特許第6261408号(P6261408)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6261408
(24)【登録日】2017年12月22日
(45)【発行日】2018年1月17日
(54)【発明の名称】照射装置
(51)【国際特許分類】
   B60Q 1/076 20060101AFI20180104BHJP
   G02B 26/10 20060101ALI20180104BHJP
   F21S 41/00 20180101ALI20180104BHJP
   F21S 43/00 20180101ALI20180104BHJP
   F21S 45/00 20180101ALI20180104BHJP
   F21W 103/00 20180101ALN20180104BHJP
   F21W 104/00 20180101ALN20180104BHJP
   F21W 105/00 20180101ALN20180104BHJP
   F21W 102/00 20180101ALN20180104BHJP
   F21Y 115/30 20160101ALN20180104BHJP
【FI】
   B60Q1/076
   G02B26/10 104Z
   F21S8/12 250
   F21S8/12 260
   F21S8/10 120
   F21W101:10
   F21Y115:30
【請求項の数】2
【全頁数】17
(21)【出願番号】特願2014-62050(P2014-62050)
(22)【出願日】2014年3月25日
(65)【公開番号】特開2015-182659(P2015-182659A)
(43)【公開日】2015年10月22日
【審査請求日】2017年2月10日
(73)【特許権者】
【識別番号】000002303
【氏名又は名称】スタンレー電気株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000800
【氏名又は名称】特許業務法人創成国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】安食 秀一
【審査官】 杉浦 貴之
(56)【参考文献】
【文献】 特開2011−157022(JP,A)
【文献】 特開平06−099772(JP,A)
【文献】 特開2006−185410(JP,A)
【文献】 国際公開第2014/024385(WO,A1)
【文献】 特開2015−101204(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60Q 1/076
F21S 8/10
F21S 8/12
G02B 26/10
F21W 101/10
F21Y 115/30
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1軸及び第1軸に交わる第2軸回りに回転可能な光反射面及び該光反射面を回転させるアクチュエータを有する光偏向器と、
該第1軸と該第2軸の交点に向けて可視光及び不可視光の一方を出射する第1光源と、
前記交点に向けて可視光及び不可視光の他方を出射する複数の第2光源と、
前記交点に向けて出射され、前記光反射面で反射された不可視光の反射光が光散乱体によって散乱されて生じた散乱光を受光して、それに応じた信号を出力する散乱光受光部と、
前記アクチュエータ、前記第1光源及び前記第2光源の動作を制御する制御部とを備え、
前記第1光源は、前記光反射面の前記第1軸回りの複数の所定の回転角度位置のそれぞれにおいて、前記第1光源から出射されて前記光反射面で反射された光が、前記光反射面の前記第2軸回りの回転に応じて、一つの走査線を形成するように配置され、
前記第2光源は、前記光反射面の前記第1軸回りの複数の所定の回転角度位置のそれぞれに対応して、各光源から出射されて前記光反射面で反射された光が、前記光反射面の第2軸回りの回転に応じて、前記第1光源からの光で形成される一つの走査線と同一の走査線を形成するように配置され、
前記制御部は、前記光反射面の第1軸回りの回転角度位置が、前記複数の所定の回転角度位置のうちの一つの回転角度位置である場合に、該第1光源及び当該一つの回転角度位置に対応する前記第2光源の一つのいずれか一方から出射された不可視光が、該第1光源及び該一つの第2光源のうちの他方から出射された可視光に対して照射対象領域において時間的に先行するように、前記アクチュエータ、前記第1光源及び該一つの第2光源の動作を制御し、該第1光源及び該一つの第2光源のうちの可視光を出射する光源については、前記散乱光受光部が前記散乱光を受光したことを示す前記信号を受信した場合に前記可視光の出射を停止させるように構成されていることを特徴とする照射装置。
【請求項2】
請求項1記載の照射装置において、
前記複数の第2光源は、それぞれ、前記交点を頂点とし、前記第1光源を底面の中心点とする仮想的な円錐の底面の円弧上に配置されることを特徴とする照射装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光を照射する照射装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、複数の発光素子からなる光源と、光源が出射した光を車両前方に反射するミラーと、ミラーを往復回転しミラーの反射光により車両前方の照明領域をスキャンする走査用アクチュエータとを備える車両用前照灯が知られている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特許5221174号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1に記載の車両用前照灯では、前照灯の照射方向に雨滴等のような光を散乱する光散乱体が存在する場合、光散乱体によって光源からの光が散乱される。そして、この散乱光により光幕が発生するため、特に前照灯で照射している方向に対する視認性が低下してしまう。このような視認性が低下するという課題は、特許文献1に記載された車両用前照灯に限らず、照射装置全般に関わる課題である。
【0005】
光の照射方向に光散乱体が存在する場合における視認性の低下を防止するための次のような照射装置が考えられる。
【0006】
すなわち、当該照射装置は、偏向角が可変な光偏向器と、当該光偏向器へ向けて可視光を出射する可視光光源と、当該光偏向器へ向けて不可視光を出射する不可視光光源と、前記不可視光の反射光が光散乱体によって散乱されて生じた散乱光を受光する散乱光受光部と、前記散乱光受光部の受光状況を取得し、かつ、前記光偏向器の偏向角の変化と前記可視光光源との動作を制御する制御部と、前記可視光光源及び前記不可視光光源の少なくとも一方を移動させる駆動機構とを備える。
【0007】
そして、当該照射装置の前記制御部が、前記光偏向器の偏向角を変化させている間に前記不可視光及び前記可視光を出射させるように前記不可視光光源と前記可視光光源との動作を制御し、かつ、前記散乱光受光部が前記散乱光を受光したとき可視光の出射を停止させるように前記可視光光源の動作を制御し、かつ、前記光偏向器の偏向角の変化方向に前記不可視光由来の光が前記可視光由来の光に対して先行するように前記可視光光源及び前記不可視光光源の少なくとも一方を移動させるように駆動機構の動作を制御するように構成される。
【0008】
この照射装置によれば、照射対象領域を走査する可視光は、当該照射対象領域を走査する不可視光に追随するように走査している。すなわち、可視光の出射に対して時間的に先行して、不可視光が出射されている。
【0009】
このため、光散乱体による散乱光が多くなりそうな状況においては、時間的に先行している不可視光が光散乱体によって散乱される。このとき、散乱光は不可視光であるので、当該散乱光によって光幕が生じたとしても、当該光幕が視認性を低下させる要因とはならない。そして、上記散乱光により散乱光受光部の不可視光の受光量が所定量以上となり、制御装置は、このときの不可視光出射部の出射方向に、可視光を出射するのを止める(すなわち、可視光が出射されなくなる)。このため、可視光が光散乱体によって散乱されることを回避でき、視認性の低下を抑制できる。
【0010】
しかし、この構成の照射装置では、光偏向器の偏向角の変化に応じて前記可視光光源及び前記不可視光光源の少なくとも一方を移動させる駆動機構が必要であるため、小型化及び部品点数の削減が困難であった。
【0011】
そこで、本発明は、光の照射方向の光散乱体による視認性の低下を抑制できる照射装置において、小型化及び部品点数の削減を実現することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明の照射装置は、
第1軸及び第1軸に交わる第2軸回りに回転可能な光反射面及び該光反射面を回転させるアクチュエータを有する光偏向器と、
該第1軸と該第2軸の交点に向けて可視光及び不可視光の一方を出射する第1光源と、
前記交点に向けて可視光及び不可視光の他方を出射する複数の第2光源と、
前記交点に向けて出射され、前記光反射面で反射された不可視光の反射光が光散乱体によって散乱されて生じた散乱光を受光して、それに応じた信号を出力する散乱光受光部と、
前記アクチュエータ、前記第1光源及び前記第2光源の動作を制御する制御部とを備え、
前記第1光源は、前記光反射面の前記第1軸回りの複数の所定の回転角度位置のそれぞれにおいて、前記第1光源から出射されて前記光反射面で反射された光が、前記光反射面の前記第2軸回りの回転に応じて、一つの走査線を形成するように配置され、
前記第2光源は、前記光反射面の前記第1軸回りの複数の所定の回転角度位置のそれぞれに対応して、各光源から出射されて前記光反射面で反射された光が、前記光反射面の第2軸回りの回転に応じて、前記第1光源からの光で形成される一つの走査線と同一の走査線を形成するように配置され、
前記制御部は、前記光反射面の第1軸回りの回転角度位置が、前記複数の所定の回転角度位置のうちの一つの回転角度位置である場合に、該第1光源及び当該一つの回転角度位置に対応する前記第2光源の一つのいずれか一方から出射された不可視光が、該第1光源及び該一つの第2光源のうちの他方から出射された可視光に対して照射対象領域において時間的に先行するように、前記アクチュエータ、前記第1光源及び該一つの第2光源の動作を制御し、該第1光源及び該一つの第2光源のうちの可視光を出射する光源については、前記散乱光受光部が前記散乱光を受光したことを示す前記信号を受信した場合に前記可視光の出射を停止させるように構成されている。
【0013】
本発明の照射装置によれば、前記光反射面の前記第1軸回りの回転角度のそれぞれに対応する一つの第2光源は、当該第2光源由来の光により当該第1光源由来の光と同一の走査線を形成可能な位置に配置されている。
【0014】
また、散乱光受光部が散乱光を受光したことを要件として、第1光源及び第2光源のうち可視光を出射する光源についてその出射を停止させるように制御部が構成されている。この結果、光散乱体が光偏向器と照射対象領域との間に存在する場合には、時間的に先行する不可視光が光散乱体に入光し、散乱光が生じる。散乱光受光部は、当該散乱光の受光に応じて信号を出力する。当該信号に応じて、制御部は可視光の出射を停止する。このため、可視光が前記光散乱体に入光することが防止される。この結果、当該入光に由来した可視の散乱光の発生が防止又は軽減され、視認性の低下が抑制される。
【0015】
すなわち、本発明の照射装置によれば、光の照射方向の光散乱体による視認性の低下を抑制できる装置において、第1光源及び第2光源を移動させるための駆動機構が不要となるから、小型化及び部品点数の削減が可能となる。
【0016】
本発明の照射装置において、前記複数の第2光源は、それぞれ、前記交点を頂点とし、前記第1光源を底面の中心点とする仮想的な円錐の底面の円弧上に配置されることが好ましい。
【0017】
この照射装置によれば、第1光源由来の光反射面への入射光と第2光源由来の光反射面への入射光との角度差が一定となるから、第1光源由来の光反射面における反射光と第2光源由来の光反射面における反射光との角度が一定となる。この結果、照射対象領域の走査線上における可視光と不可視光との距離がほぼ一定になるから、散乱光受光時の可視光光源の出射の停止時間等をそれぞれの走査線ごとに変更する必要がなくなる。この結果、照射装置を簡易に構成しうる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】本発明の実施形態の照射装置の全体図で、(a)は通常走査時の説明図、(b)は不可視光が光散乱体に照射された時の説明図。
図2】光源の配置について説明する図で、(a)は光源の配置を説明する図、(b)は焦点位置と光源との関係を説明する図、(c)及び(d)は操作方向と入射角との関係を示す図。
図3】光散乱体Scatと可視光Rvと不可視光Riとの関係を示す図であり、(a)は、不可視光Riが光散乱体Scatに入射しない場合の図、(b)は、不可視光Riが光散乱体Scatに入射して散乱された場合の図、(c)は、(b)で不可視光Riが光散乱体Scatに入射したことで、可視光Rvの出射がされなくなった場合の図。
図4】光散乱体Scatが移動する場合の、光散乱体Scatと不可視光Riとの関係を示す図であり、(a)は、不可視光Riが光散乱体Scatに入射して散乱された場合の図。(b)は、本実施形態について示す、走査方向と移動方向が異なる場合の図。(c)は、参考例として示す、走査方向と移動方向が同一の場合の図。
図5】制御装置によって実行される可視光制御処理の処理手順を示したフローチャート。
図6】他の実施形態を示す図で、(a)は他の走査線を示す図、(b)は光源の他の配置態様を説明する図。
【発明を実施するための形態】
【0019】
(照射装置の構成)
本発明の実施形態の照射装置1の概要について、図1(a)及び図1(b)を参照して説明する。照射装置1は、予め規定された照射対象の領域(以下、「照射対象領域」という)Aに対して、可視光を用いて、比較的高周波数(例えば、60[Hz]以上)で走査することで、当該照射対象領域A全体を照射する照射装置である。
【0020】
以降、照射対象領域A全体に対する1回の走査を「1フレーム」という。すなわち、照射対象領域A全体を60[Hz]で走査しているということは、1秒間のフレーム数は、60フレームということである。なお、走査の周波数は、30[Hz]程度では目に可視光がちらついて見えるため好ましくないので、60[Hz]以上が好ましい。
【0021】
ここで、照射対象領域Aは、照射装置1の光軸の軸方向(又は当該軸方向に近い方向)を法線方向とする面(当該面は、実面及び仮想的な面のいずれでもよい)上に規定される領域である。例えば、照射装置1が車両の前照灯として用いられる場合においては、車両の正面に対向する鉛直面上に照射対象領域Aが規定される。なお、照射対象領域Aは、照射装置1が可視光を照射する範囲に応じて、様々な形状を取り得る領域である。
【0022】
本実施形態においては、可視光Rv及び不可視光Riで6つの走査線RS1〜RS3及びLS1〜LS3に従って走査することにより、照射対象領域Aが規定される。
【0023】
照射装置1は、図1(a)及び図1(b)に示されるように、可視光光源21(第1光源)と、不可視光光源31(第2光源)と、第1軸及び第1軸に直交する第2軸回りに回転可能なミラー41(光反射面)を備える光偏向器40と、切替回路5と、散乱光受光部6と、制御部7とを備える。
【0024】
(光源の構成)
可視光光源21は、図2(a)に示されるように、例えば円盤状の固定板51の中央に取り付けられた平行光の可視光を出射する固体半導体光源等によって構成されている。可視光光源21は、可視の平行光(以下、単に「可視光」という)Rv(図1(a)におけるRv_1、及び図1(b)におけるRv_2)を光偏向器40のミラー41上の焦点Pに向けて出射する。可視光光源21は、光偏向器40のミラー41の第1軸回りの複数の所定の回転角度位置のそれぞれにおいて、可視光光源21から出射されて光偏向器40のミラー41で反射された光が、光偏向器40のミラー41の第2軸回りの回転に応じて、一つの走査線(右走査線RS1〜3及び左走査線LS1〜3のいずれか)を形成するように配置されている。
【0025】
また、不可視光光源31は、図2(a)に示されるように、円盤状の固定板51の可視光光源21を中心とした円弧上に取り付けられた第1不可視光光源31a〜第6不可視光光源31fによって構成される。第1不可視光光源31a〜第6不可視光光源31fは、たとえば、平行光の不可視光を出射する固体半導体光源等が用いられ、それぞれ焦点Pに向けて不可視の平行光(以下、単に「不可視光」という)Riを出射する光源である。なお、第1不可視光光源31a〜第6不可視光光源31fは、同一の波長の光を出射する。
【0026】
本実施形態において、可視光光源21及び不可視光光源31は平行光状に集光された光を出射することが好ましい。たとえば、固体半導体光源、HID等の放電灯、フィラメント電球等の様々な種類の光源が可視光光源21及び不可視光光源31として採用されうる。特に、平行光に近いレーザ光を簡単に得るため、可視光光源21及び不可視光光源31として固体半導体光源であるLD光源を採用することが好ましい。
【0027】
ここで、第1不可視光光源31a〜第6不可視光光源31fは、図2(b)に示されるように、焦点Pを頂点とし、可視光光源21を底面の中心点とする仮想的な円錐の底面の円弧上に配置される。
【0028】
不可視光光源31は、ミラー41の第1軸回りの複数の所定の回転角度位置のそれぞれに対応して、その各々の第1不可視光光源31a〜第6不可視光光源31fがミラー41の第2軸回りの回転に応じて可視光光源21由来の光が形成する一つの走査線(右走査線RS1〜3及び左走査線LS1〜3のいずれか)と同一の走査線を形成する光を出射可能となるように、配置されている。
【0029】
より詳しくは、第1不可視光光源31aは、図1(a)及び図1(b)に示される走査線RS1に従った不可視の走査光を出射するための光源である。また、第2不可視光光源31bは、走査線LS1に従った不可視の走査光を出射するための光源である。また、第3不可視光光源31cは、走査線RS2に従った不可視の走査光を出射するための光源である。また、第4不可視光光源31dは、走査線LS2に従った不可視の走査光を出射するための光源である。また、第5不可視光光源31eは、走査線RS3に従った不可視の走査光を出射するための光源である。また、第6不可視光光源31fは、走査線LS3に従った不可視の走査光を出射するための光源である。
【0030】
なお、不可視光Riとして、紫外光(若しくは、波長が紫外光に近い光(近紫外線の光))、又は赤外光(若しくは、波長が赤外光に近い光(近赤外線の光))等を用いることができる。
【0031】
ここで、可視光が照射される焦点Pと不可視光が照射される焦点Pとは、厳密に同じ位置ではなくてもよく、多少ずれた位置であってもよい。なお、図1(a)及び図1(b)においては、可視光が照射される焦点Pと不可視光が照射される焦点Pとが同一の場合を例示している。
【0032】
(光偏向器の構成)
光偏向器40は、例えばMEMS(Micro Electro Mechanical Systems)加工技術を用いて作成された光偏向器であり、ミラー41を、第1軸と第1軸に直交する第2軸との2軸周りに揺動可能な光偏向器である。ミラー41は、可視光光源21、第1不可視光光源31a〜第6不可視光光源31fからの光を反射する。
【0033】
光偏向器40のミラー41は第1軸回りの回転により可視光光源21の可視光Rv及び不可視光光源31の出射した不可視光Riの反射光の出射方向を垂直方向へ変化させる。また、光偏向器40のミラー41は、第2軸回りの回転により、可視光光源21が出射した可視光Rv及び不可視光光源31が出射した不可視光Riの反射光の出射方向を水平方向へ変化させる。これらの2軸の回転により、光偏向器40のミラー41における反射光による照射対象領域Aの所定領域の走査が行われる。
【0034】
また、光偏向器40は、圧電駆動によりミラー41を第1軸回りに揺動させる第1圧電アクチュエータ(不図示)と、圧電駆動によりミラー41を第2軸回りに揺動させる第2圧電アクチュエータ(不図示)とを備える。第1圧電アクチュエータ及び第2圧電アクチュエータが本願発明の「アクチュエータ」に相当する。
【0035】
第1圧電アクチュエータ及び第2圧電アクチュエータは、例えば、シリコン基板等の上に、電圧を印加可能に成膜されたチタン酸ジルコン酸鉛等による圧電膜が成膜されて構成されている。これにより、圧電膜に電圧が印加されることで、圧電膜がシリコン基板と共に屈曲変形する。このときの屈曲変形の大きさは、印加された電圧に応じて変化する。
【0036】
なお、本実施形態において用いられる光偏向器には、少なくとも2軸回りに揺動するものであれば、例えば、特開2008−40240号公報、又は特開2013−8480号公報等に記載されているような様々な種類の光偏向器を適用することができる。
【0037】
ミラー41に入射した可視光Rv及び不可視光Riは、第1圧電アクチュエータ及び第2圧電アクチュエータによる第1軸回り及び第2軸回りのミラー41の揺動に応じた方向に反射される。そこで、制御部7は、第1圧電アクチュエータ及び第2圧電アクチュエータに印加する電圧を調整することで、ミラー41の揺動を調整し、ひいては、このときの各光Rv,Riの反射光の出射方向を調整して、照射対象領域Aを走査している。詳細は後述する。
【0038】
(切替回路の構成)
切替回路5は、各光源の出射及び不出射を切り替えるための回路で構成され、制御部7からの信号によりその動作を制御される。
【0039】
(散乱光受光部の構成)
散乱光受光部6は、たとえばフォトダイオードで構成され、不可視光光源31から出射された不可視光Riの散乱光Rsを受光する。また、散乱光受光部6は、当該散乱光Rsの受光に応じた信号として、散乱光Rsの受光量Iを示す信号を出力する。
【0040】
このような散乱光Rsは、たとえば図1(b)に示されるように、不可視光光源31からの不可視光Riの出射方向において、光偏向器40のミラー41と照射対象領域Aとの間に光散乱体Scatが位置していることにより、不可視光Riが光散乱体Scatを照射することによって生じる。
【0041】
なお、散乱光受光部6は、不可視光光源31が出射する不可視光Riの波長の光のみを受光するように構成されている。詳細には、散乱光受光部6の受光部分には、不可視光光源31が出射する不可視光Riの波長の光のみを通過させるための光学フィルタ(図示省略)が設けられている。なお、散乱光受光部6は、不可視光光源31(第1不可視光光源31a〜第6不可視光光源31f)が出射する波長の光を受光できるのであれば、光学フィルタを備えなくともよい。また、散乱光受光部6が、受光できる波長の範囲であれば、第1不可視光光源31a〜第6不可視光光源31fが出射する不可視光Riの波長は、異なっていてもよい。
【0042】
(制御部の構成)
図1(a)及び図1(b)に示される制御部7は、図示しないCPU,メモリ等を有する電子制御ユニットにより構成されている。制御部7は、光偏向器40のミラー41の回転及び切替回路5の動作を制御することにより、徐々に鉛直方向Dvに沿って下から上に向かうように、左水平方向LDhの走査線LS及び右水平方向RDhの走査線RSに沿った不可視光Ri及び可視光Rvによる走査を繰り返すことにより、照射対象領域A全体の走査を行う。
【0043】
(照射対象領域の走査制御)
制御部7は、切替回路5の動作を制御することにより、最初の走査線RS1に応じて定まる第1不可視光光源31aから、のちに可視光光源21から出射される可視光Rvに対して走査線RS1において時間的に先行する一つの不可視光Riを出射させる。そして、光偏向器40のミラー41を第1軸回りの第1方向に回転させることにより、照射対象領域Aの左下の点P1から右走査線RS1に沿って不可視光Riによる走査を開始させる。
【0044】
光偏向器40のミラー41が第1方向に少し回転した時点で、制御部7は、切替回路5の動作を制御することにより、可視光光源21から、可視光Rvを出射させる。より具体的には、可視光Rvの光偏向器40のミラー41への入射光と不可視光Riの光偏向器40のミラー41への入射光との間の角度θだけ光偏向器40のミラー41が第1方向に回転した時点で可視光Rvの出射を開始する。このようにすることで、不可視光Riの走査線上の走査開始点と可視光Rvの走査開始点とを同一にすることができる。
【0045】
制御部7は、光偏向器40のミラー41の第1軸回りの回転を続行することにより、図1(a)に示すように、不可視光Riと可視光Rvとにより照射対象領域Aの右下の点P2まで走査する。不可視光Riが右下の点P2まで到達した後、制御部7は、切替回路5の動作を制御することにより、第1不可視光光源31aからの不可視光Riの出射を停止させる。
【0046】
制御部7は、さらに光偏向器40のミラー41を第1軸回りに角度θだけ回転させたあと、切替回路5の動作を制御することにより、可視光光源21からの可視光Rvの出射を停止させる。このようにすることで、不可視光Riの走査線上の走査終了点と可視光Rvの走査終了点とを同一にすることができる。
【0047】
制御部7は、光偏向器40のミラー41を第2軸回りに所定の角度だけ回転させる。当該所定の角度は、光偏向器40のミラー41と照射対象領域Aとの距離、及び走査線間の間隔lengthから定まる角度である。なお、間隔lengthは、照射対象領域A内の走査線の密度に応じて適宜設定される。
【0048】
制御部7は、次の走査線LS1に応じて定まる第2不可視光光源31bから、のちに可視光光源21から出射される可視光Rvに対して走査線LS1において時間的に先行する一の不可視光Riを出射させる。そして、光偏向器40のミラー41を第1軸回りの第2方向(第1方向と逆方向)に回転させることにより、照射対象領域Aの右下の点P3から左走査線LS1に沿った不可視光Riによる走査を開始させる。
【0049】
光偏向器40のミラー41が第2方向に少し回転した時点で、制御部7は、切替回路5の動作を制御することにより、可視光光源21から、可視光Rvを出射させる。より具体的には、可視光Rvの光偏向器40のミラー41への入射光と不可視光Riの光偏向器40のミラー41への入射光との間の角度θだけ光偏向器40のミラー41が第2方向に回転した時点で可視光Rvの出射を開始する。この後、制御部7は、図1(b)に示されるように、不可視光Riと可視光Rvとにより左走査線LS1に従って走査する。
【0050】
制御部7は、上記のような光偏向器40のミラー41の回転と切替回路5の動作との制御により、可視光Rvと不可視光Riとにより照射対象領域Aの各走査線RS,LS上を走査する。
【0051】
また、制御部7は、切替回路5の動作を制御することにより、一つの不可視光光源31に照射対象領域Aを走査する可視光Rvに対して時間的に先行する不可視光Riを出射させている。より具体的には、図2(c)に示されるように、ミラー41が、可視光Rvの入射角θv_1が小さくなるように回転している場合には、制御部7は、切替回路5の動作を制御することにより、可視光Rvの入射角θv_1よりも小さい入射角θi_1となる位置に存在する不可視光光源31から不可視光Riを出射させる。一方、図2(d)に示されるように、ミラー41が、可視光Rvの入射角θv_2が大きくなるように回転している場合には、制御部7は、切替回路5の動作を制御することにより、可視光Rvの入射角θv_2よりも大きな入射角θi_2となる一つの不可視光光源31から不可視光Riを出射させる。これらの場合、ミラー41の焦点Pを中心に回転する法線Nを含む平面上に、可視光光源21と出射処理を行う不可視光光源31とが存在する(可視光光源21の入射光の相対的な回転方向に不可視光の入射光が存在する。)。
【0052】
このような配置であれば、ミラー41(光反射面)の第1軸回りの複数の所定の回転角度位置のそれぞれに対応して、不可視光光源31(第2光源)の各々(第1不可視光光源31a〜第6不可視光光源31f)がミラー41(光反射面)の第2軸回りの回転に応じて可視光光源21(第1光源)由来の光が形成する前記一つの走査線と同一の走査線を形成する光を出射可能となる。
【0053】
(可視光制御・概略)
可視光及び不可視光を散乱させる光散乱体Scatが、可視光Rv又は不可視光Riの出射方向において、光偏向器40と照射対象領域Aとの間に位置しているときには、たとえば図1(b)に示されるように、まず、時間的に先行している不可視光Riが光散乱体Scatに入射して散乱光Rsになる。このときの散乱光Rsは、不可視光Riであるので、当該散乱光Rsによって光幕が生じたとしても、当該光幕が視認性を低下させる要因とはならない。
【0054】
制御部7は、散乱光受光部6の散乱光Rsの受光量Iに応じて、可視光光源21から可視光Rvを出射するか否かを制御する(以下、制御部7によって実行される当該制御を「可視光制御」という)。
【0055】
当該可視光制御の概略は、以下の通りである。制御部7は、散乱光受光部6の出力信号に示される散乱光Rsの受光量Iが散乱閾値Ith(本発明の「所定量」に相当する)未満のときの不可視光光源31の不可視光Riの出射方向(図1においては、不可視光Ri_1の出射方向)に、可視光光源21から可視光Rvを出射させる。また、制御部7は、散乱光受光部6の散乱光Rsの受光量Iが散乱閾値Ith以上のときの不可視光光源31の不可視光Riの出射方向(図1においては、不可視光Ri_2の出射方向)に、可視光光源21から可視光Rvの出射を止める。
【0056】
ここで、散乱閾値Ithは、光散乱体Scatによって不可視光Riが散乱されているか否かを充分な精度で区別できるような値に設定される。
【0057】
上記散乱光Rsにより散乱光受光部6の不可視光の受光量Iが散乱閾値Ith以上となると、制御部7によって、このときの不可視光光源31の出射方向に、可視光Rvの出射がされなくなる。このため、可視光Rvが光散乱体Scatによって散乱されることを回避でき、視認性の低下を抑制できる。
【0058】
(可視光制御・不可視光、可視光、光散乱体及び散乱光受光部の関係)
ここで、図3を参照して、制御部7によって実行される、不可視光Ri、可視光Rv、光散乱体Scat及び散乱光受光部6の関係に応じた可視光制御について説明する。
【0059】
図3(a)〜(c)の各々は、可視光Rv及び不可視光Riの各々によって、右から左に向かって走査しているときを表しており、図3(a)が時点t1、図3(b)が時点t1から単位時間Δtだけ経過した時点t2、図3(c)が時点t2から単位時間Δtだけ経過した時点t3を示している。
【0060】
ここで、単位時間Δtは、不可視光Riによる走査が、可視光Rvによる走査に対してどの程度先行しているのかを表す時間である。すなわち、時点t2(図3(b))における可視光光源21が出射する可視光Rvの出射方向は、時点t1(図3(a))における不可視光光源31が出射する不可視光Riの出射方向に一致する。また、時点t3(図3(c))において可視光光源21が出射するはずであった可視光Rvの出射方向は、時点t2(図3(b))における不可視光光源31が出射する不可視光Riの出射方向に一致する。なお、単位時間Δtは、光偏向器40のミラー41が第1軸回りの第1方向又は第2方向への角度θだけ回転するのに必要な時間に等しい。
【0061】
時点t1(図3(a))において、不可視光Riが光散乱体Scatに入射していない。これにより、散乱光受光部6が受光する散乱光Rsの受光量Iは、散乱閾値Ith未満となる。このため、制御部7は、時点t1から単位時間Δt経過した時点t2(図3(b))では、可視光光源21から可視光Rvを出射させた場合に、当該可視光Rvが光散乱体Scatによって散乱される可能性が低いので、可視光光源21から可視光Rvを出射させる。
【0062】
また、時点t2では、不可視光Riが光散乱体Scatに入射して生じた散乱光Rsが、光散乱体Scatの周囲に向かって散乱している。このときの散乱光Rsの一部が散乱光受光部6に入射する。これにより、散乱光受光部6が受光する散乱光Rsの受光量Iは、散乱閾値Ith以上となる。
【0063】
このため、制御部7は、時点t2から単位時間Δt経過した時点t3(図3(c))では、可視光光源21から可視光Rvを出射させた場合に、当該可視光Rvが光散乱体Scatによって散乱される可能性が高いので、可視光光源21から可視光Rvを出射することが止められる(すなわち、可視光Rvを出射しない)。
【0064】
これにより、可視光Rvが光散乱体Scatによって散乱されることを防止でき、可視光Rvの散乱による視認性の低下を抑制できる。
【0065】
また、上述したように、本実施形態において、可視光Rv及び不可視光Riによる照射対象領域Aの走査は、水平方向の走査線RS、LSに沿って行われる。
【0066】
走査線RS、LSが水平方向に規定されているのは、光散乱体Scatが落下することを想定している(例えば、光散乱体として雨滴を想定している)ためである。このような想定において、光散乱体Scatの移動方向(落下方向)は、通常、鉛直方向又は鉛直方向に近い方向に沿って上から下に向かう方向となる。このため、不可視光Ri及び可視光Rvの走査方向(すなわち、右水平方向RDh及び左水平方向LDh)が、光散乱体Scatの移動方向(鉛直方向Dv又は該鉛直方向Dvに近い方向に沿って上から下に向かう方向)とは異なるように構成している。
【0067】
これにより、ある時点において不可視光Riが光散乱体Scatに散乱された場合であっても、その後において、不可視光Riの走査方向と光散乱体Scatの移動方向とが異なることにより、不可視光Riが同一の光散乱体Scatによって再び散乱されることを抑制できる。このように、不可視光Riが同一の光散乱体Scatによって散乱される機会が減るため、可視光Rvの出射がされなくなる頻度を抑制できる。
【0068】
詳細には、例えば、図4に示されるように、ある時点(図4(a)参照)において、不可視光Riが光散乱体Scatに散乱されたとする。これにより、制御部7は、当該時点から単位時間Δt経過後に、不可視光Riの出射方向と同一方向に対して可視光Rvを出射することを止める。
【0069】
そして、本実施形態のように、走査方向が、光散乱体Scatの移動方向とは異なるように設定されている場合、図4(a)の時点から所定時間経過した時点(図4(b)参照)においては、移動した光散乱体Scatに対して不可視光Riが散乱される可能性が低くなる。
【0070】
一方、本実施形態とは異なり、走査方向(主走査及び副走査の各々の走査方向)が、光散乱体Scatの移動方向と一致するように設定されている場合を仮定すると、図4(a)の時点から所定時間経過した時点(図4(c)参照)においては、移動した光散乱体Scatによって不可視光Riが再び散乱される可能性が高くなる。
【0071】
ここで、図4(b)及び図4(c)において、破線で示されている不可視光Ri及び光散乱体Scatは、図4(a)の時点における不可視光Ri及び光散乱体Scatを示している。
【0072】
なお、光散乱体Scatが落下しているのではなく、他の方向(例えば、水平方向又は下から上に向かう方向)に移動している場合においては、不可視光Ri及び可視光Rvの走査方向が光散乱体Scatの移動方向と異なるように制御するように制御部7を構成すればよい。この場合であっても、不可視光Riが同一の光散乱体Scatによって散乱される機会が減るため、可視光Rvの出射がされなくなる頻度を抑制できるという効果が得られる。
【0073】
(可視光制御処理)
次に、図5を参照して、可視光制御の詳細について説明する。制御部7は、単位時間Δt経過する毎に、図5に示されたフローチャートによる可視光制御処理を実行している。すなわち、1フレームの時間を「n・Δt」秒で表す場合、制御部7は、図5に示されたフローチャートを1フレームにおいてn回実行している。
【0074】
なお、図5(a)と図5(b)は、ステップST1、2、4、5が同じであり、図5(a)のステップST3Aと、図5(b)のステップST3Bとが異なっている。以下の説明では、主に図5(a)を参照して説明するが、必要な場合には図5(b)も参照する。
【0075】
制御部7は、まず最初のステップST1で、前回の制御周期(単位時間Δtだけ前の時点)における散乱光受光部6の散乱光Rsの受光量Iを検知する。制御部7は、続くステップST2で、ステップST1で検知した受光量Iが散乱閾値Ith未満か否かを判定している。
【0076】
制御部7は、ステップST2で、受光量Iが散乱閾値Ith以上であると判定した場合には、ステップST3A(又は、図5(b)のステップST3B)に進み、現在の1フレーム(以下、「現フレーム」という)において、照射対象領域Aの各位置における可視光Rvの光度(以下、「位置可視光光度」という)の合計(以下、「可視光光度総和」という)Lrvが所定光度Lrv_th以上になると予測されるか否かを判定する。ここで、所定光度Lrv_thは、例えば、照射装置1として最低限出力すべき光度(もしくは、それよりも高い光度)に設定される。なお、可視光Rvの出射方向が決定されると、当該可視光Rvが照射される照射対象領域Aの位置は、当該出射方向に応じて決定される。
【0077】
ここで、現フレームにおける可視光光度総和Lrvが所定光度Lrv_th以上になると予測されるか否かの判定方法としては、例えば、「現フレームにおける現時点までの可視光光度総和Lrvに基づいて判定する方法(図5(a)のステップST3A参照)」、又は「前回の1フレーム(以下、「前フレーム」という)における可視光光度総和Lrvに基づいて判定する方法(図5(b)のステップST3B参照)」を用いることができる。
【0078】
ここで、照射対象領域Aの各位置において、位置可視光光度は一定ではない。本実施例では、例えば、照射対象領域Aの位置が中央部に近付くほど位置可視光光度を大きくしている。このため、制御部7は、「可視光光源21から出射された可視光Rvの出射方向」と、「位置可視光光度」とに応じたマップ(当該マップは、メモリ(図示省略)等に記憶保持されている)を参照することで、可視光Rvを出射した方向における位置可視光光度を得ている。
【0079】
なお、照射対象領域Aの各位置に対する位置可視光光度は、本実施例のように設定されずに、例えば、照射対象領域Aの位置によらず位置可視光光度が同一に設定されていてもよいし、照射対象領域Aの中央部以外の所定の位置に近付くほど位置可視光光度が大きく設定されていてもよい。
【0080】
ここで、現フレームにおける現時点までの位置可視光光度の合計を、「第1可視光光度総和」と定義する。また、現制御周期(本発明における現時点に相当する)において可視光Rvが照射される照射対象領域Aの位置(以下、「現可視光位置」という)に対して可視光Rvを出射しないと仮定し、現フレームにおいて、照射対象領域Aの位置のうちこれから走査する全ての位置(当該位置には、現可視光位置は含まれない)において、可視光Rvが出射された場合を仮定したときの、位置可視光光度の合計を、「第2可視光光度総和」と定義する。
【0081】
制御部7は、「現フレームにおける現時点までの可視光光度総和Lrvに基づいて判定する方法」では、第1可視光光度総和と第2可視光光度総和との和が、所定光度Lrv_th未満になるときには、現可視光位置に可視光Rvを出射しないと、「現フレームにおける可視光光度総和Lrvが所定光度Lrv_th以上にならないと予測される」と判定する(すなわち、第1可視光光度総和と第2可視光光度総和との和が、「可視光光度総和Lrv」を表す)。
【0082】
また、制御部7は、「前フレームにおける可視光光度総和Lrvに基づいて判定する方法」では、前フレームの可視光光度総和Lrvが所定光度Lrv_th未満になった場合には、現フレームにおいても可視光光度総和Lrvが所定光度Lrv_th未満になりそうだと推定し、「現フレームにおける可視光光度総和Lrvが所定光度Lrv_th以上にならないと予測される」と判定する。
【0083】
制御部7は、ステップST2で、受光量Iが散乱閾値Ith未満であると判定した場合、又はステップST3A(又は、図5(b)のステップST3B)で、現フレームにおける可視光光度総和Lrvが所定光度Lrv_th未満になると予測されると判定した場合には、ステップST4に進む。制御部7は、ステップST4で、可視光光源21から可視光Rvを出射する。
【0084】
制御部7は、ステップST3A(又は、図5(b)のステップST3B)で、現フレームにおける可視光光度総和Lrvが所定光度Lrv_th以上になると予測されると判定した場合には、ステップST5に進む。制御部7は、ステップST5で、可視光光源21から可視光Rvを出射することを止める。
【0085】
特に、制御部7によって、ステップST3A(又は、図5(b)のステップST3B)の判定がなされることにより、照射対象領域Aの現フレームにおける可視光光度総和Lrvが所定光度Lrv_th未満になると予測されるときには、散乱光受光部6の受光量Iが散乱閾値Ith以上のとき(ステップST2の判定結果がNOのとき)であっても、可視光光源21から可視光Rvを出射している。
【0086】
ここで、このようなステップST3A(又は、図5(b)のステップST3B)の判定を行わない場合を仮定すると、不可視光Riが光散乱体Scatによって散乱される頻度が多い場合(例えば、豪雨等のように雨滴(光散乱体)が大量に存在しているような場合)において、1フレームの多くのタイミングで、不可視光Riが光散乱体Scatに入射して散乱することになり、可視光Rvが出射される頻度が少なくなってしまう。これにより、照射装置1が出力する光度が低下する。
【0087】
照射装置1が、例えば、車両の前照灯のような用途に用いられるような場合においては、最低限出力すべき光度以上を維持できるように可視光Rvを出力する必要がある。このように、照射装置1が最低限出力すべき光度として所定光度Lrv_thが規定されているような場合には、ステップST3A(又は、図5(b)のステップST3B)の判定を行うことで、照射装置1は、フレーム毎又は殆どのフレームにおいて、所定光度Lrv_th以上の光度を出力することができる。
【0088】
また、図5(a)のステップST3Aのように判定することで、第1可視光光度総和と第2可視光光度総和との和によって可視光光度総和Lrvを表すことにより、照射装置1から所定光度Lrv_th以上の光を照射するために、現制御周期において可視光Rvを照射すべきか否かを判定できる。
【0089】
また、図5(b)のステップST3Bのように判定することで、前フレームにおける可視光光度総和Lrvを用いて現フレームにおける可視光光度総和Lrvを予測することで、照射装置1から所定光度Lrv_th以上の光を照射できる。
【0090】
図5(a)のステップST3A(又は、図5(b)のステップST3B)の判定により、光散乱体Scatが大量に存在しているような場合(光散乱体Scatが雨滴である場合、たとえば豪雨時)であっても、最低限出力すべき所定光度Lrv_th以上の可視光Rvを確実に出力することができる。
【0091】
(不可視光Riと可視光Rvとの時間差について)
ここで、先行して走査される不可視光Riと、それに続いて走査される可視光Rvとの時間差(可視光Rvと不可視光Riとの入射角度差に由来する)と、その時間により雨滴が落下する距離について説明する。ミラー41の第1軸回りの回転角度を140度とし、この走査を1秒間に60回行うとする。この条件において、不可視光Riと可視光Rvの角度差(図2(c)におけるθv_1−θi_1又は図2(d)におけるθi_2−θv_2)を1度として2本の光線ビームによりある地点を走査する時間差△t(秒)は、以下の計算式から19.8マイクロ秒となる。
【0092】
【数1】
【0093】
雨滴が落下する速度は、雨滴の粒が大きくなるとその落下速度も速くなることが知られており、雨滴の大きさから計算することができ、例えば大雨に相当するような、雨粒の直径2mmの場合680cm/秒である。この雨滴の落下速度から、上記で計算した19.8マイクロ秒後の落下位置△P(mm)は、以下の計算式から0.135(mm)となる。
【0094】
【数2】
【0095】
つまり2mmの雨粒に対して不可視光Riが照射された後、19.8マイクロ秒後に可視光Rvが走査されるまでに約0.14mmしか雨滴が落下しないといえるから、不可視光Ri及び可視光Rvでの時間差はほぼ無視できる。また、雨滴が小さい場合は落下速度も遅くなるため、時間差による雨滴位置のずれは考慮しなくても良い。時間差による雨滴の位置ずれを少なくするには、ミラー41の回転速度を上げることが好ましい。回転速度を2倍にすることで、不可視光Ri及び可視光Rv間の時間差による位置ずれは半分の0.07mmと小さくすることができる。この場合、1秒間のフレーム数を多くしてもよいし、1フレームあたりの水平方向の走査回数を増加させてもよい。
【0096】
(本実施形態の作用・効果)
照射装置1によれば、ミラー41の第1軸回りの回転角度のそれぞれに対応する一つの不可視光光源31は、不可視光光源31由来の不可視光Riにより可視光光源21由来の可視光と同一の走査線(各右走査線RS1〜RS3及び左走査線LS1〜LS3)を形成可能な位置に配置されている。このため、制御部7が第1軸回りの回転角度に応じて不可視光光源31の出射及び不出射を切り替えることにより、可視光光源21又は不可視光光源31を移動させなくとも不可視光Riを可視光Rvに時間的に先行させながら、照射対象領域Aの全部を走査することができる。
【0097】
また、散乱光受光部6が散乱光を受光したことを要件として、可視光光源21についてその出射を停止させるように制御部7が構成されている。この結果、光散乱体Scatが光偏向器40と照射対象領域Aとの間に存在する場合には、時間的に先行する不可視光Riが光散乱体Scatに入光し、散乱光Rsが生じる。散乱光受光部6は、当該散乱光Rsの受光に応じて信号を出力する。当該信号に応じて、制御部7は可視光Rvの出射を停止する。このため、可視光Rvが光散乱体Scatに入光することが防止されるので、当該入光に由来した可視の散乱光の発生が防止又は軽減されるので、視認性の低下が抑制される。
【0098】
すなわち、照射装置1によれば、光の照射方向の光散乱体Scatによる視認性の低下を抑制できる装置において、可視光光源21又は不可視光光源31を移動させるための駆動機構が不要となるから、小型化及び部品点数の削減が可能となる。
【0099】
また、この照射装置1によれば、可視光光源21由来のミラー41へ入射する可視光Rvと不可視光光源31由来のミラー41へ入射する不可視光Riとの角度差(図2(c)におけるθv_1−θi_1又は図2(d)におけるθi_2−θv_2)が一定となるから、可視光光源21由来のミラー41における反射光(可視光Rv)と不可視光光源31由来のミラー41における反射光(不可視光Ri)との角度が一定となる。この結果、照射対象領域Aの走査線(各右走査線RS1〜RS3及び左走査線LS1〜LS3)上における可視光Rvと不可視光Riとの距離がほぼ一定になるから、可視光光源21の出射の停止時間等をそれぞれの走査線ごとに変更する必要がなくなる。この結果、照射装置1を簡易に構成しうる。
【0100】
(他の実施形態)
図6(a)〜図6(c)を参照しながら、他の実施形態を説明する。
【0101】
図1では、水平方向Dhの走査線RS、LSが用いられたが、これに限られない。たとえば、図6(a)に示されるように、水平方向Dhの左走査線A1と右斜め方向の走査線A2が採用されてもよい。このような走査線は、不可視光光源31の配置変更、照射点の変更及びミラー41の回転方向を変更することにより実現され得る。
【0102】
また、図2(a)では、不可視光光源31は、円盤状の固定板51に取り付けられ、図2(b)に示されるように、可視光光源21を中心とした同一の円の円弧上に配置されたが、これに限られない。図7(b)に示されるように、不可視光光源31g〜31lが長方形盤状の固定板52に取り付けられ、可視光光源21を中心とした同一の円の円弧上に配置されていなくともよい。
【0103】
また、本実施形態では1の可視光光源21に対し、それぞれの走査線に対応する6つの不可視光光源31a〜31fが設けられたが、これに代えて、1の不可視光光源に対し、それぞれの走査線に対応する複数の可視光光源が設けられてもよい。
【0104】
また、本実施形態では切替回路5により光源の出射、及び停止を切り替えたが、これに代えて、一部に穴があけられたスリットの回転又はシャッターの開閉による光源の光の通過及び遮断で光源の出射及び停止を切り替えてもよい。このようにすることで、光源のON、OFFを繰り返す必要がなくなるため、光源のON、OFFに伴うタイムロスを軽減することができる。
【符号の説明】
【0105】
1…照射装置、A…照射対象領域、Rv…可視光、Ri…不可視光、Rs…散乱光、Scat…散乱体、21…可視光光源、31…不可視光光源、40…光偏向器、41…ミラー、5…切替回路、6…散乱光受光部、7…制御装置、I…受光量、Ith…散乱閾値(所定量)、Lrv…可視光光度総和、Lrv_th…所定光度、Dh…水平方向、Dv…鉛直方向、P…焦点。
図1
図2
図3
図4
図5
図6