(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
電力系統のある時刻における電力の総需要と、前記電力系統において予測される予想総需要曲線とに基づいて電力の需給バランスを維持するように前記電力系統に設置された発電機を制御する給電システムにおいて、
前記電力系統の前記時刻における総需要を算定する総需要算定手段と、
算定した前記総需要を平滑化し、平滑化後総需要を算定する平滑化手段と、
前記平滑化の程度を変更する平滑化程度変更手段と、
前記予想総需要曲線が前記時刻において前記平滑化後総需要と一致するように前記予想総需要曲線を修正し、修正後予想総需要曲線を算定する予想総需要曲線変更手段と、
前記修正後予想総需要曲線に基づいて電力需給バランスを維持する発電機出力を算定する発電機制御手段と、
を備えたことを特徴とする給電システム。
電力系統のある時刻における電力の総需要と、前記電力系統において予測される予想総需要曲線とに基づいて電力の需給バランスを維持するように前記電力系統に設置された発電機を制御する給電システムに用いられるプログラムにおいて、
前記給電システムは、時間帯と平滑化程度との対応関係が記憶された記憶手段を備え、
コンピュータに、
前記電力系統の前記時刻における総需要を算定する総需要算定機能と、
算定した前記総需要を平滑化し、平滑化後総需要を算定する平滑化機能と、
前記平滑化程度を変更する平滑化程度変更機能と、
前記予想総需要曲線が前記時刻において前記平滑化後総需要と一致するように前記予想総需要曲線を修正し、修正後予想総需要曲線を算定する予想総需要曲線変更機能と、
前記修正後予想総需要曲線に基づいて電力需給バランスを維持する発電機出力を算定する発電機制御機能と、
を実現させるための給電システムのプログラム。
【発明を実施するための形態】
【0011】
[第1の実施形態]
(概略構成)
以下では、
図1および
図2を参照しつつ、本実施形態の給電システムの全体構成を説明する。
図1は、本実施形態の給電システムの全体構成を示すブロック図である。
【0012】
本実施形態の給電システムは、電力系統に設置されている発電機11、12、…1n(以下、纏めて言う場合には単に発電機10とする)の現在出力情報を受信し、その情報に基づいて算定した現在総需要51と、予め想定された予想総需要曲線とに基づいて電力の需給バランスを維持するように発電機10を制御する。
【0013】
本給電システムは、単一のコンピュータ又はネットワーク接続された複数のコンピュータを含み構成されている。本給電システムは、プログラムをHDDやSSD等に記憶しており、RAMに適宜展開し、CPUで処理することにより、発電機10の現在出力情報から現在総需要51の算定や、その現在総需要51の平滑化処理、発電機10への出力指令値の算定等を行う。
【0014】
具体的には、本給電システムは、情報伝送装置30と、現在総需要算定部31と、平滑化部32と、平滑化程度変更部33と、予想総需要曲線修正部34と、発電機制御部35と、を備えている。
【0015】
(詳細構成)
情報伝送装置30は、本給電システムと、電力系統に設置された各発電機11、12、…1nとをつなぐものである。すなわち、情報伝送装置30は、各発電機11、12、…1nの現在出力を受信可能に構成され、また発電機制御部35が算定する発電機出力指令値55を各発電機11、12、…1nに送信可能に構成されている。情報伝送装置30は、メモリを含み構成され、各発電機11、12、…1nから受信した現在出力を発電機現在出力(以下、纏めて言う場合には単に発電機現在出力50という)としてメモリに記憶する。また、情報伝送装置30は、現在総需要算定部31及び発電機制御部35と接続されており、これらに発電機現在出力50を送信する。
【0016】
現在総需要算定部31は、主にプロセッサを含み構成され、情報伝送装置30から入力されたそれぞれの発電機現在出力50を加算し、現在総需要51を算定する。現在総需要算定部31は、平滑化部32と接続され、算定した現在総需要51を平滑化部32に出力する。
【0017】
平滑化部32は、コンピュータを含み構成されたローパスフィルタであり、現在総需要51を平滑化して平滑化後現在総需要52を算定し、この平滑化後現在総需要52を予想総需要曲線修正部34に出力する。
【0018】
ローパスフィルタは、デジタルフィルタであり、例えば、抵抗器やコンデンサによるアナログのRC回路をデジタルに変換した1次遅れのデジタルフィルタや、移動平均フィルタを用いることができ、ソフトウェアとしてコンピュータに実装されている。
【0019】
このローパスフィルタは、後述する平滑化程度変更部33により設定された平滑化の程度に基づいて、現在総需要51からこれに含まれるフリンジ分を除去する。すなわち、平滑化とは、現在総需要51の短周期変動成分を除去することをいい、この現在総需要51には、数秒から数分の短周期の変動成分であるフリンジ分が含まれている。
【0020】
平滑化の程度は、遮断周波数により定められ、遮断周波数は時定数として与えられる。すなわち、遮断周波数は時定数と反比例の関係にあり、本実施形態では時定数により平滑化の程度が定められる。
【0021】
平滑化程度変更部33は、所定の基準に応じて平滑化部32の平滑化の程度(時定数)を変更する。本実施形態の変更基準は、現在時刻である。すなわち、平滑化程度変更部33は、時計等により現在時刻を検知可能に構成されているとともに、メモリ33aを含み構成されている。このメモリ33aには、
図2に示すように、各時間帯に対して時定数τ1〜τ24が定められたテーブルが予め記憶されている。この時定数テーブルには、長周期の急峻な変動をする時間帯においては平滑化の程度を弱める値が予め設定され、それ以外の時間帯(例えば、短周期で変動する時間帯や変動があまりない時間帯など)では平滑化の程度を強める値が予め設定されている。
【0022】
なお、各時間帯の時定数は、次のように定めることができる。すなわち、過去の需要実績から一日における需要の変動パターンは時間帯だけでも概ね把握することができるので、そのパターンに基づいて決めた各時間帯の時定数をテーブルとしてメモリ33aに予め設定しておくことができる。
【0023】
本明細書において、平滑化の程度を弱める、若しくは強めるとは、現在時刻が含まれる時間帯の時定数と、その前の時間帯の時定数との関係で決めるものとする。すなわち、現在時刻が含まれる時間帯の時定数が、その前の時間帯の時定数より小さい場合、遮断周波数は大きくなるので「平滑化の程度を弱める」といい、現在時刻が含まれる時間帯の時定数が、その前の時間帯の時定数より大きい場合、遮断周波数は小さくなるので「平滑化の程度を強める」という。
【0024】
また、平滑化程度変更部33は、現在時刻がどの時間帯に属するかを判定する時間帯判定部33bを備えている。平滑化程度変更部33は、時間帯判定部33bにより、検知した現在時刻が属する時間帯を判定し、メモリ33aの時定数のテーブルからその時間帯に対応する時定数を得る。
【0025】
本実施形態では、平滑化程度変更部33は、時間帯判定部33bが判定した時間帯をその現在時刻に対応させてメモリ33aに順次記憶させておく。これにより、平滑化程度変更部33は、時間帯判定部33bが判定した時間帯が、その直前に判定した時間帯と同一か否かを判定する。同一時間帯である場合には、時定数は同じなので平滑化部32に出力せず、異なる時間帯である場合には、時定数が異なるため、その時定数を平滑化部32に出力する。このように、現在時刻を指標としてこの時刻が含まれる時間帯に対応する時定数を取得し、平滑化部32の平滑化程度を変更させる。
【0026】
平滑化程度の変更の一例を示す。平日の11時〜14時の間において、12時〜13時に現在総需要51が急峻に変化し、それ以外であまり変化がない場合、11時〜12時の時間帯では時定数をτ12として平滑化の程度を強め、12時〜13時の時間帯では発電機10の制御の遅れを回避するため時定数をτ13と小さくして平滑化の程度を弱める。13時〜14時の時間帯では時定数をτ14として大きくし、平滑化の程度を強める。なお、時定数τ12とτ13、及び時定数τ13とτ14の大小関係はτ12>τ13、τ13<τ14である。
【0027】
時定数のテーブルは、上記では1時間おきの時間帯毎のものとしたが、これに限られず、11時52分〜12時52分のように、各時間帯の始期と終期は任意として良い。また、時間帯の長さも1時間に限らずそれより短くしても長くしても良く、さらに11時52分〜12時30分、12時30分〜14時45分のように、時間帯の長さを異なるようにしても良い。例えば、11時30分〜13時30分、及び14時30分〜16時の時間帯において、時定数は10分とし、これら以外の時間帯では時定数は30分とする。また、ある時間帯の終期とその次の時間帯の始期において、時定数が重複しないようにする。上記の例で示すと、12時ちょうどをτ12とせず、τ13とするとしても良く、その逆にしても良い。
【0028】
このように、平滑化程度変更部33は、平滑化部32の時定数を現在時刻に応じた時定数に変更し、平滑化部32は、平滑化程度変更部33により設定された時定数に基づいて平滑化を行う。
【0029】
予想総需要曲線修正部34は、主にプロセッサとメモリを含み構成され、予想しておいた予想総需要53と平滑化後現在総需要52とから予想総需要曲線を修正し、修正後予想総需要曲線54を算定する。算定に用いる予想総需要53は、例えば、予想総需要曲線として給電システム外部から入力されメモリに予め記憶されている。なお、給電システムが予想総需要53を予め算出し、メモリに記憶するようにしても良い。また、予想総需要曲線修正部34は、算定した修正後予想総需要曲線54を発電機制御部35に出力する。
【0030】
発電機制御部35は、発電機現在出力50から各発電機11、12、…、1nの出力上下限制約を算定するとともに、修正後予想総需要曲線54から総需要と発電機10の出力合計とを一致させつつ総燃料費が最小となるように発電機出力指令値55を算定する。これらの算定には公知の方法を採用することができる。発電機制御部35は、算定した発電機出力指令値55を、情報伝送装置30を介して発電機10に送信する。
【0031】
(動作)
このような給電システムの動作を以下に説明する。
図3は、給電システムの動作を示すフローチャートである。なお、以下の説明では、平滑化部32の初期の平滑化の程度は予め設定されているものとする。また、
図3のフローチャートの動作の順序は例示であり、本実施形態の動作は必ずしもこの順序に限定されるものではない。
【0032】
まず、情報伝送装置30は、各発電機11、12、…、1nから現在出力情報を受信し、これを現在総需要算定部31へ送信する(ステップS01)。現在総需要算定部31は、受信した発電機10の現在出力の加算により現在総需要51を算定し(ステップS02)、算定した現在総需要51を平滑化部32に送信する。
【0033】
ここで、平滑化程度変更部33は、現在時刻を検知し、検知した現在時刻が含まれる時間帯を判定する(ステップS03)。次いで、判定した時間帯がその直前に判定した時間帯と同じか否かを判定する(ステップS04)。
【0034】
異なる時間帯である場合は(ステップS04のNO)、現在時刻が含まれる時間帯に対応する時定数に変更する。すなわち、平滑化程度変更部33は、現在時刻が含まれる時間帯に対応する時定数を取得し、平滑化部32へ出力する(ステップS05)。平滑化部32は、その変更された時定数に基づいて現在総需要51を平滑化し、平滑化後現在総需要52を予想総需要曲線修正部34へ出力する(ステップS06)。一方、同一時間帯である場合は(ステップS04のYES)、時定数の変更はなく時定数を維持した状態で、現在総需要51を平滑化し、平滑化後現在総需要52を予想総需要曲線修正部34へ出力する(ステップS06)。
【0035】
予想総需要曲線修正部34は、メモリから予想総需要曲線を取得し(ステップS07)、平滑化後現在総需要52を基に予想総需要曲線を修正し、修正後予想総需要曲線54を算定し、その算定結果を発電機制御部35に出力する(ステップS08)。
【0036】
発電機制御部35は、情報伝送装置30から発電機現在出力50を受信し、この現在出力から発電機10の出力上下限制約を算定する(ステップS09)。さらに、この制約の中で、修正後予想総需要曲線54の総需要と発電機10の出力合計とを一致させつつ総燃料費が最小になるように発電機出力指定値55を算定し(ステップS10)、情報伝送装置30を介して発電機10に送信する(ステップS11)。以上のようにして、本給電システムは、電力の需給バランスを維持するように発電機10を制御する。
【0037】
(作用・効果)
(1)本実施形態の給電システムは、特に平滑化部32と、平滑化程度変更部33とを備えており、平滑化の程度を所定の基準に応じて変更可能に構成されている。これにより、長周期の急峻な変動が発生する場合には現在総需要51の平滑化の程度を弱め、それ以外の場合には強めるように切り替えることができる。そのため、フリンジ分の影響が大きい系統であっても、長周期の急峻な変動に対しては、発電機10の制御遅延の影響を少なくしてフリンジ分を除去できるとともに、それ以外の場合に対してはフリンジ分の影響を十分に取り除くことのできる給電システムを得ることができる。
【0038】
(2)本実施形態では、対象とする時刻を現在時刻とし、現在総需要算定部31が発電機10の発電機現在出力50に基づいて現在総需要51を算定している。すなわち、供給量である発電機10の発電機現在出力50を需要とみなして総需要を算定している。これにより、電力系統における各需要者の需要量を取得する必要がなくなり、発電機の出力指令値の算定を円滑に行うことができる。
【0039】
(3)本実施形態では、平滑化程度変更部33は、現在時刻と平滑化の程度(時定数)とを対応させた時定数テーブルを備えるようにした。この時定数テーブルは、長周期の急峻な変動をする時間帯においては平滑化の程度を弱める値に、それ以外の時間帯では平滑化の程度を強める値に予め設定するようにした。これにより、時刻に応じて平滑化の程度を変更することができる。
【0040】
[第2の実施形態]
(構成)
第2の実施形態について、
図4及び
図5を用いて説明する。第2の実施形態は、第1の実施形態と基本構成は同じである。第1の実施形態と異なる点のみを説明し、第1の実施形態と同じ部分については同じ符号を付して詳細な説明は省略する。
【0041】
図4は、第2の実施形態に係る給電システムの全体構成を示すブロック図である。本実施形態の給電システムは、現在時刻や現在の気象データに合う過去の需要変動パターンに合わせて時定数の変更を行うものである。すなわち、本給電システムは、外部から日時、気温、天候等を含む現在の気象データを受信し後述の平滑化程度変更部37に送信する現在気象データ受信部36と、現在時刻や現在の気象データと、予め記録された過去需要実績データベース57から得られる過去の条件における十数分〜数十分程度の周期の需要変動の傾向とに基づいて、時定数を変更する平滑化程度変更部37とを備えている。
【0042】
平滑化程度変更部37は、日時、気温、天候等の電力需要に大きく影響を与えるパラメータを加味して時定数を変更するように構成されている。例えば、時定数のテーブルは、日時、気温、天候等の電力需要に大きく影響を与えるパラメータの組み合わせに応じて時定数が一意に定まるように構成されている。時定数は、その組み合わせにおける過去の需要変動パターンにマッチする時定数に予め設定されている。需要が急峻に変化する場合は、時定数の値を小さい値に設定され、ほぼ変化のない場合は、時定数の値を大きい値に設定されている。
【0043】
以下では、簡単のため、パラメータとして、現在時刻(時間帯)と、需要変動と相関の強い気温を例にして説明する。時定数テーブルには、
図5に示すように、各時間帯において、気温毎(例えば、0℃〜40℃の範囲で1℃間隔の気温帯)の時定数が予め設定されている。なお、気温の範囲や気温帯の幅は適宜変更可能である。
【0044】
例えば、過去の事例において、11時〜12時の時間帯で気温25.5℃ではそれほど需要に急峻な変化はなく時定数がτ1226であった場合に、その後の12時〜13時の時間帯で気温が32.4℃に上昇して需要が急峻に変動(上昇)し、時定数をτ1333(<τ1226)に弱めた事例があったとする。このような場合、時定数テーブルには、11時〜12時の時間帯、気温25℃〜26℃の条件で時定数τ1226が予め設定され、12時〜13時の時間帯、気温32℃〜33℃の条件で時定数τ1333が予め設定されている。
【0045】
平滑化程度変更部37は、受信した現在の気象データに含まれる現在の気温が時定数テーブルのどの気温帯に含まれるかを判定する気温帯判定部37cを備えており、第1の実施形態と同様の時間帯判定部37bによる現在時刻の時間帯の判定と気温帯判定部37cによる気温帯の判定を行う。すなわち、判定した時間帯と気温帯に対応する時定数に変更する。
【0046】
上記のような時定数テーブルにおいて、現在時刻が11時32分で気温が25.2℃である場合には、時定数をτ1226に設定して平滑化を行い、その後現在時刻が12時15分で気温が32.3℃である場合には、時定数をτ1333に変更し平滑化を行う。
【0047】
(作用・効果)
本実施形態に係る給電システムは、複数の気象条件における過去の需要変動パターンに基づく時定数テーブルを有する平滑化程度変更部37を備えるようにした。これにより、現在の複数のパラメータを含む気象条件に合う過去の気象条件における需要変動パターンにマッチした平滑化程度の変更を行うことができる。すなわち、現在時刻のみならず、気温や天候等の需要変動と相関のあるパラメータも加味して時定数を変更するので、第1の実施形態よりも適切にフリンジ分の影響を除去することができる。
【0048】
[第2の実施形態の変形例]
第2の実施形態の平滑化程度変更部37は時定数のテーブルを用いたが、本変形例の平滑化程度変更部は、関数を用いて時定数を算出する。この関数型は、過去の需要実績データに基づいて定められており、時刻や気温等の気象パラメータをパラメータとして含み、メモリにプログラムの一部として記憶されている。平滑化程度変更部は、現在時刻や、取得した現在の気象データの中から気温、天候等の電力需要に大きく影響を与えるパラメータを数値として代入することで、時定数を算出する。
【0049】
なお、時定数を算出するための関数も、時刻と気温を含む所定の気象条件との組み合わせに対する時定数の対応関係に含まれる。
【0050】
このように、関数を用いて時定数を算出し平滑化の程度を変更する場合であっても、第2の実施形態と同様の作用効果を得ることができる。
【0051】
[第3の実施形態]
(構成)
第3の実施形態について、
図6を用いて説明する。第3の実施形態は、第2の実施形態と基本構成は同じである。第2の実施形態と異なる点のみを説明し、第2の実施形態と同じ部分については同じ符号を付して詳細な説明は省略する。
【0052】
図6は、第3の実施形態に係る給電システムの全体構成を示すブロック図である。第3の実施形態に係る給電システムは、運用者の平滑化程度変更の修正を受け付ける入力部38を備えている。入力部38は、マウス、キーボード、或いはタッチパネル又はこれらの組み合わせを用いることができる。
【0053】
第2の実施形態においては過去の需要変動パターンに合わせた時定数の変更を行っていたが、現在の気象データが過去の気象データと合致する場合でも、現在又は近い将来のイベント(ワールドカップの試合、甲子園の決勝など)等によりその需要変動パターンは異なったものとなる場合もありうる。そのような場合等において、入力部38によりパラメータの入力を受け付け、これを加味して時定数の変更を行う。受け付けるパラメータとしては、気象条件であっても良いし、時定数そのものを調整するものであっても良い。
【0054】
例えば、気象条件の例として気温を挙げると、現在の気温が31.2℃であれば、平滑化程度は31℃〜32℃の気温帯に対応する時定数となるところを、その上(32℃〜33℃)又は下(30℃〜31℃)等の気温帯の時定数とすることが挙げられる。この場合、例えば、入力部38は運用者による気温+α℃の入力を受け付け、その入力情報を気温帯判定部37cに出力する。気温帯判定部37cは現在気象データの31.2℃に+α℃を加味して現在気温を31.2+α℃と認識し、この気温がどの気温帯に含まれるかを判定する。一方、時定数そのものを調整する場合は、現在の時定数の数値をその一割上下に調整する場合が挙げられる。
【0055】
(作用・効果)
本実施形態の給電システムでは、これにより、第2の実施形態よりも、さらに適切な時定数の変更を行うことができ、フリンジ分の影響をさらに除去することのできる給電システムを得ることができる。
【0056】
[第3の実施形態の変形例1]
第3の実施形態の変形例1は、第2の実施形態の変形例の平滑化程度変更部を、時定数の変更を入力部38によるパラメータの入力により時定数の関数型を修正するものとするものである。例えば、運用者の知識や経験により現在又は将来のイベント等を加味して、関数型に含まれる重み係数の数値を変更する、関数に入力する気温などの気象パラメータを実際の気温等より高く若しくは低く入力する等により時定数を算出する。
【0057】
これにより、過去の需要実績データに加えて、運用者の知識や経験を反映させることができるので、よりフリンジ分の影響を除去することのできる給電システムを得ることができる。
【0058】
[第3の実施形態の変形例2]
第3の実施形態の変形例2に係る給電システムは、外部から現在及び将来の気象データを取得可能に構成されている。例えば、
図7に示すように、現在の気象データは現在・将来の気象データ58から現在気象データ受信部36によって取得し、将来の気象データ(気象の予測値)は、入力部38が将来の気象データの受信部として機能することで取得する。或いは、情報伝送装置30によって受信して取得しても良い。取得した将来の気象データは平滑化程度変更部41に送信され、平滑化程度の補正に寄与する。すなわち、この変形例は、運用者が直接的に時定数の補正を行うのではなく、外部から現在及び将来の気象データを取得して自動的に時定数の補正を行う。
【0059】
具体的に一例を示すと、第3の実施形態の変形例2に係る平滑化程度変更部41は、平滑化部32のローパスフィルタの時定数を下記の式1により算出する。
(式1) T=AX
【0060】
ここで、Tは時定数(スカラー量)である。Xは時定数の決定因子(ベクトル量)であり、現在及び近い将来の気温、天候等の気象データである。外部から取得した現在及び将来の気象データがこのXに用いられる。Aは時定数算出行列であり、過去需要実績データベース57によりこの行列の各成分の値が決定される。
【0061】
式1で算出された時定数Tは、現在の気象データだけでなく将来の気象データも加味されたものであるので、現在の気象データのみから算出される時定数から修正が入ったものとなる。なお、時定数の決定因子Xは、時間と気象データとの組み合わせであるので、式1の関係は、時間帯と所定の気象条件との組み合わせと平滑化程度との対応関係に含まれる。
【0062】
以上より、自動的に時定数を修正可能であり、よりフリンジ分の影響を除去することのできる給電システムを得ることができる。
【0063】
[第4の実施形態]
(構成)
第4の実施形態について、
図8及び
図9を用いて説明する。第4の実施形態は、第1の実施形態と基本構成は同じである。第1の実施形態と異なる点のみを説明し、第1の実施形態と同じ部分については同じ符号を付して詳細な説明は省略する。
【0064】
図8は、第4の実施形態に係る給電システムの全体構成を示すブロック図である。第4の実施形態に係る給電システムは、各時刻において修正後予想総需要曲線54と予想総需要曲線とから予想総需要53の誤差を算定する誤差算定部39と、その誤差を積算する誤差積算部40と、を更に備えている。また、平滑化程度変更部33は、誤差積算部40が算定した積算誤差を監視する監視部33cを更に備えている。監視部33cは、誤差積算部40により算定された積算誤差が、予めメモリ33aに記憶されている所定の基準以上であるか否かを判定する。この基準は、電力系統に応じて適宜変更可能である。
【0065】
平滑化程度変更部41は、監視部33cが、積算誤差がメモリ33aに記憶された所定の基準以上であると判定する場合には、平滑化の程度が強すぎると判断して、平滑化の程度を弱めるように平滑化の程度を切り替える。例えば、
図9に示すように、長周期の急峻な需要変動が生じる場合、平滑化の程度が強すぎると予想総需要曲線53と修正後予想総需要曲線54との差分面積である誤差Eが溜まっていく。この誤差Eが所定基準以上となると平滑化しすぎていると判断する。この場合、発電機10の制御が遅れる傾向にあるため、平滑化の程度を弱めるように平滑化の程度を切り替える。
図9の符号56は、切り替えた後の修正後予想総需要曲線である。なお、積算誤差は、総需要が急峻に上昇するか下降するかによって正の値にも負の値にも両方なり得る。
【0066】
一方、平滑化程度変更部33は、積算誤差が所定の基準未満である場合には、平滑化の程度は変更せず、現在時刻が含まれる時間帯の時定数のままとする。
【0067】
(作用・効果)
本実施形態の給電システムは、誤差算定部39と誤差積算部40と監視部33cとを更に備え、誤差算定部39と誤差積算部40とにより得た積算誤差を監視部33cが監視するようにした。すなわち、積算誤差がメモリ33aに予め記憶された所定の基準以上になると、平滑化の程度が強すぎると判断し、その程度を弱めた平滑化程度に切り替えるようにした。これにより、過去に実績のない需要変動傾向になる場合でも、適切に平滑化の程度を変更させ、誤った状態で平滑化を実行し続けることがなくなる。そのため、よりフリンジ分の影響を適切に除去した給電システムを得ることができる。
【0068】
[その他の実施形態]
本明細書においては、本発明に係る複数の実施形態を説明したが、これらの実施形態は例として提示したものであって、発明の範囲を限定することを意図していない。具体的には、第1乃至第4の実施形態を全て又はいずれかを組み合わせたものも包含される。以上のような実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の範囲を逸脱しない範囲で、種々の省略や置き換え、変更を行うことができる。これらの実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれると同様に、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれるものである。
【0069】
(1)第1乃至第4の実施形態では、情報伝送装置30、平滑化程度変更部33、37、予想総需要曲線修正部34において、発電機現在出力50や、時定数のテーブル、予想総需要53を予め記憶するメモリを含み構成するようにしたが、情報伝送装置30、平滑化程度変更部33、37、予想総需要曲線修正部34とは別にメモリを設けるようにしても良い。
【0070】
(2)第1乃至第4の実施形態では、平滑化程度変更部33、37自体が時計等により現在時刻を検知するようにしたが、発電機現在出力50が現在時刻と発電機の現在出力と紐付けて含まれるようにして、平滑化程度変更部33、37はこれによって現在時刻を検知するようにしても良い。
【0071】
(3)第2及び第3の実施形態では、現在気象データ受信部36を備えて外部から現在の気象データを受信するようにしたが、給電システム自体が現在の気象観測を行う構成を備えて現在の気象データを得るようにしても良い。
【0072】
(4)第4の実施形態では、積算誤差が所定基準以上となった場合には、単に時定数を切り替えるとしたが、誤差が出ないように修正すれば良い。例えば、積算誤差の増加率が減少するように、積算誤差に応じて時定数を変化させるようにしても良い。例えば積算誤差の程度が大きければ時定数の変化幅を大きくし、積算誤差の程度が小さければ、時定数の変化幅を小さくする。
【0073】
(5)第1乃至第4の実施形態の給電システムは、現在時刻における電力の需給バランスを維持するように発電機の出力指令値を算定するものであったが、現在時刻に限らず、任意の時刻における電力の需給バランスを維持するように発電機の出力指令値を算定するようにしても良い。このような給電システム若しくはそのプログラムは、例えば、シミュレータとして用いることができる。すなわち、現在総需要算定部31に代えて総需要算定部とし、これに例えば過去の時刻の発電機出力を与える。この総需要算定部が算出した過去の総需要に対して平滑化を行う際にどの程度の時定数にするとより適切にフリンジ分が除去できるかを調べることができる。