特許第6260839号(P6260839)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 積水ハウス株式会社の特許一覧

<>
  • 特許6260839-貫通部耐火部材及び壁貫通部施工方法 図000002
  • 特許6260839-貫通部耐火部材及び壁貫通部施工方法 図000003
  • 特許6260839-貫通部耐火部材及び壁貫通部施工方法 図000004
  • 特許6260839-貫通部耐火部材及び壁貫通部施工方法 図000005
  • 特許6260839-貫通部耐火部材及び壁貫通部施工方法 図000006
  • 特許6260839-貫通部耐火部材及び壁貫通部施工方法 図000007
  • 特許6260839-貫通部耐火部材及び壁貫通部施工方法 図000008
  • 特許6260839-貫通部耐火部材及び壁貫通部施工方法 図000009
  • 特許6260839-貫通部耐火部材及び壁貫通部施工方法 図000010
  • 特許6260839-貫通部耐火部材及び壁貫通部施工方法 図000011
  • 特許6260839-貫通部耐火部材及び壁貫通部施工方法 図000012
  • 特許6260839-貫通部耐火部材及び壁貫通部施工方法 図000013
  • 特許6260839-貫通部耐火部材及び壁貫通部施工方法 図000014
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】6260839
(24)【登録日】2017年12月22日
(45)【発行日】2018年1月17日
(54)【発明の名称】貫通部耐火部材及び壁貫通部施工方法
(51)【国際特許分類】
   H02G 3/22 20060101AFI20180104BHJP
   E04B 1/94 20060101ALI20180104BHJP
   F16L 5/04 20060101ALI20180104BHJP
   F16L 5/02 20060101ALI20180104BHJP
【FI】
   H02G3/22
   E04B1/94 F
   F16L5/04
   F16L5/02 F
【請求項の数】5
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2016-253947(P2016-253947)
(22)【出願日】2016年12月27日
【審査請求日】2017年1月12日
(73)【特許権者】
【識別番号】000198787
【氏名又は名称】積水ハウス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100080182
【弁理士】
【氏名又は名称】渡辺 三彦
(72)【発明者】
【氏名】輕部 元喜
【審査官】 北嶋 賢二
(56)【参考文献】
【文献】 特開2000−240854(JP,A)
【文献】 特開2009−197479(JP,A)
【文献】 特開2013−023838(JP,A)
【文献】 特開2016−112345(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02G 3/22
E04B 1/94
F16L 5/02
F16L 5/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
2つの壁面体を互いに間隔を開けて配置した壁部に形成される貫通孔に設けられる貫通部耐火部材であって、
鋼製で軸方向の両端にフランジが一体に形成された略筒状に形成され前記貫通孔の長さよりも長尺な本体部と、
前記本体部の内周面に環状に設けられる熱膨張部材と、
前記本体部及び前記熱膨張部材の内側に設けられ、少なくとも前記貫通孔に配線又は配管される長尺体を保持可能な柔軟性を有し、内周側に凹凸形状を有する発泡体と、
を備え、
前記本体部は、周方向の一部に当該本体部の軸方向に沿って切断される切れ部が形成されるとともに、
前記熱膨張部材、前記発泡体のそれぞれ周方向の一部には、当該切れ部と整合する位置に前記本体部の軸方向に沿って切断された割り部が形成されており、
前記本体部の当該切れ部を挟んで両側部には互いに係止及び離反可能な係止手段が設けられ、当該係止手段は、前記本体部の前記切れ部を挟んで一方の側部に設けられる係止孔と、他方の側部に設けられ当該係止孔に引っ掛かる係止爪とを有するものであり、
前記壁部は複数の厚さが設定されているとともに、前記本体部は最も厚い壁部の厚さよりも長いことを特徴とする貫通部耐火部材
【請求項2】
2つの壁面体を互いに間隔を開けて配置した壁部に形成される貫通孔に設けられる貫通部耐火部材であって、
鋼製で略筒状に形成され前記貫通孔の長さよりも長尺な本体部と、
前記本体部の内周面に環状に設けられる熱膨張部材と、
前記本体部及び前記熱膨張部材の内側に設けられ、少なくとも前記貫通孔に配線又は配管される長尺体を保持可能な柔軟性を有する発泡体と、
を備え、
前記本体部は、周方向の一部に当該本体部の軸方向に沿って切断される切れ部が形成されるとともに、
前記熱膨張部材、前記発泡体のそれぞれ周方向の一部には、当該切れ部と整合する位置に前記本体部の軸方向に沿って切断された割り部が形成されており、
前記本体部の当該切れ部を挟んで両側部には互いに係止及び離反可能な係止手段が設けられる貫通部耐火部材を用いる長尺体の壁貫通部施工方法であって、
前記壁面体は、複数の板体を面一に並べて形成されるものであり、
互いに隣接する2枚の前記板体の側縁には、それぞれ半円状の切り欠きが形成されており、
前記長尺体を配線又は配管する配設工程と、
前記長尺体を前記貫通部耐火部材に挿通させる挿通工程と、
前記長尺体が挿通された前記貫通部耐火部材を前記板体の前記切り欠きで挟んで前記壁面体を形成する壁面形成工程と、
を備えることを特徴とする長尺体の壁貫通部施工方法。
【請求項3】
前記挿通工程は、前記切れ部及び前記割り部を広げて間隙を形成し、当該間隙から前記貫通部耐火部材に前記長尺体を挿入することを特徴とする請求項2に記載の長尺体の壁貫通部施工方法。
【請求項4】
前記本体部は軸方向の両端にフランジが形成されることを特徴とする請求項2又は請求項3に記載の長尺体の壁貫通部施工方法
【請求項5】
前記係止手段は、前記本体部の前記切れ部を挟んで一方の側部に設けられる係止孔と、他方の側部に設けられ当該係止孔に引っ掛かる係止爪とを有することを特徴とする請求項2から請求項4のいずれかに記載の長尺体の壁貫通部施工方法
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、空間を隔てる被貫通部材に配管やケーブルなどの長尺体を貫通するための貫通孔の耐火性能を確保するための貫通部耐火部材及び当該貫通部耐火部材を用いた耐火施工方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
建造物の空間を隔てる耐火構造の壁部には、各種の配管やケーブルなどの長尺体を各空間に導入するための貫通孔が設けられる。したがって、例えば一方の空間で火災が発生すると、貫通孔を通過して、火災が建造物全体に広がり、甚大な被害をもたらすおそれがある。
【0003】
そこで、例えば、このような壁部を貫通する貫通孔の耐火構造としては、例えば、貫通孔に挿入される配線又は配管の周りと貫通孔の周りとを塞ぐように熱膨張テープを貼り付ける方法が知られている(例えば特許文献1)。また、RCの壁部の貫通孔に鋼製スリーブを装着して、当該鋼製スリーブの両端に熱膨張性材料からなるブッシングを取り付ける方法も知られている(例えば特許文献2)。
【0004】
これらの方法によると、一方の空間で火災が発生しても、熱膨張テープ又は熱膨張性材料からなるブッシングが貫通孔を塞ぐので火災が壁部内部や隣の空間に延焼することを防止できる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2006−149079号公報
【特許文献2】特開2016−172997号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、例えば木造や鉄骨造の住宅や共同住宅においては、躯体完成後、界壁や間仕切壁等の壁部の完成前に配線等の工事が行われる場合が多い。特許文献1のように、貫通孔の周り及び当該貫通孔に挿入される配線等の周りに熱膨張テープを貼り付ける工法においては、配線等の工事が終わった後、壁部の工事を行い、その後、熱膨張テープで配線周りを補修する作業を行う必要があるので、配線等の施工を行う設備工は、配線等の工事の後、壁部が完成するまでの間現場を離れ、壁部の完成後再び現場に戻って熱膨張テープの貼り付け作業を行う必要がある。また、タイミングによっては、天井の石膏ボードが固定されてしまうと、壁部の天井懐内に設けられた貫通孔にアクセスできなくなるため工事が熱膨張テープの貼り付け作業ができなくなる問題もある。また、耐火性能を確保するために熱膨張テープは隙間無く貼り付ける必要があるが、現場での施工となるので確実に不備なく貼り付けることは難しい。
【0007】
また、特許文献2のように、RCの壁部の貫通孔に鋼製スリーブを装着する工法は、コンクリートの打設によって壁部と貫通孔とが同時に完成するので、壁部の完成前に配線等の工事を行うことはできず、上述のような界壁や間仕切壁等の壁部の完成前に配線等の工事を行う場合には、このような工法は採用できない。
【0008】
そこで本発明は、壁部の完成前に配線等の工事が行われる場合にも用いることができる貫通部耐火部材及び壁貫通部施工方法であって、配線等の工事の際にケーブルなどの長尺体の周りを覆うことができ、壁部の完成後に作業が必要とならない貫通部耐火部材及び当該貫通部耐火部材を用いた壁貫通部施工方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の貫通部耐火部材は、2つの壁面体を互いに間隔を開けて配置した壁部に形成される貫通孔に設けられる貫通部耐火部材であって、鋼製で軸方向の両端にフランジが一体に形成された略筒状に形成され前記貫通孔の長さよりも長尺な本体部と、前記本体部の内周面に環状に設けられる熱膨張部材と、前記本体部及び前記熱膨張部材の内側に設けられ、少なくとも前記貫通孔に配線又は配管される長尺体を保持可能な柔軟性を有し、内周側に凹凸形状を有する発泡体と、を備え、前記本体部は、周方向の一部に当該本体部の軸方向に沿って切断される切れ部が形成されるとともに、前記熱膨張部材、前記発泡体のそれぞれ周方向の一部には、当該切れ部と整合する位置に前記本体部の軸方向に沿って切断された割り部が形成されており、前記本体部の当該切れ部を挟んで両側部には互いに係止及び離反可能な係止手段が設けられ、当該係止手段は、前記本体部の前記切れ部を挟んで一方の側部に設けられる係止孔と、他方の側部に設けられ当該係止孔に引っ掛かる係止爪とを有するものであり、前記壁部は複数の厚さが設定されているとともに、前記本体部は最も厚い壁部の厚さよりも長いことを特徴としている。
【0010】
本発明の長尺体の壁貫通部施工方法は、2つの壁面体を互いに間隔を開けて配置した壁部に形成される貫通孔に設けられる貫通部耐火部材であって、鋼製で略筒状に形成され前記貫通孔の長さよりも長尺な本体部と、前記本体部の内周面に環状に設けられる熱膨張部材と、前記本体部及び前記熱膨張部材の内側に設けられ、少なくとも前記貫通孔に配線又は配管される長尺体を保持可能な柔軟性を有する発泡体と、を備え、前記本体部は、周方向の一部に当該本体部の軸方向に沿って切断される切れ部が形成されるとともに、前記熱膨張部材、前記発泡体のそれぞれ周方向の一部には、当該切れ部と整合する位置に前記本体部の軸方向に沿って切断された割り部が形成されており、前記本体部の当該切れ部を挟んで両側部には互いに係止及び離反可能な係止手段が設けられる貫通部耐火部材を用いる長尺体の壁貫通部施工方法であって、前記壁面体は、複数の板体を面一に並べて形成されるものであり、互いに隣接する2枚の前記板体の側縁には、それぞれ半円状の切り欠きが形成されており、前記長尺体を配線又は配管する配設工程と、前記長尺体を前記貫通部耐火部材に挿通させる挿通工程と、前記長尺体が挿通された前記貫通部耐火部材を前記板体の前記切り欠きで挟んで前記壁面体を形成する壁面形成工程と、を備えることを特徴としている。
【0011】
本発明の長尺体の壁貫通部施工方法は、前記切れ部及び前記割り部を広げて間隙を形成し、当該間隙から前記貫通部耐火部材に前記長尺体を挿入することを特徴としている。
【0012】
本発明の長尺体の壁貫通部施工方法は、前記本体部は軸方向の両端にフランジが形成されることを特徴とする長尺体の壁貫通部施工方法。
【0013】
本発明の長尺体の壁貫通部施工方法は、前記係止手段は、前記本体部の前記切れ部を挟んで一方の側部に設けられる係止孔と、他方の側部に設けられ当該係止孔に引っ掛かる係止爪とを有することを特徴としている。
【発明の効果】
【0014】
本発明の貫通部耐火部材によると、2つの壁面体を互いに間隔を開けて配置した壁部に形成される貫通孔に貫通部耐火部材は設けられている。貫通部耐火部材は、鋼製の略筒状であり、貫通孔の長さよりも長尺である本体部を有しているので、2つの壁面体からなる壁部に形成される貫通孔に挿入した状態で固定することができる。貫通部耐火部材は、本体部の内周面に環状に設けられる熱膨張部材と、本体部及び熱膨張部材の内側に設けられ、少なくとも貫通孔に配線又は配管される長尺体を保持可能な柔軟性を有する発泡体と、を備えているので、壁部によって隔てられた一方の空間に火災が発生した場合でも熱膨張部材によって貫通孔を閉じることができ、貫通孔の耐火性能を確保することができる。また、本体部は、周方向の一部に本体部の軸方向に沿って切断される切れ部が形成されているとともに、熱膨張部材及び発泡体のそれぞれ周方向の一部には、切れ部と整合する位置に本体部の軸方向に沿って切断された割り部が形成されているので、貫通部耐火部材に長尺体を端部から挿入するのではなく、切れ部及び割り部を広げて間隙を形成し、この間隙を通して長尺体を貫通部耐火部材の内部に挿入することができ、簡単に当該貫通部耐火部材で長尺体の貫通孔に挿通する部分の外周を覆うことができる。そして、本体部の切れ部を挟んで両側部には互いに係止及び離反可能な係止手段が設けられているので、長尺体を貫通部耐火部材の内部に挿入した後、係止手段により本体部の両側部を互いに係止することで、長尺体が貫通部耐火部材に挿入された状態で切れ部を閉じることができ、壁部が完成して貫通孔に貫通部耐火部材が固定されるまでの間に、長尺体から貫通部耐火部材が脱落することを防止することができる。
【0015】
本発明の貫通部耐火部材によると、本体部は軸方向の両端にフランジが形成されるので、貫通部耐火部材が貫通孔に固定された後、長尺体を本体部の軸方向の差込方向または引抜方向へ移動させる場合であっても、フランジが壁面体に引っ掛かるので、貫通孔から貫通部耐火部材が脱落することを防止できる。
【0016】
本発明の貫通部耐火部材によると、係止手段は、本体部の切れ部を挟んで一方の側部に設けられる係止孔と、他方の側部に設けられ係止孔に引っ掛かる係止爪とを有するので、長尺体を貫通部耐火部材の内部に挿入した後、側部同士を重ね合わせて係止孔に係止爪を引っ掛けることで簡単に係止することができ、長尺体から貫通部耐火部材が脱落することを防止することができる。
【0017】
本発明の長尺体の壁貫通部施工方法によると、壁面体が複数の板体を面一に並べて形成されるものであり、互いに隣接する2枚の板体の側縁に、それぞれ半円状の切り欠きが形成されており、長尺体が挿通された貫通部耐火部材を板体の切り欠きで挟んで壁面体を形成するので、貫通部耐火部材を容易且つ確実に壁面体の貫通孔に固定することができる。
【0018】
本発明の長尺体の壁貫通部施工方法によると、挿通工程は、切れ部及び割り部を広げて間隙を形成し、当該間隙から貫通部耐火部材に長尺体を挿入するので、簡単に長尺体を貫通部耐火部材に挿入することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1】貫通部耐火部材の全体構成を示す断面図。
図2】貫通部耐火部材の全体構成を示す斜視図。
図3】貫通部耐火部材の本体部の切れ部を広げて間隙を形成した状態を示す斜視図。
図4】(A)は、本体部の係止孔が設けられている一方の側部と、係止爪が設けられている他方の側部とが重なるように本体部を弾性変形させた状態を示す一部省略断面図、(B)は、係止爪を係止孔に係止して本体部を円筒状に保持した状態を示す一部省略断面図。
図5】長尺体を貫通部耐火部材に挿通させる挿通工程を示す図。
図6】挿通工程を完了し、本体部の係止爪を係止孔に係止した状態を示す図。
図7】長尺体が挿通された貫通部耐火部材の周りに壁面体を形成する前の状態を示す図。
図8】長尺体が挿通された貫通部耐火部材を板体の切り欠きで挟んで壁面形成工程を完了した状態を示す斜視図。
図9】長尺体が挿通された貫通部耐火部材を板体の切り欠きで挟んで壁面形成工程を完了した状態を示す断面図。
図10】貫通部耐火部材を用いてRCのコンクリート壁を設ける方法であり、コンクリートを打設する前の状態を示す断面図。
図11】貫通部耐火部材を用いてRCのコンクリート壁を設ける方法であり、コンクリートを打設した状態を示す断面図。
図12】貫通部耐火部材を用いてRCのコンクリート壁を設ける方法であり、コンクリートを打設・養生した後、型枠を外した状態を示す断面図。
図13】貫通部耐火部材を用いてRCのコンクリート壁を設ける方法であり、コンクリート壁の完成後、長尺体を貫通部耐火部材の内側に挿入した状態を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明に係る貫通部耐火部材1の最良の実施形態について各図を参照しつつ説明する。貫通部耐火部材1は、図8及び図9に示すように、2つの壁面体2を互いに間隔を開けて配置した壁部3に形成される貫通孔4に設けられ、当該貫通孔4の耐火性能を確保する部材である。壁部3は例えば集合住宅の界壁であり、耐火性を有する石膏ボードの板体5で構成された2つの壁面体2を図示しない壁下地に固定して形成している。なお壁部3は、集合住宅の界壁に限定されるものではなく、例えば間仕切り壁であっても良い。
【0021】
貫通部耐火部材1は、図1に示すように、略筒状の本体部6と、本体部6の内周面に環状に設けられる熱膨張部材7と、本体部6及び熱膨張部材7の内側に設けられる発泡体8と、を備えている。
【0022】
本体部6は、耐火性を有する薄い鋼板を略円筒状に成形したものである。本体部6はその両端にそれぞれフランジ9が形成されている。本体部6の軸方向の長さは、壁部3の厚さよりも長い。すなわち、本体部6の軸方向の長さは壁部3を貫通する貫通孔4の長さよりも長い。例えば壁部3の厚さが複数設定されている場合には、本体部6の軸方向の長さは最も厚い壁部3の厚さよりも長く形成されている。このように構成することで、いずれの厚さの壁部3が配置される場合であっても貫通部耐火部材1を壁部3に形成された貫通孔4に固定することができる。
【0023】
本体部6には、図2及び図3に示すように、周方向の一部に当該本体部6の軸方向に沿って切断される切れ部10が形成されており、切れ部10を開いた場合に本体部6は側面視C字状となる。本体部6の切れ部10を挟んで両側部12a,12bには互いに係止及び離反可能な係止手段11が形成されている。係止手段11は、図4に示すように、本体部6の切れ部10を挟んで一方の側部12aに設けられる係止孔11aと、他方の側部12bに設けられる係止爪11bとを有している。両側の側部12a,12bのうち、一方の側部12aが径方向外側に配置され、他方の側部12bが径方向内側に配置されて重ね合わせられる。係止爪11bは係止孔11aに挿入されて、当該係止孔11aに係止されるように形成されており、係止爪11bが係止孔11aに係止されることによって、本体部6の切れ部10の間隙が閉じて、本体部6は円筒状となる。そして、係止爪11bが係止孔11aに係止されて切れ部10の間隙が閉じた状態のときに本体部6の径は貫通孔4の径と略等しくなる。
【0024】
熱膨張部材7は、本体部6を切れ部10の隙間を閉じた状態で当該本体部6の内周面の全周にわたって環状に形成されている。熱膨張部材7は、火災時等の熱によって膨張するものである。そして、本体部6および熱膨張部材7の内側には、発泡体8が収容される。発泡体8は、例えばウレタン発泡体であり、難燃性スポンジであることが望ましい。発泡体8は、内周側に凹凸形状を有しており、貫通部耐火部材1の内側に長尺体13を挿入した場合に、発泡体8が当該長尺体13の形状に応じて容易に変形し長尺体13を支持することができる形状である。発泡体8の形状はこれに限定されるものではなく、長尺体13を挿入したときに長尺体13をほとんど隙間無く保持することができる形状であれば如何なる形状であってもよい。
【0025】
熱膨張部材7及び発泡体8は本体部6の軸方向に沿ってそれぞれの周方向の一部に、本体部6の切れ部10と整合する割り部14が形成されている。本体部6の切れ部10を挟んで両側部12a,12bのうち、係止孔11aが形成された一方の側部12aの径方向内側には当該係止孔11aを塞がないように、熱膨張部材7及び発泡体8の端縁が切り欠けており、係止爪11bが形成された他方の側部12bの径方向内側には熱膨張部材7及び発泡体8の端縁が当該他方の側部12bの縁と整合する位置まで延びている。
【0026】
図3に示すように本体部6の切れ部10を開いた状態で、図4(A)に示すように、本体部6の係止孔11aが設けられている一方の側部12aと、係止爪11bが設けられている他方の側部12bとが重なるように当該本体部6を弾性変形させる。そして、図4(B)に示すように、係止爪11bを係止孔11aに係止して本体部6を円筒状に保持する。このとき、熱膨張部材7及び発泡体8はそれぞれの端縁同士が当接して、本体部6の内周面の全周にわたって環状に配置される。
【0027】
つぎに、以上のように構成される貫通部耐火部材1を用いて長尺体13を壁部3の貫通孔4に挿通する長尺体の壁貫通部施工方法について説明する。壁貫通部施工方法は、長尺体13を配線又は配管する配設工程と、長尺体13を貫通部耐火部材1に挿通させる挿通工程と、長尺体13が挿通された貫通部耐火部材1が貫通孔4に配置されるように壁面体2を形成する壁面形成工程と、を備えている。
【0028】
配設工程は、設備工事として行われる工程であり、例えば電気ケーブルの配線や空調、上下水道などの配管を行う工程である。この工程は、少なくとも壁部3に設けられる貫通孔4に挿通される長尺体13を配線又は配管するものであれば、上記に限られるものではない。
【0029】
挿通工程は、図5に示すように、本体部6の切れ部10及び熱膨張部材7及び発泡体8の割り部14を広げて間隙を形成し、当該間隙から貫通部耐火部材1に長尺体13を挿入する工程である。このように切れ部10及び割り部14を広げて長尺体13を挿入することで、貫通部耐火部材1に長尺体13を端部から挿入する場合に比べて、極めて簡単に当該貫通部耐火部材1で長尺体13の貫通孔4に挿通する部分の外周を覆うことができる。貫通部耐火部材1に長尺体13を挿入すると、図4(A)に示すように、本体部6の係止孔11aが設けられている一方の側部12aと、係止爪11bが設けられている他方の側部12bとが重なるように当該本体部6を弾性変形させ、図4(B)及び図6に示すように、係止爪11bを係止孔11aに係止して本体部6を円筒状に保持する。このように、係止爪11bと係止孔11aとで構成される係止手段11によって、簡単に本体部6の切れ部10を閉じることができ、長尺体13から貫通部耐火部材1が脱落することを防止することができる。
【0030】
挿通工程を完了すると、設備工事は終了し、次に界壁、間仕切壁、天井、床などを設置する工程が行われる。壁部3を構成する壁面体2は、図7及び図8に示すように、それぞれ複数の板体5を面一に並べて形成されるものである。そして、互いに隣接する2枚の板体5の側縁に、それぞれ半円状の切り欠き15が形成されており、半円の切り欠き15同士が整合するように板体5を並べて図示しない壁下地に貼り付けることで、円形孔16が設けられる。2つの壁面体2には互いに整合する位置に円形孔16が設けられており、これら2つの円形孔16によって壁部3の貫通孔4が形成されている。
【0031】
壁面形成工程は、挿通工程において長尺体13の外周を覆うように配置された貫通部耐火部材1を、図7に示すように、壁面体2を構成する隣接する板体5の切り欠き15で挟むことで、図8及び図9に示すように、長尺体13が挿通された貫通部耐火部材1が貫通孔4に配置されるとともに、2つの壁面体2によって壁部3が形成される。
【0032】
このように本実施形態の長尺体の壁貫通部施工方法によると、広げた切れ部10及び割り部14の間隙から貫通部耐火部材1に長尺体13を挿入するので、簡単に長尺体13を貫通部耐火部材1に挿入することができる。また、互いに隣接する2枚の板体5の切り欠き15で、長尺体13が挿通された貫通部耐火部材1を挟んで壁面体2を形成するので、貫通部耐火部材1を容易且つ確実に壁面体2の貫通孔4に固定することができる。そして、壁面形成工程には設備工を必要としないので、配設工程及び挿通工程後には設備工が現場に戻る必要がない。しかも、本体部6の内周面側に熱膨張部材7及び発泡体8が取り付けられており、且つ、本体部6が簡単に長尺体13に固定できる構成であるので施工不良が発生することを防止でき、貫通孔4が設けられた部分の耐火性能を確保することができる。
【0033】
なお、本実施形態の貫通部耐火部材1は、2つの壁面体2を互いに間隔を開けて配置した壁部3に形成される貫通孔4に設けられた場合に、当該貫通孔4の耐火性能を確保することができる部材であるが、それに限られるものではなく、例えばRC等のコンクリート壁18に貫通孔4を設ける場合にも貫通部耐火部材1を用いて、貫通孔4の耐火性能を確保することができる。
【0034】
RCのコンクリート壁18に貫通部耐火部材1を用いる場合には、図10に示すように、2枚の型枠17を設置するとともに、型枠17の間における貫通孔4を設置する予定箇所に貫通部耐火部材1を架設する。そして、図11に示すように、型枠17内にコンクリートを打設し、養生した後、図12に示すように、型枠17を取り外して、貫通孔4が設けられたコンクリート壁18を完成させる。そして、その後、貫通部耐火部材1の内側に長尺体13を通して配線する。
【0035】
このように、コンクリート壁18を打設する際に、貫通孔4を設ける位置にボイド管の代わりに貫通部耐火部材1を用いることで、貫通孔4の耐火性能を確保しつつ、簡単に施工することができる。
【0036】
なお、本発明の実施の形態は上述の形態に限ることなく、本発明の思想の範囲を逸脱しない範囲で適宜変更することができることは云うまでもない。
【産業上の利用可能性】
【0037】
本発明に係る貫通部耐火部材1及び壁貫通部施工方法は、例えば集合住宅の界壁に設けられる貫通孔4の耐火性能を確保する部材及び方法として、好適に用いることができる。
【符号の説明】
【0038】
1 貫通部耐火部材
2 壁面体
3 壁部
4 貫通孔
5 板体
6 本体部
7 熱膨張部材
8 発泡体
9 フランジ
10 切れ部
11 係止手段
11a 係止孔
11b 係止爪
12a 一方の側部
12b 他方の側部
13 長尺体
14 割り部
15 切り欠き
【要約】
【課題】 配線等の工事の際にケーブルなどの長尺体の周りを覆うことができ、壁部の完成後に作業が必要とならない貫通部耐火部材及び当該貫通部耐火部材を用いた壁貫通部施工方法を提供する。
【解決手段】貫通部耐火部材1は、本体部6と、本体部の内周面に環状に設けられる熱膨張部材7と、本体部6及び熱膨張部材7の内側に設けられ、少なくとも貫通孔4に配線又は配管される長尺体13を保持可能な柔軟性を有する発泡体8と、を備え、本体部6は、周方向の一部にの軸方向に沿って切断される切れ部10が形成されるとともに、前記熱膨張部材7、前発泡体8のそれぞれ周方向の一部に軸方向に沿って切断された割り部14が形成されており、本体部6の当該切れ部10を挟んで両側部12a,12bには互いに係止及び離反可能な係止手段11が設けられる。
【選択図】図2
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13