(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6260379
(24)【登録日】2017年12月22日
(45)【発行日】2018年1月17日
(54)【発明の名称】ガス吹付式液体注入装置及びそれに用いられる注入容器
(51)【国際特許分類】
G01N 30/80 20060101AFI20180104BHJP
G01N 30/84 20060101ALI20180104BHJP
【FI】
G01N30/80 C
G01N30/84 J
【請求項の数】4
【全頁数】14
(21)【出願番号】特願2014-55588(P2014-55588)
(22)【出願日】2014年3月18日
(65)【公開番号】特開2015-178969(P2015-178969A)
(43)【公開日】2015年10月8日
【審査請求日】2017年1月11日
(73)【特許権者】
【識別番号】000001993
【氏名又は名称】株式会社島津製作所
(74)【代理人】
【識別番号】110001069
【氏名又は名称】特許業務法人京都国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】山崎 智之
【審査官】
大瀧 真理
(56)【参考文献】
【文献】
特開2014−041062(JP,A)
【文献】
国際公開第2010/113241(WO,A1)
【文献】
特開平08−201364(JP,A)
【文献】
特開2013−238468(JP,A)
【文献】
特開2012−173059(JP,A)
【文献】
特表2002−542017(JP,A)
【文献】
国際公開第2009/044428(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 30/80
G01N 30/84
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
霧化ガスが供給される外管と該外管の下端よりも下に突出し目的成分を含む液体が供給される内管とを有する多重管を備えたガス吹付式液体試料注入装置において用いられる、前記多重管からの液体が霧化して供給される注入容器であって、上部に開口を有する注入容器本体と、前記開口に設けられた注入ポートとを有し、
前記注入ポートが、
a)該注入ポートの上面に設けられた凹部と、
b)前記凹部の底面に開口する入口端と、前記注入容器本体の内部空間に至る出口端とを有する液体用通路と、
c)前記凹部に嵌め込まれるガイド部材と、
d)前記ガイド部材の内部に形成され、前記内管が刺入される入口端と、前記液体用通路の入口端に対向する出口端とを有する管路と、
e)前記ガイド部材と前記凹部の底面との間に配置され、前記内管が前記管路を経て前記液体用通路に挿入された際に、その内周にて前記内管の外周と接触するOリングと、
を有し、
前記管路の出口端の周縁において前記ガイド部材が前記管路の軸方向に突出していることを特徴とする注入容器。
【請求項2】
前記ガイド部材が、前記凹部の内径よりも小さな外径を有するものであり、
前記凹部が、前記管路に前記内管が挿入された際に、該凹部の内周面にて前記外管の下端の外周面と気密に接触するものであって、
前記注入ポートが、更に
f)前記凹部の内周と前記ガイド部材の外周の間に開口する入口端と、前記注入容器の内部空間に至る出口端とを有する霧化ガス用通路と、
g)前記霧化ガス用通路の出口端から前記液体用通路の出口端の下方に向かって延びる霧化ガス吹き出し管と、
を有することを特徴とする請求項1に記載の注入容器。
【請求項3】
霧化ガスが供給される外管と該外管の下端よりも下に突出し目的成分を含む液体が供給される内管とを有し、注入容器内に前記液体を霧化して供給するための多重管と、前記注入容器の入口に設けられた注入ポートとを有するガス吹付式液体注入装置であって、
前記注入ポートが、
a)該注入ポートの上面に設けられた凹部と、
b)前記凹部の底面に開口する入口端と、前記注入容器の内部空間に至る出口端とを有する液体用通路と、
c)前記凹部に嵌め込まれるガイド部材と、
d)前記ガイド部材の内部に形成され、前記内管が刺入される入口端と、前記液体用通路の入口端に対向する出口端とを有する管路と、
e)前記ガイド部材と前記凹部の底面との間に配置され、前記内管が前記管路を経て前記液体用通路に挿入された際に、その内周にて前記内管の外周と接触するOリングと、
を有し、
前記管路の出口端の周縁において前記ガイド部材が前記管路の軸方向に突出していることを特徴とするガス吹付式液体注入装置。
【請求項4】
前記ガイド部材が、前記凹部の内径よりも小さな外径を有するものであり、
前記凹部が、前記管路に前記内管が挿入された際に、該凹部の内周面にて前記外管の下端の外周面と気密に接触するものであって、
前記注入ポートが、更に
f)前記凹部の内周と前記ガイド部材の外周の間に開口する入口端と、前記注入容器の内部空間に至る出口端とを有する霧化ガス用通路と、
g)前記霧化ガス用通路の出口端から前記液体用通路の出口端の下方に向かって延びる霧化ガス吹き出し管と、
を有することを特徴とする請求項3に記載のガス吹付式液体注入装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、目的成分を含む液体を注入容器に注入しつつ該液体にガスを吹き付けることにより該液体を霧化し、溶媒の蒸発を促進させるガス吹付式液体注入装置及び、それに用いられる注入容器に関する。この注入容器及びガス吹付式液体試料注入装置は、例えば、液体クロマトグラフを利用して溶液に含まれる1乃至複数の成分を分離した後に各成分を精製して回収する分取精製装置に好適に用いることができる。
【背景技術】
【0002】
例えば製薬分野などにおいては、化学合成により得られた各種の化合物をライブラリとして保管したり或いは詳細に分析したりするためのサンプルを収集することを目的として、液体クロマトグラフを利用した分取精製装置が使用されている。こうした分取精製装置として、特許文献1、特許文献2などに記載の装置が知られている。
【0003】
これらの装置では、試料溶液中の目的成分(化合物)を液体クロマトグラフにより時間的に分離し、分離された各目的成分を互いに異なるトラップカラムに導入して一旦捕集する。その後に各トラップカラムに溶媒を流して該カラム内に捕集していた成分を溶出させ、目的成分を高い濃度で含有する溶液を容器に回収する。その後、分取した各溶液について溶媒を除去し、目的成分を固形物として回収する蒸発・乾固処理を行う。
【0004】
蒸発・乾固処理は、回収した溶液を加熱したり、真空遠心分離したりするなどといった方法により行われるのが一般的である。しかしながら、こうした方法では、それだけで数時間から1日程度の時間が必要になる。製薬分野では、多くの合成化合物から薬効のある化合物を探索するために、分析機器の高速化や分析手法の最適化などにより分析時間を短縮する等、様々な効率化が図られているが、蒸発・乾固工程が全工程の中で最も時間が掛かるものであるため、この時間を短縮することが重要である。
【0005】
上記の課題を解決するため、特許文献3〜5では、回収容器に目的成分を含む溶液を滴下しつつ空気や窒素等のガスを吹き付け、該溶液を霧状にすることにより、加熱時の溶媒の蒸発を促進させる方法を示している。
【0006】
特許文献3〜5の方法による蒸発・乾固工程(以下、これを「ガス吹付式蒸発・乾固工程」と呼ぶ)の一般的な手順を、
図5を用いて説明する。分取精製装置には、
図5に示すような、内管50Aと、該内管50Aの外周を覆う外管50Bと、の2重管構造から成るニードル50が備わっている。なお、内管50Aの下端は、外管の下端から突出した状態となっている。更に、ニードル50の下には、温調ブロック54に収容された回収容器53が配置されている。回収容器53は、回収容器本体51と該回収容器本体51の上部開口に装着されるキャップ52を有する。キャップ52の中心には孔が設けられており、該キャップ52の上部にはドーナツ状のクッション52Aが載置されている。なお、ニードル50外周の上部には回収容器53に導入されたガス及び該回収容器53内で蒸発した試料を装置の外部に漏出させないようにして排気するための排気ダクト55を備えている。
【0007】
ガス吹付式蒸発・乾固工程では、ニードル50が下降してクッション52A及びキャップ52の中心の孔を通過し、回収容器53内に挿入される。このニードル50の下降と共に排気ダクト55が下降し、その先端がクッション52Aに密着する。これにより、回収容器53と排気ダクト55の間が気密にシールされる。その後、内管50Aと外管50Bを通して、溶液とガスとがそれぞれ回収容器53内に導入される。
【0008】
回収容器53内に挿入されたニードル50の先端では、内管50Aを通過した溶液が滴下すると共に、その外周に設けられた外管50Bからガスが吹き出される。この外管50Bからのガス流によって内管50Aから滴下された溶液が剪断され、微小液滴(ミスト)となって回収容器53の内壁に付着する。回収容器53は該容器を囲う温調ブロック54によって予め加熱されており、内壁に付着した微小液滴の溶媒が蒸発して、溶質のみが粉末として残ることになる。
【0009】
このように、ガスの吹き付けを行いつつ目的成分を含む溶液を回収容器に滴下することにより、溶媒の蒸発を促進し、蒸発・乾固工程に要する時間を短縮することができる。しかしながら、上記のような二重管構造から成るニードルを用いてガス吹付式蒸発・乾固工程を行う場合、内管から滴下される溶液が外管からのガス流により過度に剪断されてしまい、回収容器の内壁に粉末として残る目的成分の粒子が細かくなりすぎる場合があった。こうした微細な粒子状の粉末が回収容器の内壁に薄く付着すると、粉末を壁面から剥がし、回収容器から取り出すことが容易でなくなる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開2003−149217号公報
【特許文献2】国際公開WO2009/044425号
【特許文献3】国際公開WO2009/044426号
【特許文献4】国際公開WO2009/044427号
【特許文献5】国際公開WO2009/044428号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
そこで、本願発明者は、目的成分を含む溶液(液体試料)を適切な粒径に霧化することのできるガス吹付式液体注入装置として、
図6のような装置を提案している。
【0012】
この装置は、内管60Aと、該内管60Aの外周を覆う外管60Bと、更にその外周を覆う排気管60Cから成る多重管60を備えている。この多重管60では、排気管60Cの下端から外管60Bの下端部が突出しており、更にそこから内管60Aの下端部が突出している。また、この装置で使用される注入容器61は、蓋部63の中央に注入ポート64を備えており、該注入ポート64は上方に開口した凹部64Aと、液体用通路64B及び霧化ガス用通路64Cを有している。液体用通路64B及び霧化ガス用通路64Cはいずれも一端が前記凹部64Aの内部空間と連通しており、他端が注入ポート64の下面に開口している。前記凹部64Aの中央には内管60Aを注入ポート64の内部に導くためのガイド部材65が取り付けられており、多重管60を注入容器61に向けて下降させると、前記内管60Aの下端がガイド部材65上部に形成されたテーパー部66Aとその下の直管部66Bから成る管路66を経て注入ポート64内の液体用通路64Bに挿入される。更にこのとき外管60Bの下端は前記凹部64Aの内周面とガイド部材65の外周面との間に挿入され、外管60Bの外周面と凹部64Aの内周面とが気密に接する。また、排気管60Cの下端は前記ガイド部材65の周囲に配設されたクッション63Aに気密に接する。この状態で、目的成分を含む溶液が内管60Aに供給されると、その下端から流れ出た溶液が液体用通路64B及びその下端に接続された袖口部67を経て注入容器本体62の内部に滴下される。また、外管60Bから供給された霧化ガスは、まず注入ポート64の凹部64Aに入り、そこから霧化ガス用通路64Cに流入した後、該流路64Cの下端に設けられた霧化ガス吹き出し管68から噴出する。霧化ガス吹き出し管68の先端は袖口部67の出口部の下方に向けられているため、霧化ガス吹き出し管68から噴出した霧化ガスは、袖口部67より滴下された溶液に斜めから当たることとなる。
【0013】
上述の
図5のような構造では、ニードル50から出た溶液及び霧化ガスが同軸上に流れるため、溶液が霧化ガス流に晒される距離が長く、ミストの径が小さくなる。これに対し、
図6のような構造では、注入容器61内に滴下された溶液に斜めから霧化ガスが当たるため、溶液が霧化ガス流に晒される距離が短く、ミストの径が大きくなる。このミストの大きさは、霧化ガス吹き出し管68の先端の位置や向き(より具体的には、霧化ガス吹き出し管68の先端から液体試料までの距離)によって決まるため、霧化ガス吹き出し管68の先端の位置や向きを適宜変えることにより、目的成分を含む溶液を適切な粒径で霧化させることが可能となる。なお、注入容器61に導入された霧化ガスは蓋部63及びクッション63Aの内周と注入ポート64の外周との間隙を経て排気管60Cに流入することにより注入容器61の外に排出される。
【0014】
更に、
図6に示した注入容器61では、ガイド部材65と注入ポート64の凹部64Aの底面との間に樹脂製のOリング69が配置されている。このOリング69は、注入ポート64に内管60Aが挿入された際に該内管60Aの外周に密着する。これにより、外管60Bから供給された霧化ガスが管路66の内周と内管60Aの外周との間を通過して液体用通路64Bに進入するのを防止する効果が得られる。
【0015】
しかし、こうした装置では、
図7に示すように、管路66の出口の高さとOリング69の上端の高さが等しくなるため、管路66に内管60Aが傾斜した状態で挿入された場合、内管60Aの先端がOリング69の上端に近い位置で該Oリング69に接触する場合があった。この場合、接触箇所におけるOリング69の接線と内管60Aの軸方向とが成す角(図中のβ)が大きくなる(すなわち該接線と軸方向とが垂直に近くなる)ため、内管60Aの先端がOリング69に引っかかったりOリング69の表面を傷つけたりするおそれがあった。
【0016】
本発明は、上記のような点に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、上述のような多重管と注入ポートを有し、該注入ポートの入口に液体供給用の内管を案内するためのガイド部材を備え、該ガイド部材に穿設された管路と該管路の下流に位置する通路との間に内管の外周に密着するOリングが配設されたガス吹付式液体注入装置において、該Oリングと内管の先端との接触によって前記内管の挿入動作が妨げられたり、Oリングが傷ついたりするのを防止することにある。
【課題を解決するための手段】
【0017】
上記課題を解決するために成された本発明に係る注入容器は、
霧化ガスが供給される外管と該外管の下端よりも下に突出し目的成分を含む液体が供給される内管とを有する多重管を備えたガス吹付式液体試料注入装置において用いられる、前記多重管からの液体が霧化して供給される注入容器であって、上部に開口を有する注入容器本体と、前記開口に設けられた注入ポートとを有し、
前記注入ポートが、
a)該注入ポートの上面に設けられた凹部と、
b)前記凹部の底面に開口する入口端と、前記注入容器本体の内部空間に至る出口端とを有する液体用通路と、
c)前記凹部に嵌め込まれるガイド部材と、
d)前記ガイド部材の内部に形成され、前記内管が刺入される入口端と、前記液体用通路の入口端に対向する出口端とを有する管路と、
e)前記ガイド部材と前記凹部の底面との間に配置され、前記内管が前記管路を経て前記液体用通路に挿入された際に、その内周にて前記内管の外周と接触するOリングと、
を有し、
前記管路の出口端の周縁において前記ガイド部材が前記管路の軸方向に突出していることを特徴としている。
【0018】
また、上記課題を解決するために成された本発明に係るガス吹付式液体注入装置は、
霧化ガスが供給される外管と該外管の下端よりも下に突出し目的成分を含む液体が供給される内管とを有し、注入容器内に前記液体を霧化して供給するための多重管と、前記注入容器の入口に設けられた注入ポートとを有するガス吹付式液体注入装置であって、
前記注入ポートが、
a)該注入ポートの上面に設けられた凹部と、
b)前記凹部の底面に開口する入口端と、前記注入容器の内部空間に至る出口端とを有する液体用通路と、
c)前記凹部に嵌め込まれるガイド部材と、
d)前記ガイド部材の内部に形成され、前記内管が刺入される入口端と、前記液体用通路の入口端に対向する出口端とを有する管路と、
e)前記ガイド部材と前記凹部の底面との間に配置され、前記内管が前記管路を経て前記液体用通路に挿入された際に、その内周にて前記内管の外周と接触するOリングと、
を有し、
前記管路の出口端の周縁において前記ガイド部材が前記管路の軸方向に突出していることを特徴としている。
【発明の効果】
【0019】
上記の通り、本発明に係る注入容器及びガス吹付式液体注入装置では、内管が通過する管路の出口端の周縁が、該管路の軸方向に突出している。このため、この突出部によって前記管路が下方に延長され、内管を注入ポートに刺入する際に内管の先端が従来よりも低い位置(すなわち液体用通路に近い位置)でOリングに接触することとなる。その結果、この接触部におけるOリングの接線と内管の軸方向とが成す角を従来よりも小さくすることができる(すなわち該軸方向とOリングの接線を平行に近づけることができる)ため、内管の先端がOリングに引っかかったりOリングの表面を傷つけたりするのを防ぐことができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【
図1】本発明の一実施例に係るガス吹付式液体注入装置を用いた分取精製装置の要部構成図。
【
図2】同実施例のガス吹付式液体注入装置における注入容器の構成を示す概略縦断面図であり、(a)は注入容器内に多重管を挿入する前の状態を示し、(b)は多重管を挿入した後の状態を示す。
【
図3】同実施例のガス吹付式液体注入装置における注入容器の各部の寸法の一例を示す図。
【
図4】前記注入容器への多重管の挿入時におけるOリング周辺の拡大図。
【
図5】従来のガス吹付式液体注入装置に使用する注入容器の構成の一例を示す概略縦断面図であり、(a)は多重管を挿入する前の注入容器の全体図、(b)は多重管を挿入した後の注入容器の全体図、(c)は前記多重管の構成を示す図、(d)は注入容器の蓋部の構成を示す図である。
【
図6】従来のガス吹付式液体注入装置に使用する注入容器の構成の別の例を示す概略縦断面図であり、(a)は注入容器内に試料導入管を挿入する前の状態を示し、(b)は試料導入管を挿入した後の状態を示す。
【
図7】
図6の注入容器への多重管の挿入時におけるOリング周辺の拡大図。
【発明を実施するための形態】
【0021】
本発明に係るガス吹付式液体注入装置及び注入容器の一実施例を、図面を参照して説明する。
図1は本実施例のガス吹付式液体注入装置及び注入容器が適用される分取精製装置の要部構成図である。この分取精製装置では、後述のように、目的成分を含む溶液を分取液体クロマトグラフ(図示せず)が予め分取しておく構成としているが、分取液体クロマトグラフを分取精製装置と直結し、分取液体クロマトグラフが分取した溶液を分取精製装置に直接導入する構成に変更することもできる。
【0022】
図1において、溶液容器1には予め分取された、分取液体クロマトグラフに使用された移動相を主たる溶媒とする、目的成分を含む溶液が収容されている。純水容器2には純水(H
2O)が、溶出用溶媒容器3にはジクロロメタン(DCM)が、それぞれ収容されている。切替バルブ4はこれら3つの容器1、2、3に収容されている液体のいずれかを選択的に流路5に流すように流路を切り替える。また、流路5上には所定の流量で以て液体を吸引して送出する送液ポンプ6が設けられている。
【0023】
流路5の出口端は切替バルブ7のaポートに接続されている。この切替バルブ7のbポートには、目的成分を捕集するための吸着剤が充填されたトラップカラム8に至る流路10が、cポートには後述する霧化ガス用の流路22に至る流路11が、それぞれ接続されている。切替バルブ7は流路5に対して流路10又は流路11を択一的に接続する。
【0024】
トラップカラム8は、カラムラック9により、流路10が接続される入口端を真下に、後述する流路12が接続される出口端を上向きにして略垂直に起立保持される。
図1ではトラップカラム8を1本のみ示しているが、
図1中に点線で示すように複数のトラップカラム8を並べてカラムラック9に保持することも可能である。
【0025】
一端がトラップカラム8の出口端に接続された流路12の他端は分取ヘッド16に内蔵された切替バルブ15のaポートに接続され、該切替バルブ15のbポートには流路14が接続され、cポートには廃液口に至る流路13が接続されている。切替バルブ15は流路12に対し、流路13又は流路14を択一的に接続する。
【0026】
分取ヘッド16は内管17Aと、その外側に一体に設けられた外管17Bと、更にその外側に一体に設けられた排気用シール管17Cとを有して成る多重管17を備え、複数のモータなどで構成されるXYZ駆動機構29により上下移動及び水平移動が可能となっている。内管17Aは流路14に接続されており、外管17Bは流路22に接続されている(なお、
図1の多重管17及び注入容器21は略図であり、具体的な構成は
図2〜
図4に示している)。後述するように、内管17Aには、流路14を通して目的成分を含む溶液(試料)が送出され、外管17Bには、流路22を通して霧化ガスが送出される。また、内管17Aの下端部は、外管17Bの下端より下に突出している。
【0027】
溶液が注入される注入容器21は、ヒータ25と、サーミスタなどの温度センサ26とを備えた、容器ラック24の温調ブロック27内に個別に収容されている。容器ラック24及び温調ブロック27は例えばアルミニウムなどの熱伝導性の良好な材料から形成され、熱が周囲に逃げることを防止するために外側が断熱材(図示せず)で被覆されている。
【0028】
各注入容器21は温調ブロック27からの熱が伝導し易いように、少なくともその底部が温調ブロック27に接している。より好ましい形態として、注入容器21の側周面も温調ブロック27に接する構成とするとよい。容器ラック24とは別に設けられた温調部28は、温度センサ26により検出されるモニタ温度が目標温度となるようにヒータ25へ供給する加熱電流を調整する。これにより、注入容器21は適宜の一定温度に加温維持される。
【0029】
注入容器21は、注入容器本体19と、その上部開口に装着された蓋部20を備える。
図2〜
図4に示すように、蓋部20の上面中央には上述の内管17A及び外管17Bが挿入される注入ポート32が設けられている。注入ポート32の上面中央には、外管17Bの外径とほぼ同一の内径を有する凹部32Aが形成されており、該凹部32Aの中央には、該凹部32Aの内径よりも小さな外径を有するガイド部材33が取り付けられる。ガイド部材33の中央には内管17Aが刺入される管路34が設けられており、その入口側は内管17Aの先端を案内するためのテーパー部34Aとなっており、その出口側は内管17Aの外径よりも僅かに大きい内径を有する直管部34Bとなっている。更に、注入ポート32の内部には液体用通路32Bと霧化ガス用通路32Cの二本の通路が形成されており、これらの通路32Bと32Cの出口端はいずれも注入ポート32の底面に開口している。液体用通路32Bの入口端は前記ガイド部材33の管路34の出口端と対向する位置に開口しており、液体用通路32Bの出口端には袖口部36が取り付けられている。一方、霧化ガス用通路32Cの入口端は前記凹部32Aの内周とガイド部材33の外周との間に開口しており、霧化ガス用通路32Cの出口端には霧化ガス吹き出し管37が前記袖口部36の出口端よりも下方且つ該袖口部36の中心線を向くように取り付けられている。
【0030】
凹部32Aの底面とガイド部材33の底面との間には、前記内管17Aの外径と略同一の内径を有する弾性樹脂製のOリング35が管路34及び液体用通路32Bと同軸に配置されている。ガイド部材33の底面では、前記管路34の出口端の周縁が該管路34の軸方向、すなわち下方に突出しており、この突出部33Aが本発明において特徴的な役割を果たす(詳細は後述する)。なお、突出部33Aの内径は前記管路の内径と略同一とし、突出部33Aの外径はOリング35の外径と内径の差の1/2に内径を足した値よりも小さくする(すなわち突出部33AがOリング35の上端を繋いで成る円の内側に位置するようにする)ことが望ましい。各部の寸法の一例を
図3に示す。
【0031】
蓋部20の上面には、排気用シール管17Cとの密着性を高めるためのドーナツ状のクッション20Aが設けられており、更に該クッション20Aの内周と注入ポート32の外周の間には、注入容器21内に導入された霧化ガス及び注入容器21内で蒸発した溶媒を排出するための排気口38が設けられている。
【0032】
ガス供給部23は、比例弁23Aやガスボンベ23B等を有し、流路22を通して多重管17の外管17Bに霧化ガスを送出する。
【0033】
CPU等を含む制御部30は予め設定されたプログラムに従って、切替バルブ4、7、15の切替動作、送液ポンプ6とガス供給部23の動作(流量又は流速)、温調部28の目標温度の設定、XYZ駆動機構29を介した分取ヘッド16の移動などの制御を実行することで、分取精製作業を自動的に遂行する。また、操作部31はその分取精製作業のための条件などを入力設定するためのものである。
【0034】
続いて、
図1の分取精製装置によってガス吹付式蒸発・乾固工程を行う際の手順について説明する。まず溶液容器1中の溶液に含まれる目的成分をトラップカラム8内の吸着剤に捕集し、該溶液中の溶媒(移動相)を廃棄するために、制御部30は、切替バルブ4により溶液容器1(bポート)と流路5(aポート)を、切替バルブ7により流路5(aポート)と流路10(bポート)を、切替バルブ15により流路12(aポート)と流路13(cポート)をそれぞれ接続し、所定の一定流量で送液を行うように送液ポンプ6を動作させる。
送液ポンプ6は溶液容器1中の溶液を吸引して、流路5と流路12を通してトラップカラム8に導入する。すると、トラップカラム8中の吸着剤に溶液中の目的成分が捕集される。目的成分が除去された溶液(移動相)は流路12と流路13を経て廃液口に廃棄される。
【0035】
溶液容器1中の溶液を所定時間又は所定量、トラップカラム8に供給すると、次に制御部30は、純水容器2(cポート)と流路5(aポート)とを接続するように切替バルブ4を切り替える。すると、送液ポンプ6は純水容器2中の純水を吸引してトラップカラム8に導入する。これにより、先の目的成分の捕集時に吸着剤に付着した塩類などの、不所望で水溶性の物質がトラップカラム8内から除去される。この純水の送給により、その送給開始直前にトラップカラム8内に溜まっていた移動相は水に置換され、水がトラップカラム8内に充満した状態となる。吸着剤に捕集されている目的成分は強い吸着作用により水には殆ど溶出しないため、この時点ではトラップカラム8内に捕集された状態が維持される。
【0036】
次に、制御部30はXYZ駆動機構29により分取ヘッド16を予め指定された所定の注入容器21の注入ポート32の上方まで移動させ、分取ヘッド16を下降させる。分取ヘッド16が下降すると、それに伴って多重管17も下降し、まず内管17Aの下端がガイド部材33の上面に開口した管路34のテーパー部34Aに到達する。分取ヘッド16が更に下降すると、内管17Aの先端がテーパー部34Aを経て管路34の直管部34Bに到達し、更に管路34の出口端から下方に突出してOリング35の内周と接触する。
【0037】
このとき、
図6及び
図7で示した従来のガス吹付式液体注入装置では、管路66の出口の高さとOリング69の上端の高さが等しくなるため、内管60Aの先端がOリング69の上端に近い位置で該Oリング69に接触する場合があった。そのため、この接触箇所におけるOリング69の接線と内管60Aの軸方向とが成す角(図中のβ)が大きくなり(すなわち該接線と軸方向とが垂直に近くなり)、内管60Aの先端がOリング69に引っかかったりOリング69の表面を傷つけたりするおそれがあった。
【0038】
これに対し、本実施例の注入容器では、
図4に示すように、ガイド部材33の底面に突出部33Aを設けたことにより管路34が下方に延長され、その出口の高さがOリング35の上端の高さよりも低くなる。そのため、内管17Aの先端は、Oリング35の内周に対し、従来よりも低い位置で接触することとなる。その結果、この接触箇所におけるOリング35の接線と内管17Aの軸方向とが成す角(図中のα)を従来よりも小さくすることができる(すなわち前記Oリングの接線と前記軸方向とを平行に近づけることができる)ため、内管17Aの先端がOリング35に引っかかったりOリング35の表面を傷つけたりするのを防ぐことができる。
【0039】
上記の状態から分取ヘッド16が更に下降すると、内管17Aの先端はOリング35の中央の孔を通過して液体用通路32Bの中途まで到達する。このとき、該内管17Aの外周は前記Oリング35によってシールされる。また、分取ヘッド16の下降に伴って外管17Bも下降し、注入ポート32上面の凹部32Aに挿入される(
図2(b))。凹部32Aの内径は外管17Bの外径とほぼ等しいため、外管17Bと凹部32Aの間は気密にシールされる。更に、分取ヘッド16と共に排気用シール管17Cも下降し、蓋部20に設けられたクッション20Aを押圧する。これにより、排気用シール管17Cと注入容器21の間が気密にシールされる。なお、分取ヘッド16が移動する代わりに容器ラック24が移動する構成であってもよい。
【0040】
それから、制御部30は温調部28に対し目標温度を指示して温調ブロック27の加熱を開始し、注入容器21を加温し始める。目標温度としては、目的成分の溶出用溶媒として用いるジクロロメタンの沸点と同程度又はそれよりも少し高い程度としておけばよく、40〜45℃程度でよい。その後、制御部30は、溶出用溶媒容器3(dポート)と流路5(aポート)とを接続するように切替バルブ4を切り替える。これにより、送液ポンプ6は溶出用溶媒容器3中のジクロロメタンを吸引してトラップカラム8に導入し始める。
【0041】
トラップカラム8にジクロロメタンが導入されると、トラップカラム8内に存在していた水と殆ど混じることなく、ジクロロメタンと水との界面は徐々に上昇してゆく。すなわち、ジクロロメタンは水を押し上げながらトラップカラム8の底部から徐々に溜まってゆく。一方、押し上げられた水はトラップカラム8の上端の出口端から溢れ出し、切替バルブ15を経て流路13から廃液口に至る。一方、ジクロロメタンは強い溶出力を有するため、トラップカラム8に捕集された目的成分は、トラップカラム8に溜まったジクロロメタンに溶け出す。
【0042】
溶出用溶媒容器3中のジクロロメタンを所定時間又は所定量、トラップカラム8に供給し、トラップカラム8から水が完全に排除されると、切替バルブ15を流路13(cポート)から流路14(bポート)に切り替え、目的成分の分取を開始する。また、制御部30は、ガス供給部23に窒素ガス(又は他の不活性ガス)の供給を開始させる。ガス供給部23から送出される霧化ガスは、流路22と外管17Bを経て、注入ポート32の凹部32Aに導入され、更に凹部32Aの内周とガイド部材33の外周の間を通過して霧化ガス用通路32Cに流入し、霧化ガス吹き出し管37より吹き出し始める。なお、前記凹部32Aは外管17Bの下端部によってシールされており、更に内管17Aの外周はOリング35の内周と密着しているため、外管17Bから導入された霧化ガスが、凹部32Aの上端から外部に漏れ出したり、内管17Aの外周面に沿って溶液用通路32Bに進入したりすることは殆どない。一方、トラップカラム8から送られてくる溶液、つまり目的成分を含むジクロロメタンは、流路12と流路14を経て、多重管17の内管17Aの下端から液体用通路32Bに供給され、袖口部36の下端から滴下される。上記のように、霧化ガス吹き出し管37は袖口部36の中心線を向くように設計されているため、袖口部36から滴下された溶液に、霧化ガス吹き出し管37から吹き出した霧化ガスが当たり、溶液を剪断してミスト化する。
【0043】
本実施例の注入容器21では、溶液と霧化ガスが同軸上を流れないため、溶液が霧化ガスに晒される距離が短く、ミストの径が大きくなる。また、溶液が剪断される位置(袖口部36の中心線と霧化ガス吹き出し管37の向きを示す直線との交点)と霧化ガス吹き出し管37の先端の間の距離が広がるほど、霧化ガスが拡散してエネルギーを失うため、同様にミストの径が大きくなる。従って、得られるミストの径の大きさは、霧化ガス吹き出し管37の先端から前記剪断位置までの距離や、前記中心線と前記直線の成す角を適宜調整することにより、変えることができる。蓋部20は、例えば霧化ガス吹き出し管37の先端の位置及び/又は角度を自由に変えることのできる構造を有していてもよいし、霧化ガス吹き出し管37の先端の位置と角度の異なる蓋部20を複数種類用意しておいてもよい。これにより、得ようとする粉末の大きさに応じて、或いは、試料の種類に応じて、適切なミストの大きさで上記のガス吹付式蒸発乾固工程を行うことが可能となる。
【0044】
以上が、
図1の分取精製装置を用いた本実施例のガス吹付式蒸発・乾固工程の手順であるが、ガス吹付式蒸発・乾固工程の最中に、袖口部36の先端で溶質が析出し、袖口部36の外壁を伝って成長していくことがある。これを防ぐために、袖口部36はテフロン(登録商標)等のポリテトラフルオロエチレン(PTFE)系の樹脂材料で構成されていることが望ましい。PTFE系の樹脂は濡れ性が低いため、袖口部36の先端から溶液が表面張力で袖口部36の外壁を上昇しにくくなる。同様の理由で、注入ポート32もPTFE系樹脂材料で構成していることが望ましい。また、霧化ガス吹き出し管37の出口は、幅広の矩形形状にすることが望ましい。これにより、霧化ガス吹き出し管37から吹き出る霧化ガス流は幅広のものとなり、広い範囲に霧化ガス流を吹き付けることができる。
【0045】
更に、本実施例の構成では、霧化ガスを注入容器本体19の底面に斜めから当てることができるため、注入容器本体19の底面に溜まった溶液を撹拌させ、蒸発を促進させるという効果も得ることができる。この際、霧化ガス吹き出し管37の角度や位置、注入容器21の高さ等を適切に設計し、霧化ガスが底面の中心部に当たるようにすれば、底面に溜まった溶液をより効率的に拡散させることができる。
【0046】
また、本実施例の構成では、内管17Aの先端が液体用通路32Bの出口端から突出せず、液体用通路32B内に収まるように注入ポート32及び内管17Aの長さが設計されており、内管17Aから供給された目的成分を含む溶液は液体用通路32Bを経て袖口部36から注入容器21内に吐出される構造となっている。この構造の注入ポート32では、内管17Aが注入容器21内に晒されないため、注入容器21内で飛散した液滴や粉末が内管17Aに付着することが防止される。また、外管17Bは注入容器21内に導入されないので、外管17Bにも液滴や粉末は付着しない。これにより、次の注入容器で異なる液体試料を注入する際に、コンタミネーションが生じることを防止することができる。
【0047】
上記構成においては、内管17Aはステンレス製でよいが、上述した理由から袖口部36はPTFE製にすることが好ましい。また、袖口部36の下端が霧化ガス吹き出し管37側に向かって若干傾くように該袖口部36を曲げるようにしてもよい。このような構成によれば、袖口部36の先端における溶液の滞留が少なくなり、注入容器21内に得られる粉末の状態を良くすることができる。更に、袖口部36を曲げることに代えて、或いは袖口部36を曲げることに加えて、袖口部36の長さを変えたり、袖口部36の先端を斜めに切断したりする等によっても得られる粉末の状態を調整することができる。
【0048】
但し、こうした構成に限らず、液体用通路32Bの出口端に袖口部36を設けず、内管17Aの先端が液体用通路32Bの出口端から突出するように注入ポート32及び内管17Aの長さを設計してもよい。この場合、内管17Aから供給された溶液は、内管17Aの先端から直接注入容器21内に吐出されることとなる。
【0049】
注入容器21はヒータ25を熱源とする温調ブロック27からの熱伝導によりジクロロメタンの沸点と同程度に加温されている。そのため、溶液の細かい液滴が注入容器21の内周や内底の壁面に付着すると、液滴中の溶媒(ジクロロメタン)はすぐに蒸発し、目的成分が粉末として残る。こうして粉末状の目的成分は注入容器21の内周や内底の壁面に堆積する。また、注入容器21内に導入された霧化ガスや蒸発した溶媒は、排気口38及び排気用シール管17Cを通して注入容器21の外部に排出される。
【0050】
以上の工程が終了すると、分取ヘッド16を上昇させる。続けて別の目的成分の粉末化を行う際には、次の注入容器21がある位置に分取ヘッド16を移動させ、同様の処理を行う。
【符号の説明】
【0051】
17…多重管
17A…内管
17B…外管
17C…排気用シール管
19…注入容器本体
20…蓋部
20A…クッション
21…注入容器
32…注入ポート
32A…凹部
32B…液体用通路
32C…霧化ガス用通路
33…ガイド部材
33A…突出部
34…管路
34A…テーパー部
34B…直管部
35…Oリング
36…袖口部
37…霧化ガス吹き出し管
38…排気口