特許第6261134号(P6261134)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6261134
(24)【登録日】2017年12月22日
(45)【発行日】2018年1月17日
(54)【発明の名称】給与計算方法及び給与計算プログラム
(51)【国際特許分類】
   G06Q 10/10 20120101AFI20180104BHJP
【FI】
   G06Q10/10 320
【請求項の数】4
【全頁数】14
(21)【出願番号】特願2014-217202(P2014-217202)
(22)【出願日】2014年10月24日
(65)【公開番号】特開2016-85562(P2016-85562A)
(43)【公開日】2016年5月19日
【審査請求日】2015年7月14日
【審判番号】不服2015-21527(P2015-21527/J1)
【審判請求日】2015年12月3日
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 平成26年5月15日 フリー株式会社旧会議室(東京都港区三田一丁目2番17号)にて記者会見
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 平成26年5月16日 フリー株式会社旧会議室(東京都港区三田一丁目2番17号)にて記者会見
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 平成26年5月18日 https://www.youtube.com/watch?v=6w−Qn9eqD−kにてウェブサイト掲載
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 平成26年5月19日 https://p.secure.freee.co.jp/ https://p.secure.freee.co.jp/users/login https://p.secure.freee.co.jp/users/new https://p.secure.freee.co.jp/conversions/show https://p.secure.freee.co.jp/#employees https://p.secure.freee.co.jp/#calendars https://p.secure.freee.co.jp/#payroll_statements https://p.secure.freee.co.jp/#docs https://p.secure.freee.co.jp/#year_end_adjustments https://p.secure.freee.co.jp/#companies/edit/ にてウェブサイト掲載
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 平成26年6月16日 https://www.youtube.com/watch?v=82mMmYT1fDgにてウェブサイト掲載
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 平成26年8月20日 https://p.secure.freee.co.jp/#invitations/new https://p.secure.freee.co.jp/invitations/registerにてウェブサイト掲載
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 平成26年8月21日 http://www.freee.co.jp/news/payroll−invitation−2469.htmlにてウェブサイト掲載
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 平成26年8月31日 http://www.freee.co.jp/payroll/featuresにてウェブサイト掲載
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 平成26年10月6日 http://www.freee.co.jp/payroll/cases http://www.freee.co.jp/payroll/cases/milestone http://www.freee.co.jp/payroll/cases/oarket http://www.freee.co.jp/payroll/cases/ubiregiにてウェブサイト掲載
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 平成26年10月6日 http://www.freee.co.jp/news/payroll−release−2748.html http://www.slideshare.net/naomaemura/1−freee?ref=http://www.freee.co.jp/news/payroll−release−2748.htmlにてウェブサイト掲載
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 平成26年10月6日 https://p.secure.freee.co.jp/ https://p.secure.freee.co.jp/users/login https://p.secure.freee.co.jp/users/new https://p.secure.freee.co.jp/conversions/show https://p.secure.freee.co.jp/#employees https://p.secure.freee.co.jp/#calendars https://p.secure.freee.co.jp/#payroll_statements https://p.secure.freee.co.jp/#docs https://p.secure.freee.co.jp/#year_end_adjustments https://p.secure.freee.co.jp/#companies/edit/ https://p.s−secure.freee.co.jp/#docs/income_tax_form https://p.s−secure.freee.co.jp/#docs/remittance_form https://p.s−secure.freee.co.jp/invitations/register https://p.s−secure.freee.co.jp/#invitations/new https://p.secure.freee.co.jp/invitations/registerにてウェブサイト掲載
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 平成26年10月7日 http://www.slideshare.net/freee_KK/freee−39973233にてウェブサイト掲載
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 平成26年5月19日 http://www.freee.co.jp/payroll http://www.freee.co.jp/news/payroll−1815.htmlにてウェブサイト掲載
【早期審理対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】513056101
【氏名又は名称】フリー株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100174078
【弁理士】
【氏名又は名称】大谷 寛
(72)【発明者】
【氏名】田村 壽英
(72)【発明者】
【氏名】平栗 遵宜
(72)【発明者】
【氏名】大平 武志
(72)【発明者】
【氏名】加来 純一
【合議体】
【審判長】 金子 幸一
【審判官】 相崎 裕恒
【審判官】 佐藤 智康
(56)【参考文献】
【文献】 特開2001−273389(JP,A)
【文献】 特開2005−293003(JP,A)
【文献】 特開2001−290923(JP,A)
【文献】 特開2003−076817(JP,A)
【文献】 特開2002−024551(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2002/0184148(US,A1)
【文献】 特開2003−263540(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G06Q10/00-50/34
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
企業にクラウドコンピューティングによる給与計算を提供するための給与計算方法であって、
サーバが、前記企業の給与規定を含む企業情報及び前記企業の各従業員に関連する従業員情報を記録しておき、
前記サーバが、前記企業情報及び前記従業員情報を用いて、該当月の各従業員の給与計算を行い、
前記サーバが、複数の従業員についての前記給与計算の計算結果の少なくとも一部を、前記計算結果の確定ボタンとともに前記企業の経理担当者端末のウェブブラウザ上に表示させ、
前記確定ボタンがクリック又はタップされると、前記サーバが、前記クリック又はタップのみに基づいて該当月の複数の従業員の前記計算結果を確定させ、
前記従業員情報は、各従業員が入力を行うためのウェブページを各従業員の従業員端末のウェブブラウザ上に表示させて入力された、給与計算を変動させる従業員入力情報(勤怠情報を除く。)を含み、
前記従業員入力情報は、扶養者数を含むことを特徴とする給与計算方法。
【請求項2】
各従業員の従業員IDは、複数の企業の企業IDと関連づけが可能であることを特徴とする請求項に記載の給与計算方法。
【請求項3】
前記企業情報は、健康保険の保険料率を含み、
前記健康保険の保険料率は、料率改定の改定日、改定前の保険料率、及び改定後の保険料率を記録した改定テーブルを参照していずれかの保険料率を規定値として表示させることを特徴とする請求項1又は2に記載の給与計算方法。
【請求項4】
企業にクラウドコンピューティングによる給与計算を提供するための方法をコンピュータに実行させるための給与計算プログラムであって、前記方法は、サーバが、
前記サーバに記録された前記企業の給与規定を含む企業情報及び前記企業の各従業員に関連する従業員情報を用いて、該当月の各従業員の給与計算を行い、
複数の従業員についての前記給与計算の計算結果の少なくとも一部を、前記計算結果の確定ボタンとともに前記企業の経理担当者端末のウェブブラウザ上に表示させ、
前記確定ボタンがクリック又はタップされると、前記クリック又はタップのみに基づいて該当月の複数の従業員の前記計算結果を確定させ、
前記従業員情報は、各従業員が入力を行うためのウェブページを各従業員の従業員端末のウェブブラウザ上に表示させて入力された、給与計算を変動させる従業員入力情報(勤怠情報を除く。)を含み、
前記従業員入力情報は、扶養者数を含むことを特徴とする給与計算プログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、給与計算方法及び給与計算プログラムに関し、より詳細には、企業にクラウドコンピューティングによる給与計算を提供するための給与計算方法及び給与計算プログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
従業員を雇用する企業は、毎月、給与額・各種税金に関する複雑な計算を行い、給与明細を作成して、各従業員に配布している。また、当該企業を所管する税務署に対しては、所得税徴収高計算書の提出を行っている。毎月の給与計算等のほか、従業員に対する源泉徴収票の発行、年金事務所に対する各種届出等も一年を通じて発生し、従業員を雇用することで発生する事務作業は少なくない。
【0003】
各企業等は、こうした給与計算事務を総務部、経理部等にて給与計算ソフトを用いて行っていることが多い。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
市販の給与計算ソフトは、各企業等が給与計算事務を行う上で必要な機能を備えているものの、様々な企業等の需要に応えることのできる汎用ソフトであることの欠点も抱えている。
【0005】
すなわち、給与計算事務を給与計算ソフトを用いて行っている企業が一定の割合存在する一方、エクセル、手書きによる計算、あるいは社会保険労務士等への外注も少なくない割合で存在し、既存の給与計算ソフトが十分には対応できてない側面があると言える。このことは、初期設定等の各種設定が複雑であること、専門知識が要求されること、作業工程が多いこと等、既存の給与計算ソフトが汎用ソフトであることに起因する欠点の表れであると理解することができる。特に、中小企業又は個人事業主にとっては、このような給与計算事務を経営者が行わざるを得ないケースも多々あり、大きな負担となっている。
【0006】
本発明は、このような問題点に鑑みてなされたものであり、その目的は、中小企業等に対し、給与計算事務を大幅に簡便にする給与計算方法及び給与計算プログラムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
このような目的を達成するために、本発明の第1の態様は、企業にクラウドコンピューティングによる給与計算を提供するための給与計算方法であって、前記企業の給与規定を含む企業情報及び前記企業の各従業員に関連する従業員情報を記録しておき、前記企業情報及び前記従業員情報を用いて、該当月の各従業員の給与計算を行い、前記給与計算の計算結果の少なくとも一部を、前記計算結果の確定ボタンとともにウェブブラウザ上に表示させ、前記確定ボタンがクリック又はタップされると、該当月の各従業員の前記計算結果を確定させることを特徴とする。
【0008】
また、本発明の第2の態様は、第1の態様において、前記確定ボタンがクリック又はタップされると、該当月の各従業員の前記計算結果が確定したことを示すフラグに真の値を与えることを特徴とする。
【0009】
また、本発明の第3の態様は、第1又は第2の態様において、各従業員の前記計算結果は、前記確定ボタンがクリック又はタップされたことのみに基づいて確定されることを特徴とする。
【0010】
また、本発明の第4の態様は、第1から第3のいずれかの態様において、前記従業員情報は、各従業員が入力を行うためのウェブページをウェブブラウザ上に表示させて入力された従業員入力情報を含むことを特徴とする。
【0011】
また、本発明の第5の態様は、第1から第4のいずれかの態様において、前記従業員入力情報は、勤怠情報を含むことを特徴とする。
【0012】
また、本発明の第6の態様は、第1から第5のいずれかの態様において、前記従業員入力情報は、扶養者数、生年月日及び入社日のうちの少なくとも1つを含むことを特徴とする。
【0013】
また、本発明の第7の態様は、第1から第6のいずれかの態様において、前記確定ボタンがクリック又はタップされたことのみに基づいて、前記計算結果を確定させるとともに、各従業員の給与明細を閲覧可能にすることを特徴とする。
【0014】
また、本発明の第8の態様は、第7の態様において、前記確定ボタンがクリック又はタップされたことのみに基づいて、各従業員に対し、前記給与明細が閲覧可能であることを通知することを特徴とする。
【0015】
また、本発明の第9の態様は、第1から第8のいずれかの態様において、前記確定ボタンがクリック又はタップされたことのみに基づいて、前記計算結果を確定させるとともに、前記企業が支払う給与に対し、給与の内訳毎に勘定科目を判定して仕訳を行うことを特徴とする。
【0016】
また、本発明の第10の態様は、第1から第8のいずれかの態様において、前記企業情報は、前記企業が前記企業情報を指定するためのウェブページをウェブブラウザ上に段階的に表示させて入力された情報であることを特徴とする。
【0017】
また、本発明の第11の態様は、第10の態様において、前記従業員情報は、従業員入力情報に加えて、前記企業が入力を行う従業員基本情報を含み、前記従業員基本情報は、前記企業情報の記録が完了した後にのみ入力を可能にすることを特徴とする。
【0018】
また、本発明の第12の態様は、第10又は第11の態様において、前記企業情報は、給与締日及び給与支払日、休日、健康保険及び労働保険の保険料率、住民税の納付、並びに残業代の計算方法を含むことを特徴とする。
【0019】
また、本発明の第13の態様は、第12の態様において、前記健康保険の保険料率は、料率改定の改定日、改定前の保険料率、及び改定後の保険料率を記録した改定テーブルを参照していずれかの保険料率を規定値として表示させることを特徴とする。
【0020】
また、本発明の第14の態様は、第10から第13のいずれかの態様において、前記企業情報は、5クリック又はタップ以内で入力が完了することを特徴とする。
【0021】
また、本発明の第15の態様は、第1から第14のいずれかの態様において、複数の企業に前記給与計算が提供されることを特徴とする。
【0022】
また、本発明の第16の態様は、企業にクラウドコンピューティングによる給与計算を提供するための方法をコンピュータに実行させるための給与計算プログラムであって、前記方法は、前記企業の給与規定を含む企業情報及び前記企業の各従業員に関連する従業員情報を記録しておき、前記企業情報及び前記従業員情報を用いて、該当月の各従業員の給与計算を行い、前記給与計算の計算結果の少なくとも一部を、前記計算結果の確定ボタンとともにウェブブラウザ上に表示させ、前記確定ボタンがクリック又はタップされると、該当月の各従業員の前記計算結果を確定させることを特徴とする。
【発明の効果】
【0023】
本発明の一態様によれば、あらかじめ記録された企業情報及び従業員情報を用いて、該当月の各従業員の給与計算を行い、給与計算の計算結果の少なくとも一部を、計算結果の確定ボタンとともにウェブブラウザ上に表示させ、確定ボタンがクリック又はタップされると、該当月の各従業員の計算結果を確定させることにより、中小企業等に対し、給与計算事務を大幅に簡便にする給与計算方法及び給与計算プログラムを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
図1(a)】初期設定の流れを示す図である。
図1(b)】初期設定の流れを示す図である。
図1(c)】初期設定の流れを示す図である。
図1(d)】初期設定の流れを示す図である。
図1(e)】初期設定の流れを示す図である。
図1(f)】初期設定の流れを示す図である。
図1(g)】初期設定の流れを示す図である。
図1(h)】初期設定の流れを示す図である。
図2(a)】従業員情報登録確認画面を示す図である。
図2(b)】従業員情報登録確認画面を示す図である。
図3】従業員招待画面を示す図である。
図4(a)】従業員アカウント内の各画面を示す図である。
図4(b)】従業員アカウント内の各画面を示す図である。
図4(c)】従業員アカウント内の各画面を示す図である。
図4(d)】従業員アカウント内の各画面を示す図である。
図5】給与の計算結果一覧を示す図である。
図6】給与明細の閲覧可能通知メールを示す図である。
図7】給与計算の確定後に利用可能になる書類の一覧を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下、図面を参照して本発明の実施形態を詳細に説明する。なお、本発明にかかる給与計算方法は、1又は複数の企業にクラウドコンピューティングを提供するウェブサーバに、下記で説明する各処理を行うためのプログラムを実行させることにより実現することができ、サーバは、物理的に単一のサーバに限られず、プログラムも単一のプログラムに限られない。また、以下は給与を例に説明するが、賞与についても本発明を適用することができる。
【0026】
(第1の実施形態)
図1(a)〜(h)は、本発明の第1の実施形態にかかる給与計算方法の初期設定の流れを示す図である。
【0027】
図1(a)で、ユーザーとなる企業は、ウェブブラウザにより登録ページにアクセスし、メールアドレス、パスワード、事業所名等を入力してアカウントを作成する。この際、メールアドレスを企業IDとすることもできるが、メールアドレスは経理担当者IDとし、事業所名に対応する企業IDあるいは事業所IDを別個作成してもよい。後述のように、経理担当者IDと企業IDの区別は、セキュリティ対策上、意味が大きい。
【0028】
図1(b)で、最初に、給与規定の登録に進む。図1(c)で、給与計算締日及び給与計算支払日を指定する。次に、図1(d)で、休日を指定する。次に、図1(e)で、会社が加入している健康保険を指定し、図1(f)で、雇用保険の料率を指定する。図1(g)で、住民税の納付について、また、残業代の計算について指定する。
【0029】
給与計算には、各従業員の情報も必要であるが、このように給与規定の登録が完了するまでは従業員情報の登録に進むことができないようにすることで、ユーザーを適切にナビゲートして、初期設定を簡便にすることができる。具体的には、給与規定等の企業情報の登録画面に進む第1のボタン(「最初にやること 給与規定を設定」)と、従業員情報の登録画面に進む第2のボタン(「次にやること 従業員を追加」)を表示し、第1のアイコンをクリック(又はタッチ)し、企業情報の登録が完了するまでは、第2のボタンをクリック(又はタッチ)することができないようにすることができる(図1(h))。
【0030】
企業が登録する給与規定の項目としては、給与締日及び給与支払日、休日、健康保険及び労働保険の保険料率、住民税の納付、並びに残業代の計算方法が含まれる。これらの項目は、想定されるユーザー企業に対応して、最も指定される可能性が高い値を規定値として指定しておくことができる。たとえば、中小企業又は個人事業主をユーザーとして想定すると、給与規定が入り組んでいないため類型化が容易になり、高い精度で規定値を指定することができる。
【0031】
加えて、従来の給与計算ソフトは、購入した企業等がコンピュータにインストールして利用するスタンドアローンのアプリケーションであるため、規定値をそもそも指定しておくことができない項目が多かった。たとえば、健康保険料率は、保険料率の改定が存在するため、規定値として指定しておくことはできなかった。本実施形態にかかる給与計算方法は、インターネットに接続されたサーバ上で実行されるため、規定値を動的に更新することができ、そのため、多くの項目を規定値化して、ユーザー企業に求められる入力項目を低減することができる。たとえば、2012年には、東京の協会けんぽの健康保険料率が9.48%から9.97%に引き上げられたが、このような改定が今後あるときは、改定日、改定前の保険料率、及び改定後の保険料率を記録した改定テーブルを作成し、これを参照して保険料率の規定値を表示することによって、規定値を常に正しく指定しておくことができる(図1(e))。規定値化ができない場合には、ユーザーに具体的な保険料率の数値の入力を求めることとなり、これは作業工程の増加のみならず、誤入力も招くこととなる。
【0032】
以上のように、クラウドコンピューティングにより可能となる入力項目の規定値化によって、アカウント作成後、給与規定等の基本情報の登録をわずか5クリック(又はタップ)以内で完了させることができる(図1(c)〜(g))。複雑な初期設定はユーザーの利用開始に対する大きな障害であり、本実施形態にかかる給与計算方法では、そのような障害を大幅に取り除くことができる。
【0033】
(第2の実施形態)
図2(a)及び(b)は、図1(h)で、従業員情報の登録画面に進む第2のボタンをクリック(又はタップ)した後に表示される登録画面(図2(a))と、登録結果を表示する確認画面(図2(b))である。供与計算担当者が入力する従業員基本情報としては、姓名、生年月日、社員番号、入社日、連絡先、基本給等が挙げられる。登録された従業員基本情報は、確認画面で、確認・変更が可能である。図2(b)の確認画面には、図2(a)の登録画面で登録された項目よりも多くの項目が示されているが、これらは、一部は、企業情報として登録された内容に基づき(保険等)、一部は、以下に述べるように、当該従業員自身が入力することのできるもの(「従業員入力情報」ともいう。)である。
【0034】
ユーザー企業の給与計算担当者は、従業員に当該従業員の情報へのアクセスを許可することができる。たとえば、図3に示すような「メールで従業員を招待」ボタンをクリック又はタッチすると、当該従業員のあらかじめ登録されたメールアドレスに、自己の情報を入力することのできるウェブページを通知するようにすることができる。たとえば、従業員が自己のアカウントにログイン可能にすることができる。
【0035】
図4(a)〜(d)は、従業員アカウントにログインした際に表示される各画面を示している。図4(a)は、ホーム画面であり、「最初にやること 従業員情報の確認」ボタンをクリック又はタッチすると、図4(b)の従業員情報の確認画面が表示される。従業員に対して表示される確認画面では、図2(b)と比較すると、保険、残業代等のいくつかの項目を変更・編集不可能とすることができる。各従業員に、扶養者数等の従業員固有の情報を入力させることによって、このような従業員固有の情報に基づき変動する給与計算を自動化し、給与計算担当者を煩雑な作業から解放することができる。扶養者数のほかには、生年月日により介護保険の支払義務の有無及び支払額が変動し、入社日により保険料の支払開始月が変動する。また、図4(c)では、各従業員が自分で勤怠情報を入力することができる。このように、給与計算ソフトをクラウドのウェブアプリケーションにより実現することで、従業員毎のアカウントを作成し、各従業員が自らアクセスして所要の情報をあらかじめ入力することができるようにして、従業員情報に基づく給与計算を自動化することができる。各従業員の給与計算の結果は、たとえば図4(d)のように示され、これは、従業員、給与計算担当者ともに同じ情報を閲覧することができるようにしてもよい。
【0036】
なお、従業員に図4(d)のような情報を閲覧可能とする際、本発明がウェブサーバ上でクラウドサービスとして提供することができることに起因するセキュリティ上の懸念に対して、通常以上の安全性を担保することもできる。たとえば、従業員が「給与・賞与明細」タブをクリック(又はタップ)して図4(d)の画面を表示させるとき、従業員ID、企業ID及び年月を特定した給与明細リクエストがウェブサーバに送信され、ウェブサーバでは、該当従業員の該当年月の給与明細の表示に必要なデータを各種データベースから読み出す。ここで、ウェブサーバは、読み出されたデータを従業員が使用する端末に送信する前に、読み出されたデータのそれぞれに与えられている企業IDを給与明細リクエストに含まれる企業IDと照合を行い、一致することが判定された場合のみに送信することができる。クラウドサービスでは、サービスを提供するウェブサーバで実行されるプログラムの更新頻度が高く、予期しない理由によって正しくないデータの書き込みがデータベースに行われる可能性がゼロではない。給与・賞与という個人情報に対するセキュリティレベルを高めるために、このようなIDの二重の照合(ダブルチェック)を行うこともできる。ここでは、従業員IDと企業IDの関係で説明したが、経理担当者IDと企業IDとの関係でも同様の技術を適用することができ、経理担当者が使用する端末に各種データを送信する前にIDによるダブルチェックを行ってセキュリティレベルを高めてもよい。
【0037】
また、今後、我が国でも雇用流動性が高まることで、転職による給与事務の増加が見込まれるが、各従業員がそれぞれ自らのアカウントに保存されたデータを新たな雇用主に提供することができれば、そのような問題を抑制することができる。したがって、就労者アカウントを特定の企業IDから独立して作成可能とし、勤務先に応じて1又は複数の企業IDと関連づけるようにしてもよい。
【0038】
また、各従業員の給与等は変化するが、これらのデータは、過去3月分以上を保存しておいてもよい。このようにすることで、我が国では給与等に大きな変動があった際に過去3月分の報酬に基づいて届出が必要な健康保険料の等級変化(随時改定)に対し、給与計算担当者が常に留意して計算をすることなく、対応することが可能となる。
【0039】
(第3の実施形態)
図5は、給与計算担当者のアカウントにて表示される計算結果一覧を示している。上段に全従業員の給与合計を表示し、下段に、各従業員の給与明細の要約を表示している。
【0040】
給与計算担当者が、「9月分の給与明細を確定する」ボタンをクリック又はタップすると、各従業員の給与が確定し、ウェブサーバの記憶部に保存されている各従業員の計算結果のレコードのフラグを真の値にすることができる。当該フラグを固定フラグとして、それがONのときには給与計算にかかる各種パラメータが変化しても再計算が行われないようにしてもよい。また、各従業員の該当月の給与計算は、「確定」ボタンが押されたときに初めて行うようにしてもよい。いずれにしても、給与計算担当者は、あらかじめ記録された企業情報及び従業員情報を用いて該当月の各従業員の給与計算を行うことで、1クリック(又はタップ)のみで、各従業員の給与計算を完了することができ、従来、既存の給与計算ソフトを用いて、あるいは用いずに、従業員毎に各従業員に固有の情報を反映させて計算を行っていた複雑な作業の負担が軽減される。従業員が増えたときも、企業としては新従業員の基本従業員情報(図2(a)等)を入力すれば、後は毎月の給与計算での作業負担は増えることがない。
【0041】
また、1クリック(又はタップ)のみに基づいて、各従業員に、あらかじめウェブサーバの記憶部に格納されているメールアドレスを用いて、給与が確定し、給与明細をオンラインで閲覧可能であることを各従業員のスマートフォン、タブレット等の携帯端末、PC等に通知してもよい(図6参照)。さらに、プッシュ通知を行ってもよい。具体的には、1クリックに基づいて上記フラグに真の値を与えたのち、追加のユーザーアクションを要することなく上記フラグの値が真であることを判定して、給与明細閲覧可能通知を送信してもよい。このようにすることで、ユーザー企業は、紙の給与明細を毎月用意して配布する必要がなくなるとともに、各従業員はタイムリーに給与明細を閲覧することができる。特に、アルバイトで毎日出勤しない従業員、在宅勤務等のテレワークのため紙の給与明細を受け取ることができないか受け取る機会が限られている従業員等に対しても、タイムリーな通知が可能となる。従来、給与計算の確定と、各従業員が給与明細を閲覧するまでには、タイムラグがあった。これは、紙の給与明細を配布する場合には、誤配防止の観点、個人情報保護の観点等から配布物の確認が必要であったことに因るが、ウェブアプリケーション上での閲覧とすることによって誤配の可能性がゼロになり、給与掲載の確定後、ただちに給与明細へのアクセスを許可することができるようになる。
【0042】
また、従業員が給与明細を確認したか否かを従業員毎、月毎に記憶しておいてもよい。
【0043】
(第4の実施形態)
図7は、給与計算の確定後に利用可能になる書類を示している。本実施形態にかかる給与計算方法は、給与計算担当者が「確定」ボタンを押すと、所定の規則及び書式に従って、銀行向け給与振込データ、行政向け届出書類データ等を作成することができる。さらに、1クリックのみに基づいて作成された給与振込データを、あらかじめ登録されている銀行口座に送信してもよく、加えて、あらかじめウェブサーバの記憶部にユーザー企業毎に格納しておいた振込実行用パスワードを送信してもよい。または、送信前に、ユーザーに対し、振込実行用パスワードを入力するためのポップアップを表示してもよい。
【0044】
また、本実施形態にかかる給与計算方法は、1クリックに基づいて、支払う給与に対し、給与の内訳毎に(図5参照)勘定科目を判定して仕訳を行ってもよい。このようにして会計データを生成して、クラウド会計ソフトに送信することで、従来行われていた給与の会計帳簿への転記を不要とすることができる。
図1(a)】
図1(b)】
図1(c)】
図1(d)】
図1(e)】
図1(f)】
図1(g)】
図1(h)】
図2(a)】
図2(b)】
図3
図4(a)】
図4(b)】
図4(c)】
図4(d)】
図5
図6
図7