特許第6260083号(P6260083)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6260083
(24)【登録日】2017年12月22日
(45)【発行日】2018年1月17日
(54)【発明の名称】車輌用制御装置
(51)【国際特許分類】
   B60W 10/10 20120101AFI20180104BHJP
   F16H 61/04 20060101ALI20180104BHJP
   B60T 7/12 20060101ALI20180104BHJP
   B60W 10/18 20120101ALI20180104BHJP
   B60K 6/48 20071001ALI20180104BHJP
   B60W 20/14 20160101ALI20180104BHJP
   B60K 6/547 20071001ALI20180104BHJP
   B60W 30/184 20120101ALI20180104BHJP
   B60W 10/02 20060101ALI20180104BHJP
   B60W 10/188 20120101ALI20180104BHJP
【FI】
   B60W10/10 900
   F16H61/04
   B60T7/12 B
   B60W10/18 900
   B60K6/48
   B60W20/14
   B60K6/547
   B60W30/184
   B60W10/02
   B60W10/188
【請求項の数】8
【全頁数】19
(21)【出願番号】特願2013-7158(P2013-7158)
(22)【出願日】2013年1月18日
(65)【公開番号】特開2014-136539(P2014-136539A)
(43)【公開日】2014年7月28日
【審査請求日】2016年1月15日
(73)【特許権者】
【識別番号】000100768
【氏名又は名称】アイシン・エィ・ダブリュ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100082337
【弁理士】
【氏名又は名称】近島 一夫
(72)【発明者】
【氏名】津田 耕平
(72)【発明者】
【氏名】草部 圭一朗
【審査官】 増子 真
(56)【参考文献】
【文献】 特開2012−086810(JP,A)
【文献】 特開2010−143287(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2009/0111644(US,A1)
【文献】 米国特許出願公開第2002/0173894(US,A1)
【文献】 特開2008−094253(JP,A)
【文献】 特開2011−213252(JP,A)
【文献】 特開2006−275211(JP,A)
【文献】 特開平10−122341(JP,A)
【文献】 特開2006−083970(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60K 6/48 − 6/547
B60W 10/00 − 50/16
F16H 59/00 − 61/12
F16H 61/16 − 61/24
F16H 61/66 − 61/70
F16H 63/40 − 63/50
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
変速機構の入力側に設けられた回転電機を回生させた回生状態にて前記変速機構を変速する際に、前記回転電機の回生制動力を車輪に伝達可能な状態を維持したまま前記変速機構の摩擦係合要素の掴み換えを行うように前記変速機構を制御する車輌用制御装置であって、
前記回生状態で前記変速機構の変速を行うに際して、目標変速段を決定すると共に、現在変速段から前記目標変速段への変速を実行した際に、スリップ回転しながら前記回生制動力を伝達する主体側摩擦係合要素の温度が、各摩擦係合要素に応じて設定された許容温度よりも大きくなってしまうか否かを判断し、
前記主体側摩擦係合要素の温度が、前記許容温度以下となると判断した場合には、変速をそのまま実行するように前記変速機構を制御し、
前記主体側摩擦係合要素の温度が、前記許容温度より大きくなると判断した場合には、前記主体側摩擦係合要素の温度が前記許容温度以下となるように、前記スリップ回転時における前記主体側摩擦係合要素のトルク容量を設定して前記回転電機にて回生しつつ変速し、かつ、前記スリップ回転時に前記車輪に伝達されるアウトプットトルクの変動を低減するように前記車輪のブレーキ装置を作動させる、
ことを特徴とする車輌用制御装置。
【請求項2】
変速時に前記主体側摩擦係合要素に発生する発熱量を算出し、この発熱量が各摩擦係合要素に応じて設定された発熱量制限値より大きいか否かを判断することにより、変速時に前記主体側摩擦係合要素の温度が、前記許容温度より大きくなるか否かを判断する、
請求項1記載の車輌用制御装置。
【請求項3】
変速前までの累積の熱収支に基づき、前記主体側摩擦係合要素の現在温度を算出すると共に、変速時に前記主体側摩擦係合要素に発生する発熱量を算出し、これら前記主体側摩擦係合要素の現在温度及び変速時に前記主体側摩擦係合要素に発生する発熱量に基づいて、変速中における前記主体側摩擦係合要素の推定温度を求め、
この変速中における主体側摩擦係合要素の推定温度が、前記許容温度より大きくなるか否かによって、変速時に前記主体側摩擦係合要素の温度が、前記許容温度より大きくなるか否かを判断する、
請求項1又は2記載の車輌用制御装置。
【請求項4】
前記目標変速段が前記現在変速段から複数段離れた変速段であり、前記現在変速段を形成している1つの摩擦係合要素を掴み換える変速の場合、この1つの摩擦係合要素の掴み換えを行う際に、スリップ回転しながら前記回生制動力を伝達する摩擦係合要素を前記主体側摩擦係合要素とする、
請求項1乃至3のいずれか1項記載の車輌用制御装置。
【請求項5】
前記目標変速段が前記現在変速段から複数段離れた変速段であり、前記現在変速段を形成している2つの摩擦係合要素を掴み換える変速の場合、これら2つの摩擦係合要素のそれぞれを掴み換える際に、スリップ回転しながら前記回生制動力を伝達する各摩擦係合要素を前記主体側摩擦係合要素とする、
請求項1乃至4のいずれか1項記載の車輌用制御装置。
【請求項6】
変速に必要な所要時間、変速前後の変速機構の回転速度差及び前記主体側摩擦係合要素のトルク容量に基づいて前記発熱量を算出する、
請求項2又は3記載の車輌用制御装置。
【請求項7】
前記主体側摩擦係合要素の温度が、前記許容温度より大きくなると判断した場合には、前記スリップ回転時における前記主体側摩擦係合要素のトルク容量に基づいて、前記車輪のブレーキ装置の分担トルク容量を設定し、前記分担トルク容量に基づいて前記車輪のブレーキ装置を作動させる、
請求項1乃至6のいずれか1項記載の車輌用制御装置。
【請求項8】
複数の摩擦係合要素を有し、前記複数の摩擦係合要素を掴み換えることによって複数の変速段を形成する変速機構と、
前記変速機構の入力側に設けられた回転電機と、
車輪に設けられたブレーキ装置と、
前記回転電機を回生させた回生状態にて前記変速機構を変速する際に、前記回転電機の回生制動力を前記車輪に伝達可能な状態を維持したまま前記変速機構の摩擦係合要素の掴み換えを行うように前記変速機構を制御する制御部と、備え、
前記制御部は、前記回生状態で前記変速機構の変速を行うに際して、変速前後の差回転及び/もしくは所要変速時間に応じて、前記変速開始時に非制動状態であった前記ブレーキ装置のトルク容量を前記変速中に変化させて前記変速中の制動力を分担させ、かつ前記変速終了時には前記ブレーキ装置を非制動状態とする、
ことを特徴とする車輌。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、変速機構の入力側に回転電機が配設された車輌用制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、例えば、ハイブリッド自動車や電気自動車などの車輌に代表されるように、駆動源として回転電機を備えると共に、この回転電機を回生させて車輌の運動エネルギを電気エネルギに変換し、回収することによってエネルギ効率を高めた車輌の開発が盛んに行われている。
【0003】
従来、上記回転電機によって十分な回生量を得るために、例えば、特許文献1には、回転電機(モータジェネレータ)をエンジンと有段式自動変速機の間に配設したハイブリッド車輌において、有段式自動変速機を飛びダウンシフト変速させて回転電機を高い回転速度で回生させることが記載されている。
【0004】
また、特許文献2には、パワーオフ変速時に解放側の摩擦係合要素をスリップ係合させ、回転電機によって回生を行うことが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2008−94253号公報
【特許文献2】特開2011−213252号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、上記特許文献1記載のハイブリッド車輌は、飛びダウンシフト変速の変速中は、回転電機による回生を禁止し、摩擦ブレーキによって変速中の減速度を確保している。そのため、上記変速中の運動エネルギを回収することができず、エネルギ効率が低下するという問題があった。
【0007】
一方、上記問題を解決するためには、特許文献2記載のハイブリッド車輌のように、変速に係る摩擦係合要素をスリップ係合させて回生を行いながら変速を行うことも考えられる。しかしながら、この場合、係合側の摩擦係合要素がイナーシャ相中の回転制動力を受け持つためスリップ係合時の発熱が大きくなってしまう。特に、飛び変速の場合、変速の前後で自動変速機の入力軸の回転速度差が大きく、通常のダウンシフト変速と比較して変速時間も長くなってしまうため、摩擦係合要素に発生する発熱量が大きくなるという問題があった。
【0008】
また、ダウンシフト変速のみならずアップシフト変速についても、例えば、アクセルを踏み込んだ状態からアクセルをオフしてブレーキを踏みこんだ場合など、制動力を確保しながら飛びアップシフト変速を行いたい状態がある。この場合についても、エネルギ効率の観点から特許文献2のように、回転電機を回生しつつこの回転電機の回生によって車輌に制動力を発揮したい。しかしながら、上述したように飛び変速は、変速に要する時間が長く、イナーシャ相中も回転制動力を受け持つ解放側の摩擦係合要素に発生する発熱量が大きくなってしまうという問題がある。
【0009】
そこで、本発明は、摩擦係合要素を必要以上に発熱させずに回転電機の回生を実行させて車輌のエネルギ効率を向上させると共に、変速回数を少なくして車輌のドライバビリティを向上させることが可能な車輌用制御装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明に係る車輌用制御装置は、変速機構(6)の入力側に設けられた回転電機(3)を回生させた回生状態にて前記変速機構(6)を変速する際に、前記回転電機(3)の回生制動力を車輪(4)に伝達可能な状態を維持したまま前記変速機構(6)の摩擦係合要素(C−1〜C−3,B−1,B−2,F−1)の掴み換えを行うように前記変速機構(6)を制御する車輌用制御装置(10,10A,10B)であって、
前記回生状態で前記変速機構(6)の変速を行うに際して、目標変速段を決定すると共に、現在変速段から前記目標変速段への変速を実行した際に、スリップ回転しながら前記回生制動力を伝達する主体側摩擦係合要素(例えば、6−1変速の場合のC1や、1−6変速の場合のC1)の温度が、各摩擦係合要素に応じて設定された許容温度よりも大きくなってしまうか否かを判断し、
前記主体側摩擦係合要素の温度が、前記許容温度以下となると判断した場合には、変速をそのまま実行するように前記変速機構(6)を制御し、
前記主体側摩擦係合要素の温度が、前記許容温度より大きくなると判断した場合には、前記主体側摩擦係合要素の温度が前記許容温度以下となるように、前記スリップ回転時における前記主体側摩擦係合要素のトルク容量(TR,TE)を設定して前記回転電機にて回生しつつ変速し、かつ、前記スリップ回転時に前記車輪に伝達されるアウトプットトルク(Tout)の変動を低減するように前記車輪(4)のブレーキ装置(8)を作動させる、ことを特徴とする。
前記主体側摩擦係合要素の温度が、前記許容温度より大きくなると判断した場合には、前記スリップ回転時における前記主体側摩擦係合要素のトルク容量に基づいて、前記車輪(4)のブレーキ装置(8)の分担トルク容量を設定し、前記分担トルク容量に基づいて前記車輪(4)のブレーキ装置(8)を作動させる。
また、本発明に係る車輌は、
複数の摩擦係合要素(C−1〜C−3,B−1,B−2,F−1)を有し、前記複数の摩擦係合要素(C−1〜C−3,B−1,B−2,F−1)を掴み換えることによって複数の変速段を形成する変速機構(6)と、
前記変速機構(6)の入力側に設けられた回転電機(3)と、
車輪(4)に設けられたブレーキ装置(8)と、
前記回転電機(3)を回生させた回生状態にて前記変速機構(6)を変速する際に、前記回転電機(3)の回生制動力を前記車輪に伝達可能な状態を維持したまま前記変速機構(6)の摩擦係合要素(C−1〜C−3,B−1,B−2,F−1)の掴み換えを行うように前記変速機構(6)を制御する制御部(10)と、備え、
前記制御部(10)は、前記回生状態で前記変速機構(6)の変速を行うに際して、変速前後の差回転及び/もしくは所要変速時間に応じて、前記変速開始時に非制動状態であった前記ブレーキ装置(8)のトルク容量を前記変速中に変化させて前記変速中の制動力を分担させ、かつ前記変速終了時には前記ブレーキ装置を非制動状態とする、ことを特徴とする。
【0011】
また、変速時に前記主体側摩擦係合要素に発生する発熱量を算出し、この発熱量が各摩擦係合要素に応じて設定された発熱量制限値より大きいか否かを判断することにより、変速時に前記主体側摩擦係合要素の温度が、前記許容温度より大きくなるか否かを判断すると好適である。
【0012】
更に、変速前までの累積の熱収支に基づき、前記主体側摩擦係合要素の現在温度を算出すると共に、変速時に前記主体側摩擦係合要素に発生する発熱量を算出し、これら前記主体側摩擦係合要素の現在温度及び変速時に前記主体側摩擦係合要素に発生する発熱量に基づいて、変速中における前記主体側摩擦係合要素の推定温度を求め、
この変速中における主体側摩擦係合要素の推定温度が、前記許容温度より大きくなるか否かによって、変速時に前記主体側摩擦係合要素の温度が、前記許容温度より大きくなるか否かを判断すると好適である。
【0013】
また、前記目標変速段が前記現在変速段から複数段離れた変速段であり、前記現在変速段を形成している1つの摩擦係合要素を掴み変える変速の場合、この1つの摩擦係合要素の掴み換えを行う際に、スリップ回転しながら前記回生制動力を伝達する摩擦係合要素(例えば6−2変速の場合、C1)を前記主体側摩擦係合要素とすると好適である。
【0014】
更に、前記目標変速段が前記現在変速段から複数段離れた変速段であり、前記現在変速段を形成している2つの摩擦係合要素を掴み変える変速の場合、これら2つの摩擦係合要素のそれぞれを掴み換える際に、スリップ回転しながら前記回生制動力を伝達する各摩擦係合要素(例えば6−3変速の場合、C1及びC3)を前記主体側摩擦係合要素とすると好適である。
【0015】
また、変速に必要な所用時間、変速前後の変速機構の回転速度差及び前記主体側摩擦係合要素のトルク容量に基づいて前記発熱量を算出すると好適である。
【0016】
なお、上記カッコ内の符号は、図面と対照するためのものであるが、これは、発明の理解を容易にするための便宜的なものであり、特許請求の範囲の構成に何等影響を及ぼすものではない。
【発明の効果】
【0017】
請求項1に係る発明によると、スリップ回転しながら回生制動力を伝達する主体側摩擦係合要素の温度が、変速時に許容温度より大きくなるか否かを判断する。そして、この主体側摩擦係合要素の温度が、許容温度より大きくなると判断した場合、主体側摩擦係合要素の温度が許容温度以下となるように、スリップ回転時における主体側摩擦係合要素のトルク容量を設定する。主体側摩擦係合要素の熱的な制限に合せて、スリップ回転時における主体側摩擦係合要素のトルク容量を設定することによって、変速中に主体側摩擦係合要素の温度が許容温度以上に加熱されることを防止することができる。これにより、変速回数をできるだけ少なくするように自由に目標変速段を設定することが可能となり、また、例えば飛び変速のような変速中に主体側摩擦係合要素に発生する熱量が大きな変速においても、回生によってエネルギを回収してエネルギ効率を高めることができる。更に、上記スリップ回転時には、車輪のブレーキ装置を用いて、アウトプットトルクの変動を低減させるため、スリップ回転時に車輪に伝達される回生制動力が少なくなったとしても、車輌に生じるショックは少なく抑えることができ、上記変速回数を少なく出来ることとも相俟って、ドライバビリティの向上も達成することができる。
【0018】
請求項2に係る発明によると、変速時に主体側摩擦係合要素に発生する発熱量を算出し、この発熱量と摩擦係合要素ごとに設定された発熱量制限値とを比較することによって、変速時に主体側摩擦係合要素の温度が、許容温度より大きくなるか否かを、1回の変速中の発熱量に基づいて容易に判断することができる。
【0019】
請求項3に係る発明によると、変速時に主体側摩擦係合要素に発生する発熱量に加えて、変速前までの累積の熱収支に基づいて主体側摩擦係合要素の現在温度についての演算も行い、これら発熱量及び現在温度に基づいて、変速中の主体側摩擦係合要素の推定温度を算出する。このように、変速中の主体側摩擦係合要素の推定温度を、変速を開始する際の主体側摩擦係合要素の現在温度についても考慮して求めることによって、より正確に変速中に主体側摩擦係合要素が許容温度を超えるか否かを判断することができる。
【0020】
請求項4に係る発明によると、現在変速段を形成している1つの摩擦係合要素を掴み変える変速の場合、この1つの摩擦係合要素の掴み換えを行う際に、スリップ回転しながら回生制動力を伝達する摩擦係合要素を主体側摩擦係合要素とする。このため、変速時の発熱量が大きくなる摩擦係合要素の温度が、変速時に許容温度以上になるか否かを確実に判断することができる。
【0021】
請求項5に係る発明によると、現在変速段を形成している2つの摩擦係合要素を掴み変える変速の場合、これら2つの摩擦係合要素のそれぞれを掴み換えを行う際に、スリップ回転しながら回生制動力を伝達する各摩擦係合要素を主体側摩擦係合要素とする。このため、変速時の発熱量が大きくなる摩擦係合要素の温度が、変速時に許容温度以上になるか否かを確実に判断することができる。
【0022】
請求項6に係る発明によると、変速に必要な所用時間、変速前後の変速機構の回転速度差及び主体側摩擦係合要素のトルク容量を用いて、主体側摩擦係合要素の発熱量を算出することができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
図1】本発明の第1の実施の形態に係るハイブリット車輌を示す模式図。
図2図1のハイブリッド車輌のハイブリッド駆動装置を示すスケルトン図。
図3図2のハイブリッド駆動装置の変速機構の係合表。
図4図2のハイブリッド駆動装置の変速機構の変速マップ。
図5】主体側摩擦係合要素のトルクと入力軸の回転速度との関係を示すグラフであって、(a)は回生ダウンシフト変速の場合、(b)は回生アップシフト変速の場合。
図6】主体側摩擦係合要素の温度を許容温度以下に設定した際の、主体側摩擦係合要素のトルクとアウトプットトルクとの関係を示すグラフであって、(a)は回生ダウンシフト変速の場合、(b)は回生アップシフト変速の場合。
図7図6において、車輪のブレーキ装置によって回生制動力を補填した場合のグラフであって、(a)は回生ダウンシフト変速の場合、(b)は回生アップシフト変速の場合。
図8】(a)ダウンシフト変速時における主体側摩擦係合要素の制限後トルク容量及びブレーキ装置分担トルク容量の演算方法を示す図、(b)アップシフト変速時における主体側摩擦係合要素の制限後トルク容量及びブレーキ装置分担トルク容量の演算方法を示す図。
図9】車輌の走行中における主体側摩擦係合要素の推定温度の推移を示したグラフ。
図10】変速開始時の主体側摩擦係合要素の現在温度の違いによる、主体側摩擦係合要素の推定温度の違いを説明するグラフであって、(a)は回生ダウンシフト変速の場合、(b)は回生アップシフト変速の場合。
図11】(a)本発明の第2の実施の形態に係るダウンシフト変速時における主体側摩擦係合要素の制限後トルク容量及びブレーキ装置分担トルク容量の演算方法を示す図、(b)本発明の第2の実施の形態に係るアップシフト変速時における主体側摩擦係合要素の制限後トルク容量及びブレーキ装置分担トルク容量の演算方法を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、本発明の実施の形態に係る車輌用制御装置について図面に沿って説明をする。なお、以下の説明において、駆動連結とは、互いの回転要素が駆動力を伝達可能に連結された状態を指し、これら回転要素が一体的に回転するように連結された状態、或いはこれら回転要素がクラッチ等を介して駆動力を伝達可能に連結された状態を含む概念として用いる。また、飛び変速とは、現在の変速段から複数段離れている変速段へ変速する変速をいうこととする。
【0025】
<第1の実施の形態>
<ハイブリッド駆動装置の概略構成>
図1及び図2に示すように、ハイブリッド車輌(以下、単に車輌という)1は、駆動源として、内燃エンジン2の他に、回転電機(以下、モータジェネレータもしくは単にモータという)3を有している。この車輌1のパワートレーンを構成する車輌用駆動装置としてのハイブリッド駆動装置100は、ワンモータ型のハイブリッド駆動装置であり、上記内燃エンジン2と車輪4との間の伝達経路上に配設された変速機構6と、該変速機構6と内燃エンジン2との間の入力部5と、を有して構成されている。
【0026】
変速機構6は、図2に示すように複数の摩擦係合要素C−1〜C−3,B−1,B−2,F−1を有し、これら複数の摩擦係合要素の掴み換えによって変速歯車機構SP,PUの伝達経路を変更して複数の変速段を達成する多段式自動変速機(有段式自動変速機)によって構成されている。
【0027】
また、入力部5は、モータ3と、エンジン接続用クラッチK0とを有して構成されており、エンジン接続用クラッチK0は、エンジン2のクランク軸と駆動連結するエンジン連結軸9と変速機構6の入力軸11との間の動力伝達を断接するように構成されている。更に、モータ3は、上記変速機構6の入力側(動力伝達経路上、駆動車輪4と駆動連結する側とは反対側)に配設されており、変速機構6の入力軸11に駆動連結されている。
【0028】
このため、ハイブリッド駆動装置100は、内燃エンジン2及びモータ3の両方を駆動させて車輌を走行させる場合には、制御部(ECU、制御装置)10によって油圧制御装置12を制御してクラッチK0を係合させ、車輪側の伝達経路に駆動連結されたモータ3の駆動力だけで走行するEV走行時には、クラッチK0を解放して、内燃エンジン2側の伝達経路と車輪側の伝達経路とを切り離すようになっている。
【0029】
また、制御部10には、モータ3と同回転となる変速機構6の入力軸11の回転速度を検出する入力軸回転速度センサ13、変速機構6の出力軸14の回転速度を検出する車速センサ15、アクセル開度センサ16、ブレーキセンサ17などのセンサ類が通信可能に接続されている。制御部10は、アクセル開度センサ16が検出したアクセル開度、ブレーキセンサ17が検出したブレーキペダルの踏み込み量、車速センサ15が検出した出力軸14の回転速度(車速)に基づき、上記油圧制御装置12を制御して変速機構6の摩擦係合要素C−1〜C−3,B−1,B−2を係脱させ、変速機構6の変速段を切換える。また、制御部10は、上記ブレーキペダルの踏み込み量などに応じて車輪4に設けられたブレーキ装置8を作動させることができる。
【0030】
<変速機構の構成>
ついで、変速機構6の具体的構成について説明をする。図2に示すように、変速機構6には、入力軸11上において、プラネタリギヤSPと、プラネタリギヤユニットPUとが備えられている。上記プラネタリギヤSPは、サンギヤS1、キャリヤCR1、及びリングギヤR1を備えており、該キャリヤCR1に、サンギヤS1及びリングギヤR1に噛合するピニオンP1を有している、いわゆるシングルピニオンプラネタリギヤである。
【0031】
また、該プラネタリギヤユニットPUは、4つの回転要素としてサンギヤS2、サンギヤS3、キャリヤCR2、及びリングギヤR2を有し、該キャリヤCR2に、サンギヤS2及びリングギヤR2に噛合するロングピニオンPLと、サンギヤS3に噛合するショートピニオンPSとを互いに噛合する形で有している、いわゆるラビニヨ型プラネタリギヤである。
【0032】
上記プラネタリギヤSPのサンギヤS1は、ミッションケース18に対して固定されており、また、上記リングギヤR1は、上記入力軸11に駆動連結されて、該入力軸11の回転と同回転(以下「入力回転」という。)になっている。更に上記キャリヤCR1は、該固定されたサンギヤS1と該入力回転するリングギヤR1とにより、入力回転が減速された減速回転になると共に、クラッチC−1及びクラッチC−3に接続されている。
【0033】
上記プラネタリギヤユニットPUのサンギヤS2は、ブレーキB−1に接続されてミッションケース18に対して固定自在となっていると共に、上記クラッチC−3に接続され、該クラッチC−3を介して上記キャリヤCR1の減速回転が入力自在となっている。また、上記サンギヤS3は、クラッチC−1に接続されており、上記キャリヤCR1の減速回転が入力自在となっている。
【0034】
更に、上記キャリヤCR2は、入力軸11の回転が入力されるクラッチC−2に接続され、該クラッチC−2を介して入力回転が入力自在となっており、また、ワンウェイクラッチF−1及びブレーキB−2に接続されて、該ワンウェイクラッチF−1を介してミッションケース18に対して一方向の回転が規制されると共に、該ブレーキB−2を介して回転が固定自在となっている。そして、上記リングギヤR2は、カウンタギヤに接続されており、該カウンタギヤは、カウンタシャフト、ディファレンシャル装置を介して車輪4(図1参照)に接続されている。
【0035】
上記構成の変速機構6は、図2のスケルトン図に示す各クラッチC−1〜C−3、ブレーキB−1,B−2、ワンウェイクラッチF−1が、図3の係合表に示すように係脱されることにより、前進1速段(1ST)〜前進6速段(6TH)、及び後進1速段(Rth)を達成し、入力軸11に入力された回転を各変速段で変速して車輪4に出力する。
【0036】
<回生状態における変速の背景>
ところで、上述したモータ3が搭載されたハイブリッド駆動装置100では、できる限りモータ3によって回生して運動エネルギを電気エネルギに変換して回収し、エネルギ効率の向上を図りたい。この時、モータ3は、最も回生効率の良い回転速度の範囲にて回生することが望ましく、また、ドライバビリティの観点から、等パワーライン上でモータ3を回生させることが望ましい。従って、モータ3の回生は、高回転域で実行されることが望ましい。
【0037】
一方、変速機構6の引き摺りトルクは、入力軸11の回転速度が高い程増加する。このため、モータ3が入力側に配設された変速機構6の変速マップは、図4に示すように、回生要求がない場合には、高ギヤ段を選択して入力軸11の回転を低回転とし、回生要求がある場合には、低ギヤ段を選択して入力軸11を高回転とするように変速点が設定され、回生要求の有無に応じて目標変速段が変化するようになっている。
【0038】
従って、ブレーキペダルが踏み増されて回生要求が増加すると、変速機構6は、モータ3を効率の良い回転速度域にて回生させるために、モータ3の回生を行いながら複数段を跨いでダウンシフト変速する必要がある場合がある(図4の矢印A参照)。また、アップシフト変速側についても、図中矢印Bに示すように、アクセルが踏み込まれている状態からアクセルが離された際に制動要求がある場合、モータ3にて回生を行いつつ複数の変速段を跨いでアップシフト変速を行う必要がある場合がある。
【0039】
ここで、上記モータ3の回生を行いながら行うダウンシフト変速である回生ダウンシフト変速、モータ3の回生を行いながら行うアップシフト変速である回生アップシフト変速のいずれにおいても、変速後の目標変速段が現在変速段から複数段離れている場合、回生効率の向上やドライバビリティの向上のため、できる限り少ない変速回数にて目標変速段へと変速を行いたいという要望がある。
【0040】
そのため、変速後の目標変速段が現在変速段から複数段離れている場合には、1段ずつ変速を行わずに変速段を飛ばして変速を行う飛び変速を実行することが考えられるが、この飛び変速を実行するにあたり、上記回生状態における変速の場合、以下のような問題がある。
【0041】
即ち、変速機構6の入力側に設けられたモータ(回転電機)3を回生させた回生状態にて変速機構6を変速する場合、モータ3の回生力によって車輌の制動力を確保している。このため、制御部10は、モータ3の回生制動力を伝達可能な状態を維持したまま、摩擦係合要素の掴み換えを行うように変速機構6を制御している。
【0042】
具体的には、図5(a)に示すように、回生ダウンシフト変速においては、イナーシャ相において、係合側の摩擦係合要素のトルク容量TEを回生制動力に相当する値T1まで上昇させて変速を行っている。また、図5(b)に示すように、回生アップシフト変速においては、イナーシャ相において、解放側の摩擦係合要素のトルク容量TRを回生制動抜けが許される範囲T2で下げ、回転速度変化を実現しながら変速を行なっている。
【0043】
このように、モータ3が回生状態の場合の変速は、最大でもエンジンフリクショントルク分しか負トルクが発生しない従来型の車輌用駆動装置(モータを有していない車輌用駆動装置)に比して、回生によるモータ3の負トルク分だけ高負トルク下で変速を実施することとなる。即ち、上記回生ダウンシフト変速の場合にあっては、イナーシャ相における係合側の摩擦係合要素のトルク容量がモータ3の負トルク分だけ、従来型の車輌用駆動装置に比して高くなっている。また、回生アップシフト変速においては、解放側の摩擦係合要素がイナーシャ相中においてトルク容量を持たない従来型の車輌用駆動装置に比して、イナーシャ相中において解放側の摩擦係合要素が制動力に相当するトルク容量を持っている。
【0044】
このため、掴み換えを行う摩擦係合要素が回生制動力を車輪4に伝達することが可能な上記回生制動力に相当するトルク容量を持った状態でスリップ回転をするため、イナーシャ相にて発生する発熱量が大きくなる。
【0045】
飛び変速は、変速を行うのに必要な変速機構6の入力軸11の変速前後の回転速度差が1段ずつ変速する通常の変速に比して大きいためイナーシャ相の時間が長く、通常の変速よりも変速に要する所用時間が長くなる。従って、ただでさえ回生制動力を伝達するために発生する発熱量が増大している上に、飛び変速を行うことによってイナーシャ相が長くなると、スリップ回転しながら回生制動力を伝達する摩擦係合要素(上記ダウンシフト変速の際の係合側の摩擦係合要素、アップシフト変速の際の解放側の摩擦係合要素。以下、主体側摩擦係合要素と呼ぶ)の摩擦板に生じる発熱量が大きくなって、その温度が当該摩擦係合要素の許容温度よりも高くなってしまう虞がある。なお、上記許容温度とは、例えば焼き付きなどの熱による損傷が変速中の摩擦係合要素に発生しないように設定された制限温度であり、各摩擦係合要素毎に設定されている。
【0046】
一方、変速中の上記主体側係合要素の温度が許容温度を超えないように、スリップ回転時における主体側摩擦係合要素が伝達するトルクを小さくすると、例えば、上記回生ダウンシフト変速の場合には、図6(a)に示すように、イナーシャ相における係合側摩擦係合要素のトルク容量TRが、変速開始時に出力していた回生制動力を伝達するのに必要なトルク容量T1よりも小さくなってしまう虞がある(T1>TR)。すると、出力したい回生制動力を係合側の摩擦係合要素が伝達することができないため、上記トルク容量T1と係合側摩擦係合要素のトルク容量TRとの差分T3に相当するトルクT4だけ、イナーシャ相において車輪4に出力されるアウトプットトルクToutが大きくなり、変速中において制動抜けが発生してしまう虞がある。
【0047】
また、図6(b)に示すように、回生アップシフト変速の場合も同様に、主体側摩擦係合要素の温度を許容温度以下に抑えるために、イナーシャ相における解放側摩擦係合要素のトルク容量TEが上記トルク容量T1よりも小さくすると、このトルク容量T1とイナーシャ相における解放側摩擦係合要素のトルク容量TEとの差分T5に相当するトルク分T6だけ車輪4に出力されるアウトプットトルクToutに変動が生じ、変速中において制動抜けが発生してしまう虞がある。
【0048】
そこで、本実施の形態に係る制御部10は、上記掴み換えを行う摩擦係合要素に過大な熱負荷が発生することを防止しつつ、できる限り変速回数を少なくし、トルク相における変速ロスを少なくして回生効率及びドライバビリティを向上させるように、回生変速中の変速機構6及び車輪4のブレーキ装置8(図1参照)を制御している。
【0049】
特に、本実施の形態に係る制御部10は、図7に示すように、主体側摩擦係合要素の熱的な制限によって保持することができなくなった分の制動力(即ち、上記トルク容量の差分T3,T5)を、車輪のブレーキ装置8によって保障する(ブレーキ装置8が受け持つ分担トルクT7,T8)。このため、例えば、上述した飛び変速のような主体側摩擦係合要素に大きな熱負荷が発生する変速であっても、モータ3を回生させて運動エネルギの回収を行いながらも、アウトプットトルクToutの変動を低減させて良好なドライバビリティを達成している。以下、この回生変速中における制御部10の動作について、回生ダウンシフト変速の場合と、回生アップシフト変速の場合とに場合分けをして詳しく説明をする。
【0050】
<回生ダウンシフト変速>
制御部10は、変速マップに基づいて回生ダウンシフト変速の判断が行われると、この判断された変速後の変速段まで1回の変速にて変速するように目標変速段を決定する。そして、この目標変速段が決定されると、図8に示すように、回生ダウンシフト変速を行うに際して、制御部10は、モータ3が現在出力可能な最大トルク及び最大パワー、変速後の入力軸11の回転速度、現在のモータトルク、係合側の摩擦係合要素(主体側摩擦係合要素)の入力側の回転部材に生じるイナーシャ(摩擦係合要素よりも入力側にて駆動系に連結されている回転要素の総イナーシャ)に基づいて変速機構6の入力軸11にモータ3が生じさせることの可能な最大回転変化加速度を算出する。
【0051】
即ち、制御部10は、最大回転変化加速度を算出する最大回転変化加速度算出部30として機能し、モータ最大パワーと変速後の回転速度とから変速後にモータ3が出力可能なモータトルクを算出する。また、インバータ制御によりモータ3が出力可能な最大トルクの値を取得し、これらモータ最大パワーから算出したモータトルクと取得したモータ最大トルクとの小さい方の値をモータ3の出力可能なトルクとする。
【0052】
そして、制御部10は、上記モータ3の出力可能なトルクと、現在のモータトルクとからモータ3が出力可能な最大のイナーシャトルクを算出し、この最大のイナーシャトルクを、係合側の摩擦係合要素の入力側の回転部材に生じるイナーシャで除算することにより、変速機構6の入力軸11にモータ3が生じさせることの可能な最大回転変化加速度を算出する。
【0053】
また、変速前後の入力軸11の回転速度は予め設定されているため、制御部10は、それぞれの変速を行うのに必要となる入力軸11の回転速度差、即ち、変速前後の変速機構6の入力軸11の回転速度差を求めることができる(差回転算出部31)。そして、制御部10は、所用変速時間算出部32として機能することによって、この変速前後の変速機構6の回転速度差を上記最大回転変化加速度で除算し、変速を行うのに必要となる所用変速時間(イナーシャ相の期間)を算出する。
【0054】
また、制御部10は、制限前トルク容量算出部33としても機能し、エンジンのフリクショントルク(エンジンが動力伝達系につながっている場合のみ)とモータの駆動トルクとから変速機構6への入力トルクを算出し、この変速機構6への入力トルクに係合側の摩擦係合要素の分担比を乗算することによって、係合側の摩擦係合要素の制限前トルク容量を算出する。
【0055】
そして、上記変速に必要な所用時間、変速前後の変速機構の回転速度差及び係合側の摩擦係合要素の制限前トルク容量が求まると、制御部10は発熱量算出部34として機能し、これら算出した変速の所要時間、変速前後の変速機構の入力軸11の回転速度差、係合側の摩擦係合要素のトルク容量に基づいて、変速中に係合側の摩擦係合要素(主体側摩擦係合要素)に発生する総発熱量を演算する。
【0056】
上記係合側の摩擦係合要素の発熱量を算出すると、制御部10は、熱負荷判断部37として機能し、この演算した発熱量が各摩擦係合要素に応じて設定された発熱量制限値より大きいか否かを判断する。即ち、制御部10は、この発熱量が発熱量制限値より大きいか否かを判断することにより、現在変速段から上記目標変速段への変速を実行した際に、係合側の摩擦係合要素(主体側摩擦係合要素)の温度が、上述した許容温度より大きくなるか否かを判断している。なお、この発熱量制限値は、1回の変速中において主体側摩擦係合要素に発生することが許される発熱量の上限値であり、各摩擦係合要素の許容温度に応じて設定されている。
【0057】
上記算出した発熱量が発熱量制限値以下の場合、イナーシャ相における係合側の摩擦係合要素(主体側摩擦係合要素)のトルク容量TEを、変速開始時の回生制動力を伝達可能な値である上記制限前トルク容量(図7のトルク容量T1)に設定しても、この係合側の摩擦係合要素の温度が許容温度を超えることはない。従ってこの場合、制限後トルク容量算出部38として機能する制御部10は、熱的な制限を考慮しない制限前トルク容量の値を、そのまま制限後の係合側の摩擦係合要素のトルク容量とする。また、この場合、変速中に必要な制動力をモータ3によって出力可能となるため、制御部10は、イナーシャ相(変速時)においてブレーキ装置8が分担するトルク容量(以下、ブレーキ装置分担トルク容量という)は0に設定する。即ち、算出した発熱量が発熱量制限値以下の場合、制御部10は、変速をそのまま実行するように変速機構6を制御する。
【0058】
一方、算出した発熱量が発熱量制限値より大きいの場合、係合側の摩擦係合要素のトルク容量を上述の制限前トルク容量(トルク容量T1)とすると、変速中に係合側の摩擦係合要素の温度が許容温度を超えてしまう虞がある。そのため、制御部10は、上記発熱量制限値、所用変速時間、変速前後の回転速度差に基づいて、変速中に当該摩擦係合要素の温度が許容温度を超えないように制限後トルク容量を算出する。具体的には、制御部10は、変速中に当該摩擦係合要素の温度が上記許容温度を超えない範囲において、最も大きな値となるように、上記制限後トルク容量を算出する。
【0059】
また、この場合、制御部10は、ブレーキ装置分担トルク容量算出部39としても機能し、制限前後のトルク容量及びクラッチの分担比に基づいて、上述したブレーキ装置分担トルク容量を設定する。即ち、制御部10は、イナーシャ相において、係合側の摩擦係合要素が伝達する回生制動力が不足することにより、アウトプットトルクToutに変動が生じないように、制限前トルク容量と制限後トルク容量との差分に相当するトルク容量(図7(a)のT7)を、上記ブレーキ装置分担トルク容量の値とする。そして、制御部10は、これら算出した制限後トルク容量及びブレーキ装置分担トルク容量を、それぞれ係合側の摩擦係合要素及びブレーキ装置8のトルク容量として設定して変速を実行するようになっている。
【0060】
なお、制御部10は、目標変速段が現在変速段から複数段離れた変速段となる飛び変速の場合はもちろんのこと、変速前後の変速段差が1段の場合にも同様の手法を用いて変速を行う。また、変速が現在変速段を形成している1つの摩擦係合要素を掴み変える変速の場合、この1つの摩擦係合要素の掴み換えを行う際の主体側摩擦係合要素(例えば6−2変速の場合、C1)について、制限後トルク容量及びブレーキ装置分担トルク容量の演算を行う。
【0061】
更に、制御部10は、変速が4要素掴み換え変速のように現在変速段を形成している2つの摩擦係合要素の両方を掴み変える変速(例えば6−3変速)の場合、これら2つの摩擦係合要素のそれぞれを掴み換える際の主体側摩擦係合要素(例えば6−3変速の場合、C1及びC3)それぞれについて、制限後トルク容量及びブレーキ装置分担トルク容量の演算を行う。
【0062】
<回生アップシフト変速>
一方、回生アップシフト変速の場合も回生ダウンシフトの場合と同様に、変速マップに基づいて回生アップシフト変速の判断が行われると、この判断された変速後の変速段まで1回の変速にて変速するように目標変速段を決定する。
【0063】
そして、図8(b)に示すように、回生ダウンシフト変速の場合と同様の方法により制限後トルク容量及びブレーキ装置分担トルク容量を算出し、変速を実行する。なお、回生アップシフト変速の場合、アップシフト変速であるため、モータ3の出せる最大のイナーシャトルクは、モータの最小トルク及び最少パワーから演算する。具体的には、アップシフト変速であるため、上記最大のイナーシャトルクは、マイナスの値になり、最大回転変化加速度もマイナスの値となる。また、制限後トルク容量が算出される主体側摩擦係合要素は、係合側の摩擦係合要素の代わりに解放側の摩擦係合要素となる。
【0064】
上述したように、制御部10は、変速時に主体側摩擦係合要素の温度が、許容温度より大きくなると判断した場合、主体側摩擦係合要素の温度が許容温度以下となるように、スリップ回転時における主体側摩擦係合要素のトルク容量を設定する。主体側摩擦係合要素の熱的な制限に合せて、スリップ回転時における主体側摩擦係合要素のトルク容量を設定することによって、変速中に主体側摩擦係合要素の温度が許容温度以上となることを防止することができる。このため、変速回数をできるだけ少なくするように自由に目標変速段を設定することが可能となり、また、例えば飛び変速のような変速中に主体側摩擦係合要素に発生する熱量が大きな変速においても、回生によってエネルギを回収することができる。
【0065】
更に、変速回数を少なくすることによって、変速の際のエネルギ損失を低減することができかつ、早い時点にて効率の良い回転速度の範囲にて回転電機の回生をさせることができるため、車輌のエネルギ効率を向上させることができる。
【0066】
また、上記スリップ回転時には、車輪4のブレーキ装置8を用いて、アウトプットトルクToutの変動を低減させるため、スリップ回転時に車輪に伝達される回生制動力が少なくなったとしても、車輌に生じるショックは少なく抑えることができ、上記変速回数を少なく出来ることとも相俟って、ドライバビリティの向上も達成することができる。
【0067】
<第2の実施の形態>
次に、本発明の第2の実施の形態に係る車輌用制御装置について、図9乃至図11に沿って説明をする。なお、この第2の実施の形態は、制限後トルク容量及びブレーキ装置分担トルク容量を算出する際に、主体側摩擦係合要素の現在温度について考慮している点で第1の実施の形態と相違している。そのため、以下の説明においては、上記第1の実施の形態との相違点についてのみ説明し、その他の部分については、その説明を省略する。
【0068】
図9は、車輌の走行中おける主体側摩擦係合要素の推定温度の推移を示した図である。図9において、主体側摩擦係合要素は、時点t1〜t2と、時点t3〜t4とにおいて掴み換えられており、変速時に回生制動力を伝達しながらスリップ回転することによって発熱し、昇温していることが分かる。また、主体側摩擦係合要素が掴み換えられていない時点t2〜t3の間は、主体側摩擦係合要素の温度は低下して、変速機構6内の作動油(以下ATFという)の温度に収束して行っていることが分かる。
【0069】
ここで、上記第1回目の変速の開始時点t1では、主体側摩擦係合要素の推定温度は、ATFの油温と略等しくなっているが、図9の場合のように第1回目の変速と第2回目の変速とが比較的に近い間隔で実施されると、第2回目の変速の開始時点t2で、第1回目の変速の際に昇温された熱が残っており、この第2回目の変速の開始の時点t2では、主体側摩擦係合要素の推定温度が、時点t1の温度よりも高くなっている。
【0070】
このため、上記第1回目及び第2回目の変速において、主体側摩擦係合要素に生じる発熱量が等しかったとしても、変速の開始時点における主体側摩擦係合要素の温度によっては、変速中の主体側摩擦係合要素の温度が、許容温度より大きくなったり、許容温度以下になったりすることが起こり得る。
【0071】
即ち、図10に示すように、全く同様の変速を実行したとしても、変速開始時点の温度が高い場合には主体側摩擦係合要素の推定温度X1,X2が許容温度を超え、変速開始時点の温度が低い場合には主体側摩擦係合要素の推定温度X3,X4が許容温度を超えないことが起こりえる。
【0072】
このため、本実施の形態においては、上記主体側摩擦係合要素の現在温度を考慮して、変速時に変速機構及びブレーキ装置を制御している。即ち、図11に示すように、本実施の形態に係る制御部10Aは、現在温度算出部として機能しており、変速前までの累積の熱収支(主体側摩擦係合要素の入熱、放熱の合計やATFの油温)に基づき、主体側摩擦係合要素の現在温度を常時算出して推定している。
【0073】
制御部10Aは、変速に際して主体側摩擦係合要素の発熱量を算出すると、推定温度算出部40として機能し、上記主体側摩擦係合要素の現在温度及びこの変速時に主体側摩擦係合要素に発生する発熱量に基づいて、変速中における主体側摩擦係合要素の推定温度を求める。
【0074】
上記変速中における主体側摩擦係合要素の推定温度が求まると、熱負荷判断部37Aとしての制御部10Aは、この推定温度が、許容温度より大きくなるか否かを判断することによって、変速時に主体側摩擦係合要素の温度が、許容温度より大きくなるか否かを判断する。そして、この推定温度が許容温度以下の場合、制御部10Aは、第1の実施の形態と同様に、主体側摩擦係合要素の制限後トルク容量を、制限前トルク容量として、変速を実行するように変速機構6を制御する。
【0075】
一方、求めた推定温度が、許容温度よりも高い場合、制御部10Aは、推定温度が許容温度を上回った分の温度を求め、この推定温度が許容温度を上回った分の温度が求まると第1逆算出部42として機能して、当該制限(許容温度)を上回った分の温度を発熱量へと変換する。この制限をオーバした分の発熱量の値が求まると、次に、制御部10Aは第2逆算出部43として機能して、制限をオーバした分の発熱量を主体側摩擦係合要素のトルク容量へと変換する。
【0076】
そして、この制限をオーバした分のトルク容量が求まると、制御部10Aは、この制限オーバ分のトルク容量及び変速前後の回転速度差に基づいて、主体側摩擦係合要素の制限後トルク容量を算出する。また、制御部10は、この制限オーバ分のトルク容量、制限前トルク容量、主体側摩擦係合要素のトルク分担比に基づいて、ブレーキ装置分担トルク容量を算出する。
【0077】
このように、本実施の形態によると、変速時に主体側摩擦係合要素に発生する発熱量に加えて、変速前までの累積の熱収支に基づいて主体側摩擦係合要素の現在温度についての演算も行い、これら発熱量及び現在温度に基づいて、変速中に主体側摩擦係合要素の推定温度を算出する。そして、変速中の主体側摩擦係合要素の推定温度を、変速を開始する際の主体側摩擦係合要素の現在温度についても考慮して求めることによって、より正確に変速中に主体側摩擦係合要素が許容温度を超えるか否か判断することができる。
【0078】
<第3の実施の形態>
ついで、本発明の第3の実施の形態に係る車輌用制御装置について説明をする。なお、この第3の実施の形態は、第1及び第2の実施の形態の両方の方法を用いて、上記制限後トルク容量及びブレーキ装置分担トルク容量を算出する。従って、上記第1及び第2の実施の形態と同様の構成については、以下の説明においてその説明を省略する。
【0079】
制御部10Bは、変速マップに基づいて変速の判断が行われると、上記第1の実施の形態に記載の方法及び第2の実施の形態に記載の方法の両方を並行して行い、それぞれの方法で制限後トルク容量及びブレーキ装置分担トルク容量を算出する。
【0080】
そして、これら2つの方法にて算出された制限後トルク容量及びブレーキ装置分担トルク容量を比較し、より制限後トルク容量が小さくかつブレーキ装置分担トルク容量が大きい方の値を選択する。
【0081】
即ち、本実施の形態においては、制御部10Bは、第1の実施の形態の方法と、第2の実施の形態の方法との方法のいずれかが、変速中に主体側摩擦係合要素の温度が許容温度を超える虞があると判断した場合、この許容温度を超える虞があると判断した方の結果を採用する。また、いずれの方法も変速中に主体側摩擦係合要素の温度が許容温度を超える虞があると判断した場合、より変速中の主体側摩擦係合要素の温度が低くなる側の値を採用している。
【0082】
なお、上述した第1乃至第3の実施の形態においては、車輌用駆動装置としてハイブリッド駆動装置を例にとって説明をしたが、必ずしも駆動源としてエンジンは必要とせず、変速機構の入力側に回転電機を備えた車輌用駆動装置であれば本発明を適用することができる。更に、変速機構についても、6段変速の多段自動変速機構である必要はなく、3速段以上の変速段を有する変速機構であれば良い。
【0083】
また、ブレーキ装置8は、単なるディスクブレーキ装置ではなく、例えば、車輌のサイドブレーキを用いてもよく、更に、駆動車輪以外の車輪のブレーキ装置を使用しても良い。加えて、制御部10,10A,10Bは、必ずしも一つの制御装置によって構成される必要はなく、例えば、車輌用駆動装置を制御する制御装置と車輌全体を制御する制御装置など、複数の制御装置によって構成されても良い。
【0084】
加えて、変速機構6は、2つの摩擦係合要素を係合させて1つの変速段を形成するものである必要はなく、例えば、3つ以上の摩擦係合要素を係合させて1つの変速段を形成するような変速機構であっても良い。この場合も、上述したように各摩擦係合要素の掴み換え時の主体側摩擦係合要素の発熱量に基づいて、主体側摩擦係合要素の制限後トルク容量及びブレーキ装置分担トルク容量は設定される。
【0085】
また、第2及び第3の実施の形態において、現在温度、推定温度、許容温度を温度の単位で計算しているが、クラッチの熱容量を用いて発熱量の単位に変換して計算することもできる。同様に、第1の実施の形態においても発熱量、発熱量制限値を温度などの単位で計算することも可能である。即ち、本発明において発熱量や、温度などの言葉は、どのような単位において表現されても良く、それらは実質的に同じである。
【0086】
また、摩擦係合要素の発熱量は、動力伝達系における総エネルギから、摩擦係合要素の動力伝達上流側のエネルギと摩擦係合要素の動力伝達下流側のエネルギとを減算し、この差分を発熱量として計算しても良い共に、上述した実施の形態に記載された発明は、どのように組み合わせても良い。
【符号の説明】
【0087】
3:回転電機(モータ)、6:変速機構、8:ブレーキ装置、10,10A,10B:制御装置(制御部)、C−1〜C−3,B−1,B−2,F−1:摩擦係合要素(クラッチ,ブレーキ)、TR,TE:主体側摩擦係合要素のトルク容量、Tout:アウトプットトルク
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11