバ角膜炎の治療剤である請求項に記載の眼科用剤。
【請求項7】
点眼剤である請求項に記載の眼科用剤。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アカントアメーバの栄養細胞及びシスト細胞のいずれに対しても高い殺菌作用を有する抗アカントアメーバ用組成物及び該抗アカントアメーバ用組成物を含有する眼科用剤に関する。
【背景技術】
【0002】
アカントアメーバ(Acanthamoeba)による角膜炎は、近年、症例数が増えてきたことで注目されている眼疾病であり、重篤な場合は失明するおそれもある。この疾病はソフトコンタクトレンズ装着者に多く、手入れの簡便化が原因の1つだと考えられている。これまで、ソフトコンタクトレンズの手入れは煮沸が主流であったが、この10年ほどでコンタクトレンズ用多目的剤(Multi Purpose Solution;MPS)による手入れ方法が普及した。MPSは1液でレンズの洗浄、すすぎ、消毒、保存が可能な溶液であるが、アカントアメーバ(Acanthamoeba)細胞には無効である。
【0003】
従来、抗アカントアメーバ効果を有する組成物としては、例えば、ε−ポリリジンを有効成分とするコンタクトレンズ用抗アカントアメーバ消毒・保存剤(特許文献1)、蛋白質分解酵素、陰イオン界面活性剤、非還元性多価アルコール、ホウ酸系緩衝剤、水溶性高分子化合物の組み合わせからなるコンタクトレンズ用液剤組成物(特許文献2)及び4−ヘキシルレゾルシノールを有効成分とするアカントアメーバ不活性化剤(特許文献3)などが知られている。
【0004】
また、本発明者は、ラクトフェリン又はラクトフェリシンが優れたアカントアメーバに対する抗アメーバ作用(殺アメーバ作用及びシスト形成阻害作用)を有することを見出し、ラクトフェリン又はラクトフェリシンを有効成分として含有する抗アカントアメーバ用組成物を提案した(特許文献4)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2002−143277号公報
【特許文献2】特開2003−057610号公報
【特許文献3】特開平8−225444号公報
【特許文献4】特開2011−246458号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
アカントアメーバには栄養型(栄養細胞)とシスト型(シスト細胞)の二形態が存在する。アカントアメーバの栄養細胞は、環境に存在する細菌を常食し二分裂で増殖する特徴を持ち、薬剤に対する感受性も高く、消毒は比較的容易である。しかし、環境悪化及び食料源の枯渇などの自分が住みにくい環境となると、水、酸素、炭酸ガスなどごく低分子の物質以外はほとんど透過侵入せず、内壁が薬物耐性に富む頑強な二重壁を形成したシスト細胞に変化する。このシスト期のアカントアメーバを消毒することは非常に困難であり、アカントアメーバのシスト細胞に対しても高い抗アメーバ作用を有する薬剤が求められている。
【0007】
そこで、本発明は、カチオン性高分子殺菌剤とラクトフェリシンとの作用により、アカントアメーバの栄養細胞及びシスト細胞のいずれに対しても高い殺菌作用を有する抗アカントアメーバ用組成物及び該抗アカントアメーバ用組成物を含有する眼科用剤に関する技術を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らが鋭意検討した結果、カチオン性高分子殺菌剤とラクトフェリシンとを作用させることにより、アカントアメーバの栄養細胞及びシスト細胞のいずれに対しても高い殺菌作用を有するとの知見を得た。
【0009】
本発明は、かかる知見に基づいてなされたものであり、カチオン性高分子殺菌剤とラクトフェリシンとを有効成分として含有することを特徴とする、抗アカントアメーバ用組成物を提供するものである。
【0010】
また、本発明は、前記抗アカントアメーバ用組成物を含有する、眼科用剤を提供するものである。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、カチオン性高分子殺菌剤とラクトフェリシンとがアカントアメーバの栄養細胞及びシスト細胞に対して高い殺菌作用を有するため、アカントアメーバの汚染によって引き起こされる種々の感染、例えば、アカントアメーバ角膜炎などを防止する眼科用剤として利用することできる。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明の抗アカントアメーバ用組成物は、カチオン性高分子殺菌剤とラクトフェリシンとを有効成分として含有する。
【0013】
前記カチオン性高分子殺菌剤は、本発明の目的及び効果を損なわない限り、特に制限されないが、例えば、塩酸ポリヘキサニド(PHMB)、ε−ポリリジン、ポリクオタニウム類を挙げることができる。
【0014】
前記ラクトフェリシンは、ウシ由来のラクトフェリンをペプシンによって酵素分解した酵素分解物から精製されるペプチドであって、そのアミノ酸配列がPhe−Lys−Cys−Arg−Arg−Trp−Gln−Trp−Arg−Met−Lys−Lys−Leu−Gly−Ala−Pro−Ser−Ile−Thr−Cys−Val−Arg−Arg−Ala−Phe(ウシ由来ラクトフェリンのN末端アミノ酸から17〜41番目のアミノ酸配列に相当するアミノ酸25残基からなるペプチド)又はPhe−Lys−Cys−Arg−Arg−Trp−Gln−Trp−Arg−Met−Lys−Lys−Leu−Gly−Ala−Pro−Ser−Ile−Thr−Cys−Val−Arg−Arg−Ala−Phe−Ala(ウシ由来ラクトフェリンのN末端アミノ酸から17〜42番目のアミノ酸配列に相当するアミノ酸26残基からなるペプチド)のものをいう。なお、アミノ酸はすべてL型である。
【0015】
本実施形態における抗アカントアメーバ用組成物において、カチオン性高分子殺菌剤の濃度は、アカントアメーバの殺菌効果の観点から、少なくとも0.1ppmであることが好ましい。但し、必要以上に高濃度にしてもアカントアメーバの殺菌作用に差異はないため、上限は1000ppmとする。
【0016】
また、ラクトフェリシンの濃度は、アカントアメーバの殺菌効果の観点から、少なくとも1.5ppmであることが好ましい。但し、必要以上に高濃度にしてもアカントアメーバの殺菌作用に差異はないため、上限は100ppmとする。
【0017】
本実施形態の抗アカントアメーバ用組成物は、カチオン性高分子殺菌剤とラクトフェリシンとを滅菌水やグリセロール溶液等のナトリウム塩を含まない溶媒に添加し混合することで調製することができる。また、ナトリウム塩を含有する溶媒を用いて調製する場合は、ナトリウム塩によってアカントアメーバの殺菌作用が低下するため、ナトリウム塩の濃度を0.1%未満となるように調製する。
【0018】
本実施形態の抗アカントアメーバ用組成物は、本発明の目的及び効果を損なわない限り、該抗アカントアメーバ用組成物をそれ自体公知の薬理学的に許容され得る担体、賦形剤、希釈剤などと混合し、公知の方法に従って、例えば、眼科用剤などの形態で非経口的に投与することができる。
【0019】
前記眼科用剤は、医薬用の製剤に限らず、コンタクトレンズ用剤などの非医薬用の製剤も含み、例えば、点眼薬、洗眼薬、眼軟膏、コンタクトレンズ用剤(洗浄液、保存液、すすぎ液、消毒液、MPS等)等を挙げることができる。
【0020】
本実施形態の抗アカントアメーバ用組成物を眼科用剤として用いる場合、本発明の目的及び効果を損なわない限り、眼科用剤に通常配合される緩衝剤、等張化剤、防腐剤、pH調整剤、増粘剤、キレート剤、洗浄剤、基剤などの添加剤を適宜添加してもよい。
【0021】
緩衝剤としては、例えば、ホウ酸、トリスヒドロキシメチルアミノメタン、酒石酸などのナトリウム塩を含まない緩衝剤を挙げることができる。これらの緩衝剤は、単独で又は併用して用いることができる。また、緩衝材の濃度は、使用目的等に応じて、適宜設定することができる。
【0022】
等張化剤としては、例えば、ソルビトール、グルコース、マンニトールなどの糖類、グリセリン、ポリエチレングリコール、プロピレングリコールなどの多価アルコール類などを挙げることができる。これらの等張化剤は、単独で又は併用して用いることができる。また、等張化剤の濃度は、使用目的等に応じて、適宜設定することができる。
【0023】
防腐剤としては、例えば、塩化ベンザルコニウム、塩化ベンゼトニウム、パラオキシ安息香酸メチル,パラオキシ安息香酸エチルなどのパラオキシ安息香酸エステル類、ベンジルアルコール、フェネチルアルコール、ソルビン酸、チメロサール、クロロブタノールなどを挙げることができる。これらの防腐剤は、単独で又は併用して用いることができる。また、防腐剤の濃度は、使用目的等に応じて、適宜設定することができる。
【0024】
pH調整剤としては、例えば、塩酸、酢酸、リン酸などを挙げることができる。これらのpH調整剤は、単独で又は併用して用いることができる。また、pH調製剤の濃度は、使用目的等に応じて、適宜設定することができる。
【0025】
増粘剤としては、例えば、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、メチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、カルボキシメチルセルロースなどを挙げることができる。これらの増粘剤は、単独で又は併用して用いることができる。また、増粘剤の濃度は、使用目的等に応じて、適宜設定することができる。
【0026】
キレート剤としては、例えば、エチレンジアミン四酢酸、グリコールエーテルジアミン四酢酸、テトラアザシクロドデカン−テトラ酢酸、エチレンジアミンジコハク酸などを挙げることができる。これらのキレート剤は、単独で又は併用して用いることができる。また、キレート剤の濃度は、使用目的等に応じて、適宜設定することができる。
【0027】
洗浄剤としては、例えば、ステアリルジメチルベンジルアンモニウムクロリドなどの陰イオン界面活性剤、ラウリルジメチルカルボキシメチルベタインなどの両性界面活性剤、ポリソルベート80などの非イオン界面活性剤などが挙げられる。これらの洗浄剤は、単独で又は併用して用いることができる。また、洗浄剤の濃度は、使用目的等に応じて、適宜設定することができる。
【0028】
基剤としては、例えば、ワセリン、パラフィン、ポリエチレングリコールなどを挙げることができる。これらの基剤は、単独で又は併用して用いることができる。また、基剤の濃度は、使用目的等に応じて、適宜設定することができる。
【0029】
本実施形態の抗アカントアメーバ用組成物を眼科用剤として用いる場合、本発明の目的及び効果を損なわない限り、さらに、他の疾患治療剤、例えば、抗菌剤、抗真菌剤等の1種又は2種以上を適宜加えてもよい。
【0030】
本実施形態の眼科用剤を点眼剤として使用する場合は、1日あたり1回〜数回に分けて、1回あたり1滴〜数滴を投与することができる。
【0031】
本実施形態の眼科用剤をコンタクトレンズ用多目的剤として使用する場合は、例えば、対象となるコンタクトレンズを、カチオン性高分子殺菌剤とラクトフェリシンとを含有するコンタクトレンズ用多目的剤溶液に10分以上、好ましくは1時間以上浸漬することで消毒を行う。充分に消毒を行った後に、そのまま眼に装着するか、前記コンタクトレンズ用多目的剤、生理食塩水又はすすぎ液にてコンタクトレンズをすすいだ後に眼に装着してもよい。蛋白質や脂肪汚れがある場合には、消毒開始前に前記コンタクトレンズ用多目的剤にて、レンズを予め擦り洗いしてもよい。なお、本実施形態において「コンタクトレンズ用多目的剤」とは、コンタクトレンズの洗浄、すすぎ、保存、消毒を1液で行うことのできる消毒液をいう。
【0032】
なお、本発明において対象となるコンタクトレンズとしては特に制限はなく、含水性ソフトコンタクトレンズ、非含水性ソフトコンタクトレンズ又はハードコンタクトレンズなどに対して本発明を適用することができる。
【実施例】
【0033】
1.試料の調製
試料は、表1に示した濃度となるように、塩酸ポリヘキサニド(PHMB)、ε−ポリリジン(PL)、ラクトフェリシン(LFcin)及び/又はラクトフェリン(LF)を用い、2.5%グリセロール(Glycerol)溶液又はナトリウム塩を含有するリン酸緩衝生理食塩水(PBS溶液)に溶解させて調製した。
【0034】
【表1】
【0035】
2.細胞懸濁液の調製
(1)栄養細胞
アカントアメーバ(Acanthamoeba castellanii ATCC50370)栄養細胞懸濁液は、常法に従ってアカントアメーバ(Acanthamoeba castellanii ATCC50370)を培養し、得られたアカントアメーバの栄養細胞を1/4リンゲル(Ringer)溶液に約1×10cells/mL濃度となるように懸濁することで調製した。
【0036】
(2)シスト細胞
アカントアメーバ栄養細胞をシスト化培地で2週間培養して調製し、得られたアカントアメーバのシスト細胞を1/4リンゲル(Ringer)溶液に約1×10cells/mL濃度となるように懸濁することでシスト細胞懸濁液を調製した。
【0037】
3.細胞の処理方法
(1)栄養細胞
上記2.(1)で調製した栄養細胞懸濁液1mLを遠心分離し、回収した栄養細胞(1×10cells)に上記1.(1)で調製した各種試料1mLを添加し、30℃で1〜4時間保持することで該栄養細胞を各種試料で処理した。また、この処理液を遠心分離し、回収した処理アメーバに0.004%コンゴレッド(PBS溶液)1mLを添加し、30℃で15分間保持することでアメーバの染色を行った。この染色したアメーバを遠心分離によって回収し、該アメーバをPBS1mLに懸濁した後、フローサイトメーターを用いて蛍光強度を測定した。なお、蛍光強度の測定は、アルゴンレーザーを使用し、励起波長488nm、蛍光波長610nmで行った。この時、蛍光強度Logヒストグラムの左側ピーク(蛍光強度10未満)を生細胞、右側ピーク(蛍光強度10以上)を死細胞と判断し、アメーバの死細胞率(%)を算出した。
【0038】
(2)シスト細胞
各種試料5mLに上記2.(2)で調製したシスト細胞懸濁液50μLを添加し、23℃で1〜4時間保持することで該シスト細胞を処理した。また、この処理液に生残するアメーバ数をSpearmann−Karber法によって測定した。また、試料の代わりに1/4リンゲル(Ringer)溶液を用いて同様に試験を行うことで初発アメーバ数を求め、初発アメーバ数と生残するアメーバ数からアメーバ数の減少数を対数(Log reduction値)で示した。
【0039】
4.結果
(1)栄養細胞に対する塩酸ポリヘキサニド及びラクトフェリシンの殺菌効果
上記1.で調製した試料1〜5を用いて、これら試料の作用によるアカントアメーバ(Acanthamoeba castellanii ATCC50370)栄養細胞に対する死細胞率(%)を検討した。また、その結果を表2に示した。
【0040】
【表2】
【0041】
塩酸ポリヘキサニド(PHMB)とラクトフェリシン(LFcin)との組み合わせた場合について、塩酸ポリヘキサニド(PHMB)1ppm及びラクトフェリシン(LFcin)3ppmの場合(試料4)では、アカントアメーバ(Acanthamoeba castellanii ATCC50370)栄養細胞の死細胞率(%)が1時間処理では35.3±17.1%、4時間処理では45.3±9.0%と、塩酸ポリヘキサニド(PHMB)1ppm単独の場合(試料1)の19.2±6.8%(1時間処理)及び29.9±8.3%(4時間処理)やラクトフェリシン(LFcin)3ppm単独の場合(試料2)の11.9±2.4%(1時間処理)及び11.3±1.3%(4時間処理)の場合と比べてそれぞれ高い値を示した。
【0042】
また、塩酸ポリヘキサニド(PHMB)1ppm及びラクトフェリシン(LFcin)30ppmの場合(試料5)においても、該栄養細胞の死細胞率(%)が1時間処理では73.7±22.9%、4時間処理では85.5±19.3%と、塩酸ポリヘキサニド(PHMB)1ppm単独の場合(試料1)の19.2±6.8%(1時間処理)及び29.9±8.3%(4時間処理)やラクトフェリシン(LFcin)30ppm単独の場合(試料3)の72.3±23.3%(1時間処理)及び74.4±28.0%(4時間処理)の場合と比べてそれぞれ高い値を示した。
【0043】
以上のように、ラクトフェリシン(LFcin)は、濃度依存的にアカントアメーバの栄養細胞に対する殺菌効果が増強するとともに、塩酸ポリヘキサニド(PHMB)と組み合わせることでそれら単独の場合と比べて高い殺菌効果が得られ、塩酸ポリヘキサニド(PHMB)とラクトフェリシン(LFcin)との組み合わせによる相乗効果が認められた。また、ラクトフェリシン(LFcin)をアカントアメーバ(Acanthamoeba castellanii ATCC50370)栄養細胞に作用させた場合、処理時間が1時間の場合と4時間の場合との死細胞率(%)がほぼ同様の値を示したことから、ラクトフェリシン(LFcin)はアカントアメーバの栄養細胞を短時間で死滅させる効力があることが分かった。
【0044】
(2)栄養細胞の殺菌効果に及ぼす塩類の影響
上記1.で調製した試料14〜18を用いて、これら試料の作用によるアカントアメーバ(Acanthamoeba castellanii ATCC50370)栄養細胞に対する死細胞率(%)を検討した。また、その結果を表3に示した。
【0045】
【表3】
【0046】
ナトリウム塩濃度が0.9%であるリン酸緩衝生理食塩水(PBS溶液)を用いて試料を調製した場合(試料14〜試料18)、いずれの場合においてもアカントアメーバ(Acanthamoeba castellanii ATCC50370)栄養細胞の死細胞率(%)が1時間処理では1.5±0.8〜3.9±0.8%、4時間処理では3.7±1.8〜8.8±3.9%と、表2で示したナトリウム塩を含んでいない2.5%グリセロール溶液で試料を調製した場合(試料1〜5)と比べて低い値を示した。このように、ナトリウム塩濃度0.9%存在下では、アカントアメーバの栄養細胞に対する殺菌効果が低下することが分かった。
【0047】
(3)シスト細胞に対する塩酸ポリヘキサニド及びラクトフェリシンの殺菌効果
上記1.で調製した試料1〜7を用いて、これら試料の作用によるアカントアメーバ(Acanthamoeba castellanii ATCC50370)シスト細胞に対するLog reduction値を検討した。なお、Log reduction値とは、初発のアメーバ数がどのくらい減少したかを対数で示した値をいう。例えば、Log reduction値が1の場合では初発のアメーバ数が1/10になったことを意味し、Log reduction値が2では初発のアメーバ数が1/100になったことを意味する。また、その結果を表4に示した。
【0048】
【表4】
【0049】
塩酸ポリヘキサニド(PHMB)とラクトフェリシン(LFcin)とを組み合わせた場合について、塩酸ポリヘキサニド(PHMB)1ppm及びラクトフェリシン(LFcin)3ppmの場合(試料4)では、アカントアメーバ(Acanthamoeba castellanii ATCC50370)シスト細胞のLog reduction値が1時間処理では0.92、4時間処理では1.25と、塩酸ポリヘキサニド(PHMB)1ppm単独の場合(試料1)の0.58(1時間処理)及び1.16(4時間処理)やラクトフェリシン(LFcin)3ppm単独の場合(試料2)の0.17(1時間処理)及び−0.08(4時間処理)の場合と比べてそれぞれ高い値を示した。
【0050】
また、塩酸ポリヘキサニド(PHMB)1ppm及びラクトフェリシン(LFcin)30ppmの場合(試料5)においても、該シスト細胞のLog reduction値が1時間処理では0.67、4時間処理では1.49と、塩酸ポリヘキサニド(PHMB)1ppm単独の場合(試料1)の0.58(1時間処理)及び1.16(4時間処理)やラクトフェリシン(LFcin)30ppm単独の場合(試料3)の0.17(1時間処理)及び0.08(4時間処理)の場合と比べてそれぞれ高い値を示した。
【0051】
一方、塩酸ポリヘキサニド(PHMB)とラクトフェリン(LF)とを組み合わせた場合、すなわち、塩酸ポリヘキサニド(PHMB)1ppm及びラクトフェリン(LF)8000ppmの場合(試料7)では、アカントアメーバ(Acanthamoeba castellanii ATCC50370)シスト細胞のLog reduction値が1時間処理では0.08、4時間処理では0.08と、該シスト細胞に対して殺菌効果は認められなかった。
【0052】
以上のように、シスト細胞においても栄養細胞の場合と同様に、塩酸ポリヘキサニド(PHMB)とラクトフェリシン(LFcin)とを組み合わせることにより、それら単独の場合と比べて高い殺菌効果が得られ、塩酸ポリヘキサニド(PHMB)とラクトフェリシン(LFcin)との組み合わせによる相乗効果が認められた。また、時間の経過とともにLog reduction値が大きくなり、シスト細胞の殺菌効果は時間依存性が認められた。
【0053】
一方、ラクトフェリン(LF)は、該シスト細胞に対して殺菌効果を示さず、また、塩酸ポリヘキサニド(PHMB)と組み合わせた場合においても殺菌効果は認められなかった。この要因としては、ラクトフェリンの分子量がラクトフェリシンの分子量よりも大きいことによると推察された。
【0054】
(4)シスト細胞の殺菌効果に及ぼす塩類の影響
上記1.で調製した試料14〜20を用いて、これら試料の作用によるアカントアメーバ(Acanthamoeba castellanii ATCC50370)シスト細胞に対するLog reduction値を検討した。また、その結果を表5に示した。
【0055】
【表5】
【0056】
ナトリウム塩濃度が0.9%であるリン酸緩衝生理食塩水(PBS溶液)を用いて試料を調製した場合(試料14〜試料20)、いずれの場合においてもアカントアメーバ(Acanthamoeba castellanii ATCC50370)シスト細胞のLog reduction値が1時間処理では−0.33〜0.17、4時間処理では−0.33〜0.25と、表4で示したナトリウム塩を含んでいない2.5%グリセロール溶液で試料を調製した場合(試料1〜7)と比べて低い値を示した。このように、ナトリウム塩濃度0.9%存在下では、アカントアメーバの栄養細胞に対する殺菌効果が低下することが分かった。
【0057】
(5)栄養細胞に対するε−ポリリジン及びラクトフェリシン作用
上記1.で調製した試料8〜13を用いて、これら試料の作用によるアカントアメーバ(Acanthamoeba castellanii ATCC50370)栄養細胞に対する死細胞率(%)を検討した。また、その結果を表6に示した。
【0058】
【表6】
【0059】
ε−ポリリジン(PL)とラクトフェリシン(LFcin)とを組み合わせた場合について、ε−ポリリジン(PL)5ppm及びラクトフェリシン(LFcin)3ppmの場合(試料9)では、アカントアメーバ(Acanthamoeba castellanii ATCC50370)栄養細胞の死細胞率(%)が1時間処理では34.1%、4時間処理では78.8%と、ε−ポリリジン(PL)5ppm単独の場合(試料8)の21.0%(1時間処理)及び39.3%(4時間処理)や表2で示したラクトフェリシン(LFcin)3ppm単独の場合(試料2)の11.9±2.4%(1時間処理)及び11.3±1.3%(4時間処理)の場合と比べてそれぞれ高い値を示した。
【0060】
また、ε−ポリリジン(PL)5ppm及びラクトフェリシン(LFcin)30ppmの場合(試料10)においても、該栄養細胞の死細胞率(%)が1時間処理では91.8%、4時間処理では92.2%と、ε−ポリリジン(PL)5ppm単独の場合(試料8)の21.0%(1時間処理)及び39.3%(4時間処理)や表2で示したラクトフェリシン(LFcin)30ppm単独の場合(試料3)の72.3±23.3%(1時間処理)及び74.4±28.0%(4時間処理)の場合と比べてそれぞれ高い値を示した。
【0061】
さらに、ε−ポリリジン(PL)10ppm及びラクトフェリシン(LFcin)3ppmの場合(試料12)では、該栄養細胞の死細胞率(%)が1時間処理では89.1%、4時間処理では83.2%と、ε−ポリリジン(PL)10ppm単独の場合(試料11)の44.6%(1時間処理)及び72.4%(4時間処理)や表2で示したラクトフェリシン(LFcin)3ppm単独の場合(試料2)の11.9±2.4%(1時間処理)及び11.3±1.3%(4時間処理)の場合と比べてそれぞれ高い値を示した。
【0062】
さらにまた、ε−ポリリジン(PL)10ppm及びラクトフェリシン(LFcin)30ppmの場合(試料13)においても、該栄養細胞の死細胞率(%)が1時間処理では84.9%、4時間処理では87.9%と、ε−ポリリジン(PL)10ppm単独の場合(試料11)の44.6%(1時間処理)及び72.4%(4時間処理)や表2で示したラクトフェリシン(LFcin)30ppm単独の場合(試料3)の72.3±23.3%(1時間処理)及び74.4±28.0%(4時間処理)の場合と比べてそれぞれ高い値を示した。
【0063】
以上のように、ε−ポリリジン(PL)とラクトフェリシン(LFcin)と組み合わせることでそれら単独の場合と比べて高い殺菌効果が得られ、塩酸ポリヘキサニド(PHMB)とラクトフェリシン(LFcin)との組み合わせによる相乗効果が認められた。また、ε−ポリリジン(PL)は、濃度依存的にアカントアメーバの栄養細胞に対する殺菌効果が増強することも分かった。
【0064】
(6)毒性試験
上記1.で調製した試料1〜5について、常法に従い、それらの細胞毒性試験(コロニー形成阻害試験)を行った。すなわち、1ウェルあたり約50cellsのV79細胞(JCRB0630)を播種した24ウェルプレートを24時間保持した後、各試料を10容量%の割合でMO5培地と混合したものを各ウェルに置換し、炭酸ガス培養装置内で5%CO条件下で37℃で6日間培養を行い、これらのコロニー数を測定した。この時、対照として2.5%グリセロール(Glycerol)溶液を用い、比較例として過酸化水素を含有するコンタクトレンズ用ケア剤であるAO sept Clear Care(CIBA VISION製;Lot No.10175)を使用した。なお、コロニー形成率(%)は、対照の場合のコロニー数を100%として算出した。また、その結果を表7に示した。
【0065】
【表7】
【0066】
表7に示したように、過酸化水素を含有するAO sept Clear Care(CIBA VISION製;Lot No.10175)では、コロニー形成率(%)が0%と強い細胞毒性が認められたが、試料1〜5の全てにおいては、コロニー形成率(%)が87〜110%と高いコロニー形成率(%)を示しており、塩酸ポリヘキサニド(PHMB)、ラクトフェリシン(LFcin)及びそれらの組み合わせたものについては細胞毒性が認められなかった。