特許第6262225号(P6262225)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6262225オキサビシクロヘプタン類、および再灌流障害の治療のためのオキサビシクロヘプタン類
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6262225
(24)【登録日】2017年12月22日
(45)【発行日】2018年1月17日
(54)【発明の名称】オキサビシクロヘプタン類、および再灌流障害の治療のためのオキサビシクロヘプタン類
(51)【国際特許分類】
   A61K 31/496 20060101AFI20180104BHJP
   A61P 9/10 20060101ALI20180104BHJP
   A61P 17/02 20060101ALI20180104BHJP
【FI】
   A61K31/496
   A61P9/10
   A61P17/02
【請求項の数】7
【全頁数】45
(21)【出願番号】特願2015-520594(P2015-520594)
(86)(22)【出願日】2013年6月28日
(65)【公表番号】特表2015-522032(P2015-522032A)
(43)【公表日】2015年8月3日
(86)【国際出願番号】US2013048697
(87)【国際公開番号】WO2014005080
(87)【国際公開日】20140103
【審査請求日】2016年6月27日
(31)【優先権主張番号】61/782,894
(32)【優先日】2013年3月14日
(33)【優先権主張国】US
(31)【優先権主張番号】61/666,535
(32)【優先日】2012年6月29日
(33)【優先権主張国】US
(73)【特許権者】
【識別番号】510090726
【氏名又は名称】リクスト・バイオテクノロジー,インコーポレイテッド
(74)【代理人】
【識別番号】110001737
【氏名又は名称】特許業務法人スズエ国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】コヴァック、ジョン・エス
【審査官】 鶴見 秀紀
(56)【参考文献】
【文献】 米国特許出願公開第2010/0029683(US,A1)
【文献】 Transplantation Proceedings,2002年,34(4),pp.1345-1348
【文献】 Herat,2012年 3月,Vol.98,pp.656-662
【文献】 Journal of Molecular and Cellular Cardiology,2010年,Vol.48,No.5,SUPP.suppl.1,pp.S163-S164,Abs.No.P-3-28-2
【文献】 Am.J.Physiol.Regut.Integr.Comp.Physiol.,2012年,302(2,Pt.2),R409-R416
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 31/00−31/80
A61P 9/10
A61P 17/02
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
被験者における急性外傷後の組織損傷を低減するための医薬の製造における、次式の構造を有するタンパク質ホスファターゼ2A(PP2A)阻害剤LB100の使用:
【化1】
【請求項2】
哺乳動物組織における急性外傷後の組織損傷である再灌流傷害または血管漏出を低減するための、請求項1に記載の使用。
【請求項3】
請求項2に記載の使用であって、前記再灌流傷害の低減が、虚血に罹患した哺乳動物組織におけるAktの増大したリン酸化を含んでいる使用。
【請求項4】
請求項2に記載の使用であって、前記再灌流傷害の低減が、虚血に罹患した哺乳動物組織におけるAktの増大した活性化を含んでいる使用。
【請求項5】
請求項3または4に記載の使用であって、前記再灌流傷害の低減が、虚血に罹患した哺乳動物組織におけるBAD,mdm2、eNOSおよび/またはGSK−3βの増大したリン酸化を含んでいる使用。
【請求項6】
請求項2〜の何れか1項に記載の使用であって、前記哺乳動物組織は心筋組織、脳組織または内皮組織である使用。
【請求項7】
請求項2〜6の何れか1項に記載の使用であって、前記哺乳動物組織は内皮組織である使用。
【発明の詳細な説明】
【刊行物の参照】
【0001】
この出願の全体を通して種々の刊行物が参照される。これら文献の開示は、本発明が属する技術の状態をより完全に記述するために、それらの全体を本明細書の一部として本願に援用する。
【発明の背景】
【0002】
再灌流は、虚血性事象後に患部領域の血流および再酸素飽和を再樹立することであり、不可逆的損傷を制限するために決定的に重要である。しかしながら、血液からの酸素および栄養素の欠失は、再灌流障害が生じ得る条件を形成する。虚血性事象後の血流の再生は、炎症および酸化的損傷をもたらす。血流再生の際に、白血球はインターロイキンのような炎症性因子、並びにフリーラジカルを放出する。再生された血流は細胞内に酸素を再導入し、これが細胞タンパク質、DNAおよび原形質膜を損傷する。
【0003】
急性心筋梗塞(MI)は世界的な死因の首位の座に座ったままなので、心臓発作の発生後であるが薬理的介入が迅速に適用される可能性は、再灌流により生じた心臓組織に対する損傷を最小化し、従って多くの生命を救い、且つMIに続く過剰な心筋損傷後の心不全を伴う個体数を低減させるであろう(Yellon and Hausenloy、2005; Longacre et al、2011)。1個体で1回しか使用されないような薬物の開発における商業的興味の欠如が、この分野における進歩を制限してきた(Cohen and Downey、2011)。
【0004】
現在のところ、ヒトにおける心筋梗塞のサイズを一貫して縮小する唯一の確立された介入は、MIの後にできる限り迅速に、新鮮な血栓を溶解する薬物、および/またはバルーン血管形成を伴った心臓カテーテル法(固定された導管であるステントを伴って、または伴わずに)により冠動脈流を改善することによるものである。これらの冠動脈血流を改善する方法(再灌流)は、患者のケアを改善し、病院での死亡率を減少させてきた。しかし、心臓センターへの移動時間によって再灌流の開始が遅延することは、急性心臓障害の患者にとって、これら治療を適用することに対する深刻な制限である。再灌流治療において、および該治療自体が、心筋細胞の死、即ち、再灌流傷害と称される現象を生じる得ることもまた発見されている。薬理学的手段によって再灌流で生じる傷害を低減することは、急性心臓発作のための現行の介入の成功率を改善するはずである。心臓センターに到着する前に、MIの時点で救急隊員により投与され得る組織損傷を最小化する薬物は、心臓発作罹病者のケアにおける主要な進歩であることができるであろう。心筋の損傷を導く酸素欠乏による急性障害は、心臓外科においても重要な問題である。冠動脈バイパスグラフト手術後の梗塞の発生率は、付随する心臓罹病率と共に、19%と見積もられてきた(Longacre et al, 2011)。
【発明の概要】
【0005】
哺乳動物組織における再灌流傷害を低減する方法であって、前記組織を、次式の構造を有するタンパク質ホスファターゼ2A(PP2A)阻害剤、または該化合物の塩、エナンチオマーもしくは両性イオンと接触させることを含んでなる方法:
【化1】
【0006】
ここで、
結合αは存在するか、または存在せず;
およびRは、それぞれ独立に、H、OまたはORであり;
ここでのRは、H、アルキル、アルケニル、アルキニルまたはアリールであるか、
またはRおよびRは一緒になって=Oであり;
およびRはそれぞれ異なり、各々がOH、O、OR、OR10、O(CH1−6、SH、S、SR
【化2】
【0007】
であり、
ここで、Xは、O、S、NR10、またはN1010であり、
ここでの各R10は、独立にH、アルキル、C−C12アルキル、アルケニル、C−C12アルケニル、アルキニル、アリール、置換アリール(ここでの置換基は、RおよびRが=Oのときはクロロ以外である)、
【化3】
【0008】
−CHCN、−CHCO11、−CHCOR11、−NHR11または
−NH(R11であり、
ここでの各R11は独立に、アルキル、アルケニルもしくはアルキニル、またはHであり;
およびRは、それぞれ独立に、H、もしくはOHであるか、またはRおよびRが一緒になって、=Oであり;
およびRは、各々独立に、H、F、Cl、Br、SOPh、COCH、またはSR12,であり、
ここでのR12は、H、アルキル、アルケニル、アルキニル、またはアリール
であり;
また、アルキル、アルケニル、またはアルキニルは、その出現毎に、分岐もしくは非分岐、非置換もしくは置換である。
【0009】
心筋梗塞の後に被験者の心臓の再灌流傷害に伴う組織損傷を低減する方法であって、前記被験者に対して、下記構造を有する治療的に有効な量のタンパク質ホスファターゼ2A(PP2A)阻害剤、または該化合物の塩、エナンチオマーもしくは両性イオンを投与することを含んでなる方法:
【化4】
【0010】
ここで、
結合αは存在するか、または存在せず;
およびRは、それぞれ独立に、H、OまたはORであり;
ここでのRは、H、アルキル、アルケニル、アルキニルまたはアリールであるか、
またはRおよびRは一緒になって=Oであり;
およびRはそれぞれ異なり、各々がOH、O、OR、OR10、O(CH1−6、SH、S、SR
【化5】
【0011】
であり、
ここで、Xは、O、S、NR10、またはN1010であり、
ここでの各R10は、独立にH、アルキル、C−C12アルキル、アルケニル、C−C12アルケニル、アルキニル、アリール、置換アリール(ここでの置換基は、RおよびRが=Oのときはクロロ以外である)、
【化6】
【0012】
−CHCN、−CHCO11、−CHCOR11、−NHR11または
−NH(R11であり、
ここでの各R11は独立に、アルキル、アルケニルもしくはアルキニル、またはHであり;
およびRは、それぞれ独立に、H、もしくはOHであるか、またはRおよびRが一緒になって、=Oであり;
およびRは、各々独立に、H、F、Cl、Br、SOPh、COCH、またはSR12,であり、
ここでのR12は、H、アルキル、アルケニル、アルキニル、またはアリールであり;
また、アルキル、アルケニル、またはアルキニルは、その出現毎に、分岐もしくは非分岐、非置換もしくは置換である。
【0013】
敗血症に罹患している被験者において再灌流傷害に伴う血管漏出を低減する方法であって、前記被験者に対して、下記構造を有する治療的に有効な量のタンパク質ホスファターゼ2A(PP2A)阻害剤、または該化合物の塩、エナンチオマーもしくは両性イオンを投与することを含んでなる方法:
【化7】
【0014】
ここで、
結合αは存在するか、または存在せず;
およびRは、それぞれ独立に、H、OまたはORであり;
ここでのRは、H、アルキル、アルケニル、アルキニルまたはアリールであるか、
またはRおよびRは一緒になって=Oであり;
およびRはそれぞれ異なり、各々がOH、O、OR、OR10、O(CH1−6、SH、S、SR
【化8】
【0015】
であり、
ここで、Xは、O、S、NR10、またはN1010であり、
ここでの各R10は、独立にH、アルキル、C−C12アルキル、アルケニル、C−C12アルケニル、アルキニル、アリール、置換アリール(ここでの置換基は、RおよびRが=Oのときはクロロ以外である)、
【化9】
【0016】
-CHCN、-CHCO11、-CHCOR11、-NHR11または
-NH(R11であり、
ここでの各R11は独立に、アルキル、アルケニルもしくはアルキニル、またはHであり;
およびRは、それぞれ独立に、HもしくはOHであるか、またはRおよびRが一緒になって、=Oであり;
およびRは、各々独立に、H、F、Cl、Br、SOPh、COCH、またはSR12,であり、
ここでのR12は、H、アルキル、アルケニル、アルキニル、またはアリールであり;
また、アルキル、アルケニル、またはアルキニルは、その出現毎に、分岐もしくは非分岐、非置換もしくは置換である。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1図1は、皮膚弁を産生する前に、塩化ナトリウムを含有する人工心肺をインプラントした近交系「対照」ラット1〜10の写真である。写真は、皮膚弁の作製の7日後に撮影された。(A)対照ラット1;(B)対照ラット2;(C)対照ラット3;(D)対照ラット4;(E)対照ラット5;(F)対照ラット6;(G)対照ラット7;(H)対照ラット8;(I)対照ラット9;(J)対照ラット10。
図2図2は、皮膚弁を産生する前に、0.55mgのLB−100を含有する人工心肺をインプラントした近交系「治療」ラット1〜10の写真である。グラフトを産生する4日前で、グラフトの作成後最初の4日間、人工心肺は、約12μL/日を8日間投与するように、0.5μL/時(+/−10%)の送給を行うように設定された。写真は、皮膚弁の作製の7日後に撮影された。(A)治療ラット1;(B)治療ラット2;(C)治療ラット3;(D)治療ラット4;(E)治療ラット5;(F)治療ラット6;(G)治療ラット7;(H)治療ラット8;(I)治療ラット9;(J)治療ラット10。
【発明の詳細な説明】
【0018】
哺乳動物組織における再灌流傷害を低減する方法であって、前記組織を、次式の構造を有するタンパク質ホスファターゼ2A(PP2A)阻害剤、または該化合物の塩、エナンチオマーもしくは両性イオンと接触させることを含んでなる方法:
【化10】
【0019】
ここで、
結合αは存在するか、または存在せず;
およびRは、それぞれ独立に、H、OまたはORであり;
ここでのRは、H、アルキル、アルケニル、アルキニルまたはアリールであるか、
またはRおよびRは一緒になって=Oであり;
およびRはそれぞれ異なり、各々がOH、O、OR、OR10、O(CH1−6、SH、S、SR
【化11】
【0020】
であり、
ここで、Xは、O、S、NR10、またはN1010であり、
ここでの各R10は、独立にH、アルキル、C−C12アルキル、アルケニル、C−C12アルケニル、アルキニル、アリール、置換アリール(ここでの置換基は、RおよびRが=Oのときはクロロ以外である)、
【化12】
【0021】
-CHCN、-CHCO11、-CHCOR11、-NHR11または
-NH(R11であり、
ここでの各R11は独立に、アルキル、アルケニルもしくはアルキニル、またはHであり;
およびRは、それぞれ独立に、H、もしくはOHであるか、またはRおよびRが一緒になって、=Oであり;
およびRは、各々独立に、H、F、Cl、Br、SOPh、COCH、またはSR12,であり、
ここでのR12は、H、アルキル、アルケニル、アルキニル、またはアリール
であり;
また、アルキル、アルケニル、またはアルキニルは、その出現毎に、分岐もしくは非分岐、非置換もしくは置換である。
【0022】
幾つかの実施形態では、前記方法において、再灌流傷害の低減は虚血に罹患した哺乳動物組織におけるAktの増大したリン酸化を含んでいる。
【0023】
幾つかの実施形態では、前記方法において、再灌流傷害の低減は虚血に罹患した哺乳動物組織におけるAktの増大した活性化を含んでいる。
【0024】
幾つかの実施形態では、前記方法において、再灌流傷害の低減は虚血に罹患した哺乳動物組織におけるBAD,mdm2、eNOSおよび/またはGSK−3βの増大したリン酸化を含んでいる。
【0025】
幾つかの実施形態では、前記方法において、前記虚血は心筋梗塞、脳卒中または敗血症によって引き起こされる。
【0026】
幾つかの実施形態では、前記方法において、前記組織は心筋組織、脳組織または内皮組織である。
【0027】
幾つかの実施形態では、前記方法において、内皮機能不全が低減される。
【0028】
幾つかの実施形態では、前記方法において、前記組織は心筋組織、脳組織または内皮組織である。
【0029】
心筋梗塞の後に被験者の心臓の再灌流傷害に伴う組織損傷を低減する方法であって、前記被験者に対して、下記構造を有する治療的に有効な量のタンパク質ホスファターゼ2A(PP2A)阻害剤、または該化合物の塩、エナンチオマーもしくは両性イオンを投与することを含んでなる方法:
【化13】
【0030】
ここで、
結合αは存在するか、または存在せず;
およびRは、それぞれ独立に、H、OまたはORであり;
ここでのRは、H、アルキル、アルケニル、アルキニルまたはアリールであるか、
またはRおよびRは一緒になって=Oであり;
およびRはそれぞれ異なり、各々がOH、O、OR、OR10、O(CH1−6、SH、S、SR
【化14】
【0031】
であり、
ここで、Xは、O、S、NR10、またはN1010であり、
ここでの各R10は、独立にH、アルキル、C−C12アルキル、アルケニル、C−C12アルケニル、アルキニル、アリール、置換アリール(ここでの置換基は、RおよびRが=Oのときはクロロ以外である)、
【化15】
【0032】
-CHCN、-CHCO11、-CHCOR11、-NHR11または
-NH(R11であり、
ここでの各R11は独立に、アルキル、アルケニルもしくはアルキニル、またはHであり;
およびRは、それぞれ独立に、H、もしくはOHであるか、またはRおよびRが一緒になって、=Oであり;
およびRは、各々独立に、H、F、Cl、Br、SOPh、COCH、またはSR12,であり、
ここでのR12は、H、アルキル、アルケニル、アルキニル、またはアリール
であり;
また、アルキル、アルケニル、またはアルキニルは、その出現毎に、分岐もしくは非分岐、非置換もしくは置換である。
【0033】
敗血症に罹患している被験者において再灌流傷害に伴う血管漏出を低減する方法であって、前記被験者に対して、下記構造を有する治療的に有効な量のタンパク質ホスファターゼ2A(PP2A)阻害剤、または該化合物の塩、エナンチオマーもしくは両性イオンを投与することを含んでなる方法:
【化16】
【0034】
ここで、
結合αは存在するか、または存在せず;
およびRは、それぞれ独立に、H、OまたはORであり;
ここでのRは、H、アルキル、アルケニル、アルキニルまたはアリールであるか、
またはRおよびRは一緒になって=Oであり;
およびRはそれぞれ異なり、各々がOH、O、OR、OR10、O(CH1−6、SH、S、SR
【化17】
【0035】
であり、
ここで、Xは、O、S、NR10、またはN1010であり、
ここでの各R10は、独立にH、アルキル、C−C12アルキル、アルケニル、C−C12アルケニル、アルキニル、アリール、置換アリール(ここでの置換基は、RおよびRが=Oのときはクロロ以外である)、
【化18】
【0036】
-CHCN、-CHCO11、-CHCOR11、-NHR11または
-NH(R11であり、
ここでの各R11は独立に、アルキル、アルケニルもしくはアルキニル、またはHであり;
およびRは、それぞれ独立に、H、もしくはOHであるか、またはRおよびRが一緒になって、=Oであり;
およびRは、各々独立に、H、F、Cl、Br、SOPh、COCH、またはSR12,であり、
ここでのR12は、H、アルキル、アルケニル、アルキニル、またはアリールであり;
また、アルキル、アルケニル、またはアルキニルは、その出現毎に、分岐もしくは非分岐、非置換もしくは置換である。
【0037】
幾つかの実施形態では、前記方法において、前記再灌流傷害は敗血症ショックにより引き起こされる虚血によって生じる。
【0038】
一つの実施形態において、タンパク質ホスファターゼ2A阻害剤は下記の構造を有する:
【化19】
【0039】
ここで、
結合αは存在するか、または存在せず;
およびRは、それぞれ独立に、H、OまたはORであり;
ここでのRは、H、アルキル、アルケニル、アルキニルまたはアリールであるか、
またはRおよびRは一緒になって=Oであり;
およびRはそれぞれ異なり、各々がOH、O、OR、OR10、O(CH1−6、SH、S、SR
【化20】
【0040】
であり、
ここで、Xは、O、S、NR10、またはN1010であり、
ここでの各R10は、独立にH、アルキル、C−C12アルキル、アルケニル、C−C12アルケニル、アルキニル、アリール、置換アリール(ここでの置換基は、RおよびRが=Oのときはクロロ以外である)、
【化21】
【0041】
-CHCN、-CHCO11、-CHCOR11、-NHR11または
-NH(R11であり、
ここでの各R11は独立に、アルキル、アルケニルもしくはアルキニル、またはHであり;
およびRは、それぞれ独立に、H、もしくはOHであるか、またはRおよびRが一緒になって、=Oであり;
およびRは、各々独立に、H、F、Cl、Br、SOPh、COCH、またはSR12,であり、ここでのR12は、H、アリール、アルキル、アルケニル、またはアルキニルである。
【0042】
一つの実施形態において、前記タンパク質ホスファターゼ2A阻害剤は下記の構造を有する:
【化22】
【0043】
一つの実施形態において、前記タンパク質ホスファターゼ2A阻害剤は下記の構造を有する:
【化23】
【0044】
一つの実施形態において、前記タンパク質ホスファターゼ2A阻害剤は下記の構造を有する:
【化24】
【0045】
一つの実施形態では、結合αが存在する。もう一つの実施形態では、結合αは存在しない。
【0046】
一つの実施形態において、 RおよびRは一緒になって=Oであり;
は、OまたはORであり、ここでのRはH、メチル、エチルまたはフェニルであり;
は、
【化25】
【0047】
であり、ここでのXはO、S、NR10、またはN1010であり;
ここでの各R10は、独立に、H、アルキル、置換C−C12アルキル、アルケニル、置換C−C12アルケニル、アルキニル、置換アルキニル、アリール、置換アリール(ここでの置換基はクロロ以外である)、
【化26】
【0048】
-CHCN、-CHCO11、-CHCOR11、-NHR11、または
-NH(R11であり;
ここでのR11はアルキル、アルケニルまたはアルキニル(これらの各々は置換もしくは非置換である)、またはHであり;
およびR、一緒になって=Oであり;また
およびRは、それぞれ独立に、H、F、Cl、Br、SOPh、COCH、またはSR12であり、ここでのR12は、置換もしくは非置換のアルキル、アルケニルまたはアルキニルである。
【0049】
一つの実施形態において、RはOである。
【0050】
もう一つの実施形態において、R
【化27】
【0051】
であり、
ここで、XはO、NR10、N1010であり、
ここで、R10は独立に、H、アルキル、置換C−C12アルキル、アルケニル、置換C−C12アルケニル、アルキニル、置換アルキニル、アリール、置換アリール(ここでの置換基は、RおよびRが=Oであるときはクロロ以外である)、
【化28】
【0052】
-CHCN、-CHCO11、-CHCOR11、-NHR11または
-NH(R11であり、
ここでのR11は、Hまたはアルキルである。
【0053】
一つの実施形態において、当該タンパク質ホスファターゼ阻害剤2Aは下記の構造を有する:
【化29】
【0054】
一つの実施形態において、R
【化30】
【0055】
であり、
ここで、R10は、H、アルキル、置換C−C12アルキル、アルケニル、置換C−C12アルケニル、アルキニル、置換アルキニル、アリール、置換アリール(ここでの置換基は、RおよびRが=Oのときはクロロ以外である)、
【化31】
【0056】
-CHCN、-CHCO11、-CHCOR11、-NHR11または
-NH(R11であり、ここでのR11は、Hまたはアルキルである。
【0057】
一つの実施形態において、Rは、
【化32】
【0058】
である。
【0059】
一つの実施形態において、Rは、
【化33】
【0060】
であり、ここでのR10は、
【化34】
【0061】
である。
【0062】
一つの実施形態において、Rは、
【化35】
【0063】
であり、ここでのR10は、
【化36】
【0064】
である。
【0065】
一つの実施形態において、Rは、
【化37】
【0066】
である。
【0067】
一つの実施形態において、Rは、
【化38】
【0068】
である。
【0069】
一つの実施形態において、RおよびRは一緒になって =Oである。もう一つの実施形態において、RおよびRはそれぞれHである。
【0070】
一つの実施形態においては、下記の構造の化合物、または該化合物の塩、両性イオンもしくはエナンチオマーである:
【化39】
【0071】
ここで、
結合αは存在するか、または存在せず;
は、存在するか、または存在せず、且つ存在するときにはH、C−C10アルキル、C−C10アルケニルまたはフェニルであり;また、XはO、S、NR10またはN1010であり、
ここで、各R10は独立に、H、アルキル、置換C−C12アルキル、アルケニル、置換C−C12アルケニル、アルキニル、置換アルキニル、アリール、置換アリール(ここでの置換基はクロロ以外のものである)、
【化40】
【0072】
-CHCO11、-CHCOR11、-CHCN、または-CHCH16であり、ここでのR11はHまたはアルキルであり、またここでのR16は、アジリジニル中間体への前駆体である何れかの置換基である。
【0073】
一つの実施形態において、前記タンパク質ホスファターゼ2A阻害剤は下記の構造を有するもの、または該化合物の塩、両性イオンもしくはエナンチオマーである:
【化41】
【0074】
ここで、
結合αは存在するか、または存在せず;
Xは、O、S、NR10、またはN1010であり、
ここでの各R10は、独立にH,アルキル、置換C−C12アルキル、アルケニル、置換C−C12アルケニル、アルキニル、置換アルキニル、アリール、置換アリール(ここでの置換基はクロロ以外である)、
【化42】
【0075】
-CHCO11、-CHCOR11、-CHCN、または-CHCH16であり、ここでのR11は、Hまたはアルキルであり、またR16はアジリジニル中間体である何れかの置換基である。
【0076】
一つの実施形態において、
Xは、NH10であり、
ここでの各R10は、H,アルキル、置換C−C12アルキル、アルケニル、置換C−C12アルケニル、アルキニル、置換アルキニル、アリール、置換アリール(ここでの置換基はクロロ以外である)、
【化43】
【0077】
である。
【0078】
一つの実施形態において、Xは、−CHCH16であり、ここでのR16はアジリジニル中間体への前駆体である何れかの置換基である。
【0079】
一つの実施形態において、XはOである。
【0080】
もう一つの実施形態において、Xは、NH10であり、
ここでのR10は、H、アルキル、置換C−C12アルキル、アルケニル、置換C−C12アルケニル、アルキニル、置換アルキニル、アリール、置換アリール(ここでの置換基はクロロ以外のものである)、
【化44】
【0081】
である。
【0082】
一つの実施形態において、R10はメチルである。もう一つの実施形態において、R10
【化45】
【0083】
である。
【0084】
一つの実施形態において、R10
【化46】
【0085】
である。
【0086】
一つの実施形態において、R10はエチルである。もう一つの実施形態において、R10は存在しない。
【0087】
一つの実施形態において、前記タンパク質ホスファターゼ2A阻害剤は下記の構造を有するもの、または該化合物の塩、両性イオンもしくはエナンチオマーである:
【化47】
【0088】
ここで、
結合αは存在するか、または存在せず;
は存在するか、または存在せず、かつ存在するときはH,アルキル、アルケニル、アルキニルまたはフェニルであり;
XはO、NR10、またはN1010であり、
ここでの各R10は独立に、H、アルキル、置換C−C12アルキル、アルケニル、置換C−C12アルケニル、アルキニル、置換アルキニル、アリール、置換アリール(ここでの置換基はクロロ以外である)、
【化48】
【0089】
−CHCN、-CHCO12,または-CHCOR12であり、
ここでのR12は、Hまたはアルキルである。
【0090】
一つの実施形態において、前記タンパク質ホスファターゼ2A阻害剤は下記の構造を有する:
【化49】
【0091】
ここで、
結合αは存在するか、または存在せず;
XはO、またはNH10であり、
ここでのR10は、H、アルキル、置換C−C12アルキル、アルケニル、置換C−C12アルケニル、アルキニル、置換アルキニル、アリール、置換アリール(ここでの置換基はクロロ以外である)、
【化50】
【0092】
-CHCN、-CHCO12、または-CHCOR12(ここでのR12はHまたはアルキル)である。
【0093】
一つの実施形態において、結合αは存在する。もう一つの実施形態では、結合αは存在しない。
【0094】
一つの実施形態において、前記タンパク質ホスファターゼ2A阻害剤は下記の構造を有する:
【化51】
【0095】
一つの実施形態において、前記タンパク質ホスファターゼ2A阻害剤は下記の構造を有する:
【化52】
【0096】
一つの実施形態において、前記タンパク質ホスファターゼ2A阻害剤は下記の構造を有する:
【化53】
【0097】
ここで、
結合αは存在するか、または存在せず;Xは、NH10であり、
ここでのR10は存在するか、または存在せず、且つ存在するときのR10はアルキル、置換C−C12アルキル、アルケニル、置換C−C12アルケニル、
【化54】
【0098】
-CHCN、-CHCO12、または-CHCOR12であり、ここでのR12はHまたはアルキルである。
【0099】
前記方法の一つの実施形態において、前記タンパク質ホスファターゼ2A阻害剤は下記の構造を有する:
【化55】
【0100】
前記方法の一つの実施形態において、前記タンパク質ホスファターゼ2A阻害剤は下記の構造を有するものであるか、または該化合物の塩、エナンチオマーもしくは両性イオンである:
【化56】
【0101】
ここで、
結合αは存在するか、または存在せず;
およびRは、それぞれ独立に、H、OまたはORであり;
ここでのRは、H、アルキル、置換アルキル、アルケニル、アルキニルまたはアリールであるか、
またはRおよびRは一緒になって=Oであり;
およびRはそれぞれ異なり、各々がO(CH1−6、またはOR9,であるか、
または
【化57】
【0102】
ここでのXは、O、S、NR10、またはN1010であり、
ここでの各R10は独立に、H、アルキル、ヒドロキシアルキル、C−C12アルキル、アルケニル、C−C12アルケニル、アルキニル、アリール、置換アリールであり、ここでの置換基は、RおよびRが=Oのときはクロロ以外である;
【化58】
【0103】
-CHCN、-CHCO11、-CHCOR11、-NHR11または
−NH(R11
ここでの各R11は、独立にアルキル、アルケニルまたはアルキニル(その各々は各々は置換もしくは非置換である)であるか、またはHである;
であり、
またはRおよびRは各々異なって、各々がOH、もしくは
【化59】
【0104】
であり;
およびRは、各々独立に、H、OHであるか、またはRおよびRが一緒になって、=Oであり;
およびRは、各々独立に、H、F、Cl、Br、SOPh、COCH、またはSR12であり、
ここでのR12 は、H、アリール、または置換もしくは非置換のアルキル、アルケニルまたはアルキニルであり;
また、アルキル、アルケニル、またはアルキニルは、その出現毎に、分岐もしくは非分岐、非置換もしくは置換である。
【0105】
前記方法の一つの実施形態において、前記タンパク質ホスファターゼ2A阻害剤は下記の構造を有する:
【化60】
【0106】
前記方法の一つの実施形態においては、前記結合αが存在する。
【0107】
前記方法の一つの実施形態においては、前記結合αは存在しない。
【0108】
前記方法の一つの実施形態において、
は、ORまたはO(CH1−6であり、
ここでのRは、アリール、置換 エチル もしくは置換 フェニルであり、該置換基は、当該フェニルのパラ位にあり、
は、
【化61】
【0109】
であり、
ここでのXは、O、S、NR10、またはN1010であり;
ここでの各R10は、独立に、H、アルキル、ヒドロキシアルキル、置換C−C12アルキル、アルケニル、置換C−C12アルケニル、アルキニル、置換アルキニル、アリール、置換アリール(ここでの置換基はRおよびRが=Oのときはクロロ以外である)、
【化62】
【0110】
-CHCN、-CHCO11、-CHCOR11、-NHR11、または
-NH(R11であり、
ここでのR11は、アルキル、アルケニルまたはアルキニル(その各々は置換もしくは非置換である)、またはHである;
または、ここでのRはOHであり、且つR
【化63】
【0111】
である。
【0112】
本発明の一つの実施形態において、Rは、
【化64】
【0113】
であり、
ここでのR10は、アルキルまたはヒドロキシアルキルであるか、
または、RがOHであるときには、R
【化65】
【0114】
である。
【0115】
前記方法の一つの実施形態において、
およびRは、一緒になって=Oであり;
は、ORまたはO(CH1−2であり;
ここでのRは、アリール、置換エチル、または置換フェニルであり、ここでの置換基は前記フェニルのパラ位にあり、
または RはOHで、且つR
【化66】
【0116】
であり、
は、
【化67】
【0117】
であり、
ここでのR10は、アルキル、またはヒドロキシアルキルであり;
およびRは、一緒になって=Oであり;また
およびRは、各々独立にHである。
【0118】
前記方法の一つの実施形態において、
およびRは、一緒になって=Oであり;
は、OH、O(CH)R、またはORであり、
ここでのRは、フェニルもしくはCHCCl
【化68】
【0119】
であり、R
【化69】
【0120】
ここで、R10はCH、またはCHCHOHである;
およびRは、一緒になって=Oであり;また
およびRは、各々独立にHである。
【0121】
前記方法の一つの実施形態において、
はORであり、
ここでのRは、(CH1−6(CHNHBOC)COH、
(CH1−6(CHNH)COH、または(CH1−6CClである。
【0122】
前記方法の一つの実施形態において、Rは、CH(CHNHBOC)COH、
CH(CHNH)COH、またはCHCClである。
【0123】
前記方法の一つの実施形態において、Rは、
O(CH1−69、またはO(CH)Rであり、ここでのRはフェニルである。
【0124】
前記方法の一つの実施形態において、Rは、
O(CH)Rであり、ここでのRはフェニルである。
【0125】
前記方法の一つの方法において、RはOHであり、またR
【化70】
【0126】
である。
【0127】
前記方法の一つの実施形態において、Rは、
【化71】
【0128】
ここでのR10は、アルキルまたはヒドロキシアルキルである。
【0129】
前記方法の一つの実施形態において、R11は、-CHCHOHまたは-CHである。
【0130】
前記方法の一つの実施形態において、前記タンパク質ホスファターゼ2A阻害剤は下記の構造を有する:
【化72】
【0131】
前記方法の一つの実施形態において、前記タンパク質ホスファターゼ2A阻害剤は下記の構造を有する:
【化73】
【0132】
上記の実施形態について、ここに開示された各実施形態は他の開示された実施形態の各々にも適用可能であると想定される。従って、個々に記載した種々の要素の全ての組合せは本発明の範囲内である。
【定義】
【0133】
ここで使用するとき、別途述べない限り、以下の用語の各々は以下に記載の定義を有する。
【0134】
特に、本発明は再灌流傷害の治療または予防に向けられている。
【0135】
ここで用いる「再灌流傷害」とは、虚血または酸素結合の後に血液供給が組織、細胞または血管に戻るときに生じる組織損傷、組織死、細胞損傷、細胞死、血管漏出、または内皮機能不全を言う。
【0136】
ここで用いる「心筋梗塞」(MI)とは、心臓発作としても知られているもので、心臓組織の損傷を生じる心臓の梗塞を言う。これは、最も一般的には、脂質(脂肪酸)および白血球(特にマクロファージ)の動脈壁における不安定な集積である脆弱なアテローム硬化性プラークの崩壊に続く、冠動脈の閉塞(遮断)によるものである。結果として生じる虚血(血液供給の制限)および酸素不足は、充分な時間を未処理で放置すると、再灌流傷害により心臓の筋肉組織(心筋)の損傷または死を生じる可能性がある。
【0137】
虚血によって生じ且つ再灌流傷害を生じる症状の例には、限定されるものではないが、心筋梗塞;脳に血液を供給する血管内の障害による脳梗塞(発作);肺塞栓または肺梗塞;脾動脈またはその分枝の一つが、例えば血餅により閉塞したときに生じる脾臓梗塞;動脈塞栓症により生じる四肢梗塞;糖尿病により生じる骨格筋梗塞;骨梗塞;精巣梗塞;および敗血症が含まれる。
【0138】
再灌流傷害に関連してここで用いる「症候」には、再灌流傷害に関連した何らかの臨床的もしくは実験室的徴候が含まれるものであり、被験者が感知または観察できるものに限定されない。
【0139】
ここで用いるとき、「疾患の治療」または「治療する」(例えば再灌流傷害について)とは、該疾患に関連した疾患もしくは症候、または症状の予防、阻害、退行または停止を誘導することを包含する。
【0140】
ここで用いるとき、被験者における疾患進行または疾患合併症の「阻害」とは、患者において疾患進行および/または疾患合併症を予防または低減することを意味する。
【0141】
ここで用いる「アルキル」とは、特定数の炭素原子を有する分岐鎖および直鎖の飽和脂肪族炭化水素基を含めることを意図している。従って、「C−Cアルキル」におけるC−Cは、1、2、…、n−1個、またはn個の炭素を直鎖または分岐鎖中に有する基を含むものとして定義され、特に、メチル、エチル、プロピル、ブチル、ペンチル、およびヘキシル等を含むものである。「アルコキシ」とは、酸素ブリッジを介して結合された上記のアルキル基を表す。
【0142】
「アルケニル」の用語は、少なくとも1個の炭素−炭素二重結合を含む直鎖または分岐鎖の非芳香族炭化水素基を意味し、また最大可能な数までの非芳香族炭素−炭素二重結合が存在してよい。従って、C−Cアルケニルは、1、2、…、n−1個、またはn個の炭素を有する基を含むように定義される。例えば、「C−Cアルケニル」は、それぞれ、2、3、4、5、もしくは6個の炭素原子を含み、少なくとも一つの炭素−炭素二重結合、且つ例えばCアルケニルの場合には3個以下の炭素−炭素二重結合を有するアルケニル根を意味する。アルケニル基には、エテニル、プロペニル、ブテニルおよびシクロヘキセニルが含まれる。アルキル基に関して上記で述べたように、アルケニル基の直鎖状、分岐鎖状または環状の部分が二重結合を含んでよく、また置換アルケニル基が指定されるならば置換されてもよい。一つの実施形態はC−C12アルケニルであることができる。
【0143】
「アルキニル」の語は、直鎖または分岐鎖の炭化水素根を指称するものであり、少なくとも一つの炭素−炭素三重結合を含み、また可能な最大数までの非芳香族性炭素−炭素三重結合が存在してよい。こうして、C−Cアルキニルは、1、2…、n−1個またはn個の炭素を有する基を含むように定義される。例えば、「C−Cアルキニル」は、2もしくは3個の炭素原子および1個の炭素−炭素三重結合を有するアルキニル根、または4もしくは5個の炭素原子を有し且つ2以下の炭素−炭素三重結合を有するアルキニル根、または6個の炭素原子を有し且つ3個以下の炭素−炭素三重結合を有するアルキニル根を意味する。アルキニル基には、エチニル、プロピニル、およびブチニルが含まれる。アルキルに関して上記で述べたように、アルキニル基の直鎖部分または分岐鎖部分が三重検討を含んでよく、または置換アルキニル基が指定されるならば置換されていてもよい。一実施形態は、C−Cアルキニルであることができる。
【0144】
ここで用いる「アリール」は、各環が10以下の炭素原子の何れか安定な単環式または二環式の炭素環を意味することを意図しており、ここでは少なくとも一つの環が芳香族性である。このようなアリール要素の例には、フェニル、ナフチル、テトラヒドロ-ナフチル、インダニル、ビフェニル、フェナントリル、アントリル、またはアセナフチルが含まれる。アリール置換基が二環式であり、且つ一つの環が非芳香族性である場合には、結合は芳香族環を介したものと理解される。本発明における置換アリールには、何れかの適切な位置において、アミン、置換アミン、アルキルアミン、ヒドロキシおよびアルキルヒドロキシでの置換が含まれ、ここで前記アルキルアミンおよびアルキルヒドロキシの「アルキル」部分は、上記で定義したC−Cアルキルである。前記置換アミンは、上記で定義したアルキル、アルケニル、アルキニル、またはアリール基で置換されてよい。
【0145】
前記アルキル、アルケニル、アルキニル、およびアリール置換基は、特に別途定義しない限り、置換されても置換されなくてもよい。例えば(C−C)アルキルは、OH,オキソ、ハロゲン、アルコキシ、ジアルキルアミノ、またはモルホリニルおよびピペリジニル等のようなヘテロシクリルから選択される1以上の置換基で置換されてもよい。
【0146】
本発明の化合物において、アルキル、アルケニル、およびアルキニル基は、1以上の水素原子を可能な程度まで非水素基で置換することにより更に置換することができる。これらには、限定されるものではないが、ハロ、ヒドロキシ、メルカプト、アミノ、カルボキシ、シアノおよびカルバモイルが含まれる。
【0147】
ここで用いる「置換された」の用語は、所定の構造が置換基を有することを意味し、該置換基は上記で定義したアルキル基、アルケニル基、またはアリール基であることができる。この用語は、指定された置換基による複数置換を含むものと看做されるべきである。複数の置換基部分が開示され、または特許請求の範囲に記載される場合、該置換された化合物は任意に、開示されまたは請求項に記載された置換基部分によって、単回もしくは複数回独立に置換されることができる。独立に置換されるとは、(2以上の)置換基が同一もしくは異なってよいことを意味する。
【0148】
本発明の化合物上の置換基および置換パターンは、化学的に安定で、且つ容易に入手可能な出発材料から当該分野で知られた技術ならびに以下に記載の方法により容易に合成できる化合物を提供するように、当業者が選択することができる。置換基自身が2以上の基で置換されるときは、安定な構造が得られる限り、これら複数の基は同じ炭素上にあってもよく、または異なる炭素上にあってもよいと理解される。
【0149】
ここで用いる「化合物」とは、タンパク質、ペプチド、またはアミノ酸を含まない小分子である。
【0150】
ここで用いる「単離された」化合物とは、粗製反応混合物または天然供給源から、単離の積極的行為に従って単離された化合物である。該単離行為は必然的に、当該化合物を、残留が許容される幾つかの不純物、未知の副生成物および残余量の他の成分と共に、前記混合物または天然供給源の他の化合物から分離することを含んでいる。精製は、積極的な単離動作の一例である。
【0151】
ここで用いるときの薬剤を「投与する」ことは、当業者に周知の種々の方法または送達システムの何れかを用いて行えばよい。この投与は、例えば、経口、非経口、腹腔内、静脈内、動脈内、皮下、舌下、筋肉内、直腸、経頬、鼻腔内、リポソーム、吸入、経膣的、眼内、局所送達、皮下、脂肪内、関節内、蜘蛛膜下腔内、脳室内、心室内、腫瘍内、脳実質内、または実質内で行うことができる。
【0152】
多くのルーチン的に使用される医薬キャリアを用いた以下の送達システムを使用してよいが、これらは本発明に従う組成物を投与するために想定される多くの可能なシステムの代表例に過ぎない。
【0153】
注射可能な薬物送達システムには、溶液、懸濁液、ゲル、マイクロスフィアおよびポリマー注射剤が含まれ、これらは溶解度変更剤(例えば、エタノール、プロピレングリコールおよび蔗糖)、およびポリマー(例えば、ポリカプリラクトンおよびPLGA)のような賦形剤を含有することができる。
【0154】
他の注射薬送達システムには、溶液、懸濁液、ゲルが含まれる。経口送達システムには、錠剤およびカプセルが含まれる。これらは、バインダ(例えば、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ポリビニルピロリドン、他のセルロース材料および澱粉)のような賦形剤、希釈剤(例えば、乳糖、他の糖類、澱粉、リン酸二カルシウムおよびセルロース材料)、崩壊剤(例えば、澱粉ポリマーおよびセルロース材料)および潤滑剤(例えばステアリン酸およびタルク)を含有することができる。
【0155】
インプラントシステムには、ロッドおよびディスクが含まれ、これらはPLGAおよびポリカプリラクトンのような賦形剤を含有することができる。
【0156】
経口送達システムには、錠剤およびカプセルが含まれる。これらは、バインダ(例えば、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ポリビニルピロリドン、他のセルロース材料および澱粉)のような賦形剤、希釈剤(例えば、乳糖、他の糖類、澱粉、リン酸二カルシウムおよびセルロース材料)、崩壊剤(例えば、澱粉ポリマーおよびセルロース材料)および潤滑剤(例えばステアリン酸およびタルク)を含有することができる。
【0157】
経粘膜送達システムには、パッチ、錠剤、座薬、ペッサリー、ゲルおよびクリームが含まれ、これらは可溶化剤および増強剤(例えば、プロピレングリコール、胆汁酸塩、およびアミノ酸)および他の担体(例えば、ポリエチレングリコール、脂肪酸エステルおよび誘導体、並びにヒドロキシプロピルメチルセルロースおよびヒアルロン酸のような親水性ポリマー)が含まれる。
【0158】
経皮送達システムには、例えば、水性および非水性ゲル、クリーム、多重エマルジョン、ミクロエマルジョン、リポソーム、軟膏、水性および非水性の溶液、ローション、エアロゾル、炭化水素ベース、および粉末が含まれ、これらは可溶化剤、浸透性増強剤(例えば、脂肪酸、脂肪酸エステル、脂肪アルコールおよびアミノ酸)、および親水性ポリマー(例えば、ポリカルボフィル[polycarbophil]およびポリビニルピロリドン)のような賦形剤を含有することができる。一つの実施形態において、前記医薬的に許容可能なキャリアはリポソームまたは経皮増強剤である。
【0159】
溶液、懸濁液、および再構成可能な送達システムのための粉末は、懸濁剤(例えばガム、ザンタン[zanthans]、セルロース化合物および糖)、湿潤剤(例えば溶液)、可溶化剤(例えばエタノール、水、PEGおよびプロピレングリコール)、表面活性剤(例えば、ラウリル硫酸ナトリウム、スパン[Spans]、ツイーン、およびセチルピリジン)、保存剤および抗酸化剤(例えば、パラベン、ビタミンEoyobi C、およびアスコルビン酸)、抗ケーキング剤、コーティング剤、およびキレート化剤(例えばEDTA)のような担体を含んでいる。
【0160】
ここで用いる「医薬的に許容可能なキャリア」とは、過度に有害な副作用(例えば、毒性、刺激、およびアレルギー反応)を伴わずに、合理的な有益性/リスク比で釣合った、ヒトおよび/または動物と共に使用するのに適したキャリアまたは賦形剤を言う。それは、本発明の化合物を被験者に送達するための、医薬的に許容可能な溶媒、懸濁剤、または担体であることができる。
【0161】
本発明の方法に使用される化合物は、塩の形態であってよい。ここで用いる「塩」とは、当該化合物の酸性塩または塩基性塩を作成することにより修飾された本発明の化合物の塩である。感染または疾患を治療するために使用される化合物の場合、該塩は医薬的に許容可能である。医薬的に許容可能な塩の例には、アミンのような塩基性残渣の鉱酸または有機酸の塩;フェノールのような酸性残渣のアルカリ塩もしくは有機塩が含まれるが、これらに限定されない。限定されるものではないが、これらの塩は、有機酸もしくは無機酸を使用して作成できる。このような酸性塩は、塩化物、臭化物、硫酸塩、硝酸塩、リン酸塩、スルホン酸塩、蟻酸塩、酒石酸塩、マレイン酸塩、リンゴ酸塩、クエン酸塩、安息香酸塩、サリチル酸塩、アスコルビン酸塩等である。フェノレート塩は、アルカリ土類金属塩、ナトリウム、カリウムまたはリチウムである。この点において、「医薬的に許容可能な塩」の用語は、本発明の化合物の、比較的非毒性の無機および有機の酸もしくは塩基の付加塩である。これらの塩は、本発明の化合物の最終的な単離および精製の際にインサイチューで製造でき、または本発明の精製された化合物をその遊離塩基および遊離酸の形態で、適切な有機もしくは無機の酸もしくは塩基と反応させ、こうして形成された塩を単離することによって製造できる。代表的な塩には、臭素酸塩、塩酸塩、硫酸塩、硫酸水素塩、リン酸塩、硝酸塩、酢酸塩、吉草酸塩、オレイン酸塩、パルミチン酸塩、ステアリン酸塩、ラウリン酸塩、安息香酸塩、乳酸塩、リン酸塩、トシレート(p−トルエンスルホン酸塩)、クエン酸塩、マレイン酸塩、フマル酸塩、コハク酸塩、酒石酸塩、ナフチル酸塩、メシル酸塩、グルコヘプトン酸塩、ラクトビオン酸塩、およびラウリルスルホン酸塩等である。(例えば、Berge et al. (1977) "Pharmaceutical Salts"、J. Pharm. Sci. 66:1-19を参照のこと)。
【0162】
ここで用いるとき、ミリグラムで測定された薬剤の「量」または「投与量」は、薬物製品の形態にかかわらず、薬物製品の中に存在する薬剤のミリグラムを言う。
【0163】
ここで用いる「治療的有効量」または「有効量」の語は、本発明の方法に従って使用したときに、過度の有害な副作用(毒性、刺激、またはアレルギー反応)を伴わずに、合理的な有益性/リスク比で釣合った望ましい治療的応答を生じるのに十分な成分量を言う。具体的な有効量は、治療される特定の症状、患者の身体的条件、治療される哺乳動物のタイプ、治療の持続期間、併用療法(もしあれば)の性質、および用いられた特定の処方、および化合物またはその誘導体の構造のような因子と共に変化するであろう。
【0164】
明細書において範囲が与えられる場合、該範囲は全ての整数および該範囲内の0.1単位、並びにその全てのサブ単位を含むものと理解される。例えば、77〜90%の範囲は、77,78,79,80および81%等の開示である。
【0165】
ここで用いるとき、述べられた数に関する「約」は、該述べられた値の+1%〜−1%の範囲を包含するものである。よって、例として言えば、約100mg/kgとは、99、99.1、99.2、99.3、99.4、99.5、99.6、99.7、99.8、99.9、100、100.1、100.2、100.3、100.4、100.5、100.6、100.7、100.8、100.9および101mg/kgを含むものである。従って、一つの実施形態において、約100mg/kgは100mg/kgを含むものである。パラメータ範囲が与えられるときは、該範囲内の全ての整数、およびその10分の1の整数倍もまた本発明によって与えられるものと理解される。例えば、「0.2〜5mg/kg/日」は、0.2mg/kg/日、0.3mg/kg/日、0.4mg/kg/日、0.5mg/kg/日、0.6mg/kg/日、…5.0mg/kg/日までの開示である。
【0166】
ここに記載した種々の要素の全ての組合せは、本発明の範囲内にあるものである。
【0167】
本発明は、以下の実験の詳細を参照することによって、より良く理解されるであろう。しかし、当業者は、詳述された特定の実験が、後述する特許請求の範囲において更に完全に記載された本発明の例示に過ぎないことを容易に理解するであろう。
【実験の詳細】
【0168】
実施例1:LB−107の合成
EDCの存在下で、酸(3)をN−メチルピペリジン(4)と反応させることにより、LB−107を調製した。より良好な収率で(5)を調製するために、三つの異なる方法を用いた。第一の方法では、メタノール中の塩化チオニルを使用したLB−100に対する1ポット反応を試みたが、生成物は観察されなかった。第二の方法では、LB−100の酸塩化物を、トリエチルアミン/DMAPの存在下にメタノールと反応させて、所望のメチルエステルを得た。こうして得たメチルエステルは低収率であり、該生成物からのトリエチルアミンの分離もまたうんざりするほど冗長なものであった。従って、2段階法が用いられた。この第三の方法において、エンドタール(1)は、メタノール中での還流下に加熱すると、95%の収率で所望のモノメチルエステル(3)を与える。化合物(3)は、EDCおよび触媒量のN−ヒドロキシベンゾトリアゾールの存在下にN−メチルピペラジン(4)で処理すると、カラムクロマトグラフィーで精製後に、39%の収率で要求されたメチルエステル(5)を与える。
【0169】
・7−オキサ−ビシクロ[2,2,1]ヘプタン−2,3−ジカルボン酸モノメチルエステル[3]:
【化74】
【0170】
エキソ−7−オキサビシクロ[2.2.1]ヘプタン−2,3−ジカルボン酸無水物([1]、10.0g、59.5mol)および乾燥メタノール([2]、50mL)の混合物を、灌流温度で3.5時間加熱した。反応混合物は、灌流している間に均一になった。次いで、該反応混合物を室温まで冷却し、濃縮して、結晶性の白色物質として[3](11.3g、95%)を得た。該粗生成物のH−NMRは、余分なピークを伴わずに十分に奇麗であった。従って、この物質は、更に精製することなく次の工程で利用した。H−NMR(DMSO−d):δ 1.52(m、4H)、2.98(s、2H)、3.49(s、3H)、4.66(d、2H)、12.17(s、1H).
・3−(4−メチルピペラジン−1−カルボニル)−7−オキサ−ビシクロ[2,2,1]ヘプタン−2−カルボン酸メチルエステル[5]:
【化75】
【0171】
N−ヒドロキシベンゾトリアゾール(98.0mg、0.725mmol)およびEDC(2.09g、13.5mmole)およびEDC(2.09g、13.5mmole)を含有する50mLの塩化メチレン中の酸[3](2.00g、10.0mmole)の混合物に、N−メチルピペラジン([4]、1.45g、14.5mmole)を加え、該反応混合物を室温で一晩撹拌した。この反応混合物を蒸発乾固させ、生成物を、塩化メチレン中の5%メタノールを用いたカラムにより精製して、所望のエステル[5]を半固体として得た(1.89g、67%)。これを、イソプロピルエーテルと共に破砕し、続いて酢酸エチル/ヘキサンの混合物で再結晶させて、白色の結晶性物質[5](LB−107)を得た(1.10g、収率:39%、mp108−109C)。母液を濃縮し、更なる再結晶化のために保存した。H−NMR (CDCl)δ:1.50(m、2H)、1.83(m、2H)、2.30−2.44(m、7H)、2.94(d、J=9.6Hz、1H)、3.10(d、J=9.6Hz、1H)、3.50(m、3H)、3.71(m、4H)、4.90(m、2H)、ESMS:282.
実施例2:タンパク質ホスファターゼ2A阻害剤
本発明の方法で使用する化合物は、タンパク質ホスファターゼ2A(PP2A)阻害剤である(Lu et al.、2009; US 7,998,957 B2)。化合物LB−100およびLB−102は、ヒト癌細胞においてインビトロで、およびマウスに非経口で投与したときにはマウス中のヒト腫瘍細胞異種移植片において、PP2Aの阻害剤である。これらの化合物は、マウスモデルシステムにおいて癌細胞の増殖を阻害する。また、これら化合物のもう一つの構造的同族体であるLB−107は、マウスに経口的に与えられたときに活性であることも示されている。
【0172】
LB100、LB102またはLB107が、心臓虚血−再灌流傷害の動物モデルにおいて試験された。
【0173】
LB100の構造は
【化76】
【0174】
である。
【0175】
LB102の構造は
【化77】
【0176】
である。
【0177】
LB107の構造は
【化78】
【0178】
である。
【0179】
実施例3:Aktのリン酸化および活性化を増大させる
ここに開示した化合物LB−100、LB−102、LB−107、およびLB−100の他の同族体は、哺乳動物細胞(心臓細胞、脳細胞および内皮細胞を含むが、これらに限定されない)においてAktのリン酸化を増大させる。ここに開示した化合物LB−100、LB−102、LB−107、およびLB−100の他の同族体は、哺乳動物細胞(心臓細胞、脳細胞および内皮細胞を含むが、これらに限定されない)において、タンパク質ホスファターゼ2A(PP2A)によるAktの脱リン酸化および不活性化を低減する。ここに開示した化合物LB−100、LB−102、LB−107、およびLB−100の他の同族体は、哺乳動物細胞(心臓細胞、脳細胞および内皮細胞を含むが、これらに限定されない)において、タンパク質ホスファターゼ2A(PP2A)によるAktの活性化を増大させる。
【0180】
実施例4:再灌流傷害
ここに開示した化合物LB−100、LB−102、LB−107、およびLB−100の他の同族体は、虚血に罹患した哺乳動物組織における再灌流傷害を低減する。この哺乳動物組織には、心臓組織、能組織および内皮組織が含まれるが、これらに限定されるものではない。
【0181】
実施例5:心筋梗塞
ここに開示した化合物LB−100、LB−102、LB−107、およびLB−100の他の同族体は、心筋梗塞後の患者の心臓における再灌流障害に関連した組織損傷を低減する。 ここに開示した化合物LB−100、LB−102、LB−107、およびLB−100の他の同族体は、心筋梗塞後の患者の心臓における再灌流障害に関連した組織損傷を予防する。
【0182】
実施例5:敗血症
ここに開示した化合物LB−100、LB−102、LB−107、およびLB−100の他の同族体は、敗血症に罹患している患者における再灌流傷害に関連した血管漏出を低減する。ここに開示した化合物LB−100、LB−102、LB−107、およびLB−100の他の同族体は、敗血症に罹患している患者における再灌流傷害に関連した内皮機能不全を低減する。
【0183】
実施例6:血管の完全性を改善し、且つ組織に対する急性外傷後の組織損傷を低減するための、LB−100の研究
血管の完全性を改善し、且つ組織に対する急性外傷後の組織損傷を低減するためのLB−100の能力を、皮膚弁を上げる前に移植したポンプを介してLB−100を注入した同系交配ラットにおいて、フラップ移植片の遠位端における組織の生存を分析することによって試験した。
【0184】
皮下麻酔下でALZETポンプ(モデル1007D、リザーバー容積100μL)を皮下に移植し、その4日後に、再度麻酔下に皮膚弁を形成した。対照動物におけるポンプは塩化ナトリウムを含んでおり、治療動物におけるポンプは0.55mgのLB−100を含んでいた。このポンプは0.5μL/時+/−10%を送給し、従って各動物は、移植片を生じる4日前、および移植片を作成した後の最初の4日間、約12μL/日を8日間に亘って受けた。各群には10匹の動物が存在した。
【0185】
これらの動物は、皮膚弁の作製後の第7日に屠殺され皮膚弁の末端における壊死の数を面積測定により測定した。皮膚弁の末端における壊死の面積を、全体の皮膚弁の総表面積で除し、パーセンテージで表した。表1は、対照ラット1〜10 vs LB−100を受けているラット(治療ラット)における壊死の面積(%)を示している。
【表1】
【0186】
面積測定の解析結果により、治療された動物における壊死範囲の平均減少が22%であることが明らかになった。
【0187】
皮膚弁の肉眼での様子もまた検査された。図1a〜Jは、第7日における対照ラット1〜10を示しており、図2a〜jは、第7日における治療ラット1〜10を示している。治療ラットはLB−100の投与を受けた。
【0188】
第7日における皮膚弁の写真に示すように(図1a〜jおよび2a〜j)、LB−100の投与を受けている動物では、皮膚弁の遠位端における壊死の範囲はより小さかった。
【0189】
<考察>:
1970年第の初期から(Maroko et al、1971)、短時間の酸素欠乏(虚血)および該虚血の解除(再灌流)が、その後の発症に起因した損傷に対して心臓を保護することが知られている。1986年に、マレー等(Murray et al)は、イヌモデルにおいて、幾らかの短期間の心虚血は、長期の虚血に続く組織損傷(梗塞)のサイズを小さくすることを示した。2003年に、ザオー等(Zhao et al.)は、実験的心臓発作の誘導に続く数ラウンドの虚血および血流の回復もまた、発作後の単純な再灌流に比較して、梗塞のサイズを減少させることを示した。前または後の短サイクル虚血による心臓保護の原因メカニズムは2500件を超える論文の主題であり、幾つかの動物モデルにおいて該現象が示されてはいるが、不明なままである。しかしながら、薬理学的心臓保護の分子的基礎の理解が欠如しているにも拘わらず、最近では、心臓発作後の心臓組織損傷の量を低減する方法を見出すための要求が増大している(Cohen and Downey、2011)。
【0190】
1998年に、ワインブレンナー等(Weinbrenner et al.)は、タンパク質ホスファターゼ2Aの阻害剤であるフォストリエチン(fostriecin;FOS)が、酸素欠乏の開始前および該開始後に与えたときでさえも、心臓組織(心筋)の梗塞のサイズを最小化することを報告した。次の年に、バランチク等(Barancik et al. (1999))は、セリン/トレオニンホスファターゼのもう一つの既知の阻害剤であるオカダ酸(okadaic acid)が、インビボモデルにおいて、ブタ心筋を虚血に対して保護する(梗塞組織のサイズを縮小する)ことを示し、またホスファターゼの活性、特にPP2Aの活性が該阻害剤を注入された心臓組織において減少することを示した。
【0191】
FOS、即ち、PP2Aの充分に研究された阻害剤は、冠動脈制限の発症後に、およびもう一つのPPSA阻害剤であるオカダ酸をブタ心臓モデルで使用したバランチク等(Barancik et al. (1999))によるこの現象の確認後に与えられたときでさえも、障害を低減させる。ワインブレンナー等(Weinbrenner et al. (1998))はウサギを研究して、ウサギ心臓における組織の死は霊長類の心臓におけるよりも約5倍迅速に進行することを指摘し、ヒトにおける心臓発作の開始後50分遅れてFOSのようなPP2A阻害剤を投与することが、保護を与えると期待できると考えるに至った。もっと先の研究において、アームストロング等(Armstrong et al. 1997; Armstrong et al. 1998)は、タンパク質ホスファターゼ阻害剤のカリクリンA、、PP1/2A阻害剤およびFOSの両者が、インビトロにおいて、ウサギおよびブタの細胞への障害からの保護を与えることを立証した。その後、フェントン等(Fenton et al. (2005))はラットにおいて、オカダ酸が若い動物および高齢の動物の両方において、誘導されたMIに続く細胞死を減少させることを示した。ファン等(Fan et al. (2010))は、単離され還流された機能性ラット心臓において、PP2Aだけを阻害する濃度でのオカダ酸の影響、およびカンタラジン(天然に生じるPP1およびPP2Aの両方の阻害剤)の影響を研究し、ホスファターゼ阻害剤の資料は、再灌流に誘導された細胞死を低減するためのアプローチを提供し得ると結論した。
【0192】
PP2Aが酸素欠乏による心筋損傷の保護を与えるメカニズムは、腫瘍細胞シグナリング経路、即ち、PI3K−Akt経路(Matsui et al. 2001)を介してのものと思われる。最近、クヌツール(Kunuthur et al. 2011)は、虚血−再灌流傷害に対する心臓保護のためには、三つのAktアイソフォームのうちAkt1が必須であることを示した。
【0193】
新規な阻害剤であるLB−100およびLB−102およびこれら化合物の他の構造的相同体は、Sktの増大したリン酸化をもたらすことが示されている(Lu et al. 2009; US Patent No. 8,0858,268)。Aktのリン酸化はその活性化を生じ、次いで、これはミトコンドリア機能に影響を与え且つ細胞死を媒介する幾つかのタンパク質のリン酸化を増大させる(Tsang et al. 2005)。
【0194】
何等かの科学的理論に束縛されることを望むものではないが、Aktは、GSK−3β、内皮窒素酸化物シンターゼ(eNOS)、アポトーシス促進性Bcl−2族メンバーのBAD、カスパーゼ9、ユビキチンリガーゼマウス二重微小染色体2(mdm2)、その他を含む多くの標的タンパク質のリン酸化によって保護を媒介する(Fayard, E. et al, 2005)。BADのリン酸化は、アポトーシスを抑制し、且つ細胞の生存を促進する(Datta、S.R. et al. 1997)。Aktの過剰発現は、低酸素症に媒介されたカスパーゼ9の活性化をブロックし、またそれらのアポトーシス促進の役割を阻害する(Uchiyama、T. et al. 2004)。Aktは、ユビキチンリガーゼ、mdm2をリン酸化および活性化させ、これは心筋細胞における低酸素血症−再酸素負荷細胞死を低減することにおいて役割を果たすことが示されている(Toth、A. 2006)。AktはeNOSをリン酸化および活性化し、窒素酸化物(NO)産生における増大をもたらし、これは心臓保護をもたらす多くの経路を活性化させる可能性がある(Tong、H. et al.)。Aktはまた、gsk−3βをリン酸化および不活性化し、これはまた抗アポトーシス効果を提供する(Tong et al. 2000)。
【0195】
LB−100、LB−102、およびLB−107、並びに他の構造的相同体は、PP2Aの有効な阻害剤である。例えば、LB−102は約0.4μMのIC50でPP2Aを阻害し、また約8.0μMのIC50では遥かに小さい程度に阻害する(Lu et al. 2009(a))。LB−100は、現在は第I相臨床試験に入っており、ここで該化合物はDNA損傷剤の細胞毒性を高めると予期されている。ヒトでの最大許容量は未だ決定されていないが、ラットおよびイヌでの毒物動態学的研究は、該化合物が、齧歯類の組織でPP2Aを阻害することが知られた投与量において、許容可能かつ可逆的な毒性を伴って投与できることを示している。こうして、LB−100、LB−102および/または構造的相同体は、MIに続く心筋損傷の範囲を最小化するために、ヒトに対して安全に投与することができる。PP2Aの投与はまた、組織への血液供給を急性的に損なう偶発的または手術外傷の何れであっても、発作および外傷による急性組織傷害のような他の疾患段階において、虚血により生じる組織損傷の範囲を低減すると予測される。
【0196】
組織虚血はまた、急性の細菌感染に対する二次的な低血圧からも生じる。PP2Aは炎症プロセス、特に敗血症に起因して活性化され、LB−100および構造的相同体での治療が極めて有益であり、実際に救命的である。敗血症は、NADPHオキシダーゼの活性化および内皮窒素酸化物シンターゼの脱共役を導き、スーパーオキシドを産生し、3−ニトロチロシン形成を伴って増大したNO産生およびニューロンNOS活性を生じ、また動物の後脚におけるPP2A活性を増大させる(Zhou et al. 2012)。ゾウ(Zhou)は、アスコルビン酸の迅速な注射が、PP2A活性化の減少を含むこれらの効果に対する保護を与えることを示した。この同じ機構が、ラドゥナーによって見出された(Ladurner et al. 2012)。ラドゥナーは、アスコルビン酸に加えて、タンパク質ホスファターゼ阻害剤のオカダ酸が同様の効果を有することを示した。これは、これらモデルシステムにおける内皮損傷がPP2Aによって媒介されるとの仮説を支持する。ハン(Han et al. 2010)は以前に、PP2A活性を阻害する濃度のオカダ酸が、敗血症侵襲による内皮バリア崩壊を減少させることを示した。ウーおよびウィルソン(Wu et al. 2009)は、マウス骨格筋D内皮細胞を研究して、オカダ酸によるPP2A阻害が内皮バリア機能を保全することを示した。従って、LB−100は,PP2Aが血管漏出を媒介する敗血症ショックのような状態の治療に有用であることが期待される。
【0197】
フォストリエチン(fostriecin)およびLB−100化合物が、組織に対する急性外傷後の組織損傷を低減する一つのメカニズムは、血管におけるPP2Aの阻害による可能性がある。血管の一体性を改善し、組織に対する急性外傷後の組織損傷を低減させるLB−100の能力は、実施例6に記載したように、皮膚弁移植片の遠位端における組織の生存を解析することによって試験された。実施例6のデータは、治療された動物における壊死範囲の平均減少が22%であったことを示している。移植片生存率のこのような改善は、皮膚弁移植片の遠位端における壊死が、この組織欠陥を矯正するための外科的介入に対する主要な制限である場合には臨床的に貴重であろう。
【参照文献】
【0198】
図1A
図1B
図1C
図1D
図1E
図1F
図1G
図1H
図1I
図1J
図2A
図2B
図2C
図2D
図2E
図2F
図2G
図2H
図2I
図2J