(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1記載の測定方法を隔膜式の過酢酸濃度計に用いる場合、内部液にヨウ素又は臭素が含まれることとなる。そうすると、隔膜の破損や接着不良等によって濃度計の内部液が試料溶液側に漏れ出すおそれがある。内部液が試料溶液に漏出すると、内部液に含まれるヨウ素や臭素が試料溶液中の過酢酸と反応して過酢酸濃度を低下させて、消毒・滅菌作用を低下させるという問題がある。
また、この試料溶液は、医療分野や食品分野等で用いられることが多いので、残留性の強いヨウ素や臭素が試料溶液に含まれると、残留したヨウ素や臭素によって、生体に影響を及ぼすおそれもある。
加えて、臭素は、酸性環境下でガスになる性質を有し、酸性の過酢酸を含む溶液内に漏出すると、有毒な臭素ガスが発生するので、作業者は過酢酸濃度計を慎重に取り扱う必要が生じ、作業者に心理的な負担を強いることになる。
【0006】
本発明は上記問題に鑑み、内部液が試料溶液に漏れ出すことがあっても、上述した種々の問題を防ぐことができる隔膜式の過酢酸濃度計を提供することをその主たる課題とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の過酢酸濃度計は、試料溶液の過酢酸濃度を測定する隔膜式の過酢酸濃度計であって、過酢酸を透過する隔膜と、前記隔膜を透過した過酢酸が溶解する内部液と、前記内部液に浸漬する作用極及び対極とを具備し、前記内部液に、水素イオン濃度に対して緩衝作用を有する緩衝液を用いていることを特徴とする。
【0008】
上述の構成によれば、内部液に、水素イオン濃度に対して緩衝作用を有する緩衝液が用いられるので、例え過酢酸濃度を測定中に内部液が試料溶液側に漏出したとしても、試料溶液に含まれる過酢酸は緩衝液と反応しないので、過酢酸の濃度が低下することはなく、試料溶液の消毒・滅菌作用を保つことができる。
また、緩衝液にヨウ素や臭素のような残留性はないので、内部液が医療分野や食品分野で用いられる試料溶液に漏出したとしても、生体への影響を防ぐことができる。
加えて、緩衝液は臭素のように有毒なガスが発生するものではないので、作業者の心理的な負担を軽減することができる。
【0009】
また、試料溶液中の過酢酸は、作用極の表面で酢酸に変化するので、反応がすすむにつれて内部液中に酢酸が増加して、内部液が酸性に移行するおそれがあるが、本発明の過酢酸濃度計は、内部液を緩衝液で構成するので、内部液が酸性に移行することを防ぎ、精度よく測定を行うことができる。
【0010】
本発明にかかる過酢酸濃度計の内部液の具体的な一態様としては、前記内部液が、過酢酸と反応する物質を含まないものを挙げることができる。
【0011】
上述の構成によれば、例え内部液が試料溶液中に漏出したとしても、確実に内部液が試料溶液中の過酢酸と反応することを防ぐことができるので、試料溶液中の過酢酸濃度が低下することを防ぎ、消毒・滅菌作用を保つことができる。
【0012】
本発明にかかる過酢酸濃度計の具体的な一態様としては、前記隔膜が、シリコン、フッ素樹脂又はポリエチレンを含む材料からなるものを挙げることができる。
【0013】
本発明にかかる過酢酸濃度計の具体的な別の一態様としては、前記作用極が、前記内部液に対してぬれ性を有する中間膜を介して前記隔膜に接触しているものを挙げることができる。
【0014】
ここで、作用極を隔膜に近づけるほど、隔膜を透過した過酢酸が作用極の表面で反応する応答性が早くなることが知られている。しかしながら、作用極を隔膜に接触させると、隔膜の材質によっては隔膜が作用極に隙間無く密着して、作用極表面に内部液を供給しにくくなり、作用極表面での反応を阻害して反応性が悪化するという問題が生じる。
しかしながら、上述の構成によれば、作用極が内部液に対してぬれ性を有する中間膜を介して隔膜に接触しているので、隔膜の材質によらず、中間膜表面に形成される液層から内部液を作用極に供給することができ、作用極表面での反応が悪化することを防止することができる。また、中間膜の膜厚を薄くすれば、作用極をより隔膜に近づけて、作用極の応答性を改善することもできる。そのため、作用極での反応性を犠牲にすることなく、作用極の応答性を改善することができる。
【0015】
本発明にかかる過酢酸濃度計の中間膜における具体的な一態様としては、前記中間膜が、複数の細孔を有するものであるものを挙げることができる。ここで、複数の細孔を有する中間膜としては、例えば多孔質膜、微孔質膜、微多孔質膜等を挙げることができる。また、中間膜には、ポリマーを用いることができる。
【0016】
このように構成すれば、中間膜の表面だけではなく、中間膜の細孔にも内部液が浸透するので、内部液に溶解した過酢酸が作用
極に到達するまでの距離を短縮して、作用極表面での反応性をより早めることができる。
【0017】
本発明にかかる過酢酸濃度計の具体的な別の一態様としては、前記隔膜が前記中間膜と接触する領域をさけて、前記隔膜における試料溶液側の面に保護膜が設けられているものを挙げることができる。
【0018】
このように構成すれば、保護膜によって、隔膜が破損することを防ぎ、内部液が試料溶液側に漏出することを防ぐことができる。また、試料溶液中の不純物等が隔膜を介して内部液内に侵入することを防ぐことができ、測定精度を高めることができる。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、内部液が試料溶液に漏れ出すことがあっても、試料溶液や生体への影響を防ぐことができる。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明の過酢酸濃度計について図面を参照しながら説明する。
本実施形態における過酢酸濃度計は、例えば医療分野や食品分野の薬液に使用される過酢酸の濃度を測定する隔膜式のものであって、
図1に示すように、過酢酸濃度を測定するためのセンサ部1と、センサ部1に防水ケーブル2を介して電気的に接続されている図示しない計器本体部とを具備する。そして、センサ部1を試料溶液に浸漬させて、試料溶液に含まれる過酢酸濃度の測定を行うものである。
【0022】
センサ部1は、
図2及び
図3に示すように、内部液13を収容するため容器1aと、容器1aを密閉するための蓋部1bとを備える。
【0023】
容器1aは、一端面が開口するとともに他端面が閉塞された中空の円筒形状をなすものであって、蓋部1bを取り付けると、その内部に収容空間が形成されるものである。また、その開口端付近の内壁には、蓋部1bを取り付けるための図示しないねじ山が形成される。そして、他端面の一部には貫通孔が設けられ、この貫通孔を塞ぐように隔膜11が設けられている。
【0024】
隔膜11は、試料溶液中の過酢酸を透過するものであって、例えばシリコン、フッ素樹脂又はポリエチレンを含む材料から構成されるものである。なお、フッ素樹脂として、例えばテフロン(登録商標)等を用いることができる。また、隔膜11の膜厚としては例えば10μm〜200μmのものを用いることができる。
【0025】
蓋部1bは、容器1aを密閉するものであって、容器1aが取り付けられる側の略中央部には、作用極4及び対極5を保持する保持部材16が突出するように設けられている。この保持部材16は、蓋部1bが容器1aに取り付けられた状態で、容器1aと蓋部1bとの間に形成される空間に収容されるものである。また、容器1aが取り付けられる側の反対側には、計測本体部を接続するための防水ケーブル2が取り付けられるコネクタ部6が設けられている。
【0026】
保持部材16は、絶縁性材料から構成されるものであって、
図3に示すように、作用極4の周囲を囲んで作用極4を保持するとともに、対極5を保持部材16の周囲に巻回して保持するものである。また、保持部材16には、蓋部1bを容器1aに取り付けるための螺旋状の溝が設けられており、容器1a側に設けられた図示しないねじ山と嵌合させることで、蓋部1bを容器1aに取り付けることができる。さらに、保持部材16には、外部へ気体を排出するための空気孔7が設けられている。なお、この空気孔7の開口一端には、気液を分離するフィルタが設けられている。
【0027】
作用極4は、例えば金等の導電性材料から構成されるものであって、本実施形態では、
図2及び
図3に示すように、棒形状をなすものである。また、作用極4は、保持部材16に保持された状態で保持部材16の先端面10からわずかに突出するように設けられている。
【0028】
対極5は、例えば白金等の導電性材料から構成されるものであって、本実施形態では、白金線から構成されている。
【0029】
作用極4及び対極5は、
図3に示すように、導線8を介して接続されており、該導線8を介して外部に設けられた図示しない電力供給手段から電圧が印加される。また、導線8には、導線8に流れる電流を検知する電流計9が設けられている。なお、この導線8や電流計9は蓋部1bの外側に設けられていてもよい。
【0030】
しかして、
図3に示すように、蓋部1bを容器1aに取り付けた状態で蓋部1bと容器1aとの間に形成される空間には、内部液13が収容される。
【0031】
この内部液13は、水素イオン濃度に対して緩衝作用を有する緩衝液が用いられるものであって、過酢酸と反応する物質を含まないものである。本実施形態では、内部液13が緩衝液のみで構成される。この緩衝液は、緩衝液であれば特に限定されず、酸性緩衝液、中性緩衝液、アルカリ性緩衝液等を用いることができるが、さらに好ましくは酸性緩衝液、中性緩衝液を用いることができる。本実施形態では、例えばリン酸緩衝液や酢酸緩衝液、トリス、ホウ酸緩衝液、クエン酸緩衝液等を用いることができる。
【0032】
また、隔膜11の容器1a側には、この内部液13に対してぬれ性を有する中間膜12が設けられている。この中間膜12は、容器1aを蓋部1bに取り付けた状態で、隔膜11と作用極4との間に配置されるものである。この中間膜12に用いられる材料としては、隔膜11の弾性率(体積弾性率)よりも大きい弾性率を有する材料を用いることができ、例えばポリマー等から構成されたもの、特にポリカーボネイト、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、ポリエチレンとポリイミドを混合した混合樹脂、ポリイミド、セルロース等を用いることができる。なお、ぬれ性とは、中間膜12と内部液13との間に親和性があり、中間膜12に内部液13が留まり中間膜12を濡れさせて、中間膜12の表面に内部液13による液層を形成する性質を有することを示す。また、中間膜12の膜厚としては、1μm〜100μmのものを用いることができる。
また、中間膜12は、孔径0.05μm〜100μmの細孔が無数に設けられた多孔質膜で構成されている。
【0033】
また、隔膜11が中間膜12と接触する領域をさけて、隔膜11における試料溶液側の面に保護膜15が設けられている。この保護膜15の材質としては特に限定されず、例えばポリプロピレン、PFA、PET等を用いることができる。
【0034】
計器本体部は、センサ部1からの測定データ等を表示するとともに、作業者から入力される信号に従ってセンサ部1を作動させるものであって、物理的にはアナログ電気回路とCPU、メモリ等のデジタル電気回路とが混成されて構成されたものである。
【0035】
上述した構成を備える本発明の過酢酸濃度計の動作について以下説明する。
【0036】
容器1aに蓋部1bを取り付けると、作用極4は、中間膜12を介して隔膜11に接触する。具体的には、作用極4は保持部材16の先端面10からからわずかに突出するように配置されているので、作用極4は、中間膜12を介して隔膜11と押圧接触する。
【0037】
また、容器1aと蓋部1bとの間には内部液13が封入される。封入された内部液13は、
図4に示すように、中間膜12の孔部に侵入するとともに中間膜12表面に液層を形成する。そのため、作用極4はこの液層を介して中間膜12と接触するとともに、中間膜12は液層を介して隔膜11と接触する。しかしながら、液層はその厚みが非常に薄いものであるので、実質的に作用極4は、中間膜12を介して隔膜11と接触するものといえる。
さらに、作用極4も内部液13に浸漬されるとともに、対極5も内部液13に浸漬されるので、内部液13を介して作用極4と対極5とが電気的に接続される。
【0038】
この状態において、センサ部1を試料溶液に浸漬すると、試料溶液中に含まれる過酢酸が隔膜11を透過し、センサ部1内の内部液13に溶解する。そして、作用極4と対極5との間に図示しない電力供給手段から導線8を介して所定の電圧が印加されると、それぞれの電極表面で以下の反応が生じる。
【0039】
作用極4:CH
3COO
OH(PAA)+2H
++2e
−→CH
3COOH+H
2O
対極5 :2H
2O+O
2+4e
−←4OH
−
【0040】
そして、上述した酸化還元反応が生じたときに流れた電流の電流値が、電流計9で測定され、当該電流値を示す出力信号が計器本体部へ送信される。電流値を示す出力信号を受信した計器本体部は、予め定められた変換式あるいは変換表を参照して該出力信号から試料溶液に含まれる過酢酸濃度を算出し、該過酢酸濃度を表示する。
【0041】
上述したように構成した本実施形態における過酢酸濃度計は、以下のような格別の効果を有する。
【0042】
つまり、内部液13に、水素イオン濃度に対して緩衝作用を有する緩衝液が用いられるので、例え過酢酸濃度を測定中に内部液13が試料溶液側に漏出したとしても、試料溶液に含まれる過酢酸と緩衝液とは反応しないので、過酢酸の濃度が低下することはなく、試料溶液の消毒・滅菌作用を保つことができる。
また、緩衝液にヨウ素や臭素のような残留性はないので、内部液13が医療分野や食品分野で用いられる試料溶液に漏出したとしても、生体への影響を防ぐことができる。
加えて、緩衝液は臭素のように有毒なガスが発生するものではないので、作業者の心理的な負担を軽減することができる。
【0043】
また、試料溶液中の過酢酸は、上述した反応によって作用極4の表面で酢酸に変化するので、反応がすすむにつれて内部液13中に酢酸が増加して、内部液13が酸性に移行するおそれがあるが、本実施形態の内部液13は緩衝液で構成されるので、内部液13が酸性に移行することを防ぐことができる。
【0044】
さらに、容器1aに空気孔7が設けられているので、容器1aに蓋部1bを取り付けた際に容器1aと蓋部1bとの間に生じる内圧を空気孔7から逃がすことができる。
【0045】
加えて、隔膜11が中間膜12と接触する領域をさけて、隔膜11における試料溶液側の面に保護膜15が設けられているので、保護膜15によって、隔膜11が破損することを防ぎ、内部液13が試料溶液側に漏出することを防ぐことができる。また、試料溶液中の不純物等が隔膜11を介して内部液13内に侵入することを防ぐことができ、測定精度を高めることができる。
【0046】
また、隔膜11がシリコン、フッ素樹脂又はポリエチレンを含む材料で構成されるので、内部液13を緩衝液で構成した場合であっても、過酢酸濃度を測定することができる。
【0047】
上記内容を検証するため、以下の試験を行った。
【0048】
この試験は、過酢酸濃度を測定する過酢酸濃度計において、内部液を緩衝液で構成した場合であっても、作用極の応答性を低下させることなく、過酢酸濃度を測定することができる隔膜の素材を調べるためのものである。
【0049】
そして、試験に供する試料溶液として過酢酸溶液及び純水を用いた。
また、試験に供するサンプルとして、隔膜と、隔膜を透過した過酢酸が溶解する内部液と、内部液に浸漬される作用極及び対極とを備えるセンサ部とを備える過酢酸濃度計を3つ用意した。
【0050】
各サンプルについて、以下に詳述する。
【0051】
過酢酸濃度計Aは、隔膜にポリブチレンテレフタラート(PBT)からなる多孔質膜を用いるとともに、内部液にはリン酸緩衝溶液、作用極には金、対極には白金を用いたものである。
【0052】
過酢酸濃度計Bは、隔膜にシリコンからなる多孔質膜を用いたものである。内部液、作用極、対極の構成は過酢酸濃度計Aと同様であるので説明を省略する。
【0053】
過酢酸濃度計Cは、隔膜にPE系熱可塑性エラストマー樹脂を用いたものである。内部液、作用極、対極の構成は過酢酸濃度計Aと同様であるので説明を省略する。
【0054】
そして、上述した過酢酸濃度計A〜Cを用いて、試料溶液に浸漬させたときの電流値と電流が流れた時間を調べた。この結果を
図5〜7に示す。
【0055】
過酢酸濃度計Aの試験結果を
図5に示す。
図5に示すように、過酢酸濃度計Aでは、過酢酸溶液に浸漬させた場合も純水に浸漬させた場合も電流値を計測することはできなかった。
【0056】
これは、過酢酸濃度計Aでは、過酢酸溶液中の過酢酸が隔膜をほとんど透過することができず、そのため電流値を計測することができなかったと考えられる。
【0057】
過酢酸濃度計Bの試験結果を
図6に示す。
図6に示すように、過酢酸濃度計Bでは、純水に浸漬させても何も検知しないが、過酢酸溶液に浸漬させると約−100nAの電流が流れ、この電流が所定時間流れ続けた。そして、過酢酸溶液に過酢酸を追加すると、これを受けて電流値が約−200nAに変わり、この電流値が所定時間流れ続けた。さらに、過酢酸溶液に過酢酸を追加すると、これを受けて電流値が約−350nAに変わり、この電流値が所定時間流れ続けた。
【0058】
これは、過酢酸濃度計Bでは、過酢酸溶液中の過酢酸が隔膜を透過して隔膜を透過した過酢酸が内部液に溶解することで、作用極及び対極表面で酸化還元反応が継続的に生じたので、一定の電流値が所定時間持続したと考えられる。そのため、過酢酸濃度計Bでは、電流値を安定的に計測することができ、過酢酸を精度よく測定可能であることが分かる。
【0059】
過酢酸濃度計Cの試験結果を
図7に示す。
図7に示すように、過酢酸濃度計Cでは、純水に浸漬させても何も検知しないが、過酢酸溶液に浸漬させると電流値が約−100nAで安定化し、この値が所定時間持続した。また、過酢酸溶液に過酢酸を追加すると、これを受けて電流値が約−500nAに変わり、この電流値が所定時間持続する。さらに、過酢酸溶液に過酢酸を追加すると、これを受けて電流値が約−750nAに変わり、この電流値が所定時間持続した。
【0060】
これは、過酢酸濃度計Cでは、過酢酸濃度計Bと同様に過酢酸溶液中の過酢酸が隔膜を透過して、酸化還元反応が作用極及び対極で生じたためと考えられる。そのため、過酢酸濃度計Cにおいても、電流値を計測することができ、過酢酸を測定可能であることが分かる。
【0061】
以上の結果から、隔膜11をシリコン、フッ素樹脂又はポリエチレンを含む材料で構成すれば、過酢酸濃度を測定することができる。
なお、上述した試験結果は中間膜12を含まないものであったが、中間膜12を含むものであっても同様の結果が生じた。
【0062】
また、本実施形態における過酢酸濃度計は、以下のような格別な効果を有する。
【0063】
つまり、作用極4が、内部液13に対してぬれ性を有する中間膜12を介して隔膜11に接触しているもので、この中間膜12によって隔膜11と作用極4とが密着することを防ぎ、作用極4に過酢酸が供給されにくくなることを防止して、センサ部1での反応性を犠牲にすることなく、センサ部1の応答性を改善することができる。
また、中間膜12が多孔質膜であるので、過酢酸が作用極4の表面に到達するまでの距離をさらに縮めることができ、センサ部1の応答性をさらに向上させることができる。また、多孔質膜の細孔を通じて内部液13を作用極4の表面に供給することができるので、作用極4の表面に内部液13を安定して供給することができ、センサ部1を安定化させることができる。
【0064】
上記内容を検討するため、以下の試験を行った。
【0065】
この試験は、隔膜11と作用極4との間に中間膜12を介した場合において、作用極4の表面での応答性を比較することを目的とするものである。
【0066】
試験に供する試料溶液として過酢酸溶液を用いた。
また、試験に供するサンプルとして、過酢酸が透過する隔膜と、隔膜を透過した過酢酸が溶解する内部液と、内部液に浸漬される作用極及び対極とを備えるセンサ部とを備える過酢酸濃度計を2つ用意した。
【0067】
過酢酸濃度計Dは、上述の構成を備えるとともに、隔膜にはシリコン、内部液にはリン酸緩衝溶液、作用極には金、対極には白金が用いられたものである。
【0068】
過酢酸濃度計Eは、上述の構成に加えて、作用極が中間膜を介して隔膜に接触するものであって、この中間膜はポリカーボネイトから構成されるとともに、0.05μm〜100μmの細孔が無数に設けられた多孔質なものを用いた。その他の隔膜、内部液、作用極には過酢酸濃度計Dと同様なものを用いた。
【0069】
上述した過酢酸濃度計D、Eを用いて以下の試験を行った。
【0070】
<過酢酸濃度測定試験>
上述した過酢酸濃度計D、Eを試料溶液に浸漬し、過酢酸濃度計D、Eがそれぞれ検知した電流値から過酢酸濃度を測定した。
図8及び9は、その算出結果を示すグラフであって、縦軸に過酢酸濃度、横軸に時間を示すものである。
<加圧試験>
隔膜を透過する試料溶液の流量を一定にするとともに、隔膜にかかる圧力を0KPaとした状態で隔膜に100KPaの圧力を負荷、つまり作用極へ隔膜が押し付けられる状態を再現した。
【0071】
過酢酸濃度計Dを用いた場合の試験結果を
図8に示す。
図8に示すように、加圧試験が行われるまで、過酢酸濃度計Dは過酢酸濃度を安定的に測定した。
しかしながら、加圧試験が実施されると、過酢酸濃度計Dが測定する過酢酸濃度は大幅に減少した。そして、加圧試験が終了すると、過酢酸濃度が大幅に増加して、過酢酸濃度計Dは加圧試験前の同様に安定的に過酢酸濃度を測定した。
【0072】
次に、過酢酸濃度計Eを用いた場合の試験結果を
図9に示す。
図9に示すように、過酢酸濃度計Eは、加圧試験の実施に関わらず、過酢酸濃度を安定的に測定した。
【0073】
以上の結果より、中間膜を有さない過酢酸濃度計Dは、隔膜に圧力がかかると過酢酸を測定することができなくなる一方で、過酢酸濃度計Eは、隔膜にかかる圧力に関わらず安定的に過酢酸を測定することができた。
【0074】
これは、過酢酸濃度計Dは中間膜を有さないので、隔膜に圧力がかかると、隔膜と作用極とが隙間無く接触してしまい、内部液を供給して酸化還元反応を起こすことが可能な作用極表面の有効面積が減って、作用極表面での反応が阻害されることで作用極の応答性が悪くなったためと考えられる。
一方、過酢酸濃度計Eは作用極と隔膜との間に中間膜を有し、この中間膜が内部液に対してぬれ性を有するとともに多孔質なものであるので、隔膜に圧力が加えられたとしても中間膜の表面に設けられた内部液の液層や中間膜に設けられた無数の細孔から、作用極表面に安定して内部液に溶解した過酢酸を供給することができ、過酢酸濃度を安定的に測定することができたためと考えられる。
【0075】
さらに、
図8と
図9を比較すると、明らかに
図9のグラフの立ち上がり方が、
図8のグラフに比べて早く、過酢酸濃度計Eの方が過酢酸濃度計Dよりもセンサ部の応答性が早いことが分かる。
【0076】
これは、作用極と隔膜との間に中間膜を介さない過酢酸濃度計Dでは、所々で作用極と隔膜とが密着して作用極の表面に内部液を供給し難くなる部位が発生して作用極の表面の有効面積が減少するのに対し、作用極と隔膜との間に中間膜を介する過酢酸濃度計Eでは、作用極の表面に内部液が供給し難くなる部位が生じないので、作用極の表面の有効面積が減少することなく、安定的に反応が生じたためと考えられる。
【0077】
そのため、作用極4を中間膜12を介して隔膜11と接触させることで、センサ部1の応答性を向上することができるとともに、センサ部1を安定化することができる。
【0078】
さらに、この中間膜12をポリマー等で構成する、特にポリカーボネイトを用いることで、作用極4の応答性をより向上させることができる。
【表1】
【0079】
上述した表1は、中間膜にそれぞれの素材を用いた場合の90%応答時間を示したものである。
【0080】
表1に示すように、ポリカーボネイトは他の素材に比べて90%応答時間が早いことが分かる。これは、ポリカーボネイトの膜厚が、他の素材に比べて薄く、内部液が
膜を通りぬける時間を短縮させることができるので、他の素材に比べて応答時間を早くしてセンサの応答性を向上することができたと考えられる。
【0081】
また、逆にポリプロピレンとポリエチレンを用いた混合樹脂(PP+PE)では、90%応答時間が他の素材に比べて遅いことが分かる。これは、その細孔の孔径が他の素材に比べて小さいことに加えて、ポリカーボネイト、PTFE、ポリイミドに設けられた細孔は比較的規則正しく配列されているのに対し、上記混合樹脂の細孔はランダムに配列されているので、内部液が通過する時間が、他の素材のものよりも時間がかかったためと考えられる。
【0082】
この結果から、センサの応答性を向上するためには、中間膜の膜厚を薄くすることや、その細孔の孔径を気泡が入り込まない程度に大きくすること、中間膜に設けられた細孔の配列を規則的に並べたものを用いればよいことが分かる。
【0083】
但し、中間膜の膜厚を薄くしすぎると中間膜が破損するおそれがあり、その取り扱いが難しいものとなってしまうので、中間膜の膜厚は1μm〜100μmであることが望ましい。また、細孔の大きさは、中間膜の材質や膜厚にもよるが、0.05μm〜100μmであることが望ましい。
【0084】
なお、上述の結果から、隔膜11の膜厚についても薄く構成した方が、センサの応答性を向上することができることが分かる。
【0085】
本発明は、上記実施形態に限られたものではない。
【0086】
上記実施形態では、内部液が緩衝液のみから構成されるものであったが、例えば、内部液が、緩衝液と過酢酸に反応しない物質とを含んだものであってもよい。この場合、過酢酸に反応しない物質は、生体物質にも反応しないものを用いることもできる。
このように構成すれば、内部液が試料溶液側に漏出したとしても、内部液と緩衝液とが反応することを防いで、試料溶液の消毒・滅菌作用を保つことができる。
また、内部液に含まれる物質が生体物質と反応しないものであれば、緩衝液が漏出した内部液を用いても、生体への影響を防ぐことができる。
【0087】
本発明は、その趣旨に反しない範囲で様々な変形が可能である。