特許第6261859号(P6261859)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6261859信号処理装置、水中探知装置、信号処理方法、及びプログラム
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6261859
(24)【登録日】2017年12月22日
(45)【発行日】2018年1月17日
(54)【発明の名称】信号処理装置、水中探知装置、信号処理方法、及びプログラム
(51)【国際特許分類】
   G01S 7/526 20060101AFI20180104BHJP
   G01S 15/96 20060101ALI20180104BHJP
【FI】
   G01S7/526 K
   G01S15/96
【請求項の数】17
【全頁数】20
(21)【出願番号】特願2012-287032(P2012-287032)
(22)【出願日】2012年12月28日
(65)【公開番号】特開2014-130041(P2014-130041A)
(43)【公開日】2014年7月10日
【審査請求日】2015年11月4日
(73)【特許権者】
【識別番号】000166247
【氏名又は名称】古野電気株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000682
【氏名又は名称】特許業務法人ワンディーIPパートナーズ
(72)【発明者】
【氏名】奥西 哲
【審査官】 中村 説志
(56)【参考文献】
【文献】 特開2012−018036(JP,A)
【文献】 特開2009−204308(JP,A)
【文献】 特開2008−241308(JP,A)
【文献】 特開平07−072242(JP,A)
【文献】 特開平04−116488(JP,A)
【文献】 特開平01−253677(JP,A)
【文献】 特開2014−020906(JP,A)
【文献】 特開2014−020865(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2006/0013068(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01S 7/52− 7/64
G01S15/00−15/96
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
水中探知装置で音波を送信して帰来する受信信号を構成する複数の受信データのそれぞれを処理する信号処理装置であって、
時間経過に対応したゲインを算出するゲイン算出部と、
前記複数の受信データの中から所定の受信データを抽出し、抽出した受信データからノイズ振幅推定値を推定し、所定値を該ノイズ振幅推定値で除算して下限ゲインを算出する下限ゲイン算出部と、
前記ゲインと前記下限ゲインとを比較し、前記ゲインが前記下限ゲインを上回る場合は前記ゲインを出力し、前記ゲインが前記下限ゲイン以下の場合は前記下限ゲインを出力する比較部と、
前記比較部から出力される前記ゲイン及び前記下限ゲインの一方を用いて前記受信データを補正する補正部と
を備える、信号処理装置。
【請求項2】
水中探知装置で音波を送信して帰来する受信信号を構成する複数の受信データのそれぞれを処理する信号処理装置であって、
基準タイミングから前記受信データの受信タイミングまでの時間経過に対応したゲインを算出するゲイン算出部と、
前記複数の受信データの中から所定の受信データを抽出し、抽出した受信データからノイズ振幅推定値を推定し、前記基準タイミングにおいては所定値を前記ノイズ振幅推定値で除算した値が下限ゲインとなり、且つ前記基準タイミング以降においては該基準タイミングからの時間経過に応じて前記下限ゲインの値が増大するように、前記下限ゲインを算出する下限ゲイン算出部と、
前記ゲインと前記下限ゲインとを比較し、前記ゲインが前記下限ゲインを上回る場合は前記ゲインを出力し、前記ゲインが前記下限ゲイン以下の場合は前記下限ゲインを出力する比較部と、
前記比較部から出力される前記ゲイン及び前記下限ゲインの一方を用いて前記受信データを補正する補正部と
を備える、信号処理装置。
【請求項3】
前記下限ゲイン算出部は、抽出した受信データから各方位の振幅代表値を算出し、所定の方位範囲に含まれる複数の方位の前記振幅代表値からノイズ振幅推定値を推定する、請求項1又は請求項2に記載の信号処理装置。
【請求項4】
前記補正部は、前記比較部から出力される前記ゲイン及び前記下限ゲインの一方を前記受信データに乗算することにより前記受信データを補正する、請求項1から請求項3のいずれか1項に記載の信号処理装置。
【請求項5】
前記下限ゲイン算出部は、前記抽出した受信データから平均値、メジアン、又は四分位数を方位毎に算出することにより各方位の振幅代表値を算出し、方位毎に算出された前記振幅代表値の平均値、メジアン、又は四分位数を前記ノイズ振幅推定値として推定する、請求項1から請求項4のいずれか1項に記載の信号処理装置。
【請求項6】
前記下限ゲイン算出部は、前記受信信号が所定の時間間隔でサンプリングされて得られた方位毎の受信データ系列を構成する前記複数の受信データから所定の時間範囲内の受信データを抽出する、請求項1から請求項5のいずれか1項に記載の信号処理装置。
【請求項7】
前記下限ゲイン算出部は、前記受信データ系列を構成する前記複数の受信データから、前記時間経過が最も短い受信データを含む所定の時間範囲内の受信データを抽出する、請求項6に記載の信号処理装置。
【請求項8】
前記下限ゲイン算出部は、少なくとも、前記水中探知装置によって送信される音波の進行方向と水平面とがなす俯角に応じて、前記下限ゲインを決定する、請求項1から請求項7のいずれか1項に記載の信号処理装置。
【請求項9】
前記下限ゲイン算出部は、少なくとも、前記水中探知装置によって送信される音波のパルス幅に応じて、前記下限ゲインを決定する、請求項1から請求項8のいずれか1項に記載の信号処理装置。
【請求項10】
前記所定値は、該所定値に基づいて算出される前記下限ゲインが乗算された後の前記受信データのノイズの最大振幅値がユーザの許容しうる値となるようにユーザに設定される、請求項1から請求項9のいずれか1項に記載の信号処理装置。
【請求項11】
請求項1から請求項10のいずれか1項に記載の信号処理装置と、
水中からの信号を受信する受波器と、
前記受波器から出力された受信信号を所定の時間間隔でサンプリングして前記信号処理装置へ出力する受信装置とを備える、水中探知装置。
【請求項12】
前記信号処理装置から出力される出力信号の振幅値に応じた表示色により該出力信号を表示するように構成され、第1振幅値以上の振幅値を有する前記出力信号を第1表示色で表示するとともに、前記第1振幅値未満の第2振幅値以下の振幅値を有する前記出力信号を前記第1表示色とは異なる第2表示色で表示する表示部を更に備え、
前記信号処理装置は、前記下限ゲインを算出するために前記ノイズ振幅推定値で除算される所定値を、前記第1振幅値及び前記第2振幅値の少なくとも一方に連動させる可変部を更に備える、請求項11に記載の水中探知装置。
【請求項13】
前記可変部は、前記所定値を、前記第1振幅値と前記第2振幅値との間で変動させる、請求項12に記載の水中探知装置。
【請求項14】
水中探知装置で音波を送信して帰来する受信信号を構成する複数の受信データのそれぞれを処理する信号処理方法であって、
時間経過に対応したゲインを算出するステップと、
前記複数の受信データから所定の受信データを抽出するステップと、
抽出した受信データからノイズ振幅推定値を推定するステップと、
所定値を前記ノイズ振幅推定値で除算して下限ゲインを算出するステップと、
前記ゲインと前記下限ゲインとを比較し、前記ゲインが前記下限ゲインを上回る場合は前記ゲインを出力し、前記ゲインが前記下限ゲイン以下の場合は前記下限ゲインを出力するステップと、
出力される前記ゲイン及び前記下限ゲインの一方を用いて前記受信データを補正するステップと
を含む信号処理方法。
【請求項15】
水中探知装置で音波を送信して帰来する受信信号を構成する複数の受信データのそれぞれを処理する信号処理方法であって、
基準タイミングから前記受信データの受信タイミングまでの時間経過に対応したゲインを算出するステップと、
前記複数の受信データから所定の受信データを抽出するステップと、
抽出した受信データからノイズ振幅推定値を推定するステップと、
前記基準タイミングにおいては所定値を前記ノイズ振幅推定値で除算した値が下限ゲインとなり、且つ前記基準タイミング以降においては該基準タイミングからの時間経過に応じて前記下限ゲインの値が増大するように、前記下限ゲインを算出するステップと、
前記ゲインと前記下限ゲインとを比較し、前記ゲインが前記下限ゲインを上回る場合は前記ゲインを出力し、前記ゲインが前記下限ゲイン以下の場合は前記下限ゲインを出力するステップと、
出力される前記ゲイン及び前記下限ゲインの一方を用いて前記受信データを補正するステップと
を含む信号処理方法。
【請求項16】
水中探知装置で音波を送信して帰来する受信信号を構成する複数の受信データのそれぞれを処理するための信号処理プログラムであって、コンピュータに、
時間経過に対応したゲインを算出するステップと、
前記複数の受信データから所定の受信データを抽出するステップと、
抽出した受信データからノイズ振幅推定値を推定するステップと、
所定値を前記ノイズ振幅推定値で除算して下限ゲインを算出するステップと、
前記ゲインと前記下限ゲインとを比較し、前記ゲインが前記下限ゲインを上回る場合は前記ゲインを出力し、前記ゲインが前記下限ゲイン以下の場合は前記下限ゲインを出力するステップと、
出力される前記ゲイン及び前記下限ゲインの一方を用いて前記受信データを補正するステップと
を実行させるための信号処理プログラム。
【請求項17】
水中探知装置で音波を送信して帰来する受信信号を構成する複数の受信データのそれぞれを処理するための信号処理プログラムであって、コンピュータに、
基準タイミングから前記受信データの受信タイミングまでの時間経過に対応したゲインを算出するステップと、
前記複数の受信データから所定の受信データを抽出するステップと、
抽出した受信データからノイズ振幅推定値を推定するステップと、
前記基準タイミングにおいては所定値を前記ノイズ振幅推定値で除算した値が下限ゲインとなり、且つ前記基準タイミング以降においては該基準タイミングからの時間経過に応じて前記下限ゲインの値が増大するように、前記下限ゲインを算出するステップと、
前記ゲインと前記下限ゲインとを比較し、前記ゲインが前記下限ゲインを上回る場合は前記ゲインを出力し、前記ゲインが前記下限ゲイン以下の場合は前記下限ゲインを出力するステップと、
出力される前記ゲイン及び前記下限ゲインの一方を用いて前記受信データを補正するステップと
を実行させるための信号処理プログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、信号処理装置、水中探知装置、信号処理方法、及びプログラムに関するものである。
【背景技術】
【0002】
スキャニングソナー又はサーチライトソナー等のような水中探知装置は、送受波器によって、水中に超音波を送信した後、物標によって反射したエコーを受信する。そして、水中探知装置は、受信したエコーに基づいて魚群などの水中の情報に関する画像を生成し、表示装置にその画像を表示する。
【0003】
この物標で反射したエコーは、水中を伝搬する距離にしたがって減衰するため、水中探知装置はこの減衰を補償するためにエコーに対してTVG(Time Varied Gain)処理を行う。すなわち、水中探知装置は、受信する信号に対して、その信号が伝搬する距離にしたがって増大するゲインを乗算する。これにより、近くの物標からのエコーも遠方の物標からのエコーも同等のレベルで表示装置に表示される。
【0004】
ところで、水中探知装置が受信する信号の中には、魚群からのエコーとは直接的に関係のないエコーであるノイズ(例えば、海面からのエコー又はプランクトンからのエコー)も含まれている。このようなノイズを低減する手段として、例えば特許文献1には、船舶が海上を航行する際に発生するノイズを除去して、所望のエコーを抽出する技術が開示されている。詳細には、特許文献1の方法は、航行する際に発生するノイズのレベルが船舶の進行方向に対して左右対称に分布していることに着眼したものである。この方法は、左舷の受信信号レベルから右舷の受信信号レベルを減算し、また、右舷の受信信号レベルから左舷の受信信号レベルを減算することで、左右対称に分布する航行によるノイズ成分を除去する。
【0005】
また、ノイズは、周辺環境(例えば海況)、又は水中探知装置の使用条件(例えば送信される超音波のパルス幅)によって変化する。これに対して、一般的な水中探知装置では、物標からのエコーが適切に表示されるよう、ユーザが表示感度を調節して、TVG処理において乗算されるゲインを一律に下げることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2000−19252号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、上述した特許文献1に記載の方法では、ノイズレベルが左右対称であることを前提としている。このため、上述した特許文献1に記載の方法は、ノイズレベルが左右対称でない場合は、そのノイズを除去することができない。
【0008】
また、上述のように、ユーザがゲインを手動で調整して表示感度を調節する場合、環境又は使用条件が変化するたびにユーザがゲインを調整しなければならず、その作業が煩雑になってしまう。また、このようなゲインを調整する作業を怠ると、ノイズレベルが上昇した場合には、ノイズ及び物標からのエコーの両方が強く表示されてしまうため、ノイズと物標とを識別することが困難になる可能性がある。また、ノイズレベルが低減した場合には、ゲインを大きくすれば探知できるはずの物標を見逃してしまう可能性が生じる。
【0009】
本発明は、上記実情に鑑みてなされるものであり、その目的は、煩雑な作業を伴うことなく、物標に起因するエコーを適切に表示できる信号処理装置、水中探知装置、信号処理方法、及びプログラムを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
(1)上記課題を解決するために、この発明のある局面に係る信号処理装置は、水中探知装置で音波を送信して帰来する受信信号を構成する複数の受信データのそれぞれを処理する信号処理装置に関する。そして、信号処理装置は、時間経過に対応したゲインを算出するゲイン算出部と、前記複数の受信データの中から所定の受信データを抽出し、抽出した受信データからノイズ振幅推定値を推定し、所定値を該ノイズ振幅推定値で除算して下限ゲインを算出する下限ゲイン算出部と、前記ゲインと前記下限ゲインとを比較し、前記ゲインが前記下限ゲインを上回る場合は前記ゲインを出力し、前記ゲインが前記下限ゲイン以下の場合は前記下限ゲインを出力する比較部と、前記比較部から出力される前記ゲイン及び前記下限ゲインの一方を用いて前記受信データを補正する補正部とを備える。
(2)また、上記課題を解決するために、この発明のある局面に係る信号処理装置は、水中探知装置で音波を送信して帰来する受信信号を構成する複数の受信データのそれぞれを処理する信号処理装置に関する。そして、信号処理装置は、基準タイミングから前記受信データの受信タイミングまでの時間経過に対応したゲインを算出するゲイン算出部と、前記複数の受信データの中から所定の受信データを抽出し、抽出した受信データからノイズ振幅推定値を推定し、前記基準タイミングにおいては所定値を前記ノイズ振幅推定値で除算した値が下限ゲインとなり、且つ前記基準タイミング以降においては該基準タイミングからの時間経過に応じて前記下限ゲインの値が増大するように、前記下限ゲインを算出する下限ゲイン算出部と、前記ゲインと前記下限ゲインとを比較し、前記ゲインが前記下限ゲインを上回る場合は前記ゲインを出力し、前記ゲインが前記下限ゲイン以下の場合は前記下限ゲインを出力する比較部と、前記比較部から出力される前記ゲイン及び前記下限ゲインの一方を用いて前記受信データを補正する補正部とを備える。
(3)好ましくは、前記下限ゲイン算出部は、抽出した受信データから各方位の振幅代表値を算出し、所定の方位範囲に含まれる複数の方位の前記振幅代表値からノイズ振幅推定値を推定する。
【0011】
(4)好ましくは、前記補正部は、前記比較部から出力される前記ゲイン及び前記下限ゲインの一方を前記受信データに乗算することにより前記受信データを補正する。
【0012】
ましくは、前記下限ゲイン算出部は、前記抽出した受信データからノイズ振幅推定値を推定するノイズ振幅値推定部を有し、該ノイズ振幅推定値に基づいて前記下限ゲインを算出する。
【0013】
(5)好ましくは、前記下限ゲイン算出部は、前記抽出した受信データから平均値、メジアン、又は四分位数を方位毎に算出することにより各方位の振幅代表値を算出し、方位毎に算出された前記振幅代表値の平均値、メジアン、又は四分位数を前記ノイズ振幅推定値として推定する。
【0014】
(6)好ましくは、前記下限ゲイン算出部は、前記受信信号が所定の時間間隔でサンプリングされて得られた方位毎の受信データ系列を構成する前記複数の受信データから所定の時間範囲内の受信データを抽出する。
【0015】
(7)更に好ましくは、前記下限ゲイン算出部は、前記受信データ系列を構成する前記複数の受信データから、前記時間経過が最も短い受信データを含む所定の時間範囲内の受信データを抽出する。
【0016】
(8)好ましくは、前記下限ゲイン算出部は、少なくとも、前記水中探知装置によって送信される音波の進行方向と水平面とがなす俯角に応じて、前記下限ゲインを決定する。
【0017】
(9)好ましくは、前記下限ゲイン算出部は、少なくとも、前記水中探知装置によって送信される音波のパルス幅に応じて、前記下限ゲインを決定する。
【0018】
ましくは、前記下限ゲイン算出部は、所定値を前記ノイズ振幅推定値で除算して前記下限ゲインを算出する。
【0019】
ましくは、前記下限ゲイン算出部は、前記下限ゲインが、前記基準時刻においては所定値を前記ノイズ振幅推定値で除算した値となり、且つ前記基準時刻以降においては該基準時刻からの時間経過に応じて増大する値となるように、前記下限ゲインを算出する。
【0020】
(10)好ましくは、前記所定値は、該所定値に基づいて算出される前記下限ゲインが乗算された後の前記受信データのノイズの最大振幅値がユーザの許容しうる値となるようにユーザに設定される。
【0021】
(11)上記課題を解決するために、この発明のある局面に係る水中探知装置は、上述したいずれかの信号処理装置と、水中からの信号を受信する受波器と、前記受波器から出力された受信信号を所定の時間間隔でサンプリングして前記信号処理装置へ出力する受信装置とを備える。
【0022】
(12)好ましくは、前記信号処理装置から出力される出力信号の振幅値に応じた表示色により該出力信号を表示するように構成され、第1振幅値以上の振幅値を有する前記出力信号を第1表示色で表示するとともに、前記第1振幅値未満の第2振幅値以下の振幅値を有する前記出力信号を前記第1表示色とは異なる第2表示色で表示する表示部を更に備え、前記信号処理装置は、前記下限ゲインを算出するために前記ノイズ振幅推定値で除算される所定値を、前記第1振幅値及び前記第2振幅値の少なくとも一方に連動させる可変部を更に備える。
【0023】
(13)更に好ましくは、前記可変部は、前記所定値を、前記第1振幅値と前記第2振幅値との間で変動させる。
【0024】
(14)上記課題を解決するために、この発明のある局面に係る信号処理方法は、水中探知装置で音波を送信して帰来する受信信号を構成する複数の受信データのそれぞれを処理する信号処理方法に関する。そして、信号処理方法は、時間経過に対応したゲインを算出するステップと、前記複数の受信データから所定の受信データを抽出するステップと、抽出した受信データからノイズ振幅推定値を推定するステップと、所定値を前記ノイズ振幅推定値で除算して下限ゲインを算出するステップと、前記ゲインと前記下限ゲインとを比較し、前記ゲインが前記下限ゲインを上回る場合は前記ゲインを出力し、前記ゲインが前記下限ゲイン以下の場合は前記下限ゲインを出力するステップと、出力される前記ゲイン及び前記下限ゲインの一方を用いて前記受信データを補正するステップとを含む。
(15)上記課題を解決するために、この発明のある局面に係る信号処理方法は、水中探知装置で音波を送信して帰来する受信信号を構成する複数の受信データのそれぞれを処理する信号処理方法に関する。そして、信号処理方法は、基準タイミングから前記受信データの受信タイミングまでの時間経過に対応したゲインを算出するステップと、前記複数の受信データから所定の受信データを抽出するステップと、抽出した受信データからノイズ振幅推定値を推定するステップと、前記基準タイミングにおいては所定値を前記ノイズ振幅推定値で除算した値が下限ゲインとなり、且つ前記基準タイミング以降においては該基準タイミングからの時間経過に応じて前記下限ゲインの値が増大するように、前記下限ゲインを算出するステップと、前記ゲインと前記下限ゲインとを比較し、前記ゲインが前記下限ゲインを上回る場合は前記ゲインを出力し、前記ゲインが前記下限ゲイン以下の場合は前記下限ゲインを出力するステップと、出力される前記ゲイン及び前記下限ゲインの一方を用いて前記受信データを補正するステップとを含む
【0025】
(1)上記課題を解決するために、この発明のある局面に係る信号処理プログラムは、水中探知装置で音波を送信して帰来する受信信号を構成する複数の受信データのそれぞれを処理するための信号処理プログラムに関する。そして、信号処理プログラムは、コンピュータに、時間経過に対応したゲインを算出するステップと、前記複数の受信データから所定の受信データを抽出するステップと、抽出した受信データからノイズ振幅推定値を推定するステップと、所定値を前記ノイズ振幅推定値で除算して下限ゲインを算出するステップと、前記ゲインと前記下限ゲインとを比較し、前記ゲインが前記下限ゲインを上回る場合は前記ゲインを出力し、前記ゲインが前記下限ゲイン以下の場合は前記下限ゲインを出力するステップと、出力される前記ゲイン及び前記下限ゲインの一方を用いて前記受信データを補正するステップとを実行させる。
(1)上記課題を解決するために、この発明のある局面に係る信号処理プログラムは、水中探知装置で音波を送信して帰来する受信信号を構成する複数の受信データのそれぞれを処理するための信号処理プログラムに関する。そして、信号処理プログラムは、コンピュータに、基準タイミングから前記受信データの受信タイミングまでの時間経過に対応したゲインを算出するステップと、前記複数の受信データから所定の受信データを抽出するステップと、抽出した受信データからノイズ振幅推定値を推定するステップと、前記基準タイミングにおいては所定値を前記ノイズ振幅推定値で除算した値が下限ゲインとなり、且つ前記基準タイミング以降においては該基準タイミングからの時間経過に応じて前記下限ゲインの値が増大するように、前記下限ゲインを算出するステップと、前記ゲインと前記下限ゲインとを比較し、前記ゲインが前記下限ゲインを上回る場合は前記ゲインを出力し、前記ゲインが前記下限ゲイン以下の場合は前記下限ゲインを出力するステップと、出力される前記ゲイン及び前記下限ゲインの一方を用いて前記受信データを補正するステップとを実行させる

【発明の効果】
【0026】
本発明によれば、煩雑な作業を伴うことなく、物標に起因するエコーを適切に表示できる信号処理装置、水中探知装置、信号処理方法、及びプログラムを提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
図1】本発明の実施形態に係る水中探知装置の構成を示すブロック図である。
図2】本発明の実施形態に係る信号処理装置の乗算部の詳細を示すブロック図である。
図3】信号処理装置の下限ゲイン算出部の詳細を示すブロック図である。
図4】各受信データの方位及び経過時間について、自船を中心に視覚的に示す図である。
図5】信号処理装置における処理の流れを示すフローチャートである。
図6】従来の水中探知装置の信号処理装置における、基準時刻からの経過時刻と受信信号に乗算されるゲインとの関係を示すグラフである。
図7】従来の水中探知装置におけるソナー映像の一例を示す図である。
図8】本発明の実施形態に係る水中探知装置の信号処理装置における、基準時刻からの経過時刻と受信信号に乗算されるゲインとの関係を示すグラフである。
図9】本発明の実施形態に係る水中探知装置の信号処理装置における、ソナー映像の一例を示す図である。
図10】変形例に係る水中探知装置の下限ゲイン算出部の詳細を示すブロック図である。
図11】変形例に係る水中探知装置の信号処理装置における、基準時刻からの経過時刻と受信信号に乗算されるゲインとの関係を示すグラフである。
図12】変形例に係る水中探知装置の信号処理装置の構成を示すブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0028】
以下、本発明を実施するための形態について、図面を参照しつつ説明する。なお、以下では図中同一又は相当部分には同一符号を付してその説明は繰り返さない。
【0029】
図1は、本発明の実施形態に係る水中探知装置の構成を示すブロック図である。本実施形態の水中探知装置は、例えば、漁船などの船舶に設けられている。以下では、水中探知装置を備えている船舶を「自船」という。なお、以下の例では、水中探知装置としてスキャニングソナーを例に説明する。
【0030】
図1に示すように、本実施形態に係る水中探知装置1は、送受波器2、送受信装置3、信号処理装置4、及び表示装置5を備えている。なお、送受波器2は、本発明の受波器に相当するものであり、送受信装置3は、本発明の受信装置に相当するものである。また、水中探知装置1は、表示装置5を備えていなくてもよい。この場合、水中探知装置1は、信号処理装置4から出力した画像生成用受信データを、外部の表示装置で表示させる構成とすることができる。
【0031】
[送受波器]
送受波器2は、超音波を送受信する機能を有し、自船の船底に取り付けられている。なお、送受波器2は、略円筒形状であって、その軸方向が垂直方向に沿い、半径方向が水平方向に沿うように配置されている。
【0032】
詳細には、送受波器2は、略円筒形状の筐体と、この筐体の外周面に取り付けられた複数の超音波振動子とを有している。超音波振動子は、超音波を水中に送信するとともに、エコーを受信し、このエコーを電気信号に変換して受信信号を生成する。なお、本実施形態において、送受波器2は、筐体が円筒形の場合を示したが、形状は特に限定されるものではなく、例えば、球形等のように他の形状とすることもできる。
【0033】
[送受信装置]
送受信装置3は、送受切替部31、送信信号生成部32、増幅部33、A/D変換部34、及び受信ビーム形成部35を有している。送受切替部31は、送信信号生成部32からの送信信号を送受波器2に出力するとともに、送受波器2からの受信信号を増幅部33に出力する。
【0034】
送信信号生成部32は、送受切替部31を介して、送受波器2の各振動子へ送信信号を所定の周期で出力する。この送信信号により、各振動子が駆動され、送受波器2から各方位に超音波が放射される。
【0035】
増幅部33は、送受切替部31を介して送られてきた送受波器2の各振動子からの受信信号を増幅処理する機能を有する。A/D変換部34は、増幅部33によって増幅された受信信号をアナログ信号からデジタル信号に変換する。詳細には、A/D変換部34は、増幅部33により増幅処理された各受信信号を所定の時間間隔でサンプリングして、受信データ系列を生成する。なお、受信データ系列を構成する各受信データの値は、送受波器2が出力した電気信号の瞬時値を示している。この電気信号の瞬時値としては、例えば、電圧(単位:V)を例示することができる。
【0036】
受信ビーム形成部35は、A/D変換部34によってデジタル化された受信信号に対して、遅延処理を行うことで各受信信号の位相を整相する。また、受信ビーム形成部35は、整相した各受信信号に対して、ガウス関数又はハニング窓などによって決定されるウェイト値を乗算する。そして、受信ビーム形成部35は、これらの受信信号を合成することによって、方位毎に指向性の強い受信信号(受信ビーム)を生成する。すなわち、受信ビーム形成部35は、方位毎の受信データ系列を生成する。
【0037】
[信号処理装置]
信号処理装置4は、下限ゲイン算出部41、乗算部42、画像処理部43、及び記憶部44を有している。
【0038】
下限ゲイン算出部41は、乗算部42が各受信データに乗算するゲインの下限である下限ゲインGminを算出する。なお、この下限ゲイン算出部41の詳細については後述する。
【0039】
乗算部42は、各受信データに対してTVG処理を実行する。乗算部42は、図2に示すように、TVG算出部421と、比較部422と、乗算器423とを備えている。
【0040】
TVG算出部421は、ゲインGTVGを算出するゲイン算出部を構成する。このゲインGTVGは、基準時刻(例えば、送信時刻)から各受信データを受信した受信時刻までの経過時間に対応したゲインである。本実施形態では、ゲインGTVGは、上記経過時間が長いほど大きくなるゲインである。なお、本明細書において「経過時間」とは、受信データが基準時刻から受信されるまでに掛かった時間を意味する。
【0041】
比較部422は、TVG算出部421で算出されたゲインGTVGと、下限ゲイン算出部41で算出された下限ゲインとGminを比較する。そして、ゲインGTVGが下限ゲインGminを上回る時間領域ではゲインGTVGを乗算器423に出力する一方、ゲインGTVGが下限ゲインGmin以下の時間領域では下限ゲインGminを乗算器423に出力する。
【0042】
乗算器423は、比較部422から出力されたゲインGTVG及び下限ゲインGminの一方を用いて受信データを補正する補正部として設けられている。本実施形態では、乗算器423は、ゲインGTVG及び下限ゲインGminの一方を受信データに乗算した後、画像処理部43へ出力する。
【0043】
記憶部44には、最大ノイズ振幅値が記憶される。この最大ノイズ振幅値には、製品出荷時においては、予め実験等で決められた値が設定されている。最大ノイズ振幅値は、ユーザによって変更可能な値である。ユーザは、最大ノイズ振幅値を、該最大ノイズ振幅値に基づいて算出される下限ゲインGminが乗算された後の受信データのノイズの最大振幅値がユーザの許容しうる値となるように、設定できる。すなわち、ユーザは、表示装置5に表示されるノイズが許容可能なレベルとなるように、最大ノイズ振幅値を設定できる。
【0044】
画像処理部43は、乗算部42でゲインGTVG及び下限ゲインGminの一方が乗算された受信データである画像生成用受信データの受信時刻及び方位に基づき、その画像生成用受信データが表示装置5の画面上に表示される位置を算出する。また、画像処理部43は、受信データの振幅値に応じて受信データを表示する色を決定する。
【0045】
次に、下限ゲイン算出部41の詳細について、図3を参照しつつ説明する。図3は、本発明の実施形態に係る信号処理装置における下限ゲイン算出部の詳細を示すブロック図である。
【0046】
図3に示すように、下限ゲイン算出部41は、データ抽出部411、ノイズ振幅値推定部412、及び除算部413を有している。
【0047】
データ抽出部411は、受信ビーム形成部35から出力された受信データ系列から、所定の方位範囲内における所定の時間範囲内の受信データを抽出する。なお、受信ビーム形成部35から出力された受信データ系列は、方位ごとに分けられ、所定の時間間隔でサンプリングされている。
【0048】
このデータ抽出部411によって抽出される受信データについて、図4を参照して説明する。なお、図4は、各受信データの方位及び経過時間について、自船を中心に視覚的に示す図である。なお、図中の白丸が各受信データの方位及び経過時間を、図中の三角記号は自船を示している。詳細には、自船を中心とした、ある基準点から各白丸までの円周方向の回転角度が各受信データの方位をしている。なお、同一方位であれば、中心から外周方向に向かって直線状に並んでいる。また、この方位の数をK個とし、各方位に対して、反時計回りの順で方位番号k(k=0,1,2,3,・・・、K−1)を付している。また、自船を中心とした各白丸の径方向の位置が各受信データの経過時間を示している。なお、中心の自船に近い位置ほど経過時間が短く、中心の自船から遠い位置ほど経過時間が長い。
【0049】
本実施形態では、データ抽出部411は、全方位(k=0〜K−1)の受信データ系列から、所定の時間範囲t内の受信データを抽出する。本実施形態では、データ抽出部411は、基準時刻から受信時刻までの経過時間が最も短い受信データ、すなわち最も自船に近い受信データを含む所定の時間範囲内の受信データを抽出する。
【0050】
ノイズ振幅値推定部412は、データ抽出部411が抽出した受信データに基づいて、ノイズ振幅推定値を算出する。詳細には、ノイズ振幅値推定部412は、例えば、まず、抽出した受信データの振幅値の中央値(メジアン)を、方位毎に算出する。そして、ノイズ振幅値推定部412は、このように算出した各方位のメジアンからメジアンを算出し、この算出結果をノイズ振幅推定値とする。ここで、ノイズ振幅値推定部412は、全方位のメジアンから単一のメジアンを算出して、この算出結果を全方位に共通のノイズ振幅推定値としてもよい。また、ノイズ振幅値推定部412は、各方位を中心とする所定の方位範囲に含まれる複数の方位のメジアンからメジアンを算出し、この算出結果を各方位に固有のノイズ振幅推定値としてもよい。
【0051】
なお、本実施形態では、上述のように、抽出した受信データの振幅値のメジアンを算出しているが、この限りでなく、例えば平均値又は四分位数を算出してもよい。また、方位毎に算出されたメジアンからメジアンを算出しているが、この限りでなく、方位毎に算出されたメジアン、平均値又は四分位数から、平均値又は四分位数を算出してもよい。このように、メジアン、平均値又は四分位数を用いることで、ノイズ振幅推定値を適切に算出できる。
【0052】
除算部413は、下限ゲインGminを算出する。具体的には、除算部413は、記憶部44に記憶される最大ノイズ振幅値を、ノイズ振幅値推定部412によって推定されたノイズ振幅推定値で除算することで、下限ゲインGminを算出する。
【0053】
[表示装置]
表示装置5は、例えば、カラー表示可能な液晶ディスプレイである。表示装置5は、画像処理部43からのデータを読み込み、この読み込んだデータによって特定される画像を表示するように構成されている。これにより、表示装置5には、自船を中心とした各方位に存在する物標を示す画像が表示される。
【0054】
[水中探知装置の動作]
次に、上述した水中探知装置の信号処理装置における処理の流れの一例について図5を参照しつつ説明する。図5は、本発明の実施形態に係る信号処理装置における処理の流れの一例を説明するためのフローチャートである。
【0055】
図5に示すように、まず、データ抽出部411は、所定の方位(方位番号k=0)の受信データ系列から、最も自船に近い受信データを含む所定の時間範囲t内にある複数の受信データを抽出する(ステップS1)。
【0056】
次に、ノイズ振幅値推定部412は、上記ステップS1においてデータ抽出部411が抽出した複数の受信データのメジアンを算出する(ステップS2)。なお、このように算出する、ある方位の所定時間範囲t内の受信データのメジアンを、以下では「振幅代表値」と称する。
【0057】
所定の方位(k=0)の受信データ系列についてステップS2の処理が終了すると、次は、別の所定の方位(k=1)の受信データ系列について、データ抽出部411及びノイズ振幅値推定部412が、上記ステップS1及びステップS2の処理を実行する。データ抽出部411及びノイズ振幅値推定部412は、この処理を順に方位番号k=K−1の受信データ系列まで繰り返して、全ての方位(k=0,1,2,・・・、K−1)の受信データ系列に対して、振幅代表値を算出する。
【0058】
全ての方位の受信データ系列について振幅代表値が算出されると、次に、ノイズ振幅値推定部412は、各方位の振幅代表値のメジアンを算出し、この算出結果をノイズ振幅推定値とする(ステップS3)。
【0059】
続いて、除算部413は、記憶部44に記憶される最大ノイズ振幅値を、上記ステップS3において推定されたノイズ振幅推定値によって除算することで、下限ゲインGminを算出する(ステップS4)。
【0060】
次に、比較部422は、TVG算出部421で算出されたゲインGTVGが、上記ステップS4で算出された下限ゲインGminよりも大きいか否か判定する(ステップS5)。
【0061】
比較部422は、ゲインGTVGが下限ゲインGminよりも大きい場合(ステップS5のYes)、ゲインGTVGを乗算器423に出力する。乗算器423に出力されたゲインGTVGは、各受信データに乗算される(ステップS6)。
【0062】
一方、比較部422は、ゲインGTVGが下限ゲインGmin以下の場合(ステップS5のNo)、下限ゲインGminを乗算器423に出力する。乗算器423に出力された下限ゲインGminは、各受信データに乗算される(ステップS7)。
【0063】
[ソナー画像]
図6は、従来の水中探知装置の信号処理装置における、基準時刻からの経過時刻と受信信号に乗算されるゲインとの関係を示すグラフであり、図7は、従来の水中探知装置のソナー画像の一例である。また、図8は、本実施形態に係る水中探知装置の信号処理装置における、基準時刻からの経過時刻と受信信号に乗算されるゲインとの関係を示すグラフであり、図9は、本実施形態に係る水中探知装置のソナー画像である。図7及び図9に示す例では、ソナー画像に2つの魚群が表示されている。魚群Aは、基準時刻からの経過時刻が比較的短い時刻に存在する魚群、すなわち、比較的自船に近い位置に存在する魚群である。一方、魚群Bは、基準時刻からの経過時刻が比較的長い時刻に存在する魚群、すなわち、比較的自船から遠い位置に存在する魚群である。
【0064】
従来の水中探知装置の信号処理装置では、図6に示すように、受信信号に乗算されるゲインは、自船からの距離に応じて増大する。このような水中探知装置において、例えば図7に示すようなソナー画像が表示された場合、魚群Aからの信号が非常に小さく、ノイズと見誤ってしまう可能性がある。また、ユーザが魚群Aに起因する信号を明確に表示させるためにゲインを上げると、自船に近い領域のゲインだけでなく遠い領域のゲインも上昇するため、魚群Bがノイズに埋もれて見えにくくなってしまう可能性がある。
【0065】
これに対して、本実施形態の水中探知装置では、図8に示すように、比較的自船に近い位置の受信信号については、下限ゲインGminが乗算される。この下限ゲインGminは、上述のように、所定値(本実施形態では、最大ノイズ振幅値)をノイズ振幅推定値で除算することにより得られる。こうすると、例えば、自船に近い位置のノイズが小さくなる場合(例えば、海況が穏やかな場合、プランクトンの密度が小さい場合、超音波の進行方向と水平方向とがなす俯角が大きい場合、超音波の送信パルスが短い場合等)には、ノイズ振幅推定値が小さくなるため、下限ゲインGminが自動的に大きくなる。すなわち、ノイズが小さいためゲインを大きくしても魚群からのエコーがノイズに埋もれてしまう可能性が低い場合には、下限ゲインGminが自動的に大きくなる。その結果、例えば図9に示すように、魚群Bからのエコーがノイズに埋もれることなく、魚群Aからのエコーが鮮明に表示される。
【0066】
一方、自船に近い位置のノイズが大きくなる場合(海面が荒れている場合、プランクトンの密度が大きい場合、俯角が小さい場合、送信パルスが長い場合等)には、ノイズ振幅推定値が大きくなるため、下限ゲインGminが自動的に小さくなる。すなわち、ゲインを大きくすると魚群からのエコーがノイズに埋もれてしまう可能性が高い場合には、自動的に下限ゲインGminが小さくなる。その結果、魚群Aからのエコーは、ノイズに埋もれない程度の鮮明さで表示される。
【0067】
[プログラム]
本実施形態に係るプログラムは、コンピュータに、上述した図5のステップS1〜S7の処理を実行させるプログラムであればよい。このプログラムをコンピュータにインストールし、実行することによって、本実施形態における信号処理装置と信号処理方法とを実現することができる。この場合、コンピュータのCPU(Central Processing Unit)は、データ抽出部411、ノイズ振幅値推定部412、除算部413、乗算部42、画像処理部43、及び記憶部44として機能し、処理を行う。なお、上記信号処理装置4は、このようにソフトウェアによって実現してもよいし、他にもハードウェアによって実現することもできる。
【0068】
[実施形態の効果]
以上のように、本実施形態に係る信号処理装置4は、基準時刻から受信データの受信時刻までの時間経過に対応したゲインGTVGと下限ゲインGminとを比較し、下限ゲインGminがゲインGTVGを上回る時間領域においては、その時間領域の受信信号が下限ゲインGminによって補正される。これにより、比較的ゲインGTVGが小さくなる時間領域、すなわち比較的自船に近い領域において、魚群からのエコーを鮮明に表示できる。
【0069】
しかも、信号処理装置4によれば、下限ゲインGminは、データ抽出部411で抽出されたデータに基づいて算出される。こうすると、下限ゲインGminが乗算される時間領域においては、魚群からのエコーを、抽出されたデータに応じて適切に変動させることができる。
【0070】
更に、信号処理装置4によれば、下限ゲインGminは、周辺環境及び水中探知装置の使用条件に応じて自動的に変動する。これにより、ユーザが状況に応じてゲインを手動で調整する手間が省ける。
【0071】
従って、本実施形態に係る信号処理装置4によれば、煩雑な作業を伴うことなく、物標に起因するエコーを適切に表示できる。
【0072】
また、信号処理装置4によれば、ゲインGTVGと下限ゲインGminとが比較され、下限ゲインGminがゲインGTVGを上回る時間領域においては、その時間領域の受信信号に下限ゲインGminが乗算される。これにより、比較的自船に近い領域における魚群からのエコーをより鮮明に表示することができる。
【0073】
また、信号処理装置4によれば、下限ゲインGminは、ノイズ振幅推定値に基づいて算出される。こうすると、ノイズの大きさに応じて下限ゲインGminが変動するため、下限ゲインGminが乗算される時間領域においては、魚群からのエコーを、ノイズの大きさに応じて適切に変動させることができる。
【0074】
また、信号処理装置4は、方位毎の受信データ系列を構成する複数の受信データから所定の時間範囲内の受信データを抽出する。これにより、前記所定の時間範囲内における適切なノイズ振幅推定値を算出できる。
【0075】
また、信号処理装置4は、受信データ系列を構成する前記複数の受信データから、前記基準時刻からの時間経過が最も短い受信データを含む所定の時間範囲内の受信データを抽出する。これにより、ゲインGTVGが比較的小さくなる自船に近い領域におけるノイズ振幅推定値を適切に求めることができる。
【0076】
また、信号処理装置4は、所定値をノイズ振幅推定値で除算して下限ゲインGminを算出する。こうすると、ノイズが小さくなるような状況下では下限ゲインGminが大きくなるため、魚群からのエコーをノイズに埋もれることなく鮮明に表示できる。一方、ノイズが大きくなるような状況下では下限ゲインGminが小さくなるため、魚群からのエコーがノイズに埋もれてしまうのを防止できる。すなわち、魚群からのエコーを、ノイズに応じて適切に表示できる。
【0077】
また、信号処理装置4では、最大ノイズ振幅値が、該最大ノイズ振幅値に基づいて算出される下限ゲインGminが乗算された後の受信データのノイズの最大振幅値がユーザの許容しうる値となるように、ユーザに設定される。こうすると、例えばユーザは、ノイズが多少大きくても魚群を確実に探知したい場合には、最大ノイズ振幅値を大きく設定することにより、小さな魚群からのエコーを表示装置に表示させることができる。一方、小さな魚群であれば探知が不要である場合には、最大ノイズ振幅値を小さく設定することにより、小さな魚群からのエコーを表示装置に表示させないことができる。すなわち、ユーザは、最大ノイズ振幅値を、ユーザが求める魚群の大きさの最低限度に対応する閾値として利用できる。
【0078】
また、信号処理装置4において、ノイズ振幅値推定部412は、受信データの振幅値のメジアンを方位毎に算出し、この複数のメジアンのメジアンをノイズ振幅推定値とする。このようにメジアンをノイズ振幅推定値とすることで、例えばある方位からエコーを受信してその方位の振幅値が突出して大きい場合(例えば、その方位に大きな魚群が存在する場合)などに、その方位の振幅値を除外して、より正確なノイズ振幅値を推定することができる。
【0079】
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明はこれらに限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない限りにおいて種々の変更が可能である。
【0080】
(1)図10に、変形例に係る水中探知装置11の下限ゲイン算出部45のブロック図を示す。本変形例に係る水中探知装置11は、上記実施形態の水中探知装置1と異なり、下限ゲイン算出部の構成が異なっている。以下、上記実施形態と異なる点について主に説明し、上記実施形態と同様の構成の説明については、図面において同一の符号を付すことで又は同一の符号を引用して説明することで、省略する。
【0081】
本変形例に係る水中探知装置11の下限ゲイン算出部45は、図10に示すように、データ抽出部411、ノイズ振幅値推定部412、及び除算部413の他に、下限ゲイン関数算出部414を備えている。
【0082】
本変形例の下限ゲイン算出部45は、データ抽出部411で抽出された受信データからノイズ振幅推定値を推定する。そして、下限ゲイン算出部45は、最大ノイズ振幅値をノイズ振幅推定値で除算した値を、基準時刻における下限ゲインGminとする。
【0083】
一方、基準時刻以降における下限ゲインGminは、下限ゲイン関数算出部414によって算出される。具体的には、下限ゲイン関数算出部414は、基準時刻以降における下限ゲインGminが時間経過に応じて増大する値となるように、下限ゲインGminを算出する。
【0084】
更に詳しくは、下限ゲイン関数算出部414は、時間経過に応じて増大する下限ゲインGminの最大値が、表示装置5において表示中の距離レンジの最大値よりも小さい所定の値T(例えば、表示中の距離レンジの最大値の4分の1)におけるゲインGTVGと一致するように、下限ゲインGminを算出する。図11に、基準時刻からの経過時間と、本変形例における下限ゲインGminとの関係を示す。図11に示すように、下限ゲインの傾き(経過時間に対する下限ゲインGminの増加量)は、TVG算出部421によって算出されるゲインGTVGの傾き(経過時間に対するゲインGTVGの増加量)よりも小さくなるように設定される。
【0085】
以上のように説明した変形例に係る水中探知装置11によれば、自船に近い受信信号においても、自船からの距離に応じたゲインを受信信号に乗算できる。従って、自船から遠い位置だけでなく、自船に近い位置においても、魚群からのエコーの振幅を適切に表示できる。
【0086】
(2)図12に、変形例に係る水中探知装置12の信号処理装置6のブロック図を示す。本変形例に係る水中探知装置12の信号処理装置6は、表示装置5における信号の表示状態に応じて、最大ノイズ振幅値が自動で変動するように構成されている。
【0087】
詳細には、まず、表示装置5は、その画像生成用受信データの振幅値に応じた表示色によってその受信データを表示しており、例えば、第1の振幅値以上の振幅値を有する画像生成用受信データを赤色で表示する。また、表示装置5は、第1の振幅値未満である第2の振幅値以下の振幅値を有する画像生成用受信データを紺色で表示する。
【0088】
図12に示すように、本変形例の信号処理装置6は、下限ゲイン算出部41、乗算部42、画像処理部43、記憶部44の他に、可変部46を有している。
【0089】
可変部46は、最大ノイズ振幅値が、第1の振幅値及び第2の振幅値の少なくとも一方と連動するように、最大ノイズ振幅値を変動させる。本変形例では、可変部46は、最大ノイズ振幅値が第1の振幅値と第2の振幅値との平均値となるように、最大ノイズ振幅値の値を設定する。このように可変部46が最大ノイズ振幅値を設定することで、ノイズの表示色は、常に赤色と紺色との間の色に設定される。また、ユーザがこの第1の振幅値又は第2の振幅値の設定を変更しても、最大ノイズ振幅値は、その設定に連動して自動で設定されるため、ユーザが最大ノイズ振幅値を設定し直す手間を省くことができる。
【0090】
(3)また、水中探知装置において、最大ノイズ振幅値が俯角に基づいて設定されるように、信号処理装置を構成してもよい。これにより、俯角の変化に応じて、ノイズ振幅推定値及び最大ノイズ振幅値の両方が自動で変動するため、俯角の変化に対する下限ゲインの変化率を上げることができる。
【0091】
(4)また、水中探知装置において、最大ノイズ振幅値がパルス幅に基づいて設定されるように、信号処理装置を構成してもよい。これにより、パルス幅に応じて、ノイズ振幅推定値及び最大ノイズ振幅値の両方が自動で変動するため、パルス幅の変化に対する下限ゲインの変化率を上げることができる。
【0092】
(5)また、上記実施形態では、データ抽出部411が、受信データ系列を構成する複数の受信データの中から、基準時刻からの時間経過が最も短い受信データを含む所定の時間範囲内の受信データを抽出しているが、この限りでない。例えば、ユーザが注視したい距離を入力すると、データ抽出部411がその距離に対応する受信データを含む所定の時間範囲内の受信データを抽出するように、信号処理装置を構成してもよい。これにより、ユーザが注視したい距離における下限ゲインを適切に算出して、その距離における魚群のエコーを鮮明に表示できる。
【0093】
(6)上記実施形態及び変形例では、最大ノイズ振幅値は、ユーザが設定したり、条件に応じて自動的に変動するが、この限りでなく、実験等によって決められた適当な固定値であってもよい。この場合であっても、この固定値をノイズ振幅推定値で除算して下限ゲインGminを求めることにより、魚群からのエコーを、ノイズに応じて適切に表示できる。
【0094】
(7)上記実施形態において、データ抽出部411は、全方位における所定の時間範囲の受信データを抽出しているが、一部の方位範囲内における所定の時間範囲の受信データを抽出してもよい。例えば、自船の後方側の方位を除くようにして受信データを抽出することもできる。その他にも、ノイズが発生している方位範囲が分かっている場合、その方位範囲内における受信データのみを抽出することもできる。これにより、ノイズ振幅値推定部412は、より正確なノイズ振幅推定値を算出することができる。
【0095】
(8)また、上記実施形態において水中探知装置はスキャニングソナーであるとして説明したが、水中探知装置はサーチライトソナーであってもよい。なお、水中探知装置がサーチライトソナーである場合、受信ビーム形成部35は不要である。
【産業上の利用可能性】
【0096】
本発明は、水中の物標からのエコーを表示するスキャニングソナー又はサーチライトソナー等として広く適用することができるものである。
【符号の説明】
【0097】
1,11,12 水中探知装置
4,6 信号処理装置
41,45 下限ゲイン算出部
411 データ抽出部
421 TVG算出部(ゲイン算出部)
422 比較部
423 乗算器(補正部)
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12