(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明を実施するための形態(以下実施形態という)を図面に従って説明する。
【0015】
図1は本発明の実施形態に係る振動解析装置の適用対象となる車両10の概略構成を示す図であり、
図2は本発明の実施形態に係る振動解析装置の概略構成を示す図である。振動系としての車両10は、複数の振動要素として車体11とパワートレインブロック12(エンジン13及び変速機14を含む)と駆動輪15を含む。エンジン13は変速機14に連結され、変速機14は駆動輪15に連結され、エンジン13及び変速機14はパワートレインブロック12に含まれている。パワートレインブロック12はマウント16を介して車体11に支持され、駆動輪15はサスペンションブッシュ17を介して車体11に支持されている。車両10の実稼働状態において、エンジン13はトルク(回転力)を加振力として発生し、エンジン13と変速機14間でトルクが伝達され、変速機14と駆動輪15間でトルクが伝達され、エンジン13及び変速機14とパワートレインブロック12間でトルクが伝達される。その際に、パワートレインブロック12とエンジン13と変速機14と駆動輪15が回転方向に互いに相対的に振動する。さらに、マウント16を介してパワートレインブロック12と車体11間で車両前後方向の力が伝達され、サスペンションブッシュ17を介して駆動輪15と車体11間で車両前後方向の力が伝達される。その際に、車体11とパワートレインブロック12と駆動輪15が車両前後方向に互いに相対的に振動する。
【0016】
回転方向に振動する振動要素の角加速度を検出するために、パワートレインブロック12の角加速度d
2θ
b/dt
2を検出するための角加速度センサ22がパワートレインブロック12に付設され、エンジン13の角加速度d
2θ
e/dt
2を検出するための角加速度センサ23がエンジン13に付設され、変速機14の角加速度d
2θ
m/dt
2を検出するための角加速度センサ24が変速機14に付設され、駆動輪15の角加速度d
2θ
w/dt
2を検出するための角加速度センサ25が駆動輪15に付設されている。また、車両前後方向に振動する振動要素の車両前後方向並進加速度を検出するために、車体11の車両前後方向並進加速度d
2x
v/dt
2を検出するための並進加速度センサ31が車体11に付設され、パワートレインブロック12の車両前後方向並進加速度d
2x
b/dt
2を検出するための並進加速度センサ32がパワートレインブロック12に付設され、駆動輪15の車両前後方向並進加速度d
2x
w/dt
2を検出するための並進加速度センサ35が駆動輪15に付設されている。車両10の実稼働状態における、角加速度センサ22によるパワートレインブロック12の角加速度d
2θ
b/dt
2、角加速度センサ23によるエンジン13の角加速度d
2θ
e/dt
2、角加速度センサ24による変速機14の角加速度d
2θ
m/dt
2、角加速度センサ25による駆動輪15の角加速度d
2θ
w/dt
2、並進加速度センサ31による車体11の車両前後方向並進加速度d
2x
v/dt
2、並進加速度センサ32によるパワートレインブロック12の車両前後方向並進加速度d
2x
b/dt
2、及び並進加速度センサ35による駆動輪15の車両前後方向並進加速度d
2x
w/dt
2は、振動解析装置70に入力される。
【0017】
本実施形態では、振動解析装置70で車両10の振動解析を行うために、例えば
図3に示すように、複数の振動要素(車体11とパワートレインブロック12とエンジン13と変速機14と駆動輪15)間の接続関係を表して振動系(車両10)をモデル化する。以下、複数の振動要素間の接続関係を表した振動系のモデルを原理モデルとする。原理モデルにおいて、エンジン13が発生するトルク(振動系の加振力)をτ
e、エンジン13と変速機14間で伝達されるトルクをτ
m、変速機14と駆動輪15間で伝達されるトルクをτ
ds、パワートレインブロック12に伝達されるトルクをτ
b、車体11とパワートレインブロック12間で伝達される車両前後方向の力をF
b、車体11と駆動輪15間で伝達される車両前後方向の力をF
s、駆動輪15と路面間に作用する車両前後方向の力をF
dとすると、パワートレインブロック12の回転運動方程式は以下の(1)式で表され、エンジン13の回転運動方程式は以下の(2)式で表され、変速機14の回転運動方程式は以下の(3)式で表され、駆動輪15の回転運動方程式は以下の(4)式で表される。そして、車両前後方向に関して、駆動輪15の並進運動方程式は以下の(5)式で表され、車体11の並進運動方程式は以下の(6)式で表され、パワートレインブロック12の並進運動方程式は以下の(7)式で表される。
【0019】
(1)〜(7)式において、J
bはパワートレインブロック12の慣性モーメント、J
eはエンジン13の慣性モーメント、J
mは変速機14の慣性モーメント、J
wは駆動輪15の慣性モーメント、m
wは駆動輪15の質量、m
vは車体11の質量、m
bはパワートレインブロック12の質量、d
mは変速機14の変速比、r
wは駆動輪15の半径である。ただし、(1)〜(7)式では、時間微分d/dtを・(ドット)で表し(以下の他式も同様)、パワートレインブロック12の角加速度d
2θ
b/dt
2をθ
bの上に・・を付して表し、エンジン13の角加速度d
2θ
e/dt
2をθ
eの上に・・を付して表し、変速機14の角加速度d
2θ
m/dt
2をθ
mの上に・・を付して表し、駆動輪15の角加速度d
2θ
w/dt
2をθ
wの上に・・を付して表し、駆動輪15の車両前後方向並進加速度d
2x
w/dt
2をx
wの上に・・を付して表し、車体11の車両前後方向並進加速度d
2x
v/dt
2をx
vの上に・・を付して表し、パワートレインブロック12の車両前後方向並進加速度d
2x
b/dt
2をx
bの上に・・を付して表している。
【0020】
(1)〜(7)式については、以下の(8)式のように書き換えることができる。(8)式において、Maは各振動要素の慣性力に関わる7行の列ベクトルで以下の(9)式により表され、fは各振動要素に作用する力(加振力及び伝達力)に関わる7行の列ベクトルで以下の(10)式により表され、Cは係数に関わる7行7列の行列で以下の(11)式により表される。
【0022】
振動解析装置70の機能ブロック図の一例を
図2に示す。振動解析装置70は、CPUを中心としたコンピュータとして構成可能であり、コンピュータを以下に説明する観測変数取得部71、設定定数記憶装置72、未知変数推定部73、パラメータ推定部74、及び伝達関数演算部75として機能させる。
【0023】
振動解析装置70において、設定定数記憶装置72には、車体11の質量m
v、パワートレインブロック12の質量m
b、駆動輪15の質量m
w、パワートレインブロック12の慣性モーメントJ
b、エンジン13の慣性モーメントJ
e、変速機14の慣性モーメントJ
m、駆動輪15の慣性モーメントJ
w、変速機14の変速比d
m、及び駆動輪15の半径r
wが記憶されている。設定定数記憶装置72に記憶するm
v,m
b,m
w,J
b,J
e,J
m,J
w,d
m,r
wの値については、予め計測しておくか設計値を用いる。(1)〜(7)式におけるm
v,m
b,m
w,J
b,J
e,J
m,J
w,d
m,r
wは、設定定数記憶装置72に記憶された値から既知となる。
【0024】
観測変数取得部71は、(1)〜(7)式における各振動要素の角加速度d
2θ
b/dt
2,d
2θ
e/dt
2,d
2θ
m/dt
2,d
2θ
w/dt
2及び並進加速度d
2x
w/dt
2,d
2x
v/dt
2,d
2x
b/dt
2、振動系の加振力(エンジン13のトルク)τ
e、及び加振力τ
eにより各振動要素を伝わる伝達力τ
m,τ
ds,τ
b,F
b,F
s,F
dの変数のうち、いずれか複数を観測変数として取得する。ここでは、角加速度センサ22,23,24,25及び並進加速度センサ31,32,35による角加速度d
2θ
b/dt
2,d
2θ
e/dt
2,d
2θ
m/dt
2,d
2θ
w/dt
2及び並進加速度d
2x
v/dt
2,d
2x
b/dt
2,d
2x
w/dt
2を観測変数として取得する。
【0025】
未知変数推定部73は、(1)〜(7)式の各振動要素の運動方程式を用いて、(1)〜(7)式の変数のうち観測変数以外の未知変数を、観測変数取得部71で取得された観測変数に基づいて推定する。ここでは、観測変数として各振動要素の角加速度d
2θ
b/dt
2,d
2θ
e/dt
2,d
2θ
m/dt
2,d
2θ
w/dt
2及び並進加速度d
2x
w/dt
2,d
2x
v/dt
2,d
2x
b/dt
2に基づいて、未知変数として振動系の加振力τ
e及び加振力τ
eにより各振動要素を伝わる伝達力τ
m,τ
ds,τ
b,F
b,F
s,F
dを推定する。
【0026】
ここで、(8)式を以下の(12)式のように書き換える。(12)式において、Hは以下の(13)式で表されるn行m列の行列であり、xは以下の(14)式で表されるm行の列ベクトルである。
【0028】
(11)式を(13)式に代入すると、Hは以下の(15)式で表される7行14列の行列となり、(9)、(10)式を(14)式に代入すると、xは以下の(16)式で表される14行の列ベクトルとなる(n=7,m=14)。(15)式において、列ベクトルh
1はτ
bに対応する係数を表し、列ベクトルh
2はτ
eに対応する係数を表し、列ベクトルh
3はτ
mに対応する係数を表し、列ベクトルh
4はτ
dsに対応する係数を表し、列ベクトルh
5はF
dに対応する係数を表し、列ベクトルh
6はF
sに対応する係数を表し、列ベクトルh
7はF
bに対応する係数を表す。そして、列ベクトルh
8はJ
b×d
2θ
b/dt
2に対応する係数を表し、列ベクトルh
9はJ
e×d
2θ
e/dt
2に対応する係数を表し、列ベクトルh
10はJ
m×d
2θ
m/dt
2に対応する係数を表し、列ベクトルh
11はJ
w×d
2θ
w/dt
2に対応する係数を表し、列ベクトルh
12はm
w×d
2x
w/dt
2に対応する係数を表し、列ベクトルh
13はm
v×d
2x
v/dt
2に対応する係数を表し、列ベクトルh
14はm
b×d
2x
b/dt
2に対応する係数を表す。また、Hの1行目は(1)式に対応する係数を表し、Hの2行目は(2)式に対応する係数を表し、Hの3行目は(3)式に対応する係数を表し、Hの4行目は(4)式に対応する係数を表し、Hの5行目は(5)式に対応する係数を表し、Hの6行目は(6)式に対応する係数を表し、Hの7行目は(7)式に対応する係数を表す。
【0030】
(14)式のベクトルxの成分を未知変数と観測変数に分け、(12)式を以下の(17)式のように書き換える。(17)式において、x
unknownは未知変数に関わるm
1行の列ベクトルであり、x
measuredは観測変数に関わるm
2行の列ベクトルであり、H
1はn行m
1列の行列で未知変数に対応する係数を表し、H
2はn行m
2列の行列で観測変数に対応する係数を表し、m=m
1+m
2,m
1≦n,m
2≦nである。
【0032】
(1)〜(7)式において、未知変数はτ
b,τ
e,τ
m,τ
ds,F
d,F
s,F
bであり、観測変数はd
2θ
b/dt
2,d
2θ
e/dt
2,d
2θ
m/dt
2,d
2θ
w/dt
2,d
2x
w/dt
2,d
2x
v/dt
2,d
2x
b/dt
2であり、m
1=7,m
2=7となる。したがって、x
unknownは以下の(18)式で表され、x
measuredは以下の(19)式で表される。その場合、H
1は以下の(20)式で表され、H
2は以下の(21)式で表される。
【0034】
(20)式で表されるH
1のランクは7でH
1の列の数m
2=7に等しく、H
1が列フルランクとなる。その場合、x
unknownは、x
measured,H
1,H
2を用いて以下の(22)式により算出される。未知変数推定部73は、観測変数取得部71で各サンプリング時刻k毎に取得された観測変数d
2θ
b(k)/dt
2,d
2θ
e(k)/dt
2,d
2θ
m(k)/dt
2,d
2θ
w(k)/dt
2,d
2x
w(k)/dt
2,d
2x
v(k)/dt
2,d
2x
b(k)/dt
2に基づいて(22)式で算出されたx
unknownによって、未知変数τ
b(k),τ
e(k),τ
m(k),τ
ds(k),F
d(k),F
s(k),F
b(k)を各サンプリング時刻k毎に推定することができる。ただし、H
1が正方行列である場合は、(22)式は、当然、x
unknown=−H
1-1H
2x
measuredでよい。
【0036】
未知変数推定部73で変速機14と駆動輪15間の伝達トルクτ
ds(k)を推定した結果の一例を
図4に示す。
図4では、(22)式で算出された推定トルクτ
ds(k)の時系列波形を、トルクセンサで計測された変速機14と駆動輪15間の計測トルクの時系列波形と比較している。
図4に示すように、未知変数推定部73で推定された推定トルクτ
ds(k)がトルクセンサでの計測トルクにほぼ一致していることがわかる。つまり、未知変数推定部73により、変速機14と駆動輪15間の伝達トルクτ
ds(k)を精度よく推定できていることがわかる。
【0037】
伝達関数演算部75は、観測変数取得部71で取得された観測変数及び未知変数推定部73で推定された未知変数のいずれかに基づいて、振動系の伝達関数を演算する。例えばτ
e(k)を入力、d
2x
v(k)/dt
2を出力とする場合における入出力の関係を表す伝達関数d
2x
v/dt
2/τ
eを算出する。また、τ
e(k)を入力、τ
ds(k)を出力とする場合における入出力の関係を表す伝達関数τ
ds/τ
eを算出することも可能である。
【0038】
パラメータ推定部74は、未知変数推定部73で推定された振動要素を伝わる伝達力に基づいて、振動要素間の弾性係数及び減衰係数を推定する。例えば変速機14と駆動輪15間で伝達されるトルクτ
ds(k)については、変速機14と駆動輪15間の回転方向の弾性係数(ばね定数)k
ds及び減衰係数(粘性係数)c
dsを用いて以下の(23)式で表すことが可能である。(23)式において、θ
m(k)は変速機14の回転角、θ
w(k)は駆動輪15の回転角である。ただし、(23)式でも、変速機14の角速度dθ
m(k)/dtをθ
m(k)の上に・を付して表し、駆動輪15の角速度dθ
w(k)/dtをθ
w(k)の上に・を付して表している。(23)式において、変速機14と駆動輪15間の伝達トルクτ
ds(k)については、未知変数推定部73で推定することができる。変速機14の角速度dθ
m(k)/dtについては、角加速度センサ24による変速機14の角加速度d
2θ
m(k)/dt
2を積分演算して取得することができ、変速機14の回転角θ
m(k)については、変速機14の角速度dθ
m(k)/dtを積分演算して取得することができる。駆動輪15の角速度dθ
w(k)/dtについては、角加速度センサ25による駆動輪15の角加速度d
2θ
w(k)/dt
2を積分演算して取得することができ、駆動輪15の回転角θ
w(k)については、駆動輪15の角速度dθ
w(k)/dtを積分演算して取得することができる。
【0040】
(23)式を各サンプリング時刻k=1,2,〜,N毎に行列化すると、以下の(24)式が得られる。パラメータ推定部74は、各サンプリング時刻k毎に得られる、τ
ds(k),dθ
m(k)/dt,dθ
w(k)/dt,θ
m(k),θ
w(k)を用いて、(24)式における未知パラメータc
ds,k
dsを最小二乗法により同定する。
【0042】
(24)式を以下の(25)式のように書き換える。ただし、(25)式のA,bは以下の(26)、(27)式でそれぞれ表される。
【0044】
(26)、(27)式はNサンプリング点からなる既知の縦ベクトルであり、未知パラメータc
ds,k
dsは以下の(28)式により算出される。パラメータ推定部74は、τ
ds(k),dθ
m(k)/dt,dθ
w(k)/dt,θ
m(k),θ
w(k)に基づく(28)式により、変速機14と駆動輪15間の弾性係数k
ds及び減衰係数c
dsを推定することができる。
【0046】
また、(24)式を時間微分すると、以下の(29)式が得られる。(29)式を(25)式のように書き換えると、未知パラメータc
ds,k
dsは以下の(30)式により算出される。ただし、(30)式のA,bは以下の(31)、(32)式でそれぞれ表される。パラメータ推定部74は、dτ
ds(k)/dt,d
2θ
m(k)/dt
2,d
2θ
w(k)/dt
2,dθ
m(k)/dt,dθ
w(k)/dtに基づく(30)式によっても、変速機14と駆動輪15間の弾性係数k
ds及び減衰係数c
dsを推定することができる。
【0048】
同様に、エンジン13と変速機14間の回転方向の弾性係数k
m及び減衰係数c
mについても、(28)式のc
ds,k
dsをc
m,k
mにそれぞれ置き換えた式に以下の(33)、(34)式を代入するか、(30)式のc
ds,k
dsをc
m,k
mにそれぞれ置き換えた式に以下の(35)、(36)式を代入することで、推定することができる。(33)式において、θ
e(k)はエンジン13の回転角である。
【0050】
同様に、車体11とパワートレインブロック12間の車両前後方向の弾性係数k
b及び減衰係数c
bについても、(28)式のc
ds,k
dsをc
b,k
bにそれぞれ置き換えた式に以下の(37)、(38)式を代入するか、(30)式のc
ds,k
dsをc
b,k
bにそれぞれ置き換えた式に以下の(39)、(40)式を代入することで、推定することができる。(37)式において、x
v(k)は車体11の車両前後方向変位、x
b(k)はパワートレインブロック12の車両前後方向変位である。
【0052】
同様に、車体11と駆動輪15間の車両前後方向の弾性係数k
s及び減衰係数c
sについても、(28)式のc
ds,k
dsをc
s,k
sにそれぞれ置き換えた式に以下の(41)、(42)式を代入するか、(30)式のc
ds,k
dsをc
s,k
sにそれぞれ置き換えた式に以下の(43)、(44)式を代入することで、推定することができる。(41)式において、x
w(k)は駆動輪15の車両前後方向変位である。
【0054】
このようにして弾性係数及び減衰係数をパラメータ推定部74で推定できるため、(1)〜(7)式については、以下の(45)式のように書き換えることができる。(45)式において、Mは質量m
v,m
b,m
w及び慣性モーメントJ
b,J
e,J
m,J
wに関わる行列であり、Cは減衰係数に関わる行列であり、Kは弾性係数に関わる行列であり、x,uは以下の(46)式で表される。
【0056】
以上説明した本実施形態では、複数の振動要素間の接続関係だけを表して振動系をモデル化する。そして、各振動要素の加速度、振動系の加振力、及び各振動要素を伝わる伝達力の変数のうち、いずれか複数(ここでは各振動要素の加速度d
2θ
b/dt
2,d
2θ
e/dt
2,d
2θ
m/dt
2,d
2θ
w/dt
2,d
2x
v/dt
2,d
2x
b/dt
2,d
2x
w/dt
2)を観測変数として取得する処理と、(1)〜(7)式の運動方程式を用いて観測変数d
2θ
b/dt
2,d
2θ
e/dt
2,d
2θ
m/dt
2,d
2θ
w/dt
2,d
2x
v/dt
2,d
2x
b/dt
2,d
2x
w/dt
2に基づいて未知変数(ここでは振動系の加振力τ
e及び各振動要素を伝わる伝達力τ
m,τ
ds,τ
b,F
b,F
s,F
d)を推定する処理とをコンピュータに実行させる。その場合、H
1が列フルランクになる条件を満たすため、未知変数(振動系の加振力τ
e及び各振動要素を伝わる伝達力τ
m,τ
ds,τ
b,F
b,F
s,F
d)を推定することができ、振動伝達経路解析を実稼働データから実施することができる。その際には、加速度d
2θ
b/dt
2,d
2θ
e/dt
2,d
2θ
m/dt
2,d
2θ
w/dt
2,d
2x
v/dt
2,d
2x
b/dt
2,d
2x
w/dt
2を観測変数とすることで、加速度に比べて直接的な計測の難しい加振力τ
e及び伝達力τ
m,τ
ds,τ
b,F
b,F
s,F
dの計測が不要となる。また、車体11を含むパッシブ系とエンジン13及び変速機14を含むアクティブ系の全系のシステムを扱うため、アクティブ系を考慮する必要がある低周波数領域でも利用することが可能である。また、特許文献1,2の伝達率や伝達関数のような線形モデルに限定されずに、非線形モデルを扱うことも可能であり、また、定常現象のみならず、車両10の加速時のような過渡現象も扱うことが可能である。
【0057】
さらに、本実施形態では、振動要素を伝わる伝達力に基づいて振動要素間の弾性係数及び減衰係数を推定する処理をコンピュータに実行させる。これによって、振動系の弾性係数及び減衰係数のパラメータを求めてパラメトリックモデルを構築することができ、振動系の設計に利用することができる。さらに、本実施形態では、観測変数及び未知変数に基づいて振動系の伝達関数を演算する処理をコンピュータに実行させる。伝達関数は伝達率とは異なりシステム極(共振点)の情報が含まれており、共振点をずらす(例えば上げる)ための弾性係数及び減衰係数の設計に利用することができる。
【0058】
上記の説明では、観測変数d
2θ
b(k)/dt
2,d
2θ
e(k)/dt
2,d
2θ
m(k)/dt
2,d
2θ
w(k)/dt
2,d
2x
w(k)/dt
2,d
2x
v(k)/dt
2,d
2x
b(k)/dt
2に基づいて、未知変数τ
b(k),τ
e(k),τ
m(k),τ
ds(k),F
d(k),F
s(k),F
b(k)を推定する例について説明した。ただし、観測変数及び未知変数については、H
1が列フルランクとなる条件を満たせば、上記に説明したもの以外であってもよい。例えば観測変数として、d
2θ
b/dt
2,d
2θ
e/dt
2,τ
e,d
2θ
w/dt
2,d
2x
w/dt
2,d
2x
v/dt
2,d
2x
b/dt
2を観測変数取得部71で取得することも可能である。その場合、x
unknownは以下の(47)式で表され、x
measuredは以下の(48)式で表され、H
1は以下の(49)式で表され、H
2は以下の(50)式で表される。(49)式で表されるH
1のランクも7でH
1の列の数m
2=7に等しく、H
1が列フルランクとなるため、(48)式のx
measured、(49)式のH
1、及び(50)式のH
2を用いて(22)式により未知変数τ
b(k),d
2θ
m/dt
2,τ
m(k),τ
ds(k),F
d(k),F
s(k),F
b(k)を推定することができる。
【0060】
また、原理モデルの他の例を
図5に示す。
図5の原理モデルでは、
図3の原理モデルと比較して、車体11とパワートレインブロック12が連結されているとともに、サブフレーム18が車体11、パワートレインブロック12、及び駆動輪15と連結されている。
図5の原理モデルを用いて、車体11とサブフレーム18間の車両前後方向伝達力F
sf(k)、車体11とパワートレインブロック12間の車両前後方向伝達力F
rod(k)、及び車体11の車両前後方向慣性力を算出した結果を
図6に示し、駆動輪15と路面間の車両前後方向駆動力F
d(k)、サブフレーム18と駆動輪15間の車両前後方向伝達力F
s(k)、パワートレインブロック12とサブフレーム18間の車両前後方向伝達力F
b(k)、及びサブフレーム18の車両前後方向慣性力を算出した結果を
図7に示す。
【0061】
以上の実施形態では、振動系が車両10である例について説明したが、本実施形態は車両以外の振動系に対しても適用可能である。
【0062】
以上、本発明を実施するための形態について説明したが、本発明はこうした実施形態に何等限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において、種々なる形態で実施し得ることは勿論である。