特許第6261934号(P6261934)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6261934萎黄病菌抵抗性を有するポリヌクレオチド、及びその利用、並びにアブラナ科植物の萎黄病菌に対する抵抗性の判定方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6261934
(24)【登録日】2017年12月22日
(45)【発行日】2018年1月17日
(54)【発明の名称】萎黄病菌抵抗性を有するポリヌクレオチド、及びその利用、並びにアブラナ科植物の萎黄病菌に対する抵抗性の判定方法
(51)【国際特許分類】
   C12N 15/09 20060101AFI20180104BHJP
   C12N 1/15 20060101ALI20180104BHJP
   C12N 1/19 20060101ALI20180104BHJP
   C12N 1/21 20060101ALI20180104BHJP
   C12N 5/10 20060101ALI20180104BHJP
   C12Q 1/68 20180101ALI20180104BHJP
   A01N 63/00 20060101ALI20180104BHJP
   A01P 3/00 20060101ALI20180104BHJP
【FI】
   C12N15/00 AZNA
   C12N1/15
   C12N1/19
   C12N1/21
   C12N5/10
   C12Q1/68 A
   A01N63/00 C
   A01P3/00
【請求項の数】5
【全頁数】18
(21)【出願番号】特願2013-213332(P2013-213332)
(22)【出願日】2013年10月11日
(65)【公開番号】特開2015-73509(P2015-73509A)
(43)【公開日】2015年4月20日
【審査請求日】2016年7月1日
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成24年度、独立行政法人農業・食品産業技術総合研究機構、生物系特定産業技術研究支援センター、「アブラナ科野菜の萎黄病抵抗性要因の解明とその利用技術の開発」に係る委託研究、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願;平成24年度、独立行政法人科学技術振興機構、復興促進プログラム(A−STEP)探索タイプ「一代雑種品種の両親系統における組合せ能力早期検定法の開発」に係る委託研究、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
(73)【特許権者】
【識別番号】304027279
【氏名又は名称】国立大学法人 新潟大学
(74)【代理人】
【識別番号】100107515
【弁理士】
【氏名又は名称】廣田 浩一
(74)【代理人】
【識別番号】100107733
【弁理士】
【氏名又は名称】流 良広
(74)【代理人】
【識別番号】100115347
【弁理士】
【氏名又は名称】松田 奈緒子
(72)【発明者】
【氏名】岡崎 桂一
(72)【発明者】
【氏名】藤本 龍
(72)【発明者】
【氏名】川邊 隆大
(72)【発明者】
【氏名】清水 元樹
(72)【発明者】
【氏名】蒲 子▲じん▼
(72)【発明者】
【氏名】加治 誠
(72)【発明者】
【氏名】長岡 朝彦
【審査官】 福間 信子
(56)【参考文献】
【文献】 Mol Breeding, 2012, vol.30, no.2, p.809-818
【文献】 育種学研究,2012,vol.14,別冊1号,p.74
【文献】 NCBI, ACCESSION No. FJ842771, 25-NOV-2009,[検索日:2017年5月16日],URL,https://www.ncbi.nlm.nih.gov/nuccore/227438124?sat=4&satkey=38925243
【文献】 Mol Genet Genomics, 2009, vol.282, p.617-631
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N 15/00−90
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
GenBank/EMBL/DDBJ/GeneSeq
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
萎黄病菌抵抗性を有することを特徴とする下記(a)から(c)のいずれかに記載のポリヌクレオチド。
(a)配列番号:1に記載の塩基配列を含むDNA。
(b)配列番号:2に記載の塩基配列を含むDNA。
(c)配列番号:3に記載の塩基配列を含むDNA。
【請求項2】
請求項1に記載のポリヌクレオチドを含むことを特徴とするベクター。
【請求項3】
請求項1に記載のポリヌクレオチドが導入されたことを特徴とする形質転換体。
【請求項4】
請求項1に記載のポリヌクレオチド、及び請求項2に記載のベクターの少なくともいずれかを含み、萎黄病菌への抵抗性をアブラナ科植物に対して付与することを特徴とする組成物。
【請求項5】
被検植物体中の配列番号:1から3のいずれかに記載の塩基配列の有無を検出する工程と、
前記配列番号:1から3のいずれかに記載の塩基配列の有無を指標として、被検植物体の萎黄病菌への抵抗性の有無を評価する工程とを含むことを特徴とするアブラナ科植物の萎黄病菌に対する抵抗性の判定方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、萎黄病菌抵抗性を有するポリヌクレオチド、該ポリヌクレオチドを含むベクター、該ポリヌクレオチドが導入された形質転換体、該ポリヌクレオチド、及び該ベクターの少なくともいずれかを含む組成物、並びにアブラナ科植物の萎黄病菌に対する抵抗性の判定方法に関する。
【背景技術】
【0002】
アブラナ科植物には、キャベツ、ブロッコリー、カリフラワーなどが属する種(Brassica oleracea)、ハクサイ、カブなどが属する種(Brassica rapa)、ダイコンが属する種(Raphanus sativus)の3種がある。
前記アブラナ科植物を侵す萎黄病は、Fusarium oxysporum菌(以下、「萎黄病菌」と称することがある)によるもので、休眠胞子が長年に渡り土壌中に残存するため、薬剤での防除が極めて困難であるという問題がある。また、前記萎黄病は、温暖化が進行する中、今後ますます生産上の大きな問題となることが予想される。
そのため、生産現場では前記萎黄病菌による病害に対する抵抗性品種の開発が切望されている。
【0003】
これまでに、萎黄病菌に対する抵抗性を有する遺伝子として、トマトとメロンでそれぞれ1個の病害抵抗性遺伝子が単離されている(例えば、非特許文献1〜2参照)。しかしながら、アブラナ科植物での報告ではない。
【0004】
一方、本発明者らによって、Brassica oleraceaの萎黄病抵抗性品種の探索が行われ、その結果、前記萎黄病抵抗性が優性の単因子優性遺伝子によって支配されており、前記萎黄病抵抗性遺伝子が第7染色体に座乗していることが明らかにされている(非特許文献3参照)。しかしながら、前記探索では、具体的な萎黄病抵抗性遺伝子の特定まではされておらず、萎黄病菌に対する抵抗性品種の選抜や、形質転換体の作製へ適用できる状況ではない。
【0005】
したがって、萎黄病菌に対する抵抗性を有するアブラナ科植物の選抜や、萎黄病菌に対する抵抗性を有するアブラナ科植物の形質転換体の作製などに用いることができる萎黄病菌抵抗性を有するポリヌクレオチドの提供が強く望まれているのが現状である。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】Simons et al.、Dissection of the Fusarium I2 Gene Cluster in Tomato Reveals Six Homologs and One Active Gene Copy、The Plant Cell、1998 vol. 10、1055−1068
【非特許文献2】Joobeur et al.、The fusarium wilt resistance locus Fom−2 of melon contains a single resistance gene with complex features、The Plant Journal、2004、vol.39 283−297
【非特許文献3】Pu et al.、 Genetic mapping of a fusarium wilt resistance gene in Brassica oleracea、Molecular Breeding、 2012、 30、809−818
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、従来における前記諸問題を解決し、以下の目的を達成することを課題とする。即ち、本発明は、萎黄病菌に対する抵抗性を有するアブラナ科植物の選抜や、萎黄病菌に対する抵抗性を有するアブラナ科植物の形質転換体の作製などに用いることができる萎黄病菌抵抗性を有するポリヌクレオチド、該ポリヌクレオチドを含むベクター、該ポリヌクレオチドが導入された形質転換体、該ポリヌクレオチド、及び該ベクターの少なくともいずれかを含む組成物、並びに、被検植物体が萎黄病菌への抵抗性を有するか否かを、煩雑な病原菌接種試験法と比べて、容易に判定することができ、かつ再現性を有するアブラナ科植物の萎黄病菌に対する抵抗性の判定方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
前記課題を解決するための手段としては、以下のとおりである。
即ち、本発明のポリヌクレオチドは、下記(a)から(c)のいずれかに記載のポリヌクレオチドであり、萎黄病菌抵抗性を有することを特徴とする。
(a)配列番号:1に記載の塩基配列を含むDNA。
(b)配列番号:2に記載の塩基配列を含むDNA。
(c)配列番号:3に記載の塩基配列を含むDNA。
【0009】
本発明のベクターは、本発明のポリヌクレオチドを含むことを特徴とする。
【0010】
本発明の形質転換体は、本発明のポリヌクレオチドが導入されたことを特徴とする。
【0011】
本発明の組成物は、本発明のポリヌクレオチド、及び本発明のベクターの少なくともいずれかを含み、萎黄病菌への抵抗性をアブラナ科植物に対して付与することを特徴とする。
【0012】
本発明のアブラナ科植物の萎黄病菌に対する抵抗性の判定方法は、
被検植物体中の配列番号:1から3のいずれかに記載の塩基配列の有無を検出する工程と、
前記配列番号:1から3のいずれかに記載の塩基配列の有無を指標として、被検植物体の萎黄病菌への抵抗性の有無を評価する工程とを含むことを特徴とする。
【発明の効果】
【0013】
本発明によると、従来における前記諸問題を解決することができ、萎黄病菌に対する抵抗性を有するアブラナ科植物の選抜や、萎黄病菌に対する抵抗性を有するアブラナ科植物の形質転換体の作製などに用いることができる萎黄病菌抵抗性を有するポリヌクレオチド、該ポリヌクレオチドを含むベクター、該ポリヌクレオチドが導入された形質転換体、該ポリヌクレオチド、及び該ベクターの少なくともいずれかを含む組成物、並びに、被検植物体が萎黄病菌への抵抗性を有するか否かを、煩雑な病原菌接種試験法と比べて、容易に判定することができ、かつ再現性を有するアブラナ科植物の萎黄病菌に対する抵抗性の判定方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1図1は、試験例1の連鎖地図を示した図である。
図2A図2Aは、AnjuとGCにおけるFocBo1−A、及びFocBo1−Bの遺伝子構造を比較した図である。
図2B図2Bは、AnjuとGCにおけるFocBo1−Bの遺伝子構造とインデル箇所を示した図である。
図3図3は、試験例3の罹病性系統であるRJKB−T24(S11)と、抵抗性系統であるRJKB−T23(R09)とについてのBra012688及びBra012689の発現量を調べた結果を示す図である。
図4A図4Aは、試験例3の<表現型との相関−2>において、系統1(RJKB−T24×RJKB−T23)由来のF2集団についての表現型と遺伝子型とを調べた結果を示す図である。
図4B図4Bは、試験例3の<表現型との相関−2>において、系統2(RJKB−T22(S27)×RJKB−T21(R29))由来のF2集団についての表現型と遺伝子型とを調べた結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
(ポリヌクレオチド)
本発明のポリヌクレオチドは、萎黄病菌に対する抵抗性を有するポリヌクレオチドであり、下記(a)から(c)のいずれかである。
(a)配列番号:1に記載の塩基配列を含むDNA。
(b)配列番号:2に記載の塩基配列を含むDNA。
(c)配列番号:3に記載の塩基配列を含むDNA。
【0016】
前記ポリヌクレオチドは、前記配列番号:1に記載の塩基配列のみからなるものであってもよいし、前記配列番号:2に記載の塩基配列のみからなるものであってもよいし、前記配列番号:3に記載の塩基配列のみからなるものであってもよいし、前記配列番号:1に記載の塩基配列、前記配列番号:2に記載の塩基配列、又は前記配列番号:3に記載の塩基配列にその他の塩基配列が含まれるものであってもよい。
前記その他の塩基配列としては、本発明の効果を損なわない限り、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができる。
【0017】
前記ポリヌクレオチドは、萎黄病菌に対する抵抗性を有する限り、前記配列番号:1に記載の塩基配列、前記配列番号:2に記載の塩基配列、又は前記配列番号:3に記載の塩基配列において、1個若しくは数個の塩基が置換、欠失、挿入若しくは付加されていてもよい。
前記数個の数としては、前記ポリヌクレオチドが萎黄病菌に対する抵抗性を有する限り、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、1個〜9個が挙げられる。
【0018】
また、前記ポリヌクレオチドは、萎黄病菌に対する抵抗性を有する限り、特に制限はなく、前記配列番号:1に記載の塩基配列、前記配列番号:2に記載の塩基配列、又は前記配列番号:3に記載の塩基配列と配列同一性を有するものであってもよい。
前記配列同一性としては、萎黄病菌に対する抵抗性を有する限り、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、70%以上が好ましく、80%以上がより好ましく、90%以上が更に好ましく、95%以上が特に好ましい。
前記塩基配列の同一性の決定方法としては、公知の方法を適宜選択することができ、例えば、カーリン及びアルチュールによるアルゴリズムBLAST(Proc. Natl. Acad. Sei. USA、 1990、 87、 2264−2268;Proc. Natl. Acad. Sei. USA、 1993、 90、 5873)により決定することができる。
【0019】
前記ポリヌクレオチドの調製方法としては、特に制限はなく、公知の方法を適宜選択することができ、例えば、ハイブリダイゼーション技術を用いる方法、ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)技術を用いる方法、前記DNAに対し、site−directed mutagenesis法により変異を導入する方法などが挙げられる。
【0020】
前記ポリヌクレオチドの形態としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、ゲノムDNA、cDNA、化学合成DNAなどが挙げられる。これらの調製方法としては、特に制限はなく、公知の方法を適宜選択して用いることができる。
前記配列番号:1に記載の塩基配列を含むDNAは、例えば、キャベツから調製することができ、前記配列番号:2に記載の塩基配列を含むDNA、及び前記配列番号:3に記載の塩基配列を含むDNAは、例えば、ハクサイから調製することができる。
【0021】
−萎黄病菌−
前記萎黄病菌は、アブラナ科植物を侵す萎黄病菌であり、Fusarium oxysporumである。
【0022】
前記ポリヌクレオチドが萎黄病菌に対する抵抗性を有するか否か確認する方法としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、後述する試験例で示すように、萎黄病菌を接種したアブラナ科植物の表現型と、該アブラナ科植物中における前記ポリヌクレオチドの有無を調べることにより、確認することができる。
【0023】
前記ポリヌクレオチドは、萎黄病菌に対する抵抗性を有するので、例えば、後述する本発明の萎黄病菌に対する抵抗性を有する形質転換体の作製に好適に用いることができる。
【0024】
(ベクター)
本発明のベクターは、本発明のポリヌクレオチドを少なくとも含み、さらに必要に応じてその他の構成を含む。
【0025】
前記ベクターとしては、宿主中で複製可能なものであれば、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、プラスミド、シャトルベクター、ヘルパープラスミド、ファージ、ウイルスなどが挙げられる。これらの中でもアグロバクテリウムベクターが好ましい。
【0026】
前記その他の構成としては、本発明の効果を損なわない限り、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、マーカー遺伝子、制御配列などが挙げられる。
【0027】
本発明のベクターは、適当なベクターに前記ポリヌクレオチドや、必要に応じて前記その他の構成を連結若しくは挿入することにより得ることができる。
ベクターに前記ポリヌクレオチドなどを連結若しくは挿入する方法としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、精製されたDNAを適当な制限酵素で切断し、適当なベクターDNAの制限酵素部位又はマルチクローニングサイトに挿入してベクターに連結する方法などが挙げられる。
【0028】
(形質転換体)
本発明の形質転換体は、前記ポリヌクレオチドが導入されたものである。
前記形質転換体は、例えば、前記ベクターを宿主中に導入することにより得ることができる。
【0029】
前記ベクターを宿主中に導入する方法としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、アグロバクテリウム法、エレクトロポレーション法、パーティクルガン法、PEG法などが挙げられる。
【0030】
前記ベクターが宿主に導入されたか否かを確認する方法としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、PCR法、サザンハイブリダイゼーション法、ノーザンハイブリダイゼーション法などが挙げられる。
【0031】
本発明における形質転換の対象としては、植物体全体であってもよいし、植物器官であってもよいし、植物組織であってもよいし、植物培養細胞であってもよい。
前記植物器官の具体例としては、種子、葉、花弁、茎、根などが挙げられる。
前記植物組織の具体例としては、表皮、師部、柔組織、木部、維管束などが挙げられる。
【0032】
前記形質転換に用いられる植物種としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、アブラナ科植物が好ましい。
前記アブラナ科植物としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、キャベツ、ハクサイ、コマツナ、カブ、ブロッコリー、シロイヌナズナ、ナタネ、ダイコンなどが挙げられる。
【0033】
前記形質転換体は、前記ポリヌクレオチドが導入されているので、萎黄病菌に対する抵抗性を有する。
【0034】
(組成物)
本発明の組成物は、本発明のポリヌクレオチド、及び本発明のベクターの少なくともいずれかを含み、さらに必要に応じてその他の成分を含む。
前記組成物は、例えば、上述のベクターや形質転換体を製造する際に用いることができる。そのため、前記組成物は、萎黄病菌への抵抗性をアブラナ科植物に対して付与するために用いることができる。
したがって、本発明は、前記ポリヌクレオチド、及び前記ベクターの少なくともいずれかを用いる萎黄病菌への抵抗性をアブラナ科植物に対して付与する方法にも関する。
前記アブラナ科植物としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、キャベツ、ハクサイ、コマツナ、カブ、ブロッコリー、シロイヌナズナ、ナタネ、ダイコンなどが挙げられる。
【0035】
(判定方法)
本発明のアブラナ科植物の萎黄病菌に対する抵抗性の判定方法は、検出工程と、評価工程とを少なくとも含み、さらに必要に応じてその他の工程を含む。
前記アブラナ科植物としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、キャベツ、ハクサイ、コマツナ、カブ、ブロッコリー、シロイヌナズナ、ナタネ、ダイコンなどが挙げられる。
前記萎黄病菌は、アブラナ科植物を侵す萎黄病菌であり、Fusarium oxysporumである。
【0036】
<検出工程>
前記検出工程は、被検植物体中の配列番号:1から3のいずれかに記載の塩基配列の有無を検出する工程である。
【0037】
−検出−
前記被検植物体中の配列番号:1から3のいずれかに記載に塩基配列の有無を検出する方法としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)法が好ましい。
【0038】
−−被検植物体−−
前記PCR法では、前記被検体植物から取得したDNAを鋳型として用いる。
前記DNAを取得する対象としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、種子、葉、花弁、茎、根、表皮、師部、柔組織、木部、維管束などが挙げられる。
前記DNAを取得する方法としては、特に制限はなく、公知の方法を適宜選択して用いることができる。
前記DNAの態様としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、ゲノムDNA、cDNAなどが挙げられる。
【0039】
−−プライマー−−
前記PCR法に用いるプライマーとしては、前記配列番号:1から3のいずれかに記載の塩基配列の有無を確認することができれば、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、前記配列番号:1から3のいずれかに記載の塩基配列内の配列に対応するプライマーであってもよいし、前記配列番号:1から3のいずれかに記載の塩基配列で示される遺伝子の近傍領域の配列に対応するプライマーであってもよい。
【0040】
前記配列番号:1に記載の塩基配列の有無を確認するためのプライマーセットとしては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、下記配列番号:4及び配列番号:5に記載のプライマーセット、下記配列番号:6及び配列番号:7に記載のプライマーセットが好ましい。
FocBo1−Fw : 5’−agaatcgtgcatctctccagagtgt−3’(配列番号:4)
FocBo1−Rv : 5’−ctaataagctccaaatttggatttatg−3’(配列番号:5)
MTK−Fw : 5’−agcttataggagaaccatccaagat−3’(配列番号:6)
MTK−Rv : 5’−cctaggcatcatcttcatccactca−3’(配列番号:7)
【0041】
前記配列番号:4及び配列番号:5に記載のプライマーセットは、前記配列番号:1に記載の塩基配列内の配列に対応したものであり、被検植物体中における前記配列番号:1に記載の塩基配列の有無を高い精度で効率よく検出することができる。
前記配列番号:6及び配列番号:7に記載のプライマーセットは、前記配列番号:1に記載の塩基配列で示される遺伝子の近傍領域に対応するものであり、被検植物体が、前記配列番号:1に記載の塩基配列をホモで有するか、又はヘテロで有するかをも確認することができる。
【0042】
前記配列番号:2又は配列番号:3に記載の塩基配列の有無を確認するためのプライマーセットとしては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、下記配列番号:16及び配列番号:17に記載のプライマーセットが好ましい。
Fw : 5’−tcagggctcattttagatgga−3’(配列番号:16)
Rv : 5’−tgagatagaccagattttctgagc−3’(配列番号:17)
【0043】
前記配列番号:16及び配列番号:17に記載のプライマーセットは、前記配列番号:2又は配列番号:3に記載の塩基配列内の配列に対応したものであり、被検植物体中における前記配列番号:2又は配列番号:3に記載の塩基配列の有無を高い精度で効率よく検出することができる。
【0044】
<評価工程>
前記評価工程は、前記配列番号:1から3のいずれかに記載の塩基配列の有無を指標として、被検植物体の萎黄病菌への抵抗性の有無を評価する工程である。
具体的には、前記検出工程により、前記被検植物体中に前記配列番号:1から3のいずれかに記載の塩基配列が検出された場合には、前記被検植物体は、萎黄病菌への抵抗性を有すると評価することができる。一方、前記検出工程により、前記被検植物体中に前記配列番号:1から3のいずれかに記載の塩基配列が検出されなかった場合には、前記被検植物体は、萎黄病菌への抵抗性を有さないと評価することができる。
【0045】
<その他の工程>
前記その他の工程としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、PCR法に用いるDNAを調製するDNA調製工程などが挙げられる。
【0046】
前記判定方法によれば、効率的に高度病害抵抗性品種を選抜し、育成することができ、野菜の安定生産に寄与することができる。さらに、農薬を使わない栽培が可能となり、環境や食への安全性の向上に対する効果も極めて大きい。
【実施例】
【0047】
以下、本発明の試験例を説明するが、本発明は、これらの試験例に何ら限定されるものではない。
【0048】
(試験例1:萎黄病菌抵抗性遺伝子の探索−1)
<BAC及びコスミドの単離>
キャベツ(Brassica oleracea)の萎黄病抵抗性品種(安寿(以下、「Anju」と称することがある))から、第7染色体に座乗している萎黄病抵抗性遺伝子領域を含むBACを以下のようにして単離した。
萎黄病に罹病性のブロッコリー品種‘グリーンコメット (P04)’DH系統(以下、「GC」と称することがある))を種子親に、抵抗性を示すキャベツ品種‘安寿 (P01)’DH系統(以下、「Anju」と称することがある))を花粉親として用い、F1雑種を得た。前記F1雑種のF2個体を用い、萎黄病抵抗性遺伝子周辺で染色体組み換えを起こしている個体の選抜を行い、連鎖地図を作成したところ(図1参照)、FocBo1の座乗位置をBGA04とBGA05マーカーの間の0.7cMの間に絞り込んだ。その後、BGA04マーカーを用いBrassica oleracea var. alboglabraのBACライブラリーからBGA04マーカー座を含むBACクローン#58を選抜した。#58の部分シークエンス結果と、この領域に対応する公知のB. rapaゲノムデータベースの情報から、耐病性遺伝子の特徴であるNBS−LRR構造をもつ遺伝子を特定した。B. oleracea var. alboglabraは萎黄病に罹病性なので、萎黄病抵抗性の‘安寿’からDNAを抽出してコスミドライブラリーを作製し、BACクローン#58領域に対応し、NBS−LRR構造をもつ遺伝子を含む領域を含むコスミドクローン#27A06を単離した。
【0049】
<BAC及びコスミドの解析>
前記BACクローン#58領域とコスミドクローン#27A06のシークエンス解析の結果、この領域には耐病性遺伝子の特徴であるTIR−NBS−LRRモチーフを有する遺伝子は2つだけであった。そこで、萎黄病菌抵抗性遺伝子の候補遺伝子を、TIR−NBS−LRRモチーフを有する、FocBo1−AとFocBo1−Bとに絞り込んだ。
【0050】
<塩基配列の決定>
前記BAC及びコスミドの全塩基配列を次世代シークエンサー(Hiseq2000、イルミナ社製)により決定し、前記FocBo1−A、及び前記FocBo1−Bのゲノム塩基配列と、cDNA配列とを決定した。
また、キャベツ(Brassica oleracea)の萎黄病感受性品種(グリーンコメット)についても、前記安寿と同様にして、FocBo1−A、及びFocBo1−Bのゲノム塩基配列と、cDNA配列とを決定した。
【0051】
<比較>
前記Anjuと、前記GCの、FocBo1−A、及びFocBo1−Bの遺伝子構造を比較したものを図2Aに示し、前記Anjuと、前記GCのFocBo1−Bの遺伝子構造とインデル箇所を示したものを図2Bに示す。
また、前記Anjuと、前記GCのFocBo1−Aの遺伝子構造とインデル箇所を比較した結果を表1に示す。
【0052】
【表1】
表1中、Eはエクソンを示し、Iはイントロンを示す。
【0053】
前記図2A図2B、及び表1に示すように、萎黄病抵抗性品種である前記Anjuでは、FocBo1−Aについては、全長4kbのオープンリーディングフレーム(ORF)を確保できたのに対して、FocBo1−Bでは、全長にわたり塩基の挿入や欠失が見られ機能のない遺伝子と考えられた。
一方、萎黄病感受性品種である前記GCでは、FocBo1−Aでは、エクソン2に1塩基の挿入があり、フレームシフトが起こっていたほか、3’端には1,882bpの欠失が見られた。これらの変異により、前記GCのFocBo1−Aは、機能を消失していると考えられた。
上記比較の結果から、前記FocBo1−A(配列番号:1、cDNA配列)が萎黄病菌抵抗性を付与していると考えられた。
【0054】
(試験例2:萎黄病菌に対する抵抗性の判定−1)
前記FocBo1−A遺伝子を指標として、アブラナ科植物の萎黄病菌に対する抵抗性を判定することができるか否かを以下のようにして試験した。
【0055】
<PCR>
−プライマーセット−
プライマーセットとして、前記FocBo1−A遺伝子内の配列に対応する以下のプライマーセットを用意した(以下、「プライマーセット−1」と称することがある)。
FocBo1−Fw : 5’−agaatcgtgcatctctccagagtgt−3’(配列番号:4)
FocBo1−Rv : 5’−ctaataagctccaaatttggatttatg−3’(配列番号:5)
【0056】
また、別のプライマーセットとして、前記FocBo1−A遺伝子近傍領域に対応する以下のプライマーセットを用意した(以下、「プライマーセット−2」と称することがある)。
MTK−Fw : 5’−agcttataggagaaccatccaagat−3’(配列番号:6)
MTK−Rv : 5’−cctaggcatcatcttcatccactca−3’(配列番号:7)
【0057】
−PCR反応−
下記表2に記載の品種から、以下のようにして鋳型となるDNAを調製した。
−−DNAの調製−−
各植物個体から直径約1cmの葉片組織を採取し、2mLチューブに入れ、「Murray and Thompson. 1980」らの「CTAB(Cethltrimethyl−ammonium bromide)法」を一部改変してゲノムDNAの抽出を行った。イソプロピルアルコールでDNAを沈殿後、サンプルを20分間遠心分離し、沈殿を回収し、70%エタノールで沈殿を洗浄後、TE bufferを200μL加えペレットを溶解し、−20℃で保存した。
【0058】
前記DNAを鋳型とし、前記プライマーセット−1、又はプライマーセット−2を用い、以下の条件でPCR反応を行った。なお、PCRミクスチャーの組成は、以下のとおりである。
(1) 94℃、3分間を1サイクル、
(2) 94℃、30秒間、次いで、60℃、30秒間、次いで、72℃30秒間を30サイクル、
(3) 72℃、3分間。
〔PCRミクスチャー〕
・ 酵素(EmeraldAmp PCR Master Mix(2× Premix、タカラバイオ株式会社製)) ・・・ 5μL
・ Forward Primer ・・・ 0.2μM(終濃度)
・ Reverse Primer ・・・ 0.2μM(終濃度)
・ 鋳型DNA ・・・ 20ng〜50ng
・ dHO ・・・ 残部(上記各物質との合計量で10μLとなる量)
【0059】
前記PCR産物について、アガロースゲル電気泳動を行い、バンドの有無を調べた。結果を表2に示す。
表2中、前記プライマーセット−1を用いた場合に、バンドが得られたものは「+」で示し、バンドが得られなかったものは「−」で示す。また、「A」(FocBo1−A遺伝子有りの場合に得られるバンド)、「B」(FocBo1−A遺伝子無しの場合に得られるバンド)は、前記プライマーセット−2を用いた場合に得られたバンドの種類を示す。
【0060】
<接種試験>
下記表2に記載の品種について、以下のようにして接種試験を行い、表現型を解析した。結果を表2に示す。表2中、Rは、萎黄病菌に対する抵抗性を有することを示し、Sは、萎黄病菌に対する感受性を有する(即ち、罹病性である)ことを示す。
東北農業研究センターから分譲されたキャベツ分離菌Fusarium oxysporum f.sp conglutinans Cong:1−1株を用いた。PDA(Potato Dextroce Agar)培地で培養した菌を液体PSA(Potato Sucrose Agar)培地に植菌し、暗所下で26℃、1週間培養を行った。得られた菌培養液50mLを、土壌80g、米ぬか20g、4%スクロース溶液30mL、及びパーライトを混合した滅菌土へ加え、よく混ぜ、26℃、暗所条件で2週間培養し、種病土を作製した。この種病土と市販の培養土とを1:9の比で混合して、接種検定用の土壌培地とした。
抵抗性試験には、両親(GC、Anju)をコントロールに用いた。罹病指数は、コントロールの抵抗性品種Anju(P01)と差がなく変化のないものを「0」、子葉及び葉の全体が黄変したものを「1」、枯死したものを「2」とする3段階で評価し、罹病指数が、「1」又は「2」のものを罹病性(S)とし、「0」のものを抵抗性(R)とした。
接種検定に用いた植物は、7×7セルポットに播種し、約10日間、26℃の人工気象機内にて生育させた後、接種検定用の土壌培地を充填した直径6cmビニールポットに移植し、26℃条件下で3週間生育させ、罹病性及び抵抗性を判定した。
【0061】
【表2】
【0062】
表2の結果から、接種試験による表現型の解析において、抵抗性品種であった場合には、前記プライマーセット−1を用いたPCR産物においてバンドが確認された。一方、接種試験による表現型の解析において、罹病性品種であった場合には、前記プライマーセット−1を用いたPCR産物においてバンドが確認されなかった。
また、前記プライマーセット−2を用いたPCR産物では、3パターンのバンドが確認された。具体的には、FocBo1−A遺伝子のみを有する品種では、Aバンドのみが確認され、FocBo1−A遺伝子を有さない品種では、Bバンドのみが確認され、FocBo1−A遺伝子をヘテロで有する品種では、AバンドとBバンドの両方のバンドが確認された。
以上の結果から、前記PCRの結果と、前記接種試験の結果とは完全に一致しており、前記FocBo1−A遺伝子の有無を指標とするDNA検査により、アブラナ科植物の萎黄病菌に対する抵抗性を判定することができることが示された。
【0063】
(試験例3:萎黄病菌抵抗性遺伝子の探索−2)
キャベツ(Brassica oleracea)の近縁種であるハクサイ(Brassica rapa)における萎黄病菌抵抗性遺伝子を以下のようにして探索した。
【0064】
<RNAシークエンス法>
萎黄病菌に対して罹病性であるハクサイのRJKB−T24系統と、萎黄病菌に対して抵抗性であるハクサイのRJKB−T23系統について、以下のようにしてRNAシークエンス法を行い、萎黄病菌に対して抵抗性であるハクサイのRJKB−T23系統にのみ発現し、TIR−NBS−LRRモチーフを有する遺伝子として、Bra008055、Bra008056、Bra012116、Bra012540、Bra012688、Bra012689、Bra022071を選び出した。
RNAシークエンス法は、ハクサイ自殖系統(Inbred Line)の萎黄病罹病性のRJKB−T24と抵抗性のRJKB−T23とを用い、以下のように行った。
トータルRNAを、播種後14日目(14DAS)のRJKB−T24とRJKB−T23の本葉第1葉及び本葉第2葉から抽出した。トータルRNAからcDNAライブラリーを作製し、Illumina HiSeq 2000によりシークエンス解析を行った。得られたシークエンスデータをBrassica Databaseで公開されているゲノム情報をリファレンスゲノムとしてマッピングした。
その結果、検出された発現遺伝子約2万9千個の中から、RJKB−T24とRJKB−T23との間で発現量の差が確認でき、かつNBS−LRRモチーフをもつ遺伝子を71個選抜した。なお、NBS−LRRモチーフを持つ遺伝子の同定にはBrassica Datebaseで公表されているハクサイのNBS−LRRモチーフ遺伝子リストを参考にした。71個の遺伝子の中から、抵抗性のRJKB−T23系統で発現し、罹病性のRJKB−T24系統で発現が認められない7個の遺伝子を選んだ。
【0065】
<表現型との相関−1>
ハクサイの近交系10系統について、前記TIR−NBS−LRRモチーフを有する遺伝子の有無と、萎黄病菌に対する罹病性若しくは抵抗性との関係を以下のようにして調べた。
【0066】
−プライマーセット−
前記TIR−NBS−LRRモチーフを有する遺伝子を検出するためのプライマーセットとして、以下のプライマーセットを用意した。
〔Bra008055〕
Fw : 5’−gtttcagagaagaaattcgtggggg−3’(配列番号:8)
Rv : 5’−cgggatagcatggaggaccttcttg−3’(配列番号:9)
〔Bra008056〕
Fw : 5’−ccatgtcggccgtgcttcct−3’(配列番号:10)
Rv : 5’−gggccgagagctgctcgaaa−3’(配列番号:11)
〔Bra012116〕
Fw : 5’−caagaagaagctacttgatgctgcc−3’(配列番号:12)
Rv : 5’−ccaacaatatctgatcattcccatca−3’(配列番号:13)
〔Bra012540〕
Fw : 5’−agaagacaatggaggaaaaagaagt−3’(配列番号:14)
Rv : 5’−tgaagatctttcagtgttatgtcca−3’(配列番号:15)
〔Bra012688〕
Fw : 5’−tcagggctcattttagatgga−3’(配列番号:16)
Rv : 5’−tgagatagaccagattttctgagc−3’(配列番号:17)
〔Bra012689〕
Fw : 5’−agatgtcgttgagaagtctgatacc−3’(配列番号:18)
Rv : 5’−ttgttgttctgttatcatgggatta−3’(配列番号:19)
〔Bra022071〕
Fw : 5’−gggtcgggtggaaatgcacgg−3’(配列番号:20)
Rv : 5’−gcgccacaactccttcccaca−3’(配列番号:21)
【0067】
−PCR反応−
下記表3に記載の品種から、以下のようにして鋳型となるDNAを調製した。
−−DNAの調製−−
各植物個体から直径約1cmの葉片組織を採取し、2mLチューブに入れ、「Murray and Thompson. 1980」らの「CTAB(Cethltrimethyl−ammonium bromide)法」を一部改変してゲノムDNAの抽出を行った。イソプロピルアルコールでDNAを沈殿後、サンプルを20分間遠心分離し、沈殿を回収し、70%エタノールで沈殿を洗浄後、TE bufferを200μL加えペレットを溶解し、−20℃で保存した。
【0068】
前記DNAを鋳型とし、前記プライマーセットを用い、以下の条件でPCR反応を行った。なお、PCRミクスチャーの組成は、以下のとおりである。
(1) 94℃、3分間を1サイクル、
(2) 94℃、30秒間、次いで、60℃、30秒間、次いで、72℃30秒間を30サイクル、
(3) 72℃、3分間。
〔PCRミクスチャー〕
・ 酵素(EmeraldAmp PCR Master Mix(2× Premix、タカラバイオ株式会社製)) ・・・ 5μL
・ Forward Primer ・・・ 0.2μM(終濃度)
・ Reverse Primer ・・・ 0.2μM(終濃度)
・ 鋳型DNA ・・・ 20ng〜50ng
・ dHO ・・・ 残部(上記各物質との合計量で10μLとなる量)
【0069】
前記PCR産物について、アガロースゲル電気泳動を行い、バンドの有無を調べた。結果を表3に示す。
表3中、前記プライマーセットを用いた場合に、バンドが得られたものは「+」で示し、バンドが得られなかったものは「−」で示す。
【0070】
【表3】
表3中、Rは、萎黄病菌に対する抵抗性を有することを示し、Sは、萎黄病菌に対する感受性を有することを示す。
【0071】
表3の結果から、Bra012688(以下、「FocBr1−A」又は「FocBr1A」と称することがある)、及びBra012689(以下、「FocBr1−B」又は「FocBr1B」と称することがある)の有無と、ハクサイ近交系における萎黄病菌に対する抵抗性の有無とが一致した。
【0072】
<Bra012688及びBra012689の発現量の確認>
罹病性系統であるRJKB−T24と、抵抗性系統であるRJKB−T23とについて、以下のようにしてRNAシークエンス法を行い、それぞれにおけるBra012688及びBra012689の発現量を調べた。結果を図3に示す。
罹病性系統であるRJKB−T24と、抵抗性系統であるRJKB−T23のRNAシークエンス分析から得られたショートリードをBra012688及びBra012689のゲノム領域にあてたところ、RJKB−T23系統ではmRNAの発現を示すたくさんのショートリードがBra012688及びBra012689領域に貼り付けることができたが、RJKB−T24ではこの2つの遺伝子領域にはショートリードが検出されなかった。このことは、罹病性系統のBra012688及びBra012689の遺伝子の発現がないことを示している。
【0073】
図3中、ドットは、RNAシークエンス法により得られた遺伝子の発現量を示す。
図3の結果から、罹病性系統であるRJKB−T24では、Bra012688及びBra012689が発現していないことが確認された。
また、抵抗性系統であるRJKB−T23では、Bra012688は強く発現しているのに対し、Bra012689はほとんど発現していなかった。
この結果から、Bra012688が萎黄病菌に対する抵抗性を有する遺伝子であると考えられた。
【0074】
<表現型との相関−2>
罹病性品種と抵抗性品種との交雑を2つの組合せ(系統1:RJKB−T24×RJKB−T23、系統2:RJKB−T22×RJKB−T21)で行い、その後代(F2)を以下のようにして作製した。
−交雑−
罹病性のハクサイ自殖系統のRJKB−T24とRJKB−T22を種子親として抵抗性のRJKB−T23とRJKB−T21を花粉親として、それぞれのF1を作成した。
−F2の作製−
RJKB−T24×RJKB−T23、又はRJKB−T22×RJKB−T21の交雑から得られたそれぞれのF1を自家受粉して、それぞれの系統においてF2を作製した。
【0075】
前記F2の表現型と、Bra012688遺伝子の有無との関係を以下のようにして調べた。
【0076】
−プライマーセット−
前記Bra012688遺伝子を検出するためのプライマーセットとして、上述の配列番号:16、及び配列番号:17のプライマーセットを用意した。
【0077】
−PCR反応−
前記<表現型との相関−1>と同様にしてPCRを行った。
前記PCR産物について、アガロースゲル電気泳動を行い、バンドの有無を調べた。結果を図4A、及び図4Bに示す。
【0078】
<接種試験>
前記F2について、前記試験例2と同様にして接種試験を行い、表現型を解析した。結果を図4A、及び図4Bに示す。
【0079】
図4A、及び図4B中、前記PCR産物に、バンドが検出されたものは「+」で示し、バンドが得られなかったものは「−」で示す。また、前記接種試験の結果、抵抗性であったものは「R」で示し、感受性であったものは「S」で示す。
図4A、及び図4Bの結果から、前記Bra012688遺伝子(ゲノム配列(配列番号:2)、cDNA配列(配列番号:3))の有無と、萎黄病菌に対する抵抗性の有無との対応関係に矛盾はないことがわかった。
なお、図4Aの「58」の個体では、接種試験でのミスか、あるいは何らかの理由で生き残った例外的な個体であると考えられる。
以上の結果から、前記Bra012688遺伝子の有無を指標とするDNA検査によっても、アブラナ科植物の萎黄病菌に対する抵抗性を判定することができることが示された。
【0080】
また、前記Bra012688遺伝子と、前記FocBo1−A遺伝子の配列相同性を確認したところ、95.5%と極めて高い相同性を有することもわかった。
【0081】
本発明の態様としては、例えば、以下のものなどが挙げられる。
<1> 萎黄病菌抵抗性を有することを特徴とする下記(a)から(c)のいずれかに記載のポリヌクレオチドである。
(a)配列番号:1に記載の塩基配列を含むDNA。
(b)配列番号:2に記載の塩基配列を含むDNA。
(c)配列番号:3に記載の塩基配列を含むDNA。
<2> 前記<1>に記載のポリヌクレオチドを含むことを特徴とするベクターである。
<3> 前記<1>に記載のポリヌクレオチドが導入されたことを特徴とする形質転換体である。
<4> 前記<1>に記載のポリヌクレオチド、及び前記<2>に記載のベクターの少なくともいずれかを含み、萎黄病菌への抵抗性をアブラナ科植物に対して付与することを特徴とする組成物である。
<5> 被検植物体中の配列番号:1から3のいずれかに記載の塩基配列の有無を検出する工程と、
前記配列番号:1から3のいずれかに記載の塩基配列の有無を指標として、被検植物体の萎黄病菌への抵抗性の有無を評価する工程とを含むことを特徴とするアブラナ科植物の萎黄病菌に対する抵抗性の判定方法である。
図1
図2A
図2B
図3
図4A
図4B
【配列表】
[この文献には参照ファイルがあります.J-PlatPatにて入手可能です(IP Forceでは現在のところ参照ファイルは掲載していません)]