(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6260049
(24)【登録日】2017年12月22日
(45)【発行日】2018年1月17日
(54)【発明の名称】火葬可能な表装具
(51)【国際特許分類】
A61G 17/04 20060101AFI20180104BHJP
A47G 1/00 20060101ALI20180104BHJP
【FI】
A61G17/04 Z
A47G1/00 101A
【請求項の数】3
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2013-81668(P2013-81668)
(22)【出願日】2013年4月9日
(65)【公開番号】特開2014-200597(P2014-200597A)
(43)【公開日】2014年10月27日
【審査請求日】2016年3月23日
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】500392494
【氏名又は名称】中塚株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100101638
【弁理士】
【氏名又は名称】廣瀬 峰太郎
(72)【発明者】
【氏名】中塚 裕士
【審査官】
大谷 謙仁
(56)【参考文献】
【文献】
登録実用新案第3062465(JP,U)
【文献】
実開平07−018723(JP,U)
【文献】
登録実用新案第3022739(JP,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61G 17/04
A47G 1/00
A47G 33/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
葬儀時には装飾に使用可能で、納棺時には火葬される遺体とともに副葬品として棺に入れることが可能な表装具であって、
布または紙の一方または両方をベースとする表装具本体と、
表装具本体の縁に設けられる木製の部材とを含み、
表装具本体の表面と、または該表面および木製の部材の表面とには、少なくとも金属板、金属箔、金属糸、金襴銀欄のいずれかと同等の材質感を有するように形成される金属質感部分を有し、
金属質感部分は、厚さ300〜700オングストロームのアルミニウム層と、当該アルミニウム層上に形成されて透明または着色された色の着色層とを有する金属膜を、接着剤層を介して貼付て形成され、
アルミニウム層は、蒸着、または転写で形成されたものであり、
合成樹脂の使用量は、火葬時に焼失して、溶け残らない範囲内に抑えられる、
ことを特徴とする火葬可能な表装具。
【請求項2】
前記表装具は、掛軸であって、
前記表装具本体は、掛軸本体であり、
掛軸本体の上下に接合される巻軸を含み、
前記木製の部材は、下の巻軸の両端となって、掛軸本体から側方に露出して、露出部分の表面に、前記金属膜が貼付けられ、
上の巻軸には、掛軸本体の上縁部に巻込んで装着した掛紐を有する、
ことを特徴とする請求項1記載の火葬可能な表装具。
【請求項3】
前記表装具本体の表面の前記金属質感部分は、
印刷によってパターンが形成された接着剤の層と、該接着剤の層上に転写した前記金属膜とで形成される、
ことを特徴とする請求項1または2記載の火葬可能な表装具。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、葬儀の際や仏壇などに収容して展示する掛軸などの表装具、特に遺体を火葬する際に副葬品とすることができる、火葬可能な表装具に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、和風建築物内では、書や画などを鑑賞するために、裂(きれ)や紙で表装して床の間などに掛けたり、屏風や襖(ふすま)に仕立てたりしている。特に掛軸は、大和表具と呼ばれる基本的な様式が確立し、茶席や神仏に関する様式も、それぞれ特化している。法名を記載した本紙を、再剥離可能な粘着剤で貼付けて仕立てる掛軸も発明されている(たとえば、特許文献1参照)。このような法名軸は、浄土真宗系の宗派で用いられ、仏壇に収容しておき、展示は外部に取出して行う。
【0003】
図4は、神仏に関する様式の掛軸1の概要を示す。掛軸1は、掛軸本体2とその下端に設けられる軸3とを有し、収容時は掛軸本体2を軸3に巻いておく。神仏に関する様式の掛軸本体2は、裂4の中の中廻し5に、本紙6が貼付けられる。中廻し5の上部には、風帯7が上端まで設けられる。裂4は、上裂4aおよび下裂4bと、中裂4cとに分けられ、上縁4dおよび下縁4eは、かまぼこ板8および軸3で折返されて、それぞれの裏面側に接合される。裂4、中廻し5および風帯7は、金襴や銀欄などの華麗で荘厳な織物が使用される。かまぼこ板8は、半円形などの断面型状を有し、木製で、上裂4aが巻付けられているので、少なくとも正面からは見えない。ただし、頂部には、吊下げ用の紐9を掛けるヒートン10が装着されている。軸3は、木軸3aの両端に金属のキャップ3bを被せて、キャップ3bが露出するようにされている。
【0004】
掛軸1は、仏壇などに展開した状態で収容可能な、小型化したものも用いられている。裂4として、平箔と呼ばれる形態の金糸や銀糸による金襴や銀欄が使用される。中廻し5や風帯7も同様に製造して、貼付ける。
【0005】
今日、本葬儀が終了すると、遺体は火葬される。しかしながら、火葬の際には、燃焼への障害、遺骨への付着や混合の問題で、遺体とともに棺桶に入れることができる副葬品が制限される。遺体が着用する衣服(たとえば、特許文献2参照)は、材質に制限がある。遺体に使用される義手や義足なども、火葬時には除去する必要がある(たとえば、特許文献3参照)。さらに、心臓ペースメーカが体内に埋込まれた遺体も火葬中に電池が破裂するなどの危険があるので、火葬前に取出す必要があるとされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特許第4118200号公報
【特許文献2】特開2001−95864号公報
【特許文献3】特開2012−61285号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
図4に示すような掛軸1を、遺体とともに火葬すると、金属部分が遺骨に混合し、プラスチック部分が溶融状態で残存して、遺骨に付着し、分離が困難になる。掛軸1では、金属部分として、キャップ3bやヒートン10が使用されているとともに、裂4、中廻し5および風帯7にも金属が含まれる。実際の金襴や銀欄でも、撚金糸や平箔として、金や銀、アルミニウムなどが使用される。使用される厚さは、圧延で得られる金属箔としての最小厚さ数ミクロン程度であっても、火葬後に残存してしまう。金属層を蒸着すれば、数100オングストロームの厚さとなり、火葬後には残存しなくなる。しかしながら、蒸着金属層を使用する撚金糸や平箔は、ベース基材として、10ミクロン程度の厚みを有するPETなどのプラスチックフィルムを使用するので、火葬時の燃焼でプラスチックが遺骨に付着してしまうという問題がある。
【0008】
本発明の目的は、火葬時に遺体とともに燃焼させても、燃焼中に遺骨に付着したり、燃焼後に残存して遺骨に混じってしまうというような問題を生じない、火葬可能な表装具を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、葬儀時には装飾に使用可能で、納棺時には火葬される遺体とともに副葬品として棺に入れることが可能な表装具であって、
布または紙の一方または両方
をベースとする表装具本体と、
表装具本体の縁に設けられる木製の部材とを含み、
表装具本体の
表面
と、または該表面および木製の部材の表面とには、少なくとも金属板、金属箔、金属糸、金襴銀欄のいずれかと同等の材質感を有するように形成される金属質感部分
を有し、
金属質感部分は、厚さ300〜700オングストロームのアルミニウム層と、当該アルミニウム層上に形成されて透明または着色された色の着色層とを有する金属膜を、接着剤層を介して貼付て形成され、
アルミニウム層は、蒸着、または転写で形成されたものであり、
合成樹脂の使用量は、火葬時に焼失して、溶け残らない範囲内に抑えられる、
ことを特徴とする火葬可能な表装具である。
【0010】
また本発明で、前記表装具は、掛軸であって、
前記表装具本体は、掛軸本体であり、
掛軸本体の上下に接合される
巻軸を含み、
前記木製の部材は、下の巻軸の両端
となって、掛軸本体から側方に露出して、露出部分
の表面に、前記金
属膜が貼付けられ、
上の巻軸には、掛軸本体の上縁部に巻込んで装着した掛紐を有する、
ことを特徴とする。
【0011】
また本発明で、前記表装具本体の表面の
前記金属質感部分は、
印刷
によってパターンが形成された接着剤の層と、
該接着剤の層上に転写した前記金属膜とで形成される、
ことを特徴とする。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、葬儀時には装飾に使用可能で、納棺時には火葬される遺体とともに副葬品として棺に入れることが可能な表装具は、金属および合成樹脂の使用量が火葬時に支障を生じない範囲内なので、火葬中や火葬後の遺骨取出しの際に、支障が生じない。金属質感部分が設けられているので、火葬前には、華麗で荘厳な外観を有し、葬儀会場などで有効な展示や装飾として利用することができる。
【0013】
また本発明によれば、掛軸で紐を装着するヒートンや軸に被せるキャップなどの金属部品を使用しないので、副葬しても、火葬後の遺骨中に金属部分が混合してしまうような問題は生じない。
【0014】
また本発明で、前記表装具本体の表面の
パターンは、転写した金属膜を使用して形成する。金属膜
の形成は、蒸着のベースとしてプラスチックフィルムを使用しても、表装具本体のパターンではプラスチックフィルムを使用しなくなるので、火葬時に遺骨に付着する弊害を避けることができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】
図1は、本発明の一実施例としての掛軸11の概略的な構成を模式的に示す平面図である。
【
図2】
図2は、
図1の掛軸11の上部と下部との部分的な構成を示す部分的な平面図である。
【
図3】
図3は、
図1の掛軸本体12の断面構成を模式的に示す断面図である。
【
図4】
図4は、従来からの掛軸1の概略的な構成を模式的に示す平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、
図1〜
図3、本発明の一実施例としての掛軸11の構成を示す。説明の便宜上、説明対象の図には記載されていない部分について、他の図に記載される参照符を付して言及する場合がある。
【実施例】
【0017】
図1は、本発明の一実施例としての掛軸11の概略的な構成を示す。掛軸11は、仏壇内に展示可能なように小型化されており、掛軸本体12と、その下端に設けられる軸13とを含む。掛軸本体12は、紙を裏打ちした木綿などの布地などのベース上に、裂領域14、中廻し部15、本紙部16および風帯部17が印刷によって形成される。ベースは、布または紙の両方を使用しているけれども、いずれか一方のみでもよい。ただし、火葬時に焼失して、溶け残らない材質である必要がある。本紙部16には、教典の一部などの文章や、宗教画などが表示される。この表示は、本紙部16に直接印刷することもできるけれども、シールを貼ることでより立体的にすることができる。シールは、紙の表面に金属膜を蒸着するか、金属蒸着膜を転写し、金属蒸着膜上に表示する教典や宗教画などを印刷する。シールの裏面には、粘着層を設けて、本紙部16に貼付ける。このようなシールは、金属蒸着膜も含めて、火葬時に溶け残らないようにすることができる。裂領域14と、中廻し部15、本紙部16および風帯部17とは、異なる色に着色され、境界部分には無着色の部分を残す。さらに、裂領域14、中廻し部15および風帯部17には接着剤を印刷し、金属蒸着膜を転写することによって金襴や銀欄と同等な外観を得ることができる。軸13は、木軸13aで形成され、外部に露出する部分には、金属光沢帯13bが巻付けられている。
【0018】
掛軸本体12の上端には、木製のかまぼこ板18が設けられる。掛軸本体12のベースは、かまぼこ板18に巻きついて折り返えされ、ベースの上下の両端が上縁14dおよび下縁14eの位置となるように、ベースの裏面側に接合される。裂領域14がかまぼこ板18に巻ついている部分では、吊下げ用の紐19も、接続部19aをかまぼこ板18に、掛軸本体12のベースで巻付けて固定する。
【0019】
図2は、(a)で掛軸11の上部を、(b)で掛軸11の下部を、それぞれ示す。上部では、かまぼこ板18に巻付けられる裂領域14に切込み14fが入れられている。切れ込み14fの間隔は、紐19の接続部19aの長さに対応させる。かまぼこ板18を矢符20に示すように装着して、切込み14fで三分される裂領域14の左側部分、および右側部分はで、矢符21a,21bとしてそれぞれ示すように巻込む部分では、かまぼこ板18のみを固定する。三分される中間部分では、紐19の接続部分19aをかまぼこ板18に巻込んで固定する。
図4に示すようなヒートン10を使用しないので、金属製のヒートン10を使用した場合に、火葬後に溶け残るような問題は生じない。
【0020】
図2(b)に示す下部では、矢符22のように装着する軸13の木軸13aの両端に、金属光沢帯13bが矢符23a,23bに示すようにそれぞれ巻付けられ、さらに木軸13aの両端には、端板13cがそれぞれ貼付けられている。端板13cを貼付けないで、木軸13aの端面を金属色塗料で塗装するだけにすることもできる。
図4に示すような金属製のキャップ3
bを使用しないので、火葬後に溶け残る問題を避けることができる。
【0021】
図3は、掛軸本体12の断面構成を、簡略化して模式的に示す。
図3(a)に示すように、印刷した紙裏打ち布のベース12aの表面に、印刷によって接着剤層12bのパターンを形成し、アルミニウム層12cおよび着色層12dを転写する。アルミニウム層12cおよび着色層12dは、
図3(b)に示すように、PETなどのプラスチック層12e上に、離型層12fを介して、着色層12dおよびアルミニウム層12cを形成した状態から転写して、接着剤層12bによって接着されるパターンの着色層12dとアルミニウム層12cとを、ベース12aの表面に得ることができる。アルミニウム層12cは、蒸着によって形成し、厚さは1ミクロン以下、たとえば300オングストローム程度でも、十分な金属光沢を得ることができる。着色層12dは、黄色系であれば、アルミニウム層12cとの組合せで金色を呈し、透明系であれば銀色を呈することができる。不透明で厚い着色層12dを形成すれば、アルミニウム層12cは隠れて、着色された色の領域となる。圧延した箔をアルミニウム層12cとして使用すると、厚さが数ミクロン、たとえば6ミクロン程度となり、火葬時に溶け残ってしまう。
【0022】
図4に示す裂4、中廻し5および風帯7などは、平箔として製造する金糸や銀糸を、金襴や銀欄に織って製造する。
図3(c)に示すように、平箔は、アルミニウム層12cの両側に着色層12bを形成し、さらに両側をプラスチック層12eで挟む形態となっている。両側のプラスチック層12eは、それぞれ10ミクロン以上、たとえば12ミクロン程度の厚さがあり、火葬時に遺骨に貼付いてしまうおそれがある。プラスチック層12eの厚さが10ミクロンよりも薄くなると、貼合せが難しくなる。
【0023】
図1に示す金属光沢帯13bや
図2(b)に示す端板13cは、
図3(a)のように、紙の表面にアルミニウム層12cを蒸着するか転写して形成すればよい。
【0024】
本実施例では、掛軸11について説明しているけれども、個人の遺影、直筆の書、などを、金属やプラスチックの使用量を抑えた掛軸として仕立てる軸装、屏風や襖のように仕立てる表装、額縁に入れる額装などとして、葬儀会場で展示することができる。展示中に参列者の故人に対する思いが込められたものを、火葬前の納棺で、遺体に副葬すれば、遺体とともに各人の思いを送ることができる。また、同じものを複数作成して葬儀会場に展示し、その一つを火葬時に副葬し、残りを仏壇などに収めれば、故人をしのぶ思いを共通にして残すこともできる。
【符号の説明】
【0025】
11 掛軸
12 掛軸本体
13 軸
13b 金属光沢帯
14 裂領域
18 かまぼこ板
19 紐