(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0017】
[実施形態]
以下、図を参照して本実施形態による無線通信システム1の概要を説明する。
図1は、無線通信システム1の概要の一例を示す模式図である。この無線通信システム1は、無線通信装置10と、無線通信端末20とを含んで構成される。この実施形態の一例において、無線通信装置10とは、OFDMA(直交波周波数分割多重;Orthogonal Frequency Division Multiple Access)システムの基地局が備える装置である。また、この実施形態の一例において、無線通信端末20とは、動画コンテンツの再生が可能な携帯電話端末である。この
図1には下りリンク(基地局から端末方向のリンク)に係る部分を示す。この無線通信システム1では、OSI(Open Systems Interconnection)参照モデルの7層モデルによってプロトコルが多層化され、その層(レイヤ)毎にプロトコル設計が行われている。無線通信端末20には、動画コンテンツの再生アプリケーションが、OSI参照モデルのアプリケーション層として実装されている。
【0018】
無線通信装置10は、ネットワークから受信したデータを無線通信によって無線通信端末20へ送信する。このネットワークから受信したデータとは、例えば、動画コンテンツのストリーミングデータである。無線通信装置10は、この動画コンテンツのストリーミングデータを順次、無線通信端末20に送信する。以下の説明において、このストリーミングデータを、単にデータとも記載する。また、このストリーミングデータのうち、無線通信装置10による1回の送信動作によって送信されるデータをデータDと記載する。
【0019】
無線通信端末20は、無線通信装置10からデータDを受信すると、受信が完了したことを示すアクノリッジACKを無線通信装置10に送信する。以下の説明において、このアクノリッジACKを単にアクノリッジとも記載する。また、無線通信端末20は、新たなデータDを受信しつつ、既に受信済みのデータDに基づいて動画を生成する。この無線通信端末20は、動画の生成を開始する前に、この動画を生成するための新たなデータDを受信することにより、途切れのない動画コンテンツを再生する。つまり、このデータDとは、所定の時間内に送受信が完了することを求められるデータである。換言すれば、このデータとは、リアルタイム性が重視されるデータである。次に、無線通信装置10および無線通信端末20によるデータDの送受信手順の概要について、
図2を参照して説明する。
【0020】
図2は、無線通信システム1の送信手順の一例を示す図である。この一例では、送信側が、データDを受信側に送信する場合について説明する。なお、送信側とは、本実施形態の一例では無線通信装置10である。また、受信側とは、本実施形態の一例では無線通信端末20である。無線通信装置10においては、アプリケーション層が要求するQoS(Quality of Service)に基づいて、データDの許容遅延が定められている。ここで、許容遅延とは、無線通信装置10がデータDの送信を開始してから、このデータDの送信が完了するまでに許容される遅延時間である。また、データDの送信が完了するとは、無線通信装置10が送信したデータDについて、無線通信端末20がこのデータDを受信したことを示すアクノリッジを、無線通信装置10が受信することである。以下の説明において、この許容遅延を、遅延許容時間Taとも記載する。
【0021】
このアプリケーション層が要求するQoSの一例には、アクセスカテゴリがある。このアクセスカテゴリには、遅延時間を重視するアクセスカテゴリと、スループットを重視するアクセスカテゴリとがある。遅延時間を重視するアクセスカテゴリのアプリケーションの一例として、動画ストリーミング、VoIP(Voice over Internet Protocol)などがある。また、スループットを重視するアクセスカテゴリのアプリケーションの一例として、メール、WebページにおけるHTML(HyperText Markup Language)で書かれたテキスト(HTML文)などがある。
【0022】
無線通信装置10は、データDの送信を開始してから、このデータDに対するアクノリッジを受信するまでの時間が、遅延許容時間Ta以下である場合に、データDが遅延許容時間Ta以内に送信が完了したと判定する。
【0023】
ここで、無線通信路でパケットロスが生じた場合など、無線通信装置10が送信したデータDを、無線通信端末20が受信できない場合がある。この場合には、無線通信装置10は、データDを再送信する。より具体的には、無線通信装置10は、データDを送信してから、アクノリッジ待ち時間Twが経過するまでに、データDに対するアクノリッジを受信したか否かを判定する。ここで、アクノリッジ待ち時間Twとは、無線通信装置10がデータDの送信を開始してから、このデータDに対するアクノリッジを無線通信装置10が受信するまでの待ち時間である。無線通信装置10は、アクノリッジ待ち時間Twが経過するまでに、データDに対するアクノリッジを受信した場合には、送信が完了したと判定して、以降の再送信をしない。つまり、無線通信装置10は、データDを送信してから、このデータDに対するアクノリッジを受信するまでの時間(アクノリッジ受信時間Tr)が、アクノリッジ待ち時間Twよりも短い場合に、送信が完了したと判定する。無線通信装置10は、この送信が完了したと判定した場合において、次に送るべき新たなデータDがある場合には、この新たなデータDの送信を開始する。また、無線通信装置10は、アクノリッジ待ち時間Twが経過するまでに、データDに対するアクノリッジを受信していない場合には、送信が完了していないと判定して、当該データDを再送信する。
【0024】
この無線通信システム1による再送信の手順について、
図2の具体例を参照して説明する。無線通信装置10は、初回に送信したデータD(初回送信)について、アクノリッジ待ち時間Twが経過するまでに、このデータDに対するアクノリッジを受信していない。これにより、無線通信装置10は、このデータDを再送信する(再送信1)。また、無線通信装置10は、再送信したデータD(再送信1)について、アクノリッジ待ち時間Twが経過するまでに、このデータDに対するアクノリッジを受信していない。これにより、無線通信装置10は、このデータDを再送信する(再送信2)。また、無線通信装置10は、再送信した送信したデータD(再送信2)について、アクノリッジ待ち時間Twが経過するまでに、このデータDに対するアクノリッジを受信する。これにより、無線通信装置10は、データDの送信が完了したと判定して、以降の再送信をしない。
【0025】
また、無線通信装置10は、データDの送信が完了していない場合であっても、再送信の回数nが予め定められている再送信の上限回数mに達した場合には、以降の再送信をしない。無線通信装置10は、この再送信の上限回数mに達した場合において、次に送るべき新たなデータDがある場合には、この新たなデータDの送信を開始する。この無線通信装置10による再送信の上限回数に達した場合について、
図3を参照して説明する。
【0026】
図3は、無線通信システム1の再送信手順の一例を示す図である。無線通信装置10は、データDの再送信の回数nを計測する。また、無線通信装置10は、計測した再送信の回数nと、予め定められている再送信の上限回数mとを比較する。この再送信の上限回数mとは、送信側の装置がデータDを再送信する場合の、再送信の回数の上限値である。無線通信装置10は、計測した再送信の回数nが、再送信の上限回数mに達していない場合には、再送信を継続する。また、無線通信装置10は、計測した再送信の回数nが、再送信の上限回数mに達した場合には、当該データDについて、以降の再送信をせず、新たなデータDの送信を行う。この場合には、再送信が中止されたデータDは、無線通信端末20に受信されないため、無線通信端末20においてデータDが欠落する。
一方、無線通信端末20は、遅延許容時間Taを経過しても、あるデータDの受信が完了しない場合には、この未受信のデータDを、既に受信済みのデータDや、予め定められている代替データなどによって補完する。また、無線通信端末20は、遅延許容時間Taを超過してデータDを受信した場合には、受信したデータDを破棄する。
【0027】
ここで、再送信の上限回数mと遅延許容時間Taとの関係について説明する。
図3に示す例のように、無線通信装置10がデータDの再送信を行う場合に、遅延許容時間Taを超過しても再送信の上限回数mに達しない場合がある。この場合には、無線通信装置10は、再送信の上限回数mに達するまで再送信を継続する。つまり、この場合には、無線通信装置10は、遅延許容時間Taを超えて再送信を継続する。
【0028】
上述したように、無線通信装置10が遅延許容時間Taを超えてデータDを再送信して、このデータDが無線通信端末20に受信されたとしても、無線通信端末20は、この遅延許容時間Taを超過して受信したデータDを破棄する。つまり、無線通信端末20は、遅延許容時間Taを超過して受信したデータDを破棄する。したがって、無線通信装置10が遅延許容時間Taを超えてデータDを再送信した場合には、無線通信端末20で利用されない無駄なデータDが送信されることになる。そこで、本実施形態の無線通信装置10は、遅延許容時間Taに基づいて再送信の上限回数mを変更(再設定)することにより、無駄なデータDが再送信される程度を低減する。以下、この無線通信システム1の具体的な構成について説明する。
【0029】
[無線通信システムの構成]
図1に戻り、無線通信装置10は、制御部100と、記憶部110とを備えている。この制御部100は、CPU(Central Processing Unit)を備えており、種々の演算を行う。また、制御部100は、その機能部としての、計時部101と、送信部102と、送信計画変更部103と、受信部104とを備えている。なお、以下の説明において、送信部102および受信部104は、いずれも制御部100のCPUによって実現される機能であるとして説明するが、これに限られない。例えば、送信部102および受信部104は、いずれもCPUから独立した無線モジュールによって実現される機能であってもよい。
【0030】
記憶部110は、例えば、フラッシュメモリ、HDD(Hard Disk Drive)、RAM(Random Access Memory)、ROM(Read Only Memory)、レジスタなどの記憶装置を備えている。この記憶部110には、制御部100のCPUが実行するプログラム(ファームウェア)が予め記憶されている。また、記憶部110には、CPUが演算処理を行った演算結果や、ネットワークから供給される動画コンテンツのデータなどが一時的に記憶される。また、記憶部110には、送信計画管理テーブルが記憶されている。この送信計画管理テーブルについて、
図4を参照して説明する。
【0031】
図4は、本実施形態の記憶部110に記憶される送信計画管理テーブルの一例を示す図である。この送信計画管理テーブルには、無線通信端末20のMAC(Media Access Control)アドレス、アクセスカテゴリ、および初送MCS(Modulation and Coding Scheme)の組み合わせを、1エントリとして、直近フレーム送信完了日時、一定時間内の送信フレーム完了数、一定時間内の平均送信完了時間、および再送回数のオフセット値αが記憶される。このうちアクセスカテゴリは、アプリケーション層が要求するQoSを示す。このアクセスカテゴリ毎に、遅延許容時間Taが予め定められている。具体的には、動画コンテンツのストリーミングデータを送信するためのアクセスカテゴリである、アクセスカテゴリVSには、遅延許容時間Ta1が予め定められている。また、VoIPのデータを送信するためのアクセスカテゴリであるアクセスカテゴリVOには、遅延許容時間Ta2が予め定められている。ここで、動画コンテンツのストリーミングデータと、VoIPのデータとは、いずれもリアルタイム性が重視されるデータである。このうち、動画コンテンツのストリーミングデータに求められるリアルタイム性が、VoIPに求められるリアルタイム性よりも低い場合には、遅延許容時間Ta1に比べて遅延許容時間Ta2が短時間に設定される。
【0032】
また、初送MCSは、無線通信のストリーム数やデータレートを定義する。また、直近フレーム送信完了日時は、無線通信装置10から送信されたデータDのうち、直近に送信が完了したデータDの送信完了日時を示す。また、一定時間内の送信フレーム完了数は、無線通信装置10から送信されたデータDのうち、送信が完了したデータDの、ある一定時間内の数を示す。また、一定時間内の平均送信完了時間は、無線通信装置10から送信されたデータDのうち、送信が完了したデータDの送信完了時間Ttについての、ある一定時間ごとの移動平均値を示す。また、再送回数のオフセット値αは、再送信の上限回数mの基準値に対する増減値を示す。ここで、再送信の上限回数mの基準値は、MCS毎に予め定義されている。例えば、再送信の上限回数mの基準値は、MCS5で4回に、MCS4で3回に、MCS3で2回に定義されている。
【0033】
図1に戻り、制御部100の構成について説明する。制御部100は、その機能部としての、計時部101と、送信部102と、送信計画変更部103と、受信部104とを備えている。
送信計画変更部103は、記憶部110の送信計画管理テーブルに基づいて、送信計画を作成するとともに、データDの送信結果に基づいて、送信計画管理テーブルを更新(変更)する。このうち、まず送信計画の作成について説明し、次に、送信計画に基づくデータDの送信について説明し、次に、送信計画管理テーブルの更新について説明する。
【0034】
[送信計画の作成]
送信計画変更部103は、アプリケーション層が指定するアクセスカテゴリに基づいて、送信計画を作成する。ここで、
図1、および
図5を参照して、OSI各階層間におけるパラメータの受け渡しについて説明する。
図5は、無線通信システム1のパラメータの受け渡しの一例を示す模式図である。この
図5において、送信側のドライバとは、送信計画変更部103の一例であり、送信側の無線モジュールとは、送信部102および受信部104の一例である。
【0035】
図5に示すように、ドライバ、すなわち送信計画変更部103は、アプリケーション層からアクセスカテゴリを取得する。また、送信計画変更部103は、物理層及びデータリンク層の指標に基づいたフレーム送信計画のエントリのうち、取得したアクセスカテゴリと、初送MCSとの組み合わせに一致するエントリを選択する。具体的には、送信計画変更部103は、送信先の無線通信端末20のMACアドレスと、アプリケーション層が指定するアクセスカテゴリと、初送MCSとを取得する。また、送信計画変更部103は、取得したMACアドレス、アクセスカテゴリ、および初送MCSの組み合わせを検索キーにして、送信計画管理テーブルを検索する。送信計画変更部103は、送信計画管理テーブルを検索した結果、取得したMACアドレス、アクセスカテゴリ、および初送MCSの組み合わせに一致するエントリが存在する場合には、送信計画管理テーブルから再送回数のオフセット値αを取得する。また、送信計画変更部103は、送信計画管理テーブルを検索した結果、取得したMACアドレス、アクセスカテゴリ、および初送MCSの組み合わせに一致するエントリが存在しない場合には、再送回数のオフセット値αを0(ゼロ)にした新規エントリを送信計画管理テーブルに追加する。また、送信計画変更部103は、取得したMACアドレス、取得した初送MCSが示す変調方式(または、変調レート)、符号化方式、再送信の上限回数mの基準値、および再送回数のオフセット値αを含む送信計画を作成する。また、送信計画変更部103は、上述のようにして作成した送信計画を、
図5に示す無線モジュール、すなわち送信部102に出力する。
【0036】
[送信計画に基づく送信]
送信部102は、送信計画変更部103が出力する送信計画に基づいて、データDを送信する。受信部104は、送信部102が送信したデータDに対するアクノリッジを受信する。ここで、データDとは、上述したようにアプリケーション層が指定するアクセスカテゴリが付与されたデータである。すなわち、送信部102は、上位の通信プロトコルレイヤにおいて指定されたアクセスカテゴリを付与されたデータを送信する。
【0037】
また、送信部102は、データDの再送信の要否を判定する。具体的には、送信部102は、データDの送信を開始してから、アクノリッジ待ち時間Twが経過するまでに、このデータDに対するアクノリッジを受信部104が受信したか否かを判定する。送信部102は、アクノリッジ待ち時間Twが経過するまでに、このデータDに対するアクノリッジを受信した場合には、データDの再送信が不要であると判定する。また、送信部102は、アクノリッジ待ち時間Twが経過するまでに、このデータDに対するアクノリッジを受信しなかった場合には、データDの再送信が必要であると判定する。送信部102は、データDの再送信が必要であると判定した場合には、再送信の上限回数mに達するまで、データDを再送信する。
【0038】
計時部101は、送信完了時間Ttおよび送信未了時間Tt’を計時する。ここで、送信完了時間Ttとは、送信部102がデータDの送信を開始してから、このデータDに対するアクノリッジを受信部104が受信するまでの時間である。また、送信未了時間Tt’とは、送信部102が送信したデータDに対するアクノリッジを受信部104が受信できなかった場合に、データDの送信を開始してから、最後の再送データに対するアクノリッジ待ち時間Twが経過するまでの時間である。
具体的には、計時部101は、送信部102がデータDの送信を開始した場合に計時を開始し、このデータDに対するアクノリッジを受信部104が受信した場合に計時を停止する。また、計時部101は、この計時の開始から停止までの時間を送信完了時間Ttとして、送信計画変更部103に出力する。すなわち、計時部101は、送信部102がデータの送信を開始してから当該データの送信が完了するまでの送信完了時間Ttを計時する。
また、計時部101は、送信部102がデータDの送信を開始した場合に計時を開始し、このデータDの最終再送データに対するアクノリッジをアクノリッジ待ち時間Tw以内に受信部104が受信しなかった場合に計時を停止する。また、計時部101は、この計時の開始から停止までの時間を送信未了時間Tt’として、送信計画変更部103に出力する。
【0039】
[送信計画の更新]
送信計画変更部103は、計時部101が計時した送信完了時間Tt、および受信部104がアクノリッジを受信した結果に基づいて、送信計画を更新(変更)する。具体的には、送信計画変更部103は、計時部101が計時した送信完了時間Ttを取得し、取得した送信完了時間Ttと、遅延許容時間Taとを比較する。上述したように、この遅延許容時間Taは、アプリケーション層から取得した送信計画に含まれるアクセスカテゴリに基づいて、予め定められている。また、送信計画変更部103は、送信完了時間Ttと、遅延許容時間Taとを比較した結果に基づいて、再送回数のオフセット値αを更新し、または維持する。より具体的には、送信計画変更部103は、
図2に示す一例のように、送信完了時間Ttが、遅延許容時間Taよりも短い場合には、再送回数のオフセット値αを変更せずに維持する。また、送信計画変更部103は、
図6に示す一例のように、送信完了時間Ttが、遅延許容時間Taよりも長い場合には、再送回数のオフセット値αを減算する。
【0040】
図6は、遅延許容時間Taを超えて送信が完了する場合の再送信手順の一例を示す図である。無線通信装置10は、データDの送信が完了しない場合には、データDの再送信の回数nが再送信の上限回数mに達するまで、データDの再送信を繰り返す。ここで、
図6に示すように、無線通信装置10が、(n−1)回目のデータDの再送信に対してのアクノリッジを受信せず、n回目のデータDの再送信に対してのアクノリッジを受信した場合を一例にして説明する。この一例においては、無線通信装置10がデータDの再送信をn回目まで繰り返すと、遅延許容時間Taを経過する。つまり、再送信の上限回数mが、遅延許容時間Ta内にデータDを再送信できる回数よりも大きい。したがって、この一例の場合、無線通信装置10がn回目のデータDの再送信に対してアクノリッジを受信したとしても、アクノリッジを受信した時点において既に遅延許容時間Taを経過している。この場合には、無線通信端末20がデータDを受信したとしても、無線通信端末20は、遅延許容時間Taを超過して受信したこのデータDを破棄する。つまり、再送信の上限回数mが、遅延許容時間Ta内にデータDを再送信できる回数よりも大きい場合には、無駄なデータDが再送信される。
【0041】
この一例の場合には、送信計画変更部103は、再送回数のオフセット値αを減算する。ここで、再送信の上限回数mは、再送信の上限回数mの基準値と再送回数のオフセット値αとの和であるから、再送回数のオフセット値αを減算することにより、再送信の上限回数mが減少する。この送信計画変更部103は、送信完了時間Ttが、遅延許容時間Taよりも長い場合には、再送信の上限回数mが、遅延許容時間Ta内にデータDを再送信できる回数と同等になるまで、再送回数のオフセット値αを減算することを繰り返す。
【0042】
ここまで説明したように、送信計画変更部103は、計時部101が計時した送信完了時間Ttが遅延許容時間Ta(送信遅延許容時間)を超える場合には、上限回数m(上限値)を減少させる。これにより、本実施形態の無線通信装置10は、無駄なデータDが再送信される程度を低減することができる。
【0043】
また、送信計画変更部103は、
図7に示す一例のように、遅延許容時間Taの経過前に、再送信の上限回数mに達した場合には、再送回数のオフセット値αを加算する。
【0044】
図7は、遅延許容時間Taの経過前に再送信の上限回数mに達した場合の再送信手順の一例を示す図である。無線通信装置10は、データDの送信が完了しない場合には、データDの再送信の回数nが再送信の上限回数mに達するまで、データDの再送信を繰り返す。ここで、
図7に示すように、無線通信装置10が、再送信の上限回数であるm回目のデータDの再送信に対してのアクノリッジを受信しなかった場合を一例にして説明する。この一例においては、無線通信装置10がデータDの再送信をm回目まで繰り返しても、遅延許容時間Taを経過しない。つまり、再送信の上限回数mが、遅延許容時間Ta内にデータDを再送信できる回数よりも小さい。したがって、この一例の場合、無線通信装置10は、データDの再送信の回数nが再送信の上限回数mに達しても、遅延許容時間Ta内に、さらにデータDを再送信することが可能である。そこで、この一例の場合には、送信計画変更部103は、再送回数のオフセット値αを加算する。ここで、再送信の上限回数mは、再送信の上限回数mの基準値と再送回数のオフセット値αとの和であるから、再送回数のオフセット値αを加算することにより、再送信の上限回数mが増加する。この送信計画変更部103は、遅延許容時間Taの経過前に、再送信の上限回数mに達した場合には、再送信の上限回数mが、遅延許容時間Ta内にデータDを再送信できる回数と同等になるまで、再送回数のオフセット値αを加算することを繰り返す。
【0045】
ここまで説明したように、送信計画変更部103は、遅延許容時間Ta(送信遅延許容時間)内に、データの再送信回数が上限回数m(上限値)に達した場合には、上限回数m(上限値)を増加させる。これにより、本実施形態の無線通信装置10は、再送信の回数を増加させることができるため、送信が完了しないデータの数を低減することができる。
【0046】
[無線通信システム1の動作]
次に、
図8を参照して、無線通信システム1の動作の一例について説明する。
図8は、無線通信システム1の動作の一例を示す流れ図である。
【0047】
無線通信装置10の送信計画変更部103は、適応変調チャネル符号化アルゴリズムによって、チャネル状態に応じて適切な伝送レートを達成可能な初送MCSと最大再送回数の組み合わせから成る送信計画の初期値を取得する(ステップS10)。
【0048】
次に、送信計画変更部103は、ステップS10において取得した送信計画に一致するエントリが、記憶部110に記憶されている送信計画管理テーブルに存在するか否かを判定する(ステップS20)。送信計画変更部103は、ステップS10において取得した送信計画に一致するエントリが、送信計画管理テーブルに存在すると判定した場合(ステップS20;YES)には、処理をステップS50に進める。また、送信計画変更部103は、ステップS10において取得した送信計画に一致するエントリが、送信計画管理テーブルに存在しないと判定した場合(ステップS20;NO)には、処理をステップS30に進める。
【0049】
ステップS30において、送信計画変更部103は、ステップS10において取得した送信計画のエントリを、記憶部110に記憶されている送信計画管理テーブルに追加する。次に、送信計画変更部103は、ステップS30において追加したエントリの再送回数のオフセット値αを0(ゼロ)にする(ステップS40)。
【0050】
ステップS50において、無線通信装置10の送信部102は、送信計画変更部103がステップS10において取得した送信計画に基づいて、データDを無線通信端末20に送信する。
【0051】
次に、送信計画変更部103は、ステップS50において送信されたデータDの送信完了時間Ttまたは送信未了時間Tt’と、遅延許容時間Tr(許容遅延)とを比較する(ステップS60)。送信計画変更部103は、送信完了時間Ttまたは送信未了時間Tt’が、遅延許容時間Tr以下であると判定した場合(ステップS60;YES)には、処理をステップS80に進める。また、送信計画変更部103は、送信完了時間Ttが、遅延許容時間Trを超えると判定した場合(ステップS60;NO)には、処理をステップ780に進める。
【0052】
ステップS70において、送信計画変更部103は、ステップS10において取得した送信計画の再送回数のオフセット値αを、1回分減算する。
【0053】
ステップS80において、送信計画変更部103は、ステップS50において送信されたデータDについて、このデータDの送信が完了したか否かを判定する。ここで、データDの送信が完了したとは、データDの送信が成功して、データDに対するアクノリッジを受信したことである。送信計画変更部103は、このデータDの送信が完了していないと判定した場合(ステップS80;NO)には、処理をステップS90に進める。また、送信計画変更部103は、このデータDの送信が完了したと判定した場合(ステップS80;YES)には、処理をステップS100に進める。
【0054】
ステップS90において、送信計画変更部103は、ステップS10において取得した送信計画の再送回数のオフセット値αを、1回分加算する。
【0055】
ステップS100において、送信計画変更部103は、ステップS70およびステップS90において変更した再送回数のオフセット値αを、記憶部110に記憶されている送信計画管理テーブルに書き込む。このようにして送信計画変更部103は、送信計画を更新して、処理を終了する。
【0056】
以上説明したように、本実施形態の無線通信システム1は、送信されたデータの送信状況に基づいて、送信計画変更部103がデータの再送回数の上限値を変更する。具体的には、無線通信システム1は、受信側の装置に受信されたとしても受信側の装置において利用されないデータについて、再送回数の上限値を減少させる。これにより、無線通信システム1は、無駄なデータの再送回数を低減することができるため輻輳が生じにくくなり、データの送受信の遅延時間を低減することができる。
【0057】
なお、上述したように送信計画変更部103は、送信部102が送信する1回分のデータDの送信結果に基づいて、送信計画を変更(更新)するとして説明したが、これに限られない。例えば、送信計画変更部103は、数回分のデータDの送信結果から求めた統計値に基づいて、送信計画を変更(更新)してもよい。ここで、統計値には、送信完了時間Ttの平均値や単位時間当たりの移動平均値、度数分布の中央値などが含まれる。この場合、送信計画変更部103は、計時部101が計時した送信完了時間Ttの統計値を算出する不図示の算出部を備えていてもよい。このように構成することにより、無線通信システム1は、再送回数の上限値の変更の精度を向上させることができる。また、無線通信システム1は、頻繁に再送回数の上限値が変更されることを抑止することができる。
【0058】
なお、上述においては、無線通信システム1が、動画コンテンツを再生する携帯電話端末にデータを送信する一例について説明したが、これに限られない。例えば、無線通信端末20とは、ロボット装置であってもよい。この場合、無線通信装置10は、このロボット装置を制御する制御装置に含まれ、ロボット装置に対して制御データを送信する。また、この場合において、ロボット装置から制御装置に対して、ロボット装置の制御結果を示すフィードバックデータを送信してもよい。この場合、無線通信システム1において、ロボット装置が送信側であり、制御装置が受信側である。すなわち、無線通信システム1は、装置間においてデータを双方向に送受信する通信システムであってもよい。
【0059】
以上、本発明の実施形態を説明したが、これらの実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれると同時に、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれるものである。
【0060】
なお、上述の各装置は内部にコンピュータを有している。そして、上述した各装置の各処理の過程は、プログラムの形式でコンピュータ読み取り可能な記録媒体に記憶されており、このプログラムをコンピュータが読み出して実行することによって、上記処理が行われる。ここでコンピュータ読み取り可能な記録媒体とは、磁気ディスク、光磁気ディスク、CD−ROM、DVD−ROM、半導体メモリ等をいう。また、このコンピュータプログラムを通信回線によってコンピュータに配信し、この配信を受けたコンピュータが当該プログラムを実行するようにしてもよい。
【0061】
また、上記プログラムは、前述した機能の一部を実現するためのものであってもよい。
さらに、前述した機能をコンピュータシステムにすでに記録されているプログラムとの組み合わせで実現できるもの、いわゆる差分ファイル(差分プログラム)であってもよい。