(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6261846
(24)【登録日】2017年12月22日
(45)【発行日】2018年1月17日
(54)【発明の名称】車輪用軸受装置および車輪用軸受装置の製造方法
(51)【国際特許分類】
B60B 35/14 20060101AFI20180104BHJP
B60B 35/18 20060101ALI20180104BHJP
F16C 19/18 20060101ALI20180104BHJP
F16C 35/063 20060101ALI20180104BHJP
F16D 3/20 20060101ALI20180104BHJP
【FI】
B60B35/14 U
B60B35/18 A
F16C19/18
F16C35/063
F16D3/20 Z
【請求項の数】6
【全頁数】17
(21)【出願番号】特願2012-106684(P2012-106684)
(22)【出願日】2012年5月8日
(65)【公開番号】特開2013-233842(P2013-233842A)
(43)【公開日】2013年11月21日
【審査請求日】2015年3月9日
【審判番号】不服2016-18145(P2016-18145/J1)
【審判請求日】2016年12月2日
(73)【特許権者】
【識別番号】000102692
【氏名又は名称】NTN株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100107423
【弁理士】
【氏名又は名称】城村 邦彦
(74)【代理人】
【識別番号】100120949
【弁理士】
【氏名又は名称】熊野 剛
(72)【発明者】
【氏名】持永 修二
(72)【発明者】
【氏名】乗松 孝幸
【合議体】
【審判長】
氏原 康宏
【審判官】
尾崎 和寛
【審判官】
一ノ瀬 覚
(56)【参考文献】
【文献】
国際公開第2009/123254(WO,A1)
【文献】
国際公開第2009/125657(WO,A1)
【文献】
国際公開第2008/111525(WO,A1)
【文献】
特開2010−144902(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60B 35/14
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
内周に複列の外側軌道面13,14が形成された外方部材5と、外周に前記外側軌道面13,14と対向する複列の内側軌道面7,8を有し、ハブ輪1および内輪2からなる内方部材と、前記外方部材5の外側軌道面13,14と内方部材1,2の内側軌道面7,8との間に介装された複列の転動体3,4とからなる車輪用軸受20を備え、前記車輪用軸受20のハブ輪1の内径に等速自在継手6の外側継手部材24のステム部30を嵌合させ、前記車輪用軸受20に等速自在継手6をねじ締め付け構造Nにより分離可能に結合させた車輪用軸受装置において、
前記ハブ輪1と前記外側継手部材24のステム部30のうちのいずれか一方の部材に軸方向に延びる複数の凸部37からなる雄スプラインが形成され、
他方の部材に、前記凸部37の形状が転写された凹部40が形成され、
前記凹部40に前記凸部37が圧入されており、
前記凸部37の径方向先端部44と前記凹部40との間に隙間pがあり、
前記他方の部材が、圧入した前記凸部37による切削で形成された切粉66を備え、
前記切粉66が、前記凸部37の周方向側壁部43に対応する位置のみに形成され、
前記凸部37と前記凹部40との嵌合接触部位全域Xが密着した凹凸嵌合構造Mを有し、
前記凹凸嵌合構造におけるモジュールを0.3〜0.75の範囲で規定したことを特徴とする車輪用軸受装置。
【請求項2】
前記凸部37は前記外側継手部材24のステム部30に設けられ、前記凹部40は前記ハブ輪1に設けられている請求項1に記載の車輪用軸受装置。
【請求項3】
前記凸部37の表面硬度を前記凹部40の表面硬度よりも大きくした請求項1または2に記載の車輪用軸受装置。
【請求項4】
前記ねじ締め付け構造Nは、前記外側継手部材24のステム部30の軸端に形成された雌ねじ部41と、前記雌ねじ部41に螺合した状態で前記ハブ輪1に係止される雄ねじ部42とで構成されている請求項1〜3のいずれか一項に記載の車輪用軸受装置。
【請求項5】
前記ねじ締め付け構造Nは、前記外側継手部材24のステム部30の軸端に形成された雄ねじ部42と、前記雄ねじ部42に螺合した状態で前記ハブ輪1に係止される雌ねじ部41とで構成されている請求項1〜3のいずれか一項に記載の車輪用軸受装置。
【請求項6】
内周に複列の外側軌道面13,14が形成された外方部材5と、外周に前記外側軌道面13,14と対向する複列の内側軌道面7,8を有し、ハブ輪1および内輪2からなる内方部材と、前記外方部材5の外側軌道面13,14と内方部材1,2の内側軌道面7,8との間に介装された複列の転動体3,4とからなる車輪用軸受20を備え、前記車輪用軸受20のハブ輪1の内径に等速自在継手6の外側継手部材24のステム部30を嵌合することにより前記車輪用軸受20に等速自在継手6をねじ締め付け構造Nを介して分離可能に結合させた車輪用軸受装置の製造方法であって、
前記ハブ輪1と前記外側継手部材24のステム部30のうちのいずれか一方の部材に、軸方向に延びる複数の凸部37からなる雄スプラインを、モジュールを0.3〜0.75で形成すると共に、他方の部材に前記凸部37の周方向側壁部43のみに対して締め代nを有する複数の小凹部39を形成し、
前記ねじ締め付け構造Nの軸力で前記凸部37を前記小凹部39に圧入して前記凸部37の周方向側壁部43のみで前記締め代nを切削し、
これによって、他方の部材に凹部40を形成して前記凸部37と前記凹部40の嵌合接触部位全域Xが密着する凹凸嵌合構造Mを構成すると共に、凸部37の径方向先端部44と前記凹部40との間に隙間pを設けることを特徴とする車輪用軸受装置の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば自動車の懸架装置に対して駆動車輪(FF車の前輪、FR車の後輪、4WD車の全輪)を回転自在に支持する
車輪用軸受装置および車輪用軸受装置の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、車輪用軸受のハブ輪と等速自在継手の外側継手部材との分離を可能としてメンテナンス性に優れた車輪用軸受装置が提案されている(例えば、特許文献1参照)。この特許文献1に開示された車輪用軸受装置は、
図11に示すように、ハブ輪101、内輪102、複列の転動体103,104および外輪105からなる車輪用軸受120と固定式等速自在継手106とで主要部が構成されている。
【0003】
ハブ輪101は、その外周面にアウトボード側の内側軌道面107が形成されると共に、車輪(図示せず)を取り付けるための車輪取付フランジ109を備えている。この車輪取付フランジ109の円周方向等間隔に、ホイールディスクを固定するためのハブボルト110が植設されている。このハブ輪101のインボード側外周面に形成された小径段部112に内輪102を嵌合させ、この内輪102の外周面にインボード側の内側軌道面108が形成されている。
【0004】
内輪102は、クリープを防ぐために適当な締め代をもって圧入されている。ハブ輪101の外周面に形成されたアウトボード側の内側軌道面107と、内輪102の外周面に形成されたインボード側の内側軌道面108とで複列の軌道面を構成する。この内輪102をハブ輪101の小径段部112に圧入し、その小径段部112の端部を外側に加締めることにより、加締め部111でもって内輪102を抜け止めしてハブ輪101と一体化し、車輪用軸受120に予圧を付与している。
【0005】
外輪105は、内周面にハブ輪101および内輪102の内側軌道面107,108と対向する複列の外側軌道面113,114が形成されている。この外輪105の外周面を車体の懸架装置(図示せず)から延びるナックルに嵌合させて固定することにより、車輪用軸受装置を車体に取り付けるようにしている。
【0006】
車輪用軸受120は、複列のアンギュラ玉軸受構造で、ハブ輪101および内輪102の外周面に形成された内側軌道面107,108と外輪105の内周面に形成された外側軌道面113,114との間に転動体103,104を介在させ、各列の転動体103,104を保持器115,116により円周方向等間隔に支持した構造を有する。
【0007】
車輪用軸受120の両端開口部には、ハブ輪101と内輪102の外周面に摺接するように、外輪105とハブ輪101および内輪102との環状空間を密封する一対のシール117,118が外輪105の両端部内径に嵌合され、内部に充填されたグリースの漏洩ならびに外部からの水や異物の侵入を防止するようになっている。
【0008】
等速自在継手106は、ドライブシャフト121を構成する中間シャフト122の一端に設けられ、内周面にトラック溝123が形成された外側継手部材124と、その外側継手部材124のトラック溝123と対向するトラック溝125が外周面に形成された内側継手部材126と、外側継手部材124のトラック溝123と内側継手部材126のトラック溝125との間に組み込まれたボール127と、外側継手部材124の内周面と内側継手部材126の外周面との間に介在してボール127を保持するケージ128とで構成されている。
【0009】
外側継手部材124は、内側継手部材126、ボール127およびケージ128からなる内部部品を収容したマウス部129と、マウス部129から軸方向に一体的に延びるステム部130とで構成されている。内側継手部材126は、中間シャフト122の軸端が圧入されてスプライン嵌合によりトルク伝達可能に結合されている。
【0010】
等速自在継手106の外側継手部材124と中間シャフト122との間に、継手内部に封入されたグリース等の潤滑剤の漏洩を防ぐと共に継手外部からの異物侵入を防止するための樹脂製の蛇腹状ブーツ131を装着して、外側継手部材124の開口部を閉塞した構造としている。
【0011】
このブーツ131は、外側継手部材124の外周面にブーツバンド132により締め付け固定された大径端部133と、中間シャフト122の外周面にブーツバンド134により締め付け固定された小径端部135と、大径端部133と小径端部135とを繋ぎ、その大径端部133から小径端部135へ向けて縮径した可撓性の蛇腹部136とで構成されている。
【0012】
図12は、外側継手部材124のステム部130をハブ輪101の軸孔138に圧入する前の状態を示す。同図に示すように、外側継手部材124のステム部130は、その外周面に軸方向に延びる複数の凸部137からなる雄スプラインが形成されている。これに対して、ハブ輪101の軸孔138は、その内周面に雌スプラインが形成されていない単純な円筒部139をなす。
【0013】
図13は、外側継手部材124のステム部130をハブ輪101の軸孔138に圧入した後の状態を示す。この外側継手部材124のステム部130をハブ輪101の軸孔138に圧入し、そのステム部130の凸部137をハブ輪101の軸孔138の円筒部139の内周面に転写することにより、同図に示すように、ハブ輪101の軸孔138の内周面に凸部137と締め代をもって密着する凹部140を形成し、この凸部137と凹部140との嵌合接触部位全域で密着する凹凸嵌合構造を構成することで、外側継手部材124とハブ輪101とをトルク伝達可能に結合させている。
【0014】
このようにして、外側継手部材124のステム部130をハブ輪101の軸孔138に圧入した上で、
図11に示すように、外側継手部材124のステム部130の軸端に形成された雌ねじ141にボルト142を螺合させることにより、そのボルト142をハブ輪101の端面に係止させた状態で締め付けることで、等速自在継手106をハブ輪101に固定している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0015】
【特許文献1】特開2009−97557号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0016】
ところで、前述した車輪用軸受装置において、ハブ輪101、内輪102、複列の転動体103,104および外輪105からなる車輪用軸受120と結合される固定式等速自在継手106がドライブシャフト121の一部を構成している。自動車のエンジンから車輪に動力を伝達するドライブシャフト121は、
図14に示すように、エンジンと車輪との相対的位置関係の変化による角度変位と軸方向変位に対応する必要があるため、一般的にエンジン側(インボード側)に摺動式等速自在継手151を、車輪側(アウトボード側)に固定式等速自在継手106をそれぞれ装備し、両者の等速自在継手106,151を中間シャフト122で連結した構造を具備する。
【0017】
ここで、従来の車輪用軸受装置では、
図12に示すように、ハブ輪101の軸孔138の内周面は雌スプラインが形成されていない単純な円筒部139をなすことから、外側継手部材124のステム部130をハブ輪101の軸孔138に圧入するに際して、そのステム部130の凸部137を軸孔138の内周面に転写するために大きな圧入荷重が必要なため作業性が悪く、プレス機などを用いる必要があった。そのため、車輪用軸受120にドライブシャフト121の等速自在継手106を組み付けた状態で車輪用軸受装置を車体に組み付けなければならないというのが現状であった。
【0018】
その結果、自動車メーカでの車両組み立て時には、車輪用軸受120とドライブシャフト121の等速自在継手106とを結合させた状態、つまり、車輪用軸受120とドライブシャフト121の二つの等速自在継手106,151とが一体化した状態で取り扱われる。車体の懸架装置から延びるナックル152(
図14参照)の最小内径寸法を等速自在継手106,151の最大外径寸法よりも大きくしていることから、この車体への組み付けは、
図14および
図15に示すように、ドライブシャフト121の摺動式等速自在継手151と固定式等速自在継手106とを、車体の懸架装置から延びるナックル152に順次通した上で、車輪用軸受120の外輪105をナックル152に嵌合させて固定するようにしていた。
【0019】
このドライブシャフト121は車輪側とエンジン側とを繋ぐ長尺なアッセンブリ体であることから、前述したようにドライブシャフト121の摺動式等速自在継手151と固定式等速自在継手106とをナックル152に順次通す車体への組み付け方法では作業性が悪く、その組み付け時にドライブシャフト121を構成する部品を損傷させたりする可能性がある。
【0020】
そこで、本発明は前述の問題点に鑑みて提案されたもので、その目的とするところは、車体への組み付けにおける作業性を向上させ、その組み付け時の部品の損傷を未然に防止し得る車輪用軸受装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0021】
本発明に係る車輪用軸受装置は、内周に複列の外側軌道面が形成された外方部材と、外周に外側軌道面と対向する複列の内側軌道面を有し、ハブ輪および内輪からなる内方部材と、外方部材の外側軌道面と内方部材の内側軌道面との間に介装された複列の転動体とからなる車輪用軸受を備え、ハブ輪の内径に等速自在継手の外側継手部材のステム部を嵌合することにより車輪用軸受に等速自在継手をねじ締め付け構造により分離可能に結合させた構造を具備する。以上のように、車輪用軸受装置は、車輪用軸受と等速自在継手とで構成されている。
【0022】
前者の車輪用軸受は、内周に複列の外側軌道面が形成された外方部材と、外周に外側軌道面と対向する複列の内側軌道面を有し、ハブ輪および内輪からなる内方部材と、外方部材の外側軌道面と内方部材の内側軌道面との間に介装された複列の転動体とを備え、ハブ輪の内径に等速自在継手の外側継手部材のステム部を嵌合することにより等速自在継手がねじ締め付け構造により分離可能に結合される。
【0023】
後者の等速自在継手は、ステム部を有する外側継手部材と、外側継手部材との間でトルク伝達部材を介して角度変位を許容しながらトルクを伝達する内側継手部材とを備え、外側継手部材のステム部を車輪用軸受のハブ輪の内径に嵌合することにより車輪用軸受がねじ締め付け構造により分離可能に結合される。
【0024】
前述の目的を達成するための技術的手段として、本発明に係る車輪用軸受装置は、前記ハブ輪1と前記外側継手部材24のステム部30のうちのいずれか一方の部材に軸方向に延びる複数の凸部37
からなる雄スプラインが形成され、他方の部材に
、前記凸部37の形状が転写された凹部40が形成され、前記凹部40に前記凸部37が圧入されており、前記凸部37の径方向先端部44と前記凹部40との間に隙間pがあり、前記他方の部材が、圧入した前記凸部37による切削で形成された切粉66を備え、前記切粉66が、前記凸部37の周方向側壁部43に対応する位置のみに形成され、前記凸部37と前記凹部40との嵌合接触部位全域Xが密着した凹凸嵌合構造Mを有し、前記凹凸嵌合構造におけるモジュールを0.3〜0.75の範囲で規定したことを特徴とする。
【0025】
本発明では、ハブ輪と外側継手部材のステム部のうちのいずれか一方に軸方向に延びる複数の凸部を形成すると共に他方に凸部に対して締め代を有する凹部を予め形成しておく。ハブ輪と外側継手部材のステム部のうちのいずれか一方を他方に圧入することにより、凸部と凹部との嵌合接触部位全域が密着する凹凸嵌合構造を構成する。ここで、本発明における凸部は外側継手部材のステム部に設けられ、凹部はハブ輪に設けられた構造が望ましい。このようにすれば、外側継手部材のステム部をハブ輪に圧入することにより、凸部と凹部との嵌合接触部位全域が密着する凹凸嵌合構造を容易に構成することができる。
【0026】
前述の圧入時、凸部が極僅かな塑性変形および切削加工を伴いながら、相手側の凹部形成面に凸部の形状を転写する。この時、凸部が相手側の凹部形成面に食い込んでいくことによってハブ輪の内径が僅かに拡径した状態となって、凸部の軸方向の相対的移動が許容される。凸部の軸方向相対移動が停止すれば、ハブ輪の内径が元の径に戻ろうとして縮径することになる。これによって、凸部と凹部との嵌合接触部位全域で密着し、外側継手部材とハブ輪を強固に結合一体化することができる。
【0027】
ここで、凸部に対して凹部を予め形成していることから、従来のように凸部を単純な円筒部に転写する場合よりも、凸部と凹部との嵌合接触部位全域で密着させるための圧入荷重を下げることができるので、車輪用軸受を車体に取り付けた後にその車輪用軸受のハブ輪に外側継手部材を圧入して等速自在継手を車輪用軸受に結合させることが容易となって作業性の向上が図れる。
【0028】
また、凹凸嵌合構造におけるモジュールを0.3〜0.75の範囲で規定したことにより、車輪用軸受のハブ輪と等速自在継手の外側継手部材のステム部との間でのトルク伝達容量を十分に確保することができると共に、ハブ輪と外側継手部材のステム部のうちのいずれか一方を他方に圧入する際の圧入荷重を確実に下げることができ、等速自在継手を車輪用軸受に結合させることが容易となって作業性の向上が図れる。
【0029】
本発明における凹部は、凸部の周方向側壁部のみに対して締め代を有する構造が望ましい。ここで、「凸部の周方向側壁部のみ」とは、凸部の径方向先端部を除いた部位を意味する。この凸部の径方向先端部は、凹部と締め代を有さないことから、相手側の凹部形成面に凸部の径方向先端部の形状が転写されることはない。このように、凸部の周方向側壁部のみに対して締め代を有するように設定されていることから、凸部の全体に亘って凹部と締め代を有するように設定した場合よりも、さらに、圧入荷重を下げることができるので、等速自在継手を車輪用軸受に結合させる圧入作業がより一層容易になる。
【0030】
本発明では、凸部の表面硬度を凹部の表面硬度よりも大きくすることが望ましい。このようにすれば、ハブ輪と外側継手部材のステム部のうちのいずれか一方を他方に圧入するに際して、塑性変形および切削加工により、相手側の凹部形成面に凸部の形状を容易に転写することができる。
【0031】
本発明では、ねじ締め付け構造により発生する軸力以下でハブ輪に対して外側継手部材を圧入可能とすることが望ましい。このようにすれば、車輪用軸受を車体に取り付けた後にその車輪用軸受のハブ輪に外側継手部材を圧入するに際して、専用の治具を別に用意する必要がなく、車輪用軸受装置を構成する部品であるねじ締め付け構造でもって等速自在継手を簡易に車輪用軸受に結合させることができる。
【0032】
本発明におけるねじ締め付け構造は、外側継手部材のステム部の軸端に形成された雌ねじ部と、その雌ねじ部に螺合した状態でハブ輪に係止される雄ねじ部とで構成された構造が可能である。この構造では、ステム部の雌ねじ部に雄ねじ部を螺合させることによりその雄ねじ部をハブ輪に係止させた状態で締め付けることで、等速自在継手をハブ輪に固定することになる。
【0033】
本発明におけるねじ締め付け構造は、外側継手部材のステム部の軸端に形成された雄ねじ部と、その雄ねじ部に螺合した状態でハブ輪に係止される雌ねじ部とで構成された構造が可能である。この構造では、ステム部の雄ねじ部に雌ねじ部を螺合させることによりその雌ねじ部をハブ輪に係止させた状態で締め付けることで、等速自在継手をハブ輪に固定することになる。
【発明の効果】
【0034】
本発明によれば、ハブ輪と外側継手部材のステム部のうちのいずれか一方に形成されて軸方向に延びる複数の凸部を、その凸部に対して締め代を有する複数の凹部が形成された他方に圧入し、その他方に凸部の形状を転写することで凸部と凹部との嵌合接触部位全域が密着する凹凸嵌合構造を構成したことにより、凸部に対して締め代を有する凹部を予め形成していることから、凸部と凹部との嵌合接触部位全域で密着させるための圧入荷重を下げることができるので、車輪用軸受を車体に取り付けた後にその車輪用軸受のハブ輪に外側継手部材を圧入して等速自在継手を車輪用軸受に結合させることが容易となり、車体への組み付けにおける作業性を向上させ、その組み付け時の部品の損傷を未然に防止することができる。
【0035】
また、凹凸嵌合構造におけるモジュールを0.3〜0.75の範囲で規定したことにより、車輪用軸受のハブ輪と等速自在継手の外側継手部材のステム部との間でのトルク伝達容量を十分に確保することができると共に、ハブ輪と外側継手部材のステム部のうちのいずれか一方を他方に圧入する際の圧入荷重を確実に下げることができ、等速自在継手を車輪用軸受に結合させることが容易となって作業性の向上が図れる。
【図面の簡単な説明】
【0036】
【
図1】本発明に係る車輪用軸受装置の実施形態で、車輪用軸受に等速自在継手を組み付ける前の状態を示す縦断面図である。
【
図2】
図1の車輪用軸受に等速自在継手を組み付けた後の状態を示す縦断面図である。
【
図3】ナックルに装着された車輪用軸受に、ドライブシャフトの等速自在継手を組み付ける前の状態を示す断面図である。
【
図4】ナックルに装着された車輪用軸受に、ドライブシャフトの等速自在継手を組み付ける途中の状態を示す断面図である。
【
図5】ナックルに装着された車輪用軸受に、ドライブシャフトの等速自在継手を組み付けた後の状態を示す断面図である。
【
図6】(A)は車輪用軸受のハブ輪に外側継手部材のステム部を圧入する前の状態を示す要部拡大断面図、(B)は(A)のA−A線に沿う断面図である。
【
図7】(A)は車輪用軸受のハブ輪に外側継手部材のステム部を圧入する途中の状態を示す要部拡大断面図、(B)は(A)のB−B線に沿う断面図である。
【
図8】(A)は車輪用軸受のハブ輪に外側継手部材のステム部を圧入した後の状態を示す要部拡大断面図、(B)は(A)のC−C線に沿う断面図である。
【
図9】
図1の車輪用軸受に等速自在継手を組み付けた後のハブ輪とステム部を示す横断面図である。
【
図10】本発明に係る車輪用軸受装置の他の実施形態で、ナックルに装着された車輪用軸受に、ドライブシャフトの等速自在継手を組み付けた後の状態を示す断面図である。
【
図11】従来の車輪用軸受装置の全体構成を示す縦断面図である。
【
図12】
図11の車輪用軸受装置において、外側継手部材のステム部をハブ輪の軸孔に圧入する前の状態を示す要部拡大縦断面図である。
【
図13】
図11の車輪用軸受装置において、外側継手部材のステム部をハブ輪の軸孔に圧入した後の状態を示す要部拡大横断面図である。
【
図14】ドライブシャフトが組み付けられた車輪用軸受装置をナックルに装着する前の状態を示す断面図である。
【
図15】ドライブシャフトが組み付けられた車輪用軸受装置をナックルに装着した後の状態を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0037】
本発明に係る車輪用軸受装置の実施形態を以下に詳述する。
図1および
図2に示す車輪用軸受装置は、内方部材であるハブ輪1および内輪2、複列の転動体3,4、外輪5からなる車輪用軸受20と等速自在継手6とで主要部が構成されている。
図1は車輪用軸受20に等速自在継手6を組み付ける前の状態を示し、
図2は車輪用軸受20に等速自在継手6を組み付けた後の状態を示す。なお、以下の説明では、車体に組み付けた状態で、車体の外側寄りとなる側をアウトボード側(図面左側)と呼び、中央寄りとなる側をインボード側(図面右側)と呼ぶ。
【0038】
ハブ輪1は、その外周面にアウトボード側の内側軌道面7が形成されると共に、車輪(図示せず)を取り付けるための車輪取付フランジ9を備えている。この車輪取付フランジ9の円周方向等間隔に、ホイールディスクを固定するためのハブボルト10が植設されている。このハブ輪1のインボード側外周面に形成された小径段部12に内輪2を嵌合させ、この内輪2の外周面にインボード側の内側軌道面8が形成されている。
【0039】
内輪2は、クリープを防ぐために適当な締め代をもって圧入されている。ハブ輪1の外周面に形成されたアウトボード側の内側軌道面7と、内輪2の外周面に形成されたインボード側の内側軌道面8とで複列の軌道面を構成する。この内輪2をハブ輪1の小径段部12に圧入し、その小径段部12の端部を揺動加締めにより外側に加締めることにより、加締め部11でもって内輪2を抜け止めしてハブ輪1と一体化し、車輪用軸受20に予圧を付与している。
【0040】
外輪5は、内周面にハブ輪1および内輪2の軌道面7,8と対向する複列の外側軌道面13,14が形成され、車体(図示せず)の懸架装置から延びるナックルに取り付けるための車体取付フランジ19を備えている。後述するように、この車体取付フランジ19は、前述のナックル52に嵌合されてボルト63により固定される(
図3参照)。
【0041】
車輪用軸受20は、複列のアンギュラ玉軸受構造で、ハブ輪1および内輪2の外周面に形成された内側軌道面7,8と外輪5の内周面に形成された外側軌道面13,14との間に転動体3,4を介在させ、各列の転動体3,4を保持器15,16により円周方向等間隔に支持した構造を有する。
【0042】
車輪用軸受20の両端開口部には、ハブ輪1と内輪2の外周面に摺接するように、外輪5とハブ輪1および内輪2との環状空間を密封する一対のシール17,18が外輪5の両端部内径に嵌合され、内部に充填されたグリースの漏洩ならびに外部からの水や異物の侵入を防止するようになっている。
【0043】
等速自在継手6は、ドライブシャフト21を構成する中間シャフト22の一端に設けられ、内周面にトラック溝23が形成された外側継手部材24と、その外側継手部材24のトラック溝23と対向するトラック溝25が外周面に形成された内側継手部材26と、外側継手部材24のトラック溝23と内側継手部材26のトラック溝25との間に組み込まれたボール27と、外側継手部材24の内周面と内側継手部材26の外周面との間に介在してボール27を保持するケージ28とで構成されている。
【0044】
外側継手部材24は、内側継手部材26、ボール27およびケージ28からなる内部部品を収容したマウス部29と、マウス部29から軸方向に一体的に延びるステム部30とで構成されている。内側継手部材26は、中間シャフト22の軸端が圧入されてスプライン嵌合によりトルク伝達可能に結合されている。
【0045】
等速自在継手6の外側継手部材24と中間シャフト22との間に、継手内部に封入されたグリース等の潤滑剤の漏洩を防ぐと共に継手外部からの異物侵入を防止するための樹脂製の蛇腹状ブーツ31を装着して、外側継手部材24の開口部を閉塞した構造としている。
【0046】
このブーツ31は、外側継手部材24の外周面にブーツバンド32により締め付け固定された大径端部33と、中間シャフト22の外周面にブーツバンド34により締め付け固定された小径端部35と、大径端部33と小径端部35とを繋ぎ、その大径端部33から小径端部35へ向けて縮径した可撓性の蛇腹部36とで構成されている。
【0047】
この車輪用軸受装置は、外側継手部材24のステム部30のインボード側外周面に円柱形状の嵌合面61を形成すると共に、ステム部30のアウトボード側外周面に軸方向に延びる複数の凸部37からなる雄スプラインを形成する。これに対して、ハブ輪1の軸孔38のインボード側内周面に円筒形状の嵌合面62を形成すると共に、その軸孔38のアウトボード側内周面に前述の凸部37の周方向側壁部43のみに対して締め代nを有する複数の凹部39
(小凹部)を形成する〔
図7(B)参照〕。なお、前述の凸部37は断面台形の歯形状としているが、インボリュート歯形状であってもよい。
【0048】
この車輪用軸受装置では、外側継手部材24のステム部30をハブ輪1の軸孔38に圧入し、相手側の凹部形成面であるハブ輪1の軸孔38に凸部37の周方向側壁部43のみの形状を転写することにより凹部40を形成し〔
図8(B)参照〕、凸部37と凹部40との嵌合接触部位全域Xが密着する凹凸嵌合構造Mを構成する(
図2参照)。なお、外側継手部材24およびハブ輪1の材質としては、S53C等に代表される機械構造用の中炭素鋼が好適である。
【0049】
この車輪用軸受装置は、以下のようなねじ締め付け構造N(
図2参照)を具備する。このねじ締め付け構造Nは、外側継手部材24のステム部30の軸端に形成された雌ねじ部41と、その雌ねじ部41に螺合した状態でハブ輪1に係止される雄ねじ部であるボルト42とで構成されている。この構造では、ステム部30の雌ねじ部41にボルト42を螺合させることによりそのボルト42をハブ輪1に係止させた状態で締め付けることで、等速自在継手6をハブ輪1に固定する。なお、車輪用軸受20は、加締め部11でもって内輪2を抜け止めしてハブ輪1と一体化した構造となっていることから、等速自在継手6の外側継手部材24と分離可能となっている。
【0050】
ところで、この車輪用軸受装置では、車輪用軸受20のハブ輪1の加締め部11と外側継手部材24の肩部45とが突き合わされた接触状態にあることから、例えば、車両発進時、ハブ輪1の加締め部11と外側継手部材24の肩部45との間で、カッキン音と通称されるスティックスリップ音が発生するおそれがある。このスティックスリップ音は、車両発進時、静止状態にある車輪用軸受20のハブ輪1に対して等速自在継手6の外側継手部材24から回転トルクが負荷されると、外側継手部材24からハブ輪1へ回転トルクを伝達しようとするが、外側継手部材24と車輪用軸受20との間の伝達トルク変動と外側継手部材24のねじれにより、ハブ輪1の加締め部11と外側継手部材24の肩部45との当接面で急激な滑りが発生する。この急激な滑りが原因となってスティックスリップ音が発生する。
【0051】
このスティックスリップ音を未然に防止する手段として、以上で説明したねじ締め付け構造Nでは、ハブ輪1に対する外側継手部材24の圧入時の締め付けトルクよりも低い締め付けトルクに設定されている。つまり、ハブ輪1に対する外側継手部材24の圧入後、ねじ締め状態を一端緩めて、再度、その圧入時の締め付けトルクよりも低い締め付けトルクに設定する。これにより、ハブ輪1の加締め部11と外側継手部材24の肩部45との当接面に発生する面圧を最適に管理することができ、その当接面で急激な滑りによるスティックスリップ音の発生を未然に防止することができる。
【0052】
この車輪用軸受装置において、ハブ輪1、内輪2、複列の転動体3,4および外輪5からなる車輪用軸受20と結合される固定式等速自在継手6はドライブシャフト21の一部を構成している。自動車のエンジンから車輪に動力を伝達するドライブシャフト21は、
図3に示すように、エンジンと車輪との相対的位置関係の変化による角度変位と軸方向変位に対応する必要があるため、一般的にエンジン側(インボード側)に摺動式等速自在継手51を、車輪側(アウトボード側)に固定式等速自在継手6をそれぞれ装備し、両者の等速自在継手6,51を中間シャフト22で連結した構造を具備する。
【0053】
図4に示すように、外側継手部材24のステム部30をハブ輪1の軸孔38に圧入するに先立って、ステム部30のインボード側外周面に円柱形状の嵌合面61を形成すると共に、ハブ輪1の軸孔38のインボード側内周面に円筒形状の嵌合面62を形成していることから、ハブ輪1の軸孔38の嵌合面62にステム部30の嵌合面61を嵌合させることで、ハブ輪1に対するステム部30の軸芯合わせを容易に行うことができる。
【0054】
また、
図6(A)(B)に示すように、ハブ輪1のインボード側に位置する嵌合面62とアウトボード側に位置する凹部39との間に、圧入の開始をガイドするガイド部64を設けている。このガイド部64はステム部30の凸部37よりも大きめの凹部65が前述の凹部39と連続するように形成されている(
図1の拡大部分参照)。つまり、凸部37と凹部65との間に隙間mが形成されている〔
図7(B)参照〕。ガイド部64により、外側継手部材24のステム部30をハブ輪1に圧入するに際して、ステム部30の凸部37がハブ輪1の凹部39に確実に圧入するように誘導することができるので、凸部37と凹部39との位相合わせが容易で安定した圧入が可能となって圧入時の芯ずれや芯傾きなどを防止することができる。
【0055】
ステム部30のハブ輪1への圧入時、
図7(A)(B)および
図8(A)(B)に示すように、ハブ輪1の軸孔38に凸部37の周方向側壁部43のみの形状を転写することにより凹部40を形成する。この時、凸部37に対して凹部39を予め形成していることから、従来のように凸部137を円筒部139に転写する場合(
図12参照)よりも、凸部37と凹部40との嵌合接触部位全域X(
図2参照)で密着させるための圧入荷重を下げることができる。
【0056】
この凹凸嵌合構造Mでは、凸部37の周方向側壁部43のみに対して締め代nを有するように、その凹部39の周方向寸法を凸部37よりも小さく設定している。この凸部37の周方向側壁部43を除く部位、つまり、凸部37の径方向先端部44は、凹部39と締め代を有さないことから、その形状が凹部39に転写されることなく、また、凹部39の径方向寸法を凸部37よりも大きく設定することから、凹部39との間に隙間pを有する。このように、凸部37の周方向側壁部43のみに対して締め代nを有するように設定されていることから、凸部37の全体に亘って凹部39と締め代を有するように設定した場合よりも、圧入荷重をより一層下げることができる。
【0057】
その結果、
図5に示すように、ボルト42の締め付けにより発生する軸力以下でハブ輪1に対して外側継手部材24を圧入可能とすることができる。つまり、自動車メーカでの車両組み立て時、車輪用軸受20を車体の懸架装置から延びるナックル52にボルト63で取り付けた後、ねじ締め付け構造Nのボルト42による引き込み力でもって、車輪用軸受20のハブ輪1の軸孔38に等速自在継手6の外側継手部材24のステム部30を容易に圧入することができ、車輪用軸受20にドライブシャフト21の等速自在継手6を簡易に組み付けることが可能となって車体への組み付け時の作業性を向上させ、その組み付け時の部品の損傷を未然に防止することができる。
【0058】
このように、車輪用軸受20を車体のナックル52に取り付けた後にその車輪用軸受20のハブ輪1に外側継手部材24を圧入するに際して、専用の治具を別に用意する必要がなく、車輪用軸受装置を構成する部品であるボルト42でもって等速自在継手6を簡易に車輪用軸受20に結合させることができる。また、ボルト42の締め付けにより発生する軸力以下という比較的小さな引き込み力の付与で圧入することができるので、ボルト42による引き込み作業性の向上が図れる。さらに、大きな圧入荷重を付与しないので済むことから、凹凸嵌合構造Mでの凹凸が損傷する(むしれる)ことを防止でき、高品質で長寿命の凹凸嵌合構造Mを実現できる。
【0059】
この外側継手部材24のステム部30をハブ輪1の軸孔38に圧入するに際して、凸部37の周方向側壁部43による凹部形成面の極僅かな塑性変形および切削加工を伴いながら、その凹部形成面に凸部37の周方向側壁部43の形状を転写することになる。この時、凸部37の周方向側壁部43が凹部形成面に食い込んでいくことによってハブ輪1の内径が僅かに拡径した状態となって、凸部37の軸方向の相対的移動が許容される。この凸部37の軸方向相対移動が停止すれば、ハブ輪1の内径が元の径に戻ろうとして縮径することになる。これによって、凸部37と凹部40との嵌合接触部位全域Xで密着し、外側継手部材24とハブ輪1を強固に結合一体化することができる。
【0060】
このような低コストで信頼性の高い結合により、ステム部30とハブ輪1の嵌合部分の径方向および周方向においてガタが生じる隙間が形成されないので、嵌合接触部位全域Xが回転トルク伝達に寄与して安定したトルク伝達が可能であり、耳障りな歯打ち音を長期に亘り防止できる。このように嵌合接触部位全域Xで密着していることから、トルク伝達部位の強度が向上するため、車両用軸受装置の軽量コンパクト化が図れる。
【0061】
外側継手部材24のステム部30をハブ輪1の軸孔38に圧入するに際して、凸部37の表面硬度を凹部39の表面硬度よりも大きくする。その場合、凸部37の表面硬度と凹部39の表面硬度との差をHRCで20以上とする。これにより、圧入時における塑性変形および切削加工により、相手側の凹部形成面に凸部37の周方向側壁部43の形状を容易に転写することができる。なお、凸部37の表面硬度としてはHRCで50〜65、また、凹部39の表面硬度としてはHRCで10〜30が好適である。
【0062】
ハブ輪1の軸孔38と外側継手部材24のステム部30との間に、圧入による凸部形状の転写によって生じる食み出し部66
(切粉)を収容する収容部67を設けている〔
図7(A)および
図8(A)参照〕。これにより、圧入による凸部形状の転写によって生じる食み出し部66を収容部67に保持することができ、その食み出し部66が装置外の車両内などへ入り込んだりすることを阻止できる。その食み出し部66を収容部67に保持することで、食み出し部66の除去処理が不要となり、作業工数の削減を図ることができ、作業性の向上およびコスト低減を図ることができる。
【0063】
以上で説明した凹凸嵌合構造Mでは、モジュールを0.3〜0.75の範囲で規定している。ここで、モジュールとは、
図8(B)および
図9に示すように、外側継手部材24のステム部30の外周面に形成された凸部37とハブ輪1の軸孔38の内周面に形成された凹部40との嵌合構造におけるピッチ円径(PCD)を凸部37の数Z(歯数)で除した値(PCD/Z)を意味する。凸部137を円筒部139に転写する従来の凹凸嵌合構造(
図12参照)では、その凹凸嵌合構造におけるモジュールを1.0程度に設定していたのに対して、この実施形態における凹凸嵌合構造Mでは、モジュールを0.3〜0.75の範囲で規定する。
【0064】
このように、凹凸嵌合構造Mにおけるモジュールを0.3〜0.75の範囲で規定することにより、外側継手部材24のステム部30の凸部37とハブ輪1の軸孔38の凹部40とが確実に噛み合うことから、車輪用軸受20と等速自在継手6との間でのトルク伝達容量を十分に確保することができる。また、ハブ輪1の軸孔38に外側継手部材24のステム部30を圧入する際の圧入荷重を確実に下げることができ、ねじ締め付け構造Nのボルト42による引き込み力でもって、ハブ輪1の軸孔38に外側継手部材24のステム部30を容易に圧入することができる。
【0065】
なお、凹凸嵌合構造Mにおけるモジュールが0.3よりも小さいと、凸部37に対する凹部39の嵌合代が小さくなり過ぎることから、車輪用軸受20と等速自在継手6との間で十分なトルク伝達容量を確保することが困難となる。逆に、凹凸嵌合構造Mにおけるモジュールが0.75よりも大きいと、凸部37に対する凹部39の嵌合代が大きくなり過ぎることから、ハブ輪1の軸孔38に外側継手部材24のステム部30を圧入する際の圧入荷重を下げることが難しくなり、ねじ締め付け構造Nのボルト42による引き込み力でもって、ハブ輪1の軸孔38に外側継手部材24のステム部30を圧入することが困難となる。
【0066】
また、この凹凸嵌合構造Mでは、
図8(A)および
図9に示すように、嵌合接触部位全域Xの軸方向長さ(以下、単に嵌合長さと称す)に対するピッチ円径(PCD)の比を2.0〜3.0の範囲で規定している。ここで、嵌合長さに対するピッチ円径の比は、ピッチ円径を嵌合長さで除算した値(PCD/X)を意味する。凸部137を円筒部139に転写する従来の凹凸嵌合構造(
図12参照)では、嵌合長さに対するピッチ円径の比を1.0より小さく設定していたのに対して、この実施形態における凹凸嵌合構造Mでは、嵌合長さに対するピッチ円径の比を2.0〜3.0の範囲で規定する。
【0067】
このように、嵌合長さに対するピッチ円径の比を2.0〜3.0の範囲で規定することにより、ハブ輪1の軸孔38に外側継手部材24のステム部30を圧入する際の圧入荷重を確実に下げることができ、ねじ締め付け構造Nのボルト42による引き込み力でもって、ハブ輪1の軸孔38に外側継手部材24のステム部30を容易に圧入することができる。また、外側継手部材24のステム部30の破損強度よりも凸部37の剪断強度を高くすることができ、凹凸嵌合構造Mにおいて十分な強度を確保することができる。
【0068】
なお、嵌合長さに対するピッチ円径の比が2.0よりも小さいと、ピッチ円径に対して嵌合長さが大きくなり過ぎることから、ねじ締め付け構造Nのボルト42による引き込み力でもって、ハブ輪1の軸孔38に外側継手部材24のステム部30を圧入する際の圧入荷重を下げることが難しくなり、ハブ輪1の軸孔38に外側継手部材24のステム部30を圧入することが困難となる。また、装置のコンパクト化および軽量化が困難となる。逆に、嵌合長さに対するピッチ円径の比が3.0よりも大きいと、ピッチ円径に対して嵌合長さが小さくなり過ぎることから、外側継手部材24のステム部30の破損強度よりも凸部37の剪断強度が低くなり、凹凸嵌合構造Mにおいて十分な強度を確保することが困難となる。
【0069】
以上の実施形態では、ステム部30の雌ねじ部41にボルト42を螺合させることによりボルト42をハブ輪1の端面に係止させた状態で締め付ける構造を例示したが、他のねじ締め付け構造として、
図10に示すように、外側継手部材24のステム部30の軸端に形成された雄ねじ部68と、その雄ねじ部68に螺合した状態でハブ輪1の端面に係止される雌ねじ部であるナット69とで構成することも可能である。この構造では、ステム部30の雄ねじ部68にナット69を螺合させることによりナット69をハブ輪1に係止させた状態で締め付けることで、等速自在継手6をハブ輪1に固定することになる。
【0070】
また、以上の実施形態では、ハブ輪1および内輪2からなる内方部材に形成された複列の内側軌道面7,8の一方、つまり、アウトボード側の内側軌道面7をハブ輪1の外周に形成した(第三世代と称される)タイプの駆動車輪用軸受装置に適用した場合を例示したが、本発明はこれに限定されることなく、ハブ輪の外周に一対の内輪を圧入し、アウトボード側の軌道面7を一方の内輪の外周に形成すると共にインボード側の軌道面8を他方の内輪の外周に形成した(第一、第二世代と称される)タイプの駆動車輪用軸受装置にも適用可能である。
【0071】
本発明は前述した実施形態に何ら限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において、さらに種々なる形態で実施し得ることは勿論のことであり、本発明の範囲は、特許請求の範囲によって示され、さらに特許請求の範囲に記載の均等の意味、および範囲内のすべての変更を含む。
【符号の説明】
【0072】
1 内方部材(ハブ輪)
2 内方部材(内輪)
3,4 転動体
5 外方部材(外輪)
6 等速自在継手
7,8 内側軌道面
13,14 外側軌道面
20 車輪用軸受
24 外側継手部材
30 ステム部
37 凸部(雄スプライン)
39,40 凹部
41 雌ねじ部
42 雄ねじ部(ボルト)
43 凸部の周方向側壁部
68 雄ねじ部
69 雌ねじ部(ナット)
n 締め代
M 凹凸嵌合構造
N ねじ締め付け構造
X 嵌合接触部位全域