特許第6261092号(P6261092)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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  • 特許6261092-航空機用タイヤのカーカス補強材 図000002
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6261092
(24)【登録日】2017年12月22日
(45)【発行日】2018年1月17日
(54)【発明の名称】航空機用タイヤのカーカス補強材
(51)【国際特許分類】
   B60C 15/00 20060101AFI20180104BHJP
   B60C 9/08 20060101ALI20180104BHJP
   B60C 9/00 20060101ALI20180104BHJP
【FI】
   B60C15/00 G
   B60C9/08 D
   B60C9/00 C
   B60C9/00 D
   B60C9/00 G
【請求項の数】7
【全頁数】10
(21)【出願番号】特願2015-507463(P2015-507463)
(86)(22)【出願日】2013年4月15日
(65)【公表番号】特表2015-518449(P2015-518449A)
(43)【公表日】2015年7月2日
(86)【国際出願番号】EP2013057817
(87)【国際公開番号】WO2013160136
(87)【国際公開日】20131031
【審査請求日】2016年3月17日
(31)【優先権主張番号】1253724
(32)【優先日】2012年4月24日
(33)【優先権主張国】FR
(73)【特許権者】
【識別番号】514326694
【氏名又は名称】コンパニー ゼネラール デ エタブリッスマン ミシュラン
(74)【代理人】
【識別番号】100092093
【弁理士】
【氏名又は名称】辻居 幸一
(74)【代理人】
【識別番号】100082005
【弁理士】
【氏名又は名称】熊倉 禎男
(74)【代理人】
【識別番号】100088694
【弁理士】
【氏名又は名称】弟子丸 健
(74)【代理人】
【識別番号】100095898
【弁理士】
【氏名又は名称】松下 満
(74)【代理人】
【識別番号】100098475
【弁理士】
【氏名又は名称】倉澤 伊知郎
(72)【発明者】
【氏名】カフォー シャルロット
(72)【発明者】
【氏名】ブルザン アルノー
【審査官】 岩本 昌大
(56)【参考文献】
【文献】 米国特許第02971553(US,A)
【文献】 特表2004−523430(JP,A)
【文献】 国際公開第2011/073059(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60C 15/00,9/00−9/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
航空機用タイヤ(1)であって、
‐2つのサイドウォールによって2つのビード(3)に連結されたトレッドを有し、前記ビードは、前記タイヤ(1)とリム(4)との間の機械的連結部を構成するようになっており、
‐前記トレッドの半径方向内側に位置したクラウン補強材及び前記クラウン補強材の半径方向内側に位置したカーカス補強材(5)を有し、
‐前記カーカス補強材(5)は、前記2つのビード(3)相互間に延びる第1及び第2の系列をなすカーカス層(51,52)を有し、
‐前記第1の系列は、折り返し部(511)を形成するよう各ビード(3)内で前記タイヤの内側から外側に向かってビードワイヤ(6)と呼ばれている円周方向補強要素回りに巻き上げられた少なくとも1つのカーカス層(51)を含み、前記折り返し部は、前記ビードワイヤの半径方向最も外側の箇所(E)の半径方向外側に位置する自由端(E1)を有する折り返し部(511)を形成するよう構成された少なくとも1つのカーカス層(51)を有し、
‐前記第2の系列は、互いに隣接して位置すると共に各ビード(3)内で前記タイヤの外側から内側に向かって、前記ビードワイヤ(6)の中心(O)を通る軸方向直線(DY)の半径方向内側に位置し且つ前記ビードワイヤ(6)の前記中心(O)を通る半径方向直線(DZ)の軸方向内側に前記半径方向直線(DZ)から少なくとも5mmに等しい軸方向距離(d2)を置いて位置するそれぞれの端(E2)まで延びる少なくとも2つのカーカス層(52)を有し、
前記第2の系列の前記カーカス層(52)は、前記第1の系列のカーカス層(51)の少なくとも1つの折り返し部(511)の軸方向内側に位置し、
前記カーカス層(51,52)の前記補強要素は、紡織により得られた紡織材料で作られ、
任意のカーカス層(51,52)の任意の紡織補強要素は、相互に平行な紡織フィラメントから成る紡績糸を反時計回りの方向に撚ることによって得られた少なくとも2つのオーバーツイストを時計回りの方向に撚ることによって得られ、この撚りは、オーバーツイスティングと呼ばれる1メートル当たりの撚りの数によって定められるタイヤにおいて、
前記カーカス層(51,52)の前記紡織補強要素のオーバーツイストを得るためのオーバーツイスティングは、少なくとも250ターン/メートルに等しく且つ多くとも290ターン/メートルに等しい、航空機用タイヤ(1)。
【請求項2】
前記第2の系列の前記カーカス層(52)は、前記第1の系列の前記カーカス層(51)の前記折り返し部全ての軸方向内側に位置している、請求項1記載の航空機用タイヤ(1)。
【請求項3】
前記カーカス層(51,52)の前記補強要素は、脂肪族ポリアミドで作られている、請求項1または請求項2に記載の航空機用タイヤ(1)。
【請求項4】
前記カーカス層(51,52)の前記補強要素は、芳香族ポリアミドで作られている、請求項1または請求項2に記載の航空機用タイヤ(1)。
【請求項5】
前記カーカス層(51,52)の前記補強要素は、少なくとも脂肪族ポリアミドと少なくとも芳香族ポリアミドを組み合わせたハイブリッド補強要素である、請求項1または請求項2に記載の航空機用タイヤ(1)。
【請求項6】
任意のカーカス層(51,52)の任意の紡織補強要素は、相互に平行な紡織フィラメントから成る紡績糸を反時計回りの方向に撚ることによって得られた少なくとも2つのオーバーツイストを時計回りの方向に撚ることによって得られ、この撚りは、オーバーツイスティングと呼ばれる1メートル当たりの撚りの数によって定められ、前記第2の系列の前記カーカス層(52)の前記紡織補強要素のオーバーツイストを得るためのオーバーツイスティングは、前記第1の系列の前記カーカス層(51)の前記紡織補強要素の前記オーバーツイストを得るためのオーバーツイスティングの少なくとも1.15倍に等しい、請求項1〜5のうちいずれか一に記載の航空機用タイヤ(1)。
【請求項7】
前記ビードワイヤ(6)回りに巻き上げられ且つ前記ビードワイヤ(6)を前記カーカス層(51,52)から隔てる追加の補強層を更に有する、請求項1〜のうちいずれか一に記載の航空機用タイヤ(1)。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、使用上、圧力、荷重及び速度に関する要件が厳しいことを特徴とする航空機用タイヤに関する。
【背景技術】
【0002】
航空機用タイヤは、特に、耐摩耗性及び耐久性の要件を満たす必要がある。耐久性は、タイヤが受ける周期的応力にタイヤが経時的に耐える能力を意味している。タイヤのトレッドが摩耗し、それにより最初の有効寿命の終わりが示されると、タイヤを更生(リトレッド)し、即ち、摩耗状態のトレッドを新品のトレッドに交換し、それにより次の有効寿命の実現を可能にする。耐摩耗性の向上は、1回の有効寿命当たりの着陸回数を多くすることができるということを意味している。耐久性の向上は、同じタイヤが持つことができる有効寿命の回数を増大させることを意味している。
【0003】
一般に、タイヤは、トレッドを介して路面に接触するようになっていて、2つのサイドウォールによって2つのビードに連結されたトレッドを有し、2つのビードは、タイヤとタイヤが取り付けられているリムとの間の機械的連結部となるようになっている。
【0004】
以下において、円周方向、軸方向及び半径方向は、それぞれ、タイヤの回転方向におけるタイヤのトレッド表面の接線の方向、タイヤの回転軸線に平行な方向及びタイヤの回転軸線に垂直な方向を意味している。「半径方向内側又は半径方向外側」は、それぞれ、「タイヤの回転軸線の近くに位置し又はタイヤの回転軸線から見て遠くに位置する」ことを意味している。「軸方向内側又は軸方向外側」は、それぞれ、「タイヤの赤道面の近くに位置し又はタイヤの赤道面から見て遠くに位置する」ことを意味している。タイヤの赤道面は、トレッド表面の中間を通り且つタイヤの回転軸線に垂直な平面である。
【0005】
ラジアルタイヤは、特に、トレッドの半径方向内側に位置するクラウン補強材及びクラウン補強材の半径方向内側に位置するカーカス補強材を含む補強層を有する。
航空機用タイヤのカーカス補強材は、一般に、2つのビード相互間に延びると共に第1の系列と第2の系列との間に分布して設けられた複数のカーカス層を有する。
【0006】
第1の系列は、折り返し部を形成するよう各ビード内でタイヤの内側から外側に向かってビードワイヤ回りに巻き上げられたカーカス層から成り、折り返し部の端は、全体としてビードワイヤの半径方向最も外側の箇所の半径方向外側に位置する。折り返し部は、カーカス層の半径方向最も内側の箇所と折り返し部の端との間に位置するカーカス層の部分である。第1の系列のカーカス層は、タイヤの内部キャビティの最も近くに位置するカーカス層であり、従って、サイドウォール内の軸方向最も内側に位置するカーカス層である。
【0007】
第2の系列は、各ビード内でタイヤの外側から内側に向かってビードワイヤの半径方向最も外側の箇所の半径方向内側に位置する端まで延びるカーカス層から成る。第2の系列のカーカス層は、タイヤの外面の最も近くに位置し、従ってサイドウォール内で軸方向最も外側に位置するカーカス層である。
【0008】
通常、第2の系列のカーカス層は、これらの全長に沿って第1の系列のカーカス層の外側に位置し、即ち、これらカーカス層は、特に、第1の系列のカーカス層の折り返し部を包囲している。
【0009】
第1及び第2の系列の各カーカス層は、円周方向と80°〜100°の角度をなす相互に平行な補強要素で構成されている。
【0010】
カーカス層の補強要素は、通常、好ましくは脂肪族ポリアミド又は芳香族ポリアミドで作られ、機械的伸び特性を特徴とするスパン紡織フィラメントで構成されたコードである。
【0011】
紡織補強要素の機械的伸び特性、例えば弾性モジュラス、破断時伸び率及び破断時強度は、事前状態調節後に測定される。「事前状態調節」という用語は、紡織補強要素が測定に先立って欧州規格DIN・EN20139(20±2℃の温度、65±2%の相対湿度)に準拠した標準雰囲気内で少なくとも24時間にわたって貯蔵されることを意味している。次に、測定をツウィック・ゲゼルシャフト・ミット・ベシュテンクテル・ハフツング・ウント・カンパニー(ZWICK GmbH & Co )(独国)製のタイプ1435又はタイプ1445の引張り試験機を用いて公知の仕方で実施する。紡織補強要素は、200mm/分の公称速度で400mmの初期長さに関して引張り試験を受ける。結果は全て、10個の測定値にわたって平均される。
【0012】
使用の際、航空機用タイヤは、荷重と圧力の組み合わせを受け、かかる組み合わせにより、典型的には30%を超える高い撓み度が生じる。タイヤの撓み度は、定義上、タイヤが例えばタイヤ・リム協会(Tyre and Rim Asociation )、即ちTRA規格により定められた圧力及び荷重条件下において荷重無負荷(空荷)インフレート状態から静的に負荷のかかったインフレート状態に変化する際のその半径方向変形量又はその半径方向高さの変化量である。撓み度は、タイヤの半径方向高さ変化量と、基準圧力までインフレートさせた静的に無負荷状態で測定されたタイヤの外径とリムフランジ上で測定されたリムの最大直径の差の半分との比によって定められる。TRA規格は、特に、航空機用タイヤの押し潰し半径の観点における航空機用タイヤの押し潰し、即ち、基準圧力及び荷重条件下においてタイヤのホイールの軸線とタイヤが接触状態にある路面の平面との間の距離を具体的に記載している。
【0013】
航空機用タイヤは又、典型的には9barを超える高いインフレーション圧力を受ける。この高い圧力レベルに鑑みてカーカス層の数を増大させる必要があり、その理由は、カーカス補強材は、高い安全率をもった状態でこの圧力レベルに抵抗する能力をタイヤに与えるよう寸法決めされているからである。一例を挙げると、TRA規格により推奨される15barの使用圧力のタイヤのカーカス補強材は、安全率が4であると仮定すると、60barの圧力に耐えるよう定格される必要がある。補強要素に現在用いられている紡織材料、例えば脂肪族ポリアミド又は芳香族ポリアミドでは、カーカス補強材は、例えば、少なくとも5つのカーカス層を有するのがよい。
【0014】
使用の際、機械的走行応力により、リムフランジに巻き付いているタイヤのビード中に撓みサイクルが生じる。これら撓み又は曲げサイクルは、特に、リム上での曲げ領域に位置したカーカス層部分内に、曲率の変化を生じさせ、かかる曲率変化は、カーカス層の補強要素の伸び率の変化と組み合わさる。特に軸方向最も外側のカーカス層中の伸び量又は変形量のこれらの変化は、圧縮状態にあるこれらカーカス層に対応した負の最小値を有する場合がある。この圧縮荷重は、補強要素の疲れ破損及びかくして時期尚早なタイヤの劣化を引き起こす可能性が多分にある。
【0015】
当業者であれば更に知っているように、芳香族ポリアミドで作られた補強要素から成るカーカス層は、圧縮強度が低く、特に、圧縮状態での疲れ破損に敏感である。
【0016】
重い荷重を支持するようになっていて且つ高い圧力までインフレートされるタイヤ、例えば航空機用タイヤのビードの疲れ強さを向上させるため、欧州特許第0567521号明細書は、軸方向最も外側のカーカス層の端が軸方向最も内側のカーカス層のそれぞれの折り返し部相互間に配置されると共にタイヤの外側に向かって内側からビードワイヤ回りに巻き上げられたカーカス補強材を記載している。
【0017】
欧州特許第1381525号明細書に記載されているようなカーカス補強材は、タイヤの外側に向かって内側からビードワイヤ回りに巻き上げられた第1の系列の少なくとも2つのカーカス層と、第1の系列のカーカス層及びこれらのそれぞれの折り返し部の軸方向外側に位置する少なくとも1つのカーカス層とを有する。航空機用タイヤのビードの耐久性を向上させるために提案された解決手段は、脂肪族ポリアミドで作られた補強要素で形成されているカーカス層に換えて、ハイブリッド補強要素、即ち、モジュラスが互いに異なるスパン又は延伸フィラメントで作られた要素で形成されるカーカス層を用いることである。カーカス層の補強要素は、伸びの際の弾性モジュラスが少なくとも2000cN/テックスである少なくとも1本の紡績糸(伸びの際の弾性モジュラスが多くとも1500cN/テックスのオーバーツイスティング(所定の撚り数よりも多く撚ること)された又はオーバーツイスティングされていない紡績糸を含む)を撚ってもろより(folding )することによって形成されたコードであり、紡績糸の伸びの際の弾性モジュラスは、紡績糸の破断強度の0.1倍に等しい引張り力について測定される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0018】
【特許文献1】欧州特許第0567521号明細書
【特許文献2】欧州特許第1381525号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0019】
本発明者は、ビードがリム上で撓む領域において航空機用タイヤのカーカス補強材の耐久性を更に一段と向上させることを目的の達成に取り組んだ。
【課題を解決するための手段】
【0020】
この目的は、本発明によれば、航空機用タイヤであって、
‐2つのサイドウォールによって2つのビードに連結されたトレッドを有し、ビードは、タイヤとリムとの間の機械的連結部を構成するようになっており、
‐トレッドの半径方向内側に位置したクラウン補強材及びクラウン補強材の半径方向内側に位置したカーカス補強材を有し、
‐カーカス補強材は、2つのビード相互間に延びる第1及び第2の系列をなすカーカス層を有し、
‐第1の系列は、折り返し部を形成するよう各ビード内でタイヤの外側に向かって内側からビードワイヤと呼ばれている円周方向補強要素回りに巻き上げられた少なくとも1つのカーカス層を含み、折り返し部は、ビードワイヤの半径方向最も外側の箇所の半径方向外側に位置する自由端を有する折り返し部を形成するよう構成された少なくとも1つのカーカス層を有し、
‐第2の系列は、互いに隣接して位置すると共に各ビード内でタイヤの内側に向かって外側から、ビードワイヤの中心を通る軸方向直線の半径方向内側に且つ少なくとも5mmに等しい軸方向距離を置いたところでビードワイヤの中心を通る半径方向直線の軸方向内側に位置するそれぞれの端まで延びる少なくとも2つのカーカス層を有し、第2の系列のカーカス層は、第1の系列のカーカス層の少なくとも1つの折り返し部の軸方向内側に位置することを特徴とする航空機用タイヤによって達成された。
【0021】
互いに隣り合って位置する第2の系列のカーカス層は、第2の系列の2つの隣り合う層相互間には第1の系列のカーカス層の折り返し部が介在して存在していないことを示唆している。かくして、第2の系列のカーカス層は、1組の並置された層を形成する。
【0022】
さらに、第2の系列のカーカス層の端は、ビードワイヤの中心を通る軸方向直線の半径方向内側に位置している。ビードワイヤの中心という用語は、全体的形状が多角形又は実質的に円形のビードワイヤの子午線断面の周りに外接した円の中心である。ビードワイヤの中心を通る軸方向直線は、タイヤの回転軸線に平行であり且つビードワイヤの中心を通る直線である。この場合、第2の系列のカーカス層の端は、ビードワイヤとリムフランジフックと呼ばれるリムフランジの半径方向部分との間に介在して位置し、従って、ビードワイヤによりリムフランジフックに加えられるクランプ作用を発揮する圧力を受け、これは、ビード内へのこれらの端の固定に寄与する。
【0023】
加うるに、第2の系列のカーカス層の端は、ビードワイヤの中心を通る半径方向直線の軸方向内側に位置する。ビードワイヤの中心を通る半径方向直線は、タイヤの赤道面に平行であり且つビードワイヤの中心を通る直線である。この場合、第2の系列のカーカス層は、ビードワイヤの下に係合し、しかしながら、この場合、折り返し部は形成されず、その理由は、これらのそれぞれの端は、ビードワイヤの中心を通る軸方向直線の半径方向内側に位置したままだからである。したがって、第2の系列のカーカス層の端は、ビードワイヤとリムフランジ受座と呼ばれるリムフランジの実質的に軸方向の部分との間に介在して位置し、従って、ビードワイヤにより高い圧力の領域であるリムフランジの受座に加わるクランプ作用を発揮する圧力を受け、これは、ビード内へのこれらの端の固定具合を更に一段と高めることに寄与する。
【0024】
最後に、第2の系列の各カーカス層の端とビードワイヤの中心を通る半径方向直線との間の軸方向距離は、少なくとも5mmに等しい。この最小距離により、この端は、タイヤに対する製造上の公差を考慮して、ビードワイヤの中心を通る半径方向直線の十分に軸方向内側に位置するようになる。
【0025】
本発明によれば、第2の系列のカーカス層は、第1の系列の1つのカーカス層の少なくとも1つの折り返し部の軸方向内側に位置し、それに伴って、サイドウォール内で軸方向最も外側に位置する第2の系列のカーカス層は、リム撓みゾーンと呼ばれるリムフランジ上におけるビードの撓み領域内で、折り返し部の全てが従来の先行技術において位置したこれら折り返し部全ての外側ではなく、第1の系列の少なくとも1つのカーカス折り返し部の軸方向内側に位置する。
【0026】
その結果、第2の系列のカーカス層は、ビードの中立軸線の近くに位置するようになり、ビードは、リムフランジ上での曲げの際にビームのように機械的に挙動する。その結果、第2の系列のカーカス層の補強要素の圧縮レベルが減少する。この圧縮度の減少は、最も圧縮されるリム上の曲げ領域における軸方向最も外側寄りに位置するカーカス層の補強要素について特に著しい。というのは、このカーカス層は、ビードの中立軸線から見て最も遠くに位置するからである。すると、これにより、圧縮の際のかかるカーカス層の疲れ破損、かくしてかかるカーカス層の軸方向更に内側寄りに位置する第2の系列の他のカーカス層の疲れ破損の恐れが減少する。
【0027】
実際には、リム上における曲げ領域において軸方向最も外側に位置する第2の系列のカーカス層の位置は、かかるカーカス層の補強要素中の考えられる限り最も低い圧縮度、又はそれどころか実質的にゼロの圧縮度を得るようビードの中立軸線に対して調節される。その結果、ビードの中立軸線の近くに位置する第2の系列の他のカーカス層の補強要素は、この場合、幾分引張り状態にある。
【0028】
本発明の好ましい実施形態によれば、第2の系列のカーカス層は、第1の系列のカーカス層の全ての折り返し部の軸方向内側に位置する。この形態により、第2の系列のカーカス層をビードの中立軸線にできるだけ近くに至らせることができ、かくして、カーカス層の数が所与の場合、最小の圧縮度を達成することができる。
【0029】
好ましくは、カーカス層の補強要素は、紡織材料で作られる。紡織材料は、特にカーカス層の重量及びかくしてタイヤの重量を最小限に抑えるために航空機用タイヤにおいて一般的に用いられており、かかる重量を最小限に抑えることは、航空輸送において必要不可欠な要因である。
【0030】
カーカス層の補強要素は、航空機用タイヤの分野において一般的な材料である脂肪族ポリアミド、例えばナイロンで作られている。
【0031】
さらにより有利には、カーカス層の補強要素は、芳香族ポリアミド、例えばアラミドで作られる。アラミドの使用により、ナイロンとの比較では、カーカス層の数が減少する。というのは、アラミドの破断強度は、ナイロンの破断強度よりも高いからである。カーカス層の数がナイロンを用いた場合のカーカス層の数と同じほど多くないので、第2の系列のカーカス層中の圧縮レベルは、それほど高くはない。というのは、このカーカス層は、ビードの中立軸線から見てそれほど離れていないからである。
【0032】
好ましくは、カーカス層の補強要素は、少なくとも脂肪族ポリアミドと少なくとも芳香族ポリアミドを組み合わせたハイブリッド補強要素である。ハイブリッド型の補強要素は、例えば、欧州特許第1381525号明細書に記載されている。かかる補強要素は、低伸び率では、弾性モジュラスが低く、高伸び率では弾性モジュラスが高いということを特徴とするバイモジュラス挙動を示すことによりナイロンの利点とアラミドの利点との間の妥協策を提供する。
【0033】
ビードの耐久性を更に一段と向上させるため、紡織補強要素の構造に鑑みて本来的に良好な耐久性を提供する紡織補強要素を用いることによって第1の系列のカーカス層及び第2の系列のカーカス層の耐久性を向上させることが想定できる。
【0034】
紡織補強要素を製造する一従来方法は、オーバーツイスティングという第1ステップ及びもろよりという第2の第2ステップを含む。オーバーツイスティングステップでは、紡績糸を反時計回りの方向に、即ち、時計の針が曲がる方向とにとは逆の方向に撚ることによってオーバーツイスト(所定の撚り数よりも多い撚り)の状態の互いに平行な紡織フィラメントから成る紡績糸を変換する。次に、先のステップで得られた数本のオーバーツイストを互いに組み付け、オーバーツイストのひとまとまりを時計回りの方向に、即ち、時計の針の動く方向と同一の方向に撚ることによってもろより糸を形成する。
【0035】
撚りレベルは、1メートル当たりのターンの数として表される。撚りレベルは、補強要素の破断強度、伸びモジュラス及び圧縮耐久性に影響を及ぼす。捩じりが増大すると、破断強度及び伸びモジュラスが減少し、これに対し、圧縮耐久性が向上する。
【0036】
本発明者は、少なくとも250ターン/メートルに等しく且つ多くとも290ターン/メートルに等しいカーカス層の紡織補強要素のオーバーツイストを得るために、過剰の捩じりによりカーカス層が満足の行くレベルの耐久性に至ることができるということを実証した。
【0037】
実施形態の第1の変形形態によれば、オーバーツイストは、第1及び第2の系列のそれぞれのカーカス層の紡織補強要素のオーバーツイストを得るためには、互いに同一であり、このことは、用いられる紡織補強要素の形式を第1及び第2の系列のカーカス層について標準化するのがよいことを意味している。
【0038】
実施形態の第2の変形形態によれば、第2の系列のカーカス層の紡織補強要素のオーバーツイストを得るためのオーバーツイストが第1の系列のカーカス層の紡織補強要素のオーバーツイストを得るためのオーバーツイスティングの少なくとも1.15倍に等しいことが有利である。一例を挙げると、第2の系列のカーカス層の紡織補強要素のオーバーツイストを得るためのオーバーツイスティングが290ターン/メートルに等しく、第1の系列のカーカス層の紡織補強要素のオーバーツイストを得るためのオーバーツイスティングが250ターン/メートルに等しい。換言すると、カーカス層が特に圧縮状態においてそれぞれ受ける機械的応力に応じて、カーカス層の第1の系列と第2の系列との間に差異が認められる。
【0039】
有利には、タイヤは、ビードワイヤ回りに巻き上げられると共にビードワイヤをカーカス層から隔てるフリッパーストリップ(flipper strip)と呼ばれる追加の補強層を有する。これは、特に、軸方向最も内側寄りに位置する第2の系列のカーカス層がビードワイヤと直接的な接触関係をなしてはいないということを示唆している。
【0040】
本発明の特徴及び他の利点は、図1を参照すると明確に理解されよう。
【図面の簡単な説明】
【0041】
図1図1は、本発明のタイヤビードの子午線断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0042】
図1は、縮尺通りには描かれていない。必ずしも全ての要素が図示されているわけではない。特に、必ずしもカーカス層の端の全てが示されているわけではない。
【0043】
図1は、サイドウォール2及びビード3の領域で取り付けリム4に取り付けられた本発明のタイヤ1の子午線断面図である。
カーカス補強材は、第1の系列をなすカーカス層(51)と第2の系列をなすカーカス層(52)との間に分布して設けられた複数のカーカス層を有する。
【0044】
第1の系列は、折り返し部(511)を形成するよう各ビード内でタイヤの内側から外側に向かってビードワイヤ(6)回りに巻き上げられた2つのカーカス層(51)から成り、折り返し部(511)の端(E1)は、ビードワイヤ(6)の半径方向最も外側の箇所(E)の半径方向外側に位置する。折り返し部(511)は、ビードワイヤ(6)の半径方向最も内側の箇所(I)と真っ直ぐに一線をなしたカーカス層の半径方向最も内側の箇所と折り返し部(511)の端(E1)との間に位置するカーカス層(51)の部分である。第1の系列のカーカス層(51)は、タイヤの内部キャビティの最も近くに位置し、従って、サイドウォール(2)内の軸方向最も内側に位置するカーカス層である。
【0045】
第2の系列は、各ビード(3)内でタイヤの外側から内側に向かってビードワイヤ(6)の半径方向最も外側の箇所(E)の半径方向内側に位置する端(E2)まで延びる2つのカーカス層(52)から成る。第2の系列のカーカス層(52)は、タイヤの外面の最も近くに位置し、従ってサイドウォール(2)内で軸方向最も外側に位置するカーカス層である。
【0046】
第2の系列の2つのカーカス層(52)は、互いに隣接して且つ第1の系列のカーカス層(51)の折り返し部(511)全ての軸方向内側に位置している。さらに、第2の系列のカーカス層(52)の端(E2)は、ビードワイヤ(6)の中心(O)を通る軸方向直線(DY)の半径方向内側に位置し且つビードワイヤ(6)の中心(O)を通る半径方向直線(DZ)の軸方向内側に位置する。
【0047】
本発明を特に、旅客機に用いられるサイズが46×17.0R20であり、公称圧力が15.9barであり、公称荷重が20642daNであり、最高速度が378km/hの半径方向カーカス補強材付き航空機用タイヤについて検討した。
【0048】
検討した実施例では、カーカス補強材は、第1の系列の2つのカーカス層、第2の系列の2つのカーカス層及びビードワイヤと接触状態にある1つの追加の補強層を有する。技術の現状を表す基準タイヤでは、第1の系列の層の折り返し部は、第2の系列のカーカス層の軸方向内側に位置する。本発明のタイヤでは、第1の系列の層の折り返し部は、第2の系列のカーカス層の軸方向外側に位置する。第1の系列及び第2の系列のカーカス層の補強要素は、互いに同一であり、脂肪族ポリアミド又はナイロンで作られている。
【0049】
上述の構成において、有限要素解析法による数値シミュレーションの実証したところによれば、軸方向最も外側に位置する第2の系列のカーカス層中の最大率は、基準タイヤについては1.6%に等しく、本発明のタイヤについて事実上ゼロまで低下しており、それ故、ビードの耐久性について期待された向上が実証されている。
図1