(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記糸幅のばらつきは、前記所定の区間にあらかじめ定められた分割数により指定された測定ポイントで測定される複数個の糸幅から算出することを特徴とする請求項1に記載の糸条の検査方法。
前記糸幅の代表値が、前記所定の区間にあらかじめ定められた分割数により指定された測定ポイントで測定される複数個の糸幅の最小値もしくは最大値であることを特徴とする請求項1から4のいずれかに記載の糸条の検査方法。
前記糸幅の代表値が、前記所定の区間にあらかじめ定められた分割数により指定された測定ポイントで測定される複数個の糸幅を昇順にソートしてあらかじめ指定された順位の糸幅であることを特徴とする請求項1から4のいずれかに記載の糸条の検査方法。
【背景技術】
【0002】
繊維やファイバ、中空糸膜に代表される糸条は、過去より色々な分野や用途において利用、活用されてきた。
【0003】
過去において、これら糸条の生産には、大量・高速に生産できることやコストダウンが求められてきた。一方で品質に対する要求は強くなかった。しかし、近年では科学技術の発達に伴い、糸条を構成部材とする最終製品の高機能化や、これら糸条を利用する分野の拡大もあいまって、最終製品の品質を高めるために糸条にも高い品質が求められるようになってきた。すなわち、現在では、大量・高速生産や低コスト生産といった過去からの課題に加えて糸条自体の高品質化も課題となっている。
【0004】
ここで、高機能な製品に利用され注目を浴びている糸条としては、自動車や飛行機の構造部材に利用される炭素繊維や、情報通信社会を支える光ファイバ、また高機能衣料に使用される異形断面繊維などが挙げられる。同様に高い品質管理が求められる糸条としては、下廃水処理や上水処理、海水淡水化の前処理用途に用いられる中空糸膜も挙げられる。これらは全て糸条に生じた欠点(形状不良(つぶれ・扁平・節・くびれ・膨らみ・凹凸など)、太さ不良(細糸・太糸など)、一部分の欠損・断裂、異物混入、毛羽立ち、キズ、ささくれ等)が直接、最終製品の品質に影響を及ぼすものである。そのため、かかる糸条の品質は厳重に管理されなければならない。
【0005】
より具体的に、例えば中空糸膜は、一般的に高分子を原料として製造されるが、製造の過程で膜が薄くなったり、逆に厚くなったりする場合がある。また、膜表面に異物が付着する場合もある。これら欠点が発生すると、中空糸膜の濾過性能に悪影響を及ぼす可能性がある。そこで、欠点が発生した中空糸膜を市場に流出させないために、中空糸膜表面を検査する必要がある。
【0006】
しかしながら、一般的に中空糸膜は、原料を口金によって中空形状に成形した後、様々な処理を施し、最終的に巻き取り機によって巻き取る方式で生産するため、生産中は常に連続走行している。
【0007】
また、大量・高速生産や低コスト生産を実現するために複数本の中空糸膜を同時に並列して製造することも一般的である。
【0008】
このような製造方式においては、並列して走行している複数本の中空糸膜に代表される高機能な糸条を同時に検査し、かつ、糸条毎に欠陥を検出して糸条毎の欠陥の情報を把握することが、糸条自体ならびに製造された糸条を巻き取った糸条パッケージや、糸条を組み込んだ糸条モジュールの品質管理において重要となる。
【0009】
このとき、糸条の品質を完全に保証する為には、糸条の走行速度に遅れなく糸条の全長を検査することが重要である。
【0010】
従来、糸条の状態を常時モニタし、糸条に生じた欠陥を検出する方法として、『糸条の走行面に対して、照明手段と撮像手段を設けて、照明手段によって生じる糸条の走行面での反射光を撮像手段で撮像し、1.得られた画像データから、走行糸条に含まれる欠陥を抽出部データとして抽出し、2.得られた抽出部データから抽出部の輪郭部データを抽出し、3.得られた輪郭部データから糸条の走行方向に平行な線分を除去して残存部データとし、4.得られた残存部データを予め設定した閾値と比較する、ことで欠陥の有無を判定する』走行糸条の検査方法が提案されている(特許文献1参照)。また、『糸条の走行方向に垂直な方向と撮像軸とが一致するように配置される撮像手段と、糸条の表面に光を照射する照明手段と、撮像手段によって得られた画像データに所定の画像処理を施し、画像データの外接矩形画像と画像データとを比較して欠陥の有無を判定する』糸条の検査方法が提案されている(特許文献2)。
【0011】
しかしながら、これら方法では設備の振動などの外部要因に起因して、正常な糸条が単に糸ゆれを起こしている場合、また正常な糸条が単に斜行している場合など、これらは正常な糸条であるにもかかわらず、糸幅が局所的に大きくなった「節」欠陥、あるいは糸幅が局所的に小さくなった「くびれ」欠陥であると、誤認識してしまうことがある。例えば、
図5に示すいくつかの画像データに特許文献2に記載の検査方法を適用すると、糸条YT
6は単に糸条が斜行しているだけであるのに、外接矩形幅が大きくなり欠陥と判断されることがある。また、糸条YT
7は単に糸ゆれを起こしているだけであるのに、外接矩形幅が大きくなり欠陥と判断されることがある。
【0012】
また、すべての糸条について、画像データから走行方向の1画素ごとに糸幅を算出することで、正常な糸条が糸ゆれをおこしているかあるいは斜行しているか、「節」欠陥なのか、「くびれ」欠陥なのかを判別することは可能であるが、データ処理時間が長くかかり、検査結果を反映するのに遅延が生じる恐れがあり、データ処理の高性能化のためのコストアップが問題となってくる。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
本発明の目的は、長手方向に連続走行する糸条を製造する製糸工程において、走行する糸条を撮像し、得られた画像データから、走行する糸条の全長を高速に検査して、糸条が単に糸ゆれを起こしている場合や糸条が単に斜行している場合を糸条の欠陥として誤認識することなく、糸条の欠陥の情報を得ることにより、糸条および糸条パッケージ、糸条モジュールの品質管理を行う、糸条の検査方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0015】
上記目的を達成するために、本発明は次の方法を採用する。
【0016】
すなわち、本発明は、走行する糸条を撮像手段により撮像し、前記撮像手段により得られた画像データをデータ処理手段によりデータ処理する糸条の検査方法であって、前記データ処理が、
(a)前記走行糸条の画像データから走行方向の所定の区間における複数個の糸幅を算出する手順と
(b)前記複数個の糸幅から糸幅のばらつきを算出する手順と
(c)前記糸幅のばらつきを第1の閾値と比較する手順と
(d)前記走行方向の所定の区間における前記走行糸条の外接矩形幅および/または内接矩形幅を算出する手順と
(e)前記複数個の糸幅から糸幅の代表値を算出する手順と
(f)前記糸幅の代表値と前記外接矩形幅および/または前記内接矩形幅とを比較する手順と
を含むことを特徴とする。
【0017】
前記糸幅のばらつきは、前記所定の区間にあらかじめ定められた分割数により指定された測定ポイントで測定される複数個の糸幅から算出することができる。
【0019】
また、本発明の糸条の検査方法において、前記データ処理は、前記(a)、(b)、(c)、(d)、(e)、および(f)に加えて
(g)前記糸幅の代表値と前記外接矩形幅との差を第2の閾値と比較する手順
および/または
(h)前記糸幅の代表値と前記内接矩形幅との差を第3の閾値と比較する手順
を含んでいるとよい。
【0020】
また、本発明の糸条の検査方法において、前記糸幅の代表値は、前記走行糸条の画像データの糸幅の平均値、あるいは中央値、あるいは最大値もしくは最小値、あるいは糸幅を昇順にソートしてあらかじめ指定された順位の糸幅とすることができる。
【0021】
また、本発明の糸条の検査方法において、前記データ処理は、前記(a)、(b)
、(c)
、(d)、(e)および(f)に加えて
(i)あらかじめ設計された糸幅と前記外接矩形幅および/または前記内接矩形幅とを比較する手順と
を含んでいるとよい。
【0022】
また、本発明の糸条の検査方法において、前記データ処理は、前記(a)、(b)
、(c)、(d)、
(e)、(f)および(i)に加えて
(j)前記あらかじめ設計された糸幅と前記外接矩形幅との差を第4の閾値と比較する手順
および/または
(k)前記あらかじめ設計された糸幅と前記内接矩形幅との差を第5の閾値と比較する手順
を含んでいるとよい。
【0023】
また、本発明の糸条の検査方法において、前記データ処理は、前記(a)、(b)
、(c)
、(d)、(e)および(f)に加えて、さらに、
(l)前記あらかじめ設計された糸幅と前記糸幅の代表値との差を第6の閾値と比較する手順
を含んでいるとよい。
【0024】
また、本発明の糸条の検査装置は、走行する糸条を撮像する撮像手段と、前記撮像手段により得られた画像データをデータ処理するデータ処理手段とを備え、前記糸条の検査方法のいずれかを用いて走行する糸条を検査することができる。
【0025】
また、本発明の糸条の製造方法は、前記糸条の検査方法のいずれかを用いて、走行する糸条を検査する検査工程を有する。さらに、前記検査工程で得られた検査結果を基に、製造工程に生じた異常を特定し、製造工程の条件を変更する操作手順を含んでいることが好ましい。
【発明の効果】
【0026】
本発明によれば、長手方向に連続走行する糸条製品を製造する製糸工程において、走行する糸条を撮像し、得られた画像データから、走行する糸条の全長を検査して、糸条の欠陥を認識し、また本来正常と認識されるべき糸条が走行中の糸ゆれや斜行によって欠陥と誤認識されることを抑えることが可能となる。また、糸条毎の欠陥の情報を得ることにより、プロセス条件の変動等の工程異常を早期に発見し歩留まりを改善でき、また、糸条および糸条パッケージ、糸条モジュールの品質管理を行うことができる。
【0027】
また、本発明の糸条の検査方法によると、特に、糸幅を画像データから走行方向の全ラインで算出するのではなく、所定の区間中に複数個のみをサンプリングして糸幅を算出することから、短時間で糸条の検査を行うことが可能となる。そのため糸条が高速に走行する、例えば毎分50mを超える速度においても、撮像した画像データを処理するデータ処理手段に用いる装置を廉価なデータ処理装置、例えば、汎用品のパーソナルコンピュータにした場合においても、走行速度に遅れること無く、同時に複数本の糸条の全長を検査し、糸条各々で欠陥の有無もしくは欠陥の状態をオンラインで把握することが可能となる。
【0028】
さらに、本発明の糸条の検査方法を用いることにより、複数本の糸条を同時に製造する糸条の製糸工程により製造された糸条各々の品質管理を適切に、かつ迅速に実施することが可能となる。
【発明を実施するための形態】
【0030】
本発明の糸条の検査方法において、検査対象にする糸条としては、中空糸膜、衣料用繊維、炭素繊維、光ファイバ、鋼線、医療用カテーテル等、実質的に円柱状もしくは管状の構造をもつ糸条製品であれば、いかなるものをも検査対象とすることができる。また、本発明の糸条の検査方法が適用される糸条は、中空糸膜のような単繊維でもよいし、炭素繊維のような多数の単繊維群でもよい。
【0031】
本発明の糸条の検査方法が適用される中空糸膜としては、例えば、ポリカーボネート、ポリオレフィン、ポリアミド系、ポリイミド系、セルロース系、ポリスルフォン、ポリエーテルスルフォン、ポリメタクリル酸系、ポリアクリロニトリル、ポリフッ化ビニリデン、ポリエーテルケトン系等の有機系高分子、及び、アルミナ、ジルコニア、チタニア、シリコンカーバイト等のセラミックスなどを材質とした中空糸膜があげられる。
【0032】
また、本発明の検査方法は、限外濾過膜、精密濾過膜、気体分離膜、パーベーパレーション膜、透析膜等として採用される中空糸膜のいずれの検査にも適用できる。これらの中空糸膜モジュールは、水処理や人工腎臓に用いられる。
【0033】
本発明の糸条の検査方法の実施に用いられる検査装置は、走行する糸条を撮像する撮像手段と、この撮像手段により得られた画像データをデータ処理するデータ処理手段を有する。
【0034】
撮像手段とは、光を受光する撮像素子(画素)、例えばCCDやCMOSが直線的、もしくは2次元的に配列され、各画素が受光した明暗のデータを画像として構成するセンサを言う。
【0035】
また撮像手段は、走行する糸条の全長にわたり、後述する所定の区間Lごとに画像データを得ることができるようにする。すなわち撮像された画像データをつなぎ合わせることにより、走行する糸条の全長の画像データが、重複や欠落を生じることなく得られるようにする。このため画像データを撮像するタイミングは、糸条の走行速度および所定の区間Lの長さに基づき、適宜調節することができるものとする。
【0036】
複数本の糸条が並列して走行する場合、走行する糸条の本数によって必要な検査領域の幅方向長さが長くなることから、これを高い分解能で撮像するためには、受光素子が直線的に配列されたラインセンサカメラがより好ましい。ラインセンサカメラの画素数は、2,000画素以上が好ましい。上記に該当するラインセンサカメラには、日本エレクトロセンサデバイス(株)、竹中システム機器(株)、Basler社、DALSA社等のメーカー製品が使用できる。
【0037】
撮像手段としてラインセンサカメラを使用する場合には、撮像画像1フレームあたりの取得ライン数を、走行する糸条の所定の区間に設定することが好ましい。また、撮像手段に受光素子が平面的に配列されるエリアセンサカメラを使用する場合には、画像1フレームの大きさは使用する機種によって決定される。そのため、撮像画像の大きさが走行する糸条の所定の区間に適さない場合は、本発明のデータ処理の前に、撮像画像を分割、あるいは前後の撮像画像との結合を行っても良い。
【0038】
本発明における照明手段としては、糸条に対して糸条の走行面に平行かつ、糸条の走行方向に対して直角の方向に均一に照明することができれば良い。複数本の糸条が並列して走行する場合にも、各糸条を幅方向に均一に照明できれば良い。幅方向における照明の光量差は、20%以内とすることが好ましい。また照明手段の照度が、糸条および糸条の欠陥からの十分な反射光量を確保できるものであれば、照明光の強度や波長はともに限定されない。
【0039】
本発明において、「糸条の走行面」とは以下に説明されるとおりである。すなわち、1本の糸条が、平行に設置された2つの糸条搬送ロールにそれぞれに接触して走行している場合に、糸条を含み、かつ糸条搬送ロールの軸に平行な面を糸条の走行面とする。また、2本以上の糸条が平行して走行する場合においても、糸条が1本の場合と同様に、糸条の走行面はこれら複数の糸条を含む糸条の走行面を形成して、糸条の製糸工程を走行することになる。
【0040】
本発明において、照明手段は、糸条の走行面に対して撮像手段と同じ側の位置に設けられても良いし、異なる側の位置に設けられても良い。「前記撮像手段と同じ側の位置」に設けられた場合、前記照明手段により照明された糸条にて、反射あるいは散乱した光を、前記撮像手段が受光することになる。この場合には糸条部分が明部、背景部分が暗部として撮像される。また、「前記撮像手段と異なる側の位置」に設けられた場合、撮像手段は糸条の間隙を透過した光を受光することになるこの場合には、糸条部分が暗部、背景部分が明部として撮像されるので、この点を考慮して画像処理を行えばよい。
【0041】
また、照明手段としては、照射部分がライン状である高周波点灯式の蛍光灯やLEDライン照明等が使用できる。そのほかに、ハロゲンランプやメタルハライドランプ、LED等の光源の光を、複数の光ファイバをライン状に配置したライトガイドで導き照明する照明手段、円柱状のロッドレンズの端面に光を照明する照明手段、あるいは前面にシリンドリカルレンズを設けた照明手段なども用いることができる。コストや保守性の観点では、高周波点灯式の蛍光灯が好ましい。しかしながら、走行速度が速く、例えば毎分50mを超える速度で検出することを必要とする場合には、LEDやメタルハライドランプなど高輝度の照明手段を用いることが好ましい。
【0042】
<本発明の第1の実施形態>
本発明の第1の実施形態について説明する。
【0043】
本発明の糸条の検査方法においては、走行する糸条を撮像手段により撮像し、得られた画像データをデータ処理手段によりデータ処理する。このデータ処理は、(a)走行する糸条の画像データから走行方向の所定の区間における複数個の糸幅(以下、「糸幅データ群」ということがある。)を算出する手順(以下手順Aとする)と、(b)得られた糸幅データ群から糸幅のばらつきを算出する手順(以下手順Bとする)と、(c)この糸幅のばらつきを第1の閾値と比較する手順(以下手順Cとする)とを含んでいる。
【0044】
撮像手段により得られた画像データに糸条部分と糸条周辺部の背景部分が撮像されており、まず走行方向の所定の区間における糸条部分を抽出する。たとえば画像に含まれる各画素の輝度値をある一定の閾値と比較して2値化処理を加えることによって、糸条部分を糸条周辺の背景部分と分離することができる。また、画像データにおいて画像ノイズが含まれる場合は、上記の抽出処理を実施する前に、平均化フィルタやガウスフィルタ、メディアンフィルタなどのフィルタ処理を施して画像ノイズを低減することが好ましい。手順Aでは、このようにして得られた画像データの糸条部分から、走行方向の所定の区間における各糸条の糸幅を複数回計測し、その結果を糸幅データ群とする。糸幅の計測は、所定の区間をあらかじめ定められた分割数により分割することにより測定ポイントを指定し、これら複数の測定ポイントでの糸幅を算出することにより、糸条ごとの糸幅データ群を形成するとよい。
【0045】
手順Bでは、前記手順Aで算出した糸幅データ群から糸幅のばらつきを糸条ごとに算出する。ばらつきをあらわす指標は、標準偏差、分散、最小値から最大値までの範囲(最大値と最小値との差)などのいずれを用いてもよい。
【0046】
手順Cでは、前記手順Bで算出した糸幅データ群のばらつきを予め設定した第1の閾値と比較する。第1の閾値は、糸幅のばらつきをあらわす指標に応じて適切に設定される。
【0047】
ある糸条における糸幅データ群のばらつきが予め設定した第1の閾値より大きいならば、当該糸条に欠陥があると判断される。
【0048】
ここで、「糸幅」とは以下に説明される通りである。すなわち、得られた画像データにおける糸条の走行方向を基準にして、走行方向に対して垂直な方向の幅とするのが好ましい。または、走行方向に対してあらかじめ決められた任意の方向の幅を糸幅としてもよい。
【0049】
また、「所定の区間」とは、1回のデータ処理で検査される糸条の走行方向の長さに相当し、欠陥が現れる状況(大きさや頻度など)を考慮して適切に設定される。本発明では欠陥前後での糸幅のばらつきを指標とするため、この所定の区間は欠陥の影響範囲より大きくする必要があり、具体的には欠陥の影響範囲の1〜10倍程度に設定すると良い。
【0050】
以下、本発明の糸条の検査方法について、図面を参照しながら説明する。
【0051】
図1は、本発明の糸条の検査方法の実施に用いられる画像データを取得し、これを処理する検査装置、すなわち画像データ取得処理装置IDの概略側面図である。また、
図2は
図1の画像データ取得処理装置IDの概略鳥瞰図である。
【0052】
図1および
図2において、画像データ取得処理装置IDは、互いに平行で間隔を置いて位置する2本の糸条搬送ロールR1、R2を有する。複数本の糸条YT
1−YT
nが、間隔B
2−B
nを有して並列し、糸条搬送ロールR1、R2に接触して、矢印YCDに示す方向に走行している。また、走行している複数本の糸条YT
1−YT
nにより、糸条の走行面YCP(点線で図示)が形成されている。各糸条は、この糸条の走行面YCP上に位置している。
【0053】
糸条の走行面YCPを挟んで、第1の側P1に照明手段2および撮像手段1が設けられている。撮像手段1は、照明手段2により糸条が照明され、糸条の走行面で生じた散乱反射光を受光する位置に設けられている。
【0054】
撮像手段1によって撮像された画像データは、データ処理手段3に導かれ、データ処理手段3によって、走行糸条の欠陥の有無や状態を判定する。
【0055】
図3は、本発明の糸条の検査方法の実施に用いられる画像データ取得後に、画像データを処理するデータ処理手段の概略図である。
【0056】
図3において、データ処理手段3では、得られた画像データに対して、手順Aで各走行糸条の画像データから走行方向の所定の区間における糸幅データ群を糸条ごとに算出する。次に手順Bでは、算出した糸幅データ群から糸条ごとに糸幅のばらつきを算出する。次に手順Cでは、算出した糸幅のばらつきと予め設定した第1の閾値とを比較することで、糸条の品質を判定する。ある糸条における糸幅のばらつきが第1の閾値より大きいなら、当該糸条に品質上の欠陥があると判断される。また、糸条に欠陥が無く、かつ単に糸ゆれを起こしている場合や糸条が単に斜行している場合は、糸幅のばらつきが小さいことから、品質上の欠陥があると誤った判断をされることを防ぐことができる。
【0057】
また、
図4は、撮像手段1によって得られた画像データを例示する模式図である。
図4では、矢印YCDの方向に走行する複数本の糸条(YT
1,YT
2,・・・YT
n)と、隣接する糸条の間および両端の背景部分B
1,B
2,・・・B
n,B
n+1が二値化されている。
図4の糸条(YT
1,YT
2,・・・YT
n)は、各々が正常な糸条である場合を示している。製造工程では、各々が正常な糸条であることを高速に検査することが必要である。
【0058】
図5は、矢印YCDの方向に走行する複数の糸条(YT
1,YT
2,・・・YT
n)に、種々の異常と思われるような状況にある糸条が含まれている画像データを例示する模式図である。
【0059】
図5において、糸条の走行方向を矢印YCDで図示しており、各々の糸条(たとえば設計糸幅1.5mm)について所定の区間L(たとえば60mm/画像1フレーム)に各糸条の複数個の糸幅を算出する(手順A)。ここでは、
図6に示すように、区間Lをあらかじめ定められた分割数(
図6の場合は5)で等間隔に分割し、点線で示す測定ポイントで各糸条の糸幅を5回算出することにする(区間Lの両端は前後の画像との重複を考慮して、始点あるいは終点のどちらか一方で算出)。この算出した糸幅から、各々の糸条について、糸幅の5回の算出値のばらつき(ここでは標準偏差とする)をさらに算出する(手順B)。この糸幅のばらつきと、あらかじめ設定していた第1の閾値(たとえば15μm)とを比較する(手順C)。算出した糸幅のばらつきが第1の閾値より大きいならば品質に何らかの異常があると判断される。
【0060】
また、
図6に示した糸条YT
7のように糸条が単に糸ゆれを起こしている場合や糸条YT
6のように糸条が単に斜行している場合は、糸幅のばらつきが第1の閾値より小さくなり、品質上の欠陥があるとは判断されない。これに対し、
図6に示した糸条YT
4のように糸条が「節」を有したり、糸条YT
5のように糸条が「くびれ」を有したりする場合は、糸幅のばらつきが第1の閾値より大きくなり、品質上の欠陥があると判断される。
【0061】
ここでは、区間L60mm(すなわちデータ処理1回に検査される糸条の長さ)における糸条の糸幅の算出回数を5回としたが、想定される欠陥の大きさや、糸条の走行速度、データ処理速度とデータ処理装置の性能とを鑑みて適切に設定することができる。
【0062】
<本発明の第2の実施形態>
本発明の検査方法における第2の実施形態は、前述の本発明の第1の実施形態に基づく糸条欠陥の有無の検査に加えて、糸条欠陥の状況を検査することができる。第2の実施形態は、上述したデータ処理に加え、データ処理が、走行糸条の走行方向の所定の区間における前記走行糸条の外接矩形幅および/または内接矩形幅を算出する手順(以下手順Dとする)および/または糸幅データ群から糸幅の代表値を算出する手順(以下手順Eとする)と、糸幅の代表値と前記外接矩形幅および/または内接矩形幅とを比較する手順(以下手順Fとする)とを含んでいる。
【0063】
手順Dでは、糸条の走行方向YCDを基準にして、画像データの糸条(YT
1,YT
2,・・・YT
n)に外接する2本の仮想平行線を描き、この仮想平行線の間隔が外接矩形幅として算出される。同様に、画像データの糸条(YT
1,YT
2,・・・YT
n)に内接する2本の仮想平行線を描き、この仮想平行線の間隔が内接矩形幅として算出される。また、前述の「糸幅」と同様にあらかじめ決められた任意の方向の幅としてもよい。
【0064】
手順Eでは、画像データから得られた糸条ごとの糸幅データ群から糸幅の代表値が算出される。
【0065】
手順Fでは、糸幅の代表値と外接矩形幅との比較および/または糸幅の代表値と内接矩形幅との比較が行われる。
【0066】
そして、前記走行糸条の外接矩形幅と前記糸幅の代表値との差を予め設定した第2の閾値と比較すること(手順G)、および/または前記走行糸条の内接矩形幅と前記糸幅の代表値との差を予め設定した第3の閾値と比較すること(手順H)ができる。
【0067】
ここで、糸幅の代表値は、糸幅データ群の平均値、中央値、あるいは最小値もしくは最大値、あるいは糸幅データ群を昇順にソートしてあらかじめ指定された順位の糸幅、など任意に設定することができる。
【0068】
外接矩形幅と糸幅の代表値との差が第2の閾値より大きければ、例えば当該糸条に「節」という欠陥があると判断される。また、内接矩形幅と糸幅の代表値との差が第3の閾値より大きければ、例えば当該糸条に「くびれ」という欠陥があると判断される。
【0069】
図5に示す糸条の画像データに対して、第1の実施形態と同様にして各々の糸条の複数個の糸幅が区間Lにて算出され、算出された複数個の糸幅の値から糸幅の代表値が算出される。例えば、平均値を代表値とする場合には、例えば
図6に示すように、各々の糸条について区間Lの間に5回算出された糸幅の値から、糸幅の平均値が算出される(手順E)。
【0070】
また、
図5に示す画像データに対して、各々の糸条の外接矩形幅は、
図7に示すように、区間Lにおける画像データの各糸条(YT
1,YT
2,・・・YT
n)部分に外接する、糸条の走行方向YCDに平行な2本の仮想平行線(白抜きの点線で図示)の間隔を外接矩形幅とする(手順D)。
【0071】
同様に、
図5に示す画像データに対して、各々の糸条の内接矩形幅は、
図8に示すように、区間Lにおける画像データの各糸条(YT
1,YT
2,・・・YT
n)部分に内接する、糸条の走行方向YCDに平行な仮想平行線(点線で図示)の間隔を内接矩形幅とする(手順D)。
【0072】
このようにして算出した各々の糸条の糸幅の代表値(ここでは平均値)と外接矩形幅および/または内接矩形幅とを比較する(手順F)。例えば
図7の糸条YT
4のように、外接矩形幅と糸幅の代表値(ここでは平均値)と差が第2の閾値(たとえば150μm)より大きいならば、当該糸条には例えば糸幅が局所的に大きくなった「節」欠陥があると判断できる。また、例えば
図8の糸条YT
5のように、糸幅の代表値(ここでは平均値)と内接矩形幅との差が第3の閾値(たとえば150μm)より、大きいならば、当該糸条には例えば糸幅が局所的に小さくなった「くびれ」欠陥があると判断できる。
【0073】
<本発明の第3の実施形態>
本発明の第3の実施形態は、前述の本発明の第1の実施形態に加えて、データ処理が、走行糸条の走行方向の所定の区間における前記走行糸条の外接矩形幅および/または内接矩形幅を算出する手順(手順D)と、あらかじめ設計された糸幅と前記外接矩形幅および/または前記内接矩形幅とを比較する手順(手順I)とを含んでいる。
【0074】
上記の通り、手順Dでは、得られた画像データにおける糸条の走行方向YCDを基準にした、画像データの糸条部分に外接する2本の仮想平行線を描き、この仮想線の幅が外接矩形幅として算出される。また、同様に画像データの糸条部分に内接する2本の仮想平行線を描き、この仮想線の幅が内接矩形幅として算出される。
【0075】
手順Iでは、あらかじめ設計された糸幅と外接矩形幅および/または内接矩形幅との比較が行われる。
【0076】
そして、あらかじめ設計された糸幅と前記外接矩形幅との差を第4の閾値と比較する(以下手順Jとする)、および/またはあらかじめ設計された糸幅と前記内接矩形幅との差を第5の閾値と比較する(以下手順Kとする)。
【0077】
あらかじめ設計された糸幅と外接矩形幅との差が第4の閾値(たとえば150μm)より大きければ、例えば当該糸条には「節」という欠陥があると判断される。また、あらかじめ設計された糸幅と内接矩形幅との差が第5の閾値(たとえば150μm)より大きければ、例えば当該糸条には「くびれ」という欠陥があると判断される。
【0078】
上記のいずれかの実施形態において、さらに、あらかじめ設計された糸幅と糸幅の代表値(ここでは平均値)との差を第6の閾値と比較する手順(以下手順Lとする)を加えることによって、糸条が設計された糸幅で製造されているかどうかの確認ができる。あらかじめ設計された糸幅と糸幅の代表値との差が第6の閾値(たとえば50μm)より小さければ、当該糸条は設計された糸幅で製造されている、と判断できる。
【0079】
また、本発明の糸条の検査方法を組み込んだ検査装置を検査工程に含んだ糸条の製造方法では、検査工程で検出した欠陥の個数、場所から製造工程の異常を特定し、製造工程の条件を変更する操作手順を含んでいても良い。
【0080】
糸条の製造工程では、糸条走行用のロールや、糸条の走行位置を整頓するガイドロールの表面が損傷し、損傷箇所に糸条が接触していると、当該糸条に欠陥が増大する傾向がある。よって、本発明の糸条の検査方法を用いて検出した欠陥の数を、単位時間当たり、例えば1時間あたりに、走行している糸条ごとで、時間的な変化として計数すると、欠陥数の時間的な変化にも特徴的な増加傾向が現れる。糸条の場所ごとに欠陥個数の時間的な変化を検査工程で監視し、例えば、単位時間当たりの欠陥個数が所定の閾値を超えた時に、製造工程に異常を知らせる警報を発令し、作業者が糸条の製造工程を点検して異常個所を修理するようにすることもできる。このようにすることによって、欠陥の発生原因を早期に取り除くことが可能となり、糸条の製造工程の稼動時間に対して、欠陥が無い、もしくは少ない糸条を実施前に比べてより多く製造できることとなる。よって、本発明の糸条の検査方法を検査工程に含んだ糸条の製造方法において、欠陥の個数を基準に製造工程に生じた異常を特定し、製造工程の条件を変更する操作手順を含むことが望ましい。
【0081】
このような方法で製造された糸条を用いて得られる糸条パッケージまたは糸条モジュールは、本発明の糸条の検査方法により、パッケージ内または糸条モジュール内の糸条に含まれる欠陥の個数や全長に対する欠陥の位置情報が事前に把握できていることなる。このため、例えば、糸条パッケージを後の工程で巻き出して使用する場合に、欠陥の無い品位良好な糸条のみを使用することができる。こうして、従来、欠陥に起因して発生していた後の工程のトラブルを未然に防止し、本発明の糸条の検査方法を使用する前に比べて、歩留まりを向上させることができる。
【0082】
また本発明でいう「糸条パッケージ」とは、製糸した糸条をひとまとめにした状態をいう。たとえば1本あるいは複数本の糸条をボビンあるいはカセに巻きつけたものや、糸条を折り返す、あるいは一定長に切断したものを束ねたものであるが、その形態は限定されない。
【0083】
また「糸条モジュール」とは、前述した糸条パッケージを組み込んだ製品である。たとえば糸条が中空糸膜の場合は、人工透析に用いられるダイアライザーや、浄水に用いられるカートリッジなどがあげられる。あるいは糸条が光ファイバの場合は、情報通信に用いられる光ケーブルや、医療用途をはじめとした様々な用途に用いられる内視鏡が挙げられるが、その形態は限定されない。
【実施例】
【0084】
以下、実施例に基づいて、本発明を具体的に説明する。
【0085】
図1または
図2の画像データ取得処理装置IDを元に、実施例において用いた走行糸条の検査装置の構成を以下に示す。
照明手段:LEDバー型照明(出力100W、長さ200mm,日星電気社製LS II200)
撮像手段:ラインセンサカメラ(4096画素、Basler社製Spl4096−20km)
糸条の走行速度:10m/分
【0086】
上記の構成により、同一面内で並列して10m/分の速度で走行させた中空糸膜(設計糸幅1.5mm)5糸条を撮像し、得られた画像データのデータ処理内容を変えて走行糸条の検査を行った。ここで用いたデータ処理手段は以下の構成、仕様とした。
データ処理手段に用いた演算装置:パーソナルコンピュータ 1台
CPU:インテル(登録商標)Core i7-950
メモリ:6GB
OS:Windows(登録商標)7 Professional
画像処理ライブラリソフト:HALCON(Ver.9.0、MVTec社製)
テストに用いた画像データの1枚あたりのサイズ:4096×3000画素。
【0087】
[実施例1]
糸条を30分間走行させ、この間、区間L(60mm)ごとに画像データを取得した。次に区間L(60mm)における各糸条の糸幅の算出回数を20回として、この20回の糸幅の標準偏差を算出した。標準偏差の値と第1の閾値(15μm)とを比較し、標準偏差が閾値より小さいならば品質上の異常はないものとした。
【0088】
[実施例2]
実施例1と同じ画像データ群に対して、実施例1のデータ処理に加えて、20回の糸幅の算出値から糸幅の平均値を算出し、それを糸幅の代表値とした。また、画像データから、各糸条の外接矩形幅と内接矩形幅を算出した。外接矩形幅と糸幅の代表値(平均値)との差が第2の閾値(150μm)より大きい場合は「節」欠陥、内接矩形幅と糸幅の平均値との差が第3の閾値(150μm)より大きい場合は「くびれ」欠陥とした。
【0089】
[比較例]
特許文献2に記載のように、取得した画像と、取得した画像から画像処理により得られた外接矩形画像および内接矩形画像との比較により、走行糸条の検査を行った。
【0090】
以上の実施例1,2ならびに比較例において、品質異常として検出されたものについて個々に画像データを分析し、そのうちの実際に品質異常であった数を品質異常正検出数として、また実際には品質異常ではなかった数を品質異常誤検出数として表1に示した。
【0091】
【表1】
【0092】
表1の結果から、実施例1および実施例2は、比較例に較べて、品質異常誤検出数が減少していることがわかる。画像データを個々に分析したところ、比較例の品質異常誤検出数の中には、単に糸ゆれを起こして品質異常として検出されたものあるいは単に斜行しているだけで品質異常として検出されたものがほとんどであった。
【0093】
また、実施例1においては、糸幅の標準偏差は第1の閾値を超えているが、外接矩形幅あるいは内接矩形幅と糸幅の平均値との差が小さく、欠陥とはいえない軽度な異常を誤検出しているが、実施例2では外接矩形幅と糸幅の平均値との差を第2の閾値で、内接矩形幅と糸幅の平均値との差を第3の閾値にて比較することにより、品質異常の誤検出がさらに低下していることがわかる。
【0094】
表1に示す結果から、高速に走行する糸条をオンラインで検査することにおいても、従来の検査方法に比べて本発明の糸条の検査方法では安価で、かつ糸ゆれや斜行による誤検出を防止でき、さらに高い精度で検出することができることが明らかになった。
【0095】
さらには、得られた糸条毎の品質データを用いて、糸条および糸条を巻き取った糸条パッケージ、糸条モジュールの品位を管理することができた。また、品質データを用いて糸条の製造工程を管理することにより、歩留まりよく糸条の製造をすることができた。