特許第6260377号(P6260377)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6260377
(24)【登録日】2017年12月22日
(45)【発行日】2018年1月17日
(54)【発明の名称】生分解性フィルム
(51)【国際特許分類】
   C08J 9/00 20060101AFI20180104BHJP
   B29C 67/20 20060101ALI20180104BHJP
   B29K 67/00 20060101ALN20180104BHJP
   B29L 7/00 20060101ALN20180104BHJP
【FI】
   C08J9/00 ACFD
   C08J9/00ZBP
   B29C67/20 B
   B29K67:00
   B29L7:00
【請求項の数】6
【全頁数】28
(21)【出願番号】特願2014-54552(P2014-54552)
(22)【出願日】2014年3月18日
(65)【公開番号】特開2015-174979(P2015-174979A)
(43)【公開日】2015年10月5日
【審査請求日】2017年1月23日
(73)【特許権者】
【識別番号】000003159
【氏名又は名称】東レ株式会社
(72)【発明者】
【氏名】石井 猛
(72)【発明者】
【氏名】田端 久敬
(72)【発明者】
【氏名】石田 洋一
【審査官】 大村 博一
(56)【参考文献】
【文献】 特開2009−144105(JP,A)
【文献】 特開平05−247245(JP,A)
【文献】 特開2007−138148(JP,A)
【文献】 特開2007−119537(JP,A)
【文献】 特開2007−112868(JP,A)
【文献】 特開2003−082140(JP,A)
【文献】 特開2006−328225(JP,A)
【文献】 特開2012−057004(JP,A)
【文献】 国際公開第2012/023465(WO,A1)
【文献】 米国特許出願公開第2005/0112363(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08J 9/00− 9/42
B29C 67/20
C08K 3/00−13/08
C08L 1/00−101/16
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
生分解性樹脂、可塑剤、及び充填剤を含むフィルムであり、
以下の条件1〜を満たすことを特徴とするフィルム。
条件1.空隙率(W)が30%〜70%である。
ここで空隙率(W)とは、フィルムを、その長手方向と平行に切断した際の断面から測定した空隙率を意味する。
条件2.空隙率(W)が15%〜40%である。
ここで空隙率(W)とは、フィルムを、その幅方向と平行に切断した際の断面から測定した空隙率を意味する。
条件3.WとWの関係W/Wが、1.3〜3.0である。
条件4.前記可塑剤が、ポリエーテル系セグメント及びポリ乳酸セグメントを有するブロック共重合体、並びに、ポリエステル系セグメント及びポリ乳酸セグメントを有するブロック共重合体からなる群より選ばれる少なくとも1つのブロック共重合体である。
【請求項2】
フィルム表面から測定した空隙率(W)が、2%〜10%であることを特徴とする請求項1に記載のフィルム。
【請求項3】
フィルムの長手方向の引張破断伸度をX、フィルムの幅方向の引張破断伸度をYとしたとき、1.0≦X/Y≦4.0を満たすことを特徴とする請求項1または2に記載のフィルム。
【請求項4】
前記生分解性樹脂が、末端封鎖剤で処理することで得られた生分解性樹脂(以後、末端封鎖剤で処理することで得られた生分解性樹脂を、末端封鎖生分解性樹脂という)であることを特徴とする、請求項1〜3のいずれかに記載のフィルム
【請求項5】
長手方向に平行に引き裂いたときの引き裂き伝播抵抗が15.0N/mm以下である請求項1〜のいずれかに記載のフィルム。
【請求項6】
請求項1〜のいずれかに記載のフィルム及び吸水体を有する複合物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フィルムに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、環境意識の高まりのもと、プラスチック製品の廃棄による土壌汚染問題、および、焼却による二酸化炭素増大に起因する地球温暖化問題が注目されている。前者への対策として、種々の生分解樹脂、後者への対策として、焼却しても大気中に新たな二酸化炭素の負荷を与えないバイオマス(植物由来原料)からなる樹脂がさかんに研究、開発されている。その両方の目的を満足し、かつ、コスト面でも比較的有利なポリ乳酸が注目されている。しかし、ポリ乳酸を、ポリエチレンなどのポリオレフィンが代表的な素材として用いられる軟質フィルム用途に適用しようとすると柔軟性や耐衝撃性に欠けるため、これらの特性を改善し実用化するために各種の試みがなされている。
【0003】
多孔性フィルムの分野では、例えば、特許文献1には、ポリ乳酸樹脂、ポリ乳酸系樹脂以外の熱可塑性樹脂、充填剤を含むシートを延伸して得られる多孔性フィルムが開示されている。また、特許文献2には、脂肪族ポリエステル樹脂、充填剤及び可塑剤を含む樹脂組成物を、溶融成形して原反シートとし、該原反シートを少なくとも1軸延伸してなる多孔性フィルムが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】WO2012/023465A1号パンフレット
【特許文献2】特開2005−304354号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
前述の特許文献1および特許文献2に記載の技術では、一定の透湿性向上の効果はあるものの分解性(崩壊性)の面で不足していた。
【0006】
つまり、これまでに柔軟性、透湿性、耐水性に優れた生分解性フィルムの検討がなされていたが、それらに加えて、優れた崩壊性を併せ持つフィルムの発明は、未だに達成されていなかった。
【0007】
本発明は、かかる従来技術の背景に鑑み、柔軟性、透湿性、耐水性に優れ、かつ優れた崩壊性を有するフィルムを提供せんとするものである。
【0008】
なお、本発明でいう崩壊性とは、詳細は後述するが、フィルムを幅方向に引っ張った際のフィルムの長手方向における破れ方に関係する。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、上記課題を解決するために鋭意検討した結果、次によって解決することを見出し、本発明に至ったものである。
すなわち、本発明のフィルムは以下である。
【0010】
生分解性樹脂、可塑剤、及び充填剤を含むフィルムであり、
以下の条件1〜を満たすことを特徴とするフィルム。
【0011】
条件1.空隙率(W)が30%〜70%である。
ここで空隙率(W)とは、フィルムを、その長手方向と平行に切断した際の断面から測定した空隙率を意味する。
【0012】
条件2.空隙率(W)が15%〜40%である。
ここで空隙率(W)とは、フィルムを、その幅方向と平行に切断した際の断面から測定した空隙率を意味する。
【0013】
条件3.WとWの関係W/Wが、1.3〜3.0である。条件4.前記可塑剤が、ポリエーテル系セグメント及びポリ乳酸セグメントを有するブロック共重合体、並びに、ポリエステル系セグメント及びポリ乳酸セグメントを有するブロック共重合体からなる群より選ばれる少なくとも1つのブロック共重合体である。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、柔軟性、透湿性、耐水性に優れ、かつ崩壊性に優れた、フィルムが提供される。本発明のフィルムは、柔軟性、透湿性、耐水性および崩壊性を必要とする用途に好ましく用いることができる。具体的には、フィルム及び吸水体を有する複合物であり、このような複合物としては、例えば、ベッド用シーツ、枕カバー、衛生ナプキンや紙おむつ等の吸収性物品のバックシートといった医療・衛生材料;雨天用衣類、手袋等の衣料材料;ゴミ袋や堆肥袋、あるいは野菜や果物等の食品用袋、各種工業製品の袋などの包装材料、などに好ましく用いることができる。
【発明を実施するための形態】
【0015】
発明者らは、前記課題、つまり柔軟性、透湿性、耐水性および崩壊性に優れたフィルムについて鋭意検討した結果、生分解性樹脂、及び充填剤を含むフィルムの空隙率を一定の範囲内に納めることにより、かかる課題の解決に初めて成功したものである。
【0016】
本発明のフィルムは、空隙率を制御したことで、高い透湿性と崩壊性を有することを見出した発明である。
【0017】
すなわち本発明のフィルムは以下である。
【0018】
生分解性樹脂及び充填剤を含むフィルムであり、
以下の条件1〜3を満たすことを特徴とするフィルム。
【0019】
条件1.空隙率(W)が30%〜70%である。
ここで空隙率(W)とは、フィルムを、その長手方向と平行に切断した際の断面から測定した空隙率を意味する。
【0020】
条件2.空隙率(W)が15%〜40%である。
ここで空隙率(W)とは、フィルムを、その幅方向と平行に切断した際の断面から測定した空隙率を意味する。
【0021】
条件3.WとWの関係W/Wが、1.3〜3.0である。
【0022】
以下、本発明のフィルムについて説明する。
【0023】
(生分解性樹脂)
本発明のフィルムは、生分解性樹脂を含むことが重要である。生分解性樹脂は、生分解性を有する樹脂であれば特に限定されない。
【0024】
なお、本発明でいう生分解性樹脂とは、樹脂を、JIS K6953−1(2011)で試験した際に、1年以内に60%以上の生分解度を有する樹脂を意味する。
【0025】
本発明のフィルムの全成分100質量%中の生分解性樹脂の含有量は、高い生分解性を維持するという点から、15〜60質量%であることが好ましく、20〜60質量%であることがより好ましく、25〜60質量%であることがさらに好ましい。
【0026】
本発明における生分解性樹脂としては、脂肪族ポリエステル、脂肪族芳香族ポリエステル、多糖類、デンプンを含むポリマー、ポリビニルアルコールなどが使用できる。
【0027】
脂肪族ポリエステルの具体例としては、ポリ乳酸樹脂、ポリグリコール酸、ポリ(3−ヒドロキシブチレート)樹脂、ポリ(3−ヒドロキシブチレート・3−ヒドロキシヘキサノエート)樹脂、ポリ(3−ヒドロキシブチレート・3−ヒドロキシバリレート)樹脂、ポリカプロラクトン樹脂、ポリブチレンサクシネート樹脂、ポリ(ブチレンサクシネート・アジペート)樹脂などが使用できる。
【0028】
脂肪族芳香族ポリエステルの具体例としては、ポリ(エチレンサクシネート・テレフタレート)樹脂、ポリ(ブチレンサクシネート・テレフタレート)樹脂、ポリ(ブチレンアジペート・テレフタレート)樹脂などが使用できる。
【0029】
多糖類の具体例としては、酢酸セルロース樹脂などのセルロース系樹脂、キトサン樹脂などのグルコサミン系樹脂が使用できる。
【0030】
これら生分解性樹脂の中でも、バイオマス度、コスト、加工性などの観点からポリ乳酸樹脂を含むことが好ましい。ポリ乳酸樹脂とそれ以外の生分解性樹脂の質量比率は、20/80〜80/20であることが好ましく、さらに好ましくは30/70〜70/30である。以下に、ポリ乳酸樹脂について、具体的に説明する。
【0031】
ポリ乳酸樹脂とは、L−乳酸ユニットおよび/またはD−乳酸ユニットから選ばれる単量体ユニットを主たる構成成分とする重合体である。ここで主たる構成成分とは、重合体の構成単位中において乳酸ユニットの質量割合が最大であることを意味する。乳酸ユニットの質量割合は、好ましくは重合体100質量%中において、乳酸ユニットが70質量%〜100質量%である。
【0032】
ポリ乳酸樹脂としては、ポリL−乳酸、ポリD−乳酸などが好ましく用いられる。本発明でいうポリL−乳酸とは、重合体中の全乳酸ユニット100mol%中において、L−乳酸ユニットの含有割合が50mol%を超え100mol%以下のものをいう。一方、本発明でいうポリD−乳酸とは、重合体中の全乳酸ユニット100mol%中において、D−乳酸ユニットの含有割合が50mol%を超え100mol%以下のものをいう。
【0033】
ポリL−乳酸は、D−乳酸ユニットの含有割合によって、樹脂自体の結晶性が変化する。つまり、ポリL−乳酸中のD−乳酸ユニットの含有割合が多くなれば、ポリL−乳酸の結晶性は低くなり非晶に近づく。逆にポリL−乳酸中のD−乳酸ユニットの含有割合が少なくなれば、ポリL−乳酸の結晶性は高くなっていく。同様に、ポリD−乳酸は、L−乳酸ユニットの含有割合によって、樹脂自体の結晶性が変化する。つまり、ポリD−乳酸中のL−乳酸ユニットの含有割合が多くなれば、ポリD−乳酸の結晶性は低くなり非晶に近づく。逆にポリD−乳酸中のL−乳酸ユニットの含有割合が少なくなれば、ポリD−乳酸の結晶性は高くなっていく。
【0034】
ポリL−乳酸中のL−乳酸ユニットの含有割合、あるいは、ポリD−乳酸中のD−乳酸ユニットの含有割合は、組成物の機械強度を維持する観点から全乳酸ユニット100mol%中において80〜100mol%が好ましく、より好ましくは85〜100mol%である。
【0035】
本発明でいう結晶性ポリ乳酸樹脂とは、該ポリ乳酸樹脂を加熱下で十分に結晶化させた後に、適当な温度範囲で示差走査熱量計(DSC)にて測定を行った場合、ポリ乳酸成分に由来する結晶融解熱が観測されるポリ乳酸樹脂のことをいう。
【0036】
一方、本発明でいう非晶性ポリ乳酸樹脂とは、同様に測定を行った場合、明確な融点を示さないポリ乳酸樹脂のことをいう。
【0037】
後述するように生分解性樹脂として用いるポリ乳酸樹脂は、結晶性ポリ乳酸樹脂と非晶性ポリ乳酸樹脂の混合物であることが好ましい。
【0038】
本発明で用いられるポリ乳酸樹脂は、乳酸ユニット以外の他の単量体ユニットを共重合してもよい。他の単量体としては、エチレングリコール、プロピレングリコール、ブタンジオール、ヘプタンジオール、ヘキサンジオール、オクタンジオール、ノナンジオ−ル、デカンジオール、1,4−シクロヘキサンジメタノ−ル、ネオペンチルグリコール、グリセリン、ペンタエリスリトール、ビスフェノ−ルA、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコールおよびポリテトラメチレングリコールなどのグリコール化合物;シュウ酸、コハク酸、アジピン酸、セバシン酸、アゼライン酸、ドデカンジオン酸、マロン酸、グルタル酸、シクロヘキサンジカルボン酸、テレフタル酸、イソフタル酸、フタル酸、ナフタレンジカルボン酸、ビス(p−カルボキシフェニル)メタン、アントラセンジカルボン酸、4,4´−ジフェニルエーテルジカルボン酸、5−ナトリウムスルホイソフタル酸、5−テトラブチルホスホニウムイソフタル酸などのジカルボン酸;グリコール酸、ヒドロキシプロピオン酸、ヒドロキシ酪酸、ヒドロキシ吉草酸、ヒドロキシカプロン酸、ヒドロキシ安息香酸などのヒドロキシカルボン酸;カプロラクトン、バレロラクトン、プロピオラクトン、ウンデカラクトン、1,5−オキセパン−2−オンなどのラクトン類を挙げることができる。上記の他の単量体ユニットの共重合量は、重合体中の単量体ユニット全体100mol%中において、0〜30mol%であることが好ましく、0〜10mol%であることがより好ましい。なお、上記した単量体ユニットの中でも、用途に応じて生分解性を有する成分を選択することが好ましい。
【0039】
本発明で用いられるポリ乳酸樹脂の質量平均分子量は、実用的な機械特性と耐水性、生分解性を満足させるため、5万〜50万であることが好ましく、8万〜40万であることがより好ましく、10万〜30万であることがさらに好ましい。
【0040】
ポリ乳酸樹脂の製造方法としては、既知の重合方法を用いることができる。具体的には、乳酸からの直接重合法、ラクチドを介する開環重合法などを挙げることができる。
【0041】
(結晶性ポリ乳酸樹脂と非晶性ポリ乳酸樹脂の混合)
本発明の生分解性樹脂として用いるポリ乳酸樹脂は、結晶性ポリ乳酸樹脂と非晶性ポリ乳酸樹脂の混合物であることが好ましい。混合物とすることにより、結晶性、非晶性、それぞれのポリ乳酸樹脂の利点を両立できるからである。
【0042】
なお前述のように、結晶性ポリ乳酸樹脂とは、該ポリ乳酸樹脂を加熱下で十分に結晶化させた後に、適当な温度範囲で示差走査熱量計(DSC)にて測定を行った場合、ポリ乳酸成分に由来する融点が観測されるポリ乳酸樹脂のことをいう。
【0043】
一方で非晶性ポリ乳酸樹脂とは、同様の測定を行った際に、明確な融点を示さないポリ乳酸樹脂のことをいう。
【0044】
つまり、生分解性樹脂であるポリ乳酸樹脂として、結晶性ポリ乳酸樹脂を含有することにより、フィルムの耐熱性、耐ブロッキング性向上に好適である。また、フィルム中の可塑剤として後述するブロック共重合体可塑剤を用いる場合、結晶性ポリ乳酸樹脂はブロック共重合体可塑剤が有するポリ乳酸セグメントと共晶を形成することで、耐ブリードアウト性に大きな効果を発揮する。
【0045】
一方、生分解性樹脂であるポリ乳酸樹脂として、非晶性ポリ乳酸樹脂を含有することにより、フィルムの柔軟性、耐ブリードアウト性の向上に好適である。これは、可塑剤が分散できる非晶部分を提供していることが影響している。
【0046】
本発明のフィルムに用いられる結晶性ポリ乳酸樹脂は、耐熱性、耐ブロッキング性向上の観点から、ポリL−乳酸中のL−乳酸ユニットの含有割合、あるいは、ポリD−乳酸中のD−乳酸ユニットの含有割合が全乳酸ユニット100mol%中において96〜100mol%が好ましく、より好ましくは98〜100mol%である。
【0047】
本発明のフィルム中のポリ乳酸樹脂の合計を100質量%としたとき(結晶性ポリ乳酸樹脂と非晶性ポリ乳酸樹脂の合計を100質量%としたとき)、結晶性ポリ乳酸樹脂の質量割合は5〜60質量%であることが好ましく、10〜50質量%であることがより好ましく、20〜40質量%であることがさらに好ましい。
【0048】
(ポリ乳酸樹脂と併用する、ポリ乳酸樹脂以外の生分解性樹脂)
本発明のフィルムは、効果的に空隙を作りやすくし、透湿性を高めるという観点から、生分解性樹脂としてはポリ乳酸樹脂に加えてさらに別の生分解性樹脂も含むことが好ましい。
【0049】
ポリ乳酸樹脂と併用するのに好適な、ポリ乳酸樹脂以外の生分解性樹脂の具体例としては、例えば、ポリグリコール酸樹脂、ポリ(3−ヒドロキシブチレート)樹脂、ポリ(3−ヒドロキシブチレート・3−ヒドロキシバリレート)樹脂、ポリカプロラクトン樹脂、ポリエチレンサクシネート樹脂、ポリブチレンサクシネート樹脂、ポリブチレンサクシネート・アジペート樹脂などに代表される脂肪族ポリエステル樹脂、ポリエチレンサクシネート・テレフタレート樹脂、ポリブチレンサクシネート樹脂・テレフタレート樹脂、ポリブチレンアジペート・テレフタレート樹脂などに代表される脂肪族芳香族ポリエステル樹脂、熱可塑性澱粉樹脂、澱粉樹脂と脂肪族(芳香族)ポリエステルからなる樹脂、セルロースエステル樹脂などが好ましく用いられる。また、これらの樹脂は、バイオマス性を高める観点から、構成成分の一部または全部に植物由来原料を使用することが好ましい。
【0050】
なかでも、柔軟性、透湿性、耐水性かつ崩壊性の効果が大きいという点から、ポリ乳酸樹脂と併用するのに好適な、ポリ乳酸樹脂以外の生分解性樹脂としては、ポリブチレンサクシネート樹脂、ポリブチレンサクシネート・アジペート樹脂およびポリブチレンアジペート・テレフタレート樹脂からなる群より選ばれる少なくとも一つがより好ましく用いられる。そして、柔軟性、透湿性、耐水性かつ崩壊性の改良効果が最も高いことから、ポリ乳酸樹脂と併用するのに好適な、ポリ乳酸樹脂以外の生分解性樹脂は、ポリブチレンサクシネート樹脂である。
【0051】
(可塑剤)
本発明のフィルムは、可塑剤を含むことが重要である。
【0052】
可塑剤のブリードアウトを抑制し、可塑化効率を高めるため、樹脂系の可塑剤を用いることが重要であり、樹脂系の可塑剤の溶解性パラメータ:SPが、16〜23(MJ/m1/2であることがより好ましく、17〜21(MJ/m1/2であることがさらに好ましい。なお、溶解性パラメータの計算方法は、P.Small、J.Appl.Chem.,3,71(1953)に示された手法で計算できる。かかる可塑剤の中でも、フィルム全体の生分解性を維持する観点から、樹脂系の可塑剤としては、生分解性を有することが好ましい。
【0053】
また、食品包装用途への適性や、農林業用途においては、一時的にせよコンポストおよび農地への未分解物の残留の可能性を考慮すると、樹脂系の可塑剤としては、米国食品衛生局(FDA)やポリオレフィン等衛生協議会などから認可された可塑剤であることが好ましい
【0054】
可塑剤の含有量は、フィルムの全成分100質量%中、5〜30質量%であることが好ましい。可塑剤の含有量が、フィルムの全成分100質量%中で5質量%未満になると柔軟性が悪くなることがあり、30質量%を超えると製膜が不安定になることがある。可塑剤の含有量は、フィルムの全成分100質量%中、10〜25質量%であることがより好ましい。
【0055】
さらに、可塑剤の耐ブリードアウト性や、フィルムの耐熱性および耐ブロッキング性の観点から、樹脂系の可塑剤は常温(20℃±15℃)で固体状、つまり、融点が35℃を超えるものが好ましい。また、生分解性樹脂であるポリ乳酸樹脂との溶融加工温度を合わせる点で、樹脂系の可塑剤の融点は150℃以下であることが好ましい。
【0056】
同様の観点から、本発明のフィルムに用いる可塑剤としては、ポリエーテル系セグメント及びポリ乳酸セグメントを有するブロック共重合体、並びに、ポリエステルセグメント及びポリ乳酸セグメントを有するブロック共重合体からなる群より選ばれる少なくとも1つのブロック共重合体を用いることが重要である。これらのブロック共重合体における可塑化成分は、ポリエーテルセグメント、ポリエステルセグメントとなる。ここでポリエステルセグメントとは、ポリ乳酸樹脂以外のポリエステルからなるセグメントを意味する。以下、ポリエーテル系セグメントとポリ乳酸セグメントとを有するブロック共重合体、及び、ポリエステルセグメントとポリ乳酸セグメントとを有するブロック共重合体を、総称して「ブロック共重合体可塑剤」と記す。
【0057】
なお本発明においては、ブロック共重合体可塑剤が生分解性樹脂の要件を満たす場合であっても、これは可塑剤とみなす。
【0058】
ブロック共重合体可塑剤の有するポリ乳酸セグメントの質量割合は、ブロック共重合体可塑剤全体100質量%中の50質量%以下であることが、より少量の添加で所望の柔軟性を付与できるため好ましく、5質量%以上であることが、ブリードアウト抑制の点から好ましい。また、ブロック共重合体可塑剤1分子中のポリ乳酸セグメントの数平均分子量は1,200〜10,000であることが好ましい。
【0059】
また、ブロック共重合体可塑剤の可塑化成分がポリエーテルセグメントである場合は、このポリエーテルセグメントがポリエチレングリコールから構成されることが、ポリ乳酸樹脂との親和性が高いために改質効率に優れ、特に少量の可塑剤の添加で所望の柔軟性を付与できるため好ましい。
【0060】
前記ポリエーテルセグメントおよび/またはポリエステルセグメントと、ポリ乳酸セグメントの各セグメントのブロック共重合体中での順序構成に特に制限は無いが、より効果的にブリードアウトを抑制する観点から、ブロック共重合体可塑剤の少なくとも一方の端に、ポリ乳酸セグメントがあることが好ましい。ポリ乳酸セグメントがブロック共重合体可塑剤の両端にあることが最も好ましい。
【0061】
次に、ポリエーテルセグメントとして、両末端に水酸基末端を有するポリエチレングリコール(以下ポリエチレングリコールをPEGとする)を採用したブロック共重合体可塑剤について具体的に説明する。
【0062】
両末端に水酸基末端を有するPEGの数平均分子量(以下PEGの数平均分子量をMPEGとする)は、通常、市販品などの場合、中和法などにより求めた水酸基価から計算される。両末端に水酸基末端を有するPEGのw質量部に対し、ラクチドw質量部を添加した系において、PEGの両水酸基末端にラクチドを開環付加重合させ十分に反応させると、実質的にPLA−PEG−PLA型のブロック共重合体可塑剤を得ることができる(ここでPLAはポリ乳酸樹脂を示す)。この反応は、必要に応じてオクチル酸錫などの触媒併存下でおこなわれる。このブロック共重合体可塑剤の一つのポリ乳酸セグメントの数平均分子量は、(1/2)×(w/w)×MPEGと求めることができる。また、ポリ乳酸セグメント成分のブロック共重合体可塑剤全体に対する質量割合は、実質的に100×w/(w+w)%と求めることができる。さらに、ポリ乳酸セグメント成分を除いた可塑剤成分のブロック共重合体可塑剤全体に対する質量割合は、実質的に100×w/(w+w)%と求めることができる。
【0063】
なお、フィルムからブロック共重合体可塑剤を分離して、ブロック共重合体可塑剤中の各セグメントの数平均分子量の評価をする場合は、以下のようにして行うことができる。フィルムから、ブロック共重合体可塑剤を分離する方法としては、例えばクロロホルムなどの適当な良溶媒にフィルムを均一溶解した後、水や水/メタノール混合溶液など適当な貧溶媒に滴下する。ろ過などにより沈殿物を除去し、ろ液の溶媒を揮発させることによりブロック共重合体可塑剤を得る。こうして分離されたブロック共重合体可塑剤について、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)を用いて数平均分子量(以後Mとする)を測定する。また、H−NMR測定により、ポリ乳酸系セグメント、ポリエーテル系セグメントおよび/またはポリエステル系セグメントを特定する。そして、ブロック共重合体が有する一つのポリ乳酸セグメントの分子量は、M×{1/(1分子中のポリ乳酸セグメントの数)}×(IPLA×72)/[(IPE×UMPE/NPE)+(IPLA×72)]により算出される。ここで、IPLAは、PLA主鎖部のメチン基の水素に由来するH−NMR測定でのシグナル積分強度、IPEはポリエーテルセグメントおよび/またはポリエステルセグメントに由来するH−NMR測定でのシグナル積分強度をしめす。また、UMPEは、ポリエーテルセグメントおよび/またはポリエステルセグメントのモノマー単位の分子量、NPEはポリエーテルセグメントおよび/またはポリエステルセグメントのうち、IPEに相当するH−NMR測定でのシグナルを与える化学的に等価なプロトンの数である。また、ポリエーテルセグメントおよび/またはポリエステルセグメントの数平均分子量は、M−(ポリ乳酸セグメントの数平均分子量)×(1分子中のポリ乳酸セグメントの数)で計算できる。
【0064】
本発明のフィルムに含有されるブロック共重合体可塑剤は、フィルムの全成分100質量%中、5〜30質量%であることが好ましい。フィルムの全成分100質量%中、ブロック共重合体可塑剤の含有量が5質量%未満になると、十分なフィルムの柔軟性が得られなくなることがあり、30質量%を超えると、可塑剤の耐ブリードアウト性が高くなることがある。ブロック共重合体可塑剤の含有量は、より好ましくは、フィルムの全成分100質量%中5〜25質量%であり、さらに好ましくは10〜25質量%である。
【0065】
(充填剤)
本発明のフィルムは、柔軟性、透湿性、耐水性、崩壊性を向上させるために、充填剤を含むことが重要である。ここで充填剤とは、諸性質を改善するために基材として加えられる物質、あるいは増量、増容、製品のコスト低減などを目的として添加する不活性物質をいう。このような充填剤としては、無機充填剤および/または有機充填剤が使用できる。
【0066】
また、本発明のフィルムの全成分100質量%中の充填剤の含有量は、25〜60質量%であることが好ましく、更に好ましくは25〜50質量%であり、30〜50質量%であることがより好ましい。含有量が25質量%未満の場合、透湿性が向上しないことがある。また、含有量が60質量%を超える場合、フィルムの引張強度および引張伸度が低下することがあり、またフィルムを製造する際の溶融加工性、延伸性などが低下することがある。特に、充填剤が60質量%を越えると、充填剤の分散性が悪くなり溶融成形性が低下することがある。
【0067】
無機充填剤の例としては、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、炭酸バリウム等の炭酸塩;硫酸マグネシウム、硫酸バリウム、硫酸カルシウム等の硫酸塩;酸化亜鉛、酸化ケイ素(シリカ)、酸化ジルコニウム、酸化マグネシウム、酸化カルシウム、酸化チタン、酸化マグネシウム、酸化鉄、アルミナなどの金属酸化物;水酸化アルミニウム等の水酸化物;珪酸塩鉱物、ヒドロキシアパタイト、マイカ、タルク、カオリン、クレー、モンモリロナイト、ゼオライト等の複合酸化物;リン酸リチウム、リン酸カルシウム、リン酸マグネシウム等のリン酸塩;塩化リチウム、フッ化リチウム等の金属塩などを使用することができる。
【0068】
有機充填剤の例としては、シュウ酸カルシウム等のシュウ酸塩;テレフタル酸カルシウム、テレフタル酸バリウム、テレフタル酸亜鉛、テレフタル酸マンガン、テレフタル酸マグネシウム等のテレフタル酸塩;ジビニルベンゼン、スチレン、アクリル酸、メタクリル酸等のビニル系モノマーの単独または共重合体からなる微粒子;ポリテトラフルオロエチレン、ベンゾグアナミン樹脂、熱硬化エポキシ樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、熱硬化性尿素樹脂、熱硬化性フェノール樹脂などの有機微粒子;木粉、パルプ粉等のセルロース系粉末;籾殻、木材チップ、おから、古紙粉砕材、衣料粉砕材等のチップ状のもの;綿繊維、麻繊維、竹繊維、木材繊維、ケナフ繊維、ジュート繊維、バナナ繊維、ココナツ繊維等の植物繊維;絹、羊毛、アンゴラ、カシミヤ、ラクダ等の動物繊維;ポリエステル繊維、ナイロン繊維、アクリル繊維等の合成繊維などを使用することができる。
【0069】
これらの充填剤のなかでも、フィルムの透湿性向上や強度、伸度といった機械特性の維持、および低コスト化の観点から、炭酸カルシウム、炭酸バリウム、硫酸バリウム、硫酸カルシウム、酸化ケイ素(シリカ)、酸化チタン、マイカ、タルク、カオリン、クレー、モンモリロナイトが好ましい。
【0070】
充填剤の平均粒径は、特に限定されないが、0.01〜10μmが好ましい。平均粒径が0.01μm以上であることで、充填剤をフィルム中に高充填することが可能となり、その結果、フィルムの多孔化および透湿性向上のポテンシャルが高いフィルムとなる。平均粒径が10μm以下であることで、フィルムの延伸性が良好となり、その結果、フィルムの多孔化および透湿性向上のポテンシャルが高いフィルムとなる。平均粒径は、より好ましくは0.1〜8μm、さらに好ましくは0.5〜5μm、最も好ましくは1〜3μmである。なお、ここでいう平均粒径とは、レーザー回折散乱式の方法で測定される累積分布50%平均粒子径とする。
【0071】
充填剤は、必要に応じて、表面処理することができる。充填剤に表面処理を行うための表面処理剤としては、リン酸エステル系化合物、脂肪酸、界面活性剤、油脂、ワックス、カルボン酸系カップリング剤、シランカップリング剤、チタネートカップリング剤、高分子系表面処理剤などを使用することができる。表面処理することにより、マトリックス樹脂との親和性が向上し、充填剤の凝集抑制および分散性向上に効果があり、樹脂組成物中に均一に分散させることができるようになる。その結果、良好な透湿度を発現するための延伸などの加工性に優れたフィルムを得ることが可能となる。
【0072】
リン酸エステル系化合物としては、リン酸エステル、亜リン酸エステル、ピロリン酸エステルなどを使用することができる。リン酸エステル系化合物は、1分子内にリン原子を2個以上有していてもよい。また、不飽和結合を分子内に有するリン酸エステル系化合物が好ましい場合があり、その不飽和結合が末端の二重結合であることが好ましい場合がある。
【0073】
脂肪酸としては、ステアリン酸などの飽和脂肪酸、オレイン酸、リノール酸などの不飽和脂肪酸などを使用することができる。
【0074】
界面活性剤としては、ステアリン酸石鹸、スルホン酸石鹸などのアニオン系界面活性剤、ポリエチレングリコール誘導体などの非イオン系界面活性剤などを使用することができる。
【0075】
油脂としては、大豆油、アマニ油などを使用することができる。
【0076】
ワックスとしては、カルナウバワックス、長鎖エステルワックス、ポリエチレンワックス、ポリプロピレンワックス、およびそれらの酸化物、酸変性物などを使用することができる。
【0077】
カルボン酸系カップリング剤としては、カルボキシル化ポリブタジエン、カルボキシル化ポリイソプレンなどを使用することができる。
【0078】
シランカップリング剤としては、ビニルトリメトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、γ−メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、γ−アミノプロピルトリメトキシシラン、N−β(アミノエチル)γ−アミノプロピルトリメトキシシラン、N−フェニル−γ−アミノプロピルトリメトキシシラン、γ−メルカプトプロピルトリメトキシシランなどを使用することができる。
【0079】
チタネートカップリング剤としては、有機官能基として、アルキル基+アミノ基型、亜リン酸エステル型、ピロリン酸エステル型、カルボン酸型のものなどを使用することができる。
【0080】
高分子系表面処理剤としては、無水マレイン酸変性ポリオレフィンなどのランダムあるいはグラフト共重合体、無水マレイン酸変性のスチレン−エチレン−ブタジエン−スチレン共重合体、プロピレン−アクリレートなどのブロック共重合体、疎水基−親水基共重合体などを使用することができる。
【0081】
これらの中でも、充填剤を表面処理するために用いられる表面処理剤としては、リン酸エステル系化合物、脂肪酸、高分子系表面処理剤、界面活性剤、シランカップリング剤、およびチタネートカップリング剤から選ばれる少なくとも1つの化合物が好ましい。そしてリン酸エステル系化合物および脂肪酸から選ばれる化合物がより好ましい。
【0082】
また、充填剤の樹脂組成物中での分散性を向上させるため、さらに分散剤を添加することが好ましい。
【0083】

(空隙率)
本発明のフイルムは、特定の空隙率を有することが重要である。空隙の形成方法は特に限定されないが、例えば生分解性樹脂及び充填剤を溶融混錬して押し出して得たフィルムに対して延伸することで、生分解性樹脂を含む樹脂成分と充填剤との界面で空洞を形成することができ、この空洞を空隙という。
【0084】
そして本発明のフィルムは、空隙率について以下の条件1〜3を満たすことが重要である。
【0085】
条件1.空隙率(W)が30%〜70%である。
ここで空隙率(W)とは、フィルムを、その長手方向と平行に切断した際の断面から測定した空隙率を意味する。
【0086】
条件2.空隙率(W)が15%〜40%である。
ここで空隙率(W)とは、フィルムを、その幅方向と平行に切断した際の断面から測定した空隙率を意味する。
【0087】
条件3.WとWの関係W/Wが、1.3〜3.0である。
【0088】
ここで空隙率とは、生分解樹脂、充填剤を含むフィルム中の空隙(空洞)の割合を意味する。発明者らは、フィルムを上記のような空隙率に制御することで、フィルムに対して柔軟性、透湿性、耐熱性および崩壊性を付与せしめることが可能であることを見出した。
【0089】
本発明の空隙率は、生分解性樹脂の種類、量、充填剤の種類、量ならびにフィルムの延伸条件を制御することで空隙率を達成することができる。
【0090】
条件1に関し、本発明のフィルムは、空隙率(W)が30%〜70%である。空隙率(W)が30%未満であると、透湿性が不足し、空隙率(W)が70%を越えると、フィルムの耐水性が不足する。空隙率(W)は、より好ましくは35%〜65%、さらに好ましくは40%〜60%、特に好ましくは40%〜50%である。
【0091】
条件2に関し、本発明のフィルムは、空隙率(W)が15%〜40%である。空隙率(W)が15%未満であると、透湿性が不足し、空隙率(W)が40%を越えると、フィルムの耐水性が不足する。空隙率(W)はより好ましくは15%〜35%、さらに好ましくは20%〜35%、特に好ましくは20%〜30%である。
【0092】
条件3に関し、本発明のフィルムは、空隙率WとWの関係W/Wが、1.3〜3.0である。W/Wが1.3未満であると、崩壊性が不足し、W/Wが3.0を超えるとフィルムの加工性、貼りあわせ時、搬送時に破れやすくなる。W/Wは、より好ましくは1.5〜2.8、さらに好ましくは1.7〜2.5、特に好ましくは、2.0〜2.5である。
【0093】
上記条件1、2、3を満たすためには、この発明の組成物の配合量と製膜時の延伸条件が重要である。
【0094】
例えば、後述する製造方法の中で長手方向の好ましい延伸倍率は、2〜5.5倍であり、幅方向に延伸する場合は、1.0〜1.5倍以下であることが好ましい。延伸温度については、低温で延伸したほうが、空隙率(W)(W)ともに、大きくなる傾向であるが、延伸時のフィルム温度は60〜100℃であることが好ましく、より好ましくは60〜90℃である。また条件1、2、3を全て満たすためには、例えば、生分解性樹脂がポリ乳酸とそれ以外の生分解性樹脂から成る場合の質量比率は、20/80〜80/20であることが好ましい。
【0095】
空隙率を制御する際の傾向として、フィルム中の充填剤の含有量を増やすと空隙率は大きくなりやすく、充填剤の含有量を減らすと空隙率は小さくなりやすく、条件1、2、3を全て満たすためには、フィルムの全成分100質量%中の充填剤の含有量は25〜60質量%であることが好ましい。
【0096】

本発明のフィルムは、フィルム表面から測定した空隙率(W)が、2%〜10%であることが好ましい。空隙率(W)が2%未満であると、透湿性が不足することがあり、空隙率(W)が10%を越えると、フィルムの耐水性が不足することがある。空隙率(W)は、より好ましくは3%〜8%、さらに好ましくは4%〜7%、特に好ましくは4%〜6%である。
【0097】
空隙率(W)を2%〜10%にするための達成手段は特に限定されないが、例えば、後述する製造方法の中で長手方向の好ましい延伸倍率は、2.5〜5.5倍であり、幅方向に延伸する場合は、1.0〜1.3倍以下であることが好ましい。延伸温度については、低温で延伸したほうが、空隙率(W)が大きくなる傾向が見られ、空隙率(W)を2%〜10%とする観点からは延伸時のフィルム温度が60〜100℃であることが好ましく、より好ましくは60〜90℃である。また空隙率(W)を2%〜10%にするために、例えば、生分解性樹脂がポリ乳酸とそれ以外の生分解性樹脂とを含む場合に、ポリ乳酸とそれ以外の生分解性樹脂の質量比率が20/80〜80/20であることが好ましい。さらに、フィルムの全成分100質量%中の充填剤の含有量は25〜60質量%であることが好ましい。
【0098】

(引張破断伸度)
本発明のフィルムは、フィルムの長手方向の引張破断伸度をX、フィルムの幅方向(長手方向に垂直な方向)の引張破断伸度をYとした時、1.0≦X/Y≦4.0であることが好ましい。X/Yが1.0以上であると崩壊性が良好となり、X/Yが4.0以下であると、製膜時のロール間走行時や巻取り時のタルミやシワが生じにくく、ロール巻き姿が良好になり、加工性が良好となる。X/Yは、1.5〜3.5がより好ましく、2.0〜3.0がさらに好ましい。
【0099】
X/Yを1.0〜4.0とするための方法としては、特に限定されないが、例えば、後述する製造方法の中で長手方向の好ましい延伸倍率は、2.5〜5.5倍であり、幅方向に延伸する場合は、1.0〜1.3倍以下であることが好ましい。本発明のフィルムのX/Yを、1.0≦X/Y≦4.0とするためには、長手方向の延伸倍率と幅方向の延伸倍率の差が1.5倍以上であることが好ましい。延伸温度については、フィルム温度が60〜100℃であることが好ましく、より好ましくは60〜90℃である。また、例えば、生分解性樹脂がポリ乳酸とそれ以外の生分解性樹脂とを含む場合、ポリ乳酸とそれ以外の生分解性樹脂の質量比率が20/80〜80/20であることが好ましい。さらに、フィルムの全成分100質量%中の充填剤の含有量は30〜60質量%であることが好ましい。
【0100】
(末端封鎖剤)
本発明のフィルムが含む生分解性樹脂は、末端封鎖剤で処理することによって得られた生分解性樹脂(以後、末端封鎖剤で処理することで得られた生分解性樹脂を、末端封鎖生分解性樹脂という)であることが好ましい。特に各種工業製品の包装用途など生分解性を必要としない場合や保管耐久性があった方が好ましい用途においては、ポリ乳酸系樹脂などの生分解性樹脂の加水分解による強度低下を抑制し、良好な耐久性を付与する観点から、本発明のフィルムが含む生分解性樹脂として、末端封鎖生分解性樹脂を用いることが好ましい。末端封鎖生分解性樹脂の製造方法としては、生分解性樹脂と末端封鎖剤を溶融混錬する方法を挙げることができる。
【0101】
末端封鎖剤による処理がされていない生分解性樹脂を未処理生分解性樹脂とすると、末端封鎖生分解性樹脂を得るさいには、未処理生分解性樹脂100質量部に対して末端封鎖剤を0.1〜3.0質量部反応させることが好ましい。
【0102】
末端封鎖剤としては、例えば、脂肪族アルコールやアミド化合物等の縮合反応型化合物やカルボジイミド化合物、エポキシ化合物、オキサゾリン化合物等の付加反応型化合物が挙げられる。反応時に余分な副生成物が発生しにくい点で付加反応型化合物が好ましく、中でも反応効率の点からカルボジイミド化合物またはエポキシ化合物が好ましい。
【0103】

(引き裂き伝播抵抗)
本発明のフィルムは、JIS K7128−2(1998)で定められたエレメンドルフ引き裂き法による、フィルムの長手方向に平行に引き裂いたときの引き裂き伝播抵抗が15.0N/mm以下であることが好ましい。フィルムの長手方向に平行に引き裂いたときの引き裂き伝播抵抗が15.0N/mmを超えると崩壊性が悪くなることがある。また、下限については、特に限定されていないが、実用上1.0N/mm以上である。1.0N/mm未満になると、フィルムの巻き出し時に、破れが発生することがある。フィルムの長手方向に平行に引き裂いたときの引き裂き伝播抵抗がより好ましくは13.0N/mm以下、さらに好ましくは10.0N/mm以下である。
【0104】
フィルムの長手方向に平行に引き裂いたときの引き裂き伝播抵抗を15.0N/mm以下にするための方法としては、特に限定されないが、引張破断伸度を1.0≦X/Y≦4.0と制御するための方法と同様に、例えば、後述する製造方法の中で長手方向の好ましい延伸倍率は、2.5〜5.5倍であり、幅方向に延伸する場合は、1.0〜1.3倍以下であることが好ましい。引き裂き伝播抵抗を15.0N/mm以下にするため長手方向の延伸倍率と幅方向の延伸倍率の差が、長手方向の延伸倍率の方が大きく、かつ長手方向の延伸倍率と幅方向の延伸倍率の差が1.5倍以上であることが好ましい。延伸温度については、フィルム温度が65〜100℃であることが好ましく、より好ましくは65〜90℃である。また、例えば、生分解性樹脂がポリ乳酸とそれ以外の生分解性樹脂とを含む場合、ポリ乳酸とそれ以外の生分解性樹脂の質量比率が20/80〜80/20であることが好ましい。さらに、フィルムの全成分100質量%中の充填剤の含有量は30〜60質量%であることが好ましい。
【0105】
(結晶核剤)
本発明のフィルムは、フィルムの耐熱性を向上させるために、結晶核剤を含んでもよい。
【0106】
有機系結晶核剤としては、脂肪族アミド化合物、メラミン系化合物、フェニルホスホン酸金属塩、ベンゼンカルボアミド誘導体、脂肪族/芳香族カルボン酸ヒドラジド、ソルビトール系化合物、アミノ酸、ポリペプチド等を好ましく使用することができる。
【0107】
無機系結晶核剤としては、カーボンブラック等を好ましく使用することができる。
【0108】
結晶核剤の含有量は、フィルムの全成分100質量%に対して、0.1〜10質量%が好ましく、0.5〜5質量%がより好ましい。
【0109】
(厚み)
本発明のフィルムは、厚みが5〜200μmであることが好ましい。厚みを5μm以上とすることで、フィルムとした際のコシが強くなり、取り扱い性に優れ、また、ロール巻姿や巻出し性が良好となる。厚みを200μm以下とすることで柔軟性および透湿性に優れるものとなり、また、特にインフレーション製膜法においては、自重によりバブルが安定化する。本発明のフィルムの厚みは、7〜150μmがより好ましく、10〜100μmがさらに好ましく、12〜50μmがさらにより好ましい。
【0110】
(有機滑剤)
本発明のフィルムは、フィルム全体100質量%中において有機滑剤を0.1〜5質量%含むことが好ましい。この場合、巻き取り後のフィルムのブロッキングを良好に抑制できる。さらに、後述するように、本発明のフィルムを製造する際に、組成物を一旦ペレット化して乾燥し、再度溶融混練して押出・製膜する場合、ペレット間でのブロッキングを防ぐことができ、取り扱い性の点で好ましい。
【0111】
有機滑剤としては、例えば、流動パラフィン、天然パラフィン、合成パラフィン、ポリエチレンなどの脂肪族炭化水素;ステアリン酸、ラウリル酸、ヒドロキシステアリン酸、硬性ひまし油などの脂肪酸;ステアリン酸アミド、オレイン酸アミド、エルカ酸アミド、ラウリン酸アミド、エチレンビスステアリン酸アミド、エチレンビスオレイン酸アミド、エチレンビスラウリン酸アミドなどの脂肪酸アミド;ステアリン酸アルミ、ステアリン酸鉛、ステアリン酸カルシウム、ステアリン酸マグネシウムなどの脂肪酸金属塩;グリセリン脂肪酸エステル、ルビタン脂肪酸エステルなどの多価アルコールの脂肪酸(部分)エステル;ステアリン酸ブチルエステル、モンタンワックスなどの長鎖エステルワックスなどの長鎖脂肪酸エステルなどが挙げられる。中でも、ポリ乳酸との適度な相溶性から少量で効果の得られやすい脂肪酸アミド系の有機滑剤が好ましい。さらにその中でも、より良好な耐ブロッキング性を発現する観点で、ステアリン酸アミド、エチレンビスステアリン酸アミド、エチレンビスオレイン酸アミド、エチレンビスラウリン酸アミドなどの比較的高融点である有機滑剤が好ましい。
【0112】
(添加剤)
本発明のフィルムは、本発明の効果を損なわない範囲で前述した以外の添加剤を含有してもよい。例えば、酸化防止剤、紫外線安定化剤、着色防止剤、艶消し剤、抗菌剤、消臭剤、難燃剤、耐候剤、帯電防止剤、抗酸化剤、イオン交換剤、粘着性付与剤、消泡剤、着色顔料、染料などが使用できる。
【0113】
酸化防止剤としてはヒンダードフェノール系酸化防止剤、ヒンダードアミン系酸化防止剤などが例示される。
【0114】
消臭剤としては、金属イオンをゼオライトの骨格構造内に含有しているゼオライト系消臭剤などが使用でき、具体的には、シナネンゼオミック社製“ゼオミック” (登録商標)シリーズなどが使用できる。
【0115】
(製造方法)
次に、本発明のフィルムを製造する方法について具体的に説明するがこれに限定されるものではない。
【0116】
本発明のフィルムを構成する組成物、つまり、生分解性樹脂、充填剤及び必要に応じてその他の成分を含有する組成物を得るにあたっては、各成分を溶媒に溶かした溶液を均一混合した後、溶媒を除去して組成物を製造することも可能であるが、溶媒へ原料の溶解、溶媒除去等の工程が不要で、実用的な製造方法である、各成分を溶融混練することにより組成物を製造する溶融混練法が、溶媒への原料の溶解、溶媒除去等の工程が不要であるので好ましい。溶融混練方法については、特に制限はなく、ニーダー、ロールミル、バンバリーミキサー、単軸または二軸押出機等の公知の混合機を用いることができる。中でも生産性の観点から、単軸または二軸押出機の使用が好ましい。
【0117】
溶融混練時の温度は150℃〜240℃の範囲が好ましく、生分解性樹脂の劣化を防ぐ意味から、170℃〜210℃の範囲がより好ましい。
【0118】
本発明のフィルムは、例えば上記した方法により得られた組成物を用いて、公知のインフレーション法、チューブラー法、Tダイキャスト法などの既存のフィルムの製造法により得ることができる。
【0119】
本発明のフィルムを製造するにあたっては、例えば前述した方法により得られた生分解性樹脂を含有する組成物を一旦ペレット化し、再度溶融混練して押出・製膜する際には、ペレットを60〜100℃にて3時間以上乾燥するなどして、水分量を500ppm(質量基準)以下とすることが好ましい。さらに、真空度10Torr以下の高真空下で真空乾燥または除湿乾燥をすることで、該組成物中のラクチド含有量を低減させることが好ましい。該組成物の水分量を500ppm(質量基準)以下、ラクチド含有量を低減することで、溶融混練中の生分解性樹脂の加水分解を防ぎ、それにより分子量低下を防ぐことができ、得られる組成物の溶融粘度を適度なレベルとし、製膜工程を安定させることができるため好ましい。また、同様の観点から、組成物を一旦ペレット化、あるいは溶融押出・製膜する際には、ベント孔付きの2軸押出機を使用し、水分や低分子量物などの揮発物を除去しながら溶融押出することが好ましい。
【0120】
本発明のフィルムをインフレーション法により製造する場合は、例えば次のような方法が用いられる。前述のような方法により製造した組成物をベント孔付き2軸押出機にて溶融押出して環状ダイスに導き、環状ダイスから押出して内部には乾燥エアーを供給して風船状(バブル)に形成する。さらにエアーリングにより均一に空冷固化させ、ニップロールでフラットに折りたたみながら所定の引き取り速度で引き取った後、必要に応じて両端、または片方の端を切り開いて巻き取ることで、目的とするフィルムを得ることができる。
【0121】
また、製膜安定性を発現させるためには環状ダイスの温度が重要であり、環状ダイスの温度は好ましくは150〜190℃、より好ましくは155〜185℃の範囲である。環状ダイスは、得られるフィルムの厚み精度および均一性の点から、スパイラル型を用いるのが良い。
【0122】
本発明のフィルムはインフレーション法により製造して、得られたフィルムを縦一軸延伸し、その際の延伸温度および延伸倍率を前述の好ましい範囲に調整すること、インフレーション製膜時のブロー比とドロー比を好ましい範囲に調整することが重要である。ここでブロー比とは、バブルの最終半径Rと環状ダイスの半径Rの比R/Rである。ブロー比の好ましい範囲は1.5〜5.0であり、より好ましくは1.5〜4.5であり、さらに好ましくは、1.5〜4.0である。ドロー比とは、成形フィルムの巻き取り速度Vと、ダイリップから溶融した樹脂が吐出される速度Vの比V/Vである。ドロー比の好ましい範囲は2〜100であり、より好ましくは5〜80であり、さらに好ましくは10〜60であり、特に好ましくは20〜40である。
【0123】
本発明のフィルムをTダイキャスト法により製造する場合は、例えば次のような方法が用いられる。前述のような方法により製造した組成物をベント孔付き2軸押出機にて溶融押出して、リップ間隔0.3〜3mmのスリット状の口金から吐出し、0〜40℃の表面温度に設定した金属製冷却キャスティングドラム上に密着させ、無配向キャストフィルムを得る。得られたフィルムを縦一軸延伸し、その際の延伸温度および延伸倍率を前述の好ましい範囲に調整することが重要である。
【0124】
本発明のフィルムは、前述のインフレーション法やTダイキャスト法で得られたフィルムを延伸する方が好ましいが、延伸は縦(長手方向)、或いは横(幅方向)のみの一軸延伸でも構わないし、縦、横の2軸延伸でも構わない。また、必要に応じて、再縦延伸および/または再横延伸を行ってもよい。
【0125】
また、本発明においては、縦延伸したフィルムをいったん冷却した後、フィルムの両端部をクリップで把持してテンターに導き、横延伸を行ってもよい。その際の延伸倍率は、特に限定されないが、1.5倍以下が好ましい。延伸温度の好ましい範囲は、フィルム温度が60〜100℃であり、より好ましくは60〜90℃である。
【0126】
フィルムに成形した後に、印刷性、ラミネート適性、コーティング適性などを向上させる目的で各種の表面処理を施しても良い。表面処理の方法としては、コロナ放電処理、プラズマ処理、火炎処理、酸処理などが挙げられる。いずれの方法をも用いることができるが、連続処理が可能であり、既存の製膜設備への装置設置が容易な点や処理の簡便さからコロナ放電処理が最も好ましいものとして例示できる。
【0127】
(透湿度)
本発明のフィルムは、透湿度が1000g/(m・day)以上であることが好ましい。本発明でいう透湿度の測定方法は、実施例の「透湿度」の項に記載した通りである。上記のように従来の技術では生分解性樹脂を含むフィルムに高い透湿性を持たせることは難しかった。しかし、本発明においては、条件1〜条件3を満たした生分解性樹脂を含むフィルムとすることで、透湿度が1000g/(m・day)以上とすることができる。透湿度がこのような高い値であることで、透湿性を必要とする用途に好ましく用いることが可能となる。
【0128】
透湿度は、1200g/(m・day)以上であることが好ましく、1300g/(m・day)以上であることがより好ましく、1500g/(m・day)以上であることが特に好ましい。
【0129】

(複合物)
本発明のフィルムは、さらに吸水体とともに用いることができ複合物として用いることができる。つまり本発明の複合物は吸水体と本発明のフィルムを有し、本発明の複合物は、例えば衛生材料、医療用材料、衣料用材料等の吸収性物品の構成材料として用いることができる。
【0130】
ここで吸水体とは、不織布、スポンジ、紙、吸水性樹脂等の吸水性材料である。
【0131】
本発明の複合物を、吸水性物品の構成材料として、例えば着用物として用いる場合、着装内の温度上昇を防止することができ、着用者の肌のかぶれを効果的に防止することができる。
【0132】
吸水性物品は一般的に液保持性の吸水体を備えており、本発明のフィルムはその吸水体と貼り合せてなる複合物として好ましく用いることができる。
【実施例】
【0133】
以下に実施例を示して本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はこれにより何ら制限を受けるものではない。なお、実施例20、21は順に参考例1、2とする。
[測定および評価方法]
実施例中に示す測定や評価は次に示すような条件で行った。
【0134】
(1)空隙率(%)
フィルムをその長手方向と平行に切断した断面((W)測定面)と、フィルムをその幅方向と平行に切断した断面((W)測定面)をそれぞれに走査型電子顕微鏡(S−3400 日立制作製 )(以下、SEM)で観察した。
【0135】
フィルムを切断し、観察用の薄切片試料得るには、包理されたフィルムサンプルをウルトラミクロトームの試料ホルダーに固定し、スチール刃を用いて粗切削を行った後、薄切片切り出しは、ガラスナイフあるいは人工サファイヤで面出しをして、ウルトラミクロトームのダイヤモンドナイフで0.1μm〜1.0μm厚みで切片を切り出した。この仕上がり切片を、SEMで断面観察し、2000倍に拡大した断面写真を得た。
【0136】
そして、フィルムの表面((W)測定面)をSEMで表面観察し、2000倍に拡大した表面写真を得た。
【0137】
得られた断面写真、表面写真を画像解析ソフトImageJ(1.47V)(アメリカ国立衛星研究所)を利用して空隙率を求めた。
【0138】
具体的には、画像ソフト「ImageJ(1.47V)」を用いて以下の手順で行った。SEM画像(2000倍)を画像デジタルファイル(JPEG形式)として呼び出し、画像ソフト「ImageJ(1.47V)」を用いて8ビット画像にし、空隙部分とその他の部分の二値化処理を行った。二値化処理における閾値は自動設定を使用した。次にスケール設定(Distance in pixels=100、Known distance=5、Pixel aspect ratio=1.0、Unit of legth=unit)を行った後、計測条件「Analyze Particles」として「Circularity=0.00−1.00」により、空隙部分の面積を求めた。SEM画像全体の面積における空隙部分の面積の割合を空隙率とした。
【0139】
(2)引張破断伸度(%)
オリエンテック社製TENSILON(登録商標) UCT−100を用いて、室温23℃、相対湿度65%の雰囲気にて、引張破断伸度を測定した。具体的には、測定方向に長さ150mm、幅10mmの短冊状にサンプルを切り出し、初期引張チャック間距離50mm、引張速度200mm/分で、JIS K−7127(1999)に規定された方法にしたがって、長手方向、幅方向それぞれについて5回の測定を行い、その平均値を引張破断伸度とした。
【0140】
(3)引き裂き伝播抵抗(N/mm)
温度23℃、湿度65%RHの雰囲気下において、JIS K7128−2(1998)に従って、エレメンドルフ引き裂き法による引き裂き伝播抵抗の測定を以下のように行った。(株)オリエンテック製テンシロンUCT−100を用い、試験速度200mm/minで、測定は計5回行い、その平均値(小数点第1位を四捨五入)を採用した。これを長手方向について算出した。
【0141】
(4)透湿度
25℃、90%RHに設定した恒温恒湿装置にて、JIS Z0208(1976)に規定された方法に従って透湿度(g/(m・day))を測定した。
その透湿度の値を用いて、以下の基準にて評価した。
a:1500g/(m・day)以上
b:1000g/(m・day)以上1500g/(m・day)未満
c:100g/(m・day)以上1000g/(m・day)未満
d:100g/(m・day)未満。
【0142】
(5)崩壊性
崩壊性は、フィルムを幅方向に引っ張って、フィルムの長手方向の破れ方について評価した。評価は10人でそれぞれフィルムを幅方向に引っ張って破れ方を評価した。
【0143】
フィルムの破れ方評価
a=10人中8人以上が破れ易い評価
b=10人中3〜7人が破れ易いと評価
c=10人中2人以下が破れ易いと評価
(6)耐水性
JIS L1092(2009)、A法(低水圧法)に規定された方法に準拠し、フィルムとクランプの間に、パッキンで挟んだ金網を置いた状態で、耐水圧(mm)を測定した。なお、測定値の上限は1500mmであったため、1500mmを超える場合は「1500<」と表記した。
【0144】
その耐水圧の値を用いて、以下の基準にて評価した。
a:1000mm以上
b:750mm以上1000mm未満
c:400mm以上750mm未満
d:400mm未満
(7)質量平均分子量、数平均分子量
ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)により測定した標準ポリメチルメタクリレート換算の値である。GPCの測定は、検出器にWATERS社示差屈折計WATERS410を用い、ポンプにWATERS社MODEL510高速液体クロマトグラフィーを用い、カラムにShodexGPC HFIP−806MとShodexGPC HFIP−LGを直列に接続したものを用いて行った。測定条件は、流速0.5mL/minとし、溶媒にヘキサフルオロイソプロパノールを用い、試料濃度1mg/mLの溶液を0.1mL注入した。
【0145】
(8)印刷性:インキ密着性
紫外線硬化型インキ(T&K TOKA社製 UV STP 藍)を用い、ロールコート法でフィルム表面に約2μmの厚みにインキ層を塗布した。その後、照射強度80W/cmの紫外線を照射距離9cmで8秒間照射し硬化させ、試料を作製した。
【0146】
フィルムとインキとの密着性をJIS−K5600(1999年制定)に記載のクロスカット法によるテープ剥離により評価した。まず、試料片にカッターナイフを用いて直交する縦横7本ずつの平行線を1mm間隔で引き、碁盤目状に36個のマス目を作製した。これらのマス目の上に粘着テープ(ニチバン社製「セロテープ(登録商標)」24mm幅)を貼り付け、均一に密着させた後、粘着テープを瞬時に引き剥がし、試験片のインキ層の剥離状態を観察し、剥がれずに残ったマス目の割合から、以下の基準で評価した。
a:90%以上
b:90%未満。
(9)生分解性評価
JISK6953−1(2011)に準拠し、樹脂ならびにフィルムについて、生分解度を二酸化炭素の発生量により測定し以下の基準で評価し、評価aの場合を生分解性を有すると判断した。
a:1年以内に60%以上の生分解度
b:1年以内に60%未満の生分解度
樹脂(A1)、(A2)、(B1)、(B2)、(B3)は全て評価aであった。
【0147】
以下に、実施例で使用した材料について説明する。
【0148】
[生分解性樹脂(A)]
(A1)ポリ乳酸樹脂、(NatureWorks製、商品名“IngeoTMbiopolymer4060D)非晶性ポリL−乳酸樹脂、質量平均分子量=200,000、D体含有量=12.0mol%、融点=無し
(A2)ポリ乳酸樹脂、(NatureWorks製、商品名“IngeoTMbiopolymer4032D)結晶性ポリL−乳酸樹脂、質量平均分子量=200,000、D体含有量=1.4mol%、融点=166℃
上記の融点は、ポリ乳酸樹脂を100℃の熱風オーブン中で24時間加熱させた後に、セイコーインスツル社製示差走査熱量計RDC220を用い、試料5mgをアルミニウム製受皿にセットし、25℃から昇温速度20℃/分で250℃まで昇温した際の結晶融解ピークのピーク温度として求めた。
【0149】
[生分解性樹脂(B)]
(B1)
ポリブチレンサクシネート樹脂(三菱化学社製、商品名“GSPla” (登録商標)FZ91PN)
(B2)
ポリブチレンアジペート・テレフタレート樹脂(BASF社製、商品名“エコフレックス”FBX7011)
(B3)
ポリブチレンサクシネート・アジペート系樹脂(昭和高分子社製、商品名“ビオノーレ” (登録商標)#3001)
[可塑剤(P)]
(P1)
数平均分子量8,000のポリエチレングリコール62質量部とL−ラクチド38質量部とオクチル酸スズ0.05質量部を混合し、撹拌装置付きの反応容器中で、窒素雰囲気下160℃で3時間重合することで、数平均分子量8,000のポリエチレングリコールの両末端に数平均分子量2,500のポリL−乳酸セグメントを有するブロック共重合体可塑剤P1を得た。
【0150】
(P2)
数平均分子量10,000のポリエチレングリコール62質量部とL−ラクチド38質量部とオクチル酸スズ0.025質量部を混合し、窒素雰囲気下150℃で3時間重合することで、ポリエチレングリコールの両末端に数平均分子量2,400のポリ乳酸セグメントを有するブロック共重合体可塑剤P2を得た。水分量を測定すると、1380ppm(質量基準)であった。
【0151】
(P3)
数平均分子量6,000のポリエチレングリコール62質量部とL−ラクチド38質量部とオクチル酸スズ0.025質量部を混合し、窒素雰囲気下150℃で3時間重合することで、ポリエチレングリコールの両末端に数平均分子量2,300のポリ乳酸セグメントを有するブロック共重合体可塑剤P3を得た。水分量を測定すると、1500ppm(質量基準)であった。
【0152】
(P4)
数平均分子量8,000のポリエチレングリコール。水分量を測定すると、1700ppm(質量基準)であった。
【0153】
(P5)
アセチルクエン酸トリブチル(ファイザー社製、商品名“シトロフレックスA−4”)。
【0154】
[充填剤(C)]
(C1)
炭酸カルシウム(三共製粉社製、商品名“TOR−2018”、平均粒子径:2.0μm
(C2)
炭酸カルシウム(丸尾カルシウム社製、商品名“カルテックスR”、平均粒子径:2.8μm
(C3)
タルク(日本タルク社製、商品名“SG−95”、平均粒子径:2.5μm)
[末端封鎖剤(DA1)]
ジアリルカルボジイミド(ラインケミー社製、商品名“スタバックゾールIパウダー”)
[滑剤(DB1)]
有機滑剤 ステアリン酸アミド(日本油脂社製、商品名“アルフローS−10”)
[フィルムの作成]
(実施例1)インフレーション法製膜
生分解性樹脂(A1)13質量%、生分解性樹脂(A2)5質量%、生分解性樹脂(B1)23質量%、可塑剤(P1)17質量%、充填剤(C1)40質量%、末端封鎖剤(DA1)1質量%、有機滑剤(DB1)1質量%の混合物をシリンダー温度190℃のスクリュー径44mmの真空ベント付き2軸押出機に供し、真空ベント部を脱気しながら溶融混練し、均質化した後にペレット化して組成物を得た。この組成物のペレットを、回転式ドラム型除湿真空乾燥機を用いて、温度70℃で3時間除湿真空乾燥した。
【0155】
乾燥されたペレットを押出機シリンダー温度190℃のスクリュー径65mmの一単軸押出機に供給し、直径250mm、リップクリアランス1.0mm、温度160℃のスパイラル型環状ダイスにより、ブロー比2.0にてバブル状に上向きに押出し、冷却リングにより空冷し、ダイス上方のニップロールで折りたたみながら引き取り切断して2枚重ね吐出量と引き取り速度の調整により、最終厚み2枚重ねで120μmのフィルムを得た。この無配向フィルムをロール式延伸機にて長手方向に、フィルム温度70℃で3倍延伸した。続いて定長下、加熱ロール上で、フィルム温度90℃で1秒間熱処理後、冷却ロール上で冷却し、2枚重ねで厚さ40μmのフィルムを得た。得られた2枚重ねのフイルムを1枚ごとに別々にそれぞれ巻き取り厚さ20μmのフィルムを得た。得られたフィルムの物性を表に示した。
【0156】
(比較例8)
生分解性樹脂(A1)5質量%、生分解性樹脂(A2)2質量%、生分解性樹脂(B1)11質量%、可塑剤(P1)10質量%、充填剤(C1)70質量%、末端封鎖剤(DA1)1質量%、有機滑剤(DB1)1質量%の混合物をシリンダー温度190℃のスクリュー径44mmの真空ベント付き2軸押出機に供し、真空ベント部を脱気しながら溶融混練したが、充填剤の凝集のため、充填剤の分散性が悪くペレット化できなかった。
【0157】
実施例2〜8、実施例18〜27、比較例1〜3、比較例5〜7は、フィルムの原料、製膜条件を表のとおり変更した以外は、実施例1と同様にして、最終厚みがフィルム2枚重ねで40μmのフィルムを得た。得られた2枚重ねのフイルムを1枚ごとに別々にそれぞれ巻き取り厚さ20μmのフィルムを得た。得られたフィルムの物性を表に示した。
【0158】
(実施例9)Tダイ法製膜
生分解性樹脂(A1)11質量%、生分解性樹脂(A2)4質量%、生分解性
樹脂(B1)19質量%、可塑剤(P1)14質量%、充填剤(C1)50質量%、末端封鎖剤(DA1)1質量%、有機滑剤(DB1)1質量%の混合物をシリンダー温度190℃のスクリュー径44mmの真空ベント付き2軸押出機に供し、真空ベント部を脱気しながら溶融混練し、均質化した後にペレット化して組成物を得た。この組成物のペレットを、回転式ドラム型除湿真空乾燥機を用いて、温度70℃で3時間除湿真空乾燥した。
【0159】
乾燥されたペレットを押出機シリンダー温度190℃のスクリュー径65mmの一単軸押出機に供給し、Tダイ口金温度190℃でフィルム状に押し出し、20℃に冷却したドラム上にキャストして無配向フィルムを作製した。この無配向フィルムをロール式延伸機にて長手方向に、フィルム温度70℃で3倍延伸した。続いて定長下、加熱ロール上でフィルム温度90℃で1秒間熱処理後、冷却ロール上で冷却し、厚さ20μmのフィルムを得た。得られたフィルムの物性を表に示す。
【0160】
実施例10〜13、実施例15〜17、比較例9〜12は、フィルムの原料、製膜条件を表のとおり変更した以外は、実施例9と同様にして、最終厚みが20μmのフィルムを得た。得られたフィルムの物性を表に示した。
【0161】
(実施例14)
Tダイ法、2軸延伸
生分解性樹脂(A1)13質量%、生分解性樹脂(A2)5質量%、生分解性
樹脂(B1)23質量%、可塑剤(P1)17質量%、充填剤(C1)40質量%、末端封鎖剤(DA1)1質量%、有機滑剤(DB1)1質量%の混合物をシリンダー温度190℃のスクリュー径44mmの真空ベント付き2軸押出機に供し、真空ベント部を脱気しながら溶融混練し、均質化した後にペレット化して組成物を得た。この組成物のペレットを、回転式ドラム型除湿真空乾燥機を用いて、温度70℃で3時間除湿真空乾燥した。
【0162】
乾燥されたペレットを押出機シリンダー温度190℃のスクリュー径65mmの一単軸押出機に供給し、Tダイ口金温度190℃でフィルム状に押し出し、20℃に冷却したドラム上にキャストして無配向フィルムを作製した。この無配向フィルムをロール式延伸機にて長手方向に、フィルム温度70℃で3倍延伸した。この一軸は配向フィルムをいったん冷却ロール上で冷却した後、両端をクリップで把持してテンター内に導き、幅方向に温度70℃で1.4倍延伸した。続いて定長下、温度120℃で10秒間熱処理後、幅方向に5%弛緩処理を施し、Tダイ法製膜で厚さ20μmのフィルムを得た。インフレーション法製膜は、得られた2枚重ねのフィルムを1枚ごとに別々にそれぞれ巻き取り厚さ20μmのフィルムを得た。得られたフィルムの物性を表示す。
【0163】
比較例13は、フィルムの原料、製膜条件を表のとおり変更した以外は、実施例14と同様にして、最終厚みが20μmのフィルムを得た。得られたフィルムの物性を表に示した。
【0164】
(比較例4)
実施例1と同様の方法で厚さ20μmの無配向フィルムを得た。延伸工程は実施しなかった。得られたフィルムの物性を表に示した。
【0165】
【表1】
【0166】
【表2】
【0167】
【表3】
【0168】
【表4】
【0169】
【表5】
【産業上の利用可能性】
【0170】
本発明のフィルムは、柔軟性、透湿性、耐水性に優れ、かつ崩壊性に優れたフィルムである。本発明の多孔性フィルムは、ベッド用シーツ、枕カバー、衛生ナプキンや紙おむつ等の吸収性物品のバックシートといった医療・衛生材料;雨天用衣類、手袋等の衣料材料;ゴミ袋や堆肥袋、あるいは野菜や果物等の食品用袋、各種工業製品の袋などの包装材料、などに使用できる。