特許第6261189号(P6261189)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6261189レーダ装置及びレーダパフォーマンス計測方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6261189
(24)【登録日】2017年12月22日
(45)【発行日】2018年1月17日
(54)【発明の名称】レーダ装置及びレーダパフォーマンス計測方法
(51)【国際特許分類】
   G01S 7/40 20060101AFI20180104BHJP
【FI】
   G01S7/40 108
   G01S7/40 121
【請求項の数】11
【全頁数】14
(21)【出願番号】特願2013-115568(P2013-115568)
(22)【出願日】2013年5月31日
(65)【公開番号】特開2014-235041(P2014-235041A)
(43)【公開日】2014年12月15日
【審査請求日】2016年3月10日
(73)【特許権者】
【識別番号】000166247
【氏名又は名称】古野電気株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100118784
【弁理士】
【氏名又は名称】桂川 直己
(72)【発明者】
【氏名】柳 勝幸
(72)【発明者】
【氏名】大西 佳文
【審査官】 三田村 陽平
(56)【参考文献】
【文献】 特開2010−197146(JP,A)
【文献】 特開平04−054479(JP,A)
【文献】 特開平08−297160(JP,A)
【文献】 特開2008−175713(JP,A)
【文献】 特開2001−249172(JP,A)
【文献】 特開2008−217736(JP,A)
【文献】 特開2011−059015(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01S 7/00− 7/42
G01S 13/00−13/95
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
レーダアンテナを介してレーダ信号を送信する送信部と、
レーダアンテナを介して前記レーダ信号の反射波を受信する受信部と、
前記受信部が受信した反射波に基づいてレーダ映像を生成するレーダ映像生成部と、
前記送信部及び前記受信部の性能を計測するパフォーマンスモニタと、
前記レーダ映像生成部で生成されたレーダ映像とともに、前記パフォーマンスモニタにより得られた前記送信部及び前記受信部のうち少なくとも一方の性能の時間変化を示すグラフを表示する表示部と、
前記パフォーマンスモニタにより得られた、前記送信部の送信強度の劣化度合と、前記受信部の受信感度の劣化度合と、の合計値が所定の基準を満たすか否かに基づいて性能を判定する性能判定部と、
を備えることを特徴とするレーダ装置。
【請求項2】
請求項1に記載のレーダ装置であって、
前記レーダ信号の送信を一時的に中断している間に、前記パフォーマンスモニタに計測を実行させる制御部を備えることを特徴とするレーダ装置。
【請求項3】
請求項2に記載のレーダ装置であって、
前記制御部は、レーダ映像においてエコーが検出されない方位又は距離を認識し、当該方位又は距離に相当するタイミングで、前記パフォーマンスモニタに計測を実行させることを特徴とするレーダ装置。
【請求項4】
請求項3に記載のレーダ装置であって、
前記制御部は、エコーが検出されない方位又は距離を、1スキャン前のデータに基づいて検出することを特徴とするレーダ装置。
【請求項5】
請求項1から4までの何れか一項に記載のレーダ装置であって、
前記パフォーマンスモニタは、前記受信部の性能を計測するためのパフォーマンス信号を送信し、
前記レーダ映像生成部は、前記パフォーマンス信号の送信中に取得できなかったレーダ映像を、他のデータを用いて補間することを特徴とするレーダ装置。
【請求項6】
請求項5に記載のレーダ装置であって、
前記レーダ映像生成部は、前記パフォーマンス信号の送信中に取得できなかったレーダ映像を、1スキャン前のデータを用いて補間することを特徴とするレーダ装置。
【請求項7】
請求項1から6までの何れか一項に記載のレーダ装置であって
記性能判定部に所定の基準を満たさないと判定された場合に交換時期になった又は交換時期が近い旨を報知する報知部を備えることを特徴とするレーダ装置。
【請求項8】
請求項に記載のレーダ装置であって、
通信インタフェースを備え、
前記報知部は、前記パフォーマンスモニタの計測結果又は前記性能判定部による判定結果の少なくとも何れかを通信回線を通じて外部へ送信することを特徴とするレーダ装置。
【請求項9】
請求項1からまでの何れか一項に記載のレーダ装置であって、
移動体に搭載され、
前記パフォーマンスモニタは、パフォーマンスモニタアンテナを備え、
前記パフォーマンスモニタアンテナは、レーダアンテナよりも前記移動体の後方側に設置されることを特徴とするレーダ装置。
【請求項10】
請求項1からまでの何れか一項に記載のレーダ装置であって、
前記送信部及び前記受信部のうち少なくとも一方の性能を計測する時間が予め設定されており、当該時間になるとその旨を前記パフォーマンスモニタへ出力するタイマ部を備えることを特徴とするレーダ装置。
【請求項11】
レーダアンテナを介して送信部からレーダ信号を送信する送信工程と、
レーダアンテナを介して受信部で前記レーダ信号の反射波を受信する受信工程と、
前記受信工程で受信した反射波に基づいてレーダ映像を生成するレーダ映像生成工程と、
前記送信部及び前記受信部の性能を計測する計測工程と、
前記レーダ映像生成工程で生成されたレーダ映像とともに、前記計測工程で得られた前記送信部及び前記受信部のうち少なくとも一方の性能の時間変化を示すグラフを表示する表示工程と、
前記計測工程で得られた、前記送信部の送信強度の劣化度合と、前記受信部の受信感度の劣化度合と、の合計値が所定の基準を満たすか否かに基づいて性能を判定する性能判定工程と、
を含むことを特徴とするレーダパフォーマンス計測方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、主要には、レーダ装置の送信部及び受信部等の性能を計測するレーダパフォーマンスモニタを備えたレーダ装置に関する。
【背景技術】
【0002】
レーダ装置が備える送信部(マグネトロン等)や受信部(受信回路の電子部品等)は、使用とともに劣化したり、外部からの強い信号によって損傷したりすることがある。そこで、レーダ装置の送信強度及び受信感度が良好であるか否かを確認するために、レーダ装置にレーダパフォーマンスモニタが設けられることがある。
【0003】
この種のレーダ装置は、一般的に、レーダ部とPM部とから構成される。レーダ部は、レーダ信号を送受信してレーダ映像を生成する。PM部は、レーダ部が送信したレーダ信号を受信して送信強度を計測する。また、PM部は、レーダ信号の受信後にパフォーマンス信号(以下、PM信号)を送信する。レーダ部は、このPM信号を受信して解析することで、レーダ装置の受信感度を計測する。特許文献1及び2は、この種のレーダパフォーマンスモニタを備えたレーダ装置を開示する。
【0004】
特許文献1のレーダ装置は、レーダ部の送受信回路と、PM部の送受信回路と、を共通化した構成である。また、このレーダ装置は、レーダ信号を送受信してレーダ映像を生成するモードと、上記のようにしてレーダ装置の送信強度及び受信感度を計測するモードと、を切替可能である。
【0005】
ここで、特許文献1のようにモードを切り替えてレーダ装置の性能を計測する場合、レーダ装置の性能の計測中はレーダ映像を更新できないという欠点がある。特許文献2は、この欠点を解消したレーダ装置を開示する。
【0006】
特許文献2のレーダ装置は、特許文献1のレーダ装置と同様に、レーダ部の送受信回路と、PM部の送受信回路と、を共通化した構成である。また、一般的にレーダ装置は、レーダ信号を送信してから受信するまでの時間に基づいて、受信したエコーの距離を検出する。特許文献2のレーダ装置は、レーダ信号を送信してから表示部の表示範囲に相当する時間が経過した後であって、次のレーダ信号が送信される前に、PM信号の送受信を行い、レーダ装置の性能を計測する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2011−117808号公報
【特許文献2】特開2011−117809号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、特許文献2はレーダ信号の送信周期が遅くなるという問題がある。特に、遠距離探知用に長いパルス幅のレーダ信号を送信する場合には、探知する方位方向間隔が広くなるため、広い領域でエコーが探知できないという問題が生じる。
【0009】
また、特許文献2のレーダ装置において、遠距離領域からのレーダの反射エコーを犠牲にしてレーダ信号の送信周期を早めたとしても、遠方の物標を表示できないという問題が生じてしまう。
【0010】
本発明は以上の事情に鑑みてされたものであり、その主要な目的は、レーダ映像への影響を最小限にしつつ、レーダ装置の性能を計測するレーダ装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段及び効果】
【0011】
本発明の解決しようとする課題は以上の如くであり、次にこの課題を解決するための手段とその効果を説明する。
【0012】
本発明の第1の観点によれば、以下の構成のレーダ装置が提供される。即ち、このレーダ装置は、送信部と、受信部と、レーダ映像生成部と、パフォーマンスモニタと、制御部と、を備える。前記送信部は、レーダアンテナを介してレーダ信号を送信する。前記受信部は、レーダアンテナを介して前記レーダ信号の反射波を受信する。前記レーダ映像生成部は、前記受信部が受信した反射波に基づいてレーダ映像を生成する。前記パフォーマンスモニタは、前記送信部及び前記受信部のうち少なくとも一方の性能を計測する。前記制御部は、前記レーダ信号の送信を一時的に中断している間に、前記パフォーマンスモニタに計測を実行させる。
【0013】
これにより、レーダ映像の更新を停止することなく送信部又は受信部の性能を計測できる。また、レーダ信号の中断により、レーダ信号の送受信中の任意のタイミング(例えばレーダ映像への影響が少ないタイミング)でレーダ装置の性能を計測できる。
【0014】
前記のレーダ装置においては、前記制御部は、レーダ映像においてエコーが検出されない方位又は距離を認識し、当該方位又は距離に相当するタイミングで、前記パフォーマンスモニタに計測を実行させることが好ましい。
【0015】
これにより、ユーザは、レーダ映像に与える影響を軽減しつつ送信部等の性能を確認することができる。
【0016】
前記のレーダ装置においては、前記制御部は、エコーが検出されない方位又は距離を、1スキャン前のデータに基づいて検出することが好ましい。
【0017】
これにより、直近のデータに基づいてエコーの有無を判定するので正確な検出結果を得ることができる。
【0018】
前記のレーダ装置においては、以下の構成とすることが好ましい。即ち、前記パフォーマンスモニタは、前記受信部の性能を計測するためのパフォーマンス信号を送信する。前記レーダ映像生成部は、前記パフォーマンス信号の送信中に取得できなかったレーダ映像を、他のデータを用いて補間する。
【0019】
これにより、レーダ信号の送信が中断された範囲においても、レーダ映像を表示して、自機の周囲の状況を表示することができる。
【0020】
前記のレーダ装置においては、前記レーダ映像生成部は、前記パフォーマンス信号の送信中に取得できなかったレーダ映像を、1スキャン前のデータを用いて補間することが好ましい。
【0021】
これにより、直近のデータに基づいてレーダ映像を補完できるので、レーダ信号の送信が中断された範囲においても妥当性の高い情報を表示することができる。
【0022】
前記のレーダ装置においては、前記レーダ映像生成部で生成されたレーダ映像とともに、前記パフォーマンスモニタにより得られた前記送信部及び前記受信部のうち少なくとも一方の性能の時間変化をグラフとして表示する表示部を備えることが好ましい。
【0023】
これにより、ユーザは、送信部等の性能の時間変化を直感的に把握できる。従って、例えばマグネトロンの交換時期等を容易に認識できる。また、このグラフをレーダ映像とともに表示するため、ユーザは、周囲の物標を確認しつつ(即ち画面を切り替えることなく)、マグネトロンの交換時期等を認識できる。
【0024】
前記のレーダ装置においては、以下の構成とすることが好ましい。即ち、このレーダ装置は、性能判定部と、報知部と、を備える。前記性能判定部は、前記パフォーマンスモニタにより得られた前記送信部及び前記受信部のうち少なくとも一方の性能について、所定の基準を満たすか否かを判定する。前記報知部は、前記性能判定部に所定の基準を満たさないと判定された場合に交換時期になった又は交換時期が近い旨を報知する。
【0025】
これにより、ユーザは自ら送信部等の性能を判定することなく、送信部等の交換時期を把握することができる。
【0026】
前記のレーダ装置においては、通信インタフェースを備え、前記報知部が、前記パフォーマンスモニタの計測結果又は前記性能判定部による判定結果の少なくとも何れかを通信回線を通じて外部へ送信することが好ましい。
【0027】
これにより、送信部等の交換が必要な旨を外部の部品供給業者へ知らせることで、該当する部品を前もって準備しておくことができる。
【0028】
前記のレーダ装置は移動体に搭載され、前記パフォーマンスモニタは、レーダアンテナよりも前記移動体の後方側に設置されることが好ましい。
【0029】
これにより、移動体の後方に位置する物標は、エコーを表示する必要性が低めなので、ユーザは、レーダ映像に与える影響を軽減しつつ送信部等の性能を確認することができる。
【0030】
前記のレーダ装置においては、前記送信部及び前記受信部のうち少なくとも一方の性能を計測する時間が予め設定されており、当該時間になるとその旨を前記パフォーマンスモニタへ出力するタイマ部を備えることが好ましい。
【0031】
これにより、例えば定期的に送信部等の性能を計測して確認することができるので、ユーザ側での管理を省くことができる。
【0032】
本発明の第2の観点によれば、以下のレーダパフォーマンス計測方法が提供される。即ち、このレーダパフォーマンス計測方法は、送信工程と、受信工程と、レーダ映像生成工程と、計測工程と、を含む。前記送信工程では、レーダアンテナを介してレーダ信号を送信する。前記受信工程では、レーダアンテナを介して前記レーダ信号の反射波を受信する。前記レーダ映像生成工程では、前記受信工程で受信した反射波に基づいてレーダ映像を生成する。前記計測工程では、前記レーダ信号の送信を一時的に中断している間に、レーダ信号の送信部及び受信部のうち少なくとも一方の性能を計測する。
【0033】
これにより、レーダ映像の更新を停止することなく送信部又は受信部の性能を計測できる。また、レーダ信号を中断することで、レーダ信号の送受信中の任意のタイミング(例えばレーダ映像への影響が少ないタイミング)でパフォーマンス信号を送信できる。
【図面の簡単な説明】
【0034】
図1】本発明の一実施形態に係るレーダ装置の構成を示すブロック図。
図2】通常モードにおいて表示部に表示される映像を示す図。
図3】レーダ装置の性能を計測する処理を示すフローチャート。
図4】PMモードにおいて表示部に表示される映像を示す図。
図5】稼動初期における送信強度及び受信感度の推移を示すグラフ。
図6】部品の効果が必要な際に表示される送信強度及び受信感度の推移を示すグラフ。
図7】変形例において表示部に表示される映像を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0035】
次に、図面を参照して本発明の実施の形態を説明する。図1は、本発明の一実施形態に係るレーダ装置の構成を示すブロック図である。図2は、通常モードにおいて表示部に表示される映像を示す図である。
【0036】
本実施形態のレーダ装置1は、船舶に搭載されるタイプのレーダ装置であり、短いパルスの電波(レーダ信号)を送信するとともに、このレーダ信号の反射波を解析することで、物標の位置を検出することができる。レーダ装置1は、レーダ信号の送受信を行うレーダ部10と、レーダ部10の性能を計測するためのPM部(レーダパフォーマンスモニタ)20と、PM計測部30と、表示部40と、を備えている。
【0037】
レーダ部10は、レーダ送信部(送信部)11と、レーダアンテナ12と、レーダ受信部(受信部)13と、A/D変換部14と、レーダ映像生成部15と、を備える。
【0038】
レーダ送信部11は、マグネトロン等からなる発振器を備えており、この発振器によって高周波のパルス信号(レーダ信号)を所定の周期で生成する。レーダ送信部11が生成したレーダ信号は、レーダアンテナ12へ出力される。
【0039】
レーダアンテナ12は、所定の回転周期で水平面内を回転しながら、レーダ送信部11から入力されたレーダ信号を外部に送信する。以上の構成で、自船を中心として360°にわたってレーダ信号を送信することができる。また、レーダアンテナ12は、送信したレーダ信号が物標で反射した反射波を受信する。
【0040】
なお、レーダアンテナ12からレーダ送信部11又はレーダ受信部13へ向かう分岐点には、レーダ信号及びその反射波が混ざらないように、図略のサーキュレータ等が設けられる。
【0041】
レーダ受信部13は、この反射波を受信し、増幅処理及び所定の周波数帯の抽出処理等の信号処理を行う。レーダ受信部13は、処理後の反射波をA/D変換部14へ出力する。
【0042】
A/D変換部14は、入力された反射波をアナログ信号からデジタル信号に変換する。A/D変換部14は、変換後の反射波をレーダ映像生成部15及びPM計測部30へ出力する。
【0043】
レーダ映像生成部15は、入力された反射波に基づいて、レーダ映像を生成する。具体的には、レーダ映像生成部15は、レーダアンテナ12がレーダ信号を送信したタイミングと、反射波を受信したタイミングと、の時間差に基づいて物標までの距離を求める。また、レーダ映像生成部15は、レーダ信号を送信したときのレーダアンテナ12の向きに基づいて当該物標の方向を取得する。以上のようにして、レーダ映像生成部15は、レーダ映像を生成する。
【0044】
また、レーダ映像生成部15は、生成したレーダ映像を、液晶ディスプレイ等で構成される表示部40に表示する。図2には、レーダ映像生成部15が生成したレーダ映像の一例が示されている。図2のレーダ映像において、中央に表示されているマークが自船の位置を示し、斜線が引かれた部分が物標のエコーを示している。
【0045】
PM部20は、レーダ部10の性能を計測するための構成である。PM部20は、レーダ部10と同様に、PM送信部21と、PMアンテナ22と、PM受信部23と、A/D変換部24と、を備えている。PMアンテナ22は、レーダアンテナ12よりも自船の後方側に配置される。なお、PM部20が備える各構成は、レーダ部10が備える各構成と略同じであるため説明を省略する。
【0046】
PM計測部30は、所定のタイミング(後述のタイマ部61のトリガ信号が入力されたタイミング)でレーダ部10及びPM部20を制御して、レーダ部10の送信強度及び受信感度を計測する。
【0047】
具体的には、PM計測部30は、レーダ部10の性能を計測する場合、初めにレーダ部10にレーダ信号を送信させる。PM部20のPMアンテナ22は、このレーダ信号を受信し、PM受信部23及びA/D変換部24を介して、PM計測部30へ出力する。PM計測部30は、このレーダ信号を解析することで、レーダ部10の送信強度を計測する。
【0048】
また、PM計測部30は、PM部20がレーダ信号を受信したことをトリガとして、PM送信部21にPM信号を生成させる。ここで、PM信号は、例えば所定の間隔で送信される複数のパルス信号から構成されており、後に送信するパルス信号ほど信号レベルが低くなるように設定されている。
【0049】
レーダ部10のレーダアンテナ12は、このPM信号を受信し、レーダ受信部13及びA/D変換部14を介して、PM計測部30へ出力する。PM計測部30は、このPM信号を解析することで、レーダ部10の受信感度を計測する。
【0050】
なお、上述のようにPM部20はレーダ信号の応答としてPM信号を送信するが、このときに、レーダ信号の強度に応じて、PM信号の送信タイミングを変化させたりPM信号の強度を低下させたりすることで、レーダ部10の送信強度をレーダ部10に知らせることもできる。
【0051】
また、上記では、PM部20は、レーダ信号を受信したことをトリガとしてPM信号を送信するが、以下のように構成しても良い。即ち、PM計測部30が、レーダ信号の送信タイミングに基づいてPM信号を送信するタイミングを算出し、当該タイミングでPM信号が送信されるように、PM部20を制御する。
【0052】
また、レーダ部10は、PM制御部(制御部)50と、PM記憶部51と、通信インタフェース52と、を備えている。
【0053】
PM制御部50は、PM計測部30の動作タイミング(つまりPM部20に計測を実行させるタイミング)を制御するとともに、PM部20が計測したレーダ部10の性能に関する制御を行う。PM制御部50は、タイマ部61と、方位選択部62と、タイミング制御部63と、PMグラフ生成部64と、性能判定部65と、報知部66と、を備える。
【0054】
タイマ部61は、レーダ部10の性能を計測するタイミングを示すトリガ信号を生成する。方位選択部62は、エコーが検出されなかった(又は少ない)方位を選択する(詳細は後述)。タイミング制御部63は、方位選択部62が選択した方位に基づいて、エコーが検出されなかったタイミングでPM計測部30を動作させる。PMグラフ生成部64は、計測されたレーダ部10の性能の時間変化を示すグラフを生成する。性能判定部65は、PMグラフ生成部64が生成したグラフ等に基づいて、レーダ送信部11又はレーダ受信部13の部品を交換するタイミングか否かを判定する。報知部66は、性能判定部65行う処理の詳細については後述する。
【0055】
PM記憶部51は、PM部20が計測したレーダ部10を計測時間と対応付けて記憶する。
【0056】
通信インタフェース52は、有線LAN、無線LAN、通信衛星又は携帯電話回線等の通信回線を利用して船内に設けられたサーバや、データ管理を行う陸上局等に接続可能なインタフェースである。
【0057】
次に、本実施形態のレーダ装置1がレーダ部10の性能を計測する処理、特に当該処理を行うタイミングについて、図3のフローチャートを参照して詳細に説明する。
【0058】
タイマ部61は、レーダ装置1によるレーダ映像の生成中において、所定の時間間隔(例えば24時間毎)にトリガ信号を生成する(S101)。このトリガ信号が生成されると、レーダ部10の性能を計測するPMモードへ移行するかどうかを判断する(S102)。
【0059】
PM制御部50の方位選択部62は、レーダ映像生成部15が生成した1スキャン前のレーダ映像(レーダアンテナ12が直近の1回転で取得したレーダ映像)に基づいて、自船の後方の所定範囲(図2の破線、例えば60度)の中でエコーが検出されなかった方位を選択する(S103、図2の細線、例えば5度)。つまり、PM信号を受信している間は反射波を受信できないため、物標からのエコーが無い方位においては、レーダ信号の送信を中断しつつPM計測部30を動作させる。なお、エコーが検出されていない方位が無い場合、エコーが少ない方位を選択しても良いし、エコーが検出されない方位が検出されるまで、所定の時間間隔毎に、確認作業を繰り返しても良い。また、エコーの有無又は少なさは、複数スキャンにわたって確認しても良い。
【0060】
また、選択の対象を自船の後方の所定範囲に限ったのは、PMアンテナ22がレーダアンテナ12よりも自船の後方側に配置されていることによる。自船の後方は物標の重要度が比較的低いので、このようにPMアンテナ22を配置することで、レーダ映像に与える影響を軽減しつつ、レーダ部10の性能を計測できる。
【0061】
次に、PMアンテナ22は、回転するレーダアンテナ12の回転位相がS103で選択した方位に一致するタイミングのレーダ信号を受信する(S104)。その後、PMアンテナ22は、このレーダ信号の受信後に上記PM信号を送信する(S104)。
【0062】
なお、レーダ部10は、上記の処理を行うため、S103で選択された方位については物標のエコーを表示することができない(図4を参照)。そこで、S103で選択された方位については、後述のようにレーダ映像の補完を行う。
【0063】
PM計測部30は、上述のように、受信したレーダ信号から送信強度を計測するとともに、受信したPM信号から受信感度を計測し、PM記憶部51に記憶する(S105)。
【0064】
次に、PM制御部50のPMグラフ生成部64は、過去の送信強度及び受信感度と、今回計測した送信感度及び受信感度と、に基づいて、送信強度及び受信感度の時間変化を示すグラフを生成し、表示部40に表示する(S106)。このとき、レーダ映像生成部15は、図4に示すように、PM測定のために物標のエコーが取得できていない期間(即ちS103で選択した方位)のレーダ映像を前回のスキャンで得たレーダ映像で補間することで、レーダ映像の表示を継続する。なお、S103で選択された方位を補完する方法は任意であり、例えば複数スキャンのデータや、この方位の近傍のデータに基づいてレーダ映像を補完しても良い。更には、ネットワークを介して接続された他のレーダ装置から、当該レーダ装置が取得した反射波や、物標の位置等を示すデータ等を受信し、これらのデータに基づいてレーダ映像を補完しても良い。
【0065】
ここで、PMグラフ生成部64が生成するグラフについて、図5を参照して説明する。図5は、PMグラフ生成部64が生成するグラフの例を示す図である。
【0066】
図5に示すように、このグラフは、送信強度についてのグラフと、受信感度についてのグラフと、から構成されている。それぞれのグラフは、累計時間の変化に応じた劣化度合(dB)の変化を示している。また、これらのグラフの上部には、現在の送信強度の劣化度合と、現在の受信感度の劣化度合と、累計時間と、累計の劣化度合(双方の劣化度合の合計)と、が示されている。
【0067】
次に、PM制御部50の性能判定部65は、PMグラフ生成部64が生成したグラフ及びPM記憶部51の記憶内容等に基づいて、送信強度及び受信感度が所定の基準を満たすか否かを判定する(S107)。本実施形態では、所定の基準を満たす場合はレーダ送信部11等の交換が不要であり、所定の基準を満たさない場合はレーダ送信部11等の交換が必要である。
【0068】
具体的には、性能判定部65は、図5のグラフにおける累計の劣化度合が−10dBより大きければ所定の基準を満たすと判定する。なお、この判定は、送信強度と受信感度とを個別に判定しても良い。
【0069】
性能判定部65がこの基準を満たすと判定した場合、PM制御部50はPMモードを解除し(S109)、再びS101の処理に戻る。
【0070】
一方、性能判定部65がこの基準を満たさないと判定した場合、レーダ送信部11のマグネトロン又はレーダ受信部13の電子部品の劣化により交換が必要となる。そのため、報知部66は、図6に示すように、送受信系の機器が交換時期であることを表示部40に表示する(S108)。その後、PM制御部50は、PMモードを解除し、再びS101の処理に戻る。
【0071】
なお、報知部66は、表示部40以外にも音や光等で交換時期であることを知らせても良い。更には、報知部66は、通信インタフェース52を介して、性能の計測結果や性能判定部65の判定結果等を送信して、交換時期であることをレーダ装置1の修理業者等へ知らせることもできる。この場合、例えば修理業者からユーザへ、交換部品の見積もり等を送信しても良い。
【0072】
また、上記では、報知部66は、交換時期になったときにその旨を知らせるが、性能判定部65が交換時期を予測可能であれば、その予測した交換時期に基づいて、交換時期が近い旨を知らせても良い。例えば、PMグラフ生成部64が生成したグラフと、経験的に求まる送信強度等の劣化度合の傾向と、に基づいて、将来のグラフを予測し、そのグラフに基づいて交換時期を予測することができる。
【0073】
また、上記で説明した送信強度等の劣化具合の判定、そのグラフ表示等は、レーダ装置1の外部に配置された機器で行っても良い。この場合、レーダ装置1は、得られた計測結果をその外部の機器へ出力する。
【0074】
このように、レーダ装置1は定期的かつ自動で送信強度及び受信感度を計測し、経年劣化を正確に把握できるという効果を発揮することができる。
【0075】
以上に示したように、本実施形態のレーダ装置1は、レーダ送信部11と、レーダ受信部13と、レーダ映像生成部15と、PM部20と、を備える。レーダ送信部11は、レーダアンテナ12を介してレーダ信号を送信する。レーダ受信部13は、レーダアンテナ12を介してレーダ信号の反射波を受信する。レーダ映像生成部15は、レーダ受信部13が受信した反射波に基づいてレーダ映像を生成する。PM部20は、レーダ送信部11及びレーダ受信部13の性能を計測する。PM制御部50は、レーダ信号の送信を一時的に中断している間に、PM部20に計測を実行させる。
【0076】
これにより、レーダ映像の更新を停止することなくレーダ送信部11及びレーダ受信部13の性能を計測できる。また、レーダ信号の中断により、レーダ信号の送受信中の任意のタイミング(例えばレーダ映像への影響が少ないタイミング)でレーダ装置1の性能を計測できる。
【0077】
次に、上記実施形態の変形例を説明する。図7は、変形例において表示部40に表示される映像を示す図である。
【0078】
上記実施形態では、PM信号の受信結果はグラフとして表示するため、従来のようにPM信号をレーダ表示領域には描画しない(レーダ映像に含めない)。しかし、図7に示すように、PM信号をレーダ表示領域に描画しても良い。この場合であっても、レーダ映像生成部15は、最新のレーダ映像に更新し続けることができる。
【0079】
以上に本発明の好適な実施の形態及び変形例を説明したが、上記の構成は例えば以下のように変更することができる。
【0080】
上記では、S103において方位を選択し、その方位に相当するタイミングでレーダ部10の性能を計測したが、S103において距離を選択し(例えばエコーの重要度が低い遠方)、この距離に相当するタイミングでレーダ部10の性能を計測しても良い。
【0081】
図5及び図6のグラフの配置や表示させる数値等は任意であり、適宜変更できる。例えば、1つのグラフに送信強度と受信強度を表示するようにしても良い。
【0082】
上記では、本発明をパルスレーダに適用する例を説明したが、このパルスレーダに代えて、CW(continuous wave)レーダやパルスドップラーレーダを用いても良い。また、レーダアンテナを回転させない構成のレーダ装置を用いても良い。例えば、全周方向にアンテナ素子を有する構成のレーダ装置や、前方等の特定の方向のみを探知するレーダ装置等は、レーダアンテナを回転させる必要がない。
【0083】
本発明は、船舶用のレーダ装置に限られず、灯台等に設置され、移動体の位置等を監視するレーダ装置であっても良い。また、船舶以外の移動体、例えば、航空機、自動車等に搭載される構成であっても良い。
【符号の説明】
【0084】
1 レーダ装置
10 レーダ部
11 レーダ送信部(送信部)
12 レーダアンテナ
13 レーダ受信部(受信部)
14 A/D変換部
15 レーダ映像生成部
20 PM部(パフォーマンスモニタ)
30 PM計測部
40 表示部
50 PM制御部(制御部)
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7