特許第6262222号(P6262222)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6262222閉ループコントローラのための手動ボーラス投与又は食事イベント管理方法及びシステム
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6262222
(24)【登録日】2017年12月22日
(45)【発行日】2018年1月17日
(54)【発明の名称】閉ループコントローラのための手動ボーラス投与又は食事イベント管理方法及びシステム
(51)【国際特許分類】
   A61M 5/172 20060101AFI20180104BHJP
【FI】
   A61M5/172 500
【請求項の数】9
【全頁数】16
(21)【出願番号】特願2015-520280(P2015-520280)
(86)(22)【出願日】2013年6月18日
(65)【公表番号】特表2015-521902(P2015-521902A)
(43)【公表日】2015年8月3日
(86)【国際出願番号】US2013046260
(87)【国際公開番号】WO2014004159
(87)【国際公開日】20140103
【審査請求日】2016年6月9日
(31)【優先権主張番号】13/539,056
(32)【優先日】2012年6月29日
(33)【優先権主張国】US
(73)【特許権者】
【識別番号】506221907
【氏名又は名称】アニマス・コーポレイション
(74)【代理人】
【識別番号】100088605
【弁理士】
【氏名又は名称】加藤 公延
(74)【代理人】
【識別番号】100130384
【弁理士】
【氏名又は名称】大島 孝文
(72)【発明者】
【氏名】フィナン・ダニエル
【審査官】 川島 徹
(56)【参考文献】
【文献】 米国特許出願公開第2008/0183060(US,A1)
【文献】 国際公開第2010/099313(WO,A1)
【文献】 米国特許出願公開第2010/0298685(US,A1)
【文献】 特開2007−014751(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61M 5/172
A61M 1/36
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
糖尿病管理システムであって、
インスリンを被験者に送達するように構成される輸液ポンプと、
前記被験者体内のブドウ糖値を感知し、前記被験者体内の前記ブドウ糖値を表す出力信号を提供するように構成されるブドウ糖センサと、
前記ブドウ糖センサ及び前記輸液ポンプのうちの少なくとも1つから信号を受信するコントローラであって、前記コントローラは、インスリン基礎速度を算出し、前記輸液ポンプへ信号を発信して、前記被験者の所望のブドウ糖値、送達されるインスリン量、及び測定されるブドウ糖値に基づく前記被験者のモデル予測制御を利用するフィードバックコントローラが決定する量のインスリンを送達するように構成される、コントローラと、
を備え
前記コントローラは、(a)前記被験者が、ある持続時間内に前記輸液ポンプを用いてインスリンの手動ボーラス投与を開始したかどうかということと、(b)前記ブドウ糖センサから感知又は測定されるブドウ糖値がある閾値以上であるかどうかということとを決定するように更に構成され、
前記コントローラは、前記被験者が前記持続時間内に前記輸液ポンプを用いてインスリンの前記手動ボーラス投与を開始し、前記ブドウ糖センサから前記感知又は測定されるブドウ糖値が前記閾値以上であると当該コントローラが決定した場合には、インスリン注入下限制約を前記算出された基礎量に等しく設定するように構成され、
前記コントローラは、前記被験者が前記持続時間内に前記輸液ポンプを用いてインスリンの前記手動ボーラス投与を開始しなかったと当該コントローラが決定し、または、前記ブドウ糖センサから前記感知又は測定されるブドウ糖値が前記閾値以上でないと当該コントローラが決定した場合には、インスリン注入下限制約をゼロに設定するように構成され、
前記モデル予測制御は、前記インスリン注入下限制約に基づいて送達すべき前記インスリン量を決定する、
糖尿病管理システム。
【請求項2】
記閾値が血液1デシリットル当たり約120ミリグラムのブドウ糖を含み、前記持続時間が約45分を含む、請求項1に記載のシステム。
【請求項3】
前記ブドウ糖センサが、一過式ブドウ糖センサ及び連続式ブドウ糖センサのうちの少なくとも1つを含む、請求項2に記載のシステム。
【請求項4】
輸液ポンプ、コントローラ、及び少なくとも1つのブドウ糖センサを有する糖尿病管理システムを前記コントローラが操作する方法であって、
前記コントローラが、前記ブドウ糖センサによりある被験者で測定された複数のブドウ糖測定値を用いて、インスリン基礎速度を算出し、所定の間隔にわたって前記被験者に送達されるべき算出されたインスリン量を提供するために、前記被験者の代謝状態の推定値から前記ブドウ糖値の傾向を予測するために前記複数のブドウ糖測定値を利用するモデル予測コントローラに基づき、送達すべきインスリン量を送達するよう、前記輸液ポンプに信号を発信することと、
前記コントローラが、前記ブドウ糖値が、ある時間周期内であるブドウ糖閾値以上である間に前記被験者が手動ボーラス投与を開始したかどうか決定することと、
前記決定する工程が真である場合、前記コントローラが、前記算出されたインスリン基礎速度に等しいインスリン注入下限制約を設定することと、
前記決定する工程が偽である場合、前記コントローラが、インスリン注入下限制約をゼロに設定することと、
を含む、方法。
【請求項5】
記ブドウ糖閾値が、血液1デシリットル当たり約80mgのブドウ糖から血液1デシリットル当たり約180mgのブドウ糖の間の任意の濃度のブドウ糖濃度を含む、請求項4に記載の方法。
【請求項6】
記時間周期が、約15分〜2時間の間の任意の値の持続時間を含む、請求項に記載の方法。
【請求項7】
前記所定の間隔が、1分、3分、5分、10分、15分、20分、30分、及びこれらの組み合わせから本質的になる群から選択される間隔を含む、請求項4に記載の方法。
【請求項8】
前記ブドウ糖センサが、一過式ブドウ糖センサ及び連続式ブドウ糖センサのうちの少なくとも1つを含む、請求項4に記載の方法。
【請求項9】
前記算出することが、前記被験者の代謝状態の推定値を、前記被験者体内の前記ブドウ糖値のおよそ実時間の測定値から再帰的に決定することを更に含む、請求項4に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【背景技術】
【0001】
真性糖尿病は、膵臓が十分な量のホルモンインスリンを産生できないことに起因する慢性代謝疾患であり、身体がブドウ糖を代謝する能力の低下をもたらす。この障害は、高血糖症、即ち、血漿内に過剰量のブドウ糖が存在することの原因となる。持続性高血糖症及び/又は低インスリン血症は、多様で重篤な症状及び生命に関わる長期合併症、例えば、脱水症、ケトアシドーシス、糖尿病性昏睡、循環器疾、慢性腎不全、網膜損傷、及び手足の切断の危険性がある神経損傷などと関連付けられてきた。内因性インスリン産生の復元は未だ不可能であるため、正常範囲内の血糖値を常に維持するために一定の血糖管理を提供する維持療法が必要である。そのような血糖管理は、外的インスリンを患者の身体に定期的に供給し、それによって上昇した血糖値を低下させることによって実現される。
【0002】
例えばインスリンなどの外部製剤は、皮下注射器を介した即効作用型及び中間時間作用型の薬剤の混合物の多数の連日注射によって一般に投与されていた。このような方法で達成可能な血糖管理の程度は、ホルモンがより遅い速度でより長期間にわたって血流に入る生理的ホルモン産生とは異なるため、準最適であるということが分かっている。改善された血糖管理は、多数の連日注射に基づく、いわゆる集中的ホルモン療法によって実現され得、該注射は、基礎ホルモン剤を提供するための長時間作用型ホルモン剤の1日当たり1回又は2回の注射、及び、食事量に比例する量の即効作用型ホルモン剤の各食事前の追加注射を含む。従来の注射器は少なくとも部分的にインスリンペンに置き換えられてきたが、頻繁な注射は、患者、特に確実に注射を自己投与できない人々にとって、それでもなお非常に不便である。
【0003】
糖尿病治療における実質的な改善は、薬剤送達装置の開発によって実現され、注射器又はペン型製剤、及び多数の連日注射の投与の必要性から患者を開放してきた。薬剤送達装置は、自然発生的な生理的過程とのより高い類似性を持ち、患者により良い血糖管理を与える標準的又は個別に変更されたプロトコルに従うように制御することができる様式での薬剤の送達を可能にする。
【0004】
加えて、薬剤送達装置によって、腹腔内空間への直接的又は静脈を通じての送達が実現可能である。薬剤送達装置は、皮下配置される埋込み型装置として、又はカテーテル、カニューレ、又は、例えばパッチ経由などの経皮的薬剤運送手段の経皮挿入による患者への皮下注入のための輸液セットを有する外部デバイスとして構成され得る。外部薬剤送達装置は、衣類の上に、衣類の下若しくはその中に隠して、又は身体の上に装着され、通常は、装置又は別個の遠隔装置に組み込まれたユーザインターフェースによって制御される。
【0005】
許容可能な血糖管理を得るには、血液分析物又は間質性分析物のモニタリングが必要である。例えば、薬剤送達装置による好適な量のインスリンの送達には、患者が頻繁に自分の血液分析物レベルを判定し、この値を外部ポンプのためのユーザインターフェースに手動入力することが必要であり、ユーザインターフェースは次に、デフォルト又は現在使用中のインスリン送達プロトコル、即ち、薬用量及びタイミングに対する好適な修正を算出し、続いて薬剤送達装置と通信し、算出された修正に応じて薬剤送達装置の動作を調整する。血液分析物濃度の判定は、典型的には、例えば、酵素系試験紙を介して血液試料を受け取り、酵素的反応に基づいて血液分析値を算出する、手持ち式の電子計器などの、一過式測定器を用いて行われる。
【0006】
持続的分析物モニタリング(CGM)もまた、過去20年にわたり、糖尿病患者に注入されるインスリンの閉ループ制御を可能にするために、薬剤送達装置と共に利用されてきた。注入されるインスリンの閉ループ制御を可能にするように、比例積分微分(PID)コントローラが、ブドウ糖と人体内のインスリンとの間の代謝的相互作用の数学モデルと共に利用されてきた。PIDコントローラは、代謝モデルの単純なルールに基づいて調整可能である。しかしながら、PIDコントローラが被験者の血糖値を積極的に制御するように調整又は構成されると、オシレーションをしばしば伴う設定レベルのオーバーシューティングが起こり得、これは血糖の制御という面では非常に望ましくない。代替的なコントローラが研究された。石油化学産業において使用される、大きな時間遅延及びシステム応答を伴うモデル予測コントローラ(MPC)が、インスリンと、グルカゴンと、血糖との間の複雑な相互作用に最適であると結論づけられた。PIDは典型的に、将来の変化を判定する際に過去の出力のみを取り込むのに対して、MPCは、MPCの出力を判定する際に、制御変化及び制約の近い将来の効果を検討対象とするため、MPCコントローラはPIDよりもロバストであることが実証されている。制約は、MPCコントローラにおいて、既に限界に達した際にシステムの暴走をMPCが防止するように実行可能である。MPCコントローラの別の利益は、例えばPID制御などのフィードバック制御においては、動的な補正は不可能であるのに対して、MPC内のモデルは、場合によっては動的なシステム変更を理論的に補正できることである。
【0007】
したがって、MPCはフィードバック及びフィードフォワード制御の組み合わせとして考えることができる。しかしながら、MPCは、典型的には、生体系内のインスリンとブドウ糖との間の相互作用を可能な限り綿密に模倣するための代謝モデルを必要とする。そのため、生物学的変動は人によって異なることから、MPCモデルは更に改良及び開発され続けており、MPCの様々なバリエーション、及びブドウ糖とインスリンの複雑な相互作用を表す数学的モデルが、以下の文献に示され、説明されている。
米国特許第7,060,059号、
米国特許出願第2011/0313680及び同第2011/0257627号、
国際公開第2012/051344号、
Percival et al.,「Closed−Loop Control and Advisory Mode Evaluation of an Artificial Pancreatic β Cell:Use of Proportional−Integral−Derivative Equivalent Model−Based Controllers」Journal of Diabetes Science and Technology,Vol.2,Issue 4,July 2008、
Paola Soru et al..,「MPC Based Artificial Pancreas;Strategies for Individualization and Meal Compensation」Annual Reviews in Control 36,p.118〜128(2012)、
Cobelli et al.,「Artificial Pancreas:Past,Present,Future」Diabetes Vol.60,Nov.2011、
Magni et al.,「Run−to−Run Tuning of Model Predictive Control for Type 1 Diabetes Subjects:In Silico Trial」Journal of Diabetes Science and Technology,Vol.3,Issue 5,September 2009、
Lee et al.,「A Closed−Loop Artificial Pancreas Using Model Predictive Control and a Sliding Meal Size Estimator」Journal of Diabetes Science and Technology,Vol.3,Issue 5,September 2009、
Lee et al.,「A Closed−Loop Artificial Pancreas based on MPC:Human Friendly Identification and Automatic Meal Disturbance Rejection」Proceedings of the 17th World Congress,The International Federation of Automatic Control,Seoul Korea July 6〜11,2008、
Magni et al.,「Model Predictive Control of Type 1 Diabetes:An in Silico Trial」Journal of Diabetes Science and Technology,Vol.1,Issue 6,November 2007、
Wang et al.,「Automatic Bolus and Adaptive Basal Algorithm for the Artificial Pancreatic β−Cell」Diabetes Technology and Therapeutics,Vol.12,No.11,2010、及び
Percival et al..,「Closed−Loop Control of an Artificial Pancreatic β−Cell Using Multi−Parametric Model Predictive Control」Diabetes Research 2008。
【0008】
本出願において引用される全ての記事又は文献は、参照によりその全体が記載されているかのように本出願に援用される。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
出願人は、食事又は食事と手動ボーラス投与との組み合わせの影響を考慮できない、モデルベース制御(MPCを含む)の幾つかの事例の非生産的効果を特定した。そのような状況において、MPC内のモデルは、被験者又は患者が相当量の糖質を含む軽食又は食事を摂取した直後であっても、近い将来の不活発かつ定常なブドウ糖の傾向を予測することは可能である。このような状況では、モデルが軽食の影響を考慮に入れるのを仕損じるため、このモデルによる将来のブドウ糖値の予測には恐らく誤りがある。出願人はまた、同じような状況だが、被験者が軽食を考慮して自己送達または手動ボーラス投与している場合に、モデルの仕損じが更に悪化し得ることを特定した。モデルは手動ボーラス投与を認識することができる(ポンプ構成のため)が、軽食は認識できないため、コントローラは手動ボーラス投与後のインスリン注入を低減又は更には一時停止する可能性がある。このコントローラによるボーラス投与後のインスリン注入の減衰は、手動ボーラス投与の一部を実質的に無効にするため、非生産的であると考えられる。このような閉ループ制御の欠点を特定することにより、出願人はこのような閉ループ(例えば、MPC)制御の非生産的効果を軽減する解決手段を考案した。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記解決手段の一態様では、出願人は、輸液ポンプ、ブドウ糖センサ、及びコントローラを含む糖尿病管理システムを提供した。輸液ポンプは、インスリンを被験者に送達するように構成される。ブドウ糖センサは、被験者体内のブドウ糖値を感知し、被験者体内のブドウ糖値を表す出力信号を提供するように構成される。
【0011】
コントローラは、ブドウ糖センサ及びポンプのうちの少なくとも1つから信号を受信し、かつ、被験者の所望のブドウ糖値、送達されるインスリン量、及び測定されるブドウ糖値に基づく被験者のモデル予測制御を利用するフィードバックコントローラが決定する量のインスリンを送達するために、ポンプへ信号を発信するように構成される。コントローラは、被験者がインスリンの手動ボーラス投与を開始し、感知又は測定されるブドウ糖値が第1の持続時間内に少なくとも第1の閾値であるときに必ず、少なくとも基礎量のインスリンを送達するように構成される。
【0012】
即ち、コントローラには、被験者がインスリンの手動ボーラス投与を開始し、感知又は測定されるブドウ糖値が第1の持続時間内に少なくとも第1の閾値であるときに必ず、少なくとも基礎量のインスリンを送達するという制約が設けられる。この態様において、第1の閾値は、血液1デシリットル当たりブドウ糖約120ミリグラムであり得、第1の持続時間は約15分〜約240分であり得る。更に、ブドウ糖センサは、一過式ブドウ糖センサ及び連続式ブドウ糖センサのうちの少なくとも1つを含み得る。
【0013】
出願人が考案する解決手段の更に別の態様において、輸液ポンプ、コントローラ、及びブドウ糖センサを用いて被験者の糖尿病を管理する方法を提供する。該方法は、複数のブドウ糖測定値を提供するために被験者体内のブドウ糖値をブドウ糖センサによって測定することと、所定の間隔にわたって被験者に送達されるべき算出されたインスリン量を提供するために、被験者の代謝状態の推定値からブドウ糖値の傾向を予測するために複数のブドウ糖測定値を利用するモデル予測コントローラに基づき、送達のためにコントローラによってインスリン量を算出することと、ブドウ糖値が第1の時間周期内に少なくとも第1のブドウ糖閾値である間に被験者が手動ボーラス投与を開始したかどうか決定することと、決定する工程が真である場合、インスリン送達を少なくとも基礎量に制約することと、によって、実現可能である。上述の態様において、第1のブドウ糖閾値は、血液1デシリットル当たりブドウ糖約80mg〜血液1デシリットル当たりブドウ糖約180mgの間の任意の濃度のブドウ糖濃度を含み得、第1の時間周期は、約15分〜2時間の間の任意の値の持続時間を含み得、所定の間隔は、1分、3分、5分、10分、15分、20分、30分、及びこれらの組み合わせから本質的になる群から選択される間隔を含み得る。本方法において、ブドウ糖センサは、一過式ブドウ糖センサ及び連続式ブドウ糖センサのうちの少なくとも1つを含み得る。本態様において、算出することは、被験者の代謝状態の推定値を、被験者体内のブドウ糖値のおよそ実時間の測定値から再帰的に決定することを更に含み得る。
【0014】
更なる態様において、輸液ポンプ、コントローラ、及びブドウ糖センサを用いて被験者の糖尿病を管理する方法を提供する。本方法は、複数のブドウ糖測定値を提供するために被験者体内のブドウ糖値をブドウ糖センサによって測定することと、被験者に送達するための基礎比率を算出することと、ブドウ糖値が第1の時間周期内に少なくとも第1のブドウ糖閾値のレベルである状態で前記被験者が手動ボーラス投与を開始したかどうかを決定することと、決定することが真である場合、基礎比率でインスリンを送達するように輸液ポンプを制約することと、決定することが偽である場合、およそゼロの比率で送達するように輸液ポンプを制限することと、前記制約する工程及び前記制限する工程に基づいてインスリン投与量を算出することと、算出する工程によって算出されたインスリン投与量を送達するようにポンプに命令することと、によって、実現する。上述の態様において、第1のブドウ糖閾値は、血液1デシリットル当たりブドウ糖約80mgから血液1デシリットル当たりブドウ糖約180mgの間の任意の濃度のブドウ糖濃度を含み得、第1の時間周期は、約15分〜2時間の間の任意の値の持続時間を含み得、所定の間隔は、1分、3分、5分、10分、15分、20分、30分、及びこれらの組み合わせから本質的になる群から選択される間隔を含み得る。本方法において、ブドウ糖センサは、一過式ブドウ糖センサ及び連続式ブドウ糖センサのうちの少なくとも1つを含み得る。更に、算出することは、被験者の代謝状態の推定値を、被験者体内のブドウ糖値のおよそ実時間の測定値から再帰的に測定することを更に含み得る。
【0015】
本開示の上記態様では、測定する、推定する、算出する、算定する、導出する及び/又は利用する(場合により等式と共に)工程は、電子回路又はプロセッサによって行われてよい。これらの工程は、コンピュータ読み取り可能な媒体に保存される実行可能命令として実行されてもよく、コンピュータによって実行されるとき、この命令は、上記方法のうち任意の1つの工程を実行できる。
【0016】
本開示の追加の態様では、コンピュータ読み取り可能な媒体があり、各媒体は、コンピュータによって実行されるとき、上記方法のうち任意の1つの工程を実行できる実行可能命令を含む。
【0017】
これら及び他の実施形態、特徴並びに利点は、以下に述べる本発明の異なる例示的実施形態のより詳細な説明を、はじめに下記に簡単に述べる付属の図面とあわせて参照することによって当業者にとって明らかになるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0018】
本明細書に援用されて本明細書の一部をなす添付図面は、現時点における本発明の好適な実施形態を示したものであって、上記に述べた一般的説明並びに下記に述べる詳細な説明とともに、本発明の特徴を説明する役割を果たすものである(同様の数字は同様の要素を表す)。
図1】糖尿病管理システムの実施形態例を略図形式で図示する。
図2】ポンプ又はブドウ糖モニタ(複数可)のためのコントローラが輸液ポンプ及びブドウ糖モニタ(複数可)の両方から分離しており、およそ実時間のモニタリングを提供するためにネットワークがコントローラに結合され得る、図1のシステムのための輸液セットを図示する。
図3図1又は図2のコントローラにおいて利用されるロジックを図示する。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下の詳細な説明は、図面を参照しつつ読まれるべきもので、異なる図面中、同様の要素は同様の参照符号にて示してある。図面は必ずしも一定の縮尺を有さず、選択した実施形態を示したものであって、本発明の範囲を限定するものではない。詳細な説明は本発明の原理を限定するものではなく、あくまでも例として説明するものである。この説明文は、当業者による発明の製造及び使用を明確に可能ならしめるものであり、出願時における本発明を実施するための最良の形態と考えられるものを含む、本発明の複数の実施形態、適応例、変形例、代替例、及び使用例を述べるものである。
【0020】
本明細書で任意の数値や数値の範囲について用いる「約」又は「およそ」という用語は、構成要素の部分又は構成要素の集合が、本明細書で述べるその所望の目的に沿って機能することを可能とするような適当な寸法の許容誤差を示すものである。更に具体的には、「約」又は「およそ」という用語は、記載される値の±10%の値の範囲を示し得、例えば、「約90%」は、81%〜99%の値の範囲を示し得る。更に、本明細書で用いる「患者」、「ホスト」、「ユーザ」、及び「被験者」という用語は任意のヒト又は動物患者を指し、システム又は方法をヒトにおける使用に限定することを目的としたものではないが、ヒト患者における本発明の使用は好ましい実施形態を代表するものである。本明細書で用いる「振動信号」は、それぞれ電流の極性又は交互方向を変更する、あるいは多方向的である電圧信号又は電流信号を含む。また本明細書で用いる語句「電気信号」又は「信号」は、直流信号、交流信号、又は電磁スペクトル内の任意の信号を含むことが意図される。用語「プロセッサ」「マイクロプロセッサ」又は「マイクロコントローラ」は、同じ意味を有することが意図され、互換的に使用されることが意図される。本明細書で用いる「通知された」という用語及びこの語幹の変形は、文字、音声、画像又はすべての通信の態様及び媒体の組み合わせを介してユーザに通知されることを表す。用語「薬剤」は、ホルモン剤、生物活性物質、ユーザ又は患者の体内において生物学的反応(例えば、血糖反応)の原因となる調剤又は他の化学薬品を含み得る。
【0021】
図1は、閉ループ制御システムの望ましくない効果を解消するために出願人が考案した解決手段をプログラムしたシステムの回路図を図示する。特に、図1は、所望のブドウ糖濃度又はブドウ糖濃度の範囲12を(アップデートフィルタ28からの任意の修正と共に)受信するコントローラ10を提供する。コントローラ10には、所望のレベルの範囲内の被験者の出力(即ち、ブドウ糖値)を維持するために適切なMPCがプログラムされている。
【0022】
図1を参照すると、MPC使用可能なコントローラ10の第1の出力14は、所望の量のインスリン18を生きた被験者20に所定の時間間隔で送達するためのインスリンポンプ16への制御信号であり得る。予測ブドウ糖値15の形をとる第2の出力は、接合制御Bにおいて利用可能である。ブドウ糖センサ22は、実際の又は測定されるブドウ糖値を表す信号24を、測定されるブドウ糖濃度24とその測定されるブドウ糖濃度のMPC予測との差を取る接合制御Bに提供するために、被験者20体内のブドウ糖値を測定する。この差は、アップデートフィルタ26にモデルの状態変数の入力を提供する。差26は、直接測定することができないモデルの状態変数の推定値を提供する推定器(アップデートフィルタ28としても知られる)に提供される。アップデートフィルタ28は、好適には、モデルのための調整パラメータを有するカルマンフィルタの形をとる再帰形フィルタである。アップデート又は再帰形フィルタ28の出力は接合制御Aに提供され、接合制御Aの出力は、コントローラ10内のMPCがポンプ16への制御信号14を更に精製するために利用する。コントローラ10に使用するMPCの概要を以下に提供する。
【0023】
コントローラ10のMPCは、ヒト1型糖尿病(T1DM)ブドウ糖−インスリン力学の明示的モデルを組み込む。このモデルは、将来のブドウ糖値を予測するためと、ブドウ糖プロファイルを所望の範囲内にする将来のコントローラ運動を算出するために使用される。MPCコントローラは、離散時間システム及び連続時間システムの両方のために定式化され得、コントローラは離散時間に設定されており、離散時間(ステージ)指数kとは、T=5がサンプリング周期である連続時間t=k・Tにおいて発生するkthサンプルのエポックを意味する。ソフトウェア制約は、インスリン送達率が最小(即ち、ゼロ)と最大値との間に制約されていることを確かにする。第1のインスリン注入(N工程からの)が次に行われる。次の時間ステップでは、新たに測定されたブドウ糖値及び最後のインスリン率に基づくk+1において、工程は繰り返される。
【0024】
MPCアルゴリズムは、区間の下限が80〜100mg/dLの間を変動し、上限が約140〜180mg/dLの間を変動する、安全なブドウ糖値区間に制御するように定式化され、このアルゴリズムを以下「区間MPC」アルゴリズムと呼ぶ。目標区間への制御は、一般的に、明確な設定点を欠いており、コントローラの目標が制御変数(CV)を所定の区間に維持することである被制御システムに適用される。区間(即ち、正常血糖区間)への制御は、自然な血糖設定点の不在のため、人工膵臓にとって非常に好適である。更に、区間への制御の固有の利益は、ブドウ糖値が区間内である場合に必要以上の補正が提案されないようなやり方で、ポンプの作動/動作を制限することである。
【0025】
実時間において、区間MPC法則からのインスリン送達率Iは、各サンプリング時に次のインスリン送達率を求めるオンライン最適化によって算出される。各サンプリング時の最適化は、動的モデルから得られる推定代謝状態(血漿ブドウ糖、皮下インスリン)に基づく。
【0026】
FDA(US Food and Drug Administration)が認めたUVa(University of Virginia)/Padova代謝シミュレータを使用して、インスリン注入率(I)の効果とCHO摂取入力(食事)が血漿ブドウ糖に与える効果とを関連付ける縮小線形差分モデルを得た。このモデルは、被験者の総数に対する単一の平均モデルを表す。このモデル及びそのパラメータは固定されている。
【0027】
モデルは、区間MPCスキーマにおいて人工入力メモリを生成し、インスリン過剰摂取、及び結果として低血糖を防止するために使用される二次入力転送機能を含む。インスリンの過剰送達を回避するために、あらゆる順次的なインスリン送達の評価において、インスリン作用の長さに対する過去に投与されたインスリン量を考慮しなければならない。しかしながら、比較的低次の一状態線形差分モデルは、出力(血糖)を過去に投与された入力(インスリン)「メモリ」の主要源として使用する。モデルミスマッチ、ノイズ、又は被験者のインスリン感受性の変化に直面した場合、これはインスリンの送達不足又は過剰送達をもたらし得る。これは、より長いインスリンメモリを持つマッピングされたインスリン及び食事入力に関する2つの追加の状態を追加することによって軽減される。このシステムにおいて、インスリン送達率Iは、インスリン送達率は時間M後時間Pまで不変であることを前提として、Pサンプルの制御範囲にわたってモデルによって求められる予測出力Gと共に、M制御運動の有限範囲にわたって調整される。目標区間外の血漿ブドウ糖推定値及び基礎比率(1日のその時間帯に対する)のインスリン送達率における偏移は、それぞれパラメータQ及びRによってペナルティを科される。
【0028】
区間MPCは、制御変数(CV)の特定の設定値が、上方及び下方境界によって定義される区間に比べて適合性が低いときに適用される。更に、ノイズ及びモデルミスマッチの存在下で、固定設定点を使用する実用的な値はない。区間MPCの関連導出は、Maciejowski JM.Predictive control with constraints.Harlow,UK:Prentice−Hall,Pearson Education Limited,2002において提示された。
【0029】
区間MPCは、予測CVがそれぞれ所望の区間内又は区間外であるとき、最適化重みをゼロと幾つかの最終値との間で切り替えさせることによって、固定上界及び下界をソフト制約として定義することによって実行される。予測残差は、所望区間外のCVと最も近い境界との間の差として一般的に定義される。区間MPCは典型的には3つの異なる区間に分割される。許容範囲は制御目標であり、それは上界及び下界によって定義される。上部区間は、望ましくない高い予測血糖値を表す。下部区間は、低血糖区間又は下限警報区間である低血糖前保護区域を表す望ましくない低い予測血糖値を表す。区間MPCは、近い将来のインスリン制御運動を特定の制約の下で許容区間内に留まるように操作することによって、予測血糖を最適化する。
【0030】
区間MPCの中核は、区間定式を保持するその費用関数定式にある。区間MPCは、任意の他のMPCの形式と同様に、過去の入力/出力記録及び最適化される必要がある将来の入力運動を使用する明示的モデルによって、将来の出力を予測する。しかしながら、特定の固定設定点に移動させる代わりに、最適化は予測出力を上界及び下界によって定義される区間内に保持又は移動させようと試みる。線形差分モデルを使用し、血糖力学を予測し、最適化によって制約及び費用関数において定義される重みの下の区間からの将来の血糖変動を低減する。
【0031】
好適な技術的算出ソフトウェア(例えば、MATLAB fmincon.m’)を使用して上述の最適化問題を解決し、以下のハード制約を操作される変数(I’):−basal≦I’≦72U/hに実行する。
式中、被験者の基礎比率(被験者の医師によって定められる)は約0.6U/hr〜1.8U/hrの範囲内であることが要求される。
【0032】
コントローラを初期化しスイッチを入れると、ブドウ糖センサのサンプル時間に対応して、実時間算出が5分おきに行われる。初期化は、モデルが将来のブドウ糖濃度を予測できるように、以前のブドウ糖測定値及びインスリン送達率に関する充分な情報を集めることに該当する。
【0033】
パラメータM及びPの値はコントローラの性能に有意な影響を有し、通常はMPC型コントローラの調整のために使用されるが、システムの情報に基づいて自学自習的に調整されることができる。調整のルールは、Seborg DE,Edgar TF,and Mellichamp DA「Process dynamics and control」Hoboken,NJ:John Wiley & Sons,2004の頁555〜556に記載されている。これらのルールによると、M及びPは、Mは2〜10の間、Pは20〜120の間を変動し得、好適にはMは約5、Pは約108である。出力誤差重み行列(Q)及び入力変化重み行列(R)の比率は、10〜1000の間を変動し得、好適にはR/Qは約500である。
【0034】
状態推定器を含む他の関連主題の詳細及び他のMPCは、参照によりその全体が記載されているかのように本出願に援用される、Rachel Gillis et al.,「Glucose Estimation and Prediction through Meal Responses Using Ambulatory Subject Data for Advisory Mode Model Predictive Control」Journal of Diabetes Science and Technology Vol.1,Issue 6,Nov.2007及びYouqing Wang et al.,「Closed−Loop Control of Artificial Pancreatic β−Cell in Type 1 Diabetes Mellitus Using Model Predictive Iterative Learning Control」IEEE Transactions on Biomedical Engineering,Vol.57,No.2,February 2010によって提供されている。
【0035】
図2は、例示的実施形態による薬剤送達システム100を図示する。薬剤送達システム100は、薬剤送達装置102及びリモートコントローラ104を含む。薬剤送達装置102はフレキシブルチューブ108を介して、輸液セット106に接続される。
【0036】
薬剤送達装置102は、例えば、無線周波通信112によって、リモートコントローラ104間を往復するデータの送受信をするように構成される。薬剤送達装置102は、独自の内蔵型コントローラを有する独立型装置としても機能し得る。一実施形態において、薬剤送達装置102はインスリン注入デバイスであり、リモートコントローラ104は手持ち式の携帯用コントローラである。そのような実施形態において、薬剤送達装置102からリモートコントローラ104に送信されるデータは、例えば、2〜3例を挙げると、インスリン送達データ、血糖情報、基礎量、ボーラス投与、インスリン対糖質比、又はインスリン感受性要因などの情報を含み得る。コントローラ104は、CGMセンサ112からの連続的な分析物測定値を受信するようにプログラムされたMPCコントローラを含むように構成される。リモートコントローラ104からインスリン送達装置102に送信されるデータは、薬剤送達装置102が薬剤送達装置102によって送達されるインスリン量を算出できるようにするための分析物試験結果及び食品データベースを含み得る。あるいは、リモートコントローラ104は、基礎投与又はボーラス投与の算出を実行し、そのような算出の結果を薬剤送達装置に送信し得る。代替的な実施形態において、一過式血液分析物計器114が、コントローラ104及び薬剤送達装置102のいずれか又は両方にデータを提供するために、単独で、又はCGMセンサ112と共に、使用可能である。あるいは、リモートコントローラ104は、(a)統合されたモノリシックデバイス、又は(b)統合されたデバイスを形成するために互いにドッキング可能な2つの分離できるデバイスのいずれかにおいて、計器114と併用可能である。装置102、104、及び114のそれぞれは、様々な機能を実行するのに好適なマイクロコントローラ(簡潔化のために図示せず)を有する。
【0037】
薬剤送達装置102はまた、例えば、無線通信網118などを通じて、リモートヘルスモニタリングステーション116と双方向無線通信するように構成され得る。リモートコントローラ104及びリモートモニタリングステーション116は、例えば、電話地上波通信網などを通じて双方向有線通信するように構成され得る。リモートモニタリングステーション116は、例えば、アップグレードされたソフトウェアを薬剤送達装置102にダウンロードし、薬剤送達装置102からの情報を処理するために使用可能である。リモートモニタリングステーション116の例は、パーソナルコンピュータ若しくはネットワークコンピュータ126、記憶装置のサーバ128、個人用デジタル補助装置、他の移動電話、病院ベースモニタリングステーション、又は専用のリモート臨床モニタリングステーションを含み得るがこれに限らない。
【0038】
薬剤送達装置102は、中央演算処理装置、並びに制御プログラム及び演算データの保存のためのメモリエレメントを含む処理用電子機器と、リモートコントローラ104間を往復する通信信号(即ち、メッセージ)の送受信のための無線周波モジュール116と、ユーザに運用情報を提供するためのディスプレイと、ユーザが情報を入力するための複数のナビゲーションボタンと、システムに給電するための電池と、ユーザにフィードバックを提供するための警報器(例えば、視覚、聴覚、又は触覚)と、ユーザにフィードバックを提供するための振動器と、インスリンをインスリンリザーバ(例えば、インスリンカートリッジ)から輸液セット108/106及びユーザ体内に接続されたサイドポートを通じて押し出すための薬剤送達機構(例えば、薬剤ポンプ及び駆動機構)と、を含む。
【0039】
分析物レベル又は濃度は、CGMセンサ112の使用によって測定可能である。CGMセンサ112は、電流測定電気化学センサ技術を利用して、動作可能にセンサ電子機器に接続され、クリップ留めされた感応膜及び生体界面膜で覆われている3つの電極を用いて分析物を測定する。
【0040】
電極の上端部は、感応膜と電極との間に配設された自由流動性の流体相である電解質相(図示せず)と接触している。感応膜は、電解質相を被覆する酵素、例えば、分析物オキシダーゼを含み得る。この例示的なセンサにおいて、作用電極において測定される種によって発生する電流を相殺するために対電極が提供される。分析物オキシダーゼ系分析物センサの場合、作用電極において測定される種は、Hである。作用電極において生じる(及び対電極への回路を通じて流れる)電流は、Hの拡散フラックスに比例する。結果的に、ユーザ体内の分析物濃度を表し、したがって有意の分析物値を推定するために利用することができる原信号が生じ得る。センサ及び関連するコンポーネンツの詳細は、参照によりその全体が記載されているかのように本出願に援用される米国特許第7,276,029号において示され説明されている。1つの実施形態において、Dexcom Seven Systemによる連続式分析物センサ(Dexcom Inc.製)もまた、本明細書中に説明する例示的実施形態と併せて利用可能である。
【0041】
本発明の1つの実施形態において、人口膵臓に類似する糖尿病管理システムとして以下のコンポーネンツを利用することができる:少なくとも1つの輸液ポンプ及び1つの一過式ブドウ糖センサを含む、Animas CorporationによるOneTouch Ping(登録商標)Glucose Management System;これらのコンポーネンツを接続するための、MATLAB(登録商標)言語においてプログラムされたインターフェース、及びコンポーネンツを接続するための補助装置を有する、DexCom CorporationによるDexCom(登録商標)SEVEN PLUS(登録商標)CGM;並びに、患者のブドウ糖値、ブドウ糖測定値歴、及び期待される将来のブドウ糖の傾向、並びに患者の特異的な情報に基づいて、自動的にインスリン送達率を調節するMPCの形をとる制御アルゴリズム。
【0042】
出願人は、食事の影響を考慮しないMPC系閉ループコントローラにおいて、被験者が手動でボーラス投与を送達し、その結果潜在的に被験者の血糖が所望の閾値を超える原因となる状況において、閉ループコントローラはインスリンの送達を減衰させ得るということを認識した。図3を参照すると、出願人は、閉ループコントローラ10に利用されるモデルの大規模な再構成を必要とせずに、手動ボーラス投与を構成する方法200を考案した。特に、工程202において、実現又は維持するためにコントローラがインスリンを投与する所望のブドウ糖値範囲をシステムに規定する。プロセッサの形をとるシステムは、工程204において、1日のインスリン総量、夜間のインスリン率、体重、インスリン感受性要因、糖質比率、又は過去の基礎インスリン率のうちの少なくとも1つの変数に基づいて基礎インスリン率を算出することによって、ロジック200を開始する。基礎インスリン率は、例えば、米国特許出願公開第20120078067号「System Coordinator and Modular Architecture for Open−Loop and Closed−Loop Control of Diabetes」、「USABILITY FEATURES FOR INTEGRATED INSULIN DELIVERY SYSTEM」と題する米国特許出願公開第20100295686号、又は「Method,System,and Computer Program Product for the Detection of Physical Activity by Changes in Heart Rate,Assessment of Fast Changing Metabolic States,and Applications of Closed and Open Control Loop in Diabetes」と題する米国特許出願公開第20100057043号に示され説明されるように、当業者に周知である。したがって、簡潔化のために、基礎インスリン量の測定のための技術は更に説明する必要はない。
【0043】
図3に戻って参照すると、プロセッサは、例えば食品、ストレス、運動などの被験者に対する外部入力(場合により測定されない)に起因する適切なインスリン投与量を測定するために、工程206において、被験者のブドウ糖値もまた測定する。好ましい実施形態において、工程206における測定は、CGMによって実行され、その結果適切な時間において、システムは、工程208において被験者にCGMを異なるブドウ糖モニタータイプに調整するよう再認識させ得る。工程210において、ロジックは、被験者が第1の持続時間内に手動ボーラス投与を始動させたかどうか、及びブドウ糖値が第1の閾値以上であるかどうかを決定する。真である場合、ロジックは工程212に進み、コントローラの注入下限制約を基礎量に設定し、その後工程214に進み、コントローラによって適切なインスリン投与量が決定され、工程216においてこのインスリン投与量が提供される。しかしながら、工程210におけるクエリが偽である場合、ロジックは次に進み、工程218においてコントローラのインスリン注入下限制約をゼロに設定する。その後、ロジックは、コントローラが工程216において送達される適切なインスリン投与量を決定するために工程214に進む。工程214又は工程218(ユーザによる手動ボーラス投与の始動及びブドウ糖測定値によって選択される)の制約に基づいて適切なインスリン投与量が、工程214において決定されたら、システムは算出されたインスリン投与量の送達を開始することに留意されたい。工程220において、システムはそのメインルーチンに戻る。
【0044】
好ましい実施形態において、第1の閾値は、血液1デシリットル当たりブドウ糖約80mg(「mg/dL」)〜約180mg/dL、又は間質液に見られるその同等レベルであり得、第1の持続時間は約15分〜約2時間であり得る。最も好ましい実施形態において、第1の閾値は約120mg/dLであり、第1の持続時間は約15分〜約240分の任意の値であり得る。
【0045】
実行中、ロジックは、手動ボーラス投与に付随する未確認の食事又は軽食に起因するインスリン送達の何らかの減衰をシステムが企図した場合、少なくとも基礎量のインスリンを被験者に提供することによってそのような減衰を軽減することを確実ならしめる。この軽減ロジックは、コントローラが手動ボーラス投与を検出するときに必ず、閉ループコントローラによるインスリン送達のいずれかの減衰を打ち消すと考えられる。この軽減ロジックを組み込むことで、被験者の血糖状態が所望の範囲内にあることを確かならしめることによって、順便益が被験者に提供されると考えられる。
【0046】
本発明を特定の変形例及び説明図に関して述べたが、当業者には本発明が上述された変形例又は図に限定されないことが認識されよう。例えば、閉ループコントローラは、MPCコントローラである必要はなく、当業者が適宜修正を加えたPIDコントローラであって、「Closed−Loop Control and Advisory Mode Evaluation of an Artificial Pancreatic β Cell:Use of Proportional−Integral−Derivative Equivalent Model−Based Controllers」Journal of Diabetes Science and Technology,Vol.2,Issue 4,July 2008においてPercivalらが説明するモデルアルゴリズム的制御(MAC)である内部モデル制御(IMC)を有するPIDコントローラであってもよい。更に、上述の方法及び工程が特定の順序で起こる特定の事象を示している場合、当業者には特定の工程の順序が変更可能であり、そうした変更は本発明の変形例に従うものである点が認識されよう。更に、こうした工程のうちのあるものは、上述のように順次行われるが、場合に応じて並行したプロセスで同時に行われてもよい。したがって、開示の趣旨又は請求項に見出される本発明の同等物の範囲内にある本発明の変形が存在する範囲では、本特許請求がこうした変形例をも包含することが意図されるところである。
【0047】
〔実施の態様〕
(1) 糖尿病管理システムであって、
インスリンを被験者に送達するように構成される輸液ポンプと、
前記被験者体内のブドウ糖値を感知し、前記被験者体内の前記ブドウ糖値を表す出力信号を提供するように構成されるブドウ糖センサと、
前記ブドウ糖センサ及び前記ポンプのうちの少なくとも1つから信号を受信するコントローラであって、前記コントローラは、前記ポンプへ信号を発信して、前記被験者の所望のブドウ糖値、送達されるインスリン量、及び測定されるブドウ糖値に基づく前記被験者のモデル予測制御を利用するフィードバックコントローラが決定する量のインスリンを送達するように構成され、かつ前記被験者がインスリンの手動ボーラス投与を開始し、感知又は測定されるブドウ糖値が第1の持続時間内に少なくとも第1の閾値であるときに必ず、少なくとも基礎量のインスリンを送達するように構成される、コントローラと、を備える、糖尿病管理システム。
(2) 前記第1の閾値が血液1デシリットル当たり約120ミリグラムのブドウ糖を含み、前記第1の持続時間が約45分を含む、実施態様1に記載のシステム。
(3) 前記ブドウ糖センサが、一過式ブドウ糖センサ及び連続式ブドウ糖センサのうちの少なくとも1つを含む、実施態様2に記載のシステム。
(4) 輸液ポンプ、コントローラ、及び少なくとも1つのブドウ糖センサを用いて被験者の糖尿病を管理する方法であって、
複数のブドウ糖測定値を提供するために前記被験者体内のブドウ糖値を前記ブドウ糖センサから測定することと、
所定の間隔にわたって前記被験者に送達されるべき算出されたインスリン量を提供するために、前記被験者の代謝状態の推定値から前記ブドウ糖値の傾向を予測するために前記複数のブドウ糖測定値を利用するモデル予測コントローラに基づき、送達のために前記コントローラによってインスリン量を算出することと、
前記ブドウ糖値が第1の時間周期内に少なくとも第1のブドウ糖閾値である間に前記被験者が手動ボーラス投与を開始したかどうか決定することと、
前記決定する工程が真である場合、インスリン送達を少なくとも基礎量に制約することと、を含む、方法。
(5) 輸液ポンプ、コントローラ、及び少なくとも1つのブドウ糖センサを用いて被験者の糖尿病を管理する方法であって、
複数のブドウ糖測定値を提供するために前記被験者体内のブドウ糖値を前記ブドウ糖センサから測定することと、
前記被験者に送達するための基礎比率を算出することと、
前記ブドウ糖値が第1の時間周期内に少なくとも第1のブドウ糖閾値のレベルである状態で前記被験者が手動ボーラス投与を開始したかどうかを決定することと、
前記決定することが真である場合、前記基礎比率でインスリンを送達するように前記輸液ポンプを制約することと、
前記決定することが偽である場合、およそゼロの比率で送達するように前記輸液ポンプを制限することと、
前記制約する工程及び前記制限する工程に基づいてインスリン投与量(insulin dosing)を算出することと、
前記算出する工程によって算出されたインスリン投与量を送達するように前記ポンプに命令することと、を含む、方法。
【0048】
(6) 前記第1のブドウ糖閾値が、血液1デシリットル当たり約80mgのブドウ糖から血液1デシリットル当たり約180mgのブドウ糖の間の任意の濃度のブドウ糖濃度を含む、実施態様4又は5に記載の方法。
(7) 前記第1の時間周期が、約15分〜2時間の間の任意の値の持続時間を含む、実施態様6に記載の方法。
(8) 前記所定の間隔が、1分、3分、5分、10分、15分、20分、30分、及びこれらの組み合わせから本質的になる群から選択される間隔を含む、実施態様4に記載の方法。
(9) 前記ブドウ糖センサが、一過式ブドウ糖センサ及び連続式ブドウ糖センサのうちの少なくとも1つを含む、実施態様4又は5に記載の方法。
(10) 前記算出することが、前記被験者の代謝状態の推定値を、前記被験者体内の前記ブドウ糖値のおよそ実時間の測定値から再帰的に決定することを更に含む、実施態様4又は5に記載の方法。
図1
図2
図3