特許第6260983号(P6260983)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6260983
(24)【登録日】2017年12月22日
(45)【発行日】2018年1月17日
(54)【発明の名称】自己位置推定装置及び方法
(51)【国際特許分類】
   G01S 19/49 20100101AFI20180104BHJP
   G01C 21/28 20060101ALI20180104BHJP
【FI】
   G01S19/49
   G01C21/28
【請求項の数】4
【全頁数】26
(21)【出願番号】特願2013-110370(P2013-110370)
(22)【出願日】2013年5月24日
(65)【公開番号】特開2014-228495(P2014-228495A)
(43)【公開日】2014年12月8日
【審査請求日】2016年4月25日
(73)【特許権者】
【識別番号】000000099
【氏名又は名称】株式会社IHI
(73)【特許権者】
【識別番号】500302552
【氏名又は名称】株式会社IHIエアロスペース
(74)【代理人】
【識別番号】100093861
【弁理士】
【氏名又は名称】大賀 眞司
(74)【代理人】
【識別番号】100129218
【弁理士】
【氏名又は名称】百本 宏之
(72)【発明者】
【氏名】江本 周平
(72)【発明者】
【氏名】坂野 肇
【審査官】 中村 説志
(56)【参考文献】
【文献】 特開2012−007938(JP,A)
【文献】 特開2012−207919(JP,A)
【文献】 特開2012−215491(JP,A)
【文献】 特開2012−237606(JP,A)
【文献】 特開2012−042318(JP,A)
【文献】 特開2008−107160(JP,A)
【文献】 特開2011−137708(JP,A)
【文献】 米国特許第08560218(US,B1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01S 5/00− 5/14
G01S19/00−19/55
G01C21/00−21/36
G01C23/00−25/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
測位衛星からの電波に基づいて自己の位置を測位するNSS(Navigation Satellite System)センサと、
自己の状態を検出する内界センサと、
前記NSSセンサの出力に基づき得られる第1の測位結果と、前記内界センサの出力を積分することにより得られる第2の測位結果とに基づいて自己の位置を推定する位置推定部と
を備え、
前記位置推定部は、
自己の状態を内部状態として管理しており、
管理している最新の内部状態に基づいて、前記内部状態の観測値を取得した時刻における自己の内部状態を予測し、
予測した前記内部状態に基づいて、少なくとも前記第1の測位結果を予測し、
予測した前記第1の測位結果と、現実の前記第1の測位結果との差分に基づいて前記NSSセンサに測定異常が発生しているか否かを判定する1回目の異常判定処理を実行し、
当該1回目の異常判定処理により前記NSSセンサに測定異常が発生していると判定した場合には、観測ノイズを大きな値に変更する修正処理を実行した上で、再度、前記NSSセンサに測定異常が発生しているか否かを判断する2回目の異常判定処理を実行し、
当該2回目の異常判定処理により前記NSSセンサに測定異常が発生していないと判定した場合には、前記第2の測位結果を前記第1の測位結果に基づいて修正したものを自己の位置と推定し、前記NSSセンサに測定異常が発生していると判定した場合には、前記第2の測位結果を、前記NSSセンサに測定異常が発生していないと判定した場合よりも少ない修正量で修正したものを自己の位置と推定する
ことを特徴とする自己位置推定装置。
【請求項2】
前記位置推定部は、
前記1回目の異常判定処理において、予測した前記第1の測位結果及び現実の前記第1の測位結果の差分の絶対値と、当該差分のマハラノビス距離と、前記内部状態の修正量の大きさとの何れかに基づいて、前記NSSセンサに測定異常が発生しているか否かを判定する
ことを特徴とする請求項1に記載の自己位置推定装置。
【請求項3】
自己位置推定装置により実行される自己位置推定方法において、
測位衛星からの電波に基づいて自己の位置を測位するNSS(Navigation Satellite System)センサの出力と、自己の状態を検出する内界センサの出力とを取得する第1のステップと、
前記NSSセンサの出力に基づき得られる第1の測位結果と、前記内界センサの出力を積分することにより得られる第2の測位結果とに基づいて自己の位置を推定する第2のステップと
を備え、
前記自己位置推定装置は、
自己の状態を内部状態として管理しており、
前記第2のステップにおいて、前記自己位置推定装置は、
管理している最新の内部状態に基づいて、前記内部状態の観測値を取得した時刻における自己の内部状態を予測し、
予測した前記内部状態に基づいて、少なくとも前記第1の測位結果を予測し、
予測した前記第1の測位結果と、現実の前記第1の測位結果との差分に基づいて前記NSSセンサに測定異常が発生しているか否かを判定する1回目の異常判定処理を実行し、
当該1回目の異常判定処理により前記NSSセンサに測定異常が発生していると判定した場合には、観測ノイズを大きな値に変更する修正処理を実行した上で、再度、前記NSSセンサに測定異常が発生しているか否かを判断する2回目の異常判定処理を実行し、
当該2回目の異常判定処理により前記NSSセンサに測定異常が発生していないと判定した場合には、前記第2の測位結果を前記第1の測位結果に基づいて修正したものを自己の位置と推定し、前記NSSセンサに測定異常が発生していると判定した場合には、前記第2の測位結果を、前記NSSセンサに測定異常が発生していないと判定した場合よりも少ない修正量で修正したものを自己の位置と推定する
ことを特徴とする自己位置推定方法。
【請求項4】
前記自己位置推定装置は、
前記1回目の異常判定処理において、予測した前記第1の測位結果及び現実の前記第1の測位結果の差分の絶対値と、当該差分のマハラノビス距離と、前記内部状態の修正量の大きさとの何れかに基づいて、前記NSSセンサに測定異常が発生しているか否かを判定する
ことを特徴とする請求項3に記載の自己位置推定方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自己位置推定装置及び方法に関し、例えばNSS(Navigation Satellite Systems:航法衛星システム)及びINS(Inertial Navigation System:慣性航法システム)を利用した車両の移動軌道を制御する車両制御システムに適用して好適なものである。
【背景技術】
【0002】
従来、ロボット、車両又は携帯端末などの位置を推定する技術としてNSSがある。NSSは、複数の測位衛星からの電波を受信することで各測位衛星との距離を求め、求めた各測位衛星の位置に基づいて受信機の位置を推定する方法である。一般的に普及しているNSSとして、アメリカが運用するGPS(Global Positioning System)がある。
【0003】
NSSを利用して受信機の位置を測位する場合、受信機付近の建物、樹木又は地表からの反射波などの影響によりマルチパスが発生し、このマルチパスの影響により衛星との距離を正確に求められないことがある。従来、このようなマルチパスの影響を低減する方法として、以下の2つの技術が提案されている。
【0004】
第1の方法は、自己位置と、衛星の位置と、全周囲の遮蔽物に関する情報とに基づいて各衛星からの信号が直接波及び反射波のいずれであるかを判別する方法である。この場合における「全周囲の遮蔽物に関する情報」の取得方法としては、地理情報データベースから取得する方法(特許文献1)や、赤外・可視カメラ等により周囲を計測する方法(特許文献2)などが提案されている。
【0005】
また第2の方法は、NSSによる測位結果と、INSによる位置推定結果とを比較して、差が大きいときにはNSSによる測位結果にマルチパスによる誤差が含まれていると判定し、INSによる位置推定結果を採用する方法である。この場合におけるNSSによる測位結果と、INSによる位置推定結果とを比較する比較方法として、測位対象(例えば車両)の位置及び姿勢を比較する方法(特許文献3)や、加速度を比較する方法(特許文献4)などが提案されている。
【0006】
なお、INSは、一般的には加速度計の情報を積分して距離を求め、ジャイロ情報を積分して方角を求め、移動距離と方角のベクトルを細分点ごとに合成してゆくことにより、起点からの移動距離及び方角を算出するシステムである。またINSとして、車輪エンコーダやステア角エンコーダなどの情報を利用して、移動距離及び方角を補正するものもある。INSは、測位対象の位置を直接計測しないため、速度、加速度及び角速度の計測誤差が積分され、位置誤差が徐々に大きくなる特徴がある。従って、INSを利用する場合には、一般的にINSによる位置推定結果を定期的にNSSによる測位結果に基づいて補正することが行われる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特許第4418357号明細書
【特許文献2】特許第4391458号明細書
【特許文献3】特許第4803862号明細書
【特許文献4】特許第3338304号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
ところで、上述の第1の方法は、測位対象が存在する場所の周囲の地理データを必要とし、例えば地理情報データベースを用いる場合に測位対象が進入するエリア全体のデータが必要となり、その分、計算量も多くなる問題がある。また第1の方法において、特許文献2のようにカメラ等で周囲を計測することにより周囲の遮蔽物の情報を取得しようとする場合には、遮蔽物の認識など複雑な処理が必要となったり、逆光などの光学的なノイズの影響を受けやすいという問題もある。
【0009】
一方、上述の第2の方法によると、大量のデータを処理することなく、マルチパスを検出できるという利点がある。しかしながら、INSによる位置の推定では、タイヤのスリップや振動などのノイズの影響により位置誤差が発生する。このためNSSによる測位結果と、INSによる位置推定結果とが一致しない場合、NSSによる測位結果よりもINSによる位置推定結果の方が、実際の位置に対する誤差が大きい可能性もある。
【0010】
このような状況において、このためNSSによる測位結果と、INSによる位置推定結果とが一致しないときに、自己位置推定処理の処理結果としてINSによる位置推定結果を採用した場合、NSSにより正しい測位が行われているものとすると、NSSによる測位結果と、INSによる位置推定結果との間の差が次第に大きくなるため、結果的にこれ以降、常にINSによる位置推定結果が採用されることとなり、この結果、推定される位置と実際の位置との差が拡大してしまうという問題があった。
【0011】
本発明は以上の点を考慮してなされたもので、少ないデータ量及び計算量で精度良く自己位置を推定し得る自己位置推定装置及び方法を提案しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
かかる課題を解決するため本発明においては、測位衛星からの電波に基づいて自己の位置を測位するNSS(Navigation Satellite System)センサと、自己の状態を検出する内界センサと、前記NSSセンサの出力に基づき得られる第1の測位結果と、前記内界センサの出力を積分することにより得られる第2の測位結果とに基づいて自己の位置を推定する位置推定部とを設け、前記位置推定部が、自己の状態を内部状態として管理しており、
管理している最新の内部状態に基づいて、前記内部状態の観測値を取得した時刻における自己の内部状態を予測し、予測した前記内部状態に基づいて、少なくとも前記第1の測位結果を予測し、予測した前記第1の測位結果と、現実の前記第1の測位結果との差分に基づいて前記NSSセンサに測定異常が発生しているか否かを判定する1回目の異常判定処理を実行し、当該1回目の異常判定処理により前記NSSセンサに測定異常が発生していると判定した場合には、観測ノイズを大きな値に変更する修正処理を実行した上で、再度、前記NSSセンサに測定異常が発生しているか否かを判断する2回目の異常判定処理を実行し、当該2回目の異常判定処理により前記NSSセンサに測定異常が発生していないと判定した場合には、前記第2の測位結果を前記第1の測位結果に基づいて修正したものを自己の位置と推定し、前記NSSセンサに測定異常が発生していると判定した場合には、前記第2の測位結果を、前記NSSセンサに測定異常が発生していないと判定した場合よりも少ない修正量で修正したものを自己の位置と推定するようにした。
【0013】
また本発明においては、自己位置推定装置により実行される自己位置推定方法において、測位衛星からの電波に基づいて自己の位置を測位するNSS(Navigation Satellite System)センサの出力と、自己の状態を検出する内界センサの出力とを取得する第1のステップと、前記NSSセンサの出力に基づき得られる第1の測位結果と、前記内界センサの出力を積分することにより得られる第2の測位結果とに基づいて自己の位置を推定する第2のステップとを設け、前記自己位置推定装置は、自己の状態を内部状態として管理しており、前記第2のステップにおいて、前記自己位置推定装置が、管理している最新の内部状態に基づいて、前記内部状態の観測値を取得した時刻における自己の内部状態を予測し、予測した前記内部状態に基づいて、少なくとも前記第1の測位結果を予測し、予測した前記第1の測位結果と、現実の前記第1の測位結果との差分に基づいて前記NSSセンサに測定異常が発生しているか否かを判定する1回目の異常判定処理を実行し、当該1回目の異常判定処理により前記NSSセンサに測定異常が発生していると判定した場合には、観測ノイズを大きな値に変更する修正処理を実行した上で、再度、前記NSSセンサに測定異常が発生しているか否かを判断する2回目の異常判定処理を実行し、当該2回目の異常判定処理により前記NSSセンサに測定異常が発生していないと判定した場合には、前記第2の測位結果を前記第1の測位結果に基づいて修正したものを自己の位置と推定し、前記NSSセンサに測定異常が発生していると判定した場合には、前記第2の測位結果を、前記NSSセンサに測定異常が発生していないと判定した場合よりも少ない修正量で修正したものを自己の位置と推定するようにした。
【0014】
かかる本発明の自己位置推定装置及び自己位置推定方法によれば、第2の測位結果が常に第1の測位結果に基づいて修正されるため、最終的に第2の測位結果が第1の測位結果に近づくよう修正される。従って、自己位置の推定結果として第2の測位結果を採用した場合に、その後、第1の測位結果が利用されなくなり、自己位置の推定結果と、現実の位置との間の誤差が拡大するという事態が発生するのを未然かつ有効に防止することができる。
【0015】
また本発明の自己位置推定装置及び自己位置推定方法によれば、自己が存在する場所の周囲の地理データを必要とせず、少ないデータ量及び計算量で自己位置を推定することができる。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、少ないデータ量及び計算量で精度良く自己位置を推定し得る自己位置推定装置及び方法を実現できる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】第1及び第2の実施の形態による車両制御システムの概略構成を示すブロック図である。
図2】INS処理の処理手順を示すフローチャートである。
図3】INS処理における更新処理の処理手順を示すフローチャートである。
図4】NSS処理の処理手順を示すフローチャートである。
図5】NSS処理における更新処理の処理手順を示すフローチャートである。
図6】第1の異常判定処理の処理手順を示すフローチャートである。
図7】第2の異常判定処理の処理手順を示すフローチャートである。
図8】第3の異常判定処理の処理手順を示すフローチャートである。
図9】通常修正処理の処理手順を示すフローチャートである。
図10】第1の異常時修正処理の処理手順を示すフローチャートである。
図11】第2の異常時修正処理の処理手順を示すフローチャートである。
図12】第3の異常時修正処理の処理手順を示すフローチャートである。
図13】第2の実施の形態による更新処理の処理手順を示すフローチャートである。
図14】異常判定及び修正処理の処理手順を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下図面について、本発明の一実施の形態を詳述する。
【0019】
(1)第1の実施の形態
(1−1)本実施の形態によるシステム構成
図1において、1は全体として本実施の形態による車両制御システムを示す。この車両制御システム1は、当該車両制御システム1が搭載された車両(図示せず)の位置を測位する測位装置2と、測位装置2の測位結果に基づいて車両の移動を制御する制御装置3とから構成される。
【0020】
測位装置2は、NSS及びINSの双方を利用して車両の位置及び姿勢を推定する自己位置推定機能を有し、NSS用のセンサ(以下、これをNSSセンサと呼ぶ)10としてGPS/GPSコンパス13を備え、INS用のセンサ(以下、これをINSセンサと呼ぶ)11として車輪用エンコーダ14、ジャイロセンサ15及びステア角エンコーダ16を備える。また測位装置2は、NSSセンサ10及びINSセンサ11に加えて、これらNSSセンサ10及びINSセンサ11のセンサ出力に基づいて自己位置を推定する位置推定部12を備える。
【0021】
GPS/GPSコンパス13は、GPSアンテナを2つ以上用い、位置だけでなく方位も計測するセンサであり、かかる計測により得られた車両の位置及び方位を位置・姿勢情報として位置推定部12に送出する。
【0022】
車輪用エンコーダ14は、ロータリーエンコーダから構成され、車両の車輪の回転角度に応じた出力をエンコーダ情報として位置推定部12に送出する。またジャイロセンサ15は、車両の角速度を検出し、検出結果を角速度情報として位置推定部12に送出する。さらにステア角エンコーダ16は、車両のステアリングの回転角度(以下、これをステア角と呼ぶ)を検出するエンコーダであり、検出結果をステア角情報として位置推定部12に送出する。
【0023】
位置推定部12は、CPU(Central Processing Unit)及びメモリ等の情報処理資源を備えて構成され、車輪用エンコーダ14から送信されるエンコーダ情報に基づき得られる車両の速度と、ジャイロセンサ15から送信される角速度情報に基づき得られる車両の角速度と、ステア角エンコーダ16から送信されるステア角情報に基づき得られる車両の移動軌道の曲率とを積算処理することにより、車両の位置及び姿勢を推定する。また位置推定部12は、このようにして得られた車両の位置及び姿勢を、GPS/GPSコンパス13から送信される位置・姿勢情報に基づいて補正し、かくして得られた車両の位置及び姿勢を表す位置・姿勢情報を制御装置3に送出する。
【0024】
制御装置3は、行動計画部17、車両制御部18及びロボット駆動部19を備えて構成される。本実施の形態においては、これら行動計画部17、車両制御部18及びロボット駆動部19は、制御装置3を構成する図示しないCPUが対応するプログラムを実行することにより具現化されるものとする。ただし、これら行動計画部17、車両制御部18及びロボット駆動部19をそれぞれ別個のハードウェア構成としても良い。
【0025】
行動計画部17は、測位装置2の位置推定部12から与えられる位置・姿勢情報に基づいて予め設定された目標地点に向けた車両の軌道を生成する軌道生成部17Aを備えて構成され、軌道生成部17Aが生成した軌道に関する情報を軌道情報として車両制御部18に送出する。
【0026】
車両制御部18は、行動計画部17から与えられる軌道情報に基づいて、車両が軌道生成部17Aにより生成された軌道上を移動するようにロボット駆動部を駆動するための指令値(目標値)を算出する指令値算出部18Aを備える。そして車両制御部18は、指令値算出部18Aにより算出された指令値をロボット駆動部19に送出する。
【0027】
ロボット駆動部19は、例えばエンジン又はモータ等の車両の駆動源と、車両のステアリングを回転駆動するモータなどを備えて構成される。そしてロボット駆動部19は、車両制御部18から与えられる指令値に従った回転量又は回転角でエンジンやモータなどを駆動することにより、当該指令値に従った状態に車両を駆動する。
【0028】
(1−2)本実施の形態による自己位置推定方式
(1−2−1)概要
次に、測位装置2の位置推定部12において実行される自己位置推定処理の方式(自己位置推定方式)について説明する。
【0029】
本実施の形態による自己位置推定方式は、NSSにより測定した自己の位置及び姿勢と、INSにより求めた自己の位置及び姿勢とを比較して、NSSにマルチパスなどの影響による測定異常が発生しているか否かを判定する点を特徴の1つとしている。また本自己位置推定方式は、かかる判定によりNSSに測定異常が発生していないとの判定結果を得た場合には、INSで求めた車両の位置及び姿勢をNSSの測定結果に基づいて修正する一方、測定異常が発生しているとの判定結果を得た場合には、INSで求めた位置を、NSSに測定異常が発生していないとの判定結果を得た場合よりも少ない修正量で修正する点をもう1つの特徴としている。
【0030】
このような自己位置推定方式を実現するための手段として、本実施の形態においては、自己位置推定処理にカルマンフィルタ理論を導入する。すなわち測位装置2の位置推定部12は、NSSセンサ10及びINSセンサ11のセンサ出力に基づき得られる観測値を用いてカルマンフィルタ理論により車両の位置及び姿勢を推定する。
【0031】
カルマンフィルタ理論では、位置、姿勢、速度及び角速度といった推定したいパラメータを内部状態とし、NSSセンサ10及びINSセンサ11のセンサ出力に基づくこれら位置、姿勢、速度及び角速度の観測値を用いて内部状態を順次更新することで内部状態を正しい値に収束させていく。
【0032】
この場合において、カルマンフィルタ理論では、推定値の誤差分散をも併せて算出するため、NSSによる位置及び姿勢の推定値が誤差範囲に入っているか否かを判定することによって、NSSに測定異常が発生しているか否かを判定することが可能となる。
【0033】
またNSSに測定異常が発生している場合には、INSで求めた位置を、NSSに測定異常が発生していないとの判定結果を得た場合よりも少ない修正量で修正することにより、この後、NSSにより計測した自己の位置及び姿勢と、INSにより求めた自己の位置及び姿勢との間の誤差が拡大して、NSSの計測結果が採用されなくなるという事態が発生することを未然かつ有効に防止することができる。
【0034】
(1−2−2)カルマンフィルタ理論を利用した自己位置推定処理の内容
次に、カルマンフィルタ理論を利用した本実施の形態による自己位置推定処理の具体的な処理内容について説明する。
【0035】
図2は、所定の第1の更新周期(例えば0.02秒周期)で位置推定部12により実行されるINS処理の処理内容を示す。位置推定部は、この図2に示すINS処理を実行することにより、各INSセンサ11のセンサ出力に基づいて、内部状態を第1の更新周期で更新する。
【0036】
実際上、位置推定部12は、図2に示すINS処理を開始すると、まず、現在時刻を取得し(SP1)、この後、車輪用エンコーダ14、ジャイロセンサ15及びステア角エンコーダ16からそれぞれ送信されるエンコーダ情報、角速度情報及びステア角情報をそれぞれ順次取得する(SP2〜SP4)。続いて、位置推定部12は、ステップSP2〜ステップSP4において取得したエンコーダ情報、角速度情報及びステア角情報に基づいて内部状態を更新し(SP5)、この後、ステップSP1に戻る。位置推定部12は、以上のINS処理を第1の更新周期で繰り返し実行する。
【0037】
図3は、かかるINS処理(図2)のステップSP5において、位置推定部12により実行される更新処理の具体的な処理内容を示す。
【0038】
位置推定部12は、INS処理のステップSP5に進むと、この更新処理を開始し、まず、保持している最新の内部状態に基づいて、各INSセンサ11(車輪用エンコーダ14、ジャイロセンサ15及びステア角エンコーダ16)が対応するセンサ値を取得した時刻(以下、これを観測時刻と呼ぶ)における内部状態を予測する内部状態予測処理を実行する(SP10)。
【0039】
続いて、位置推定部12は、車輪用エンコーダ14からのエンコーダ情報に基づき得られる車両の速度と、ジャイロセンサ15からの角速度情報に基づき得られる車両の角速度と、ステア角エンコーダ16からのステア角情報に基づき得られる車両の移動軌道の曲率との観測値の予測値をそれぞれ求める観測値予測処理を実行し(SP11)、この後、ステップSP11において求めた観測値の予測値と、実際の観測値とに基づいて内部状態を修正する修正処理を実行する(SP12)。そして位置推定部12は、この後、INS処理に戻る。
【0040】
一方、図4は、上述のINS処理(図2)と並行して所定の第2の更新周期(例えば1秒周期)で位置推定部12により実行されるNSS処理の処理内容を示す。位置推定部12は、この図4に示すNSS処理を実行することにより、NSSセンサ10のセンサ出力に基づいて内部状態を更新する。
【0041】
実際上、位置推定部12は、図4に示すNSS処理を開始すると、まず、現在時刻を取得し(SP20)、この後、GPS/GPSコンパス13から与えられる位置・姿勢情報を取得する(SP21)。続いて、位置推定部12は、ステップSP21において取得した位置・姿勢情報に含まれる位置情報に基づいて内部状態を更新する更新処理を実行し(SP22)、さらに、かかる位置・姿勢情報に含まれる姿勢情報(方位情報)に基づいて内部状態を更新する更新処理を実行した後(SP23)、ステップSP20に戻る。位置推定部12は、以上のNSS処理を第2の更新周期で繰り返し実行する。
【0042】
図5は、かかるNSS処理(図4)のステップSP22及びステップSP23において、位置推定部12により実行される更新処理の具体的な処理内容を示す。
【0043】
位置推定部12は、NSS処理のステップSP22又はステップSP23に進むと、この更新処理を開始し、まず、保持している最新の内部状態に基づいて、GPS/GPSコンパス13が当該位置・姿勢を測位した時刻(観測時刻)における内部状態を予測する内部状態予測処理を実行する(SP30)。
【0044】
続いて、位置推定部12は、GPS/GPSコンパス13の観測値の予測値及び予測値の誤差範囲を求める観測値予測処理を実行する(SP31)。この後、位置推定部12は、ステップSP30で求めた車両の位置又は姿勢の観測値の予測値と、実際のGPS/GPSコンパス13により観測された車両の位置又は姿勢の観測値とを比較(ステップSP22の更新処理では位置、ステップSP23の更新処理では姿勢を比較)し、これらの差がステップSP31において求めた予測値の誤差範囲を超えるか否かによってNSSに測定異常が発生しているか否かを判定する異常判定処理を実行する(SP32)。
【0045】
そして位置推定部12は、かかる異常判定処理の処理結果に基づいて、内部状態を補正する(SP33)。具体的に、位置推定部12は、ステップSP32の異常判定処理の結果、観測値に異常がないと判定した場合には、NSSの測定結果を利用して内部状態を修正する一方、観測値に異常があると判定した場合には、観測値に異常がないと判定した場合の修正量よりも少ない修正量で内部状態を修正する。そして位置推定部12は、この後、NSS処理に戻る。
【0046】
(1−2−3)更新処理の詳細
(1−2−3−1)内部状態及びその分散・共分散
次に、上述した内部状態予測処理、観測値予測処理、異常判定処理及び修正処理の具体的な内容について説明する。なお、以下の説明において、「対象とするセンサ」とは、INS処理時には車輪用エンコーダ14、ジャイロセンサ15及びステア角エンコーダ16を指し、NSS処理(図4)のステップSP22の更新処理ではGPS/GPSコンパス13のうちのGPSセンサを指し、NSS処理のステップSP23の更新処理ではGPS/GPSコンパス13のうちのGPSコンパスを指すものとする。
【0047】
まず、以下の説明において使用する車両の内部状態及びその分散・共分散について説明する。位置推定部12は、車両の位置を(x、y)、姿勢をθ、速度をvx、角速度をwzとして、これらのパラメータを次式
【数1】
で表される内部状態ベクトルX(以下、これを単に内部状態Xと呼ぶ)として管理している。
【0048】
また位置推定部12は、内部状態Xの推定値の誤差範囲の分散・共分散を表す行列式として、次式
【数2】
で表される分散・共分散行列CovX(以下、これを単に分散・共分散CovXと呼ぶ)をメモリ内に保持している。(2)式における行列の対角項は、各パラメータの分散を表し、非対角項は、パラメータ間の共分散を表す。
【0049】
なお、車両の内部状態X及び分散・共分散CovXは、いずれも時間変化する値である。以下、内部状態X及び分散・共分散CovXを表す時刻をモデル時刻tとし、各パラメータは、モデル時刻がtの時点の値を示すものとする。
【0050】
そして位置推定部12は、GPS/GPSコンパス13から最初に与えられた位置・姿勢情報に基づいて、内部状態Xを次式のように初期化する。
【数3】
【0051】
また位置推定部12は、かかる内部状態Xの初期化と併せて、内部状態Xの分散・共分散CovXを次式のように初期化する。
【数4】
【0052】
(3)式及び(4)式において、tは、GPS/GPSコンパス13が車両の位置及び姿勢を測定した時刻に設定される。また(4)式において、σinitx〜σinitwzは、GPS/GPSコンパス13から与えられる位置・姿勢情報の精度などを考慮して適宜決定される定数である。
【0053】
(1−2−3−2)内部状態予測処理
内部状態予測処理では、対象とするセンサのセンサ出力を取得した時刻(以下、これを観測時刻と呼ぶ)における内部状態X及びその分散・共分散CovXを予測する。この予測値は、観測時刻とモデル時刻との差分をΔt(観測時刻−モデル時刻)として、
次式のように求めることができる。
【数5】
【数6】
【0054】
なお、(6)式において、「A」は、次式
【数7】
で表される行列であり、「Q」は、次式
【数8】
で表される行列である。
【0055】
(1−2−3−3)観測値予測処理
観測値予測処理では、次式
【数9】
で表される観測方程式を、対象とするセンサごとに定義し、上述の内部状態予測処理により求めた内部状態Xの予測値Xt+Δtと、分散・共分散CovXの分散・共分散CovXt+Δtとを代入することにより、対象とするセンサの観測値を予測する。
【0056】
ここで(9)式において、Yは観測値の予測値を表し、Xは、修正処理前の内部状態(予測処理によって、tが観測時刻に一致しているものとする)を表す。同様に、以下、「*」は修正処理前の値であることを表すものとする。
【0057】
また観測値予測処理では、対象とするセンサごとに、当該センサの観測値の予測値Yの分散・共分散CovYを次式
【数10】
により求める。なお、(10)式において、Bは、次式
【数11】
で与えられる観測方程式の偏微分行列(以下、これを観測行列と呼ぶ)を表す。
【0058】
さらに観測値予測処理では、対象とするセンサごとに、次式
【数12】
によりセンサノイズを含んだ分散期待値Vを求める。なお(12)式において、Rは、センサ値にどの程度のノイズが含まれているかを表す観測ノイズである。
【0059】
本実施の形態の場合、GPS/GPSコンパス13に含まれるGPSセンサについて、関数g(X)、観測行列B及び観測ノイズRは、それぞれ次式
【数13】
【数14】
【数15】
のように定義される。
【0060】
またGPS/GPSコンパス13に含まれるGPSコンパスについて、関数g(X)、観測行列B及び観測ノイズRは、それぞれ次式
【数16】
【数17】
【数18】
のように定義される。
【0061】
さらに車輪用エンコーダ14及びジャイロセンサ15について、関数g(X)、観測行列B及び観測ノイズRは、それぞれ次式
【数19】
【数20】
【数21】
のように定義され、ステア角エンコーダ16について、関数g(X)、観測行列B及び観測ノイズRは、それぞれ次式
【数22】
【数23】
【数24】
のように定義される。
【0062】
なお、車輪用エンコーダ14からのエンコーダ情報に基づき得られた修正前の車両の速度の予測値vxが「0」のときは、ステア角の予測値を算出できないため、ステア角エンコーダの観測値による修正処理を実行しない。またσgps_x〜σ_κは、各センサの精度(ばらつき)を考慮して決定する。
【0063】
従って、位置推定部12は、INS処理(図2)の観測予測処理では、(19)式〜(24)式により、車輪用エンコーダ14からのエンコーダ情報に基づき得られる速度vxの観測値の予測値Yと、ジャイロセンサ15からの角速度情報に基づき得られる角速度wzの観測値の予測値Yと、ステア角エンコーダ16からのステア角情報に基づき得られる曲率κの観測値の予測値Yとを求める。
【0064】
また位置推定部12は、NSS処理(図4)のステップSP22の更新処理内の観測予測処理では、(13)式〜(15)式により、GPS/GPSコンパス13からの位置・姿勢情報に基づき得られる位置(x、y)の観測値の予測値Yを求め、NSS処理のステップSP23の更新処理内の観測予測処理では、(16)式〜(18)式により、GPS/GPSコンパス13からの位置・姿勢情報に基づき得られる姿勢θの観測値の予測値Yを求めることになる。
【0065】
(1−2−3−4)異常判定処理
異常判定処理は、上述のようにNSS処理においてのみ実行される処理である。この異常判定処理では、マルチパスの影響等による測定異常がGPS/GPSコンパス13に発生しているか否かを判定する。
【0066】
ここで、かかる異常判定の判定方法としては、予測値及び観測値の差分の絶対値を評価する第1の異常判定方法と、マハラノビス距離の大きさを評価する第2の異常判定方法と、内部状態Xの修正量XCorrの大きさを評価する第3の異常判定方法とが考えられる。
【0067】
このうち第1の異常判定方法は、(13)式により算出される車両の位置の予測値Yと、実際の車両の位置の観測値Yとの差分の絶対値(NSS処理のステップSP22の場合)、又は(16)式により算出される車両の姿勢の予測値Yと、実際の車両の姿勢の観測値Yとの差分の絶対値(NSS処理のステップSP23の場合)が、予め位置又は姿勢について設定された閾値よりも大きいときに、GPS/GPSコンパス13に測定異常が発生していると判定する方法である。
【0068】
図6は、GPS/GPSコンパス13に測定異常が発生しているか否かを判定する判定方法として、第1の異常判定方法を採用した場合の位置推定部12の具体的な処理手順を示す。
【0069】
この場合、位置推定部12は、この図6に示す処理手順に従って、まず、次式
【数25】
により、車両の位置又は姿勢について、(13)式又は(16)式により算出される予測値Yと、実際の観測値Yとの差分(以下、これを観測残差と呼ぶ)Eyを算出する(SP40)。
【0070】
続いて、位置推定部12は、(25)式により算出した観測残差Eyについて、次式
【数26】
のように、観測残差Eyの絶対値が予め定められた閾値(Th_Ey)よりも大きいか否かを判断する(SP41)。
【0071】
そして位置推定部12は、かかる判断において否定結果を得た場合には、通常の修正処理を実行すべきと判定し(SP42)、かかる判断において肯定結果を得た場合には、異常時の修正処理を実行すべきと判断する(SP43)。
【0072】
一方、第2の異常判定方法は、マハラノビス距離が大きいときに、GPS/GPSコンパス13に測定異常が発生していると判定する方法である。
【0073】
車両の運動誤差やセンサの測定誤差がすべて正規分布であれば、観測残差Eyも平均「0」、分散期待値Vの正規分布となる。従って、誤差(観測残差Ey)の二乗を誤差分散で割った次式
【数27】
により算出されるマハラノビス距離Mは、99.7%の確率で3以下となるため(正規分布誤差が3σ範囲に入る確率が99.7%であるため)、これを超える場合は異常値であると判定することができる。
【0074】
そこで、本実施の形態においては、NSS処理のステップSP22では、次式
【数28】
を満たすか否かに基づいて、またNSS処理のステップSP23では、次式
【数29】
を満たすか否かに基づいて、GPS/GPSコンパス13に測定異常が発生しているか否かを判定する。
【0075】
なお(28)式において、Th_gxyは、マハラノビス距離Mについて予め定められた位置の閾値を表し、(29)式においてTh_gthは、マハラノビス距離Mについて予め定められた姿勢の閾値を表す。これらの閾値Th_gxy及びTh_gthは、実際の実験データを参考に決定される閾値であるが、上述のようにマハラノビス距離Mは、99.7%の確率で3以下となるため、3〜4の範囲で決定されることになる。
【0076】
図7は、GPS/GPSコンパス13に測定異常が発生しているか否かを判定する判定方法として、この第2の異常判定方法を採用した場合の位置推定部12の具体的な処理手順を示す。
【0077】
この場合、位置推定部12は、この図7に示す処理手順に従って、まず、車両の位置について、(13)式により算出される予測値Yと、実際の観測値Yとの観測残差Eyを(25)式により算出する(SP50)。
【0078】
続いて、位置推定部12は、マハラノビス距離Mを(27)式により算出し(SP51)、この後、NSS処理のステップSP22では、位置について算出したマハラノビス距離Mが予め設定された位置についての閾値Th_gxyよりも小さいか否かを判断し、NSS処理のステップSP23では、姿勢について算出したマハラノビス距離Mが予め設定された姿勢についての閾値Th_gthよりも小さいか否かを判断する(SP52)。
【0079】
そして位置推定部12は、かかる判断において否定結果を得た場合には、通常の修正処理を実行すべきと判定し(SP53)、かかる判断において肯定結果を得た場合には、異常時の修正処理を実行すべきと判断する(SP54)。
【0080】
他方、第3の異常判定方法は、異常判定の際にマハラノビス距離Mでなく、次式
【数30】
で表される内部状態Xの修正量XCorrを利用して、GPS/GPSコンパス13に測定異常が発生しているか否かを判定する方法である。
【0081】
なお(30)式において、Kは、次式
【数31】
により算出されるカルマンゲインを表す。
【0082】
この第3の異常判定方法を採用する場合、NSS処理のステップSP22では、修正量XCorrの各成分(XCorr_x、XCorr_y、XCorr_θ、XCorr_vx、XCorr_wz及びXCorr_κ)のうち、位置に関する成分XCorr_x及びXCorr_yを利用して、次式
【数32】
を満たすか否かに基づいて、またNSS処理のステップSP23では、修正量XCorrの各成分のうち、姿勢に関する成分XCorr_θを利用して、次式
【数33】
を満たすか否かに基づいて、GPS/GPSコンパス13に測定異常が発生しているか否かを判定する。
【0083】
なお(32)式において、Th_gxyは、評価値VCorrについて予め定められた位置の閾値を表し、(33)式においてTh_gthは、評価値VCorrについて予め定められた姿勢の閾値を表す。
【0084】
図8は、GPS/GPSコンパス13に測定異常が発生しているか否かを判定する判定方法として、この第3の異常判定方法が採用された場合の位置推定部12の具体的な処理手順を示す。
【0085】
この場合、位置推定部12は、この図8に示す処理手順に従って、まず、車両の位置について、(13)式により算出される予測値Yと、実際の観測値Yとの観測残差Eyを(25)式により算出する(SP60)。
【0086】
続いて、位置推定部12は、(31)式によりカルマンゲインKを算出し(SP61)、この後、(30)式で表される修正量XCorrを算出す(SP62)。そして位置推定部12は、この後、NSS処理のステップSP22では、ステップSP62において算出した修正量XCorrのうちの位置に関する成分XCorr_x及びXCorr_yを利用して、(32)式を満たすか否かを判断し、NSS処理のステップSP23では、ステップSP62において算出した修正量XCorrのうちの姿勢に関する成分XCorr_θを利用して、(33)式を満たすか否かを判断する(SP63)。
【0087】
そして位置推定部12は、かかる判断において否定結果を得た場合には、通常の修正処理を実行すべきと判定し(SP64)、かかる判断において肯定結果を得た場合には、異常時の修正処理を実行すべきと判断する(SP65)。
【0088】
(1−2−3−5)修正処理
(1−2−3−5−1)通常の修正処理
位置推定部12は、上述の異常判定処理において、通常の修正処理を実行すべきと判定した場合、次式
【数34】
により内部状態Xを修正すると共に、次式
【数35】
により内部状態Xの分散・共分散CovXを修正する。なお、(34)式及び(35)式において、Kは、上述の(31)式により算出されるカルマンゲインを表す。
【0089】
図9は、上述の異常判定処理において修正処理として通常処理が選択された場合に位置推定部12により実行される修正処理(以下、これを通常修正処理と呼ぶ)の具体的な処理手順を示す。
【0090】
この場合、位置推定部12は、まず、(31)の演算を実行することによりカルマンゲインKを算出する(SP70)。続いて、位置推定部12は、ステップSP71において算出したカルマンゲインKを利用して(34)式の演算を実行することにより、新たな内部状態Xを算出し、そのとき保持している内部状態Xを、このとき算出した新たな内部状態Xに置き換えるようにして修正する(SP71)。
【0091】
続いて、位置推定部12は、ステップSP71において算出したカルマンゲインKを利用して(36)式の演算を実行することにより、新たな内部状態Xの分散・共分散CovXを算出し(SP72)、そのとき保持している分散・共分散CovXを、このとき算出した新たな分散・共分散CovXに置き換えるようにして修正する。そして位置推定部12は、この後、この通常修正処理を終了する。
【0092】
(1−2−3−5−2)異常時修正処理
一方、上述の異常判定処理において、異常時の修正処理を実行すべきと判定した場合には、通常修正処理時よりも少ない修正量で内部状態X及びその分散・共分散CovXを修正する。
【0093】
ここで、通常修正処理時よりも少ない修正量で内部状態X及びその分散・共分散CovXを修正する方法としては、観測ノイズを切り替える第1の異常時修正方法と、重み付けにより修正を行う第2の異常時修正方法と、修正量の上限処理を行う第3の異常時修正方法が考えられる。
【0094】
このうち第1の異常時修正方法は、GPS/GPSコンパス13から出力される位置・姿勢情報の観測ノイズRを通常修正処理時よりも大きな値に切り替える方法である。例えば、NSS処理(図4)のステップSP22において実行した更新処理のステップSP32(図5)の異常判定処理で異常判定を得た場合において、通常修正処理時における(15)式の「σgsp_x」及び「σgsp_y」の値がいずれも0.3〔m〕に設定されている場合には、これら「σgsp_x」及び「σgsp_y」の値をいずれもその10倍の3〔m〕に切り替える。また、NSS処理のステップSP23において実行した更新処理のステップSP32の異常判定処理で異常判定を得た場合において、通常修正処理時における(18)式の「σgsp_θ」の値が15〔度〕に設定されている場合には、当該「σgsp_θ」の値をその10倍の150〔度〕に切り替える。
【0095】
このようにGPS/GPSコンパス13から出力される位置・姿勢情報の観測ノイズRを大きな値に切り替えることによって、(31)式で表されるカルマンゲインKを低減させることができ、結果として通常修正処理時よりも少ない修正量で内部状態X及びその分散・共分散CovXを修正することができる。
【0096】
図10は、異常判定処理時にGPS/GPSコンパス13に測定異常が発生していると判定されたときの修正方法として、この第1の異常時修正方法が採用された場合の位置推定部12の具体的な処理手順を示す。
【0097】
この場合、位置推定部12は、この図10に示す処理手順に従って、まず、観測ノイズRを予め設定された異常時修正処理時の値(通常修正処理時よりも大きな値)に変更した上で、(12)式により観測残差Eyの分散期待値Vを再計算する(SP80)。
【0098】
続いて、位置推定部12は、ステップSP80において算出した観測残差Eyの分散期待値Vを利用して、(31)式によりカルマンゲインKを算出する(SP81)。
【0099】
次いで、位置推定部12は、ステップSP81において算出したカルマンゲインKを用いて(34)式により内部状態Xを算出し、保持している内部状態Xを、このとき算出した新たな内部状態Xに置き換えるようにして修正する(SP82)。
【0100】
また位置推定部12は、ステップSP81において算出したカルマンゲインKを用いて(35)式により内部状態Xの分散・共分散CovXを算出し、保持している分散・共分散CovXを、このとき算出した新たな分散・共分散CovXに置き換えるようにして修正する(SP83)。
【0101】
一方、第2の異常時修正方法は、内部状態Xについては、次式
【数36】
のように、また分散・共分散CovXについては次式
【数37】
のように、修正量(K×Ey又は−K×B×CovX)をマハラノビス距離Mで除算する方法である。
【0102】
NSSの測定異常の程度が大きければ大きいほどマハラノビス距離Mも大きくなるため、(35)式及び(36)式のように修正量をマハラノビス距離Mで除算することにより、通常修正処理時よりも少ない修正量で内部状態X及び分散・共分散CovXを修正することができる。
【0103】
図11は、異常判定処理時にGPS/GPSコンパス13に測定異常が発生していると判定されたときの修正方法として、この第2の異常時修正方法が採用された場合の位置推定部12の具体的な処理手順を示す。
【0104】
この場合、位置推定部12は、この図11に示す処理手順に従って、まず、通常時のカルマンゲインKを(31)式により算出すると共に(SP90)、算出したカルマンゲインKを(27)式で与えられるマハラノビス距離Mで除算した係数を算出する(SP91)。
【0105】
続いて、位置推定部12は、ステップSP91において算出した係数を用いて(34)式により内部状態Xを算出し、保持している内部状態Xを、このとき算出した新たな内部状態Xに置き換えるようにして修正する(SP92)。
【0106】
また位置推定部12は、ステップSP91において算出した係数を用いて(35)式により内部状態Xの分散・共分散CovXを算出し、保持している分散・共分散CovXを、このとき算出した新たな分散・共分散CovXに置き換えるようにして修正する(SP93)。
【0107】
他方、第3の異常時修正方法は、内部状態Xについては、次式
【数38】
のように、また分散・共分散CovXについては次式
【数39】
のように修正する方法である。なお、(38)式及び(39)式において、Thは、システムが許容できる修正量の上限を表し、XCorrは、通常の修正処理における修正量を表す。
【0108】
この第3の異常時修正方法によれば、内部状態Xの修正量を、予め設定された閾値以下に上限処理することができるという効果を得ることができる。
【0109】
図12は、異常判定処理時にGPS/GPSコンパス13に測定異常が発生していると判定されたときの修正方法として、この第3の異常時修正方法が採用された場合の位置推定部12の具体的な処理手順を示す。
【0110】
この場合、位置推定部12は、この図12に示す処理手順に従って、まず、カルマンゲインKを(31)式により算出し(SP100)、算出したカルマンゲインKを用いて(30)式により内部状態Xの修正量XCorrを算出する(SP101)。
【0111】
なお、例えば異常判定処理における異常判定方法として上述した第3の異常判定方法を採用している場合には、異常判定処理の段階で既にカルマンゲインK及び修正量XCorrを算出しているため(図8のステップSP61及びステップSP62)、ステップSP100及びステップSP101の処理を省略することができる。
【0112】
続いて、位置推定部12は、次式
【数40】
により、修正量XCorrを減らすための係数αを算出する(SP102)。
【0113】
次いで、位置推定部12は、ステップSP100において算出したカルマンゲインKと、ステップSP102において算出した係数αとを用いて(38)式により内部状態Xを算出し、保持している内部状態Xを、このとき算出した新たな内部状態Xに置き換えるようにして修正する(SP103)。
【0114】
また位置推定部12は、ステップSP100において算出したカルマンゲインKと、ステップSP102において算出した係数αとを用いて(39)式により内部状態Xの分散・共分散CovXを算出し、保持している分散・共分散CovXを、このとき算出した新たな分散・共分散CovXに置き換えるようにして修正する(SP104)。
【0115】
(1−3)本実施の形態の効果
以上の車両制御システム1によれば、INSによる測位結果が常にSSの測定結果に基づいて修正されるため、最終的にINSによる測位結果がNSSの測位結果に近づくよう修正される。従って、自己位置の推定結果としてINSによる測位結果を採用した場合に、その後、NSSによる測位結果が利用されなくなって、自己位置の推定結果と、現実の位置との間の誤差が拡大するという事態が発生するのを未然かつ有効に防止することができる。
【0116】
また本車両制御システム1によれば、自己が存在する場所の周囲の地理データを必要とせず、少ないデータ量及び計算量で自己位置を推定することができる。
【0117】
かくするにつき、本車両制御システム1によれば、少ないデータ量及び計算量で精度良く自己位置を推定することができる。
【0118】
(2)第2の実施の形態
図1において、20は全体として第2の実施の形態による車両制御システムを示す。この車両制御システム20は、測位装置21の位置推定部22により実行される更新処理の処理内容が異なる点を除いて第1の実施の形態の車両制御システム1と同様に構成されている。
【0119】
図13は、NSS処理(図4)のステップSP22及びステップSP23において、図5について上述した更新処理に代えて実行される本実施の形態による更新処理の処理内容を示す。
【0120】
位置推定部22は、NSS処理のステップSP22及びステップSP23に進むと、この更新処理を開始し、まず、ステップSP110の内部状態予測処理及びステップSP111の観測値予測処理を、図5について上述した第1の実施の形態の更新処理の内部状態予測処理及び観測値予測処理(SP30、SP31)と同様に処理する。
【0121】
続いて、位置推定部22は、NSSに測定異常が発生しているか否かの判定を行うと共に、NSSに測定異常が発生しているときには内部状態及びその分散・共分散を修正する異常判定及び修正処理を実行する(SP112)。
【0122】
図14は、かかる更新処理のステップSP112において位置推定部22により実行される異常判定及び修正処理の具体的な処理内容を示す。
【0123】
位置推定部22は、更新処理(図13)のステップSP112に進むと、この図14に示す異常判定処理及び修正処理を開始し、まず、図7について上述した第2の異常判定処理のステップSP50〜ステップSP52と同様にステップSP120〜ステップSP122を処理することにより、NSS処理のステップSP22では、位置について算出したマハラノビス距離Mが予め設定された位置についての閾値Th_gxyよりも小さいか否かを判断し、NSS処理のステップSP23では、姿勢について算出したマハラノビス距離Mが予め設定された姿勢についての閾値Th_gthよりも小さいか否かを判断する(SP120〜SP122)。
【0124】
そして位置推定部22は、この判定で肯定結果を得ると、図10について上述した第1の異常時修正処理のステップSP80及びステップSP81と同様にして、観測ノイズRを予め設定された異常時修正処理時の値(通常修正処理時よりも大きな値)に変更した上で、(12)式により観測残差Eyの分散期待値Vを再計算し(SP126)、さらにこの分散期待値Vを利用して、(31)式を用いてカルマンゲインKを算出する(SP127)。
【0125】
続いて位置推定部22は、図11について上述した第2の異常時修正処理のステップSP91と同様に、ステップSP127において算出したカルマンゲインKを(27)式で与えられるマハラノビス距離Mで除算した新たなカルマンゲインKを算出する(SP128)。
【0126】
次いで、位置推定部22は、図8について上述した第3の異常時修正処理のステップSP62と同様にして、ステップSP128において算出した新たなカルマンゲインKを用いて修正量XCorrを算出する(SP129)。
【0127】
この後、位置推定部22は、NSS処理のステップSP22では、ステップSP62において算出した修正量XCorrのうちの位置に関する成分XCorr_x及びXCorr_yを利用して、(32)式を満たすか否かを判断し、NSS処理のステップSP23では、ステップSP62において算出した修正量XCorrのうちの姿勢に関する成分XCorr_θを利用して、(33)式を満たすか否かを判断する(SP130)。
【0128】
そして位置推定部22は、この判断で肯定結果を得ると、図12について上述した第3の異常時修正方法のステップSP102〜ステップSP104と同様にして内部状態X及びその分散・共分散CovXを修正し(SP131〜SP133)、この後、この更新処理を終了する。
【0129】
これに対して位置推定部22は、ステップSP130の判断で否定結果を得ると、ステップSP128において算出した新たなカルマンゲインKを用いて上述の(34)式により新たな内部状態Xを算出すると共に、保持している内部状態Xをこのとき算出した内部状態Xに置き換えることにより修正する(SP134)。
【0130】
また位置推定部22は、ステップSP128において算出した新たなカルマンゲインKを用いて上述の(35)式により新たな分散・共分散CovXを算出すると共に、保持している分散・共分散CovXをこのとき算出した分散・共分散CovXに置き換えることにより修正する(SP13)。そして位置推定部22は、この後、この更新処理を終了する。
【0131】
以上の本実施の形態の車両制御システム20によれば、異常判定処理においてNSSの測位結果に異常が発生していると判定された場合に、観測ノイズRを大きな値に変更する修正処理を実行した上で、再度、異常判定処理を行い、この異常判定処理において異常を検出した場合に、さらに修正処理を実行した上で内部状態X及びその分散・共分散CovXを修正するようにしているため、より精度良く自己位置を推定することができる。
【0132】
(3)他の実施の形態
なお上述の第1及び第2の実施の形態においては、本発明を車両の位置を推定する測位装置に適用するようにした場合について述べたが、本発明はこれに限らず、車両以外の移動体の位置を推定するこの他種々の自己位置推定装置に広く適用することができる。
【0133】
また上述の第1及び第2の実施の形態においては、NSS処理(図4)において、位置及び姿勢のそれぞれについて計測結果に異常が発生しているか否かの異常判定を行うようにした場合について述べたが、本発明はこれに限らず、位置及び姿勢のいずれか一方のみで異常判定を行うようにしても良い。
【0134】
さらに上述の第1及び第2の実施の形態においては、INSセンサ11として車輪用エンコーダ14、ジャイロセンサ15及びステア角エンコーダ16の3つの内界センサを適用するようにした場合について述べたが、本発明はこれに限らず、これら3つの内界センサすべてを利用する必要はない。例えば車輪用エンコーダ14のみを用いて、左右両側の車輪の回転量から速度及び角速度を測定することによりジャイロセンサ15を省略するようにしても良く、またジャイロセンサ15のみを用いて、加速度及び角速度を検出し、これらに基づいて内部状態の修正を行うようにしても良い。ただし、内界センサの数(種類)を増やしたり、精度を上げることによって、マハラノビス距離Mの算出時の分散期待値Vが小さな値となるため、異常判定を行い易くなるという利点がある。
【0135】
さらに上述の第1及び第2の実施の形態においては、INSセンサ11として車輪用エンコーダ14、ジャイロセンサ15及びステア角エンコーダ16を適用するようにした場合について述べたが、本発明はこれに限らず、例えば図1に示すように、INSセンサ11として加速度センサ30を追加するようにしても良い。
【産業上の利用可能性】
【0136】
本発明は、車両の位置を推定する測位装置に適用することができる。
【符号の説明】
【0137】
1,20……車両制御システム、2,21……測位装置、3……制御装置、10……NSSセンサ、11……INSセンサ、12,22……位置推定部、13……GPS/GPSコンパス、14……車輪用エンコーダ、15……ジャイロセンサ、16……ステア角エンコーダ。
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