(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6261333
(24)【登録日】2017年12月22日
(45)【発行日】2018年1月17日
(54)【発明の名称】耐震補強方法
(51)【国際特許分類】
E04G 23/02 20060101AFI20180104BHJP
【FI】
E04G23/02 F
【請求項の数】2
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2013-267669(P2013-267669)
(22)【出願日】2013年12月25日
(65)【公開番号】特開2015-124484(P2015-124484A)
(43)【公開日】2015年7月6日
【審査請求日】2016年9月27日
(73)【特許権者】
【識別番号】000003621
【氏名又は名称】株式会社竹中工務店
(74)【代理人】
【識別番号】110001818
【氏名又は名称】特許業務法人R&C
(72)【発明者】
【氏名】吉岡 隆宏
(72)【発明者】
【氏名】杉野 慶明
(72)【発明者】
【氏名】五閑 大輔
(72)【発明者】
【氏名】井口 裕三
【審査官】
星野 聡志
(56)【参考文献】
【文献】
特開平10−152997(JP,A)
【文献】
特開2003−328568(JP,A)
【文献】
特開2001−073561(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E04G 23/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
既存梁に対するコンクリート製の増し打ち梁と、該増し打ち梁の下方に一体に連設された補強フレームとで既存架構を補強する耐震補強方法であって、
前記補強フレームは、左右の既存柱に亘って設けられた矩形部を有しており、
前記増し打ち梁の形成に先立って前記補強フレームを所定位置に設置し、
この先行設置した補強フレームを支保工にして前記増し打ち梁を前記矩形部の上側に隣接する状態で形成する耐震補強方法。
【請求項2】
上下荷重を伝達可能な位置保持部材を介在させた状態で、上下に隣り合う複数の架構の各々に対する前記補強フレームを設置し、
これら先行設置した補強フレームと位置保持部材とを支保工にして各架構の既存梁に対する複数の前記増し打ち梁を形成する請求項1記載の耐震補強方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、既存梁に対するコンクリート製の増し打ち梁と、該増し打ち梁の下方に一体に連設された補強フレームとで既存架構を補強する耐震補強方法に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、既存梁に対するコンクリート製の増し打ち梁を形成した後、該増し打ち梁の下方に補強フレームを一体に連設して既存架構を補強する耐震補強方法が開示されている。
【0003】
つまり、開口部の上部を囲む既存梁の外面側に鉄筋を配筋し、これらの鉄筋を囲む型枠を設置してコンクリートを打設することにより、開口部の上部を囲む増し打ち梁を形成する。
この後、増し打ち梁の下方である開口部側に補強フレームを取り付け、増し打ち梁と補強フレームとを囲む型枠を設置して、この型枠の内部にモルタルを充填することにより増し打ち梁の下方に補強フレームを一体に連設する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2011−214261号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記従来の耐震補強方法では、増し打ち梁を形成した後、その増し打ち梁の下方に補強フレームを取り付けるので、増し打ち梁を形成するコンクリートの養生期間が経過するまでは補強フレームの取り付け作業を開始することができず、工期短縮を図り難い。
また、増し打ち梁用の鉄筋を囲む型枠を内部に打設されるコンクリートと共に支持するために、支柱などの支保工を別途設置する必要がある。
このため、支保工の設置作業や撤去作業に手間が掛かり、作業能率の向上を図り難い。
【0006】
本発明は上記実情に鑑みてなされたものであって、工期短縮も作業能率の向上も図り易い耐震補強方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明による耐震補強方法の特徴構成は、既存梁に対するコンクリート製の増し打ち梁と、該増し打ち梁の下方に一体に連設された補強フレームとで既存架構を補強する耐震補強方法であって、
前記補強フレームは、左右の既存柱に亘って設けられた矩形部を有しており、前記増し打ち梁の形成に先立って前記補強フレームを所定位置に設置し、この先行設置した補強フレームを支保工にして前記増し打ち梁を
前記矩形部の上側に隣接する状態で形成する点にある。
【0008】
本構成の耐震補強方法は、増し打ち梁の形成に先立って補強フレームを所定位置に設置し、この先行設置した補強フレームを支保工にして増し打ち梁を形成する。
このため、増し打ち梁を形成するコンクリートの養生期間の経過を待つことなく、補強フレームの取り付け作業を開始することができる。
また、支柱などの支保工を別途設置することなく、つまり、支保工の設置作業や撤去作業に手間を掛けることなく、増し打ち梁を形成することができる。
したがって、本構成の耐震補強方法であれば、工期短縮も作業能率の向上も図り易い。
【0009】
本発明の他の特徴構成は、上下荷重を伝達可能な位置保持部材を介在させた状態で、上下に隣り合う複数の架構の各々に対する前記補強フレームを設置し、これら先行設置した補強フレームと位置保持部材とを支保工にして各架構の既存梁に対する複数の前記増し打ち梁を形成する点にある。
【0010】
本構成では、上下に隣り合う複数の架構の各々に対する補強フレームを、それらの補強フレームに作用する荷重が位置保持部材を介して上下に伝達されるように設置する。
このため、これらの補強フレームと位置保持部材とを支保工にして、各架構の既存梁に対応する複数の増し打ち梁を同時に形成することができ、工期短縮も作業能率の向上も一層図り易い。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】補強前の建物外壁を建物外側から見た正面図である。
【
図3】補強後の建物外壁を建物外側から見た正面図である。
【
図5】耐震補強方法を説明する建物外側から見た正面図である。
【
図6】耐震補強方法を説明する建物外壁を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下に本発明の実施の形態を図面に基づいて説明する。
図1,
図2は、補強前の既存の鉄筋コンクリート製建物外壁Aを示す。
図3,
図4は、本発明による耐震補強方法で補強してある補強後の建物外壁Bを示す。
【0013】
補強前の建物外壁Aについて説明する。
補強前の建物外壁Aは、
図1,
図2に示すように、左右に間隔を隔てて構築した既存柱1の間に、下部既存架構2と、下部既存架構2の上方で間隔を隔てて上下方向に隣り合う複数の上部既存架構3とを一体に構築してある。
【0014】
下部既存架構2は、下部床スラブ2aと、下部床スラブ2aの外周部を支持する下部既存梁2bと、基礎コンクリート部2cとを一体に有する。
上部既存架構3の夫々は、上部床スラブ3aと、上部床スラブ3aの外周部を支持する上部既存梁3bとを一体に有する。
【0015】
既存柱1は、下部既存梁2bおよび各上部既存梁3bの外面よりも建物外側に向けて突出する断面形状で設けてある。
下部既存梁2bと上部既存梁3bとの間、および、上下方向で隣り合う上部既存梁3bどうしの間が既存の窓空間4として開口している。
【0016】
補強後の建物外壁Bについて説明する。
補強後の建物外壁Bは、
図3,
図4に示すように、下部既存架構2を下部既存梁2bに対するコンクリート製の下部増し打ち梁5で補強し、上部既存架構3の夫々を上部既存梁3bに対するコンクリート製の上部増し打ち梁6と、上部増し打ち梁6の下方に一体に連設された補強フレーム7とで補強してある。
下部増し打ち梁5および各上部増し打ち梁6は、左右の既存柱1に亘って下部既存梁2bまたは上部既存梁3bの建物外側部分に一体に設けてある。
【0017】
補強フレーム7は、上下方向で隣り合う増し打ち梁5,6と左右の既存柱1とで矩形に囲まれる部分に設置してあり、矩形の枠フレーム
(矩形部の一例)7aと、枠フレーム7aの内周側にV字状に配置して固定してある一対のブレースフレーム7bとを有する。
枠フレーム7aおよびブレースフレーム7bは、ウエブプレートを上下方向に沿わせた姿勢で配置したH形鋼で構成してある。
【0018】
下部既存架構2と上部既存架構3とを補強して、補強後の建物外壁Bを構築する方法を、
図5〜
図7に基づいて説明する。
なお、上部既存架構3が、本発明による耐震補強方法を用いて構築した上部増し打ち梁6と補強フレーム7とで補強されている。
【0019】
上部既存架構3を補強する前に、下部既存梁2bの建物外側部分に下部増し打ち梁5を形成して下部既存架構2を補強しておく。
そして、上部既存架構3を補強するために、上部増し打ち梁6の形成に先立って、補強フレーム7を所定位置に設置する。
各補強フレーム7と下部増し打ち梁5および既存柱1との間には、スパイラル筋10aやアンカー筋10bなどを配筋する。
【0020】
補強フレーム7は、枠フレーム7aと一対のブレースフレーム7bとを予め一体に取り付けてあり、上下荷重を伝達可能な形鋼などの束部材(位置保持部材の一例)9a,9bを介在させた状態で設置する。
【0021】
最下部の上部既存架構3に対する補強フレーム7は、下部増し打ち梁5の上面に設置した束部材9bに位置決め状態で支持する。
残りの上部既存架構3に対する補強フレーム7は、下側に設置した補強フレーム7との間に介在させた束部材9aに位置決め状態で支持する。
【0022】
次に、上部増し打ち梁6の形成予定箇所に鉄筋カゴ8aやアンカー筋8cなどを配筋して型枠8で囲む。
【0023】
上部増し打ち梁6の形成予定箇所に設置する型枠8は、
図7に示すように、補強フレーム7に対して着脱自在に支持して設置する。
なお、上下の補強フレーム7の間に設置した束部材9aを囲むように型枠8を設置するので、それらの束部材9aは、上部増し打ち梁6のコンクリート部分に埋設される。
【0024】
次に、型枠8の内側にコンクリートを打設して、先行設置した補強フレーム7と束部材9a,9bとを支保工にして各上部既存架構3の上部既存梁3bに対する複数の上部増し打ち梁6を同時に形成する。
【0025】
そして、所定の養生期間の経過後に型枠8を撤去して、
図1,
図2に示したように、各上部既存架構3が上部増し打ち梁6と補強フレーム7とで耐震補強された建物外壁Bを構築する。
さらに、各補強フレーム7と下部増し打ち梁5および既存柱1との間にグラウト打設を行い、耐震補強を完了する。
【0026】
〔その他の実施形態〕
1.本発明による耐震補強方法は、上下方向で隣り合う複数の既存架構の夫々に対応する増し打ち梁を、既存架構毎に、下方に設置してある増し打ち梁から順に構築してもよい。
2.本発明による耐震補強方法は、使用する鉄筋の種類、形状、配置、数量など、および、増し打ち梁や補強フレームの具体構造などを適宜に選択して実施することができる。
【符号の説明】
【0027】
1 既存柱
3 (上部)既存架構
3b (上部)既存梁
6 (上部)増し打ち梁
7 補強フレーム
7a 枠フレーム(矩形部)
9a,9b 位置保持部材