特許第6262081号(P6262081)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6262081
(24)【登録日】2017年12月22日
(45)【発行日】2018年1月17日
(54)【発明の名称】変速機クラッチトルク推定方法
(51)【国際特許分類】
   F16H 61/02 20060101AFI20180104BHJP
   F16H 61/688 20060101ALI20180104BHJP
   F16D 48/06 20060101ALI20180104BHJP
   F02D 45/00 20060101ALI20180104BHJP
【FI】
   F16H61/02
   F16H61/688
   F16D48/06 102
   F02D45/00 362H
   F02D45/00 364A
【請求項の数】8
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2014-117807(P2014-117807)
(22)【出願日】2014年6月6日
(65)【公開番号】特開2015-113978(P2015-113978A)
(43)【公開日】2015年6月22日
【審査請求日】2017年1月23日
(31)【優先権主張番号】10-2013-0155750
(32)【優先日】2013年12月13日
(33)【優先権主張国】KR
(73)【特許権者】
【識別番号】591251636
【氏名又は名称】現代自動車株式会社
【氏名又は名称原語表記】HYUNDAI MOTOR COMPANY
(73)【特許権者】
【識別番号】500518050
【氏名又は名称】起亞自動車株式会社
【氏名又は名称原語表記】KIA MOTORS CORPORATION
(74)【代理人】
【識別番号】100107582
【弁理士】
【氏名又は名称】関根 毅
(74)【代理人】
【識別番号】100117787
【弁理士】
【氏名又は名称】勝沼 宏仁
(74)【代理人】
【識別番号】100127465
【弁理士】
【氏名又は名称】堀田 幸裕
(74)【代理人】
【識別番号】100158964
【弁理士】
【氏名又は名称】岡村 和郎
(72)【発明者】
【氏名】キム、ジン、ソン
【審査官】 星名 真幸
(56)【参考文献】
【文献】 特開2010−059801(JP,A)
【文献】 特開2005−155410(JP,A)
【文献】 特開2007−001567(JP,A)
【文献】 特開2010−060079(JP,A)
【文献】 特開2009−243463(JP,A)
【文献】 特開2005−083465(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16H 61/02
F02D 45/00
F16D 48/06
F16H 61/688
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
センサーで測定されたエンジン角速度、データマップによって導出されたエンジン静的トルク、および走行負荷による負荷トルクから、エンジン過渡トルクを導出するエラー補正段階と、
前記エンジン静的トルクおよび前記エンジン過渡トルクからエンジン角速度推定値を導出する角速度導出段階と、
前記エンジン角速度推定値と前記エンジン角速度との差である差異値を用いた積分値に、前記差異値を用いたエラー補償値を加えて、変速機クラッチのスリップによるクラッチトルク推定値を導出する結果導出段階と、を含んでなることを特徴とする、変速機クラッチトルク推定方法。
【請求項2】
前記角速度導出段階は、前記結果導出段階で推定された前記クラッチトルク推定値のフィードバックを受け、前記エンジン静的トルク、前記エンジン過渡トルクおよび前記クラッチトルク推定値を共に考慮して前記エンジン角速度推定値を導出することを特徴とする、請求項1に記載の変速機クラッチトルク推定方法。
【請求項3】
前記エラー補正段階は、前記エンジン角速度の積分およびエンジン慣性モーメントを用いてエンジン出力トルクを導出し、前記エンジン出力トルク、前記エンジン静的トルクおよび前記負荷トルクから前記エンジン過渡トルクを導出することを特徴とする、請求項1に記載の変速機クラッチトルク推定方法。
【請求項4】
前記エラー補正段階は、前記エンジン出力トルクから前記エンジン静的トルクを除去し、前記負荷トルクを合算して前記エンジン過渡トルクを導出することを特徴とする、請求項3に記載の変速機クラッチトルク推定方法。
【請求項5】
前記エラー補正段階は、導出された前記エンジン過渡トルクを低域通過フィルタリングして前記エンジン過渡トルクの最終結果として導出することを特徴とする、請求項1に記載の変速機クラッチトルク推定方法。
【請求項6】
前記角速度導出段階は、前記エンジン静的トルクと前記エンジン過渡トルクを合算し、エンジン慣性モーメントを用いて前記エンジン角速度推定値を逆に導出することを特徴とする、請求項1に記載の変速機クラッチトルク推定方法。
【請求項7】
前記結果導出段階は、前記エンジン角速度推定値と前記エンジン角速度との差異値に係数(L3)を掛けて前記エラー補償値を導出することを特徴とする、請求項1に記載の変速機クラッチトルク推定方法。
【請求項8】
過渡状態におけるエンジン出力トルクに該当するエンジン過渡トルクを導出するエラー補正段階と、
エンジン静的トルクおよび前記エンジン過渡トルクからエンジン角速度推定値を導出する角速度導出段階と、
前記エンジン角速度推定値とエンジン角速度との差である差異値を用いた積分値に、前記差異値を用いたエラー補償値を加えて、変速機クラッチのスリップによるクラッチトルク推定値を導出する結果導出段階とを含んでなることを特徴とする、変速機クラッチトルク推定方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、変速機クラッチ、特にDCTの乾式クラッチにおいてスリップによって伝達される正確なトルク値を推定するための変速機クラッチトルク推定方法に関する。
【背景技術】
【0002】
最近、自動変速機の運転便宜性と手動変速機の燃費性能および高い動力効率とを同時に達成することが可能なデュアルクラッチ変速機(DCT)の開発が盛んに行われている。DCTは、手動変速機システムを基盤とする自動化変速機であって、2つのトルク伝達軸を有し、トルクコンバータなしでクラッチを自動制御して燃費効率が高いという利点がある。しかし、乾式クラッチを用いたDCTシステムは、トルクコンバータなしでクラッチを直ちに締結するため、クラッチ制御性能が車両の発振および変速性能を左右する。しかも、クラッチディスクの摩擦面に発生する伝達トルクを直接測定することが不可能であるため、車両に取り付けられた既存センサーの値情報を活用してクラッチ伝達トルクを把握することが重要である。
【0003】
既存のクラッチトルク予測技法は、制御工学のオブザーバ理論(observer theory)を活用した方法が使用されている。これはエンジントルクを基盤としてクラッチディスクスリップの際に発生する伝達トルクを計算する方法である。この際、ECUから出力されるエンジントルクは、静的状態で繰り返し実験によって得たデータを基盤とする。しかし、クラッチトルク情報が必要な時点は、常にエンジンの過渡状態に該当(クリープ/発振など)するので、ECUのエンジントルクと実際値との差が発生する。よって、不確実なエンジントルクから得られたクラッチトルク予測値もエラーを持つという問題点がある。
【0004】
そこで、本発明では、不確実なエンジントルクモデルのエラーを補正して正確なクラッチトルク予測方法を提案しようとする。
【0005】
前述の背景技術として説明された事項は、本発明の背景に対する理解増進のためのものに過ぎず、当該技術分野における通常の知識を有する者に、公知の従来の技術に該当することを認定するものと受け入れられてはならない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】韓国特許公開第10−2013−0060071号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、変速機クラッチ、特にDCTの乾式クラッチにおいてスリップによって伝達される正確なトルク値を推定するための変速機クラッチトルク推定方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するために、本発明に係る変速機クラッチトルク推定方法は、センサーで測定されたエンジン角速度、データマップによって導出されたエンジン静的トルク、および走行負荷による負荷トルクから、エンジン過渡トルクを導出するエラー補正段階と、エンジン静的トルクおよびエンジン過渡トルクからエンジン角速度推定値を導出する角速度導出段階と、エンジン角速度推定値とエンジン角速度の差から変速機クラッチのスリップによるクラッチトルク推定値を導出する結果導出段階とを含んでなる。
【0009】
角速度導出段階は、結果導出段階で推定されたクラッチトルク推定値のフィードバックを受け、エンジン静的トルク、エンジン過渡トルクおよびクラッチトルク推定値を共に考慮してエンジン角速度推定値を導出することができる。
【0010】
エラー補正段階は、エンジン角速度の積分およびエンジン慣性モーメントを用いてエンジン出力トルクを導出し、エンジン出力トルク、エンジン静的トルクおよび負荷トルクを用いてエンジン過渡トルクを導出することができる。
【0011】
エラー補正段階は、エンジン出力トルクからエンジン静的トルクを除去し、負荷トルクを合算してエンジン過渡トルクを導出することができる。
【0012】
エラー補正段階は、導出されたエンジン過渡トルクを低域通過フィルタリングしてエンジン過渡トルクの最終結果として導出することができる。
【0013】
角速度導出段階は、エンジン静的トルクとエンジン過渡トルクを合算し、エンジン慣性モーメントを用いてエンジン角速度推定値を逆に導出することができる。
【発明の効果】
【0014】
上述したような構造の変速機クラッチトルク推定方法によれば、クラッチ、特にDCTの乾式クラッチにおいてスリップによって伝達される正確なトルク値を推定することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】本発明の一実施例に係る変速機クラッチトルク推定方法のブロック図である。
図2】本発明の一実施例に係る変速機クラッチトルク推定方法のフローチャートである。
図3A】本発明の一実施例に係る変速機クラッチトルク推定方法の効果を示すグラフである。
図3B】本発明の一実施例に係る変速機クラッチトルク推定方法の効果を示すグラフである。
図4A】本発明の一実施例に係る変速機クラッチトルク推定方法の効果を示すグラフである。
図4B】本発明の一実施例に係る変速機クラッチトルク推定方法の効果を示すグラフである。
図5A】本発明の一実施例に係る変速機クラッチトルク推定方法の効果を示すグラフである。
図5B】本発明の一実施例に係る変速機クラッチトルク推定方法の効果を示すグラフである。
図6A】本発明の一実施例に係る変速機クラッチトルク推定方法の効果を示すグラフである。
図6B】本発明の一実施例に係る変速機クラッチトルク推定方法の効果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、添付図面を参照して、本発明の好適な実施例に係る変速機クラッチトルク推定方法について説明する。
【0017】
図1は本発明の一実施例に係る変速機クラッチトルク推定方法のブロック図、図2は本発明の一実施例に係る変速機クラッチトルク推定方法のフローチャート、図3図6は本発明の一実施例に係る変速機クラッチトルク推定方法の効果を示すグラフである。
【0018】
本発明に係る変速機クラッチトルク推定方法は、センサーで測定されたエンジン角速度、データマップによって導出されたエンジン静的トルク、および走行負荷による負荷トルクからエンジン過渡トルクを導出するエラー補正段階と、エンジン静的トルクおよびエンジン過渡トルクからエンジン角速度推定値を導出する角速度導出段階と、エンジン角速度推定値とエンジン角速度の差から変速機クラッチのスリップによるクラッチトルク推定値を導出する結果導出段階とを含んでなる。
【0019】
図1のブロック図を参照すると、エンジンシステムの場合、ダイナミクス的な観点からみると、エンジン静的トルク(Te_TQI)とエンジン過渡トルク(δ)がエンジンの総発生トルクとして規定され、これから走行負荷による実際負荷トルク(T)および変速機クラッチのスリップによる実際クラッチトルク(T)の損失が発生した後、フライホイール側へ出力される。フライホイールには速度センサーが設けられ、実際のエンジン角速度(ω)が測定される。
【0020】
すなわち、ペダル踏み込み量(APS)、およびフライホイール側の速度センサーで測定されたエンジン角速度(ω)の入力を受け、これを、エンジンECUに予め試験値として設けられたデータマップに代入することにより、定常状態(STEADY STATE)のエンジン静的トルク(Te_TQI)を得ることができる。そして、そのエンジン静的トルク(Te_TQI)にエンジン過渡トルク(δ)が加えられて実際エンジンの駆動トルクが構成される。
【0021】
したがって、変速機のクラッチスリップトルクを正確に予測するためには、このようなエンジンの低いRPM領域でよく発生する過渡状態(TRANSIENT STATE)のエンジン過渡トルクを正確に予測し、これを反映すれば、正確なクラッチトルクを推定することができる。これは特にDCT変速機の乾式クラッチを制御するに際してクラッチの耐久度に大きい影響を及ぼす。
【0022】
エンジンダイナミクスに関する定理は、次の式で表現できる。
【数1】
【0023】
具体的に、図1のように、センサーで測定されたエンジン角速度(ω)、データマップによって導出されたエンジン静的トルク(Te_TQI)、および走行負荷による負荷トルク(TL0)からエンジン過渡トルク
を導出するエラー補正段階を行う。エラー補正段階は、エンジン角速度の積分およびエンジン慣性モーメントを用いてエンジン出力トルクを導出し、エンジン出力トルク、エンジン静的トルクおよび負荷トルクを用いてエンジン過渡トルクを導出することができる。また、エラー補正段階は、エンジン出力トルクからエンジン静的トルクを除去し、負荷トルクを合算してエンジン過渡トルクを導出することができる。
【0024】
エラー補正段階は、導出されたエンジン過渡トルクを低域通過フィルタリングしてエンジン過渡トルクの最終結果として導出することができる。
【0025】
すなわち、測定されたエンジン角速度(ω)を積分し、これにエンジン慣性モーメント(J)を掛けてエンジン出力端の実測トルクを求める。エンジン実測トルクからデータマップによるエンジン静的トルク(Te_TQI)を除去する。また、これに計算された走行負荷による負荷トルク(TL0)を加えることにより、エンジン過渡トルク
を算出することができる。一方、エンジンが過渡状態で特定周波数以内の範囲で動作するから、このようなエンジン過渡トルクの場合、低域通過フィルターを経ることにより、得ようとするエンジン過渡トルクを正確に求めることができる。求められたエンジン過渡トルク
はロジック上で推定値により定義される。
【0026】
参照として、負荷トルク(TL0)の計算は、次の式によって行われ得る。
【数2】
【0027】
その後、エンジン静的トルクおよびエンジン過渡トルクを用いてエンジン角速度推定値を導出する角速度導出段階を行う。角速度導出段階は、結果導出段階で推定されたクラッチトルク推定値のフィードバックを受け、エンジン静的トルク、エンジン過渡トルクおよびクラッチトルク推定値を共に考慮してエンジン角速度推定値を導出することができる。
【0028】
また、角速度導出段階は、エンジン静的トルクとエンジン過渡トルクを合算し、エンジン慣性モーメントを用いてエンジン角速度推定値を逆に導出することができる。
【0029】
すなわち、推定されたエンジン過渡トルク値
にエンジン静的トルク(Te_TQI)を加えてエンジンの総トルクを求める。これをエンジン慣性モーメント(J)で割り、積分してエンジン角速度推定値
を求める。
【0030】
実測されたエンジン角速度(ω)とエンジン角速度推定値
との差異分には直ちにクラッチトルクによる影響が反映されているという理論的仮定の下で、その差異分から積分と係数(L、L)を用いてクラッチトルク推定値
を得ることができる。しかも、本発明の場合、エンジン角速度(ω)とエンジン角速度推定値
の差異値に係数(L)を掛けてエラー補償値を導出し、これを積分された値と合算してクラッチトルク推定値
を得ることにより、低トルク領域でより信頼性のある推定値を得ることができる。
【0031】
クラッチトルク推定値
は、実測されたエンジン角速度(ω)とエンジン角速度推定値
との差異分と共にさらにフィードバックされてクラッチトルク推定値の導出に利用される。
【0032】
フィードバックされる値は、図1に示すように、エンジン静的トルク(Te_TQI)とエンジン過渡トルク
との合算分から除去された後、エンジン角速度推定値
を導出するようにすることにより、反復的なフィードバックによって正確なクラッチトルク推定値に収斂する。
【0033】
このようなフィードバック制御における係数(L、L、L、L)はチューニングファクターとして存在する。
【0034】
図3A〜図6Bは本発明の一実施例に係る変速機クラッチトルク推定方法の効果を示すグラフであって、それぞれAPS、すなわちアクセルペダル開度10%、20%、25%、30%における従来の発明と本発明の推定トルクとの差異を示す。このグラフにおいて、オブザーバトルク(既存)の場合は結果導出段階を行っていない場合のクラッチトルク推定値を示し、オブザーバトルク(新規)の場合は結果導出段階でエラー補償値を加えていない場合を示し、オブザーバトルク(新規改善)の場合は結果導出段階でエラー補償値まで加えた完全な本発明の実施例の場合を示す。このようなグラフの結果からも分かるように、本発明はさらに実測値に近いクラッチトルク推定値を求めることができる。
【0035】
このような本発明によれば、ECUエンジントルク値と実際エンジントルク間のエラーを実時間で補正してクラッチトルクの予測に活用し、エンジントルクが不確実な走行領域でもクラッチトルクを正確に予測することができる。また、既存のエンジントルクを基盤とする技法に比べて信頼性/正確性の向上を図り、定常状態ではエンジントルクエラー補正ロジックを除外することもできる。
【0036】
その上、クラッチトルク−クラッチアクチュエータ位置間の情報(Torque−Stroke線図)を必要としないという利点もある。
【0037】
特に、エンジンRPM低速領域(1000RPM以下またはAPS30%以下のエンジン低トルク領域)における正確度が高い。また、本発明によれば、エンジンRPMをダイレクトにフィードバックする方法を適用することにより、エンジンのダイナミクスな変化に対する敏感度が高く、エンジンRPM低速領域でエンジンRPM積分のフィードバック方式より20%以上エラー率が減少するうえ、正確度が増加する。
【0038】
本発明を特定の実施例について図示および説明したが、特許請求の範囲によって提供される本発明の技術的思想を逸脱しない範疇内において、本発明に様々な改良および変化を加え得るのは、当該分野における通常の知識を有する者にとって自明であろう。
【符号の説明】
【0039】
S100 エラー補正段階
S200 角速度導出段階
S300 結果導出段階
図1
図2
図3A
図3B
図4A
図4B
図5A
図5B
図6A
図6B