(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記多孔質断熱層は、閉塞孔が同一面上に並んだ形態からなる一層構造、又は該一層構造を複数重ねた形態からなる複層構造であることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の表皮材。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明の実施の形態について、詳細に説明する。
【0011】
本実施形態に係る表皮材は、本革基材上に、樹脂層として、多孔質断熱層と着色層を順次積層してなる表皮材であって、前記多孔質断熱層は上部側が潰れた球状をなす閉塞孔を含み、前記多孔質断熱層の厚さが20〜100μmであり、且つ、前記多孔質断熱層の閉塞孔面積率が40〜90%であることを特徴とするものである。
【0012】
本実施形態の多孔質断熱層は、厚さが20〜100μmという薄膜でありながら、十分な断熱効果を有する。そのため、天然皮革本来の素材感である風合いや皺入りを損なうことがない。また、表皮材と皮膚の接触面積の大小による影響が少ないので、オモテ面の意匠に対する制限の小さいものでありながら、接触冷温感を改善することができる表皮材を提供することができる。ここで、表皮材のオモテ面とは、表皮材を車両内装材などの各種用途において、物体の表面を覆う表皮として用いたときに、オモテ側に現れる意匠面であり、人等が接触することができる面である。
【0013】
図1は、一実施形態に係る表皮材1の断面構造を模式的に示したものである。この表皮材1では、本革基材2の一方の面に、多孔質断熱層3および着色層4が順に積層されている。また、図示の例では、着色層4の上に保護層5が積層されている。
【0014】
本実施形態に用いられる本革基材は特に限定されるものでなく、原料として、例えば、牛、馬、豚、山羊、羊、鹿、カンガルーなどの哺乳類、ダチョウなどの鳥類、ウミガメ、オオトカゲ、ニシキヘビ、ワニなどの爬虫類などに由来するものを挙げることができる。さらに、床革や皮革繊維を用いた再生皮革を用いることもできる。なかでも、汎用性が高く、面積が大きな牛皮を原料とするものが好ましい。生皮そのものや、塩漬けにしたりして腐敗を防いだものを原皮といい、この状態のものが製革工程に供される。
【0015】
動物の皮(原皮)を鞣して、耐久性(耐熱性、耐腐敗性、耐薬品性など)を付与するとともに、革らしさを引き出したものを「本革」(単に「革」ともいう)と呼び、鞣していない「皮」とは区別される。
【0016】
製革工程は、一般に、大きく、鞣し工程、染色工程、仕上げ工程に分けられ、さらに細かく、次のように分けられる。
鞣し工程;原皮、水漬け・背割り、裏打ち、脱毛・石灰漬け、分割、再石灰漬け、脱灰・酵解、浸酸、鞣し。
染色工程;水戻し、水絞り・選別、シェービング、再鞣し、染色・加脂、セッティングアウト、乾燥、味取り、ステーキング(揉み、叩き)、張り乾燥、銀むき。
仕上げ工程;塗装、アイロン掛け・型押し、艶出し。
【0017】
個々の工程については改良が進められているものの、技術的におおよそ定まった工程であるといってよく、当業界において公知である。もっとも、一部順序が変わったり、省略されたり、あるいは、他の工程に置き換わったりする場合がある。
【0018】
塗装に先立ち、通常銀むきを施す。銀むきは、銀面の表面を削り取ることで、表面を平滑化し、個体差や部位差、虫食い、引っ掻き傷、皮膚病痕など、外観品位に影響を及ぼす要素を取り除き、均一化するための工程である。通常であれば銀むきを施すが、動物の皮本来の意匠を生かすことを目的として銀むきを施さない場合もある。
【0019】
銀むき後、本革基材の表面(一般的には銀面側)に塗装を施すことにより、第1の樹脂層として、上記多孔質断熱層を形成する。
【0020】
本実施形態における多孔質断熱層の厚さは20〜100μmであることが肝要であり、より好ましくは40〜90μmである。多孔質断熱層の厚さが20μm以上であることにより、接触冷温感を改善することができる表皮材を提供することができる。また、表皮材として必要な耐久性、特には耐摩耗性と耐モミ性を保つことができる。多孔質断熱層の厚さが100μm以下であることにより、天然皮革本来の素材感である風合いや皺入りを損なうことのない表皮材を提供することができる。
【0021】
本実施形態における多孔質断熱層は、多数の閉塞孔(すなわち、貫通していない閉じた孔)を有している断熱層である。多孔質であることにより、熱が伝わりにくくなり、表皮材が外気温による影響を受けにくく、接触冷温感の低い表皮材とすることができる。
【0022】
本実施形態では、
図1に示すように、多孔質断熱層2は、上部6A側が潰れた球状をなす閉塞孔6を含む。すなわち、閉塞孔は、球形を基本形状として、その上部側が扁平化された形状をなしており、孔の上部が扁平に近い形状に変形した横長の略楕円形状の断面形状を有する。詳細には、
図1中に拡大して示す断面形状において、閉塞孔6の下部6Bが半円形状をなし、上部6Aが半楕円形状をなしている。より詳細には、閉塞孔の断面形状は、月齢11〜13の月の形を欠けた側を上向きにした形状であることが好ましい。このような形状とすることで、表皮材のオモテ面側に空隙が多くなり、多孔質断熱層が20〜100μmという薄膜でありながら、十分な断熱効果を得ることができる。ここで、上記断面形状を規定する月齢とは、朔(新月、月と太陽の黄経差=0°、月相0)の月齢を0とし、望(満月、月と太陽の黄経差=180°、月相14)の月齢を14としたときの月齢であり、月相とも称される。
【0023】
多孔質断熱層における閉塞孔の配置構成は、閉塞孔が同一面上に並んだ形態からなる一層構造、又は該一層構造を複数重ねた形態からなる複層構造であることが好ましい。一層構造は、
図1に示すように、閉塞孔6が高低差なく均一に同一面上に並んだ状態である。複層構造は、
図2に二層構造の例を示すように、閉塞孔6が高低差なく均一に同一面上に並んだものを複数層(
図2では上層7Aと下層7Bとの2層)に重ねた状態である。このような配置構成とすることで、表皮材のオモテ面側に空隙を多くすることができるため、熱伝導率の小さい層とすることができ、多孔質断熱層が20〜100μmという薄膜でありながら、十分な断熱効果を得ることができる。
【0024】
なお、多孔質断熱層における閉塞孔は、上記の潰れた球状をなすもののみであってもよく、また、潰れた球状をなすものと真球状のものが混在したものであってもよいが、好ましくは、少なくとも着色層との界面の近傍に位置する閉塞孔が上記の潰れた球状をなすものであり、より好ましくは、全ての閉塞孔が潰れた球状をなすことである。例えば、上記一層構造の場合、その全ての閉塞孔が潰れた球状をなすことが好ましく、上記二層構造の場合、少なくとも上層7Aの閉塞孔6が潰れた球状をなすことが好ましい。なお、二層構造などの複層構造において、後述する加熱押圧加工により閉塞孔を変形させる場合、上層に比べて下層の変形が軽微になることがあるが、そのような態様も含まれる。
【0025】
閉塞孔の大きさは、特に限定されず、例えば、閉塞孔の長径が20〜60μmの範囲であることが好ましく、より好ましくは30〜50μmの範囲である。閉塞孔の長径が20μm以上であることにより、接触冷温感の改善効果を高めることができる。また、閉塞孔の長径が60μm以下であることにより、天然皮革の素材感、特には、風合いや皺入りが損なわれることを防ぐことができる。
図1に示すように、上記の潰れた球状をなす閉塞孔6では、下部6B側の球形の直径Dが閉塞孔の長径となる。
【0026】
多孔質断熱層の熱伝導率は、断熱効果の観点から、0.1W/(m・K)以下であることが好ましく、より好ましくは0.05W/(m・K)以下である。
【0027】
該熱伝導率は、以下の算出式によって求められる。
【数1】
λr:多孔質断熱層の熱伝導率(W/(m・K))
V:多孔質断熱層における閉塞孔体積率(%)
λs:多孔質断熱層を形成するマトリックスの熱伝導率(W/(m・K))
λg:閉塞孔内部の気体の熱伝導率(W/(m・K))
※ マトリックスとは、多孔質断熱層を形成する樹脂、及び、その他の添加剤(但し、中空微粒子は除く)の混合物を指す。
※ 多孔質断熱層における閉塞孔体積率(V)として、本実施形態では、多孔質断熱層の閉塞孔面積率、すなわち、多孔質断熱層の垂直断面における閉塞孔の占める割合を代入する。
【0028】
該閉塞孔面積率の算出方法は、電子顕微鏡やマイクロスコープ等による層の垂直断面の観察および画像処理等により、垂直断面の多孔質断熱層全体が占める面積に対する閉塞孔部分の面積率を求めることによる。
【0029】
本実施形態において、該閉塞孔面積率は40〜90%の範囲内である。閉塞孔面積率が40%以上であることにより、多孔質断熱層の熱伝導率を所望の値とし、接触冷温感の効果を高めることができる。閉塞孔面積率が90%以下であることにより、天然皮革の素材感、特には風合いや皺入り、および耐久性、特には耐摩耗性や耐モミ性が損なわれることを防ぐことができる。なお、閉塞孔面積率は、70〜90%であることがより好ましい。
【0030】
多孔質断熱層に多数の閉塞孔を形成する手段としては、特に限定されず公知の方法を採ることができる。例えば、機械の撹拌による物理的発泡、発泡剤添加による化学的発泡、または、中空微粒子の添加による閉塞孔形成が挙げられる。好ましくは、閉塞孔の形状や大きさ、および閉塞孔の面積比率や体積比率が調整しやすいという観点から、中空微粒子の添加による閉塞孔形成がよい。すなわち、本実施形態において、多孔質断熱層は、マトリックス(即ち、母材ないし主剤)となる樹脂に中空微粒子を配合してなるものであり、多孔質断熱層中に多数の中空微粒子を含有しており、該中空微粒子により多数の閉塞孔が形成されていることが好ましい。
【0031】
中空微粒子とは、内部の微小な空隙を、各種材料からなる皮膜(外殻、外壁などと呼ばれる)で覆った球形のものをいう。なかでも熱処理しても体積膨張を起こさないものであることが好ましい。このような中空微粒子を用いることにより、製造時の、多孔質断熱層の体積変動を最小限に抑え、品質のばらつきを少なくすることができるとともに、中空微粒子周辺の樹脂が引き伸ばされて薄くなるのを防止し、耐摩耗性を良好ならしめることができる。
【0032】
中空微粒子としては、前記条件を満足する種々のものを用いることができる。例えば、フェノール樹脂、エポキシ樹脂または尿素樹脂などの熱硬化性樹脂や、アクリル樹脂または塩化ビニル樹脂などの熱可塑性樹脂からなる外殻を有する有機系中空微粒子を挙げることができる。あるいはまた、ガラス、シラス、シリカ、アルミナまたはカーボンなどからなる外殻を有する無機系中空微粒子を挙げることもできる。また、有機系中空微粒子の表面を、炭酸カルシウム、タルクまたは酸化チタンなどの無機微粉末で被覆したものを用いることもできる。なかでも、多孔質断熱層の塗膜形成後に所望の形状(上記の潰れた球状)に変形させることができ、且つ、耐熱性、耐摩耗性、強度に優れる点から、熱可塑性樹脂からなる外殻を有する有機系中空微粒子、または、表面を無機微粉末で被覆した有機系中空微粒子が好ましい。
【0033】
好ましく用いられる熱可塑性樹脂からなる外殻を有する中空微粒子とは、典型的には、マイクロカプセル型発泡剤を予め発泡させたものである。マイクロカプセル型発泡剤自体は、熱処理により軟化かつ膨張可能な熱可塑性樹脂からなる外殻中に、低沸点炭化水素などの揮発型発泡剤を内包するものであり、本実施形態においては、これを発泡させて用いることができるほか、予め発泡させて得られた既発泡体として用いることもできる。閉塞孔の形状や大きさ、および閉塞孔の面積比率や体積比率が調整しやすいという観点から、既発泡体が好ましい。
【0034】
中空微粒子の大きさは、その長径が20〜60μmの範囲であることが好ましく、より好ましくは30〜50μmの範囲である。長径が上記範囲であることにより、得られる閉塞孔の大きさを上述の20〜60μmとすることができる。
【0035】
多孔質断熱層に主剤として用いられる樹脂、即ちマトリックスとなる樹脂は、例えば、ポリウレタン樹脂、アクリル樹脂、エポキシ樹脂、シリコーン樹脂など、公知の合成樹脂を挙げることができ、これらを1種または2種以上組み合わせて用いることができる。なかでも、風合いと耐摩耗性の観点からポリウレタン樹脂が、風合いと型入れ性(エンボス加工における賦型性)と汎用性の観点からアクリル樹脂が好ましく、これらを組み合わせて用いることがより好ましい。
【0036】
ポリウレタン樹脂は特に限定されるものでなく、例えば、ポリカーボネート系ポリウレタン樹脂、ポリエーテル系ポリウレタン樹脂、ポリエステル系ポリウレタン樹脂などを挙げることができ、これらを1種または2種以上組み合わせて用いることができる。なかでも、耐久性の観点から、ポリカーボネート系ポリウレタン樹脂が好ましく、風合いの観点から、ポリエーテル系ポリウレタン樹脂が好ましく、これらを組み合わせて用いることがより好ましい。
【0037】
また、ポリウレタン樹脂の形態は、無溶剤系(無溶媒系)、ホットメルト系、溶剤系、水系を問わず、さらには、一液型、二液硬化型を問わず使用可能であり、その目的と用途に応じて適宜選択すればよい。なかでも、溶媒を乾燥除去するだけで皮膜形成が可能なため一液型樹脂が好ましく用いられる。一液型樹脂は、通常、水に乳化分散(エマルジョンタイプ)または有機溶剤に溶解させた形で市販されているが、環境負荷の観点から、エマルジョンタイプが好ましく用いられる。
【0038】
アクリル樹脂は特に限定されるものでなく、例えば、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸プロピル、アクリル酸ブチル、アクリル酸イソブチル、アクリル酸2−エチルへキシル等のアクリル酸アルキルエステル類;メタクリル酸メチル、アクリル酸エチル、メタクリル酸プロピル、メタクリル酸ブチル、メタクリル酸イソブチル、メタクリル酸2−エチルヘキシル等のメタクリル酸アルキルエステル類;アクリル酸2−ヒドロキシエチル、アクリル酸2−ヒドロキシプロピル、アクリル酸2−ヒドロキシブチル等のヒドロキシ基含有アクリル酸エステル類;メタクリル酸2−ヒドロキシエチル、メタクリル酸2−ヒドロキシプロピル、メタクリル酸4−ヒドロキシブチル等のヒドロキシ基含有メタクリル酸エステル類などの重合体を挙げることができ、これらを1種または2種以上組み合わせて用いることができる。
【0039】
アクリル樹脂は市販のものを用いることができ、通常、水に乳化分散(エマルジョンタイプ)または有機溶剤に溶解させた形で市販されているが、環境負荷の観点からエマルジョンタイプが好ましく用いられる。
【0040】
本実施形態において、多孔質断熱層は、耐久性、特には耐モミ性の観点から、10%モジュラス値が1.0MPa以下であることが好ましく、より好ましくは0.8MPa以下である。
【0041】
多孔質断熱層の10%モジュラス値は、以下のように求められる。すなわち、多孔質断熱層を形成する樹脂液をフラットな離型紙(EU130TPD、リンテック株式会社製)上に、バーコーターを用いて、硬化膜の厚さが100μmとなるように塗布し、乾燥機にて80℃で2分間熱処理後、室温20±2℃、湿度65±5%RHの状況下で1日間エージング処理して硬化膜を作成する。
該硬化膜から幅30mm、長さ100mmの大きさの試験片を3枚採取し、室温20±2℃、湿度65±5%RHの状況下で、引張試験機(オートグラフAG−X、株式会社島津製作所製)のつかみ具に、つかみ幅30mm、つかみ間隔50mmで取り付け、引張速度100m/分で引っ張り、ストローク距離が5mmになったときの荷重を測定し、下記式にて10%モジュラス値を算出し、3点の平均値を多孔質断熱層の10%モジュラス値とする。
10%モジュラス値(MPa)=ストローク距離が5mmになったときの荷重(N)/試験片断面積(mm
2)
【0042】
多孔質断熱層を形成する樹脂液には、必要に応じて、多孔質断熱層の物性を損なわない範囲内で、顔料、艶消し剤、平滑剤、界面活性剤、充填剤、レベリング剤、増粘剤、架橋剤などの各種の添加剤を用いることができる。
【0043】
多孔質断熱層の着色は必ずしも要さないが、顔料により所望の色、すなわち着色層と同色または近似色に着色されていることが好ましい。これにより着色層による調色が容易になる。着色する場合に用いる顔料は、表皮材そのものの温度上昇を抑制するという観点から、赤外線反射または透過機能を有する顔料を用いることが好ましい。赤外線反射または透過機能を有する顔料としては、例えば、ペリレン系、アゾメチン系等の有機顔料や、酸化チタン系、複合酸化物系等の無機顔料などを挙げることができる。
【0044】
多孔質断熱層を形成する樹脂液には、先述した添加剤以外に、必要に応じて溶媒を含有させる。溶媒としては、環境負荷の観点から、好ましくは水が用いられる。
【0045】
多孔質断熱層は、多孔質断熱層を形成する樹脂液を塗布した後、熱処理をすることにより形成される。
【0046】
多孔質断熱層を形成する樹脂液の塗布には、例えば、リバースロールコーター、スプレーコーター、ロールコーター、グラビアコーター、キスロールコーター、ナイフコーター、コンマコーターなどの装置を特に制限なく用いることができる。なかでも、少ない塗布量で均一な皮膜を形成することで、エンボスする際に皮膜に均一に圧をかけることができ、上記一層構造又は複層構造の多孔質断熱層を容易に形成できることから、リバースロールコーターによる塗布が好ましい。塗布厚あるいはウェット塗布量は、所望する多孔質断熱層の厚さに応じて適宜設定すればよい。
【0047】
上記一層構造の多孔質断熱層を形成する方法としては、例えば、中空微粒子の長径と同程度〜やや大きい程度の厚みで上記樹脂液を塗布し、熱処理する方法が挙げられる。また、複層構造の多孔質断熱層を形成する方法としては、例えば、(1)中空微粒子の長径と同程度〜やや大きい程度の厚みで上記樹脂液を塗布し、熱処理した後、同様の条件で樹脂液を再塗布し、熱処理する方法、及び、(2)中空微粒子の長径のほぼ倍数(すなわち、2層であればほぼ2倍、3層であればほぼ3倍)〜やや大きい程度の厚みで上記樹脂液を塗布し、熱処理する方法が挙げられる。
【0048】
熱処理は、塗料中の溶媒を蒸発させ、樹脂を乾燥させるために行われる。本革基材の過剰な水分蒸発を防ぐために、熱処理は、本革基材自体が80℃以上の温度にならないように行うことが好ましい。そのため、熱処理温度は90〜130℃であることが好ましく、より好ましくは100〜120℃である。また、熱処理時間は1〜5分間であることが好ましく、より好ましくは2〜3分間である。熱処理温度や熱処理時間が下限値以上であると、乾燥が不十分となることはない。熱処理温度や熱処理時間が上限値以下であると、風合い、触感が硬くなることを防ぐことができる。
【0049】
このようにして多孔質断熱層を形成した後、該多孔質断熱層の表面に加熱押圧加工を施す。加熱押圧加工を行うことにより、多孔質断熱層内の閉塞孔を上記所望の形状にすることができる。すなわち、多孔質断熱層を加熱押圧することにより、閉塞孔の上部が扁平に近い形状に変形し、所望の形状(上部側が潰れた球状、具体的には、月齢11〜13の月の形の欠けた側を上向きにした形状)にすることができる。なお、上述した多孔質断熱層の厚みは、加熱押圧加工後における多孔質断熱層の厚みである。
【0050】
加熱押圧加工としては、表面に凹凸模様を付与するエンボス加工が挙げられる。すなわち、エンボス加工であれば、得られる表皮材のオモテ面に凹凸模様の意匠を付与しつつ、上記閉塞孔の変形加工も行うことができる。
【0051】
エンボス加工には、公知のエンボス装置を制限なく用いることができる。エンボス型は、ロール状のもの(エンボスロール)であっても、平板状のもの(エンボス板)であってもよい。さらに、互いの凹凸模様が対向部において重なり合うように製造されたもの(雄型と雌型)であっても、一方が凹凸模様を有し、他方は平坦面を有するものであってもよい。なかでも、連続加工性に優れ、且つ、本革基材の風合いを損なわないという点で、凹凸模様を有するロールと平坦面を有するロールとを備えるエンボス装置が好ましい。
【0052】
凹凸模様の形状は特に限定されるものでなく、例えば、シボ模様や、点、直線、曲線、点線、円、楕円、三角形、四角形、多角形などの幾何学模様などを挙げることができ、2種以上組み合わせた模様であってもよい。
【0053】
凹凸模様を有する側のロールまたは平板の加熱温度(すなわち、加熱押圧加工時の熱処理温度に相当する)は、適宜設定すればよいが、多孔質断熱層が溶融しない程度の温度で行うことが好ましい。そのため加熱温度は、60〜120℃であることが好ましい。押圧時の圧力や速度、本革基材の導入張力などの諸条件については、適宜設定すればよい。
【0054】
次いで、多孔質断熱層の表面に、第2の樹脂層として、着色層を形成する。着色層は、多孔質断熱層を隠蔽し、且つ、本革製品を所望の色に着色するための層である。
【0055】
着色層を形成する樹脂としては、多孔質断熱層の主剤と同様の樹脂を用いることができる。なかでも、風合いと耐摩耗性の観点からポリウレタン樹脂が、風合いと型入れ性(エンボス加工における賦型性)と汎用性の観点からアクリル樹脂が好ましく、これらを組み合わせて用いることがより好ましい。
【0056】
着色層を形成する樹脂液には着色剤として、無機顔料、有機顔料等の顔料が添加される。なかでも、表皮材そのものの温度上昇を抑制するという観点から、赤外線反射または透過機能を有する顔料を用いることが好ましい。赤外線反射または透過機能を有する顔料としては、多孔質断熱層と同様の顔料を用いることができる。
【0057】
着色剤の添加量は特に限定されるものでなく、所望の色に応じて適宜設定すればよいが、着色層を形成する組成物全体に対して、固形分換算で、1.0〜20質量%の範囲であることが好ましく、より好ましくは5.0〜15質量%である。添加量が1.0質量%以上であると、多孔質断熱層の隠蔽性や、意匠として充分な着色性を高めることができる。添加量が20質量%以下であれば、塗膜強度の低下に伴う耐摩擦堅牢度が損なわれることもない。
【0058】
着色層を形成する樹脂液には、着色剤の他、必要に応じて、公知の添加剤、例えば、平滑剤、架橋剤、艶消し剤、レベリング剤等を用いることができる。着色層を形成する樹脂液には、該添加剤以外に、必要に応じて溶媒を含有させる。溶媒としては、環境負荷の観点から、好ましくは水が用いられる。
【0059】
着色層は、着色層を形成する樹脂液を塗布した後、熱処理をすることにより形成される。
【0060】
着色層を形成する樹脂液の塗布方法は、多孔質断熱層の塗布方法に挙げた方法を用いることができる。なかでも、均一で薄い塗膜の形成が可能という理由から、リバースロールコーター、スプレーコーターによる塗布が好ましい。塗布厚あるいはウェット塗布量は、所望する着色層の厚さに応じて適宜設定すればよい。
【0061】
熱処理は、塗料中の溶媒を蒸発させ、樹脂を乾燥させるために行われる。本革基材の過剰な水分蒸発を防ぐために、熱処理は、本革基材自体が80℃以上の温度にならないように行うことが好ましい。そのため、熱処理温度は90〜130℃であることが好ましく、より好ましくは100〜120℃である。また、熱処理時間は1〜5分間であることが好ましく、より好ましくは2〜3分間である。熱処理温度や熱処理時間が下限値以上であると、乾燥が不十分となることはない。熱処理温度や熱処理時間が上限値以下であると、風合い、触感が硬くなることを防ぐことができる。
【0062】
着色層の厚さは、1〜50μmであることが好ましく、より好ましくは5〜40μmである。厚さが1μm以上であると、均一な塗膜を形成することができ、色むらが生じたり、耐摩耗性などの耐久性が悪くなったりすることを防ぐことができる。厚さが50μm以下であると、天然皮革本来の素材感、特に風合いや皺入りが損なわれたり、接触冷温感の改善効果が損なわれたりすることを防ぐことができる。
【0063】
かくして、本実施形態に係る表皮材が得られる。
【0064】
本実施形態の表皮材は、着色層の表面に、第3の樹脂層として、保護層を形成することが好ましい。保護層の役割は、耐摩耗性などの耐久性を向上させることである。
【0065】
保護層を形成する樹脂としては、多孔質断熱層の主剤と同様の樹脂を用いることができる。なかでも、風合いと耐摩耗性の観点からポリウレタン樹脂が好ましく、ポリカーボネート系ポリウレタン樹脂がより好ましい。樹脂のタイプは、無溶剤系、溶剤系、水系など特に限定されない。
【0066】
保護層を形成する樹脂液には、多孔質断熱層の場合と同様、各種の添加剤を添加してもよい。なかでも、耐摩耗性の観点から架橋剤を、意匠性の観点から着色剤(顔料)を添加することが好ましい。着色剤として用いる顔料は、表皮材そのものの温度上昇を抑制するという観点から、赤外線反射または透過機能を有する顔料を用いることが好ましい。赤外線反射または透過機能を有する顔料としては、多孔質断熱層と同様の顔料を用いることができる。
【0067】
保護層を形成する樹脂液には、先述した添加剤以外に、必要に応じて溶媒を含有させる。溶媒としては、環境負荷の観点から、好ましくは水が用いられる。
【0068】
保護層は、保護層を形成する樹脂液を塗布した後、熱処理をすることにより形成される。
【0069】
保護層を形成する樹脂液の塗布方法は、多孔質断熱層の塗布方法に挙げた方法を用いることができる。なかでも、均一で薄い塗膜の形成が可能という理由から、リバースロールコーター、スプレーコーターによる塗布が好ましい。塗布厚あるいはウェット塗布量は、所望する保護層の厚さに応じて適宜設定すればよい。
【0070】
熱処理は、塗料中の溶媒を蒸発させ樹脂を乾燥させるとともに、架橋剤を用いる場合は、架橋反応を促進し、十分な強度を有する塗膜を形成するために行われる。本革基材の過剰な水分蒸発を防ぐために、熱処理は、本革基材自体が80℃以上の温度にならないように行うことが好ましい。そのため、熱処理温度は90〜130℃であることが好ましく、より好ましくは100〜120℃である。また、熱処理時間は1〜5分間であることが好ましく、より好ましくは2〜3分間である。熱処理温度や熱処理時間が下限値以上であると、乾燥が不十分となることはない。熱処理温度や熱処理時間が上限値以下であると、風合い、触感が硬くなることを防ぐことができる。
【0071】
保護層の厚さは、1〜30μmであることが好ましく、より好ましくは10〜25μmである。厚さが1μm以上であると、均一な塗膜を形成することができ、耐摩耗性などの耐久性が悪くなることを防ぐことができる。厚さが30μm以下であると、天然皮革本来の素材感、特に風合いや皺入りが損なわれたり、接触冷温感の改善効果が損なわれたりすることを防ぐことができる。
【0072】
本実施形態の表皮材において、着色層と保護層の厚みの合計は、20〜50μmであることが好ましく、より好ましくは20〜35μmである。厚みの合計が20μm以上であると、耐久性、特に耐摩耗性や耐モミ性が損なわれたり、所望の意匠性が損なわれたりすることを防ぐことができる。厚みの合計が50μm以下であれば、天然皮革本来の素材感、特に風合いや皺入りが損なわれたり、接触冷温感の改善効果が損なわれたりすることを防ぐことができる。
【0073】
本発明が対象とする表皮材は、本革基材と、多孔質断熱層と、着色層とを必須の構成部材とするものであるが、必要に応じて、各層の間に、1層または2層以上の層を備えていてもよい。
【0074】
本発明の表皮材の用途は、特に限定されないが、例えば、自動車用シート、天井材、ダッシュボード、ドア内張材またはハンドルなどの自動車内装材をはじめとする各種車両のための内装材用途の他、ソファーや椅子のための表皮などのインテリア用途に用いることができる。
【実施例】
【0075】
以下、実施例により更に詳しく説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0076】
[実施例1]
(1)本革基材の調製
原皮として成牛皮を用い、通常の工程を経ることにより銀むきまでを行った。なお、染色は着色層と同系色になるように行った。
【0077】
(2)多孔質断熱層の形成
[処方A1]
1)商品名「BAYDERM Bottom DLV」;160質量部
(ポリカーボネート系ポリウレタン樹脂、固形分40質量%)
2)商品名「BAYDERM Bottom 51UD」;200質量部
(ポリエーテル系ポリウレタン樹脂、固形分35質量%)
3)商品名「PRIMAL SB−300」;200質量部
(アクリル樹脂、固形分34質量%)
4)商品名「マツモトマイクロスフェアー F−30E」:20質量部
(中空微粒子:平均粒子径45μm、固形分11質量%)
5)商品名「DILAC BLACK HS−9630」;160質量部
(ペリレン系黒顔料、固形分20質量%)
6)商品名「EUDERM Nappa Softs」;110質量部
(艶消し剤、固形分25質量%)
7)商品名「EUDERM Matting Agent SN−C」;120質量部
(艶消し剤・充填剤、固形分23質量%)
8)商品名「EUDERM Paste DO」;40質量部
(艶消し剤・充填剤、固形分52質量%)
9)商品名「AQUADERM Fluid H」;10質量部
(レベリング剤:水分散タイプシリコーン系、固形分100質量%)
10)商品名「ACRYSOL RM−1020」;約10質量部
(増粘剤、固形分20質量%)
11)水;150質量部
原料は、水を除き、顔料はDIC株式会社製、中空微粒子は松本油脂製薬株式会社製、その他はランクセス株式会社製である。
【0078】
処方A1に従い、各原料をミキサーにて混合し、粘度を6,500mPa・s(デジタル粘度計、BROOKFIELD社製、25℃)になるように、増粘剤で調整した。
【0079】
上述の処方A1に従い調製した多孔質断熱層用樹脂組成物を、上述の(1)に従い調製した本革基材の表面に、リバースロールコーター(商品名「JUMBOSTAR−SR」、Ge.Ma.Ta.SpA製)にて、ウェット塗布量が250g/m
2になるように塗布し、乾燥機にて110℃で3分間処理して、多孔質断熱層を形成した。
【0080】
(3)エンボス加工
(2)で得られた多孔質断熱層の表面に、エンボス機(商品名「KOMBIPRESS−1800NE」、BERGI ofb s.p.a製)を用いて、70℃、圧力:1470N/m
2、加工速度:2.8m/分で、熱エンボスを行い、表面に毛シボ柄の意匠付けを行った。エンボス加工後の多孔質断熱層の厚さは、68.7μmであった。なお、層の厚さは、合成皮革の垂直断面をマイクロスコープ(キーエンス株式会社製、デジタルHFマイクロスコープVH−8000)で観察し、任意の10カ所についての厚さを測定し、これらの平均値を算出した。
【0081】
(4)着色層の形成
[処方B1]
1)商品名「BAYDERM Bottom DLV」;160質量部
(ポリカーボネート系ポリウレタン樹脂、固形分40質量%)
2)商品名「BAYDERM Bottom 51UD」;200質量部
(ポリエーテル系ポリウレタン樹脂、固形分35質量%)
3)商品名「PRIMAL SB−300」;200質量部
(アクリル樹脂、固形分34質量%)
4)商品名「DILAC BLACK HS−9610」;160質量部
(ペリレン系黒顔料、固形分20質量%)
5)商品名「EUDERM Nappa Softs」;110質量部
(艶消し剤、固形分25質量%)
6)商品名「EUDERM Matting Agent SN−C」;120質量部
(艶消し剤・充填剤、固形分23質量%)
7)商品名「EUDERM Paste DO」;40質量部
(艶消し剤・充填剤、固形分52質量%)
8)商品名「AQUADERM Fluid H」;10質量部
(レベリング剤、固形分100質量%)
9)商品名「ACRYSOL RM−1020」;約5質量部
(増粘剤、固形分20質量%)
10)水;150質量部
原料は、水を除き、顔料はDIC株式会社製、他はランクセス株式会社製である。
【0082】
処方B1に従い、各原料をミキサーにて混合し、粘度を25秒(カップ粘度計、フォードカップNo.4、株式会社明治機械製作所、25℃)になるように、増粘剤で調整した。
【0083】
(3)の工程を経た中間製品の表面に、スプレーコーター(商品名「TU ROT.3400/1.41」、BARNINI Srl製)を用いて、着色層用樹脂組成物を、ウェット塗布量が30g/m
2となるよう塗布し、乾燥機にて110℃で3分間処理して、無孔質の着色層を形成した。着色層の厚さは、8.3μmであった。なお、層の厚さは、合成皮革の垂直断面をマイクロスコープ(キーエンス株式会社製、デジタルHFマイクロスコープVH−8000)で観察し、任意の10カ所についての厚さを測定し、これらの平均値を算出した。
【0084】
(5)保護層の形成
[処方C1]
1)商品名「HYDRHOLAC UD−2」;340質量部
(ポリカーボネート系ポリウレタン樹脂、固形分25質量%)
2)商品名「HYDRHOLAC Finish HW−2」;120質量部
(ポリカーボネート系ポリウレタン樹脂、固形分35質量%)
3)商品名「AQUADERM Finish HAT」;200質量部
(ポリカーボネート系ポリウレタン樹脂、固形分40質量%)
4)商品名「DILAC BLACK HS−9610」;20質量部
(ペリレン系黒顔料、固形分20質量%)
5)商品名「Rosilk 2229」;70質量部
(平滑剤、固形分60質量%)
6)商品名「AQUADERM Additive SF」;30質量部
(平滑剤、固形分50質量%)
7)商品名「AQUADERM Fluid H」;10質量部
(レベリング剤、固形分100質量%)
8)商品名「AQUADERM XL−50」;150質量部
(架橋剤、ヘキサメチレンジイソシアネート(HDI)、固形分50質量%)
9)商品名「ACRYSOL RM1020」;約10質量部
(増粘剤、固形分20質量%)
10)水;150質量部
原料は、水を除き、顔料はDIC株式会社製、他はランクセス株式会社製である。
【0085】
処方C1に従い、各原料をミキサーにて混合し、粘度を25秒(カップ粘度計、フォードカップNo.4、株式会社明治機械製作所、25℃)になるように、増粘剤で調整した。
【0086】
(4)で得られた中間製品の表面に、スプレーコーター(商品名「TU ROT.3400/1.41」、BARNINI Srl製)を用いて、保護層用樹脂組成物を、ウェット塗布量が25g/m
2となるよう塗布し、乾燥機にて110℃で3分間処理し、この工程を2回繰り返して無孔質の保護層を形成した。保護層の厚さは、固形分と塗布量から換算すると16.1μmであった。
【0087】
かくして、実施例1の表皮材を得た。得られた表皮材は、オモテ面に毛シボ柄の凹凸を有するものであり、多孔質断熱層は
図1に示すような一層構造であり、その閉塞孔の形状は、上部側が潰された球状(表中、「扁平化球状」と記載)であった。上記処方A1で配合した中空微粒子は真球状であったが、多孔質断熱層の塗膜形成後にエンボス加工を行うことにより扁平化された形状となった。閉塞孔の断面形状は、月齢12の月の欠けた側を上向きにした形状であった。閉塞孔の大きさ(長径)は45μmであり、閉塞孔面積率は75%、熱伝導率は0.04W/(m・K)、多孔質断熱層の10%モジュラス値は0.7MPa、着色層と保護層の厚さの合計は24.5μmであった。
なお、閉塞孔の形状は、表皮材の垂直断面をマイクロスコープ(キーエンス株式会社製、デジタルHFマイクロスコープVH−8000)で観察した。閉塞孔の大きさは、表皮材の垂直断面をマイクロスコープ(キーエンス株式会社製、デジタルHFマイクロスコープVH−8000)で観察し、最大値を閉塞孔の大きさとした。閉塞孔面積率は、表皮材の垂直断面をマイクロスコープ(キーエンス株式会社製、デジタルHFマイクロスコープVH−8000)で観察し、多孔質断熱層部分の画像をパーソナルコンピューターに読み込み、閉塞孔を白色に塗り潰した後、該閉塞孔と、そうでない部分の色を白と黒に二値化して、白ドット部分を積分により集計することにより、閉塞孔の面積率を算出した。
【0088】
[実施例2〜9及び比較例1〜4]
各々の層の構成を表1に示す通りに作製した以外は、全て実施例1と同様にして作製した。
なお、実施例3において、多孔質断熱層は
図2に示すような二層構造であり、その閉塞孔の形状は、上層7A及び下層7Bともに、上部側が潰された球状であり、断面形状の月齢は上層7Aが12、下層7Bが13であった(表1中、「上12/下13」と表記)。比較例2及び3も同様である。実施例2,4〜6,9及び比較例1,4の多孔質断熱層はいずれも一層構造であった。
実施例6は、保護層を設けていない例である。実施例7及び8では、多孔質断熱層用樹脂組成物を、中空微粒子の長径の2倍よりも薄く塗布したので、中空微粒子が2層にきちんと並ばす、閉塞孔の配置が非層状構造となっていた。
実施例9では、エンボスロールの代わりに表面が平坦なアイロンロールを用いて加熱押圧加工を行った。温度、圧力、加工速度は、上記エンボス加工と同じである。一方、比較例4は、エンボス加工の条件において、圧力を735N/m
2に変更した例であり、圧力が低かったことから、多孔質断熱層の閉塞孔が変形せず、断面形状が略真円形であった。
【0089】
作製された表皮材について、接触面積割合、接触冷感(q
max)、接触冷感の官能評価、接触温感の官能評価、風合い、皺入り、耐摩耗性、及び、耐モミ性の評価を次の方法によって行い、結果を表1に記載した。
【0090】
[接触面積割合]
接触面積割合は、人が表皮材に触れた場合に、表皮材のオモテ面に皮膚が密着する面積の割合を簡易的に算出したものである。具体的には、表皮材のオモテ面において、タテ2.5mm、ヨコ2.0mmの長方形の領域を無作為に抽出し、レーザー顕微鏡(VK−8500、株式会社キーエンス製)を用いて、XY座標10μm毎における深さを計測した。上記領域内に存在する最も高い凸部の頂点(即ち、領域内の最高点)から50μmまでの深さを示すXY座標の個数の、全体のXY座標個数に対する割合を、表皮材のオモテ面における接触面積割合とした。上記領域の抽出は無作為に10箇所で行い、これら10箇所で算出した接触面積割合の平均値を、表皮材のオモテ面における接触面積割合とした。
【0091】
[接触冷感の評価(q
maxの測定)]
接触冷感の評価として、精密迅速熱物性測定装置(KES−F−M7サーモラボII型、カトーテック株式会社製)を用いてq
maxを測定した。この装置は、試料となる表皮材を貼り付ける試料台と、検出器とを備えている。検出器の一面には銅薄板が貼られており、銅薄板の裏面には温度センサーが取り付けられている。試料台及び検出器にはヒーターが取り付けられており、それぞれ独立して制御装置によって温度を設定することが可能となっている。
試料台に表皮材を貼り付け、制御装置によって試料台を20℃に設定し、検出器の銅薄板の温度を40℃に設定する。次いで、20℃×60%RHの雰囲気で、試料台上の表皮材のオモテ面と検出器の銅薄板とを接触させると同時に、温度センサーからのセンサー出力を記録する。このとき、銅薄板は表皮材を介して試料台に熱を奪われ、温度が低下する。このときの最大熱吸収速度(q
max)を測定した。q
maxの値が大きいほど、人が触ったときの冷感が大きく感じられる。
【0092】
[接触冷感の評価(官能評価)]
試験片を0℃で30分間放置した後、被験者が表皮材のオモテ面に手のひらを接触させた際に、被験者が感じた接触冷感を下記の基準に従って判定した。なお、被験者による官能評価は、10人の被験者による評価の平均を算出した。
6…急激な温度変化が全く感じられない
5…急激な温度変化をごくわずかに感じるが、不快感はない
4…急激な温度変化をわずかに感じるが、不快感はない
3…急激な温度変化を感じ、わずかに不快感がある
2…急激な温度変化をかなり感じ、不快感がある
1…急激な温度変化を強く感じ、かなり不快感がある
【0093】
[接触温感の評価(官能評価)]
試験片を70℃で30分間放置した後、被験者が表皮材のオモテ面に手のひらを接触させた際に、被験者が感じた接触温感を下記の基準に従って判定した。
6…急激な温度変化が全く感じられない
5…急激な温度変化をごくわずかに感じるが、不快感はない
4…急激な温度変化をわずかに感じるが、不快感はない
3…急激な温度変化を感じ、わずかに不快感がある
2…急激な温度変化をかなり感じ、不快感がある
1…急激な温度変化を強く感じ、かなり不快感がある
【0094】
[風合い]
150mm四方の大きさの試験片を1枚採取し、ST300 Leather Softness Tester(BLC Leather Technology Center Ltd.製)を用いて、500gの荷重で押し込んだときの歪み測定値(BLC値)を測定し、下記基準に従って判定した。歪み測定値が大きいほど、柔軟であり、風合いが優れる。
◎:3.0mm以上
○:2.5mm以上、3.0mm未満
△:2.0mm以上、2.5mm未満
×:2.0mm未満
【0095】
[皺入り]
折り曲げた際の皺入り(着色層を内面にして手で3秒折り曲げた際の、着色層への皺の入り方)を下記の基準に従って、評価した。
◎:多孔質断熱層のない表皮材と遜色ない緻密な皺が入る
○:やや緻密な皺が入る
△:大きく粗い皺が入る
×:皺がほとんど入らない
【0096】
[耐摩耗性]
幅50mm、長さ120mmの大きさでタテ、ヨコ各方向からそれぞれ1枚ずつ試験片を採取する。次に、試験片を、摩擦試験機I型(クロックメーター:テスター産業株式会社製)のテーブルに以下のように固定する。
内径4mm、外径6mm、長さ100mmのシリコンチューブ(コードナンバー55−586−12、井内盛栄堂株式会社製)を試験機のテーブルに取り付け、該シリコンチューブと試験片の間に15mm隙間ができるように試験片を取り付ける。このとき、試験片の幅が35mmになるように両面テープで固定する。
次いで、60mm四方に裁断した綿帆布(JIS L3102:並綿帆布No.9)を摩擦子(2cm四方の平板)に両面テープで取り付ける。面圧が330g/cm
2になるよう摩擦子に荷重をかけた状態で、ストロークを50mmとし、50回/分サイクルにて1000回毎に塗膜の状態を確認し、最大20000回まで摩耗操作を行った。
塗膜割れ、はがれ等を生じた摩擦回数を耐摩耗性の評価とした。摩擦回数が多いほど、耐摩耗性に優れる。
【0097】
[耐モミ性]
幅25mm、長さ120mmの大きさでタテ、ヨコ各方向からそれぞれ2枚ずつ試験片を採取する。同一方向の2枚の試験片について、そのオモテ面側を内側にして重ね合わせ、スコット型耐もみ摩耗試験機(大栄科学精器製作所製)のつかみ具の間隔を15mmとして試験片を取り付ける。2枚の試験片が互いに開いて分離した状態となるように、つかみ具の間隔を次第に狭め、試験片同士のオモテ面が軽く触れてから荷重をかけて、荷重が9.8Nとなるまでその間隔を狭める。ストロークを40mmとし、120回/分サイクルにて1000回毎に塗膜の状態を確認し、最大6000回までモミ操作を行った。
塗膜剥がれが発生したモミ回数を耐モミ性の評価とした。モミ回数が多いほど耐モミ性に優れる。
【0098】
【表1】
【0099】
表1に示すように、実施例1〜9であると、天然皮革本来の素材感である風合い及び皺入りを損なうことなく、また、表皮材としての必要な耐摩耗性及び耐モミ性を維持しつつ、接触冷温感が改善されていた。実施例7及び8と、その他の実施例との対比から明らかなように、多孔質断熱層の閉塞孔の配置構成を上記一層又は複層の層状構造とすることにより、非層状構造の場合に比べて、接触冷温感と、風合い及び皺入りとのバランスをより一層向上することができる。
比較例1では、多孔質断熱層が薄すぎて、接触冷温感に劣っており、耐モミ性も不十分であった。比較例2では、多孔質断熱層が厚すぎて、風合いと皺入りに劣っていた。比較例3では、多孔質断熱層の閉塞孔面積率が低すぎて、接触冷温感に劣っていた。比較例4では、多孔質断熱層の閉塞孔が扁平化されていなかったため、薄膜の多孔質断熱層では十分な断熱効果が得られず、接触冷温感に劣っていた。