(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
当該樹脂積層体の全体の形態が容器であり、当該樹脂積層体が該容器の壁部を構成しており、それによって該容器が多層樹脂容器となっている、請求項1〜3のいずれか1項に記載の樹脂積層体。
上記多層樹脂容器の壁部を構成している層が、該多層樹脂容器の内側から外側へ向かって順に、内層、レーザーマーキング層、接着剤層、酸素バリア性樹脂層、接着剤層、外層である、請求項6記載の樹脂積層体。
当該樹脂積層体が、シート状を呈する多層樹脂製品であるか、シート成形用の材料シートであるか、または、該材料シートを用いシート成形加工によって得られた多層樹脂製品である、請求項1〜3のいずれか1項に記載の樹脂積層体。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明者らは、食品等を収容するための多層樹脂容器の胴体への印字にレーザーマーキング法を適用すべく、該多層樹脂容器を構成する樹脂積層体中に上記レーザーマーキング層を追加することを検討した。
【0006】
しかしながら、実際に樹脂積層体中にレーザーマーキング層を追加したところ、次のような改善すべき問題が生じることがわかった。
該問題とは、例えば、レーザーマーキング層を含んだ多層樹脂容器をブロー成形にて形成する場合、成形バリ等によって生じる端材(はざい)にもレーザーマーキング層が含まれるため、レーザーマーキング剤のロスが発生するという問題である。
端材のロスを低減する技術として、樹脂積層体中にリサイクル層を加え、端材をリサイクル層の材料として再利用する技術は知られている。しかし、端材がレーザーマーキング層を含んでいるような場合、そのような端材を用いたリサイクル層を設けると、レーザーマーキング層の他に、リサイクル層中にも低濃度ではあるがレーザーマーキング剤が含まれることになり、その結果、レーザー照射によって該リサイクル層もわずかに発色するため、マーキングが2重にぼける等の問題が生じることがわかった。
このような問題は、食品用の前記多層樹脂容器のみならず、一般的な樹脂積層体にレーザーマーキング層を設ける場合にも同様に生じる問題である。
【0007】
本発明の目的は、従来の樹脂積層体内にレーザーマーキング層を追加し、レーザーマーキング剤のロスを抑制しながらも、鮮明なレーザーマーキングを可能にすることにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記の課題を解決すべく鋭意検討した結果、樹脂積層体に追加するレーザーマーキング層それ自体をリサイクル層とし、レーザーマーキング層を含んだ端材を再びレーザーマーキング層の材料として用い、かつ、端材の使用によるレーザーマーキング剤の濃度低下分を該層に補充すれば、上記目的が好ましく達成し得ることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0009】
本発明は、以下を提供するものである。
〔1〕レーザーマーキングが可能な樹脂積層体であって、
レーザーマーキング剤が樹脂中に分散したレーザーマーキング層を積層の1層として有し、
前記レーザーマーキング層は、レーザーマーキング剤を含んだ下記(I)の端材および下記(II)の端材のうちの一方または両方が材料として用いられた層であり、かつ、予め定められた画像品質のレーザーマーキングが達成されるように前記材料にレーザーマーキング剤が補充された層であることを特徴とする、
前記レーザーマーキングが可能な樹脂積層体。
(I)当該樹脂積層体と同じ積層構造を有する他の樹脂積層体から生じた端材。
(II)当該樹脂積層体とは異なる積層構造を有し、かつ、上記レーザーマーキング層に含まれるレーザーマーキング剤と同じレーザーマーキング剤が分散したレーザーマーキング層を有する他の樹脂積層体から生じた端材。
〔2〕上記レーザーマーキング層が、上記(I)の端材を材料として用いた層である、上記〔1〕記載の樹脂積層体。
〔3〕当該樹脂積層体が3層以上の積層構造を有し、上記レーザーマーキング層が該積層構造の中間層として位置している、上記〔1〕または〔2〕記載の樹脂積層体。
〔4〕当該樹脂積層体の全体の形態が容器であり、当該樹脂積層体が該容器の壁部を構成しており、それによって該容器が多層樹脂容器となっている、上記〔1〕〜〔3〕のいずれかに記載の樹脂積層体。
〔5〕上記多層樹脂容器が、ブロー成形によって形成されたものである、上記〔4〕記載の樹脂積層体。
〔6〕上記多層樹脂容器がマヨネーズ様食品を収容するための可撓性を有する多層樹脂容器である、上記〔4〕または〔5〕記載の樹脂積層体。
〔7〕上記多層樹脂容器の壁部を構成している層が、該多層樹脂容器の内側から外側へ向かって順に、内層、レーザーマーキング層、接着剤層、酸素バリア性樹脂層、接着剤層、外層である、上記〔6〕記載の樹脂積層体。
〔8〕当該樹脂積層体が、シート状を呈する多層樹脂製品であるか、シート成形用の材料シートであるか、または、該材料シートを用いシート成形加工によって得られた多層樹脂製品である、上記〔1〕〜〔3〕のいずれかに記載の樹脂積層体。
〔9〕レーザーマーキングが可能な樹脂積層体の製造方法であって、
レーザーマーキング剤が樹脂中に分散したレーザーマーキング層を積層の1層として含むように、前記樹脂積層体を形成する積層工程を有し、
前記積層工程では、前記レーザーマーキング層の材料として、レーザーマーキング剤を含んだ下記(i)の端材および下記(ii)の端材のうちの一方または両方を用い、かつ、予め定められた画像品質のレーザーマーキングが達成されるように前記材料にレーザーマーキング剤を補充して、前記レーザーマーキング層を形成することを特徴とする、
前記製造方法。
(i)当該製造方法によって製造すべき樹脂積層体と同じ積層構造を有する他の樹脂積層体から生じた端材。
(ii)当該製造方法によって製造すべき樹脂積層体とは異なる積層構造を有し、かつ、上記レーザーマーキング層に含まれるレーザーマーキング剤と同じレーザーマーキング剤が分散したレーザーマーキング層を有する他の樹脂積層体から生じた端材。
〔10〕上記レーザーマーキング層の材料として、上記(i)の端材を用いる、上記〔9〕記載の製造方法。
【発明の効果】
【0010】
従来、多層樹脂製品に対してレーザーマーキングを行う場合、レーザーマーキング層の樹脂母材には新品の樹脂材料(バージン材料)が用いられていた。
これに対して、本発明では、多種類の樹脂が複合的に用いられた多層樹脂製品であっても、各層の樹脂材料を混合してレーザーマーキング層の樹脂母材として利用できることを見出している。この知見に基づいて、本発明では、さらに、レーザーマーキング層を含んだ端材(例えば、成形工程において前回の成形加工で生じた端材)を、新たに成形加工される多層樹脂製品中のレーザーマーキング層の材料として用いることに想到している。
【0011】
レーザーマーキング層を含んだ端材を用いて再度レーザーマーキング層を形成することによって、例えば、従来ではレーザーマーキング層を含んでいるために廃棄されていた端材を、その加工工程内において材料として再利用することが可能になり、レーザーマーキング剤のロス、さらには、レーザーマーキング層を含んだ端材のロスを抑制することも可能になる。
【0012】
また、レーザーマーキング層を含んだ端材を用いることによって、バージン材料にレーザーマーキング剤を大量に添加し分散させる場合と比べて、次の効果が得られる。
先ず、レーザーマーキング層を含んだ端材には、既にレーザーマーキング剤が含まれているので、レーザーマーキングに必要な濃度となるように添加(即ち、補充)すべきレーザーマーキング剤の量が、より少なくてすむ。
また、端材中のレーザーマーキング層には既にレーザーマーキング剤が分散しており、そのようなレーザーマーキング層を含んだ端材を粉砕し、融解、混練し、新たなレーザーマーキング層用の材料とすることで、該材料には、低濃度ではあるがレーザーマーキング剤が十分均一に分散している。よって、本発明では、レーザーマーキング剤が既に分散した材料に、少量のレーザーマーキング剤を補充し混練することになる。
レーザーマーキング剤を全く含まないバージン材料樹脂にレーザーマーキング剤を投入し混練した場合、微粒子であるレーザーマーキング剤が凝集してしまう場合がある。これに対して、レーザーマーキング層を含んだ端材をレーザーマーキング層の材料として用いれば、バージン材料樹脂に投入する場合と比べて、レーザーマーキング剤の拡散が促進されることがわかった。この現象は、レーザーマーキング剤が樹脂母材中に予め分散していることにより、該樹脂母材とレーザーマーキング剤との親和性がより高まるからであると考えられる。これにより、バージン材料に多量のレーザーマーキング剤を添加する場合と比べて、分散のための混練が短時間で済む。また、レーザーマーキング剤が全く存在しない領域が生じる可能性がより低くなる。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明による樹脂積層体を、その製造方法に言及しながら詳細に説明する。
図1は、本発明による樹脂積層体の断面構造の一例を示す図である。同図に示すように、本発明による樹脂積層体Aは、レーザーマーキング層Mを有することによって、レーザーマーキングが可能となっている樹脂積層体である。
図1には、説明のために3層(第1の層1、レーザーマーキング層M、第2の層2)の積層例を示しているが、積層の層数は2層以上であればよい。
レーザーマーキング層Mは、レーザー光Lの照射によって発色するレーザーマーキング剤Pが樹脂母材Qの中に分散した層である。
図1では、説明のために、レーザーマーキング剤(P、P1、P2)を黒丸で表現しているが、該レーザーマーキング剤は、単一の材料からなる粒子のみならず、多種類の材料粒子の混合物であってもよいし、溶媒中に溶解した分子や元素の形態であってもよい。
図1では、レーザー光源装置Sからレーザーマーキング層Mにレーザー光Lを照射し、レーザーマーキングを行っている様子を示している。
本発明の樹脂積層体では、該レーザーマーキング層Mの材料として、レーザーマーキング剤P1を含んだ下記(I)の端材および下記(II)の端材のうちの一方または両方が用いられ、かつ、予め定められた画像品質のレーザーマーキングが達成されるように、該材料にレーザーマーキング剤P2が補充されていることが重要である。
(I)
図1に示すように、当該樹脂積層体Aと同じ積層構造を有する他の樹脂積層体から生じた端材A10。
(II)当該樹脂積層体とは異なる積層構造を有し、かつ、上記レーザーマーキング層Mに含まれるレーザーマーキング剤Pと同じレーザーマーキング剤が分散したレーザーマーキング層を有する他の樹脂積層体から生じた端材(図示せず)。
【0015】
また、
図1は、当該樹脂積層体の製造方法を概略的に説明する図でもある。同図に示すように、本発明の製造方法は、前記レーザーマーキング層Mを積層の1層として含むように、樹脂積層体Aを形成する積層工程を有する。該積層工程では、レーザーマーキング層Mの材料として、レーザーマーキング剤を含んだ下記(i)の端材および下記(ii)のうちの一方または両方の端材を用い、かつ、予め定められた画像品質のレーザーマーキングが達成されるように、該材料に対してレーザーマーキング剤P2を補充し分散させて、該レーザーマーキング層Mを形成することが重要である。
(i)
図1に示すように、当該製造方法によって製造すべき樹脂積層体Aと同じ積層構造を有する他の樹脂積層体から生じた端材A10。この端材は、上記(I)の端材と同じものである。
(ii)当該製造方法によって製造すべき上記樹脂積層体Aとは異なる積層構造を有し、かつ、上記レーザーマーキング層Mに含まれるレーザーマーキング剤Pと同じレーザーマーキング剤が分散したレーザーマーキング層を有する他の樹脂積層体から生じた端材(図示せず)。この端材は、上記(II)の端材と同じものである。
【0016】
上記(I)、(II)の端材は、いずれも端材でありながらレーザーマーキング層を含んでおり、
図1に例示するように、該端材A10のレーザーマーキング層M1には樹脂母材Q1中にレーザーマーキング剤P1が十分に分散している。しかし、該端材にはレーザーマーキング層M1以外の層(
図1の例では、端材A10の第1の層10、第2の層20)も含まれているので、端材全体におけるレーザーマーキング剤P1の濃度(含有比率)は、目的とするレーザーマーキング層Mにおけるレーザーマーキング剤Pの濃度よりも低い。よって、端材をそのままレーザーマーキング層Mの材料として用いるだけでは、商品の外観などに求められるような濃く鮮明な品質の画像が得られない。
そこで、本発明では、上記(I)、(II)の端材からなる材料に対して、さらに、レーザーマーキング剤P2を補充し混練し分散させて、該材料全体に対するレーザーマーキング剤の濃度を、予め定められた画像品質(描画品質)が得られる濃度まで高めている。
【0017】
レーザーマーキングでは、人または識別装置が好ましく識別できるような、濃さ、鮮明さ、または、大きさなどが、画像品質(画像の内容が文字や数字の場合には、印字品質とも呼ばれる)として求められる。
レーザーマーキングで得られる前記の画像品質の判定基準は、例えば、人間が目視にて描画された文字や画像を識別できること、所定の画像識別装置が描画された文字や画像を識別できることなどが挙げられる。これらの判定基準は、用途に応じて適宜決定すればよい。
例えば、製品の外観に直接関係するような画像(容器の胴体に商品名や商標などを描画するような場合)では、濃く鮮明な高い画像品質が求められる。また、物品の裏面の隅部に生産者のための管理用の番号などを小さく描画する場合には、求められる画像品質は生産者が判読可能な程度のものであってもよい。また、バーコードやマトリックス型2次元コードなど、画像識別装置による識別を目的とした画像では、求められる画像品質は、その画像識別装置が判読可能な程度のものであればよい。
上記のような画像品質が、本発明でいう「予め定められた画像品質」であり、上記のとおり、用途や品質への要求に応じて適宜決定される。
上記端材を用いた材料にレーザーマーキング剤を補充するに際しては、上記画像品質が得られるように、即ち、レーザーマーキング層のレーザーマーキング剤の濃度が、上記画像品質を満たすために必要な濃度となるように、該レーザーマーキング剤の補充量を決定すればよい。
【0018】
レーザーマーキング剤は、当該樹脂積層体に対するレーザー光の照射によって発色し、レーザーマーキング法が実施可能な材料を用いることができる。例えば、アンチモンドープ酸化スズ、アンチモンまたはその化合物、会合型塩基性染料前駆体(2,2−ビス{4−[6’−(シクロヘキシル−N−メチルアミノ)−3’−メチルスピロ[フタリド−3,9’−キサンテン]−2’−イルアミノ]フェニル}プロパン)、フタリド系染料前駆体、フルオラン系染料前駆体、スピロピラン系染料前駆体、ラクタム系染料前駆体などが好ましいレーザーマーキング剤として挙げられる。
レーザーマーキング剤は、例えば、マスターバッチ(所定の含有濃度にてレーザーマーキング剤を含んだ樹脂材料)として、ペレット、粒子、ペーストなど、成形加工に適した形態であることが好ましい。そのような場合、レーザーマーキング剤の濃度は、樹脂母材の重量と、マスターバッチの重量との比率によって管理してもよい。
【0019】
上記レーザーマーキング剤を用いる場合の好ましいレーザー光は、炭酸ガスレーザー装置によって得られる波長10.6μmのレーザー光、ファイバレーザー装置によって得られる波長1090nmのレーザー光、YAGレーザー装置によって得られる波長1064nmのレーザー光、SHGレーザー装置によって得られる波長532nmのレーザー光などが例示され、用いるレーザーマーキング剤とそれを発色させ得る波長の光とを適宜選択して組合せればよい。好ましい組合せの一例としては、アンチモン化合物と波長1060nmのレーザー光との組合せなどが挙げられる。
レーザーマーキングを行うためには、前記のレーザー装置を光源として構成された公知レーザーマーキング装置を用いることができる。
【0020】
レーザーマーキング層を構成する材料全体に占めるレーザーマーキング剤の適正な濃度は、該レーザーマーキング剤の種類によっても異なるが、総じて、0.001〜1.0重量%であり、0.005〜0.8重量%がより好ましい割合である。このような濃度となるように、上記端材を用いた材料に対して、レーザーマーキング剤を補充すればよい。
樹脂積層体の製造においては、積層構成(各層の厚さ、各層の成分)が十分に管理されているので、上記端材もまた、十分に管理された積層構成を持っており、各成分の含有比率は既知である。従って、端材全体に占めるレーザーマーキング剤の濃度も既知であり、よって、補充すべきレーザーマーキング剤の量や、補充すべきマスターバッチ(レーザーマーキング剤を含んだ樹脂)の量を知ることができる。
【0021】
本発明においてレーザーマーキング層に利用可能な端材は、当該樹脂積層体自体から生じたレーザーマーキング剤のロス、端材の樹脂のロスを自体の製造工程において無くすという点から、上記(I)の端材が最も好ましい。
上記(I)または上記(i)でいう「当該樹脂積層体と同じ積層構造を有する他の樹脂積層体」とは、
図1に例示するように、当該樹脂積層体Aの製造工程において、ある樹脂積層体Aを形成しようとする場合に、同じ製品としてその樹脂積層体Aよりも先に製造された、同じ積層構造を有する樹脂積層体である。
即ち、本発明では、製造しようとする樹脂積層体の成形工程等で得られた端材を、再度レーザーマーキング層の材料として自体の成形工程内でフィードバックして用いる態様が最も好ましい。尚、同じ積層構造を有する樹脂積層体を製造する装置や成形ラインが複数あれば、それぞれの装置や成形ラインから得られた端材を、相互の成形ラインにおいてレーザーマーキング層の材料として用いてよい。
【0022】
また、本発明では、上記(II)または上記(ii)の端材のように、積層構成が類似する端材も利用可能である。例えば、同じレーザーマーキング層を持ちながら層数が当該樹脂積層体とはわずかに異なるものや、同じレーザーマーキング層と同じ層数を持ちながら特定層の組成が当該樹脂積層体とは異なるものなど、類似の樹脂積層体が存在する場合がある。そのような樹脂積層体が、上記(II)でいう「他の樹脂積層体」である。そのような樹脂積層体から得られた端材もまた、十分に管理された積層構成を有するものであり、本発明においてレーザーマーキング層の材料として利用可能である。
端材が、レーザーマーキング層の材料として利用可能であるかどうかは、各層の材料構成から知ることができるが、例えば、試験的な成形を行い、予め定められた画像品質のレーザーマーキングが達成されるかどうかを判定してもよい。
上記(I)の端材と上記(II)の端材は混合して用いてもよい。
【0023】
図1の例では、上記(I)の端材が用いられており、端材A10の積層構造もまた、当該樹脂積層体Aと同じ積層構造(第1の層10、レーザーマーキング層M1、第2の層20)を有するものである。
端材A10のレーザーマーキング層M1は、それよりも先に製造された他の樹脂積層体から得られた端材を材料とし、それにレーザーマーキング剤が補充された層であってもよいし、バージン材料と所定量のレーザーマーキング剤とを混合した層(端材を用いない最初の成形層)であってもよい。上記(II)または上記(ii)でいう「他の樹脂積層体」におけるレーザーマーキング層も同様である。
【0024】
本発明でいう端材とは、樹脂積層体を成形加工する際に生じる成形バリの他、シート状の樹脂積層体を裁断することによって生じた断片、形状不良品の粉砕物など、レーザーマーキング層を含み再利用可能な樹脂積層体である。
【0025】
ブロー成形によって多層樹脂容器を製造する場合、端材をレーザーマーキング層として再度用いるための処理としては、例えば、端材を粉砕し、溶融し、混練しながらレーザーマーキング剤を必要量だけ添加(補充)し、レーザーマーキング剤が均一になるまで混練するという処理が挙げられる。混練された材料は、多層ブローボトルのレーザーマーキング層用のホッパータンクに投入され、他の層の樹脂材料と共に、パリソンを経て、多層樹脂容器としてブロー成形される。
端材をレーザーマーキング層として用いるための処理には、端材をリサイクル層として利用する技術を参照することができる。
【0026】
レーザーマーキング層の厚さは、特に限定はされないが、レーザーマーキング法を好ましく適用し、濃く鮮明なマーキングを得る点からは、20〜200μm程度が好ましく、50〜130μm程度がより好ましい厚さである。
【0027】
従来では、レーザーマーキング層の樹脂母材には、ポリエチレン、ポリプロピレン等ポリオレフィン、ポリスチレン、ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン、ポリビニルアセテート、ポリメタクリレート、ポリアクリロニトリル、ポリカーボネート及びこれらの共重合体、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート等のポリエステル類、ポリアミド、ポリアセタールなどが用いられている。
これに対して、本発明では、レーザーマーキング層の樹脂母材は、端材全体を混合した材料となるので、その組成は用いる端材となる樹脂積層体の積層構造に応じて異なる。
【0028】
当該樹脂積層体の層数は、レーザーマーキング層を1層として含んだ2層以上であればよく、例えば、2層〜7層程度のものが有用である。層数は、用途や商品のグレードなどに応じて異なる。
【0029】
レーザーマーキング層は、ボトルの内側でレーザーマーキング剤が内容物と接触することを避けるといった理由や、ボトルの外側からの物理的接触によってレーザーマーキング層が削られることを防ぐといった理由から、3層以上の積層構造の中間層として位置することが好ましい。積層構造中におけるレーザーマーキング層の位置は、レーザー光の到達状態を考慮し、また、他の機能層の位置を考慮して適宜決定すればよい。
【0030】
当該樹脂積層体におけるレーザーマーキング層以外の各層の厚さは、その層の機能(保護膜、支持体層、接着層、酸素バリア層など)によって異なる。例えば、可撓性を有するフィルム状製品や、可撓性を有する多層樹脂容器であれば、各層の厚さは、概ね5〜400μm程度であり、当該樹脂積層体のトータルの厚さは、概ね400〜1000μm程度である。これらの数値は、あくまでも一例であって、各層の厚さや樹脂積層体のトータルの厚さは、製品に応じたものであればよい。
【0031】
レーザーマーキング層以外の層の樹脂材料は、特に限定はされないが、接着剤層以外の層の樹脂材料としては、ポリエチレン、ポリプロピレン等ポリオレフィン、ポリスチレン、ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン、ポリビニルアセテート、ポリメタクリレート、ポリアクリロニトリル、ポリカーボネート及びこれらの共重合体、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート等のポリエステル類、ポリアミド、ポリアセタールなどが挙げられる。各層に対しては、必要な添加物を適宜加えてよい。
また、接着剤層の樹脂材料としては、一般に、マレイン酸、イタコン酸、フマル酸などのカルボン酸もしくはその無水物、アミド、エステルなどを用いてポリエチレン等のポリオレフィンをグラフト変性したものなどが挙げられ、マレイン酸もしくは無水マレイン酸でグラフト変性されたポリエチレンなどが好ましいものとして挙げられる。
当該樹脂積層体は、その端材が混合されレーザーマーキング層を構成する材料となるので、層形成を阻害するような材料からなる層、レーザーマーキングを阻害するような材料からなる層などは積層中に含まないことが好ましい。上記(II)の端材を生じさせる他の樹脂積層体についても同様である。
【0032】
当該樹脂積層体の全体の形態は、特に限定はされないが、平面的な形態、立体的な形態が挙げられ、また、可撓性を有する多層樹脂製品、剛性を有する多層樹脂製品が挙げられる。本発明でいう「多層」とは、2層以上を意味する。
【0033】
平面的な形態の製品としては、シート状を呈する多層樹脂製品、シート成形用の材料シートなどが挙げられる。前記のシート状を呈する具体的な多層樹脂製品としては、レーザーマーキングが可能な種々のフィルム状製品、パネル状製品などが例示される。
シート成形用の材料シートの積層構造や外形は、成形すべき製品に応じて適宜決定すればよい。
【0034】
立体的な形態の製品としては、上記フィルム状製品を用いて形成された袋状の多層樹脂製品、上記材料シートに対してシート成形加工を施して得られた多層樹脂製品、ブロー成形など種々の成形法によって得られた多層樹脂製品が挙げられる。シート成形用の材料シートと同様に、ブロー成形用のパリソンもまた、本発明の樹脂積層体に含まれる。
シート成形加工によって得られる多層樹脂製品としては、トレー、ブリスターパック(PTP包装(Press Through Package)とも呼ばれる)、ポーション容器など、従来公知のシート成形加工によって得られるあらゆる多層樹脂製品であってよい。
ブロー成形によって得られる多層樹脂製品としては多層樹脂容器が挙げられる。
ブロー成形によって形成される多層樹脂容器は、本発明の有用性が特に顕著となる製品である。これは、ブロー成形が多層樹脂容器の成形方法として適しており、かつ、パリソンを成形型で締め付けるプロセスに起因して、製品と同じ積層構造を持った端材が生じるからである。
【0035】
図2は、ブロー成形によって形成された多層樹脂容器の一例を示す断面図である。同図に示すように、本発明の樹脂積層体が多層樹脂容器の壁部を構成している。壁部は計6層の積層構造となっている。
図2に例示した多層樹脂容器は、マヨネーズ様食品を収容するために可撓性および酸素バリア性を有する好ましい積層構造となっており、該容器の内側から外側へ向かって順に、内層(第1の層)1、レーザーマーキング層M、接着剤層3、酸素バリア性樹脂層4、接着剤層5、外層(第2の層)2となっている。同図の例では、全体の厚さは400μm〜1000μm程度である。
一般的な用途では、レーザーマーキング層Mと酸素バリア性樹脂層4の互いの位置関係に限定は無く、どちらの層がより外側に位置していてもよい。
【0036】
図2に例示した多層樹脂容器では、内層1、外層2は、共に、容器形状および機械的特性に寄与する主要樹脂層である。該主要樹脂層を構成する樹脂としてはポリオレフィン樹脂組成物が好ましいものとして挙げられ、ブロー成形加工特性、対内容物特性、機械特性、容器開口部を封止する際の熱シール性およびコスト等の面からポリエチレン樹脂組成物がより好ましいものとして挙げられる。
また、酸素バリア性樹脂層4を構成する樹脂としては、酸素バリア性および安全性の面からエチレン−ビニルアルコール共重合体(EVOH)またはメタキシレンジアミン・ナイロン等が挙げられる。メタキシレンジアミン・ナイロンは融点が高くポリエチレンとの多層押し出しにおける制限が多く、EVOHがより好ましいものとして挙げられる。EVOHには、層間剥離を防止する為の樹脂が添加されてもよい。
また、接着剤層3、5を構成する樹脂としては、上記と同様、マレイン酸、イタコン酸、フマル酸などのカルボン酸もしくはその無水物、アミド、エステルなどを用いてポリエチレン等のポリオレフィンをグラフト変性したものが挙げられ、マレイン酸もしくは無水マレイン酸でグラフト変性されたポリエチレンなどが好ましいものとして挙げられる。接着剤層は、内層1とレーザーマーキング層Mとの間にも設けられてよい。
レーザーマーキング層の樹脂母材は、上記(I)の端材を用いる場合、前記した内層1、外層2、酸素バリア性樹脂層4、接着剤層3、5を構成する各樹脂の混合物となる。
【0037】
マヨネーズ様食品とは、主として日本農林規格(JAS)でいう乳化型ドレッシングであり、具体例としては、マヨネーズ、サラダドレッシング、タルタルソース、その他の半固体状のドレッシング等を挙げることができる。また、類似の性状を有しながら、成分組成がJAS規格に合致しないマヨネーズに類似の商品群および乳化タイプのソース類もマヨネーズ様食品に含まれる。
【0038】
マヨネーズ様食品は、オーソドックスなマヨネーズの他に、低カロリーのもの、べに花油を用いたもの、コレステロールを下げることを考慮したものなど、多種類の商品ラインアップがあるので、容器(マヨネーズボトル)に識別性を付与することが好ましい。
しかしながら、従来のマヨネーズボトルの表面はインクが付着し難く、該ボトルの表面にはインクで印字することができないという問題がある。しかも、従来のマヨネーズボトルは、上記のように多層樹脂容器であって、ブロー成形によって製造され、従来の一般的なブロー成形では、端材が発生する。
このようなマヨネーズボトルを、
図2のように本発明の樹脂積層体によって構成し、自体の成形工程で得られる端材をレーザーマーキング層の材料として利用することで、ボトルの胴体に対して鮮明でかつ擦れても消えることのない画像や文字を付与することが可能になり、しかも、レーザーマーキング剤のロスや端材のロスが抑制される。
【実施例】
【0039】
以下、実施例を挙げて、本発明の構成をより具体的に説明する。
本実施例では、
図2に示した積層構造を持った多層樹脂容器として、マヨネーズボトルを実際に成形し、そのボトルの胴体にレーザーマーキングによって実験的に文字を描き、その画像品質を評価した。
【0040】
〔マヨネーズボトルの仕様〕
製作したマヨネーズボトルの各層を構成する樹脂材料は、以下のとおりである。
内層1:低密度ポリエチレン(LDPE)
レーザーマーキング層M:後述
接着剤層3:変性ポリエチレン
酸素バリア性樹脂層4:エチレン−ビニルアルコール共重合樹脂(EVOH)
接着剤層5:変性ポリエチレン
外層2:LDPE
側壁部の厚さの平均は、約700μmである。
【0041】
〔レーザーマーキング層の構成〕
本実施例で用いたレーザーマーキング剤は、アンチモン系レーザーマーキング剤であって、ポリエチレンを樹脂母材とするマスターバッチ(ペレット)の形態となっているものを用いた。
先ず、端材を用いない最初のレーザーマーキング層の材料として、該レーザーマーキング層の樹脂母材としてのポリエチレン(バージン材料)に前記マスターバッチを加え混練した。このときの層の樹脂母材とマスターバッチとの混合比率(重量比率)は、レーザーマーキング剤メーカーによって推奨された標準の混合比率とした。
前記最初のレーザーマーキング層を持ったマヨネーズボトル(第1回目の成形品)を、ブロー成形によって製造した。
側壁部の厚さの平均は約700μmであり、レーザーマーキング層(第1回目)の厚さの平均は約130μmである。
この第1回目の成形品を粉砕して、次回の成形用の端材として用いた。
この端材の積層構造は既知であるから、それに基いて、この端材全体に占めるレーザーマーキング層の重量の割合を算出し、この端材全体に占めるマスターバッチの重量の割合をも算出した。この算出結果に基づき、前記のマスターバッチの標準の重量比率を達成するために、どの程度の量のマスターバッチを端材に補充すればよいかを算出した。
端材を混練すると、次回の成形品におけるレーザーマーキング層の樹脂母材は、各層の材料が混合されたものとなるが、最初のレーザーマーキング層の樹脂母材(バージン材料)との、単位体積当たりの重量の差異は、微小であり無視することができる。
このように算出した補充量にて、マスターバッチを端材に加え、混練し、第2回目の成形(第1回目の成形品と同じ成形工程)において、レーザーマーキング層の材料として供給し、本発明によるマヨネーズボトル(第2回目の成形品)を得た。
レーザーマーキング層(第2回目)の厚さは、130μmである。
上記の第2回目の成形における〔端材とレーザーマーキング剤とが十分に混練されたと認定し得る状態となるまでの混練時間〕は、第1回目の成形における〔バージン材料とレーザーマーキング剤とが十分に混練されたと認定し得る状態となるまでの混練時間〕の90%程度であった。このことから、レーザーマーキング層を含んだ端材とレーザーマーキング剤とが、より短時間で十分な混練状態となり得ることが確認できた。
上記の第2回目の成形品のレーザーマーキング層は、マスターバッチを標準の混合比率で含んでいる。以下、このサンプルを標準濃度サンプルと呼ぶ。
上記の第2回目の成形では、画像品質の確認のために、標準濃度サンプルの他に、マスターバッチの補充量を増加したサンプル(高濃度サンプル)をも作成した。高濃度サンプルでは、前記標準の濃度に対して2倍の濃度のレーザーマーキング剤がレーザーマーキング層に含まれるように、マスターバッチの補充量を増加した。
本実施例では、樹脂母材とレーザーマーキング剤との混合を、樹脂母材とマスターバッチのそれぞれの重量に基いて行ったが、レーザーマーキング剤の濃度に基いて混合してもよい。また、必要に応じてレーザーマーキング剤の濃度を分析により確認してもよい。
【0042】
〔ボトルの評価〕
本発明によるマヨネーズボトル(第2回目の成形品)を、レーザーマーキング層を持たない従来のマヨネーズボトルと比較したところ、従来品と同等の透明性、機械的強度、柔軟性を有することがわかった。
【0043】
〔レーザーマーキング装置〕
レーザーマーキングに用いた装置は、パナソニックデバイスSUNX株式会社製のパルス発信ファイバレーザーマーカー(3D制御FAYbレーザーマーカー、型式名LP−Z250、Ybファイバレーザー、出力25W、発振波長1060nm)である。
【0044】
〔レーザーマーキングの実施〕
レーザーマーキング条件を下記のとおり変えながら、上記で製作した第2回目の成形品(標準濃度サンプルと高濃度サンプル)の容器胴体に対して文字を印字した。
文字幅(1文字の幅)は、15mm、18mm、20mm、23mmとした。
塗り間隔(レーザーの軌跡の間隔)は、
図3に示す表のとおり、各文字幅ごとに可能な最小の間隔とした。
レーザーマーキング装置のスキャン速度は、いずれも4000mm/秒である。
レーザーマーキングはボトルを静止させた状態で行っている。
図3の表のコンベア速度は、レーザーマーキング装置で設定した数値を示している。
本実施例で用いたレーザーマーキング装置は、コンベア速度をパラメータとして設定し得る制御構成となっており、コンベア速度を設定することで、印字可能な時間が計算される。マーキングの際には、その計算された印字可能な時間内においてレーザー光が照射されるように自動調節される。よって、コンベア速度を速く設定すると、印字可能時間が短くなるので、塗り間隔が広くなるように自動調節される。塗り間隔が広くなると、得られる画像(印字)は薄く見えることになる。
上記の条件による印字結果を、
図3に写真を用いた表として示す。
【0045】
〔レーザーマーキングの評価〕
図3に示すとおり、文字幅が小さい方が、文字の色が濃くなることが確認された。
また、標準濃度サンプルと高濃度サンプルでは、文字の濃さに差が見られなかった。これは、レーザー光が照射された部分が十分に発色するため、レーザーマーキング剤の濃度が標準濃度サンプルと高濃度サンプルの場合とで、印字の見え方があまり変わらなかったからであると推察される。
本実施例で用いたレーザーマーキング装置の制御構成では、コンベア速度は、25m/分よりも、12.5m/分の方が、文字の色が濃くなることがわかった。
【0046】
〔レーザーマーキングの光学顕微鏡観察〕
上記標準濃度サンプルに対して、レーザーマーキング装置のスキャン速度を変えて印字を行い、文字の一部を光学顕微鏡で拡大し観察した。また、その部分を切断し断面を拡大し観察した。
スキャン速度は、500mm/秒、2000mm/秒、4000mm/秒である。
それぞれの拡大画像を、
図4(a)に写真を用いた表として示す。
図4(a)に示すとおり、レーザー光(パルス)が照射された箇所が点状に発色している様子が観察された。
図4(b)は、4000mm/秒でのレーザーマーキングの印字結果をさらに拡大した写真であり。同図のとおり、レーザー光(パルス)が照射された箇所だけが発色していることがよくわかる。
スキャン速度を遅くすると、発色点の数が増えている様子がわかる。
断面の観察では、中間層であるレーザーマーキング層においてのみ発色していることが観察された。また、スキャン速度500mm/秒では、積層体全体が膨らんでいることが確認された。
【0047】
以上の例から明らかなとおり、レーザーマーキング層を含んだ樹脂積層体の端材を用いてレーザーマーキング層を形成すれば、従来の多層樹脂容器と同等の品質(機械的強度、耐薬品性、外観など)を持った容器が得られることがわかった。
また、レーザーマーキング剤を含んだ端材を用いたレーザーマーキング層であっても、少量のレーザーマーキング剤を補充するだけで十分に高い画像品質のレーザーマーキングが達成され得ることがわかった。
【0048】
〔繰り返しの成形〕
第2回目の標準濃度サンプルをさらに端材として用い、上記実施例と同様にレーザーマーキング剤を含んだマスターバッチを補充し、レーザーマーキング層の材料として標準濃度サンプルを作成するサイクルを繰り返したところ、ボトルの品質、レーザーマーキングの画像品質は、第2回目の成形品の場合と同様であった。これにより、レーザーマーキング層を含んだ樹脂成形の工程で発生する端材やレーザーマーキング剤のロスを無くすことが可能であることがわかった。