【実施例】
【0036】
以下、実施例を挙げて本発明を説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
実施例1:QOL改善又は維持剤
ラクトバチルスONRICb0240株の含有量が異なる2種類のQOL改善又は維持剤を以下の手順で製造した。
【0037】
培養したラクトバチルスONRICb0240株を遠心分離することにより回収し蒸留水に懸濁後、凍結乾燥処理を行うことによりラクトバチルスONRICb0240株の凍結乾燥原末を得た。当該原末中の菌数は、フローサイトメーター(EPICS(登録商標)XL-MCL、ベックマン・コールター株式会社製)を用いてマニュアルに従い計数した。その後、賦形剤にラクトバチルスONRICb0240株4×10
9cells/錠となるよう添加し、高速回転式小型研究用錠剤機(VIRG 0512SS2AZ、株式会社菊水製作所製)を用いて錠剤を製造した。これを組成物1とする。また、ラクトバチルスONRICb0240株が4×10
10cells/錠とする以外は同様にして、別の錠剤を製造した。これを組成物2とする。
【0038】
このようにして得られるQOL改善又は維持剤は、身体的健康改善又は維持剤、活力改善又は維持剤、疲労回復剤、疲労緩和剤、抗疲労剤などとして使用できる。
【0039】
試験例1
1.試験方法
試験開始前に自由意志による同意書を取得した65歳以上(65〜84歳)の高齢者を試験対象者として選定した。対象者を年齢及び男女比で適宜調整し、300名を3群に100名ずつ無作為に割付した。
【0040】
被験物としては、プラセボ組成物、実施例1で製造した組成物1(ラクトバチルスONRICb0240株を4×10
9cells含有)及び、実施例1で製造した組成物2(ラクトバチルスONRICb0240株を4×10
10cells含有)の3パターンを用意した。プラセボ組成物は、ラクトバチルスONRICb0240株を使用しないこと以外は組成物1及び2と同様にして製造した。
【0041】
プラセボ組成物を投与した群を「(I)群」、ラクトバチルスONRICb0240株4×10
9cellsを含有する組成物を投与した群を「(II)群」、ラクトバチルスONRICb0240株4×10
10cellsを含有する組成物を投与した群を「(III)群」とした。
【0042】
各群において、被験物の投与は1日1粒、20週間連続摂取とした。被験物の味や色は同じ色が同じになるようにし、同じ包装容器を使用した。なお、試験は、二重盲検、無作為化プラセボ対照、及び並行群間比較にて実施した。
【0043】
また、試験開始時と終了時に、SF−36v2質問用紙で、8つの健康概念(下位尺度)について効果を測定するため合計36の質問を行った。質問に対する回答は、過去1ヶ月の健康状態を振り返ることにより行った。
【0044】
得られた回答は、SF−36v2(登録商標)のマニュアルに従い処理した。具体的には、NPO健康医療評価研究機構より2009年10月に発行されているSF−36v2
TM日本語版マニュアルに従い処理した。簡単に述べると、当該マニュアルに従い、各健康概念(下位尺度)において得られた回答から素点を算出し、0〜100点の範囲で下位尺度得点に変換した。また、各健康概念において、試験終了時に得られた下位尺度得点の平均値から、試験開始時に得られた下位尺度得点の平均値を減じた値を、Δ値として示し、群間で比較した。群間比較はDunnett検定を用いて行い、用量依存性はJonckheere trend検定(両側検定)を用いて評価した。
【0045】
なお、最終的に、(I)群93名、(II)群92名、(III)群93名から得た結果に基づき評価した。
【0046】
2.試験結果
試験開始前に実施した、被験者の下位尺度得点の平均値(身体的健康度スコア)と全国調査サンプルの平均値との比較を表1に示す。なお、SF−36v2は8つの健康概念(下位尺度)、すなわち身体機能PF、日常役割機能(身体)RP、体の痛みBP、全体健康感GH、活力VT、社会的機能SF、日常役割機能(精神)RE、心の健康MHについて評価可能であるが、このうち、身体的な健康(身体的健康度)は、身体機能PF、日常役割機能(身体)RP、体の痛みBP、全体健康感GH、活力VTの5項目が関与していると判断されている。このことから、本試験例では、主にこれら5つの健康概念における評価を行った。ここで、全国調査サンプルの平均値とは、NPO健康医療評価研究機構より2009年10月に発行されているSF−36v2
TM日本語版マニュアルp.101に日本人の国民平均値として記載された値である。
【0047】
【表1】
【0048】
表1から明らかなように、被験者のスコアと全国調査サンプルの平均値とを比較すると、いずれの評価項目においても、被験者において著しく高い値を示していた。本試験例における被験者は65歳以上(65〜84歳)の高齢者層であったが、その値は、60歳以上(60〜69歳及び70〜79歳)の全国調査サンプルの平均値より格段に優れていた。更に、本試験例における被験者では、その値は、平均年齢50.5歳の全国調査サンプルの標準値(全体)と比較しても優れており、特に全体健康感GHや活力VTにおいて高い評価であった。このことから、本試験例における被験者は全国平均より著しく健康であると判断できた。
【0049】
通常、身体的健康改善に対する影響を評価する場合、健常人はそもそも健康であることから、その効果は現れにくい。このことから、非常に健康である被験者を対象とする本試験例においても、(I)〜(III)群間において、身体的健康に基づくQOLの改善、特に全体健康感、活力などの点での改善効果について有意な差異は生じ難いことが予想された。しかしながら、予想外にも、(I)〜(III)群間において、以下に示すように有意な差異が確認された。
【0050】
(I)〜(III)群における、試験開始前と試験終了時(20週目)での、全体健康感GHについてのスコアを比較した。当該結果を表2に示す。
【0051】
【表2】
【0052】
表2には、試験開始時のスコア、試験終了時のスコア、及び、試験開始前と試験終了時のスコアの差異(Δ値:試験終了時のスコアから試験開始前のスコアを減じた値)を示した。
【0053】
前述したように、被験者はいずれも、同年代の高齢者層、更には全国平均より健康であり、従って、(I)〜(III)群において身体的健康の改善効果について差異は生じ難いことが予想された。これにもかかわらず、(I)群に比して、(II)群及び(III)群において高いスコアを示した。
【0054】
また、本試験終了時である20週目は夏場であったため健康な被験者であっても全体的健康感は低下するであろうことが予想された。実際、表2から明らかなように、プラセボ組成物投与群である(I)群では、試験終了時のスコアは、試験開始時から2.6も低下している。このように全体的健康感が損なわれやすい時期であったため、(II)群及び(III)群においても、せいぜい試験開始時のスコアを維持できていれば良く、従って、当該スコアを維持できていれば十分に良好な効果が得られていると評価できる状況であった。しかしながら、表2から明らかなように、(II)群及び(III)群においては、験開始時のスコアを維持できるどころか、試験終了時のスコアは験開始時のスコアを上回るものであった。
【0055】
また、Δ値は(II)群に比して、(III)群において大きな値を示したことから、ラクトバチルスONRICb0240株について用量依存的に全体的健康感が高まることが明らかとなった。
【0056】
当該結果により、ラクトバチルスONRICb0240株によれば、全体的健康感を著しく改善できることが示された。
【0057】
また、同様に、(I)〜(III)群における、活力VTについてのスコアを比較した。表3には、活力VTについて、試験開始前のスコアと比較して試験終了時のスコアが20以上悪化(−20)した被験者数を示す。
【0058】
【表3】
【0059】
表3から明らかなように、活力VTについてスコアが20以上悪化した被験者数は、(I)群では14人と多く、(II)群及び(III)群では10名、7名と順に減少した。
【0060】
前述したように、被験者はいずれも全国平均より極めて健康であり、また、試験時は体力が低下しやすい時期である。これにもかかわらず、このように顕著な差異が認められたことは、ラクトバチルスONRICb0240株の摂取によれば、活力が顕著に改善されることが示された。
【0061】
なお、SF−36v2
TM日本語版マニュアルには、活力VTのスコア(得点別カテゴリー)と、“いつも”及び“ほとんどいつも”活力にあふれていたと回答した人の割合、また、疲れを感じていたと回答した人の割合の関係をまとめた表が記載されている(p.132、表11.2)。当該表の一部を抜粋すると、以下の表4のように示される。
【0062】
【表4】
【0063】
当該表に関し、例えば、得点別カテゴリー80〜89に属する場合、当該得点別カテゴリーに属する329人のうち93.9%が活力にあふれていたと回答し、0.1%が疲れを感じていたと回答したことを示している。
【0064】
本試験例においては、被験者の試験開始前の活力VTに関する得点別カテゴリーの平均値は70であった。このことから、被験者は、試験開始前、その84%が活力にあふれていたと感じ、2.3%が疲れを感じていた集団であったといえる。当該集団において、試験終了後にスコアが約20悪化すると、得点別カテゴリーは50〜59へと繰り下がることになる。表4から明らかなように、得点別カテゴリー50〜59では、12.2%が活力にあふれていたと感じ、17.1%が疲れを感じていた集団となることが示されている。このように、本試験においてスコアが20悪化するということは、活力にあふれていた割合が84%から12.2%へと著しく低下し、また、疲れを感じていた割合が2.3%から17.1%へと著しく増加することとなる。このような悪化の抑制は、非常に重要である。
【0065】
前述の表3から明らかなように、(II)群及び(III)群では、(I)群と比較して、スコア20以上の悪化を抑制できている。すなわち、表3及び表4を照らし合わせて考えると、(II)群及び(III)群においては、活力の低下を予想外にも効果的に抑制し、肉体疲労を緩和、回復させる効果が発揮されていることが示された。
【0066】
同様にして、(I)〜(III)群における、日常役割機能(身体)RPについてのスコアを比較した。表5には、日常役割機能(身体)RPについて、試験開始前のスコアと比較して試験終了時のスコアが20以上悪化(−20)した被験者数を示す。
【0067】
【表5】
【0068】
表5から明らかなように、日常役割機能(身体)RPについてスコアが20以上悪化した被験者数は、(I)群では12人であったが、(II)群及び(III)群では、10名、6名と順に減少した。日常役割機能(身体)RPは、普段の活動時間の増減や活動の可否を評価する尺度である。このように、日常役割機能(身体)RPにおいてもスコアの悪化を抑制できたことから、ラクトバチルスONRICb0240株の摂取によれば、仕事や普段の活動を妨げ得る身体的な問題が生じる確立を低下できることが示された。
【0069】
また、前述したように、身体的健康(身体的健康度)は、5つの健康概念(身体機能PF、日常役割機能(身体)RP、体の痛みBP、全体健康感GH、活力VTの5項目)によって評価される。そこで、同様にして、(I)〜(III)群における、当該5つの健康概念に関するスコアを比較した。具体的には、表6には、当該5つの健康概念により評価される身体的健康(身体的健康度)について、試験開始前と比較して試験終了時に10以上又は20以上スコアが悪化した健康概念が2項目以上ある被験者数を示す。
【0070】
【表6】
【0071】
表6から明らかなように、身体的健康(身体的健康度)について、10以上スコアが悪化した項目が2以上ある被験者数、20以上スコアが悪化した項目が2以上ある被験者数はいずれも、(I)群と比較して、(II)群及び(III)群において大きく減少した。このことから、ラクトバチルスONRICb0240株の摂取によれば、身体的な健康は顕著に改善されることが示された。
【0072】
これらの結果から、ラクトバチルスONRICb0240株は、身体的健康改善又は維持、特に活力改善又は維持、肉体疲労回復、肉体疲労緩和、抗疲労など、身体的側面からのQOL改善又は維持に有用であることが明らかになった。