(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6261100
(24)【登録日】2017年12月22日
(45)【発行日】2018年1月17日
(54)【発明の名称】大気圧誘導結合プラズマ装置
(51)【国際特許分類】
H05H 1/30 20060101AFI20180104BHJP
H05H 1/46 20060101ALI20180104BHJP
【FI】
H05H1/30
H05H1/46 L
【請求項の数】4
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2016-551353(P2016-551353)
(86)(22)【出願日】2014年9月29日
(86)【国際出願番号】JP2014075901
(87)【国際公開番号】WO2016051465
(87)【国際公開日】20160407
【審査請求日】2017年3月8日
(73)【特許権者】
【識別番号】000001122
【氏名又は名称】株式会社日立国際電気
(72)【発明者】
【氏名】岩▲崎▼ 隆司
(72)【発明者】
【氏名】藤本 直也
【審査官】
右▲高▼ 孝幸
(56)【参考文献】
【文献】
特開平9−250986(JP,A)
【文献】
特開2009−259626(JP,A)
【文献】
米国特許第6517913(US,B1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H05H 1/00−1/54
A61L 9/22
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
高周波電力を発生させる高周波電源と、
前記高周波電源に接続された整合器と、
トーチのまわりに巻かれ前記整合器に接続された第一のコイルと、
前記第一のコイルに接続された第二のコイルと、
前記第一のコイルと前記第二のコイルの接続点とGNDに接続された第一のスイッチと、
前記第二のコイルの他方とGNDに接続された第二のスイッチと、
前記第一のスイッチ、前記第二のスイッチ、前記高周波電源および前記整合器に接続された制御部と、
を備え、
プラズマ着火前には、前記第一のスイッチを開放とし、前記第二のスイッチを短絡し、プラズマ着火後には、前記第一のスイッチを短絡とし、前記第二のスイッチを開放とすることで、プラズマ着火前の前記第一のコイルに発生するコイル電圧を高め、
プラズマ着火後に前記第一のコイルと第二にコイルによるインダクタンスを前記プラズマ着火前より低くし、
且つ、前記プラズマ着火前の前記高周波電源の周波数を前記プラズマ着火後の前記高周波電源の周波数より高くすることで、プラズマガスの絶縁破壊を起こすようにされる大気圧誘導結合プラズマ装置。
【請求項2】
高周波電力を発生させる高周波電源と、
前記高周波電源に接続された整合器と、
トーチのまわりに巻かれ前記整合器に接続された第一のコイルと、
前記第一のコイルに接続された第二のコイルと、
前記第一のコイルと前記第二のコイルの接続点とGNDに接続された第一のスイッチと、
前記第二のコイルの他方とGNDに接続された第二のスイッチと、
前記第一のスイッチ、前記第二のスイッチ、前記高周波電源および前記整合器に接続された制御部と、
を備え、
プラズマ着火前には、前記第一のスイッチを開放とし、前記第二のスイッチを短絡し、プラズマ着火後には、前記第一のスイッチを短絡とし、前記第二のスイッチを開放とすることで、プラズマ着火前の前記第一のコイルに発生するコイル電圧を高め、
プラズマ着火後に前記第一のコイルと第二にコイルによるインダクタンスを前記プラズマ着火前より低くし、
且つ、前記プラズマ着火前の前記高周波電源の高周波電力を前記プラズマ着火後の前記高周波電源の高周波電力より大きくすることで、プラズマガスの絶縁破壊を起こすようにされる大気圧誘導結合プラズマ装置。
【請求項3】
高周波電力を発生させる高周波電源と、
前記高周波電源に接続された整合器と、
トーチのまわりに巻かれ前記整合器に接続された第一のコイルと、
前記第一のコイルに接続された第二のコイルと、
前記第一のコイルと前記第二のコイルの接続点とGNDに接続された第一のスイッチと、
前記第二のコイルの他方とGNDに接続された第二のスイッチと、
前記第一のスイッチ、前記第二のスイッチ、前記高周波電源および前記整合器に接続された制御部と、
を備え、
プラズマ着火前には、前記第一のスイッチを開放とし、前記第二のスイッチを短絡し、プラズマ着火後には、前記第一のスイッチを短絡とし、前記第二のスイッチを開放とすることで、プラズマ着火前の前記第一のコイルに発生するコイル電圧を高め、
プラズマ着火後に前記第一のコイルと第二にコイルによるインダクタンスを前記プラズマ着火前より低くし、
且つ、前記プラズマ着火前の前記高周波電源の周波数を前記プラズマ着火後の前記高周波電源の周波数より高くすると同時に、前記プラズマ着火前の前記高周波電源の高周波電力を前記プラズマ着火後の前記高周波電源の高周波電力より大きくすることで、プラズマガスの絶縁破壊を起こすようにされる大気圧誘導結合プラズマ装置。
【請求項4】
高周波電力を発生させる高周波電源と、
前記高周波電源に接続された整合器と、
トーチのまわりに巻かれ前記整合器に接続された第一のコイルと、
前記第一のコイルに接続された第二のコイルと、
前記第一のコイルと前記第二のコイルの接続点とGNDに接続された第一のスイッチと、
前記第二のコイルの他方とGNDに接続された第二のスイッチと、
前記第一のスイッチ、前記第二のスイッチ、前記高周波電源および前記整合器に接続された制御部と、
を備えた大気圧誘導結合プラズマ装置により大気中の汚染物質の分解・除去する方法であって、
プラズマ着火前には、前記第一のスイッチを開放とし、前記第二のスイッチを短絡し、プラズマ着火後には、前記第一のスイッチを短絡とし、前記第二のスイッチを開放とすることで、プラズマ着火前の前記第一のコイルに発生するコイル電圧を高め、
プラズマ着火後に前記第一のコイルと第二にコイルによるインダクタンスを前記プラズマ着火前より低くし、
且つ、前記プラズマ着火前の前記高周波電源の周波数を前記プラズマ着火後の前記高周波電源の周波数より高くすることで、プラズマガスの絶縁破壊を起こすようにされる大気圧誘導結合プラズマ装置による大気中の汚染物質の分解・除去する方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は大気圧誘導結合プラズマ装置に関し、例えば大気圧誘導結合プラズマ装置のプラズマ着火方法に適用することができる。
【背景技術】
【0002】
誘導結合プラズマ(ICP:Inductively Coupled Plasma)の着火のメカニズムは、第一にトーチと呼ばれる円筒状の誘電体等にて構成されたプラズマ発生部のまわりに巻かれたコイルに高周波電力を印加し、発生したコイル電圧によりプラズマガスの絶縁破壊を発生させて初期電子を作り、第二に、コイルに流れる電流から発生した磁界により誘導される電界により加速された初期電子がガスの原子や分子を電離させるα作用を誘発させ、なだれ式に電子の数を増やすことで安定状態に移行することで、プラズマが着火する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平5−217693号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
パッシェンの法則によると、平行電極間における火花放電の生じる電圧(V)はガス圧(p)(密度)と電極の間隔(d)の積の関数となり、大気圧プラズマの場合、低圧プラズマに比べ、ガス密度が高いため初期電子を作り出すためのプラズマガスの絶縁破壊を起こすことは困難である(火花放電の生じる電圧が高くなる)。
【0005】
本開示の課題は、大気圧誘導結合プラズマ装置においてプラズマ着火がより容易になる技術を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本開示のうち、代表的なものの概要を簡単に説明すれば、下記のとおりである。
すなわち、大気圧誘導結合プラズマ装置は、高周波電力を発生させる高周波電源と、前記高周波電源に接続された整合器と、トーチのまわりに巻かれ前記整合器に接続された第一のコイルと、前記第一のコイルに接続された第二のコイルと、前記第一のコイルと前記第二のコイルの接続点とGNDに接続された第一のスイッチと、前記第二のコイルの他方とGNDに接続された第二のスイッチと、前記第一のスイッチ、前記第二のスイッチ、前記高周波電源および前記整合器に接続された制御部と、を備える。プラズマ着火前には、前記第一のスイッチを開放とし、前記第二のスイッチを短絡し、プラズマ着火後には、前記第一のスイッチを短絡とし、前記第二のスイッチを開放とすることで、プラズマ着火前の前記第一のコイルに発生するコイル電圧を高め、プラズマガスの絶縁破壊を起こすようにされる。
【発明の効果】
【0007】
上記大気圧誘導結合プラズマ装置によれば、プラズマ着火がより容易にすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】実施の形態に係る大気圧誘導結合プラズマ装置(プラズマ着火前)を説明するための図である。
【
図2】実施の形態に係る大気圧誘導結合プラズマ装置(プラズマ着火後)を説明するための図である。
【
図3】
図1の整合器以降の電気的等価回路を示す図である。
【
図4】
図2の整合器以降の電気的等価回路を示す図である。
【
図5】誘導結合プラズマ装置を説明するための図である。
【
図6】ガス圧と電極間隔の積と火花電圧の関係を示すパッシェン曲線を示す図である。
【
図7】比較例1に係る誘導結合プラズマ装置を説明するための図である。
【
図8】比較例2に係る誘導結合プラズマ装置を説明するための図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下に、実施の形態および比較例について、図面を参照しつつ説明する。なお、図面は説明をより明確にするため、実際の態様に比べ、各部の幅、厚さ、形状等について模式的に表される場合があるが、あくまで一例であって、本発明の解釈を限定するものではない。また、本明細書と各図において、既出の図に関して前述したものと同様の要素には、同一の符号を付して、詳細な説明を適宜省略することがある。
【0010】
まず、誘導結合プラズマ装置について
図5を用いて説明する。誘導結合プラズマ装置0R1は高周波電力を発生させる高周波電源1と、高周波電源1に接続された整合器2と、プラズマ発生部3と、プラズマ発生部3のまわりに巻かれ整合器2に接続されたコイル5と、高周波電源1および整合器2に接続された制御部9と、を備える。コイル5に高周波電流が流れることにより磁束は発生し、発生した磁束によりプラズマ発生部3内に電界が発生することでプラズマを発生させる。
【0011】
ここでコイル電圧(コイルに発生する実効電圧)について考察する。
整合器2により整合されている場合、コイル5に印加する高周波の電力をPとすると、コイル5に発生する実効電圧(V
L)は、コイル5のインピーダンス(Z
L)を用いて下記の式(1)にて表わされる。
V
L=(P・Z
L)
1/2[V] ・・・・・・(1)
コイル5に印加した高周波の周波数をfとすると、コイル5のインピーダンス(Z
L)はコイル5のインダクタンス(L)を用いて下記の式(2)にて表わされる。
Z
L=2πfL[Ω] ・・・・・・(2)
式(1)および式(2)より、
V
L=(P・2πfL)
1/2[V] ・・・・・・(3)
すなわち、プラズマガスの絶縁破壊を起こすためにコイル5に発生する実効電圧(V
L)を大きくするには、式(3)より電力(P)、周波数(f)、コイル5のインダクタンス(L)の少なくとも1つを大きくする必要がある。
【0012】
ここで、パッシェンの法則を用いて、低圧プラズマ(例えば100Pa)と大気圧プラズマ(0.1MPa)における放電開始電圧(火花電圧)を比較する。その圧力差は1000倍であり、平行電極間距離を1.3cmとした場合、
図6に示すパッシェン曲線から低圧プラズマの場合のpd積は1(=10
0)、大気圧プラズマのpd積は1000(=10
3)である。例えば、Arにて比較するとその火花電圧は、低圧プラズマで120V、大気圧プラズマで20kVである。なお、誘導結合プラズマ装置の電極は平行電極ではないが、傾向は同様であり、大気圧プラズマの火花電圧は低圧プラズマの火花電圧よりも高く、大気圧プラズマは低圧プラズマよりも着火しづらい。
【0013】
次に、プラズマ着火を容易にする技術(比較例1、比較例2)について
図7および
図8を用いて説明する。
図7に示すように、比較例1に係る誘導結合プラズマ装置0R1は、誘導結合プラズマ装置0Rに加えて、高電圧発生器21および放電部22を含むイグナイタ20を備え、イグナイタ20により初期電子を発生させる。イグナイタ20を用いる場合は、その放電部22の一端はGNDに接続されているため、プラズマ発生後でもコイル5と放電部22のGND端にて不要な放電が起こり、プラズマに十分なエネルギーが供給されない問題がある。
【0014】
図8に示すように、比較例2に係る誘導結合プラズマ装置0R2は、黒鉛等の着火棒30をトーチ3に挿入し放電させ初期電子を発生させる。誘導結合プラズマ装置0R2は、着火棒30を除いて、誘導結合プラズマ装置0Rと同様な構成である。着火棒30を用いる場合、プラズマ着火後は着火棒30をプラズマから遠ざける必要があるが、機械的な動作を伴うため時間がかかり、着火棒30がプラズマ範囲にある間はプラズマ内の電子が着火棒30に到達することによりプラズマ状態が変化する問題点がある。
【0015】
さらに比較例1および比較例2のいずれの場合も放電部22や着火棒30自体の電極摩耗が生じ、定期的な交換が必要となる問題がある。
【0016】
実施の形態に係る大気圧誘導結合プラズマ装置について
図1および
図2を用いて説明する。実施の形態に係る大気圧誘導結合プラズマ装置0は、高周波電力を発生させる高周波電源1と、高周波電源1に接続された整合器2と、プラズマ発生部3と、プラズマ発生部3のまわりに巻かれた第一のコイル5と、高周波電源1および整合器2に接続された制御部9と、を備える。第一のコイル5は整合器2に接続される。さらに大気圧誘導結合プラズマ装置0は、第一のコイル5に接続された第二のコイル6と、第一のコイル5と第二のコイル6の接続点とGNDに接続された第一のスイッチ7と、第二のコイル6の他方とGNDに接続された第二のスイッチ8と、を備える。第一のスイッチ7および第二のスイッチ8は制御部9に接続される。プラズマ発生部3はトーチと呼ばれる円筒状の石英やアルミナ等の誘電体等にて構成され、上部にプラズマガス用入力部を備える。プラズマ発生部3の直径は、例えば35mmである。高周波電源1の周波数はISM(Industry, Science, Medical)の周波数帯を使用するのが好ましく、例えば13.56MHz、27.12MHz、40.68MHz、2.45GHz等を使用する。なお、整合器2はメカニカルに構成され、半導体等で構成されるものより応答が遅い。
【0017】
図1に示すようにプラズマ着火前には、第一のスイッチ7を開放とし、第二のスイッチ8を短絡とすることで、第一のコイル5と第二のコイル6は
図3に示す電気的等価回路となる。
図2に示すようにプラズマ着火後には、第一のスイッチ7を短絡とし、第二のスイッチ8を開放とすることで、第一のコイル5と第二のコイル6は
図4に示す電気的等価回路となる。
【0018】
ここで、第一のコイル5のインダクタンスをL1とし、第二のコイル6のインダクタンスをL2とし、プラズマ着火前のインダクタンスをLbとし、プラズマ着火後のインダクタンスをLaとする。
図3に示す電気的等価回路から、Lb=L1+L2にて表わされ、
図4に示す電気的等価回路から、La=L1にて表わされ、L1およびL2は共に正の値であるために、Lb>Laの関係となる。よって、プラズマ着火前のインダクタンス(Lb)を大きくすることができるので、式(3)より第一のコイル5に発生する実効電圧を高くすることができる。よって、大気圧においてプラズマガスの絶縁破壊が起こしやすくなりプラズマ着火がより容易になる。したがって、大気圧のもとでプラズマ処理を行うことができるので、真空チャンバや真空ポンプ等の装備が必要ない。なお、プラズマ着火後のインダクタンスを高くしたままにすると高周波電源1から見たインピーダンスが高くなってしまい、すなわち高周波電源1とインピーダンスマッチングが取れなくなってしまい電源効率が低下するので、プラズマ着火後のインダクタンスを低くしている。
【0019】
一般に円筒状コイルのインダクタンスLは、下記の式(4)にて表わされることが知られている。
L=k・μ・n
2・π・a
2/len[H]・・・・・・(4)
ここで、kは長岡係数、μは透磁率、nはコイル巻数、aはコイルの半径、lenはコイルの長さである。
式(4)より、プラズマガスの絶縁破壊を起こすための第二のコイル6の効果的な形状は、コイル巻数(n)を増やす、またはコイルの半径(a)を大きくする、またはコイルの長さ(len)を短くする、の少なくとも1つを行えばよい。但し、2a/lenの値により長岡係数が決定されるので、コイルのインダクタンスが小さくならないようにコイルの半径(a)およびコイルの長さ(len)を決定する必要がある。なお、プラズマ発生部3の直径を大きくするとaも大きくなるが、プラズマ発生部3内のプラズマ強度が中心付近で低下する傾向がある。
さらに式(3)より考察すると、本実施の形態に加え、高周波電源1の電力を大きくしてコイルに印加される電力(P)を大きくする、または高周波電源1の周波数を高くしてコイルに印加される周波数(f)を高くする、の少なくとも1つを同時に行うことで、より効果的にプラズマガスの絶縁破壊を起こすことが可能となる。
【0020】
本実施の形態に係る大気圧誘導結合プラズマ装置は、例えば、大気中の汚染物質の分解・除去装置に適用することができる。
【0021】
以上、本発明者によってなされた発明を実施の形態に基づき具体的に説明したが、本発明は、上記実施の形態に限定されるものではなく、種々変更可能であることはいうまでもない。
【符号の説明】
【0022】
0・・・大気圧誘導結合プラズマ装置
0R、0R1,0R2・・・誘導結合プラズマ装置
1・・・高周波電源
2・・・整合器
3・・・プラズマ発生部(トーチ)
4・・・プラズマガス用入力部
5・・・第一のコイル
6・・・第二のコイル
7・・・第一のスイッチ
8・・・第二のスイッチ
9・・・制御器
10・・・プラズマ
20・・・イグナイタ
21・・・高電圧発生器
22・・・放電部
30・・・着火棒