(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6262170
(24)【登録日】2017年12月22日
(45)【発行日】2018年1月17日
(54)【発明の名称】柑橘香味増強剤
(51)【国際特許分類】
A23L 27/00 20160101AFI20180104BHJP
A23L 27/10 20160101ALI20180104BHJP
A61Q 13/00 20060101ALI20180104BHJP
A23L 2/00 20060101ALI20180104BHJP
C12G 3/06 20060101ALN20180104BHJP
A23G 4/00 20060101ALN20180104BHJP
【FI】
A23L27/00 Z
A23L27/10 C
A61Q13/00 101
A23L2/00 B
!C12G3/06
!A23G4/00
【請求項の数】4
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2015-79683(P2015-79683)
(22)【出願日】2015年4月9日
(65)【公開番号】特開2016-198025(P2016-198025A)
(43)【公開日】2016年12月1日
【審査請求日】2016年8月24日
(73)【特許権者】
【識別番号】000214537
【氏名又は名称】長谷川香料株式会社
(72)【発明者】
【氏名】中西 啓
(72)【発明者】
【氏名】福島 祐介
(72)【発明者】
【氏名】吉川 啓輔
(72)【発明者】
【氏名】前田 知子
【審査官】
松岡 徹
(56)【参考文献】
【文献】
特開2004−067723(JP,A)
【文献】
特開2004−105011(JP,A)
【文献】
米国特許出願公開第2013/0172625(US,A1)
【文献】
特表2013−534927(JP,A)
【文献】
特開平06−016516(JP,A)
【文献】
DAVIES Christopher et al.,Shiraz Wines Made from Grape Berries (Vitis vinifera) Delayed in Ripening by Plant Growth Regulator Treatment Have Elevated Rotundone Concentrarion and "Pepper" Flavor and Aroma,J Agric Food Chem,米国,2015年 3月 4日,vol. 63, no. 8,page. 2137-2144
【文献】
MAYR Christine M et al,Characterization of the Key Aroma Compounds in Shiraz Wine by Quantitation, Aroma Reconstitution, and Omission Studies,J Agric Food Chem,米国,2014年 5月21日,vol. 62, no. 20,page. 4528-4536
【文献】
WOOD Claudia et al.,From Wine to Pepper: Rotundone, an Obscure Sesquiterpene, Is a Potent Spicy Aroma Compound,J Agric Food Chem,米国,2008年 5月28日,vol. 56, no. 10,page. 3738-3744
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A23L
CAplus/REGISTRY(STN)
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ロタンドンを有効成分とする柑橘香味増強剤。
【請求項2】
請求項1の柑橘香味増強剤をロタンドンとして0.5ppt〜0.5ppm含有する柑
橘香料組成物。
【請求項3】
ロタンドンを柑橘香料組成物に対して0.5ppt〜0.5ppm含有させる、柑橘香
料組成物のフレッシュな果汁感増強方法。
【請求項4】
ロタンドンを飲食品に対して0.005ppt〜5ppt含有させる、飲食品の柑橘香
味増強方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は特異な香気を有するロタンドン(Rotundone)を有効成分とする柑橘香味増強剤、該柑橘香味増強剤を含有する柑橘香料組成物および該柑橘香料組成物のフレッシュな果汁感増強方法に関する。
【背景技術】
【0002】
オレンジ、レモン、グレープフルーツに代表される柑橘果実類は我々の食卓に彩りを添え、生食の他、料理の味付けに欠かせない身近な果実である。加工食品の分野でも柑橘は様々な製品ジャンルに使用され、柑橘風味を持つフレーバーは香料産業において、最も重要な製品として位置付けられている。
【0003】
柑橘果実ではシス−3−ヘキセナール、トランス−2−ヘキセナール、オクタナール、デカナールに代表される鎖状アルデヒド類、ゲラニオール、リナロール、シトラール、シトロネラールに代表されるモノテルペンアルコール、モノテルペンアルデヒド類が重要な香気成分として知られている。
【0004】
柑橘果実の香気を特徴づける重要な香気成分は果実果皮油の低揮発(高沸点)成分にも見出されている。例えば、オレンジ中のシネンサール、レモン、特に完熟したレモン中のメチルエピジャスモネート、グレープフルーツ中のヌートカトンなどが知られており、これらの香気成分は柑橘類のベースノートを構成している。これらの成分を香料として使用した場合、それぞれの柑橘を特徴付ける果皮の香りの再現が可能となる。
【0005】
一方、柑橘果実の果汁は加工食品に用いる場合、食品衛生面から生果実の絞りたて果汁であっても加熱殺菌が行われ、その結果、香味の変化が生じる。また、需要が拡大している海外産柑橘果実では検疫のため殺虫処理が必要であり、加熱・蒸熱処理によって新鮮な生果実の風味が損なわれる問題点が指摘されている。オレンジ、グレープフルーツなど大量消費されている果実では果汁から回収される果実精油(ジュースオイル)を使用することによりフレッシュ感や果汁感を回復する香料の調製も可能であるが、さらに容易に柑橘果汁のフレッシュ感や果汁感を表現できる香料化合物の探索が課題となっている。
【0006】
本発明の有効成分であるロタンドン(Rotundone、(3S,5R,8S)−3,8−dimethyl−5−(prop−1−en−2−yl)−3,4,5,6,7,8−hexahydroazulen−1(2H)−one)は生薬として香附子(こうぶし)と呼ばれるカヤツリグサ科のハマスゲの塊茎より単離・構造決定された(非特許文献1)。中国では漢方薬、日本では香道で用いられる沈香(Agarwood)中の成分としても知られている(非特許文献2)。また、虫に対して忌避効果を持つことから、害虫忌避剤(特許文献1)、害虫防除剤(特許文献2)としての利用も報告されている。近年では、ロタンドンはスパイシー、コショウ様香気が特徴であるシラーズワインおよびそのワイン用のブドウの、スパイシー、コショウ様香気の原因成分であることが報告されている。また、黒コショウや白コショウには数ppm含有され、それらの重要香気成分であること、マジョラム、オレガノ、ローズマリー、バジル、タイムなどのスパイス中にも微量含まれていることが報告されている(非特許文献3)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平4−321613号公報
【特許文献2】特開平6−16516号公報
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】TetrahedronLetters、1967年、8巻47号、p4661−4667
【非特許文献2】Phytochemistry、1991年、30巻10号、p3343−3347
【非特許文献3】Journal of Agricultural and Food Chemistry、2008年、56巻10号、p3738−3744
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
近年、飲食品等に使用する香料においても天然感、フレッシュ感を表現する素材が多く見いだされ、従来の香料物質と組み合わせることで、消費者の多様な要求に対応可能となってきた。しかし、柑橘果実の香気を再現する素材は多数見出されているが、果実のフレッシュ感や果汁感を表現する素材が見出されていないのが現状である。
【0010】
したがって、本発明の目的は、柑橘果実のフレッシュ感や果汁感を増強する柑橘香味増強剤および該増強剤を有効成分として含有する香料組成物、並びにそれを用いた柑橘の香味、特に、フレッシュ感や果汁感が増強された飲食品を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは、前述の課題を解決するために鋭意検討した結果、柑橘果実の精油や果汁および柑橘香料組成物にロタンドンを添加することにより、柑橘香味を増強し、香味を改善することができることを見出し本発明の完成に至った。
【0012】
ロタンドンは前述のとおり、シラーワインやそのワイン用のブドウおよびコショウの香気成分として知られているが、柑橘類の香気分析からは見出されておらず、ロタンドンを食品用香料、特に柑橘香料に用いることは知られていない。
【0013】
サラダドレッシングなどに代表される食品に柑橘類とコショウなどのスパイスを同時に使用することは広く知られ、両者のミックスされた香味はなじみ深く好ましい香味である。
【0014】
コショウの香気成分であるロタンドンを単独で使用した場合、その香気特性と閾値からスパイス、コショウ様の香味を付与することが予想されたが、驚くべきことに、柑橘果実の精油または果汁に極微量使用すると、ロタンドンのスパイス、コショウ様の香気は感じられず、柑橘香味を増強し、特に柑橘の濃縮果汁や冷凍果汁などの加工果汁に不足している新鮮な果汁感を表現できることを見出した。また、ロタンドンを従来の柑橘香料に極微量添加することで従来知られていないフレッシュ感、果汁感を持つ果汁感を増強できることを見出した。
【0015】
本発明は、以下の柑橘香味増強剤、柑橘香料組成物および柑橘香味を有する飲食品を提
供することができる。
(1)ロタンドンを有効成分とする柑橘香味増強剤。
(2)(1)の柑橘香味増強剤をロタンドンとして0.5ppt〜0.5ppm含有す
る柑橘香料組成物
。
(3)ロタンドンを柑橘香料組成物に対して0.5ppt〜0.5ppm含有させる柑
橘香料組成物のフレッシュな果汁感増強方法。
(
4)ロタンドンを飲食品に対して0.005ppt〜5ppt含有させる飲食品の柑
橘香味増強方法。
【発明の効果】
【0016】
本発明のロタンドンを有効成分とする柑橘香味増強剤は、柑橘果実の香味、特に、フレッシュ感や果汁感を増強することができ、該増強剤は、飲食品に用いる柑橘果実のフレッシュ感や果汁感を増強する香料組成物の調合素材として有用である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の柑橘香味増強剤およびその使用について、さらに詳細に説明する。本発明の柑橘香味増強剤の有効成分であるロタンドンは、バレンシアオレンジ、ネーブルオレンジ、ブラッドオレンジ、ベルガモット、グレープフルーツ、ユズ、ダイダイ、カボス、スダチ、シークヮーサー、レモン、ライム、ナツミカン、ハッサク、イヨカン、マンダリンオレンジ、ウンシュウミカンなどの柑橘果実の香味、特に、フレッシュ感や果汁感を増強するのに有用である。有効成分であるロタンドンは、非特許文献3に記載の方法により合成するか、市販のコショウ精油から蒸留法、クロマト法を単独あるいは組み合わせる分画方法で得ることができる。
【0018】
本発明の柑橘香味増強剤は、そのまま飲食品に極微量配合して柑橘果実の香味、特に、フレッシュ感や果汁感を増強することができるが、他の成分と混合して柑橘香料組成物を調製し、該香料組成物を用いて飲食品に柑橘果実の香味、特に、フレッシュ感や果汁感を増強することもできる。該香料組成物のロタンドンと共に含有し得る他の香料成分としては、各種の合成香料、天然香料、天然精油、動植物エキスなどを挙げることができる。
【0019】
例えば、炭化水素化合物としてα−ピネン、β−ピネン、ミルセン、カンフェン、リモネンなどのモノテルペン、バレンセン、セドレン、カリオフィレン、ロンギフォレンなどのセスキテルペン、1,3,5−ウンデカトリエンなどが挙げられる。
【0020】
アルコール化合物としてブタノール、ペンタノール、プレノール、ヘキサノールなどの直鎖・飽和アルカノール、(Z)−3−ヘキセン−1−オール、2,6−ノナジエノールなどの直鎖・不飽和アルコール、リナロール、ゲラニオール、シトロネロール、テトラヒドロミルセノール、ファルネソール、ネロリドール、セドロールなどのテルペンアルコール、ベンジルアルコール、フェニルエチルアルコールなどの芳香族アルコールが挙げられる。
【0021】
アルデヒド化合物としてアセトアルデヒド、ヘキサナール、デカナールなどの直鎖・飽和アルデヒド、(E)−2−ヘキセナール、2,4−オクタジエナールなどの直鎖・不飽和アルデヒド、シトロネラール、シトラールなどのテルペンアルデヒド、ベンズアルデヒド、シンナミルアルデヒド、バニリン、エチルバニリン、ヘリオトロピンなどの芳香族アルデヒドが挙げられる。
【0022】
ケトン化合物として2−ヘプタノン、2−ウンデカノン、1−オクテン−3−オンなどの直鎖・飽和および不飽和ケトン、アセトイン、ジアセチル、2,3−ペンタジオン、マルトール、エチルマルトール、2,5−ジメチル−4−ヒドロキシ−3(2H)−フラノンなどの直鎖および環状ジケトンおよびヒドロキシケトン、カルボン、メントン、ヌートカトンなどのテルペンケトン、α−イオノン、β−イオノン、β−ダマセノンなどのテルペン分解物に由来するケトン、ラズベリーケトンなどの芳香族ケトンが挙げられる。
【0023】
フラン・エーテル化合物としてフルフリルアルコール、フルフラール、ローズオキシド、リナロールオキシド、メントフラン、テアスピランなどの環状エーテル類が挙げられる。
【0024】
エステル化合物として酢酸エチル、酢酸イソアミルなどの脂肪族アルコールの酢酸エステル、酢酸リナリル、酢酸ゲラニル、酢酸ラバンジュリルなどのテルペンアルコール酢酸エステル、酪酸エチル、カプロン酸エチルなどの脂肪酸と低級アルコールエステル、酢酸ベンジル、サリチル酸メチルなどの芳香族エステルが挙げられる。
【0025】
ラクトン化合物としてγ−デカラクトン、γ−ドデカラクトン、δ−デカラクトン、δ−ドデカラクトンなどの飽和ラクトン、7−デセン−4−オリド、2−デセン−5−オリドなどの不飽和ラクトンが挙げられる。
【0026】
酸化合物として酪酸、オクタン酸、ステアリン酸、オレイン酸、リノール酸、リノレン酸などの飽和・不飽和脂肪酸が挙げられる。
【0027】
含窒素化合物としてインドール、スカトール、ピリジン、アルキル置換ピラジン、アントラニル酸メチルなどが挙げられる。
【0028】
含硫化合物としてメタンチオール、ジメチルスルフィド、ジメチルジスルフィド、アリルイソチオシアネートなどが挙げられる。
【0029】
天然精油としてはスイートオレンジ、ビターオレンジ、プチグレン、レモン、ベルガモット、マンダリン、ネロリ、ペパーミント、スペアミント、ラベンダー、カモミール、ローズマリー、ユーカリ、セージ、バジル、ローズ、ゼラニウム、ジャスミン、イランイラン、アニス、クローブ、ジンジャー、ナツメグ、カルダモン、スギ、ヒノキ、ベチバー、パチョリ、ラブダナムなどが挙げられる。
【0030】
また、各種のエキスとしてハーブ・スパイス抽出物、コーヒー・緑茶・紅茶・ウーロン茶抽出物など、乳または乳加工品およびこれらのリパーゼ・プロテアーゼなどの酵素分解物などが挙げられる。
【0031】
他の香料成分としては「特許庁、周知慣用技術集(香料)第II部食品香料、頁8−87、平成12年1月14日発行」に記載されている合成香料、天然精油、天然香料、動植物エキス等を挙げることができる。
【0032】
本発明のロタンドンを有効成分とする香料組成物は、必要に応じて、香料組成物において通常使用されている、水、エタノールなどの溶剤、エチレングリコール、1,2−プロピレングリコール、グリセリン、ベンジルベンゾエート、トリエチルシトレート、ハーコリン、脂肪酸トリグリセライド、脂肪酸ジグリセリドなどの香料保留剤を含有することができる。
【0033】
また、ロタンドンを有効成分とする香料組成物にグリセリン脂肪酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステル、プロピレングリコール脂肪酸エステル、ショ糖脂肪酸エステル、レシチン、キラヤサポニン、カゼインナトリウムなどの乳化剤を用いた乳化香料として、また、アラビアガムやデキストリンを添加し乾燥させた粉末香料とすることができる。
【0034】
本発明のロタンドンを有効成分とする柑橘香味増強剤は、上記のようにそれ自体単独で、またはロタンドンを含有する柑橘香料組成物を調製して、各種の飲食品に極微量添加することにより、柑橘果実の香味、特に、フレッシュ感や果汁感を増強することができる。
【0035】
それらのうちで、本発明のロタンドンを有効成分とする柑橘香味増強剤またはロタンドンを含有する柑橘香料組成物によって柑橘果実の香味、特に、フレッシュ感や果汁感を増強することができる飲食品の具体例としては、コーラ飲料、果汁入り炭酸飲料、乳類入り炭酸飲料などの炭酸飲料類;果汁飲料、野菜飲料、スポーツドリンク、ハチミツ飲料、豆乳、ビタミン補給飲料、ミネラル補給飲料、栄養ドリンク、滋養ドリンク、乳酸菌飲料、乳飲料などのソフト飲料類;緑茶、紅茶、ウーロン茶、ハーブティー、ミルクティー、コーヒー飲料などの嗜好飲料類;チューハイ、カクテルドリンク、発泡酒、果実酒、薬味酒などのアルコール飲料類;バター、チーズ、ミルク、ヨーグルトなどの乳製品;アイスクリーム、ラクトアイス、氷菓、ヨーグルト、プリン、ゼリー、デイリーデザートなどのデザート類及びそれらを製造するためのミックス類;キャラメル、キャンディー、錠菓、クラッカー、ビスケット、クッキー、パイ、チョコレート、スナックなどの菓子類及びそれらを製造するためのケーキミックスなどのミックス類;パン、スープ、各種インスタント食品などの一般食品類、歯磨きなどの口腔用組成物を挙げることができるがこれらに限定されるものではない。
【0036】
本発明の柑橘香料組成物におけるロタンドンの含有量は、混合される他の香料成分により異なり一概にはいえないが、通常、該香料組成物の重量を基準として0.5ppt〜0.5ppm、好ましくは1ppt〜0.2ppmの濃度範囲とすることができる。
【0037】
柑橘果実の香味、特に、フレッシュ感や果汁感を増強する際の上記した各種の飲食品へのロタンドンの含有量は、飲食品の種類や形態に応じて異なり一概にはいえないが、通常、飲食品の重量を基準として0.005ppt〜5ppt、好ましくは0.01ppt〜2pptの濃度範囲とすることができる。
【0038】
以下、本発明を実施例によりさらに具体的に説明する。なお、本発明はこれらに限定されるものではない。
【実施例】
【0039】
実施例1:柑橘精油に対するロタンドンの添加濃度と香味評価
非特許文献3に記載の方法で調製したロタンドン0.1mgにアルコールを加え100gとし、このアルコール溶液1gを更にアルコールで100gに希釈し、ロタンドン評価液(10ppb)を調製した。柑橘精油10mgを糖酸評価液(クエン酸1.5%と果糖ブドウ糖液糖30%を溶解した軟水水溶液)で100gに希釈し、対照品とする。ロタンドン評価液をこの対照品で100gに希釈し、ロタンドンの濃度と香味との関係を評価した。ロタンドン評価液の量は0.01mg(0.001ppt)、0.1mg(0.01ppt)、5.0mg(0.5ppt)、20.0mg(2ppt)、1.0g(100ppt)で香味評価を行った。
【0040】
香味評価はよく訓練された5名のパネラーを選択し、各柑橘精油の対照品と添加濃度の異なる評価液を飲んだ時のレトロネーザルで感じる香味を以下の基準で評価した。各柑橘のフレッシュ感と果汁感を三段階(強く感じる:++、感じる:+、感じない:−)、ロタンドンに由来するスパイス感(Spicy)を三段階(強く感じる:++、感じる:+、感じない:−)で評価した。また柑橘香味としての総合評価を四段階(増強効果が強い:++、増強効果を感じる:+、増強効果がない:+/−、違和感がある:−)として評価した。柑橘精油はバレンシアオレンジ、グレープフルーツ、ユズ、レモン、ライム、マンダリンオレンジを使用し、結果を表1に記載した。
【0041】
【表1】
【0042】
表1の香味評価からロタンドンを0.01ppt〜2ppt添加することによりフレッシュ感や果汁感を表現できることが示された。添加量が100ppt以上ではロタンドン本来のスパイス感が強く感じられフレッシュ感や果汁感が打ち消され、0.001pptでは効果が感じられなかった。
【0043】
実施例2:ロタンドンを添加した柑橘精油の香味評価
ロタンドン評価液5.0mg、柑橘精油10mgを実施例1で調製した糖酸評価液で100gに希釈し、香料組成物評価用希釈液とする。評価する柑橘精油はバレンシアオレンジ油、グレープフルーツ油、ユズ油、レモン油、ライム油、マンダリンオレンジ油を選択し、本発明品1〜本発明品6とした。
【0044】
それぞれの香料組成物評価用希釈液をよく訓練されたパネラーにより香味評価を行った。
【0045】
香味評価は評価液を、におい紙を用いたオルトネーザルの香気と、少量の評価液を口に含み飲み下した時の味とレトロネーザルの香気を総合して評価した。ロタンドン評価液を加えないそれぞれの精油希釈品を対照品として、よく訓練された5名のパネラーの平均的な香気評価を表2に示す。
【0046】
【表2】
【0047】
表2の評価結果から明らかなように、バレンシアオレンジ、グレープフルーツ、ユズ、レモン、ライム、マンダリンオレンジの柑橘精油では、ロタンドンの添加により搾りたての果汁を添加したような風味が付与され、深みのある香味が増強された。
【0048】
実施例3:ロタンドンを添加した柑橘果実果汁の香味評価
市場より入手した加工柑橘果汁10gに実施例1で調製したロタンドン評価液を5.0mg添加し、実施例1で調製した糖酸評価液を加え100gとした。柑橘果汁はバレンシアオレンジ果汁、グレープフルーツ果汁、ユズ果汁、レモン果汁、ライム果汁、マンダリンオレンジ果汁を選択し、それぞれ本発明品7〜本発明品12とした。
【0049】
香味評価はよく訓練されたパネラー5名を選択し、本発明品7〜本発明品12を飲んだ時のレトロネーザルで感じる香味について、ロタンドン無添加の対照品との比較の平均的な香気評価を表3に示す。
【0050】
【表3】
【0051】
表3に示したように柑橘果汁にロタンドンを0.5ppt添加することにより加工果汁に不足している果実の搾りたてを連想させる新鮮なフレッシュ感や果汁感を付与可能であると評価された。
【0052】
実施例4:柑橘様調合香料組成物への添加検討
柑橘様調合香料組成物として、下記表4に示す成分を使用しオレンジフレーバー(比較品1)を調製した。
【0053】
【表4】
【0054】
表4のオレンジフレーバー9.9gに実施例1で調製したロタンドン評価液(0.1g)を添加し、本発明品13(ロタンドン濃度0.1ppb)とする。
【0055】
本発明品13と比較品1の香味に関して、訓練された5名のパネラーによる比較を行った。香気評価は評価液を、におい紙を用いたオルトネーザルの香気を評価した。結果、パネラー5名全員が本発明品13は比較品1に比べて、フレッシュ感や果汁感を連想させる香りが付与されていると評価した。
【0056】
実施例5:柑橘様糖酸評価液への添加検討
実施例4で調製したオレンジフレーバー0.1gを実施例1で調製した糖酸評価液で100gに希釈し、比較品2とする。実施例1で調製したロタンドン評価液(5.0mg)に比較品2を加え100gに調製し、本発明品14とする。
【0057】
本発明品14と比較品2の香味に関して、訓練された5名のパネラーによる比較を行った。香味評価は本発明品14と比較品2とを飲み比べ、飲んだ時のレトロネーザルで感じる香味を評価した。結果、パネラー5名全員が本発明品14は比較品2に比べて、新鮮な柑橘果汁を連想させる香味が付与され、加工オレンジ果汁特有の香味が抑制されていると評価した。
【0058】
実施例6:アルコール飲料(柑橘味)への使用例
実施例4で調製したオレンジフレーバーとオレンジ濃縮透明果汁から表5に示した処方でオレンジ風味アルコール飲料を調製し、比較品3とする。この比較品3(100g)に実施例1で調製したロタンドン評価液(5.0mg)を添加し、本発明品15とする。
【0059】
【表5】
【0060】
本発明品15と比較品3の香味に関して、訓練された5名のパネラーによる比較を行った。香味評価は本発明品15と比較品3とを飲み比べ、飲んだ時のレトロネーザルで感じる香味を評価した。結果、パネラー5名全員が本発明品15は比較品3に比べて、搾りたてオレンジ果汁で希釈したアルコール飲料を連想させるフレッシュ感や果汁感が付与され、アルコール飲料の風味が大幅に改善されると評価した。
【0061】
実施例7:オレンジ風味ガムへの賦香例
下記表6に示す配合割合にて、実施例4で調製したオレンジフレーバーを用いてオレンジ風味ガムを調製し、比較品4とする。この比較品4の処方に実施例1で調製したロタンドン評価液(10.0mg)を添加し、オレンジ風味ガムを調製し本発明品16とする。
【0062】
【表6】
【0063】
本発明品16と比較品4の香味に関して、訓練された5名のパネラーによる比較を行った。香味評価は本発明品16と比較品4とを咀嚼し、咀嚼時のレトロネーザルで感じる香味を評価した。結果、パネラー5名全員が本発明品16は比較品4に比べて、ジューシーで生オレンジを連想させるフレッシュ感や果汁感が付与され、ガムの風味が大幅に改善されると評価した。