(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6261761
(24)【登録日】2017年12月22日
(45)【発行日】2018年1月17日
(54)【発明の名称】波動発生器および波動歯車装置
(51)【国際特許分類】
F16H 1/32 20060101AFI20180104BHJP
【FI】
F16H1/32 B
【請求項の数】6
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2016-559776(P2016-559776)
(86)(22)【出願日】2014年11月21日
(86)【国際出願番号】JP2014080959
(87)【国際公開番号】WO2016079876
(87)【国際公開日】20160526
【審査請求日】2017年4月6日
(73)【特許権者】
【識別番号】390040051
【氏名又は名称】株式会社ハーモニック・ドライブ・システムズ
(74)【代理人】
【識別番号】100090170
【弁理士】
【氏名又は名称】横沢 志郎
(72)【発明者】
【氏名】小林 優
【審査官】
塚本 英隆
(56)【参考文献】
【文献】
特開2009−133414(JP,A)
【文献】
特開平06−193663(JP,A)
【文献】
特開2011−2084(JP,A)
【文献】
特開2003−176857(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16H 1/32
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
カップ状あるいはシルクハット状の可撓性の外歯歯車を楕円状に撓めて剛性の内歯歯車に部分的にかみ合わせる、波動歯車装置の波動発生器であって、
楕円状の外周面を備えた剛性のプラグと、
前記プラグの前記外周面に装着されたローラーベアリングと、
を有しており、
前記プラグの前記外周面は、
前記外周面の長軸位置では、前記プラグの中心軸線に沿った第1方向にテーパの付いたテーパ面であり、
前記外周面の短軸位置では、前記中心軸線に沿った前記第1方向とは逆の方向である第2方向にテーパについた逆テーパ面である
ことを特徴とする波動歯車装置の波動発生器。
【請求項2】
前記プラグの前記外周面は、前記中心軸線の方向の各軸直角断面上における楕円状輪郭線の周長が同一である請求項1に記載の波動歯車装置の波動発生器。
【請求項3】
前記プラグの前記外周面には、その周方向の各位置において異なるテーパ角が付いており、
前記テーパ角は、前記外歯歯車の外歯形成部分における歯幅方向の所定の位置を予め定めた設定楕円形状に撓めた場合に、前記外歯形成部分における円周方向の各位置におけるコーニング角に対応する角度である請求項1に記載の波動歯車装置の波動発生器。
【請求項4】
前記プラグに、前記ローラーベアリングの内輪が一体形成されており、
前記外周面は内輪軌道面である請求項1に記載の波動歯車装置の波動発生器。
【請求項5】
剛性の内歯歯車と、
カップ形状あるいはシルクハット形状をした可撓性の外歯歯車と、
前記外歯歯車を楕円状に撓めて前記内歯歯車にかみ合わせ、これら両歯車のかみ合い位置を周方向に移動させる波動発生器と、
を有しており、
前記波動発生器は、請求項1ないし4のうちのいずれか一つの項に記載の波動発生器であることを特徴とする波動歯車装置。
【請求項6】
前記外歯歯車の外歯形成部分に、前記波動発生器の前記ローラーベアリングの外輪が一体形成されている請求項5に記載の波動歯車装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、波動歯車装置の波動発生器に関し、特に、カップ形状あるいはシルクハット形状の可撓性の外歯歯車を備えた波動歯車装置に用いる波動発生器に関する。
【背景技術】
【0002】
波動歯車装置の波動発生器は、剛性のプラグと、このプラグの楕円状外周面に装着したウエーブベアリングとを備えている。特許文献1には、ウエーブベアリングとして、ニードルローラーベアリングを用いた波動発生器が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2011−190826号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
従来のローラーベアリングを用いた波動発生器は、円筒状の外歯歯車を備えたフラット型と呼ばれる波動歯車装置に採用されている。この構成の波動発生器を、カップ形状あるいはシルクハット形状の外歯歯車を備えたカップ型あるいはシルクハット型と呼ばれる波動歯車装置に採用すると、次のような弊害が生じる。
【0005】
カップ形状あるいはシルクハット形状の外歯歯車は、その外歯形成部分が波動発生器によって楕円状に撓められると、三次元の撓み状態が生じる。
図3(a)はカップ形状の外歯歯車を楕円状に撓ませた状況を示したものであり、実線は、変形前の状態、一点鎖線は楕円の長軸を含む断面上の変形状態、二点鎖線は短軸を含む断面上の変形状態である。
【0006】
この図に示すように、外歯歯車100は、開口端101の側の円筒形状の外歯形成部分102が波動発生器によって楕円状に撓められる。これにより、外歯歯車100の開口端101の側からダイヤフラム103の側に掛けて、開口端101からの距離に略比例して撓み量が変化する。円筒形状の外歯形成部分102は、楕円形状の長軸側では、一点鎖線で示すように、半径方向の外方に撓み、楕円形状の短軸側では、二点鎖線で示すように、半径方向の内方に撓む。
【0007】
外歯形成部分102は、その円周方向の各位置において、波動発生器の回転に伴って、一点鎖線で示す位置から二点鎖線で示す位置までの間を繰り返し半径方向に撓む。波動発生器の回転に伴って生ずる外歯歯車の三次元の撓み状態を「コーニング」と呼び、この撓み状態の形状を「コーニング形状」と呼び、コーニングが生じている部分の中心軸線に対する撓み角度を「コーニング角」と呼ぶ。
【0008】
一般的に使用されているウエーブベアリングとしてボールベアリングを用いた波動発生器の場合には、
図3(e)に示すように、外歯歯車100の外歯形成部分102を支持する波動発生器104の外周部分(ウエーブベアリングの外輪)105は、コーニングに追従して傾斜可能である。これに対して、
図3(b)〜
図3(d)に示すように、ローラーベアリング106を用いる場合には、波動発生器107の外周部分108は、各ローラー109によって中心軸線の方向に平行に支持される。このため、
図3(c)に示す、長軸位置と短軸位置の間の中間位置を除き、
図3(b)の長軸位置の場合、
図3(d)の短軸位置の場合のように、カップ形状あるいはシルクハット形状の外歯歯車における外歯形成部分のコーニング形状に追従できない。
【0009】
このため、ローラーベアリング106を用いた波動発生器107の外周面は、外歯歯車100の楕円形状の長軸上では
図3(b)に矢印で示すようにダイヤフラム側に、短軸上では
図3(d)に矢印で示すように開口側に強く接触するので、接触部位に片寄りが生じる。この結果、波動歯車装置の重要特性である角度伝達誤差、位置決め精度が悪化する。また、波動歯車装置の短寿命、摩耗も懸念される。
【0010】
本発明の課題は、このような点に鑑みて、カップ形状あるいはシルクハット形状の外歯歯車の三次元の撓み状態に追従できる、ローラーベアリングを用いた波動発生器、および当該波動発生器を用いた波動歯車装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記の課題を解決するために、本発明は、カップ状あるいはシルクハット状の可撓性の外歯歯車を楕円状に撓めて剛性の内歯歯車に部分的にかみ合わせる、波動歯車装置の波動発生器において、楕円状の外周面を備えた剛性のプラグ、および、前記プラグの前記外周面に装着されたローラーベアリングを有している。前記プラグの前記外周面は、その長軸位置に形成した長軸側外周面部分と、その短軸位置に形成した短軸側外周面部分とを備えている。前記長軸側外周面部分は、前記プラグの中心軸線に沿った第1方向にテーパの付いたテーパ面であり、前記短軸側外周面部分は、前記中心軸線に沿った前記第1方向とは逆の方向である第2方向にテーパの付いた逆テーパ面である。
【0012】
ここで、前記プラグの前記外周面は、前記中心軸線の方向の各軸直角断面上における楕円状輪郭線の周長が同一であることが望ましい。
【0013】
本発明の波動発生器では、楕円状に撓められる外歯歯車のコーニング形状に対応させて、プラグの外周面の長軸側外周面部分および短軸側外周面部分に、それぞれ逆方向にテーパを付けてある。したがって、プラグの外周面に装着されるローラーベアリングのローラーも同一方向に傾斜した状態に支持される。よって、ローラーベアリングを、片当りの無い状態、あるいは、片当りが抑制された状態で、外歯歯車の内周面に接触させることができる。
【0014】
この結果、外歯歯車と波動発生器の接触部分の摩耗を低減でき、これらの寿命の低下を抑制できる。また、ローラーのスキューを低減でき、転動疲労寿命を向上できる。さらには、波動発生器によって外歯歯車が確実に支持されるので、これらの間の片当り状態に起因する波動歯車装置の角度伝達誤差および位置決め精度の悪化を防止できる。
【0015】
本発明の波動発生器において、前記プラグの前記外周面には、その周方向の各位置において異なるテーパ角が付いており、前記テーパ角は、前記外歯歯車の外歯形成部分における歯幅方向の所定の位置を予め定めた設定楕円形状に撓めた場合に、前記外歯形成部分における円周方向の各位置におけるコーニング角に対応する角度であることが望ましい。これにより、ローラーベアリングを、円周方向の各位置において、外歯歯車の内周面に片寄りなく接触させることができる。
【0016】
本発明の波動発生器において、前記プラグに、前記ローラーベアリングの内輪を一体形成してもよい。この場合には、前記外周面が内輪軌道面として機能する。
【0017】
次に、本発明の波動歯車装置は、剛性の内歯歯車と、カップ形状あるいはシルクハット形状をした可撓性の外歯歯車と、前記外歯歯車を楕円状に撓めて前記内歯歯車にかみ合わせ、これら両歯車のかみ合い位置を周方向に移動させる波動発生器とを有しており、前記波動発生器は上記構成の波動発生器であることを特徴としている。
【0018】
ここで、前記外歯歯車の外歯形成部分に、前記波動発生器の前記ローラーベアリングの外輪を一体形成することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【
図1】(a)は本発明を適用したカップ型の波動歯車装置の正面図であり、(b)はその概略断面図である。
【
図2】(a)は波動発生器の概略正面図、(b)は波動発生器の長軸位置での概略断面図、(c)は波動発生器の短軸位置での概略断面図である。
【
図3】(a)は波動歯車装置の撓み状態を示す説明図、(b)〜(e)はそれぞれ波動発生器と外歯歯車の接触状態を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下に、図面を参照して、本発明を適用した波動歯車装置の実施の形態を説明する。
【0021】
(全体構成)
図1(a)はカップ型の波動歯車装置の概略正面図であり、
図1(b)はその概略縦断面図である。カップ型の波動歯車装置1は、環状の剛性の内歯歯車2と、この内側に同心状に配置されたカップ形状の可撓性の外歯歯車3と、この内側にはめ込まれた楕円形輪郭の波動発生器4とを備えている。
【0022】
外歯歯車3は、円筒状の胴部31と、その一端に連続している環状のダイヤフラム32と、このダイヤフラム32の中心部分に一体形成されている円盤状のボス33と、胴部31の開口部34の外周面に形成された外歯35を備えている。外歯歯車3の外歯形成部分36は、波動発生器4によって楕円状に撓められ、その長軸方向の両端部分に位置する外歯35が内歯歯車2の内歯25にかみ合っている。
【0023】
モーター等によって波動発生器4を回転すると、両歯車2、3のかみ合い位置が円周方向に移動する。両歯車2、3の歯数差は2n枚(nは正の整数)とされ、波動発生器4が1回転する間に、両歯車2、3の間には歯数差分に対応する角度の相対回転が生じる。
【0024】
波動発生器4は、楕円状の外周面41を備えた剛性のプラグ42と、プラグ42の外周面41に装着されたローラーベアリング43とを備えている。ローラーベアリング43は、波動発生器4の外周面41に嵌めた内輪44、外歯歯車3の外歯形成部分36の内周面36aを支持している外輪45、および、これら内輪44、外輪45の間に転動可能な状態で装着されている多数本のローラー46を備えている。ローラー46は、円筒状のリテーナー47によって円周方向において等角度間隔の位置に保持されている。
【0025】
(プラグ外周面の形状)
図2(a)は波動発生器4の概略正面図であり、
図2(b)はその長軸位置で切断した場合の概略縦断面図であり、
図2(c)はその短軸位置で切断した場合の概略縦断面図である。なお、
図2(b)、(c)においては、プラグ42の外周面41の形状を誇張して示してある。
【0026】
これらの図を参照して説明すると、プラグ42の外周面41は、その中心軸線42aの方向の各軸直角断面上における楕円状輪郭線の周長が同一となるように設定されている。また、外周面41は、その長軸位置L1を含む長軸側外周面部分41aと、その短軸位置L2を含む短軸側外周面部分41bと、これらの間に形成されている外周面部分41cとを備えている。
【0027】
長軸側外周面部分41aは、プラグ42の中心軸線42aに沿った第1方向にテーパの付いた第1テーパ角θ1のテーパ面である。すなわち、外歯歯車3の開口部34の側からダイヤフラム32(
図1(b)参照)の側に向かって外径が漸減している。短軸側外周面部分41bは、中心軸線42aに沿って、第1方向とは逆の方向である第2方向にテーパのついた第2テーパ角θ2の逆テーパ面である。すなわち、ダイヤフラム32の側から開口部34の側に向かって外径が漸減している。通常は、θ1とθ2の絶対値は同一である。長軸側外周面部分41aから短軸側外周面部分41bまでの間の外周面部分41cは、そのテーパ角が、第1テーパ角θ1から第2テーパ角θ2に向けて滑らかに切り替わっている。
【0028】
この形状のプラグ42の外周面41は例えば次の手順により設計することができる。まず、波動歯車装置1の設定楕円量より、ローラーベアリング43の軸線方向の中心位置での長軸寸法、短軸寸法、円周長を確認する。次に、波動歯車装置1の設定楕円量による外歯歯車3の外歯形成部分36の内周面のコーニング角を確認する。次に、コーニング角に基づき、プラグ42の外周面41における中心軸線42aの方向の各軸直角断面上における長軸寸法を決定する。そして、各軸直角断面上において楕円形状の周長を変えずに、短軸寸法を決定する。
【0029】
この結果、その周方向の各位置において異なるテーパ角のテーパ面が形成されたプラグ42の外周面41が得られる。各位置のテーパ角は、外歯歯車3の外歯形成部分36を楕円形状に撓めた場合に、外歯形成部分36における円周方向の各位置におけるコーニング角に対応する角度になる。
【0030】
このようにプラグ42の外周面41は、外歯歯車3の外歯形成部分36の内周面のコーニング形状に対応した三次元のテーパ面である。したがって、波動発生器4のローラーベアリングの外輪45の外周面は、片当りなく、外歯形成部分36の内周面に接触した状態で、外歯形成部分36を支持できる。
【0031】
上記の例において、ローラーベアリングの内輪44を波動発生器4のプラグ42に一体形成することもできる。この場合には、プラグ42の三次元のテーパ形状の外周面41が、内輪側軌道面となり、ここに直接、各ローラー46が支持される。
【0032】
また、上記の例において、ローラーベアリングの外輪45を外歯歯車3の外歯形成部分36の内周面部分に一体形成することもできる。この場合には、外歯形成部分36の内周面36aが外輪側軌道面として機能する。
【0033】
なお、上記の例はカップ型の波動歯車装置に本発明を適用している。本発明は、シルクハット型の波動歯車装置にも同様に適用可能である。