特許第6261609号(P6261609)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6261609ハロゲン含有の高級シラン化合物の水素化方法
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  • 特許6261609-ハロゲン含有の高級シラン化合物の水素化方法 図000004
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6261609
(24)【登録日】2017年12月22日
(45)【発行日】2018年1月17日
(54)【発明の名称】ハロゲン含有の高級シラン化合物の水素化方法
(51)【国際特許分類】
   C01B 33/04 20060101AFI20180104BHJP
【FI】
   C01B33/04
【請求項の数】11
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2015-548315(P2015-548315)
(86)(22)【出願日】2013年11月27日
(65)【公表番号】特表2016-500361(P2016-500361A)
(43)【公表日】2016年1月12日
(86)【国際出願番号】EP2013074877
(87)【国際公開番号】WO2014095278
(87)【国際公開日】20140626
【審査請求日】2016年11月24日
(31)【優先権主張番号】102012224202.3
(32)【優先日】2012年12月21日
(33)【優先権主張国】DE
(73)【特許権者】
【識別番号】501073862
【氏名又は名称】エボニック デグサ ゲーエムベーハー
【氏名又は名称原語表記】Evonik Degussa GmbH
(74)【代理人】
【識別番号】100114890
【弁理士】
【氏名又は名称】アインゼル・フェリックス=ラインハルト
(74)【代理人】
【識別番号】100099483
【弁理士】
【氏名又は名称】久野 琢也
(72)【発明者】
【氏名】ミン−ザエ オー
(72)【発明者】
【氏名】イェンス ハウブロック
(72)【発明者】
【氏名】トアステン シュヴェアツケ
(72)【発明者】
【氏名】イマド ムサレム
(72)【発明者】
【氏名】マーティン トロハ
【審査官】 森坂 英昭
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2012/084897(WO,A1)
【文献】 国際公開第2011/067410(WO,A1)
【文献】 国際公開第2012/087653(WO,A1)
【文献】 特開昭62−017011(JP,A)
【文献】 特開昭59−088308(JP,A)
【文献】 特開2000−256367(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2011/0158883(US,A1)
【文献】 米国特許第04725419(US,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C01B 33/00 − 33/193
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも3個のケイ素原子を有するハロゲン含有のシラン化合物を連続的に水素化する方法において、
− 少なくとも3個のケイ素原子を有する、ハロゲン含有の、少なくとも1種のシラン化合物と、
− 少なくとも1種の水素化剤とを、
− 連続的に、
− 少なくとも3個のケイ素原子を有する、少なくとも1種のヒドリドシラン化合物と、
− 酸化された水素化剤との形成下に反応させ、及び
− 酸化された水素化剤を取り出し、還元し、前記還元反応の反応生成物を前記水素化に再び供給する、連続的に水素化する方法。
【請求項2】
前記ハロゲン含有のシラン化合物は、一般式Sin2n+2(式中、3≦n≦10、及びX=F、Cl、Br、I)を有することを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記ハロゲン含有のシラン化合物は、Si5Cl12であることを特徴とする、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
少なくとも1種の、ハロゲン含有のシラン化合物の割合は、供給された成分の全質量を基準として10〜30質量%であることを特徴とする、請求項1から3までのいずれか1項に記載の方法。
【請求項5】
前記水素化剤は、LiAlH4、NaBH4及びi−Bu2AlHからなる化合物群から選択されることを特徴とする、請求項1から4までのいずれか1項に記載の方法。
【請求項6】
前記水素化剤は、還元された状態で、水素化されるべきハロゲン原子の合計を基準として1.0〜1.5のH当量の割合で供給されることを特徴とする、請求項1から5までのいずれか1項に記載の方法。
【請求項7】
前記反応のために、少なくとも2つの直列接続された反応器を使用することを特徴とする、請求項1から6までのいずれか1項に記載の方法。
【請求項8】
第1の反応器中で、還元された水素化剤対酸化された水素化剤のモル比の値は、0.4〜0.75であることを特徴とする、請求項7に記載の方法。
【請求項9】
2つ又はそれ以上の直列接続された反応器の第1の反応器は、撹拌槽型反応器であることを特徴とする、請求項7に記載の方法。
【請求項10】
第1の反応器に後続する反応器の少なくとも1つは流通型反応器であることを特徴とする、請求項7に記載の方法。
【請求項11】
i) 一般式Sin2n+2(n≧2、及びX=F、Cl、Br及び/又はI)の少なくとも1種のハロゲンシラン及び
iii) 第三級ホスファンPR3、第三級アミンNR3及び一般式
NRR′aR″bc
[式中、a=0又は1、b=0又は1、及びc=0又は1、及び
【化1】
その際、
aa) R、R′及び/又はR″は、−C1〜C12−アルキル、−C1〜C12−アリール、−C1〜C12−アラルキル、−C1〜C12−アミノアルキル、−C1〜C12−アミノアリール、−C1〜C12−アミノアラルキルであり、
及び/又は
2つ又は3つの基R、R′及びR″は、c=0の場合に一緒になって、Nを含めて環式又は二環式、ヘテロ脂肪族又はヘテロ芳香族の系を形成し、
ただし、少なくとも1つの基R、R′又はR″は、−CH3ではなく、
及び/又は
dd) R及びR′及び/又はR″(c=1の場合)は、−C1〜C12−アルキレン、−C1〜C12−アリーレン、−C1〜C12−アラルキレン、−C1〜C12−ヘテロアルキレン、−C1〜C12−ヘテロアリーレン、−C1〜C12−ヘテロアラルキレン及び/又は−N=であるか、
又は
ee) (a=b=c=0の場合)R=≡C−R″′(式中、R″′=−C1〜C10−アルキル、−C1〜C10−アリール及び/又は−C1〜C10−アラルキル)である]の化合物群からなる群から選択される少なくとも1種の触媒を、一般式Sim2m+2(式中、m>n及びX=F、Cl、Br及び/又はI)及びSim-n2(m-n)+2(式中、X=F、Cl、Br及び/又はI)の少なくとも1種のハロゲンシランを有する混合物の生成下に反応させる、ハロゲン化されたシラン化合物の合成方法に引き続き行うことを特徴とする、
請求項1から10までのいずれか1項に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ハロゲン含有の高級シラン化合物を高級ヒドリドシラン化合物に連続的に水素化する方法に関する。特に、本発明は、ドデカクロロネオペンタシランのネオペンタシランへの水素化に関する。
【0002】
ヒドリドシラン及びヒドリドシラン化合物は、文献中に、シリコン層の作製のための可能な出発物質として記載されている。この場合、ヒドリドシランとは、主にケイ素原子と水素原子だけを含む化合物であると解釈される。
ヒドリドシラン化合物は、ケイ素原子及び水素原子の他に、更に他の基、特にアルキル基、ボラアルキル基、ホスファアルキル基、−BH2基又はPH2基を有していてもよい。ヒドリドシランは、気体、液体又は固体であることができ、かつ固体の場合には、主に、トルエン又はシクロヘキサンのような溶剤中に又はシクロペンタシランのような液状シラン中に可溶である。例としては、モノシラン、ジシラン、トリシラン、シクロペンタシラン及びネオペンタシランが挙げられる。少なくとも3個又は4個のケイ素原子を有するヒドリドシランは、SiH結合を有する、線状、分枝状又は(場合により二環/多環)環状の構造を有し、それぞれ一般式Sin2n+2(線状又は分枝状;n≧2)、Sin2n(環状;n≧3)又はSin2(n-i)(二環又は多環;n≧4;i{環の数}−1)によって記載することができる。少なくとも3個のケイ素原子を有するヒドリドシランは、高級ヒドリドシランと言われる。この高級ヒドリドシランは、その液状又は固体状の凝集状態に基づいて、その製造の際に高圧法を使用する必要がなく、その代わりに技術的に簡単に取り扱うことができる液相又は固相で作業できるという利点を有する。更に、高級ヒドリドシラン及び高級ヒドリドシラン化合物は、これらを用いて液相法によって良好なケイ素含有層を製造できるという利点を有する。
【0003】
高級ヒドリドシランの多くの製造方法は、低級ヒドリドシラン、特にSiH4から、形式上のH2脱離下での高級シランへの脱水素重合に基づく。この脱水素重合は、この場合、1)熱的(触媒を使用しない場合についてはUS 6,027,705 A)及び/又は2)触媒の使用、例えばa)単体の遷移金属(不均一系触媒;白金族金属、つまりRu、Rh、Pd、Os、Ir、Ptを使用する場合についてはUS 6,027,705 A;3B族〜7B族及び8族の金属、つまりCu族及びZn族なしの遷移金属/ランタニドについてはUS 5,700,400 A)、b)非金属酸化物(不均一系触媒;Al23又はSiO2を使用する場合についてはUS 6,027,705 A);c)スカンジウム、イットリウム又は希土類の、水素化物のシクロペンタジエニル錯体(均一系触媒;US 4,965,386 A, US 5,252,766 A)、d)遷移金属錯体(均一系触媒;3B族〜7B族及び8族の金属の錯体、つまりCu族及びZn族なしの遷移金属/ランタニドの錯体、についてはUS 5,700,400 A;JP 02-184513 A)又はe)担体上に固定された所定の遷移金属(不均一系触媒;例えばSiO2のような担体上の白金族金属を使用する場合についてはUS 6,027,705 A、炭素、SiO2又はAl23上に固定されたルテニウム、ロジウム、パラジウム又は白金についてはUS 5,700,400 A)又は遷移金属錯体(不均一系触媒、例えばSiO2のような担体上の白金族金属錯体を使用する場合についてはUS 6,027,705 A)により実施することができる。しかしながら、これら全ての方法は、使用される低級ヒドリドシラン自体を手間をかけて製造しなければならないという欠点を有する。更に、これらの方法については、出発物質の自然発火性に基づいて高い装置費用を必要とすることが欠点である。最終的に、この方法では、今までに十分に高い収率を実現することができなかった。更に、手間のかかる精製が必要である。
【0004】
ジハロシランを、場合によりトリハロシラン及び/又はテトラハロシランと一緒に、電気化学的方法で反応させて高級ヒドリドシランを製造する他の方法も、例えばEP 0 673 960 A1に記載されている。しかしながら、この方法もまた、電気化学的反応操作に基づいて、高い装置費用及び更に高いエネルギー密度を必要とするという欠点を有する。最終的に、ここでも、予めそれぞれのジハロシラン又はトリハロシランを手間をかけて製造しなければならない。
【0005】
これとは別に、高級ヒドリドシランは、アルカリ金属を用いたハロシランの脱ハロゲン及び重縮合により製造することもできる(GB 2 077 710 A)。しかしながら、この方法は十分に高い収率を生じない。更に、この方法は選択性が僅かである。
【0006】
今までに記載された合成と比べて好ましい、高級ヒドリドシラン化合物の合成は、ハロゲン含有のシラン化合物、特にハロゲンシランの水素化にある。
【0007】
ハロゲン含有シラン化合物の合成は、先行技術に属する。同様に、それをヒドリドシランに水素化する多様な方法は既に先行技術に記載されている。
【0008】
低級クロロシランから高級クロロシランの触媒による生成は、特に十二塩化五ケイ素の生成(ネオペンタシラン、Si(SiH34の塩素類縁体、)は、例えばA. Kaczmarczyk et al., J. Inorg. Nucl. Chem., 1964, Vol. 26, 421-425又はG. Urry, J. Inorg. Nucl. Chem., 1964, Vol. 26, 409-414に記載されている。 A. Kaczmarczyk et al., J. Inorg. Nucl. Chem., 1964, Vol. 26, 421-425は、テトラクロロシランの生成下でのヘキサクロロジシランからの十二塩化五ケイ素の合成を記載している。更に、ここには、オクタクロロトリシランの相応する使用の際に、十二塩化五ケイ素とヘキサクロロジシランが生じることが記載されている。ここで使用される触媒はトリメチルアミンである。G. Urry, J. Inorg. Nucl. Chem., 1964, Vol. 26, 409-414は、テトラクロロシランの生成下でヘキサクロロジシランからの又はヘキサクロロジシランの生成下でオクタクロロトリシランからの、十二塩化五ケイ素のトリメチルアミン触媒による合成を教示している。しかしながら、ここにはこの生成物のヒドリドシランへの水素化は記載されていない。
【0009】
DE 195 02 550 A1及びJP S63-008207 A1は、水素ガスを用いて四塩化ケイ素を水素化してモノシランにすることを記載している。しかしながら、この方法は、600℃以上の温度を必要とし、加圧下で実施しなければならない。更に、水素ガスは取扱の際に手間がかかり、従って不都合である。最終的に、この方法の高級ヒドリドシランの生成のための適性は開示されていない。
【0010】
EP 2 132 137 A1は、ハロゲン化ケイ素を、モノシラン又はハロゲン化モノシラン誘導体又は高級ヒドリドシラン又は高級ハロゲン化ヒドリドシラン化合物に接触水素化する方法を記載していて、この場合、第1の工程で、ルイス酸−塩基のペアをH2の添加下で水素化し、これを第2の工程で水素化のために使用し、第3の工程でハロゲン化水素の分離下で反応させる。この方法は回分法である。この方法は、反応の完了後に生成物を同様に生じる副生成物から分離しなければならず、装置の清浄化が必要であるという欠点を有する。この期間の間、反応容器は新たな合成のために使用されない。更に、この方法は十分な収率を生じないことが欠点である。
【0011】
US 4,601,798 Aは、SiH4の連続的製造方法を記載していて、この場合、特に金属水素化物、例えば水素化リチウムを用いてSiCl4のSiH4への水素化が実施される。高級ハロゲンシランのためのこの方法の適性は開示されていない。更に、この開示された方法について、この方法が塩溶融液中で実施され、従って大きな装置的な費用で実施されることが欠点である。同様に、生じる塩化リチウムの後処理を電気化学的に、手間をかけてかつエネルギーをかけて行うことも欠点である。
【0012】
JP 2003-119200 Aは、ハロゲン含有のモノシラン誘導体又はハロゲン含有の高級シランを水素化ホウ素ナトリウムで還元することを開示している。しかしながら、ここでも、この方法がバッチプロセスであることは欠点である。更に、この記載された方法は低い収率が生じるだけであり、かつ手間をかけて除去しなければならない大量の副生成物を生じる。
【0013】
WO 2008/051328 A1は、ネオペンタシラン含有組成物の製造のために、式X3SiSiX3のヘキサハロジシランを、第3級アミン触媒を用いて、テトラキス(トリハロシリル)シラン(Si(SiX34)及びテトラハロシランを有する第1の混合物の形成下で反応させることを教示している。この2つの主成分のテトラキス(トリハロシリル)シランとテトラハロシランとは、互いに分離することができる。得られたテトラキス(トリハロシリル)シランを、水素化ジイソブチルアルミニウムを用いて水素化することによりネオペンタシラン(Si(SiH34)に変換することができる。ここに開示された水素化方法は、回分法である。更に、この方法は、使用したハロゲンシランを基準として十分に高い収率を生じないことが欠点である。
【0014】
DE 10 2009 053 804 A1及びDE 10 2010 063 823 A1も、高級ヒドリドシラン、特にネオペンタシランの製造方法を記載している。DE 10 2009 053 804 A1による方法の場合、一般式Sin2n+2の少なくとも1種のハロゲンシランと少なくとも1種の触媒とを、一般式Sim2m+2の少なくとも1種のハロゲンシラン(m>n及びX=F、Cl、Br及び/又はI)とSiX4(X=F、Cl、Br及び/又はI)との混合物の生成下で反応させ、かつ一般式Sim2m+2の少なくとも1種のハロゲンシランを、一般式Sim2m+2のヒドリドシランの生成下で水素化している。DE 102010063823 A1による方法の場合には、生じたヒドリドシランを同様に並行して生じたハロゲン化ヒドリドシランと分離し、後者を場合により新たに水素化する。しかしながら、この場合、付加的な水素化工程に基づき、2つの水素化工程において酸化された水素化剤が廃棄物として生じ、これは反応生成物を汚染するか又は希薄化するか又は手間をかけて分離しかつ廃棄しなければならないことが欠点である。
【0015】
従って、本発明の課題は、先行技術のこれらの欠点を回避することである。特に、本発明の課題は、簡単に取り扱うことができる技術を使用しかつ特に高い収率でヒドリドシラン化合物を生じる、ハロゲン含有の高級ヒドリドシラン化合物の水素化方法を提供することである。
【0016】
この課題は、本願発明の場合、
− 少なくとも3個のケイ素原子を有する、少なくとも1種の、ハロゲン含有のシラン化合物と、
− 少なくとも1種の水素化剤とを、
− 連続的に、
− 少なくとも3個のケイ素原子を有する、少なくとも1種のヒドリドシラン化合物と、
− 酸化された水素化剤との生成下で反応させ、
− 酸化された水素化剤を取り出し、還元し、この還元反応の反応生成物を水素化に再び供給する、
少なくとも3個のケイ素原子を有するハロゲン含有のシラン化合物の連続的水素化方法によって解決される。
【0017】
本発明により使用される、ハロゲン含有のシラン化合物とは、好ましくは、式Sin2n+2-zz(n≧3;0≦z≦2n;X=F、Cl、Br、I;Y=H、C1〜C10−アルキル、BH2、PH2)又はSin2n-zz(n≧4;0≦z≦2n−2;X=F、Cl、Br、I;Y=H、C1〜C10−アルキル、BH、PH)の線状、分枝状又は環状の化合物であると解釈することができる。「線状」、「分枝状」又は「環状」の表示は、ケイ素原子の配置に関する表示であると解釈される。「C1〜C10−アルキル」−基とは、ここでも及びこれ以後も、場合によりホウ素原子又はリン原子を有することができる、1〜10個の炭素原子を有するアルキル基であると解釈される。
【0018】
本発明による方法は、特に良好に、一般式Sin2n+2のハロゲン含有のシラン化合物(3≦n≦10及びX=F、Cl、Br、I)を用いて実施することができる。特にこの場合に生じる利点は、この場合にそれぞれ生じる生成物のSin2n+2が液状であり、特に簡単に分離できることである。
【0019】
出発物質としてSi5Cl12(ドデカクロロネオペンタシラン)を使用する場合、この反応は特に良好に制御可能である。
【0020】
水素化の開始前に供給される出発物質流の、使用された少なくとも1種の、ハロゲン含有のシラン化合物の割合は、供給された成分(特にハロゲン含有のシラン化合物、水素化剤及び場合により存在する溶剤)の全質量を基準として、好ましくは10〜30質量%、特に好ましくは15〜27質量%である。こうして特に良好な反応収率を達成することができる。更に、この値の場合に、反応組成物は特に良好な粘度を有することができる。
【0021】
ハロゲン含有のシラン化合物を、少なくとも1種の水素化剤と反応させる。水素化剤とは、この場合、水素を供与する還元剤であると解釈される。特に、水素化剤とは、水素化物化合物である。水素化剤がLiAlH4、NaBH4、i−Bu2AlHからなる化合物群から選択される場合に特に良好な収率が生じる。特にドデカクロロネオペンタシランの水素化のために、水素化剤としてi−Bu2AlHを使用する場合に最高の収率が生じる。更に、i−Bu2AlHは、この反応の望ましい実施の場合に、溶剤の添加なしで液相で使用できるという利点がある。
【0022】
この水素化剤を、還元された状態で、水素化されるべきハロゲン原子の合計を基準として、1.0〜1.5のH当量の割合で供給する場合に特に良好な収率が生じる。
【0023】
ハロゲン含有のシランの水素化は、好ましくは−78〜300℃の温度で及び1mbar〜40barの圧力で行われる。特に好ましくは、このハロゲン含有のシランの水素化は、−25℃〜+25℃で、0.9〜5barで行う。
【0024】
少なくとも1種の、ハロゲン含有のシラン化合物は、水素化のために、溶剤なしで又は溶剤中に溶解又は懸濁させて使用することができる。好ましくは、反応速度を高めるために、このハロゲン含有シラン化合物は、溶剤を個別に添加することなしに使用される。更に、ハロゲン含有のシラン化合物の水素化のために、酸化された状態及び/又は還元された状態で液状で存在し、それによりハロゲン含有のシラン化合物を懸濁又は溶解することができる水素化剤を使用することが好ましい。
【0025】
本発明による方法は、連続的方法である。連続的方法の場合に、この出発材料及び場合により溶剤は、例えばコンプレッサ又はポンプを用いて中断なく、つまり連続的に反応容器中へ送り込まれる。所定の時間の後に、生成された生成物は、絶え間なく、つまり連続的に反応容器から取り出される。
【0026】
本発明による反応のために、原則として、連続的な反応操作のために適した任意の全ての反応容器を使用することができる。この反応は、唯一の反応器中でも、又は複数の直列接続された反応器の組み合わせでも実施することができる。
【0027】
好ましくは、この方法は、少なくとも2つの直列接続された反応器を使用して実施される。このように、簡単な技術で特に高い収率を達成することができる。
【0028】
更に、この方法は、少なくとも2つの反応器を使用する場合に、第1の反応器中では、還元された水素化剤対酸化された水素化剤のモル比の値が0.4〜0.75、好ましくは0.5〜0.65、特に好ましくは0.55〜0.6であるように実施するのが好ましい。0.4、更には0.5、特に0.55の下限の選択は、反応の際に存在する又は生じる固体が有害に作用することがなく、この場合に第1の反応器中で既に満足のいく収率が生じる。第1の部分段階にとって既に満足のいく収率に基づいて、更に、後続する1つ又は複数の反応器中での反応操作は技術的にあまり手間をかけずに維持することができる。0.75、更には0.65、更に好ましくは0.6の上限について、反応の際に生じる廃熱量はまだ良好に制御可能である。更に、0.4〜0.75の指定された範囲は、更に好ましくは0.5〜0.65のより狭い部分範囲、より好ましくは0.55〜0.6の部分範囲は、全体として特に僅かな副生成物を生じさせるという利点を有する。特に、この方法は、少なくとも1つの水素化剤がi−Bu2AlHであり、第1の反応器中で還元されたi−Bu2AlH対酸化されたi−Bu2AlHのモル比の値が0.5〜0.65、好ましくは0.55〜0.6であるように実施されるのが好ましい。
【0029】
好ましくは、第1の反応器は、撹拌槽型反応器(Continuous Stirred-Tank Reactor、CSTR)である。このような反応器を用いて、還元された水素化剤対酸化された水素化剤の予め好ましいことが明らかなモル比について、シラン化合物の水素化に関して50〜70Mol%の転化率を達成することができる。撹拌槽型反応器は、更に好ましくは、反応混合物の外部循環操作で運転される。外部循環操作を介して、この反応熱を良好に搬出することができ、かつより高い流動速度により物質輸送過程を付加的に促進することができる。
【0030】
この撹拌槽型反応器に、さらに1つ又は複数の反応器が後続されていてもよく、これは全体の収率を上げるという利点を有する。好ましくは、第1の反応器に後続する少なくとも1つの反応器は、流通型反応器である。好ましくは、後続する1つ又は複数の流通型反応器は、少なくとも1つの管型反応器、少なくとも1つのループ型反応器、少なくとも1つのカラム型反応器又はこれらの組み合わせである。相応する反応器は、技術的に簡単に取り扱うことができ、故障を起こしにくく、かつ良好に保全可能である。更に、この反応器を用いて、収率≧95Mol%までの、転化率の最大化を達成することができる。管型反応器を使用するのが好ましい。この反応器は、多様な種類に作製することができる。好ましくは、この反応器は、空の管として又は内部構造物、例えば充填体を備えた管として、内部熱交換器面があるか又はないスタティックミキサを備えた管として、又は螺旋管として構成されていてもよい。
【0031】
酸化された水素化物の還元は、原則として任意に実施することができる。好ましくは、酸化された水素化剤、特に生じるi−Bu2AlClは、水素化ナトリウム又は水素化リチウムで、還元された水素化剤を直接生成しながら水素化されるか、又はNa/Mg合金を用いてまず中間体に反応させ、引く続きH2で水素化される。これに関する手法は当業者に公知であり、L.I.Zalharkin et al.著、Izvestiya Akademii Nauk SSSR No. 10, p.p. 1894-1895, 1961並びにGB 980765 A、US 2,958,703 A、US 3,006,942 A、US 2,838,556 A、US 2,954,388 A及びUS 3,097,066 Aで公開されている。
【0032】
水素化剤の還元は、水素化剤が完全に再生されるまで実施することができる。しかしながら、水素化剤の還元は、水素化剤が完全に再生されるまで行う必要はない、というのもこれは高い装置費用を必要とするためである。好ましくは、水素化剤の再生は、この水素化剤を少なくとも85%の収率まで再生し、かつ更なる使用のために新たな水素化剤を加えるように実施することができる。
【0033】
酸化された水素化剤の取り出し、この還元、及びこの生成物の還元反応への供給(つまり、主に還元された水素化剤の供給)は、ここでもそれ自体、回分法又は連続的に行うことができる。全体の反応を特に良好に制御できるようにするために、好ましくはこの工程も同様に連続的に行う。
【0034】
水素化剤の再生の際に、更に、特に水素化ナトリウムを使用する場合に、収率を高めるために抗凝集剤又は流動助剤を添加することができる(JP 2000-256367 A参照)。
【0035】
ハロゲン含有のシラン化合物を水素化するための本発明による方法は、特に良好に、
i) 一般式Sin2n+2(式中、n≧2、好ましくはn≧3、及びX=F、Cl、Br及び/又はI)の少なくとも1種のハロゲンシラン及び
ii) 第三級ホスファンPR3、第三級アミンNR3及び一般式
NRR′aR″bc
[式中、a=0又は1、b=0又は1、及びc=0又は1、及び
【化1】
その際、
aa) R、R′及び/又はR″は、−C1〜C12−アルキル、−C1〜C12−アリール、−C1〜C12−アラルキル、−C1〜C12−アミノアルキル、−C1〜C12−アミノアリール、−C1〜C12−アミノアラルキル、
特に好ましくは−Ph、−PhCH3、−PhC25、−PhC37、−CH2(C64)CH3、−CH2(C64)C25、−C24(C64)C25、−C24(C64)C37、−C36(C64)C37、−C62(CH33、−C63(CH32、−C87、−C86CH3、−PhNR″′R″″、−PhCH2NR″′R″″、−PhC24NR″′R″″、−PhC36NR″′R″″、−CH2(C64)CH2NR″′R″″、−CH2(C64)C24NR″′R″″、−C24(C64)C24NR″′R″″、−C24(C64)C36NR″′R″″、−C36(C64)C36NR″′R″″、−CH2NR″′R″″、−C24NR″′R″″、−C36NR″′R″″、−C48NR″′R″″、−C510NR″′R″″、−C612NR″′R″″、−C714NR″′R″″、−C816NR″′R″″、−C918NR″′R″″及び/又は−C1020NR″′R″″(式中、R″′及びR″″=−C1〜C10−アルキル、−C1〜C10−アリール及び/又は−C1〜C10−アラルキル)であり、
及び/又は
2つ又は3つの基R、R′及びR″は、c=0の場合に一緒になって、Nを含めて環式又は二環式、ヘテロ脂肪族又はヘテロ芳香族の系を形成し、
特に好ましくは、この環式、二環式、ヘテロ脂肪族又はヘテロ芳香族の系はピロリジン環系、ピロール環系、ピペリジン環系、ピリジン環系、ヘキサメチレンイミン環系、アザトロピリデン環系又はキノリン環系であり、
ただし、少なくとも1つの基R、R′又はR″は、−CH3ではなく、
及び/又は
bb) R及びR′及び/又はR″(c=1の場合)は、−C1〜C12−アルキレン、−C1〜C12−アリーレン、−C1〜C12−アラルキレン、−C1〜C12−ヘテロアルキレン、−C1〜C12−ヘテロアリーレン、−C1〜C12−ヘテロアラルキレン及び/又は−N=、
特に好ましくは、−CH2−、−C24−、−C36−、−C48−、C510−、−C612−、−C714−、−C816−、−C918−、−C1020−、−Ph−、−PhCH2−、−PhC24−、−PhC36−、−CH2(C64)CH2−、−CH2(C64)C24−、−C24(C64)C24−、−C24(C64)C36−、−C36(C64)C36−、−C6H(CH33−、−C62(CH32−、−CH=、−CH=CH−、−N=、−N=CH−及び/又は−CH=N−であるか、
又は
cc) (a=b=c=0の場合)R=≡C−R″′(式中、R″′=−C1〜C10−アルキル、−C1〜C10−アリール及び/又は−C1〜C10−アラルキル)である]の化合物群からなる群から選択される少なくとも1種の触媒を、一般式Sim2m+2(式中、m>n及びX=F、Cl、Br及び/又はI)及びSim-n2(m-n)+2(式中、X=F、Cl、Br及び/又はI)の少なくとも1種のハロゲンシランを有する混合物の生成下に反応させる、ハロゲン化されたシラン化合物の合成方法に引き続き行うことができる。
【0036】
本発明の主題は、更に、本発明による方法により製造されたヒドリドシラン化合物、特に本発明による方法により製造されたヒドリドシラン、並びに半導体の、電子工学的又は光電子工学的層を製造するためのその使用である。
【図面の簡単な説明】
【0037】
図1】例示的な試験構造を示す。
【0038】
実施例:
ドデカクロロネオペンタシランSi5Cl12の製造
Si5Cl12の製造を回分式操作で円錐型ミキサードライヤー中で行う。第1の工程で、20℃でかつ1barで、保護ガス雰囲気下で、主に3個のケイ素原子を有するペルクロロシランの液状混合物20kgに、ヘキサン3kg及びジエチルエーテル450g中に溶かしたジアザビシクロ[2.2.2]オクタン60gを添加する。この混合物を40h内で反応させて固体のSi5Cl12及び副生成物のSiCl4にする。この反応工程の後で、低沸点物(ヘキサン及びジエチルエーテル)及び副生成物のSiCl4を50℃で真空下(200〜1mbar)で反応混合物から分離し、Si5Cl12 16kgを得る。
【0039】
ネオペンタシラン(NPS)の製造及びその熱的後処理(水素化剤のH当量の割合:1.1)
Si5Cl12の水素化ジイソブチルアルミニウムを用いた水素化を、2つの反応工程で実施する。第1の反応器(4、図1参照)、強制循環機構(ポンプ、5)を備えた外部循環路を有する連続運転式撹拌槽型反応器(CSTR)中に水素化ジイソブチルアルミニウムを装入し、リサイクルされた水素化ジイソブチルアルミニウム(3)を連続的に供給する。それと共に、水素化剤(水素化ジイソブチルアルミニウム)を、一定で相応するH当量の割合(2)で後供給する。Si5Cl12(1)を、固体として反応器(4)中へ連続的に供給し、かつ反応温度をこの場合10℃で一定に保持する。Si5Cl12転化率は、この反応工程において、約65%である。CSTR(4)の充填レベル調節によって、定義された体積流を、弁を介して後続する流通管型反応器(6)に送り、そこでも同様に10℃の反応温度が調節されている。この流通管型反応器中で、Si5Cl12の100%の最終転化率が達成される。
【0040】
短路蒸発器(7)中で、この反応工程からの搬出物を熱的に後処理する。消費されなかった水素化剤の水素化ジイソブチルアルミニウム及び反応した水素化剤の塩化ジイソブチルアルミニウムの大部分は、短路蒸発器(7)中で分離される。短路蒸発器の上部生成物を次の蒸留塔中で精製する。1時間当たり純粋なNPS 0.20kgが得られる。
【0041】
留出物中のヒドリドシランの定性的測定は、GC−MS分析で行った。この留出物は、>99.0面積%の割合を有するヒドリドシランを含む。
【0042】
質量基準の収率(使用したペルクロロシラン混合物1kg/h当たりの留出物としてのヒドリドシランkg/h):16.5%。
【0043】
短路蒸留器(7)からの消費されなかった又は反応された水素化剤(8)はNaH(15)で処理され、リサイクルされた水素化剤(3)は引き続きCSTR(4)に返送される。
【符号の説明】
【0044】
1 Si5Cl12の供給管
2 新たなDibal−H(i−Bu2AlH)の供給管
3 リサイクルされたDibal−H(i−Bu2AlH)の供給管
4 CSTR
5 循環ポンプ
6 流通管型反応器
7 短路蒸発器(Kurzwegverdampfer)
8 Dibal−Clのリサイクルのための供給管
9 粗製生成物の蒸留のための供給管
10 蒸留塔1
11 低沸点画分
12 粗製生成物の第2の蒸留のための供給管
13 蒸留塔2
14 有用生成物
図1