特許第6261624号(P6261624)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ ユミコアの特許一覧 ▶ ユミコア・コリア・リミテッドの特許一覧

特許6261624改良されたセル性能を備えるオリビン組成物
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6261624
(24)【登録日】2017年12月22日
(45)【発行日】2018年1月17日
(54)【発明の名称】改良されたセル性能を備えるオリビン組成物
(51)【国際特許分類】
   H01M 4/58 20100101AFI20180104BHJP
   C01B 25/45 20060101ALI20180104BHJP
【FI】
   H01M4/58
   C01B25/45 Z
【請求項の数】10
【全頁数】19
(21)【出願番号】特願2015-560787(P2015-560787)
(86)(22)【出願日】2013年3月8日
(65)【公表番号】特表2016-515285(P2016-515285A)
(43)【公表日】2016年5月26日
(86)【国際出願番号】IB2013051846
(87)【国際公開番号】WO2014135923
(87)【国際公開日】20140912
【審査請求日】2015年9月4日
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】502270497
【氏名又は名称】ユミコア
(73)【特許権者】
【識別番号】517107151
【氏名又は名称】ユミコア・コリア・リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】110001999
【氏名又は名称】特許業務法人はなぶさ特許商標事務所
(72)【発明者】
【氏名】キム,デヒョン
(72)【発明者】
【氏名】ジェンス,ポールゼン
(72)【発明者】
【氏名】ホン,ヘオンピョ
【審査官】 細井 龍史
(56)【参考文献】
【文献】 特開2004−063422(JP,A)
【文献】 特表2011−510457(JP,A)
【文献】 特開2014−146565(JP,A)
【文献】 特表2016−507863(JP,A)
【文献】 特表2011−517053(JP,A)
【文献】 特表2014−524133(JP,A)
【文献】 国際公開第2013/016426(WO,A1)
【文献】 特表2009−516631(JP,A)
【文献】 特開2010−040272(JP,A)
【文献】 特開2013−101883(JP,A)
【文献】 国際公開第2011/025823(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 4/00−4/62
C01B 25/45
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
Li、M及びPOを含み、かつ非化学量論組成を有する単相のオリビンカソード材料であって、
−リン酸塩化学量論量比PO:[(Li+M)/2]は、0.940〜1.020であり、
−リチウムの金属に対する比Li:Mは、1.040〜1.150であり、
かつM=Fe1−x−z’Mnz’であり、ここで、0.10<x<0.90、0.010<z’<0.045、前記マンガンの鉄に対する比Mn/(Mn+Fe)が0.25〜0.75であり、DはCr及びMgのいずれか1種又は両方を含むドーパントである、
オリビンカソード材料。
【請求項2】
PO:[(Li+M)/2]が0.960〜1.000である、請求項1に記載のオリビンカソード材料。
【請求項3】
PO:[(Li+M)/2]が1.000未満である、請求項2に記載のオリビンカソード材料。
【請求項4】
前記リチウムの金属に対する比Li:Mが1.070〜1.120である、請求項1〜3のいずれか一項に記載のオリビンカソード材料。
【請求項5】
Dが、Mg及びCrの両方を含む、請求項1乃至4の何れか1項に記載のオリビンカソード材料。
【請求項6】
0.020<z’<0.030である、請求項5に記載のオリビンカソード材料。
【請求項7】
M=Fe1−x−y−zMnMgCrであり、オリビンの1化学式単位の単位セル容量が、式
Vol=74.21478±ΔVol−(3.87150*y)−(3.76943*z)+(3.04572*[(x/(1−y−z))−0.5]
により与えられ、ΔVol=0.0255である、請求項1乃至請求項6のいずれか一項に記載のオリビンカソード材料。
【請求項8】
M=Fe1−x−y−zMnMgCrであり、オリビンの1化学式単位の単位セル容量が、式
Vol=74.21478±ΔVol−(3.87150*y)−(3.76943*z)+(3.04572*[(x/(1−y−z))−0.5]
により与えられ、ΔVol=0.0126である、請求項1乃至請求項6のいずれか一項に記載のオリビンカソード材料。
【請求項9】
BET表面積値が30m/g超である、請求項1乃至請求項8のいずれか一項に記載のオリビンカソード材料。
【請求項10】
DがCrを含み、BET表面積値が40m/g超である、請求項1乃至請求項9のいずれか一項に記載のオリビンカソード材料。
【発明の詳細な説明】
【背景技術】
【0001】
産業上の利用分野及び背景技術
本発明は、オリビン構造を有する二次電池のためのリン酸系カソード材料に関し、より具体的には、非化学量論的にドープされたLiMPO−M=Fe1−xMn系カソード材料に関する。
【0002】
市販のリチウム二次電池のほとんどは、カソード材料としてLCOを使用している。本願では、LCOはLiCoO系カソード材料を指す。しかしながら、LCOは安全性に限界があり(充電した電池が危険な状態になり、究極的には熱暴走を起こして大爆発を生じる恐れがある)、かつコバルト系金属の費用がかさむという重大な欠点を有する。LCOをより安価なNMCで代替する動きが進んでいるものの、NMCも安全性に関し重大な課題を示している。NMCは、LiM0[M=Ni1−x−yMnCo]系カソード材料の略記である。
【0003】
LCO及びNMCは、層状結晶構造を有するカソード材料の一種である。Li電池カソードのその他の結晶構造にはスピネル構造がある。スピネル構造を有するカソード材料としては、例えばLMO又はLNMOが挙げられる。LMOはLiMn系カソード材料を指すのに対し、LNMOはLiNi0.5Mn1.5系カソード材料の略記である。これらのスピネルは、安全性の改良を保証するものの、別の欠点を示す。実際にはLMOは容量が極端に少なく、それに対しLNMOは非常に高い充電電圧を持つために様々な電圧範囲で良好に動作し得る十分に安定な電解質を発見することが非常に難しい。
【0004】
層状結晶構造カソード(LCO及びNMC)及びスピネル構造カソード(LMO及びLNMO)の他、オリビン構造を有するリン酸系カソード材料も、とりわけ十分に固有の高い安全性を有していることから関心を集めている。オリビン構造を有するリン酸系カソード材料は、Goodenoughにより1996年に初めて提案された。Goodenoughの米国特許第5,910,382号は、LFP並びにLFMPについての例を開示している。LFPは、LiFePOを指し、LFMPはLiMPO[M=Fe1−xMnx]系カソード材料を指す。オリビン結晶構造型リン酸カソード材料の商用に向けての課題は、固有の伝導率が低いことである。Liカチオンの抽出(又は挿入)には電子の同時抽出(又は付加)が必要とされることから、カソードの電気的な接触を良好にする必要がある:
LiMPO→MPO+Li+e
【0005】
M.Armand及び共同発明者らは、米国特許第7,285,260号において、オリビンをカーボンコートすることにより導電性を改良する方法を開示している。この特許の開示後、オリビン構造のリン酸塩に対する関心が高まっている。商業的にはLFPが最も関心を集めている。しかしながら、低コストであり、安全性が高く、かつ安定性も高いものである可能性があるにもかかわらず、LFPの有するエネルギー密度は低いことから、LFPは商業的にはなおも少数派のカソード材料である。質量エネルギー密度は、カソード材料の質量当たりの平均電圧及び容量の積である。体積エネルギーはカソード材料の平均電圧及び容量の積である。約155〜160mAh/gと比較的高容量であるものの、多くの用途についてエネルギー密度(特に、体積エネルギー密度[Wh/カソード1L])が不十分である。これは、結晶密度が比較的低く(約3.6g/cm)かつ平均運転電圧が比較的低くわずか3.3Vであることに起因する。これに比べ、LiCoOは同様の容量を有するものの、平均電圧は4.0V(3.3Vの代わりに)であり、密度は5.05g/cmである(これに対しLFPでは3.6g/cmである)。
【0006】
Goodenoughの特許は、LFPでは遷移金属の鉄をその他の遷移金属、例えばマンガンで代替可能であると教示している。ある程度、MnによりFeを代替した場合には、LFMPが得られ、すべてのFeをMnにより代替した場合には、LMPが得られる。LMPはLiMnPOを指す。高い理論エネルギー密度を有することから、LMPは根本的に興味を引くものである。
LMPはLFPと比較しておよそ同等の理論容量を有するものの、平均電圧は高いため(4.1V対3.3V)エネルギー密度の著しい増大が保証される(24%)。しかしながら、LMPの結晶密度は低いことから(LFPの3.6g/cmに対して3.4g/cm)この効果は一部オフセット(−6%)される。これまでの所、真に優位性のあるLiMnPOを製造する試みは失敗している。性能が乏しいのは、LiMnPOの固有の導電率が極めて低く、カーボンコーティングの後でさえ十分な性能の達成が妨げられることに起因する可能性がある。
【0007】
LFP、LFMP及びLMPの基本的な特性及び課題は、例えば、「Olivine−type cathodes:Achievements and problems」,Journal of Power Sources 119−121(2003)232−238(Yamada et al)に十分に記載されている。米国特許出願公開第2009/0186277(A1)号では、化学量論比Li:M:PO=1:1:1から外れる改良されたLiFePO系カソードが開示されている。当該特許文献は、Li:M(リチウム:遷移金属比)1〜1.3、及びPO:M(リン酸塩の遷移金属に対する比)範囲1.0〜1.14であるものを開示しており、かつ遷移金属はCr、Mn、Fe、Co又はNiから選択している。一実施形態では、MとしてはFeが選択され、更には最大で5%のV、Nb、Ti、Al、Mn、Co、Ni、Mg、及びZrがドープされる。本例では、マンガン又はその他の元素によるドープを除いて、排他的にM=Feを指す。この例は、Li:M及びPO:Fe比を非化学量論的なものにする利点を実証する。化学量論比は、Li:M:PO=1.00:1.00:1.00を指し、これは理想的なオリビン式LiFePOに対応する。この例は、1.0を超過するLi:M及びPO:M比を選択したときに良好なLFMP性能が達成され得ることを実証する。
【0008】
「Reaction Mechanism of the Olivine−Type
LiMn0.6Fe0.4PO,(0<x<1 )」,Journal of The Electrochemical Society,148(7)A747−A754(2001),Yamada et al.は、LFMPの電気化学的特性について報告している。Liが抽出されるとき、最初は部分的に脱リチウム化された相が生成され、すべてのFeの価数が2価の状態から3価の状態に変わるまでの間、単相で格子定数が変化する。すべてのMnが2価から3価に変化するまでの間は、すべてのFeが3価状態に到達した後に更に脱リチウム化することで、新しい相−すなわち完全に脱リチウム化したLFMPと、部分的に脱リチウム化した相とが共存する。この論文は、LFP、LFMP及びLMPの格子定数を提供している(表1を参照されたい)。表1中、容量は、4化学式単位(formula units)のLiMPOを含有している完全な単位セルの容量である。本発明において、容量は、化学式単位1つ分の容量を指す。表1のデータを使用し、化学量論LFMPにヴェガード則(格子定数の直線的な変化)を用いることで、LFMPに適切な格子定数の算出が可能になる。
【0009】
【表1】
【0010】
米国特許出願公開第2011/0052988(A1)号は、改良されたLFMPカソード材料を開示する。当該特許は、M(M=Fe1−XMn)に最大で10%のCo、Ni、V又はNbを追加してドープすることで性能が改良されることを開示する。Mにおいて、マンガン含量は35〜60mol%である。当該特許によるLFMPオリビンリン酸の組成は、正確な理想的化学量論組成(Li:M:PO=1.00:1.00:1.00)ではないものの、この化学量論組成に非常に近い。当該特許は、Li:M=1.00〜1.05の狭域、及びPO:M=1.00〜1.020の狭域が化学量論値に非常に近いことを開示している。米国特許第7,858,233号は、性能が改良されており、同様に化学量論的Li:M:PO=1.00:1.00:1.00比から外れるLFPを開示する。Li:M<1.0及びPO:M<1.0であるFeリッチカソードで最適性能が得られる。
【0011】
LCOが、高いLi拡散率と、通常は十分な導電率を備えるのに対し、LFP又はLFMPオリビンカソード材料の備えるLi拡散速度及び導電率は低い。その一方、大型で密集しているLCO粒子(20μm超寸法)はカソード材料として良好に機能でき、同様の形状のLFMPはカソード材料として機能できない。LFMPはナノ構造化させる必要がある。ナノ構造化は形状を指すものであり、この場合、固体におけるLi拡散経路長が短い。電池においては、Liが電解液中に迅速に拡散しナノ粒子に入り込み、固体中では非常に短距離で粒子に出入りする。拡散経路が短いため、拡散率が乏しいのにもかかわらず良好な電力が達成され得る。Liのバルク拡散及び導電率を高めることで、カソードのナノ構造化をそれほど必要とせずに性能を良好なものにすることができる。当該技術分野では、Liのバルク拡散速度を増大させる方法は十分に教示されていない。
【0012】
ナノ粒子そのものは、通常、小型の一次ナノ粒子からなる大型の多孔性凝集体の一部となる。そのため、高出力のLFMPカソード材料は、小型の一次粒径に直接関連する。顕微鏡検査に加えて、BET表面積は一次粒径を推量するのに良好なツールである。高性能LFMPは、通常、10m/gを超過する表面積を有するのに対し、大型LCO粒子は、表面積を0.15m/g程度に小さくしてもなおも高レートでLCOの性能を提供することができる。好ましいナノ形状のLFMPの設計には複雑な作業を伴う。形状は、化学的組成及び前駆体の種類に応じ変化する。多くの場合、焼結を行う前に前駆体をミリングして形状を変更させるものの、この方式には制限がある。原理上、焼結温度を変更することで一次粒径を変更可能であるものの、LFMPに関しては最終的なカソード生成体で良好な電気化学性能を達成する温度範囲は限られており、比較的狭域である。事実上、BET表面積を劇的に低減又は増大させるのに十分な高温又は低温では、通常、性能は乏しくなる。
【0013】
当該技術分野では、LFMPのナノ形状を変更するのに十分なツールが不足している。BET表面積を増大させるのに最適化されたナノ形状を設計すると、典型的にはその他の重要なパラメーターが低下することになる。ナノ構造化されたカソードは、多くの場合、良好に充填されず、圧縮密度が低いことから電極密度も低くなり、ひいては最終的な電池の体積エネルギー密度が低下する。電極密度はペレット密度測定により推量できる。同様に、電極密度などのその他の特性を大幅に低下させずにより大きな表面積を達成する方法
についての情報も不足している。従来技術には、オリビン構造化リン酸塩を十分に改良して、商業的に主流な製品に対抗し得る材料を作製するものはない。
【0014】
更には、容量及び電力を増大させる必要もある。組成変更又はドープによりバルク動作を改良する方法についての情報も必要とされている。ナノ形状を修正及び改良し得る組成の変更方法又はドープ方法についての情報もいまだ十分なものではない。
【0015】
本発明は、(バルク)電気化学的性能、エネルギー密度、ナノ形状、表面積及び電極密度に関係する問題の解決を提供することを課題とする。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0016】
第一の態様では、本発明は、Li、M及びPOを含みかつ非化学量論組成を有するオリビンカソード材料を提供することができ、
−リン酸塩化学量論量比PO:[(Li+M)/2]は、0.940〜1.020であり、
−リチウムの金属に対する比Li:Mは、1.040〜1.150であり、
かつM=Fe1−x−z’Mnz’であり、ここで、0.10<x<0.90、z’>0であり、DはCr及びMgのいずれか1種又は両方を含むドーパントである。一実
施形態では、PO:[(Li+M)/2]は、0.960〜1.000であり、更に良好に機能する材料が得られる。性能は、PO:[(Li+M)/2]が1.000未満である別の実施形態において、なお更に改良される。リチウムの金属に対する比Li:Mが1.070〜1.120である実施形態、又はマンガンの鉄に対する比Mn/(Mn+Fe)が0.25〜0.75である実施形態、又はz’<0.05である別の実施形態のいずれに関しても、性能において改良が得られる。
【0017】
本願に記載のオリビンカソード材料のBET表面積は30m/g超であり得る。
いくつかの実施形態では、DはCrを含み、BET表面積値40m/g超を得ることができる。個々の実施形態はある程度の相乗効果を示し、DはMg及びCrを両方含む。このような実施形態では、0.010<z’<0.045であるとき、特に0.020<z’<0.030であるときに良好な結果が更に得られる。
【0018】
更に別の実施形態では、M=Fe1−x−y−zMnMgCrであり、オリビンの1化学式単位の単位セル容量は、式:
Vol=74.21478±ΔVol−(3.871 50*y)−(3.76943*z)+(3.04572*[(x/(1−y−z))−0.5]により与えられ、式中、ΔVol=0.0255である。この式において、ΔVol=0.0126であると更に改良された組成が得られる。
【0019】
本発明では、適切な組成の選択が重要である。Li−M−PO相図によると、限られた範囲の組成が良好な性能を提供する。最適化された実施形態のうちあるものでは、リン酸塩化学量論量はPO:[(Li+M)/2]=0.980±0.020であり、リチウムの金属に対する比はLi:M=1.095±0.025である。Mは主にMn及びFeであり、式M=Fe1−x−z’Mnz’でドーパントDによりドープすることもでき、式中、xは約0.5であるものの、0.25〜0.75の範囲であってよい。
【0020】
組成に加え、ドーパントの選択も非常に重要である。一実施形態では、Cr及びMg両方のドープが性能を大幅に改良する。三成分図の最適なLi−M−PO組成はドープにより変化せず、最適リン酸塩化学量論量並びにリチウム:金属比はいずれも安定を維持する。
【0021】
BET表面積及び結晶寸法はMgドープによる変更を受けないことから、Mgドープの場合、性能の改良は形状の変更によりもたらされるものではない。明らかに、MgドープはLiの拡散を改良する。理論に束縛されるものではないが、このような改良には、Liのバルク拡散を大幅に改良するか、あるいは表面電荷の移動特性を劇的に改良するかのいずれかが必要とされる。Crドープの場合に改良される性能は、少なくとも部分的には形状の変更によりもたらされる。Crドープを行うことで、高レート性能を可能にする高BET表面積がもたらされる。理論に束縛されるものではないが、Crは焼結阻害剤として機能するものと考えられており、本方法において、Crドープは所望の形状を得るために使用できる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
(各付番は実施例の付番数に対応する)
図1.1】本発明によるいくつかの非化学量論的LFMP組成を示す相図。
図1.2】ドープをしていない非化学量論的LFMPの放電容量の等高線図。
図2.1】4.5mol% Mgをドープした非化学量論的LFMPの放電容量の等高線図。
図3.1】2.3mol% Mg及び2.3mol% Crをドープした非化学量論的LFMPの放電容量の等高線図。
図5.1】ドープしていない、並びに(a)Mg及び(b)CrをドープしたLFMPの、Cレートの関数としてのレート性能。
図7.1】XRD回折パターン及び最適Li:M比及びリン酸塩組成での非化学量論的LFMPのリートベルト解析。(a)未ドープ、(b)3%Mgドープ、(c)3%Crドープ、(d)2.3+2.3% Mg+Crドープ、及び(e)未ドープでありMF=25%。
図8.1】サンプルに最適な化学量論量のP(0.982)及びLM(1.095)をドープすることによる直線的な容量変化の線グラフ。
図8.2】異なる組成を備える広範な一連のサンプルについてのリートベルト解析により得られた測定値に対し容量(式1により算出される)をプロットしたグラフ。
【発明を実施するための形態】
【0023】
実験の詳細:リン酸鉄リチウム(LFMP)の作製
本発明のLFMPは、次の主要な工程により作製される。
(a)リチウム、鉄、マンガン、リン酸塩、ドーパント及びカーボン前駆体を配合すること、
(b)還元雰囲気下で合成すること、及び
(c)ミリングすること。
【0024】
各工程の詳細な説明は以下の通りである:
工程(a):リチウム、鉄、マンガン、リン酸塩、ドーパント及びカーボン前駆体を、例えば、ボールミルプロセスを使用するなどして配合する。この前駆体と、ジルコニアボール及びアセトンをバイアルに入れる。一実施形態では、炭酸リチウム、しゅう酸鉄(II)・2水和物、しゅう酸マンガン(II)、及びリン酸アンモニウムが、リチウム、鉄、マンガン、及びリン酸塩前駆体として使用される。別の実施形態では、水酸化マグネシウム及び水酸化酢酸クロム(chromium acetate hydroxide)がマグネシウム及びクロムの前駆体として使用される。導電率を改良するためのカーボン前駆体としては、ポリエチレン−ブロック−ポリエチレングリコール(PE−PEG)を使用することもできる。ボールミルプロセスにより、前駆体をバイアル内ミリングして、配合する。湿式ブレンドを炉内で120℃で乾燥させ、アセトンを揮発させる。最終的に、乾式ブレンドを磨砕機によりミリングする。
【0025】
工程(b):還元雰囲気下で焼結する。工程(a)の配合物を使用して、管状炉内で、還元雰囲気下でLFMPサンプルを合成した。一実施形態では、焼結温度は650℃とし、滞留時間は2時間とする。窒素(N、99%)及び水素(H、1%)の気体混合物を還元ガスとして用いることもできる。
【0026】
工程(c):ミリングする。焼結後、最後にサンプルを磨砕機により磨砕する。
リチウムイオン二次電池の作製
本発明の電池は、次の主要な工程により作製される。
(a)正極の作製、及び
(b)セルの組み立て。
【0027】
各工程の詳細な説明は以下の通りである:
【0028】
工程(a):正極の作製。電気化学活性物質LFMP、導電体、結合剤及び溶媒を含有するスラリーを、均質化プロセスにより調製する。電気化学活性物質、導電体、及び結合剤を含む配合は、例えば、83.3:8.3:8.3である。一実施形態では、導電性カーボンブラック(Super P、Timcal製)及びPVDFポリマー(KF#9305、Kureha製)、1−メチル−2−ピロリドン(NMP、Sigma−Aldrich製)をそれぞれ導電体、結合剤、及び溶媒として使用する。これらの材料を、45分間かけて金属製容器内でホモジナイザー(HF−93、SMT製)により均質化する。均質化したスラリーを、ドクターブレードコーターを使用してアルミニウム箔の片面に塗り広げる。120℃の炉内で乾燥させて、カレンダーツールを使用してプレスし、真空炉内で再度乾燥させて溶媒を揮発させる。
工程(B):セルを組み立てる。本発明において、ハーフセル(コイン電池)を使用して、電気化学的特性を試験する。不活性ガス(アルゴン)で満たしたグローブボックス内でハーフセルを組み立てる。正極と、負極とするリチウム金属片との間にセパレーター(SK Innovation)を配置する。1M LiPF−EC/DMC(1:2)を電解質として使用し、セパレーター及び電極間に落とす。
【0029】
セルの試験手順
本発明において、すべてのセルは、表2に掲載するものと同様の手順に従って試験する。Cレートは、140mAh/gを充放電する時間の逆数として定義できる。例えば、5Cは、セルが1/5時間で充放電されることを意味する。「E−電流」及び「V」は、末端電流及びカットオフ電圧を意味する。第1サイクルにおいて、DQ1(第1サイクルの放電容量)及びIRRQ(不可逆容量)を求める。第2〜第6サイクルからはレート性能を算出可能である。第7サイクルを50回繰り返して、サイクル安定性についての情報を得る。
【0030】
【表2】
【0031】
本発明者らは、基本組成に応じた、活性材料の体系的な特性変化を発見した。本発明による材料の特性は、リン酸塩化学量論量−「P」としても参照され、式中、P=PO:[(Li+M)/2]である−に応じ体系的に並びに劇的に変化することから、リン酸塩化学量論量Pの選択は、この変化において重要な役割を担う。一実施形態では、リン酸塩化学量論量を0.980±0.040とすると優れた結果が得られ、別の実施形態では、0.980±0.020とすると更に良好な結果が得られる。これらの最適な値からわずかに、すなわち2〜4%外れると、性能の大幅な低下を招き得る。最適なリン酸塩化学量論量を備えるカソード材料については、リチウムの金属に対する最適な比を比較的広域で求めることができ、これは材料の作製において更なる利点である。一実施形態では、リチウムの金属に対する比(更にはLMと呼ばれる)LM=Li:Mを1.095±0.055にすると優れた結果が得られ、別の実施形態では、1.095±0.025にすると更に良好な結果が得られる。
【0032】
一実施形態では、LFMPにおけるMF比=Mn:(Mn+Fe)は、0.25〜0.75の範囲である。その理由として、
【0033】
−下限については、平均電圧はMF比とともに増加し(MF=Mn:(Mn+Fe))、かつLFPよりも高い平均電圧が可能であり又は更には所望されることが挙げられ、
【0034】
−上限については、本発明者らが、MF=0.75超では、高出力カソード材料を得ることが更に難しくなることを観察したことが挙げられる。明らかに、MF<0.75であれば、リチウムのバルク特性(Li拡散、導電率)は十分に高くなるものの、MF比が0.75を超過すると低下し得る。
【0035】
カソード材料は非化学量論的なものであり、したがって、リチウム:金属比(LM=Li:M)及びリン酸塩化学量論量(P=PO:[(Li+M)/2])は一貫性(unity)から外れる。LFMP式M=Fe1−x−z’Mnz’において、Dはドーパントであり、及びDはMg及びCrから選択される少なくとも1種を含む。
【0036】
驚くべきことに、LFMPの性能は、リン酸塩化学量論量比PO:[(Li+M)/2]に非常に敏感に影響を受け、化学量論値1:1付近では最適性能は達成されない。良好な性能は、高可逆容量、高レート性能及び良好なサイクル安定性により定義される。最適なリン酸塩化学量論量からわずかに外れると、結果として電気化学的性能が大幅に外れることになる。これまでに、当該技術分野では、通常、リチウムの金属に対する比Li:M、及びリン酸塩の金属に対する比PO:Mが報告されている。本出願では、発明者らは、以下の化学量論比「P」を使用することにより電気化学的性能における変動を更に正確に予測可能であることから、PO:[(Li+M)/2]のリン酸塩化学量論量の使用は、より適切に変更可能であることを発見した。
【0037】
いくつかの実施形態では、カソードは約1.095の最適なリチウム金属比LM=Li:Mを有し、リン酸塩化学量論量P=PO/[(Li+M)/2]は約0.980であり、驚くべきことに、最適なリチウム金属比LM、及び最適なリン酸塩化学量論量Pは、ドーパントの選択により変化するものではない。式M=Fe1−x−z’Mnz’において、Mg及びCrから選択される少なくとも1種を含むドーパントDは、2つの主要な機能を有する。
【0038】
−Mgはバルク特性を改良し、ナノ形状を変更せずとも、更に改良された性能が得られる。
【0039】
−一方で、Crは微細構造を変更する。また、Crはバルク性能に好ましい影響も有し
得る。本発明において、Crは「形状用ドーパント」としてみなされ、驚くべきことに、Crドープは、より高BETのナノ形状が達成されるよう焼結特性をある程度変化させる。高BETは電力を改良し、特に高レート性能であるものとして表現される。同時に、BETを高くしても、ペレット密度の劇的な低下は生じない。
【0040】
−したがって、Mg及びCrドープにより性能を改良させることができるが、この改良は、ドープレベルに応じ劇的に変化するものではない。
【0041】
本発明の例に使用されるカソードは、約2000〜3000ppmのカルシウムを含有する。
【0042】
実施例1:非化学量論的LFMP
図1.1は、ローマ数字I〜XIで表される非化学量論的LFMPの特定の組成を示す相図を示す。化学量論比1:1:1が☆により示される。本実施例における組成に関し、Mn量は、Fe量に相当する。本発明におけるサンプルID(識別番号)は、2要素、すなわち組成及びドープ状態から構成される。図1.1に示すローマ数字は、各非化学量論的LFMPサンプルの対象とする組成を表す。ICP(誘導結合プラズマ)解析の結果、対象とする組成との良好な一致が示される。非化学量論的LFMP及びコインセルを作製し、上記の手順により解析する。
【0043】
ドープを行わずに7つの非化学量論的LFMPサンプルを作製した。各サンプルの電気化学的特性を表3に示す。サンプルIDにおいて、「−ND」はMg及び/又はCrをドープしていないサンプルを表す。「DQ1」、「IRRQ」、「5C」、及び「劣化」は、それぞれ、第1サイクルの放電容量、不可逆容量比、5Cでの放電容量、及び100サイクル後の放電容量の劣化率を意味する。ほとんどの物理的及び電気化学的特性は、PO含量の(Li+M)含量に対する比に応じ敏感にシフトする。PO:[(Li+M)/2]値が0.982に近い3つのサンプルは、高放電容量、低不可逆容量、良好なレート性能、及び許容可能なサイクル安定性を有する。図1.2は、組成に対し、非化学量論的LFMPの放電容量(mAh/g)をプロットする。電気化学的特性の観点から、内挿法により、P=PO:[(Li+M)/2]が0.980±0.040であり、かつLM=Li:Mが1.095±0.055である組成範囲が、非化学量論的LFMPの最適組成の実施形態であることを推定可能である。別の実施形態では、P=0.980±0.020及びLM=1.095±0.025について、更に良好な電気化学的特性が達成される。
【0044】
【表3】
【0045】
実施例2:Mgドープした非化学量論的LFMP
Mgドープした非化学量論的LFMPサンプルを11個調製し、上記の手順により解析する。Mn量は、Fe量と等しい。各サンプルの電気化学的特性を表4に示す。サンプルID中、ローマ数字及び“−45M”は、図1.1に示す通りの各LFMPの対象組成を表し、各サンプルは4.5mol% Mgを含有する。ドープレベルz’は、ドーパント
含量の金属に対するモル比、D/(Fe+Mn+D)として定義できる。ほとんどの物理的及び電気化学的特性は、PO含量の(Li+M)含量に対する比に応じ敏感にシフトする。PO:[(Li+M)/2]値が0.982に近い4つのサンプルは、高放電容量、低不可逆容量、良好なレート性能、及び許容可能なサイクル安定性を有する。図2.1は、組成に対し、Mgドープした非化学量論的LFMPの放電容量をプロットする。実施例1同様、電気化学的特性の観点から、内挿法により、P=PO:[(Li+M)/2]が0.980±0.04であり、かつLM=Li:Mが1.095±0.055である組成範囲が、非化学量論的LFMPの最適組成の実施形態であることを推定可能である。別の実施形態では、P=0.980±0.020及びLM=1.095±0.025について、更に良好な電気化学的特性が達成される。
【0046】
【表4】
【0047】
実施例3:Mg及びCrをドープした非化学量論的LFMP
Mg及びCrをドープした7つの非化学量論的LFMPサンプルを調製し、上記の手順により解析する。Mnの量は、Feの量と等しい。各サンプルの電気化学的特性を表5に示す。サンプルID中、ローマ数字及び”−23MC”は、図1.1に示す通りの各LFMPの対象組成を表し、各サンプルは2.3mol% Mg及び2.3mol% Crを含有する。ほとんどの物理的及び電気化学的特性は、PO含量の(Li+M)含量に対する比に応じ敏感にシフトする。PO:[(Li+M)/2]値が0.98に近い3つのサンプルは、高放電容量、低不可逆容量、良好なレート性能、及び許容可能なサイクル安定性を有する。図3.1は、組成に対し、Mg及びCrドープした非化学量論的LFMPの放電容量をプロットする。実施例1及び2同様、電気化学的特性の観点から、内挿法により、P=PO:[(Li+M)/2]が0.980±0.040であり、かつLM=Li:Mが1.095±0.055である組成範囲が、非化学量論的LFMPの最適組成の実施形態であることを推定可能である。別の実施形態では、P=0.980±0.020及びLM=1.095±0.025について、更に良好な電気化学的特性が達成される。
【0048】
【表5】
【0049】
実施例1〜3についての観察:実施例1は、相成分に応じた電気化学的特性を示す。内挿法により、リチウムの金属に対する比LM約1.095、かつリン酸塩化学量論量P約0.980にて最良の性能が達成されることが推定可能である。驚くべきことに、ドープはこれらのLM及びP比に影響を有しない。M=Fe1−y−z’Mnz’であり、D=Mg及び/又はCrであるとき、最適PO:[(Li+M)/2]は約0.980±0.040のままである。Mの式中、yはおよそ0.5であり、zはドープレベルである。実施例2及び3は、相組成、それぞれz’=0.045(4.5mol%)Mg及びz’=2.3mol% Mg+2.3mol% Crに応じた、電気化学的特性を示す。Mgドープ並びにCr+Mgドープの両方で性能の改良が観察された。ドープしていない場合と比較して、容量は、Mgドープについては約1mAh/g、及びCr+Mgドープについては2mAh/gだけ増加し得る。高レートで更に劇的な改良が観察されるMgドープでは、5C放電レートにて容量が2mAh/g向上し、Cr+Mgドープでは5Cにて容量が5mAh/g向上する。Cr及びMgドープの相乗作用をはっきりと観察することができる。多くのデータ(BET、導電率、コインセル性能、結晶化度など、以下の実施例にも見られる)の詳細な調査が、特性においてはLM及びP比に応じて(ドーパントの選択とは独立して)同様の傾向が得られることを、特に、LM及びPにより求められる最適な組成をドープが変更しないことをはっきりと示している。このような挙動は同一価数のドープに見込まれ、例えば、LFPにおいて、Fe及びMgがいずれも二価であることから、Mg2+はFe2+を置換する。Mgとは対照的に、Cr2+は一般に安定ではないため、Crドープでは価数が混在することから、Crドープについてはこのような置換は見込まれない。本発明者らは、Cr3+がFe2+を置換する場合、Li:M比を同様にして調製する必要があるものと予想していたが、最適なLi:M及びPO:[(Li+M)/2]では、驚くべきことにCrに変化が生じないことは予想していなかった。非化学量論量のLFMPにおけるMn及びFeはいずれも二価のもののみではなく、3価Mn又はFeをCrにより、及び二価Fe及びMnをMgにより置換することも理論上可能である。
【0050】
実施例4:非ドープ化、Mgドープ化、Mg及びCrドープ化の際のBET及び圧縮密度の比較
表6は、組成(Li:M及びリン酸塩化学量論量)及びM=Fe1−x−z’Mnz’のドープ含量z’に応じたBET及びプレス密度を示す。サンプルID中、「ST」は化学量論的LFMPサンプルを表し、及び「VI」は 図1に掲載する通りの対象組成Li:M=1.106及びPO:[(Li+M)/2]=0.982を表す。「23」、及び「45」など、サンプルID中の2桁の数値は、ドープレベルの10倍量である。「ND」、「M」、「MC」、及び「C」は、それぞれ非ドープ、Mgドープ、Mg及びCrドープ、並びにCrドープを表す。ドープレベルz’は、ドーパント含量の金属含量に対するモル比D/(Fe+Mn+D)として定義される。
【0051】
Mgドープは、LFMPの形状を、ドープしていないLFMPの形状から変化させない
。したがって、Mgドープについて観察される性能(レート)の改良は、バルク性能の改良によりもたらされる。Mg及びCrをドープしたLFMPの場合、状況は異なる。この場合、表面積の増大が得られる。BET表面積が高くなるほど、良好な容量及びレート性能に貢献することが予想される。明らかに、Mg及びCrドープ後の性能の向上(向上のうち少なくとも一部分)は、形状が異なることに相関する。したがって、Crドープは、微細形状設計に関しより効率的なツールである。理論に束縛されるものではないが、本発明者らは、Crドープ及びMgドープは相乗効果を有するものと考えている。少なくともある程度は、Crは表面積の増大に貢献し、それに対しMgは良好なLi拡散に貢献する。典型的には、BETが高くなるほどプレス密度は低くなり、これにより最終的な電池の体積エネルギー密度は低下する。しかしながら、4.5mol% CrをドープしたLFMPの電極密度(プレス密度)に関しては、プレス密度の低下はわずか6.0%であり、かつBETは47%も増大する。
【0052】
【表6】
本発明による組成に関し、少なくとも30m/gのBET値が容易に得られる。
【0053】
実施例5:ドープレベルに応じた、非化学量論的LFMPと、Mg又はCrをドープした非化学量論的LFMPとの比較
実施例1−3は、解析したサンプル群を示す。P=0.982及びLM=1.106の特定組成を有する非化学量論的LFMPは良好な電気化学的特性を有し、これらの電気化学的特性はドープにより改良できる。一実施形態では、Mg及びCrは、電気化学的特性を改良するドープ元素として使用される。表7は、非化学量論的LFMPサンプルの、ドープ状態に応じたBET及び電気化学的特性を示す。7つの非化学量論的LFMPサンプル(Mn量はFe量と等しい)及びコインセルを作製し、上記の手順により解析する。サンプルIDにおいて、「VI−」は、図1.1に示す通りの各LFMPサンプルの対象組成を表し、これは7つのサンプルの組成が同一であることを意味する。「15」、「30」、及び「40」など、サンプルID中の2桁の数値は、ドープレベルの10倍量である。「ND」、「M」、及び「C」は、それぞれ非ドープ、Mgドープ、Mg及びCrドープ、並びにCrドープを表す。例えば、「VI−45C」は、PO/[(Li+M)/2]が0.982であり、かつLi/Mが1.106である4.5mol% Crドープサンプルを表す。ドープレベルz’は、ドーパント含量の金属含量に対するモル比D/(Fe+Mn+D)として定義することができる。
【0054】
非化学量論的LFMPサンプルのBET表面積及び充電容量は、特にCrドープにより増加する。図5.1(a)及び(b)は、ドープ状態及びCレートに対するレート性能(%)を示す。レート性能は、各Cレートの放電容量の、0.1Cでの放電容量の比である。Mgドープによるレート性能の改良は、Crドープによるものと比較して顕著に劣る。CrドープしたLFMPサンプルの中でも、1.5mol%Crを含有する「VI−15C」は良好なレート性能を有する
【0055】
【表7】
【0056】
結論:実施例5は、リン酸塩化学量論量比PO:[(Li+M)/2]=0.982及びリチウムの金属に対する比Li:M=1.106を備える同じ組成を有するものの、一般式M=Fe1−x−z’Mnz’中、D=Mg又はCrであり、ドーパント及びドープレベルz’が異なる、異なるLFMPサンプルを比較する。本実施例では、最大で比較的高レベルのドープz’=0.045を実証する。本実施例は、Mg及びCrの両方をドープした非化学量論的LFMPの性能が、同様のリン酸塩化学量論量及びリチウム:金属比を備えるドープしていない参照と比較して高いこと確認する。CrドープはMgドープとは異なり表面積を拡大するという、実施例2及び3における表面積の比較による観察を確認する。Crが焼結阻害剤として作用することは明白である。このデータにより、ドープは性能を改良するものの、概して、ドープされたLFMPの性能は相対的に堅調であり、ドープレベルに敏感に影響を受けないことが確認される。約3mol%のドープで最適性能が達成されるものの、性能は、1.5%から最大で4.5mol%のドープについても良好さを維持する。
【0057】
実施例6:PO及びLi:M化学量論量は一定とし、かつMn:(Mn+Fe)比は変動させる。
【0058】
サンプル「VI−」のP及びLM化学量論量を有するもののMn:(Mn+Fe)比は異なる、ドープを行っていない非化学量論的LFMPサンプルを5つ作製し、上記の手順により解析した。サンプルの物理的及び電気化学的特性を表8に示す。サンプルIDにおいて、「VI−」はPO:[(Li+M)/2]が0.982であり、かつLi/Mが1.106である特異的組成を表し、並びに「0MF、25MF、50MF、75MF、100MF」は、mol%でMn:(Mn+Fe)を表す。DQ1、IRRQ、5C、V平均、及びエネルギー密度は、それぞれ、第1のサイクルの放電容量、不可逆容量比(1放電容量/充電容量)、5Cでの放電容量、第1のサイクル中の平均電圧、並びに第1のサイクルの放電容量及び平均電圧から算出されるエネルギー密度を意味する。「容量」欄は、オリビン化学式単位LiMPO当たりの単位セル容量を提供する。
【0059】
【表8】
【0060】
エネルギー密度に関しては、P=0.982及びLM=1.106の非化学量論組成ではMF=0.25で優れた結果が達成される。VI−25MFは、これらのサンプルの中
でも最も高いエネルギー密度値を有しており、平均電圧はVI−OMF(LFP)よりも高い。放電容量の低下率の方が平均電圧の増加率よりも高いことから、MF比を0.25〜0.75に増加させるにつれて放電容量が直線的に低下する一方、平均電圧は直線的に増加しかつエネルギー密度は低下する。MF=1.00では、得られる性能は比較的乏しくなる。MF=約0.75にて、LFMPの性能は低下し始めると記載できる。
【0061】
結論:実施例6は、異なるMF比(MF=Mn:(Mn+Fe))を有する非化学量論的LFMPの結果を示す。MF=0.25では、P=0.982及びLM=1.106の非化学量論組成に関し優れた結果(高エネルギー密度及び平均電圧)が達成される。MF>0.75では性能における低下が測定される。したがって、一実施形態では、最適化されたMF比範囲は0.25〜0.75である。ドープレベルとは無関係に、M=Fe1−x−z’Mnz’において、0.10<x<0.90であるときに良好な結果が得られ得ることが更に推定可能である。
【0062】
実施例7:好ましい組成を備えるサンプルのXRD回折データ
本実施例は、選択したサンプル「VI−」の粉末XRD回折及びリートベルト解析結果を示す。表8には、サンプルと、リートベルト解析により得られた格子定数a、b、cの結果を掲載する。図7.1(a)〜(e)には、サンプルVI−ND(a)、VI−30M(b)、VI−23MC(c)、VI 30C(d)及びVI MF25(e)のXRD細密化パターンのグラフを示す。サンプル(a)〜(d)では、Mnの量はFeの量と等しい。この図は、測定パターン、計算パターン、及び両方のパターンの差異を示す。不純物のパターンは全く解像されていない。表8の最後の欄は、次式1により計算される単位セル容量Volを示す。表中の結果は、算出容量が測定容量に近いことを示す。明らかに、単位セル容量Volは、式1を使用することにより非常に良好に推定可能である。
【0063】
この式において、Pは、リン酸塩化学量論量比PO:[(Li+M)/2]であり、LMはリチウムの金属に対する比Li:Mであり、Mg及びCrはドープレベルy、zであり、MFはマンガン化学量論量xであり、M=Fe1−x−y−zMnMgCrにより定義される。P及びLMの最適値を式1に代入するとき、所与のCr、Mg及びMn含量を備えるサンプルに関し、測定される単位セル容量は、最適P及びLM比の達成を確認するため式1を使用して算出される値の0.02%未満とすべきである。
【0064】
【表9】
【0065】
式1:
Vol=74.2107−0.5404(P−l)−0.0708(LM−l)−3.8715Mg−3.7694Cr+3.0457(MF−0.5)
【0066】
結論:実施例7は、最適組成を備える複数の試料のXRD結果を示す。XRD回折パターンは、基本的に単相のオリビンが得られ、明らかな相不純物は検出されないことを裏付ける。しかしながら、リン酸塩比Pが、最適値(0.94〜1.02)から外れる場合には不純物が出現する。
【0067】
実施例8:XRDによる最適化学量論量(リン酸塩化学量論量及びリチウムの金属に対
する比)及び単位セル容量間の相関

XRD格子定数は、非常に正確に測定できる。これとは対称的に、ICPなどの化学解析法は、化学量論量を確認するための正確度に劣る。非化学量論量的なサンプルの場合、極めて一般的なXRD格子定数が、化学量論量(リン酸化学量論量及びLiの金属に対する比)に応じ、並びにドープレベル(Mg、Cr)に応じ変化する。したがって、XRD回折は、本発明の最適化された化学量論量が得られたことを確認するのに強力なツールである。実験的な散乱に対する感度が低いことから、格子定数から単位セル容量が算出されたことは特に興味深い。
【0068】
発明者らは、ドープ(Cr、Mg)量の変更並びにマンガン化学量論量MF(Mn:(Mn+Fe))の変更により、かなり正確にヴェガード則に則った直線関係が示されることを観察した。図8.1は、これらの直線関係の例を与える。☆は測定値を表し、点線は直線に一致することを表す。これらの直線的な関係により、ドープを補正するために式1を使用することで最適な化学量論量比PO:[(Li+M)/2]及びLi:Mが得られるかを確認することが可能である。図8.2は、前述の実施例のサンプルを使用し、異なるリン酸塩化学量論量、リチウムの金属に対する比、並びにMg及びCrのドープレベルを有する数多くのサンプルのプロットを示す。X軸は、リートベルト解析により得られる容量を示す(Å)。Y軸は、式1を使用したときに得られる容量を示す。単位セル容量がより十分に変化することから、図ではMn:Feシリーズのデータを示さない。この場合ではMn含量はFe含量と等しかった。右側の目盛りは、ドープによりどの程度容量を変化可能なのかを示すための尺度として提供する。0.00%の配座がランダムに選択された。
【0069】
明らかに、単位セル容量は、リン酸塩化学量論量及びリチウムの金属に対する比に応じ大幅にかつ劇的に変化しており、計算値(式1による)は、観察された容量(リートベルト解析により得られる)に良好に一致する。
したがって、式1を使用して、最適化された化学量論量域を表現することができる。リン酸塩化学量論量及びリチウムの金属に対する比を増加させるにつれて、容量は低下する。最適なリン酸塩化学量論量は、0.980±0.040であり、より好ましくは、0.980±0.020である。最適な、リチウムの金属に対する比は、1.095±0.055であり、より好ましくは1.095±0.025である。式1においてこれらの値を使用して、本発明者らは、ドープに応じた最適容量(Å)を示す式2を得る。
【0070】
式2:
Vol=74.2148±ΔVol−3.8715Mg−3.7694Cr+3.0457(MF−0.5)
【0071】
式中、Mgは、Mにおけるマグネシウムのドープレベルyであり、Crは、Mにおけるクロムのドープレベルzであり、M=Fe1−x−y−zMnMgCrである。MFはマンガン:鉄+マンガン比x/[1−y−z]である。ΔVolは、最適値(P=1
.095及びLM=0.980)とは異なるLi:M及びPO:[(Li+M)/2]から計算される容量差(範囲)である。例えば、ΔVolは、好ましい化学量論量については0.0255であり、かつより好ましい化学量論量域については0.0126である。
【0072】
この式は次の通りに記載することもできる:
Vol=74.2148±ΔVol−(3.871 5*y)−(3.7694*z)+(3.0457*[(x/(1 −y−z))−0.5])
【0073】
結論:実施例8は、好ましい組成が達成されたかを確認するためにXRDを使用可能で
あることを実証する。単位セル値は、組成、すなわちリン酸塩化学量論量及びリチウムの金属に対する比に応じ体系的に変化する。格子定数の体系的な変化により、LFMPのバルクが、PO:[(L+M)/2]=1でありかつLi:M=1である理想的な化学量論量から外れている非化学量論組成を可能にすることが証明される。
図1.1】
図1.2】
図2.1】
図3.1】
図5.1】
図7.1(a)】
図7.1(b)】
図7.1(c)】
図7.1(d)】
図7.1(e)】
図8.1】
図8.2】