(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6260521
(24)【登録日】2017年12月22日
(45)【発行日】2018年1月17日
(54)【発明の名称】粒子解析装置及び粒子解析方法
(51)【国際特許分類】
G01N 15/00 20060101AFI20180104BHJP
G01N 15/02 20060101ALI20180104BHJP
【FI】
G01N15/00 Z
G01N15/02 B
【請求項の数】6
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2014-237767(P2014-237767)
(22)【出願日】2014年11月25日
(65)【公開番号】特開2016-99279(P2016-99279A)
(43)【公開日】2016年5月30日
【審査請求日】2017年2月6日
(73)【特許権者】
【識別番号】000001993
【氏名又は名称】株式会社島津製作所
(74)【代理人】
【識別番号】100141852
【弁理士】
【氏名又は名称】吉本 力
(74)【代理人】
【識別番号】100152571
【弁理士】
【氏名又は名称】新宅 将人
(72)【発明者】
【氏名】島岡 治夫
【審査官】
東松 修太郎
(56)【参考文献】
【文献】
特開平09−038687(JP,A)
【文献】
特開2004−053552(JP,A)
【文献】
特開2002−071547(JP,A)
【文献】
特開2006−047064(JP,A)
【文献】
特開2012−083242(JP,A)
【文献】
中国特許出願公開第1755347(CN,A)
【文献】
米国特許出願公開第2011/0170659(US,A1)
【文献】
米国特許出願公開第2002/0159070(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 15/00−15/14
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
液体試料中の粒子の画像を撮影する画像撮影部と、
前記画像撮影部により撮影された画像に基づいて、液体試料中の粒子のサイズを判定する粒子サイズ判定部と、
前記粒子サイズ判定部により判定された粒子のサイズに基づいて、当該粒子が気体粒子である場合の浮上速度を算出する浮上速度算出部と、
前記画像撮影部により撮影された画像に基づいて、前記粒子の移動速度を判定する移動速度判定部と、
前記浮上速度算出部により算出された粒子の浮上速度が、前記移動速度判定部により判定された前記粒子の移動速度と一致する場合に、当該粒子を気体粒子と識別する気体粒子識別部とを備えたことを特徴とする粒子解析装置。
【請求項2】
前記画像撮影部により撮影された画像に基づいて、液体試料中から球形の粒子を識別する球形粒子識別部をさらに備え、
前記粒子サイズ判定部は、前記球形粒子識別部により球形と識別された粒子の径を判定し、
前記浮上速度算出部は、前記粒子サイズ判定部により判定された粒子の径に基づいて、当該粒子が気体粒子である場合の浮上速度を算出することを特徴とする請求項1に記載の粒子解析装置。
【請求項3】
前記浮上速度算出部は、ストークスの式に基づいて前記浮上速度を算出することを特徴とする請求項2に記載の粒子解析装置。
【請求項4】
液体試料中の粒子の画像を撮影する画像撮影ステップと、
前記画像撮影ステップにより撮影された画像に基づいて、液体試料中の粒子のサイズを判定する粒子サイズ判定ステップと、
前記粒子サイズ判定ステップにより判定された粒子のサイズに基づいて、当該粒子が気体粒子である場合の浮上速度を算出する浮上速度算出ステップと、
前記画像撮影ステップにより撮影された画像に基づいて、前記粒子の移動速度を判定する移動速度判定ステップと、
前記浮上速度算出ステップにより算出された粒子の浮上速度が、前記移動速度判定ステップにより判定された前記粒子の移動速度と一致する場合に、当該粒子を気体粒子と識別する気体粒子識別ステップとを含むことを特徴とする粒子解析方法。
【請求項5】
前記画像撮影ステップにより撮影された画像に基づいて、液体試料中から球形の粒子を識別する球形粒子識別ステップをさらに含み、
前記粒子サイズ判定ステップでは、前記球形粒子識別ステップにより球形と識別された粒子の径を判定し、
前記浮上速度算出ステップでは、前記粒子サイズ判定ステップにより判定された粒子の径に基づいて、当該粒子が気体粒子である場合の浮上速度を算出することを特徴とする請求項4に記載の粒子解析方法。
【請求項6】
前記浮上速度算出ステップでは、ストークスの式に基づいて前記浮上速度を算出することを特徴とする請求項5に記載の粒子解析方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液体試料中の粒子の画像を撮影し、撮影された画像に基づいて粒子の解析を行うための粒子解析装置及び粒子解析方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、マイクロバブルやウルトラファインバブルといったファインバブルの研究及び利用が活発に行われている。ファインバブルは、例えば気泡径が100μm以下の微細気泡であり、気泡径が1μm以上のものはマイクロバブル、気泡径が1μm未満のものはウルトラファインバブルと呼ばれている。
【0003】
ファインバブルには、洗浄効果や殺菌効果といった様々な効果が期待されている。例えば工場やプラント、公衆トイレなどで、ファインバブルを用いて各種設備の洗浄を行えば、洗剤の使用量を削減することができる。そのため、ファインバブルを用いた洗浄方法は、環境に優しい新たな洗浄方法として注目されている。
【0004】
上記のようなファインバブルの特性と効果の関係は、ファインバブルの気泡径や気泡量(濃度)に依存している。そこで、レーザ回折・散乱式の粒子径分布測定装置を用いて、ファインバブルの気泡径分布(粒子径分布)を測定する技術が提案されている(例えば、下記特許文献1参照)。
【0005】
しかしながら、測定対象となる液体試料には、ファインバブル以外にも、例えば粉塵又は土などの固体粒子や、オイル又はエマルジョンなどの液体粒子が含まれている場合がある。このような場合、レーザ回折・散乱式の粒子径分布測定装置を用いてファインバブルの気泡径分布を測定するような方法では、ファインバブルなどの気体粒子(気泡)と、固体粒子及び液体粒子とを識別することができず、ファインバブルの気泡径分布を精度よく測定することができないおそれがある。
【0006】
そこで、液体試料中の粒子の画像を撮影し、撮影された画像に基づいて各粒子が気体粒子であるか否かを識別することが考えられる(例えば、下記特許文献2参照)。この特許文献2には、撮影された粒子の画像が球形であれば、当該粒子を気泡と判別するような構成が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2007−263876号公報
【特許文献2】特開2002−71547号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、液体試料中の粒子の中には、球形からなる固体粒子や液体粒子が含まれる場合もある。例えば、オイル又はエマルジョンなどの液体粒子は球形からなるため、このような液体粒子を含む液体試料を測定対象とした場合には、液体粒子を気体粒子と誤って識別してしまうおそれがある。
【0009】
本発明は、上記実情に鑑みてなされたものであり、液体試料中の気体粒子をより正確に識別することができる粒子解析装置及び粒子解析方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明に係る粒子解析装置は、画像撮影部と、粒子サイズ判定部と、浮上速度算出部と、移動速度判定部と、気体粒子識別部とを備える。前記画像撮影部は、液体試料中の粒子の画像を撮影する。前記粒子サイズ判定部は、前記画像撮影部により撮影された画像に基づいて、液体試料中の粒子のサイズを判定する。前記浮上速度算出部は、前記粒子サイズ判定部により判定された粒子のサイズに基づいて、当該粒子が気体粒子である場合の浮上速度を算出する。前記移動速度判定部は、前記画像撮影部により撮影された画像に基づいて、前記粒子の移動速度を判定する。前記気体粒子識別部は、前記浮上速度算出部により算出された粒子の浮上速度が、前記移動速度判定部により判定された前記粒子の移動速度と一致する場合に、当該粒子を気体粒子と識別する。
【0011】
このような構成によれば、液体試料中の粒子の画像を撮影して、当該粒子のサイズを判定することにより、当該粒子が気体粒子である場合の浮上速度を算出することができる。そして、算出された浮上速度が、撮影された画像に基づいて判定される当該粒子の移動速度と一致すれば、当該粒子を気体粒子と識別することができる。液体試料中の粒子が気体粒子である場合と、固体粒子又は液体粒子である場合とでは、液体試料中における粒子の浮上速度が異なるため、上記のように浮上速度に基づいて気体粒子を識別することによって、液体試料中の気体粒子をより正確に識別することができる。
【0012】
前記粒子解析装置は、前記画像撮影部により撮影された画像に基づいて、液体試料中から球形の粒子を識別する球形粒子識別部をさらに備えていてもよい。この場合、前記粒子サイズ判定部は、前記球形粒子識別部により球形と識別された粒子の径を判定してもよい。また、前記浮上速度算出部は、前記粒子サイズ判定部により判定された粒子の径に基づいて、当該粒子が気体粒子である場合の浮上速度を算出してもよい。
【0013】
このような構成によれば、液体試料中から識別された球形の粒子のみについて、その径に基づいて当該粒子が気体粒子である場合の浮上速度を算出し、算出された浮上速度に基づいて当該粒子が気体粒子であるか否かを識別することができる。気体粒子は球形であるため、球形の粒子のみを対象として気体粒子であるか否かの識別を行うことにより、球形以外の粒子が気体粒子と誤って識別されるのを防止することができるとともに、気体粒子ではない粒子について浮上速度の算出が無駄に行われるのを防止することができる。したがって、液体試料中の気体粒子をより正確に識別することができるとともに、処理速度の向上も期待できる。
【0014】
前記浮上速度算出部は、ストークスの式に基づいて前記浮上速度を算出してもよい。
【0015】
このような構成によれば、球形と識別された粒子の径を用いることにより、ストークスの式に基づいて当該粒子の浮上速度を容易に算出することができる。これにより、液体試料中の気体粒子を識別する際の処理を簡略化することができるため、処理速度を向上させることができる。
【0016】
本発明に係る粒子解析方法は、画像撮影ステップと、粒子サイズ判定ステップと、浮上速度算出ステップと、移動速度判定ステップと、気体粒子識別ステップとを含む。前記画像撮影ステップでは、液体試料中の粒子の画像を撮影する。前記粒子サイズ判定ステップでは、前記画像撮影ステップにより撮影された画像に基づいて、液体試料中の粒子のサイズを判定する。前記浮上速度算出ステップでは、前記粒子サイズ判定ステップにより判定された粒子のサイズに基づいて、当該粒子が気体粒子である場合の浮上速度を算出する。前記移動速度判定ステップでは、前記画像撮影ステップにより撮影された画像に基づいて、前記粒子の移動速度を判定する。前記気体粒子識別ステップでは、前記浮上速度算出ステップにより算出された粒子の浮上速度が、前記移動速度判定ステップにより判定された前記粒子の移動速度と一致する場合に、当該粒子を気体粒子と識別する。
【0017】
前記粒子解析方法は、前記画像撮影ステップにより撮影された画像に基づいて、液体試料中から球形の粒子を識別する球形粒子識別ステップをさらに含んでいてもよい。この場合、前記粒子サイズ判定ステップでは、前記球形粒子識別ステップにより球形と識別された粒子の径を判定してもよい。また、前記浮上速度算出ステップでは、前記粒子サイズ判定ステップにより判定された粒子の径に基づいて、当該粒子が気体粒子である場合の浮上速度を算出してもよい。
【0018】
前記浮上速度算出ステップでは、ストークスの式に基づいて前記浮上速度を算出してもよい。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、浮上速度に基づいて気体粒子を識別することによって、液体試料中の気体粒子をより正確に識別することができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【
図1】本発明の一実施形態に係る粒子解析装置の構成例を示した概略図である。
【
図2A】カメラにより撮影された画像に基づいて粒子の解析を行う際の態様について説明するための図である。
【
図2B】カメラにより撮影された画像に基づいて粒子の解析を行う際の態様について説明するための図である。
【
図2C】カメラにより撮影された画像に基づいて粒子の解析を行う際の態様について説明するための図である。
【
図4】液体試料中の粒子を解析する際の制御部による処理の流れを示したフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0021】
図1は、本発明の一実施形態に係る粒子解析装置1の構成例を示した概略図である。この粒子解析装置1は、画像撮影部としてのカメラ11を備えており、当該カメラ11を用いて容器2内の液体試料中の粒子を撮影することにより、撮影された画像に対する画像処理によって粒子の解析を行うことができる。大きさの小さいファインバブルが測定対象であるから、カメラ11には顕微鏡を取り付けて容器2内の粒子を拡大して撮影することが望ましい。
【0022】
容器2内の液体試料は、例えば水の他、アルコール又は油といった任意の液体を媒体とする試料である。このような液体試料は、オフラインで容器2内に収容されることにより準備されてもよいし、例えばオンラインで配管(図示せず)などの内部を流れる液体試料が容器2内にサンプリングされることにより準備されてもよい。ただし、液体試料が安定した状態でカメラ11により撮影されるような構成であれば、液体試料が容器2内に収容された状態で準備されるような構成に限られるものではない。
【0023】
液体試料には、例えば気泡径が100μm以下の微細気泡からなるファインバブルが含まれている。具体的には、気泡径が1μm未満のウルトラファインバブル、及び、気泡径が1μm以上のマイクロバブルの少なくとも一方が、気体粒子(気泡)として液体試料に含まれている。気体粒子を構成する気体は、空気であってもよいし、例えばオゾンや水素といった空気以外の気体であってもよい。また、液体試料には、気体粒子だけでなく、粉塵又は土などの固体粒子や、オイル又はエマルジョンなどの液体粒子が含まれている場合もある。
【0024】
粒子解析装置1には、上記カメラ11以外に、例えば制御部12、操作部13、表示部14及び記憶部15が備えられている。制御部12は、例えばCPU(Central Processing Unit)を含む構成であり、カメラ11、操作部13、表示部14及び記憶部15などの各部が電気的に接続されている。
【0025】
操作部13は、例えばキーボード又はマウスを含む構成であり、作業者が操作部13を操作することにより入力作業などを行うことができるようになっている。表示部14は、例えば液晶表示器などにより構成され、作業者が表示部14の表示内容を確認しながら作業を行うことができるようになっている。記憶部15は、例えばROM(Read Only Memory)、RAM(Random Access Memory)又はハードディスクなどにより構成される。
【0026】
図2A〜
図2Cは、カメラ11により撮影された画像111に基づいて粒子の解析を行う際の態様について説明するための図である。
図2Aの例では、カメラ11により撮影された画像111に、気体粒子112と、気体以外の粒子113,114とが含まれている。この場合、気体粒子112は球形であるが、気体以外の粒子113,114については、球形の粒子113もあれば、球形でない粒子114もある。
【0027】
まず、画像111に基づいて球形の粒子112,113を識別すれば、
図2Bに示すように、球形でない粒子114を除外することができる。球形でない粒子114は気体粒子ではないため、そのような粒子114を除外することにより、気体粒子である可能性が高い粒子を選別することができる。
【0028】
図2Cは、
図2Bの撮影から一定時間後に撮影された画像である。上記のようにして選別された球形の粒子112,113は、媒体中を浮上又は沈降する。すなわち、
図2Cに示すように、媒体よりも密度が小さい粒子112は媒体中を浮上し、媒体よりも密度が大きい粒子113は媒体中を沈降する。各粒子112,113の移動速度(浮上速度又は沈降速度)は、その径や密度に依存する。したがって、各粒子112,113の移動速度に基づいて、各粒子112,113が気体粒子であるか否かの識別を行うことが可能となる。
【0029】
このような気体粒子の識別は、ウルトラファインバブル及びマイクロバブルのいずれについても可能であるが、粒子が球形であるか否かを判定するために必要なカメラ11の画素数を考慮すれば、マイクロバブルの識別に特に効果的である。ウルトラファインバブルのような極めて小さい気体粒子の識別を行う場合には、気体粒子にブラウン運動が生じるため、液体試料に対して遠心力を作用させることが好ましい。
【0030】
このように、液体試料に対して遠心力を作用させた場合には、液体試料中の気体粒子は、自然浮上ではなく遠心浮上することとなる。この場合、例えば液体試料に遠心力を作用させながら、それに同期させてカメラ11による撮影を行うことにより、撮影された画像に基づいて浮上速度を算出することができる。ただし、ファインバブルに限らず、ファインバブル以外の気体粒子(気泡径が100μmよりも大きい気体粒子)を識別することも可能である。
【0031】
図3は、制御部12の構成例を示したブロック図である。制御部12は、CPUがプログラムを実行することにより、球形粒子識別部121、粒子サイズ判定部122、浮上速度算出部123、移動速度判定部124、気体粒子識別部125及び気泡径分布測定部126などとして機能する。
【0032】
球形粒子識別部121は、カメラ11により撮影された画像に基づいて、液体試料中から球形の粒子を識別する処理を行う。具体的には、カメラ11により撮影された画像の中から粒子を特定し、各粒子の画像が円形又は略円形である場合に、当該粒子を球形の粒子として識別する。すなわち、本実施形態では、完全な球形だけでなく、球形である可能性が高い粒子についても、球形の粒子として識別されるようになっている。
【0033】
上記のような球形の粒子の識別は、例えば各粒子の画像について、複数方向の寸法を比較することにより行うことができる。例えば、各粒子の縦方向及び横方向の寸法を比較し、それらの寸法が同一である場合、又は、それらの寸法差が一定の閾値以下である場合に、当該粒子を球形の粒子と識別することができる。ただし、各粒子の縦方向及び横方向の寸法を比較するような構成に限らず、これらに加えて、又は、これらの代わりに、斜め方向の寸法を比較するような構成であってもよいし、他の方法で球形の粒子を識別するような構成であってもよい。
【0034】
粒子サイズ判定部122は、カメラ11により撮影された画像に基づいて、液体試料中の粒子のサイズを判定する処理を行う。本実施形態では、球形粒子識別部121により球形と識別された粒子の径が、粒子サイズ判定部122により判定されるようになっている。
【0035】
例えば、各粒子の縦方向及び横方向の寸法を比較することにより球形の粒子を識別するような構成の場合には、縦方向の寸法をL1、横方向の寸法をL2とした場合に、下記式(1)により粒子の径Dを算出することができる。このように、球形と識別された粒子の複数方向の寸法の平均値を算出することにより、当該粒子の径を判定することができる。
D=(L1+L2)/2 ・・・(1)
【0036】
浮上速度算出部123は、粒子サイズ判定部により判定された粒子のサイズに基づいて、当該粒子が気体粒子である場合の浮上速度v
1を算出する処理を行う。本実施形態では、上記のような態様で算出された粒子の径が、記憶部15に記憶されている演算式に代入されることにより、当該粒子が気体粒子である場合の浮上速度v
1が算出されるようになっている。
【0037】
上記演算式としては、例えば下記式(2)に示すようなストークスの式を用いて粒子の浮上速度v
1(m/s)を算出することができる。なお、D
pは粒子径(m)、ρ
pは粒子の密度(kg/m
3)、ρ
fは媒体の密度(kg/m
3)、gは重力加速度(m/s
2)、μは媒体の粘度(Pa・s)である。粒子の密度ρ
pとしては、当該粒子が気体粒子である場合の実際の気体の密度を代入してもよいが、媒体の密度が十分に大きければ、気体の密度は「0」に近似することができるため、「0」を代入してもよい。
v
1=D
p2(ρ
p−ρ
f)g/18μ ・・・(2)
【0038】
移動速度判定部124は、カメラ11により撮影された画像に基づいて、粒子の移動速度v
2を判定する処理を行う。例えば、一定の時間間隔でカメラ11により複数枚(例えば2枚)の画像を撮影し、それらの一連の画像における粒子の移動距離に基づいて、粒子の移動速度v
2を判定することができる。このときに一連の画像の中のある注目粒子が同一粒子であることを特定する必要がある。この特定には、その注目粒子が同一鉛直線上にあること、一連の画像から算出された注目粒子の大きさが同じであることなどを判定材料とすることができる。このようにして判定される各粒子の移動速度v
2は、粒子の密度が媒体の密度よりも小さい場合には浮上速度となり、粒子の密度が媒体の密度よりも大きい場合には沈降速度となる。
【0039】
気体粒子識別部125は、浮上速度算出部123により算出された粒子の浮上速度v
1と、移動速度判定部124により判定された粒子の移動速度v
2とを比較する処理を行うことによって、粒子が気体粒子であるか否かを識別する。具体的には、上記浮上速度v
1と移動速度v
2とが一致する場合に、その粒子が気体粒子と識別される。このとき、浮上速度v
1と移動速度v
2が同一である場合、又は、浮上速度v
1と移動速度v
2の差が一定の閾値以下である場合に、浮上速度v
1と移動速度v
2とが一致すると判断されるようになっていてもよい。
【0040】
気泡径分布測定部126は、気体粒子識別部125により気体粒子(気泡)と識別された粒子の数と、粒子サイズ判定部122により判定された各気体粒子の径(気泡径)とに基づいて、媒体に含まれる気体粒子の気泡径分布を測定する。液体試料にファインバブルが含まれている場合には、ファインバブルの気泡径分布が得られる。測定された気泡径分布は表示部14に表示され、作業者は、表示部14に表示された気泡径分布に基づいてファインバブルの効果の評価などを行うことができる。また、目的や対象に最もふさわしいファインバブルの気泡径分布を特定し、認証制度の確立に寄与することもできる。
【0041】
図4は、液体試料中の粒子を解析する際の制御部12による処理の流れを示したフローチャートである。液体試料中の粒子を解析する際には、まず、カメラ11により液体試料中の粒子の画像が撮影される(ステップS101:画像撮影ステップ)。このとき、一定の時間間隔で複数枚(例えば2枚)の画像が連続して撮影され、それらの一連の画像における各粒子の移動距離に基づいて、各粒子の移動速度が判定される(ステップS102:移動速度判定ステップ)。
【0042】
また、撮影された画像に基づいて、液体試料中から球形の粒子が識別される(ステップS103:球形粒子識別ステップ)。そして、球形と識別された粒子については(ステップS104でYes)、その粒子の径が判定され(ステップS105:粒子サイズ判定ステップ)、判定された粒子の径に基づいて、当該粒子が気体粒子である場合の浮上速度が算出される(ステップS106:浮上速度算出ステップ)。
【0043】
ステップS106で算出された浮上速度が、ステップS102で判定された粒子の移動速度と一致する場合には(ステップS107でYes)、当該粒子が気体粒子と識別される(ステップS108:気体粒子識別ステップ)。このようにして、撮影された画像中の全ての粒子についてステップS104〜S108の処理が行われ、全ての粒子についての処理が完了すれば(ステップS109でYes)、気体粒子と識別された粒子の数と、各気体粒子の径とに基づいて、媒体に含まれる気体粒子の気泡径分布が測定される(ステップS110:気泡径分布測定ステップ)。
【0044】
このように、本実施形態では、液体試料中の粒子の画像を撮影して(ステップS101)、当該粒子のサイズを判定することにより(ステップS105)、当該粒子が気体粒子である場合の浮上速度を算出することができる(ステップS106)。そして、算出された浮上速度が、撮影された画像に基づいて判定される当該粒子の移動速度と一致すれば(ステップS107でYes)、当該粒子を気体粒子と識別することができる(ステップS108)。液体試料中の粒子が気体粒子である場合と、固体粒子又は液体粒子である場合とでは、液体試料中における粒子の浮上速度が異なるため、上記のように浮上速度に基づいて気体粒子を識別することによって、液体試料中の気体粒子をより正確に識別することができる。
【0045】
特に、本実施形態では、液体試料中から識別された球形の粒子のみについて(ステップS104でYes)、その径に基づいて当該粒子が気体粒子である場合の浮上速度を算出し(ステップS106)、算出された浮上速度に基づいて当該粒子が気体粒子であるか否かを識別することができる(ステップS107,S108)。気体粒子は球形であるため、球形の粒子のみを対象として気体粒子であるか否かの識別を行うことにより、球形以外の粒子が気体粒子と誤って識別されるのを防止することができるとともに、気体粒子ではない粒子について浮上速度の算出が無駄に行われるのを防止することができる。したがって、液体試料中の気体粒子をより正確に識別することができるとともに、処理速度の向上も期待できる。
【0046】
さらに、本実施形態では、球形と識別された粒子の径を用いることにより、ストークスの式に基づいて当該粒子の浮上速度を容易に算出することができる。これにより、液体試料中の気体粒子を識別する際の処理を簡略化することができるため、処理速度を向上させることができる。
【0047】
本実施形態のような粒子解析装置1は、液体試料中の粒子を分析するための分析装置として構成されていてもよい。この場合、例えば電子顕微鏡などの分析装置にカメラ11を設けることにより、当該分析装置に備えられた制御部12の画像処理によって粒子の解析が実現されてもよい。
【0048】
以上の実施形態では、ストークスの式に基づいて粒子の浮上速度を算出するような構成について説明した。しかし、このような構成に限らず、ストークスの式に基づいて得られる式や、ストークスの式以外の式など、他の式を用いた演算によって粒子の浮上速度を算出するような構成であってもよい。
【0049】
また、以上の実施形態では、液体試料中から球形の粒子を識別した上で、その球形と識別された粒子の径に基づいて、当該粒子が気体粒子である場合の浮上速度を算出するような構成について説明した。しかし、粒子の径を用いることなく粒子の浮上速度を算出することができる場合、又は、多少の精度を犠牲にして数多くの粒子を測定対象にする場合には、液体試料中から球形の粒子を識別する工程を省略することも可能である。この場合、粒子解析装置1に球形粒子識別部121が備えてられていないような構成であってもよい。
【符号の説明】
【0050】
1 粒子解析装置
2 容器
11 カメラ
12 制御部
13 操作部
14 表示部
15 記憶部
111 画像
112 気体粒子
112〜114 粒子
121 球形粒子識別部
122 粒子サイズ判定部
123 浮上速度算出部
124 移動速度判定部
125 気体粒子識別部
126 気泡径分布測定部