特許第6260944号(P6260944)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 日立工機株式会社の特許一覧

<>
  • 特許6260944-打込機 図000002
  • 特許6260944-打込機 図000003
  • 特許6260944-打込機 図000004
  • 特許6260944-打込機 図000005
  • 特許6260944-打込機 図000006
  • 特許6260944-打込機 図000007
  • 特許6260944-打込機 図000008
  • 特許6260944-打込機 図000009
  • 特許6260944-打込機 図000010
  • 特許6260944-打込機 図000011
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6260944
(24)【登録日】2017年12月22日
(45)【発行日】2018年1月17日
(54)【発明の名称】打込機
(51)【国際特許分類】
   B25C 1/06 20060101AFI20180104BHJP
【FI】
   B25C1/06
【請求項の数】14
【全頁数】19
(21)【出願番号】特願2016-523467(P2016-523467)
(86)(22)【出願日】2015年5月22日
(86)【国際出願番号】JP2015064753
(87)【国際公開番号】WO2015182508
(87)【国際公開日】20151203
【審査請求日】2016年9月6日
(31)【優先権主張番号】特願2014-112176(P2014-112176)
(32)【優先日】2014年5月30日
(33)【優先権主張国】JP
(31)【優先権主張番号】特願2014-201453(P2014-201453)
(32)【優先日】2014年9月30日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000005094
【氏名又は名称】日立工機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100094983
【弁理士】
【氏名又は名称】北澤 一浩
(74)【代理人】
【識別番号】100095946
【弁理士】
【氏名又は名称】小泉 伸
(74)【代理人】
【識別番号】100192337
【弁理士】
【氏名又は名称】福本 鉄平
(74)【代理人】
【識別番号】100195992
【弁理士】
【氏名又は名称】城臺 顕
(74)【代理人】
【識別番号】100206092
【弁理士】
【氏名又は名称】金 佳恵
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 慎一郎
(72)【発明者】
【氏名】大森 康希
【審査官】 須中 栄治
(56)【参考文献】
【文献】 米国特許出願公開第2006/0027622(US,A1)
【文献】 特開2009−166155(JP,A)
【文献】 特表2005−529763(JP,A)
【文献】 特開昭63−174882(JP,A)
【文献】 特開2008−168426(JP,A)
【文献】 特開2008−012615(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B25C1/00−13/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
所定方向に延びるノーズと、
該ノーズを有するハウジングと、
係合部を有し、該ハウジングの該所定方向に移動可能に案内され、ファスナを該ノーズを介して打込み可能なブレードと、
該係合部と係合して駆動力を伝達する被係合部を有する伝達機構と、を備え、
該伝達機構は、該係合部と該被係合部との係合の解除を案内するローラ機構を有し、
該被係合部は、ピニオンと該ローラ機構とを備え、該係合部との係合が開始される一端部と、該ローラ機構によって該係合が解除される他端部とを備えることを特徴とする打込機。
【請求項2】
該ローラ機構は、該ピニオンに対して該ピニオンの円周方向に移動可能であることを特徴とする請求項1に記載の打込機。
【請求項3】
該伝達機構は、該被係合部に駆動力を伝達する駆動軸をさらに備え、該駆動軸は、該ピニオンに接続されることを特徴とする請求項1または2に記載の打込機。
【請求項4】
該伝達機構は規制部をさらに有し、該規制部において該ピニオンと該ローラ機構とが当接することにより、該ローラ機構の該ピニオンに対する相対変位が拘束されることを特徴とする請求項1から3のいずれか1項に記載の打込機。
【請求項5】
該係合部は、ラックと、該ローラ機構によって案内される被案内部と、を備え、該係合部と該被案内部は、不等ピッチを形成することを特徴とする請求項1から4のいずれか1項に記載の打込機。
【請求項6】
該ローラ機構は、弾性体の材料で形成されるローラを有することを特徴とする請求項1から5のいずれか1項に記載の打込機。
【請求項7】
該ローラ機構は、弾性部材を介して、該ピニオンと接続されることを特徴とする請求項1から4のいずれか1項に記載の打込機。
【請求項8】
所定方向に延びるノーズと、
該ノーズを有するハウジングと、
係合部を有し、該ハウジングの該所定方向に移動可能に案内され、ファスナを該ノーズを介して打込み可能なブレードと、
該ブレードに駆動力を伝達する伝達機構とを有し、
該伝達機構は、該係合部と係合可能なピニオンと、弾性部材を介して該ピニオンと接続され該係合部と係合可能なカムと、を有することを特徴とする打込機。
【請求項9】
該伝達機構は規制部をさらに有し、該規制部において該ピニオンと該カムとが当接することにより、該カムの該ピニオンに対する相対変位が拘束されることを特徴とする請求項8に記載の打込機。
【請求項10】
所定方向に延びるノーズと、
該ノーズを有するハウジングと、
係合部を有し、該ハウジングの該所定方向に移動可能に案内され、ファスナを該ノーズを介して打込み可能なブレードと、
該ブレードに駆動力を伝達する伝達機構と、を有し、
該係合部は、ラックと被案内部とを備え、
該ラックと該被案内部とは不等ピッチを形成し、
該伝達機構は、
該係合部及び該被案内部と係合可能な、不等ピッチが形成された被係合部と、
弾性部材を介して該被係合部と接続され該被係合部に駆動力を伝達する駆動軸と、を備えることを特徴とする打込機。
【請求項11】
該伝達機構は規制部をさらに有し、該規制部において該被係合部と該駆動軸とが当接することにより、該被係合部の該駆動軸に対する相対変位が拘束されることを特徴とする請求項10に記載の打込機。
【請求項12】
該弾性部材は、金属ばね、エラストマー、あるいは弾性樹脂の少なくとも一つから成ることを特徴とする請求項7から11のいずれか1項に記載の打込機。
【請求項13】
該伝達機構は、回転可能であり、該回転によって該係合部に駆動力を伝達し、
該ハウジングには、該伝達機構の正回転を許容するとともに逆回転を規制する逆回転規制機構が設けられていることを特徴とする請求項1から12のいずれか1項に記載の打込機。
【請求項14】
該逆回転規制機構は、ワンウェイクラッチを有することを特徴とする請求項13に記載の打込機。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は打込機に関し、特にラックアンドピニオン機構を備えた打込機に関する。
【背景技術】
【0002】
従来技術において、ノーズと、ノーズを有するハウジングと、ハウジング内に設けられたプランジャと、プランジャに接続し、ファスナをノーズを介して発射可能なブレードと、プランジャに設けられたラックと、ラックに係合し駆動力を伝達する係合部とを有する打込み機が提案されている(特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2007−237345号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
従来の打込機においては、打込み時において、フライホイールに蓄積された打込みエネルギーを係合部(ピニオン部)を介してラックに伝達する機構が知られており、該構造では、フライホイールに蓄積した打込みエネルギーを用いるため、長い釘などを打込み可能な打込み機等に採用した場合、十分な打込みエネルギーを供給するためには、打込みまでのタイムラグが生じる点で改善の余地があった。
【0005】
本発明は斯かる実情に鑑み、ラックの往復動を用いた簡易な機構によるスムーズな打込み機を実現し、かつ、ラックの係合解除を、摩擦を低減してスムーズに実行可能な打込機を提供しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
所定方向に延びるノーズと、該ノーズを有するハウジングと、係合部を有し、該ハウジングの該所定方向に移動可能に案内され、ファスナを該ノーズを介して打込み可能なブレードと、該係合部と係合して駆動力を伝達する被係合部を有する伝達機構と、を備え、該伝達機構は、該係合部と該被係合部との係合の解除を案内するローラ機構を有することを特徴とする打込機を提供する。
【0007】
上記構成の打込機によれば、係合部と被係合部との係合にローラ機構を用いることで、係合及び解除の際に生じる摩擦を軽減し、スムーズな駆動力の伝達を行うことが可能となる。したがって、被係合部及び係合部の摩耗や損傷の防止という効果が得られる。また、フライホイールを用いずにブレードの移動を可能とするため、打込機の軽量化、小型化または製造コスト削減を図ることが可能となる。
【0008】
該被係合部は、ピニオンと該ローラ機構とを備え、該係合部との係合が開始される一端部と、該ローラ機構によって該係合が解除される他端部とを備えることが好ましい。
【0009】
上記構成の打込機によれば、端部において係合解除が行われることにより、スムーズに駆動力の伝達を行うことが可能となる。
【0010】
該ローラ機構は、該ピニオンに対して該ピニオンの円周方向に移動可能であることが好ましい。
【0011】
上記構成の打込機によれば、ローラ機構のローラが変位することにより、係合部と係合する際の摩擦を回避または軽減し、被係合部と係合部とのスムーズな係合を可能とする。スムーズな係合を実現できることは、係合部の一部を一定の製造誤差を含む別部材として加工したり、係合部のピッチが一定の製造誤差を含んだりすることを許容する。また、ラックアンドピニオン機構という比較的簡易な機構を用いて上記の効果を実現できるため、打込機の軽量化、小型化または製造コスト削減を図ることが可能となる。
【0012】
該伝達機構は、該被係合部に駆動力を伝達する駆動軸をさらに備え、該駆動軸は、該ピニオンに接続されることが好ましい。
【0013】
このような構成の打込機によれば、駆動軸とピニオンが接続することで、簡易な構成によりピニオンを介して被係合部へ駆動力を伝達することが可能となる。
【0014】
該伝達機構は規制部をさらに有し、該規制部において該ピニオンと該ローラ機構とが当接することにより、該ローラ機構の該ピニオンに対する相対変位が拘束されることが好ましい。
【0015】
上記構成の打込機によれば、伝達機構の過度な変形または変位を防ぐとともに、弾性体の過度な変形及び損傷を防止することが可能となる。
【0016】
該係合部は、ラックと、該ローラ機構によって案内される被案内部と、を備え、該係合部と該被案内部は、不等ピッチを形成することが好ましい。
【0017】
上記構成の打込機によれば、不等ピッチを形成することによって、係合部は大きな断面を備えることが可能となり、係合部の耐荷重を増加させることができる。そのため、係合部の摩耗や損傷の防止、ブレードへ係る荷重の増加とそれに伴う打込力の増加という効果を得ることが出来る。また、被係合部がローラを備えるため、係合部が不等ピッチを有していても、被係合部と係合部とのスムーズな係合が可能となる。スムーズな係合を実現できることは、係合部の一部を一定の製造誤差を含む別部材として加工したり、係合部のピッチが一定の製造誤差を含んだりすることを許容する。また、比較的簡易な構造を用いて上記の効果を実現できるため、打込機の軽量化、小型化または製造コスト削減を図ることが可能となる。
【0018】
該ローラ機構は、弾性体の材料で形成されたローラを有することが好ましい。
【0019】
上記構成の打込機によれば、ローラが弾性体であり、これが係合時に変形することによって、被係合部と係合部とのスムーズな係合を可能とする。
【0020】
該ローラ機構は、弾性部材を介して、該ピニオンと接続されることが好ましい。
【0021】
上記構成の打込機によれば、弾性部材が係合時に変形することによって、被係合部のピッチが可変となる。そのため、係合部が不等ピッチを有していても、被係合部と係合部とのスムーズな係合が可能となる。
【0022】
また、本発明は、所定方向に延びるノーズと、該ノーズを有するハウジングと、係合部を有し、該ハウジングの該所定方向に移動可能に案内され、ファスナを該ノーズを介して打込み可能なブレードと、該ブレードに駆動力を伝達する伝達機構とを有し、該伝達機構は、該係合部と係合可能なピニオンと、弾性部材を介して該ピニオンと接続され該係合部と係合可能なカムと、を有することを特徴とする打込機を提供する。
【0023】
上記構成の打込機によれば、カムとピニオンとが弾性部材を介して接続することにより、係合部とカム又はピニオンとの係合時に、カム又はピニオンの円周方向への変位が可能となる。そのため、係合部のピッチが誤差を含んでいたり、不等ピッチであったりする場合においても、被係合部が係合部と係合する際の摩擦を回避または軽減し、被係合部と係合部とのスムーズな係合を可能とする。また、被係合部は、ピニオンの歯よりも大きな部材であるカムを備えることで、高い耐荷重を備え、大きな駆動力を伝達することが可能となる。したがって、被係合部の摩耗や損傷の防止、または、ブレードへ係る荷重の増加とそれに伴う打込力の増加という効果を得ることが出来る。
【0024】
また、比較的簡易な構造を用いて上記の効果を実現できるため、打込機の軽量化、小型化または製造コスト削減を図ることが可能となる。
【0025】
該伝達機構は規制部をさらに有し、該規制部において該ピニオンと該カムとが当接することにより、該カムの該ピニオンに対する相対変位が拘束されることが好ましい。
【0026】
上記構成によれば、伝達機構の過度な変形を防ぐとともに、弾性体の過度な変形及び損傷を防止することが可能となる。
【0027】
更に本発明は、所定方向に延びるノーズと、該ノーズを有するハウジングと、係合部を有し、該ハウジングの該所定方向に移動可能に案内され、ファスナを該ノーズを介して打込み可能なブレードと、該ブレードに駆動力を伝達する伝達機構と、を有し、該係合部は、ラックと被案内部とを備え、該ラックと該被案内部とは不等ピッチを形成し、該伝達機構は、該係合部及び該被案内部と係合可能な、不等ピッチが形成された被係合部と、弾性部材を介して該被係合部と接続され該被係合部に駆動力を伝達する駆動軸と、を備えることを特徴とする打込機を提供する。
【0028】
上記構成の打込機によれば、被係合部が駆動軸と弾性部材を介して接続するため、係合部との係合時に被係合部の円周方向への変位が可能である。そのため、係合部のピッチが誤差を含んでいたり、不等ピッチであったりする場合においても、被係合部が係合部と係合する際の摩擦を回避または軽減し、被係合部と係合部とのスムーズな係合を可能とする。また、係合部及び被係合部が不等ピッチを有することで大きな断面を有する歯を備えることが可能となり、被係合部の耐荷重を増加できる。したがって、被係合部の摩耗や損傷の防止、または、ブレードへ係る荷重の増加とそれに伴う打込力の増加という効果を得ることが出来る。
【0029】
また、比較的簡易な構造を用いて上記の効果を実現できるため、打込機の軽量化、小型化または製造コスト削減を図ることが可能となる。
【0030】
該伝達機構は規制部を有し、該規制部において該ピニオンと該カムとが当接することにより、該カムの該ピニオンに対する相対変位が拘束されることが好ましい。
【0031】
上記構成の打込機によれば、規制部が変位を規制することによって、弾性体の過度な変形が防止可能となる。そのため、弾性体の塑性変形や損傷を防止することができる。
【0032】
該弾性部材は、金属ばね、エラストマー、あるいは弾性樹脂の少なくとも一つから成ることが好ましい。
【0033】
上記構成の打込機によれば、弾性部材が様々な材料を採用できることで実施形態に応じた使用を可能とし、多種の実施形態においても係合部と被係合部との係合をスムーズに行うことが可能となる。
【0034】
また、該伝達機構は、回転可能であり、該回転によって該係合部に駆動力を伝達し、該ハウジングには、該伝達機構の正回転を許容するとともに逆回転を規制する逆回転規制機構が設けられていることが好ましい。
【0035】
このような構成によれば、逆回転規制機構により伝達機構の逆回転を規制することができる。これにより、良好な仕上げ程度の維持及び作業性の向上を図ることができる。
【0036】
また、該逆回転規制機構は、ワンウェイクラッチを有することが好ましい。
【0037】
このような構成によれば、伝達機構の逆回転を規制するための構成を比較的簡易な構成で実現することができる。
【発明の効果】
【0038】
本発明によれば、ラックの往復動を簡易な機構によって実現し、かつ、ラックの係合解除を、摩擦を低減してスムーズに実行可能な打込機を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0039】
図1】本発明の第1の実施の形態における釘打機の断面図。
図2】本発明の第1の実施の形態における釘打機の、前方視の打撃機構とノーズを示した部分断面図。
図3】(a)〜(c)は、本発明の第1の実施の形態における釘打機の、打撃機構の動作を示す図。
図4】本発明の第2の実施の形態における釘打機の、(a)ピニオンの正面図、(b)カムの正面図と側面図、及び(c)ピニオンとカムとが接続された状態での正面図。
図5】(a)〜(g)は、本発明の第2の実施の形態における釘打機の、打撃機構の動作を示す図。
図6】本発明の第3の実施の形態における釘打機の、(a)カムの正面図と側面図、(b)ピニオンの正面図、及び(c)ピニオンとカムとが接続された状態での正面図。
図7】(a)〜(c)は、本発明の第3の実施の形態における釘打機の、打撃機構の動作を示す図。
図8】(a)〜(d)は、本発明の各変形例における釘打機の、ピニオンとカムの正面図。
図9】本発明の第4の実施の形態における釘打機の断面図。
図10】本発明の第4の実施の形態における釘打機のワンウェイクラッチを示す部分拡大断面図であり、ワンウェイクラッチが駆動軸の逆回転を規制している状態を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0040】
<第1の実施の形態> 以下、本発明の第1の実施の形態による、打込機の一例である電動式の釘打機1について図1乃至図3を参照して説明する。図1に示される釘打機1は、外殻となるハウジング2と、ハウジング2に設けられたノーズ4と、ノーズ4へ釘Nを供給するマガジン5とを主に備える。マガジン5は図面が不明瞭になることを防ぐため、実線にて示す。なお、図1において、紙面右を釘打機1の後方向、紙面左を同前方向、紙面上を同上方向、紙面下を同下方向、紙面奥を同左方向、紙面手前を同右方向と定義する。
【0041】
図1に示すように、ハウジング2は、駆動部7及び打撃機構3等を収容する。ハウジング2は、本体部2Aと、ハンドル2Bと、駆動部収容部2Cと、電池接続部2Dとを備える。電池接続部2Dは、ハウジング2の後部を構成し、駆動部7に電力を供給する電池8を着脱可能に構成される。ハンドル2Bは本体部2Aから後方へ向けて延出し、電池接続部2Dと繋がるように構成され、その前方基端部には駆動部7と電気的に接続されるトリガ10が設けられる。駆動部収容部2Cは、本体部2Aの下部から後方へ向けて延出し、電池接続部2Dの下部と繋がるように構成され、内部に駆動部7及び駆動軸9を収容する。
【0042】
本体部2Aは、主に打撃機構3を収容し、下部でノーズ4と接続される。さらに本体部2Aは、上下方向に延びるシリンダ20と、ピストン21と、ピストンバンパ23と、蓄圧室2aとを備える。
【0043】
駆動部7は、主にモータ71と、モータの出力軸72と、出力軸72から駆動力が伝達される、遊星ギア機構を備えた減速機構73とを有し、駆動軸9へ駆動力を伝える。
【0044】
シリンダ20は、上下方向に延び、下部がノーズ4と接続し、上部が本体部2A内部の上部に設置される。シリンダ20は、ピストン21の上下方向の移動を案内するとともに、上下方向以外への移動を拘束する。
【0045】
ピストン21は、シリンダ20内に配置され、シリンダ20の上部に位置する上死点と、下部に位置する下死点との間を往復可能に構成される。なお図1には、本体部2Aの中心線CLの左右に、ピストン21が上死点と下死点とに到達した状態を示す。ピストン21は、下死点においてピストンバンパ23に当接するように構成される。
【0046】
蓄圧室2aは、シリンダ20の上方であって、ピストン21の上死点の上方に、シリンダ20とは連通して配置される。すなわちピストン21の上方において、シリンダ20と蓄圧室2aとは一体の空間を画成する。蓄圧室2aには窒素などの圧縮された気体が充填されているため、ピストン21は、圧縮された気体の圧力によって下方に付勢される。
【0047】
図2に示されるように、打撃機構3は、ブレード31と、ラック30と、ピニオン32と、ローラ33と、カム34と、被案内部37とを備える。
【0048】
ブレード31は、上下方向に延びる棒状の部材であり、ピストン21の下部に接続され、ピストン21と一体に移動可能に構成される。ブレード31がピストン21と一体に上下往復動を行う際、ノーズ4に配置された釘Nを発射可能に構成される。ブレード31の下部であってブレード31の側面には、ラック30が設けられる。
【0049】
ラック30は、均等なピッチを形成する複数の歯によって構成され、ブレード31の下部側面にブレード31の軸方向に沿って配置される。ラック30は、ピニオン32と係合して駆動力を受取ることにより、ブレード31の上方への移動を案内する役割を果たす。ラック30の下方には、被案内部37が配置される。
【0050】
被案内部37は、ブレード31の側面であってラック30の下方に設けられ、ラック30と連なった歯列を形成するとともに、ローラ33と係合可能に構成される。被案内部37は、ピストン21が上死点に位置するときに、ローラ33と係合する部分である。このとき蓄圧室2aの圧力は最も高くなることから、被案内部37には大きな負荷がかかる。よって、被案内部37には高い剛性または強度が必要である。そのため被案内部37は、ラック30の歯よりもブレード31の軸方向に長い形状を有し、ラック30の歯とは異なるピッチ、即ち不等ピッチを形成する。ラック30と被案内部37は、一体に加工成形された部材であっても、別々に加工成形された部材であってもよい。なお、ラック30と被案内部37とは、本発明の係合部に相当する。
【0051】
ピニオン32は、ラック30と同ピッチの歯を有し、ラック30と係合可能に構成される。ピニオン32の軸部は駆動軸9と接続され、駆動軸9と一体に回転することで、ピニオン32は、駆動軸9から駆動力を受取る。ピニオン32は、ラック30と係合することにより、駆動力をラック30へと伝達する役割を果たす。また、ピニオン32には、カム34が接続される。
【0052】
カム34は、ピニオン32の半径方向外方に突出する略三角形状を成す。詳細には、カム34は、略三角形のうち1つの頂点を形成する部分がピニオン32の半径方向に突出するように、ピニオン32に固定される。また、当該突出部分には、ローラ33が回転可能に支持される。
【0053】
ローラ33は、前後方向に延出した略円柱形を成す。ローラ33は、前後方向に延びる軸を中心にカム34に回転可能であって、被案内部37と係合可能に構成される。詳細にはローラ33は、ピニオン32の歯とは異なる形状を有しており、ピニオン32の歯と連なって不等ピッチを形成した歯列を成す。この歯列は、ラック30及び被案内部37(即ち係合部)と係合可能に構成される。ローラ33は、ゴムなどのエラストマー樹脂からなる弾性体を有する。ローラ33は、本発明における他端部の一例である。
【0054】
ノーズ4には、ハウジング2下方からノーズ4の先端にかけて釘が通過する通路4aが形成される。通路4aにはブレード31が挿通可能であり、ブレード31が下方へ移動する際、ブレード31は通路4aに配置された釘Nを発射する。またノーズ4の先端部分にはプッシュレバー40が設けられ、このプッシュレバー40が被打込部材に接触して押された場合のみ釘打機1は釘Nを打ち込むことが可能となるように構成される。なお、本実施の形態における釘Nは、本発明におけるファスナに相当する。
【0055】
マガジン5は、ハウジング2の下部で、ノーズ4の後部から後方に延出し、電池接続部2Dの下部を繋ぐように構成される。マガジン5内には釘Nが束状に複数本内蔵されており、ノーズ4の通路4a内に釘Nを供給する。
【0056】
ピニオン32、ローラ33及びカム34は、本発明における被係合部に相当する。また、ローラ33及びカム34は本発明におけるローラ機構に相当する。ローラ33、カム34、駆動軸9及びピニオン32は、本発明における伝達機構に相当する。
【0057】
釘打機1の動作は、ユーザがプッシュレバー40を被加工部材に押当て、トリガ10を押込むことによって開始する。トリガ10が押込まれると駆動部7が作動し、モータ71は、出力軸72及び減速機構73を介して駆動軸9へ駆動力を伝達する。駆動軸9を介して駆動力を受取ったピニオン32は、カム34と一体で図3における時計回り方向に回転し、ラック30と係合することによって、蓄圧室2a内の圧縮気体の付勢力(圧力)に抗して下死点に位置するピストン21及びブレード31を上方へ移動させる。ピニオン32が図3における時計回り方向に回転してラック30と係合を開始する際に、ピニオン32の歯のうち最初にラック30と係合する歯、すなわちピニオン32の歯のうち当該時計回り方向における最も下流側に位置する歯は、本発明における一端部の一例である。
【0058】
ピニオン32がさらに回転すると、図3(a)に示されるように、ローラ33と被案内部37とが係合し、ブレード31はさらに上方へ移動する(図3(b)及び図3(c))。このときローラ33は弾性体であるため、被案内部37の形状に応じて変形する。したがって、例えば被案内部37が、耐荷重を増すためにラック30とは別部材によって構成され、被案内部37の寸法が製造誤差を含んだものであっても、ローラ33と被案内部37とはスムーズな係合が可能である。また、ローラ33が回転可能であることにより、ローラ33と被案内部37とのスムーズな係合が可能である。
【0059】
図3(c)の状態からさらにピニオン32が回転し、ピストン21が上死点に到達すると、ローラ33と被案内部37とが離間し、両者の係合は解除される。同時に、圧縮気体の圧力によって下方に付勢されたピストン21及びブレード31は下方へ高速で移動し、釘Nはノーズ4を介して発射される。このローラ33と被案内部37との係合解除の際、ローラ33が回転可能であることにより、ローラ33は被案内部37からスムーズに離間することが可能である。
【0060】
上記構成によれば、カム34を有することにより、被係合部は、通常よりも大きく耐久性のある歯を備えることが可能となる。また、ローラ33を用いて係合することで、被案内部37との係合の際に生じる摩擦を軽減し、スムーズな駆動力の伝達を行うことが可能となる。したがって、被案内部37及びローラ33の摩耗や損傷の防止、または、ブレード31へ係る荷重の増加とそれに伴う打込力の増加という効果が得られる。
【0061】
また、比較的簡易な構造を用いて上記の効果を実現できるため、釘打機1の軽量化、小型化または製造コスト削減を図ることができる。
【0062】
また、ラック30と被案内部37が不等ピッチを形成することによって、被案内部37は大きな断面を備え、被案内部37はラック30の歯よりも大きな耐荷重を得ることができる。そのため、被案内部37の摩耗や損傷の防止、ブレード31へ係る荷重の増加とそれに伴う打込力の増加という効果を得ることが出来る。また、カム34がローラ33を備えるため、被案内部37が不等ピッチを有していても、スムーズな係合が可能となる。スムーズな係合を実現できることは、被案内部37を一定の製造誤差を含む別部材として加工したり、被案内部37とラック30とが形成するピッチが一定の製造誤差を含んだりすることを許容する。また、比較的簡易な構造を用いて上記の効果を実現できるため、打込機の軽量化、小型化または製造コスト削減を図ることが可能となる。
【0063】
また、ローラ33が弾性体であり、これが係合時に変形することによって、被案内部37とローラ33とのスムーズな係合を可能とする。
【0064】
上記のように、第1の実施の形態では、ローラ33が被案内部37の形状に応じて回転し、変形可能であることにより、スムーズなローラ33と被案内部37との係合及び解除を実現している。しかし、本発明は、このような実施の形態に限定されない。本発明は、スムーズなローラ33と被案内部37との係合及び解除を可能にする種々の実施の形態を包含するものである。
【0065】
<第2の実施の形態> 第2の実施の形態を図4及び図5を用いて説明する。なお、第1の実施の形態と同様の部材等には同じ参照番号を付し、説明を省略する。また第1の実施の形態による釘打機1を構成する部品や部材と対応する部品・部材には、第1の実施の形態の図面参照番号に100を加算した参照番号を付す。
【0066】
第2の実施の形態において、ピニオン132は軸方向視で中央部に開口を形成し、当該開口は4つの規制部132aを規定する(図4(a))。規制部132aのそれぞれは、円周方向に沿って延びる形状を有する。図4(b)に示されるように、カム134は、軸方向視略涙滴型を形成し、軸方向に延びる突出部135を備える。カム134は、当該軸部において、駆動軸109が嵌合される開口134aを有する。
【0067】
図4(b)に示されるように、突出部135は、半径方向外方に延出した軸方向視略十字形を形成し、略十字型の腕のそれぞれは円周方向に等間隔に配置され、一対のカム規制部135A及び一対の接触部135Bを形成する。また、ローラ33は、カム134の端部において、回転可能にカム134に支持される。
【0068】
図4(c)に示されるように、カム134は、ピニオン132に遊嵌される。規制部132aと接触部135Bとの間には、本発明における弾性部材の一例である、弾性体136が挿入される。また、カム134及びピニオン132がラック30及び被案内部37と係合しない状態において(以下、「非係合状態」とする)、カム規制部135Aと規制部132aとは、円周方向において離間したように構成される。非係合状態においては、弾性体136の復元力により、ピニオン132のカム134に対する相対位置は、一定に保たれる。また、ローラ33及びピニオン132の端歯は、ピッチPを規定する。ピニオン132とカム134とが弾性体136を介して遊嵌されているため、ピニオン132は、カム134及び駆動軸109に対して円周方向へ変位可能であり、そのためピッチPも可変である。ピニオン132のカム134に対する円周方向の変位が一定量に達すると、規制部132aとカム規制部135Aとが当接し、それ以上の変位の進行は妨げられる。
【0069】
駆動軸109は、カム134と嵌合し、駆動力を伝達する。すなわち、駆動部7が駆動する際、駆動軸109からカム134に駆動力が伝達され、カム134から弾性体136を介してピニオン132へ駆動力が伝達される。
【0070】
カム134及びピニオン132がラック30及び被案内部37と係合し、ブレード31が上方へ移動する状態を、図5の各図に示す。
【0071】
ピニオン132がラック30と係合し、ブレード31を上方へ移動する際(図5(a)〜(c))、ピニオン132は、駆動軸109及びカム134に対して円周方向に変位可能であるため、ラック30とのピッチのずれを吸収し、または摩擦を回避し、係合することができる。
【0072】
ピニオン132及びカム134がさらに回転すると、ローラ33が被案内部37と係合する(図5(d))。ピニオン132とカム134とが弾性体136を介して接続しているため、ピニオン132は、ローラ33に対して円周方向に変位することが可能である。そのため、ピッチPは被案内部37の形状に応じて変更され、これにより、ローラ33と被案内部37とのスムーズな係合が実現される。
【0073】
ピニオン132及びカム134の回転がさらに進行すると、ブレード31の上方への変位が進み(図5(e))、ピストン21が上死点に到達すると同時に、ローラ33と被案内部37との係合が解除される(図5(f)〜(g))。このとき、ピッチPが可変であること、及び、ローラ33が回転可能であることにより、ローラ33は被案内部37から摩擦を低減しつつスムーズに離間できる。
【0074】
ピニオン132に過度の負荷がかかった場合、規制部132aとカム規制部135Aとが当接することにより、ピニオン132のカム134に対する過度の変位及び弾性体136の損傷を防ぐことが出来る。
【0075】
なお、第1の実施の形態において、ローラ33は弾性体を備えていたが、第2の実施の形態においては、弾性体に限らず、硬質の部材を用いても良い。このような構成であっても、弾性体136がピニオン132とカム134との間に介在することにより、上述した効果を得ることができる。
【0076】
上記のように、第2の実施の形態では、ピニオン132がカム134に対して円周方向に変位可能であることにより、ピニオン132とラック30とのスムーズな係合を可能とし、ローラ33と被案内部37とのスムーズな係合も実現している。さらに、規制部132aとカム規制部135Aにより、ピニオン132の過度の変形及び弾性体136の損傷も防止されている。
【0077】
<第3の実施の形態> 第3の実施の形態を図6及び図7を用いて説明する。なお、第1の実施の形態または第2の実施の形態と同様の部材等には同じ参照番号を付し、説明を省略する。第2の実施の形態による釘打機1を構成する部品や部材と対応する部品・部材には、第2の実施の形態の図面参照番号に100を加算して参照番号を付す。
【0078】
図6(a)に示されるように、第3の実施の形態では、カム234は軸方向視略環状の部材であり、その外縁は軸方向視略涙滴型を形成する。カム234には、4つの突出部235が設けられている。突出部235のそれぞれは、軸方向に延び、円周方向に略等間隔に配置され、軸方向視略矩形を成す。
【0079】
図6(b)に示されるように、ピニオン232は、円周方向に等間隔に配置される4つの長孔から成る規制部232aを規定する。ピニオン232は、当該軸部において、駆動軸209が嵌合される開口232bを有する。
【0080】
図6(c)に示されるように、カム234は、ピニオン232に遊嵌される。規制部232aと突出部235との間には、本発明における弾性部材の一例である、ゴムなどの樹脂から成る弾性体236が挿入される。詳細には、弾性体236のそれぞれは、規制部232aと突出部235とに当接する。ピニオン232とカム234とが弾性体236を介して互いに接続しているため、カム234は、ピニオン232及び駆動軸209に対して円周方向へ変位可能であり、そのためピッチPも可変である。また、弾性体236の復元力により、非係合状態におけるピニオン232のカム234に対する相対位置は、一定に保たれる。
【0081】
駆動軸209は、ピニオン232と嵌合し、駆動力をピニオン232へ伝達する。すなわち、駆動部7が駆動する際、駆動軸209からピニオン232に駆動力が伝達され、ピニオン232から弾性体236を介してカム234へ駆動力が伝達される。
【0082】
図7の各図は、ローラ33と被案内部37との係合開始から解除直前までの状態を示す
【0083】
ローラ33が被案内部37と係合する際(図7(a))、カム234に接続されたローラ33は、ピニオン232に対して円周方向に変位することが可能である。これにより、ピッチPは被案内部37の形状に応じて変更され、ローラ33と被案内部37とのスムーズな係合が実現される。
【0084】
ピニオン232及びカム234の回転がさらに進行すると、ブレード31の上方への変位が進み(図7(b))、ピストン21が上死点に到達すると同時に、ローラ33と被案内部37との係合が解除される。このとき、ローラ33が回転可能であることにより、ローラ33は被案内部37からスムーズに離間できる(図7(c))。
【0085】
なお、第1の実施の形態において、ローラ33は弾性体を備えていたが、第3の実施の形態においては、硬質の部材を用いても良い。このような構成であっても、弾性体236がピニオン232とカム234との間に介在することにより、上述した効果を得ることができる。
【0086】
上記のように、第3の実施の形態では、カム234がピニオン232に対して円周方向に変位可能であることにより、ローラ33と被案内部37とのスムーズな係合を可能としている。
【0087】
<変形例> 変形例を図8各図に示す。なお、第1、第2または第3の実施の形態と同様の部材等には同じ参照番号を付し、説明を省略する。また第3の実施の形態による釘打機1を構成する部品や部材と対応する部品・部材には、第3の実施の形態の図面参照番号に100の倍数を加算した参照番号を付す。
【0088】
図8(a)に示されるピニオン332は、一対の規制部332aと、規制部332aより周方向に短い形状を有する一対の規制部332bとを有する。規制部332aと規制部332bは、円周方向に交互に略均等に配置される。第3の実施の形態と異なり、規制部332bは、突出部235を弾性体を介さずに遊嵌する。規制部332bと突出部235との間には、円周方向に隙間が形成される。このため、カム234は、ピニオン332に対して円周方向に変位可能である。カム234のピニオン332に対する変位が所定量に達した場合、規制部332bと突出部235が当接し、カム234のピニオン332に対する過度の変位を防止するとともに、弾性体336の過度の変形及び損傷を防止することができる。
【0089】
さらなる変形例を図8(b)に示す。カム434は、第3の実施の形態における突出部235と同形状の一対の突出部435と、突出部435よりもカム434の半径方向内方に長い形状を有する一対の突出部435Aとを有する。ピニオン432は、第3の実施例における規制部232aと同形状の一対の規制部432aと、一対の規制部432bとを備える。規制部432bのそれぞれは、突出部435Aを遊嵌可能であって、ピニオン432の半径方向内方に突出した形状をなし、軸方向視で略凸字状を形成する。規制部432bと突出部435Aとの間には、円周方向に隙間が形成される。このため、カム434は、ピニオン432に対して円周方向に変位可能である。カム434のピニオン432に対する変位が所定量に達した場合、規制部432bと突出部435Aとが当接し、カム434のピニオン432に対する過度の変位を防止するとともに、弾性体436の過度の変形及び損傷を防止することができる。
【0090】
上記各実施の形態においては、ピニオンとカムとの間に介在する弾性体としてゴムなどのエラストマー樹脂を例示したが、本発明はこのような実施の形態に限定されず、所望の反発係数、あるいはバネ定数を有する任意の材料、構造を採用可能である。例えば、ゴムなどの弾性材料(弾性樹脂)のみならず、いわゆる“空気ばね”として働く構造(密閉空間などに気体を封入し、気体の弾性力を利用する構造)なども当該発明の範囲に含まれる。さらに、構造的に弾性体を構成する例としては、金属片や樹脂片などからなる板バネやコイルバネ等を用いることも可能であり、以下にその具体例を示す。
【0091】
図8(c)に示されるピニオン332及びカム234は、図8(a)と同形状であるが、弾性体として板バネ536が用いられる。このような構成によっても、板バネ536がピニオン332の円周方向に変形可能であることにより、図8(a)と同様の効果を得ることができる。
【0092】
図8(d)において示されるピニオン632は、第3の実施の形態によるピニオン232よりも周方向に長い形状を有する4つの規制部632aを備える。突出部235と規制部632aとの間には、弾性体としてコイルバネ636が挿入される。このような構成によっても、コイルバネ636が、突出部235と規制部632aに当接すること、及び、カム234のピニオン632に対する円周方向変位に応じて弾性変形可能であることにより、第3の実施の形態と同様の効果を得ることができる。
【0093】
なお、上記実施の形態において、弾性体はピニオンとカムとの間に介在したが、本発明はこのような形態に限定されず、弾性体を駆動軸とピニオン若しくはカムとの間に介在させることも可能である。
【0094】
例えば、第1の実施の形態において、弾性体が駆動軸9とピニオン32との間に介在する構成とすることも可能である。このような構成によれば、ピニオン32及びカム34が円周方向に変位可能であることにより、ピニオン32とラック30とのスムーズな係合と、被案内部37とローラ33とのスムーズな係合及び解除とが可能となる。
【0095】
また、第2の実施の形態において、弾性体が駆動軸109とカム134との間にさらに介在する構成とすることも可能である。このような構成とすれば、カム134が駆動軸109に対して円周方向に変位可能となり、被案内部37とローラ33とのスムーズな係合及び解除が可能となる。そのため、ラック30のピッチが誤差を含んでいたり、不等ピッチであったりする場合においても、ピニオン132がラック30と係合する際、または、ローラ33が被案内部37と係合する際の摩擦を回避または軽減し、スムーズな係合を可能とする。したがって、被係合部の摩耗や損傷の防止、または、ブレードへ係る荷重の増加とそれに伴う打込力の増加という効果を得ることが出来る。また、比較的簡易な構造を用いて上記の効果を実現できるため、釘打機1の軽量化、小型化または製造コスト削減を図ることが可能となる。
【0096】
また、カム134が駆動軸109の先端部として、駆動軸109と一体に成形されることも可能である。この場合、カム規制部135Aと規制部132aとが当接することによって、ピニオン132の駆動軸に対する円周方向の相対変位が拘束されることとなる。このような実施形態においても、ピニオン132の過度の変位、または、弾性体136の塑性変形や損傷を防止することができる。
【0097】
<第4の実施の形態> 次に、本発明の第4の実施の形態による釘打機701について図9及び図10を用いて説明する。なお、第1の実施の形態と同様の部材等には同じ参照番号を付し、説明を省略する。図9は、釘打機701の断面図である。図10は、釘打機701のワンウェイクラッチ711を示す部分拡大断面図であり、ワンウェイクラッチ711が駆動軸9の逆回転を規制している状態を示す図である。
【0098】
図9及び図10に示されているように釘打機701の駆動部収容部2C内部には、ワンウェイクラッチ711が設けられている。ワンウェイクラッチ711は、駆動軸9及び駆動軸9と一体回転するピニオン32の正回転(図3における時計回り方向の回転)を許容するとともに逆回転(図3における反時計回り方向の回転、図10における回転方向Aへの回転)を規制する部材である。ワンウェイクラッチ711は、駆動部収容部2Cの内壁と駆動軸9との間に設けられており、筒部711A及び複数のローラ711Bを備えている。なお、ワンウェイクラッチ711は逆回転規制機構の一例であり、正回転方向はピストン21及びブレード31を上方に移動させるための回転方向である。
【0099】
筒部711Aは、前後方向に延びる筒形状をなし、駆動部収容部2Cの内壁に固定されている。筒部711Aの内周面には、複数の収容溝711aが形成されている。収容溝711aは、筒部711Aの内周面から半径方向外方に窪んで形成された溝であって、前後方向に延びている。複数の収容溝711aのそれぞれにはローラ711Bが1個ずつ収容されている。
【0100】
ローラ711Bは、前後方向に延びる針状のコロであり、自己の軸心を中心に回転可能且つ駆動軸9に当接した状態で収容溝711aに収容されている。またローラ711Bは、収容溝711a内部において前後方向に移動不能且つ周方向に所定量移動可能である。本実施の形態において当該所定量は、ローラ711Bの直径と略同一の長さである。
【0101】
収容溝711aの深さは、駆動軸9の正回転方向において収容溝711aの上流側から下流側に向かうに従って深くなっており、上流側縁部の深さはローラ711Bの直径よりも短く、下流側縁部の深さはローラ711Bの直径と略同一である。また収容溝711aに収容されたローラ711Bと収容溝711aの下流側縁部との間には付勢部材すなわちスプリング711Cが設けられており、ローラ711Bは下流側縁部から上流側縁部に向かって付勢されている。
【0102】
ここで、ワンウェイクラッチ711の機能について説明する。駆動軸9が正回転を開始すると、駆動軸9の外周面と当接している複数のローラ711Bのそれぞれは、自己が収容されているそれぞれの収容溝711a内部で自己の軸心を中心に回転且つスプリング711Cの付勢力に抗しながら駆動軸9の正回転方向における上流側縁部から下流側縁部に向かって移動を開始する。ローラ711Bが収容溝711aの深さが最も深い下流側縁部に位置すると、駆動軸9の外周面とローラ711Bとの接触面圧は小さくなる。当該状態における接触面圧によるそれぞれのローラ711Bと駆動軸9の外周面との間の摩擦力は、駆動軸9の筒部711Aに対する正回転を妨げる程度のものではなく、当該状態において駆動軸9は正回転を継続することができる。すなわちワンウェイクラッチ711は、駆動軸9及びピニオン32の正回転を許容する。
【0103】
一方、駆動軸9が逆回転を開始すると、複数のローラ711Bのそれぞれは、自己が収容されているそれぞれの収容溝711a内部で自己の軸心を中心に回転且つ付勢部材すなわちスプリング711Cに付勢されながら駆動軸9の正回転方向における下流側縁部から上流側縁部に向かって移動を開始する。ローラ711Bが収容溝711aの深さが最も浅い上流側縁部に位置すると、駆動軸9の外周面とローラ711Bとの接触面圧は最も大きくなる。当該状態においては、接触面圧によるそれぞれのローラ711Bと駆動軸9の外周面との間の摩擦力は最大となり、駆動軸9は筒部711Aに対して逆回転不能となる(図10の状態)。すなわちワンウェイクラッチ711は、駆動軸9及びピニオン32の逆回転を規制する。
【0104】
このように本発明の第4の実施の形態による釘打機701においては、駆動部収容部2Cすなわちハウジング2と駆動軸9との間にワンウェイクラッチ711が設けられているため、駆動軸9及びピニオン32の逆回転を規制することができる。これにより、釘打機701の作業性の改善を図ることができる。
【0105】
詳細には、ピストン21及びブレード31の下死点から上死点までの移動途中(例えば、図3(a)乃至(c)の状態)に電池8の残量減少等によってモータ71の駆動が停止した場合、ピニオン32は蓄圧室2aの圧力に抗してピストン21及びブレード31を上方(上死点方向)に移動させる駆動力を失う。当該移動途中は、ピニオン32とラック30とが係合(噛合)又はローラ33と被案内部37とが係合している状態であるため、ピニオン32が駆動力を失い、ピストン21及びブレード31は蓄圧室2aの圧力によって下方に付勢(押圧)されると、ピニオン32及び駆動軸9には、ピニオン32及び駆動軸9を逆回転させようとする力が働く。このような場合にピニオン32及び駆動軸9が逆回転可能であると、ピストン21及びブレード31が上死点まで到達する前に下死点に向かって移動してしまい、上死点まで到達した場合よりも弱い打込力で釘Nを打込んでしまい、完全に釘Nが打込めずに仕上げ程度が悪化し、同時に釘Nの打ち直し等を行わねばならない等の作業性の悪化を招く虞がある。
【0106】
しかしながら、釘打機701は、ワンウェイクラッチ711を備えているため、駆動軸9及びピニオン32の逆回転を規制することができ、且つピストン21及びブレード31の下方への移動を規制することができる。これにより、上述のようなことがなくなり、仕上げ程度を良好に維持し、且つ作業性を向上させることができる。
【0107】
本発明による打込機は、上述した実施の形態に限定されず、特許請求の範囲に記載された発明の要旨の範囲内で種々の変更が可能である。
【0108】
上記実施の形態において、ローラ33はピニオンまたはカムに接続されたが、本発明はこのような形態に限定されず、ローラ33をラック30または被案内部37に設けた構成とすることも可能である。このような構成とすることにより、ラック30または被案内部37とカムまたはピニオンとのスムーズな係合及び解除が可能となる。なお、この場合、ローラ33及びラック30、または、ローラ33及び被案内部37が、本発明におけるローラ機構に相当する。また、この場合、ピニオン及びカムは本発明における被係合部に相当し、ラック30、被案内部37及びローラ33は本発明における係合部に相当する。
【0109】
上記実施の形態において、ローラはピニオンまたはカムに接続されたが、本発明はこのような形態に限定されず、ローラを設けない構成とすることも可能である。このような構成としても、弾性体が介在し変形することにより、被案内部37とカムとのスムーズな係合及び解除が可能となる。そのため、被案内部37とラック30とのピッチが誤差を含んでいたり、不等ピッチであったりする場合においても、カムが被案内部37と係合する際の摩擦を回避または軽減し、被案内部37とカムとのスムーズな係合を可能とする。また、比較的簡易な構造を用いて上記の効果を実現できるため、釘打機1の軽量化、小型化または製造コスト削減を図ることが可能となる。
【0110】
上記の実施の形態において、打込機の一例として、ファスナとして釘を打込む釘打機1を例示したが、本発明はこれに限定されない。本発明は、打込機として、釘やねじ、ステープル等、機械的接合金具を射出する工具全般に対して適用可能である。なお、ファスナの具体例としては、当該技術分野における一般的なもの全てが対象であり、例えば、ねじ、釘、鋲、リベット、ステープル等が考えられる。
【0111】
電動式でモータ71を有する駆動部7を例示したが、本発明はこれに限定されない。本発明はその他、ソレノイド等の他の駆動方式を備えた打込機にも適用可能である。
【0112】
上記の実施の形態においては、ファスナを打込むためのブレードの付勢手段として圧縮空気を用いたガススプリング方式の例を例示したが、本発明はこれに限定されない。例えば、コイルバネ等の他の付勢手段に適用可能であることは、当業者にとって自明な事項である。
【0113】
上記の第4の実施の形態においては、ローラ711Bを有するワンウェイクラッチ711を用いたが、駆動軸9及びピニオン32の逆回転を規制し、且つ正回転を許容する構成であればよく、ボール及び内周面にボール溝が形成された筒部を有するボール式のワンウェイクラッチ等でもよい。
【符号の説明】
【0114】
1、701…釘打機、2…ハウジング、3…打撃機構、4…ノーズ、5…マガジン、7…駆動部、8…電池、9…駆動軸、10…トリガ、20…シリンダ、21…ピストン、30…ラック、31…ブレード、32…ピニオン、33…ローラ、34…カム、37…被案内部、71…モータ、72…出力軸、73…減速機構、711…ワンウェイクラッチ
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10