(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0017】
(実施の形態1)
本発明の実施の形態1に係る有床義歯について、図面に基づいて説明する。なお、本明細書では、義歯床の口蓋側をおもて面、装着者の口腔内の粘膜面に接する側を裏面として説明する。
図1に示すように、有床義歯1は、装着者の上顎に装着される総入れ歯である。有床義歯1は、装着者の歯牙となる人工歯2と、義歯床3と、人工歯2を支持する歯肉部4とを備えている。
義歯床3は、
図2に示すように、ベースとなる基礎義歯床部31と、基礎義歯床部31に被せられたカバー義歯床部32とを備えている。
【0018】
基礎義歯床部31は、厚みが厚い合成樹脂材で、遮光性部材である有色の樹脂板材から形成されている。本実施の形態1では、基礎義歯床部31を形成する樹脂板材として、口蓋や歯槽の色に合わせた桃色で、厚みが約2mmの板材を使用している。基礎義歯床部31の裏面には、口蓋の粘膜面に密着しやすいように、凹凸部31aが形成されている。
【0019】
カバー義歯床部32は、基礎義歯床部31を形成する樹脂板材より薄い、合成樹脂材で、光透過性部材である透明な樹脂板材から形成されている。本実施の形態1では、カバー義歯床部32を形成する樹脂板材として、透明で、厚みが約2mmの板材を使用している。
【0020】
基礎義歯床部31と、カバー義歯床部32とは、密着した状態で一体化している。基礎義歯床部31と、カバー義歯床部32との間には、実装体が挟み込まれている。実装体は、様々なものが採用できる。
例えば、写真、文字または/および記号が表記された紙片または板体、光学式情報が表記された紙片または板体、または模様付き紙片、ICチップ、押し花などが可能である。実装体は、基礎義歯床部31と、カバー義歯床部32との間に挟み込むスペースに応じて、装着者に違和感を抱かせない程度の厚みのものであれば、どのようなものでも挟み込むことができる。
【0021】
写真とした場合では、装着者の顔写真、全身写真、上半身の写真などとすることができる。装着者の写真とした場合には、持ち主である装着者を容易に判別することができる。また、他の写真、例えば、動物の写真などとしても、介護施設などで動物と装着者との割り付けをしていれば、装着者を判別することができる。
文字または/および記号が表記された紙片または板体とした場合では、装着者に関する個人情報(例えば、装着者の氏名、住所、電話番号など。)、装着者ごとに割り当てられた識別情報(例えば、数字、英文字または記号の組み合わせにより構成されたID)、有床義歯1を管理する管理者名、施設名などとすることができる。
紙片としては、コート紙、上質紙、光沢紙、ケント紙などの洋紙、様々な和紙などが使用できる。板体としては、金属、樹脂、セラミックス、木材などとすることができる。
光学式情報が表記された紙片または板体とした場合には、光学式情報を一次元バーコード、二次元バーコード、読み取りコードがドットパターンにより表記されたもの、とすることができる。
ICチップとした場合には、読み取り装置からの信号を電力として動作する非接触により読み取りできるRFID(Radio Frequency Identification)タグとすることができる。ICチップには、大量のデータを格納できることから、装着者の個人情報や管理者の情報などを記憶させることができる。
押し花は、花や葉を採取した状態のまま乾燥させたものである。装着者ごとに押し花の種類を決めれば、押し花であっても有床義歯1ごとに装着者を識別することができる。
【0022】
本実施の形態1では、実装体として、顔の周囲を楕円形状に切り取った写真Pを担持させている。
【0023】
以上のように構成された本発明の実施の形態1に係る有床義歯1の製造方法を図面に基づいて説明する。なお、本実施の形態1では、有床義歯1に担持させる実装体として写真を例に説明する。
【0024】
まず、歯科医院にて、有床義歯を装着する装着者の口腔から凹型が採取され、この凹型から凸型となる印象模型が作製され、歯科技工所に送付される。歯科技工所では、印象模型から、再度、凹型が作製され、更に、この凹型から
図1に示す有床義歯1を作製するための印象模型を作製する。
次に、印象模型Mを、フラスコ51に充填された溶融状態の低融点合金52に浸漬して、溶融状態の低融点合金52が固化することで固定する。
【0025】
フラスコ51の底面には、脱気するための吸引口が設けられおり、溶融状態の低融点合金52が固化することで低融点合金52が収縮して、フラスコ51の周壁と円盤状に固化した低融点合金52の周囲壁面との間に隙間ができる。
【0026】
この状態で、準備工程を行う。準備工程は、
図4(A)に示すように、義歯床のベースとなる基礎義歯床部31(
図2参照)とするための第1の樹脂板61と、基礎義歯床部31に被せられるカバー義歯床部32(
図2参照)とするための第2の樹脂板62とを準備する。第1の樹脂板61および第2の樹脂板62は、合成樹脂材により形成されたもので、円盤状の樹脂板を購入してもよいし、製作者が成形するためのプレス装置を所有している場合には製作者自身が成形してもよい。
【0027】
第1の樹脂板61と第2の樹脂板62とをプレス装置により成形する場合には、上型と下型とによるキャビティ(成形空間)内に、軟化状態の合成樹脂材を配置して、圧力を掛ける。そして、外形が円形状となった軟化状態の合成樹脂板を、硬化させることで、第1の樹脂板61と第2の樹脂板62とをそれぞれ成形する。
【0028】
この第1の樹脂板61と、第2の樹脂板62との間に、写真Pを配置して、加工前義歯床63として準備する。このとき、第1の樹脂板61と第2の樹脂板62とを、予めオーブン等の加熱装置にて加熱して軟化させておく。
【0029】
次に、転写工程を行う。転写工程は、
図4(B)に示すように、印象模型M上に配置した加熱により軟化した加工前義歯床63を、加工前義歯床63側から加圧および加熱して、印象模型Mの形状を加工前義歯床63に転写する。この加圧は、例えば、圧縮空気を噴射してもよいし、他の押圧器具により加工前義歯床63を押さえ付けてもよい。圧縮空気を加工前義歯床63に噴射すると、印象模型Mの輪郭より大きい部分の加工前義歯床63が印象模型Mの周壁側に湾曲して、板状の加工前義歯床63全体が印象模型M全体を覆う形状に変形して密着する。
印象模型Mの形状を加工前義歯床63に転写すると、床外形をハンドピースドリルやレーズなどで整えて、
図5に示す義歯床3を作製する。
【0030】
義歯床3が作製できると、後は、従来の有床義歯の製造方法と同様の方法により、人工歯2を歯肉部4と共に、義歯床3に設ける。以下に詳細を説明する。
まず、印象模型Mを削ったり割ったりして、フラスコ51内の低融点合金52から、義歯床3を取り出し、印象模型Mを削ったり割ったりして、義歯床3を外す。次に、歯科技工所で作製された凹型から、再度、作製された印象模型Mに、義歯床3を被せ、
図6に示すように、義歯床3の歯槽頂上にワックスを盛って咬合堤55を形成する。そして、咬合堤55の高さや厚みを調整しつつ、人工歯2(
図1参照)を配列して、咬合堤55を歯肉部4の形状に形成する。
【0031】
次に、印象模型Mを外し、人工歯が咬合堤55に支持された義歯床3を、石膏を充填した下部フラスコに置き、埋没させるための石膏を上から充填して、対となるフラスコ(図示せず)により蓋をする。
そして、一対のフラスコを加熱炉に入れ、加熱することで、咬合堤55は溶融させて脱ろうする。咬合堤55が溶融することでできた空間に、歯肉部4となる樹脂を充填する。
そして、樹脂の種類に応じた方法に硬化させる。例えば、樹脂が化学重合型であれば常温で重合させる。また、加熱重合型であれば加熱により重合させる。歯肉部4となる樹脂が硬化すると、
図1に示す有床義歯1を得ることができる。
【0032】
この歯肉部4となる樹脂は、カバー義歯床部32と親和性の高いものとするのが望ましい。親和性が高いと、歯肉部4となる樹脂が硬化すると、カバー義歯床部32と一体化して歯肉部4とカバー義歯床部32との境目の区別をつきにくくすることができる。
【0033】
このようにして、歯肉部4が形成されることで、カバー義歯床部32と、基礎義歯床部31と異なる色とすることができる。従って、歯肉部4を口蓋や歯槽の粘膜の色に合わせて桃色とすれば、基礎義歯床部31とカバー義歯床部32とを透明な樹脂で形成しても、有床義歯を装着したときに違和感が生じない。
【0034】
以上のようにして製造された有床義歯1は、実装体として担持させる写真Pが、義歯床に開けた孔やくぼみでなく、基礎義歯床部31とカバー義歯床部32との間に挟み込まれて担持されているため、孔やくぼみの形状に写真Pの形状や大きさが制約を受けない。従って、サイズの大きい写真Pを義歯床3に担持させることができるので、外側から視認しやすい。また、義歯床に孔やくぼみを設けないので、強度を維持することができる。従って、有床義歯1は、義歯床3に様々な形状や大きさの写真Pなどの実装体を担持させることができる。
【0035】
カバー義歯床部32が、透明な光透過性部材により形成されているので、特別な読み取り装置を用いなくても、写真Pを外側から視認できるため、写真Pによって、装着者を識別したり、装着者が居住する施設の管理者を識別したりすることができる。また、基礎義歯床部31も透明とすることができるので、写真Pを、2枚の写真の裏面同士を貼り合わせた両面の写真とすれば、有床義歯1の裏面からも写真Pを視認することができる。
【0036】
(実施の形態2)
本発明の実施の形態2に係る有床義歯について、図面に基づいて説明する。実施の形態2では、義歯床のベースとなる基礎義歯床部とするための第1の樹脂板と、基礎義歯床部に被せられるカバー義歯床部とするための第2の樹脂板との間に、実装体を挟み込ませ担持させるときに、軟化状態の第1の樹脂板および第2の樹脂板を用いることを特徴とするものである。
【0037】
この実施の形態2に係る有床義歯について、その製造方法を図面に基づいて説明する。
なお、予め、
図8(D)に示すように、有床義歯を装着する装着者から印象模型Mが作製され、この印象模型Mを、フラスコ51に充填された溶融状態の低融点合金52に浸漬して、溶融状態の低融点合金52が固化されて固定しているものとする。
【0038】
本実施の形態2に係る有床義歯の製造方法は、まず、準備工程を行う。義歯床のベースとなる基礎義歯床部31(
図9参照)とするための第1の樹脂板と、基礎義歯床部31に被せられるカバー義歯床部32(
図9参照)とするための第2の樹脂板とを、合成樹脂材により、それぞれ成形する。
【0039】
合成樹脂材は、例えば、液状のMMA(メタクリル酸メチル)樹脂と、粉体のPMMA(ポリメタクリル酸メチル)樹脂とを混合させ重合させたものが使用できる。
【0040】
第1の樹脂板および第2の樹脂板を成形するときには、プレス装置を用いる。
図7(A)に示すように、プレス装置80は、下型(第1の金型)となるヒーター81と、上型(第2の金型)となる押圧型82とを備えている。押圧型82には、外形が円形状の凹部が形成されている。プレス装置80は、凹部の内部空間がヒーター81の平面と合わさることでキャビティC(成形空間)が形成される。
【0041】
プレス装置80のヒーター81を加熱状態にして、合成樹脂材71が餅状となった軟化状態のときに、ヒーター81と押圧型82とにより形成されるキャビティCに、合成樹脂材71を配置する。
次に、
図7(B)に示すように、押圧型82を下降させてヒーター81との間で、軟化状態の合成樹脂材71を挟み込み圧力を掛ける。そうすることで、例えば、キャビティCが約2mmの深さの押圧型82であれば、約2mmの軟化状態の第1の樹脂板61が成形される。
【0042】
次に、
図7(A)を用いて説明したときと同様に、
図7(C)に示すヒーター81と押圧型82とにより形成されるキャビティCに、軟化状態の合成樹脂材71を配置する。
次に、
図7(D)に示すように、押圧型82を下降させて、ヒーター81との間で、軟化状態の合成樹脂材71を挟み込み圧力を掛けて、約2mmの軟化状態の第2の樹脂板62が成形する。
【0043】
次に、
図8(A)に示すように、軟化状態の第1の樹脂板61と、軟化状態の第2の樹脂板62との間に実装体である写真Pを位置させた状態で、ヒーター81と押圧型82とにより形成されるキャビティCに配置する。
【0044】
次に、
図8(B)に示すように、押圧型82を下降させて、ヒーター81との間で、写真Pを挟み込ませた第1の樹脂板61および第2の樹脂板62に圧力を掛ける。
約2mmの第1の樹脂板61および約2mmの第2の樹脂板62が配置されたキャビティCは、深さが約2mmであるため、第1の樹脂板61と第2の樹脂板62とを合計した約4mmの厚みのうちの約2mm分が余分である。
【0045】
つまり、キャビティCの容積より、第1の樹脂板61と第2の樹脂板62との合計の体積の方が大きいため、余分な2mm分の樹脂がキャビティCから溢れ、ヒーター81と押圧型82との隙間から漏れて、取り除かれる。
キャビティCから溢れる程度に第1の樹脂板61と第2の樹脂板62とにより合成樹脂材がキャビティCに満たされることで、キャビティC内の圧力が高まるため、第1の樹脂板61と第2の樹脂板62との良好な結合性が得られる。また、第1の樹脂板61と第2の樹脂板62とから空気が抜けやすくなるため、品質を向上させることができる。
【0046】
このようにして、
図8(C)に示す加工前義歯床63を成形することができる。
なお、本実施の形態2では、厚みが約2mmの第1の樹脂板61と、厚みが約2mmの第2の樹脂板62とを、押圧型82のキャビティCが約2mmの深さの押圧型82を用いて成形することで、厚みが約2mmの加工前義歯床63を成形しているが、第1の樹脂板61と、第2の樹脂板62とは、押圧型82の深さに応じて様々な厚みとすることができる。
【0047】
図8(C)に示すように、このように成形された加工前義歯床63は、軟化状態の第1の樹脂板61と第2の樹脂板62とを圧力を掛けて1枚にしているため、境目なく一体的に形成された状態で写真P(
図8(C)では図示せず)を内包することができる。
【0048】
加工前義歯床63が成形できれば、軟化状態のまま、転写工程を行ってもよいし、一旦、加工前義歯床63を硬化状態にして、転写工程を行ってもよい。加工前義歯床63が硬化状態となったときには、予めオーブン等の加熱装置にて加熱して軟化させておく。
【0049】
実施の形態1と同様に、
図8(D)に示すように、印象模型M上に配置した軟化状態の加工前義歯床63を、加工前義歯床63側から加圧および加熱して、印象模型Mの形状を加工前義歯床63に転写する。
【0050】
例えば、実施の形態1に係る有床義歯の製造方法において、
図4(A)および同図(B)を用いて説明したように、硬化状態の第1の樹脂板61と第2の樹脂板62との間に、写真Pを配置して、加工前義歯床63として準備し、次に、加工前義歯床63に予熱を加えて印象模型Mの形状を加工前義歯床63に転写して義歯床3を作製してもよい。
【0051】
しかし、一度、硬化状態とした第1の樹脂板61と第2の樹脂板62とを合わせた状態で加熱して、軟化状態にして印象模型Mの形状を転写すると、第1の樹脂板61と第2の樹脂板62との間に空気が入り、次第に剥離してしまうおそれがある。
本実施の形態2に係る有床義歯の製造方法では、軟化状態のときに、第1の樹脂板61と第2の樹脂板62とに圧力を掛けて1枚にして、加工前義歯床63を作製しているため、第1の樹脂板61と第2の樹脂板62とが密着して境目なく1枚のようになっているため、第1の樹脂板61と第2の樹脂板62とが剥離することを防止することができる。
【0052】
印象模型Mの形状を加工前義歯床63に転写すると、床外形をハンドピースドリルやレーズなどで整えて、
図5に示す義歯床3を作製する。
義歯床3が作製できれば、以降の工程は、実施の形態1に係る有床義歯の製造方法と同じであるため説明は省略する。
【0053】
このように、本実施の形態2に係る有床義歯は、実施の形態1に係る有床義歯1(
図2参照)と同じ構成でありながら、
図9に示すように義歯床3を構成する基礎義歯床部31およびカバー義歯床部32が一体的に形成されて、実装体である写真Pを内包しているため、基礎義歯床部31とカバー義歯床部32とが剥離するなどして不具合が発生し難いので、装着者が、有床義歯1を長い期間、口腔内に装着して使用しても安心して使用することができる。
【0054】
なお、本実施の形態2ではプレス装置80として、第1の金型が下型となる平面状のヒーター81と、第2の金型が上型となる凹部が形成された押圧型82とを備えたものとしているが、下型に凹部が形成され、上型が平面でもよい。
【0055】
本実施の形態1,2に係る有床義歯1は、上顎の全部床義歯を例に説明したが、下顎の全部床義歯としたり、局部床義歯としたりすることができる。下顎の全部床義歯や、局部床義歯に実装体を担持させる場合には、義歯床の歯槽壁に実装体を位置させればよい。