(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
溶湯を保持した取鍋を傾動させて前記溶湯を鋳型に注湯する取鍋傾動式自動注湯装置において制御パラメータの入力から前記取鍋による注湯までの注湯プロセスの数理モデルに基づいて注湯を制御する注湯制御方法であって、
注湯時に計測される前記取鍋から流出する液体重量、取鍋傾動角度及び取鍋の傾動を制御する指令信号に基づいて、最適化手法により数理モデル内の前記制御パラメータである流量係数、液体密度及び取鍋から出湯が開始されるときの取鍋の傾斜角である出湯開始角度を同定する工程と、
前記制御パラメータを前記同定された制御パラメータに更新する工程と、
を備えたことを特徴とする注湯制御方法。
コンピュータを、溶湯を保持した取鍋を傾動させて前記溶湯を鋳型に注湯する取鍋傾動式自動注湯装置において制御パラメータの入力から前記取鍋による注湯までの注湯プロセスの数理モデルに基づいて注湯を制御する注湯制御手段として機能させるためのプログラムを記憶した記録媒体であって、
注湯時に計測される前記取鍋から流出する液体重量、取鍋傾動角度及び取鍋の傾動を制御する指令信号に基づいて、最適化手法により数理モデル内の前記制御パラメータである流量係数、液体密度及び取鍋から出湯が開始されるときの取鍋の傾斜角である出湯開始角度を同定する処理と、
前記制御パラメータを前記同定された制御パラメータに更新する処理と、
を実行するためのプログラムが記憶されたことを特徴とするコンピュータ読み取り可能な記録媒体。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、この注湯制御システムにおいても、注湯モデルのパラメータである流量係数、液体密度、取鍋からの出湯開始角度を事前に同定することが求められ、複数回のテスト注湯実験を必要とする。また、注湯温度の変化、スラグの付着などに起因する注湯状態の変化によりパラメータの値が変化する可能性があるが、注湯実験からの変化に対しては未対応であり、注湯精度が低下するおそれがあった。
【0006】
そこで、本発明は、多くの作業時間を必要とするパラメータの同定作業を短縮するとともに、注湯状態に応じた注湯モデルのパラメータを逐次更新し、高精度の注湯を行うことができる取鍋傾動式自動注湯装置における注湯制御方法及び記憶媒体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明では、上記目的を実現するために、請求項1に記載の発明では、取鍋を傾動させて鋳型に注湯する取鍋傾動式自動注湯装置において制御パラメータの入力から前記取鍋による注湯までの注湯プロセスの数理モデルに基づいて注湯を制御する注湯制御方法であって、注湯時に計測される前記取鍋から流出する液体重量、取鍋傾動角度及び取鍋の傾動を制御する指令信号に基づいて、最適化手法により数理モデル内の制御パラメータである流量係数、液体密度及び取鍋から出湯が開始されるときの取鍋の傾斜角である出湯開始角度を同定する工程と、同定された制御パラメータを更新する工程と、を備えた、という技術的手段を用いる。
【0008】
請求項1に記載の発明によれば、制御パラメータの入力から前記取鍋による注湯までの注湯プロセスの数理モデルに基づいて注湯を制御する注湯制御方法において、最適化手法により数理モデル内の制御パラメータである流量係数、液体密度及び出湯開始角度を同定し、更新することができるため、多くの作業時間を必要とする同定作業を短縮するとともに、制御パラメータを注湯状態に応じた値に更新し、注湯状態の変化に対応した制御を行うことができるので、注湯精度を向上させることができる。
また、流体力学に基づく注湯プロセスの数理モデルを導出し、そのモデルに基づいた注湯制御システムであるモデルベースド注湯制御システムを採用しているため、取鍋形状や溶湯の種類が異なる取鍋傾動式自動注湯装置でもパラメータを共有することにより、短時間での立ち上げや注湯プロセス解析が可能となる。
【0009】
請求項2に記載の発明では、請求項1に記載の注湯制御方法において、前記流量係数、液体密度及び出湯開始角度は、下式で表わされる評価関数を最適化することにより同定される、という技術的手段を用いる。
【0010】
【数1】
但し、c
id:同定された流量係数、θ
sid:同定された出湯開始角度、ρ
id:同定された液体密度、T:一つの鋳型に注湯する注湯動作時間、W
Lex:取鍋傾動式自動注湯装置から取得される取鍋からの流出重量データ、W
Lsim:取鍋傾動角度を用いて数理モデルでシミュレーションした際の流出重量、c
sim:シミュレーション時に用いられた流量係数、θ
ssim:シミュレーション時に用いられた出湯開始角度、ρ
sim:シミュレーション時に用いられた液体密度、C
avg:前回までの流量係数の平均値、ρ
avg:前回までの液体密度の平均値、w
1:注湯毎の流量係数の変動を制御するための重み係数、w
2:注湯毎の液体密度の変動を制御するための重み係数である。
【0011】
請求項2に記載の発明のように、流量係数、液体密度及び出湯開始角度は、上式で表わされる評価関数を最適化することにより同定することができる。ここで、本評価関数は、流量係数及び液体密度の影響を調整する重み係数を含んでいるので、より精度の高いパラメータ同定が可能であり、注湯精度を向上させることができる。
【0012】
請求項3に記載の発明では、請求項1または請求項2に記載の注湯制御方法において、前記流量係数及び液体密度は、一回の注湯が完了する毎に同定されて更新され、前記出湯開始角度は、前記取鍋による連続した注湯が終了後に、同定された前記出湯開始角度と対応する取鍋内液体重量との近似関数が算出されて更新される、という技術的手段を用いる。
【0013】
請求項3に記載の発明によれば、流量係数及び液体密度は一回の注湯が完了する毎に同定されて更新されて次回の注湯制御に反映されるため、より精度の高い注湯を行うことができる。また、出湯開始角度は取鍋による連続した注湯が終了後に、対応する取鍋内液体重量との近似関数が算出されて更新されるため、精度の高い検量線を作成することができるので、より精度の高い注湯を行うことができる。
【0014】
請求項4に記載の発明では、請求項1ないし請求項3のいずれか1つに記載の注湯制御方法において、前記最適化手法は、滑降シンプレックス法である、という技術的手段を用いる。
【0015】
請求項4に記載の発明のように、最適化手法として滑降シンプレックス法を採用すると、パラメータの収束が早く、計算負荷を小さくすることができるため、パラメータの更新時間を短縮することができ、好適である。
【0016】
請求項5に記載の発明では、コンピュータを、取鍋の動作を制御可能に構成された取鍋傾動式自動注湯装置において制御パラメータの入力から前記取鍋による注湯までの注湯プロセスの数理モデルに基づいて注湯を制御する注湯制御手段として機能させるためのプログラムを記憶した記録媒体であって、注湯時に計測される前記取鍋から流出する液体重量、取鍋傾動角度及び取鍋の傾動を制御する指令信号に基づいて、最適化手法により数理モデル内の制御パラメータである流量係数、液体密度及び取鍋から出湯が開始されるときの取鍋の傾斜角である出湯開始角度を同定する処理と、同定された制御パラメータを更新する処理と、を実行するためのプログラムが記憶されたことを特徴とするコンピュータ読み取り可能な記録媒体、という技術的手段を用いる。
【0017】
請求項5に記載の発明のように、本発明の注湯制御方法は、当該制御方法をコンピュータによって実行可能とする注湯制御プログラム、このプログラムをコンピュータによって読み取り可能に記憶した記憶媒体にも適用される。
【0018】
この出願は、日本国で2013年4月27日に出願された特願2013−094810号に基づいており、その内容は本出願の内容として、その一部を形成する。
また、本発明は以下の詳細な説明により更に完全に理解できるであろう。しかしながら、詳細な説明および特定の実施例は、本発明の望ましい実施の形態であり、説明の目的のためにのみ記載されているものである。この詳細な説明から、種々の変更、改変が、当業者にとって明らかだからである。
出願人は、記載された実施の形態のいずれをも公衆に献上する意図はなく、開示された改変、代替案のうち、特許請求の範囲内に文言上含まれないかもしれないものも、均等論下での発明の一部とする。
本明細書あるいは請求の範囲の記載において、名詞及び同様な指示語の使用は、特に指示されない限り、または文脈によって明瞭に否定されない限り、単数および複数の両方を含むものと解釈すべきである。本明細書中で提供されたいずれの例示または例示的な用語(例えば、「等」)の使用も、単に本発明を説明し易くするという意図であるに過ぎず、特に請求の範囲に記載しない限り本発明の範囲に制限を加えるものではない。
【発明を実施するための形態】
【0020】
本発明の注湯制御方法について、図を参照して説明する。
【0021】
本発明の注湯制御方法を採用する取鍋傾動式自動注湯装置の一例を
図1に示す。取鍋傾動式自動注湯装置1(以下、自動注湯装置1という)は、溶湯が保持される取鍋10と、取鍋10のθ軸を軸とした軸回り方向に回動する傾動、Y軸方向への前後動、Z軸方向への上下動を可能にするサーボモータ11、12、13とを備えている。
【0022】
サーボモータ11、12、13にはそれぞれロータリーエンコーダが設けられており、取鍋10の位置や傾斜角度を計測することができるとともに、コンピュータ14によって制御指令信号が与えられるように構成されている。ここで、「コンピュータ」とは、パソコン、マイコン、プログラマルロジックコントローラ(PLC)及びデジタルシグナルプロセッサ(DSP)などのモーションコントローラを言う。
【0023】
ロードセルは液体を含めた取鍋10の重量を計測するために、取鍋10を含む剛体構造の下端、もしくは自動注湯装置1の下端に設置される。
【0024】
自動注湯装置1は、上述の構成により、サーボモータ11、12、13を制御して、取鍋10を所定の軌道で搬送することにより、出湯口10aより溶湯を排出し、鋳型内湯口20aより鋳型20内部に溶湯を注湯することができる。
【0025】
自動注湯装置1に対して、流体力学に基づく注湯プロセスの数理モデルを導出し、そのモデルに基づいた注湯制御システムであるモデルベースド注湯制御システムを構築する。
図2にモデルベースド注湯制御システムの構成例を示す。ここでは、フィードフォワード制御とフィードバック制御を併合した2自由度型注湯制御システムを示す。
【0026】
コンピュータ14に所望の目標流出重量と目標注湯流量パターンが与えられると、コンピュータ14は目標注湯流量及び目標流出重量を実現すべく、自動注湯装置1への指令信号を調整し出力する。ここで、指令信号は、サーボモータ11、12、13の制御モードによって、速度指令や位置指令となる。また、指令信号としては、電圧やパルスなど各種形態を採用することができる。
【0027】
注湯時には、ロータリーエンコーダにより取鍋傾動角度を計測するとともに、自動注湯装置1に設けられたロードセルにより取鍋内液体重量を計測する。注湯前の取鍋内液体重量と注湯中の取鍋内液体重量の差分によって、取鍋10から流出する液体の流出重量を計測することができる。
【0028】
コンピュータ14には、計測された取鍋傾動角度及び取鍋内液体重量が出力され、コンピュータ14はそれらに基づいて注湯動作を制御する。なお、
図2の注湯制御システムのフィードバックループを取り除くとフィードフォワード型注湯制御システムとなる。
【0029】
コンピュータ14では、指令信号、取得された取鍋傾動角度及び取鍋内液体重量に基づいて、モデルパラメータの同定及び更新を行う。1回の注湯動作で検出される取鍋内液体重量、取鍋傾動角度、指令信号を取得し、これらのデータと注湯プロセスの数理モデルを用いて、注湯プロセスのモデルパラメータである流量係数、液体密度及び出湯開始角度を同定し、注湯制御内のモデルパラメータを更新することで、モデルパラメータに応じたサーボモータ11、12、13への指令信号が注湯制御システムによって生成される。
【0030】
次に、
図3のフローに基づいて、モデルパラメータの同定及び更新プロセスを説明する。ステップ1では、注湯制御に対し、初期モデルパラメータ、取鍋10から出湯が開始されるときの取鍋10の傾斜角である出湯開始角度と取鍋内液体重量との関数(検量線)を注湯制御設定パラメータとして与える。ここで、初期モデルパラメータとしての初期モデルデータは、取鍋形状、液体密度及び流量係数である。取鍋形状データは取鍋設計に用いられる数値を、液体密度及び流量係数は実験や経験などにより妥当と考えられる数値を与える。出湯開始角度と取鍋内液体重量との関数は、取鍋形状データから取鍋傾動角度に対する液体の取鍋充填体積を算出し、その体積に密度を掛け、関数化することで得られる。尚、この段階で、取鍋10には給湯がされており注湯動作が開始可能な状態になっているものとする。
【0031】
続くステップ2では、注湯機が後述する数理モデルに基づいて制御され、取鍋10から鋳型20への注湯が実行される。
【0032】
続くステップ3では、取鍋10から鋳型20への1回の注湯動作に伴い取得される取鍋10からの流出重量、取鍋傾動角度及び指令信号データに基づき、後述する最適化手法を用いて、更新するパラメータとして、液体密度と流量係数とを同定する。
【0033】
続くステップ4では、同定された出湯開始角度と注湯前に計測した取鍋内液体重量とを1組のデータとしてコンピュータ14に格納する。
【0034】
続くステップ5では、注湯制御に初期パラメータとして入力され注湯制御に用いられていた液体密度と流量係数とを、ステップ3で同定された液体密度と流量係数とにオンラインで更新する。
【0035】
続くステップ6では、ステップ2以降に取鍋10に溶湯を給湯したか否かを判断する。取鍋10に溶湯を給湯していない場合(ステップ6:No)には、続けて取鍋10から鋳型20への注湯を行うためにステップ2に進む。これにより、注湯毎に液体密度と流量係数とが更新されることとなる。
【0036】
取鍋10に溶湯を給湯した場合(ステップ6:Yes)には、一連の注湯が完了したこととなり、ステップ7に進む。
【0037】
ステップ7では、注湯毎にステップ4で取得された「同定された出湯開始角度と注湯前に計測した取鍋内液体重量」のそれぞれのデータ列から得られる複数組のデータに基づいて、出湯開始角度と取鍋内液体重量との関係を近似関数で表す。
【0038】
続くステップ8では、従前からの出湯開始角度と取鍋内液体重量との近似関数をステップ7で得られた近似関数に更新する。新たな一連の注湯において、この近似関数を用いて注湯制御を行う。
【0039】
上述の工程を繰り返すことで、注湯環境の変化に迅速に対応し、注湯状態に応じた高精度の注湯制御が実現される。
【0040】
続いて、パラメータ同定手法の構築にあたり用いる、流体力学に基づく注湯プロセスの数理モデルを示す。このような数理モデルに基づいた注湯制御システムとして、発明者らは特許文献4、5などに示したモデルベースド注湯制御システムを提案している。まず、注湯制御のステップ2で用いる指令信号u[V]から取鍋傾動角度θ [rad]までの数理モデルを(2)式に示す。
【0042】
ここで、(2)式は速度制御モードの場合を示している。ω[rad/s]は取鍋傾動角速度であり、T
m[s]はモータシステムの時定数を示し、K
m[m/s/V]はゲイン定数を示している。サーボモータが位置制御モードの場合は、(2)式に位置フィードバック機構を付加したモデルとなる。
【0043】
取鍋傾動角速度ωから注湯流量q
c[m
3/s]までの数理モデルを(3)式、(4)式に示す。
【0046】
ここで、
図4に示すように、(3)式のh[m]は出湯口より上部液体の液位を示し、A[m
2]は取鍋内液体上面の表面積、V
s[m
3]は出湯口より下部液体の体積を示す。θ[rad]は取鍋傾動角度である。(3)式は取鍋内液体上面が出湯口下面より高くなり、取鍋内液体が流出し始める時の取鍋傾動角度θ
s[rad]以上で有用となる。この取鍋傾動角度θ
sを出湯開始角度という。また、(4)式のL
f[m]は、
図5に示すように液体上面から深さh
b[m]における出湯口の幅であり、g[m/s
2]は重力加速度、cは流量係数を示す。(4)式は、取鍋内液体高さが出湯口下面よりも高くなる条件で有用である。
【0047】
流出重量W[kg]と注湯流量q
c[m
3/s]との関係を(5)式に示す。
【0049】
ここで、ρ[kg/m
3]は液体密度を示す。流出重量W[kg]は、自動注湯装置1に内蔵されたロードセルによって計測される。ロードセルの応答遅れは(6)式の1次遅れ系で表現する。
【0051】
ここで、W
L[kg]はロードセルによって計測される流出重量であり、T
L[s]はロードセル応答に対する時定数を示す。
【0052】
(2)〜(6)式が自動注湯装置1の数理モデルであり、ロータリーエンコーダによって取鍋傾動角度θ[rad]が検出され、流出重量W
L[kg]がロードセルによって検出される。この自動注湯装置1の数理モデルを用いて、注湯制御システムが構築される。逆モデルによるフィードフォワード型注湯流量制御の場合、所望の注湯流量パターンq
cref[m
3/s]が与えられると(4)式の逆関数より、(7)式に示す所望の注湯流量パターンを実現する液体高さh
ref[m]が得られる。
【0054】
ここで、(7)式の導出には、(4)式の逆関数を多項式近似することや(4)式を有限次元化し、要素間を線形補間することで逆関数化する手法を採用することができる。
【0055】
得られた液体高さh
ref[m]を(3)式から導出される(8)式に代入することで、所望の注湯流量パターンq
cref[m
3/s]を実現する取鍋傾動角速度ω
ref[rad/s]を導出する。
【0057】
(8)式において、参照取鍋傾動角度θ
ref[rad]は、(2)式を用いた(9)式によって得られる。(9)式におけるθ
sref[rad]は、取鍋から液体が流出し始める際の取鍋傾動角度である出湯開始角度である。
【0059】
(8)式で得られた取鍋傾動角速度ω
ref[rad/s]は、(2)式に示すモータモデルの逆モデルにより導出される指令信号u
ref[V]により実現される。モータモデルの逆モデルを(10)式に示す。
【0061】
(7)〜(10)式を用いて、フォードフォワード型注湯流量制御が構築される。ここで、フィードフォワード型注湯流量制御では、液体高さh
ref[m]が2階微分可能であることが求められる。
【0062】
一方、フィードフォワード制御とフィードバック制御を併合した2自由度注湯流量制御を構築する場合には、1つの手法として、以下に示すフラットネスに基づいた2自由度注湯流量制御を構築する。フラット出力Fを液体高さhとして、(3)式を基に(11)式に示すフィードバック線形化機構を構築する。
【0064】
ここで、モータが、注湯プロセスより極めて速応性が良いと仮定するとモータの動特性を考慮せず、u=K
mωと表現できることから(11)式のようになる。(11)式より、新たな制御入力vから出湯口での液体高さh(=F)までのモデルが(12)式のように線形化される。
【0066】
したがって、新たな制御入力vに(13)式に示すフィードバック制御機構を構築する。
【0068】
ここで、F
*は所望の目標液体高さ(F
*=h
ref)であり、K
p及びK
iは、目標液体高さh
refへ実際の液体高さhを追従させる目標値追従性能を調整する制御パラメータとなる。所望の注湯流量q
crefが与えられ、(7)式より、所望の注湯流量を実現する液体高さh
refが得られる。この液体高さh
refを基に、(11)、(12)式に示す2自由度注湯流量制御が行われる。ここで、2自由度注湯流量制御では、液体高さh
refが1階微分可能であることが求められる。また、(11)式は、フィードフォワード型注湯流量制御と同様に、取鍋傾動角度θが出湯開始角度θ
s以上で有用となる。
【0069】
上記に示す2つの注湯流量制御は、注湯プロセスの数理モデルをベースとしたモデルベースド注湯流量制御である。ここで、モデルパラメータの多くは取鍋形状より設定する。しかし、流量係数cは液体特性や取鍋表面性状特性に依存するため、実験によりパラメータ同定することが必要となる。また、出湯開始角度θ
sは、注湯前の取鍋内液体重量から液体体積を導出し、液体体積と取鍋形状から求めることができるが、スラグ付着などによる取鍋形状変動の影響によりモデルとの差異が発生する可能性がある。更に、高温の溶融金属の場合、液体密度ρが温度により変動し、注湯環境の影響を受けやすい。そこで、
図2に示すように、自動注湯により得られる流出液体重量データ、取鍋傾動角度データ、指令信号データを基に、流量係数、出湯開始角度、液体密度を同定する手法を構築する。
【0070】
ステップ7で行うパラメータ同定としては、(14)式に示す評価関数を最小化することにより行う。具体的には、(14)式の評価関数に対して、最適化手法として滑降シンプレックス法を適用して最小化を行う。ここで、滑降シンプレックス法は、パラメータの収束が早く、計算負荷を小さくすることができるため、パラメータの更新時間を短縮することができ、好適である。その他、遺伝的アルゴニズム、逐次二次計画法等の最適化手法を採用することもできる。
【0072】
ここで、T[s]は一つの鋳型に注湯する自動注湯装置1の注湯動作時間を示し、W
Lex[kg]は自動注湯装置1が内蔵のロードセルによって得られる取鍋からの流出重量データであり、W
Lsim[kg]はモータへの指令値及びロータリーエンコーダから計測される取鍋傾動角度を用いて、(2)〜(6)式の数理モデルでシミュレーションした際の流出重量である。c
sim、θ
ssim、ρ
simはシミュレーション時に用いられた流量係数、出湯開始角度、液体密度をそれぞれ示す。C
avg及びρ
avgは前回までの流量係数及び液体密度の平均値であり、(15)、(16)式にそれぞれ示す。
【0075】
ここで、kは注湯回数を示し、Nは平均化する注湯回数を示す。注湯する液体の流量係数や液体密度が不変の場合にはNを注湯の最大数とすることができるが、高温の溶融金属の場合、温度特性によって流量係数や液体密度が変動することから、N数を調整し、過去の注湯による同定データを忘却させる。これにより、同定データの精度を向上させることができる。
【0076】
(14)式のw
1は注湯毎の流量係数の変動を制御するための重み係数であり、w
2は注湯毎の液体密度の変動を制御するための重み係数である。これらを増加させると注湯毎に同定される流量係数及び液体密度の変動は緩慢となる。重み係数により流量係数及び液体密度の影響を調整することができるので、より精度の高いパラメータ同定が可能であり、注湯精度を向上させることができる。例えば、液体密度の温度変化の影響が大きい場合にはw
2の値を小さく設定するとよい。
【0077】
同定された出湯開始角度θ
sid[rad]は、ロードセルによって計測される注湯前取鍋内液体重量W
b[kg]と一組となり、コンピュータ14に記憶される。自動注湯機は一般的に、取鍋への1回の給湯で複数回の注湯が行われる。この注湯毎に同定された出湯開始角度のデータ列θ
sid=(θ
sid(1),θ
sid(2),・・・θ
sid(n))と注湯前取鍋内液体重量のデータ列W
b=(W
b(1),W
b(2),・・・W
b(n))を用いて近似関数化することで、注湯前に計測された取鍋内液体重量から出湯開始角度を予測することができる。近似関数としては線形近似や多項式近似が用いられる。
【0078】
また、本発明は、上記制御をコンピュータによって実行可能とする注湯制御プログラム、このプログラムをコンピュータによって読み取り可能に記憶した記憶媒体にも適用される。つまり、コンピュータを、取鍋の動作を制御可能に構成された取鍋傾動式自動注湯装置1において制御パラメータの入力から前記取鍋による注湯までの注湯プロセスの数理モデルに基づいて注湯を制御する注湯制御手段として機能させるためのプログラムを記憶した記録媒体であって、注湯時に計測される前記取鍋から流出する液体重量、取鍋傾動角度及び取鍋の傾動を制御する指令信号に基づいて、最適化手法により数理モデル内の制御パラメータである流量係数、液体密度及び取鍋から出湯が開始されるときの取鍋の傾斜角である出湯開始角度を同定する処理と、同定された制御パラメータを更新する処理と、を実行するためのプログラムが記憶されたことを特徴とするコンピュータ読み取り可能な記録媒体に適用することができる。
【0079】
[実施形態の効果]
本発明の注湯制御方法によれば、制御パラメータの入力から前記取鍋による注湯までの注湯プロセスの数理モデルに基づいて注湯を制御する注湯制御方法において、最適化手法により数理モデル内の制御パラメータである流量係数、液体密度及び出湯開始角度を同定し、更新することができるため、多くの作業時間を必要とする同定作業を短縮するとともに、制御パラメータを注湯状態に応じた値に更新し、注湯状態の変化に対応した制御を行うことができるので、注湯精度を向上させることができる。
また、流体力学に基づく注湯プロセスの数理モデルを導出し、そのモデルに基づいた注湯制御システムであるモデルベースド注湯制御システムを採用しているため、取鍋形状や溶湯の種類が異なる取鍋傾動式自動注湯装置でもパラメータを共有することにより、短時間での立ち上げや注湯プロセス解析が可能となる。
また、本発明は、上記制御をコンピュータによって実行可能とする注湯制御プログラム、このプログラムをコンピュータによって読み取り可能に記憶した記憶媒体にも適用される。
【実施例】
【0080】
本発明の注湯制御方法の有用性を示すため注湯実験を行った。実験条件は以下の通りである。
【0081】
取鍋形状:扇形取鍋
対象液体:水
目標流出重量:1.55kg
目標注湯流量(定常時):5×10
−4m
3/s
注湯制御:フィードフォワード型注湯流量制御
重み係数w
1:3
重み係数w
2:0.01
【0082】
実験結果を
図6、7に示す。
図6では、流量係数及び液体密度を適当に与え、出湯開始角度は、取鍋形状図面から導いた取鍋内液体重量に対する出湯開始角度を与えた1回目の注湯実験の結果であり、
図7ではパラメータが同定及び更新された後の注湯制御を行った4回目の注湯実験の結果である。注湯を3回終えた後に、取鍋内へ再び給湯している。
図6(A)及び
図7(A)は、ロータリーエンコーダにより計測された取鍋傾動角度であり、
図6(B)及び
図7(B)は、ロードセルにより計測された流出重量である。実線は実験結果であり、破線は注湯プロセスの数理モデルによるシミュレーション結果を示す。
【0083】
図6に示す注湯1回目の実験では、注湯制御に用いた初期パラメータは、流量係数は0.98であり、液体密度は1×10
3[kg/m
3]、出湯開始角度は21.70×π/180[rad]である。注湯1回目の実験の後にパラメータ同定した結果は、流量係数は0.98、液体密度は1×10
3[kg/m
3]、出湯開始角度は20.20×π/180[rad]となった。パラメータ同定前後では、流量係数及び液体密度では差異は小さいが、出湯開始角度が大きく異なっていた。
【0084】
この出湯開始角度の相違は、
図6(B)に示す流出重量のシミュレーション結果と実験結果の相違に大きく影響している。
図7に示すパラメータが同定及び更新された後の注湯制御を行った4回目の注湯では、注湯制御に用いる流量係数を0.99、液体密度を1×10
3[kg/m
3]、とし、取鍋内液体重量が5.58kgであったことから、出湯開始角度は30.86×π/180[rad]が推定値として用いられた。4回目の注湯実験の後のパラメータ同定では、注湯制御に用いる流量係数は0.99、液体密度は1×10
3[kg/m
3]、出湯開始角度は30.90×π/180[rad]であった。注湯制御に用いられた流量係数、液体密度、出湯開始角度は、パラメータ同定結果とほぼ同じ値であり、注湯状態にあったパラメータが注湯制御に用いられたことから、実験とシミュレーションの結果が一致しており、高精度に注湯されたことが確認できた。
【0085】
注湯前取鍋内液体重量と出湯開始角度の関係を
図8に示す。破線が取鍋形状図面より導いた取鍋内液体重量と出湯開始角度の関係を示したものであり、黒丸印「・」が同定された出湯開始角度と注湯前取鍋内液体重量を示し、実線が同定結果を線形近似したものを示す。線形近似された取鍋内液体重量と出湯開始角度の関係を(17)式に示す。
【0086】
【数17】
【0087】
4回目の注湯実験では、線形近似された出湯開始角度と注湯前取鍋内液体重量との関係を用いて、出湯開始角度を予測している。
図8より、取鍋形状図面から導いた出湯開始角度とパラメータ同定による出湯開始角度が大幅に異なることが確認できた。これは、取鍋形状図面から出湯開始角度を導出する際に形状を簡略化したことによるモデル化の誤差や取鍋形状の経年変化が生じたことが起因していると考えられるが、本発明の注湯制御方法に
より、正確な出湯開始角度と注湯前取鍋内液体重量との関係を把握し、注湯制御に用いることができた。
【0088】
以上のように、本発明の注湯制御方法を用いることにより、高精度な注湯が実現できることが確認された。