【課題を解決するための手段】
【0014】
発明者は、鋭意検討した結果、同一の被検試料について3回以上の電気泳動実験を行い、それぞれの実験で得られた画像についてバックグラウンドノイズを除去した後に位置揃えを行ったときに、少なくとも何枚かの画像の同じ位置にスポットが存在していれば、そのスポットが残りの画像においてほとんど認められないものであっても、被検試料中にはこのスポットに対応する荷電物質が存在していると判断すべきであるとの結論に至った。
【0015】
そこで、本発明はまず、コンピュータによる二次元電気泳動画像の解析方法であって、上記コンピュータが、
a)同一の被検試料に関する少なくとも3枚の二次元電気泳動画像を読み込むステップ、
b)読み込まれた上記二次元電気泳動画像のそれぞれについて、画像を構成する各ピクセルの光学濃度からバックグラウンドノイズを減算してバックグラウンド除去画像を生成するステップ、
c)上記バックグラウンド除去画像のそれぞれについて、上記被検試料に含まれる同一の荷電物質に起因するスポットが画像のほぼ同一のピクセル座標に位置するように位置揃えするための、バックグラウンド除去画像におけるピクセル座標と位置揃え後のピクセル座標との関係を示す座標変換式を導出するステップ、
d)上記バックグラウンド除去画像のそれぞれについて、隣接するピクセルの光学濃度よりも大きい光学濃度を有するピクセルとその周辺のピクセルとからなる高濃度領域と残余のピクセルからなる低濃度領域とに、隣り合う上記高濃度領域が上記低濃度領域によって分離されるように分割するとともに、各ピクセルの座標を上記座標変換式に従って位置揃え後のピクセル座標に変換して、各ピクセルが上記高濃度領域と上記低濃度領域のいずれに属するかを示す所属データと変換後のピクセル座標とを対応付けたデータ表を生成するステップ、
e)得られたすべてのデータ表における同一のピクセル座標の所属データを集計し、2から(上記二次元電気泳動画像の数−1)までの範囲の整数からなる群から選択された指定値以上の数のデータ表において上記高濃度領域に属することを示す集計結果が得られたピクセル座標を選択し、すべてのデータ表において、選択されたピクセル座標のひとかたまりの領域ごとに同一の識別番号を付与し、識別番号が付与された領域をスポット存在領域と認定するステップ、
及び、
f)上記バックグラウンド除去画像のそれぞれについて、対応する上記データ表のスポット存在領域に含まれるピクセル座標を上記座標変換式に従ってバックグラウンド除去画像のピクセル座標に変換することにより変換スポット存在領域を認定し、認定された上記変換スポット存在領域ごとに、該領域を含むスポットにモデル関数をフィッティングするステップ
を実行することを特徴とする、第1の二次元電気泳動画像の解析方法を提供する。d)ステップにおける、高濃度領域と低濃度領域とへの分割と位置揃え後のピクセル座標への変換とは、どちらを先に実施しても良い。
【0016】
第1の二次元電気泳動画像の解析方法では、上記コンピュータがさらに、
g)上記バックグラウンド除去画像のそれぞれについて、バックグラウンド除去画像における各ピクセルの光学濃度から、上記モデル関数から得られたフィッティング画像における同一の座標のピクセルの光学濃度を減算することにより、差分画像を生成するステップ、
h)得られた差分画像のそれぞれについて、隣接するピクセルの光学濃度よりも大きい光学濃度を有するピクセルとその周辺のピクセルとからなる高濃度領域と残余のピクセルからなる低濃度領域とに、隣り合う上記高濃度領域が上記低濃度領域によって分離されるように分割するとともに、各ピクセルの座標を上記座標変換式に従って位置揃え後のピクセル座標に変換して、各ピクセルが上記高濃度領域と上記低濃度領域のいずれに属するかを示す所属データと変換後のピクセル座標とを対応付けたデータ表を再生成するステップ
i)再生成されたすべてのデータ表における同一のピクセル座標の所属データを集計し、上記指定値以上の数のデータ表において上記高濃度領域に属することを示す集計結果が得られたピクセル座標を選択し、再生成されたすべてのデータ表において、選択されたピクセル座標のひとかたまりの領域ごとに同一の識別番号を付与し、識別番号が付与された領域をスポット存在領域と認定するステップ、
及び、
j)上記差分画像のそれぞれについて、対応する上記再生成されたデータ表のスポット存在領域に含まれるピクセル座標を上記座標変換式に従って差分画像のピクセル座標に変換することにより変換スポット存在領域を認定し、認定された上記変換スポット存在領域ごとに、該領域を含むスポットにモデル関数をフィッティングするステップ
からなるサイクルを実行するのが好ましい。上記g)ステップから上記j)ステップまでのステップからなるサイクルは、1回以上実行ことができる。ただし、2回目以降の上記g)ステップにおいては、上記バックグラウンド除去画像のそれぞれについて、バックグラウンド除去画像における各ピクセルの光学濃度から、該ステップの実施前に得られたモデル関数の和関数から得られたフィッティング画像における同一の座標のピクセルの光学濃度を減算することにより、差分画像を生成する。
【0017】
本発明はまた、コンピュータによる二次元電気泳動画像の解析方法であって、上記コンピュータが、
a´)同一の被検試料に関する少なくとも3枚の二次元電気泳動画像を読み込むステップ、
b´)読み込まれた上記二次元電気泳動画像のそれぞれについて、画像を構成する各ピクセルの光学濃度からバックグラウンドノイズを減算してバックグラウンド除去画像を生成するステップ、
c´)上記バックグラウンド除去画像のそれぞれについて、上記被検試料に含まれる同一の荷電物質に起因するスポットが画像のほぼ同一のピクセル座標に位置するように位置揃えするための、バックグラウンド除去画像におけるピクセル座標と位置揃え後のピクセル座標との関係を示す座標変換式を導出するステップ、
d´)上記バックグラウンド除去画像のそれぞれについて、バックグラウンド除去画像におけるピクセル座標を上記座標変換式に従って位置揃え後のピクセル座標に変換した位置揃え画像を生成し、得られた位置揃え画像のそれぞれについて、隣接するピクセルの光学濃度よりも大きい光学濃度を有するピクセルとその周辺のピクセルからなる高濃度領域と残余のピクセルからなる低濃度領域とに、隣り合う上記高濃度領域が上記低濃度領域によって分離されるように分割して、各ピクセルが上記高濃度領域と上記低濃度領域のいずれに属するかを示す所属データとピクセル座標とを対応付けたデータ表を生成するステップ、
e´)得られたすべてのデータ表における同一のピクセル座標の所属データを集計し、2から(上記二次元電気泳動画像の数−1)までの範囲の整数からなる群から選択された指定値以上の数のデータ表において上記高濃度領域に属することを示す集計結果が得られたピクセル座標を選択し、すべてのデータ表において、選択されたピクセル座標のひとかたまりの領域ごとに同一の識別番号を付与し、識別番号が付与された領域をスポット存在領域と認定するステップ、
及び、
f´)上記位置揃え画像のそれぞれについて、対応する上記データ表のスポット存在領域におけるピクセル座標と同一のピクセル座標の領域ごとに、該領域を含むスポットにモデル関数をフィッティングするステップ
を含むことを特徴とする、第2の二次元電気泳動画像の解析方法を提供する。
【0018】
第2の二次元電気泳動画像の解析方法では、上記コンピュータがさらに、
g´)上記位置揃え画像のそれぞれについて、位置揃え画像における各ピクセルの光学濃度から、上記モデル関数から得られたフィッティング画像における同一の座標のピクセルの光学濃度を減算することにより、差分画像を生成するステップ、
h´)得られた差分画像のそれぞれについて、隣接するピクセルの光学濃度よりも大きい光学濃度を有するピクセルとその周辺のピクセルとからなる高濃度領域と残余のピクセルからなる低濃度領域とに、隣り合う上記高濃度領域が上記低濃度領域によって分離されるように分割して、各ピクセルが上記高濃度領域と上記低濃度領域のいずれに属するかを示す所属データとピクセル座標とを対応付けたデータ表を再生成するステップ、
i´)再生成されたすべてのデータ表における同一のピクセル座標の所属データを集計し、上記指定値以上の数のデータ表において上記高濃度領域に属することを示す集計結果が得られたピクセル座標を選択し、再生成されたすべてのデータ表において、選択されたピクセル座標のひとかたまりの領域ごとに同一の識別番号を付与し、識別番号が付与された領域をスポット存在領域と認定するステップ、
及び、
j´)上記差分画像のそれぞれについて、対応する上記再生成されたデータ表のスポット存在領域におけるピクセル座標と同一のピクセル座標の領域ごとに、該領域を含むスポットにモデル関数をフィッティングするステップ
からなるサイクルを実行するのが好ましい。上記g´)ステップから上記j´)ステップまでのステップからなるサイクルを1回以上実行することができる。ただし、2回目以降の上記g´)ステップにおいて、上記位置揃え画像のそれぞれについて、位置揃え画像における各ピクセルの光学濃度から、該ステップの実施前に得られたモデル関数の和関数から得られたフィッティング画像における同一の座標のピクセルの光学濃度を減算することにより、差分画像を生成する。
【0019】
第1の二次元電気泳動画像の解析方法は、スポットへのモデル関数のフィッティングをバックグラウンド除去画像に基づき行う方法であり、第2の二次元電気泳動画像の解析方法は、スポットへのモデル関数のフィッティングを位置揃え画像に基づき行う方法である。以下、第1の二次元電気泳動画像の解析方法におけるa)ステップ及び第2の二次元電気泳動画像の解析方法におけるa´)ステップにおいて読み込まれる二次元電気泳動画像を「原画像」と表す。原画像、バックグラウンド除去画像、位置揃え画像、及び差分画像は、いずれも多数のピクセルから構成されており、各ピクセルはデカルト座標(x
i,y
i)を有する。x
iは一次元目の電気泳動方向(以下、「x軸の方向」と表す。)に並ぶピクセルのうちのi番目のピクセルに当たることを意味し、y
iは二次元目の電気泳動方向(以下、「y軸の方向」と表す。)に並ぶピクセルのうちのi番目のピクセルにあたることを意味する。本発明において、各ピクセルのデカルト座標(x
i,y
i)を「ピクセル座標」或いは単に「座標」と表す。また、各ピクセルは被検試料中の荷電物質の存在量に対応する光学濃度を有しており、各スポット領域に含まれるピクセルの光学濃度の合計値が「スポット体積」である。
【0020】
本発明の第1の解析方法及び第2の解析方法において、同一の被検試料に関する原画像は3枚以上であれば枚数に制限がない。第1の解析方法におけるe)ステップ及びi)ステップ、第2の解析方法におけるe´)ステップ及びi´)ステップに示されている「指定値」は、原画像の数に依存して、2から(原画像の数−1)までの範囲の整数から選択される値である。例えば、原画像が3枚であるときには指定値は2であり、原画像が4枚であるときには指定値は2又は3であり、原画像が5枚であるときには指定値は2、3又は4である。好ましくは、原画像の数が増加しても、指定値として2又は3が選択される。
【0021】
本発明の第1の解析方法及び第2の解析方法において、バックグラウンド除去のためには、上で例示したような、一定値をバックグラウンド値として減算する方法、各スポットに応じた計算値をバックグラウンド値として減算する方法、ローリングボールアルゴリズムを適用する方法等の公知の方法を特に限定なく使用することができる。ローリングボールアルゴリズムを適用すると、タンパク質に対応するスポットとバックグラウンドノイズとを精度良く分離することができるため好ましい。
【0022】
また、本発明の第1の解析方法及び第2の解析方法において、画像の位置揃えのための座標変換式の導出のためには、上で例示したような、オペレータが指定したスポットの位置データに基づき座標変換式を導出する方法、被検試料に混合したマーカーのスポット座標が一致するように座標変換式を導出する方法等の公知の方法を特に限定なく使用することができる。電荷が等しく分子量がほぼ等しいものの放射する蛍光の波長が異なる蛍光色素の2種を含むセットを用いて、検出対象の荷電物質に一方の蛍光色素を結合させ、マーカーに他方の蛍光色素を結合させて、両者を含む被検試料を調製し、この被検試料について二次元電気泳動を行った後、各蛍光色素に対応する蛍光を別々に撮像することもできる。この方法では、検出対象の荷電物質とマーカーとを分離して検出できる上に、検出対象の荷電物質とマーカーとの荷電状態及び分子量が同一であれば、一回の二次元電気泳動において検出対象の荷電物質とマーカーとがゲルの同じ位置に泳動されるため、画像の位置揃えの精度が向上する。このようなセットに含まれる蛍光色素としては、特許文献6(特開平11−505324号公報)に記載されているシアニン系色素のプロピルCy−3−NHS、メチルCy−5−NHS等が挙げられる。
【0023】
第1の解析方法におけるd)ステップ及びh)ステップ、第2の解析方法におけるd´)ステップ及びh´)ステップでは、対象の画像のそれぞれについて、隣接するピクセルの光学濃度よりも大きい光学濃度を有するピクセルとその周辺のピクセルとからなる高濃度領域と残余のピクセルからなる低濃度領域とに、隣り合う上記高濃度領域が上記低濃度領域によって分離されるように分割し、各ピクセルが上記高濃度領域と上記低濃度領域のいずれに属するかを示す所属データと位置揃え後のピクセル座標とを対応付けたデータ表を生成する。上記高濃度領域は、解析対象の画像に存在する各スポットにおける最大の光学濃度を有するピクセル(頂点)及びその周辺のピクセルからなる領域に相当する。最大の光学濃度を有するピクセルからどれだけ離れた位置のピクセルまでを上記高濃度領域に含めるかという点に関しては、厳密な制限はなく、隣り合う上記高濃度領域が上記低濃度領域によって分離されるように設定されれば良い。しかし、上記データ表をピクセル座標が揃うように重ね合わせたときに、例えば最大の光学濃度を有するピクセルのみで上記高濃度領域を構成するような狭すぎる高濃度領域では、位置揃えのわずかな誤差によっても、同一のタンパク質に起因するスポットの高濃度領域が重ならなくなるため好ましくなく、また、スポットのほぼ全体が上記高濃度領域に含まれるような広すぎる高濃度領域では、位置揃えのわずかな誤差によっても、隣に存在する他のタンパク質に起因するスポットの高濃度領域と重なってしまうため好ましくなく、上記高濃度領域に属するピクセルの数は位置揃えの誤差を考慮して設定される。
【0024】
上記コンピュータにより実行される上記高濃度領域と上記低濃度領域とへの分割は、分割を施すべき画像にアイリスフィルタ及びリングオペレータからなる群から選択された画像処理アルゴリズムを適用し、該アルゴリズムの出力が所定値以上であるピクセルからなる領域を上記高濃度領域とすることにより実行されるのが好ましい。アイリスフィルタアルゴリズムは、画像中の濃度勾配ベクトルの集中度を評価するものであり、腫瘤影検出のために提案されたものである(非特許文献2(電子情報通信学会論文誌 D−II,J76−D−II−2,288/295(1993))参照)が、円形凸領域を最も強く強調し、それからはずれる形状を有する領域を抑制するという性質があり、本発明における上記高濃度領域と上記低濃度領域とへの分割のために有効に利用することができる(
図3参照)。また、ゲノムDNAの二次元電気泳動画像のスポット検出のために画像処理アルゴリズムとしてリングオペレータを利用する方法が提案されているが(非特許文献3(Genome Inform Ser Workshop Genome Inform. 8:135−146(1997)参照)、このアルゴリズムも同様に本発明における上記高濃度領域と上記低濃度領域とへの分割のために有効に利用することができる。
【0025】
第1の解析方法におけるe)ステップ及びi)ステップ、第2の解析方法におけるe´)ステップ及びi´)ステップでは、直前のステップにおいて得られたすべてのデータ表における同一のピクセル座標の所属データを集計し、上記指定値以上の数のデータ表において上記高濃度領域に属することを示す集計結果が得られたピクセル座標を選択し、直前のステップにおいて得られたすべてのデータ表において、選択されたピクセル座標のひとかたまりの領域ごとに同一の識別番号を付与し、識別番号が付与された領域をスポット存在領域と認定する。このことは、被検試料に含まれる同一の荷電物質に起因するスポットが画像のほぼ同一のピクセル座標に位置するように位置揃えされた画像を重ね合わせたときに、上記指定値以上の数の画像において上記高濃度領域が重なっていれば、重なった領域にスポットが存在するものとし、上記高濃度領域が重ならなかった画像においても、同じピクセル座標の領域にスポットがあるものして取り扱うことに相当する。そして、第1の二次元電気泳動画像の解析方法では、f)ステップにおいて、上記バックグラウンド除去画像のそれぞれについて、対応する上記データ表のスポット存在領域に含まれるピクセル座標を上記座標変換式に従ってバックグラウンド除去画像のピクセル座標に変換することにより変換スポット存在領域を認定し、認定された上記変換スポット存在領域ごとに、該領域を含むスポットにモデル関数をフィッティングし、また、j)ステップにおいて、上記差分画像のそれぞれについて、同様の処理を行う。第2の二次元電気泳動画像の解析方法では、f´)ステップにおいて、上記位置揃え画像のそれぞれについて、対応する上記データ表のスポット存在領域におけるピクセル座標と同一のピクセル座標の領域ごとに、該領域を含むスポットにモデル関数をフィッティングし、また、j´)ステップにおいて、上記差分画像のそれぞれについて、同様の処理を行う。
【0026】
上述したように、本発明の第1の解析方法及び第2の解析方法では、被検試料に含まれる同一の荷電物質に起因するスポットが画像のほぼ同一のピクセル座標に位置するように位置揃えされた画像を重ね合わせたときに、上記指定値以上の数の画像において上記高濃度領域が重なっていれば、重なった領域にスポットが存在するものとし、上記高濃度領域が重ならなかった画像においても、同じピクセル座標の領域にスポットがあるものして取り扱い、モデル関数をフィッティングする。また、本発明の第1の解析方法及び第2の解析方法では、上記差分画像についても解析の対象とすることができる。差分画像の解析により、複数のスポットが部分的に重なっている領域において、他のスポットに隠れて検出されにくいスポットが好適に検出される。したがって、少なくとも3枚の原画像から得られるバックグラウンド除去画像のうち、上記指定値の数の画像において薄いスポットとして認められるものの、残余のバックグラウンド除去画像に対応するスポットが認められにくい場合(
図12の下段参照)でも、残余のバックグラウンド除去画像においてもスポットを見落とすことがない。また、少なくとも3枚の原画像から得られるバックグラウンド除去画像のうち、上記指定値の数の画像において2つのスポットが部分的に重なって認められるものの、残余のバックグラウンド除去画像においては一方のスポットが他方のスポットに隠れて認められない場合(
図12の上段参照)でも、残余のバックグラウンド除去画像においても隠れたスポットを見落とすことがない。
【0027】
本発明の第1の解析方法及び第2の解析方法においてスポットに適用するモデル関数としては、これまでに提案されている公知のモデル関数を特に制限なく使用することができる。しかし、第1の解析方法では、上記f)ステップ及び/又は上記j)ステップにおいて、各スポットにおける最大の光学濃度を有するピクセルを通り且つ二次元目の泳動方向と平行な平面及びこれと垂直な平面を用いてスポットを4分割したときの最も小さな体積を示す分割部分にフィッティングするガウス関数又はローレンツ関数を、該スポット全体のモデル関数として適用するのが好ましい。
【0028】
バックグラウンド除去画像において、単一の荷電物質に起因し且つ他のスポットと重なっていないスポットの広がりは、x軸の方向及びy軸の方向において生じる。すなわち、各スポットの頂点を通り且つx軸と平行な平面でスポットを2つに分割すると、これらの分割部分はこの平面に対してほぼ対称となり、各スポットの頂点を通り且つy軸と平行な平面でスポットを2つに分割すると、これらの分割部分もまたこの平面に対してほぼ対称となる。また、単一の荷電物質に起因するスポットが隣接するスポットと重なっていれば、前者の広がりは重なった方向に伸びることになる。したがって、各スポットの頂点を通り且つx軸と平行な平面及びy軸と平行な平面を用いてスポットを4分割したときの最も小さな体積を示す分割部分にフィッティングする対称関数(ガウス関数又はローレンツ関数)を、スポット全体のモデル関数として適用することにより、他のスポットとの重なりの影響をできるだけ排除することができる。
【0029】
また、第1の解析方法の上記f)ステップ及び/又は上記j)ステップにおいて、複数のスポットが部分的に重なっている重複部では、該重複部の端に位置するいずれか一つのスポットにモデル関数をフィッティングし、得られたモデル関数の積分値を重複部全体の体積から減算した後、残余部の端に位置するいずれか一つのスポットにモデル関数をフィッティングすることを繰り返して、上記重複部に含まれる複数のスポットを分離するのが好ましい。重複部の端に位置するスポットは、端に位置していないスポットに比較して、他のスポットの影響を受けにくい。したがって、重複部の端のスポットから順にモデル関数をフィッティングすることにより、スポット間の重なりの影響を低減することができる。
【0030】
本発明はまた、コンピュータに、上記a)ステップ、上記b)ステップ、上記c)ステップ、上記d)ステップ、上記e)ステップ、及び上記f)ステップを実行させるための、好適には、上記g)ステップ、上記h)ステップ、上記i)ステップ、及び上記j)ステップをさらに実行させるための、二次元電気泳動画像の解析プログラムを提供する。該プログラムとコンピュータとの協働により、本発明の第1の二次元電気泳動の解析方法を実行することができ、二次元電気泳動画像に存在する微量の荷電物質に起因するスポットを見落とすことなく解析することが可能である。
【0031】
本発明はまた、コンピュータに、上記a´)ステップ、上記b´)ステップ、上記c´)ステップ、上記d´)ステップ、上記e´)ステップ、及び上記f´)ステップを実行させるための、好適には、上記g´)ステップ、上記h´)ステップ、上記i´)ステップ、及び上記j´)ステップをさらに実行させるための、二次元電気泳動画像の解析プログラムを提供する。該プログラムとコンピュータとの協働により、本発明の第2の二次元電気泳動の解析方法を実行することができ、二次元電気泳動画像に存在する微量の荷電物質に起因するスポットを見落とすことなく解析することが可能である。
【0032】
本発明はまた、
同一の被検試料に関する少なくとも3枚の二次元電気泳動画像を読み込む、画像読み込み手段、
読み込まれた上記二次元電気泳動画像のそれぞれについて、画像を構成する各ピクセルの光学濃度からバックグラウンドノイズを減算してバックグラウンド除去画像を生成する、バックグラウンド除去手段、
上記バックグラウンド除去画像のそれぞれについて、上記被検試料に含まれる同一の荷電物質に起因するスポットが画像のほぼ同一のピクセル座標に位置するように位置揃えするための、バックグラウンド除去画像におけるピクセル座標と位置揃え後のピクセル座標との関係を示す座標変換式を導出する、座標変換式導出手段、
上記バックグラウンド除去画像のそれぞれについて、隣接するピクセルの光学濃度よりも大きい光学濃度を有するピクセルとその周辺のピクセルとからなる高濃度領域と残余のピクセルからなる低濃度領域とに、隣り合う上記高濃度領域が上記低濃度領域によって分離されるように分割するとともに、各ピクセルの座標を上記座標変換式に従って位置揃え後のピクセル座標に変換して、各ピクセルが上記高濃度領域と上記低濃度領域のいずれに属するかを示す所属データと変換後のピクセル座標とを対応付けたデータ表を生成する、データ表生成手段、
得られたすべてのデータ表における同一のピクセル座標の所属データを集計し、2から(上記二次元電気泳動画像の数−1)までの範囲の整数からなる群から選択された指定値以上の数のデータ表において上記高濃度領域に属することを示す集計結果が得られたピクセル座標を選択し、すべてのデータ表において、選択されたピクセル座標のひとかたまりの領域ごとに同一の識別番号を付与し、識別番号が付与された領域をスポット存在領域と認定する、スポット認定手段、
及び、
上記バックグラウンド除去画像のそれぞれについて、対応する上記データ表のスポット存在領域に含まれるピクセル座標を上記座標変換式に従ってバックグラウンド除去画像のピクセル座標に変換することにより変換スポット存在領域を認定し、認定された上記変換スポット存在領域ごとに、該領域を含むスポットにモデル関数をフィッティングする、フィッティング手段
を備えたことを特徴とする、二次元電気泳動画像の解析装置を提供する。
【0033】
本発明はさらに、
同一の被検試料に関する少なくとも3枚の二次元電気泳動画像を読み込む、画像読み込み手段、
読み込まれた上記二次元電気泳動画像のそれぞれについて、画像を構成する各ピクセルの光学濃度からバックグラウンドノイズを減算してバックグラウンド除去画像を生成する、バックグラウンド除去手段、
上記バックグラウンド除去画像のそれぞれについて、上記被検試料に含まれる同一の荷電物質に起因するスポットが画像のほぼ同一のピクセル座標に位置するように位置揃えするための、バックグラウンド除去画像におけるピクセル座標と位置揃え後のピクセル座標との関係を示す座標変換式を導出する、座標変換式導出手段、
上記バックグラウンド除去画像のそれぞれについて、バックグラウンド除去画像におけるピクセル座標を上記座標変換式に従って位置揃え後のピクセル座標に変換した位置揃え画像を生成し、得られた位置揃え画像のそれぞれについて、隣接するピクセルの光学濃度よりも大きい光学濃度を有するピクセルとその周辺のピクセルからなる高濃度領域と残余のピクセルからなる低濃度領域とに、隣り合う上記高濃度領域が上記低濃度領域によって分離されるように分割して、各ピクセルが上記高濃度領域と上記低濃度領域のいずれに属するかを示す所属データとピクセル座標とを対応付けたデータ表を生成する、データ表生成手段、
得られたすべてのデータ表における同一のピクセル座標の所属データを集計し、2から(上記二次元電気泳動画像の数−1)までの範囲の整数からなる群から選択された指定値以上の数のデータ表において上記高濃度領域に属することを示す集計結果が得られたピクセル座標を選択し、すべてのデータ表において、選択されたピクセル座標のひとかたまりの領域ごとに同一の識別番号を付与し、識別番号が付与された領域をスポット存在領域と認定する、スポット認定手段、
及び、
上記位置揃え画像のそれぞれについて、対応する上記データ表のスポット存在領域におけるピクセル座標と同一のピクセル座標の領域ごとに、該領域を含むスポットにモデル関数をフィッティングする、フィッティング手段
を備えたことを特徴とする、二次元電気泳動画像の解析装置を提供する。
【0034】
これらの解析装置により、二次元電気泳動画像に存在する微量の荷電物質に起因するスポットを見落とすことなく解析することが可能である。