特許第6262142号(P6262142)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6262142インクジェット捺染用インクセット及びそれを用いた繊維の捺染方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6262142
(24)【登録日】2017年12月22日
(45)【発行日】2018年1月17日
(54)【発明の名称】インクジェット捺染用インクセット及びそれを用いた繊維の捺染方法
(51)【国際特許分類】
   C09D 11/328 20140101AFI20180104BHJP
   C09D 11/40 20140101ALI20180104BHJP
   C09B 29/30 20060101ALI20180104BHJP
   D06P 1/39 20060101ALI20180104BHJP
   D06P 3/24 20060101ALI20180104BHJP
   D06P 5/30 20060101ALI20180104BHJP
   D06P 5/20 20060101ALI20180104BHJP
   C09B 67/44 20060101ALI20180104BHJP
   D06P 3/87 20060101ALI20180104BHJP
   B41M 5/00 20060101ALI20180104BHJP
   B41J 2/01 20060101ALI20180104BHJP
【FI】
   C09D11/328
   C09D11/40
   C09B29/30
   D06P1/39
   D06P3/24 C
   D06P5/30
   D06P5/20 C
   C09B67/44 A
   D06P3/87 D
   B41M5/00 120
   B41M5/00 100
   B41J2/01 501
   B41J2/01 125
【請求項の数】13
【全頁数】23
(21)【出願番号】特願2014-543254(P2014-543254)
(86)(22)【出願日】2013年10月17日
(86)【国際出願番号】JP2013078153
(87)【国際公開番号】WO2014065181
(87)【国際公開日】20140501
【審査請求日】2016年8月24日
(31)【優先権主張番号】特願2012-237027(P2012-237027)
(32)【優先日】2012年10月26日
(33)【優先権主張国】JP
(31)【優先権主張番号】特願2012-237021(P2012-237021)
(32)【優先日】2012年10月26日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000004086
【氏名又は名称】日本化薬株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100106002
【弁理士】
【氏名又は名称】正林 真之
(72)【発明者】
【氏名】清水 慎介
(72)【発明者】
【氏名】出島 禎之
(72)【発明者】
【氏名】樋口 比呂子
(72)【発明者】
【氏名】宍倉 由桂
【審査官】 上條 のぶよ
(56)【参考文献】
【文献】 特開2001−115073(JP,A)
【文献】 特開2002−080766(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2005/0160937(US,A1)
【文献】 米国特許出願公開第2005/0278873(US,A1)
【文献】 特表2002−517592(JP,A)
【文献】 特開2004−051776(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09D 11/00
B41J 2/01
B41M 5/00
C09B 29/30
C09B 67/44
D06P 1/00−5/30
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
それぞれ色素、水、及び水溶性有機溶剤を少なくとも含有する、マゼンタインク及びブルーインクの2色のインクを含むインクジェット捺染用インクセットであって、
前記マゼンタインクが、色素として少なくとも下記式(1)で表される色素又はその塩を含有し、
前記ブルーインクが、色素として少なくともC.I.Acid Blue 112を含有する、インクジェット捺染用インクセット。
【化1】
[式(1)中、Rは、水素原子又はC1−C6アルキル基であり、
nは、2〜4の整数であり、
Xは、NR、SR、又はORであり、
及びRはそれぞれ独立に、水素原子;C1−C6アルキル基;置換基としてヒドロキシ基、メトキシ基、カルボキシ基、又はスルホ基を有するC2−C6アルキル基;アラルキル基;置換基としてカルボキシ基又はスルホ基を有してもよいアリール基であり、
とRとはヘテロ原子を含むか又は含まない環を形成していてもよく、
は、置換基としてヒドロキシ基、メトキシ基、カルボキシ基、又はスルホ基を有してもよいC2−C6アルキル基であり、
は、水素原子又はC1−C6アルキル基であり、
は、水素原子;C1−C6アルキル基;置換基としてシアノ基、カルボキシ基、ヒドロキシ基、メトキシカルボニル基、エトキシカルボニル基、又はアセチル基を有するC2−C6アルキル基;又は、置換基としてメチル基又はハロゲン原子を有してもよいアリール基である。]
【請求項2】
前記ブルーインクが、色素としてC.I.Acid Blue 112以外のアントラキノン色素をさらに含有する、請求項1に記載のインクジェット捺染用インクセット。
【請求項3】
前記アントラキノン色素が、C.I.Acid Blue 23、25、27、35、40、41、43、45、47、49、52、57、58、62、62:1、63、64、65、68、69、74、78、78:1、79、80、81、81:1、96、111、124、127、127:1、129、129:1、138、138:1、140、145、150、175、215、230、277、277:1、344から選択される色素である、請求項2に記載のインクジェット捺染用インクセット。
【請求項4】
前記ブルーインクが、色素としてC.I.Acid Blue 140をさらに含有する、請求項1〜3のいずれか一項に記載のインクジェット捺染用インクセット。
【請求項5】
前記式(1)で表される色素において、
が水素原子であり、
nが2〜4の整数であり、
XがNR、OR、又はSRであり、
及びRがそれぞれ独立に、水素原子;C1−C6アルキル基;置換基としてヒドロキシ基又はスルホ基を有するC2−C6アルキル基であり、
が置換基としてヒドロキシ基、カルボキシ基、又はスルホ基を有してもよいC2−C6アルキル基であり、
が水素原子又はC1−C6アルキル基であり、
が水素原子;又は、置換基としてシアノ基を有するC2−C6アルキル基である、請求項1〜4のいずれか一項に記載のインクジェット捺染用インクセット。
【請求項6】
前記マゼンタインク及び前記ブルーインクのそれぞれの総質量中における色素の総含有量が、いずれも0.5〜20質量%である、請求項1〜5のいずれか一項に記載のインクジェット捺染用インクセット。
【請求項7】
前記マゼンタインクの総質量中における色素の総含有量が2〜10質量%であり、前記ブルーインクの総質量中における色素の総含有量が2〜8質量%である、請求項1〜6のいずれか一項に記載のインクジェット捺染用インクセット。
【請求項8】
前記ブルーインクに含有される色素の全てがC.I.Acid Blue 112である、請求項1に記載のインクジェット捺染用インクセット。
【請求項9】
前記マゼンタインクに含有される色素の全てが前記式(1)で表される色素又はその塩である、請求項1〜8のいずれか一項に記載のインクジェット捺染用インクセット。
【請求項10】
請求項1〜9のいずれか一項に記載のインクジェット捺染用インクセットを用い、少なくとも以下の工程A〜工程Cの3工程を順次行うことを含む、繊維のインクジェット捺染方法。
工程A:前記インクジェット捺染用インクセットに含まれる各インクの液滴を記録信号に応じてそれぞれ吐出させ、繊維に付着させる工程。
工程B:前記工程Aにより付着させた各インクの液滴中の色素を、熱により前記繊維に固着させる工程。
工程C:前記繊維に残存する未固着の色素を洗浄する工程。
【請求項11】
前記繊維が、ポリアミド繊維、及びポリアミド繊維を含有する混紡繊維から選択される繊維である、請求項10に記載のインクジェット捺染方法。
【請求項12】
請求項10又は11に記載のインクジェット捺染方法により捺染する工程を含む、印捺された繊維の製造方法。
【請求項13】
ポリアミド繊維、及びポリアミド繊維を含有する混紡繊維から選択される繊維の印捺に用いられる、請求項1〜9のいずれか一項に記載のインクジェット捺染用インクセット。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、インクジェット捺染用インクセット及びそれを用いた繊維の捺染方法に関する。
【背景技術】
【0002】
インクジェットプリンタを用いた繊維のインクジェット捺染は、スクリーン捺染、ローラー捺染、ロータリー捺染等の捺染方法に比べ、製版工程が不要であり工程が短縮できること;デジタル化されたデザインを、コンピュータを介してそのままプリントできること;多品種の製品を少量ずつであっても生産することが可能であること;色素(染料)色糊の廃液等が大幅に削減できること;等の多くのメリットがある。一方、従来の製版捺染に比べ、プリント速度が遅いこと;濃色を再現し難いこと;等の課題があった。このためインクジェット捺染は、見本反の製造や少量生産の範囲で使用されることが多かった。
近年、コンピュータの画像処理やプリントヘッド製造の技術的進歩によりインクジェットプリンタのプリント速度が大幅に向上されてきたことに加え、プリントデザインのデジタル化、プリント加工の多様化・小ロット化が市場で要求されてきたこと等を背景に、インクジェット捺染の普及が進んでいる。
インクジェット捺染用のインクとしては、シルク、ナイロン等のポリアミド系繊維用の酸性染料インク;ポリエステル系繊維用の分散染料インク;綿、レーヨン等のセルロース系繊維用の反応性染料(反応染料)インク;等が販売されている。
【0003】
酸性染料を用いたインクジェット捺染においては、通常、ブラック、イエロー、マゼンタ(レッドが用いられることもある)、及びブルー(シアンが用いられることもある)の4色のインクセットが用いられる。インクジェット捺染に用いるインクの性能としては、高画質、高堅牢性の印捺物の提供が可能で、且つ吐出安定性にも優れることが要望される。これらの要望に対し、これまでも種々のインクやインクセットが提案されてきた。その1つとして、C.I.Acid Blue 112又はC.I.Acid Blue 140を含有するインクが挙げられる。しかし、印捺物に対する各種の堅牢性がこれまで以上に求められており、従来のインクセットでは、特にマゼンタとブルーの混色部分における耐光性が悪いという問題が挙げられていた。
インクジェット捺染においては、通常、マゼンタインク及びブルーインクを用いてマゼンタ〜バイオレット〜ブルーの色相範囲を再現する。この色相範囲において、十分な耐光性を有するインクセットの提供が、市場から強く要望されている。
【0004】
特許文献1には、後記する式(1)で表されるアゾ化合物が開示されている。
特許文献2〜3には、C.I.Acid Blue 112を含有するインクジェット捺染用インク組成物が開示されている。
特許文献4には、C.I.Acid Blue 140を含有するインクジェット捺染用インク組成物が開示されている。
特許文献5には、良好な発色性と良好な堅牢性とを同時に得ることができるとされる、C.I.Acid Red 131を含有するインクジェット捺染用インク組成物が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特表平10−504856号公報
【特許文献2】特開2004−210806号公報
【特許文献3】特開2007−238798号公報
【特許文献4】特開2004−217819号公報
【特許文献5】特開2007−031562号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、マゼンタ〜バイオレット〜ブルーの色相範囲での耐光性が良好な、インクジェット捺染用のインクセットの提供を課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは上記課題を解決すべく鋭意研究を重ねた結果、特定の色素を含有する、少なくともマゼンタ及びブルーの2色のインクを備えるインクジェット捺染用インクセットが、マゼンタ〜バイオレット〜ブルーの色相範囲での耐光性に優れることを見出し、本発明を完成させた。
すなわち本発明は、以下の[1]〜[13]に関する。
【0008】
[1]
それぞれ色素、水、及び水溶性有機溶剤を少なくとも含有する、マゼンタインク及びブルーインクの2色のインクを含むインクジェット捺染用インクセットであって、
前記マゼンタインクが、色素として少なくとも下記式(1)で表される色素又はその塩を含有し、
前記ブルーインクが、色素として少なくともC.I.Acid Blue 112を含有する、インクジェット捺染用インクセット。
【化1】
[式(1)中、Rは、水素原子又はC1−C6アルキル基であり、
nは、2〜4の整数であり、
Xは、NR、SR、又はORであり、
及びRはそれぞれ独立に、水素原子;C1−C6アルキル基;置換基としてヒドロキシ基、メトキシ基、カルボキシ基、又はスルホ基を有するC2−C6アルキル基;アラルキル基;置換基としてカルボキシ基又はスルホ基を有してもよいアリール基であり、
とRとはヘテロ原子を含むか又は含まない環を形成していてもよく、
は、置換基としてヒドロキシ基、メトキシ基、カルボキシ基、又はスルホ基を有してもよいC2−C6アルキル基であり、
は、水素原子又はC1−C6アルキル基であり、
は、水素原子;C1−C6アルキル基;置換基としてシアノ基、カルボキシ基、ヒドロキシ基、メトキシカルボニル基、エトキシカルボニル基、又はアセチル基を有するC2−C6アルキル基;又は、置換基としてメチル基又はハロゲン原子を有してもよいアリール基である。]
【0009】
[2]
上記ブルーインクが、色素としてC.I.Acid Blue 112以外のアントラキノン色素をさらに含有する、上記[1]に記載のインクジェット捺染用インクセット。
[3]
上記アントラキノン色素が、C.I.Acid Blue 23、25、27、35、40、41、43、45、47、49、52、57、58、62、62:1、63、64、65、68、69、74、78、78:1、79、80、81、81:1、96、111、124、127、127:1、129、129:1、138、138:1、140、145、150、175、215、230、277、277:1、344から選択される色素である、上記[2]に記載のインクジェット捺染用インクセット。
[4]
上記ブルーインクが、色素としてC.I.Acid Blue 140をさらに含有する、上記[1]〜[3]のいずれか一項に記載のインクジェット捺染用インクセット。
[5]
上記式(1)で表される色素において、
が水素原子であり、
nが2〜4の整数であり、
XがNR、OR、又はSRであり、
及びRがそれぞれ独立に、水素原子;C1−C6アルキル基;置換基としてヒドロキシ基又はスルホ基を有するC2−C6アルキル基であり、
が置換基としてヒドロキシ基、カルボキシ基、又はスルホ基を有してもよいC2−C6アルキル基であり、
が水素原子又はC1−C6アルキル基であり、
が水素原子;又は、置換基としてシアノ基を有するC2−C6アルキル基である、上記[1]〜[4]のいずれか一項に記載のインクジェット捺染用インクセット。
[6]
上記マゼンタインク及び上記ブルーインクのそれぞれの総質量中における色素の総含有量が、いずれも0.5〜20質量%である、上記[1]〜[5]のいずれか一項に記載のインクジェット捺染用インクセット。
[7]
上記マゼンタインクの総質量中における色素の総含有量が2〜10質量%であり、上記ブルーインクの総質量中における色素の総含有量が2〜8質量%である、上記[1]〜[6]のいずれか一項に記載のインクジェット捺染用インクセット。
[8]
上記ブルーインクに含有される色素の全てがC.I.Acid Blue 112である、上記[1]に記載のインクジェット捺染用インクセット。
[9]
上記マゼンタインクに含有される色素の全てが上記式(1)で表される色素又はその塩である、上記[1]〜[8]のいずれか一項に記載のインクジェット捺染用インクセット。
[10]
上記[1]〜[9]のいずれか一項に記載のインクジェット捺染用インクセットを用い、少なくとも以下の工程A〜工程Cの3工程を順次行うことを含む、繊維のインクジェット捺染方法。
工程A:上記インクジェット捺染用インクセットに含まれる各インクの液滴を記録信号に応じてそれぞれ吐出させ、繊維に付着させる工程。
工程B:上記工程Aにより付着させた各インクの液滴中の色素を、熱により上記繊維に固着させる工程。
工程C:上記繊維に残存する未固着の色素を洗浄する工程。
[11]
上記繊維が、ポリアミド繊維、及びポリアミド繊維を含有する混紡繊維から選択される繊維である、上記[10]に記載のインクジェット捺染方法。
[12]
上記[10]又は[11]に記載のインクジェット捺染方法により捺染する工程を含む、印捺された繊維の製造方法。
[13]
ポリアミド繊維、及びポリアミド繊維を含有する混紡繊維から選択される繊維の印捺に用いられる、上記[1]〜[9]のいずれか一項に記載のインクジェット捺染用インクセット。
【発明の効果】
【0010】
本発明のインクジェット捺染用インクセット、及びこれを使用するインクジェット捺染方法により、マゼンタ〜バイオレット〜ブルーの色相範囲での耐光性に優れる印捺画像を得ることができる。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下に、本発明を詳細に説明する。
なお、本明細書においては特に断りのない限り、実施例を含めて「%」及び「部」数についてはいずれも質量基準で記載する。また同様に、単に「色素」と記載したときは、「色素又はその塩」の両者を意味する。
【0012】
上記式(1)中、C1−C6アルキル基としては、直鎖、分岐鎖、又は環状のアルキル基が挙げられる。
その具体例としては、メチル、エチル、n−プロピル、n−ブチル、n−ペンチル、n−ヘキシル等の直鎖のもの;イソプロピル、イソブチル、t−ブチル、イソペンチル、t−ペンチル、イソヘキシル、t−ヘキシル等の分岐鎖のもの;シクロプロピル、シクロブチル、シクロペンチル、シクロヘキシル等の環状のもの;等が挙げられる。
これらの中では直鎖又は分岐鎖のものが好ましく、直鎖のものがより好ましい。
【0013】
C2−C6アルキル基としては、上記C1−C6アルキル基のうち、C2−C6の範囲のものと同じ基が挙げられる。好ましいもの等についても同じである。
【0014】
アラルキル基としては、好ましくはC6−C12アリールC1−C10アルキル基、より好ましくはフェニルC1−C6アルキル基、さらに好ましくはフェニルC1−C4アルキル基(具体例としてはフェニルメチル、2−フェニルエチル、3−フェニルプロピル、4−フェニルブチル、5−フェニルペンチル、5−フェニルヘキシル、ナフチルメチル、ナフチルエチル等のアルキル部分が直鎖のもの;α−メチルベンジル等のアルキル部分が分岐鎖のもの)等が挙げられる。
【0015】
アリール基としては、C6−C10アリール基;環構成原子として窒素原子を1つ又は2つ有してもよい、5又は6員環アリール基;等が挙げられる。
前者の具体例としては、フェニル基やナフチル基が挙げられる。これらの中ではフェニル基が好ましい。
後者の具体例としては、窒素原子を1つ有するものとして、2−、3−、又は4−ピリジル基;窒素原子を2つ有するものとして、ピラジル基、3−又は4−ピリダジニル基、1−、4−、又は5−ピリミジニル基;等が挙げられる。
【0016】
ハロゲン原子としては、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、又はヨウ素原子が挙げられる。これらの中ではフッ素原子又は塩素原子が好ましく、塩素原子がより好ましい。
【0017】
とRとがヘテロ原子を含むか又は含まない環を形成するとき、前者としてはヘテロ原子として窒素原子又は酸素原子を1つ含む環を形成するのが好ましい。
前者の具体例としては、−NRの形で、1,4−ピペラジン−1−イル、4−メチルピペラジン−1−イル、モルホリン−4−イル等が挙げられる。
後者としては、−NRの形で、5又は6員環を形成するのが好ましい。その具体例としては、ピロリジン−1−イル、ピペリジン−1−イル等が挙げられる。
【0018】
上記のうち、式(1)で表される色素としては、
が水素原子であり、
nが2〜4の整数であり、
XがNR、OR、又はSRであり、
及びRがそれぞれ独立に、水素原子;C1−C6アルキル基;置換基としてヒドロキシ基又はスルホ基を有するC2−C6アルキル基であり、
が置換基としてヒドロキシ基、カルボキシ基、又はスルホ基を有してもよいC2−C6アルキル基であり、
が水素原子又はC1−C6アルキル基であり、
が水素原子;又は、置換基としてシアノ基を有するC2−C6アルキル基である色素が好ましい。
これらの中でも、
XがNRであり、
及びRがそれぞれ独立に、置換基としてヒドロキシを有するC2−C6(好ましくはC2−C4)アルキル基であり、
が水素原子である色素がより好ましい。
【0019】
上記式(1)で表される色素の具体例を下記表1に挙げるが、該式(1)で表される色素はこれらの具体例に限定されるものではない。
【0020】
【表1】
【0021】
上記式(1)で表される色素のうち特に好ましいものとして、下記式(2)で表される色素が挙げられる。
【0022】
【化2】
【0023】
インクの色調を望みの色に微調整する目的で、上記マゼンタインクは、式(1)で表される色素以外の他の色素を本発明により得られる効果を阻害しない範囲で含有してもよい。この際の式(1)で表される色素と他の色素との混合割合は、他の色素の物性等にもよるため一概にいうことは困難である。しかし、おおよその目安としては、マゼンタインクに含有される色素の総質量に対して、いずれも質量基準で他の色素は通常0〜50%、好ましくは0〜25%、より好ましくは0〜20%、さらに好ましくは0〜10%、特に好ましくは0〜5%である。
【0024】
上記マゼンタインクの色調を望みの色に微調整する目的で該インクに含有される他の色素としては、例えば、C.I.Acid Red 1、6、8、9、13、18、27、35、37、52、54、57、73、82、88、97、97:1、106、111、114、118、119、127、131、138、143、143:1、145、151、183、195、198、211、215、217、225、226、249、251、254、256、257、260、261、265、266、274、276、277、289、296、299、315、318、336、337、357、359、361、362、364、366、399、407、415、447等のレッド色の色素が挙げられる。これらの中ではC.I.Acid Red 52、131、249、289等が好ましい。
【0025】
上記ブルーインクに含有される色素は特に制限されず、公知の色素を用いることができる。色素としては、顔料よりも染料が好ましい。
ブルーインクに含有する色素としては、例えば、C.I.Acid Blue 1、7、9、15、23、25、27、35、40、41、43、45、47、49、52、57、58、61:1、62、62:1、63、64、65、68、69、72、74、78、78:1、79、80、81、81:1、83、90、92、96、103、104、111、112、113、114、120、124、127、127:1、128、129、129:1、138、138:1、140、142、145、150、156、158、171、175、182、185、193、199、201、203、204、205、207、209、215、220、221、224、225、229、230、239、249、258、260、264、277、277:1、278、279、280、284、290、296、298、300、317、324、333、335、338、342、344、350等のブルー色の色素が挙げられる。
これらの中でもアントラキノン色素が好ましく、C.I.Acid Blue 23、25、27、35、40、41、43、45、47、49、52、57、58、62、62:1、63、64、65、68、69、74、78、78:1、79、80、81、81:1、96、111、112、124、127、127:1、129、129:1、138、138:1、140、145、150、175、215、230、277、277:1、344から選択される色素がより好ましい。特に好ましくはC.I.Acid Blue 112(以下、「AB112」という。)又はC.I.Acid Blue 140(以下、「AB140」という。)である。
【0026】
インクの色調を望みの色に微調整する目的で、上記ブルーインクは、AB112又はAB140以外の他の色素を本発明により得られる効果を阻害しない範囲で含有してもよい。この際のAB112又はAB140と他の色素との混合割合は、他の色素の物性等にもよるため一概にいうことは困難である。しかし、おおよその目安としては、ブルーインクに含有される色素の総質量に対して、他の色素は通常0〜50%、好ましくは0〜25%、より好ましくは0〜20%、さらに好ましくは0〜10%、特に好ましくは0〜5%である。
【0027】
上記ブルーインクの色調を望みの色に微調整する目的で該インクに含有される他の色素としては、例えば、上記ブルーインクに含有される色素のうち、AB112及びAB140を除いた残りの色素と同じものが挙げられる。
【0028】
耐光性を重視するときは、他の色素は混合せずに、上記マゼンタインクが含有する色素の全てを式(1)で表される色素とし、上記ブルーインクが含有する色素の全てをAB112又はAB140とするのが特に好ましい。
【0029】
上記のマゼンタインク及びブルーインクのそれぞれの総質量中における色素の総含有量は、いずれも通常0.5〜20%である。
また、マゼンタインクの総質量中における色素の総含有量が2〜10%であり、ブルーインクの総質量中における色素の総含有量が2〜8%であるのが好ましい。
【0030】
上記のインクセットは、マゼンタインク及びブルーインクの2色の他に、フルカラーの捺染を目的として、イエロー、シアン、及びブラックの各インクを加えた5色のインクセットとしてもよい。イエロー、シアン、及びブラックの各インクに含有される色素は公知のものでよく、特に制限されない。色素としては、顔料よりも染料が好ましく、酸性染料であることがより好ましい。5色のインクセットとするとき、イエロー、シアン、及びブラックの各インクに含有される色素は1種類でもよいし、2種類以上を併用してもよい。
【0031】
上記5色のインクセットとして用いるとき、イエローインクに含有される色素としては、例えば、C.I.Acid Yellow 1、3、11、17、18、19、23、25、36、38、40、40:1、42、44、49、59、59:1、61、65、72、73、79、99、104、110、159、169、176、184、193、200、204、207、215、219、219:1、220、230、232、235、241、242、246等のイエロー色の色素が挙げられる。これらの中ではC.I.Acid Yellow 110、79が好ましい。
【0032】
上記5色のインクセットとして用いるとき、シアンインクに含有される色素としては、例えば、上記ブルーインクに含有されるブルー色の色素と同じものが挙げられる。それらの中ではC.I.Direct Blue 86、87が好ましい。
なお、シアンインクを併用するときは、ブルーインクとシアンインクとがそれぞれ含有する色素は、異なる色素であることが好ましい。また、これらのインクのうち少なくとも一方が2種類以上の色素を含有するときは、該2種類以上の色素のうち少なくとも1種類は他方が含有する色素と異なる色素であることが好ましい。
シアンインクの総質量中における色素の総含有量は通常0.5〜15%、好ましくは1〜10%、より好ましくは2〜7.5%である。
【0033】
上記5色のインクセットとして用いるとき、ブラックインクに含有される色素としては、例えば、C.I.Acid Black 1、2、3、24、24:1、26、31、50、52、52:1、58、60、63、107、109、112、119、132、140、155、172、187、188、194、207、222等のブラック色の色素が挙げられる。これらの中ではC.I.Acid Black 52、172が好ましい。
【0034】
上記ブラックインクとしては、ブルー色、オレンジ色、及びレッド色の3色の色素を含有する、いわゆる配合ブラックインクとしてもよい。また、配合ブラックインクの色調を望みの色に微調整する目的で、さらに他の色素を含有してもよい。
【0035】
上記配合ブラックインクに含有されるブルー色の色素としては、上記「ブルーインクに含有される色素」として挙げたブルー色の色素と同じものが挙げられる。
【0036】
上記配合ブラックインクに含有されるオレンジ色の色素としては、例えば、C.I.Acid Orange 3、7、8、10、19、24、51、56、67、74、80、86、87、88、89、94、95、107、108、116、122、127、140、142、144、149、152、156、162、166、168等が挙げられる。
【0037】
上記配合ブラックインクに含有されるレッド色の色素としては、上記「マゼンタインクの色調を望みの色に微調整する目的で該インクに含有される他の色素」として挙げたレッド色の色素と同じものが挙げられる。
【0038】
上記配合ブラックインクの色調を望みの色に微調整する目的でさらに含有される他の色素としては、例えば、C.I.Acid Brown 2、4、13、14、19、28、44、123、224、226、227、248、282、283、289、294、297、298、301、355、357、413等のブラウン色の色素;C.I.Acid Violet 17、19、21、42、43、47、48、49、54、66、78、90、97、102、109、126等のバイオレット色の色素;C.I.Acid Green 1、5、9、12、16、19、20、25、27、28、40、43、56、73、81、84、104、108、109等のグリーン色の色素;等がそれぞれ挙げられる。
【0039】
上記ブラックインク又は配合ブラックインクの総質量中における色素の総含有量は、通常0.5〜20%、好ましくは2〜17%、より好ましくは5〜15%である。
なお、配合ブラックインクとするとき、配合ブラックインクに含有されるブルー、オレンジ、レッドの各色素の含有量は、用いる色素の物性等により変化するため一概に決めることは困難である。その目安としては、配合ブラックインクに含有される色素の総含有量に対して、ブルー、オレンジ、レッドの各色素の含有量は、通常それぞれ0.2〜15%、0.2〜10%、0.1〜10%、好ましくは1〜15%、0.5〜5%、0.5〜5%、より好ましくは2.5〜10%、1.25〜5%、1.25〜5%である。
【0040】
上記5色のインクセットにより得られる印捺物のフルカラーの色調を、より多彩な色相として表現する目的で、上記5色のインクセットに、一般に「特色」等と呼称されるインクをさらに加えて6色〜16色のインクセットとして捺染に用いることもある。このような特色インクとしては、ライトブルー、ライトマゼンタ、ライトイエロー、ライトシアン、ライトブラック、オレンジ、ゴールデンイエロー、レッド、グリーン、バイオレット、ネイビー等の各色のインクが挙げられる。
【0041】
上記特色インクのうち、ライトブルー、ライトマゼンタ、ライトイエロー、ライトシアン、及びライトブラックの各「ライト」インクについては、上記5色のインクのうち対応する色のインクに含有する色素として挙げたものの中から、それぞれ独立に色素を選択して含有してもよい。また、これらの「ライト」インクとしては、上記5色のインクのうち対応する色のインクに含有される色素と同じ色素を含有し、その色素の含有量をそれぞれ低減したインクとして用いるのが好ましい。これらの「ライト」インクに含有される各色素の含有量は、用いる色素の物性等により変化するため一概に決めることは困難である。しかし、その目安としては、各「ライト」インクの総質量に対して、色素の含有量は通常0.025〜5%、好ましくは0.05〜2.5%、より好ましくは0.05〜2%である。
ただし、上記5色のインクセットに加えて対応する色の「ライト」インクを併用するとき、5色のインクセットを構成するインクに含有されるそれぞれの色素の総含有量は、対応する色の「ライト」インクに含有される色素の総含有量より多いものとする。一例としては、ブルーインクとライトブルーインクとを併用するとき、ライトブルーインクの総質量に対して含有される色素の総含有量が5%であれば、ブルーインクの総質量に対して含有される色素の総含有量の下限は5%より多い量とする。
【0042】
上記特色インクのうち、オレンジインクに含有される色素としては、上記「配合ブラックインクに含有されるオレンジ色の色素」として挙げたものと同じものが挙げられる。これらの中ではC.I.Acid Orange 33、95が好ましい。
【0043】
上記特色インクのうち、ゴールデンイエローインクに含有される色素としては、上記「特色インクのうち、オレンジインクに含有される色素」として挙げたものと、好ましいものを含めて同じものが挙げられる。これらの中ではC.I.Acid Orange 33、95が好ましい。
ただし、オレンジインクとゴールデンイエローインクとを併用するときは、オレンジインクとゴールデンイエローインクとがそれぞれ含有する色素は、異なる色素であることが好ましい。また、これらのインクのうち少なくとも一方が2種類以上の色素を含有するときは、2種類以上の色素のうち少なくとも1種類は他方が含有する色素と異なる色素であることが好ましい。
さらに、ゴールデンイエローインクとしては、上記イエローインクに含有される少なくとも1種類の色素と、上記オレンジインクに含有される少なくとも1種類の色素との両方を含有する配合インクも好ましく挙げられる。ゴールデンイエローインクを配合インクとするとき、好ましいイエロー色素としてはC.I. Acid Yellow 79、110等が挙げられる。また同様に、好ましいオレンジ色素としてはC.I. Acid Orange 33、95等が挙げられる。
【0044】
上記特色インクのうち、レッドインクに含有される色素としては、上記「マゼンタインクの色調を望みの色に微調整する目的で該インクに含有される他の色素」として挙げたレッド色の色素と同じものが挙げられる。それらの中ではC.I.Acid Red 249、337、447が好ましい。
【0045】
上記特色インクのうち、グリーンインクに含有される色素としては、例えば、C.I.Acid Green 1、5、9、12、16、19、20、25、27、28、40、43、56、73、81、84、104、108、109等が挙げられる。これらの中ではC.I.Acid Green 28が好ましい。
【0046】
上記特色インクのうち、バイオレットインクに含有される色素としては、上記「配合ブラックインクの色調を望みの色に微調整する目的でさらに含有される他の色素」として挙げたバイオレット色の色素と同じものが挙げられる。それらの中ではC.I.Acid Violet 48が好ましい。
【0047】
上記特色インクのうち、ネイビーインクに含有される色素としては、上記「ブルーインクに含有される色素」として挙げたものと同じものが挙げられる。それらの中ではC.I. Acid Blue 229、300が好ましい。
【0048】
上記ネイビーインクとしては、ブルー色及びバイオレット色の2色;又は、ブルー色、バイオレット色、及びブラック色の3色;の色素を含有する、いわゆる配合ネイビーインクとしてもよい。さらに、配合ネイビーインクの色調を望みの色に微調整する目的で、
さらに他の色素を含有させてもよい。
【0049】
上記配合ネイビーインクに含有されるブルー色の色素としては、上記「ブルーインクに含有される色素」として挙げたブルー色の色素と同じものが挙げられる。それらの中ではC.I.Acid Blue 112が好ましい。
【0050】
上記配合ネイビーインクに含有されるバイオレット色の色素としては、上記「特色インクのうち、バイオレットインクに含有される色素」として挙げたバイオレット色の色素と、好ましいものも含めて同じものが挙げられる。
【0051】
上記配合ネイビーインクに含有されるブラック色の色素としては、上記「ブラックインクに含有される色素」として挙げたブラック色の色素と同じものが挙げられる。これらの中ではC.I.Acid Black 52が好ましい。
【0052】
上記配合ネイビーインクの総質量中における色素の総含有量は、通常0.5〜20%、好ましくは2〜15%、より好ましくは5〜10%である。
また、配合ネイビーインクとするとき、配合ネイビーインクに含有される各色素の含有量は、用いる色素の物性等により変化するため一概に決めることは困難である。その目安としては、配合ネイビーインクに含有される色素の総含有量に対して、ブルー及びバイオレットの2色の色素を配合するとき各色素の含有量は、通常それぞれ0.3〜15%、0.2〜15%、好ましくは1〜10%、1〜10%、より好ましくは2.5〜7.5%、2.5〜7.5%である。また、ブルー、バイオレット、及びブラックの3色の色素を配合するとき、各色素の含有量は、通常それぞれ0.2〜10%、0.2〜10%、0.1〜10%、好ましくは1〜7.5%、0.5〜7.5%、0.5〜7.5%、より好ましくは1.5〜5%、1.5〜5%、1.5〜5%である。
なお、ブルーインクと、シアンインク及び/又はネイビーインクとを併用するときは、ブルーインクと、シアンインク及び/又はネイビーインクとがそれぞれ含有する色素は、異なる色素であることが好ましい。また、これらのインクのうち少なくとも1つのインクが2種類以上の色素を含有するときは、該2種類以上の色素のうち少なくとも1種類は、他のインクが含有する色素と異なる色素であることが好ましい。
【0053】
上記の色素は、粉末状;塊状;ウェットケーキ;等のいずれの状態のものでも使用することができる。市販品として入手できる色素には、例えば「工業染色用粉末」、「インクジェット用」等の各種の品質があり、製造方法や純度等がそれぞれ異なり、液状品もある。それらの中には塩化ナトリウムや硫酸ナトリウム等の無機塩を、総質量中におおよそ10〜40質量%も含有する製品も存在する。
インクジェット捺染用インクとしては、インクの保存安定性及びインクジェットプリンタからの吐出精度等を良好にするため、できるだけ不純物の少ない色素等を使用するのが好ましい。また、特に精製操作を行わない水等は、カルシウムイオン、マグネシウムイオン等の金属イオンを含むため、このような未精製の水等をインクに使用すると、微量ながら該イオン等がインクに混入する。
上記の無機塩及び金属イオンを含めて、本明細書においては便宜上、「無機不純物」と以下記載する。
これらの無機不純物は、インク中の色素の溶解度及びインク自体の貯蔵安定性を著しく悪化させ、また、インクジェットプリンタヘッドの腐食・磨耗の原因ともなる。このため、無機不純物はインク中から除去することが好ましい。これらの無機不純物を除去する方法としては、例えば限外濾過法、逆浸透法、イオン交換法等の公知の方法が挙げられる。
インクの総質量中に含有してもよい無機不純物の含有量の上限は、通常1%以下、好ましくは0.5%以下、より好ましくは0.1%以下である。下限は0%、すなわち検出機器の検出限界以下でよい。
【0054】
上記式(1)で表される色素の塩は、無機又は有機陽イオンと形成する塩を意味する。
そのうち無機陽イオン塩の具体例としては、アルカリ金属塩、アルカリ土類金属塩、及びアンモニウム塩が挙げられる。これらの中で、好ましい無機陽イオン塩としては、リチウム、ナトリウム、カリウムの塩及びアンモニウム(NH4+)塩が挙げられる。
有機陽イオンの塩としては、例えば下記式(3)で表される4級アンモニウムイオンの塩が挙げられるが、これらに限定されるものではない。
また、遊離酸、及びそれらの各種の塩の混合物でもよいし、色素が互変異性体を有するときは、その互変異性体の遊離酸及びそれらの各種の塩をも含む混合物であってもよい。例えばナトリウム塩とアンモニウム塩との混合物、遊離酸とナトリウム塩との混合物、リチウム塩、ナトリウム塩、及びアンモニウム塩の混合物等、いずれの組み合わせであってもよい。
塩の種類によっては溶解性等の色素の物性値が異なるときもある。このため、必要に応じて適宜塩の種類を選択したり、複数の塩等を含むときにはその比率を変化させたりすること等も好ましく行われる。
造塩や塩交換等の方法は、いずれも公知の方法を用いることができる。
【0055】
【化3】
【0056】
上記式(3)において、Z、Z、Z、Zは、それぞれ独立に水素原子、アルキル基、ヒドロキシアルキル基、及びヒドロキシアルコキシアルキル基よりなる群から選択される基を表し、Z〜Zの全てが水素原子となることはない。
上記式(3)におけるZ、Z、Z、Zのアルキル基の具体例としては、メチル、エチル、n−プロピル、イソプロピル、n−ブチル、イソブチル、sec−ブチル、t−ブチル等の、直鎖又は分岐鎖のC1−C4アルキル基が挙げられる。
ヒドロキシアルキル基の具体例としては、ヒドロキシメチル、ヒドロキシエチル、3−ヒドロキシプロピル、2−ヒドロキシプロピル、4−ヒドロキシブチル、3−ヒドロキシブチル、2−ヒドロキシブチル等のヒドロキシC1−C4アルキル基が挙げられる。
ヒドロキシアルコキシアルキル基の具体例としては、ヒドロキシエトキシメチル、2−ヒドロキシエトキシエチル、3−ヒドロキシエトキシプロピル、2−ヒドロキシエトキシプロピル、4−ヒドロキシエトキシブチル、3−ヒドロキシエトキシブチル、2−ヒドロキシエトキシブチル等のヒドロキシC1−C4アルコキシC1−C4アルキル基が挙げられる。これらの中ではヒドロキシC1−C4アルコキシC1−C4アルキル基(好ましくはヒドロキシエトキシC1−C4アルキル基)が好ましい。
上記のうち特に好ましいものとしては、水素原子;メチル;ヒドロキシメチル、ヒドロキシエチル、3−ヒドロキシプロピル、2−ヒドロキシプロピル、4−ヒドロキシブチル、3−ヒドロキシブチル、2−ヒドロキシブチル等のヒドロキシC1−C4アルキル基;ヒドロキシエトキシメチル、2−ヒドロキシエトキシエチル、3−ヒドロキシエトキシプロピル、2−ヒドロキシエトキシプロピル、4−ヒドロキシエトキシブチル、3−ヒドロキシエトキシブチル、2−ヒドロキシエトキシブチル等のヒドロキシエトキシC1−C4アルキル基;が挙げられる。
上記式(3)として好ましいZ、Z、Z、Zの組み合わせの具体例を下記表2に示す。
【0057】
【表2】
【0058】
上記のマゼンタインク及びブルーインクに含有される水溶性有機溶剤としては、多価アルコール類、ピロリドン類等が挙げられる。水溶性有機溶剤の含有量は、インクの総質量に対して通常1〜50%、好ましくは5〜40%である。
多価アルコール類としては、グリセリン、1,3−ペンタンジオール、1,5−ペンタンジオール等のヒドロキシ基を2つ〜3つ有するC2−C6アルコール;ジグリセリン、ポリグリセリン等のポリグリセリルエーテル;ポリオキシエチレンポリグリセリルエーテル、ポリオキシプロピレンポリグリセリルエーテル等のポリオキシC2−C3アルキレンポリグリセリルエーテル;エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、プロピレングリコール、ポリエチレングリコール等の、モノ、ジ、又はトリC2−C3アルキレングリコール;ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール等の、繰り返し単位が4以上で分子量が約20000以下程度のポリC2−C3アルキレングリコール(好ましくは液状のもの);エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコールモノブチルエーテル(ブチルカルビトール)、トリエチレングリコールモノメチルエーテル、トリエチレングリコールモノエチルエーテル等の多価アルコールのC1−C4モノアルキルエーテル;等が挙げられる。
ピロリドン類としては、2−ピロリドン、N−メチル−2−ピロリドン等のピロリドン類;等が挙げられる。
これらの中ではグリセリン、ジエチレングリコール、プロピレングリコール、ブチルカルビトール、及び2−ピロリドンが好ましい。
水溶性有機溶剤は、単独で使用しても併用してもよい。
【0059】
上記のマゼンタインク及びブルーインクは、色素、水、水溶性有機溶剤以外の成分として、例えば界面活性剤、pH調整剤、防腐防黴剤等のインク調製剤を、必要に応じてさらに含有してもよい。インク調製剤は合計で、インクの総質量に対して通常0〜10%、好ましくは0.05〜5%程度である。
【0060】
界面活性剤としては、アニオン、カチオン、両性、及びノニオンの各界面活性剤が挙げられる。これらの中ではカチオン界面活性剤が好ましい。
アニオン界面活性剤としては、アルキルスルホカルボン酸塩、α−オレフィンスルホン酸塩、ポリオキシエチレンアルキルエーテル酢酸塩、N−アシルアミノ酸又はその塩、N−アシルメチルタウリン塩、アルキル硫酸塩ポリオキシアルキルエーテル硫酸塩、アルキル硫酸塩ポリオキシエチレンアルキルエーテル燐酸塩、ロジン酸石鹸、ヒマシ油硫酸エステル塩、ラウリルアルコール硫酸エステル塩、アルキルフェノール型燐酸エステル、アルキル型燐酸エステル、アルキルアリールスルホン酸塩、ジエチルスルホ琥珀酸塩、ジエチルヘキシルスルホ琥珀酸塩、ジオクチルスルホ琥珀酸塩等が挙げられる。
カチオン界面活性剤としては、2−ビニルピリジン誘導体、ポリ4−ビニルピリジン誘導体等が挙げられる。
両性界面活性剤としては、ラウリルジメチルアミノ酢酸ベタイン、2−アルキル−N−カルボキシメチル−N−ヒドロキシエチルイミダゾリニウムベタイン、ヤシ油脂肪酸アミドプロピルジメチルアミノ酢酸ベタイン、ポリオクチルポリアミノエチルグリシン、イミダゾリン誘導体等が挙げられる。
ノニオン界面活性剤としては、ポリオキシエチレンノニルフェニルエーテル、ポリオキシエチレンオクチルフェニルエーテル、ポリオキシエチレンドデシルフェニルエーテル、ポリオキシエチレンオレイルエーテル、ポリオキシエチレンラウリルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルエーテル等のエーテル系;ポリオキシエチレンオレイン酸エステル、ポリオキシエチレンジステアリン酸エステル、ソルビタンラウレート、ソルビタンモノステアレート、ソルビタンモノオレエート、ソルビタンセスキオレエート、ポリオキシエチレンモノオレエート、ポリオキシエチレンステアレート等のエステル系;2,4,7,9−テトラメチル−5−デシン−4,7−ジオール、3,6−ジメチル−4−オクチン−3,6−ジオール、3,5−ジメチル−1−ヘキシン−3−オール等のアセチレンアルコール系;他の具体例として、例えば、日信化学社製の商品名サーフィノール104、105PG50、82、420、440、465、485、オルフィンSTG;等が挙げられる。
これらの中ではサーフィノールが好ましく、サーフィノール104PG50、サーフィノール440がより好ましい。
【0061】
上記pH調整剤としては、インクのpHを6.0〜11.0の範囲に制御できるものであれば任意の物質を使用することができる。例えば、ジエタノールアミン、ジメチルエタノールアミン、ジエチルエタノールアミントリエタノールアミン等のアルカノールアミン;水酸化リチウム、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム等のアルカリ金属の水酸化物;水酸化アンモニウム(アンモニア水);又は、炭酸リチウム、炭酸ナトリウム、炭酸カリウムなどのアルカリ金属の炭酸塩;トリス(ヒドロキシメチル)アミノメタン;等が挙げられる。
これらの中ではトリエタノールアミンが好ましい。インクの総質量中におけるpH調整剤の含有量は、通常0.01〜2%、好ましくは0.05〜1%である。
【0062】
上記防腐防黴剤としては、例えば、デヒドロ酢酸ナトリウム、安息香酸ナトリウム、ソジウムピリジンチオン−1−オキサイド、ジンクピリジンチオン−1−オキサイド、1,2−ベンズイソチアゾリン−3−オン、1−ベンズイソチアゾリン−3−オンのアミン塩、アベシア社製プロクセルGXL等、好ましくはプロクセルGXL;等が挙げられる。
【0063】
上記の各インクは、色素、水、水溶性有機溶剤、及び必要に応じて上記のインク調製剤を混合することによって調製される。各成分は、各インクに対してそれぞれ独立に選択してもよいし、異なっていてもよい。色素以外の成分については各インク共に同じものを選択するのが好ましい。ただし、各インク中における各成分の含有量は、含有する色素の物性等に応じて個別に調整するのが好ましい。
【0064】
各インクの総質量中における各成分の含有量を、以下にまとめて記載する。
色素の総含有量は、特に上記していないときは通常0.5〜15%、好ましくは1〜10%、より好ましくは1〜7.5%である。ただし、「ライト」インクのときは通常0.025〜5%、好ましくは0.05〜2.5%、より好ましくは0.05〜2%である。
水溶性有機溶剤の含有量は、通常1〜50%、好ましくは5〜40%である。
インク調製剤の含有量は、合計で通常0〜10%、好ましくは0.05〜5%である。
なお、これらの成分以外の残部は水である。
【0065】
上記の各インクは、上記の成分を混合し、溶液とすることにより得られる。インクジェット捺染用インクとしては、メンブランフィルタ等で得られたインク溶液を濾過することにより、夾雑物を除いたインクとして使用するのが好ましい。メンブランフィルタの孔径は、通常0.1〜1μm、好ましくは0.1〜0.5μmである。
【0066】
上記の各インクの25℃における粘度は、E型粘度計にて測定したときに3〜20mPa・s;プレート法にて測定したときに20〜40mN/m;の各範囲内であるのが好ましい。インクの粘度は上記の範囲で、プリンタの吐出量;応答速度;インク液滴の飛行特性;インクジェットヘッドの特性;等を考慮し、適切な値に調整するのがよい。
【0067】
上記のインクジェット捺染方法は、インクとして少なくとも上記マゼンタインク及び上記ブルーインクの2色のインクセットを用い、少なくとも以下の工程A〜工程Cの3工程を順次行うことを含む繊維のインクジェット捺染方法である。
[工程A]
少なくとも上記マゼンタインク及び上記ブルーインクのうち1種類のインクの液滴を記録信号に応じて吐出させ、繊維に付着させる工程。
[工程B]
上記工程Aにより繊維に付着させたインクの液滴中の色素を、熱により繊維に固着させる工程。
[工程C]
繊維に残存する未固着の色素を洗浄する工程。
【0068】
また、上記工程A〜工程Cの3工程に加えて、繊維に対して色素のにじみ防止等を目的とした前処理を施す工程を、上記工程Aの前にさらに含んでもよく、繊維の前処理工程を含むのが好ましい。
【0069】
上記のインクジェット捺染方法に用いる繊維としては、ポリアミド繊維、及びポリアミド繊維を含有する混紡繊維から選択される繊維が好ましい。ポリアミド繊維としては、例えばシルク、ウール等の天然繊維、ナイロン等の合成ポリアミド繊維が挙げられる。混紡繊維としては、これらのポリアミド繊維を少なくとも含有し、他の繊維と混紡したものが挙げられる。
上記の繊維としては繊維の構造体も含まれ、上記の繊維からなる布帛等が好ましく挙げられる。
【0070】
上記工程Aとしては、例えば、少なくとも上記マゼンタインク及び上記ブルーインクが充填された容器(インクタンク、インクカートリッジ等ともいう)をインクジェットプリンタの所定の位置に装填し、記録信号に応じて該インクの液滴を吐出させて、繊維にインクを付着させる方法が挙げられる。フルカラーの印捺物を得るときは、上記の通り、マゼンタ及びブルーインクの2色に加え、上記5色又は必要に応じて6色〜16色のインクセットを適宜用いることができる。このようなときは、各色のインクは、それぞれの容器に充填され、それらの容器をインクジェットプリンタの所定の位置に装填して使用すればよい。インクジェットプリンタには、例えば機械的振動を利用したピエゾ方式;加熱により生ずる泡を利用したバブルジェット(登録商標)方式;等を利用したものがある。上記インクジェット捺染方法は、いかなる方式のプリンタであっても使用が可能である。
【0071】
上記工程Bとしては、インクが付着した繊維を室温〜130℃に0.5〜30分間程度放置して予備乾燥させた後、スチーミング処理を施して湿熱条件下に該繊維に色素を固着させる方法等が挙げられる。
スチーミング処理としては、湿度80〜100%、温度95〜105℃の環境に、5〜20分間置くことが好ましい。
【0072】
上記工程Cとしては、色素を固着させた後の繊維を、水で洗浄することが好ましい。この洗浄に際して、界面活性剤を含有する水で洗浄してもよい。
上記工程Cを行った後、洗浄した繊維を通常50〜120℃で5〜30分間乾燥し、乾燥された印捺物を得ることができる。
【0073】
上記工程Aの前に行う繊維の前処理工程としては、1種類以上の糊材、及び前処理用のpH調整剤の両者を少なくとも含有する水溶液を繊維の処理液とし、予め工程Aを行う前の繊維に付与する工程が挙げられる。該繊維の処理液中には、さらにヒドロトロピー剤を含むのが好ましい。繊維の処理液中に含有する糊剤、前処理用のpH調整剤、及びヒドロトロピー剤等は、「前処理剤」等と呼称されることもある。
繊維の処理液を繊維に付与する方法としては、例えばパディング法が挙げられる。パディングの絞り率は40〜90%程度が好ましく、より好ましくは60〜80%程度である。
【0074】
上記繊維の処理液に含有される糊剤としては、グアー、ローカストビーン等の天然ガム類;澱粉類;アルギン酸ソーダ、ふのり等の海藻類;ペクチン酸等の植物皮類;メチル繊維素、エチル繊維素、ヒドロキシエチルセルロース、カルボキシメチルセルロース等の繊維素誘導体;カルボキシメチル澱粉等の加工澱粉;シラツガム系、ローストビーンガム系等の加工天然ガム類;ポリビニルアルコール、ポリアクリル酸エステル等の合成糊;等が挙げられる。これらの中ではグアー、ローカストビーン等の天然ガム類;シラツガム系、ローストビーンガム系等の加工天然ガム類;等が好ましい。
【0075】
上記繊維の処理液に含有される前処理用のpH調整剤としては、水溶液とした際に酸性を示すものが好ましい。具体的には、硫酸アンモニウム、酒石酸アンモニウム、及び酢酸アンモニウム等の酸性のアンモニウム塩が挙げられる。これらの中では、硫酸アンモニウムが好ましい。
【0076】
上記繊維の処理液に含有されるヒドロトロピー剤としては、尿素、ジメチル尿素、チオ尿素、モノメチルチオ尿素、ジメチルチオ尿素等の尿素又はチオ尿素等が挙げられる。これらの中では尿素が好ましい。
上記前処理剤は、それぞれの1種類を単独で用いてもよいし、それぞれの2種類以上を併用してもよいが、後者の方が好ましい。
【0077】
上記繊維の処理液に含有される前処理剤の含有量は、例えば混紡繊維を用いるとき、混紡繊維の混紡比率等により一概に決めることは困難である。その目安としては、繊維の処理液の総質量に対して、いずれも質量基準で糊剤が0.5〜5%、前処理用のpH調整剤が0.5〜5%、残部が水である。ヒドロトロピー剤をさらに含有するときは、同様に1〜20%であり、残部が水である。
また、繊維の処理液は酸性であることが好ましい。そのpHの範囲としては通常7以下、好ましくは5〜7である。
【0078】
本発明のインクセットで捺染した繊維は、耐光性のみならず水堅牢度、洗濯堅牢度等の他の堅牢性試験、印捺濃度、彩度、色調、色再現域の広さ等の各種の性能においても優れる。
また、本発明のインクセットは、高粘度インクを必要とする工業用インクジェットヘッドが搭載されたプリンタでの、周波数値によらない吐出性能を発揮することも可能である。
さらに、インクジェット捺染後に一定時間プリンタを放置し、再度吐出(捺染)を開始したときの吐出性も良好である。
したがって、本発明のインクセット及びこれを用いる捺染方法は、繊維の捺染用途に極めて好適である。
【実施例】
【0079】
以下、実施例により本発明をさらに詳細に説明するが、これらの実施例により本発明は何ら限定されるものではない。以下の説明において、実施例2は参考例と読み替えるものとする。
なお、液の温度は内温を測定し、反応や塩析等の操作は特に断りのない限り、いずれも撹拌下で行った。
【0080】
[合成例]
特許文献1に記載の方法に準じ、以下のように上記式(2)で表される色素を合成した。
特許文献1に開示された「モノアゾ化合物(5)」48.3部を水600部に加え、30%水酸化ナトリウム水溶液を加えてpHを8に調整した。
【0081】
【化4】
【0082】
酢酸エチル100部に塩化シアヌル20.3部を溶解した溶液を、pH7〜8、温度を15〜20℃に維持しつつ加えた。30分後に、水120部に2−アミノエタン−スルホン酸ナトリウム塩17.8部を溶解した溶液をpH7〜7.5、温度を30℃に維持しつつ反応混合物に加えた。30分後、反応混合物を50℃に加熱し、この温度で1時間撹拌し、次いで生成物を濾過した。得られた湿潤混合物200部を1−メチル−2−ピロリジノン200部及びジエタノールアミン溶液25部の溶液に加えた。この反応混合物を90℃で3時間加熱し、室温に冷却した。エタノール400部に酢酸ナトリウム12部を溶かした溶液を反応混合物に加えた。固体を濾過分取し、エタノール300部で洗い、60℃で真空乾燥し、上記式(2)で表される色素を得た。
得られた色素の水中における最大吸収波長(λmax)は、518nmであった。
また、得られた色素の総質量中における無機不純物の含有量は、イオンクロマトグラフィーによる測定から、塩素イオン及び硫酸イオンのいずれも10ppm以下であった。
なお、得られた色素について質量分析、H−及び13C−NMRを測定することにより構造確認を行った。その結果、上記式(2)で表される色素であることが確認された。
【0083】
[インクジェット捺染用インクセットの調製]
下記表3に示した各成分を混合し、おおよそ1時間撹拌することによりインク溶液を得た。得られたインク溶液を0.45μmのメンブランフィルタ(商品名:セルロースアセテート系濾紙、アドバンテック社製)で濾過することにより、試験用のインクジェット捺染用インクを調製した。インク溶液の調製に用いた「水」はイオン交換水であり、インク溶液のpHがpH8〜9になるように10%水酸化ナトリウム水溶液を加え、総量100部となるように水を加えて調整した。
なお、表3中の「色素」としては下記表4に記載の各色素を用い、実施例1、実施例2、比較例1、及び比較例2それぞれの、マゼンタ及びブルーの2種類の試験用のインクジェット捺染用インクを調製し、各インクセットとした。また、用いた各色素の部数も下記表4中に記載した。
【0084】
【表3】
【0085】
【表4】
【0086】
[試験染布の調製]
グアー2部、硫酸アンモニウム2部、尿素5部、及び水91部を含む繊維の処理液を調製し、パッド法によりナイロン布(ナイロンタフタ)に前処理工程を行った。すなわち、ナイロン布を繊維の処理液に浸漬し、ゴムローラーにて余分な液を絞り落とした後、60℃にて乾燥した。
上記のようにして得たナイロン布に対して、実施例1又は実施例2のインクセットを使用して、インクジェットプリンタ(商品名:PIXUS ip4100、キヤノン社製)にてマゼンタ〜バイオレット〜ブルーのベタ柄を、それぞれ100%、85%、70%、55%、40%、及び25%の6段階の階調でインクジェット捺染し、グラデーションの印捺物を得た。この印捺物を60〜80℃で予備乾燥後、湿度90%以上、100〜103℃で20分間スチーミング処理を行った。得られた印捺物を冷水で5分間洗浄した後、乾燥することにより試験染布を得た。これらの試験染布を、それぞれ「染布1」及び「染布2」とする。
実施例1又は実施例2のインクセットの代わりに、比較例1又は比較例2のインクセットを用いる以外は実施例1又は実施例2と同様にして、比較用の試験染布を得た。これらの比較用の試験染布を、それぞれ「比較染布1」及び「比較染布2」とする。
【0087】
[耐光性試験]
スガ試験機(株)社製、商品名:低温キセノンウェザオメーターXL75を用い、10万Lux照度、湿度60%RH、温度24℃の条件下に、各試験染布を40時間放置する試験を行った。試験前後の各試験染布を、測色機を用いて測色し、試験前後の色素の残存率を(試験後の反射濃度/試験前の反射濃度)×100(%)の式で求めた。
測色機としてはGRETAG−MACBETH社製、商品名:SpectroEyeを用い、試験前の反射濃度D値が1.0に最も近い階調部分を測色することにより測定した。
なお、試験結果は以下A〜Dの4段階で評価した。
A:残存率が95%以上
B:残存率が90%以上で95%未満
C:残存率が85%以上で90%未満
D:残存率が85%未満
結果を下記表5に示す。
【0088】
【表5】
【0089】
表5の結果から明らかなように、染布1及び染布2の反射濃度の残存率は、マゼンタ、バイオレット、及びブルーのいずれの色相においても各比較染布より10%以上も高く、耐光性に極めて優れることが確認された。
【産業上の利用可能性】
【0090】
本発明のインクジェット捺染用インクセットは、特にマゼンタ〜バイオレット〜ブルーの色相における耐光性が良好な染布の提供が可能であり、インクジェット捺染用インクセットとして極めて有用である。