特許第6260368号(P6260368)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6260368
(24)【登録日】2017年12月22日
(45)【発行日】2018年1月17日
(54)【発明の名称】自励振動ヒートパイプ
(51)【国際特許分類】
   F28D 15/02 20060101AFI20180104BHJP
   H01L 23/427 20060101ALI20180104BHJP
【FI】
   F28D15/02 E
   F28D15/02 101L
   H01L23/46 B
【請求項の数】6
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2014-49287(P2014-49287)
(22)【出願日】2014年3月12日
(65)【公開番号】特開2015-172474(P2015-172474A)
(43)【公開日】2015年10月1日
【審査請求日】2016年7月8日
(73)【特許権者】
【識別番号】000003609
【氏名又は名称】株式会社豊田中央研究所
(74)【代理人】
【識別番号】100079049
【弁理士】
【氏名又は名称】中島 淳
(74)【代理人】
【識別番号】100084995
【弁理士】
【氏名又は名称】加藤 和詳
(72)【発明者】
【氏名】宮地 幸夫
(72)【発明者】
【氏名】吉田 忠史
【審査官】 鈴木 充
(56)【参考文献】
【文献】 特開平07−280473(JP,A)
【文献】 特開2004−308948(JP,A)
【文献】 特開2012−220160(JP,A)
【文献】 特開2012−202570(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F28D 15/02
H01L 23/427
H05K 7/20
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
作動液が移動する流路を形成するコンテナを備え、
前記コンテナは、外部からの熱を吸収して前記作動液を加熱する吸熱部と、加熱された作動液の熱を外部に放熱する放熱部と、を備え、
前記流路が、前記吸熱部と前記放熱部との間を往復して設けられ、前記流路のうちの往路の各々を、所定本の流路で形成し、前記流路のうちの復路の各々を、前記所定本より多い本数の流路で形成し、前記復路を形成する流路の各々の断面積を、前記往路を形成する流路の各々の断面積より小さくした、
自励振動ヒートパイプ。
【請求項2】
前記流路のうちの往路の各々を、1本の流路で形成し、
前記流路のうちの復路の各々を、2本〜4本の何れかの本数の流路で形成した請求項1記載の自励振動ヒートパイプ。
【請求項3】
前記流路のうちの往路の各々を形成する前記所定本の流路の断面積の合計と、前記流路のうちの復路の各々を形成する前記所定本より多い本数の流路の断面積の合計との比予め定められた比になるように、前記流路を形成した請求項1又は2記載の自励振動ヒートパイプ。
【請求項4】
前記コンテナを、平板状のコンテナとした請求項1〜請求項の何れか1項記載の自励振動ヒートパイプ。
【請求項5】
前記コンテナは、前記作動液が移動する閉ループ状の流路を形成する請求項1〜請求項の何れか1項記載の自励振動ヒートパイプ。
【請求項6】
前記作動液を、水、有機液体、又は無機液体とした請求項1〜請求項の何れか1項記載の自励振動ヒートパイプ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自励振動ヒートパイプに関するものである。
【背景技術】
【0002】
発熱体の冷却を小空間で有効に行うための放熱器としてヒートパイプ方式の放熱器が知られている。この種の放熱器のうち、自励振動ヒートパイプは、液体(作動液)の沸騰による液体の圧力振動を利用して液体を移動させるものである。
【0003】
例えば、非特許文献1によれば、厚さ3mmのアルミ板(A2017P−T3)にエンドミルによる深さ1.5mmの溝加工を施し、4往復閉ループ流路を形成している。溝巾2mmと1mmの流路を交互に並べており、以下これを不等断面流路と呼ぶ。冷却却側の液柱が振動する様子が観察され、熱輸送が促進される。
【0004】
不等断面流路の場合に振動流が誘起される理由として、流路巾が交互に異なるため冷却却側に充満した液柱両端のメニスカス半径が隣接する流路で異なる。即ち、気液境界面に発生する圧力差ΔPは、以下の式に示すように、メニスカス半径に反比例する。
【0005】
ΔP∝γ/R 〔γ:表面張力、R:メニスカス半径〕
【0006】
巾の狭い方の流路では、幅の広い流路より、メニスカス半径が小さいため、表面張力により引っ張られる力が強い。この力のアンバランスにより、液は、巾の狭い方の流路に引き込まれる。これをきっかけにして振動状態となる。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】北島 仁、ほか2名、「不等断面ループ型ヒートパイプの研究」、第39回日本伝熱シンポジウム講演論文集、D−143、2002年5月
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
不等断面流路においては、流路巾が交互に異なるため、振動流が発生し易い。
【0009】
しかしながら、幅の狭い流路で発生する圧力損失により、作動液の運動が妨げられ、循環流に移行し難いため、冷却性能の向上が小さい、という問題点があった。
【0010】
本発明は、上記問題点を解決するためになされたものであり、流路で発生する圧力損失を低減して、冷却性能を向上させる自励振動ヒートパイプを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記の目的を達成するため、本発明の自励振動ヒートパイプは、作動液が移動する流路を形成するコンテナを備え、前記コンテナは、外部からの熱を吸収して前記作動液を加熱する吸熱部と、加熱された作動液の熱を外部に放熱する放熱部と、を備え、前記流路が、前記吸熱部と前記放熱部との間を往復して設けられ、前記流路のうちの往路の各々を、所定本の流路で形成し、前記流路のうちの復路の各々を、前記所定本より多い本数の流路で形成し、前記復路を形成する流路の各々の断面積を、前記往路を形成する流路の各々の断面積より小さくしたことを特徴とする。
【0012】
本発明では、前記流路のうちの往路の各々を、1本の流路で形成し、前記流路のうちの復路の各々を、2本〜4本の何れかの本数の流路で形成するようにすることができる。
【0013】
本発明では、前記流路のうちの往路の各々を形成する前記所定本の流路の断面積の合計と、前記流路のうちの復路の各々を形成する前記所定本より多い本数の流路の断面積の合計とが対応するように、前記流路を形成することができる。
【0014】
本発明では、前記吸熱部の前記流路の折り返し部分において隣り合う流路の形状を、前記吸熱部と前記放熱部とを結ぶ方向を軸として同一平面上において左右非対称に形成することができる。
【0015】
本発明のコンテナを、平板状のコンテナとすることができる。
【0016】
本発明のコンテナは、前記作動液が移動する閉ループ状の流路を形成するようにすることができる。
【0017】
本発明の作動液を、水、有機液体、又は無機液体とすることができる。
【発明の効果】
【0018】
本発明に係る自励振動ヒートパイプは、復路を形成する流路の各々の断面積を、往路を形成する流路の各々の断面積より小さくし、流路のうちの復路の各々を、復路より多い本数の流路で形成することにより、流路で発生する圧力損失を低減して、冷却性能を向上させる、という優れた効果を有する。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1】第1の実施の形態に係る自励振動ヒートパイプの構成を模式的に示す図である。
図2】第1の実施の形態に係る自励振動ヒートパイプを示す断面構成図である。
図3】測定系を示す模式図である。
図4】(A)従来技術に係る不等断面形状を示す図、及び(B)第1の実施の形態に係る不等断面形状を示す図である。
図5】第2の実施の形態に係る自励振動ヒートパイプの構成を模式的に示す図である。
図6】第2の実施の形態に係る自励振動ヒートパイプを示す断面構成図である。
図7】第3の実施の形態に係る自励振動ヒートパイプの構成を模式的に示す図である。
図8】第4の実施の形態に係る自励振動ヒートパイプの構成を模式的に示す図である。
図9】第4の実施の形態に係る自励振動ヒートパイプを示す断面構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、添付図面を参照して、本発明の実施形態について詳細に説明する。
【0021】
<発明の原理>
自励振動ヒートパイプの内部では、作動液が液体状態のままの液栓と、作動液の蒸気である気泡とが、交互に並んでいる。
【0022】
振動流では、同じターン内(隣り合うパイプ間)で、作動液が振動するだけであり、運動はやがて減衰し消滅するため、エネルギー効率が悪く、冷却性能も低い。
【0023】
非特許文献2(西尾ら、「SEMOS Heat Pipeの熱輸送特性」、日本伝熱シンポジウム、2001年D311)が報告した如く、コンテナが加熱されたとき、あるターンのパイプにおいて作動液の蒸発が起こり気泡を発生するとともに、体積が局所的に膨張する。この気泡の体積膨張により、液栓が押し上げられ、冷却部へ移動していく。気泡が冷却部に達すると、気泡が凝縮し液体に戻ると同時に体積収縮が起き、他端の液栓を引き上げる。
【0024】
循環流においては、これら一連の運動が、パイプ間で、順次繰り返され、隣のパイプヘ連鎖していく。循環流では、運動が釣瓶式に起こるため、気泡の体積膨張で発生した運動が、ヒートパイプ全体にわたって慣性力として持続され、エネルギー効率が高い。この結果、液栓の循環とともに、液栓に取り込まれた加熱部の熱が顕熱として循環するため、冷却性能が高くなる。
【0025】
断面積の広い流路と狭い流路を交互に並べて不等断面流路を形成すると、メニスカス半径の違いにより、狭い流路に液栓が引き込まれ、振動流のきっかけとなる。
【0026】
本発明では、不等断面流路を形成すると同時に、断面積の広い流路一本に対して、狭い流路を複数本とした。これにより、狭い流路一本あたりの流量を減らし、狭い流路を作動液が流れた際に発生する圧力損失を低減する。不等断面流路の作用により、振動流が発生すると、直ちに循環流に移行する。即ち、本発明によれば、効率の高い、循環流が促進されるため、冷却性能が向上する。
【0027】
<第1の実施の形態>
図1は、本発明の第1の実施の形態に係る自励振動ヒートパイプの構成を模式的に示している。本実施の形態の自励振動ヒートパイプ10は、平板状のコンテナ1の一方端側に吸熱部(以下、受熱部、あるいは発熱部ともいう)3が配置され、他方端側に放熱部(以下、冷却部ともいう)4が配置されている。
【0028】
コンテナ1内には、閉ループ状をなす1本の流路2が形成されており、この流路2内には、作動液(熱媒体、又は冷媒ともいう)が封入されている。そして、流路2は、吸熱部3と放熱部4との間で往復している。
【0029】
なお、流路2は、封入された作動液が図中の矢印方向に流れる場合、放熱部4から吸熱部3に至る往路としての流路2aと、吸熱部3から放熱部4に至る復路としての流路2bと、これら往路としての流路2aと復路としての流路2bとを連結する連結部分としての流路2cとで構成され、連結部分で折り返す構造になっている。
【0030】
ここで、「閉ループ状」とは、流路2a、流路2b、及び流路2cを含む流路2の経路が、同一平面上で一筆書きできることを意味しており、かつ、その一筆書きが閉じている状態を指す。また、流路2について、吸熱部3と放熱部4との間を往復する回数に制限はない。
【0031】
往路としての流路2aの各々は、1本の流路で形成されているのに対し、復路としての流路2bの各々は、2本の流路で形成されている。また、復路としての流路2bの断面積が、往路としての流路2aの断面積より小さくように、流路2bの幅を小さくした。
【0032】
また、往路としての流路2aの各々を形成する1本の流路の断面積と、復路としての流路2bの各々を形成する2本の流路の断面積の合計とが対応するように、流路2a、2bを形成した。例えば、流路2aの幅と流路2bを形成する2本の流路の幅の合計との比が、例えば、1:1、1:1.5、又は3:1となるように、流路2a、2bを形成した。
【0033】
図1に示す自励振動ヒートパイプ10は、流路2内に封入した作動液を循環させる駆動力として、流路2内で発生する圧力振動を用いている。
【0034】
すなわち、コンテナ1の吸熱部3には、図示していないIGBT(Insulated Gate Bipolar Transistor)素子等からなる発熱体が配置されており、この発熱体における発熱量の増加とともに吸熱部3の温度が上昇し、作動液が沸騰して(蒸気泡を発生して)気相へと変化し、同時に圧力が上昇する。封入された作動液は、流路2内において気相状態と液相状態が交互に存在し、この結果、気相の膨張により液相と気相が熱とともに放熱部4の方へ移動する。なお、本実施の形態では、コンテナ1の一方の面に、発熱体が配置され、コンテナ1の一方の面から、発熱体の熱を吸収する場合を例に説明する。
【0035】
放熱部4には、図示していない冷却装置が配置されており、放熱部4は、流路2を経由して送られてきた気相の作動液の熱を受け取り、その熱を、冷却装置を介して外部に放出する。このように、流路2のうち放熱部4に位置する部分で作動液が冷却されると気相が収縮して(蒸気泡が収縮、または凝縮して)、圧力の降下と作動液の温度降下が生じ、作動液は気相から液相へ変化する。そして、冷却された液相が流路2を通って吸熱部3の方へ戻る。
【0036】
コンテナ1内においては、液相の作動液が蒸発して、それが作動液の循環流の駆動力である圧力変動をもたらし、吸熱部3と放熱部4の圧力差により自励的に発生する圧力振動により、流路2内に閉じ込められた気相と液相の作動液が、圧力の高い吸熱部3から圧力の低い放熱部4へ移動する自励振動によって熱を輸送する。このように、自励振動ヒートパイプ10では、コンテナ1における流路2内での作動液の循環が繰り返され、作動液の移動により潜熱と顕熱の両方の熱が同時に輸送されることで、外部の発熱体の冷却が連続して行われる。
【0037】
コンテナ1の作製では、熱伝導性の良好な金属、例えば銅製のコンテナ(筐体)内に断面が円形もしくは四角形の流路が形成され、その流路の上を覆うようにして銅製のケース(コンテナ蓋)が被せられた後、拡散接合により、気密性及び水密性を保ちながら一体化される。なお、本実施の形態においては、熱伝導率が高く加工のし易い銅を用いたが、軽量化のためにはアルミ、高強度(高温で使用)のためには鉄(SUS)を用いることも有効である。
【0038】
本実施の形態のコンテナ1は、流路を形成する側が、長辺が190mm、短辺が50mm、厚さが2.5mmであり、コンテナ蓋の寸法は、例えば、長辺が190mm、短辺が50mm、厚さが0.5mmである。
【0039】
また、往路としての流路2aは、直径もしくは一辺が約2mm、吸熱部3と放熱部4との間での長さが約190mmである(図2参照)。復路としての流路2bを形成する2本の流路の各々は、直径もしくは一辺が約1mm、吸熱部3と放熱部4との間での長さが約190mmである。この流路2a、2bを隣接させて一組とし、8組を並列して繰り返し配置し、一組の流路2a、2bの端部が吸熱部3と放熱部4において1つおきに連結されて、全体として、一筆書きのループ状をなした蛇行細管となっている。
【0040】
なお、コンテナ1の端部の一個所に穴をあけた後、直径約3mmのSUS製のパイプ5(ドレイン孔ともいう)を差し込んで、例えば、ロウ付けする。このパイプ5を介して、例えばロータリーポンプ等により、流路内の真空引きを行うとともに、当該パイプ5を作動液の注入口とする。注入する作動液は純水とし、その充填率を約50%(作動液の量を流路の体積の約半分)とし、シリンジ(注射器)をパイプ5の弁を介して接続し、作動液を充填した後、注入口(弁)を封止して自励振動ヒートパイプ10を完成させた。
【0041】
吸熱部3には、自励振動ヒートパイプ10による冷却対象である発熱体が配置されている。この発熱体は、例えば、動作時の発熱量が大きく、電力制御等に用いられる電子素子(例えば、半導体チップ)であるIGBT、及びダイオードを回路基板にはんだ付けして固定した後、配線のためアルミニウム線でワイヤーボンドし、樹脂で封止したもの(パワーモジュール)である。
【0042】
このような発熱体を、熱伝導シートを介してコンテナ1の吸熱部3に固定する構成が考えられる。なお、IGBTは、例えば、縦が約10mm、横が約10mm、厚さが約100μmの大きさを有する矩形の素子である。
【0043】
なお、本実施の形態では、動作確認および効果確認をするために、上述のパワーモジュールに代えて、直径約6mmのカートリッジヒータを銅ブロックに埋め込んで構成した発熱体を使用した。
【0044】
放熱部4には、コンテナ1の放熱を行うために付加される冷却装置が配置される。ここでは、冷却装置として、銅ブロックの内部に円筒状に孔をあけ、それらの孔を水路とした冷却装置を用いた。そして、この冷却装置を、図示しない熱伝導シートを介してコンテナ1の放熱部4に接触させ、恒温水槽から水を循環させて温度制御(放熱)を行った。
【0045】
なお、冷却装置として、水冷ブロックのほか、空冷フィン(押出しフィン、コルゲートフィン、ピンフィン等)を用いることができる。
【0046】
本実施の形態の自励振動ヒートパイプとの比較を行うために、往路を、広い幅の1本の流路で形成し、復路を、狭い幅の1本の流路で形成した自励振動ヒートパイプを、比較対象として作製し、図3に示す測定系を用いて、自励振動ヒートパイプの性能評価を行った。
【0047】
その結果、本実施の形態の自励振動ヒートパイプでは、比較対象に対し、熱抵抗Rthおよび最大熱輸送量Qmaxが夫々10%、5%向上した。また、赤外線カメラに、作動液(熱)がパイプ内において隣の管(流路)へ順次伝わっていく様子が観察された。これは、作動液の流れの波動が完全に周期的となり、循環流の形成が促進されたためである。
【0048】
次に、圧力損失が低減される原理について説明する。
【0049】
図4(B)に示すように、幅の広い流路と狭い2本の流路を交互に並べて不等断面流路を形成すると、メニスカス半径の違いにより、狭い流路に液栓が引き込まれ、振動流のきっかけとなる。但し、パイプの単位長さあたりの圧力損失dP/dxは、以下の式のように表される。
【0050】
dP/dx ∝〔流量Q〕/〔半径〕∝〔流量Q〕/〔直径〕=〔流量Q〕/〔水力直径De〕
【0051】
水力直径Deは、以下の式で表わされる。
【0052】
De=4×〔流路断面積〕/〔濡れ縁長さ(断面にある壁面の長さ)〕
【0053】
上記の非特許文献1のように、幅の広い1本の流路と狭い1本の流路を交互に並べて不等断面流路を形成する場合(図4(A)参照)、De(広)およびDe(狭)は、それぞれ、以下のように計算される。
【0054】
De(広)=4×2×1.5/(2×2+1.5×2)=12/7≒1.714
De(狭)=4×1×1.5/(1×2+1.5×2)=6/5=1.2
【0055】
上記の非特許文献1のように、幅の広い1本の流路と狭い1本の流路を交互に並べて不等断面流路を形成する場合、同じ流量で作動液を流したとき発生する狭い流路の圧損は、広い流路の圧損に対して、以下のようになる。
【0056】
dP/dx(狭)/dP/dx(広)={Q/De(狭)}/{Q/De(広)4}=(12/7)/(6/5)≒4.2
【0057】
本実施の形態で形成した不等断面流路の場合、以下のようになる。
【0058】
(dP/dx(狭))/(dP/dx(広))={(Q/2)/De(狭)}/{Q/De(広)}={(1/2)×(12/7)}/{(6/5)}≒2.1
【0059】
即ち、本実施の形態で形成した不等断面流路の場合、狭い流路で発生する圧損を、非特許文献1に記載の技術の場合の2分の1にできる。
【0060】
1ターン分で見てみると、広い流路の圧損は、非特許文献1に記載の技術の場合約5倍(1+4.2)となるのに対し、本実施の形態で形成した不等断面流路の場合約3倍(1+2.1)で済む。
【0061】
よって、作動液の蒸発(沸騰)による起動力が同じとき、作動液の流量は、本実施の形態で形成した不等断面流路の場合、非特許文献1に記載の場合の1.7倍(5.2/3.1)流れる。
【0062】
故に、本実施の形態で形成した不等断面流路の場合、メニスカス半径の違いにより、狭い流路に液栓が引き込まれ、振動流が発生すると、直ちに循環流に移行し、高い冷却性能が得られる。
【0063】
以上説明したように、第1の実施の形態に係る自励振動ヒートパイプによれば、復路を形成する流路の各々の断面積を、往路を形成する流路の各々の断面積より小さくし、流路のうちの復路の各々を、復路より多い本数の流路で形成することにより、流路で発生する圧力損失を低減することができ、作動液の流れに対し、循環流が促進され、ヒートパイプの熱輸送量や熱抵抗などの冷却性能が向上する。
【0064】
<第2の実施の形態>
次に、第2の実施の形態について説明する。なお、第1の実施の形態と同様の構成となる部分については、同一符号を付して説明を省略する。
【0065】
第2の実施の形態では、復路としての流路が、断面積の小さい3本の流路で形成されている点が、第1の実施の形態と異なっている。
【0066】
図5は、本発明の第2の実施の形態に係る自励振動ヒートパイプの構成を模式的に示している。第2の実施の形態の自励振動ヒートパイプ10では、往路としての流路2aの各々は、1本の流路で形成されているのに対し、復路としての流路2bの各々は、3本の流路で形成されている。また、復路としての流路2bの断面積が、往路としての流路2aの断面積より小さくように、流路2bの幅を小さくした。
【0067】
また、往路としての流路2aの各々を形成する1本の流路の断面積と、復路としての流路2bの各々を形成する3本の流路の断面積の合計とが対応するように、流路2a、2bを形成した。例えば、流路2aの幅と流路2bを形成する3本の流路の幅の合計との比が、例えば、1:1、1:1.5、3:1となるように、流路2a、2bを形成した。
【0068】
図6は、図5における断面線A−A’での自励振動ヒートパイプ10におけるコンテナ1の流路2a、2bの断面を示している。
【0069】
なお、第2の実施の形態に係る自励振動ヒートパイプ10の他の構成は、第1の実施の形態と同様であるため、説明を省略する。
【0070】
以上説明したように、第2の実施の形態に係る自励振動ヒートパイプ10によれば、往路を広い1本の流路で形成したのに対して、復路を、狭い3本の流路で形成したことにより、より大きな毛細管力を利用することが出来る。
【0071】
<第3の実施の形態>
次に、第3の実施の形態について説明する。なお、第1の実施の形態と同様の構成となる部分については、同一符号を付して説明を省略する。
【0072】
第3の実施の形態では、吸熱部の流路の折り返し部分において隣り合う流路の形状を左右非対称に形成している点が、第1の実施の形態と異なっている。
【0073】
図7は、本発明の第3の実施の形態に係る自励振動ヒートパイプの構成を模式的に示している。第3の実施の形態の自励振動ヒートパイプ10では、第1の実施の形態と同様に、往路としての流路2aの各々は、1本の流路で形成されているのに対し、復路としての流路2bの各々は、2本の流路で形成されている。また、復路としての流路2bの断面積が、往路としての流路2aの断面積より小さくように、流路2bの幅を小さくした。
【0074】
また、吸熱部3の流路2a、2bの折り返し部分において隣り合う流路2a、2bの形状を、吸熱部3と放熱部4とを結ぶ方向を軸として同一平面上において左右非対称に形成した。
【0075】
なお、第3の実施の形態に係る自励振動ヒートパイプ10の他の構成は、第1の実施の形態と同様であるため、説明を省略する。
【0076】
以上説明したように、第3の実施の形態に係る自励振動ヒートパイプ10によれば、流路の折り返し部分における非対称な流路形状と、不等断面形状との相乗効果により、循環流を促進する作用が極めて大きくなる。
【0077】
<第4の実施の形態>
次に、第4の実施の形態について説明する。なお、第1の実施の形態と同様の構成となる部分については、同一符号を付して説明を省略する。
【0078】
第4の実施の形態では、復路としての流路が、発熱体から熱を吸収するコンテナの面の法線方向に積層された、断面積の小さい2本の流路で形成されている点が、第1の実施の形態と異なっている。
【0079】
図8は、本発明の第4の実施の形態に係る自励振動ヒートパイプの構成を模式的に示している。また、図9は、図8における断面線A−A’での自励振動ヒートパイプ10におけるコンテナ1の流路2a、2bの断面を示している。
【0080】
第4の実施の形態の自励振動ヒートパイプ10では、往路としての流路2aの各々は、1本の流路で形成されているのに対し、復路としての流路2bの各々は、発熱体から熱を吸収するコンテナ1の面の法線方向に積層された、2本の流路で形成されている。また、復路としての流路2bの断面積が、往路としての流路2aの断面積より小さくように、流路2bの高さを小さくした。
【0081】
また、往路としての流路2aの各々を形成する1本の流路の断面積と、復路としての流路2bの各々を形成する2本の流路の断面積の合計とが対応するように、流路2a、2bを形成した。
【0082】
なお、第4の実施の形態に係る自励振動ヒートパイプ10の他の構成は、第1の実施の形態と同様であるため、説明を省略する。
【0083】
以上説明したように、第4の実施の形態に係る自励振動ヒートパイプ10によれば、往路を形成する広い流路に対して、復路を形成する狭い流路を2本配置し、かつ、狭い流路を、発熱体から熱を吸収するコンテナの面の法線方向に積層したことを特徴とする。ヒートパイプの両面(表面と裏面)を用いる際、2本配置し狭い流路がリザーバの役割を行う。即ち、表面と裏面で加熱量が異なるとき、加熱量が大きい面の狭い流路では内圧が高くなり冷却能力が高くなるのに対して、加熱量が小さい面の狭い流路では内圧が低くなり冷却能力も低くなる。これにより、表面と裏面の温度差が小さくなり、発熱体としての素子(モジュール)の温度を均一化できる。負荷が片面の素子に集中した際に有効である。
【0084】
なお、上記の第1の実施の形態〜第4の実施の形態によれば、往路を1本の広い流路で形成し、復路を2本又は3本の狭い流路で形成した場合を例に説明したが、これに限定されるものではない。往路を所定本の広い流路で形成し、復路を、所定本より多い本数の狭い流路で形成するようにしてもよい。また、往路を1本の広い流路で形成し、復路を2本〜4本の何れかの本数の狭い流路で形成することが好ましい。
【0085】
また、作動液として、水を用いる場合を例に説明したが、これに限定されるものではなく、作動液として、有機液体、又は無機液体を用いてもよい。例えば、アセトン等のケトン類、ブタン等のアルカン類、エチルアルコール等のアルコール類などの有機液体、R141b等のフロン類及び無機液体等を用いてもよい。
【0086】
また、放熱部4から吸熱部3に至る流路を往路として定義し、吸熱部3から放熱部4に至る流路を復路と定義する場合を例に説明したが、これに限定されるものではなく、放熱部4から吸熱部3に至る流路を復路として定義し、吸熱部3から放熱部4に至る流路を往路と定義してもよい。
【符号の説明】
【0087】
1 コンテナ
2、2a、2b、2c 流路
3 吸熱部
4 放熱部
10 自励振動ヒートパイプ
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9