【実施例1】
【0011】
図1(a)は、本発明の実施例1に係る半導体発光素子10の構造を示す断面図である。
図1(b)は、
図1(a)の一部を拡大して示す部分拡大断面図である。
図1(a)に示すように、半導体発光素子10は、発光層13を含む半導体構造層11を有している。半導体構造層11は、成長用基板21上に、Al
xIn
yGa
1-x-yN(0≦x≦1、0≦y≦1)の組成を有するn型半導体層(第1の半導体層)12、発光層13及びp型半導体層(第2の半導体層)14が順次成長された構造を有している。半導体構造層11は、n型半導体層12とp型半導体層14とが発光層13を挟むように設けられた構造を有している。
【0012】
p型半導体層14上には、p電極であるオーミック電極層15が形成されている。オーミック電極層15は、透光性を有しかつ導電性を有する酸化膜からなる。オーミック電極層15の材料としては、例えばITO、IZO及びZnOなどを用いることができる。オーミック電極層15上には、オーミック電極層15の全体を覆うように反射金属層16が形成されている。反射金属層16は、Ag層、Agを含む合金からなる層又はこれらの層を含む多層構造の金属層からなる。
【0013】
反射金属層16上には、反射金属層16を埋設する被覆電極層17が設けられている。被覆電極層17は、反射金属層16を埋設するように設けられた第1の被覆電極層17Aと、第1の被覆電極層17Aを覆うように設けられた第2の被覆電極層17Bと、からなる。第1の被覆電極層17A及び第2の被覆電極層17Bは、導電性の酸化膜からなる。第1の被覆電極層17A及び第2の被覆電極層17Bの材料としては、例えばITO、IZO及びZnOなどを用いることができる。また、第1の被覆電極層17Aは、第2の被覆電極層17Bよりも小さな酸素濃度を有している。
【0014】
被覆電極層17上には、被覆電極層17を覆うように絶縁層18が設けられている。絶縁層18は、絶縁性の酸化膜又は窒化膜、例えばSiO
2又はSiNからなる。絶縁層18には開口部が設けられており、当該開口部には、被覆電極層17に接続されたパッド電極19が設けられている。また、n型半導体層12上にはn電極20が設けられている。
【0015】
ここで、
図2を参照して、素子の動作中に発生するAgのエレクトロマイグレーションの原因となる製造上の問題について説明する。
図2は、n型半導体層111、発光層112及びp型半導体層113からなる半導体構造層110において、p型半導体層113上にオーミック電極120を形成し、その上にAgを含む反射金属層130を形成する場合を模式的に示す断面図である。Agのマイグレーションを防止する一例として、Agを含む反射金属層130が、例えばSiO
2などの絶縁層140に被覆される。このとき、Agを確実に被覆するためには、膜欠陥のない高密度の絶縁層140を形成することが好ましい。そのため、絶縁層140の成膜温度は高い状態で維持される。
【0016】
本願の発明者は、この高温での絶縁層140の形成によって反射金属層130の端部のAgが隆起し、凹凸状になることに着目した。Agが隆起すると、絶縁層140の被覆不良やクラックを生じさせる。なお、Agを含む反射金属層130の端部の層厚が小さくなる場合には、さらにAgが隆起しやすい状態となる。そして、絶縁層140の形成によって、特に反射金属層130の端部において、反射金属層130が絶縁層140の表面から露出する部分や、絶縁層140の一部にその層厚が小さい部分が形成される。本願の発明者は、このAgの隆起による絶縁層140の被覆不良がエレクトロマイグレーションを生じさせ、素子の信頼性の低下を招くとの知見を得た。
【0017】
次に、本実施例における半導体発光素子10のオーミック電極層15、反射金属層16及び被覆電極層17についてより詳細に説明する。ここでは、オーミック電極層15がITO層からなり、反射金属層16がAg層からなり、被覆電極層17、すなわち第1及び第2の被覆層17A及び17BがITO層からなり、絶縁層18がSiO
2層からなる場合について説明する。
【0018】
ここで、再度
図1(a)を参照して、被覆電極層17について説明する。ITOは、SiO
2に比べて、低温にて形成することが可能である。従って、反射金属層(Ag層)16上に被覆電極層(ITO層)17を形成することによって、反射金属層16のAgを隆起させるリスクを低減することが可能となる。従って、確実に反射金属層16を被覆することが可能となる。さらに、絶縁層(SiO
2層)18を形成する際に高温状態を維持した場合であっても、反射金属層16はすでに被覆電極層17によって確実に被覆されているため、絶縁層18の層厚が一定となり、高い保護性及び絶縁性を得ることが可能となる。
【0019】
また、前述のように、第1の被覆電極層17Aは、第2の被覆電極層17Bよりも小さな酸素濃度を有している。ここでは、第1の被覆電極層17Aを低酸素ITO層と称し、第2の被覆電極層17Bを高酸素ITO層と称する。まず、反射金属層16を埋設するように低酸素ITO層17Aが設けられている。低酸素ITO層17Aは酸素濃度がより小さいため、より金属に近い特性となり、反射金属層16との密着性が向上する。なお、仮にこの第1の被覆層17Aを酸素濃度の高いITOによって形成した場合、反射金属層16との密着性が下がり、被覆品質が低下する。さらに、反射金属層16のAgは水分や酸素の影響を受けやすく、化学反応により水酸化銀を生成する。この水酸化銀は不安定であり、酸化銀を経てAgイオンを析出し易く、これがAgのマイグレーションの発生原因となる。よって、第1の被覆電極層17A内の酸素濃度を小さくすることによって、水酸化銀の発生を抑制することができる。
【0020】
さらに、低酸素ITO層17Aを覆うように形成された高酸素ITO層17Bは、より高い酸素濃度を有している。従って、同じ酸化膜である絶縁層18との親和性が向上され、高酸素ITO層17Bと絶縁層18との密着性を向上させることが可能となる。
【0021】
続いて、
図1(b)を用いて、オーミック電極層15及び反射金属層16について説明する。
図1(b)は、
図1(a)の破線で囲んだ部分を拡大した図である。反射金属層16は、オーミック電極層15を覆うように形成されている。従って、反射金属層16の端部は、p型半導体層14に接している。反射金属層16とp型半導体層14との密着性は、反射金属層16とオーミック電極層15との密着性よりも大きい。従って、反射金属層16の端部がp型半導体層14に接していることによって、反射金属層16の端部は、オーミック電極層15に接している他の部分よりも密着性が向上する。従って、後の熱プロセス等によって反射金属層16の端部のAgが隆起することを抑制することができる。また、例え反射金属層16の端部が薄くなった場合でもAgの隆起を抑制することができる。
【0022】
上記したように、Agを含む反射金属層16は、オーミック電極層15及び被覆電極層17によって確実に被覆される。従って、Agのマイグレーションの発生を防止し、高い信頼性を有する半導体発光素子を提供することが可能となる。
【0023】
なお、被覆電極層17が低酸素ITO層17A及び高酸素ITO層17Bの2層からなる場合について説明したが、被覆電極層17は、反射金属層16から絶縁層18に向かって酸素濃度が高くなるように形成されていてもよい。例えば、被覆電極層17は、ITOの形成条件、例えば形成温度や供給する酸素の濃度を変更することによって作製することができる。また、反射金属層16に接して低酸素濃度のITO層が形成され、絶縁層18に接して高酸素濃度のITO層が形成されていればよく、例えば3層以上のITO層によって被覆電極層17が形成されていてもよい。
【0024】
また、反射金属層16がオーミック電極層15の全体を覆うように形成されている場合について説明したが、反射金属層16は、オーミック電極層15の少なくとも端部を覆うように形成されていればよい。すなわち、オーミック電極層15は、反射金属層16に覆われていない部分を有していても良い。反射金属層16がオーミック電極層15の端部を覆うことによって反射金属層16とp型半導体層14とが接する部分が形成され、密着性を向上させることができるからである。
【0025】
なお、オーミック電極層15及び反射金属層16は光反射層として機能する。この光反射層は、発光層13から放出された光を高効率で反射し、これによって光取り出し面から多くの光を取り出すことが可能となる。
【0026】
なお、被覆電極層17は、オーミック電極層15よりも低いシート抵抗を有していることが好ましい。被覆電極層17が低いシート抵抗を有していることによって、被覆電極層17内において電流が拡散し、p型半導体層14に供給される電流の分布を均一にすることが可能となるからである。
【0027】
また、被覆電極層17及びオーミック電極層15の両方がp型半導体層14とオーミック接触を形成するため、オーミック電極層15の形成領域だけでなく、p型半導体層14に接している被覆電極層17の領域からもp型半導体層14に電流を供給することができ、発光領域を拡大することができる。また、p型半導体層14側から見たとき、反射金属層16が被覆電極層17及びオーミック電極層15に挟まれる構造を有している。従って、反射金属層16によって形成される発光領域の縁部分が被覆電極層17及びオーミック電極層15によって見えにくくなり、発光強度が面内において均一となる。従って、高い発光効率及び発光均一性を実現することが可能となる。
【実施例2】
【0028】
図3(a)及び(b)は、実施例2の半導体発光素子30の構成を示す断面図及び平面図である。より具体的には、
図3(a)は
図3(b)のV−V線に沿った断面図である。
図3(a)に示すように、半導体発光素子30は、半導体構造層11のp型半導体層14上に、p電極であるオーミック電極層15、反射金属層16、被覆電極層17及び絶縁層18が形成されている点においては実施例1の半導体発光素子10と同様の構成を有している。本実施例の半導体発光素子30は、p型半導体層14側からp型半導体層14及び発光層13を貫通し、n型半導体層12に至る貫通孔VA内に形成され、n型半導体層12に接続されたn電極35を有している。また、被覆電極層17に接続されたp側配線34Aと、n電極35に接続されたn側配線34Bを有している。
【0029】
より具体的には、絶縁層18上には、絶縁層18を覆うように、絶縁保護膜36が形成されている。半導体構造層11には、一部においてp型半導体層14からp型半導体層14及び発光層13を貫通し、n型半導体層12に至る貫通孔(ビア)VAが設けられている。半導体構造層11における貫通孔VAの内面は、絶縁保護膜36によって被覆されている。貫通孔VA内には開口が設けられ、当該開口にはn電極35が設けられ、n側コンタクト部NCが形成されている。すなわち、n電極35は、貫通孔VA内に設けられ、絶縁保護膜36を貫通してn型半導体層12に接続されている。また、n側配線34Bは絶縁保護膜36上に設けられ、n側コンタクト部NCにおいてn電極35に接続されている。p側配線34Aは、絶縁保護膜36上に設けられ、絶縁保護膜36及び絶縁層18を貫通して、p側コンタクト部PCにおいて被覆電極層17に接続されている。なお、
図3(b)は、半導体発光素子30の上面図である。理解の容易さのため、p側コンタクト部PC及びn側コンタクト部NCを破線で示している。
【0030】
また、
図3(a)に示すように、半導体発光素子30は、支持基板31によって支持されている。支持基板31の表面には、支持基板側絶縁層32が設けられ、支持基板側絶縁層32の表面には接合層33が設けられている。接合層33は、p側配線34Aに接続されたp側接合層33A及びn側配線34Bに接続されたn側接合層33Bから構成されており、当該2つの接合層33A及び33Bは支持基板側絶縁層32によって互いに絶縁されている。なお、本実施例においては絶縁層18を半導体層側絶縁層と称する場合がある。
【0031】
支持基板31の材料としては、例えばSi及びSiCなどの導電性材料を用いることができる。p側接合層33A及びn側接合層33Bの材料としては、例えばAuSnなどの材料を用いることができる。絶縁保護膜36及び支持基板側絶縁層32の材料としては、例えばSiO
2及びSiNなどの絶縁材料を用いることができる。また、n電極35の材料としては、例えばTi、Al、Pt及びAuなどの金属を用いることができる。また、p側配線34A及びn側配線34Bの材料としては、例えばTi、Pt、Auなどの金属を用いることができる。
【0032】
次に、
図4(a)〜(c)を参照して、半導体発光素子30の製造方法について説明する。まず、
図4(a)に示すように、成長用基板39上に、n型半導体層12、発光層13及びp型半導体層14を順次成長する。本実施例においては、成長用基板39として、結晶成長面がC面であるサファイア基板を用いた。また、半導体構造層11の成長には、有機金属気相成長法(Metal Organic Chemical Vapor Deposition:MOCVD法)を用いた。続いて、p型半導体層14上にオーミック電極層15を形成し、オーミック電極層15を覆うように反射金属層16を、反射金属層16を埋設するように被覆電極層17を形成した。オーミック電極層15、反射金属層16及び被覆電極層17の形成には、スパッタ法を用い、反射金属層16の形成にはリフトオフ法を用いた。具体的には、p型半導体層14の表面にフォトリソグラフィによってオーミック電極層15の形状のパターニングを施した上でオーミック電極層15を形成し、同様にフォトリソグラフィによるパターニングとスパッタ法による成膜とによって反射金属層16及び被覆電極層17を形成した。このとき、p型半導体層14の一部の表面を露出するようにした。続いて、露出したp型半導体層14の表面及び被覆電極層17を覆うように絶縁層(半導体層側絶縁層)18を形成した。絶縁層18の形成にはスパッタ法を用いた。
【0033】
次に、
図4(b)に示すように、p型半導体層14上に直接絶縁層18が形成されている領域に、フォトリソグラフィ法によって開口を有するレジストを形成し、当該領域にエッチングを行った。これによって、p型半導体層14側からp型半導体層14及び発光層13を貫通してn型半導体層12に至る貫通孔VAを形成した。続いて、貫通孔VAの内面及び第1の絶縁層18の表面の全面に絶縁保護膜36を形成した。絶縁保護膜36の形成にはスパッタ法を用いた。次に、エッチングによって貫通孔VAの一部において絶縁保護膜36を除去し、露出したn型半導体層12の表面にn電極35を形成した。続いて、絶縁層18及び絶縁保護膜36にエッチングを施して、絶縁保護膜36及び絶縁層18を貫通して被覆電極層17に至る開口部APを形成した。その後、絶縁保護膜36上に、それぞれ被覆電極層17及びn電極35に接続されたp側配線34A及びn側配線34Bを形成した。p側配線34A及びn側配線34Bの形成には、スパッタ法を用いた。なお、開口部APは、被覆電極層17を貫通し、反射金属層16に至る深さで形成されていても良い。この場合、p側配線34Aは反射電極層16に直接接触する。
【0034】
続いて、
図4(c)に示すように、支持基板31を準備し、支持基板31上に支持基板側絶縁層32を形成した上で、p側接合層33A及びn側接合層33Bを形成した。その後、p側配線34A及びp側接合層33Aと、n側配線34B及びn側接合層33Bと、を介して半導体構造層11を支持基板31に接合した。当該接合には、熱圧着を用いた。続いて、支持基板31を研磨処理によって薄片化し、レーザーリフトオフを用いて成長用基板39を除去した。その後、露出したn型半導体層12の表面にエッチングを施して凹凸構造を形成した後、支持基板をダイシングなどによって個片化し、半導体発光素子30を得た。
【0035】
本実施例においては、半導体構造層11が貫通孔(ビア)を有し、被覆電極層17及びn電極35が半導体構造層11の同一面側、すなわちp型半導体層14側に形成されている。半導体発光素子がこのようなビア構造を有する場合、反射金属層16の材料に用いられるAgのマイグレーションは特に問題となる。具体的には、反射効率すなわち光取り出し効率を考慮すると、反射金属層16はできるだけ広範囲に形成することが好ましい。一方で、反射金属層16とn電極35及びn電極35に接続されたn側配線34Bとは、構造上かなり接近することとなる場合がある。具体的には、素子を上面から見たとき、反射金属層16及びn側配線34Bは重なるように形成されることとなる場合がある。従って、反射金属層16が確実に被覆されること、すなわち、反射金属層16とn電極35及びn側配線34Bとが確実に絶縁されることが要求される。
【0036】
本実施例においては、Agを含む反射金属層16を確実に被覆することが可能となる本発明の特徴が特に有効となる。すなわち、本実施例のような同一面側にn側電極及びp側電極の両方が形成される構造の発光素子においては、従来に比べて飛躍的に不良品が少なくなる。また、これによって光反射領域をより広く形成することが可能となり、光取り出し効率が向上する。従って、信頼性が高く光取り出し効率が向上した半導体発光素子を提供することが可能となる。
【0037】
上記したように、本発明によれば、半導体構造層上にオーミック電極層が形成され、オーミック電極層の少なくとも端部を覆うように反射金属層が形成され、反射金属層を埋設するように被覆電極層が形成されている。従って、反射金属層に含まれるAgのマイグレーションを抑制し、高信頼性の半導体発光素子を提供することができる。
【0038】
なお、上記した実施例においては、第1の半導体層及び第2の半導体層がそれぞれn型半導体層及びp型半導体層である場合について説明したが、第1及び第2の半導体層の導電型はこれに限るものではない。第1及び第2の半導体層はそれぞれ上記した実施例とは反対の導電型を有していても良い。