(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【背景技術】
【0002】
内燃機関と電動発電機の両方を搭載するハイブリッド車両(HEV)においては、大別して、内燃機関に駆動される発電機で発電した電気、又は、発電した電気を充電したバッテリからの電気で駆動する電動機(走行用モータ)のみを走行用の動力源とするシリーズ型ハイブリッド車両と、内燃機関と電動発電機(走行用モータ)との両方を走行用の動力源とするパラレル型ハイブリッド車両とがある。
【0003】
このハイブリッド車両においては、車両が減速状態にあり、車両の車輪から回生エネルギーを回収できる場合は、電動発電機で回生発電し、このとき電動発電機で発生する制動トルクで車両の減速を行うが、大きな制動トルクが必要な場合は、電動発電機による制動トルクのみでは、車両の減速で必要とされる制動トルクを確保できず、ハイブリッド車両の減速を確実に行うことができないという問題がある。
【0004】
この問題に関連して、例えば、電動機の回生トルクを制動力として利用する際のドライバビリティを向上させるために、電動機のみによる走行中の減速時に電動機の回生発電により生じる回生トルクを制動力として利用する際に、予め設定されている目標減速度と回生発電により生じる回生トルクによる実減速度とを比較する減速度比較部と、電動機が最大の回生トルクを発生しているにも係わらず減速度比較部の比較結果により実減速度が目標減速度以下となる状態が所定のパターンで生じたとき、今回の減速が終了した後の次回の減速時には、エンジンと電動機とが協働する走行形態とし、エンジンのエンジンブレーキと電動機の回生トルクとを共に制動力として利用する回生制御部と、を有するハイブリッド自動車等が提案されている(例えば、特許文献1参照)。
【0005】
しかし、このハイブリッド自動車は、電動機のみによる走行中の減速時に、電動機の回生トルクのみでは減速が不十分であったときに、その次の減速時に、エンジンと電動機とが協働する走行形態とするものであるため、当初の電動機のみによる走行中の減速時では、電動機の不十分な回生トルクのみで減速するため、ハイブリッド自動車の制動トルクを十分に確保できない状態が発生するという問題がある。
【0006】
特に、トラックやバス等では、乗用車に比べて車重が大きく、この車重に比べて相対的にドラムブレーキ等の機械的なブレーキの容量が小さくなってしまうため、機械的なブレーキで発生する制動トルクよりも大きな制動トルクを発生する必要がある。そのため、排気ブレーキやリターダ等の補助ブレーキを装備している。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、上記のことを鑑みてなされたものであり、その目的は、内燃機関と電動発電機の両方を車両の走行用の駆動源とする機能を有するハイブリッドシステムを備えたハイブリッド車両において、制動エネルギーを充電エネルギーとして利用しながら、ハイブリッド車両の減速時の制動トルクを十分に確保することができるハイブリッド車両及びその制御方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記の目的を達成するための本発明のハイブリッド車両は、内燃機関と電動発電機の両方を車両の走行用の駆動源とする機能を有するハイブリッドシステムを備えたハイブリッド車両において、前記ハイブリッドシステムを制御する制御装置が、回転数をベースに、前記電動発電機の制動トルクの最大値を示す第1判定線と、該第1判定線の制動トルクに前記内燃機関のエンジンブレーキによる制動トルクの最大値を加算した制動トルクを示す第2判定線
と、該第2判定線の制動トルクに前記内燃機関に接続する排気通路に設けた排気ブレーキの制動トルクの最大値を加算した制動トルクを示す第3判定線と、を設けた制動制御用データを予め備え、前記ハイブリッド車両を減速するために必要とされる目標要求制動トルクが、前記第1判定線とゼロとの間の第1判定領域にあるときは、前記電動発電機で発電して発生する回生トルクのみで制動トルクを与える第1制動制御運転を行い、前記目標要求制動トルクが、前記第1判定線と前記第2判定線の間の第2判定領域にあるときは、前記電動発電機で発電して発生する回生トルクに前記内燃機関のエンジンブレーキによる制動トルクを加えた第2制動制御運転を
行い、前記目標要求制動トルクが、前記第2判定線と前記第3判定線の間の第3判定領域にあるときは、前記電動発電機で発電して発生する回生トルクと前記内燃機関のエンジンブレーキによる制動トルクに、前記排気ブレーキの作動による制動トルクを加えた第3制動制御運転を行うとともに、前記第2制動制御運転では、前記電動発電機で発電して発生する回生トルクを、前記目標要求制動トルクから前記内燃機関のエンジンブレーキによる制動トルクを減算して算出される値
とし、前記第3制動制御運転では、前記電動発電機で発電して発生する回生トルクを、前記目標要求制動トルクから前記内燃機関のエンジンブレーキによる制動トルクの最大値と前記排気ブレーキの作動による制動トルクとを減算して算出される値とし、
更に、前記目標要求制動トルクが、第3判定領域にあると判定されて前記第3制動制御運転がなされ、ブレーキペダルの踏込量が変化しない場合は、前記第3制動制御運転から前記第2制動制御運転と前記第1制動制御運転へ順次移行するように構成される。
【0010】
この制動制御用データは、マップデータ(減速時協調制御マップ)や回転数をベースにした関数等で表現されるものであり、また、この回転数は、ハイブリッド車両の車軸又は車輪の回転数や、電動発電機の回転数や内燃機関の回転数であり、これらの回転数は相互に密接な関係を持っているので、これらの回転数のうちの代表的な回転数、例えば、内燃機関の回転数を選択して用いればよい。
【0011】
この構成によれば、電動発電機の回生トルクのみで目標要求制動トルクを確保できる場合は、第1制動制御運転で電動発電機の回生トルクを発生させると共に、電動発電機の回生制御で発電した電気をバッテリに充電することで、制動エネルギーを充電エネルギーとして利用しながら、ハイブリッド車両の減速時の制動トルクを十分に確保できる。また、電動発電機の回生トルクのみで目標要求制動トルクを確保できない場合は、第2制動制御運転で電動発電機の回生トルクに、内燃機関のエンジンブレーキによる制動トルクを加えることで、制動エネルギーを充電エネルギーとして利用しながら、ハイブリッド車両の減速時の制動トルクを十分に確保できる。
【0013】
なお、ここでいう、排気ブレーキの作動による制動トルクとは、排気通路の途中に設けられた排気ブレーキ弁を閉じることで排気圧力を高めて、ポンピングロスをより大きくして、内燃機関の回転抵抗を増加させて得られる制動トルクである。
【0014】
また、この構成によれば、電動発電機の回生トルクに内燃機関のエンジンブレーキによる制動トルクを加えても、目標要求制動トルクを確保できない場合に、第3制動制御運転で電動発電機の回生トルク及び内燃機関のエンジンブレーキによる制動トルクに加えて、排気ブレーキの作動による制動トルクを加えることで、制動エネルギーを充電エネルギーとして利用しながら、目標要求制動トルクを十分に確保することができる。
【0015】
そして、上記の目的を達成するためのハイブリッド車両の制御方法は、内燃機関と電動発電機の両方を車両の走行用の駆動源とする機能を有するハイブリッドシステムを備えたハイブリッド車両の制御方法において、回転数をベースに、前記電動発電機の制動トルクの最大値を示す第1判定線と、該第1判定線の制動トルクに前記内燃機関のエンジンブレーキによる制動トルクの最大値を加算した制動トルクを示す第2判定線
と、該第2判定線の制動トルクに前記内燃機関に接続する排気通路に設けた排気ブレーキの制動トルクの最大値を加算した制動トルクを示す第3判定線と、を設けた制動制御用データを用いて、前記ハイブリッド車両を減速するために必要とされる目標要求制動トルクが、前記第1判定線とゼロとの間の第1判定領域にあるときは、前記電動発電機で発電して発生する回生トルクのみで制動トルクを与える第1制動制御運転を行い、
前記目標要求制動トルクが、前記第1判定線と前記第2判定線の間の第2判定領域にあるときは、前記電動発電機で発電して発生する回生トルクに前記内燃機関のエンジンブレーキによる制動トルクを加えた第2制動制御運転を
行い、前記目標要求制動トルクが、前記第2判定線と前記第3判定線の間の第3判定領域にあるときは、前記電動発電機で発電して発生する回生トルクと前記内燃機関のエンジンブレーキによる制動トルクに、前記排気ブレーキの作動による制動トルクを加えた第3制動制御運転を行うとともに、前記第2制動制御運転では、前記電動発電機で発電して発生する回生トルクを、前記目標要求制動トルクから前記内燃機関のエンジンブレーキによる制動トルクを減算して算出される値
とし、前記第3制動制御運転では、前記電動発電機で発電して発生する回生トルクを、前記目標要求制動トルクから前記内燃機関のエンジンブレーキによる制動トルクの最大値と前記排気ブレーキの作動による制動トルクとを減算して算出される値とし、更に、前記目標要求制動トルクが、第3判定領域にあると判定されて前記第3制動制御運転がなされ、ブレーキペダルの踏込量が変化しない場合は、前記第3制動制御運転から前記第2制動制御運転と前記第1制動制御運転へ順次移行するように制御することを特徴とする方法である。
【0016】
この方法によれば、電動発電機の回生トルクのみで目標要求制動トルクを確保できない場合であっても、電動発電機の回生トルクに、内燃機関のエンジンブレーキによる制動トルクを加えることで、制動エネルギーを充電エネルギーとして利用しながら、ハイブリッド車両の減速時の制動トルクを十分に確保できる。
【0017】
また、上記のハイブリッド車両の制御方法に
おいて、電動発電機の回生トルクに内燃機関のエンジンブレーキによる制動トルクを加えても、目標要求制動トルクを確保できない場合であっても、さらに、排気ブレーキの作動による制動トルクを加えることで、制動エネルギーを充電エネルギーとして利用しながら、目標要求制動トルクを十分に確保することができる。
【発明の効果】
【0018】
本発明のハイブリッド車両及びその制御方法によれば、電動発電機の回生トルクのみで車両の減速時の目標要求制動トルクを確保できる場合は、電動発電機で回生制御を行うことで目標要求制動トルクを確保し、この回生制御で発電した電気をバッテリに充電できる。また、電動発電機の回生トルクのみで目標要求制動トルクを確保できない場合は、電動発電機の回生トルクに内燃機関のエンジンブレーキによる制動トルクを加えるので、車両の減速時の制動トルクを十分に確保することができ、また、回生トルクの発生により、制動エネルギーの一部を充電エネルギーとして利用することができる。
【0019】
さらに、目標要求制動トルクが、電動発電機の制動トルクに、内燃機関のエンジンブレーキによる制動トルクを加えても不足する場合に、さらに排気ブレーキの作動による制動トルクを発生させるように構成すると、ハイブリッド車両の減速時に発生可能な制動トルクをより大きくすることができる。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明に係る実施の形態のハイブリッド車両及びその制御方法について説明する。
図6に示すように、この実施の形態のハイブリッド車両(HEV:以下車両とする)1は、エンジン(内燃機関)10と電動発電機(走行用電動機兼発電機)20の両方を走行用の動力源とするパラレル型ハイブリッド車両である。
【0022】
なお、ここでは、パラレル型ハイブリッド車両を例にして説明するが、必ずしもパラレル型ハイブリッド車両でなくてもよく、エンジン10と電動発電機20の両方を走行用の動力源とすることができる機能を有するハイブリッド車両であればよい。
【0023】
最初に、本発明に係る実施の形態のハイブリッド車両1について説明する。
図6に示すように、このエンジン10の動力は、エンジン10に接続するトルクコンバータ14、接続状態のエンジン用クラッチ15を介してトランスミッション30に伝達され、さらに、トランスミッション30よりプロペラシャフト31を介してデファレンシャルギア32に伝達され、デファレンシャルギア32よりドライブシャフト33を介して車輪34に伝達される。これにより、エンジン10の動力が車輪34に伝達され、車両1が走行する。
【0024】
一方、電動発電機20の動力に関しては、バッテリ22に充電(蓄電)された電力がインバータ21を介して電動発電機20に供給され、この電力により電動発電機20が駆動され動力を発生する。この電動発電機20の動力は、接続状態の電動発電機用クラッチ23を介してトランスミッション30に伝達され、更に、トランスミッション30よりプロペラシャフト31を介してデファレンシャルギア32に伝達され、デファレンシャルギア32よりドライブシャフト33を介して車輪34に伝達される。これにより、電動発電機20の動力が車輪34に伝達され、車両1が走行する。
【0025】
そして、エンジン用クラッチ15の接続と断絶の切替操作により、エンジン10の動力の車輪34への伝達と遮断を行い、また、電動発電機用クラッチ23の接続と断絶の切替操作により、電動発電機20の動力の車輪34への伝達と遮断を行うが、エンジン10又は電動発電機20の動力の伝達と遮断を適宜切り替えることができれば良く、エンジン用クラッチ15及び電動発電機用クラッチ23を必ずしも設ける必要はない。
【0026】
なお、このエンジン10では、エンジン10内で燃料を燃焼させてピストンを動かすことで動力を発生させるが、この燃焼により生じた排気ガスGにはNOx(窒素酸化物)、PM(Particulate Matter:微粒子状物質)等が含有されるため、そのまま、何の処理も施さず大気中に放出すると環境汚染の面から好ましくない。そのため、酸化触媒装置やNOx低減触媒装置やPM捕集フィルタ装置等を備えた排気ガス浄化装置13を排気通路11に配設して、この排気ガス浄化装置13により、排気ガスG中のNOx、PM等を浄化処理している。この浄化処理された排気ガスGcは、マフラー(図示しない)等を経由して大気中に放出される。
【0027】
この車両1の制動トルク(ブレーキ力)を発生するものとして、ブレーキペダルの踏み込みにより作動する、車輪34に備えられたドラムブレーキやディスクブレーキ等の機械的な常用ブレーキを備えている。しかしながら、トラック等の大型車両では、車両1の重量に比べて、この油圧式、空気圧式、空気油圧複合式等の機械的な常用ブレーキの制動トルクが相対的に小さいので、エンジンブレーキに加えて、エンジンブレーキの効果をさらに高めるための補助ブレーキとして、排気通路11に排気ブレーキ弁(シャッターバルブ)12を備えている。
【0028】
このエンジンブレーキは機関ブレーキとも呼ばれるブレーキであり、車両の走行中にアクセルペダルを離すと、エンジン10のシリンダ内に燃料が送られなくなって燃料の無噴射状態となるので、シリンダでの燃焼が発生せず、エンジン駆動力の発生が止まると共に、エンジン10のポンピングロス、即ち、給排気によるエンジン回転を減速する抵抗が生じ制動トルク(制動力)が発生する。
【0029】
一方、排気ブレーキは、排気ブレーキ弁12を閉じてエンジン10のシリンダ内の排気圧力を高めることで、ポンピングロスをより大きくして、内燃機関の回転抵抗を増加させることができ、これにより制動トルクを得ることができる。なお、
図6においては、排気通路11で、排気ブレーキ弁12を排気ガス浄化装置13の上流側に配設しているが、排気ブレーキ弁12を排気ガス浄化装置13の下流側に配設しても、同様な制動トルクを発生することができる。
【0030】
そして、エンジン10、電動発電機20、ハイブリッドシステム、及び車両1の制御を行うための制御装置40が設けられ、この制御装置40により、エンジンブレーキ制御を含むエンジン10の全般の制御、インバータ21による電動発電機20の全般の制御、エンジン用クラッチ15の断接制御と電動発電機用クラッチ23の断接制御を含むハイブリッドシステムの全般の制御、排気ブレーキ弁12の開閉制御を含む車両1の全般の制御等々を行う。
【0031】
次に、本発明に係る実施の形態のハイブリッド車両の制御方法について、
図1〜
図4を参照しながら説明する。この
図1の制御フローは、車両1の運転開始と共に上級の制御フローにより、繰り返し呼ばれて実施され、車両1の運転停止時には、割り込みによりリターンして上級の制御フローに戻り、上級の制御フローの停止と共に停止する制御フローとして示してある。
【0032】
この制御フローが、上級の制御フローに呼ばれてスタートすると、ステップS11で、車両1を減速するための制動トルクが必要か否かを判定する。この判定では、アクセルペダルの踏み込み量や、ブレーキペダルの踏み込み量等を使用する。例えば、アクセルペダルが離され、踏み込み量がゼロになったり、ブレーキペダルが踏み込まれたりする等すると、車両1の減速が指示されており、制動トルクが必要であると判定する。
【0033】
このステップS11の判定で制動トルクが必要でないと判定されると(NO)、予め設定した第1時間(ステップS11の判定のインターバルに関係する時間)を経過した後、ステップS11に戻る。また、このステップS11の判定で制動トルクが必要であると判定されると(YES)、次のステップS12に行く。
【0034】
ステップS12では、目標要求制動トルクTtを算出する。この目標要求制動トルクTtは、
図2に示すように、ブレーキペダルの踏み込み量(α、β、γ)によっても、車速、言い換えれば、プロペラシャフト31、ドライブシャフト33、車輪34等の回転数によっても異なる。なお、
図2に示す横軸の回転数としては、車両のプロペラシャフト31、若しくは、ドライブシャフト33、若しくは、車輪34の回転数、又は、これらの回転数は相互に密接な関係を持っているトランスミッション30の出力軸の回転数若しくは電動発電機20の回転数若しくは内燃機関10の回転数の内、これらの回転数のうちの代表的な回転数を選択して用いる。ここでは、内燃機関10の回転数Nとする。
【0035】
ドライバー(運転者)は、車両1を減速させる必要が生じると、アクセルペダルを離し、ブレーキペダルを踏み込むが、このブレーキペダルの踏込量α、β、γに応じて予め設定されている回転数N1に対する要求目標トルクTt1が算出される。
【0036】
図2に示すように、この要求目標トルクTt1は、踏み込み量が大きくなるほど回転数Nをベースとした要求目標トルクTtの線Lt(Lα、Lβ、Lγ)のトルクの絶対量が大きくなり、踏み込み量α、β、γが小さくなるほど回転数Nをベースとした要求目標トルクTtの線Lt(Lα、Lβ、Lγ)のトルクの絶対量が小さくなる。アクセルペダルの踏み込み量が同じであると、回転数N1の低下に伴い、要求目標トルクTt1は徐々に小さくなる。
【0037】
つまり、この目標要求制動トルク線Ltは、内燃機関10の回転数Nの他に、ドライバーのブレーキペダルの踏込量α、β、γに依存するため、目標要求制動トルク線Ltは、ブレーキペダルの踏込量α、β、γに応じて上下に移動する。より詳細には、ブレーキペダルの踏込量α、β、γが、第1の踏込量αより大きい第2の踏込量βであるときは、より大きな目標要求制動トルクTtを必要とするため、目標要求制動トルク線Lβとなる。また、ブレーキペダルの踏込量α、β、γが、第2の踏込量βより大きい第3の踏込量γであるときは、目標要求制動トルクTtがさらに大きくなるため、目標要求制動トルク線Lγとなる。
【0038】
そして、ドライバーによるブレーキペダルの踏込量(α、β、γ等)に対応する目標要求制動トルク線(Lα、Lβ、Lγ等)の中から、実際のブレーキペダルの踏込量(例えばβ)に対応する目標要求制動トルク線Lβを選定した後、この選定した目標要求制動トルク線Lβ上で、内燃機関10の回転数N1に応じた目標要求制動トルクTt1を算出する。
【0039】
次のステップS13で、このステップS12で算出した目標要求制動トルクTt1が、
図3に示すような「減速制御用マップ(減速制御用データ)」M1の第1判定領域R1、第2判定領域R2、第3判定領域R3のいずれにあるかを判定する。
【0040】
図3の「減速制御用マップ」M1は、内燃機関10の回転数Nを横軸に、制動トルクTを縦軸にして、第1判定線L1と、第2判定線L2と、第3判定線L3を設定した図である。この「制動制御用データ」M1は、予め走行実験の実験データ等を基に設定され、制御装置40に組み込まれる。
【0041】
この第1判定線L1は、回転数Nをベースに、電動発電機20の回生トルク(制動トルク)T1の最大値T1maxを示す線である。また、第2判定線L2は、第1判定線L1で示された電動発電機20の回生トルクT1の最大値T1maxに、エンジン10のエンジンブレーキによる制動トルクT2の最大値T2maxを加算した制動トルクTa(=T1max+T2max)を示す線である。さらに、第3判定線L3は、この制動トルクTaにエンジン10の排気ブレーキ弁12の作動による制動トルクT3の最大値T3maxを加算した制動トルクTb(=Ta+T3max=T1max+T2max+T3max)を示す線である。
【0042】
この第1判定線L1と制動トルクゼロを示す横軸L0との間にある領域を第1判定領域R1とし、第1判定線L1と第2判定線L2の間にある領域を第2判定領域R2とし、第2判定線L2と第3判定線L3の間にある領域を第3判定領域R3とする。
【0043】
このステップS13の判定で、目標要求制動トルクTtが第1判定線L1とトルクゼロを示す横軸L0との間の第1判定領域R1(例えば、
図4のC点;Ttc)にあるときは、ステップS14へ進み、
図7に示すように、電動発電機20の回生制御で発生する回生トルクT1のみで、車両1の車輪34に制動トルクTを与える第1制動制御運転を行う。この第1制動制御運転を行うことで、電動発電機20の回生トルクT1(=Ttc)を発生させると共に、電動発電機20の回生制御で発電した電気をバッテリ22に充電することで、制動エネルギーを充電エネルギーとして利用しながら、車両1の減速時の目標要求制動トルクTtを十分に発生できる。
【0044】
また、ステップS13の判定で、目標要求制動トルクTtが第1判定線L1と第2判定線L2の間の第2判定領域R2(例えば、
図4のB点;Ttb)にあるときは、ステップS15へ進み、
図8に示すように、電動発電機20の発電による回生トルクT1を発生すると共に、エンジン10のエンジンブレーキによる制動トルクT2を発生し、全体として目標要求制動トルクTtbを発生する第2制動制御運転を行う。
【0045】
この場合は、エンジンブレーキによる制動トルクT2は徐々に大きくすることができず、ある程度大きい制動トルクT2を発生させることになるため、単純に回生トルクT1の最大値T1maxにエンジンブレーキによる制動トルクT2を加えると、目標要求制動トルクTtcを超えてしまう。そのため、全体の制動トルクTを目標要求制動トルクTtcに一致させるためには、この目標要求制動トルクTtcを超える分だけ、電動発電機20側の回生トルクT1を小さくする必要がある(T1=Ttb−T2)。そのため、回生エネルギーはその分減少することになる。
【0046】
この第2制動制御運転を行うことで、電動発電機20の回生トルクT1に、エンジン10のエンジンブレーキによる制動トルクT2(=Ttb−T1)を加えて、制動エネルギーを充電エネルギーとして利用しながら、車両1の減速時の目標要求制動トルクTtbを発生することができ、車両1の減速時の制動トルクTtbを確保できる。
【0047】
また、ステップS13の判定で、目標要求制動トルクTtが第2判定線L2と第3判定線L3の間の第3判定領域R3(例えば、
図4のA点;Tta)にあるときは、ステップS16へ進み、
図9に示すように、電動発電機20の発電による回生トルクT1とエンジンブレーキの作動による制動トルクT2maxに加えて、排気ブレーキ弁12を絞り(閉弁し)、排気ブレーキ弁12の作動による制動トルクT3を発生させる第3制動制御運転を行う。
【0048】
この場合も、排気ブレーキ弁12による制動トルクT3は徐々に大きくすることができず、ある程度大きい制動トルクT3を発生させることになるため、単純に回生トルクT1の最大値T1maxとエンジンブレーキによる制動トルクT2の最大値T2maxに、単純に排気ブレーキ弁12による制動トルクT3を加えると、目標要求制動トルクTtaを超えてしまうので、全体の制動トルクTを目標要求制動トルクTtaに一致させるためには、この目標要求制動トルクTtaを超える分だけ、電動発電機20側の回生トルクT1の大きさを小さくする必要がある(T1=Tta−T2max−T3)。そのため、回生エネルギーはその分減少することになる。
【0049】
この第3制動制御運転を行うことで、制動トルクT3(=Tta−T1−T2max)を加えて、制動エネルギーを充電エネルギーとして利用しながら、車両1の減速時の目標要求制動トルクTtaを発生することができ、車両1の減速時の制動トルクTtaを確保できる。
【0050】
そして、ステップS14、S15、S16では、第1、第2、第3の制動制御運転をそれぞれ行い、予め設定した第2時間(制御のインターバルに関係する時間)を経過した後、ステップS11に戻り、ステップS11〜S14〜S11、S11〜S15〜S11、S11〜S16〜S11を繰り返し行う。そして、車両1の運転停止時には、割り込みによりリターンして上級の制御フローに戻り、上級の制御フローの停止と共に停止する。
【0051】
なお、実際の制御では、減速要求が出ると、ドライバーによるブレーキペダルの踏込量(例えばβ)から、
図3を参考に、これに対応する目標要求制動トルク線Lβが選定され、
図4に示すように、その時の回転数Nが、例えば、回転数がNaのときは、目標要求トルクTtはA点のTtaと算出され、第3判定領域R3にあると判定されて第3制動制御運転がなされ、回転数Nは低下する。
【0052】
そのまま、ブレーキペダルの踏込量(例えばβ)が変化しない場合は、目標要求トルクTtは、目標要求制動トルク線Lβ上を
図4の左側に移動し、第2判定領域R2に入るので、第2制動制御運転がなされ、目標要求制動トルク線Lβ上を更に
図4の左側に移動し、第1判定領域R1に入る。この第1判定領域R1では、第1制動制御運転がなされることになる。
【0053】
また、
図5に、目標要求制動トルク線Lβ上を移動する場合の回収エネルギー源として使用できる回収トルクの範囲(クロスハッチングの部分)を模式的に示す。この
図5によれば、第1判定領域R1で、回転数Nx以上の部分と回転数Nxから回転数Nyの間の部分で回生可能な回生エネルギーに対応する回生トルクの部分(クロスハッチングの部分)が第1判定線L1よりも上に窪んで、少なくなっていることが分かる。
【0054】
上記の構成のハイブリッド車両及びその制御方法によれば、電動発電機20の回生トルク(制動トルクT1)のみで、車両1の減速時の目標要求制動トルクTtを確保できると判定した場合は、電動発電機20のみで回生制御を行うことで目標要求制動トルクTtを確保し、この回生制御で発電した電気をバッテリ22に充電できる。また、電動発電機20の回生トルクT1のみでは、車両1の減速時の目標要求制動トルクTtを確保できないと判定した場合は、電動発電機20の制動トルクT1に、エンジン10のエンジンブレーキによる制動トルクT2を加えて、車両1の減速時の目標要求制動トルクTtを確保するので、回生トルクの発生により制動エネルギーの一部を充電エネルギーとして利用しながら、車両1の減速時の制動トルクを十分に確保することができる。
【0055】
さらに、目標要求制動トルクTtが、電動発電機20の制動トルクT1に、エンジン10のエンジンブレーキによる制動トルクT2を加えても不足すると判定した場合は、これらの制動トルクT1、T2に加えて排気ブレーキ弁12の作動による制動トルクT3を発生させて、車両1の減速時に必要とされる目標要求制動トルクTtを発生することができる。また、回生トルクの発生により、制動エネルギーの一部を充電エネルギーとして利用することができる。