(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【背景技術】
【0002】
内視鏡や超音波プローブケーブルなどの医療用ケーブルの信号線等として極細の同軸ケーブルを使用して、高周波信号を極細の伝送路で伝送することが知られている。同軸ケーブルは、内部導体と、内部導体の外周面に配置される誘電体層と、誘電体層の外周面に配置される外部導体とで構成される。通常、同軸ケーブルを使用するとき、外部導体は、同軸ケーブルの端部で接地される。同軸ケーブルの外部導体は、複数の外部導体用導線が編み込まれて編組されて形成されるか、又は複数の外部導体用導線が螺旋状に巻回されて横巻されて形成される。編組又は横巻されて形成された外部導体は、内部導体の外周面に配置される誘電体層の外周面に沿って配置される。医療用ケーブルに用いられる同軸ケーブルは、その用途から、特性として耐屈曲性が要求され、さらに取り扱い性の向上のためより細径化が求められている。そこで同軸ケーブルの伝送特性を低下させずにさらに細径化する検討がなされてきた。
【0003】
特許文献1には、極細の同軸ケーブルの編組又は横巻されて形成された外部導体の代わりに誘電体層の外周面に金属層を形成することで、シールドの厚みが薄いにもかかわらずシールド性能が良い極細同軸ケーブルを提供できることが記載されている。特許文献1に記載された同軸ケーブルの金属層は、蒸着又はメッキにより形成され、0.1μm〜20μmの厚さを有する。
【0004】
特許文献1に記載された同軸ケーブルでは、外部導体を金属蒸着などで形成することにより、シールド性能を低下させずに外部導体用導線の径の分ケーブル径を細くすることが可能となる。しかしながら、特許文献1に記載された同軸ケーブルでは、同軸ケーブルが屈曲動作を繰り返すと、誘電体層の外周面に形成された金属層に亀裂が生じて、同軸ケーブルの伝送特性は悪化するおそれがある。すなわち、特許文献1に記載された同軸ケーブルでは、十分な耐屈曲性が得られないという問題がある。
【0005】
また、プラスチィックテープの一方の表面に金属層が形成された金属層付きのテープを誘電体層の外周面に配置した同軸ケーブルが知られている。同軸ケーブルにおいて、誘電体層の外径が大きい場合には、誘電体と外部導体用導線との空隙部分と、誘電体とを含む実効誘電体の外形は、内部導体と同軸の略円筒形であると見なすことができる。しかしながら、細径化のため同軸ケーブルの外径を細くしていき、極細ケーブルと呼ばれる範囲になると、前述の実効誘電体の外形は、略円筒形であると見なすことができなくなる。そのため伝送特性が悪化するおそれがある。特許文献2に記載される同軸ケーブルは、誘電体層の表面に金属層を配置するように誘電体層の外周面に沿って巻回された金属層付きプラスチィックテープと、金属層付きプラスチックテープの外周面に配置された複数の外部導体用導線とを有する。特許文献2に記載される同軸ケーブルは、金属層付きプラスチックテープの金属層により、誘電体と外部導体用導線との空隙部分と、誘電体とを合わせた実効誘電体の外形が略円筒形に補正されるので、上述の伝送特性の悪化の問題については抑制することができると考えられる。
【0006】
特許文献2の段落〔0006〕には、「銅や銀からなる金属層による十分な表皮効果を得るためには、1GHzの高周波では少なくとも2μm,5GHzの高周波では少なくとも1μmの厚さが必要であるが、蒸着による方法では金属層の厚さを厚くすることが困難であり、十分な電気特性を発揮できないといった不都合がある」ことが記載されている。特許文献2に記載される同軸ケーブルの金属層の厚さが厚くされているのは、金属層付きプラスチックテープの金属層を導体として機能させるためである。このため、特許文献2では、同軸ケーブルの金属層付きプラスチックテープの金属層の厚さは、1μmより厚く4μm以下の厚さとしている。
【0007】
また、特許文献2の段落〔0013〕には、「発明を適用する同軸ケーブルとしては内部導体サイズが40AWG〜28AWG(外径約0.08〜0.32mm)のものが好ましい」ことが記載されている。
一般に、内部導体サイズが32AWG以上のケーブルは細径ケーブル、内部導体サイズが38AWG以上のケーブルは極細ケーブルと呼ばれる。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
特許文献2に記載されるような構造の同軸ケーブルでは、金蔵層付きプラスチックテープの金属層が厚く、抵抗値が低いため導体として機能する。この同軸ケーブルで高周波信号を伝送する場合、表皮効果によって、伝送信号は、複数の導線で形成される外部導体ではなく、外部導体の内側に配置される金属層付きプラスチックテープの金属層を流れることになる。伝送信号が、より抵抗値が低い外部導体ではなく金属層付きプラスチックテープの金属層を流れることにより、抵抗損による信号伝送の損失が増加するおそれがある。
【0010】
特許文献2に記載されるような構造の同軸ケーブルの信号伝送の損失を低くするために、金属層付きプラスチックテープの金属層の膜厚をさらに厚くして、その抵抗値を小さくすることが考えられる。しかしながら、金属層付きプラスチックテープの金属層の膜厚を厚くすると、同軸ケーブルの可撓性と耐久性が低下するおそれがある。
【0011】
また、極細の同軸ケーブルにおいて、外部導体に信号が流れるようにするため、誘電体層と外部導体との間に金属層を配置しない場合、誘電体層と外部導体との間に形成される空隙による伝送特性の悪化が問題になる。すなわち、極細の同軸ケーブルでは、外部導体用導線の口径と誘電体層の外径との差が小さくなり、誘電体層と外部導体用導線との間に形成される空隙を含む実効的な誘電体形状が略円筒形ではなくなり、空隙に充填される空気の誘電率と誘電体層を形成する材料の誘電率との差により反射が生じるため、同軸ケーブルの伝送特性が悪化するおそれがある。
【0012】
そこで、本発明は、高周波信号を伝送した場合でも、挿入損失が低く且つ伝送特性が悪化するおそれがない極細同軸ケーブルを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明に係る同軸ケーブルは、内部導体と、内部導体の外周面に配置された誘電体層と、帯状のベース及びベースの一方の表面に配置される電界遮蔽層を有し、誘電体層の外周面に沿ってベースが誘電体層に接触するように巻回されたテープ材と、電界遮蔽層に少なくとも一部が接するように配置された複数の外部導体用導線と、を有し、電界遮蔽層の抵抗値は、500Ω/m以上である。
【0014】
本発明に係る同軸ケーブルの電界遮蔽層の抵抗値は500Ω/m以上なので、高周波信号を伝送した場合でも導体として機能せず、表皮効果によって電界遮蔽層に伝送信号が流れることを抑制し、伝送信号はそのほとんどが電界遮蔽層に接する外部導体用導線を流れることになる。その結果、電界遮蔽層は外部導体として機能しないことになる。そのため、電界遮蔽層に信号が流れる時の、電界遮蔽層の抵抗成分による伝送信号の損失を抑制できる。また、本発明に係る同軸ケーブルでは、誘電体層と外部導体との間に配置される電界遮蔽層は非常に薄く、抵抗値を非常に大きくしているため伝送信号が流れることはほとんどないが、誘電体層上に外部導体用導線が接するように配置され、先述の誘電体層と外部導体用導線との間に形成される空隙を含む実効的な誘電体形状を円筒形に補正する機能を発現することが可能である。それにより、誘電体層と外部導体との間に形成される空隙の影響は受けずに、良好な伝送特性が得られる。
【0015】
さらに、本発明に係る同軸ケーブルの電界遮蔽層の抵抗値は、12kΩ/m以下であることが好ましい。
【0016】
本発明に係る同軸ケーブルの電界遮蔽層の抵抗値が12kΩ/m以下であるので、実効誘電体の形状を円筒形に補正する機能を発現し、誘電体層と外部導体との間に形成される空隙の影響を抑制できる。
【0017】
さらに、本発明に係る同軸ケーブルの電界遮蔽層の厚さは、0.02μm以上0.3μm以下であることが好ましい。
【0018】
本発明に係る同軸ケーブルの電界遮蔽層の厚さは0.02μm以上なので、電界遮蔽層全体に亘って略均一の厚さとすることができる。また、本発明に係る同軸ケーブルの電界遮蔽層の厚さは0.3μm以下なので、38AWG以上の極細の導線を内部導体として使用する場合に電界遮蔽層に信号が流れることは無く、表皮効果によって外部導体に信号が流れるため、電界遮蔽層の抵抗成分による信号の損失が生じることがない。
これに対し、引用文献1に記載される同軸ケーブルは、誘電体層の外周に設けた金属層厚を0.1μm〜20μmとしているが金属層厚の詳細についての記載はなく、塗布またはメッキなどで作成された金属層単独で十分な電気特性を得るためには 1μm〜4μm程度の金属層厚が必要であるため、実質的な金属層厚は1〜4μm以上であると考えられる。また先述のように、引用文献2に記載される同軸ケーブルも金属層の厚さを1μmより厚く4μm以下の厚さとしている。
【0019】
さらに、本発明に係る同軸ケーブルの複数の外部導体用導線は、横巻されることが好ましい。
【0020】
本発明に係る同軸ケーブルの複数の外部導体用導線は横巻されるので、複数の外部導体用導線が編組される場合と比較して、同軸ケーブルの口径を小さくすることができる。また、複数の外部導体用導線が編組される場合と比較して、本発明に係る同軸ケーブルは高い可撓性を有することができる。
【0021】
さらに、本発明に係る同軸ケーブルの複数の外部導体用導線の横巻方向は、テープ材が巻回させる方向と同一方向であることが好ましい。
【0022】
本発明に係る同軸ケーブルの複数の外部導体用導線の横巻方向がテープ材が巻回させる方向と同一方向であるので、本発明に係る同軸ケーブルは高い可撓性を有し、電界遮蔽層と外部導体用導線との間の空隙を小さくすることができる。
【発明の効果】
【0023】
本発明によれば、高周波信号を伝送した場合でも、挿入損失が低く且つ伝送特性が悪化するおそれがない極細同軸ケーブルを提供することが可能となった。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下図面を参照して、本発明に係る同軸ケーブルについて説明する。但し、本発明の技術的範囲はそれらの実施の形態に限定されず、特許請求の範囲に記載された発明との均等物に及ぶ点に留意されたい。
【0026】
本発明に係る同軸ケーブルについて説明する前に、従来のケーブルの課題についてより詳細に説明する。
【0027】
図1(a)は従来の同軸ケーブルの一例の長手方向に垂直な断面の断面図であり、
図1(b)は従来の同軸ケーブルを極細ケーブルの径で作成したときの長手方向に垂直な断面の断面図であり、
図1(c)は
図1(b)に示す同軸ケーブルの部分拡大断面図である。
【0028】
同軸ケーブル101は、内部導体111と、内部導体111の外周面に配置された誘電体層112と、誘電体層112の外周面に配置された複数の外部導体用導線113と、複数の外部導体用導線113を覆うように配置されるシース114とを有する。同軸ケーブル101は、従来の同軸ケーブルの一例の構造を示しており、誘電体層上に金属層を設けず、直接外部導体を横巻で配置している。同軸ケーブル101の口径はAで示され、誘電体層112の口径はBで示される。複数の外部導体用導線113の口径はCで示され、一例では、複数の外部導体用導線113の口径は30μmである。
【0029】
同軸ケーブル102は、内部導体121と、内部導体121の外周面に配置された誘電体層122と、誘電体層122の外周面に配置された複数の外部導体用導線123と、複数の外部導体用導線123を覆うように配置されるシース124とを有する。同軸ケーブル102は、同軸ケーブル101を細径化し極細同軸ケーブルとした構造を示しており、誘電体層上に金属層を設けず、直接外部導体が横巻で配置されている。同軸ケーブル102の口径はDで示され、誘電体層122の口径はEで示される。複数の外部導体用導線123の口径はCで示され、同軸ケーブル101の複数の外部導体用導線113の口径と等しい。
【0030】
同軸ケーブル102の口径Dは、細径化されて同軸ケーブル101の口径Aの略1/5になっている。同軸ケーブル101と、ケーブル径が細くなった同軸ケーブル102とで、製造上の問題などにより、外部導体用導線には略同一口径の導体を使用することが多い。略同一口径の導体を外部導体を形成する複数の外部導体用導線として使用した場合、同軸ケーブルの口径が大きい時には、誘電体径に対して外部導体用導線の径が十分に小さく、外部導体用導線と誘電体との間に形成される空隙は無視できるが、同軸ケーブルの口径が細くなると、誘電体径と外部導体用導線の径が近くなり、複数の外部導体用導線と誘電体との間に形成される空隙の影響が無視できなくなる。
【0031】
図1(a)において矢印Fで示される同軸ケーブル101の空隙の合計の大きさの誘電体層112の断面積に対する割合は、2%程度である。一方、
図1(c)の拡大断面図に示すように、
図1(b)において矢印Gで示される同軸ケーブル102の空隙の合計の大きさの誘電体層122の断面積に対する割合は、8%程度である。このように、同軸ケーブル102では、同軸ケーブル101と比較して、空隙の合計の大きさの誘電体層の断面積に対する割合が4倍にも増加することになる。
【0032】
同軸ケーブルが極細化し、複数の外部導体用導線と誘電体との間に形成される空隙の大きさの誘電体層の断面積に対する割合が大きくなると、複数の外部導体用導線と誘電体層との間に形成される空隙の影響は無視できなくなり、誘電体層と外部導体との間に形成される空隙を含む実効的な誘電体外形が略円筒形ではなく、
図1(c)に示されるようにいびつな形となる。その結果、同軸ケーブルの伝送特性が悪化する問題が生じる。
【0033】
そこで、引用文献1及び2に記載のような、誘電体層上に金属層を配置した構造で、複数の外部導体用導線と誘電体との間に形成される空隙の影響は排除できると考えられる。
【0034】
しかしながら、先述のように、引用文献2に記載される同軸ケーブルの金属層は導体として機能するための十分な厚さを有し、高周波信号を伝送する場合、表皮効果によって、伝送信号が外部導体の内側に配置される金属層付きプラスチックテープの金属層を流れることになる。金属層付きプラスチックテープの金属層の抵抗値は、導体として機能するには高いため、伝送信号が外部導体ではなく、金属層付きプラスチックテープの金属層を流れることにより、信号伝送時の抵抗損による伝送信号の損失が増加するおそれがある。
【0035】
特許文献2に記載されるような構造の同軸ケーブルの信号伝送の損失を改善するために、金属層付きプラスチックテープの金属層の膜厚をさらに厚くした場合には、先述のように同軸ケーブルの可撓性と耐久性が低下し、同軸ケーブルが屈曲動作を繰り返すと、金属層付きプラスチックテープの金属層に亀裂が生じてシールド効果が低下するおそれがある。
【0036】
本発明の発明者は、複数の外部導体用導線と誘電体との間に配置される金属層の抵抗値を非常に大きくすると、金属層が導体として機能しないことに着目した。すなわち、本発明の発明者は、複数の外部導体用導線と誘電体との間に配置される金属層を非常に薄くし、その抵抗値を非常に大きくして、金属層に流れる伝送信号を抑制することにより、伝送信号の反射及び損失を抑制できることを見出した。
【0037】
本発明によれば、複数の外部導体用導線と誘電体との間に配置される金属層の抵抗値を非常に大きくすることにより、伝送信号が高周波の場合でも、金属層ではなく、抵抗値が小さい外部導体用導線に伝送信号を流すことにより伝送信号の反射及び損失を抑制することが可能になる。
【0038】
本発明は、複数の外部導体用導線と誘電体層との間に、導体として機能しない高さの抵抗値を有する金属層である電界遮蔽層を配置することによって、実効的な誘電体の外形を略円筒形に補正して伝送信号の反射及び損失が少ない同軸ケーブルを提供するものである。
【0039】
図2は、実施形態に係る同軸ケーブルの長手方向に垂直な断面の断面図である。
【0040】
同軸ケーブル1は、内部導体11と、誘電体層12と、複数の外部導体用導線13と、シース14と、誘電体層12の外周面に沿って巻回されたテープ材15とを有する。テープ材15は、誘電体層に接触するように巻回されたベース16と、ベース16の外側面に蒸着され、外周面が複数の外部導体用導線13に接触する電界遮蔽層17とを有する。
【0041】
内部導体11は、撚り合わされた複数の銀めっき銅合金線を有する。内部導体11は、銀めっき銅合金線で形成されるが、錫めっき銅、銀めっき銅、粗銅などで形成してもよい。一例では、内部導体11の口径は、60μmである。
【0042】
誘電体層12は、テトラフルオロエチレン・パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体(PFA)で形成され、内部導体11の外周面に配置される。一例では、誘電体層12の外径は、150μmである。誘電体層12は、ポリエチレン又はポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、テトラフルオロエチレン・ヘキサフルオロプロピレン共重合体(FEP)、テトラフルオロエチレン・エチレン共重合体(ETFE)など他の樹脂で形成してもよい。
【0043】
複数の外部導体用導線13はそれぞれ、銀めっき銅合金線で構成され、電界遮蔽層17の外周面に少なくとも一部が接するように、テープ材15が巻回される方向と同一方向に横巻きされる。複数の外部導体用導線13はそれぞれ、信号伝送時に帰路として機能する。一例では、複数の外部導体用導線13の口径はそれぞれ、30μmである。複数の外部導体用導線13はそれぞれ、銀めっき銅合金線で形成されるが、錫めっき銅、銀めっき銅、粗銅などで形成してもよい。
【0044】
シース14は、PFAで構成され、複数の外部導体用導線13の外周面に配置される保護被膜層である。一例では、シース14の厚さは、30μmである。
【0045】
ベース16は、一方の面に電界遮蔽層が蒸着形成された帯状のポリエステルフィルムであり、電界遮蔽層が蒸着形成された面を外側に向けて、幅方向の端部が重なるように誘電体層12の外周面に沿って巻回されている。一例では、ベース16の幅は0.6mmであり厚さは4μm、蒸着形成された電界遮蔽層17の膜厚は、0.1μmである。
【0046】
電界遮蔽層17は、ベース16の一方の表面に蒸着形成されたアルミニウム又は銅等の金属である。電界遮蔽層17の外周面には、複数の外部導体用導線13が少なくとも一部が電界遮蔽層17の外周面に接するように横巻きされている。電界遮蔽層17は、全体に亘って厚さが均一になるように形成されており、電界遮蔽層17の厚さは、高周波信号が伝送された場合でも表皮効果が発現しない500Ω/m以上の抵抗値となるように選択される。
【0047】
電界遮蔽層17の膜厚は、同軸ケーブル1の長手方向に垂直な断面における電界遮蔽層17の断面の平均膜厚として規定される。
【0048】
電界遮蔽層17の抵抗値は、誘電体層12からテープ材15を適当な長さに亘って剥がして、剥がしたテープ材15の一方の表面に配置される電界遮蔽層17の両端の間の抵抗値を実測することにより単位長さ当たりの抵抗値として規定される。
【0049】
また、電界遮蔽層17の抵抗値R〔Ω/m〕は、
R = k・ρ・L/(W
O・M
t)
から演算してもよい。ここで、kは、電界遮蔽層が蒸着生成される場合に、電界遮蔽層を形成する金属の抵抗率ρ〔Ω/m〕を補正する係数である。例えば、アルミ蒸着の場合、kは2.5であり、銅蒸着の場合、kは1.25である。L〔m〕は、同軸ケーブル1の1〔m〕当たりのテープ材15の長さであり、
L = l・10
-3/P
で示される。ここで、l〔mm〕は、誘電体層12の外周面に沿ってテープ材15が1周巻回されたときのテープ材15の長さであり、
l =πD/sinθ
で示される。ここで、D〔mm〕は誘電体層12の口径D
o〔mm〕とテープ材15の厚さt〔mm〕との和であり、θはテープ材15が誘電体層12の外周面に巻回されるときの角度である。
【0050】
P〔mm〕はテープ材15が誘電体層12の外周面に巻回されるときのピッチであり、
P =πD/tanθ
で示される。
【0051】
W
O〔mm〕はテープ材15の幅であり、M
t〔mm〕は電界遮蔽層17の厚さである。テープ材15の幅W
Oは、
W
O =W・W
r
で示される。ここで、W〔mm〕はテープ材15の実効幅であり、
W =πD・cosθ
で示される。W
rはテープ材15のラップ数である。ラップ数は、1.1〜1.3程度である。
【0052】
図3(a)及び3(b)はそれぞれ、電界遮蔽層17の抵抗値R〔Ω/m〕を演算するときに使用される定数を概略的に示す図である。
【0053】
図3において、D
o〔mm〕は誘電体層12の口径であり、t〔mm〕はテープ材15の厚さであり、D〔mm〕はD
oとtとの和であり、θはテープ材15が誘電体層12の外周面に巻回されるときの角度であり、W
O〔mm〕はテープ材15の幅である。また、W〔mm〕はテープ材15の実効幅であり、P〔mm〕はテープ材15が誘電体層12の外周面に巻回されるときのピッチである。
【0054】
同軸ケーブル1では、誘電体層12と複数の外部導体用導線13との間に電界遮蔽層17が配置されるため、実効的な誘電体形状は電界遮蔽層に囲まれた略円筒形となる。同軸ケーブル1では、誘電体層12と複数の外部導体用導線13との間に形成される空隙による伝送信号の反射及び損失を防止することができる。
【0055】
また、同軸ケーブル1では、電界遮蔽層17の厚さは導体として機能しないような抵抗値となるように選択されるので、高周波信号が伝送された場合でも電界遮蔽層17に伝送信号が流れることによる伝送信号の抵抗損による伝送信号の損失の増加を抑制することができる。
【0056】
また、同軸ケーブル1では、複数の外部導体用導線13は、電界遮蔽層17が配置されるテープ材15が巻回される方向と同一方向に横巻きされるので、口径を小さくし且つ高い可撓性を有することができる。
【0057】
誘電体層12の外径と複数の外部導体用導線13の口径との比は、1:1〜10:1の間となることが好ましい。複数の外部導体用導線13の口径が誘電体層12の外径より大きくなると、複数の外部導体用導線13を誘電体層12の外周に均一に横巻きすることが難しくなる上に、外部導体用導線13の口径が大きくなることにより同軸ケーブル1の口径が増加することになる。
【0058】
誘電体層12の外径を300μmよりも大きくし、又は複数の外部導体用導線13の口径を30μmよりも小さくすると、複数の外部導体用導線13の口径が誘電体層12の外径の10分の1より小さくなる。複数の外部導体用導線13の口径が誘電体層12の外径の10分の1より小さくなると、複数の外部導体用導線13と誘電体層12との間に形成される空隙の大きさの誘電体層の断面積に対する割合が2%程度になる。複数の外部導体用導線13と誘電体層12との間に形成される空隙の大きさの誘電体層の断面積に対する割合が2%程度より小さくなると、空隙による伝送信号の反射が伝送信号に与える影響が小さくなるので、電界遮蔽層17を配置することによる効果は小さくなる。
【0059】
複数の外部導体用導線13はテープ材15が巻回される方向と同一方向に横巻きされているが、複数の外部導体用導線13はテープ材15が巻回される方向と反対方向に横巻きされてもよい。また、複数の外部導体用導線13は横巻きされているが、複数の外部導体用導線は編組されてもよい。
【0060】
また、同軸ケーブル1の複数の外部導体用導線13の口径は30μmであるが、複数の外部導体用導線13の口径は、同軸ケーブル1の可撓性に影響を与えず且つ同軸ケーブル1の口径を必要以上に大きくしない範囲で30μmよりも大きくてもよい。また、同軸ケーブル1の誘電体を細くした場合など、誘電体径とのバランス及び外径増加を抑える目的などにより、複数の外部導体用導線13の口径は30μmよりも小さくしてもよい。
【0061】
また、電界遮蔽層17の厚さは、0.02μm以上0.3μm以下であることが好ましい。電界遮蔽層17の厚さが0.02μmよりも薄くなると、均一な厚さを有する電界遮蔽層を製造することが難しくなり製造コストが上昇するおそれがある。電界遮蔽層17の厚さが0.3μmよりも厚くなると、鉄など抵抗率が高い金属で電界遮蔽層17を形成した場合でも、電界遮蔽層17が外部導体として機能し、表皮効果によって電界遮蔽層に信号が流れることにより抵抗損による損失が増加するおそれがある。
【0062】
また、電界遮蔽層17の材料及び厚さは、
図4及び
図5に示される反射減衰量と挿入損失の実測値と、
図6に示される挿入損失低減率の理論値とから、500Ω/m以上になるように選択されることが好ましい。電界遮蔽層17の抵抗値を500Ω/m以上にすると、周波数が1.5GHzである信号が伝播した場合でも反射減衰及び挿入損失を抑制することができる。
【0063】
また、電界遮蔽層17の材料及び厚さは、
図4及び
図5に示されるように、電界遮蔽層17の抵抗値が800Ω/m以上になるように選択されることが好ましい。電界遮蔽層17の抵抗値が800Ω/m以上にすると、周波数が3GHzである信号が伝搬した場合でも反射減衰及び挿入損失を抑制することができる。
【0064】
また、電界遮蔽層17の材料及び厚さは、
図4及び
図5に示されるように、電界遮蔽層17の抵抗値が12000Ω/m以下になるように選択されることが好ましい。電界遮蔽層17の抵抗値が12000Ω/m以下にすると、周波数が1.5GHzである信号が伝搬した場合でも、反射減衰及び挿入損失を抑制することができる。
【0065】
また、電界遮蔽層17の材料及び厚さは、
図4及び
図5に示されるように、電界遮蔽層17の抵抗値が6000Ω/m以下になるように選択されることが好ましい。電界遮蔽層17の抵抗値が6000Ω/m以下にすると、周波数が3GHzである信号が伝搬した場合でも、反射減衰及び挿入損失を抑制することができる。
【0066】
また、電界遮蔽層17の材料としてアルミニウムを採用する場合、電界遮蔽層17の厚さは、0.3mm以下にすることが好ましい。アルミニウムで形成される電界遮蔽層17の厚さを0.3mm以下にすることにより、サイズが38AWGの導体を内部導体11として使用し、幅が1.5mmのテープ材15を使用した場合でも、電界遮蔽層17の抵抗値は500Ωより小さくできる。また、電界遮蔽層17の材料として銅を採用する場合、電界遮蔽層17の厚さは、0.2mm以下にすることが好ましい。銅で形成される電界遮蔽層17の厚さを0.2mm以下にすることにより、サイズが38AWGの導体を内部導体11として使用し、幅が1.5mmのテープ材15を使用した場合でも、電界遮蔽層17の抵抗値は500Ωより小さくできる。
【実施例1】
【0067】
特性インピーダンスが略等しくなるように形成された7つの同軸ケーブルの伝送信号の周波数を変化させて反射減衰量及び挿入損失量を測定した。
【0068】
試料1は、内部導体として口径が60μmの銀メッキ銅合金線
を使用し、誘電体層として外径が150μmのPFAを使用し、誘電体層の外周面に電界遮蔽層を介さずに18本の外部導体用導線が横巻きされている。外部導体用導線は、口径が30μmの銀メッキ銅合金線である。外部導体用導線を覆うシースは、30μmの厚さを有するPFAである。
【0069】
試料2は厚さ3μmのアルミニウム箔が接着されたアルペットを試料1の誘電体層と外部導体用導線との間に配置したものであり、試料3は厚さ0.13μmの銅が蒸着されたテープ材を試料1の誘電体層と外部導体用導線との間に配置したものである。
【0070】
試料4は厚さ0.05μmの銅が蒸着されたテープ材を試料1の誘電体層と外部導体用導線との間に配置したものであり、試料5は厚さ0.055μmのアルミニウムが蒸着されたテープ材を試料1の誘電体層と外部導体用導線との間に配置したものである。試料6は厚さ0.035μmのアルミニウが蒸着されたテープ材を試料1の誘電体層と外部導体用導線との間に配置したものであり、試料7は厚さ0.02μmのアルミニウムが蒸着されたテープ材を試料1の誘電体層と外部導体用導線との間に配置したものである。
【0071】
表1に試料1〜7の特性インピーダンス、抵抗値及び蒸着された金属膜の膜厚を示す。
【0072】
【表1】
【0073】
試料1は電界遮蔽層を有しておらず、試料2の電界遮蔽層の抵抗値は25Ω/mであり、試料3の電界遮蔽層の抵抗値は250Ω/mである。また、試料2の電界遮蔽層の膜厚は3μmであり、試料3の電界遮蔽層の膜厚は0.13μmである。
【0074】
試料4の電界遮蔽層の抵抗値は800Ω/mであり、試料5の電界遮蔽層の抵抗値は3kΩ/mであり、試料6の電界遮蔽層の抵抗値は6kΩ/mであり、試料7の電界遮蔽層の抵抗値は12kΩ/mである。また、試料4の電界遮蔽層の膜厚は0.05μmであり、試料5の電界遮蔽層の膜厚は0.055μmであり、試料6の電界遮蔽層の膜厚は0.035μmであり、試料7の電界遮蔽層の膜厚は0.02μmである。
【0075】
試料1〜7の反射減衰量はベクトルネットワークアナライザにより測定した。
【0076】
図4は、試料1〜7の伝送信号周波数と反射減衰量との関係を示す図である。
図4の横軸は伝送信号の周波数を示し、縦軸は反射減衰量を示す。
図4において、矢印1で示される実線は試料1を示し、矢印2で示される破線は試料2を示し、矢印3で示される一点鎖線は試料3を示す。また、矢印4で示される実線は試料4を示し、矢印5で示される破線は試料5を示し、矢印6で示される一点鎖線は試料6を示し、矢印7で示される二点鎖線は試料7を示す。
【0077】
伝送信号の周波数が1.5GHzより低いとき、電界遮蔽層を有しない試料1と比較して、電界遮蔽層を有する試料2〜7は反射減衰量が小さくなっている。伝送信号の周波数が1.5GHzを超えると、電界遮蔽層の抵抗値がそれぞれ25Ω/m及び250Ω/mである試料2及び3の反射減衰量は、電界遮蔽層を有しない試料1の反射減衰量と略等しくなっている。一方、電界遮蔽層の抵抗値が800Ω/mを超える試料4〜7の反射減衰量は、伝送信号の周波数にかかわらず、電界遮蔽層を有しない試料1の反射減衰量より小さくなっている。
【0078】
図5は、試料1〜7の伝送信号周波数と挿入損失との関係を示す図である。
図5の横軸は伝送信号の周波数を示し、縦軸は挿入損失を示す。
図5において、矢印1で示される実線は試料1を示し、矢印2で示される破線は試料2を示し、矢印3で示される一点鎖線は試料3を示す。また、矢印4で示される実線は試料4を示し、矢印5で示される破線は試料5を示し、矢印6で示される一点鎖線は試料6を示し、矢印7で示される二点鎖線は試料7を示す。
【0079】
伝送信号の周波数が1.5GHzより低いとき、電界遮蔽層の抵抗値が800Ω/mである試料4の挿入損失は、電界遮蔽層を有しない試料1の挿入損失よりも小さくなっている。伝送信号の周波数が1.5GHzを超えると、試料4の挿入損失は、電界遮蔽層を有しない試料1の挿入損失と略等しくなっている。
【0080】
電界遮蔽層の抵抗値が3kΩ/mを超える試料5〜7の挿入損失は、伝送信号の周波数にかかわらず、電界遮蔽層を有しない試料1の挿入損失より小さくなっている。
【0081】
図6は、試料2〜4の電界遮断層の抵抗値と挿入損失の低減率との関係を示す図である。
図6の横軸は電界遮断層の抵抗値を示し、縦軸は電界遮断層を有さない試料1の挿入損失に対するそれぞれの試料の挿入損失の低減率を示す。
図6において、符号2で示される点は試料2を示し、符号3で示される点は試料3を示し、符号3で示される点は試料4を示す。
図6の挿入損失の低減率は、
図6のグラフを生成するために使用した1.5GHzより低い周波数範囲において複数の周波数における挿入損失の平均値に基づいて演算されている。例えば、試料2の挿入損失の低減率は、試料1の複数の周波数における挿入損失の平均値に対する、試料2の複数の周波数における挿入損失の平均値の割合を示す。
図6において、二点鎖線はそれぞれの試料の挿入損失の低減率から演算される近似直線である。
【0082】
図6から、電界遮断層の抵抗値が400Ω/mより高いとき、伝送信号の挿入損失が低減されており、例えば電界遮断層の抵抗値が500Ω/mのとき、挿入損失の低減率は略2%になることが分かる。
【実施例2】
【0083】
誘電体層の外径と外部導体用導線の口径との比が異なる同軸ケーブルの伝送信号の反射減衰量を測定した。
【0084】
試料8〜10の同軸ケーブルはそれぞれ、外部導体用導線の口径以外は、電界遮蔽層を有しない試料1と同一の構成を有する。試料8の誘電体層の外径と外部導体用導線の口径との比は3:1であり、試料8の誘電体層の外径と外部導体用導線の口径との比は5:1であり、試料8の誘電体層の外径と外部導体用導線の口径との比は7:1である。
【0085】
図7は、試料8〜10の反射減衰量低減率を示す図である。
図7の横軸は誘電体層の外径と外部導体用導線の口径との比を示し、縦軸は反射減衰量低減率を示す。
図7において、符号8で示される点は試料8を示し、符号9で示される点は試料9を示し、符号10で示される点は試料10を示す。
【0086】
試料8〜10の反射減衰量は、誘電体層と外部導体用導線との間に形成される空隙により生じる反射波の影響を示すものである。
図7から誘電体層の外径と外部導体用導線の口径との比が10:1程度になると、誘電体層と外部導体用導線との間に形成される空隙により生じる反射波減衰量は無視できる程度になると推定される。