特許第6260775号(P6260775)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6260775
(24)【登録日】2017年12月22日
(45)【発行日】2018年1月17日
(54)【発明の名称】非水電解液二次電池及び蓄電装置
(51)【国際特許分類】
   H01M 10/0567 20100101AFI20180104BHJP
   H01M 10/058 20100101ALI20180104BHJP
【FI】
   H01M10/0567
   H01M10/058
【請求項の数】3
【全頁数】14
(21)【出願番号】特願2014-24175(P2014-24175)
(22)【出願日】2014年2月12日
(65)【公開番号】特開2015-153491(P2015-153491A)
(43)【公開日】2015年8月24日
【審査請求日】2016年10月19日
(73)【特許権者】
【識別番号】507151526
【氏名又は名称】株式会社GSユアサ
(74)【代理人】
【識別番号】100127513
【弁理士】
【氏名又は名称】松本 悟
(72)【発明者】
【氏名】矢吹 明法
(72)【発明者】
【氏名】岸本 顕
【審査官】 神野 将志
(56)【参考文献】
【文献】 特開2008−305772(JP,A)
【文献】 特開2012−023030(JP,A)
【文献】 特開2012−018796(JP,A)
【文献】 特開2013−254740(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 10/0567、10/058
CAplus(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
正極、負極、セパレータ及び非水電解液(ただし、温度や電圧によって活性化して環状非水溶媒の重合反応を誘導する重合反応用触媒を含むものを除く。)を備えた非水電解液二次電池であって、前記非水電解液は、モリブデン化合物(ただし、モリブデンのハロゲン化物、モリブデンのポリ酸及びポリ酸化合物を除く。)が溶解しており、かつ、LSV測定又は定電流充電を行ったときに正極電位4.2〜4.4V(vs.Li/Li)の範囲に正極活物質への充電反応以外の酸化反応電流が観察されることを特徴とする非水電解液二次電池。
【請求項2】
正極、負極、セパレータ及び非水電解液(ただし、温度や電圧によって活性化して環状非水溶媒の重合反応を誘導する重合反応用触媒を含むものを除く。)を備えた非水電解液二次電池であって、前記非水電解液は、ヘキサカルボニルモリブデン又はビス(アセチルアセトナト)モリブデンジオキシドが溶解していることを特徴とする非水電解液二次電池。
【請求項3】
ヘキサカルボニルモリブデン又はビス(アセチルアセトナト)モリブデンジオキシドが溶解している非水電解液(ただし、温度や電圧によって活性化して環状非水溶媒の重合反応を誘導する重合反応用触媒を含むものを除く。)を用いて、非水電解液二次電池を製造する、非水電解液二次電池の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、非水電解液二次電池、特に、非水電解液に特徴を有する非水電解液二次電池に関する。
【背景技術】
【0002】
リチウム二次電池に代表される非水電解液二次電池は、ノートパソコンや携帯電話などのモバイル機器の電源として用いられてきたが、近年、電気自動車(EV)、ハイブリッド自動車(HEV)、プラグインハイブリッド自動車(PHEV)などの自動車用電源としても用いられている。
【0003】
非水電解液二次電池は、一般に、正極活物質を含む正極と、負極活物質を含む負極と、セパレータと、非水溶媒及びリチウム塩を含有する非水電解液とを備えている。
非水電解液二次電池を構成する正極活物質としてはリチウム含有遷移金属酸化物が、負極活物質としてはグラファイトに代表される炭素材料が、非水電解液としては、エチレンカーボネート等の環状カーボネートとジエチルカーボネート等の鎖状カーボネートを主構成成分とする非水溶媒に六フッ化リン酸リチウム(LiPF)等の電解質を溶解したものが広く知られている。
【0004】
そして、種々の目的で、上記のような非水電解液(非水電解質)にモリブデン化合物などの添加剤を添加する発明も知られている(特許文献1〜4参照)。
【0005】
特許文献1には、特に高温状況下における非水電解質電池のサイクル特性を向上させることを目的(段落[0003]、[0005])として、非水電解質にケイモリブデン酸などのなどのヘテロポリ酸を添加する発明(請求項8参照)が開示されている。これによれば、上記化合物を添加することにより、70℃、1Cにおいて上限電圧4.2V、下限電圧3.0Vとする充放電サイクル試験での400サイクル後の1C容量維持率が、未添加の場合では65%であったのに対して84%に向上したことが示されている(段落[0223]、[0227])。
【0006】
特許文献2には、充放電効率を維持しつつ高温環境下における電池の膨張を抑制することのできる電解液およびそれを用いた電池を提供することを課題(段落[0007])として、非水電解液に二酸化二塩化モリブデンなどの周期律表第4族〜14族から選ばれる元素に酸素およびハロゲンが配位した化合物を添加する発明(請求項1)が開示されている。これによれば、上記化合物を添加することにより、4.2Vの充電状態の非水電解液二次電池における90℃で4時間放置した後の電池膨張率(電池厚みの増加率)が、未添加の場合では44%であったのに対して21%まで抑制されたことが示されている(段落、[0061]、[0069])。
【0007】
特許文献3には、充放電効率を維持しつつ高温保存時における膨張を抑制することのできる電池を提供することを目的(段落[0005])として、非水電解液に塩化モリブデンなどのハロゲン化物を添加する発明(請求項1、5)が開示されている。これによれば、上記化合物を添加することにより、4.2Vの充電状態の非水電解液二次電池における90℃で4時間放置した後の電池膨張率(電池厚みの増加率)が、未添加の場合では33%であったのに対して11%まで抑制されたことが示されている(段落、[0048]、[0052])。
【0008】
特許文献4には、高エネルギー密度を維持しつつ、正極活物質の熱暴走時の発熱挙動を抑制することにより、安全性を高めた非水系二次電池を提供することを目的(段落[0009])として、非水電解液に酸化モリブデンやモリブデン酸ジリチウムなどのモリブデン化合物を添加する発明(請求項1、段落[0036])が開示されている。これによれば、上記化合物を添加することにより、約250℃における正極活物質と電解液の発熱量を低減できことが示されている(図2、段落[0041])。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2011−181354号公報
【特許文献2】特開2009−123576号公報
【特許文献3】特開2008−305772号公報
【特許文献4】特開2005−25992号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
上記の特許文献1〜3の発明においては、非水電解液に添加したモリブデン化合物が高電圧作動下での充放電サイクル試験の寿命の改善に効果があるかどうかは確認されていない。上記の特許文献4の発明においては、非水電解液に添加した酸化モリブデンやモリブデン酸ジリチウムなどが、充放電サイクル試験の寿命の改善に効果があるかどうかは確認されていない。また、既知のモリブデン化合物である酸化モリブデンやモリブデン酸ジリチウムの添加では、特に高電圧における充放電サイクル特性の改善と電池厚みの増加抑制が不十分であった。
そこで、本発明は、上記の課題に鑑みなされたものであって、充放電サイクル特性が改善でき、又は、これに加えて電池厚みの増加が抑制できる非水電解液二次電池を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明の構成及び作用効果について、技術思想を交えて説明する。但し、作用機構については推定を含んでおり、その正否は、本発明を制限するものではない。なお、本発明は、その精神又は主要な特徴から逸脱することなく、他のいろいろな形で実施することができる。そのため、後述の実施の形態若しくは実施例は、あらゆる点で単なる例示に過ぎず、限定的に解釈してはならない。さらに、特許請求の範囲の均等範囲に属する変形や変更は、すべて本発明の範囲内のものである。
【0012】
本発明においては、上記課題を解決するために、以下の手段を採用する。
(1)正極、負極、セパレータ及び非水電解液(ただし、温度や電圧によって活性化して環状非水溶媒の重合反応を誘導する重合反応用触媒を含むものを除く。)を備えた非水電解液二次電池であって、前記非水電解液は、モリブデン化合物(ただし、モリブデンのハロゲン化物、モリブデンのポリ酸及びポリ酸化合物を除く。)が溶解しており、かつ、LSV測定又は定電流充電を行ったときに正極電位4.2〜4.4V(vs.Li/Li)の範囲に正極活物質への充電反応以外の酸化反応電流が観察されることを特徴とする非水電解液二次電池。
(2)正極、負極、セパレータ及び非水電解液(ただし、温度や電圧によって活性化して環状非水溶媒の重合反応を誘導する重合反応用触媒を含むものを除く。)を備えた非水電解液二次電池であって、前記非水電解液は、ヘキサカルボニルモリブデン又はビス(アセチルアセトナト)モリブデンジオキシドが溶解していることを特徴とする非水電解液二次電池。
(3)ヘキサカルボニルモリブデン又はビス(アセチルアセトナト)モリブデンジオキシドが溶解している非水電解液(ただし、温度や電圧によって活性化して環状非水溶媒の重合反応を誘導する重合反応用触媒を含むものを除く。)を用いて、非水電解液二次電池を製造する、非水電解液二次電池の製造方法。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、充放電サイクル特性、特に高電圧作動下での充放電サイクル特性の改善が可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】本発明に係る非水電解液二次電池の一実施形態を示す概略断面図
図2】本発明に係る非水電解液二次電池を複数個備えた蓄電装置を示す概略図
図3】ヘキサカルボニルモリブデンを添加した非水電解液を用いた3端子セルのdQ/dVプロットを示す図
図4】ビス(アセチルアセトナト)モリブデンを添加した非水電解液を用いた3端子セルのdQ/dVプロットを示す図
図5】モリブデン化合物を添加しない非水電解液を用いた3端子セルのdQ/dVプロットを示す図
図6】酸化モリブデンを添加した非水電解液を用いた3端子セルのdQ/dVプロットを示す図
図7】モリブデン酸ジリチウムを添加した非水電解液を用いた3端子セルのdQ/dVプロットを示す図
図8】モリブデン酸を添加した非水電解液を用いた3端子セルのdQ/dVプロットを示す図
図9】2−エチルヘキサン酸モリブデンを添加した非水電解液を用いた3端子セルのdQ/dVプロットを示す図
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
図1に、本発明に係る非水電解液二次電池の一実施形態である矩形状の非水電解液二次電池1の外観斜視図を示す。なお、同図は、容器内部を透視した図としている。図1に示す非水電解液二次電池1は、電極群2が電池容器3に収納されている。電極群2は、正極活物質を備える正極と、負極活物質を備える負極とが、セパレータを介して捲回されることにより形成されている。正極は、正極リード4’を介して正極端子4と電気的に接続され、負極は、負極リード5’を介して負極端子5と電気的に接続されている。
【0016】
ここで、セパレータに保持されている非水電解液は、非水溶媒と当該非水溶媒に溶解した電解質塩とを含むものであるが、本発明においては、さらに、特定のモリブデン化合物を含む点に特徴を有する。
【0017】
本発明者らは、特許文献4に示されているような従来の無機モリブデン化合物は、非水電解液に添加するとその多くが溶け残ってしまうのに対し、特定の有機モリブデン化合物は、非水電解液に添加した場合、完全に溶解し、この非水電解液存在下で、正極を作用極として定電流充電を行ったときに正極電位4.2〜4.3V(vs.Li/Li)付近に正極活物質への充電反応以外の酸化反応電流が観察されること(これは、正極を作用極としてLSV測定を行ったときに正極電位4.2〜4.3V(vs.Li/Li)付近に正極活物質への充電反応以外の酸化反応電流が観察されることも意味する)、及び、この非水電解液を備えた非水電解液二次電池は、高電圧作動下での充放電サイクル特性が改善されることを知見して、本発明を完成するに至った。この作用機構については確定的ではないが、4.3V(vs.Li/Li)を超える正極電位としたときに、添加した有機モリブデン化合物により、正極表面に非水電解液の劣化を防止する被膜が形成されるものと推察している。
【0018】
ここで、「LSV測定」(Linear Sweep Voltammetry)とは、作用極に正極を用い、対極にLi金属を用いた非水電解液二次電池を、電流が検知されない自然電位から正極の電位を線形的に高電位へ掃引したときに副反応の進行が検知できる電位掃引速度の条件で電極間に流れる電流を測定することを意味し、「定電流充電」とは、作用極に正極を、対極にLi金属を用いた非水電解液二次電池を、副反応の進行が検知できる一定電流の条件で充電して、電池電圧の変化を測定することを意味する。
【0019】
本発明において、充放電サイクル特性を改善するために、非水電解液に添加する有機モリブデン化合物は、ヘキサカルボニルモリブデン、又はビス(アセチルアセトナト)モリブデンジオキシドが好ましい。なかでも、ヘキサカルボニルモリブデンを添加することにより、上記の充放電サイクル特性の改善に加えて、非水電解液二次電池の電池厚みの増加抑制が可能となる。
【0020】
非水電解液中における有機モリブデン化合物の含有量は、充放電サイクル特性を改善するために、0.1〜5.0wt%が好ましく、0.5〜2.0wt%がより好ましい。
【0021】
本発明において、非水電解液を構成する非水溶媒は、限定されるものではなく、一般に非水電解液二次電池の非水電解液に使用される非水溶媒が使用できる。例えば、プロピレンカーボネート、エチレンカーボネート、ブチレンカーボネート、クロロエチレンカーボネート、スチレンカーボネート、カテコールカーボネート、1−フェニルビニレンカーボネート、1,2−ジフェニルビニレンカーボネート、ビニレンカーボネート、ビニルエチレンカーボネート、フルオロエチレンカーボネート、ジフルオロエチレンカーボネート、トリフルオロプロピレンカーボネート等の環状カーボネート、γ−ブチロラクトン、γ−バレロラクトン、プロピオラクトン等の環状カルボン酸エステル、ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネート、エチルメチルカーボネート、ジフェニルカーボネート等の鎖状カーボネート、酢酸メチル、酪酸メチル等の鎖状カルボン酸エステル、テトラヒドロフラン若しくはその誘導体、1,3−ジオキサン、ジメトキシエタン、ジエトキシエタン、メトキシエトキシエタン、メチルジグライム等のエーテル類、アセトニトリル、ベンゾニトリル等のニトリル類、ジオキサラン若しくはその誘導体等の単独又はそれら2種以上の混合物等を挙げることができる。特に、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート、フルオロエチレンカーボネート等の環状カーボネート及びジメチルカーボネート、ジエチルカーボネート、エチルメチルカーボネート等の鎖状カーボネートを含有するものが好ましい。また、これらの非水溶媒は、任意の割合で混合して用いることができる。
【0022】
本発明の非水電解液を構成する電解質塩(リチウム塩)は、限定されるものではなく、一般に非水電解液二次電池に使用される広電位領域において安定であるリチウム塩が使用できる。例えば、LiBF、LiPF、LiClO、LiCFSO、LiN(CFSO、LiN(CSO、LiN(CFSO)(CSO)、LiC(CFSO、LiC(CSO等が挙げられる。これらは単独で用いてもよく、2種以上混合して用いてもよい。
【0023】
非水電解液における電解質塩の濃度としては、優れた高率放電特性を有する非水電解液二次電池を確実に得るために、0.1mol/l〜5.0mol/lが好ましく、1.0mol/l〜2.0mol/lがより好ましい。
【0024】
本発明の非水電解液二次電池を構成する正極に使用する正極活物質は、電気化学的にリチウムイオンを挿入・脱離可能なものであれば、特に制限はなく、一般に非水電解液二次電池の正極活物質に使用される正極活物質が使用できる。例えば、遷移金属酸化物、遷移金属硫化物、リチウム遷移金属複合酸化物、リチウム含有ポリアニオン金属複合化合物等が挙げられる。遷移金属酸化物としては、マンガン酸化物、鉄酸化物、銅酸化物、ニッケル酸化物、バナジウム酸化物、遷移金属硫化物としては、モリブデン硫化物、チタン硫化物等が挙げられる。リチウム遷移金属複合酸化物としては、リチウムマンガン複合酸化物、リチウムニッケル複合酸化物、リチウムコバルト複合酸化物、リチウムニッケルコバルト複合酸化物、リチウムニッケルマンガン複合酸化物、リチウムニッケルコバルトマンガン複合酸化物等が挙げられる。リチウム含有ポリアニオン金属複合化合物としては、リン酸鉄リチウム、リン酸コバルトリチウム等が挙げられる。さらに、ジスルフィド、ポリピロール、ポリアニリン、ポリパラスチレン、ポリアセチレン、ポリアセン系材料等の導電性高分子化合物、擬グラファイト構造炭素質材料等が挙げられる。中でもリチウムニッケルコバルトマンガン複合酸化物が高容量の点から好ましい。
【0025】
正極集電体の材質としては特に制限は無く、公知のものを任意に用いることができる。具体例としては、アルミニウム、ステンレス鋼、ニッケルメッキ、チタン、タンタル等の金属材料、カーボンクロス、カーボンペーパー等の炭素質材料が挙げられる。中でも金属材料、特にアルミニウムが好ましい。
【0026】
本発明の非水電解液二次電池を構成する負極に使用する負極活物質は、電気化学的にリチウムイオンを挿入・脱離可能なものであれば、特に制限はなく、炭素質材料、酸化錫や酸化ケイ素等の金属酸化物、金属複合酸化物、リチウム単体やリチウムアルミニウム合金等のリチウム合金、SnやSi等のリチウムと合金形成可能な金属等が挙げられる。炭素質材料としては、天然グラファイト、人造グラファイト、コークス類、難黒鉛化性炭素、低温焼成易黒鉛化性炭素、フラーレン、カーボンナノチューブ、カーボンブラック、活性炭等が挙げられる。これらは、1種を単独で用いても、2種以上を任意の組み合わせ及び比率で併用しても良い。中でも炭素質材料が安全性の点から好ましい。
【0027】
負極集電体としては、公知のものを任意に用いることができる。例えば、銅、ニッケル、ステンレス鋼、ニッケルメッキ鋼等の金属材料が挙げられ、中でも銅が加工し易さとコストの点から好ましい。
【0028】
セパレータとしては、微多孔性膜や不織布等を、単独あるいは併用することが好ましい。セパレータを構成する材料としては、例えばポリエチレン、ポリプロピレン等に代表されるポリオレフィン系樹脂、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート等に代表されるポリエステル系樹脂、ポリフッ化ビニリデン、フッ化ビニリデン−ヘキサフルオロプロピレン共重合体、フッ化ビニリデン−パーフルオロビニルエーテル共重合体、フッ化ビニリデン−テトラフルオロエチレン共重合体、フッ化ビニリデン−トリフルオロエチレン共重合体、フッ化ビニリデン−フルオロエチレン共重合体、フッ化ビニリデン−ヘキサフルオロアセトン共重合体、フッ化ビニリデン−エチレン共重合体、フッ化ビニリデン−プロピレン共重合体、フッ化ビニリデン−トリフルオロプロピレン共重合体、フッ化ビニリデン−テトラフルオロエチレン−ヘキサフルオロプロピレン共重合体、フッ化ビニリデン−エチレン−テトラフルオロエチレン共重合体等を挙げることができる。中でもポリエチレン、ポリプロピレン等に代表されるポリオレフィン系樹脂を主成分とする微多孔性膜であることが好ましい。
【0029】
その他の電池の構成要素としては、端子、絶縁板、電池ケース等があるが、これらの部品は従来用いられてきたものをそのまま用いて差し支えない。
【0030】
本発明に係る非水電解液二次電池の形状については特に限定されるものではなく、円筒型電池、角型電池(矩形状の電池)、扁平型電池等が一例として挙げられる。本発明は、上記の非水電解液二次電池を複数備える蓄電装置としても実現することができる。蓄電装置の一実施形態を図2に示す。図2において、蓄電装置30は、複数の蓄電ユニット20を備えている。それぞれの蓄電ユニット20は、複数の非水電解液二次電池1を備えている。前記蓄電装置30は、電気自動車(EV)、ハイブリッド自動車(HEV)、プラグインハイブリッド自動車(PHEV)等の自動車用電源として搭載することができる。
【実施例】
【0031】
以下、実施例及び比較例を用いて本発明を具体的に説明するが、本発明はその要旨を超えない限り、これらの実施例に限定されるものではない。
【0032】
(実施例1)
1mol/LのLiPFを含有するエチレンカーボネート(EC):エチルメチルカーボネート(EMC)がvol%で30:70の混合溶媒に、ヘキサカルボニルモリブデンを0.1wt%添加して、実施例1に係る非水電解液を作製した。ヘキサカルボニルモリブデンが完全に溶解した無色の溶液が得られた。
【0033】
(実施例2)
1mol/LのLiPFを含有するエチレンカーボネート(EC):エチルメチルカーボネート(EMC)がvol%で30:70の混合溶媒に、ヘキサカルボニルモリブデンを0.5wt%添加して、実施例2に係る非水電解液を作製した。ヘキサカルボニルモリブデンが完全に溶解した無色の溶液が得られた。
【0034】
(実施例3)
1mol/LのLiPFを含有するエチレンカーボネート(EC):エチルメチルカーボネート(EMC)がvol%で30:70の混合溶媒に、ヘキサカルボニルモリブデンを1.0wt%添加して、実施例3に係る非水電解液を作製した。ヘキサカルボニルモリブデンが完全に溶解した無色の溶液が得られた。
【0035】
(実施例4)
1mol/LのLiPFを含有するエチレンカーボネート(EC):エチルメチルカーボネート(EMC)がvol%で30:70の混合溶媒に、ヘキサカルボニルモリブデンを2.0wt%添加して、実施例4に係る非水電解液を作製した。ヘキサカルボニルモリブデンがわずかに溶け残った無色の溶液が得られた。
【0036】
(実施例5)
1mol/LのLiPFを含有するEC:EMCがvol%で30:70の混合溶媒に、ビス(アセチルアセトナト)モリブデンジオキシドを0.1wt%添加して、実施例5に係る非水電解液を作製した。ビス(アセチルアセトナト)モリブデンジオキシドが完全に溶解した黄色透明の溶液が得られた。
【0037】
(実施例6)
1mol/LのLiPFを含有するEC:EMCがvol%で30:70の混合溶媒に、ビス(アセチルアセトナト)モリブデンジオキシドを0.5wt%添加して、実施例6に係る非水電解液を作製した。ビス(アセチルアセトナト)モリブデンジオキシドが完全に溶解した黄色透明の溶液が得られた。
【0038】
(実施例7)
1mol/LのLiPFを含有するEC:EMCがvol%で30:70の混合溶媒に、ビス(アセチルアセトナト)モリブデンジオキシドを1.0wt%添加して、実施例7に係る非水電解液を作製した。ビス(アセチルアセトナト)モリブデンジオキシドが完全に溶解した黄色透明の溶液が得られた。
【0039】
(実施例8)
1mol/LのLiPFを含有するEC:EMCがvol%で30:70の混合溶媒に、ビス(アセチルアセトナト)モリブデンジオキシドを2.0wt%添加して、実施例8に係る非水電解液を作製した。ビス(アセチルアセトナト)モリブデンジオキシドが完全に溶解した黄色透明の溶液が得られた。
【0040】
(比較例1)
ヘキサカルボニルモリブデンを添加していないこと以外は実施例3と同様にして、比較例1に係る非水電解液を作製した。
【0041】
(比較例2)
ヘキサカルボニルモリブデンの代わりに酸化モリブデンを添加したこと以外は実施例3と同様にして、比較例2に係る非水電解液を作製した。酸化モリブデンは完全には溶解しないで溶け残っていた。
【0042】
(比較例3)
ヘキサカルボニルモリブデンの代わりにモリブデン酸ジリチウムを添加したこと以外は実施例3と同様にして、比較例3に係る非水電解液を作製した。モリブデン酸ジリチウムは完全には溶解しないで溶け残っていた。
【0043】
(比較例4)
ヘキサカルボニルモリブデンの代わりにモリブデン酸を添加したこと以外は実施例3と同様にして、比較例4に係る非水電解液を作製した。モリブデン酸は完全には溶解しないで溶け残っていた。
【0044】
(比較例5)
ヘキサカルボニルモリブデンの代わりに2−エチルヘキサン酸モリブデンを添加したこと以外は実施例3と同様にして、比較例5に係る非水電解液を作製した。2−エチルヘキサン酸モリブデンが完全には溶解しないで溶け残った赤褐色の溶液が得られた。
【0045】
(正極の作製)
正極活物質としてLiNi1/3Mn1/3Co1/3を用い、正極活物質:PVdF:AB=93:3:4(質量比)の合材を、正極活物質が単位電極面積あたり17mg/cm含まれるようにAl箔上にコート後、プレスして正極を得た。
【0046】
(3端子セルの作製)
上記のようにして作製した正極を作用極とし、Li金属を対極及び参照極として、作用極と対極が一定の間隔を空けて対向するように固定した。参照極は、作用極及び対極のいずれにも接触しないよう、一定の間隔を空けて固定した。次に、実施例3及び7、比較例1〜5に係る非水電解液を一定量入れたビーカー中に、作用極、対極及び参照極が完全に浸漬するように配置し、密閉することによって3端子セルを作製した。
【0047】
(定電流充電試験)
上記のようにして作製した3端子セルを、6Vを作用極の上限電位として0.02CA(1CA=15mA)の電流を流し続けたときの電位変化を測定し、dQ/dVプロットにあらわした。定電流充電試験の結果を図3〜9に示す。
【0048】
図3及び4に示すように、ヘキサカルボニルモリブデン及びビス(アセチルアセトナト)モリブデンジオキシドを添加した実施例3及び7の非水電解液を用いた電池では、定電流充電過程のdQ/dVプロットにおいて、正極電位4.2〜4.3V(vs.Li/Li)付近にスケールオーバーしたピークが観察された。このプロットでピークが現れることは、定電流充電の充電曲線においてその電位付近に平坦部が現れることと対応する。また、図5に示すように、モリブデン化合物を添加しない比較例1の非水電解液を用いた電池では、定電流充電過程のdQ/dVプロットにおいて正極電位5.2〜5.3V(vs.Li/Li)付近に同様のピークが観察される。従って、4.2〜4.3V(vs.Li/Li)付近のピークは有機モリブデン化合物の分解によるものであり、5.2〜5.3V(vs.Li/Li)付近のピークは非水電解液を構成する非水溶媒の分解によるものと考えられる。これに対して、図6〜9に示すように、無機モリブデン化合物や2−エチルヘキサン酸モリブデンを添加した比較例2〜5の非水電解液を用いた電池では、定電流充電過程のdQ/dVプロットにおいて正極電位4.2〜4.3V(vs.Li/Li)付近にピークは観察されなかった。これらのデータより、実施例3及び7の非水電解液、即ち、LSV測定又は定電流充電を行ったときに正極電位4.2〜4.4V(vs.Li/Li+)の範囲に正極活物質への充電反応以外の酸化反応電流が観察される非水電解液に添加したヘキサカルボニルモリブデン及びビス(アセチルアセトナト)モリブデンジオキシド等の有機モリブデン化合物は、比較例2〜5の非水電解液に添加したモリブデン化合物と非水電解液中における挙動が異なることが推測される。
【0049】
(負極の作製)
負極活物質として黒鉛を用い、負極活物質:SBR:CMCが96.7:2.1:1.2(質量比)の合材を、負極活物質が単位電極面積あたり10mg/cm含まれるようにCu箔上にコート後、プレスして負極を得た。
【0050】
(非水電解液二次電池の作製)
上記のようにして作製した正極、負極を、ポリエチレンからなるセパレータを介して捲回して得た電極群2を電池容器3に挿入した。実施例1〜8、比較例1〜に係る非水電解液を一次注液し、30分静置した後、0.2CA(1CA=800mA)の電流値で90分間予備充電し、1時間静置した。次に、二次注液した後、封口して非水電解液二次電池1を作製した。
【0051】
(初期充放電)
上記のようにして作製した非水電解液二次電池について、温度25℃の下、以下の条件(1CA=800mA)で、2サイクルの初期充放電を行った。
1サイクル目について、充電は、電流0.2CA、電圧4.35V、終止時間8時間の定電流定電圧充電とし、放電は、電流0.2CA、終止電圧2.75Vの定電流放電とした。
2サイクル目について、充電は、電流1CA、電圧4.35V、終止時間3時間の定電流定電圧充電とし、放電は、電流1CA、終止電圧2.75Vの定電流放電とした。
【0052】
(充放電サイクル試験)
初期充放電後の非水電解液二次電池について、温度45℃の下、以下の条件(1CA=800mA)で、充放電サイクル試験を行った。
充電は、電流1CA、電圧4.35V、終止時間3時間の定電流定電圧充電とし、放電は、電流1CA、終止電圧2.75Vの定電流放電とした。
1サイクル目の放電容量に対するあるサイクルの放電容量の割合をそのサイクルの放電容量維持率とした。
【0053】
(電池厚みの測定)
初期充放電後の電池厚みと充放電サイクル試験100サイクル後の電池厚みをノギスを用いて測定した。
【0054】
充放電サイクル試験の結果を80サイクル後の放電容量維持率で比較して表1に示す。また、初期充放電後の電池厚みに対する100サイクル後の電池厚み増加率を、表2に示す。
【0055】
【表1】
【0056】
【表2】
【0057】
表1より、本発明の有機モリブデン化合物を添加し、LSV測定又は定電流充電を行ったときに正極電位4.2〜4.4V(vs.Li/Li)の範囲に正極活物質への充電反応以外の酸化反応電流が観察される非水電解液を用いた電池は、比較例に係るモリブデン化合物を添加した非水電解液を用いた電池(正極電位4.2〜4.4V(vs.Li/Li)の範囲に正極活物質への充電反応以外の酸化反応電流が観察されない)と比較して、80サイクル後の放電容量維持率が高く、充放電サイクル特性が優れていることがわかる。
また、表2より、有機モリブデン化合物として、ヘキサカルボニルモリブデンを用いた場合には、充放電サイクル特性の改善に加えて、非水電解液二次電池の電池厚みの増加も抑制されていることがわかる。
【0058】
(符号の説明)
1 非水電解液二次電池
2 電極群
3 電池容器
4 正極端子
4’ 正極リード
5 負極端子
5’ 負極リード
20 蓄電ユニット
30 蓄電装置
【産業上の利用可能性】
【0059】
本発明に係る非水電解液二次電池は、充放電サイクル特性が優れているので、電気自動車、ハイブリッド自動車、プラグインハイブリッド自動車などの自動車用電源として有用である。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9