【文献】
Journal of Neuroscience Research, 2011, Vol.89, p.117-126
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記神経幹細胞マーカーが、BRN2、CD113、CD15、CXCR4、DCX、FABP7、FOXA2、FOXO4、GFAP、LMX1A、ムサシ−1、MAP2、ネスチン、OTX2、PAX6、TUBB3、SOX1、SOX2、SOX3、およびST6GALNAC5、またはこれらの任意の組み合わせからなる群から選択される、請求項1に記載の方法。
前記神経幹細胞マーカーが、BRN2、CD113、CD15、CXCR4、DCX、FABP7、FOXA2、FOXO4、GFAP、LMX1A、ムサシ−1、MAP2、ネスチン、OTX2、PAX6、TUBB3、SOX1、SOX2、SOX3、およびST6GALNAC5、またはこれらの任意の組み合わせからなる群から選択される、請求項8に記載の方法。
前記ドーパミン作動性ニューロン誘起化合物が、ホモキノリン酸、L−システインスルフィン酸、キヌレン酸、(R)−(+)−HA−966、m−クロロフェニルビグアニド塩酸塩、カルペプチン、ジマプリット二塩酸塩、8−ヒドロキシ−DPAT臭化水素酸塩、トランス−4−ヒドロキシクロトン酸、ファスジル塩酸塩、チオペラミド、レチノイン酸、AM580、TTNPB、レモキシプリド塩酸塩、ICI 215,001塩酸塩、イミロキサン塩酸塩、スピペロン塩酸塩、ケンパウロン、CL 218872、CV 1808、Ro 15−4513、リノピルジン二塩酸塩、ググルステロン、Ch 55、3−MATIDA、SEW 2871、イメスリジン二臭化水素酸塩、LY 364947、トラニルシプロミン塩酸塩、(−)−シスチン、およびニルタミド、またはこれらの任意の組み合わせからなる群から選択される、請求項8に記載の方法。
【発明を実施するための形態】
【0029】
発明の詳細な説明
本発明は、ヒト多能性幹細胞(hPSC)から神経幹細胞(NSC)およびドーパミン作動性(DA)ニューロンを生成する方法に部分的に基づく。本発明のDAニューロンは、hPSCおよびNSCから誘導され得る。本発明はまた、ヒト多能性幹細胞からの神経幹細胞およびドーパミン作動性ニューロンの誘導に有用な試薬およびキットを提供する。
【0030】
本組成物および方法を説明する前に、本発明が、記載される特定の組成物、方法、および実験条件に限定されるものではなく、したがって、そのような組成物、方法、および条件は多様であり得ることを理解されたい。本明細書に使用される専門用語は、特定の実施形態を説明するためだけのものであり、本発明の範囲は添付の特許請求の範囲によってのみ制限されるため、制限することを意図するものではないことも理解されたい。
【0031】
本明細書および添付の特許請求の範囲に使用される際、単数形「1つの(a)」、「1つの(an)」、および「その(the)」は、文脈により別途明確に示されない限り、複数形の参照を含む。したがって、例えば、「方法」への言及は、本開示等を読むことで当業者に明らかとなるであろう本明細書に記載される1つ以上の方法および/またはステップを含む。
【0032】
別途定義されない限り、本明細書で使用されるすべての技術用語および科学用語は、本発明が属する当業者により一般に理解される意味と同一の意味を有する。本明細書に記載のものと同様もしくは同等の方法および材料を本発明の実施または試験に使用することができるが、好ましい方法および材料は、本明細書に説明される。
【0033】
本発明は、hPSCを少なくとも1つの神経幹細胞誘起化合物で処理し、神経幹細胞マーカーについて細胞をアッセイすることによる、神経幹細胞(NSC)の誘導を提供する。本発明はまた、新しく開発された化学指向性分化方法を用いて、細胞を増殖させて凍結保存することができる、安定なNSC期を介する堅固かつ再現可能な方式で、hPSCからの高純度のDAニューロン集団の誘導を提供する。
【0034】
ヒト胚性幹細胞(hESC)、ヒト単為生殖幹細胞(hpSC)、人工多能性幹細胞(iPSC)を含むがこれらに限定されない、ヒト多能性幹細胞(hPSC)からの神経幹細胞(NSC)の生成は、神経学的疾患の細胞に基づく治療戦略の重要な構成要素である。しかしながら、hPSC由来のNSCが治療法で利用可能となる前に、NSCの生成を再現可能かつ堅固に誘起する化学的に定義された培養条件を確立させる必要がある。ここで、ハイスループットのスクリーニングを行って、hPSCのNSCへの分化を誘起する小分子を識別した。チェックポイントキナーゼ1(CK1)の既報の阻害剤である小分子SB218078を、スクリーニングによって識別し、これを使用して、hPSCをNSCに分化させる化学的に定義された分化方法を確立させた。
【0035】
本明細書に報告される化学的方法は、細胞療法または創薬のための成熟ニューロンにさらに分化し得る、hPSCからの均質なNSC集団の生成を提供する。
【0036】
ヒト胚性幹細胞(hESC)、ヒト単為生殖幹細胞(hpSC)、人工多能性幹細胞(iPSC)を含むがこれらに限定されない、ヒト多能性幹細胞(hPSC)からのドーパミン作動性細胞(DC)の生成は、パーキンソン病の細胞に基づく治療戦略の重要な構成要素である。しかしながら、hPSC由来のDCが治療法で利用可能となる前に、ドーパミン作動性細胞分化を再現可能かつ堅固に誘起する化学的に定義された培養条件を確立する必要がある。ハイスループットのスクリーニングを行って、hPSC由来の神経幹細胞(hPSC−NSC)のドーパミン作動性(DA)ニューロンへの分化を誘起する小分子を識別した。小分子をスクリーニングによって識別し、次いで、これを使用して、hPSC−NSCをドーパミン作動性細胞に分化させる化学的に定義された分化方法を確立させた。
【0037】
本明細書に報告される化学的方法は、パーキンソン病等の神経学的疾患の細胞治療または創薬に使用することができる、hPSC由来のドーパミン作動性ニューロンを生成するための指示を提供する。さらに、ドーパミン作動性細胞分化の誘起物質として本明細書に報告される小分子は、強力なインビトロでのヒトドーパミンニューロン神経保護効果を有することがわかっており、パーキンソン病等の神経学的疾患の予防および/または進行に使用することができる。
【0038】
ヒト多能性幹細胞のDAニューロンへの段階的分化を調節する新しい小分子が、識別されている。ステロイドであるググルステロンが、神経幹細胞のDAニューロンへの最も効果的な誘起物質であることがわかった。これらのニューロンは、広く特徴付けられ、機能的であると示されている。この新しいアプローチは、神経学的疾患の患者の治療に使用するために十分な量のニューロンを作製する実用的な手段を提供する。
【0039】
本明細書に記載される、神経幹細胞(NSC)、ドーパミン作動性(DA)ニューロン、ならびに結果として得られる幹細胞およびニューロンを誘導する方法は、胚性幹細胞等のヒト多能性幹細胞(hPSC)から生成される。本明細書に使用される際、「胚性」とは、単一の接合体で開始し、成長した配偶子細胞以外に多能性または全能性細胞を含まなくなった多細胞性構造で終了する、生物の成長期の範囲を指す。配偶子融合によって誘導される胚に加えて、「胚性」は、体細胞核移植によって誘導される胚も指す。ヒト幹細胞は、当該技術分野で既知の方法を使用して、実質的に分化することなく多能性状態で培養物中で維持することができる。そのような方法は、例えば、米国特許第5,453,357号、同第5,670,372号、同第5,690,926号、同第5,843,780号、同第6,200,806号、および同第6,251,671号に記載され、これらの開示は、参照によりその全体が本明細書に組み込まれる。
【0040】
本明細書に使用される際、「複能性(multipotent)」または「複能性細胞」とは、限定された数の他の特定の細胞型を発生し得る細胞型を指す。複能性細胞の例には、限定された数の他の細胞を発生し得る、外胚葉細胞、内胚葉細胞、中胚葉細胞、および神経幹細胞が挙げられる。
【0041】
本明細書に使用される際、「多能性細胞」とは、別の分化組織型、すなわち、外胚葉、中胚葉、および内胚葉を生じ得る、未分化状態で長期間の理論上無期限な期間の間インビトロで維持することができる細胞を指す。ヒト多能性幹細胞(hPSC)には、ヒト胚性幹細胞(hESC)、ヒト単為生殖幹細胞(hpSC)、および人工多能性幹細胞(iPSC)が含まれるが、これらに限定されない。このようなhPSCを得る方法は、当該技術分野で周知である。
【0042】
hPSCを得る1つの方法は、単為生殖によるものである。「単為生殖」(「単為発生的に活性化される」および「単為生殖的に活性化される」は、本明細書に互換的に使用される)とは、卵母細胞の活性化が精子進入の不在下で起こることによるプロセスを指し、すべてが雌性起源であるDNAを含む、卵母細胞または胚性細胞、例えば、卵割球の活性化によって得られる、栄養外胚葉および内部細胞塊を含む初期胚の成長を指す。関連する態様において、「単為生殖生物」とは、このような活性化によって結果として得られる細胞を指す。別の関連する態様において、「胚盤胞」とは、外部栄養膜細胞および内部細胞塊(ICM)からできた中空の細胞球を含む、活性化された卵母細胞の受精したものの開裂期を指す。さらなる関連する態様において、「胚盤胞形成」とは、卵母細胞の受精または活性化後に、卵母細胞が、続いて外部栄養膜細胞およびICMからできた中空の細胞球に成長できる期間(例えば、5〜6日間)培地中で培養されるプロセスを指す。
【0043】
hPSCを得る別の方法は、核移植を通じたものである。本明細書に使用される際、「核移植」とは、ドナー細胞またはドナー細胞由来のDNAを、典型的に同じかまたは異なる種の卵母細胞である好適なレシピエント細胞(移植または融合の前、最中、または後にその内因性核DNAを除去または不活性化するように処理される)に融合または移植することを指す。核移植に使用されるドナー細胞には、胚性および分化細胞、例えば、体細胞および生殖細胞が含まれる。ドナー細胞は、増殖細胞周期(G1、G2、S、もしくはM)または非増殖状態(G0もしくは静止状態)であり得る。好ましくは、ドナー細胞またはドナー細胞由来のDNAは、増殖状態の哺乳動物細胞培養物、例えば、線維芽細胞培養物から誘導される。ドナー細胞は、任意選択的に、トランスジェニックであってもよい、すなわち、1つ以上の遺伝子付加、置換、または欠失修飾を含んでもよい。
【0044】
hPSCを得るためのさらなる方法は、人工多能性幹細胞が得られるように細胞を再プログラミングすることによるものである。Takahashi et al.(Cell 131,861−872(2007))は、胚またはES(胚性幹)細胞を使用することなく分化細胞を再プログラミングし、ES細胞のものに類似する多能性および成長能力を有する誘起性多能性幹細胞を確立する方法を開示した。Takahashi et al.は、分化線維芽細胞の種々の異なる核再プログラミング因子について記載しており、これらには、次の4つの遺伝子の生成物が含まれる:Octファミリー遺伝子、Soxファミリー遺伝子、Klfファミリー遺伝子、およびMycファミリー遺伝子。
【0045】
細胞の多能性状態は、好ましくは、適切な条件下で細胞を培養することによって、例えば、白血病阻害因子(LIF)を含む線維芽細胞フィーダー層または別のフィーダー層もしくは培養物で培養することによって、維持される。そのような培養細胞の多能性状態は、種々の方法、例えば、(i)多能性細胞の特徴を示すマーカーの発現を確認すること、(ii)多能性細胞の遺伝子型を発現する細胞を含有するキメラ動物の生成、(iii)インビボで別の分化細胞型の生成を伴う、動物、例えば、SCIDマウスへの細胞の注入、ならびに(iv)インビトロでの胚様体および他の分化細胞型への細胞の分化の観察(例えば、フィーダー層またはLIFの不在下で培養した場合)によって、確認することができる。
【0046】
本発明に使用される細胞の多能性状態は、種々の方法によって確認することができる。例えば、細胞を、特徴的なES細胞マーカーの存在または不在について試験することができる。ヒトES細胞の場合、このようなマーカーの例は、上記に特定されており、SSEA−4、SSEA−3、TRA−1−60、TRA−1−81、およびOCT4が含まれ、当該技術分野で既知である。
【0047】
また、多能性は、細胞を好適な動物、例えば、SCIDマウスに注入し、分化細胞および組織の生成を観察することによって確認することができる。多能性を確認するさらに別の方法は、本主題の多能性細胞を用いてキメラ動物を生成し、導入された細胞の異なる細胞型への寄与を観察することである。
【0048】
多能性を確認するなおも別の方法は、分化に有利な条件下(例えば、線維芽細胞フィーダー層の除去)で培養した場合に、胚様体および他の分化細胞型へのES細胞の分化を観察することである。この方法が利用されており、本主題の多能性細胞は、組織培養液中で、胚様体および別の分化細胞型を生じることが確認されている。
【0049】
結果として得られる多能性細胞および細胞系、好ましくはヒト多能性細胞および細胞系は、多数の治療および診断用途を有する。そのような多能性細胞は、多数の疾患状態の治療において、細胞移植療法または遺伝子療法(遺伝子操作した場合)に使用することができる。
【0050】
ヒト多能性幹細胞(hPSC)には、ヒト胚性幹細胞、ヒト単為生殖幹細胞、人工多能性幹細胞、およびそのような細胞によって生成された細胞系が含まれるが、これらに限定されない。hPSCは、神経幹細胞を誘導することが所望されるときまで、通例の継代によって多能性状態で培養液中に維持される。
【0051】
「NSC」(「複能性神経幹細胞」とも称される)は、次の特性のうちの1つ以上を呈する:1)ネスチンの発現、2)Sox2の発現、3)ムサシ1の発現、4)単分子層または懸濁培養液中の神経球としてのいずれかで、自己再生を行う能力、5)ニューロン、ニューロンの特定のサブタイプ、星状細胞、および乏突起膠細胞に分化する能力、ならびに6)NSCに典型的な形態学的特徴。
【0052】
NSCは、神経系の主要な表現型を生成する、自己再生する複能性細胞である。NSCは、主として、ニューロン、星状細胞、および乏突起膠細胞に分化する。
【0053】
神経外胚葉(または神経の外胚葉もしくは神経管上皮)は、ノギン等のタンパク質から骨形態形成(Bone Morphogenetic)タンパク質阻害シグナルを受容し、それがこの組織からの神経系の成長をもたらす、外胚葉を表す用語である。外胚葉から発達した後、神経外胚葉は、3段階の成長を受ける:神経板への形質転換、神経溝(関連する神経襞を伴う)への形質転換、および神経管への形質転換。神経管の形成後、脳は、後脳、中脳、および前脳の3つの部分へと形成される。
【0054】
神経幹細胞は、ABCG2、ASCL1/Mash1、β−IIIチューブリン、BMI−1、Brg1、BRN2、CDCP1、CD113、CD15、CXCR4、DCX、FABP、FABP7/B−SLAIN1、FABP8/M−FABP、FGF R4、FOXA2、FOXO4、Frizzled−9、GFAP、Glut1、HOXB1、LMX1A、MAP2、ムサシ−1、ムサシ−2、ネスチン、NeuroD1、ノギン、Notch−1、Notch−2、ヌクレオステミン、乏突起膠細胞マーカーO4、OTX2、PAX6、PDGF Rα、プロミニン2、SOX1、SOX2、SOX3、SOX9、SOX11、SOX21、SSEA−1、ST6GALNAC5、TUBB3、TRAF−4、および/またはビメンチンを含むがこれらに限定されない、神経幹細胞マーカーの発現の増加を検出することによって識別することができる。
【0055】
ネスチンは、主に中枢神経系(CNS)の幹細胞で発現するが、ほぼすべての成熟CNS細胞ではその発現が存在しないため、有用なマーカーである。転写因子SOX2は、成長中のCNSの神経上皮において高レベルで発現することが既知であり、神経幹細胞の増殖および分化に中心的に重要であると考えられる。
【0056】
本発明は、hPSCを少なくとも1つの神経幹細胞誘起化合物で処理し、細胞を神経幹細胞マーカーについてアッセイすることによる、神経幹細胞(NSC)の誘導のための方法を提供する。
【0057】
一実施形態において、本発明は、神経幹細胞(NSC)を生成する方法を提供する。本方法は、ヒト多能性幹細胞(hPSC)をチェックポイントキナーゼ1(CK1)阻害剤および骨形態形成タンパク質(BMP)阻害剤で処理し、細胞を神経幹細胞マーカーについて分析することを含む。一態様において、CK1阻害剤はSB218078である。別の態様において、BMP阻害剤は、ドルソモルフィン、LD−193189、またはDMH−1であり得る。特定の態様において、CK1阻害剤はSB218078であり、BMP阻害剤はドルソモルフィンである;CK1阻害剤はSB218078であり、BMP阻害剤はLD−193189である;およびCK1阻害剤はSB218078であり、BMP阻害剤はDMH−1である。
【0058】
ある態様において、hPSCはヒト胚性幹細胞(hESC)、ヒト単為生殖幹細胞(hpSC)、もしくは人工多能性幹細胞(iPSC)、またはそれらから誘導された細胞系である。
【0059】
一態様において、神経幹細胞マーカーには、BRN2、CD113、CD15、CXCR4、DCX、FABP7、FOXA2、FOXO4、GFAP、LMX1A、ムサシ−1、MAP2、ネスチン、OTX2、PAX6、TUBB3、SOX1、SOX2、SOX3、もしくはST6GALNAC5、またはこれらの組み合わせが含まれる。
【0060】
実施例で例証されるように、本発明は、BRN2、CD113、CD15、CXCR4、DCX、FABP7、FOXA2、FOXO4、GFAP、LMX1A、ムサシ−1、MAP2、ネスチン、OTX2、PAX6、TUBB3、SOX1、SOX2、SOX3、およびST6GALNAC5を発現するNSCを提供する。
【0061】
本明細書に使用される際、「神経幹細胞誘起化合物」は、hPSCがNSCになるように誘起する化合物である。そのような化合物には、チェックポイントキナーゼ阻害剤および骨形態形成タンパク質阻害剤が挙げられるがこれらに限定されない。
【0062】
チェックポイント1キナーゼ(Chk1)は、細胞周期中、G2移行の制御に重要な役割を果たす。G1、S、およびG2における3つのチェックポイントは、DNA損傷に応答して活性化される。DNAの損傷は、何らかの化学薬剤、または放射線、またはDNA複製によって誘起される。チェックポイントの役割は、DNA損傷が起こった場合に、DNA修復の時間を与えるために細胞周期の進行を遅延させることである。G1/Sチェックポイントは、p53依存性である。DNA損傷が存在する場合、p53活性の急速な誘起が起こり、サイクリン依存性キナーゼ阻害および細胞周期停止を誘起して、S期での損傷したDNAの複製を防止する。G1チェックポイントが欠落したp53変異細胞においては、G2チェックポイントのみが、細胞周期進行の遅延をもたらし、DNA修復経路の活性化を可能にすることができる。Chk1阻害剤は、G2チェックポイントを無効にする。
【0063】
CK1阻害剤の例には、SB−218078、ヒメニアルジシン、デブロモヒメニアルジシン、PD0166285、13−ヒドロキシ−15−オキソゾアパト系(oxozoapat line)、グラヌラチミド(granulatimide)、イソグラヌラチミド(isogranulatimide)、およびS27888が挙げられるがこれらに限定されない。
【0064】
骨形態形成タンパク質(BMP)は、形質転換成長因子β(TGFβ)スーパーファミリーに属する多機能性成長因子である。もともとは骨および軟骨の形成を誘起する能力により発見されたBMPは、現在では、中心的な形態形成シグナル群を構築し、体全体の組織構造を編成すると考えられている。BMPは、骨形態形成タンパク質受容体(BMPR)と称される細胞表面上の特異的な受容体と相互作用する。BMPRを通したシグナル伝達は、結果としてタンパク質SMADファミリーのメンバーの動員をもたらす。BMPが関与するシグナル伝達経路である、BMPRおよびSmadは、心臓、中枢神経系、および軟骨の成長、ならびに出生後の骨成長に重要である。それらは、胚発生の際、胚パターン形成および初期の骨格形成に重要な役割を有する。BMPシグナル伝達は、心臓、神経、および軟骨の成長に重要な役割を果たす。
【0065】
BMP阻害剤の例には、ドルソモルフィン、LD−193189、およびDMH−1が挙げられるがこれらに限定されない。
【0066】
hPSC由来のNSCは、当業者に周知の方法を使用して容易に識別することができる。これらの方法には、免疫組織化学、FACS分析、およびRNA発現レベルの測定を使用して神経幹細胞マーカーを識別することが含まれる。
【0067】
一実施形態において、本発明は、神経幹細胞を提供する。本主題のNSCは、ヒト多能性幹細胞(hPSC)をチェックポイントキナーゼ1(CK1)阻害剤および骨形態形成タンパク質(BMP)阻害剤で処理し、細胞を神経幹細胞マーカーについて分析することによって生成される。一態様において、CK1阻害剤はSB218078である。別の態様において、BMP阻害剤は、ドルソモルフィン、LD−193189、またはDMH−1であり得る。特定の態様において、CK1阻害剤はSB218078であり、BMP阻害剤はドルソモルフィンである;CK1阻害剤はSB218078であり、BMP阻害剤はLD−193189である;およびCK1阻害剤はSB218078であり、BMP阻害剤はDMH−1である。
【0068】
ある態様において、hPSCはヒト胚性幹細胞(hESC)、ヒト単為生殖幹細胞(hpSC)、もしくは人工多能性幹細胞(iPSC)、またはそれらから誘導された細胞系である。
【0069】
一態様において、NSCは、BRN2、CD113、CD15、CXCR4、DCX、FABP7、FOXA2、FOXO4、GFAP、LMX1A、ムサシ−1、MAP2、ネスチン、OTX2、PAX6、TUBB3、SOX1、SOX2、SOX3、およびST6GALNAC5、またはこれらの任意の組み合わせであり得る神経幹細胞マーカーを発現する。
【0070】
別の態様において、hPSCは、SB218078およびDMH−1で処理される。結果として得られるNCSは、LMX1AおよびFOX2Aを発現し、腹側中脳神経外胚葉細胞である。腹側中脳神経外胚葉細胞は、ドーパミン作動性ニューロンの前駆体である。
【0071】
NSCが誘導された後、この細胞を、星状細胞、ニューロン、および乏突起膠細胞等の他の神経細胞型に分化する能力を保持した状態で、長期間の理論上無期限な期間の間、インビトロで維持することができる。実施例に記載されるように、hPSC由来のNSCは、少なくとも7継代の間、NSC培地においてマトリゲルコーティングプレートで成長させることができる。
【0072】
実施例に示されるように、ハイスループットのスクリーニング戦略を用いて、SB218078およびDMH−1という2つの強力の神経誘起物質が識別されている(
図5A)。hPSC由来のNSC(hPSC−NSC)集団は、ネスチン、ムサシ−1、PAX6、FABP7、BRN2、SOX3、ST6GALNAC5、CXCR4、DCX、NES、MSI、CD113、CD15、FOXA2、FOXO4、GFAP、LMX1A、MAP2、OTX2、TUBB3、SOX1、SOX2、およびST6GALNAC5神経幹細胞マーカーには陽性であり、OCT4およびNANOG多能性マーカーには陰性であった(
図3、5B、5C、5D、および5F)。FABP7は、CNS成長に関与する脳内脂肪酸結合タンパク質をコードし、NSC中に高度に発現する。ST6GALNAC5は、α2,6−シアリルトランスフェラーゼをコードし、これは、細胞の血液脳関門通過を媒介する。さらに、SB218078およびDMH−1を用いて誘導されたNSCは、LMX1AおよびFOX2Aを発現した。LMX1AおよびFOX2Aは、ドーパミン作動性ニューロンの前駆体である腹側中脳神経外胚葉細胞に発現する。これらのNSCは、さらなる増殖、凍結保存、および分化に好適であり、DAニューロンの実用的な源となっている。このように、本発明は、hPSCからNSCを生成する開示の方法を例証する。
【0073】
本発明はまた、定義された化学的条件下におけるhPSCからのドーパミン作動性ニューロンの生成も提供する。
【0074】
本明細書に使用される際、「分化」とは、細胞にある特定の特別な機能を獲得させ、ある特定の別の特別な機能ユニットに変化する能力を失わせるように、細胞に起こる変化を指す。分化の能力を有する細胞は、全能性、多能性、複能性細胞のいずれかであり得る。分化は、成熟した成体細胞に関して、部分的または全面的であり得る。
【0075】
「分化細胞」は、特定の分化状態、すなわち、非胚性状態を有する、非胚性細胞を指す。3つの最短分化細胞型は、内胚葉、中胚葉、および外胚葉である。
【0076】
hPSC由来のNSCは、複能性であり、ニューロン、星状細胞、および乏突起膠細胞を含む、複数の神経細胞型へと分化し得る。
【0077】
集合的に星状膠細胞としても知られる星状細胞は、脳および脊髄における特徴的な星形グリア細胞である。それらは、ヒトの脳内に最も豊富な細胞である。それらは、血液脳関門を形成する内皮細胞の生化学的補助、神経組織への栄養の提供、細胞外イオンバランスの維持、ならびに外傷後の脳および脊髄の修復および瘢痕化における役割を含む、多数の機能を行う。
【0078】
ニューロンは、電気および化学信号を通じて情報を処理および伝達する、電気的興奮性細胞である。化学信号は、他の細胞への特別な接続部であるシナプスを介して発生する。ニューロンは、互いに接続して神経回路網を形成する。ニューロンは、脳、脊髄、および末梢神経節を含む神経系の中心構成要素である。多数の特化した種類のニューロンが存在する:感覚ニューロンは、感覚器官の細胞に作用する接触、音、光、および多数の他の刺激に応答し、それが、次いで、脊髄および脳にシグナルを送る。運動ニューロンは、脳および脊髄からシグナルを受容し、筋肉の収縮をもたらし、腺に作用する。介在ニューロンは、脳または脊髄の同じ領域内でニューロンを他のニューロンに接続する。数種類のニューロンが存在する:コリン作動性、GABA作動性、グルタミン酸作動性、ドーパミン作動性、およびセロトニン作動性。
【0079】
コリン作動性ニューロン。アセチルコリンは、シナプス前ニューロンからシナプス間隙に放出される。これは、リガンド開口型イオンチャネルおよび代謝調節型(GPCR)ムスカリン受容体の両方のリガンドとして機能する。ニコチン受容体は、ニコチンに結合するαおよびβサブユニットから構成される、五量体リガンド開口型イオンチャネルである。リガンド結合によりチャネルが開き、Na
+流入して脱分極を引き起こし、シナプス前神経伝達物質放出の確率を高める。
【0080】
GABA作動性ニューロン-γアミノ酪酸。GABAは、CNSにおける2つの神経阻害物質のうちの1つであり、もう1つはグリシンである。GABAは、AChに相同な機能を有し、アニオンチャネルを開閉して、Cl
−イオンがシナプス後ニューロンに入ることを可能にする。Cl
−は、ニューロン内での過分極を引き起こし、電圧がより負になるにつれて活動電位の発火確率を減少させる(活動電位が発火するためには、正電圧閾値に達する必要があることを思い起こされたい)。
【0081】
グルタミン酸作動性ニューロン。グルタミン酸は、2つの主要な興奮性アミノ酸のうちの1つであり、もう1つはアスパラギン酸である。グルタミン酸受容体は、4つの分類のうちの1つであり、4つのうちの3つは、リガンド開口型イオンチャネルであり、そのうちの1つはGタンパク質共役型受容体(GPCRと称されることが多い)である。AMPAおよびカイニン酸受容体はいずれも、迅速な興奮性シナプス伝達を媒介するNa+カチオンチャネルに対して透過性のカチオンチャネルとして機能する。NMDA受容体は、Ca
2+により透過性である別のカチオンチャネルである。NMDA受容体の機能は、チャネル孔内で共アゴニストとして結合するグリシン受容体に依存する。NMDA受容体は、両方のリガンドが存在しなければ機能しない。代謝調節型受容体であるGPCRは、シナプス伝達およびシナプス後興奮性を調節する。グルタミン酸は、脳への血流が遮断された場合に興奮毒性を引き起こし、結果として脳の損傷をもたらし得る。血流が抑制されると、グルタミン酸は、シナプス前ニューロンから放出され、通常ストレス条件外で起こるものよりも多くのNMDAおよびAMPA受容体活性化を引き起こし、シナプス後ニューロンに進入するCa
2+およびNa
+が上昇し、細胞損傷につながる。
【0082】
ドーパミン作動性ニューロン。ドーパミンは、cAMPおよびPKAを増加させるD1型(D1およびD5)Gs共役型受容体、ならびにcAMPおよびPKAを減少させるGi共役型受容体を活性化させる、D2型(D2、D3、およびD4)受容体に作用する、神経伝達物質である。ドーパミンは、気分および挙動と関連し、シナプス前および後両方の神経伝達を調節する。黒質内のドーパミンニューロンの消失は、パーキンソン病と関連付けられている。
【0083】
セロトニン作動性ニューロン。セロトニン(5−ヒドロキシトリプタミン、5−HT)は、興奮性または阻害性として作用し得る。4つの5−HT受容体クラスのうち、3つはGPCRであり、1つはリガンド開口型カチオンチャネルである。セロトニンは、トリプトファンヒドロキシラーゼによってトリプトファンから合成され、次いで、芳香族酸デカルボキシラーゼによってさらに合成される。シナプス後ニューロンにおける5−HTの欠如は、鬱と関連付けられている。プロザックおよびゾロフト等のシナプス前セロトニン輸送体を遮断する薬物が、治療に用いられている。
【0084】
乏突起膠細胞は、別の種類の脳細胞である。乏突起膠細胞の主な機能は、一部の脊椎動物の中枢神経系(脳および脊髄)において、支持を提供し、軸索(神経細胞の長い突起)を隔離することである。乏突起膠細胞は、80%が脂質で20%がタンパク質であるミエリン鞘を作ることによって、これを行う。単一の乏突起膠細胞は、そのプロセスを50軸索まで延ばし、各軸索の周囲におおよそ1μmのミエリン鞘を取り巻くことができる。各乏突起膠細胞は、複数の隣接する軸索に1セグメントのミエリンを形成する。
【0085】
適正な培養条件下において、主題のNSCは、例えば、中脳ドーパミン作動性系統の遺伝子、例えば、Nurr1およびPitx3といった、特定の神経系遺伝子を発現するように誘起され得る。
【0086】
主題のNSCは、チロシンヒドロキシラーゼ(TH)を発現するニューロンに分化するように誘起され得る。THは、ドーパミン作動性ニューロンの既知のマーカーである。いくつかの実施形態において、主題のNSCは、運動ニューロンに分化し、ここで、運動ニューロンは、HB9に陽性である。いくつかの実施形態において、主題のNSCは、GABA作動性ニューロンに分化し、ここで、GABA作動性ニューロンは、GAD67に陽性である。いくつかの実施形態において、主題の誘起NSCは、ドーパミン作動性ニューロンに分化し、ここで、ドーパミン作動性ニューロンは、TH陽性である。
【0087】
ニューロンは、ニューロンマーカーであるTuj1(β−III−チューブリン);MAP−2(微小管結合タンパク質2、MAP−1または−5等の他のMAP遺伝子も使用可能である);抗軸索成長クローン;ChAT(コリンアセチルトランスフェラーゼ);CgA(抗クロマグラニン(chromagranin)A);DARRP(ドーパミンおよびcAMP調節型リンタンパク質);DAT(ドーパミン輸送体);GAD(グルタミン酸デカルボキシラーゼ);GAP(成長関連タンパク質);抗HuCタンパク質;抗HuDタンパク質;.α.−インターネキシン;NeuN(ニューロン特異的核タンパク質);NF(神経フィラメント);NGF(神経成長因子);γ−SE(ニューロン特異的エノラーゼ);ペリフェリン;PH8;PGP(タンパク質遺伝子産物);SERT(セロトニン輸送体);シナプシン;Tau(神経原線維変化タンパク質);抗Thy−1;TRK(チロシンキナーゼ受容体);TRH(トリプトファンヒドロキシラーゼ);抗TUCタンパク質;TH(チロシンヒドロキシラーゼ);VRL(バニロイド受容体様タンパク質);VGAT(小胞状GABA輸送体)、VGLUT(小胞状グルタミン酸輸送体)の発現によって識別することができる。
【0088】
主題のNSCの分化を誘起することによって生成されたニューロンを、機能的基準に従って試験することができる。例えば、カルシウム流出は、神経伝達物質またはインビボでニューロンに作用することが既知の他の環境条件に応答して、任意の標準的な技術によって測定することができる。まず、集団内のニューロン様細胞を、形態学的基準によって、またはNCAM等のマーカーによって識別する。次いで、神経伝達物質または条件を細胞に適用し、応答を監視する。さらに、細胞を標準的なパッチクランプ技術に供して、活動電位の根拠が存在するかどうか、および適用した電位と応答の間の遅延時間がどれほどであるかを判定する。主題のNSCの分化物は、ニューロンの形態学的特徴を有する亜集団を含有する培養物を生成し得、NCAMまたはMAP−2陽性であり、GABA、アセチルコリン、ATP、および高いナトリウム濃度、グルタミン酸、グリシン、アスコルビン酸、ドーパミン、またはノルエピネフリンのうちの1つ以上に対して応答を示す。いくつかの実施形態において、主題の分化NCAMまたはMAP−2陽性物また、パッチクランプシステムにおいて活動電位を呈する。
【0089】
ドーパミン作動性ニューロンのマーカーには、TUJ1、TH、Dat、Foxa2、Nurr−1、Girk2、MAPT、SYT4、FOXA1、DDC、ASCL1、PINK1、PAX5、LMX1B、PITX3、NURR−1、LMX1A、EN1、PAX2、TFF3、PITX2、DCX、MAP2、PITX1、もしくはVMAT2、またはこれらの任意の組み合わせが挙げられるが、これらに限定されない。
【0090】
星状細胞は、星状細胞のマーカーであるGFAP(グリア細胞線維性酸性タンパク質)、S100β等の発現によって識別される。
【0091】
乏突起膠細胞は、主題の誘起NSCから生成され得る。乏突起膠細胞は、乏突起膠細胞マーカーGC(ガラクトセレブロシド、GalCとも称される);MBP(ミエリン塩基性タンパク質);CNPase(2',3'−環状ヌクレオチド3'−ホスホジエステラーゼ[または−ホスホヒドロラーゼ]);または乏突起膠細胞マーカー神経内分泌特異的タンパク質−4(NSP4、レチキュロン(reticulon)−4もしくはRTN4としても知られる)、RIP(2',3'−環状ヌクレオチド3'−ホスホジエステラーゼ)、ミエリン/乏突起膠細胞特異的タンパク質(MOSP)、乏突起膠細胞系統転写因子2(Olig2)、乏突起膠細胞マーカーO1、NogoA、または乏突起膠細胞マーカーO4の発現によって識別され得る。
【0092】
本発明は、NSCからのDAニューロン分化についてのハイスループットのスクリーニングアッセイを提供する。
【0093】
別の実施形態において、本発明は、ドーパミン作動性ニューロンを生成する方法を提供する。本方法は、ヒト多能性幹細胞(hPSC)をチェックポイントキナーゼ1(CK1)阻害剤および骨形態形成タンパク質(BMP)阻害剤で処理すること、処理したhPSCを神経幹細胞マーカーについてアッセイすることによって神経幹細胞を識別すること、NSCを少なくとも1つのドーパミン作動性ニューロン誘起化合物で処理すること、ならびに細胞をドーパミン作動性ニューロン細胞マーカーについて分析することを含む。ある特定の態様において、CK1阻害剤はSB218078であり、BMP阻害剤は、ドルソモルフィン、LD−193189、またはDMH−1である。好ましい態様において、CK1阻害剤はSB218078であり、BMP阻害剤はDMH−1である。
【0094】
ある態様において、hPSCはヒト胚性幹細胞(hESC)、ヒト単為生殖幹細胞(hpSC)、もしくは人工多能性幹細胞(iPSC)、またはそれらから誘導された細胞系である。
【0095】
本方法の一態様において、神経幹細胞マーカーは、BRN2、CD113、CD15、CXCR4、DCX、FABP7、FOXA2、FOXO4、GFAP、LMX1A、ムサシ−1、MAP2、ネスチン、OTX2、PAX6、TUBB3、SOX1、SOX2、SOX3、もしくはST6GALNAC5、またはこれらの任意の組み合わせであり得る。
【0096】
本方法のさらなる態様において、ドーパミン作動性ニューロン誘起化合物は、ホモキノリン酸、L−システインスルフィン酸、キヌレン酸、(R)−(+)−HA−966、m−クロロフェニルビグアニド塩酸塩、カルペプチン、ジマプリット二塩酸塩、8−ヒドロキシ−DPAT臭化水素酸塩、トランス−4−ヒドロキシクロトン酸、ファスジル塩酸塩、チオペラミド、レチノイン酸、AM580、TTNPB、レモキシプリド塩酸塩、ICI 215,001塩酸塩、イミロキサン塩酸塩、スピペロン塩酸塩、ケンパウロン、CL 218872、CV 1808、Ro 15−4513、リノピルジン二塩酸塩、ググルステロン、Ch 55、3−MATIDA、SEW 2871、イメスリジン二臭化水素酸塩、LY 364947、トラニルシプロミン塩酸塩、(−)−シスチン、もしくはニルタミド、またはこれらの任意の組み合わせであり得る。好ましい態様において、ドーパミン作動性ニューロン誘起化合物は、ググルステロンである。
【0097】
本方法のさらなる態様において、ドーパミン作動性ニューロン細胞マーカーは、TUJ1、TH、Dat、Foxa2、Nurr−1、Girk2、MAPT、SYT4、FOXA1、DDC、ASCL1、PINK1、PAX5、LMX1B、PITX3、NURR−1、LMX1A、EN1、PAX2、TFF3、PITX2、DCX、MAP2、PITX1、もしくはVMAT2、またはこれらの任意の組み合わせであり得る。
【0098】
さらなる実施形態において、本発明は、ドーパミン作動性ニューロンを提供する。本主題のDAニューロンは、ヒト多能性幹細胞(hPSC)をチェックポイントキナーゼ1(CK1)阻害剤および骨形態形成タンパク質(BMP)阻害剤で処理し、処理したhPSCを神経幹細胞マーカーについてアッセイすることによって神経幹細胞を識別し、NSCを少なくとも1つのドーパミン作動性ニューロン誘起化合物で処理し、細胞をドーパミン作動性ニューロン細胞マーカーについて分析することによって生成される。ある特定の態様において、CK1阻害剤はSB218078であり、BMP阻害剤は、ドルソモルフィン、LD−193189、またはDMH−1である。好ましい態様において、CK1阻害剤はSB218078であり、BMP阻害剤はDMH−1である。
【0099】
ある態様において、hPSCはヒト胚性幹細胞(hESC)、ヒト単為生殖幹細胞(hpSC)、もしくは人工多能性幹細胞(iPSC)、またはそれらから誘導された細胞系である。
【0100】
本方法の一態様において、神経幹細胞マーカーは、BRN2、CD113、CD15、CXCR4、DCX、FABP7、FOXA2、FOXO4、GFAP、LMX1A、ムサシ−1、MAP2、ネスチン、OTX2、PAX6、TUBB3、SOX1、SOX2、SOX3、もしくはST6GALNAC5、またはこれらの任意の組み合わせであり得る。
【0101】
本方法のさらなる態様において、ドーパミン作動性ニューロン誘起化合物は、ホモキノリン酸、L−システインスルフィン酸、キヌレン酸、(R)−(+)−HA−966、m−クロロフェニルビグアニド塩酸塩、カルペプチン、ジマプリット二塩酸塩、8−ヒドロキシ−DPAT臭化水素酸塩、トランス−4−ヒドロキシクロトン酸、ファスジル塩酸塩、チオペラミド、レチノイン酸、AM580、TTNPB、レモキシプリド塩酸塩、ICI 215,001塩酸塩、イミロキサン塩酸塩、スピペロン塩酸塩、ケンパウロン、CL 218872、CV 1808、Ro 15−4513、リノピルジン二塩酸塩、ググルステロン、Ch 55、3−MATIDA、SEW 2871、イメスリジン二臭化水素酸塩、LY 364947、トラニルシプロミン塩酸塩、(−)−シスチン、もしくはニルタミド、またはこれらの任意の組み合わせであり得る。好ましい態様において、ドーパミン作動性ニューロン誘起化合物は、ググルステロンである。
【0102】
本方法のさらなる態様において、ドーパミン作動性ニューロン細胞マーカーは、TUJ1、TH、Dat、Foxa2、Nurr−1、Girk2、MAPT、SYT4、FOXA1、DDC、ASCL1、PINK1、PAX5、LMX1B、PITX3、NURR−1、LMX1A、EN1、PAX2、TFF3、PITX2、DCX、MAP2、PITX1、もしくはVMAT2、またはこれらの任意の組み合わせであり得る。
【0103】
実施例に示されるように、本開示の方法は、完全に機能的なドーパミン作動性ニューロンの生成をもたらした。DAニューロンは、神経突起の伸張およびドーパミン放出を示した(
図6A)。ググルステロン(GS)は、最良のドーパミン作動性分化誘起物質のうちの1つとして識別された(
図6A)。GSで処理した細胞は、神経突起の伸張を示し、TUJ1、TH、Dat、Foxa2、Nurr−1、およびGirk2(
図6B)、MAPT、FOXA2、SYT4、FOXA1、DDC、ASCL1、PINK1、PAX5、LMX1B、PITX3、NURR1、LMX1A、EN1、GIRK2、DDC、およびVMAT2(
図6B、6D、および6E)を発現した。さらに、FACS分析により、得られた細胞の97%超が、TH陽性であったことが明らかとなった(
図6C)。SYT4(シナプトタグミン4)は、シナプス可塑性およびドーパミン放出に重要な役割を果たす。ASCL1は、腹側中脳に発現し、誘導細胞が適切な表現型のものであることを示す。全細胞パッチクランプ電気生理学(
図6G、
図6H、および
図6I)は、DAニューロンが、電圧固定モード(
図6H)では内向きNa+電流を示し、電流固定モード(
図6I)では電流を注入したときに活動電位を発火したことを明らかにした。これは、本開示の方法を用いたhPSCからの完全に機能的なドーパミン作動性ニューロンの生成を実証する。
【0104】
NSCは、神経学的疾患および障害の治療に極めて重要な役割を果たし得る。神経変性は、ニューロンの死滅を含む、ニューロンの構造または機能の進行性消失の包括的な用語である。パーキンソン病、アルツハイマー病、およびハンチントン病を含む、多数の神経変性疾患は、神経変性プロセスの結果として生じ、進行性の神経系機能不全を特徴とする。神経学的疾患および障害には、アルツハイマー病および他の認知症、脳の癌、変性性神経疾患、脳炎、癲癇、遺伝性脳障害、頭部および脳の奇形、水頭症、脳卒中(Stroke)、パーキンソン病、多発性硬化症、筋萎縮性側索硬化症(ALSまたはルーゲーリック病)、ハンチントン病、プリオン病、発作(stroke)等が挙げられるがこれらに限定されない。
【0105】
神経幹細胞は、死につつあるニューロンの移動および置き換えに関与することが示されている。さらに、マウスにおいて脳卒中時の海馬幹細胞の役割が解明されている。これらの結果は、NSCが、傷害の結果として成体の脳に関与し得ることを示した。さらに、NSCが指向性様式で脳の腫瘍に移動することが示されている。さらに、傷害に対するNSCの応答の分子機序について研究がなされた。傷害の際に放出されるSDF−1a等のケモカインは、ヒトおよびマウスのNSCがマウスにおいて傷害領域へ指向的に移動することに関与していた。傷害環境において作用する追加の機序、ならびに急性および慢性疾患時にそれらがどのようにNSCの応答に影響を及ぼすかについての探求は、精力的な研究の問題である。
【0106】
さらなる実施形態において、本発明は、神経学的疾患および障害の治療方法を提供する。本方法は、神経学的疾患または障害を有する対象にNSCを投与することを含む。
【0107】
さらなる実施形態において、本発明は、神経学的疾患および障害を治療する方法を提供する。本方法は、神経学的疾患または障害を有する対象にNSCまたはDAニューロンを投与することを含む。
【0108】
別の実施形態において、本発明は、NSCの生成のためのキットを提供する。キットには、チェックポイントキナーゼ1(CK1)阻害剤および骨形態形成タンパク質(BMP)阻害剤、神経幹細胞マーカーを識別するための試薬、ならびにhPSCからNSCを生成するための指示書が含まれ得る。一態様において、CK1阻害剤はSB218078であり、BMP阻害剤は、ドルソモルフィン、LD−193189、またはDMH−1である。ある特定の態様において、CK1阻害剤はSB218078であり、BMP阻害剤はドルソモルフィンである;CK1阻害剤はSB218078であり、BMP阻害剤はLD−193189である;CK1阻害剤はSB218078であり、BMPはDMH−1である。キットには、BRN2、CD113、CD15、CXCR4、DCX、FABP7、FOXA2、FOXO4、GFAP、LMX1A、ムサシ−1、MAP2、ネスチン、OTX2、PAX6、TUBB3、SOX1、SOX2、SOX3、またはST6GALNAC5神経幹細胞マーカーを識別するための試薬が含まれ得る。
【0109】
別の実施形態において、本発明は、ドーパミン作動性ニューロンの生成のためのキットを提供する。キットには、チェックポイントキナーゼ1(CK1)阻害剤および骨形態形成タンパク質(BMP)阻害剤、神経幹細胞マーカーを識別するための試薬、少なくとも1つのドーパミン作動性ニューロン誘起化合物、ドーパミン作動性ニューロン細胞マーカーを識別するための試薬、ならびにhPSCからドーパミン作動性ニューロンを生成するための指示書が含まれる。一態様において、CK1阻害剤はSB218078であり、BMP阻害剤はDMH−1であり、ドーパミン作動性ニューロン誘起化合物は、ググルステロンである。キットには、BRN2、CD113、CD15、CXCR4、DCX、FABP7、FOXA2、FOXO4、GFAP、LMX1A、ムサシ−1、MAP2、ネスチン、OTX2、PAX6、TUBB3、SOX1、SOX2、SOX3、またはST6GALNAC5神経幹細胞マーカーを識別するための試薬が含まれ得る。キットにはまた、TUJ1、TH、Dat、Foxa2、Nurr−1、Girk2、MAPT、SYT4、FOXA1、DDC、ASCL1、PINK1、PAX5、LMX1B、PITX3、NURR−1、LMX1A、EN1、PAX2、TFF3、PITX2、DCX、MAP2、PITX1、またはVMAT2ドーパミン作動性ニューロン細胞マーカーを識別するための試薬が含まれ得る。
【0110】
以下の実施例は、本発明を例示することを意図するものであり、本発明を制限することを意図するものではない。
【実施例】
【0111】
実施例1
hPSCの成長
ハイスループットのスクリーニング戦略を用いて、SB218078およびDMH−1という2つの強力な神経誘起物質を識別した(
図5A)。SB218078は、胚性幹細胞の分化を刺激することが示されているスタウプリミドの構造的相同体であり、DMH−1は、hPSCにおける神経の変換を効率的に誘起するドルソモルフィンの相同体である。NSCを誘導するために、マトリゲル上で成長させたhPSCをStemPro培地から5μMのSB218078および1μMのDMH−1を補充したN2B27培地に移すことによって、原始神経上皮を誘起した。これらの神経誘起物質の存在下において6日後に、神経誘起の初期マーカーであるPax6が、大幅に上方調節された(
図3および5B)。7日目に、神経化した(neuralized)hPSCを、NSC培地に移し、次いで、解離させて増殖性NSCを誘導した。4継代後、hPSC由来のNSC(hPSC−NSC)集団は、ネスチンに98%陽性、ムサシ−1に96%陽性、PAX6に95%陽性、OCT4に0%陽性であった(
図5Cおよび
図5D)。遺伝子発現マイクロアレイ分析により、FABP7、BRN2、SOX3、ST6GALNAC5、CXCR4、DCX、NES、およびMSIを含む推定上のNSCマーカーの上方調節が明らかとなった(
図5E)。FABP7は、CNS成長に関与する脳内脂肪酸結合タンパク質をコードし、NSC中に高度に発現する。ST6GALNAC5は、α2,6−シアリルトランスフェラーゼをコードし、これは、細胞の血液脳関門通過を媒介する。リアルタイムPCR(RT−PCR)データは、さらに、NSCマーカーの上方調節を確認し、最も重要なことに多能性マーカーOCT−4およびNANOGの完全な下方調節が明らかとなり(
図5F)、高度に富化された神経幹細胞集団が得られたという結論に至った。これらのNSCは、さらなる増殖、凍結保存、および分化に好適であり、DAニューロンの実用的な源となっている。
【0112】
具体的には、hPSC系[ヒト胚性幹細胞系WA−09ならびにヒト単為生殖幹細胞系LLC2PおよびLLC12PH(International Stem Cell Corporation)を、まず、胚性幹細胞培地[ノックアウトDMEM/F12(Life Technologies)、2mM L−グルタミン(GlutaMax−I,Invitrogen)、0.1mM MEM非必須アミノ酸(Life Technology)、0.1mM β−メルカプトエタノール(Life Technologies)、ペニシリン/ストレプトマイシン/アンホテリシンB(100U/100μg/250ng)(MP Biomedicals)、および5ng/ml bFGF(Peprotech)]において、マイトマイシン−C不活性化マウス胚性線維芽細胞(Millipore)フィーダー層で維持した。細胞を、5〜7日毎に分割比1:4または1:6でディスパーゼ(Life Technologies)を用いて継代した。次いで、hPSCをマトリゲル(BD Biosciences)コーティングプレートに移し、Stem Pro hESC SFM培地(Invitrogen)[GlutaMAXを有するDMEM/F12、1×STEMPRO hESC SFM成長補充物質、1.8%ウシ血清アルブミン、8ng/mL bFGF、および0.1mM 2−メルカプトエタノール]で成長させた。
【0113】
実施例2
フィーダーフリーのhPSC成長
hPSC系LLC12PHを、次いで、マトリゲル(BD Biosciences)コーティングプレートに移し、Stem Pro hESC SFM培地(Invitrogen)[GlutaMAXを有するDMEM/F12、1×STEMPRO hESC SFM成長補充物質、1.8%ウシ血清アルブミン、8ng/mL bFGF、および0.1mM 2−メルカプトエタノール]で成長させた。
【0114】
実施例3
ハイスループットの神経誘起hPSCスクリーニングアッセイ
フィーダーフリー培地条件下で成長させた未分化hPSCを、N2B27培地[ノックアウトDMEM/F12、1×GlutaMax、1×N2/B27補充物質(Invitrogen)]において、SB218078(5μM)に加えてDMH−1(1μM)からなる化合物で7日間処理することによって、hPSC−NSCを誘導した。神経化したhPSCを、次いで、Accutase(Sigma)で解離させ、NSC培地[ノックアウトDMEM/F12、2%StemPro神経補充物質、1×GlutaMAX、20ng/ml bFGF、および20ng/ml EGF]においてマトリゲルコーティングプレートで4継代以上成長させ、純度の高い均質なhPSC−NSC集団を生成した。
【0115】
実施例4
ハイスループットのドーパミンニューロン細胞分化スクリーニングアッセイ
DAニューロンを得るために、hPSC−NSCを、まず、7日間、100ng/mL FGF8および2μMプルモルファミンとともにDA前駆体にプライムし、次いで、最終的なドーパミン作動性分化を誘起する小分子のスクリーニングに使用した(
図6A)。DA前駆体を、2000細胞/ウェルで96ウェルプレートに播き、2.5μMで2週間、小分子ライブラリ(Tocris 1120の生物学的に活性な化合物)で処理した(
図6A)。ドーパミン作動性分化を、神経突起の伸張およびドーパミン放出についてのELISAによって評価した(
図6A)。このスクリーニングにより、天然に存在するステロイドであるググルステロン(GS)が、最良のドーパミン作動性分化誘起物質の中から識別された(
図6A)。30日間の分化後、GSで処理したニューロンは、複雑な神経突起伸張を伴って成熟していたと見られた。この段階では、誘導細胞は、主要なニューロンマーカーのβ−III−チューブリン(TUJ1)だけでなく、重要なDAニューロンマーカーであるチロシンヒドロキシラーゼ(TH)、ドーパミン輸送体(Dat)、Foxa2、Nurr−1、およびGirk2も発現した(
図6B)。さらに、FACS分析により、得られた細胞の97%超が、TH陽性であったことが明らかとなった(
図6C)。遺伝子発現マイクロアレイ分析により、MAPT、FOXA2、SYT4、FOXA1、DDC、ASCL1、およびPINK1等、ドーパミン作動性およびニューロン関連マーカーの上方調節が示された(
図6D)。SYT4(シナプトタグミン4)は、シナプス可塑性およびドーパミン放出に重要な役割を果たす。ASCL1は、腹側中脳に発現し、誘導細胞が適切な表現型のものであることを示す。hPSC、NSC、DAニューロン、および黒質由来組織の遺伝子発現のさらなる分析により、hPSC由来のDAニューロンが、SN中に存在する細胞へと神経分化を受ける細胞の遺伝子発現の特徴的な特性の要素を取得したこと、ならびにそれらが、成長的にはNSC後かつSN前の段階に位置することが明らかとなった。RT−PCRは、さらに、PAX5、LMX1B、PITX3、NURR1、LMX1A、EN1、GIRK2、DDC、およびVMAT2等のマーカーの特徴的な発現を有するDAニューロンの同一性を確認した(
図6E)。最も重要なことには、対照細胞(GSの代わりにFGF8およびプルモルファミンで1週間、ならびに0.1%DMSOで2週間処理したNSC)と比較して、GS処理細胞は、ELISAによって判定されるドーパミン分泌に5倍の増加を示した(
図6F)。全細胞パッチクランプ電気生理学(
図6G、
図6H、および
図6I)は、90日間のGS処理の後、DAニューロンが、電圧固定モード(
図6H)では内向きNa+電流を示し、電流固定モード(
図6I)では電流を注入したときに活動電位を発火したことを明らかにした。自発的活動電位を、微小電極アレイ(MEA)システムを使用してGS処理ニューロンの全培養物において記録した(
図6J)。MEA皿中の全64個の電極のおおよそ3分の1が、中等度の活性を示した(>5スパイク/分)。これらのニューロンは、2つの基本的な発火表現型によって特徴付けられる:周期的なスパイクのバーストを発するものおよび単一のスパイクを定期的に発するもの(
図6Jおよび
図6K)。
【0116】
本方法は、具体的には、hESC−H9−NSC(Invitrogen)およびhPSC−NSCの両方を、NB培地[NeuroBasal培地、1×GlutaMAX、1×N2/B27補充物質(Invitrogen)]において7日間プルモルファミン(2μM)およびFGF8(100ng/mL)で処理することを伴った。プルモルファミンおよびFGF8での7日間の処理の後、NSCを、Accutase(Sigma)で解離させ、20,000細胞/mLでマトリゲルコーティング96ウェルプレートに播き、2.5μMの最終濃度で2週間小分子ライブラリ(Torcris 1120の生物学的に活性な化合物)で処理した(
図6A)。小分子で処理した2週間後に、すべてのウェルを目視観察し、神経突起密度に基づいてスコア付けした。小分子で処理した2週間後に、すべてのウェルを目視観察し、神経突起密度およびドーパミン放出に基づいてスコア付けした。神経突起密度を測定するために、細胞を、4%パラホルムアルデヒドで固定し、Cellavista細胞イメージングシステム(Roche Applied Science)を用いて、無作為に選択した領域から位相差画像を取得した。神経突起密度を、Cellavista密度ソフトウェア画像処理プログラムを用いて測定した。各実験条件を、二連のウェルで行い、少なくとも3回の独立した実験を実行して、最終結果を得た。
【0117】
上位の神経突起誘起物質(表1)(0.1%DMSOで処理した対照と比較して最も高い密度の神経突起を含有するウェル)から馴化培地を収集し、ドーパミンELISAアッセイ(Cosmo Bio)を用いて分析した。1ウェル当たり50,000の細胞を含有する試料から馴化培地を収集し、3000RPMで遠心分離して細胞残屑を除去した。次いで、上清を収集し、市販のドーパミンELISAアッセイキット(CusaCosmo Bio)を用いてドーパミンの定量について分析した。データの分析を、マイクロタイタープレートリーダー(BIO−TEK Synergy 2)を用いて行った。示される結果は、3回の独立した実験(n=3)からのものであり、平均±標準誤差(s.e.m.)として表され、統計学的分析は、統計学的有意差P<0.05、信頼度95%(α=0.05)で両側スチューデントt検定を用いて行った。さらに、各ウェルからの全RNAを収集し、hPSC−NSCからのTuJ1、MAP2、TH、GRK2、EN1、DAT、AADC、PAX2、NURR1、PITX3、およびLMX1Bの発現についてRT−PCRによって分析した(表2)。RT−PCRデータの分析は、上位ヒットのすべてが、2週間の処理の後、成熟したドーパミンニューロンと関連する遺伝子を発現することを示した。ELISAデータの分析は、上位の小分子神経突起誘起物質が、対照の未処理細胞(1.5ng/mL)よりも高いレベルのドーパミンを生成したことを示した。ググルステロンで処理したhPSC−NSCが、最も高いレベルのドーパミンの自発的放出を誘起した(
図5A)。ケンパウロン(33%)、ググルステロン(35%)、キヌレン酸(19%)、イメドスリジン二臭化水素酸塩(Immedthridine Dihydrobromide)(21%)、およびジマプリット二塩酸塩(18%)での化学処理によって生成されたTH陽性細胞の割合は、標準的なドーパミン作動性分化培地(BDNF 20ng/mL、GDNF 20ng/mL、cAMP 200μM、アスコルビン酸200μM、TGFβ3 2ng/mL、およびDAPT)を用いて1か月以上分化させたhPSC−NSCから得られたTH陽性細胞の15%よりも高かった。
【0118】
全細胞パッチクランプ電気生理学方法。電気生理学的記録のために、細胞を、Olympusの倒立顕微鏡上に載置した記録チャンバに移した。記録の最中、温度を31〜32℃に維持し、細胞を、pH7.30および315mOsmで、150mM NaCl、4mM KCl、1.8mM CaCl
2、1mM MgCl
2、10mM HEPES、10mMグルコースとともに1ml/分の一定流量で灌流した。全細胞記録を、pH7.30および290mOsmで、130mM K−グルコン酸塩、5mM NaCl、5mM KCl、10mM HEPES、20mMスクロース、0.3mM EGTA、3mM MgATPを充填した先端抵抗が2〜3MΩのホウケイ酸電極を用いて取得した。データは、HEKA EPC−10デジタイザ/増幅器を使用して取得した。全細胞アクセスが達成された直後に静止膜電位を記録し、細胞を、次いで、3〜5分間平衡化させた。次いで、−70mVの静止膜電位から、細胞を、電流固定モードにおいて0.2Hzで送達される200ミリ秒の電流注入により脱分極させ、振幅を50pAから最大1000pAまで増加させて、活動電位を誘起した。内向きまたは外向き電流の存在を、電圧ランプを適用することによって判定した。不安定な記録構成を有する細胞または直列抵抗が15MΩよりも大きくなったものは、この研究から除外した。20個の異なる細胞を記録し、パッチクランプした7個の細胞から活動電位を得た。
【0119】
マイクロアレイ分析方法。全RNAを、製造業者のプロトコルに従って二連の試料ペレット(RNeasy;Qiagen)から収集したものから抽出した。RNAの数(Qubit RNA BR Assay Kits;Invitrogen)および品質(RNA6000 Nano Kit;Agilent)は、さらなる処理の前に各試料について最適であることが判定された。1つの試料につき200ngのRNAを、製造業者のプロトコルに従ってIllumina Total Prep RNA増幅キットを用いて増幅させ、上述のように定量化した。1つの試料につき750ngのビオチニル化RNAを、Illumina HT−12v4発現ビーズチップにハイブリダイズし、Illumina iScanビーズアレイスキャナでスキャンし、GenomeStudioおよびlumiバイオコンダクターパッケージで品質管理を行った。すべてのRNAプロセシングおよびマイクロアレイハイブリダイゼーションは、製造業者のプロトコルに従って行った。GenomeStudioでは、プローブを少なくとも1つの試料において0.01のP値が検出されたものに限定し、Rでの正規化のために出力した。未加工のプローブ発現値を、lumi R/バイオコンダクターパッケージに実装されているロバストスプライン正規化(robust spline normalization)(RSN)を用いて、変換および正規化した。ベン図を得るために、Qlucore Omni Explorerを用いた。細胞型のペア(hPSCと黒質、hPSCとNSC、およびhPSCとドーパミン作動性ニューロン)間で分化発現した転写物を、P値のカットオフ<0.05および分散のカットオフ>0.005で両側スチューデントt検定を用いて識別した。分化発現したプローブのセットを、次いで、互いに比較した。遺伝子発現アレイデータは、受託指定番号GSE42265の下に、NCBI GEOデータベースで利用可能である。
【0120】
統計学的分析。結果は、標準±標準誤差(s.e.m.)として表し、統計学的分析は、2つの群を比較するための両側スチューデントt検定、または複数群を対照と比較するためのダネット検定を用いた1要因ANOVAにより、信頼度95%(α=0.05)を用いて行った。すべての検定に対する統計学的有意差の基準は、P<0.05であった。
【0121】
追加の方法
RT−PCR分析
それぞれ約100万の細胞を用いた少なくとも三連の試料からの全RNAを、製造業者の説明(Qiagen)に従ってQIAsymphony自動精製システムまたはRNeasy Plus Miniキットのいずれかを用いて単離した。全RNAを、iScript cDNA合成キット(Biorad)およびPx2 Thermal Cycler(Thermo Scientific)での逆転写に使用した。遺伝子発現を分析するために、PCR反応を、1回の反応につき1/25のcDNAならびにQuantiTect Primer AssayおよびQuantitest SYBR Greenマスターミックス(Qiagen)を用いて二連で行った。qPCRを、Rotor−Gene Q(Qiagen)を用いて95℃で5分間、92℃で5秒間、60℃で20秒間、37サイクル行った後、メルト法により50℃から99℃まで各ステップ1℃ずつ上昇させてアンプリコンの特異性を試験した。相対的定量化を、標準曲線に対して実行し、定量化した値をPPIGによって判定された入力に対して正規化した。分析に使用したプライマーを、付録の表S1に列挙する。結果は、平均±標準誤差で表されるものとして表し、統計学的分析は、2つの群を比較するための両側スチューデントt検定、または複数の群を対照と比較するためのダネット検定を用いた1要因ANOVAにより、信頼度95%(α=0.05)を用いて行い、P<0.05を有意であるとみなした。
【0122】
免疫細胞化学
1つの試料につき100,000の細胞を、室温で10分間、4%パラホルムアルデヒドで固定し、PBSで洗浄し、PBS中の0.3%Triton X−100、5%正常ロバ血清、および1%BSAにおいて、室温で1時間透過処理およびブロッキングした。細胞を、PBS中の0.3%Triton X−100、2%BSAにおいて、4℃で一晩、一次抗体とともにインキュベートした。細胞をPBSで3回洗浄し、室温で1時間、PBS中の0.3%Triton X−100、5%正常ロバ血清、および1%BSAにおいて、二次抗体とともにインキュベートした。核をDAPIで染色した。使用したすべての抗体を、付録の表S2に列挙する。少なくとも3回の独立した実験からの代表的な画像を示す。
【0123】
フローサイトメトリー
フローサイトメトリー分析については、1つの試料につき100万の細胞を、Accutaseを用いて採取し、PBSで洗浄し、室温で30分間4%パラホルムアルデヒドで固定した。細胞をPBSで2回洗浄し、室温で1時間、PBS中の0.3%Triton X−100、5%正常ロバ血清、および1%BSAでブロッキングした。次いで、細胞を、PBS中の0.3%Triton X−100、5%正常ロバ血清、および1%BSAにおいて、4℃で一晩、一次抗体とともにインキュベートした。細胞をPBSで2回洗浄し、室温で1時間、PBS中の.3%Triton X−100、5%正常ロバ血清、および1%BSAにおいて、二次抗体とともにインキュベートした。試料を、Becton Dickinison FACSCalibur(商標)4色フローサイトメーターで泳動させ、データをCellQuest Pro(商標)ソフトウェア(v6.0)で分析した。使用した抗体を、付録の表S2に列挙する。3回の独立した実験からの代表的な結果を示す。
【0124】
微小電極アレイ(MEA)システム
培養したhPSC由来のDAニューロンからの細胞外電圧記録を、分化95日目に、37℃で2.5μMのググルステロンを補充したNB培地[NeuroBasal培地、1×GlutaMAX、1×N2/B27補充物質(Invitrogen)]において、Muse微小電極アレイ(MEA)システム(Axion Biosystems)を用いて作製した。MEA皿の表面は、200μmの極間間隔で、ナノ細孔白金から構成される8×8グリッド(合計64個の電極)の直径30μmの丸型細胞外電極を含有していた。
【0125】
MEA皿は、滅菌脱イオン水で3回すすぎ、70%エタノールで1回すすぎ、100%エタノールで1回すすぐことによって、滅菌した。次いで、皿にキャップをして蓋付きペトリ皿に逆さまに入れ、50℃で4〜5時間乾燥させた。ポリエチレンイミン(PEI)のベースコーティングを、ホウ酸ナトリウム緩衝液(15mM;pH8.4)中の500mlの濾過した(0.22μmのフィルター)0.1%PEIを各皿に添加し、室温で1時間インキュベートすることによって沈殿させた。PEI溶液を吸引した直後に、皿を1mlの脱イオン水で4回洗浄し、組織培養フードにおいて一晩空気乾燥させた。ノックアウトDMEM/F12中に1:30希釈した滅菌マトリゲル溶液75μlを、電極グリッドに直接添加し、皿を、組織培養インキュベーターにおいて37℃で1時間インキュベートした。次いで、マトリゲル溶液を除去し、おおよそ100,000の細胞を含有するNB培地中の2.5μMのググルステロン50μlを、MEAの表面に播き、37℃で30分間インキュベートして、細胞を付着させた。DAニューロンは、NB培地中の2.5μMのググルステロンにおいてマトリゲル上で65日間、事前に培養されており、機械的粉砕によってプレートから除去された。30分間インキュベートした後、550μlのNB培地をMEAウェルに添加し、37℃で24時間インキュベートした。培地を交換し、その後3〜4日毎に交換した。
【0126】
電圧データを、200〜5000Hzのハードウェアフィルター帯域で12.5kHzにおいてすべての電極で同時にサンプリングし、AxISソフトウェア(Axion Biosystems)を用いてコンピュータに保存した。ニューロンのスパイクを検出する前に高周波数の電気ノイズを除去するために、未加工のシグナルを200〜2500Hzの単一次数のButterworth帯域通過フィルターを用いてソフトウェアで処理した。活動電位のスパイクを、ベースラインの電極ノイズの標準偏差の±5倍に設定した検出閾値で識別した。この閾値は、概して、7.5〜11.25μVに等しい。色分けしたスパイクレートのマップをAxISを用いて作製した。スパイクのラスタープロットおよびスパイク間の間隔ヒストグラムについては、検出されたスパイクのタイムスタンプをNeuroexplorer(NEX Technologies)に出力した。2回の独立した記録を行った。
【0127】
【表1】
【0128】
【表2】
【0129】
本発明は、上述の実施例を参照して記載されているが、修正および変形が、本発明の精神および範囲内に包含されることを理解されたい。したがって、本発明は、以下の特許請求の範囲によってのみ制限される。