特許第6261659号(P6261659)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6261659
(24)【登録日】2017年12月22日
(45)【発行日】2018年1月17日
(54)【発明の名称】回転ピストン内燃エンジン
(51)【国際特許分類】
   F02B 53/12 20060101AFI20180104BHJP
   F02B 53/00 20060101ALI20180104BHJP
   F02B 23/08 20060101ALI20180104BHJP
   F02P 23/04 20060101ALI20180104BHJP
【FI】
   F02B53/12 A
   F02B53/00 J
   F02B23/08 L
   F02P23/04 Z
【請求項の数】16
【外国語出願】
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2016-121590(P2016-121590)
(22)【出願日】2016年6月20日
(65)【公開番号】特開2017-40252(P2017-40252A)
(43)【公開日】2017年2月23日
【審査請求日】2016年10月20日
(31)【優先権主張番号】15173423.3
(32)【優先日】2015年6月23日
(33)【優先権主張国】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】516064747
【氏名又は名称】エムヴェーイー マイクロ ウェーブ イグニション アーゲー
(74)【代理人】
【識別番号】100123559
【弁理士】
【氏名又は名称】梶 俊和
(74)【代理人】
【識別番号】100066061
【弁理士】
【氏名又は名称】丹羽 宏之
(74)【代理人】
【識別番号】100177437
【弁理士】
【氏名又は名称】中村 英子
(72)【発明者】
【氏名】アルミーン,ガラッツ
(72)【発明者】
【氏名】フォルカー,ガラッツ
【審査官】 瀬戸 康平
(56)【参考文献】
【文献】 米国特許出願公開第2014/0245988(US,A1)
【文献】 特表2007−512477(JP,A)
【文献】 特表2001−501699(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F02B 23/08,53/00,55/00
F02P 23/04
DWPI(Derwent Innovation)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
作動室(5)を形成する筐体壁(3)を有する筐体(2)を備え、
前記筐体内で回転する回転ピストン(6)が配置され、前記回転ピストン(6)は、前記作動室(5)に亘って延在し、かつ、前記回転ピストン(6)が回転する際の走行面を形成する前記筐体壁(3)に沿って前記回転ピストン(6)の端部(17)を移動させ、
前記作動室(5)の一部が、前記作動室(5)内に配置された燃料を点火させるために、所定の燃焼室壁(4)と共に燃焼室(9)として機能し、
前記燃焼室壁(4)に、少なくとも1つのマイクロ波窓(4’)が配置され、
前記作動室(5)の燃焼室(9)内にマイクロ波の形でマイクロ波エネルギーを注入する装置(10、18)が、前記マイクロ波窓の前記燃焼室(9)とは反対を向く側に配置されていることを特徴とする、回転ピストン内燃エンジン(1)。
【請求項2】
少なくとも前記燃焼室壁(4)が、前記走行面に変化を与えることなく、前記筐体壁(3)に統合されていることを特徴とする、請求項1に記載の回転ピストン内燃エンジン(1)。
【請求項3】
少なくとも前記燃焼室壁(4)の少なくとも一部が、マイクロ波エネルギーを透過可能であり、かつ、前記燃焼室(9)内で燃料を燃焼するのに適した材料、具体的には、セラミック材料又はサファイアガラスから形成されていることを特徴とする、請求項1又は請求項2に記載の回転ピストン内燃エンジン(1)。
【請求項4】
一様でなく局所的で幾何学的な金属構造(11、12)が前記燃焼室壁(4)内に配置され、前記金属構造が集中又は散乱する態様で前記マイクロ波を前記燃焼室(9)へ戻るように反射し、前記マイクロ波は最初に前記燃焼室(9)から外へ反射されることを特徴とする、請求項3に記載の回転ピストン内燃エンジン(1)。
【請求項5】
前記一様でなく局所的で幾何学的な金属構造は、前記燃焼室壁(4)内へ導入された粒子(12)として、又は、金属粉末層(11)として構成されることを特徴とする、請求項4に記載の回転ピストン内燃エンジン(1)。
【請求項6】
前記燃焼室壁(4)に、前記燃焼室壁(4)の長手方向に延在する金属層(11)が設けられ、前記金属層(11)が前記マイクロ波を透過せず、前記マイクロ波が通過するために少なくとも1つの開口を有することを特徴とする、請求項1から請求項5のうちの1項に記載の回転ピストン内燃エンジン(1)。
【請求項7】
前記マイクロ波を注入するための装置が、前記筐体(2)に配置された、少なくとも1つのマイクロ波パルス発生器(10)を有することを特徴とする、請求項1から請求項6のうちの1項に記載の回転ピストン内燃エンジン(1)。
【請求項8】
前記少なくとも1つのマイクロ波パルス発生器(10)が、前記筐体(2)の軸方向に配置されていることを特徴とする、請求項7に記載の回転ピストン内燃エンジン。
【請求項9】
少なくとも1つのマイクロ波チャネルが前記筐体壁(3)に配置され、前記マイクロ波チャネルが少なくとも1つの前記マイクロ波窓(4’)に接続されていることを特徴とする、請求項7又は請求項8に記載の回転ピストン内燃エンジン(1)。
【請求項10】
前記回転ピストン(6)の表面の少なくとも一部が前記マイクロ波エネルギーを透過可能であり、かつ、前記燃焼室(9)内での燃料の燃焼に適応した材料、具体的にはセラミック材料又はサファイアガラスから形成された反射層(8)を有し、前記反射層(8)には、一様でなく局所的で幾何学的な金属構造(11、12)が配置され、前記回転ピストン(6)に衝突する前記マイクロ波を、集中又は散乱する態様で前記燃焼室(9)へ戻るように反射することを特徴とする、請求項1から請求項9のうちの1項に記載の回転ピストン内燃エンジン(1)。
【請求項11】
前記一様でなく局所的で幾何学的な金属構造が、前記反射層(8)内に導入された粒子(12)から、又は、金属粉末層(11)として形成されることを特徴とする、請求項10に記載の回転ピストン内燃エンジン(1)。
【請求項12】
少なくとも前記燃焼室壁(4)及び/又は前記反射層(8)の少なくとも一部が、前記筐体壁(3)、又は前記筐体(2)、又はピストン壁(14)内へ挿入可能な、既製の焼成挿入体として構成されることを特徴とする、請求項5又は請求項11に記載の回転ピストン内燃エンジン(1)。
【請求項13】
前記マイクロ波を注入するための装置には、前記燃焼室壁(4)内で前記マイクロ波窓(4’)と直接接するマイクロ波スパークプラグ(18)又はマイクロ波発生器(10)が含まれることを特徴とする、請求項1から請求項12のうちの1項に記載の回転ピストン内燃エンジン(1)。
【請求項14】
前記マイクロ波を注入するための装置には、25GHzから95GHzの周波数のマイクロ波を発生させ、タイミング、周波数、振幅、及びマイクロ波注入の形式の制御を有するマイクロ波発生器(10)が含まれることを特徴とする、請求項1から請求項13のうちの1項に記載の回転ピストン内燃エンジン(1)。
【請求項15】
前記マイクロ波を注入するための装置には、前記マイクロ波を、制御装置によって制御されたインパルスパケットとして注入するマイクロ波発生器(10)が含まれることを特徴とする、請求項1から請求項14のうちの1項に記載の回転ピストン内燃エンジン(1)。
【請求項16】
前記マイクロ波発生器(10)が、燃料の点火が発生した後でも前記マイクロ波を維持することを特徴とする、請求項15に記載の回転ピストン内燃エンジン。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、回転ピストン内燃エンジンに関し、作動室を形成し、作動室に亘って延在する回転可能な回転ピストンが配置され、回転ピストンの縁が筐体壁に沿って移動して回転中の走行面を形成する筐体壁を含む筐体を有し、作動室の一部が所定の燃焼室壁と共に燃焼室として使用され、作動室内に配置された燃料を点火する回転ピストン内燃エンジンに関する。
【0002】
この一般的な型のエンジンは、当該技術分野において公知である。最もよく知られている形態は、ヴァンケル(Wankel)エンジンの名称で知られている。燃料混合気に導入された燃料を良好に点火し燃焼させるためにマイクロ波エネルギーにより内燃エンジンの燃焼室に空間点火を発生させることは、独国特許出願公開第10356916号によって公知となっている。以下、燃料との用語は、ディーゼル、ガソリン、水素、又はその他の作動に適した燃料にかかわらず包括的に用いるものとする。燃料の点火を行うために、燃焼室内には燃料混合気が導入される。このことは、本発明において特段明細書中で記載されておらず、当然の前提条件として考慮されるものである。
【0003】
従来の回転ピストン内燃エンジンにおいて、点火可能なガソリン混合気が作動室内へ圧縮され、スパークプラグによって反応(酸化)に供される。スパークプラグは燃焼室の表面に窪みを形成させるため、回転ピストンの縁の走行面として機能する表面が平坦でなく、圧縮の低下に繋がる。さらに、点火は、化学的酸化が、細長く平たい燃焼室内を点火位置から圧力及び反応先端(層状燃焼ガス相)の形で球状に拡散する効果を有しており、層状の燃焼をもたらすが、これも圧縮の低下に繋がる。これは、効率の低下や、スス、一酸化炭素等の燃料を燃焼する際の排出物の原因となる。
【発明の概要】
【0004】
そこで、本発明の目的は、燃焼室内の燃料点火の向上、及び効率の向上を容易にすることにある。
【0005】
この目的は、請求項1に係るモータによって、本発明に従い、達成される。追加の有利な形態は、従属請求項から導き出すことができる。
【0006】
本発明によれば、燃焼室壁には、マイクロ波窓が少なくとも1つ配置されており、作動室の燃焼室内にマイクロ波の形でマイクロ波エネルギーを導入する装置が、マイクロ波窓の燃焼室とは反対側で燃焼室壁内に配置される。本明細書において、マイクロ波窓とは、外側が封鎖され、マイクロ波を透過可能な部分を意味する。燃焼室壁は、筐体壁の一部として構成され、それ故、燃焼室の部分においても走行面として使用される。燃焼室壁にマイクロ波窓を配置することにより、基本的に十分に平滑な表面を形成することができ、これは走行面に沿って回転ピストンを移動させる際に回転ピストンをシールするのに特に効果的である。そのため、従来のエンジンにおいて発生する圧縮の低下も抑制することができる。所望により、1つ又は複数のマイクロ波窓を燃焼室壁に配置することができ、マイクロ波窓の材料は、それ以外の燃焼室壁又は筐体壁の材料と異なっている必要はない。重要なのは、マイクロ波窓として機能する部分が、その周囲とは反対に、マイクロ波を透過可能であることである。すなわち、マイクロ波透過性の材料で形成された区画部分か、又は、それよりも大きいマイクロ波透過性であるが、マイクロ波窓以外の部分が、そこに埋め込まれたマイクロ波遮蔽物によってマイクロ波非透過性である部分であり、マイクロ波遮蔽物がマイクロ波窓として機能する部分を除くあらゆる場所に設けられている部分か、のいずれによってもマイクロ波窓の透過性を実現することができる。マイクロ波エネルギーを注入する装置は、マイクロ波窓の、燃焼室とは反対側に配置される。マイクロ波エネルギーを注入する装置としては、燃焼室壁の掘削孔内の少なくとも1つのマイクロ波スパークプラグであって、マイクロ波中空導体を介して、マイクロ波インパルス発生器に接続可能なマイクロ波スパークプラグ、又は、筐体に直接取り付けられ、適合されたマイクロ波インパルス発生器のいずれかが挙げられる。
【0007】
マイクロ波エネルギーを注入することによって、燃焼室内に配置された燃料を点火することができる。そのため、局所的な点火が、空間点火又は境界層での点火に置き換わり、燃料は燃焼室の全容積に亘って可能な限り均一に活性化される。この活性化は燃料粒子によるマイクロ波エネルギーの吸収によってもたらされ、その吸収は燃焼室全体に分散される。すなわち、tanδ(t)の材料パラメータで表されるマイクロ波の吸収能力、及び、それに関連する侵入深さは、重要な役割を有している。マイクロ波エネルギーは、可能な限り燃焼室内の複数の場所で、複数の点火コアによって燃焼室内での空間点火を発生させるのに十分な量に濃縮される。同時に、マイクロ波源へ反射されて戻るマイクロ波エネルギーが可能な限り少なくなるべきである。反射が少なければ少ないほど、吸収が大きく、それ故、空間点火のための燃料粒子のエネルギー吸収が大きくなる。
【0008】
有利な実施形態において、少なくとも燃焼室壁が筐体壁内に配置され、従来のエンジンのような窪みによって走行面に変化がない作動室を形成する。これは、燃焼室が1つ又は複数の異なるマイクロ波窓を有さず、燃焼室壁全体が本質的に同材料から形成されていることを意味する。そして、この燃焼室壁内には、1つ又は複数のマイクロ波窓、すなわちロケーションが組み込まれ、それらは、走行面に凹凸を生じさせることなくマイクロ波を透過可能であることを意味する。これは、燃焼室壁のみが筐体壁に統合されることか、又は、全周の追加壁層が燃焼室壁に加えて作動孔を周囲する筐体壁全体に配置され、この追加壁層によって作動室が覆われること、によってもたらされる。
【0009】
有利な実施形態において、少なくとも燃焼室壁が筐体壁内に配置され、走行面に変化がなく、従来のエンジンのような窪みを有さない作動室を形成する。これは、燃焼室が1つ又は複数の異なるマイクロ波窓を有さず、燃焼室壁全体が本質的に同材料から形成されていることを意味する。そして、1つ又は複数のマイクロ波窓、すなわちマイクロ波を透過可能な場所が、走行面に凹凸を生じさせずに燃焼室壁に配置されていることを意味する。これは、燃焼室壁のみが筐体壁に統合されることか、又は、完全な追加壁層が燃焼室壁に加えて燃焼室を取り囲む筐体壁全体に配置され、それにより燃焼室壁が追加壁層によって覆われること、によってもたらされる。
【0010】
好ましくは、燃焼室壁は、少なくとも部分的に、セラミック材料、又はサファイアガラス等のような特に適したマイクロ波透過性材料から形成されている。これは、具体的には、好ましくは純度が99%より高いセラミック材料であってもよく、又は、マイクロ波透過性の別の材料であってもよい。これは、燃焼室壁がこの材料で形成された個々の部分を有することにより設けられていてもよい。また、これは、燃焼室壁の全体がこの材料で形成され、その一部が、マイクロ波を制限して通過させ、それにより各マイクロ波窓を形成する追加の手段によって形成されていてもよい。
【0011】
本発明の別の好ましい実施形態において、凹凸を有する局所的幾何学的構造が燃焼室壁内に配置され、当該構造は、反射波が燃焼室から外へ反射したマイクロ波を、その形状によって集中又は散乱する態様で燃焼室内へ戻るよう反射させる。これら局所的構造は、例えば、正弦波等の調和振動、又は端部を有する形状等のような、曲線を有する、又は、一様な形状とすることができる。また、この構造は、球やその類似形状とすることもできる。これらの構造は、マイクロ波の反射又は分散の制御を達成することを容易にし、通常は燃料の点火が起こらない燃焼室の部分における局所的フィールド増強によって、燃料が活性化され、点火されることになる。
【0012】
好ましくは、一様でない局所的幾何学的構造は、燃焼室壁内へ挿入された粒子として、又は、金属粉末層として構成される。例えば、セラミック材料を用いる場合には、押圧され、仮焼成された担体層(グリーンブランク)上に、この金属粉末層を適用することができ、一様でない部分は、既製のものか、又は圧延やフライス加工等の公知の作製方法によりこの段階で製造されてもよい。このように作製された表面は、次に金属と共に蒸着、金属ドープ、又は金属層を提供するためのその他の公知の適切な方法で処理することができる。次に、レーザ、エッチング、又はその他の公知の方法によって孔を作製する。これらの孔は、マイクロ波の通過を容易にし、マイクロ波窓として使用される。次に、セラミック材料又はサファイアガラスから形成することができる、追加のマイクロ波透過性の層を適用する。好ましくは、筐体壁又はピストン壁にも挿入可能な挿入体を製造するのに追加の精密粉砕を用いることができ、そのような挿入体を、形状固定により回転に対して固定することができる。
【0013】
他の好ましい実施形態において、燃焼室壁の燃焼室とは反対を向く側に、又は燃焼室壁内に、燃焼室壁の長手方向に延び、マイクロ波が通過するための少なくとも1つの開口を有する金属層が設けられる。金属層は、外側に蒸着され、各用途により所定のように各開口がエッチングされる。燃焼室壁内の適用において、燃焼室壁の長手方向に延び、マイクロ波が通過するための少なくとも1つの開口を有する金属層は、上述の局所的金属構造に関しての方法に類似した方法で配置することができる。この壁は、具体的にはセラミック材料で筐体壁を製造する際に、ふりかけ、蒸着、共焼成、及び焼成により挿入されてもよい。マイクロ波は、燃焼室内に注入された後、金属製の回転ピストンによって反射され、燃焼室壁のセラミック材料を通ってエンジンの金属製の筐体に衝突し、そこから燃焼室の方向へ反射される。セラミック材料はマイクロ波の減衰をもたらすため、セラミック材料内に挿入された追加の金属層を、セラミック材料を通過するマイクロ波のパスを短くするのに使用することができる。金属面はマイクロ波が注入される開口を有することが好ましい。
【0014】
本発明に係る回転ピストン内燃エンジンの他の実施形態において、マイクロ波を注入する装置は、筐体に配置された少なくとも1つのマイクロ波パルス発生器を有し、このマイクロ波パルス発生器を通じて燃焼室内にマイクロ波が注入される。この型のマイクロ波パルス発生器は、欧州特許出願第15170029.1号に説明されている。適用された少なくとも1つのマイクロ波パルス発生器は、各マイクロ波窓の位置に正確に配置されるか、又は、マイクロ波導体として機能する筐体壁内のチャネルを通じて分配が行われている。少なくとも1つのマイクロ波パルス発生器は、筐体壁内へ側方から導入されるよう軸方向に配置されていることが好ましく、筐体軸の長手方向に平行であることが好ましい。そのため、1つ又は複数配置されたマイクロ波チャネルと、複数連続して配置され、共通の駆動シャフトを作動させる回転ピストン内燃エンジンを用いた適切な構成において、最初の回転ピストン内燃エンジンの筐体壁に導入された後のマイクロ波は、後続の回転ピストン内燃エンジンの筐体壁へも導入されることにより、各燃焼室内に注入される。
【0015】
好ましくは、この実施形態は、筐体壁に配置された少なくとも1つのマイクロ波チャネルを有し、そのマイクロ波チャネルは、少なくとも1つのマイクロ波窓に接続されている。このマイクロ波チャネルは、例えば、フライス加工や他の適切な手段により筐体壁内へ導入されてもよく、又は、マイクロ波チャネルは、最終焼成前に燃焼室壁のセラミック層に既に導入されていてもよい。少なくとも1つのマイクロ波チャネルの表面には、マイクロ波チャネルからマイクロ波が出る位置において寸断されている金属層が追加で設けられていてもよい。これにより、マイクロ波チャネル内で振動するマイクロ波が壁から反射され、少なくとも1つの開口から出ることができるため、マイクロ波エネルギーを燃焼室内へ制御しながら導入することができる。原則的には、マイクロ波チャネルは分岐を有していてもよく、それが好ましい。マイクロ波チャネルは、燃焼室壁のマイクロ波透過性材料で形成されていてもよく、金属製の筐体壁がマイクロ波チャネルの反射面を形成していてもよい。所望により、マイクロ波透過性材料に金属製の反射層が取り付けられてもよい。複数の回転ピストン内燃エンジンを有する構成において、このようなマイクロ波チャネルは、順に一列に配置されていてもよい。この構成においては、個別の燃焼室において点火が様々な時点で行われており、マイクロ波が全ての開口又はマイクロ波チャネルを通じて導入されるが、燃料が点火状態にある燃焼室においてのみ点火が行われる。
【0016】
他の好ましい実施形態において、マイクロ波を注入する装置には、燃焼室壁内の少なくとも1つの掘削孔内に配置される、欧州特許出願第15157298.9号に係るマイクロ波スパークプラグが含まれる。マイクロ波スパークプラグは、マイクロ波透過性の燃焼室壁において端部を有し、マイクロ波スパークプラグのためのマイクロ波窓を形成する。
【0017】
回転ピストンは、典型的には、金属材料から形成されるため、回転ピストンの表面は、既にマイクロ波の反射層を形成している。本発明の他の好ましい実施形態において、回転ピストンに少なくとも部分的な反射層が配置される。その部分的な反射層は、マイクロ波エネルギーが透過可能であり、燃焼室内の燃料を燃焼するのに適した材料、具体的には、セラミック材料又はサファイアガラスから形成されている。部分的な反射層には、一様でない局所的幾何学的金属構造が配置され、回転ピストンに衝突するマイクロ波を、その形状に応じて集中又は散乱する態様で燃焼室内へ反射させる。燃焼室壁内のそのような構造について上述したような、幾何学的な金属製の構造は、マイクロ波のための貫通開口を有することなく設けることができる。好ましくは、一様でない局所的幾何学的構造は、反射層内に導入された粒子として、及び/又は金属粉末層として構成することができる。これにより、燃焼室内でのマイクロ波の集中又は散乱を調節することができる。
【0018】
好ましい実施形態において、燃焼室壁及び/又は反射層は、少なくとも部分的に、筐体壁内に、又はピストン壁内に挿入可能な、既製の焼成挿入体として構成される。これは、燃焼室壁のみが筐体壁内に導入されるか、又は、筐体壁が室全体を覆う壁層でコーティングされるようにすることで実現することができる。同様のことが金属製の回転ピストンに適用され、回転ピストンは、この型の壁層によって完全に覆われてもよい。これにより、この型の回転ピストン内燃エンジンを製造することができる。
【0019】
本発明の他の実施形態において、マイクロ波を注入する装置としては、25GHzから95GHz、好ましくは30GHzから75GHzの周波数のマイクロ波を発生させ、タイミング、周波数、振幅、及びマイクロ波注入の形式の制御を有するマイクロ波発生器が含まれる。注入の形式とは、注入が単独のインパルス、インパルスパケットで、又は他の所望のマイクロ波制御の選択肢によって行われることを意味する。
【0020】
好ましくは、マイクロ波を注入する装置は、マイクロ波をインパルスパケットで注入し、好ましくは、燃料の点火が行われた後でもマイクロ波が維持されるマイクロ波発生器を有していてもよい。これにより、点火に加えて、燃料の燃焼が最適化され、燃料の燃焼は点火が行われた後でも活性化される。
【0021】
具体的なエンジンの効果は、マイクロ波がクランクシャフトに対して制御されて注入されるため、点火の正確な制御を行うことができることにある。さらには、この型の回転ピストン内燃エンジンを、回転ピストンと筐体壁との間のシールなしで、例えば、実質的な出力値の損失がなく0.5mmのギャップを有して、構成することができる。
【0022】
本発明に係るエンジンは、一様でない領域を有さず、個々の燃料粒子の空間点火が抑制されている走行面による圧縮ロスの既知の不利な効果を回避するものである。多数のマイクロ波窓及び適切にマイクロ波を注入するための各パラメータを選択することにより、空間のどの点にも所望の点火エネルギーを供給し、燃焼室全体に均一な燃焼を発生させることができる。走行面は、あらゆる適切な変化形において構成することができる。円形断面の作動室も実現可能である。さらには、エンジンの筐体の材料及び構成は、特定の要請、具体的には、セラミック材料のような焼成材料が用いられている場合、に応じて選択することができる。
【0023】
本発明に係るエンジンは、燃焼室内での燃料の空間点火の開始のより正確な制御を容易にし、燃料の最適化された低排出燃焼が達成され、従来の回転ピストン内燃エンジンに対して効率が向上している。総合すると、本発明は、リーン燃料混合気の安定的な点火を容易にし、点火を目的とした追加の濃縮が不要となり、低い燃料消費につながる。排出及びその生成は、燃焼温度及び空気と燃料の混合比によって調節することができる。本発明における燃焼は、従来の点火システムよりも早く作動することができる。これは、『低温』燃焼を引起し、効率が向上する。さらには、低温燃焼サイクルの原則として、低排出量が達成される。低温燃焼は、燃料排出中の窒素酸化物の濃度を減少させる。空間点火を用いることで、従来の燃焼プロセスとは異なり、燃焼プロセスは拡散フレームの形での燃焼進行への依存が大幅に小さくなる。そのため、余計な熱損失が抑制され、効果の向上が達成される。酸化部位における燃焼室及び空気の加熱フェーズは、この種の燃焼において大幅に減少される。
【図面の簡単な説明】
【0024】
以下、本発明について、図面を参照しつつより詳細に説明する。以下の説明と、特許請求の範囲及び下記添付図面との組合せにより、本発明の追加の特徴が導き出される。
図1】回転ピストン内燃エンジンの筐体内に配置されたマイクロ波パルス発生器を有する回転ピストン内燃エンジンの模式図であり、図1(a)は、傾斜角度での正面図を示し、図1(b)は、図1(a)の線A−Aに沿った筐体の断面模式図を示し、図1(c)〜図1(e)は、作動孔側を向く、筐体壁及び回転ピストン壁の詳細Xの実施形態を示す。
図2】回転ピストン内燃エンジンの筐体内に軸方向に配置されたマイクロ波パルス発生器を有する回転ピストン内燃エンジンの模式図であり、図2(a)は、マイクロ波パルス発生器の接続部分における筐体の平面断面図と共に正面図を示し、図2(b)は、図2(a)の線A−Aに沿った筐体の断面模式図を示す。
図3】マイクロ波パルス発生器の代わりにマイクロ波スパークプラグを有する図1bに類似した断面模式図を示す。
図4図4(a)で図1(b)に係る模式図を、図4(b)で図1(b)に係る模式図を、燃焼室壁の作動室側に複数の金属コーティングを有する平面模式図で示す。
図5図5(a)で図1(b)に類似した図を示し、図5(b)で金属コーティングと、それから形成された反射層との第1配置を有する、線A−Aに沿った拡大断面図を示す。
図6図6(a)で図1(b)に類似した図を示し、図6(b)で金属コーティングと、それから形成された反射層との第2配置を有する、線B−Bに沿った拡大断面図を示す。
【発明を実施するための形態】
【0025】
図1及び図2は、エンジン1の2つの異なる実施形態を示しており、マイクロ波パルス発生器10が異なって配置されている点で異なっている。図3は、図1のマイクロ波パルス発生器の代わりのマイクロ波スパークプラグ18の配置を示している。筐体2及びこれらの配置を含むエンジン1の説明は、図1図2、及び図3の実施形態にも適用される。これは、図1(c)、図1(d)、及び図1(e)でのみ図示されている詳細Xにも適用される。
【0026】
エンジン1は、作動室5を覆う壁層22を有する筐体壁3を有し、作動室5内には、回転ピストン6が回転軸7を軸に回転可能に支持されている。ピストン6の縁17は、筐体壁3の壁層22に沿って移動する。作動室5内の、回転ピストン6の回転によって圧縮される燃料が配置される部分を燃焼室9と称し、この燃焼室9に関わる壁層22の部分を燃焼室壁4と称する。少なくとも燃焼室壁4は、マイクロ波透過性材料、すなわちセラミック材料から形成されている。とはいえ、本実施形態においては、燃焼室壁4だけでなく、作動孔5を覆う筐体壁3の全部分が、セラミック材料から形成される壁層22で作製されている。壁層22は、挿入体から形成されている。回転ピストン6は、セラミック材料から形成される反射層8も有する。図1(a)及び図1(b)では、マイクロ波パルス発生器10は、筐体2に対して傾斜した角度で配置され、分離空間壁4と接する位置において分離空間壁4と実質的に垂直に配置されている。マイクロ波パルス発生器10は、筐体2にねじ込まれるか、又は、差し込み構造によって筐体2に取り付けられている。マイクロ波パルス発生器10は、本願と平行する欧州特許出願第15170029.1号の主題であり、マイクロ波を調節するための適切な調節装置が包含されている。マイクロ波パルス発生器10に接している燃焼室壁4の部分4’は、マイクロ波窓を表しており、マイクロ波パルス発生器10から出力されるマイクロ波は、マイクロ波窓を通って燃焼室9内へ注入される。図4に図示されているこの部分は、分離空間壁に挿入された金属ガイド面15を含むこともできる。
【0027】
原則として、マイクロ波は金属によって反射され、燃焼室9内へ注入されたマイクロ波は、燃焼室9内全体に配置され、燃焼室9内のすべての燃料を活性化させ、点火することができる。回転ピストン6及び筐体2は典型的に金属から形成されているため、燃焼室9内へ注入されたマイクロ波は、典型的には、回転ピストン6と筐体2との間を縦横無尽に反射する。燃焼室9を形成する壁が、本実施形態における燃焼室壁4、又は金属筐体上の反射壁8、又は回転ピストン6の金属コア14のようにマイクロ波透過性材料から形成されている場合、マイクロ波は僅かに減衰されるものの、依然燃焼室9内に維持される。
【0028】
また、マイクロ波透過性金属層11は、燃焼室壁4及び/又は反射層8内に配置されていてもよく、金属層11は、具体的には燃焼室壁4又は反射層8の製造中に作製され、マイクロ波の反射をガイドするか、又は燃焼室壁を通過するパスを短くして反射させる。すなわち、例えば燃焼室の部分9’又は部分9”における反射において散乱又は集中の調節を達成するために、例えば、図1(c)のような波形状を有する金属層11、又は図1(d)のような構造化された一様でない金属層を設けることができる。調節された散乱又は集中が望まれない位置においては、金属層11は平坦であるか、又は壁層22の湾曲に順応する。また、図1(e)に図示されるような金属粒子12を、図示されるように燃焼室壁4又は反射層8内に作製することもできる。金属層11が燃焼室壁4又は反射層8のマイクロ波透過層を通過するパスを減縮することから、パスに沿ったマイクロ波の減衰も低減される。また、その限りにおいて、平坦な金属層11又は所定の湾曲に順応した金属層11は、一体化されていてもよい。
【0029】
図1(a)及び図1(b)から明らかなように、エンジンは狭小の筐体2を有し、その筐体2の中に、作動孔5が模式的に示されるように回転ピストン6が配置されている。このようなディスク形状の回転ピストン内燃エンジンを複数、互いに隣接させて配置し、図示されない共通の駆動シャフトに、異なる点火時期で動力を供給することは、この型の回転ピストン内燃エンジンの利点である。具体的には、本件においては、図2に示すようにマイクロ波パルス発生器10を配置することが有利である。これにより、互いに隣接して配置されたエンジンの筐体2の全てに、適切に構成されたチャネルを通じて注入されたマイクロ波を分配することが容易になる。図2(b)から明らかなように、マイクロ波パルス発生器10は、マイクロ波をマイクロ波透過性の燃焼室壁4内へ注入するよう配置されている。この最も単純な形態において、燃焼室壁4は、マイクロ波チャネルを形成し、チャネルの一方の壁が、金属の筐体壁3によって形成され、他方の反対側の壁が、燃焼室壁4に取り付けられるか、又は燃焼室壁4の内部に挿入される、マイクロ波が通過するための開口を有する金属層(図示せず)によって形成されていてもよい。この層なしでは、燃焼室9側を向く表面全体がマイクロ波窓4’として表され、このマイクロ波窓4’を通って、図4に図示されているように燃焼室9内へマイクロ波が結合される。側面に沿って、追加の金属面15が燃焼室壁4に挿入されてもよい(図4)。図2(a)は、金属製の筐体壁3を図示しており、マイクロ波パルス発生器10が側方の壁3”の開口16を貫通している。ディスク形状の筐体2が1つだけ用いられている場合、金属製の筐体2の反対側の壁3’は閉じられている。複数の筐体2が互いに隣接して配置されている場合、最後の筐体2の壁3’のみが閉じられており、他のすべての筐体2は、マイクロ波を伝導させるために、壁3’及び3”の両方に、(セラミック充填材を有して又は有さずして)それぞれ開口16を有している。また、この筐体の側方の壁3’、3”は、壁3’、3”内にチャネルを形成する金属面を有しつつ、セラミック材料から形成することができる。
【0030】
特に好ましい実施形態において、このマイクロ波チャネルは、金属製の筐体壁3内に構成することもできる。本件においては、金属製の挿入体を有するセラミック層22は、マイクロ波の開口又はマイクロ波窓、又は中空の伝導体の終端を形成している。追加のマイクロ波透過性の金属構造11が燃焼室壁4内にも配置された場合、開口16に関連する部分が、このマイクロ波透過性の金属層11に開口を有することも求められる(図示せず)。チャネル13は、当然ながら、分岐を有していてもよく、上述のように追加のそれ以降の筐体2に接続されていてもよい。
【0031】
上述の複数のエンジン1の構成において、1つのエンジンの筐体2の後ろ側が、多のエンジン1の前側を形成する。そのため、ディスク形状の筐体2の前側及び後ろ側の各構成において、各筐体2の作動孔への吸気及び廃棄の分配も、同様に構成することができる。すなわち、図2(a)では、長穴形状の排気開口21が図示されており、図2(b)の円形の排気開口20へと遷移する。したがって、図2(b)の吸気口19は、筐体2の反対側の、図示されない空気開口へと接続されている。上述のように単一のディスクで構成されるエンジンは、複数のピストンを有し、特に強力であり、振動の程度が特に低い。
【0032】
図1(b)に係るマイクロ波パルス発生器10の代わりに、図3のように筐体内にマイクロ波スパークプラグが挿入されていてもよく、マイクロ波スパークプラグ18がその端部で燃焼室壁4と接触していてもよい。上述の、反射に基づくマイクロ波の方向付けに関しては、その他の任意的な手段を維持することができる。図3は、マイクロ波スパークプラグ18に付随するマイクロ波窓18’を有するマイクロ波スパークプラグ18を図示しているが、セラミックの壁層22がマイクロ波窓4’を形成しているため、マイクロ波窓は必須ではない。マイクロ波スパークプラグ18は、図示されない適切なマイクロ波パルス発生器10に、マイクロ波中空伝導体を介して接続されている。
【0033】
図4において、燃焼室壁4の部分における壁層22には、燃焼室9の反対を向く側に追加の金属層13が設けられており(図4(a))、燃焼室9を向く側に追加の金属層13’が設けられており(図4(b))、それぞれマイクロ波窓4’のための開口23と、側方の金属面15を有している。先の図面の要素と同一のその他の要素については、同様に示されている。
【0034】
図5及び図6に、オプションの実施形態を図示しており、この実施形態は、図5(b)及び図6(b)の金属層13’をエッチングした開口23についてであり、燃焼室9内へ注入されたマイクロ波の反射に影響を与えるためのものである。図4について説明した要素と同一のその他の要素については、同様に示されている。
図1
図2
図3
図4
図5
図6