特許第6261231号(P6261231)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6261231
(24)【登録日】2017年12月22日
(45)【発行日】2018年1月17日
(54)【発明の名称】歯列測定装置
(51)【国際特許分類】
   A61C 19/045 20060101AFI20180104BHJP
【FI】
   A61C19/045 100
【請求項の数】7
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2013-163087(P2013-163087)
(22)【出願日】2013年8月6日
(65)【公開番号】特開2015-29815(P2015-29815A)
(43)【公開日】2015年2月16日
【審査請求日】2016年8月2日
(73)【特許権者】
【識別番号】501283416
【氏名又は名称】西浜 直樹
(74)【代理人】
【識別番号】100096080
【弁理士】
【氏名又は名称】井内 龍二
(74)【代理人】
【識別番号】100194098
【弁理士】
【氏名又は名称】高田 一
(72)【発明者】
【氏名】西浜 直樹
【審査官】 胡谷 佳津志
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2004/082511(WO,A1)
【文献】 国際公開第2007/063980(WO,A1)
【文献】 米国特許出願公開第2012/0258431(US,A1)
【文献】 特開2010−142285(JP,A)
【文献】 実開平02−123218(JP,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61C 19/045
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
患者の頭部の両側部に沿う左右一対の側部フレームと該左右一対の側部フレームを互いに接続する左右方向の横フレームとを有する基枠と、
前記側部フレームの内側で患者の顔面に対し接近・離反する方向に回動自在に前記基枠に支持される回動枠と
前記基枠に取り付けられて患者の左右の耳穴付近に係止されるイヤピースと、
前記基枠に取り付けられて患者のナジオン付近に設定される咬合力集中部を指示する基準点指示具とを備えた歯科用フェイスボウと、
該歯科用フェイスボウの前記回動枠に取り付けられる撮影装置とを備え
前記回動枠が、前記基枠に回動自在に支持される1対の軸と、該1対の軸を連結する横フレームとを備え、
前記撮影装置が、
前記回動枠の横フレームから前記一対の軸とは反対方向に向けて取り付けられた支持枠と、
該支持枠に取り付けられた1つ以上のカメラとを備え、
該1つ以上のカメラが、前記歯科用フェイスボウを装着した患者の口腔内の歯列を撮影する向きに設けられていることを特徴とする歯列測定装置。
【請求項2】
前記支持枠が、
前記回動枠の前記横フレームから前記一対の軸とは反対方向に向けて取り付けられた支持アームと、
該支持アームの先端部に取り付けられたカメラ支持枠とを備え、
該カメラ支持枠が、患者の咬合曲面の曲率中心を中心とする湾曲形状であることを特徴とする請求項1記載の歯列測定装置。
【請求項3】
前記カメラ支持枠が、
前記支持アームの先端部に取り付けられた筒体と、
該筒体にスライド可能に挿通された角型枠体とで構成されていることを特徴とする請求項2記載の歯列測定装置。
【請求項4】
前記1つ以上のカメラが、患者の咬合曲面の曲率中心に向けて配置されていることを特徴とする請求項1〜3のいずれかの項に記載の歯列測定装置。
【請求項5】
前記回動枠に患者の口腔内へ挿入される歯列測定用マウスピースが取り付けられ
前記歯列測定用マウスピースが、理想的な咬合球面上に沿う湾曲形状に形成され、
前記1つ以上のカメラが、前記マウスピースと患者の実際の歯列とを併せて撮影するものであることを特徴とする請求項1〜4のいずれかの項に記載の歯列測定装置。
【請求項6】
前記1つ以上のカメラが、左右に間隔をおいて配置された左右一対のカメラで構成されていることを特徴とする請求項1〜4のいずれかの項に記載の歯列測定装置。
【請求項7】
前記1つ以上のカメラが左右方向に間隔をおいて配置された左右一対のカメラと、これら左右一対のカメラよりも上下方向に間隔を置いて配置されたカメラとで構成されていることを特徴とする請求項1〜4のいずれかの項に記載の歯列測定装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、咬合不良症治療やインプラント治療に使用するに適した歯列測定装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
無歯顎症や多数歯欠損症等に対する義歯床治療やインプラント治療では、義歯や架工歯に理想的な咬合を付与するのがきわめて重要であ
る。従来は、この咬合付与を、口腔や口腔周囲の主として硬組織の解剖学的形態と、その平均値を割り出し、いくつかの仮想基準線や平面と合わせて下顎骨の普遍的な咀嚼運動を捉えようとしてきた。そして、実際の治療では、このような普遍的咀嚼運動に基づいて、医師や技工士が各患者の咬合を再構築していた。
【0003】
正常な人の歯列は、若干奥側が開いた概略U字状のカーブ(歯弓と呼ばれる)を描くように歯が配列されていて、上下の歯による咬合線は三次元的な曲線となっている。この歯列による咬合曲線は咬合時における合力を表すベクトル上の特定の点を中心とする球面上にあることがわかっている。そして、正常な歯列の場合は、咬合時に上下の臼歯が力学的に正しくコンタクトするが、歯列が左右にずれている場合などには、正常な咬合は得られない。
【0004】
従来は、実際の咬合時における強力な噛み締め力の方向と大きさに対する基準となるものがないので、患者の個別の理想的な咬合を定量的に構築することはきわめて困難であり、例えば無歯顎症患者用の義歯床を製作する場合に、患者が満足する義歯床を製作するにはかなりの長時間と手間を要するという問題点があった。この問題点を改良するため、本発明者は、実際の咬合によって生じる力の合力に着目し、理想的な咬合を短時間で簡単に得られるフェイスボウを開発し、特許出願して、すでに特許権を得ている(下記特許文献1参照)。このフェイスボウ(「オーラルコンパス」と呼ぶ)を使用すれば、従来の方法に比べてはるかに簡単かつ短時間で理想に近い咬合を構築することができるので、実際の治療現場で好評を博している。
【0005】
しかしながら、このフェイスボウ(オーラルコンパス)を用いても、理想的な歯列を特定するのが難しく、かなりの時間と熟練を必要とするという問題点がある。すなわち、患者の歯列が変形していると、最も強い咬合圧がかかる最後臼歯の左右位置と高さを決定するのが視覚的に難しく、特に、声楽家やスポーツアスリートのための高精度の咬合コンタクト位置を特定するのは非常に難しい。このため、適切な咀嚼が行われるように歯列を構築するのは難しく、患者が完全に納得する治療は、医師の空間識の優劣や熟練度にもよるが、一般的に大変困難なものであった。正しい咬合が行われないと、咀嚼がうまく行われないのみならず、成長期の児童の場合脳の発達にも悪影響を及ぼすことが知られているので、治療において大臼歯の位置は極めて重要である。
【0006】
患者の変形した歯列を修正するには、患者の年齢や体格を考慮して歯列の基準となるマウスピース(基準片)を患者の口腔内に挿入し、この基準片と実際の歯列との差を測定すれば、当該患者に適した歯列を再構築することができる。しかしながら、患者の歯列には、個性があり、その変形量が大きい場合は、正しい歯列を把握するのが困難であった。
【0007】
【特許文献1】国際公開番号WO2004/082511号
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
そこで本発明は、歯列カーブが変形している患者に対し、正常な状態に修正するため、その変形量(偏差)を正確に把握することのできる歯列
測定装置を提供することを課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するため、本発明は次のような構成を採用した。
すなわち、本発明に係る歯列測定装置(1)は、
患者の頭部の両側部に沿う左右一対の側部フレームと該左右一対の側部フレームを互いに接続する左右方向の横フレームとを有する基枠と、
前記側部フレームの内側で患者の顔面に対し接近・離反する方向に回動自在に前記基枠に支持される回動枠と
前記基枠に取り付けられて患者の左右の耳穴付近に係止されるイヤピースと、
前記基枠に取り付けられて患者のナジオン付近に設定される咬合力集中部を指示する基準点指示具とを備えた歯科用フェイスボウと、
該歯科用フェイスボウの前記回動枠に取り付けられる撮影装置とを備え
前記回動枠が、前記基枠に回動自在に支持される1対の軸と、該1対の軸を連結する横フレームとを備え、
前記撮影装置が、
前記回動枠の横フレームから前記一対の軸とは反対方向に向けて取り付けられた支持枠と、
該支持枠に取り付けられた1つ以上のカメラとを備え、
該1つ以上のカメラが、前記歯科用フェイスボウを装着した患者の口腔内の歯列を撮影する向きに設けられていることを特徴としている。
また、本発明に係る歯列測定装置(2)は、上記歯列測定装置(1)において、
前記支持枠が、
前記回動枠の前記横フレームから前記一対の軸とは反対方向に向けて取り付けられた支持アームと、
該支持アームの先端部に取り付けられたカメラ支持枠とを備え、
該カメラ支持枠が、患者の咬合曲面の曲率中心を中心とする湾曲形状であることを特徴としている。
また、本発明に係る歯列測定装置(3)は、上記歯列測定装置(2)において、
前記カメラ支持枠が、
前記支持アームの先端部に取り付けられた筒体と、
該筒体にスライド可能に挿通された角型枠体とで構成されていることを特徴としている。
また、本発明に係る歯列測定装置(4)は、上記歯列測定装置(1)〜(3)のいずれかにおいて、
前記1つ以上のカメラが、患者の咬合曲面の曲率中心に向けて配置されていることを特徴としている。
また、本発明に係る歯列測定装置(5)は、上記歯列測定装置(1)〜(4)のいずれかにおいて、
前記回動枠に患者の口腔内へ挿入される歯列測定用マウスピースが取り付けられ、
前記歯列測定用マウスピースが、理想的な咬合球面上に沿う湾曲形状に形成され、
前記1つ以上のカメラが、前記マウスピースと患者の実際の歯列とを併せて撮影するものであることを特徴としている
【0010】
また、本発明に係る歯列測定装置(6)は、上記歯列測定装置(1)〜(4)のいずれかにおいて、
前記1つ以上のカメラが、左右に間隔をおいて配置された左右一対のカメラで構成されていることを特徴としている。
また、本発明に係る歯列測定装置(7)は、上記歯列測定装置(1)〜(4)のいずれかにおいて、
前記1つ以上のカメラが左右方向に間隔をおいて配置された左右一対のカメラと、これら左右一対のカメラよりも上下方向に間隔を置いて配置されたカメラとで構成されていることを特徴としている
【発明の効果】
【0011】
本発明にかかる歯列測定装置は、指示具とイヤピースとで位置決めされ、患者の咬合ベクトルに沿うように患者の顔面上に装着される歯科用
フェイスボウの回動枠に設けられた撮影装置のカメラで歯列を撮影するので、この映像を解析することにより、合理的な歯列を構築することができ
る。たとえば、この撮影装置のカメラで撮影した患者の実際の歯列を基準片であるマウスピースもしくはコンピュータに記億されている理想的な歯
列と比較することにより、実際の歯列の変形量(偏差)を正確に把握することができるので、この偏差が生じないように歯列を構築することにより、
理想的な歯列を得ることができる。
【0012】
撮影装置として、左右方向に所定の間隔をおいて配置した左右一対のカメラで患者の口腔内を撮影する装置を用いて患者の歯列を撮影し、こ
の画像をコンピュータで解析することにより、マウスピースがなくても理想的な歯列を構築することができる。また、左右一対のカメラと、該左右一対のカメラに対し上下に間隔をおいて配置された第三のカメラを備えた撮影装置を用いて撮影すれば、実際の歯列を三次元的に測定することができるので、三次元的な歯列カーブの構築により便利である。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】本発明にかかる歯列測定装置を患者の顔面上に装着した状態を表わす斜視図である。
図2】撮影装置の斜視図である。
図3】左右一対のカメラを備えた撮影装置の斜視図である。
図4】左右一対のカメラとのほかに、上下方向に間隔をおいて配置した第三のカメラを備えた撮影装置の斜視図である。
図5】撮影装置を除いたフェイスボウの正面図である。
図6】変形した上顎の歯列を表す下面図(a)と正面図(b)である。
図7】咬合筋を表す頭蓋骨の正面図である。
図8】咬合力の合力を二次元的に表す頭蓋骨の側面図である。
図9】咬合力の合力を二次元的に表す頭蓋骨の側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、図面に表された本発明の実施形態に基づいて、具体的に説明する。まず、本発明に係る歯列測定装置を構成するフェイスボウ(オーラルコンパス)2は、図5に示すように、患者の顔面に装着して咬合力の方向を調べるために使用されるもので、これに後述の撮影装置3が取り付けられている。
【0015】
このオーラルコンパス2は、金属、プラスチック等ある程度の剛性と強度を有する材料で作られた基枠101を備えている。この基枠101は、患者の頭部の左右両側にそれぞれ配置される左右一対の側部フレーム102,102と、これら左右の側部フレームの上端部を互いに接続する横フレーム103を備えた概略門型に形成されている。上記側部フレーム102は、咬合時の力の方向を側面視で表す側面ベクトル軸として使用される。
【0016】
基枠101には、概略コ字形の回動枠105が軸106,106によって回動自在かつ角度設定可能に取り付けられている。
【0017】
このオーラルコンパス2には、回動枠105の横フレーム105bの中央部にマウスピース固着用の取付け部材110が固着されている。この取付け部材110には歯列カーブ用基準片112(マウスピース)がボルト等の固定手段で取付けられる。この歯列カーブ基準片112は、種々の形状・寸法のものを患者の体格等にあわせて選択的に取り付けるようになっている。
【0018】
なお、回動枠105は、基枠101に固着したブラケット115,115に設けられている複数のねじ穴に取付けられる軸によって患者に適応する位置に取り付けられる。また、回動枠105の両側には、該回動枠105に対し回動自在な回動枠高さ指示具が取り付けられている。この指示具の先端部には指示ピンが設けられている。この指示具を回動させた時に前記指示ピンの移動軌跡が患者の側頭部の所定の範囲内、すなわち、イヤホールと関節頭の間にあるように回動枠105を基枠に取り付けることにより、適正な歯列カーブが測定できる。
【0019】
基枠101の横フレーム103の中央部には、ブラケット130が固着されている。このブラケット130には、基枠101を患者の頭部に正しく装着するための突出長さ調節可能な基準点指示具131と、患者の眉間付近にあてがわれて基枠101を支持する上下位置調節可能なパット部材132とが取り付けられている。パット132としては、患者の肌に接するゆるく湾曲した板状のパットを用いることもできるが、このようなパットは、患者の顔面に装着する時に患者の肌に接して苦痛を与えたり、肌を傷付たりする恐れがあるので、図示例のような回転球面体からなるパットを用いるのが好ましい。
【0020】
上記基準点指示具131は、患者の咬合時の合力軸が患者の前頭骨表面と交わる点(N点)を指示するためのもので、この咬合力集中部は、図8に示すように、左右の下顎角中間点より発し、人間の頭部のナジオン上部付近に位置することが判明しているので、実際的には患者の左右の眉毛の中間点を指示するように基枠を患者に装着すればよい。
【0021】
また、基枠101の両側の側部フレーム102,102には、該側部フレームと直角方向に突出するイヤピース支持部材135がそれぞれ取り付けられている。このイヤピース支持部材135はその突出長さが調節可能であり、その先端部に該支持部材135と直角方向に伸びるイヤピース140が取り付けられている。イヤピース140は、滑らかな先端部を有するもので、これを患者の耳穴に挿入することにより、基枠101を患者の頭部に支持することができる。
【0022】
このオーラルコンパス2は、前記パット部材132とイヤピース140によって患者の頭部に装着されるが、この装着状態では、基枠101の側部フレーム102が咬合力ベクトル軸の側部から見た投影線と重なる状態となる。この状態で、回動フレーム105を基枠101に取り付け、該回動フレーム105を回動させることによって該回動フレーム105に取り付けたマウスピース5を患者の口腔内に挿入し、基準片で患者の歯列を調べたり、あるいは総入れ歯の咬合採取時、患者がくわえているワックスリムを回動フレームを介してフェイスボウ2に固定保持することができる。ワックスリムを固定保持した回動フレーム105の基枠102に対する角度を確定することにより、咬合工学上最適な咬合状態を再現することができるのである。この角度の測定は、分度器等で読み取ることができる。
【0023】
図6は、基準マウスピース5を患者の口腔内に挿入して、上顎の歯列200に沿うように配置した状態を表わすもので、このマウスピース5は、基部側端部に設けた支持部材6によって上記回動フレーム105に取付けられる。基準マウスピース5は、基部側端部が丸みをおびた凸状曲面に形成され、左右両側は若干奥側(図6(a)の下側)が若干広くなるような概略釣鐘状に形成されている。また、マウスピース5は図6(b)に示すように、左右方向の線に沿う断面及び前後方向(長手方向)に沿う断面が湾曲形状に形成されている。この湾曲面は理想的な咬合球面上に沿う曲面であり、湾曲面の曲率半径は、不良咬合になった患者で10歳から成人では65mmから75mm程度であるが、高齢者や総義歯患者の場合、顎骨の吸収が大きくなるため、人種を問わずほぼ65mmである。これは、患者の年齢、体格等に応じて適当なものを選択すればよい。マウスピース5は、患者の歯列200の内側に僅かな隙間tをおいて配置されるが、患者の歯列に偏差がある場合は、図のTで示すような大きな隙間が形成され、上下方向にもHの偏差が生じる。
【0024】
つぎに、上記フェイスボウ2に取付けて使用される撮影装置3について説明する。図2に示すように、この撮影装置3は、支持枠9とカメラ20を備えている。支持枠9は、前記回動枠105の左右中央部に固定されるもので、回動枠105に固定される支持アーム11,11と、該支持アームの先端部に取付けられるカメラ支持枠12を備えている。カメラ支持枠12は、前記支持アーム11に取付けられた筒体13にスライド可能に挿通された縦フレーム12aと上下の横フレーム12bとで構成される角型枠体であり、前記筒体13と縦フレーム12aは患者の咬合曲率中心Oを中心とする湾曲形状となっている。
【0025】
前記カメラ支持枠12には、カメラ20が取り付けられている。このカメラ20は、スマートフォンや携帯電話機等に設けられている小型カメラと同様なCCDカメラであり、撮影した画像を電気信号としてコンピュータ等に送信するようになっている。図の21は、画像を表わす電気信号を送信するためのコードであり、このコード21の先端部は管理装置24のコンピュータ25に接続されている。管理装置24のメモリ26には、患者の年齢や体格等に応じて複数種の標準歯列画像が記録されており、この標準画像を適宜表示装置27に表示できるようになっている。したがって、この標準画像(もしくは歯列と同時に撮影したマウスピース)の曲率中心と、カメラ20で撮影した実際の患者の曲率中心とを同条件で合わせて、同一画面上に表示すれば、患者の歯列の異常部分が、明確に画面上に視認できる。例えば、右咬みの方、左咬みの方、前歯咬みの方が簡単に確認できるので、頚椎の「捻れ」や「曲げ」がX線撮影をしなくてもほぼ判別でき、関連する多くの全身合併症も、データと照合すれば精度高く予想できる。そして、インターネットやスマホ等を用いての画像の送受信で、専門医師と遠隔地の患者の処置や対応が可能となる。
【0026】
図3は、上記カメラ20を左右に間隔(数cm)をおいて2個設けた例を表す。これら左右一対のカメラは、咬合曲面の曲率中心Oに向けて配置され、いずれも患者の口腔内の歯列を撮影するように設けられている。このように、左右一対のカメラで歯列を撮影する場合は、マウスピースがなくてもより正確に実際の歯列を把握することができる。特に、咬合面の磨耗や劣化はより精度高く標準状態と比較できるため、咬合調整は単純操作で可能となり、今日大きな社会問題となっている歯科での噛み合わせトラブルはスキルの低い医師でも、画像が問題指摘をミクロンレベルで行うため、劇的な問題解決につながるであろう。
【0027】
図4は、左右一対のカメラに加えて、上下方向に間隔をおいて別のカメラを設けた例を表す。この例では、左右一対のカメラがカメラ支持枠12から下方へ突出させて設けた左右一対の突出アーム15に取付けられており、上側のカメラは、図2と同様に、カメラ支持枠12の左右中央部(患者の顔の正中線上)に設けられている。このように、3個以上のカメラで撮影すると、不良咬合による全身合併症検査中や、歯科用キャドカムへの応用のための三次元的によりすぐれた画像を得ることができる。歯科用ギヤドカムで作る歯科補綴物や人工歯として、一挙に患者固有の工学的機能を有するものを短時間で作ることができ、夢の歯科医療が展開できる。なお、左右一対のカメラを上側に設け、第三のカメラを下側に設けてもよい。
【0028】
この歯列測定装置を用いる咬合治療は、咀嚼による咬合時の合力に着目して咬合を構築する点に特徴がある。すなわち、咬合時に作用する筋肉は、図7図8図9に示すように、咬筋(M.masseter)Mmと側頭筋(M.temporlis)Mtである。これらによって生じる力は、所定の方向と大きさを有するベクトルであり、本発明者の研究によると、これらの合力Fは、個々の患者によって若干の差はあるが、標準的には、図8に示すように、前頭洞の前縁部(ナジオンの直上部)付近の点(「N点」と呼ぶ)に向かうことがわかっている。
【0029】
頭部を2次元的に表した図7、8、9において、Paは前歯の咬合点、Pbは奥歯の咬合点、Pcは関節頭の点をそれぞれ表す。同図において、奥歯の咬合点Pbに作用する咬合力と関節頭の点Pcに作用する咬合力は図のLで示す方向を有するベクトルであり、これらの力とその合力Fとの関係は、簡単な式で表すことができるが、ここでは省略する。なお、図中のOは、前記N点を表す。咬合曲線は、この点Oを中心とする球面上にある。
【0030】
なお、すべての患者の咬合時の合力が必ずしもO(N点)に向かうわけではなく、加齢による骨の老化・吸収等により、咬合時の合力の向かう点は、上記N点と下顎角の点Pとを結ぶ線L(「合力線」又は「ベクトル軸」と呼ぶ)上を点P側へ徐々に近づくこともわかっている。このように、咬合時の合力の向かう点が加齢等により変化しても、各患者の咬合曲線は、残留している歯、歯茎等を目視観察することによって、把握することが可能である。
【0031】
そこで、上記合力線L上の点(患者によってその位置は多少異なる)を中心とする円弧(実際は球面である)を描けば、理想的な咬合における各咬合点は当該円弧上に並ぶはずである。本発明は、このような知見に基づいて完成されたもので、上記円弧に基づいて義歯床を製作することにより、理想的な咬合を得るものである。
【0032】
すなわち、本発明の歯列測定装置を用いて患者の歯列の偏差を測定したら、この偏差をなくすように新たな歯列を構築すればよい。この構築
方法は公知であるので、説明を省略する。
【産業上の利用可能性】
【0033】
本発明に係る歯列測定装置は、工業的に生産可能であり、歯科医療の分野で、無歯顎症や多数歯欠損症等に対する歯科治療やインプラント治療に使用するに適したものである。
【符号の説明】
【0034】
1 歯列測定装置
2 フェイスボウ(オーラルコンパス)
3 撮影装置
20 カメラ
101 基枠
102 側部フレーム
103 横フレーム
105 回動フレーム
140 イヤピース
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9