特許第6261059号(P6261059)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6261059有色タマネギの水抽出物を含有する生活習慣病改善剤
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6261059
(24)【登録日】2017年12月22日
(45)【発行日】2018年1月17日
(54)【発明の名称】有色タマネギの水抽出物を含有する生活習慣病改善剤
(51)【国際特許分類】
   A61K 36/8962 20060101AFI20180104BHJP
   A61K 31/704 20060101ALI20180104BHJP
   A61P 43/00 20060101ALI20180104BHJP
   A61P 3/10 20060101ALI20180104BHJP
   A61P 3/06 20060101ALI20180104BHJP
   A61P 3/04 20060101ALI20180104BHJP
   A61P 5/30 20060101ALI20180104BHJP
   A61P 15/12 20060101ALI20180104BHJP
【FI】
   A61K36/8962
   A61K31/704
   A61P43/00 111
   A61P3/10
   A61P3/06
   A61P3/04
   A61P5/30
   A61P15/12
【請求項の数】6
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2016-205566(P2016-205566)
(22)【出願日】2016年10月19日
(62)【分割の表示】特願2012-558033(P2012-558033)の分割
【原出願日】2012年2月17日
(65)【公開番号】特開2017-8117(P2017-8117A)
(43)【公開日】2017年1月12日
【審査請求日】2016年10月19日
(31)【優先権主張番号】特願2011-33095(P2011-33095)
(32)【優先日】2011年2月18日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】505192512
【氏名又は名称】株式会社植物育種研究所
(74)【代理人】
【識別番号】100077012
【弁理士】
【氏名又は名称】岩谷 龍
(72)【発明者】
【氏名】岡本 大作
【審査官】 春田 由香
(56)【参考文献】
【文献】 特開2007−137775(JP,A)
【文献】 特開2006−115810(JP,A)
【文献】 特開2002−186455(JP,A)
【文献】 木下恵美子 他,ケルセチン配糖体高含有タマネギの血中トリグリセリド上昇抑制効果,日本栄養・食糧学会大会講演要旨集,2010年 5月 1日,64th,168
【文献】 木下恵美子 他,瞬間加熱破砕したケルセチン配糖体高含有タマネギピューレの血流改善作用,日本栄養・食糧学会大会講演要旨集,2007年 4月20日,61st,265
【文献】 室 崇人 他,ケルセチンを高含有する赤タマネギ新品種「クエルリッチ」の育成とその特性,北海道農研研報,2010年,192,25-32
【文献】 辻 光義 他,オニオン生理活性成分ケルセチンの骨粗鬆症予防効果,ビタミン,2005年 4月25日,79(4),253,2−B−16欄
【文献】 倉智 博久 他,エストロゲンとウィメンズヘルス,アンチ・エイジング医学,2009年 2月,第5巻,第1号,p.26−30
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 36/00−36/9068
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
PubMed
CiNii
医中誌WEB
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
可食部生重量100gあたりケルセチン配糖体を70mg以上含有する有色タマネギの非加熱の可食部を凍結乾燥する工程、得られた凍結乾燥物を水に浸漬する工程、該凍結乾燥物を取り除きタマネギ水抽出物を取得する工程を含むPPARγ活性化剤の製造方法。
【請求項2】
さらに、得られたタマネギ水抽出物を有効成分として製剤化する工程を含む請求項1に記載の製造方法。
【請求項3】
有色タマネギが長日系品種である請求項1または2に記載の製造方法
【請求項4】
有色タマネギが赤タマネギまたは黄タマネギである請求項1〜3のいずれかに記載の製造方法
【請求項5】
タマネギ水抽出物が、ERβ活性化能を有することを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の製造方法
【請求項6】
PPARγ活性化剤が、更年期障害の予防、治療または改善に用いられる請求項1〜5のいずれかに記載の製造方法
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、有色タマネギの水抽出物を含有する生活習慣病改善剤に関するものであり、詳細には、ケルセチン配糖体高含量の有色タマネギ由来のPPARγ活性化能を有する水抽出物を有効成分とする生活習慣病の予防、治療または改善用の医薬または飲食品に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、食生活の欧米化により、国民一人あたりの脂肪摂取量が上昇し、糖尿病、脂質異常症(高脂血症等)、高血圧、肥満などの生活習慣病と呼ばれる疾患が急激に増加している。また、メタボリックシンドロームは、代謝症候群、シンドロームX、死の四重奏、インスリン抵抗性症候群、内臓脂肪症候群とも呼ばれる複合生活習慣病であり、内臓脂肪型肥満に加えて、高血糖、高血圧、脂質異常のうちいずれか2つ以上を併せもった状態のことを言う。メタボリックシンドロームになると、糖尿病、高血圧症、高脂血症の一歩手前の段階でも、これらが内臓脂肪型肥満をベースに複数重なることによって、動脈硬化を進行させ、心臓病や脳卒中といった動脈硬化性疾患発症の相対的危険度が増すことが、国内外の疫学調査で明らかとなっている。
【0003】
我が国では、2008年4月よりメタボリックシンドローム発症予防を目的に40歳以上の国民を対象として特定健康診断が開始され、国民のメタボリックシンドロームに対する関心が非常に高まっている。現在、メタボリックシンドロームの予防および治療には、糖尿病、高脂血症あるいは高血圧の治療薬が適応されており、疾病状態によっては、複数の薬剤服用を伴っている。
【0004】
脂質代謝異常やインスリン抵抗性等の病態を改善する薬剤として、チアゾリジン誘導体
(ピオグリタゾン、トログリタゾンなど)やフィブレート製剤(フェノフィブレートやベザフィブレートなど)があり、これらはPPAR(Peroxisome Proliferator Activated Receptor:ペルオキシソーム増殖薬活性化受容体)のアゴニストとして作用することが明らかにされている。前者は主に脂肪組織に分布するPPARγを、後者は肝臓、腎臓、心臓、消化管に存在するPPARαをターゲットとして作用する。
【0005】
また、食品成分として同定された物質中にもPPARアゴニスト活性を有するものが多数見出されている(非特許文献1参照)。これらのなかでも、ポリフェノールの一種であるケルセチンは、特にタマネギに多く含有されていることが知られている。そこで、ピオグリタゾン等の公知の薬剤に匹敵するPPAR活性化能を有する成分をタマネギ中に見出すことができれば、生活習慣病の予防や改善に高い効果を有する医薬や飲食品の開発が期待できる。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】川田耕司「核内受容体を標的とした食品素材の機能性評価」食品と開発、2010年3月、Vol.45、NO.3、p.17−19
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、生活習慣病やメタボリックシンドロームの予防または改善に有用なタマネギ由来の成分を含む抽出物を見出し、これを含有する医薬品および飲食品を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、上記課題を解決するために、以下の各発明を包含する。
[1]可食部生重量100gあたりケルセチン配糖体を70mg以上含有する有色タマネギの水抽出物を有効成分とするPPARγ活性化剤。
[2]有色タマネギが長日系品種である前記[1]に記載のPPARγ活性化剤。
[3]有色タマネギが黄タマネギである前記[1]または[2]に記載のPPARγ活性化剤。
[4]可食部生重量100gあたりケルセチン配糖体を70mg以上含有する赤タマネギの水抽出物を有効成分とするPPARγ活性化剤。
[5]水抽出物が、タマネギ植物体の凍結乾燥物を水で抽出したものである前記[1]〜[4]のいずれかに記載のPPARγ活性化剤。
[6]ERβ活性化能を有することを特徴とする前記[1]〜[5]のいずれかに記載のPPARγ活性化剤。
[7]生活習慣病の予防、治療または改善用である前記[1]〜[6]のいずれかに記載のPPARγ活性化剤。
[8]生活習慣病が、糖尿病、脂質異常症、肥満または高血圧である前記[7]に記載のPPARγ活性化剤。
[9]メタボリックシンドロームの予防、治療または改善用である前記[1]〜[6]のいずれかに記載のPPARγ活性化剤。
[10]更年期障害の予防、治療または改善用である前記[6]に記載のPPARγ活性化剤。
[11]骨粗鬆症の予防、治療または改善用である前記[6]に記載のPPARγ活性化剤。
[12]前記[1]〜[11]のいずれかに記載のPPARγ活性化剤を含有する医薬。
[13]前記[1]〜[11]のいずれかに記載のPPARγ活性化剤を含有する飲食品。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、可食部生重量100gあたりケルセチン配糖体を70mg以上含有する有色タマネギの水抽出物を有効成分とするPPARγ活性化剤を提供することができる。当該PPARγ活性化剤を含有する医薬および飲食品は、生活習慣病、メタボリックシンドローム、更年期障害、骨粗鬆症の予防、治療または改善に有用である。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】さらさらレッド(登録商標)および北もみじ(商品名)の水抽出物のPPARγ活性化能を比較した結果を示す図である。
図2】さらさらレッド(登録商標)の水抽出物およびケルセチン誘導体のPPARγ活性化能を比較した結果を示す図である。
図3】さらさらレッド(登録商標)の水抽出物の核内受容体活性化能を検討した結果を示す図である。
図4】北海道産有色長日系タマネギの水抽出物のPPARγ活性化能を比較した結果を示す図である。
図5】北海道産有色長日系タマネギの水抽出物のERβ活性化能を比較した結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明は、可食部生重量100gあたりケルセチン配糖体を70mg以上含有する有色タマネギの水抽出物を有効成分とするPPARγ活性化剤を提供する。有色タマネギとは、タマネギの外皮が有色のタマネギを意味する。タマネギは外皮の色により、白タマネギ、黄タマネギ、赤タマネギの3種に分けられ、黄タマネギおよび赤タマネギが有色品種に該当する。可食部とはタマネギの鱗茎を意味する。
【0012】
本発明のPPARγ活性化剤の原料として用いられるタマネギは、可食部生重量100gあたりのケルセチン配糖体の含量が70mg以上であれば特に限定されないが、好ましくは90mg以上、より好ましくは120mg以上、さらに好ましくは150mg以上である。上限は特に限定されない。例えば、ケルセチン配糖体を高含有するタマネギとして可食部生重量100gあたりケルセチン配糖体を200mg程度含有する品種が報告されている(岡本ら、園学雑 75 (1): 100-108. 2006.)。ケルセチン配糖体の含量は、例えばHPLC法により測定することができる。具体的には、例えば、生のタマネギ可食部を細断し、80%メタノールにて抽出して得られた抽出液を試料とし、逆層カラムを取り付けたHPLCを用いて、検出波長360nm、2%酢酸を含む25%メタノール溶液を50分間で80%まで直線的に増加させる溶出条件が挙げられるが、これに限定されるものではない。
【0013】
本発明のPPARγ活性化剤の原料として用いられる有色タマネギは、長日系品種であることが好ましい。長日系品種は、日長が約14時間以上の長日条件下で結球する品種であり、北海道で栽培される春播きタマネギは長日系品種に該当する。
また、本発明のPPARγ活性化剤の原料として用いられる有色タマネギは、以下の(a)〜(d)の特徴のうち、少なくとも1つ以上を有することが好ましい。
(a) Brix値が約9.0〜12.0%
(b) 栽培適応緯度が北緯約38〜45度または南緯約38〜45度
(c) 乾物率が約9〜12%
(d) 貯蔵可能期間が6か月程度
【0014】
本発明のPPARγ活性化剤の原料となる可食部生重量100gあたりケルセチン配糖体を70mg以上含有する赤タマネギ(以下、「ケルセチン配糖体高含有赤タマネギ」という。)としては、例えば、アメリカスパニッシュタイプの赤タマネギとアメリカ東部タイプの赤タマネギとのF1などが挙げられる。具体的には、さらさらレッド(登録商標)などの公知のタマネギが挙げられるが、これらに限定されるものではない。
本発明のPPARγ活性化剤の原料となる可食部生重量100gあたりケルセチン配糖体を70mg以上含有する黄タマネギとしては、例えば、ヨーロッパラインズバーガータイプの黄タマネギとアメリカ東部タイプの黄タマネギとのF1などが挙げられる。以下、可食部生重量100gあたりケルセチン配糖体を70mg以上含有する赤タマネギおよび黄タマネギを合わせて「ケルセチン配糖体高含有有色タマネギ」という。
【0015】
水抽出物は、原料タマネギの植物体の全部または一部から水で抽出した抽出物であればよい。植物体の一部としては、可食部を含むものが好ましく、可食部のみがより好ましい。水抽出物は、原料タマネギの植物体、搾汁液、またはこれらの乾燥物や凍結乾燥物から水で抽出することにより取得することができる。例えば、(1) 生のタマネギ植物体を一定時間水に浸漬した後、植物体を取り除く方法、(2) 生のタマネギ植物体を凍結乾燥し、凍結乾燥物を一定時間水に浸漬した後、凍結乾燥物を取り除く方法、(3) 生のタマネギ植物体を発酵させ、発酵タマネギまたはその凍結乾燥物を一定時間水に浸漬した後、植物体または凍結乾燥物を取り除く方法などが挙げられる。水抽出物は、非加熱の原料タマネギを使用することが好ましい。つまり、原料タマネギを加熱処理することなく水抽出することが好ましい。好ましい水抽出物の調製方法としては、例えば、非加熱の原料タマネギの可食部を凍結乾燥後破砕し、超純水に浮遊して4℃で約24時間振盪した後濾過する方法が挙げられる。
【0016】
水抽出物がPPARγ活性化能を有することは、公知のPPAR活性測定法を用いて確認することができる。例えば、PPARリガンド結合領域とGAL4との融合タンパクに対する結合をルシフェラーゼの発現で評価するレポーターアッセイ(Cell, Volume 83, Issue 5, 803-812, 1995)や、PPARリガンド結合領域を含むタンパクを用いたコンペティションバインディングアッセイ(Cell, Volume 83, Issue 5, 813-819, 1995)などにより測定することができる。
【0017】
本発明のPPARγ活性化剤は、PPARγ活性化能に加えてERβ活性能を有することが好ましい。本発明者らは、ケルセチン配糖体高含有赤タマネギの1系統であるさらさらレッド(登録商標)の可食部の水抽出物が、PPARγおよびERβ活性化能を有することを確認している(実施例3参照)。実施例4で用いた育種系統−5(黄タマネギ)および育種F1−1(黄タマネギ)の水抽出物もPPARγおよびERβ活性化能を有することを確認している。また、さらさらレッド(登録商標)の可食部の水抽出物は、PXR(Pregnane X receptor)活性化能を有していることを確認していることから、本発明のPPARγ活性化剤は、PPARγ活性化能に加えてERβ活性能およびPXR活性化能を有するものであってもよい。
【0018】
PPARγは、脂肪細胞の分化を司る調節因子であることが明らかにされている(Cell 79 : 1147-1156, 1994)。さらに、PPARγに作用するするリガンドがII型糖尿病、高インスリン血症、脂質代謝異常、肥満、高血圧、動脈硬化性疾患、インスリン抵抗性などの代謝性症候群と呼ばれる病態の予防や改善に有用であることが明らかとなってきている(Annual Reviews of Medicine, 53, 409-435, 2002)。それゆえ、本発明のPPARγ活性化剤は、生活習慣病の予防、治療または改善に有用である。本発明のPPARγ活性化剤が生活習慣病の予防、治療または改善に有用であることは、生活習慣病モデル動物(糖尿病モデルマウス、高血圧モデルマウス、脂肪蓄積モデルラット等)に本発明のPPARγ活性化剤を投与する実験を行うことにより確認することができる。
【0019】
また、本発明のPPARγ活性化剤は、メタボリックシンドロームの予防、治療または改善に好適に用いることができる。わが国では、以下の(1)に加えて(2)〜(4)のうち2つ以上が当てはまるとメタボリックシンドロームと診断される。
(1)腹囲(へそ周り)が、男性の場合は85cm以上、女性の場合は90cm以上
(2)中性脂肪が150mg/dL以上、HDLコレステロールが40mg/dL未満、のいずれか、または両方
(3)最高(収縮期)血圧が130mmHg以上、最低(拡張期)血圧が85mmHg以上、のいずれか、または両方
(4)空腹時血糖値が110mg/dL以上
本発明のPPARγ活性化剤をメタボリックシンドロームの診断基準を満たすヒトに適用すれば、治療対象を外れることが期待できる。
【0020】
PPARγに作用するするリガンドは、炎症性サイトカインの産生を抑制すること(Nature, 391, 79-82, 1998、Nature, 391, 82-86, 1998)や、アポトーシスを誘導しがん細胞の増殖を抑制すること(Biochemical and Biophysical Research Communications, 270, 400-405, 2000)が報告されている。さらに、PPARγアゴニストであるピオグリタゾンが、アルツハイマー型認知症を改善する可能性が示唆されている(Arch Neurol. 2011;68(1):45-50. doi:10.1001/archneurol.2010.229, Published online September 13, 2010.)。それゆえ、本発明のPPARγ活性化剤は、炎症に起因する疾病やがんの予防または治療に有用であり、アルツハイマー型認知症の改善にも有用であることが期待できる。
【0021】
本発明のPPARγ活性化剤は、PPARγ活性化作用を有する薬剤の適用対象とされる疾患、例えば、糖尿病(1型糖尿病、2型糖尿病等)、脂質異常症(高トリグリセライド血症、高LDL血症、低HDL血症等)、糖尿病性合併症(神経障害、腎症、網膜症、白内障等)、耐糖能不全(IGT)、肥満、骨粗鬆症、悪液質、脂肪肝、高血圧、多嚢胞性卵巣症候群、妊娠糖尿病、腎臓疾患、筋ジストロフィー、心筋梗塞、狭心症、脳血管障害、インスリン抵抗性症候群、シンドロームX、高インスリン血症、高インスリン血症における知覚障害、腫瘍(白血病、乳癌、前立腺癌、皮膚癌等)、過敏性腸症候群、急性または慢性下痢、内臓肥満症候群などの疾患を予防または改善するために、好適に用いることができる。
【0022】
ER(Estrogen Receptor:エストロゲン受容体)は、一般に卵胞ホルモンまたは女性ホルモンと呼ばれるエストロゲンの受容体である。したがって、ERβ活性化物質は、エストロゲンの低下に起因する疾病の予防、治療または改善に有用である。エストロゲンの低下に起因する疾病としては、例えば、更年期障害、骨粗鬆症などが挙げられる。
【0023】
本発明は、上記本発明のPPARγ活性化剤を含有する医薬を提供する。本発明の医薬は、上述のように、生活習慣病、メタボリックシンドローム、更年期障害、骨粗鬆症等の予防、治療または改善用に好適に用いることができる。
【0024】
本発明の医薬は、経口または非経口のいずれかの経路で哺乳動物に投与することができる。経口剤としては、顆粒剤、散剤、錠剤(糖衣錠を含む)、丸剤、カプセル剤、シロップ剤、乳剤、懸濁剤などが挙げられる。非経口剤としては、注射剤(例えば、皮下注射剤、静脈内注射剤、筋肉内注射剤、腹腔内注射剤)、点滴剤、外用剤(例えば、経鼻投与製剤、経皮製剤、軟膏剤)、坐剤(例えば、直腸坐剤、膣坐剤)などが挙げられる。これらの製剤は、当該分野で通常行われている手法により、薬学上許容される担体を用いて製剤化することができる。薬学上許容される担体としては、賦形剤、結合剤、希釈剤、添加剤、香料、緩衝剤、増粘剤、着色剤、安定剤、乳化剤、分散剤、懸濁化剤、防腐剤等が挙げられ、例えば、炭酸マグネシウム、ステアリン酸マグネシウム、タルク、砂糖、ラクトース、ペクチン、デキストリン、澱粉、ゼラチン、トラガント、メチルセルロース、ナトリウムカルボキシメチルセルロース、低融点ワックス、カカオバター等を担体として使用できる。
【0025】
経口用の固形剤(錠剤、丸剤、カプセル剤、散剤、顆粒剤等)は、有効成分を賦形剤(ラクトース、マンニトール、グルコース、微結晶セルロース、デンプン等)、結合剤(ヒドロキシプロピルセルロース、ポリビニルピロリドン、メタケイ酸アルミン酸マグネシウム等)、崩壊剤(繊維素グリコール酸カルシウム等)、滑沢剤(ステアリン酸マグネシウム等)、安定剤、溶解補助剤(グルタミン酸、アスパラギン酸等)等と混合し、常法に従って製剤化することができる。必要に応じて、コーティング剤(白糖、ゼラチン、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロースフタレート等)で被覆していてもよいし、また2以上の層で被覆していてもよい。
【0026】
経口用の液剤(水剤、懸濁剤、乳剤、シロップ剤、エリキシル剤等)は、有効成分を一般的に用いられる希釈剤(精製水、エタノールまたはそれらの混液等)に溶解、懸濁または乳化して製剤化される。さらにこの液剤は、湿潤剤、懸濁化剤、乳化剤、甘味剤、風味剤、芳香剤、保存剤、緩衝剤等を含有していてもよい。
【0027】
注射剤は、溶液、懸濁液、乳濁液、および用時溶剤に溶解または懸濁して用いる固形の注射剤を包含する。注射剤は、有効成分を溶剤に溶解、懸濁または乳化して製剤化される。溶剤として、例えば注射用蒸留水、生理食塩水、植物油、プロピレングリコール、ポリエチレングリコール、エタノールのようなアルコール類等およびそれらの組み合わせが用いられる。さらにこの注射剤は、安定剤、溶解補助剤(グルタミン酸、アスパラギン酸、ポリソルベート80(登録商標)等)、懸濁化剤、乳化剤、無痛化剤、緩衝剤、保存剤等を含んでいてもよい。これらは最終工程において滅菌するか無菌操作法によって製造される。また無菌の固形剤、例えば凍結乾燥品を製造し、その使用前に無菌化または無菌の注射用蒸留水または他の溶剤に溶解して使用することもできる。
【0028】
本発明は、上記本発明のPPARγ活性化剤を含有する飲食品を提供する。「飲食品」には、健康食品、機能性食品、特定保健用食品、病者用食品が含まれる。本発明の飲食品は、生活習慣病、メタボリックシンドローム、更年期障害、骨粗鬆症等の予防または改善に用いることができる。
【0029】
本発明に好適な飲食品は特に限定されない。具体例には、例えば、いわゆる栄養補助食品(サプリメント)としての錠剤、顆粒剤、散剤、ドリンク剤等を挙げることができる。これ以外には、例えば茶飲料、清涼飲料、炭酸飲料、栄養飲料、果実飲料、乳酸飲料等の飲料、そば、うどん、中華麺、即席麺等の麺類、飴、キャンディー、ガム、チョコレート、スナック菓子、ビスケット、ゼリー、ジャム、クリーム、焼き菓子、パン等の菓子およびパン類、かまぼこ、ハム、ソーセージ等の水産・畜産加工食品、加工乳、発酵乳等の乳製品、サラダ油、てんぷら油、マーガリン、マヨネーズ、ショートニング、ホイップクリーム、ドレッシング等の油脂および油脂加工食品、ソース、たれ等の調味料、カレー、シチュー、丼、お粥、雑炊等のレトルトパウチ食品、アイスクリーム、シャーベット、かき氷等の冷菓などを挙げることができる。
【0030】
本発明の医薬および飲食品は、人類が長年摂取してきたタマネギの抽出物を有効成分とするものであるから、毒性が低く、哺乳動物(例えば、ヒト、マウス、ラット、ウサギ、イヌ、ネコ、ウシ、ウマ、ブタ、サル等)に対し安全に用いられる。
本発明の医薬および飲食品の投与量または摂取量は、患者または摂取者の年齢および体重、症状、投与時間、剤形、投与方法、薬剤の組み合わせ等に依存して決定できる。例えば、本発明の医薬を経口投与する場合、成人1人当たり0.5〜100mg/kg体重、好ましくは1〜50mg/kg体重の範囲で、また、非経口的に投与する場合は0.05〜50mg/kg体重、好ましくは0.5〜50mg/kg体重の範囲で一日1〜3回に分けて投与することができる。また、食品として摂取する場合には、成人1人1日当たり100〜6000mgの範囲、好ましくは200〜3000mgの範囲の摂取量となるように配合することができる。
【実施例】
【0031】
以下、実施例により本発明を詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0032】
〔実施例1:ケルセチン配糖体高含有赤タマネギおよび一般タマネギの水抽出物のPPARγ活性化能〕
1−1 試験方法
(1)タマネギ
タマネギには、ケルセチン配糖体高含有赤タマネギ「さらさらレッド(登録商標)」および一般のタマネギ「北もみじ(商品名)」を使用した。
(2)サンプル調製
2日間凍結乾燥後破砕したタマネギ可食部(鱗茎)を、100mg/mlとなるように超純水に浮遊し、4℃で24時間振盪した。孔径0.2μmのメンブレンフィルターでろ過したろ液をサンプルとした。
【0033】
(3)レポーターアッセイによるPPARγ活性化試験
アフリカミドリザル腎由細胞株CV−1を2×10/wellとなるよう6穴プレートに播種し、DMEM(10%FBS)中で1日培養した。Gal4のDNA結合ドメイン(Gal4DBD)とPPARγのリガンド結合ドメイン(PPARγLBD)とのキメラタンパク質発現プラスミド(pGal4DBD/PPARγLBD)、およびGal4DNA応答配列とホタルルシフェラーゼ遺伝子を含むレポータープラスミド(pGal4−Luc)を、同時に遺伝子導入試薬(FuGENE HD、Roche社製)を用いて細胞に導入した。遺伝子導入細胞をトリプシンにより分散し、96穴プレートに1.6×10/wellとなるよう再度播種した。この際、培養液を各濃度のサンプルを含むDMEM培地(フェノールレッド無添加、10%活性炭処理血清)に交換した。サンプルの培地中の最終濃度は0.5、2、10%(v/v)とした。最高濃度は、事前に実施した細胞毒性試験において細胞毒性を示さない最高濃度であった10%(v/v)を採用した。陽性コントロールとして10μM pioglitazone(溶媒:DMSO)、陰性コントロールとして0.5%DMSOを用いた。48時間培養後、リン酸緩衝生理食塩水にて細胞を洗浄し、デュアルルシフェラーゼアッセイシステム(Promega社製)を用いて細胞を溶解した。さらにルシフェリンを含む基質溶液を加え、プレートリーダー(ARVO MX、Perkin Elmer社製)にてホタルルシフェラーゼ活性を測定した。PPARγ活性は、各サンプルのルシフェラーゼ活性を陰性コントロールのルシフェラーゼ活性で除した値で示した。実験は3回行い、平均値をデータとして採用した。
【0034】
1−2 結果
結果を図1に示した。図1から明らかなように、さらさらレッドは北もみじと比較して顕著に高いPPARγ活性を示した。
【0035】
〔実施例2:ケルセチン配糖体高含有赤タマネギの水抽出物およびケルセチン誘導体のPPARγ活性化能〕
2−1 試験方法
(1)タマネギ
タマネギには、ケルセチン配糖体高含有赤タマネギ「さらさらレッド(登録商標)」の可食部(鱗茎)を使用した。
(2)タマネギサンプルの調製
実施例1と同様の方法で、タマネギ可食部の水抽出物を調製した。
(3)ケルセチン誘導体
ケルセチン(n)水和物(東京化成工業)、ケルセチン二水和物(Sigma−Aldrich)、ケルセチン4’−グルコシド(和光純薬工業)、ケルセチン3,4D−グルコシド(フナコシ(株)常盤植物科学研究所)の4種を使用した。これらの化合物はDMSOに溶解し、100mg/mlのワーキング溶液を調製した。
(4)レポーターアッセイによるPPARγ活性化試験
実施例1と同様の方法で実施した。なお、ケルセチン誘導体の濃度(培地中の最終濃度)は、事前に実施した細胞毒性試験により、細胞毒性を示さない最高濃度に基づいて設定した。
【0036】
2−2 結果
結果を図2に示した。図2から明らかなように、用いたケルセチン誘導体においては、ケルセチン4’−グルコシドの0.004mg/mlで僅かにPPARγ活性の上昇が認められたが、他では陰性コントロールより高い活性は認められなかった。一方、さらさらレッドの水抽出物は、顕著に高いPPARγ活性を示した。この結果から、ケルセチン配糖体高含有有色タマネギの水抽出物のPPARγ活性化能は、ケルセチン誘導体のPPARγ活性化能のみに起因するものではなく、ケルセチン配糖体高含有有色タマネギの水抽出物に含有される種々の成分(未知成分を含む)の組み合わせに基づくものであることが示唆された。
【0037】
〔実施例3:ケルセチン配糖体高含有赤タマネギの水抽出物の核内受容体活性化能の検討〕
3−1 試験方法
(1)タマネギ
タマネギには、ケルセチン配糖体高含有赤タマネギ「さらさらレッド(登録商標)」の可食部(鱗茎)を使用した。
(2)サンプル調製
実施例1と同様の方法で、タマネギ可食部の水抽出物を調製した。
【0038】
(3)レポーターアッセイによる核内受容体活性化試験
5種類の核内受容体(PPARα、PPARγ、ERα、ERβおよびPXR)について、実施例1と同様の方法で実施した。Gal4のDNA結合ドメイン(Gal4DBD)と核内受容体のリガンド結合ドメイン(核内受容体LBD)とのキメラタンパク質発現プラスミドとして、実施例1で用いたpGal4DBD/PPARγLBD以外に、pGal4DBD/PPARαLBD、pGal4DBD/ERαLBD、pGal4DBD/ERβLBD、およびpGal4DBD/PXRLBDを使用した。陽性コントロールとして、実施例1で用いた10μM pioglitazone(PPARγ)以外に、100μM WY14643(PPARα)、1μM β−estradiol(ERα、ERβ)、25μM Rifampicin(PXR)を、いずれもDMSOに溶解して使用し、陰性コントロールとして0.5%DMSOを使用した。
【0039】
3−2 結果
結果を図3に示した。図3から明らかなように、さらさらレッドの水抽出物は、PPARγ以外にERβを顕著に活性化した。この結果から、ケルセチン配糖体高含有有色タマネギの水抽出物は、PPARγおよびERβ活性化能を有することが明らかとなった。
【0040】
〔実施例4:北海道産有色長日系タマネギの水抽出物の核内受容体活性化能の検討〕
4−1 試験方法
(1)タマネギ
表1に示す9種類の北海道産有色長日系タマネギを使用した。
(2)ケルセチン配糖体含量の測定
使用したタマネギのケルセチン配糖体含量を、文献(津志田藤二郎、鈴木雅博 1995 タマネギに存在するフラボノイド配糖体の分析および化学合成による同定 日本食品工業学会誌、42:100−108)の記載に準じてHPLC法で測定し、表1に示した。
【0041】
【表1】
【0042】
(3)サンプル調製
5日間凍結乾燥後破砕したタマネギ可食部(鱗茎)を、100mg/mlとなるように超純水に浮遊し、4℃で24時間振盪した。孔径0.2μmのメンブレンフィルターでろ過したろ液をサンプルとした。
(4)レポーターアッセイによるPPARγ活性化試験
PPARγおよびERβについて、実施例1と同様の方法で実施した。陽性コントロールとして、実施例1で用いた10μM pioglitazone(PPARγ)以外に、1μM β−estradiol(ERβ)をDMSOに溶解して用いた。陰性コントロールには超純水を用いた。
【0043】
PPARγの結果を図4に示した。示していないが、陽性コントロールの活性値(陰性コントロール比)は、16.9〜23.2であった。図4から明らかなように、いずれのタマネギの水抽出物も用量依存的にPPARγ活性を上昇させたが、育種系統−1、オホーツク222およびさつおうの3系統はPPARγ活性の上昇が低い傾向を示し、育種系統−2、育種系統−3、育種系統−4、さらさらレッド、育種系統−5および育種F1−1の6系統は、上記3系統と比較してPPARγ活性の上昇が高い傾向を示した。表1に示したように、前者(育種系統−1、オホーツク222およびさつおう)のケルセチン配糖体含量は、いずれも60mg/100gFW以下であったが、後者(育種系統−2、育種系統−3、育種系統−4、さらさらレッド、育種系統−5および育種F1−1)のケルセチン配糖体含量は、いずれも70mg/100gFW以上であった。
【0044】
ERβの結果を図5に示した。示していないが、陽性コントロールの活性値(陰性コントロール比)は、18.1〜24.1であった。図5から明らかなように、いずれのタマネギの水抽出物も用量依存的にERβ活性を上昇させたが、育種系統−1、育種系統−2、育種系統−3、さつおうおよびオホーツク222の5系統はERβ活性の上昇が低い傾向を示し、さらさらレッド、育種F1−1、育種系統−4および育種系統−5の5系統はERβ活性の上昇が高い傾向を示した。後者(さらさらレッド、育種F1−1、育種系統−4および育種系統−5)のケルセチン配糖体含量は、いずれも90mg/100gFW以上であった。
【0045】
〔実施例5:脂肪蓄積モデルラットを用いた脂肪蓄積抑制効果の検討〕
(1)検体
可食部生重量100gあたりケルセチン配糖体を70mg以上含有する有色タマネギの水抽出物を検体とし、飼料に混餌して投与する。
(2)試験方法
Sprague Dawley雌ラットの卵巣を摘出して脂肪蓄積モデルラットを作製する。予備飼育(馴化)期間は標準飼料を給餌する。検体投与群、基礎飼料給餌群および無処置対照群(非卵巣摘出)の3群を設ける。検体投与群には検体混餌飼料を、他の2群には基礎飼料を給餌する。投与期間は4週間とする。1回/週の頻度で体重および摂餌量の測定を行う。投与期間終了後、全身麻酔下で腹大動脈から採血し、血清分離した後、放血して安楽死させる。血清中の中性脂肪、コレステロールおよびリン脂質を測定する。採血終了後、肝臓および白色脂肪(腸間膜、腎周囲および子宮周囲脂肪)を摘出し、それぞれの湿重量を測定する。子宮周囲脂肪をホルマリン系の固定液に浸漬して固定し、パラフィン包埋して薄切した標本をヘマトキシリン・エオジン染色する。脂肪細胞の大きさを画像解析装置により分析し、群間で比較する。
【0046】
〔実施例6:糖尿病モデルマウスを用いた血糖値に及ぼす影響の検討〕
(1)検体
可食部生重量100gあたりケルセチン配糖体を70mg以上含有する有色タマネギの水抽出物を検体とし、飼料に混餌して投与する。
(2)試験方法
糖尿病モデルマウスとしてKK−A雄マウスを用いる。予備飼育(馴化)は標準飼料を給餌する。検体投与群および基礎飼料給餌群の2群を設ける。投与期間は4週間とする。1回/週の頻度で体重、摂餌量、尿糖および血糖の測定を行う。投与最終週に、3時間絶食させた後、糖負荷試験(投与前、30、60、90および120分に血糖値測定)を行う。投与期間終了後、全身麻酔下で放血して安楽死させる。肝臓および白色脂肪(腸間膜、腎周囲および子宮周囲脂肪)を摘出し、それぞれの湿重量を測定する。
【0047】
なお本発明は上述した各実施形態および実施例に限定されるものではなく、請求項に示した範囲で種々の変更が可能であり、異なる実施形態にそれぞれ開示された技術的手段を適宜組み合わせて得られる実施形態についても本発明の技術的範囲に含まれる。また、本明細書中に記載された学術文献および特許文献の全てが、本明細書中において参考として援用される。
図1
図2
図3
図4
図5